説明

静電容量型超音波振動子および積層型静電容量型超音波振動子の製造方法

【課題】高感度な静電容量型超音波振動子および積層型静電容量型超音波振動子の製造方法を提供する。
【解決手段】基板と、前記基板上に形成した電極と、空隙層を隔てて構成されるメンブレンと、前記メンブレンを、前記基板上に空隙層を隔てて構成するためのメンブレン支持部と、メンブレン上に形成した電極とからなる静電容量型超音波振動子セルを、前記基板の面内に沿って二次元に配列すると同時に、前記基板に対して垂直方向にも積層配置した構造を有し、前記静電容量型超音波振動子セルの前記メンブレン支持部が、1層下のメンブレンの略中心部に位置する積層構造を有することを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、シリコンマイクロマシーニング技術を用いてシリコン半導体基板を加工した静電容量型超音波振動子とその製造方法、体腔内に挿入される挿入部の先端部に静電容量型超音波振動子を設けた静電容量型超音波プローブに関する。
【背景技術】
【0002】
体腔内に超音波を照射し、そのエコー信号から体内の状態を画像化して診断する超音波診断法が普及している。この超音波診断法に用いられる機材の1つに超音波内視鏡がある。超音波内視鏡は、体腔内へ挿入する挿入部の先端に超音波振動子(超音波トランスデューサとも呼ばれる)が取り付けてあり、このトランスデューサは電気信号を超音波に変換し体腔内へ照射したり、また体腔内で反射した超音波を受信して電気信号に変換したりするものである。
【0003】
従来、超音波振動子では、電気信号を超音波に変換させる圧電素子として、セラミック圧電材PZT(ジルコン酸チタン酸鉛)が使用されてきたが、シリコンマイクロマシーニング技術を用いてシリコン半導体基板を加工した静電容量型超音波振動子(Capacitive Micromachined Ultrasonic Transducer(c−MUTと呼ばれる))が注目を集めている。これは、マイクロマシン(MEMS:Micro Electro−Mechanical System、超小型電気的・機械的複合体)と総称される素子の1つである。
【0004】
MEMS素子は、シリコン基板、ガラス基板等の基板上に微細構造体として形成されており、機械的駆動力を出力する駆動体と、駆動体を駆動する駆動機構と、駆動機構を制御する半導体集積回路等とを電気的に、更には機械的に結合させた素子である。MEMS素子の基本的な特徴は、機械的構造として構成されている駆動体が素子の一部に組み込まれていることであって、駆動体の駆動は、電極間のクーロン引力などを応用して電気的に行われる。
【0005】
さて、静電容量型超音波振動子(c−MUT)は、2つの平面状の電極が向かい立った素子であり、その間には空洞(キャビティ)があり、DCバイアスに重畳したAC信号を送ると、そのうちの一方の電極を含んだ層(メンブレン)が調和的に振動して、超音波を発生させるものである。
【0006】
例えば、先行技術(Yongli Huang、外4名、「Fabricating Capacitive Micromachined Ultrasonic Transducers With Wafer−Bonding Technology」、JOURNAL OF MICROELECTROMECHANICAL SYSTEMS、2003年4月、VOL.12、NO.2、p.128−p.137)には、ウェーハ接合技術を用いて、c−MUTを製造する方法が開示されている。この先行例では、メンブレンとキャビティをそれぞれ、SOI(Silicon On Insulator)ウェーハ上とプライムウェーハ上に形成し、真空中でのシリコンダイレクトボンディング技術を用いて、それらのウェーハを接合させて、トランスデューサを製造している。
【0007】
静電容量型超音波振動子の超音波送信圧力Pは、
P=−εr×8.854e−12×W2/d2×V2(εr:電極間材料の誘電率、W2:電極面積、d:電極間距離、V:印加電圧)で表される。また、中心周波数fcは、
fc=(π/2)×(tm/W2)(E/12ρ)1/2(tm:メンブレンの厚さ、E:ヤング率、ρ:密度)で表される。したがって、電極面積W2を大きくすることは、超音波送信音圧を大きくするものの同時に中心周波数の低下を引き起こすので、高い周波数領域で高い音圧を得ることが極めて難しかった。
【0008】
また、従来、静電容量型超音波振動子の製造は、経済面で容易ではなかった。また、静電容量型超音波振動子を超音波内視鏡に利用する場合、生体の音響インピーダンスに近い音響インピーダンスをもった超音波を体腔内に照射する必要がある。
【0009】
近年、超音波振動子は、音響的な診断に広く利用されるようになり、この超音波振動子には、通常、圧電現象を利用した圧電素子が用いられるが、最近、上述した静電容量型の超音波振動子が提案されている。
【0010】
例えば特表2004−503312号公報には、静電容量型超音波振動子の原理的な構成例が開示されている。静電容量型超音波振動子は、感度が低いため、より高感度にできることが望まれる。
【0011】
このため、米国特許6,558,330号公報には、具体的な構造、つまり積層構造にした静電容量型の超音波振動子を開示している。
【0012】
しかしながら、この米国特許6,558,330号公報の従来例では、積層構造を示してはいるが、この構造のみでは高感度の超音波振動子を実現できない欠点がある。
【0013】
一方、近年、高調波信号を用いたハーモニックイメージング診断は、従来のBモード診断では得られない鮮明な診断像が得られることから、標準的な診断モダリティとなりつつある。
【0014】
ハーモニックイメージング診断法は、(1)超音波が生体中を伝播する時に、生体組織の非線形性の影響を受け基本波超音波に重畳する高調波を種々の方法で分離し、この信号を用いて画像化するティッシューハーモニックイメージング法と、(2)体内に造影剤バブルを注入し、送信超音波の照射によってバブルが破裂又は共振する時に発生する高調波を受信し、基本波超音波に重畳した高調波を種々の方法で分離し、この信号を用いて画像化するコントラストハーモニックイメージング法に分類される。
【0015】
これらはいずれも、従来のBモード断層像では得られないほどS/Nが良く、分解能の良好な診断画像が得られることが分かり、医療診断の診断精度の向上に寄与している。
【0016】
従来の体外用のハーモニックイメージング診断装置に用いられている超音波振動子は、基本波送信も高調波受信も、例えば同一の送受信兼用の超音波振動子が用いられてきた。なお、生体組織から反射される超音波パルスのエコーを送信用とは別体に設けた超音波振動子で受信する構成も可能である。
【0017】
高調波信号の信号レベルが基本波に比べはるかに小さいので、ハーモニック画像の劣化に関わる基本波成分を効率よく除去する必要がある。そのために、周知の高調波成分(特に第2高調波成分)抽出技術が利用されている。
【0018】
超音波振動子としては、従来の圧電タイプの超音波振動子のほかに、シリコン半導体基板をシリコンマイクロマシン技術を用いて加工した、上述した静電容量型の超音波振動子が注目されている。
【0019】
静電容量型超音波振動子では、一般に超音波を発生させるため高周波パルス信号だけでなくて直流バイアス電圧が送信時,受信時ともに必要とされている。つまり、高周波パルス信号に直流バイアス電圧を重畳させた信号を生成して静電容量型超音波振動子に印加し、それによって超音波を送受信することになる。
【0020】
ところで、従来提案されている静電容量型超音波振動子は、メンブレン厚さが極薄のため、キャビティーの音響インピーダンスを反映して、空中超音波用に適している。しかし生体の音響インピーダンスに適合しているとは言えなかった。
【0021】
例えば、上記特表2004−503312号公報には、体外用を目的とした静電容量型の超音波プローブ装置が開示されている。
【0022】
上記特表2004−503312号公報の従来例は、体外用を目的とした静電容量型の超音波プローブ装置であり、そのため体内用には適用できない欠点があった。
【0023】
一方、静電容量型超音波振動子には、次のような問題がある。第1に、直流バイアス電圧及び高周波パルス信号としてはそれぞれ、比較的高電圧(例えば100V)を常時かけることになるので、駆動実効電圧が大きくなること、第2に、体腔内に挿入するタイプを考える場合、体外用とは異なり、外形寸法に制約があり、小型化することが必要となること、第3に、圧電型の超音波振動子に比較し、送信感度が低く、超音波の深達度が低く、診断領域が狭まり、高調波が発生しにくくなり、静電容量型超音波振動子の特徴である広帯域性を利用出来ないことである。
【0024】
ハーモニックイメージング技術を使うには、広帯域特性を持った超音波振動子が必要となるが、静電容量型超音波振動子は広帯域特性を持つため、ハーモニックイメージング診断に適している。
【0025】
また、従来の静電容量型超音波振動子の場合には、超音波ビームの強度が小さいため、多数の静電容量型超音波振動子エレメントを用い、これらにより送信する超音波ビームを電子的に集束することが行われる。
【0026】
このため、多数の静電容量型超音波振動子エレメントを採用すると、それらに対してそれぞれ適切な時間遅延を与えることが必要となり、それを実現する遅延回路或いは遅延線が大きなものになってしまう欠点がある。
【0027】
上記の課題に鑑み、本発明の第1の目的は、高い周波数領域で高い音圧を得ることができる静電容量型超音波振動子を提供する。また、第2の目的は、簡単な製法により製造できる静電容量型超音波振動子を提供する。また更に、第3の目的は、メンブレンを薄くしたり、メンブレン材料として生体の音響インピーダンスに近い音響インピーダンスを持たせたりした樹脂膜を用いた静電容量型超音波振動子を提供する。
【0028】
本発明の第4の目的は、より高感度を有する静電容量型超音波振動子とその製造方法を提供する。
【0029】
本発明の第5の目的は、静電容量型超音波振動子を用いて、生体との音響整合が効率的に実現でき、駆動実効電圧が低く、体腔内で使用でき、加工・組み立てが容易であり、耐薬品性が確保でき、同軸ケーブルによるロスを低減でき、ハーモニックイメージング診断に利用可能な静電容量型超音波プローブを提供する。
【0030】
本発明の第6の目的は、簡単な構成で送信される超音波ビームの強度を大きくでき、S/Nの良い超音波受信信号を得ることができる静電容量型超音波プローブを提供する。
【発明の開示】
【課題を解決するための手段】
【0031】
本発明による静電容量型超音波振動子は、基板と、前記基板上に形成した電極と、空隙層を隔てて構成されるメンブレンと、前記メンブレンを、前記基板上に空隙層を隔てて構成するためのメンブレン支持部と、メンブレン上に形成した電極とからなる静電容量型超音波振動子セルを、前記基板の面内に沿って二次元に配列すると同時に、前記基板に対して垂直方向にも積層配置した構造を有し、前記静電容量型超音波振動子セルの前記メンブレン支持部が、1層下のメンブレンの略中心部に位置する積層構造を有することを特徴とする。
【0032】
本発明による積層型静電容量型超音波振動子の製造方法は、半導体基板の上面に絶縁層を形成し、その上面に第1の電極層を形成する第1のステップと、この第1の電極層の上面に、空洞部形成用の一時的な層を形成する第2のステップと、前記一時的な層の上に、空洞部の形成する部分に対応したマスクを2次元的に配列させるように形成する第3のステップと、前記マスクを施されていない部分をエッチング処理等で除去して前記第1の電極層に届く凹部を形成する第4のステップと、前記マスクを除去して一時的な層を露出させる第4のステップと、前記凹部に充填すると共に前記一時的な層を覆う膜を形成する第5のステップと、前記膜を貫通し、前記一時的な層に届く孔を形成する第6のステップと、前記孔を用いてエッチング等により前記一時的な層を除去する第7のステップと、前記膜の上面にメンブレン層を形成する第8のステップと、前記メンブレン層の上面に第2の電極層を形成する第9のステップと、前記第2の電極層の上に前記第2のステップから第9のステップを1回以上繰り返す第10のステップと、を有し、上部側のマスクを形成する場合、その中央位置を直下層の2つのマスクの間の位置となるようにずらして形成することを特徴とする。
【図面の簡単な説明】
【0033】
【図1A】本発明の第1の実施形態における静電容量型超音波振動子の基本構造を示す図。
【図1B】図1Aの破線で囲まれた部分の拡大図。
【図2A】第1の実施形態における静電容量型超音波振動子の製造工程の接合前の状態を示す図。
【図2B】第1の実施形態における静電容量型超音波振動子の製造工程の接合状態を示す図。
【図2C】第1の実施形態における静電容量型超音波振動子の製造工程の基板除去した状態を示す図。
【図3】図2Aの破線部分の拡大図。
【図4A】本発明の第2の実施形態における静電容量型超音波振動子の製造工程の樹脂製キャビティ形成用基板を示す図。
【図4B】第2の実施形態における静電容量型超音波振動子の製造工程の犠牲層付与状態を示す図。
【図4C】第2の実施形態における静電容量型超音波振動子の製造工程の絶縁層付与状態を示す図。
【図4D】第2の実施形態における静電容量型超音波振動子の製造工程の上部電極層付与状態を示す図。
【図4E】第2の実施形態における静電容量型超音波振動子の製造工程の犠牲層除去状態を示す図。
