説明

電解コンデンサの製造方法

【課題】精密なマーキング部を有する電解コンデンサの製造方法を提供する。
【解決手段】本発明は、エポキシ樹脂またはポリエチレンテレフタラート樹脂からなる樹脂膜が外表面に設けられた金属ケースに、コンデンサ素子を収容する工程と、金属ケースにレーザを照射して、マーキング部を形成する工程と、を含み、マーキング部を形成する工程において、レーザが照射された部分の樹脂膜が除去されることによってマーキング部が形成される、電解コンデンサの製造方法である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電解コンデンサの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
一般的に、電子部品には製品情報が表示されている。たとえば、ある電子部品に不具合が生じた場合には、上記製品情報から流通履歴を追跡し、同ラインで製造された他の電子部品を回収することができ、不具合のさらなる発生を未然に防ぐことができる。
【0003】
電解コンデンサにおいても、目視可能な位置に製品情報が表示される。たとえば、コンデンサ素子を金属ケースに収容した形態の電解コンデンサにおいては、金属ケースの外表面をナイロン樹脂で被覆し、印字装置を用いて、そのナイロン樹脂上にUV硬化インクを印字して、製品情報を表示することが一般的である。ナイロン樹脂は伸長性が高いため、金属板をナイロン樹脂で被覆し、これを成形して金属ケースを形成するのに適している。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上記印字方法は、印字装置における電解コンデンサの位置調整、印字調整、濃度調整などが難しいために、印字ずれ、印字かすれなどが生じ、製品情報などを精密、鮮明にマーキングすることが難しいという問題が生じていた。また、上記電解コンデンサにおいて、印字剥がれを防ぐために、印字する前に金属ケースの表面を洗浄する作業を要しており、製造コスト、製造タクトが嵩むという問題もあった。
【0005】
また、電解コンデンサは小型化しており、これに伴い、印字スペースが小さくなっている。このため、十分な製品情報を示すマーキング部を形成することができずに、流通履歴の追跡が困難となる場合がある。これを解消するためには、より小さい記号、文字などで製品情報を精密に表示する必要があるが、UV硬化インクによる印字では、精密なマーキング部の形成が困難であるという問題があった。
【0006】
上記事情に鑑みて、本発明は、精密なマーキング部を有する電解コンデンサの製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、エポキシ樹脂またはポリエチレンテレフタラート樹脂からなる樹脂膜が外表面に設けられた金属ケースに、コンデンサ素子を収容する工程と、金属ケースにレーザを照射して、マーキング部を形成する工程と、を含み、マーキング部を形成する工程において、レーザが照射された部分の樹脂膜が除去されることによってマーキング部が形成される、電解コンデンサの製造方法である。
【0008】
上記電解コンデンサの製造方法において、マーキング部は、樹脂膜が除去されることによって金属ケースの外表面に形成される溝部を含み、溝部の側面は樹脂膜によって区画されており、溝部の底面は樹脂膜が除去されることによって露出した金属ケースの外表面によって区画されていることが好ましい。
【0009】
上記電解コンデンサの製造方法において、溝部の溝幅は100μm以下であることが好ましい。
【0010】
上記電解コンデンサの製造方法において、マーキング部は、バーコード表示を含むことが好ましい。
【0011】
本発明によれば、精密なマーキング部を有する電解コンデンサの製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】電解コンデンサの一実施形態を模式的に示す断面図である。
【図2】コンデンサ素子の一実施形態を模式的に示す図である。
【図3】樹脂膜が設けられた金属ケースの一実施形態を模式的に示す図である。
【図4】コンデンサ素子を金属ケースに収納した状態の一実施形態を模式的に示す図である。
