説明

電解二酸化マンガン

【課題】電解二酸化マンガンを用いたアルカリマンガン乾電池において、放電特性、特にハイレート放電特性に優れる電解二酸化マンガン、および、電解二酸化マンガンを用いて電池を製造する際、用いる他の金属材料の腐食の問題がない電解二酸化マンガンの提供。
【解決手段】表面硫酸(SO)量が0.10重量%未満であって、且つJISK1467(塩化アンモニウム法)で測定されるJIS−pHが1.5以上3.5未満、特に2.1以上3.2未満の電解二酸化マンガンはハイレート特性に優れる。また電解二酸化マンガンに含まれるナトリウム含有量(X)、メジアン径(Y)において、下記式を満足する電解二酸化マンガンでは、ハイレート特性が高く、なおかつ金属腐食の問題がない。



【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、たとえばマンガン乾電池、特にアルカリマンガン乾電池において、正極活物質として使用される二酸化マンガン、特に、ハイレート放電特性に優れる電解二酸化マンガン及びハイレート特性に優れてなおかつ電池製造において金属材料の腐食の問題がない電解二酸化マンガンに関するものである。
【背景技術】
【0002】
二酸化マンガンは、たとえばマンガン乾電池またはアルカリマンガン乾電池の正極活物質として知られており、保存性に優れ、且つ安価であるという利点を有する。
【0003】
特に、電解二酸化マンガンを正極活物質として用いるアルカリマンガン乾電池は、重負荷での放電特性に優れていることから電子カメラ、携帯用テープレコーダー、携帯情報機器、さらにはゲーム機や玩具にまで幅広く使用され、近年急速にその需要が伸びてきている。しかしながら、アルカリマンガン乾電池は、放電電流が大きくなるに従い正極活物質である二酸化マンガンの利用される量が低下し、また放電電圧が低下するために放電容量が大きく損なわれるという課題がある。言い換えると、大電流を使用(ハイレート放電)する機器にアルカリマンガン乾電池を用いると充填されている正極活物質である二酸化マンガンが十分に使用されず使用時間が短くなるという欠点を有している。この様に短時間に大電流を取り出すハイレート間欠放電条件においても、高容量、長寿命を発現できる優れた二酸化マンガン、所謂ハイレート特性に優れた二酸化マンガンが望まれている。
【0004】
これまでハイレート間欠放電に用いる正極材料中の二酸化マンガンとして、例えば二酸化マンガンの表面硫酸量及びアルカリ金属量を制御し、特に表面硫酸量を0.10重量%以上とすることによりハイレート特性を向上することが記載されている。(特許文献1)同様に、硫酸根が1.3〜1.6重量%のものがハイレート特性に優れることが提案されている。(特許文献2)しかしいずれの二酸化マンガンもハイレート特性の改善はまだ十分とは言えなかった。特に硫酸根を多く含む電解二酸化マンガンを電池用正極材に使用すると、乾電池の保存劣化や電池電圧の不安定化を招くという問題が生じる場合があった。
【0005】
また、加熱操作等の工夫で、中和剤であるナトリウム使用量を低減することにより、二酸化マンガンのJIS−pHとナトリウム量の最適な関係を規定した二酸化マンガンが提案され、そのJIS−pHが3.5〜5.0のものが記載されている。(特許文献3)しかし、同様にこれらの二酸化マンガンもハイレート特性の改善はまだ十分とは言えず、また、ハイレート特性を改善した二酸化マンガンでは電池製造時に、金属材料の腐食の問題が生じる場合があった。
【0006】
【特許文献1】特開2002−304990号
【特許文献2】特許第3712259号
【特許文献3】特開2001−026425号