【図5A】本発明の第3の実施形態における静電容量型超音波振動子の製造工程の接合前を示す図。
【図5B】第3の実施形態における静電容量型超音波振動子の製造工程の接合状態を示す図。
【図6】本発明の第4の実施形態の積層型静電容量型超音波振動子アレイを備えた超音波診断装置の電気系の全体構成を示すブロック図。
【図7A】図6におけるRF信号発生回路により発生されるRF信号を示す図。
【図7B】図6における送信ビームフォーマにより生成されるRF信号を示す図。
【図8】本発明の第4の実施形態の積層型静電容量型超音波振動子アレイの構造を示す平面図。
【図9】駆動しない時の積層型静電容量型超音波振動子エレメントの構造の一部を示す断面図。
【図10】駆動時における積層型静電容量型超音波振動子エレメントの構造の一部を示す断面図。
【図11】積層型静電容量型超音波振動子エレメントを送受信に兼用した場合の概略構成図。
【図12】図11の変形例を示す構成図。
【図13】積層型静電容量型超音波振動子エレメントを送信専用及び受信専用で使用する場合の概略構成図。
【図14】パルスインバージョンの方式でティッシュハーモニックイメージングを行う場合の代表的な波形例であって、DCバイアスパルス制御信号及びパルスインバージョン用の超音波振動子エレメント駆動信号を示す図。
【図15A】パルスインバージョンの原理図であって、送信時における駆動信号を示す波形図。
【図15B】パルスインバージョンの原理図であって、受信時に基本波成分を除去して高調波成分を得る動作原理を説明する波形図。
【図16】DCバイアス電圧の立ち下がり及び立ち上がり部分を変えた波形例を示す図。
【図17】積層型静電容量型超音波振動子エレメントの1層目の積層型静電容量型超音波振動子セルの配列の様子を示す図。
【図18】2層目までの積層型静電容量型超音波振動子セルの配列の様子を示す図。
【図19】4層目までの積層型静電容量型超音波振動子セルの配列の様子を示す図。
【図20】図19のA−A′線断面図。
【図21】図20の変形例の構成例を示す断面図。
【図22A】積層型静電容量型超音波振動子エレメントにおける1層目部分を製造する場合の絶縁層形成工程の説明図。
【図22B】積層型静電容量型超音波振動子エレメントにおける1層目部分を製造する場合の下部電極形成工程の説明図。
【図22C】積層型静電容量型超音波振動子エレメントにおける1層目部分を製造する場合の犠牲層形成工程の説明図。
【図22D】積層型静電容量型超音波振動子エレメントにおける1層目部分を製造する場合のマスク形成工程の説明図。
【図22E】積層型静電容量型超音波振動子エレメントにおける1層目部分を製造する場合のメンブレン支持部形成用の凹部形成工程の説明図。
【図22F】積層型静電容量型超音波振動子エレメントにおける1層目部分を製造する場合のマスク除去工程の説明図。
【図22G】積層型静電容量型超音波振動子エレメントにおける1層目部分を製造する場合のメンブレン膜となる膜形成工程の説明図。
【図22H】積層型静電容量型超音波振動子エレメントにおける1層目部分を製造する場合の上記膜から犠牲層に届く孔形成工程の説明図。
【図22I】積層型静電容量型超音波振動子エレメントにおける1層目部分を製造する場合のメンブレン層及び上部電極の形成工程の説明図。
【図23A】積層型静電容量型超音波振動子エレメントにおける2層目部分までを製造する場合の上記上部電極の上に犠牲層を形成する工程の説明図。
【図23B】積層型静電容量型超音波振動子エレメントにおける2層目部分までを製造する場合の上記犠牲層の上にマスクを形成する工程の説明図。
【図23C】積層型静電容量型超音波振動子エレメントにおける2層目部分までを製造する場合の凹部形成工程の説明図。
【図23D】積層型静電容量型超音波振動子エレメントにおける2層目部分までを製造する場合のマスク除去工程の説明図。
【図23E】積層型静電容量型超音波振動子エレメントにおける2層目部分までを製造する場合のメンブレン層となる膜形成工程の説明図。
【図23F】積層型静電容量型超音波振動子エレメントにおける2層目部分までを製造する場合の上記膜から犠牲層に届く孔形成工程の説明図。
【図23G】積層型静電容量型超音波振動子エレメントにおける2層目部分までを製造する場合の犠牲層除去工程の説明図。
【図23H】積層型静電容量型超音波振動子エレメントにおける2層目部分までを製造する場合のメンブレン層及び上部電極の形成工程の説明図。
【図24】本発明の第5の実施形態の静電容量型超音波プローブ装置における静電容量型超音波プローブを示す図。
【図25】図24の静電容量型超音波プローブ先端部を拡大して示す図。
【図26】図25における静電容量型超音波振動子の一部分の断面図。
【図27】本発明の第5の実施形態の特徴的な構造を立体的に示す斜視図。
【図28】図27の特徴的な構造の上に下部,上部電極及びメンブレンを形成した側断面図。
【図29】図28の変形例を示す側断面図。
【図30】本発明の第6の実施形態の静電容量型超音波プローブにおける静電容量型超音波振動子の側断面図。
【図31】本発明の第7の実施形態の静電容量型超音波プローブにおける静電容量型超音波振動子の側断面図。
【図32】図31における凹凸のポリイミドのシートの平面図。
【図33】本発明の第8の実施形態の静電容量型超音波プローブにおける静電容量型超音波振動子の側断面図。
【図34】本発明の第8の実施形態の静電容量型超音波プローブにおける、ヘルムホルツのキャビティを備えた静電容量型超音波振動子の側断面図。
【図35】本発明の第9の実施形態の静電容量型超音波プローブにおける静電容量型超音波振動子の側断面図。
【図36】図35の静電容量型超音波振動子アレイの一部を拡大して示す側断面図。
【図37】本発明の第10の実施形態の静電容量型超音波プローブにおける静電容量型超音波振動子セルの側断面図。
【図38】本発明の第11の実施形態の体腔内挿入用静電容量型超音波プローブを備えた超音波診断装置の構成を示す全体図。
【図39】本発明の第11の実施形態の体腔内挿入用静電容量型超音波プローブの先端側の構造を一部切り欠いて示す斜視図。
【図40】静電容量型超音波振動子エレメントの構造を示す断面図。
【図41】図40の底面側から見たメンブレン等の形状を示す図。
【図42】静電容量型超音波振動子エレメントを駆動する電気系の構成を示すブロック図。
【図43】変形例における静電容量型超音波振動子アレイを駆動する電気系の構成を示すブロック図。
【図44A】本発明の第12の実施形態における静電容量型超音波振動子エレメントの製造工程の接合前の説明図。
【図44B】第12の実施形態における静電容量型超音波振動子エレメントの製造工程の接合後の説明図。
【図44C】第12の実施形態における静電容量型超音波振動子エレメントの製造工程の球面状にする説明図。
【図45A】第1変形例における静電容量型超音波振動子エレメントの下部電極及びフォトレジストの製造工程の説明図。
【図45B】第1変形例における静電容量型超音波振動子エレメントの空隙部の製造工程の説明図。
【図45C】第1変形例における静電容量型超音波振動子エレメントのフォトレジスト除去の製造工程の説明図。
【図45D】第1変形例における静電容量型超音波振動子エレメントの上部電極付きメンブレンを接合する製造工程の説明図。
【図46A】第2変形例における静電容量型超音波振動子エレメントの渦巻き状の振動子本体エレメントの製造工程の説明図。
【図46B】第2変形例における図46AのA−A線断面図。
【図46C】第2変形例における図46Aの振動子本体エレメントを球面状に変形加工する製造工程の説明図。
【図46D】第2変形例における球面に沿って渦巻き状に配置された静電容量型超音波振動子エレメントを製造する製造工程の説明図。
【発明を実施するための最良の形態】
【0034】
以下、図面を参照して本発明の実施例を説明する。
【0035】
<第1の実施形態>
図1A及び図1Bは、本実施形態における静電容量型超音波振動子(c−MUT)1の基本構造を示す。図1Aは、静電容量型超音波振動子の全体断面図を示す。この図1Aに示す静電容量型超音波振動子の単位をエレメントという。静電容量型超音波振動子には、シリコン基板2の表面に複数の凹部がある。この1単位をセル10という。各セル10に蓋をするようにメンブレン9がシリコン基板2の上面に被さっている。メンブレン9は、上部電極7と後述する高誘電率酸化物層8とからなる薄膜(高誘電率膜)である。
【0036】
また、シリコン基板2の背面には、絶縁膜3が設けられている。この絶縁膜3の一部には背面電極パッド(コンタクトパッド)4が設けられている。シリコン基板2の両端には、インターコネクトビアホール6がある。各インターコネクトビアホールの一方の端(シリコン基板の背面側)にはコンタクトパッド5が設けられている。
【0037】
図1Bは、図1Aの破線で囲まれた部分(セル)10を拡大したものである。セル10は、各セル10の両端にあるメンブレン支持部11によりメンブレン9を支持している。また、メンブレン支持部11間におけるシリコン基板2の表面(凹部の底部分)には下部電極12が配設されている。そして、キャビティ(空洞部)13は、メンブレン9とメンブレン支持部11と下部電極12とで囲まれた空間からなる。
【0038】
静電容量型超音波振動子1の動作について説明すると、上部電極7と下部電極12の一対の電極に電圧をかけることで電極間が引っ張りあい、電圧を0にすると元に戻る。この振動動作によって超音波が発生し、上部電極の上方向に超音波が照射される。
【0039】
それでは、以下では、静電容量型超音波振動子1の製造工程について説明する。
【0040】
図2A〜図2Cは、本実施形態における静電容量型超音波振動子の製造工程を示す。まず、図2Aを見てみよう。本実施形態において、上部電極7と高誘電率酸化物層8とシリコン層21とで表されるものを上部ユニットAといい、シリコン基板2等で表されるものを下部ユニットBという。図2Aは、上部ユニットAと下部ユニットBの接合前のそれぞれの状態を示す。
【0041】
下部ユニットBについて説明する。まず、シリコン基板2の表面をエッチング処理により複数の凹部を形成する。この凹部はメンブレン支持部11により仕切られた構造となる。この凹部の底に下部電極12を配設する。インターコネクトビアホール6は、シリコン基板2の表面から裏面にかけてシリコン基板を貫通させて設けた導電チャネルである。なお、メンブレン支持部は、SiO2、SiNの絶縁部材を成膜することによっても得られる。
【0042】
シリコン基板2の表面側の両端の凸部分は絶縁膜22で覆われている。インターコネクトビアホール6の一端(シリコン基板2の表面側)には、後に上部電極7と接合させるためのバンプパッド(例えば、はんだボール等)20がついている。また、インターコネクトビアホール6の他端(シリコン基板2の背面側)には、コンタクトパッド5が設けられている。コンタクトパッド5は、後述するように上部電極7をシリコン基板2に接合させた場合に、上部電極7についてのシリコン基板2の背面側の端子となる。
【0043】
シリコン基板2の背面には絶縁膜(例えば、SiO2)3が形成されており、その一部にはコンタクトパッド4が設けられている。このコンタクトパッド4は、下部電極12に対する接触端子であり、シリコン基板2は抵抗値が小さいシリコン材料を用いているので、このコンタクトパッド4を通して、下部電極12と導通することができる。
【0044】
絶縁膜3は、コンタクトパッド4とコンタクトパッド5とを絶縁するためのものである。そして、接合後には、コンタクトパッド4とコンタクトパッド5とを通して、それぞれ上部電極7と下部電極12とにシリコン基板2の背面側から電圧をかけることができる。このようにすることで、上部電極7はエレメント毎にインターコネクトビアホール6を経て、パッド電極へ導かれているが、抵抗の小さなシリコン基板2とは絶縁される。一方、下部電極12とコンタクトパッドとは、抵抗の小さなシリコン基板2を通して導通しているので、両コンタクトパッドは絶縁されていることになり、信号が短絡することは起きない。
【0045】
次に、上部ユニットAについて説明する。上部ユニットAは、複数の層からなっており、図2Aの破線で囲んだ積層部分の拡大図を図3に示す。
【0046】
図3は、図2Aの破線部分の拡大図である。本実施形態において、上部ユニットAはシリコン層21と、メンブレン9(上部電極7の層と、高誘電率酸化物層8)とから構成される。
【0047】
シリコン層21は、製造工程において、シリコン基板2にメンブレン9を接合するまでこのメンブレン9を支持するためのものである。なぜなら、メンブレン9は数ミクロンオーダーであるから、製造工程において、そのようなメンブレンを取り扱いやすくするための基板である。
【0048】
上部電極7は、上述の通り、下部電極12と対になり、上部電極7と下部電極12の一対の電極に電圧をかけることで電極間が引っ張りあい、電圧を0に戻すと元に戻る。この振動動作によって超音波が発生し、上部電極の上方向に超音波が照射される。上部電極7の材料としては、Au/Ti、Au/Ni、Au/Cr、Au/(Ni−Cr)のいずれかを用いる。
【0049】
高誘電率酸化物層8は、上部電極7と下部電極12と間に働く静電引力を向上させるために形成された層である。上部電極7と下部電極12と印加する電圧を制御することで上部電極7を含むメンブレンが振動し、超音波を発生させる。よって、上部電極7と下部電極12の間に働く静電引力が強いほど、より振動は強くなる。そこで、この静電引力を強めることについて検討する。以下の式は、上部電極7と下部電極12との間に働く静電引力Fattを表す。
