説明

電線端末接続構造及び中間キャップ

【課題】製造コストの増大を招くことなく、芯線と中間キャップとの間での電食を抑制できる電線端末接続構造、及び、この電線端末接続構造に用いられる中間キャップを提供する。
【解決手段】本発明に係る電線端末接続構造1は、金属材からなる芯線11に絶縁層12が被覆された電線10と、電線10の端末に取り付けられる端子金具20と、端子金具20によって芯線11に圧着され、電線10の端末の絶縁層12が除去されることによって露出された芯線11に被覆される中間キャップ30とを備える。端子金具20は、芯線11とは別の金属材によって形成される。中間キャップ30は、導通性を有するとともに、芯線11と端子金具20との標準電極電位の間にある金属材によって形成される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動車等に用いられる電線端末接続構造、及び、この電線端末接続構造に用いられる中間キャップに関する。
【背景技術】
【0002】
一般的に、自動車等に用いられる電線の端末には、電線接続部が底板の両側縁からカシメ片を立ち上げることによって形成されたオープンバレル型の端子金具が取り付けられている。この電線の絶縁層によって被覆された芯線と端子金具とが異なる金属によって形成されている場合、両者の接続部分に結露等の水分が介在していると、両金属が水中にイオンとして溶け込んで電気化学的反応によって腐食が進行する現象である電食が発生することが知られている。
【0003】
そこで、水分の進入を防止するために、電線の芯線に中間キャップを被覆し、この中間キャップを包囲するようにカシメ片を圧着させた電線端末接続構造が知られている(例えば、特許文献1参照)。この電線端末接続構造では、中間キャップが端子金具と同種の金属(例えば、銅合金)によって形成されていることによって、中間キャップと端子金具との間での電食を防止できる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2007−311369号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上述した従来の電線端末接続構造では、芯線と中間キャップとの間での電食を防止するために、芯線と中間キャップとの間に充填材やゴム栓などの防水手段をさらに設ける必要があった。この結果、従来の電線端末接続構造では、部品点数が増大してしまうことに伴い、製造コストが増大してしまう。
【0006】
そこで、本発明は、製造コストの増大を招くことなく、芯線と中間キャップとの間での電食を抑制できる電線端末接続構造、及び、この電線端末接続構造に用いられる中間キャップの提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上述した課題を解決するため、本発明は、次のような特徴を有している。まず、本発明の第1の特徴は、金属材からなる芯線(芯線11)に絶縁層(絶縁層12)が被覆された電線(電線10)と、前記電線の端末に取り付けられる端子金具(端子金具20)と、前記端子金具によって前記芯線に圧着され、前記電線の端末の前記絶縁層が除去されることによって露出された前記芯線に被覆される中間キャップ(中間キャップ30)とを備えた電線端末接続構造(電線端末接続構造1)であって、前記端子金具は、前記芯線とは別の金属材によって形成され、前記中間キャップは、導通性を有するとともに、前記芯線の標準電極電位の値と前記端子金具の標準電極電位の値との間にある金属材によって形成されることを要旨とする。
【0008】
かかる特徴によれば、中間キャップは、導通性を有するとともに、芯線の標準電極電位の値と端子金具の標準電極電位の値との間にある金属材によって形成される。これにより、芯線と中間キャップとの標準電極電位に基づく電位差が、従来の端子金具と同種の金属からなる中間キャップと芯線との標準電極電位に基づく電位差よりも小さくできる。加えて、中間キャップと端子金具と標準電極電位に基づく電位差についても、従来の中間キャップと芯線との標準電極電位に基づく電位差よりも小さくなる。
【0009】
このため、芯線と中間キャップとの間で水分により反応して生じる電食(局部電池)の進行は、従来の中間キャップと芯線との間での電食の進行よりも遅くできる。また、中間キャップと端子金具との間での電食の進行についても、従来の中間キャップと芯線との間での電食の進行よりも遅くできる。つまり、上記の本願構成により、従来のような大きな局部電池を作ることなく、電食の進行を遅くして延命できる。従って、ゴム栓や充填材などの防水手段を設けなくても、芯線と中間キャップとの間での電食及び中間キャップと端子金具との間での電食を抑制でき、製造コストを低減できる。