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、特にアルカリマンガン乾電池の正極活物質として使用される電解二酸化マンガンに関し、優れた電池ハイレート特性を有する電解二酸化マンガンを提供するものである。また、ハイレート特性の高い電解二酸化マンガンを電池正極材に加工する際、金属材料を腐食することない電解二酸化マンガンを提供するものである。
【0008】
電解二酸化マンガンに関するこれらの課題について、鋭意検討を重ねた結果、JIS−pHが1.5以上3.5未満の二酸化マンガン、特にJIS−pHが2.1以上3.2未満の電解二酸化マンガンにおいて、表面硫酸量が0.10重量%未満の二酸化マンガンを電池の正極材料として用いた場合、ハイレート特性に優れることを見出した。
【0009】
また、ハイレート特性に優れた電解二酸化マンガンにおいて、二酸化マンガン粉末に含まれる粒子径1μm以下の粒子が3%以上25%以下のものが、特にハイレート特性に優れることを見出した。
【0010】
さらに、電解二酸化マンガンにおいて、ナトリウム含有量(X)、メジアン径(Y)において、一定の不等関係式を満足する電解二酸化マンガンにおいて、高いハイレート特性と電池製造時における金属材料への腐食の問題の双方を解決できることを見出し、本発明の完成に至ったものである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
即ち、本発明の電解二酸化マンガンは、表面硫酸量が0.10重量%未満で、且つJIS−pHが1.5以上3.5未満である二酸化マンガンで、好ましくはJIS−pHが2.2以上3.2未満の電解二酸化マンガンである。
【0012】
硫酸量は、二酸化マンガン表面に存在する表面硫酸量と、二酸化マンガン内部に存在する内部硫酸量に区別される。例えば、電解二酸化マンガンは、硫酸マンガンと硫酸を含む電解液から電解析出によって得られ、電解二酸化マンガンが電解析出する際にその電解二酸化マンガン内部に一部の硫酸が取り込まれる。電解二酸化マンガン内部に硫酸がどのような形態で存在するかは明らかではないが、十分な水洗あるいは中和操作によっても電解二酸化マンガンから脱離できない形態で存在し、これが内部硫酸である。
【0013】
本発明の二酸化マンガンの表面硫酸量とは、同一の条件で作製した二酸化マンガンについて、これ以上JIS−pHが変化しなくなるまで十分に水洗、或いはJIS−pHを4.5まで中和した二酸化マンガンの硫酸量を内部硫酸とし、本発明の方法によって得た二酸化マンガンの総硫酸量から内部硫酸量を差し引いたものをいう。それぞれの総硫酸量は、原子吸光又はICPによって測定できる。
【0014】
内部硫酸量は、二酸化マンガンの製法によって異なるが、概ね0.90〜1.25重量%の範囲である。
【0015】
本発明の電解二酸化マンガンのひとつの特徴は、表面硫酸量を0.10重量%未満とした上で、JIS−pHを1.5以上3.5未満、好ましくはJIS−pHを2.1以上3.2未満とすることである。
【0016】
JIS−pHが3.5以上の二酸化マンガンでは,ハイレート特性は従来と同等程度しか得られない。またJIS−pHが1.5未満の二酸化マンガンでも、ハイレート特性に関しては比較的良好な特性が得られる場合もあるが、酸性度が高過ぎるため、電池保存劣化を招き易く、正極材の加工設備や電池缶が腐食するという問題がある。
【0017】
本発明におけるJIS−pHとは、中和の目安を知る方法として従来から知られている方法、すなわち一定量の塩化アンモニウム緩衝溶液に一定量の二酸化マンガンを入れ、上澄み液のpHを求める方法(JISK1467(塩化アンモニウム法))で測定できる。
【0018】
