説明

露光方法、櫛型電極の製造方法および露光装置

【課題】 本発明は、感応基板上に干渉縞パターン像を照射して露光を行う露光方法、櫛型電極の製造方法および露光装置に関し、干渉縞パターン像を用いて第1のラインアンドスペースパターンの間に第2のラインアンドスペースパターンを露光することを目的とする。
【解決手段】 感応基板上に干渉縞パターン像を照射して露光を行う露光方法において、前記干渉縞パターン像を、同一の波長を有する3つ以上の光束を別の角度から干渉位置に照射した際に発生する干渉縞の明暗により形成することを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、感応基板上に干渉縞パターン像を照射して露光を行う露光方法、櫛型電極の製造方法および露光装置に関する。
【背景技術】
【0002】
弾性表面波装置には、様々な用途があるが、代表的な用途として、携帯電話等の小型移動体通信機器に用いられる高周波フィルタ(弾性表面波(Surface Acoustic Wave)共振器型フィルタ)がある。
弾性表面波装置は、基本的に、圧電薄膜上にラインアンドスペース状にパターニングされた櫛型電極を有する。特に、弾性表面波共振器型フィルタ(以下SAWフィルタという)は、信号の高周波化のため、櫛型電極のピッチを狭くすることが要求されており、近い将来にはピッチ100nm以下のラインアンドスペース状のパターンが必要になると予測される。
【特許文献1】特開2000−223400号
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
このような寸法のパターニングには、電子線露光装置あるいはナノインプリント方式のパターニング装置を用いることが考えられるが、処理速度、コスト等に大きな問題がある。
そこで、弾性表面波装置のパターンは、単純なラインアンドスペース状のパターンであるという特徴に着目し、2光束干渉方式の露光方法を用いてパターニングを行うことが考えられる。
【0004】
しかしながら、2光束干渉方式の露光方法では、櫛型電極のラインアンドスペース状のパターンを形成することが困難であるという問題があった。
すなわち、櫛型電極のラインアンドスペース状のパターンは、図8に示すように、第1のラインアンドスペースパターン1と第2のラインアンドスペースパターン2のライン1a,2aの端部1b,2bが1ライン1a,2a毎に段差を有しており、第1のラインアンドスペースパターン1の露光と第2のラインアンドスペースパターン2の露光を別々に行う必要がある。
【0005】
しかしながら、2光束干渉方式の干渉縞パターン像の強度分布は、図9に示すように、サイン関数を2乗した関数であり、実線で示す干渉縞パターン像により第1のラインアンドスペースパターン1を形成した後に、破線で示す干渉縞パターン像により第1のラインアンドスペースパターン1の中間に第2のラインアンドスペースパターン2を形成すると、露光量が全ての位置で同じになり、パターンを形成することができない。
【0006】
本発明は、かかる従来の問題を解決するためになされたもので、干渉縞パターン像を用いて第1のラインアンドスペースパターンの間に第2のラインアンドスペースパターンを露光することができる露光方法、櫛型電極の製造方法および露光装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
第1の発明の露光方法は、感応基板上に干渉縞パターン像を照射して露光を行う露光方法において、前記干渉縞パターン像を、同一の波長を有する3つ以上の光束を別の角度から干渉位置に照射した際に発生する干渉縞の明暗により形成することを特徴とする。
第2の発明の露光方法は、第1の発明の露光方法において、前記光束は3つであり、3つの光束の波面の法線ベクトルが同一平面上にあることを特徴とする。
【0008】
第3の発明の露光方法は、第2の発明の露光方法において、前記3つの光束のうち前記干渉位置への第1の光束の入射角は0度とされ、第2および第3の光束の入射角はθ度および−θ度とされていることを特徴とする。
第4の発明の露光方法は、第3の発明の露光方法において、前記入射角θは略90度であることを特徴とする。
【0009】
第5の発明の露光方法は、第3または第4の発明の露光方法において、前記第1の光束、第2の光束、第3の光束の振幅の比が、π(円周率):2:2であることを特徴とする。
第6の発明の露光方法は、第3ないし第5のいずれか1の発明の露光方法において、前記3つの光束により発生する3光束干渉縞のパターン像により前記感応基板上に第1のラインアンドスペースパターンを露光する第1の露光工程と、前記第1の露光工程の後、前記感応基板を前記3光束干渉縞のピッチの半分の距離だけ移動して前記3光束干渉縞のパターン像により前記第1のラインアンドスペースパターンの間に第2のラインアンドスペースパターンを露光する第2の露光工程とを有することを特徴とする。