【図5】検討2において、電解コンデンサの底面に形成されるマーキング部の表示を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、図面を参照しながら、本発明に係る電解コンデンサの製造方法の実施の形態を説明する。以下の実施の形態は一例であり、本発明の範囲内で種々の実施の形態での実施が可能である。なお、本発明の図面において、同一の参照符号は、同一部分または相当部分を表すものとする。
【0014】
<実施の形態1>
図1は、本実施の形態で製造される電解コンデンサの一実施形態を模式的に示す断面図である。図1において、コンデンサ素子10は、エポキシ樹脂またはポリエチレンテレフタラート(以下、「PET」という。)樹脂からなる樹脂膜16が外表面に設けられた金属ケース11に収容されている。また、電解コンデンサの金属ケース11の外表面、たとえば底面11bに、マーキング部が形成されている。
【0015】
上記電解コンデンサは、樹脂膜16が外表面に設けられた金属ケース11に、コンデンサ素子10を収容する工程と、金属ケース11にレーザを照射して、マーキング部を形成する工程とを含む製造方法によって製造することができる。以下、この製造方法について、図1〜図4を用いて詳細に説明する。
【0016】
(コンデンサ素子の準備)
まず、図2に示すコンデンサ素子10を準備する。なお、図2では、巻回体20の最外周を止める前の状態を示している。
【0017】
コンデンサ素子10の作製方法は特に限定されず、公知の方法によって作製することができる。ここでは、電解質として導電性高分子層を備えるコンデンサ素子10の作製方法の一例を説明するが、電解質として電解液を備えていてもよい。
【0018】
まず、誘電体被膜が形成された陽極体21と、陰極体22とを、セパレータ23を介して巻回する。このとき、リードタブ15A,15Bを巻き込みながら巻回することにより、図2に示すように、リードタブ15A,15Bを巻回体中に立設させることができる。
【0019】
陽極体21および陰極体22はそれぞれ金属箔からなる。陽極体21および陰極体22の金属の種類は特に限定されず、たとえば、アルミニウム、タンタル、ニオブなどの弁作用金属を用いることができる。セパレータ23の材料も特に限定されず、たとえば、合成セルロース、ビニロン、アラミド繊維を主成分とする不織布などを用いることができる。また、リードタブ15A,15Bの材料も特に限定されず、電気を通すことができる材料であればよい。リードタブ15A,15Bの各々に接続されるリード線14A,14Bの材料についても、特に限定されず、電気を通すことができる材料であればよい。
【0020】
次に、巻回された陽極体21、陰極体22およびセパレータ23のうち、最外層に位置する陰極体22の外側表面に、巻止めテープ24を配置し、陰極体22の端部を巻止めテープ24で止めて、巻回体20を作製する。そして、陽極体21とセパレータ23との間、およびセパレータ23と陰極体22との間に導電性高分子層を形成することによって、コンデンサ素子10を作製する。なお、導電性高分子層の形成方法は特に制限されず、たとえば、公知の化学重合法や電解重合法によって形成することができる。
【0021】
(樹脂膜が設けられた金属ケースの準備)
次に、外表面に、エポキシ樹脂またはPET樹脂からなる樹脂膜16が設けられた金属ケース11を準備する。
【0022】
金属ケース11は、図3に示すように、上面が開口され、底面が閉塞された筒体からなり、その筒体の外表面に樹脂膜16が設けられる。樹脂膜16が設けられた金属ケース11は、金属板に樹脂膜16を形成した後に、金属板を底面を有する筒体に成形して作製してもよく、底面を有する筒状の金属ケース11を成形した後に、その外表面に樹脂膜16を形成して作製してもよい。樹脂膜16の形成方法としては、たとえば、樹脂膜16を構成する樹脂を金属ケース11の外表面に塗布した後に、硬化させてもよく、また、予め作成した樹脂膜16を金属ケース11に貼り付けてもよい。
【0023】
