説明

電線及びその製造方法

【課題】優れた耐久性を確保しつつ細径化された電線及びその製造方法を提供する。
【解決手段】中心導体2、絶縁体4、外部導体6及び外被7が同軸状に順次積層された電線1において、最外層の外被7が、メルトフローレートが25以上45以下であるETFEからなり、厚さが10μm以上30μm以下とされている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電線及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
外被をETFE(エチレン−四フッ化エチレン共重合体樹脂)で形成した絶縁電線や同軸電線が知られている。例えば、AWG(American Wire Gauge)の規格による#28の銀めっき銅線にピッチ3.0mm、うねり高さ0.65mmの連続する正弦波状うねりを形成した中心導体上に、厚さ0.13mm×幅0.8mmの気孔率75%の第1の気孔性PTFEテープをピッチ3.0mmで螺旋状に間隔巻きし、この上に更に厚さ0.13mm×幅2mmの気孔率75%の第2の気孔性PTFEテープをピッチ5.5mmで第1のテープと巻回方向を逆方向にして螺旋状に一重巻回して気孔性テープ巻回絶縁層を形成し、この外周に外部導体として外径0.06mmのすずめっき銅線40本の横巻きシールドを施し、更にその外周にETFE押出し被覆層を施したものが知られている(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
また、導体芯線と、この導体芯線の周りに樹脂を押し出して被覆した被覆層とを有する極細絶縁電線において、被覆層の樹脂として、ETFEなどの樹脂が使用可能であることが示されている(例えば、特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平9−259657号公報
【特許文献2】特開2004−56302号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
携帯端末や小型ビデオカメラ、医療用機器等の電子機器において、機器のさらなる小型化や薄型化を図るため、相対移動される筐体や部品間を電気的に接続し、屈曲、捻回または摺動する電線のさらなる細径化が望まれており、電線の外被を薄肉化することが考えられる。
【0006】
外被の樹脂として、薄肉性に富んだフッ素樹脂(PFA)を用いれば、外被の厚みを例えば30μm以下に薄くして電線を細径化することができるが、厚みが30μm以下になると外被の耐摩耗性が低下してしまう。そして、外被の耐摩耗性が低下すると、組立加工などでのハンドリング時や収容スペースへの実装により、外被が破けるなどの不具合を生じるおそれがある。
【0007】
また、特許文献1,2にはETFEを電線の外被の樹脂材料として用いることが開示されているが、一般的な成形条件による押出被覆では薄肉に被覆することが困難であった。
【0008】
本発明の目的は、優れた耐摩耗性を確保しつつ細径化された電線及びその製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決することのできる本発明の電線は、導体の外周が樹脂によって覆われた電線であって、
最外層を形成する樹脂が、メルトフローレートが25以上45以下であるETFEからなり、厚さが10μm以上30μm以下とされていることを特徴とする。
【0010】
また、本発明の電線において、中心導体、絶縁体、外部導体及び外被が同軸状に順次積層された構造を有する同軸電線であることが好ましい。
【0011】
また、本発明の電線において、前記外被の外径が0.35mm以下であり、前記中心導体の外周側に隣接する前記絶縁体がPFAから形成されていることが好ましい。
【0012】
本発明の電線の製造方法は、導体の外周が樹脂によって覆われた電線の製造方法であって、
引き落とし比を250以上としてメルトフローレートが25以上45以下であるETFEを押出被覆し、厚さ10μm以上30μm以下の最外層を形成することを特徴とする。
【発明の効果】
【0013】
本発明の電線によれば、最外層がETFEからなるので、高い耐摩耗性を確保することができる。しかも、最外層を形成する樹脂のメルトフローレートが25以上45以下であり、最外層の厚さが10μm以上30μm以下とされているので細径化も図ることができる。これにより、回転や摺動など相対移動される筐体間を電気的に接続するために狭い収容スペースに収容される電線として良好に用いることができる。
また、本発明の電線の製造方法によれば、優れた耐久性を確保しつつ細径化された電線を円滑に製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明に係る電線の実施形態の例であり、電線の各部材を段階的に露出させた端部の斜視図である。
【図2】図1の電線の断面図である。
【図3】図1の電線の外被を押出成形する様子を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明に係る電線及びその製造方法の実施の形態の例を、図面を参照して説明する。
図1は電線の各部材を段階的に露出させた端部の斜視図、図2は電線の断面図である。
【0016】
図1及び図2に示すように、電線1は、中心導体2と外部導体6とを有する同軸電線である。