【0010】
本発明の第2の特徴は、本発明の第1の特徴に係り、前記芯線は、アルミニウム又はこの合金によって形成され、前記端子金具は、銅又はこの合金によって形成され、前記中間キャップは、錫又はこの合金によって形成されることを要旨とする。
【0011】
かかる特徴によれば、中間キャップは、錫又はこの合金によって形成される。これにより、芯線と中間キャップとの間での電食を抑制しつつ、比較的安価な金属材を用いることによって、製造コストをより低減できる。
【0012】
本発明の第3の特徴は、本発明の第1又は第2の特徴に係り、前記中間キャップは、前記芯線を被覆する芯線被覆部(芯線被覆部31)と、前記絶縁層を被覆する絶縁層被覆部(絶縁層被覆部32)とを備えることを要旨とする。
【0013】
かかる特徴によれば、中間キャップは、絶縁層被覆部32を備えている。つまり、中間キャップが絶縁層まで達している。これにより、中間キャップが絶縁層まで達していない場合と比較して、中間キャップが芯線と端子金具との間を遮断し易くなり、大きな局部電池を生じ難くできる。
【0014】
本発明の第4の特徴は、本発明の第1乃至第3の特徴に記載の電線端末接続構造に用いられることを要旨とする。
【発明の効果】
【0015】
本発明の特徴によれば、製造コストの増大を招くことなく、芯線と中間キャップとの間での電食を抑制できる電線端末接続構造、及び、この電線端末接続構造に用いられる中間キャップを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】図1は、本実施形態に係る電線端末接続構造1を示す分解斜視図である。
【図2】図2は、本実施形態に係る電線端末接続構造1を示す組立斜視図である。
【図3】図3(a)は、本実施形態に係る電線端末接続構造1の電線長手方向を示す断面図(図2のA−A断面図)であり、図3(b)は、本実施形態に係る電線端末接続構造1の電線短手方向を示す断面図(図2のB−B断面図)である。
【図4】図4は、本実施形態に係る電線10及び中間キャップ30のみを示す断面図である。
【図5】図5は、本実施形態に係る中間キャップ30の取付方法を説明するための断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
次に、本発明に係る電線端末接続構造の実施形態について、図面を参照しながら説明する。具体的には、(1)電線端末接続構造の構成、(2)中間キャップ30の取付方法、(3)作用・効果、(4)その他の実施形態について説明する。
【0018】
なお、以下の図面の記載において、同一または類似の部分には、同一または類似の符号を付している。ただし、図面は模式的なものであり、各寸法の比率などは現実のものとは異なることに留意すべきである。
【0019】
したがって、具体的な寸法などは以下の説明を参酌して判断すべきである。また、図面相互間においても互いの寸法の関係や比率が異なる部分が含まれ得る。
【0020】
(1)電線端末接続構造の構成
まず、本実施形態に係る電線端末接続構造1の構成について、図面を参照しながら説明する。図1は、本実施形態に係る電線端末接続構造1を示す分解斜視図である。図2は、本実施形態に係る電線端末接続構造1を示す組立斜視図である。図3(a)は、本実施形態に係る電線端末接続構造1の電線長手方向を示す断面図(図2のA−A断面図)であり、図3(b)は、本実施形態に係る電線端末接続構造1の電線短手方向を示す断面図(図2のB−B断面図)である。図4は、本実施形態に係る電線10及び中間キャップ30のみを示す断面図である。
【0021】
図1〜図3に示すように、電線端末接続構造1は、自動車等で用いられる。この電線端末接続構造1は、電線10と、端子金具20と、中間キャップ30とを備えている。
【0022】
電線10は、アルミニウム又はこの合金等の金属材からなる芯線11と、芯線11を被覆する樹脂製の絶縁層12とによって構成される。この電線10の端末では、絶縁層12の一部が除去される(剥ぎ取られる)ことによって芯線11が露出されている。この露出された芯線11側の電線10の端末には、端子金具20が取り付けられている。
【0023】
端子金具20は、芯線11とは別の金属材によって形成されている。本実施形態では、端子金具20は、銅又はこの合金によって形成されている。端子金具20は、全体として電線10の長手方向に細長い形状をなしている。具体的には、端子金具20は、前端に設けられる平板状の機器接続部21と、底板の両側縁からカシメ片22Aを立ち上げることによって形成されたオープンバレル型の電線圧着部22とを備えている。機器接続部21には、接続孔21Aが形成されており、一方で、電線圧着部22は、中間キャップ30を介して芯線11と導通接続される。