また、樹脂膜16は金属ケース11の外表面の全域、すなわち、底面の全面および側面の全面に設けられてもよく、底面の全面または一部に設けられていてもよく、側面の全面または一部に設けられていてもよい。少なくとも、後述するマーキング部を形成する工程において、レーザ照射位置に樹脂膜16が設けられていればよい。
【0024】
金属ケース11の材料は特に制限されず、たとえば、アルミニウム、銅、鉄、ニッケル、チタン、真鍮、およびこれらの合金などを用いることができる。成形が容易で安価であることから、アルミニウムを用いることが好ましい。
【0025】
樹脂膜16は、エポキシ樹脂またはPET樹脂からなる。樹脂膜16の厚さは特に制限されないが、小型化の電解コンデンサが求められている観点からは、薄いほうが好ましい。特に、エポキシ樹脂およびPET樹脂は強度が高いため、15μm以下、さらには6μm以下とした場合であっても、十分に強度を保つことができる。また、樹脂膜16の厚さが薄いことにより、後述するマーキング部を形成する工程において、レーザを照射する時間を短縮することができる。
【0026】
(コンデンサ素子を収容する工程)
次に、図4に示すように、コンデンサ素子10を金属ケース11に収容する。本工程においては、たとえば、金属ケース11の開口している側からコンデンサ素子10を挿入することによって、金属ケース11内にコンデンサ素子10を収容させることができる。
【0027】
さらに、金属ケース11に収容したコンデンサ素子10の上面に、リード線14A,14Bが貫通するように形成された封止部材12を載置して、金属ケース11の側面の開口端近傍を横絞り加工し、カール加工することによって、図1に示す形状の金属ケース11を作製することができる。また、さらに、カール加工された金属ケース11の上方に座板13を設置することによって、図1に示すように、コンデンサ素子10を金属ケース11内に封止することができる。また、コンデンサ素子10を封止した後に、エージング処理を行うことによって、誘電体被膜の修復を行ってもよい。
【0028】
(マーキング部を形成する工程)
次に、金属ケース11にレーザを照射して、マーキング部を形成する。
【0029】
具体的には、金属ケース11の外表面に設けられた樹脂膜16にレーザが照射される。レーザが照射された部分の樹脂膜16は熱によってガス化し、これにより、レーザが照射された部分の樹脂膜16が除去される。特に、エポキシ樹脂の熱変形温度およびPET樹脂の融点は高いため、たとえば、レーザが照射された部分の樹脂膜16とともに、その近傍に位置する部分の樹脂膜16が除去されるのを防止することができ、レーザが照射された部分を精密に除去することができる。なお、レーザの波長、強度などは樹脂膜16の厚さ、樹脂膜16を構成する樹脂の種類などによって適宜変更することができる。
【0030】
したがって、本工程によって形成されるマーキング部は、金属ケース11の外表面から樹脂膜16が除去されることによって形成される溝部を含み、該溝部の側面が樹脂膜16によって区画され、溝部の底面が樹脂膜16が除去されることによって露出した金属ケース11の外表面によって区画される構成となる。
【0031】
また、樹脂膜16は、金属ケース11の色調と異なる色調であることが好ましい。この場合、樹脂膜16を除去することによって露出した金属ケース11と、樹脂膜16との色調が異なることにより、マーキング部の目視や、機器による読取が容易となる。また、樹脂膜16の表面を着色してもよく、樹脂層16を複数層とし、表面の層の色を金属ケース11の色と異なる色にしてもよい。これらの場合にも、樹脂膜16を除去することによって露出した金属ケース11と、樹脂膜16の表面との色調が異なることにより、マーキング部の目視や、機器による読取が容易となる。
【0032】
また、さらに、樹脂膜16が除去されることによって露出した金属ケース11の外表面にレーザが照射されてもよい。金属ケース11の外表面にレーザを照射することにより、金属ケース11の表面を変色させることができる。このため、たとえば、樹脂膜16の色調を金属ケース11の変色後の色調と異なる色調にすることにより、樹脂膜16が除去されていない部分と、樹脂膜16が除去されている部分との違いが明確となり、マーキング部の識別性がさらに向上する。
【0033】
