説明

電線端末スプライス部の防水方法および防水構造

【課題】電線端末スプライス部をキャップに収容し、キャップ内部で硬化する止水剤中に埋設する止水方法において、防水精度を高めると共にキャップおよび止水剤の無駄を省く。
【解決手段】熱収縮チューブの一端開口に止水剤注入穴を貫通して設けた止栓を密嵌固定したキャップを用い、キャップ内にスプライス部を挿入し、該挿入後に熱収縮チューブを収縮し、その後、止栓に設けた止水剤注入穴から止水剤を前記キャップ内に加圧注入する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は電線端末スプライス部の防水方法および防水構造に関し、詳しくは、複数本の電線端末で露出させた芯線同士を重ねて溶接した端末スプライス部を絶縁樹脂のキャップに挿入し、該キャップ内に充填する止水剤中に埋設して防水するものである。
【背景技術】
【0002】
自動車等に配索するワイヤハーネスを構成する電線群には、互いに接続して分岐回路を形成する電線が多い。多数本の電線を接続する必要がある場合、これら電線は端末で絶縁被覆層を剥離して芯線を露出させ、露出させた芯線を積層状態として一括で溶接して端末スプライス部を形成している。
【0003】
前記端末スプライス部の防水方法として、本出願人は特開2006−81319号公報で、図4に示す防水方法を提供している。該防水方法は、熱収縮チューブ101の一端開口に止栓102を挿入して閉鎖したキャップ100を設け、該キャップ100内に止水剤110を定量注入し、その後、端末スプライス部120を挿入して止水剤110中に浸漬させ、その後、キャップ100の熱収縮チューブ101を所要温度で加熱して収縮すると共に止水剤110も熱硬化させている。
【0004】
キャップ100内に端末スプライス部120を挿入する前に止水剤110を注入しているのは、キャップ100の熱収縮チューブ101を加熱収縮するとキャップ100の入口100hが狭くなり、キャップ100内に挿入した端末スプライス部120に連続する束状の電線121で入口100hが塞がれて止水剤110を注入できなくなることによる。 また、熱収縮チューブ101を加熱収縮する前の状態であっても、束状の電線121でキャップ100の入口の開口面積が非常に狭くなり、止水剤110を注入できる隙間が少なくなって、注入が容易でなく、こぼれやすくなる等の問題があることによる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2006−81319号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
前記特許文献1の防水方法では、キャップ100内に予め定量の止水剤110を注入した状態で端末スプライス部120を挿入しているため、端末スプライス部120の電線束が多いと止水剤110の液面が上昇する。よって、キャップから止水剤が溢れ、他の製品に付着するとふき取り作業が必要になる。そのため、キャップ100の長さを例えば60mm以上と長くして、止水剤が溢れないようにしておく必要があり、材料コストがかかると共に、キャップ自体も長尺化してスペースをとる問題がある。
【0007】
さらに、キャップ100内に端末スプライス部120を挿入した後に、キャップ100を熱収縮できる温度で加熱するが、この加熱時にキャップ100が収縮する前に、キャップ100の下部に溜まった止水剤110が加熱硬化し、図5に示すように、キャップ100の下部が膨らんだ瓢箪状になる可能性がある。その場合、端末スプライス部120に連続する各電線121の露出した芯線や絶縁被覆部が止水剤110中に完全に埋没しない状態になる恐れもあり、止水精度の信頼性が低下する問題がある。
【0008】
本発明は前記問題を解消せんとするもので、端末スプライス部および該スプライス部に連続する各電線の露出させた芯線を確実に止水剤中に埋没させることができ、しかも、キャップの長さを過剰に長くする必要はなく、材料コストを削減でき無駄を省くことができる電線端末スプライス部の止水方法および該方法で形成された止水構造を提供することを課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0009】
前記課題を解決するため、本発明は、所要長さとした熱収縮チューブの一端開口を電線端末スプライス部の挿入口とすると共に、他端開口に止水剤注入穴を貫通して設けた止栓を密嵌固定したキャップを用い、
まず、前記キャップの挿入口から、複数本の電線の端末の芯線を溶接した端末スプライス部、該端末スプライス部に連続する電線の芯線および芯線露出部に連続する絶縁被覆層を備えた電線を前記端末スプライス部が前記止栓に接する位置まで挿入し、
ついで、前記熱収縮チューブを加熱して収縮し、
ついで、前記止栓に設けた止水剤注入穴から止水剤を前記キャップ内に加圧注入し、前記止水剤を前記電線の絶縁被覆層の所要位置まで注入することを特徴とする電線端末スプライス部の防水方法を提供している。
【0010】