ここで、従来の方法、即ちJIS−pHを3.5以上に中和する、或いは大量の水で洗浄した二酸化マンガンにより、表面硫酸量だけを0.10重量%未満とすることはできるが、その様なものでは本発明の性能が発揮できない。本発明の二酸化マンガンは、JIS−pHが3.5未満、特に3.2未満で、なおかつ表面硫酸量が0.10重量%未満のものであり、十分に洗浄又はJIS−pH3.5以上に中和した二酸化マンガンとは異なる
ものである。
【0019】
本発明の電解二酸化マンガンは、粉末として用いることが一般的であり、その粒径は特に限定されないが、特に優れたハイレート電池特性を発揮するためには、電解二酸化マンガンに含まれる粒子径1μm以下の粒子の個数割合が3%以上25%以下であることが好ましい。
【0020】
電解二酸化マンガン中に含まれる粒子径1μm以下の粒子の個数割合が3%未満では、電解二酸化マンガンを加圧成形してなる粉末成形体が脆く崩れ易くなり、25%を超えるものでは、導電性を付与するためのカーボンとの接触が不十分となるために、電池反応に利用できる電解二酸化マンガンの量が損なわれ易い。
【0021】
本発明の電解二酸化マンガンにおける最大粒子径に特に制限はないが、最大粒子径が100μmを超えるサイズの電解二酸化マンガンの粉末が存在すると、電池缶内を傷つける結果、電池缶に施した鍍金を破損し露出した鉄と反応してガス発生などの原因となる場合があるため、無い方が好ましい。さらに電池負極となる亜鉛と、電池正極となる電解二酸化マンガン粉末を加圧成形してなる粉末成形体を、電気的に絶縁するためのセパレータの破損を招き、正極活物質である電解二酸化マンガン粉末と電池負極である亜鉛が直接接触することになり電池の保存中に自己放電を生じ容量低下を招き易い。
【0022】
また、本発明の電解二酸化マンガン粉末におけるメジアン径(中央値)において、メジアン径が70μmを超える電解二酸化マンガン粉末では、粉末の全表面積が低下して電池反応性が悪くなり、メジアン径が15μm未満の電解二酸化マンガン粉末では充填性が大きく損なわれる結果、電池内部に詰めることのできる電解二酸化マンガンの量が少なくなるため、ない方が好ましい。
【0023】
本発明の電解二酸化マンガン粉末粒子の粒子径1μm以下の粒子の個数割合、最大粒子径、及びメジアン径は、次のように測定できる。
【0024】
電解二酸化マンガンを分散懸濁した溶液にレーザー光を照射し、その散乱光により測定する光散乱法(日機装社製、商品名:マイクロトラック)を用いて電解二酸化マンガンの粒子径と個数を測定し、電解二酸化マンガンの1μm以下の粒子の個数割合、最大粒子径およびメジアン径が導出できる。
【0025】
本発明において、電解二酸化マンガンに含まれるナトリウムには、ナトリウムイオンで存在するもの、水酸化ナトリウムの様なナトリウム化合物として存在するものがある。
【0026】
電解二酸化マンガンに含まれるナトリウムは、電解二酸化マンガン粉末粒子のpH調整に用いる水酸化ナトリウム中和剤に由来し、故に多くのナトリウムは電解二酸化マンガン粒子の表面に吸着する形で存在する。電池放電反応は電解二酸化マンガンの粒子表面から粒子内部へのプロトン拡散反応が極めて重要であり、表面に存在するナトリウム含有量が多すぎると、プロトン拡散反応が阻害されるため、結果的に優れたハイレート特性は得られない。一方、表面に存在するナトリウム含有量が低すぎると、ハイレート特性には比較的良好な特性が得られる場合はあるが、ナトリウム含有量の低下に伴って、電解二酸化マンガンを用いて電池を製造する際に他の金属材料が腐食するという問題がある。
【0027】
本発明の電解二酸化マンガンはナトリウム含有量(X)とメジアン径(Y)が下記(1)式を満足する電解二酸化マンガンであることが好ましい。
【0028】
【数1】

【0029】
上記の関係を満足する電解二酸化マンガンであれば、電池とした場合のハイレート特性に優れる上、電池製造における金属腐食の問題がない。
【0030】