なお、図4を参照し、マーキング部は、金属ケース11の側面11aに形成されてもよく、底面11bに形成されてもよい。特に、底面11bを有する筒体からなる金属ケース11において、底面11bを平面とし、この底面11bにマーキング部を形成することが好ましい。平面である底面11bにマーキング部を形成することによって、よりマーキング部の識別性が向上する。
【0034】
以上の工程により、コンデンサ素子10と、コンデンサ素子10を収容する金属ケース11と、金属ケース11の外表面に設けられたエポキシ樹脂またはPET樹脂からなる樹脂膜16と、樹脂膜16の一部にレーザを照射することによって形成されたマーキング部と、を備える電解コンデンサが製造される。
【0035】
本実施の形態1によれば、エポキシ樹脂の熱変形温度およびPET樹脂の融点が高いため、たとえば、レーザが照射された部分の樹脂膜16とともに、その近傍に位置する部分の樹脂膜16が除去されるのを抑制することができ、レーザが照射された部分を精密に除去することができる。このため、精密なマーキング部を形成することができる。
【0036】
また、従来のUV硬化インクをナイロン樹脂に印字する方法では、製品のロット番号などが変わるたびに、印字に要する型を作り変える必要があった。また、印字前に金属ケースの表面を洗浄する必要があった。これに対し、上記の実施の形態において形成されるマーキング部は、レーザを走査することによって所望の形状にすることができるため、容易に、マーキング部によって製品情報を表示することができる。また、レーザを照射するため、従来のように金属ケースを洗浄する必要がない。したがって、上記の電解コンデンサの製造方法によれば、従来の方法に比べて、製造コスト、製造タクトを低減することができる。
【0037】
また、本発明者は、エポキシ樹脂およびPET樹脂に対し、レーザを照射することによって、溝幅が100μm以下の溝部からなるマーキング部を形成できることを知見しており、さらには、50μm以上100μm以下の溝幅のマーキング部を形成できることを知見している。したがって、より多くの製品情報を電解コンデンサに表示することができ、流通履歴の追跡がより簡便となる。
【0038】
また、本実施の形態1によれば、上記のように、50μm以上100μm以下の溝幅の狭い溝部を形成することができるため、たとえば、金属ケース11の外表面に、バーコード表示のような緻密な表示をすることが可能となる。
【0039】
<実施の形態2>
上述の実施の形態1では、コンデンサ素子10を金属ケース11に収容した後に、金属ケース11にマーキング部を形成したが、たとえば、マーキング部を形成した金属ケース11に、コンデンサ素子10を収容してもよい。
【0040】
すなわち、本実施の形態2においては、コンデンサ素子10と、樹脂膜16が設けられた金属ケース11とをそれぞれ準備し、樹脂膜16が設けられた金属ケース11の外表面にマーキング部の形成を行なってから、該金属ケース11にコンデンサ素子10を収容することができる。
【0041】
本実施の形態2によれば、実施の形態1と同様に、エポキシ樹脂の熱変形温度およびPET樹脂の融点が高いため、たとえば、レーザが照射された部分の樹脂膜16とともに、その近傍に位置する部分の樹脂膜16が除去されるのを抑制することができ、レーザが照射された部分を精密に除去することができる。このため、精密なマーキング部を形成することができる。
【0042】
本実施の形態2における上記以外の説明は、実施の形態1と同様であるため、その説明は繰り返さない。
【0043】
以上、巻回型の電解コンデンサについて説明したが、電解コンデンサはこれに限られず、金属のケースにコンデンサ素子を収容する構成のものであれば、いずれの電解コンデンサの製造方法にも適用することができる。
【実施例】
【0044】
以下、実施例を挙げて本発明をより詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0045】
<検討1>
(実施例1)
本実施例1において、巻回型の電解コンデンサを作製した。以下に、電解コンデンサの具体的な製造方法について説明する。
【0046】
(1)コンデンサ素子の準備