【0050】
Fatt=−(1/2)×εr×(W2/d2)×V2(εr:比誘電率、W2:電極の面積、d:電極間距離、V:電圧)この式より、d、W2、Vが一定であるならば、比誘電率が高いほど、電極間に働く静電引力Fattは大きくなることが分かる。よって、上部電極7と下部電極12との間に比誘電率の大きい物質を介在させることで、静電引力Fattを大きくすることができ、その役割を担うのがまさに高誘電率酸化物層8である。
【0051】
よって、高誘電率酸化物層8には、比誘電率の高い材料を用いる。そこで、本実施形態において、高誘電率酸化物層8として、例えば、チタン酸バリウムBaTiO3(εr:1200)、チタン酸ストロンチウムSrTiO3(εr:332)、チタン酸バリウム・ストロンチウム(εr:バリウムとストロンチウムのイオン比率に応じてチタン酸バリウムとチタン酸ストロンチウムの中間的な値を示す)、五酸化タンタル(εr:27)、酸化ニオブ安定化五酸化タンタル(εr:27)、酸化アルミニウム、または酸化チタンTiO2(εr:100)、酸化タンタルTa2O3等の高誘電率を有する材料を用いる。
【0052】
この上部ユニットAは、まず、シリコン基板21の表面に電極膜(上部電極7)を付着(蒸着)させ、その上に高誘電率酸化物層8を形成する。
【0053】
次に、図2Bを見てみよう。この図2Bは、図2Aにおいて、上部ユニットAと下部ユニットBとを接合させる工程である。上記で製造した上部ユニットAの高誘電率酸化物層8側の面と下部ユニットの表面側の面とを合わせて熱を加えると、インターコネクトビアホール6と上部電極7とがバンプパッド20で溶接される。
【0054】
次に、図2Cを見てみよう。この図2Cの状態は、シリコン基板21をエッチング処理により除去した状態を示している。シリコン基板21は、例えばアルカリ性のエッチング液(例えば、KOH)を用いてエッチング処理を施すことによりメンブレン9からシリコン基板21を除去することができる。なお、エッチング処理は、これ以外に限定されず、例えば、その他の一般的に用いられているエッチング処理でも良い。また、シリコン基板21を全てにわたってはエッチングせず、一部の厚さの分を残しておいてもよい。
【0055】
なお、シリコン基板21と上部電極7との間に予めSiO2の膜を形成しても良い。エッチングがこの膜まで進んだ時点で停止する。シリコン基板21でのエッチングの進み方にバラツキがあっても最終的に均一な膜厚のメンブレンが実現できる。ただし、このSiO2の膜はメンブレン9に付着したまま残り、上部電極7、高誘電率膜8に対する機械的、化学的補強の役割を果たす。また、上部電極7に、Au/Ti、Au/Cr、Au/Ni、またはAu/(Ni−Cr)を用いるのは、シリコン酸化膜(SiO2膜)に対する密着性を確保するためである。Auは直接SiO2膜に形成しにくく、バッファー層としてTi,Ni,Cr,Ni−Crが使われる。
【0056】
さて、上述の高誘電率酸化物層8の形成方法について詳述する。高誘電率酸化物層8は、ゾル−ゲル法により形成される。ゾル−ゲル法とは、金属の有機化合物の溶液から出発し、溶液を基板へ塗布し、この塗布膜を加水分解することによって金属酸化物または水酸化物の微粒子が分散したゾルとし、さらに反応を進ませてゲル化し、加熱して非晶質、ガラス、多結晶体を作る方法である。
【0057】
本実施形態では、ゾル−ゲル法で形成した酸化膜を還元・再酸化して、さらに誘電率を向上させる。この還元・再酸化工程によって見かけの誘電率を増加させる技術は、例えば境界層(BL:Boundary Layer)コンデンサの製造技術として利用されている。
【0058】
それでは、以下にゾル−ゲル法による高誘電率酸化物層8の形成方法を説明する。
【0059】
S1:Si基板21の上に上部電極7の膜の層を形成する。
【0060】
S2:その上部電極7の膜の上に、タンタル、チタン、またはバリウムの金属アルコキシドを含むゾル−ゲル前駆液を塗布する。
【0061】
S3:加水分解によってそのゾル−ゲル前駆液を金属の酸化物あるいは、水酸化物の微粒子が溶解したゾルとし、さらに反応を進ませてゲル化して出来た非晶質膜を加熱して結晶体を形成する。このとき、加水分解には、種々の方法があり、H2Oのみで起こる場合も、さらに加水分解が徐々に進行するようにする添加剤を加える場合も、pH調製のための添加剤を加える等の場合があり、状況に応じて添加剤を使用する。なお、この中間段階で生成するゾルはナノスケールの微粒子である。したがって、この工程でゲル化してできた膜はナノ粒子膜である。
【0062】
S4:上記で形成したナノ粒子膜を還元する。ここでの還元処理は、脱酸素気流下にそのナノ粒子膜を所定時間(例えば、800度では約10分間)さらす。なお、酸素分圧の低い気体中や真空中に所定時間放置してもよい。
【0063】
S5:次に、再び酸化を行う。ここでの酸化は、空気中等の酸素含有気流下にS4で還元されたナノ粒子膜を所定時間さらす。そうすると、上部電極7上にナノオーダーの粒子からなる高誘電率酸化物層8を形成することができる。
【0064】
このようにすることにより、高誘電率酸化物層を形成することで、電極間に働く静電引力が増加することで、超音波送信音圧を大きくすることができる。また、このとき、中心周波数の低下を引き起こすことはない。したがって、高周波数領域で高音圧を得ることができる。なお、下部電極側に高誘電率物質層を形成してもよい。このようにしても、静電引力を高めることができる。なお、メンブレンは高誘電率物質層、上部電極を含む複数の層(例えば、さらに複数の高誘電率物質層を成膜する等)から構成されていても良い。
【0065】
また、キャビティに所定の空間ができる範囲で、キャビティを高誘電率酸化物で埋めてもよい。なぜなら、メンブレンの振動は屈曲振動であり、静電引力が働くと、キャビティ側に屈曲変形するので、この変形が自由に出来る空間が必要であるからである。なお、後述するように、本実施形態では、犠牲層工程がないので、コストダウンを図ることもできる。
【0066】
<第2の実施形態>
本実施形態では、樹脂製キャビティ形成用基板を用いて静電容量型超音波振動子を製造する方法の一例について説明する。なお、以下でキャビティとは、上部電極と下部電極との間の空間をいい、必ずしも空洞である必要はない。また、最終製造時にキャビティとなる前の工程(中間段階)で生成する凹部、または孔もキャビティという。
【0067】
図4A〜図4Eは、本実施形態における製造工程を示す図である。まず、シリコン基板29の表面に電極31を形成する。次に、このシリコン基板29上において、電極31が配設されていない部分に支持部28を形成する(シリコン基板29、支持部28、及び電極31からなる基板を以下では樹脂製キャビティ形成用基板30という)(図4A参照)。支持部28には、SiN,SiO2などの絶縁材料を用いる。
【0068】
支持部28の形成の結果、形成された凹部に犠牲層32を形成する(図4B参照)。犠牲層32の材料としては、例えば、フォトレジスト材料を用いる。フォトレジスト材料は、半導体基板上に回路パターンを描く際に、基板上に塗布する感光性耐蝕被膜材料である。IC、LSI等の半導体デバイスを製作する際の微細加工は、フォトレジスト材料を保護被膜とするフォトリゾグラフィーによって行われることが多い。
【0069】
フォトレジスト材料にはポジ型とネガ型があり、ポジ型では露光された部分のレジストがネガ型では露光されなかった部分がそれぞれ現像液で溶解除去され、基板上に回路パターンが残るというものである。このフォトレジスト材料として、例えば、「TrisP−PA−MF」(本州化学工業社製)や「AZ 6100 series」(クラリアントジャパン社製)がある。
【0070】
このようなフォトレジスト材料によって樹脂製キャビティ形成用基板30の凹部は充填されている。このような犠牲層を形成するのは、後述する工程において、当該樹脂製キャビティ形成用基板30の表面(凹部側)にメンブレンとなる絶縁層を接合させるが、このときに、絶縁層のうち凹部の部分に位置する部分にへこみやしわが入らないようにするためである。
【0071】
次に、樹脂製キャビティ形成用基板30の表面(凹部側)にメンブレンを形成する層の1つである絶縁層33を接合させる(図4C参照)。この絶縁層33の材料としては、例えば、ポリイミド(例えば、「半導体表面保護膜・層間絶縁膜用ポジ型感光性耐熱ポリイミドコーティング剤“フォトニース”PW−1000」)等の高分子有機材料を用いる。
【0072】
接合は、超音波接合技術を用いて行う。樹脂に超音波を照射して振動エネルギーを接合部に集中させると、振動エネルギーは摩擦熱に変換されて樹脂を溶かし、それにより樹脂製キャビティ形成用基板30と樹脂製絶縁層33とが接合する。この方法は、また接着材等の消耗品を全く必要としないという利点がある。なお、接着剤を用いて接合してもよい。
【0073】
次に、絶縁層33の表面に上部電極層34を付与する(図4D参照)。上部電極層34の材料としては、例えば、Au/Crを用い、これを絶縁層33の表面に蒸着させる。
【0074】
最後に、上部電極34及び絶縁層33に孔35(犠牲層除去孔)をあけ、アセトン等の溶媒に浸すと、その孔からアセトンが侵入し、フォトレジストを溶解させ、溶解したフォトレジストはその孔から出て行くと、犠牲層が除去されてキャビティ(空洞)が形成される(図4E参照)。
【0075】
なお、メンブレンは絶縁層33、電極34を含む複数の層(例えば、さらに複数の絶縁層を成膜する等)から構成されていても良い。
【0076】
本実施形態は、以下のような利点がある。絶縁層の材質として、生体との音響整合を良くするには、音響インピーダンスの大きなTiO2、SiNxより、ポリイミドの様な音響インピーダンスが比較的生体に近い材料の方が好ましい。この場合の膜厚は数十μmであり、フィルムを接合する方法ではメンブレンとなる部分にシワが入ってしまう。従って、凹部に例えば、容易に溶剤に溶けるレジスト材料を埋め込み、ついで表面を面一となるように研磨等の手段で平滑化処理を行い、その上からポリイミド、シリコーン、パリレン、ウレタンの様な樹脂膜を蒸着、スピンコートやスプレー塗布によって形成し、そのあと、犠牲層材であるレジスト材料を犠牲層除去孔を通して除去する。このようにして形成したメンブレン膜は、シワがなく、音響インピーダンスも生体のそれに近い値をとり、生体との音響整合が良くなり、その結果感度向上につながる。
【0077】
<第3の実施形態>
本実施形態では、陽極接合技術を用いた静電容量型超音波振動子の製造方法について説明する。陽極接合技術とは、数百℃の温度下で数百Vの直流電圧を印加し、シリコン表面とガラス表面とでSi−Oの共有結合を介して張り合わせる技術のことである。本実施形態では、この技術を用いて、キャビティを型成形により形成する。ガラスは、ナトリウムイオン等の可動イオンを含むガラスである。
【0078】
図5A及び図5Bは、本実施形態における製造工程を示す図である。まず、複数の孔の空いた平板状のガラス基板40と電極41がパターンニング済みのシリコン基板42とを用意する(図5A参照)。後述するように、後の工程でガラス基板40とシリコン基板42とを接合させるが、ガラス基板40の孔の位置にシリコン基板42上の電極41が位置するように、この電極41をシリコン基板上にパターンニングする。
【0079】
上記のガラス基板40とシリコン基板42を用意した後、これらをアライメントする。ここでいうアライメントとは、位置合わせのことであり、ガラス基板40の孔部分にシリコン基板42上の電極41が位置するように、ガラス基板40とシリコン基板42を合わせる。このとき、ガラス基板40、すなわち透明な材料を用いているので、シリコン基板42上の電極41をガラス基板40を通して認識することができるので、アライメントに際し、位置合わせが容易となる。
【0080】
上記のアライメント後に、数百℃の温度下で数百Vの直流電圧を印加してガラス基板40とシリコン基板42を接合させる(陽極接合)。その後、冷却するとキャビティ形成用基板(ガラス+Si製キャビティ形成用基板)43が形成される(図5B参照)。その後は、図4B以降の工程を行う。このとき、図4Cの工程において、絶縁層33にシリコン材料が樹脂製キャビティ形成用基板30側の一部で露出した基板を用いれば、ここでも陽極接合により、絶縁層とガラス+Si製キャビティ形成用基板43とを接合することができる。
【0081】
なお、ガラス+Si製キャビティ形成用基板の製造については、上記に限らず、ガラス板成形時に犠牲層を形成し、さらにガラス板の一方の面に絶縁層及び上部電極層を形成した後、ガラス板の他方の面から犠牲層を除去して、シリコン基板と陽極接合してもよい。また、ガラスとSiの関係は逆であっても良い。
【0082】
以上より、ガラス+Si製キャビティ形成用基板の製造において、ガラス材料を使用しているので、ガラスの向こう側が透けてみえるという特性から、容易にアライメントができる。また、陽極接合を用いるので、接着剤等を用いる必要がなく、そのため余分な接着剤のキャビティ部分へのはみ出しが生じないので、高精度の静電容量型超音波振動子を製造することができる。
【0083】