更に電解二酸化マンガンに含まれるナトリウム含有量(X)とメジアン径(Y)に関して、下記(2)式を満足する電解二酸化マンガンは、電池製造時の金属腐食の問題がなく特に高いハイレート特性、例えば単三型電池における1Aパルス放電試験(10秒放電、50秒休止、終止電圧0.9V)の放電回数が425回以上の特に優れたハイレート特性を有する。
【0031】
【数2】

【0032】
本発明の電解二酸化マンガンが満足するナトリウム含有量(X)とメジアン径(Y)の範囲において、ハイレート特性と金属耐食性が両立し得る原因は必ずしも明らかではないが、電解二酸化マンガン表面に吸着したナトリウム含有量とメジアン径によって変化する電解二酸化マンガン粒子間の空隙の大きさなどが電解二酸化マンガンの表面親水性、粉末粒子内への保液性に影響を与え、金属腐食を誘発する電解二酸化マンガンと電解液と金属材料の固液固界面が形成され難くなることが考えられる。
【0033】
電解二酸化マンガン粉末粒子のナトリウム含有量は、電解二酸化マンガン粉末を塩酸と過酸化水素水に溶解し、この溶解液を原子吸光法で測定して定量を行った。
【0034】
電解二酸化マンガン中のナトリウム含有量は、上記の関係式を満足すればハイレート特性及び金属耐食性を両立することができるが、ナトリウム含有量としては2000ppm以下であることが特に好ましい。
【0035】
本発明の電池正極材料は、上述の電解二酸化マンガンを含んでなるものである。
【0036】
電池正極材料に含まれる電解二酸化マンガン以外の組成物に特に限定はないが、例えば、グラファイトなどの導電材や水酸化カリウム水溶液などが含まれる。
【0037】
本発明の電解二酸化マンガンを電池に用いた場合、通常用いられる単三型電池における1Aパルス放電試験(10秒放電、50秒休止、終止電圧0.9V)における放電回数400回以上、更に425回以上の優れたハイレート特性が得られる電池用正極活物質となり、長期保存後の劣化もない。
【発明の効果】
【0038】
本発明の電解二酸化マンガンを単三型電池に用いた場合、保存安定性に優れ、かつ1Aパルス放電試験(10秒放電、50秒休止、終止電圧0.9V)における放電回数が400回以上、更に425回以上の優れたハイレート特性を達成することができる。
【0039】
さらに電解二酸化マンガンのナトリウム含有量及びメジアン径を本発明の範囲とすることにより、電解二酸化マンガンを用いた電池製造時に他の金属材料の腐食を抑制することができる。
【実施例】
【0040】
以下本発明を実施例及び比較例により詳細に説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
(二酸化マンガンの単三電池におけるハイレート特性評価)
二酸化マンガン粉末85.8%、グラファイト7.3%及び40%水酸化カリウム電解液6.9%で構成される混合粉5gを2トンの成形圧でリング状に成形した成形体2個を組み合わせて正極とし、亜鉛を含む負極材を負極にして、単三型の電池を組み立てた。この単三型電池を常温で24時間放置後、放電試験を行った。放電条件は1000mAで10秒放電の後50秒休止するサイクルを1パルスとして、終止電圧0.9Vに達するまでのパルス回数で特性を評価した。
(二酸化マンガンの保存安定性試験)
前述した単三型電池を60℃雰囲気下に20日間置き、後に、ハイレート特性評価を行った。
(電解二酸化マンガンの金属腐食試験)
電解二酸化マンガン粉末10g、グラファイト0.7g及び40%水酸化カリウム電解液0.3gで構成される混合粉を2.5トンの成型圧でペレット状の成型体(20Φ)を作製した。続いて、このペレット成型体を全塩ビ製腐食試験容器(図1)の底部に挿入し、その上に電池正極材成型用の金型材料として一般的なSKD−11板を研磨した後に乗せた。次に、塩ビ製の押え板をSKD−11板の上に乗せ、スクリュー式のコックをトルクレンチ5N・mで押圧してから、50℃、湿度95%の恒温恒湿装置に3日間静置した。