【0010】
第7の発明の露光方法は、第6の発明の露光方法において、前記第1の露光工程の後、前記感応基板を前記第1のラインアンドスペースパターンのライン方向に移動し、この後前記第2の露光工程を行うことを特徴とする。
第8の発明の露光方法は、第7の発明の露光方法において、前記第2の露光工程の後に、前記第1のラインアンドスペースパターンの端部を接続する第1の接続パターンおよび前記第2のラインアンドスペースパターンの端部を接続する第2の接続パターンを露光する第3の露光工程を有することを特徴とする。
【0011】
第9の発明の櫛型電極の製造方法は、第6ないし第8のいずれか1の発明の露光方法で感応基板を露光する露光工程を有することを特徴とする。
第10の発明の露光装置は、干渉性を有する光束を発する光源と、前記光源からの光束を3つの光束に分離する分離手段と、前記分離手段で分離された3つの光束を干渉位置に導き3光束干渉縞を発生させる光学手段とを有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0012】
本発明では、干渉縞パターン像を用いて第1のラインアンドスペースパターンの間に第2のラインアンドスペースパターンを露光することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下、本発明の実施形態を図面を用いて詳細に説明する。
図1は本発明の露光装置の一実施形態を示している。
この露光装置では、光源11からの光がコリメータレンズ13を介してビームスプリッタ15に入射される。ビームスプリッタ15で反射した第1の光束11Aは、ウエハステージ17上に配置されるウエハ19に対して入射角が0度で入射される。
【0014】
ビームスプリッタ15を通過した光束は、ミラー21、ビームスプリッタ23、ミラー25を介して遮光板27に導かれる。遮光板27に導かれた光束は、遮光板27の穴部27aを通り、第2の光束11Bとしてウエハステージ17上に配置されるウエハ19に対して入射角が−θ度で入射される。
ビームスプリッタ23で反射した光束は、ミラー29、ミラー31を介して遮光板33に導かれる。遮光板33に導かれた光束は、遮光板33の穴部33aを通り、第3の光束11Cとしてウエハステージ17上に配置されるウエハ19に対して入射角がθ度で入射される。
【0015】
ウエハ19の上方の近傍には、露光領域を制限するための遮光板35が配置されている。遮光板35には穴部35aが形成されている。この穴部35aあるいは近傍位置が、第1の光束11A、第2の光束11Bおよび第3の光束11Cの干渉位置とされている。
この実施形態では、第1の光束11Aの振幅、第2の光束11Bの振幅、第3の光束11Cの振幅の比が、π(円周率):2:2になるように設定されている。このような比に設定することにより、ベストフォーカス条件において干渉縞の強度コントラストを最大にすることができる。
【0016】
図2は、上述した第1の光束11A、第2の光束11Bおよび第3の光束11Cの干渉により形成される干渉縞を示している。第1の光束11A、第2の光束11Bおよび第3の光束11Cの波面の法線ベクトルは同一の平面上に位置されている。そして、ウエハ19には、干渉縞による明暗のコントラストが形成されている。干渉縞のピッチPは、光の波長をλiとすると、P=λi/sinθとなる。従って、角度θを90度に近い値にすれば干渉縞のピッチPをλiにすることができる。
【0017】
図3は、上述した第1の光束11A、第2の光束11Bおよび第3の光束11Cの干渉により形成される干渉縞パターン像の強度分布を示している。強度分布は、純粋なサインカーブではなく、頂部Tの間に強度が略0に近い平坦領域Hが存在している。従って、図4に示すように、実線で示す干渉縞パターン像によりウエハ19を露光した後に、ウエハステージ17を干渉縞のピッチPの1/2だけずらして破線で示す干渉縞パターン像により露光すると、図5に示すような露光量プロファイルを得ることができる。この露光量プロファイルでは、干渉縞のピッチPの1/2のパターンが形成されているのがわかる。
【0018】
以下、上述した露光装置を用いた櫛型電極の製造方法を説明する。製造方法を説明する前に櫛型電極を備えたSAWフィルタについて説明する。
図6はSAWフィルタを示している。このSAWフィルタは、信号入力部41と信号出力部43に櫛型電極45を一組ずつ有している。信号入力部41に入力された入力信号は、信号入力部41の一組の櫛型電極45によって圧電薄膜47の機械振動に変換され、その振動が弾性表面波として伝播する。一方、伝播して信号出力部43に到達した弾性表面波は圧電薄膜の機械振動となり、信号出力部43の一組の櫛型電極45により電気信号に変換される。弾性表面波は共振周波数付近の限られた周波数帯域でのみ大きく励起される特徴があり、入力信号のうち共振周波数付近の信号だけがSAWフィルタを通過できるため、バンドパスフィルタとして働く。