以上述べた本発明の第1〜第3の実施形態によれば、メンブレンを複数の層で構成し、その内の少なくとも一層を高誘電率膜で形成したことにより、高周波数領域で高音圧を得ることができる。また、簡単な製法により製造することが可能であるので、コストダウンを図ることである。また、メンブレンの超音波振動が生体に伝わり易くなり、結果として感度が向上する。
【0084】
<第4の実施形態>
図6〜図23Hは本発明の第4の実施形態に係り、図6は本発明の第4の実施形態の積層型静電容量型超音波振動子アレイを備えた超音波診断装置の電気系の全体構成を示し、図7A及び図7Bは信号発生回路により発生されるRF信号及び送信ビームフォーマにより生成されるRF信号を示し、図8は本実施形態の積層型静電容量型超音波振動子アレイの構造を示し、図9は駆動しない時の積層型静電容量型超音波振動子エレメントの断面構造の一部を示し、図10は駆動時における積層型静電容量型超音波振動子エレメントの断面構造の一部を示し、図11は積層型静電容量型超音波振動子エレメントを送受信に兼用する場合の構成例を示す。
【0085】
また、図12は図11の変形例を示し、図13は積層型静電容量型超音波振動子エレメントを送信及び受信専用で使用する場合の構成例を示し、図14は、パルスインバージョンの方式でティッシュハーモニックイメージングを行う場合の代表的な信号波形を示し、図15A及び図15Bはパルスインバージョンによる基本波成分を除去する動作原理図を示し、図16はDCバイアス電圧の立ち下がり及び立ち上がり部分を変えた波形例を示し、図17は積層型静電容量型超音波振動子エレメントの1層目の積層型静電容量型超音波振動子セルの配列の様子を示す。
【0086】
また、図18は2層目までの積層型静電容量型超音波振動子セルの配列の様子を示し、図19は4層目までの積層型静電容量型超音波振動子セルの配列の様子を示し、図20は図19のA−A′線断面を示し、図21は図20の変形例の構成例を示し、図22A〜図22Iは積層型静電容量型超音波振動子エレメントにおける1層目部分を製造する場合の各工程の説明図を示し、図23A〜図23Hは積層型静電容量型超音波振動子エレメントにおける2層目部分までを製造する場合の各工程の説明図を示す。
【0087】
図6に示すように本発明の第4の実施形態を備えた超音波診断装置100は、積層型静電容量型超音波振動子アレイ(以下、単に超音波振動子アレイと略記)1022と、この超音波振動子アレイ102を駆動及び受信処理する超音波観測装置103と、この超音波観測装置3から出力される映像信号が入力されることにより、超音波振動子アレイ2により超音波ビームで走査した被検体の超音波断層像を表示するモニタ104とから構成される。
【0088】
超音波振動子アレイ102は、複数の超音波振動子エレメント106を2次元的に配列して構成されている。例えば図8に示すように超音波振動子アレイ102は、縦方向と横方向とに超音波振動子エレメント106が規則的に配列して構成されている。より具体的には、超音波振動子アレイ102は、超音波振動子エレメント106が例えば縦方向にN個、横方向にM個配列して構成されている)。
【0089】
また、本実施形態の超音波振動子アレイ102を構成する超音波振動子エレメント106は、後述するように積層された構造にしている。
【0090】
各超音波振動子エレメント106は、超音波観測装置103内の送受切替スイッチアレイ111を構成する送受切替スイッチ112の共通端子1121に接続される。そして、この送受切替スイッチ112の送信駆動入力端子Taは、駆動回路アレイ113に接続され、この送受切替スイッチ112のエコー信号出力端子Tbは、受信アンプとしての機能を持つチャージアンプアレイ114に接続される。
【0091】
駆動回路アレイ113には、RF信号発生回路115の送信信号が送信ビームフォーマ116を介して入力される。RF信号発生回路115は、例えば制御回路117からの送信用のRFパルスタイミング信号に同期して、所定の周波数Frfのパルス状のRF信号を発生する。このパルス状のRF信号は、10V程度の低電圧であり、図7Aに示すように所定の繰り返し周期Trepで、パルス幅Trfのパルス状のRF信号を発生する。
【0092】
この低電圧のRF信号は、送信ビームフォーマ116に入力される。この送信ビームフォーマ116は、例えばN個の遅延回路により構成され、各遅延量を可変設定できるようにしている。そして、制御回路117からの遅延時間制御信号に応じた遅延量により送信用のRF信号を遅延して駆動回路アレイ113に出力する。
【0093】
図7Bは、送信ビームフォーマ116による出力信号を示す。例えば、N個の遅延回路における第1の遅延回路では遅延量がゼロのままでRF信号を出力し、第2の遅延回路では遅延量δ1だけ遅延されてRF信号を出力する。このように遅延量が少しづつずらしてN個の中央付近の遅延回路では最大の遅延量が設定されるように、また両端では遅延量がゼロとなるようにしてRF信号を出力する。
【0094】
送信ビームフォーマ116からのRF信号が入力される駆動回路アレイ113は、送信ビームフォーマ116から出力されるRF信号を増幅して高電圧のRF信号、つまり駆動信号を生成すると共に、この駆動信号をDCバイアス発生回路118から出力されるDCバイアス電圧パルスに重畳して送受切替スイッチアレイ111に出力する。
【0095】
なお、DCバイアス発生回路118には、制御回路117からDCバイアス波形制御信号が印加され、このDCバイアス発生回路118は、低電圧のDCバイアス波形制御信号に同期して高電圧のDCバイアス電圧パルスを発生して駆動回路アレイ113に出力する。
【0096】
図14は、パルスインバージョンの方式の場合の説明図であるが、この図14の下段を使用して説明すると、DCバイアス発生回路118は、電圧値Vdcの正のDCバイアス電圧パルスを発生する。つまり、図14の下段のパルスインバージョンの方式の駆動信号において、負のDCバイアス電圧パルス及び駆動信号を削除したものが生成される。
【0097】
そして、駆動回路アレイ113からDCバイアス電圧に駆動信号が重畳された状態で、ONされた送受切替スイッチ112を経て超音波振動子エレメント106にDCバイアス電圧パルスに重畳された駆動信号が印加される。
【0098】
上記のようにN個配列された超音波振動子エレメント106には、例えば周辺側のものには遅延量が少ない状態で駆動信号が印加され、中央側のものには遅延量が大きい状態で駆動信号が印加される。
【0099】
このようにして、遅延時間を調整してN個配列された超音波振動子エレメント106に駆動信号を印加することにより、N個の超音波振動子エレメント106による電気音響変換で被検体側に送信される各超音波を、所定の方向に集束させて送ることができる。換言すれば、超音波エネルギ密度を大きくした超音波ビームとして送信することができる。
【0100】
なお、送受切替スイッチアレイ111は、制御回路117からの送受切替信号により、共通端子1121が送信側となる駆動回路アレイ113側から受信側に切り替えられる。より具体的には、例えば遅延量が最も大きい駆動信号が超音波振動子エレメント106に印加された後、直ちに送信側から受信側に切り替えられる。
【0101】
上記被検体側の音響インピーダンスが変化している部分で反射された超音波の一部は、超音波振動子エレメント106により受信され、超音波エコー信号、つまり受信RF信号に変換される。
【0102】
この受信RF信号は、入力インピーダンスが高いチャージアンプアレイ114の各チャージアンプに入力され、増幅される。そして、出力インピーダンスが低インピーダンスの各チャージアンプから受信RF信号が出力される。なお、受信時には、図示しない受信用のDCバイアス発生回路からDCバイアス電圧が超音波振動子エレメント106に印加され、このDCバイアス電圧が印加された状態でチャージアンプアレイ114は、受信RF信号を増幅する。
【0103】
チャージアンプアレイ114により増幅された受信RF信号は、上記周波数Frfを中心周波数とした所定の周波数帯域の信号成分のみを通すように設定されるフィルタアレイ122に入力される。このフィルタアレイ122は、制御回路117からのフィルタ特性制御信号により、各フィルタの通過帯域を可変設定できるようにしている。
【0104】
フィルタアレイ122を通った受信RF信号は、A/D変換部123に入力され、このA/D変換部123よりアナログ信号からデジタル信号に変換された後、受信ビームフォーマ124に入力される。この受信ビームフォーマ124によりN個の位相差を持った受信RF信号は1つの受信信号に合成される。
【0105】
この受信ビームフォーマ124により合成された受信信号は、位相反転合成回路125に伝送される。なお、以下に説明する基本波による通常の超音波断層像の表示のみの場合には、位相反転合成回路125を通すことなく、デジタルスキャンコンバータ(DSCと略記)126に入力しても良い。
【0106】
本実施形態では位相反転合成回路125を設けることにより、通常の超音波断層像の表示の他に後述するパルスインバージョン方式により、高調波による超音波断層像を表示することもできるようにしている。位相反転合成回路125への受信RF信号の書き込み及び読み出し等の制御は、制御回路117により行われる。
【0107】
DSC126に入力され、超音波断層像に対応する映像信号に変換された後、モニタ104に出力され、モニタ104の表示面に超音波断層像が表示される。
【0108】
本実施形態における超音波振動子アレイ2は、図8に示すように駆動単位となる超音波振動子エレメント106が縦方向と横方向とに規則的に配列して構成されている。
【0109】
また、各超音波振動子エレメント106は、超音波振動子セル107が複数縦方向と横方向とに規則的に配列して構成されていると共に、積層されている。
【0110】
また、図6でも模式的に示しているが、各超音波振動子エレメント106は、図9に示すように積層された構造となっている。なお、図9はDCバイアス電圧及び送信用の駆動信号を印加しない状態で示しており、図10はDCバイアス電圧及び送信用の駆動信号を印加した状態で示している。
【0111】
シリコン基板131上には、1層目コンデンサの下部電極132が設けられ、この1層目コンデンサの下部電極132上には、所定間隔で1層目コンデンサのメンブレン支持部133により支持された状態で1層目コンデンサのメンブレンを兼ねる2層目コンデンサの基板134が積層されている。なお、隣接するメンブレン支持部133の間には、メンブレンが変位可能とする空洞部135が形成されている。なお、以下のように他の層においても、空洞部135が形成される。
【0112】
また、この基板134の上面には1層目コンデンサの上部電極を兼ねる2層目コンデンサの下部電極136が設けられる。
【0113】
また、この下部電極136上には、所定間隔で2層目コンデンサのメンブレン支持部137により支持された状態で2層目コンデンサのメンブレンを兼ねる3層目コンデンサの基板138が積層されている。この層においてもメンブレン支持部137の間において、空洞部135が形成される。
【0114】
また、この基板138の上面には2層目コンデンサの上部電極を兼ねる3層目コンデンサの下部電極139が設けられている。
【0115】
この下部電極139の上には、所定間隔で3層目コンデンサのメンブレン支持部140により支持された状態で3層目コンデンサのメンブレンを兼ねる4層目コンデンサの基板141が積層されている。
【0116】
また、この基板141上面には3層目コンデンサの上部電極を兼ねる4層目コンデンサの下部電極142が設けられている。
【0117】
この下部電極142上には、所定間隔で3層目コンデンサのメンブレン支持部143により支持された状態で4層目コンデンサのメンブレンを兼ねるコンデンサの基板144が積層され、この基板144上面には4層目コンデンサの上部電極145が設けられている。
【0118】
なお、このように積層構造の超音波振動子エレメント106を構成する各電極は、図9の右側に示すように1層おきの電極が導通するように接続される。
【0119】
また、各層において超音波振動子セルが形成されており、例えば1層目における超音波振動子セルを符号107aで示すと、図9中の点線で示す部分となる。
【0120】
このような構造の本実施形態における超音波振動子エレメント106においては、各超音波振動子セル107を形成するメンブレン支持部が、1層下のメンブレンのほぼ中心部に位置する積層構造を有することを特徴の1つになっている。また、メンブレン支持部の脚底部が、1層下のメンブレンの中心部近傍でのみ接合された構造となっている。
【0121】
このような構造にしているので、次の図10に示すように駆動信号で駆動した場合に、大きな振幅で励振できるようにしている。
【0122】
図10は、図9の状態において、DCバイアス電圧及び送信用の駆動信号を印加した状態で示している。
【0123】
図10から分かるように1層目における振動の節となる部分でメンブレン支持部133により支持されたメンブレンを兼ねる基板134の上面に取り付けたメンブレン支持部137は、隣接するメンブレン支持部133間の中央位置の振動の腹となる部分に設けてある。
【0124】
同様に2層目における振動の節となる部分でメンブレン支持部137により支持されたメンブレンを兼ねる基板138の上面に取り付けたメンブレン支持部140は、隣接するメンブレン支持部137間の中央位置の振動の腹となる部分に設けてある。
【0125】