まず、アルミニウム箔をエッチング処理することによってアルミニウム箔の表面を粗面化した後、該アルミニウム箔の表面に、化成処理によって誘電体被膜を形成した。そして、このアルミニウム箔を、縦×横が6mm×100mmになるように裁断して、陽極体を準備した。
【0047】
次に、上記陽極体と同程度の面積のセパレータおよび陰極体を準備し、陽極体と陰極体とを、リードタブを巻き込みながら、セパレータを介して巻回した。次に、巻回体の外側表面の端部を巻止めテープで貼着して巻回体を作製した。陰極体としてアルミニウム箔を用い、リードタブの巻回体から突出する端部にはリード線を接続した。そして、作製された巻回体に対して、再度化成処理を行い、陽極体の切断された端部に誘電体被膜を形成した。
【0048】
次に、3,4−エチレンジオキシチオフェン、p−トルエンスルホン酸第二鉄を含む重合液に巻回体を浸漬し、引き上げた後に加熱処理することによって、ポリチオフェンからなる導電性高分子層を形成た。以上の工程により、コンデンサ素子を作製した。
【0049】
(2)金属ケースの準備
次に、金属ケースとして、底面を有する筒体(図3参照)のアルミニウムケースを用い、該アルミニウムケースの外表面の全面にエポキシ樹脂からなる樹脂膜を設けた金属ケースを準備した。なお、樹脂膜は、塗布後、硬化させることによって金属ケースの外表面に形成した。このときの樹脂膜の厚さは6μm程度であり、このエポキシ樹脂の熱分解温度は270度であった。
【0050】
(3)コンデンサ素子を収容する工程
そして、樹脂膜が設けられた金属ケース内に、上記コンデンサ素子を収容し、さらに、金属ケースの開口する側のコンデンサ素子の上面にゴムパッキングを載置した後、金属ケースの側面の開口端近傍を横絞り加工し、カール加工した。そして、カール加工した金属ケースの上方に座板を設置することによって、コンデンサ素子を金属ケース内に封止した後、エージング処理した。
【0051】
(4)マーキング部を形成する工程
次に、金属ケースの底面に、レーザを照射して、製品情報を示すバーコード表示からなるマーキング部を形成した。
【0052】
具体的には、金属ケースの底面に対し、YAGレーザ装置(SUNX製、LP−F10R)を用いて、レーザの照射領域がバーコード表示と一致するように、レーザパワー100%で0.5秒間レーザを照射した。これにより、レーザが照射された部分の樹脂膜が除去され、さらに樹脂膜が除去されたことによって露出した金属ケースの表面が黒色に変化し、バーコード表示からなるマーキング部が形成された。なお、バーコード表示を構成する各線の太さは70μmであり、各線の間隔が47μmであった。以上の工程により、20個の電解コンデンサを製造した。
【0053】
(実施例2)
PET樹脂からなる樹脂膜を金属ケースの外表面に設けた以外は、実施例1と同様の方法により、20個の電解コンデンサを製造した。なお、このときの樹脂膜の厚さは15μm程度であり、このPET樹脂の熱分解温度は265度であった。
【0054】
(比較例1)
ナイロン樹脂からなる樹脂膜を金属ケースの外表面に設け、マーキング部の形成を、従来のUV硬化インクを印字する方法で行なった以外は、実施例1と同様の方法により、20個の電解コンデンサを製造した。
【0055】
具体的には、UV硬化装置を用いて、ナイロン樹脂で被覆された金属ケースの底面にUV硬化インクを付着、硬化させることによってバーコード表示を印字した。なお、このときの樹脂膜の厚さは15μm程度であり、このナイロン樹脂の熱分解温度は225度であった。
【0056】
(比較例2)
樹脂膜を比較例1と同様の樹脂膜とした以外は、実施例1と同様の方法により、20個の電解コンデンサを製造した。
【0057】
(摩擦試験)
各実施例1、2および各比較例1、2で製造された電解コンデンサは、それぞれ定格電圧が16Vであり、定格容量が390μFであった。また、各電解コンデンサの大きさは、直径8mm、高さが12mmであった。
【0058】
製造された各電解コンデンサについて、バーコード表示からなるマーキング部に対し、エタノールを含ませたペーパーで10回の拭き取り操作を行って摩擦試験を行った。そして、摩擦試験後のマーキング部の外観不良について観察した。なお、目視によって、マーキング部の浮き上がり、剥がれなどがあるものを外観不良とした。結果を表1に示す。