【0041】
3日後に、SKD−11板を取り出し、重曹処理してペレット成型体を十分除去した後、水洗、アセトン洗浄し、1時間乾燥した。腐食速度は、この腐食試験前後のSKD−11板の重量変化から、年あたりの減少厚みとして算出した。
【0042】
実施例1
加温装置を有し、陽極としてチタン板、陰極として黒鉛板をそれぞれ向かい合うように懸垂せしめた内容積20リットルの電解槽により電解二酸化マンガンを製造した。
【0043】
電解液としては硫酸マンガン溶液を用い、電解するに際して、電解中の電解液の組成が2価マンガン濃度40g/l、硫酸濃度50g/lとなるように調整し、電解槽の温度を95℃に保ち、電流密度60A/mで行った。
【0044】
電解後、電着した電解二酸化マンガンを純水にて洗浄後、打撃により剥離し、得られた塊状物を粉砕し、JIS−pHが3.14になるまで中和、洗浄、乾燥して電解二酸化マンガン粉末を得た。JIS−pHは、中和の目安を知る方法として従来から知られている方法、すなわち一定量の塩化アンモニウム緩衝溶液に一定量の二酸化マンガンを入れ、上澄み液のpHを求める方法(JISK1467(塩化アンモニウム法))を用いた。
【0045】
電解二酸化マンガン粉末を塩酸と過酸化水素水中にて溶解し、原子吸光法により電解二酸化マンガン粉末中の硫酸根を測定した。JIS−pH3.14になるように中和した本発明の二酸化マンガン中の硫酸は1.18重量%、JIS−pH4.5まで中和した場合の硫酸根が1.17重量%であるので、表面硫酸根は0.01%であった。
【0046】
つぎに、この電解二酸化マンガン粉末85.8%、グラファイト7.3%及び40%水酸化カリウム電解液6.9%を混合した混合粉5gを2トンの成形圧でリング状に成形した成形体2個を組み合わせて正極とした単三型の電池を組み立て、前述した放電試験を行った結果、その放電回数は474回であった。
【0047】
二酸化マンガンの物性と電池評価の結果を表1に示す。前述した単三乾電池は、60℃雰囲気での長期保存後も放電特性の劣化は見られなかった。
【0048】
実施例2〜6
JIS−pHを1.56〜3.44とした以外は実施例1と同様の方法により電解二酸化マンガン粉末を得た。結果を表1に示す。
【0049】
比較例1
JIS−pHを1.44とした以外は実施例1と同様の方法により得られた電解二酸化マンガン粉末を評価した。この電解二酸化マンガン中の硫酸は1.28重量%、JIS−pH4.5まで中和した場合の硫酸根が1.16重量%であったので、表面硫酸根は0.12重量%であった。結果を表1に示す。
【0050】
比較例2
JIS−pHを3.78、表面硫酸根を0.00重量%とした二酸化マンガンを同様に
評価した。結果を表1に示す。
【0051】
実施例7
実施例1と同様に電解後、電着した電解二酸化マンガンを純水にて洗浄後、打撃により剥離し、得られた塊状物を、前述した光散乱法(マイクロトラック)による測定法で平均粒径を確認しながら粉砕し、次に、JIS−pHが2.98になるまで洗浄、中和、乾燥して電解二酸化マンガンを得た。
【0052】
電解二酸化マンガンを前述した光散乱法(マイクロトラック)を用いて測定したところ、粒子径1μm以下の粒子の個数割合は13.8%、メジアン径は45μmであった。
【0053】
次に、実施例1と同様に、電解二酸化マンガンを塩酸と過酸化水素水中にて溶解し、原子吸光法により電解二酸化マンガン粉末中のナトリウム量と硫酸根を測定した。JIS−pH2.98になるように中和した本発明の二酸化マンガン中の硫酸は1.13重量%、JIS−pH4.5まで中和した場合の硫酸根が1.11重量%であるので、表面硫酸根は0.02%であった。また、ナトリウム含有量は1250ppmであった。