このような構造にしているので、単一の層で超音波振動子エレメントを形成した場合よりも、はるかに大きな振幅で超音波を発生させることができる。また、超音波振動子セル107を単に積層した構造の従来例の場合よりもはるかに効率良く超音波振動させることができる。
【0126】
図6において超音波振動子エレメント106の電気系の概略の構成を示しているが、1つの超音波振動子エレメント106により送受信を切り替える構成部分を示すと図11のようになる。
【0127】
なお、図11は図6と殆ど同じ構成であるが、図6では記載を省略していた直流阻止コンデンサ147a、147bも示している。
【0128】
図9及び図10で説明したように、この超音波振動子エレメント106は、例えば1層目コンデンサの下部電極132の上に、1層目コンデンサの上部電極を兼ねる2層目コンデンサの下部電極136、2層目コンデンサの上部電極を兼ねる3層目コンデンサの下部電極139、3層目コンデンサの上部電極を兼ねる4層目コンデンサの下部電極142、4層目コンデンサの上部電極145が配置され、1層目コンデンサの下部電極132、2層目コンデンサの上部電極を兼ねる3層目コンデンサの下部電極139、4層目コンデンサの上部電極145の3つの電極は、結線されて接地側端子となり接地される。
【0129】
一方、1層目コンデンサの上部電極を兼ねる2層目コンデンサの下部電極136及び3層目コンデンサの上部電極を兼ねる4層目コンデンサの下部電極142とは結線されて信号入出力端子146となり、送受切替スイッチ112に接続される。
【0130】
そして、送信時には、送受切替スイッチ112は、制御回路117からの切替制御信号により駆動端子Ta側と直流阻止コンデンサ147aを介して接続される状態に切り替えられ、この場合には駆動端子Taから入力される駆動信号が点線で示すようにように送受切替スイッチ112を通って超音波振動子エレメント106に印加される。
【0131】
この場合、制御回路117は、DCバイアス電圧源148aに対して所定のDCバイアス電圧を発生させるように制御する。図11に示したDCバイアス電圧源148aは、図6におけるDCバイアス発生回路118に相当する。
【0132】
従って、超音波振動子エレメント106には、所定のDCバイアス電圧が印加され、かつそのDCバイアス電圧の印加期間における中央付近において駆動信号が印加されるようになる。
【0133】
その際には、超音波振動子エレメント106は、図10に示したように積層構造にしてあるので、積層化されていない場合よりもはるかに大きな振幅で超音波を送信することができる。また、シリコン基板131の面方向にも二次元的に配列した広がりを持つ構造にしているので、大きなエネルギを持つ超音波信号を発生できる。
【0134】
また、送信(駆動)が終了すると、送受切替スイッチ112は、制御回路117からの切替制御信号により出力端子Tb側と接続される状態に切り替えられ、この場合には超音波振動子エレメント106により受信され、電気信号に変換されたエコー信号が点線で示すように直流阻止コンデンサ147bを通って送受切替スイッチ112の出力端子Tbを経てチャージアンプアレイ114側に出力される。この場合にも、制御回路117は、DCバイアス電圧源148bに対して所定のDCバイアス電圧を発生させるように制御する。
【0135】
信号受信時においても、本実施形態における超音波振動子エレメント106によれば、従来例の超音波振動子に比べてはるかに大きく振幅させることができ、従って従来例よりもはるかに大きな受信信号を得ることができる。換言するとはるかに高感度にでき、S/Nの良い受信信号を得ることができる。
【0136】
なお、図12に示す変形例のような構成にしても良い。図12に示す構成においては、信号入出力端子146は、直流阻止コンデンサ147を介して送受切替スイッチ112に接続されると共に、DCバイアス電圧源148と接続される。このDCバイアス電圧源148は、図11のDCバイアス電圧源148a、148bの機能を兼ねるものであり、制御回路117により制御される。その他は、図11と同様であり、その説明を省略する。
【0137】
以上の説明では、1つの超音波振動子エレメント106を送信と受信とに兼用して使う場合で説明したが、図13に示すように隣接して配置された2つの超音波振動子エレメント106′、106″を切り替えることなく、送信と受信専用で使用する構成にしても良い。
【0138】
この場合には、送信時には、駆動端子Taから直流阻止コンデンサ147aを介して送信用の超音波振動子エレメント106′に、DCバイアス電圧源148aからのDCバイアス電圧と共に、駆動信号が印加される。
【0139】
そして、この超音波振動子エレメント106′により発生される超音波は、被検体149側に送波される。被検体149内に病変部150等、音響インピーダンスが異なる部分が存在するとその部分で反射される。反射された超音波の一部は、受信用の超音波振動子エレメント106″により受信され、電気信号、つまる受信RF信号に変換される。そして、直流阻止コンデンサ147bを経て出力端子Tbを通りチャージアンプアレイ114側に出力される。この場合にも、制御回路117は、DCバイアス電圧源148bに対して所定のDCバイアス電圧を発生させるように制御する。尚、図13に示す構成は、送信用超音波振動子エレメントと受信用超音波エレメントを別体として動作させる場合にも対応している。
【0140】
また、本実施形態の超音波振動子アレイ102を用いてパルスインバージョンによりティッシュハーモニックイメージング(THIと略記)を行うこともできる。この場合においても、超音波振動子アレイ102は、積層タイプの超音波振動子エレメント6を用いて構成されているので、S/Nの良い超音波断層像を得ることができる。
【0141】
図14は、THIを行う場合の代表的な信号波形を示し、図14の上段は、DCバイアスパルス制御信号を示し、図14の下段はパルスインバージョン用の超音波振動子エレメント駆動信号を示す。通常の基本波による駆動信号は、その駆動信号が周期Trepで繰り返されるのに対して、図14の下段に示すようにパルスインバージョン用の駆動信号は、周期Trepの1/2の周期Tinvに位相を反転して駆動するダブルパルスが伴うようにしている。
【0142】
この場合の動作原理を図15A及び図15Bを用いて説明する。図15A及び図15Bは、パルスインバージョンの原理図を示す。
【0143】
図15Aに示すように駆動信号として、パルスAと時間差td(図14の期間Tinvに相当)で逆位相のパルスBを超音波振動子に印加し、生体組織側に超音波を送信する。
【0144】
生体組織の非線形性により、超音波の基本波成分と共に、基本波成分の音圧に対して、例えば数10dB小さな音圧を持つ高調波成分が混ざった受信信号が得られることになり、両者が混在した受信信号から基本波成分を除去する必要がある。
【0145】
この場合、図15Bに示すように受信信号における基本波成分及び奇数次の高調波成分のパルスA、Bは送信時と同じ位相関係を保つのに対して、偶数次の高調波成分は、基本波の2乗、4乗、…となるため、全て正のパルスA,Bとなる。図15Bにおける高調波は第2高調波で示している。
【0146】
従って、受信信号における基本波成分のパルスA及びパルスBは、時間差tdを0にして和を取るとゼロになる。
【0147】
これに対して、高調波成分は、時間差tdを0にして和を取ると、倍加することになる。
【0148】
このようにして、高調波成分のみを抽出することができる。なお、時間差tdを0にする手段としては、本実施形態における図6の位相反転合成回路125を採用することができる。つまり、先行する受信パルスを一時位相反転合成回路125内のメモリに格納し、後続する受信パルスが到達した時点で、メモリから先行する受信パルスを読み出して両者の和を取ることにより、基本波成分及び奇数次の高調波成分を0に、偶数次の高調波成分を倍加して得ることができる。
【0149】
図15A及び図15Bは、原理図であり、静電型に依存しない方法である。これに対して、図14に示す方法は、静電容量型であるので、極性の異なるDCバイアス電圧パルスに同じ位相の駆動信号を重畳して静電型超音波振動子エレメント106に印加することにより、逆位相の超音波を発生させて、これを生体側に送信する。このため、THIの場合には、以下に説明するようにDCバイアス発生回路118は正及び負のDCバイアス電圧パルスを発生し、また駆動回路アレイ113は、内蔵した図示しない遅延回路を用いてダブルの駆動信号を発生する。
【0150】
受信時には一方の極性のDCバイアス電圧を印加した状態で受信信号を得るようにすることにより、図15A及び図15Bの場合と同様の動作となる。
【0151】
次に図14を参照して、パルスインバージョン用の駆動信号の生成方法を説明する。
【0152】
制御回路117は、図14の上段に示すようにDCバイアスパルス制御信号を、駆動回路アレイ113とDCバイアス発生回路118に出力する。
【0153】
このDCバイアスパルス制御信号における+DCバイアス起動タイミングパルスPaによりDCバイアス発生回路118を制御する。そして、DCバイアス発生回路118は、この+DCバイアス起動タイミングパルスPaに同期して図14の下段に示すように電圧値がVdcで示す高電圧の正のDCバイアス電圧パルスB1を発生し、+DCバイアス停止タイミングパルスPbによりDCバイアス電圧パルスB1の発生を停止する。このDCバイアス電圧パルスB1の発生期間は、Tdcとなる。
【0154】
また、上記DCバイアスパルス制御信号は、DCバイアス電圧パルスB1の発生期間Tdcの間における+DCバイアス起動タイミングパルスPaの直後に、信号電圧値がVrfのRF信号発生タイミングパルスPrfが伴う。このRF信号発生タイミングパルスPrfは、駆動回路アレイ113における各駆動回路に入力され、各駆動回路は、このRF信号発生タイミングパルスPrfの期間、入力されるRF信号を増幅して、高電圧のRF信号S1を生成する。
【0155】
従って、図14の下段に示す駆動信号は、上記RF信号発生タイミングパルスPrfの期間Trfにおいて、増幅された高電圧のRF信号S1がDCバイアス電圧パルスB1に重畳されたものとなる。
【0156】
なお、このRF信号発生タイミングパルスPrfの発生期間Trfは、バイアス電圧の発生期間Tdcより短い。
【0157】
そして、このように正のDCバイアス電圧パルスB1に高電圧のRF信号S1が重畳された駆動信号が超音波振動子エレメント106に印加される。そして、超音波振動子エレメント106により超音波に変換されて、その超音波が生体組織側に送信される。
【0158】
この送信時から所定時間Tinvの後、制御回路117からのDCバイアスパルス制御信号は、図14の上段に示すように−DCバイアス起動タイミングパルスPcを持ち、この−DCバイアス起動タイミングパルスPcがDCバイアス発生回路118に入力される。
【0159】
そして、次に図14の下段に示すように、この−DCバイアス起動タイミングパルスPcに同期して電圧値がVdcの負のDCバイアス電圧パルスB2をDCバイアス発生回路118は発生し、その後の−DCバイアス停止タイミングパルスPdによりDCバイアス電圧パルスB2の発生を停止する。このDCバイアス電圧パルスB2の発生期間は、Tdcとなる。
【0160】
また、DCバイアスパルス制御信号は、上記−DCバイアス起動タイミングパルスPcの直後に信号電圧値がVrfのRF信号発生タイミングパルスPrfを伴ったものとなり、この期間TrfはDCバイアス電圧パルスB2の発生期間Tdcより短い。
【0161】
上記RF信号発生タイミングパルスPrfの期間Trfにおいて、駆動回路アレイ113の各駆動回路は、図示しない遅延時間がTinvの遅延回路を通したRF信号を増幅して高電圧のRF信号S2を生成し、このRF信号S2をDCバイアス電圧パルスB2に重畳して出力する。
【0162】
そして、このように負のDCバイアス電圧パルスB2に高電圧のRF信号S2が重畳された駆動信号が超音波振動子エレメント106に印加される。そして、超音波振動子エレメント106により超音波に変換されて、その超音波が生体組織側に送信される。
【0163】
この場合、負のDCバイアス電圧パルスB2にRF信号S2を重畳した駆動信号を生成しているので、正のDCバイアス電圧パルスB1にRF信号S1を重畳した駆動信号で超音波振動させたものとは逆位相の超音波が送信されることになる。
【0164】
なお、図14の下段の振動子駆動信号は、位相差を持って例えば縦方向に配列されたN個の超音波振動子エレメント6に印加される。
【0165】
そして、所定方向に集束されたエネルギ密度の高い超音波ビームとなって生体組織側に送信される。生体側で反射された超音波は、再び各超音波振動子エレメント106により電気信号、つまりエコー信号(或いは受信RF信号)に変換される。そして、チャージアンプアレイ114により増幅及びインピーダンス変換された後、フィルタアレイ122に入力される。
【0166】
フィルタアレイ122は、超音波伝播と共に、生体による減衰と共に信号の高調波成分が低下し、全体的に周波数成分は低周波側にシフトする。このシフトを考慮してフィルタの中心周波数が制御され、帯域外のノイズを遮断する。超音波の伝播距離と共にフィルタの中心周波数を変化させる制御信号が制御回路117からフィルタアレイ122に送信される。
【0167】