【0059】
(読取試験)
摩擦試験後の各マーキング部に対し、バーコード表示の読取試験を行ない、バーコード表示の読み取りによって製品情報が得られなかったものを読取不良とした。結果を表1に示す。
【0060】
【表1】

【0061】
表1を参照し、摩擦試験後において、実施例1、2および比較例1の電解コンデンサでは外観不良が見られなかったのに対し、比較例2の電解コンデンサでは、20個中16個が外観不良と判定された。
【0062】
摩擦試験において、比較例2で外観不良が発生したのは、ナイロン樹脂の融点が低く、ガス化する温度が低いために、照射領域近傍の樹脂部が除去され、また、金属ケースから浮き上がって剥がれたためと考えられた。
【0063】
また、表1を参照し、バーコード読取試験において、実施例1および2の電解コンデンサでは製品情報を得ることができたのに対し、比較例1および2の電解コンデンサでは、それぞれ20個中11個および20個中5個の電解コンデンサで、製品情報を得ることができなかった。
【0064】
バーコード読取試験において、実施例1および2の電解コンデンサで読取不良が発生しなかったのは、実施例1および2で用いたエポキシ樹脂の熱変形温度およびPET樹脂の融点が高く、それぞれのガス化する温度が高いために、レーザが照射された部分の樹脂膜のみが正確に除去され、その下の金属ケースが正確に露出したためと考えられる。
【0065】
一方、バーコード読取試験において、比較例2の電解コンデンサで読取不良が発生したのは、ナイロン樹脂の融点が低く、ガス化する温度が低いために、照射領域近傍の樹脂部が除去され、バーコード表示とは異なる領域の金属ケースが露出したためと考えられる。また、比較例1の電解コンデンサで読取不良が発生したのは、UV硬化インクによってバーコード表示を精密に印字することが困難であるためと考えられる。
【0066】
<検討2>
(実施例3)
実施例1における(1)〜(3)と同様の方法により、エポキシ樹脂からなる樹脂膜が外表面に設けられた金属ケースにコンデンサ素子が封入された電解コンデンサを準備した。そして、以下(5)の工程により、マーキング部を形成した。
【0067】
(5)マーキング部を形成する工程
金属ケースの底面に、レーザを照射して、図5に示す、数字、アルファベット、および四角内に斜線を施した図形からなるマーク(以下、「マークA」と言う。)を表示するマーキング部を形成した。なお、マークAは、マークAを図中点線で示す円で囲んだ場合に、該円の直径が7mmとなる大きさに設定した。
【0068】
すなわち、金属ケースの底面に対し、YAGレーザ装置(SUNX製、LP−F10R)を用いて、レーザの照射領域がマークAの黒色部分となるように、レーザパワー50%で0.5秒間レーザを照射した。これにより、レーザが照射された部分(マークAの黒色部分)の樹脂を除去してその下の金属を露出させることにより、マークAを表示するマーキング部を形成した。以上(1)〜(3)および(5)の工程により、50個の電解コンデンサを製造した。
【0069】
(実施例4)
金属ケースの底面に照射するレーザパワーを100%とした以外は、実施例3と同様の方法により、50個の電解コンデンサを製造した。
【0070】
(実施例5)
実施例2と同様のPET樹脂からなる樹脂膜を金属ケースの外表面に設けた以外は、実施例3と同様の方法により、50個の電解コンデンサを製造した。なお、このときの樹脂膜の厚さは15μm程度であった。
【0071】
(実施例6)
金属ケースの底面に照射するレーザパワーを100%とした以外は、実施例5と同様の方法により、50個の電解コンデンサを製造した。
【0072】
(比較例3)
比較例1と同様のナイロン樹脂からなる樹脂膜を金属ケースの外表面に設けた以外は、実施例3と同様の方法により、50個の電解コンデンサを製造した。なお、このときの樹脂膜の厚さは15μm程度であった。
【0073】
(比較例4)
金属ケースの底面に照射するレーザパワーを100%とした以外は、比較例3と同様の方法により、50個の電解コンデンサを製造した。
【0074】
(摩擦試験)