【0054】
次に、電解二酸化マンガン10g、グラファイト0.7g及び40%水酸化カリウム電解液0.3gで構成される混合粉を2.5トンの成型圧でペレット状の成型体(20Φ)を作製し、前述した腐食試験を実施したところ腐食速度は<0.01mm/yであった。
【0055】
更に、電解二酸化マンガン85.8%、グラファイト7.3%及び40%水酸化カリウム電解液6.9%を混合した混合粉5gを2トンの成形圧でリング状に成形した成形体2個を組み合わせて正極とした単三型の電池を組み立て、前述した放電試験を行った結果、その放電回数は472回であった。
【0056】
電解二酸化マンガンの物性と電池評価の結果を表2に示す。前述した単三乾電池は、60℃雰囲気での長期保存後も放電特性の劣化は見られなかった。
【0057】
実施例8〜11
JIS−pHを1.69〜2.76とした以外は実施例7と同様の方法により電解二酸化マンガン粉末を得た。結果を表2に示す。
【0058】
実施例12
JIS−pHを2.19とした以外は実施例7と同様の方法により得られた電解二酸化マンガンを評価した。この電解二酸化マンガンの表面硫酸根は0.04重量%で、ナトリウム含有量が1500ppm、粒子径1μm以下の粒子の個数割合が2.8%、メジアン径が70μmであった。
【0059】
次に、電解二酸化マンガン10g、グラファイト0.7g及び40%水酸化カリウム電解液0.3gで構成される混合粉を2.5トンの成型圧でペレット状の成型体(20Φ)を作製し、前述した腐食試験を実施したところ、腐食速度は<0.01mm/yとなった。
【0060】
また、実施例12の電解二酸化マンガン85.8%、グラファイト7.3%及び40%水酸化カリウム電解液6.9%を混合した混合粉5gを2トンの成形圧でリング状に成形した成形体2個を組み合わせて正極とした単三型の電池を組み立て、前述した放電試験を行った結果、その放電回数は418回であった。結果を表2に示す。
【0061】
実施例13〜16
JIS−pHを1.99〜3.28とした以外は実施例12と同様の方法により得られた電解二酸化マンガンを得た。結果を表2に示す。
【0062】
比較例3
JIS−pHを3.55とした以外は実施例12と同様の方法により得られた電解二酸化マンガン粉末を評価した。この電解二酸化マンガンの表面硫酸根は0.02重量%で、ナトリウム含有量が2000ppm、粒子径1μm以下の粒子の個数割合が20.5%、メジアン径が60μmであった。
【0063】
次に、電解二酸化マンガン10g、グラファイト0.7g及び40%水酸化カリウム電解液0.3gで構成される混合粉を2.5トンの成型圧でペレット状の成型体(20Φ)を作製し、前述した腐食試験を実施したところ腐食速度は<0.01mm/yとなった。
【0064】
また、電解二酸化マンガン85.8%、グラファイト7.3%及び40%水酸化カリウム電解液6.9%を混合した混合粉5gを2トンの成形圧でリング状に成形した成形体2個を組み合わせて正極とした単三型の電池を組み立て、前述した放電試験を行った結果、その放電回数は392回であった。評価結果を表2に示す。
【0065】
比較例4
JIS−pHを3.52とした以外は実施例12と同様の方法により電解二酸化マンガンを得た。評価結果を表2に示す。
【0066】
比較例5
JIS−pHを1.44とした以外は実施例12と同様の方法により得られた電解二酸化マンガンを評価した。この電解二酸化マンガンの表面硫酸根は0.10重量%で、ナトリウム含有量が360ppm、粒子径1μm以下の粒子の個数割合が18.8%、メジアン径が45μmであった。
【0067】
次に、電解二酸化マンガン10g、グラファイト0.7g及び40%水酸化カリウム電解液0.3gで構成される混合粉を2.5トンの成型圧でペレット状の成型体(20Φ)を作製し、前述した腐食試験を実施したところ、腐食速度は>0.1mm/yとなった。