このフィルタアレイ122を通った受信RF信号は、A/D変換部123でデジタル信号に変換された後、受信ビームフォーマ124により、1つの受信信号に合成される。この受信信号は、時間的に先行して入力される信号成分部分と、後続して入力される信号成分とからなり、先行する信号成分は分離されて位相反転合成回路125内のメモリに一時格納される。
【0168】
そして、先行して入力される信号成分は、所定時間Tinvの後にメモリから読み出され、後続して入力される信号成分と加算される。
【0169】
つまり、各超音波振動子エレメント106は、それぞれ所定時間Tinvの後には、逆位相で駆動され、受信RF信号における基本波成分はその位相を保持している。受信ビームフォーマ124により合成した場合にも各々がその位相関係を保持している。
【0170】
その場合、この所定時間Tinvずれたタイミングで位相反転合成回路125内のメモリの信号を読み出して、両信号を加算することにより、逆位相の基本波成分は互いに打ち消しあう。これに対して偶数次の高調波は、基本波の2乗、4乗、…されたものであるので、逆位相に影響されないで、加算すると2倍の信号として取り出される。
【0171】
その後、合成された信号は、DSC126に出力され、映像信号に変換されてモニタ104の表示面に、高調波による超音波断層像が表示される。
【0172】
なお、高調波によるイメージングと基本波によるイメージングとを交互に行い、両信号を合成して超音波断層像を表示するようにしても良い。この場合、基本波のイメージングを行う場合には、フィルタアレイ122は、基本波を通す周波数帯域に設定される。
【0173】
なお、図14の下段ではDCバイアス電圧の立ち上がり及び立ち下がりを急峻な波形にしているが、図16に示すように滑らかに立ち上がるDCバイアスパルス立ち上がり部Daにすると共に、滑らかに立ち下がるDCバイアスパルス立ち下がり部Dbにすると良い。次に本実施形態における超音波振動子エレメント6の構造をさらに説明し、その製造方法も説明する。
【0174】
図17は、1層目の超音波振動子エレメント6aを示す。シリコン基板131上には、1層目の超音波振動子エレメント106aを構成する複数の超音波振動子セル107aが規則的に2次元配列されている。この例では、7×7個の超音波振動子セル107aにより、1層目の超音波振動子エレメント106aが構成されている。
【0175】
そして、この1層目の超音波振動子エレメント106aを構成する超音波振動子セル107a上には、図18に示すように2層目の超音波振動子エレメント106bを構成する超音波振動子セル107bが積層されている。
【0176】
さらにこの2層目の超音波振動子エレメント106bの超音波振動子セル107bの上には、3層目の超音波振動子エレメント106cを構成する超音波振動子セル107cが積層されている。
【0177】
さらに、3層目の超音波振動子エレメント106cを構成する超音波振動子セル107c上には、図19に示すように4層目の超音波振動子エレメント106dを構成する超音波振動子セル107dが積層されている。
【0178】
また、図20は、図19におけるA−A′線断面を示す。図9等で示したように超音波振動子エレメント106は、積層構造になっている。
【0179】
図20に示すように各層における周辺部分におけるメンブレン支持部151,152,153,154は、その内側の空洞部135を外部と遮断するように形成されている。図20においては、紙面に垂直方向にその下層との接合部がライン状に形成されている。
【0180】
このように周縁部においては、外部と遮断する構造にして、使用中は元より、使用後に洗浄等を行う場合においても、空洞部135に不要な蒸気、液体等が混入しないように密閉構造にしている。
【0181】
なお、図21に示す変形例のように周縁部のサイズを揃えるようにするため、例えばメンブレン支持部151の周辺に合わせるため,厚みを大きくしたメンブレン支持部152′,153′,154′のようにしても良い。なお、図20及び図21に示すように、下層側ほど、メンブレン支持部の厚みを大きくするようにして、積層構造に適した支持を行えるようにしても良い。また、メンブレンに関しても、下層側ほど、メンブレンの厚みを大きくするようにして、積層構造に対応した構造にしても良い。
【0182】
次に図22A〜図22Iを参照して本実施形態における超音波振動子エレメント106の製造方法を説明する。
【0183】
図22Aに示すようにシリコン基板161の上面に酸化シリコン等の絶縁層162を形成する。次に、図22Bに示すように、この絶縁層162の上に下部電極163を形成してする。
【0184】
次に図22Cに示すように、空洞部等を形成するために必要な犠牲層164を形成する。この犠牲層164は、後で除去される一時的な層であり、エッチング等で除去し易い例えばポリシリコンで形成される。
【0185】
次に図22Dに示すように、犠牲層164における空洞部を形成する部分の上にマスク165を2次元的に配列させうように形成する。図22では例えば左右方向の断面で示しているが紙面に垂直な方向も同様の配列でマスク165が形成される。
【0186】
そして、各空洞部の周囲(のメンブレン支持部となる部分)166にはマスク165を形成しないようにする。
【0187】
次に図22Eに示すように、エッチング処理により、マスク165をしていない部分の犠牲層164を除去して、メンブレン支持部形成用の凹部167を形成する。
【0188】
次に図22Fに示すように、マスク165を除去する。そして、次の図22Gに示すように、凹部167内を充填してメンブレン支持部を形成すると共に、犠牲層164の上面を覆うように絶縁性の窒化シリコン等を用い、メンブレン膜となる膜168を形成する。
【0189】
次に図22Hに示すように、この膜168から下の犠牲層164に届く孔169を形成する。そして、エッチング等により、犠牲層164を除去する。そして、犠牲層164を除去して空洞部170を形成し、その上から孔169を塞ぐようにメンブレン層171を形成する。このメンブレン層171は、窒化シリコンを用いることができる。このメンブレン層171の上に上部電極172を形成すると図22Iとなる。
【0190】
図22A〜図22Iに示す工程を行うことにより、1層目の超音波振動子エレメント106aを形成することができる。そして、この1層目の超音波振動子エレメント106aの上に図22Cから図22Iに示す工程を繰り返すことにより、2層目の超音波振動子エレメント106bを形成することができる。
【0191】
図23A〜図23Hは、2層目の超音波振動子エレメント106bを形成する工程の説明図を示す。
【0192】
簡単に説明すると、図23Aは、上部電極172の上に犠牲層164′を形成した図を示し、図23Bは、犠牲層164′にマスク165′を設けた図を示す。なお、各空洞部の周囲(のメンブレン支持部となる部分)166′にはマスク165′を形成しないようにしている。また、この2層目におけるマスク165′は、(その直下の層となる)1層目のマスク165を形成した位置と2次元的に半ピッチずらして形成する。
【0193】
つまり、2層目におけるマスク165′の中央位置は、1層目における2つのマスク165間の間の位置となるように2次元的にずらして形成する。従って、3層目におけるマスクの位置は、2層目とは半ピッチずれるが1層目のマスクの位置の上部の位置に形成されることになる。
【0194】
図23Cは、エッチング処理して凹部167′を設けた図を示し、図23Dは、マスク165′を除去した図を示す。
【0195】
また、図23Eは、メンブレン層となる膜168′を形成した図を示し、図23Fは、犠牲層164′に届く孔169′を設けた図を示し、図23Gは、エッチングにより犠牲層164′を除去した図を示す。
【0196】
図23Hは、メンブレン層171′を形成し、その上にさらに上部電極172′を形成した図を示す。図23Aから図23Hに示した工程により2層目までの超音波振動子エレメントを製造できる。さらにこの後、同様の製造工程を繰り返すことにより、3層目の超音波振動子エレメントを製造でき、その上に4層目の超音波振動子エレメントを形成することにより、4層構造の超音波振動子エレメント6を製造できる。
【0197】
このようにして製造した積層型静電容量型超音波振動子エレメント106によれば、上述したように従来例に比べて大きな音圧の超音波ビームを発生できると共に、受信した場合においても大きな振幅の電気信号に変換でき、S/Nの良好超音波断層像を得ることができる。
【0198】
また、このような積層型静電容量型超音波振動子エレメント106をアレイ状に2次元配列させたものを用いてビームフォーカスを行うと、より大きな音圧の超音波ビームを発生できると共に、受信した場合においても大きな振幅で電気信号に変換でき、S/Nの良好な超音波断層像を得ることができる。
【0199】
以上述べた本発明の第4の実施形態によれば、積層型静電容量型超音波振動子を用いて生体に超音波を送受信することにより、エネルギ密度の高い超音波ビームを送受信でき、S/Nの良好な超音波断層像を得ることができる。
【0200】
<第5の実施形態>
図24は本発明の第5の実施形態の静電容量型超音波プローブ装置における静電容量型超音波プローブを示す図であり、図25は図24の静電容量型超音波プローブ先端部を拡大して示す斜視図である。
【0201】
図24において、符号201はプローブヘッド、202は静電容量型超音波プローブ装置、203は静電容量型超音波プローブ、203aはシース、203bはジョイント、204は駆動制御部、204a,204bはコネクタ、205は超音波観測装置、206はモニター、208は静電容量型超音波振動子、209は超音波振動子のハウジング、210はフレキシブルシャフトである。
【0202】
プローブヘッド201は超音波センサーとしての超音波振動子208を備えていて、細い管で構成されるシース203aを超音波の鉗子孔の中に挿入し、先端の突き出したところで光学的な画像を内視鏡で見ながら、超音波の画像を観測する、といった使い方をしている。プローブヘッド201の超音波振動子208としては、従来の圧電型の超音波振動子に代えて、静電容量型の超音波振動子を使用する。
【0203】
図25は上記プローブヘッド201の構造を示している。
【0204】
図25において、プローブヘッド201におけるシース203aの内部に、静電容量型超音波振動子208がハウジング209にて保持された状態で配設されていいる。ハウジング209には開口部が設けられており、該開口部は超音波振動子208の超音波放出面に対向して形成されている。
【0205】
図26は図25における静電容量型超音波振動子208の一部分の断面図を示している。
【0206】
図26は基本構造を示しており、符号211は静電容量型超音波振動子セル、212はシリコン基板、213は下部電極、214は上部電極、215はメンブレン、216はキャビティ、219はメンブレン支持部である。
【0207】
シリコン基板212は低抵抗シリコンで構成され、は絶縁体例えばSiN,SiO2等で構成されている。
【0208】
シリコン基板212には各々が振動子セルを形成すべく低抵抗シリコン基板212上に下部電極213を形成後、絶縁性のメンブレン支持部219を形成し、高分子フィルムからメンブレン215を形成し、上部電極214を形成する。以上により、キャビティ216が形成される。キャビティ216は空気などで満たされた空間である。このような構造の作成は、半導体プロセスで一挙に作成することも可能である。
【0209】
図27は本発明の第5の実施形態の特徴的な構造を立体的に示い斜視図である。図28は図27の特徴的な構造の上に下部,上部電極及びメンブレンを形成した側断面図を示している。
【0210】
これらの図において、符号216はキャビティ、218は弾性体支柱、219はメンブレン支持部、2161はキャビティ上部間隙部、2162はキャビティ側部間隙部、2131は下部電極である。その他の符号は図26と同様である。
【0211】
図27では、図26におけるキャビティ216の中に、複数の円柱状又は円板状の弾性体支柱218を林立させた構造としている。
【0212】
そして、図28に示すように、複数の弾性体支柱218の各円柱全体の表面全てを覆うようにして下部電極2131が形成されている。このように複数の弾性体支柱218を覆って下部電極2131を形成することによって、キャビティ216の音響インピーダンスが変わってくる。従って、弾性体支柱218は音響インピーダンス調整支柱としての機能を果たす。
【0213】
つまり、キャビティ全体が空気であると、その空気の音響インピーダンスしか有しないことになるが、そのキャビティ216の中に複数の弾性体支柱218の林立した構造を作ってやると、中間的な平均化したようなインピーダンスになり、キャビティの中の平均的な音響インピーダンスを高めることになる。
【0214】
これは、複数の弾性体支柱218の高さを色々に変えたり、密度を変えたりすることによって、キャビティ内の音響インピーダンスを色々にコントロールできることを意味している。従って、見掛け上の音響インピーダンスを生体の音響インピーダンスに近づけて、音響整合させることができる。
【0215】