【0019】
一般的に、SAWフィルタ等の弾性表面波装置においては、弾性表面波の伝播速度をV、波長をλs、周波数をfとすると、f=V/λsの関係がある。ここでVは弾性表面波が伝播する基板の材質に固有の値であるので、周波数fを大きくするためには、弾性表面波の波長λsを小さくする必要がある。また、弾性表面波を効率良く励起するためには櫛型電極45のピッチpを弾性表面波の波長λsの1/2に一致させる必要がある。
【0020】
特にSAWフィルタにおいては、携帯電話等の小型移動体通信機器の高周波化に対する要求が強く、数10GHzの周波数が将来必要になるとされている。例えば弾性表面波の伝播速度が4000m/secであり、周波数20GHzの弾性表面波を励起する場合には、弾性表面波の波長は200nmとなり櫛型電極45のパターンのピッチpは100nmとなる。
【0021】
図7は櫛型電極の製造方法を示している。
この実施形態では、先ず、図7の(a)に示すように、第1の露光工程により、ウエハ19上に第1のラインアンドスペースパターン51が露光される。この第1のラインアンドスペースパターン51は、図4に実線で示した3光束干渉縞の干渉縞パターン像により露光される。第1のラインアンドスペースパターン51のピッチPは、P=λi/sinθとなる。なお、ウエハ19には予め蒸着等により櫛型電極45の素材となる圧電薄膜層が形成され、この圧電薄膜層の上面に感光剤層が形成されている。そして、この感光剤層に第1のラインアンドスペースパターン51が露光される。
【0022】
次に、図7の(b)に示すように、第2の露光工程により、第1のラインアンドスペースパターン51の間に第2のラインアンドスペースパターン53が露光される。第2のラインアンドスペースパターン53の露光前には、ウエハステージ17によりウエハ19が、3光束干渉縞のピッチPの半分の距離だけ移動される。また、ウエハ19が第1のラインアンドスペースパターン51のライン51a方向に移動され、隣接するライン51a,53aの端部51b、53bに段差が設定される。
【0023】
この状態で、図4に破線で示した3光束干渉縞の干渉縞パターン像により第2のラインアンドスペースパターン53が露光される。これにより図5に示したような露光量プロファイルを得ることができる。この露光量プロファイルでは、P/2のピッチのパターンが形成される。
次に、図7の(c)に示すように、第3の露光工程により、第1のラインアンドスペースパターン51の外側の端部51bを接続する第1の接続パターン51cおよび第2のラインアンドスペースパターン53の外側の端部53bを接続する第2の接続パターン53cが露光される。この第3の露光工程で形成する第1の接続パターン51cおよび第2の接続パターン53cは寸法が大きく位置精度も許容誤差が大きいので、近接露光方式のような原始的な露光方法で良い。
【0024】
そして、このようにして露光されたウエハ19を周知の方法により現像処理した後、圧電薄膜層をエッチング処理することにより一組の櫛型電極45が製造される。
上述したような露光方法で露光を行えば、光源に、一般に用いられるフッ化アルゴン(ArF)エキシマレーザ光源(波長193nm)を用いた場合にもピッチP100nm以下の弾性表面波の櫛形電極パターンを容易に形成することができる。また、さらに波長の短いフッ素(F2)レーザ(波長157nm)を用いる方法や、ウエハ19上を高屈折率の液体で満たす方法により、ピッチP80nm程度のパターンを形成することも可能である。
【0025】
上述した実施形態では、第1のラインアンドスペースパターン51を露光した後に第2のラインアンドスペースパターン53を露光しても、2光束干渉方式のように第1のラインアンドスペースパターン51および第2のラインアンドスペースパターン53が消滅することがなくなるため、干渉縞パターン像を用いて第1のラインアンドスペースパターン51の間に第2のラインアンドスペースパターン53を露光することができる。
【0026】
そして、光束干渉方式の露光装置を使用することが可能になるため、露光装置を簡易、小型で安価なものにすることができる。より具体的には、結像投影露光方式の露光装置で必要な投影光学系、露光原盤、露光原盤ステージ、アラインメント光学系等を不要にすることができる。また、結像の収差が発生しないので広い領域を一括して露光することが可能になり、高スループットのパターニングが可能になる。
(実施形態の補足事項)
以上、本発明を上述した実施形態によって説明してきたが、本発明の技術的範囲は上述した実施形態に限定されるものではなく、例えば、以下のような形態でも良い。