【0024】
中間キャップ30は、端子金具20によって芯線11に圧着され、電線10の端末の絶縁層12が除去されることによって露出された芯線11に被覆される(図2及び図3参照)。中間キャップ30は、導通性を有するとともに、芯線11の標準電極電位の値と端子金具20の標準電極電位の値との間にある金属材によって形成される。本実施形態では、中間キャップ30は、錫又はこの合金によって形成されている。
【0025】
中間キャップ30は、図1及び図4に示すように、先端側が閉じられた筒状をなしており、電線10の芯線11から絶縁層12の一部まで覆うように形成されている。具体的には、中間キャップ30は、芯線11を被覆する芯線被覆部31と、絶縁層12を被覆する絶縁層被覆部32とを備える。
【0026】
芯線被覆部31と絶縁層被覆部32との間には、芯線被覆部31から絶縁層被覆部32に向かうに連れて徐々に拡径される段差部33が形成されている。芯線被覆部31は、絶縁層被覆部32よりも小径を有しており、絶縁層被覆部32は、芯線被覆部31よりも大径を有している。
【0027】
(2)中間キャップ30の取付方法
次に、上述した中間キャップ30を電線10の端末に取り付ける方法について、図面を参照しながら説明する。図5は、本実施形態に係る中間キャップ30の取付方法を説明するための断面図である。
【0028】
図5(a)及び図5(b)に示すように、電線10の端末に中間キャップ30を装着する。これにより、絶縁層12が除去されることによって露出された芯線11や絶縁層12の一部は、中間キャップ30により覆われる。
【0029】
次いで、図5(b)及び図5(c)に示すように、中間キャップ30へ端子金具20を取り付け、中間キャップ30を包囲するようにカシメ片22Aをカシメ付けることによって、電線10の端末に中間キャップ30を圧着固定する。これにより、芯線11と端子金具20とは、中間キャップ30を介して電気的に導通された状態となり、電線10と端子金具20とが導通接続される。
【0030】
(3)作用・効果
一般的に、アルミニウム(芯線11)と銅(端子金具20)とでは、標準電極電位に基づく電位差が約2.016Vである。つまり、アルミニウムと銅とを接触させると、標準電極電位に基づく電位差が大きくなってしまい、より大きな局部電池が生じてしまう。
【0031】
そこで、本実施形態では、大きな局部電池を生じ難くさせるために、上記のアルミニウムと銅との組み合わせとならないようにしている。すなわち、アルミニウム(芯線11)と錫(中間キャップ30)とを接触させており、この場合、標準電極電位に基づく電位差が約1.538Vとなる。また、銅(端子金具20)と錫(中間キャップ30)とを接触させており、この場合、標準電極電位に基づく電位差が約0.48Vとなる。
【0032】
このように、本実施形態では、アルミニウムと銅との組み合わせとせず、標準電極電位に基づく電位差をできる限り小さくすることができ、芯線11と中間キャップ30との間での電食を抑制できる。この結果、腐食の進行を遅くでき、芯線11と端子金具20との導通信頼性を向上させることもできる。
【0033】
具体的には、本実施形態では、中間キャップ30は、導通性を有するとともに、芯線11の標準電極電位の値と端子金具20の標準電極電位の値との間にある金属材によって形成される。これにより、芯線11と中間キャップ30との標準電極電位に基づく電位差が、従来の端子金具と同種の金属からなる中間キャップと芯線との標準電極電位に基づく電位差よりも小さくできる。加えて、中間キャップ30と端子金具20と標準電極電位に基づく電位差についても、従来の中間キャップと芯線との標準電極電位に基づく電位差よりも小さくなる。
【0034】
このため、芯線11と中間キャップ30との間で水分により反応して生じる電食(局部電池)の進行は、従来の中間キャップと芯線との間での電食の進行よりも遅くできる。また、中間キャップ30と端子金具20との間での電食の進行についても、従来の中間キャップと芯線との間での電食の進行よりも遅くできる。つまり、上記の本願構成により、従来のような大きな局部電池を作ることなく、電食の進行を遅くして延命できる。従って、ゴム栓や充填材などの防水手段を設けなくても、芯線11と中間キャップ30との間での電食及び中間キャップ30と端子金具20との間での電食を抑制でき、製造コストを低減できる。