この電線1は、中央に中心導体2が配置され、この中心導体2の周囲に絶縁体4が形成され、さらに絶縁体4の周囲に外部導体6が配置されている。そして、この外部導体6の周囲に外被7が被覆されている。
【0017】
中心導体2は、導電性金属の細径線材を複数本用いて構成されている。本実施形態では、極細径の銅合金線3を7本用いて、1本の銅合金線3の周囲に6本の銅合金線3を撚り合わせたものが用いられている。
銅合金線3は、0.1重量%以上3重量%以下の銀を含有した銅合金から形成されたもので、その線径は0.010mm以上0.025mm以下とされている。そして、この銅合金線3は、その表面に、錫、銀またはニッケルのめっき層が形成されている。
例えば、銀濃度0.1〜1%の銅合金線3を撚り合わせた中心導体2は、その引張強度が600MPa以上で、導電率が85%IACS以上となっている。
【0018】
絶縁体4は、フッ素系樹脂であるPFA(テトラフルオロエチレン・パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体)から形成され、その外径は、約0.07〜0.20mmとされている。
【0019】
外部導体6は、導電性金属の細径線材(例えば錫めっき銅合金線)を複数本用いて編組または横巻きされ、絶縁体4の周囲を覆うように設けられている。
なお、外部導体6としては、例えば、金属テープを絶縁体4の外周に縦添えまたは螺旋巻きしたものでも良い。
横巻や編組の場合、線材は銅線や銅合金線(錫銅合金)で太さ(直径)は0.01〜0.04mmである。
金属テープ(樹脂テープの上に金属層がある)使用の場合は、樹脂テープの厚さが2〜10μm程度、金属層(銅やアルミニウム)が0.1〜3μmである。
【0020】
電線1の最外層を形成する外被7となる樹脂は、フッ素系樹脂であるETFE(エチレン−テトラフルオロエチレン共重合体)が用いられている。この外被7は、その厚さが10μm以上30μm以下とされ、外径は、0.35mm以下とされている。
そして、この外被7は、その樹脂のメルトフローレート(MFR:Melt Flow Rate)が25(g/10分)以上45(g/10分)以下である。
【0021】
上記構成の電線1は、携帯端末や小型ビデオカメラや医療用機器等の電子機器などに用いられ、屈曲、捻回または摺動する電線としても用いられる。
【0022】
上記電線1を接続するために端末処理する場合は、まず、電線1の外被7を、端部から所定距離離れた位置で切断し、端部側を引き抜いて除去する。
その後、外部導体6を外被7の切断位置より所定長さ端部に寄った位置で切断し、端部側の外部導体6を引き抜いて除去する。
その後、絶縁体4を、さらに端部寄りの位置で切断し、端部側の絶縁体4を引き抜いて除去する。
【0023】
このような構成の電線1によれば、最外層の外被7がETFEからなるので、優れた耐摩耗性を確保することができる。しかも、最外層の外被7の厚さが10μm以上30μm以下とされているので外径0.35mm以下として細径化も図ることができる。これにより、回転や摺動などされて狭い収容スペースに収容される電線として良好に用いることができる。
【0024】
本実施形態のように、外被7をETFEから形成した電線1によれば、組み立て加工でのハンドリング時や収容スペースへの実装時に、外被7が破ける不具合を防止することができる。
例えば、100セットの製品に電線を実装した際に電線に傷がついて外傷不良となる不良回数は、PFAで外被7を形成した場合では3回発生したが、ETFEで外被7を形成した場合では0回であった。ETFEはPFAに比べて引張破断強度が1.3倍程度、伸度が1.2倍程度であり、端末加工時に傷が付きにくいと考えられる。
【0025】
また、最外層の外被7を形成する樹脂のMFRが25以上45以下であるので、外被7を薄肉で押出成形することができる。
また、上記実施形態の電線1は、その外径が0.35mm以下であり、中心導体2の外周側に隣接する絶縁体4がPFAから形成されているので、絶縁体の誘電率が低く、極細径でありながら低容量の電線を得ることができる。また、絶縁体をPFAから形成して外被をETFEから形成する場合、絶縁体(PFA)の方が融点が高く、外被を押出被覆するときに、絶縁体が熱のダメージを受けることがなく好ましい。
【0026】
なお、ETFEは良好な機械的特性を有するが、誘電率は、PFAが約2.1であるのに対してETFEが2.6〜2.7であるため、ETFEは低容量が要求される電線の絶縁体4としては不向きである。
【0027】
次に、上記の電線1を製造する方法について説明する。
まず、0.1重量%以上3重量%以下の銀を含有した銅合金からなる極細径の7本の銅合金線3を撚り合わせて中心導体2とする。銅合金線3として、例えば銀濃度が0.6重量%の銀銅合金を使用する。この中心導体の引張強度は600MPa以上で、導電率が85%IACS以上である。銀濃度を2重量%とする場合は、中心導体の引張強度は950MPa以上で、導電率が70%IACS以上80%IACS以下である。
そして、この中心導体2の外周に、絶縁体4となるPFAを押し出し被覆する。
なお、絶縁体4は、PTFE(ポリテトラフルオロエチレン)などのフッ素樹脂テープを巻き付けて構成しても良い。