【0027】
(1)上述した実施形態では、露光領域を制限するための遮光板35の穴部35aあるいは近傍の位置を3つの光束11A,11B,11Cの干渉位置とした例について説明したが、例えば、投影光学系の前段の干渉位置で3つの光束を干渉させ、投影光学系を介して干渉縞パターンをウエハ上に露光するようにしても良い。
(2)上述した実施形態では、一組の櫛型電極の製造に本発明を適用した例について説明したが、本発明は、ラインアンドスペースパターンを有するデバイスの製造に広く適用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【図1】本発明の露光装置の一実施形態を示す説明図である。
【図2】図1の露光装置により形成される干渉縞の明暗を示す説明図である。
【図3】図2の干渉縞の強度分布を示す説明図である。
【図4】図3の干渉縞を半ピッチずらした状態を示す説明図である。
【図5】図3の実線の干渉縞の位置で露光した後図3の破線の干渉縞の位置で露光した時の露光光の強度プロファイルを示す説明図である。
【図6】SAWフィルタを示す説明図である。
【図7】本発明の櫛型電極の製造方法の一実施形態を示す説明図である。
【図8】櫛型電極のラインアンドスペース状のパターンを示す説明図である。
【図9】2光束干渉方式の干渉縞パターン像の強度分布を示す説明図である。
【符号の説明】
【0029】
11A:第1の光束、11B:第2の光束、11C:第3の光束、17:ウエハステージ、19:ウエハ、45:櫛型電極、51:第1のラインアンドスペースパターン、53:第2のラインアンドスペースパターン、51b,53b:端部。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
感応基板上に干渉縞パターン像を照射して露光を行う露光方法において、
前記干渉縞パターン像を、同一の波長を有する3つ以上の光束を別の角度から干渉位置に照射した際に発生する干渉縞の明暗により形成することを特徴とする露光方法。
【請求項2】
請求項1記載の露光方法において、
前記光束は3つであり、3つの光束の波面の法線ベクトルが同一平面上にあることを特徴とする露光方法。
【請求項3】
請求項2記載の露光方法において、
前記3つの光束のうち前記干渉位置への第1の光束の入射角は0度とされ、第2および第3の光束の入射角はθ度および−θ度とされていることを特徴とする露光方法。
【請求項4】
請求項3記載の露光方法において、
前記入射角θは略90度であることを特徴とする露光方法。
【請求項5】
請求項3または請求項4記載の露光方法において、
前記第1の光束、第2の光束、第3の光束の振幅の比が、π(円周率):2:2であることを特徴とする露光方法。
【請求項6】
請求項3ないし請求項5のいずれか1項記載の露光方法において、
前記3つの光束により発生する3光束干渉縞のパターン像により前記感応基板上に第1のラインアンドスペースパターンを露光する第1の露光工程と、
前記第1の露光工程の後、前記感応基板を前記3光束干渉縞のピッチの半分の距離だけ移動して前記3光束干渉縞のパターン像により前記第1のラインアンドスペースパターンの間に第2のラインアンドスペースパターンを露光する第2の露光工程と、
を有することを特徴とする露光方法。
【請求項7】
請求項6記載の露光方法において、
前記第1の露光工程の後、前記感応基板を前記第1のラインアンドスペースパターンのライン方向に移動し、この後前記第2の露光工程を行うことを特徴とする露光方法。
【請求項8】
請求項7記載の露光方法において、
前記第2の露光工程の後に、前記第1のラインアンドスペースパターンの端部を接続する第1の接続パターンおよび前記第2のラインアンドスペースパターンの端部を接続する第2の接続パターンを露光する第3の露光工程を有することを特徴とする露光方法。
【請求項9】
請求項6ないし請求項8のいずれか1項記載の露光方法で感応基板を露光する露光工程を有することを特徴とする櫛型電極の製造方法。
【請求項10】
干渉性を有する光束を発する光源と、
前記光源からの光束を3つの光束に分離する分離手段と、
前記分離手段で分離された3つの光束を干渉位置に導き3光束干渉縞を発生させる光学手段と、
を有することを特徴とする露光装置。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2007−258473(P2007−258473A)
【公開日】平成19年10月4日(2007.10.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−81405(P2006−81405)
【出願日】平成18年3月23日(2006.3.23)
【出願人】(000004112)株式会社ニコン (12,601)
【Fターム(参考)】