【0035】
本実施形態では、中間キャップ30は、錫又はこの合金によって形成される。これにより、芯線11と中間キャップ30との間での電食を抑制しつつ、比較的安価な金属材を用いることによって、製造コストを低減できる。
【0036】
本実施形態では、中間キャップ30は、絶縁層被覆部32を備えている。つまり、中間キャップ30が絶縁層12まで達している。これにより、中間キャップ30が絶縁層12まで達していない場合と比較して、中間キャップ30が芯線11と端子金具20との間を遮断し易くなり、大きな局部電池を生じ難くできる。
【0037】
(4)その他の実施形態
上述したように、本発明の実施形態を通じて本発明の内容を開示したが、この開示の一部をなす論述及び図面は、本発明を限定するものであると理解すべきではない。この開示から当業者には様々な代替実施の形態、実施例及び運用技術が明らかとなる。
【0038】
例えば、本発明の実施形態は、次のように変更することができる。具体的には、中間キャップ30は、錫又はこの合金によって形成されているものとして説明したが、これに限定されるものではなく、芯線11の標準電極電位の値と端子金具20の標準電極電位の値との間にある金属材によって形成されていればよい。
【0039】
例えば、中間キャップ30は、鉄もしくはこの合金や、ニッケルもしくはこの合金、亜鉛もしくはこの合金等によって形成されていてもよい。なお、芯線11についても、必ずしもアルミニウム又はこの合金である必要はない。同様に、端子金具20についても、銅又はこの合金である必要もない。
【0040】
また、中間キャップ30における段差部33は、芯線被覆部31から絶縁層被覆部32に向かうに連れて徐々に拡径されるものとして説明したが、これに限定されるものではなく、芯線被覆部31及び絶縁層被覆部32に直交するように設けられていてもよい。
【0041】
また、絶縁層被覆部32は、結露等を進入させ難くするために、絶縁層被覆部32は、電線10の長手方向に対する長さができる限り長い方が好ましい。なお、絶縁層被覆部32は、必ずしも絶縁層12を被覆している必要はなく、絶縁層12に達しれていればよい。また、絶縁層被覆部32が必ずしも設けられる必要はなく、段差部33等が絶縁層12に達していてもよい。
【0042】
このように、本発明は、ここでは記載していない様々な実施の形態などを含むことは勿論である。したがって、本発明の技術的範囲は、上述の説明から妥当な特許請求の範囲に係る発明特定事項によってのみ定められる。
【符号の説明】
【0043】
1…電線端末接続構造
10…電線
11…芯線
12…絶縁層
20…端子金具
30…中間キャップ
31…芯線被覆部
32…絶縁層被覆部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属材からなる芯線に絶縁層が被覆された電線と、
前記電線の端末に取り付けられる端子金具と、
前記端子金具によって前記芯線に圧着され、前記電線の端末の前記絶縁層が除去されることによって露出された前記芯線に被覆される中間キャップと
を備えた電線端末接続構造であって、
前記端子金具は、前記芯線とは別の金属材によって形成され、
前記中間キャップは、導通性を有するとともに、前記芯線の標準電極電位の値と前記端子金具の標準電極電位の値との間にある金属材によって形成されることを特徴とする電線端末接続構造。
【請求項2】
請求項1に記載の電線端末接続構造であって、
前記芯線は、アルミニウム又はこの合金によって形成され、
前記端子金具は、銅又はこの合金によって形成され、
前記中間キャップは、錫又はこの合金によって形成されることを特徴とする電線端末接続構造。
【請求項3】
請求項1又は請求項2に記載の電線端末接続構造であって、
前記中間キャップは、
前記芯線を被覆する芯線被覆部と、
前記絶縁層を被覆する絶縁層被覆部と
を備えることを特徴とする電線端末接続構造。
【請求項4】
請求項1乃至請求項3のいずれかに記載の電線端末接続構造に用いられることを特徴とする中間キャップ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2013−93261(P2013−93261A)
【公開日】平成25年5月16日(2013.5.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−235705(P2011−235705)
【出願日】平成23年10月27日(2011.10.27)
【出願人】(000006895)矢崎総業株式会社 (7,019)
【Fターム(参考)】