【0068】
また、電解二酸化マンガン85.8%、グラファイト7.3%及び40%水酸化カリウム電解液6.9%を混合した混合粉5gを2トンの成形圧でリング状に成形した成形体2個を組み合わせて正極とした単三型の電池を組み立て、前述した放電試験を行った結果、その放電回数は436回であった。評価結果を表2に示す。
【0069】
比較例6〜7
JIS−pHを1.35〜1.39とした以外は実施例12と同様の方法により電解二酸化マンガンを得た。評価結果を表2に示す。
【0070】
【表1】

【0071】
【表2】

【図面の簡単な説明】
【0072】
【図1】電解二酸化マンガンの金属腐食試験で使用した全塩ビ製腐食試験容器を示す図である。
【図2】実施例7〜16及び比較例3〜7において、ナトリウム含有量(X)、メジアン径(Y)における、XとYの関係を示したグラフである。
【0073】
ラインaとラインbにはさまれる領域Aは、実施例7〜11に相当し、腐食なく、1Aパルス放電試験で放電回数425回以上の極めて優れたハイレート特性を有するものである。ラインbとラインcにはさまれる領域Bは、実施例12〜16に相当し、腐食なく、1Aパルス放電試験で放電回数400回以上のハイレート特性を有するものである。ラインcより上の領域Cは、比較例3〜4に相当し、腐食はないが、1Aパルス放電試験で放電回数400回に満たないハイレート特性が低いものである。ラインaより下の領域Dは、比較例5〜7に相当し、ハイレート特性は高いが、>0.1mm/yの金属腐食が起こるものである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
表面硫酸(SO)量が0.10重量%未満であって、且つJISK1467で測定されるJIS−pHが1.5以上3.5未満であることを特徴とする電解二酸化マンガン。
【請求項2】
JISK1467で測定されるJIS−pHが2.1以上3.2未満である請求項1に記載の電解二酸化マンガン。
【請求項3】
粒子径1μm以下の粒子の個数割合が3%以上25%以下である請求項1又は請求項2に記載の電解二酸化マンガン。
【請求項4】
ナトリウム含有量X(ppm)、メジアン径Y(μm)において、不等関係式(1)を満足する請求項1〜請求項3に記載の電解二酸化マンガン。
【数1】

【請求項5】
ナトリウム含有量X(ppm)、メジアン径Y(μm)において、不等関係式(2)を満足する請求項1〜請求項4に記載の電解二酸化マンガン。
【数2】

【請求項6】
請求項1〜5に記載の電解二酸化マンガンを含んでなる電池用正極活物質。
【請求項7】
単三型電池における1Aパルス放電試験(10秒放電、50秒休止、終止電圧0.9V)における放電回数が400回以上である請求項6に記載の電解二酸化マンガンを含んでなる電池用正極活物質。
【請求項8】
単三型電池における1Aパルス放電試験(10秒放電、50秒休止、終止電圧0.9V)における放電回数が425回以上である請求項7に記載の電解二酸化マンガンを含んでなる電池用正極活物質。
【請求項9】
請求項6〜8に記載の電池用正極活物質を含んでなる電池。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2008−13427(P2008−13427A)
【公開日】平成20年1月24日(2008.1.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−324908(P2006−324908)
【出願日】平成18年11月30日(2006.11.30)
【出願人】(000003300)東ソー株式会社 (1,901)
【Fターム(参考)】