図29は、図28の変形例を示す側断面図である。図28と異なる点は、図29では、林立する複数の弾性体支柱218の支柱高さに球面状の分布曲線220を持たせたものである。このようにすると、上からみた音響インピーダンスが曲面に従って分布特性を持つことになる。キャビティ216にはシリコン基板との境界部分で音響インピーダンス特性に極端に変化することになるが、図29のように境界部付近では支柱高さが高く球面状の分布曲線220の中心部分では支柱高さが低くなるようにしておくことで、境界部近傍即ち静電容量型超音波振動子の開口周辺部分での音響インピーダンス特性の変化を滑らかにすることが可能となる。
【0216】
なお、図28及び図29の実施形態で、静電容量型超音波振動子セルを構成する音響整合手段としての、複数の弾性体支柱218で成る音響インピーダンス調整支柱と、メンブレン215との間に、ヘルムホルツの共鳴器構造を介在させる構成としてもよい。即ち、超音波振動子セルにおけるメンブレン215に例えば1つの孔を設けると、キャビティの中で共鳴した音波が孔を通して放出され、その音波を利用することが可能な孔空きのキャビティ構造、即ち、ヘルムホルツの共鳴器構造を構成できる。
【0217】
<第6の実施形態>
図30は本発明の第6の実施形態の静電容量型超音波プローブにおける静電容量型超音波振動子の側断面図を示している。符号221はポーラスシリコン,ポーラス樹脂等のポーラス材、223は流動パラフィン等の音響媒体、224はキャップ等の外皮である。
【0218】
図30においては、生体の音響インピーダンスと空気をキャビティ216に用いた静電容量型超音波振動子との音響的な整合をとるために、キャビティ216が形成されたシリコン基板212の上に音響媒体としての流動パラフィン223がスペーサ222にて周囲を囲まれた状態で配設され、さらにその上に流動パラフィン223が飛び散ることのないように外皮としてのキャップ224が配設されている。流動パラフィン223は、バラフィン状の流動し易い液体の音響媒体であり、空気に比べて音響インピーダンスは非常に高くて生体の音響インピーダンスに近い。そして、流動パラフィン223の層の厚さが面内で一定に保つために、前述のスペーサ222を設けて平行層が形成されるようにしている。
【0219】
ここで、キャビティ216として、空気を用いた場合、流動パラフィン223の層は、メンブレン215を見た見かけの音響インピーダンスと外皮224に接触する図示しない生体の音響インピーダンスとをインピーダンス整合する音響整合層を形成している。
【0220】
音響整合層には音響インピーダンス的な条件として、層の厚さが一定であることが必要である。つまり、λ/4(ただし、λは超音波の波長)に相当する厚さを持つことが必要である。この条件を満たすためには、例えば、外皮224と高分子膜によるメンブレン215との間に、スペーサ222を入れて音響媒体としての流動パラフィン223の層の厚みが一定となるようにしている。
【0221】
次に、図30のキャビティ216として、ポーラスシリコンやポーラス樹脂などのポーラス材221が用いた場合について説明する。このポーラス材は、ポーラスシリコンの場合は、シリコン(Si)に非常に細かい孔が空いている。閉じた孔ではなくて開放した孔である。その孔には空気が入り込むので平均化すると、空気とシリコンの材料の、平均化した音響インピーダンスの値が得られることになる。ある程度の弾性も有していて、振動も可能である。そのポーラス材の孔の向きについては、孔の深さ方向が厚さの方向となっている。つまり、厚み方向に孔が掘り下げられてある。そいう孔が面内に非常に多数分布している。従って、平均化すると、シリコンの体積分と空気層が占める体積分との平均加算に相当する音響インピーダンスが得られることになる。
【0222】
このようにキャビティ216の中に、上記のようなポーラス材221を埋め込むと、空気の代わりにある程度高めの音響インピーダンスを持った材質が入り込むので、それだけで音響整合ができる。この場合には、前述した流動パラフィン223は、単に超音波をロスなく生体に伝える役目だけになる。
【0223】
<第7の実施形態>
図31は本発明の第7の実施形態の静電容量型超音波プローブにおける静電容量型超音波振動子の側断面図を示している。図32は図31における凹凸のポリイミドのシート(以下、PIシート)の平面図を示している。これらの図において、符号230は凹凸のPIシート、231は保護膜ホーン、232はひだ部、233は変位部、234,235は変位、236は静電容量型超音波振動子セルにおけるメンブレン中心部、237は静電容量型超音波振動子セル領域、238は折れ稜線、をそれぞれ示している。
【0224】
変位部233は斜面になっており、折り曲げた屋根状に形成されている。その屋根形状にて、保護膜兼絶縁層兼ホーンの役割を果たしている。PIシート230はポリイミドのシートであるから耐薬品性、耐食性があり、保護膜として機能し、また電気的絶縁性もあり、絶縁層としても機能する。さらに、屋根状の構造にしてホーンの役割もさせている。凹部の中心に当たる位置236は、静電容量型超音波振動子セルのメンブレン215の中心部に対応している。
【0225】
このように凹凸のPIシート230によるホーン構造にすると、この構造そのもので音響インピーダンス変換をすることができる。PIシート230以外の、下部電極213、上部電極214、キャビティ216、メンブレン215の構造については、第5,第6の実施形態と同様である。なお、ホーンの形状によっては、超音波エネルギーを高める増幅機能を持たせることも可能であるが、ここでは単純に音響インピーダンス変換をする目的の構造となっている。
【0226】
<第8の実施形態>
図33及び図34は本発明の第8の実施形態の静電容量型超音波プローブにおける静電容量型超音波振動子の側断面図を示している。これらの図において、符号240は第一音響整合層、241は第二音響整合層、242は空気層、244は超音波放射孔、245は超音波送信方向、246は診断対象物、247は空洞層である。なお、メンブレン215を形成する高分子膜はフレキシブルフィルムで構成されており、符号243はフレキシブルフィルムの振動変位を示している。
【0227】
図33は、空気で形成されるキャビティ216の底面に下部電極213が形成され、キャビティ216の上にメンブレン215が形成され、さらにその上に上部電極214が配設された通常構成の静電容量型超音波振動子の高分子膜によるメンブレン215と、診断対象物246との間に、複数(図では2つ)の音響整合層240,241を空気層242を介在させた構造としたものである。
【0228】
一層目の音響整合層240がポーラスシリコーン樹脂、二層目の音響整合層241がシリコーン樹脂である。音響整合をする層の総数が多くなればなるほど精度の高い音響整合が可能となる。
【0229】
ポーラスシリコーン樹脂は、ベースになる材料がシリコーン樹脂であり、シリコーン樹脂の膜を形成している。シリコーン樹脂の膜をポーラス状に加工してそれを音響整合層の膜として用いている。ポーラスシリコーン樹脂の音響インピーダンスは、ポーラスに空気が入っているので、空気と孔の空いていないシリコーン樹脂の中間的な値となる。そして、二層目の孔の空いていないシリコーン樹脂があって、最終的には診断対象物である生体に結合させる。
【0230】
音響整合というのは、対象物の音響インピーダンス(ρc)oと音源の音響インピーダンス(ρc)sに差異がある場合、両者の間に、その中間的な音響インピーダンス(ρc)mを持つ層を介在させることである。従って、介在する層が2層m1,m2である場合、それぞれの音響インピーダンスを(ρc)m1,(ρc)m2とすると、
(ρc)s<(ρc)m1<(ρc)m2<(ρc)oであることが必要である。
【0231】
従って、シリコーン樹脂m2が(ρc)m2=1とすると、(ρc)m1<<1となる。
【0232】
空気層242の音響インピーダンスは<<1であるので、ρcの関係は以下のようになる。
【0233】
(ρc)s<(ρc)m1<(ρc)m2<(ρc)o
ここで、ρcについては例えば、(ρc)s=10−2Mrayl、(ρc)m1<<1.0Mrayl、(ρc)m2=1.0Mrayl、(ρc)o=1.5Mraylである。
【0234】
図34は、ヘルムホルツのキャビティと呼ばれる構造の一例を示している。シリコン基板212の中間にフレキシブルフィルムによるメンブレン215を形成してある。シリコン基板212には、メンブレン215を境にしてキャビティ216とそれに対峙して空洞層247が形成されており、空洞層247の略中央にはシリコン基板212を貫通する超音波放射孔244が設けられている。そして、シリコン基板212の孔244が形成された超音波放出側の面には、2つの層からなる音響整合層240,241が形成されている。キャビティ216の底面には下部電極213が形成され、この下部電極213に対向したメンブレン215上には上部電極214が形成されていることは図33と同様である。
【0235】
このように、超音波振動子セルにおけるメンブレン215の上にキャビティ216に対向して空洞層247を設け、そこに例えば1つの孔244を設けると、キャビティ216及び空洞層247の中で共鳴した音波が孔244を通してシリコン基板212の超音波放出側の音響整合層240,241を通して放出され、その音波を利用することが可能となる。
【0236】
<第9の実施形態>
図35及び図36は本発明の第9の実施形態の静電容量型超音波プローブにおける静電容量型超音波振動子の側断面図を示している。これらの図において、符号248はシース、249はシリコン基板、250は静電容量型超音波振動子アレイ、251は静電容量型超音波振動子アレイ一部、252は空気層、253は音響整合層、254は同軸ケーブル、255は隔壁、2511は静電容量型超音波振動子セル、2512はメンブレン、2513は空洞部、2514は下部電極、2515は上部電極、2516は制御回路(SW回路)、2517は制御回路、2518はインターコネクト、2519は外部コンタクト電極、をそれぞれ示している。
【0237】
管状のシース248の中に、シリコン基板249上に半導体プロセスで作成された静電容量型超音波振動子アレイ250が収納され、外部とは隔壁255にて隔離される。シース248からは、静電容量型超音波振動子アレイ250及びシリコン基板249に電気的に接続した同軸ケーブル254が外部へ引き出されている。静電容量型超音波振動子アレイ250とシース248との間には、空気層252があって、その次にシース248の内面に形成した音響整合層253が形成されている。そして、そのシース248の外側に診断対象物である生体がくる。
【0238】
シース248の材料としては、生体に近い音響インピーダンスの材質を使用すると、静電容量型超音波振動子から空気があって、音響整合層があり、シース材があって、生体がくるという順序で音響整合することになる。
【0239】
図36は図35の静電容量型超音波振動子アレイの一部251を拡大して示している。シリコン基板249には厚みがあるので、制御回路2516,2517を作り込むことができる。制御回路2516はスイッチ回路、制御回路2517は例えばパワーアンプやチャージアンプである。シリコン基板の中にインターコネクト2518が貫通して形成され、シリコン基板の厚さ方向に空洞部2513があり、空洞部2513の外面側にメンブレン2512及び上部電極2515がある。空洞部2513の下部に下部電極2514がある。配線をインターコネクト2518を通してシリコン基板249の反対面側に導出している。
【0240】
半導体シリコンプロセスで静電容量型超音波振動子近傍に、駆動信号発生部、パワーアンプ、チャージアンプを構成し、低インピーダンスに変換し信号伝送することにより、同軸ケーブル254によるロスをなくすることが可能となる。
【0241】
<第10の実施形態>
図37は本発明の第10の実施形態の静電容量型超音波プローブにおける静電容量型超音波振動子セルの側断面図を示している。この図において、符号256は樹脂層、257は空隙層、をそれぞれ示している。
【0242】
シリコン基板212の表面に下部電極213を形成し、その上に樹脂層256を配設し、さらに樹脂層256とその上に設けた空隙層257とで所定の高さとなるように、メンブレン215として機能する高分子膜をシリコン基板212上に形成し、さらに樹脂層256及び空隙層257を所定高さに設けてメンブレン215とした高分子膜上に上部電極214を形成している。これによって、下部電極213と上部電極214間に形成されるキャビティの中の見掛け上の音響インピーダンスを高め、診断対象である生体の音響インピーダンスに近づけるようにする。
【0243】
このように、キャビティ内に配設する樹脂層256としては、生体の音響インピーダンスに近いものを使用することで、キャビティの音響インピーダンスを空気ではなくそれよりも高い音響インピーダンスを持ったものとすることができる。キャビティ内における樹脂層以外の空隙層257は空気層のようなものであるが、この空隙層257の高さhを調整することによって、音響インピーダンスを最適なものにすることが可能である。なお、樹脂層256に代えて液体層としてもよい。ただし、液体を用いた場合、キャビティ内を液体で満たすか、或いは一定の厚さを維持する工夫が必要である。
【0244】
以上述べた本発明の第5〜第10の実施形態によれば、効果的な音響インピーダンス整合が可能となるので、受信エコー信号から微小な高調波成分を抽出する技術に利用して、ハーモニックイメージング診断像を得るのに有用である。
【0245】
<第11の実施形態>