前記のように、キャップ内に先に端末スプライス部を挿入し、挿入後に加熱してキャップを熱収縮し、キャップの内周面を挿入した端末スプライス部および連続する電線群の外周に密着させる。該密着状態でも、キャップの内周面と前記挿入材との間に僅かな隙間は発生しており、かつ、電線束の間に微小な隙間がある。
このように、キャップを収縮した後にキャップに取り付けた止栓の止水剤注入穴から止水剤を加圧注入していく。そのため、止水剤の注入後に熱収縮チューブを収縮した場合に発生する止水剤が溢れるのを防止できキャップの長さを必要以上に長くする必要がない。よって、従来キャップ長さを60mm以上としていた場合に40mm程度に短くできる。また、収縮したキャップの内周面と端末スプライス部の外周の微小な隙間に止水剤を充填するため、端末スプライス部の下部に止水剤が溜まることはなく、前記図5に示す瓢箪型にならない。
かつ、該端末スプライス部に連続する芯線および電線の絶縁被覆層の隙間に止水剤を加圧注入していくと、隙間への毛細管現象を伴って空隙を発生させることなく、確実に隙間に止水剤を充填でき、止水精度を高めることができる。特に、止水剤の使用量は大幅に低減できコストダウンを図ることができる。
【0011】
キャップの熱収縮チューブを熱収縮する前に止栓の止水剤注入穴から止水剤をキャップ内に充填すると、収縮時に止水剤注入穴から止水剤が押し出されないように、収縮前に止水剤注入穴を塞ぐ必要がある。
しかしながら、本発明では、キャップ収縮時には止水剤をキャップ内に充填していないため、止栓に止水剤注入穴を設けていても問題はない。よって、熱収縮チューブの収縮温度と止水液高さの相関関係を特定する必要はなく、止栓の素材および熱収縮チューブの素材は機能に応じて任意に選択することができる。
【0012】
なお、自然放置でも液量を最適に設定することで止水剤が流れでることはなく、止水剤注入穴を閉鎖する必要はない。
【0013】
止水剤は常温下で比較的低粘度で浸透性のよいものが好適に用いられ、例えば、2000mPa・s未満のエポキシ樹脂等が好適に用いられる。止水剤は常温硬化、熱硬化、光硬化などエポキシ樹脂材以外にも比較的低粘度であればよい。
【0014】
前記止栓に設ける止水剤注入穴は止栓の中央部に1つ設けておくことが好ましいが、限定されない。止水剤注入穴の大きさは、できるだけ小さくし、具体的には直径0.5mm以下の小径とすることが好ましい。
【0015】
前記のように小径とした止水剤注入穴にはノズルの吐出部分を差し込み、該ノズルから止水剤を所要の圧力で押し出す注入設備を設けることが好ましい。
【0016】
また、本発明は、前記方法により止水した電線端末スプライス部の防水構造を提供している。
【発明の効果】
【0017】
前記のように、本発明によれば、熱収縮チューブで形成したキャップの開口を止水剤注入穴を設けた止栓で閉鎖しておき、該キャップ内に止水剤を先入れせず、端末スプライス部を先入れする。さらに止水剤を注入する前にキャップを加熱して熱収縮し、キャップの内周面と挿入した端末スプライス部との間の隙間を微小としている。該状態で止栓の止水剤注入穴から止水剤を加圧注入することにより、必要最小限の止水剤をキャップ内に注入すればよいため、止水剤の使用量を大幅に低減でき、かつ、キャップの長さも必要以上に長くする必要はない。なお、自然放置でも液量を最適に設定することで止水剤が流れでることはなく、止水剤注入穴を閉鎖する必要はなく、止水剤の流出を確実に防止できる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本発明の実施形態を示し、(A)は電線端末スプライス部の止水構造を示す断面図、(B)は(A)のB−B線断面図、(C)は(A)のC−C線断面図である。
【図2】電線群の端末スプライス部を示す図面である。
【図3】(A)〜(E)は止水方法の工程を示す図面である。
【図4】従来例の断面図である。
【図5】従来例の問題点を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明の実施形態を図面を参照して説明する。
図1に本発明の防水方法で形成された電線端末スプライス部の防水構造を示し、図3に防水方法の工程を示す。
【0020】
図1に示すように、熱収縮チューブ1の一端開口をスプライス部の挿入口とし、他端に止栓2を内嵌固着したキャップ3を設けている。熱収縮チューブ1を加熱収縮したキャップ3内に、多数本の電線5の電線端末スプライス部6(以下、スプライス部6と略す)と、該スプライス部6に連続する芯線7と、芯線7に連続する絶縁被覆層を有する電線部分が挿入され、これら挿入材の外周とキャップ3の内周面の隙間、芯線7同士の隙間および電線同士の隙間に止水剤10を充填し、該止水剤10を硬化させる。
【0021】
前記スプライス部6は図2に示すように、電線5の端末で絶縁被覆層8を剥離して芯線7を露出させ、これら芯線7を積層して抵抗溶接または超音波溶接して矩形状の塊としたものである。該スプライス部6から各電線5の芯線7が分岐して連続し、該芯線7に絶縁被覆層8が剥離されていない電線5が束状となってキャップ3内に所要寸法だけ挿入されている。
【0022】
本実施形態では止水剤10の充填量を高さで管理することによって、止水剤の充填量を低減できる。また、キャップ3の熱収縮チューブの長さは前記図4に示すキャップの長さの70〜50%としている。具体的には図4の長さが60mm以上で、本実施形態では40mmとしている。