各実施例3〜6および各比較例3、4で製造された電解コンデンサは、それぞれ定格電圧が16Vであり、定格容量が220μFであった。また、各電解コンデンサの大きさは、直径8mm、高さが12mmであった。
【0075】
製造された各電解コンデンサについて、マークAを表示するマーキング部を、エタノールを含ませたペーパーで10回の拭き取り操作を行って摩擦試験を行った。そして、摩擦試験後のマーキング部の外観不良について観察した。なお、目視によって、マーキング部の浮き上がり、剥がれなどがあるものを外観不良とした。結果を表2に示す。
【0076】
【表2】

【0077】
表2を参照し、実施例3〜6の電解コンデンサでは外観不良が見られなかったのに対し、比較例3および4では、それぞれ50個中に35個および40個が外観不良と判定された。そこで、外観不良と判定された比較例3および4のマーキング部を走査型電子顕微鏡(SEM:Scanning Electron Microscope)で観察したところ、マークAの黒色部の近傍の樹脂膜が剥がれて浮いていたり、また、照射領域以外に位置する樹脂部までもが一部除去されていることが分かった。一方、実施例3〜6のマーキング部を同様に観察したところ、剥がれや照射部以外に位置する樹脂部の除去は観察されなかった。
【0078】
これは、実施例3〜6で用いたエポキシ樹脂の熱変形温度およびPET樹脂の融点が高く、それぞれのガス化する温度が高いために、レーザが照射された部分のみが正確に除去されるのに対し、比較例3および4で用いたナイロン樹脂の融点が低く、ガス化する温度が低いために、照射領域近傍の樹脂部が除去され、また、金属ケースから浮き上がって剥がれたものと考えられた。
【0079】
今回開示された実施の形態および実施例はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は上記した説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【産業上の利用可能性】
【0080】
本発明は、電解コンデンサに広く用いることができ、金属ケースを用いた電解コンデンサの製造に好適に利用できる。
【符号の説明】
【0081】
10 コンデンサ素子、11 金属ケース、11a 側面、11b 底面、12 封止部材、13 座板、14A,14B リード線、15A,15B リードタブ、16 樹脂膜、20 巻回体、21 陽極体、22 陰極体、23 セパレータ、24 巻止めテープ。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
エポキシ樹脂またはポリエチレンテレフタラート樹脂からなる樹脂膜が外表面に設けられた金属ケースに、コンデンサ素子を収容する工程と、
前記金属ケースにレーザを照射して、マーキング部を形成する工程と、を含み、
前記マーキング部を形成する工程において、前記レーザが照射された部分の前記樹脂膜が除去されることによって前記マーキング部が形成される、電解コンデンサの製造方法。
【請求項2】
前記マーキング部は、前記樹脂膜が除去されることによって前記金属ケースの外表面に形成される溝部を含み、前記溝部の側面は前記樹脂膜によって区画されており、前記溝部の底面は前記樹脂膜が除去されることによって露出した前記金属ケースの外表面によって区画されている、請求項1に記載の電解コンデンサの製造方法。
【請求項3】
前記溝部の溝幅は100μm以下である、請求項2に記載の電解コンデンサの製造方法。
【請求項4】
前記マーキング部は、バーコード表示を含む、請求項1から3のいずれかに記載の電解コンデンサの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2012−138400(P2012−138400A)
【公開日】平成24年7月19日(2012.7.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−288033(P2010−288033)
【出願日】平成22年12月24日(2010.12.24)
【出願人】(000001889)三洋電機株式会社 (18,308)
【出願人】(000171768)佐賀三洋工業株式会社 (116)
【Fターム(参考)】