例えば、銀を0.1〜1重量%含む直径0.025mmの導体(銀銅合金線)を7本撚り合わせて、直径0.075mmの中心導体とする。それに厚さ0.050mmの発泡PTFE(ポリテトラフルオロエチレン)テープを螺旋巻きする。その上に、厚さ0.004mmのPET(ポリエチレンテレフタレート)テープを螺旋巻きする。導体の寸法や絶縁体の厚さをより小さくしてより細径にしたものでもよい。
【0028】
次に、絶縁体4の外周に、導電性金属の複数本の細径線材を編組または横巻きして外部導体6を設ける。
【0029】
その後、外部導体6の外周に、外被7となるMFRが25以上45以下のETFEを押出被覆し、厚さが10μm以上30μm以下の外被7を形成する。これにより、外径が0.35mm以下の電線1とする。
なお、外部導体6の外周に、PETなどの樹脂テープを押さえ巻きとして巻き付けてから外被7を形成しても良い。
【0030】
ここで、ETFEを押出被覆して電線1の最外層に外被7を形成するには、押出成形に用いるダイス及びポイントを選択することにより、成形条件である引き落とし比を、250以上1000以下とする。
引き落としによる外被の押出成形の様子を、図3に示す。
ダイス11とポイント12の間の樹脂流路13にETFE樹脂を供給する。ポイント12の中心を通貫通孔に外部導体が巻かれた電線(被覆前コア)8を通過させる。ダイス11とポイント12の間の出口から押し出された樹脂7は、すぐには被覆前コア(外部導体)8には接触せず、だんだん細くなって出口から離れた地点で被覆前コア8に接触して被覆される。
【0031】
引き落とし比は、(ダイス内径)−(ポイント外径)/(電線仕上がり径)−(被覆前コア径)で求められる。ETFEが電線の被覆に使用される場合、引き落とし比は通常50ないし100である。本発明はそれを250以上と従来になく大きな値とすることにより、薄肉のETFE外被を実現することに成功した。メルトフローレート(MFR)が25(g/10分)以上45(g/10分)以下(温度297℃、荷重5kg)であるものを使用することにより引き落とし比をこの範囲とすることができた。
これにより、外部導体6の外周に、厚さ10μm以上30μm以下の外被7を形成することができる。
【0032】
電線仕上がり径を0.35mm、外被の厚さを0.03mmとする場合、ダイス内径の2乗とポイント外径の2乗の差が30.4mmとなるようにダイスとポイントとを組み合わせて使用する。ポイントの端とダイスの端とはそれぞれが同一面にあるように組み合わされる。
この組み合わせのダイス11とポイント12の間の樹脂流路13にMFRが25以上45以下(例えば30)のETFE樹脂を供給する。
【0033】
上記の電線の製造方法によれば、高い耐摩耗性を確保しつつ細径化され、回転や摺動など相対移動される筐体間を電気的に接続するために狭い収容スペースへの配線に適した電線1を円滑に製造することができる。
【0034】
なお、上記実施形態では、中心導体2、絶縁体4、外部導体6及び外被7が同軸状に順次積層された構造を有する同軸電線からなる電線1を例示して説明したが、外周が樹脂によって覆われた電線であれば、同軸電線に限定されず、導体の周囲を外被で覆った絶縁電線にも適用可能である。
【0035】
例えば、錫めっき銅合金などの線径0.016mmの素線を7本撚りして線径0.05mmの導体を形成し、その外周にETFEを押出被覆して厚さ30μmの外被を形成し、外径0.11mmとしたような絶縁電線でも良い。
この場合、外被を2層構造とし、その内層をPTFE(ポリテトラフルオロエチレン)などのフッ素樹脂テープを巻き付けて構成したり、またはPFA等の別の樹脂を押出被覆しても良い。絶縁体の内層にPFAを使用することにより絶縁体の誘電率を低くすることができ、外層にETFEを使用することにより絶縁体(この場合は外被も兼ねる)の耐摩耗性を向上することができる。
【符号の説明】
【0036】
1:電線、2:中心導体、4:絶縁体、6:外部導体、7:外被

【特許請求の範囲】
【請求項1】
導体の外周が樹脂によって覆われた電線であって、
最外層を形成する樹脂が、メルトフローレートが25以上45以下であるETFEからなり、厚さが10μm以上30μm以下とされていることを特徴とする電線。
【請求項2】
請求項1に記載の電線であって、
中心導体、絶縁体、外部導体及び外被が同軸状に順次積層された構造を有する同軸電線であることを特徴とする電線。
【請求項3】
請求項2に記載の電線であって、
前記外被の外径が0.35mm以下であり、前記中心導体の外周側に隣接する前記絶縁体がPFAから形成されていることを特徴とする電線。
【請求項4】
導体の外周が樹脂によって覆われた電線の製造方法であって、
引き落とし比を250以上としてメルトフローレートが25以上45以下であるETFEを押出被覆し、厚さ10μm以上30μm以下の最外層を形成することを特徴とする電線の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2010−257777(P2010−257777A)
【公開日】平成22年11月11日(2010.11.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−106908(P2009−106908)
【出願日】平成21年4月24日(2009.4.24)
【出願人】(000002130)住友電気工業株式会社 (12,747)
【Fターム(参考)】