【0023】
図1に示すスプライス部の防水構造の形成方法を図3を参照して説明する。
図3(A)に示すように、熱収縮チューブ1を所要長さに切断し、一端開口をスプライス部の挿入口1aとしている。他端開口1bの内部に止水剤注入穴2aを中央に貫通して設けた熱可塑性樹脂製の止栓2を配置し、該状態で止栓2の外周の熱収縮チューブ1を加熱して収縮し、止栓2を密嵌固定したキャップ3を用意する。
【0024】
前記止栓2は、本実施形態では熱可塑性ポリオレフィン樹脂で成形し、熱収縮チューブ1の基材をポリオレフィン樹脂としていることで、止栓2が熱収縮チューブ1の他端開口1bに内嵌固定した状態で互いに固着しやすいものとしている。
前記止栓2の中央に設ける止水剤注入穴2aの内径は0.5mm以下とし、本実施形態では0.5mmとしている。
【0025】
熱収縮チューブ1を加熱収縮していない状態で、図3(B)に示すように、まず、前記スプライス部6、該スプライス部6に連続する芯線7、芯線露出部に連続する所要長さの電線5を挿入口1aから挿入し、挿入側先端のスプライス部6を底部側の止栓2に接触させて挿入を停止する。このとき、キャップ3を収縮していないため容易に挿入できる。
【0026】
ついで、図3(C)に示すように、熱収縮チューブ1の収縮温度(例えば、110℃〜150℃)に加熱する。この加熱で熱収縮チューブ1が収縮し、その内周面はスプライス部6、束状となった芯線7および複数の電線5の外周に僅かな隙間をあけた状態に収縮する。かつ、止栓2の外周面に強く密着するように収縮し、止栓2との固着強度が高まる。
【0027】
ついで、図3(D)に示すように、止栓2の止水剤注入穴2aに止水剤吐出用のノズル15を差し込み、該ノズル15より止水剤10をキャップ3の内部に底部側から挿入口1a側に向けて加圧注入する。本実施形態では、止水剤10として、硬化前の粘度が流動性のよい低粘度の2000mPa・sのエポキシ樹脂を用いている。
【0028】
熱収縮チューブ1の内周面とスプライス部6、芯線部分、電線束部分の外周との隙間が非常に狭くなっているため、注入する止水剤10は従来の注入量の略半分で束状となった電線5の部分に達する。かつ、隙間が狭く且つ止水剤10をノズル15から加圧注入することで、隙間に充填されていき、隙間に空きを発生させることなく確実に充填できる。
しかも、熱収縮チューブ1を透明または半透明とすると、熱収縮チューブ1内に充填される止水剤10の高さをチェックすることができ、底面から約30mmに達した位置(挿入口1aから10mmの位置)まで注入して停止する。このように、チェックしながら充填できるため、挿入口1aから止水剤10が溢れることはない。
【0029】
前記のように止水剤10をキャップ3内に注入した後、図3(E)に示すように、全体的に加熱する。
【0030】
前記した工程を経ることにより、図1に示すスプライス部6をキャップ3内で硬化した止水剤10に埋設した防水構造を形成することができる。該防水構造とすると、キャップ3の長さが過度に長くならず、かつ、キャップ3内に注入する止水剤10を低減でき、コストダウンを図ることができる。さらに、キャップ3の下部に止水剤10が溜まることはないため、硬化後に瓢箪型にならず、不良品の発生を低減できる。
【0031】
止栓2の止水剤注入穴2aへの止水剤10の注入は、前記のように、ノズル15を止水剤注入穴2aに差し込み、止水剤10を加圧しながら流入している。該注入方法を採用できれば、どのような注入手段を用いてもよい。
【符号の説明】
【0032】
1 熱収縮チューブ
2 止栓
2a 止水剤注入穴
3 キャップ
5 電線
6 スプライス部
7 芯線
10 止水剤
15 ノズル

【特許請求の範囲】
【請求項1】
所要長さとした熱収縮チューブの一端開口を電線端末スプライス部の挿入口とすると共に、他端開口に止水剤注入穴を貫通して設けた止栓を密嵌固定したキャップを用い、
まず、前記キャップの挿入口から、複数本の電線の端末の芯線を溶接した端末スプライス部、該端末スプライス部に連続する電線の芯線および芯線露出部に連続する絶縁被覆層を備えた電線を前記端末スプライス部が前記止栓に接する位置まで挿入し、
ついで、前記熱収縮チューブを加熱して収縮し、
ついで、前記止栓に設けた止水剤注入穴から溶融した止水剤を前記キャップ内に加圧注入し、前記止水剤を前記電線の絶縁被覆層の所要位置まで注入することを特徴とする電線端末スプライス部の防水方法。
【請求項2】
請求項1に記載方法で形成された電線端末スプライス部の防水構造。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2013−17286(P2013−17286A)
【公開日】平成25年1月24日(2013.1.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−147660(P2011−147660)
【出願日】平成23年7月1日(2011.7.1)
【出願人】(000183406)住友電装株式会社 (6,135)
【Fターム(参考)】