図38〜図43は本発明の第11の実施形態に係り、図38は本発明の第11の実施形態の体腔内挿入用静電容量型超音波プローブを備えた超音波診断装置の構成を示し、図39は第11の実施形態の体腔内挿入用静電容量型超音波プローブの先端側の構成を示し、図40は静電容量型超音波振動子エレメントの構造を示し、図41は図40の底面側から見たメンブレン等の形状を示し、図42は静電容量型超音波振動子エレメントを駆動する電気系の構成を示し、図43は変形例における静電容量型超音波振動子アレイを駆動する電気系の構成を示す。
【0246】
図38に示す超音波診断装置301は、図示しない内視鏡のチャンネンル内に挿通可能とする第11の実施形態の体腔内挿入用静電容量型超音波プローブ(以下、静電容量型超音波プローブと略記)302を有する。
【0247】
この静電容量型超音波プローブ302は、静電容量型超音波プローブ本体303と、この静電容量型超音波プローブ本体303の後端のジョイント部303aが着脱自在に接続されるジョイント部304aが設けられた駆動ユニット304とからなる。この駆動ユニット304内には、静電容量型超音波プローブ本体303に内蔵された静電容量型超音波振動子を回転駆動するモータ等の回転駆動機構が内蔵されている。
【0248】
この駆動ユニット304からケーブル部304bが延出され、その後端に設けたコネクタ305は、超音波観測装置306に着脱自在に接続される。この超音波観測装置306は、モニタ307と接続され、モニタ307には超音波観測装置306から映像信号が入力され、この映像信号に対応する超音波断層像を表示する。
【0249】
静電容量型超音波プローブ本体303は、細長で可撓性を有するシース308により覆われて挿入部309が形成され、この挿入部309は、内視鏡のチャンネル内に挿通できるようにしている。
【0250】
この静電容量型超音波プローブ本体303の先端には、図39に示すような超音波プローブヘッド部310が設けられている。
【0251】
図39に示すように円筒形状のシース308の先端を閉塞して超音波プローブヘッド部310が形成され、この超音波プローブヘッド部310の内部には、静電容量型超音波振動子エレメント312を含む静電容量型超音波振動子を取り付けたハウジング311が収納されている。このシース308内部は、超音波を伝達する超音波伝達媒体313が充満されている。
【0252】
この静電容量型超音波振動子エレメント312を含む静電容量型超音波振動子を取り付けたハウジング311は、シース308内に挿通されたフレキシブルシャフト314の先端に取り付けられている。
【0253】
このフレキシブルシャフト314の後端は、図42に示すようにモータ315の回転軸に接続され、このモータ315は、駆動部317からの駆動信号により回転する。そして、このモータ315の回転力がフレキシブルシャフト314を介してハウジング311に伝達され、ハウジング311に取り付けられた静電容量型超音波振動子エレメント312が回転し、この静電容量型超音波振動子エレメント312から送信される超音波ビームをラジアル走査できるようにしている。
【0254】
本実施形態の静電容量型超音波振動子エレメント312は、図40に示すような断面構造になっている。
【0255】
曲面状のメンブレン321をその周縁部で固定し、電極326を配設した基板323を支持する筐体320の凹部内には球面形状かこれに近いドーム形状にされた振動可能な薄膜によるメンブレン321が配置され、このメンブレン321のいずれかの面に、下部電極322a、322b、…が設けられている。
【0256】
また、メンブレン321における周縁部は、筐体320の凹部の上部側の開口を塞ぎ、空隙部を形成する蓋板のような平板形状の基板323の下面に接着等により固定されている。
【0257】
基板323により閉塞された凹部内に、ドーム形状のメンブレン321を配置することにより、凹部は、このドーム形状のメンブレン321及び基板323とで囲まれた前面空隙部324と、メンブレン321の背面及び筐体320底面側とで囲まれた背面空隙部325とが形成される。
【0258】
本実施形態では、ドーム形状のメンブレン321の下面には図41に示すように、同心で円環形状の下部電極322a、322b、…が設けられている。なお、図41は図40における凹部の背面空隙部325側から下部電極322a、322b、…を見た図を示す。
【0259】
また、この基板323の底面におけるドーム形状のメンブレン321の中央付近にその中心が対向するように、円板形状の上部電極326が設けてあり、この上部電極326及び円環形状の下部電極322a、322b、…との間にDCバイアス電圧を印加した状態で駆動信号を印加することにより、メンブレン321を振動させて超音波を送信する静電容量型超音波振動子エレメント312を形成している。
【0260】
また、基板323の上面には、生体330側に効率良く超音波を送信すると共に、生体330側からの超音波を効率良く受信できるように、音響整合手段として、第1音響整合層327と、この第1音響整合層327の上面に設けた第2音響整合層328とを設けている。
【0261】
また、硬い基板323の底面と前面空隙部324の空気層部分との間にも、両者の中間の音響インピーダンスを有する音響整合層3271が、この基板323の底面に取り付けられた上部電極326の表面を覆うようにして設けてある。なお、第1音響整合層327及び第2音響整合層328は、1層の音響整合層にしても良い。
【0262】
なお、ドーム形状のメンブレン321には、小さな通気孔329が数カ所に設けている。
【0263】
このように本実施形態における静電容量型超音波振動子エレメント312においては、ドーム形状のメンブレン321の下面に同心状に設けた複数の下部電極322a、322b、…と、前面空隙部324を介して基板323底面に設けた上部電極326とにより、各下部電極322a、322b、…が設けられたメンブレン部分により、実質的に円環形状の静電容量型超音波振動子セル(振動子セルと略記)が形成されるようにしている。
【0264】
そして、図40に示すように共通の上部電極326と、それぞれ異なる位置の各下部電極322a、322b、…との間に同位相の駆動信号を印加した場合、メンブレン321が略半球状に形成してあるので、駆動信号の印加タイミングをメンブレン321上における異なる位置の電極毎にずらさなくても生体330側に送信される超音波ビームを集束できる構造にしている。
【0265】
つまり、本実施形態における静電容量型超音波振動子エレメント312は、そのメンブレン321部分の形状が構造的に超音波を集束する集束機能を備えていることが特徴となっている。なお、メンブレン321の硬さは、曲面を保ちながら振動できる弾性を有し、かつ基板323よりも柔らかく設定されている。
【0266】
このような構成にしたことにより、例えば図40において下部電極322aが設けられたメンブレン321部分から送信された超音波と、下部電極322bが設けられたメンブレン321部分から送信された超音波とは矢印の線で示すように生体330側に送信され、生体330内における集束点Fで集束する。
【0267】
なお、図40の2点鎖線340で示すように、静電容量型超音波振動子エレメント312の第2音響整合層328の上面に、薬品等に対する耐性を有するバリレン樹脂のコーティング膜340を設けてその内側の静電容量型超音波振動子エレメント312全体を保護するようにしても良い。
【0268】
図42は、本実施形態を備えた超音波診断装置301の制御系の構成を示す。
【0269】
駆動部331からの駆動信号により回転駆動するモータ332は、その回転軸に連結されたフレキシブルシャフト314を介して図42では示していないハウジング311に取り付けた静電容量型超音波振動子エレメント312を回転駆動できるように接続されている。
【0270】
静電容量型超音波振動子エレメント312を構成するドーム状のメンブレン321における底面には同心円状に下部電極322a、322b、…が形成されており、下部電極322a、322bが形成されたメンブレン部分は、等価的的に同環状に複数の振動子セルを構成している。
【0271】
これらの下部電極322a、322b、…は、共通に接続されて送受信切替スイッチ333を経て振動子駆動信号を生成するパルサ334及び受信信号を増幅するレシーバ335に接続されている。なお、上部電極326は、グランドに接続される。
【0272】
また、パルサ334及びレシーバ335は、それぞれDCバイアス制御パルスを発生するDCバイアス発生制御回路336、337と接続されている。そして、これらパルサ334、レシーバ335及びDCバイアス発生制御回路336、337は、超音波観測装置306内の制御回路338からの制御信号により、その動作が制御される。
【0273】
また、超音波観測装置306内には、低電圧で送信用のRF信号を発生する送信回路339が設けてあり、この送信回路339は、制御回路338からの制御信号により、所定の周期でパルス状の低電圧のRF信号を発生し、パルサ334に出力する。
【0274】
パルサ334には、この低電圧のRF信号が入力されるタイミングより僅かに前となるタイミングでRF信号のパルス幅より僅かに広いパルス幅で低電圧のDCバイアス制御パルスが入力される。
【0275】
そして、このパルサ334は、DCバイアス制御パルスにRF信号を加算増幅することにより高電圧のDCバイアスパルスに高電圧のRF信号が重畳された振動子駆動信号を生成し、この振動子駆動信号を制御回路338からの切替制御信号により切り替えらる送受信切替スイッチ333を経て静電容量型超音波振動子エレメント312の各下部電極322a、322b、…に、同時に印加する。
【0276】
このように本実施形態においては、パルサ334からの出力信号は、静電容量型超音波振動子エレメント312を構成する各振動子セルに同時に印加される。
【0277】
この場合、本実施形態ではパルス状の高電圧のDCバイアス電圧は、高電圧のRF信号のパルス幅と殆ど同じパルス幅であるので、超音波を送信する繰り返しの周期に比べると非常に短い期間となり、その実効電圧を非常に小さくできるようにしている。
【0278】
そして、図40に示したように、各振動子セルに駆動信号を同時に印加した場合、それぞれの振動子セルは超音波を送信し、その際、メンブレン321は球面形状かこれに近いドーム形状にしてあるので、生体330側において特定の集束点Fで集束した音圧の高い超音波ビームとなる。
【0279】
各振動子セルにより超音波が送信された直後に、制御回路338からの切替制御信号により送受信切替スイッチ333はレシーバ335側と導通するように切り替えられ、振動子セルは、超音波を受信する状態になる。そして、各振動子セルにより受信され、電気信号に変換された受信RF信号は、レシーバ335により増幅される。
【0280】
この場合にも、各振動子セルは、特定の集束点Fからの信号を同時に受信するので、S/Nが良い超音波の受信信号が得られる。
【0281】
なお、この場合、各振動子セルにDCバイアス電圧が印加された入状態で、レシーバ335は、受信信号を増幅して低インピーダンスに変換して出力する。
【0282】
このレシーバ335により増幅された受信信号は、A/D変換回路341によりデジタルの受信信号データとなり、静電容量型超音波プローブ本体303内のフレキシブルシャフト314内を挿通されたケーブル及び駆動ユニット304内に挿通されたケーブルを経て超音波観測装置306内のデジタルスキャンコンバータ(DSCと略記)342に入力される。
【0283】
このように静電容量型超音波プローブ本体303内等に挿通されたケーブルより伝送される受信信号は、本実施形態においてはデジタル信号にしているので、アナログ信号の場合よりもケーブルによる伝送ロスの影響を受けにくくでき、S/Nの劣化を防止できる。
【0284】
DSC342は、入力されたデジタルの受信信号を映像信号に変換して、モニタ307に出力し、モニタ307の表示面には超音波断層像が表示される。
【0285】
本実施形態は、以下の効果を有する。
【0286】
このように本実施形態における静電容量型超音波振動子エレメント312においては、ドーム形状のメンブレン321に同心状に複数の振動子セルが形成され、これら複数の振動子セルを振動子駆動信号により同時に印加することにより、所定位置で超音波ビームを集束できる。
【0287】
従って、複数の振動子セルを駆動するタイミングを電気的に調整する遅延回路等を用いることなく、簡単な構成で超音波ビームの強度を大きくできると共に、受信した場合にもS/Nの良い状態で受信信号が得られる。また、画質の良い超音波断層像を得ることもできることになる。
【0288】
また、パルサ334やレシーバ335を複数用意しなくても、単数で済むため、送受信するための回路規模を小さくできると共に、小型化や低コスト化することもできる。
【0289】
上記実施形態では、メンブレン321の底面に同心円状の下部電極322a、322b、…、を設けているが、その変形例として例えば渦巻き状に下部電極を形成しても良い。
【0290】
また、上述の説明では、メンブレン321の底面に同心円状の下部電極322a、322b、…を図42に示すように共通に接続して同相の駆動信号により超音波を送信する構成にしているが、同心円状の下部電極322a、322b、…を共通化しないで、それぞれ異なるタイミングで駆動できるようにしても良い。
【0291】
このように構成したことにより、固定焦点を中心に電子的に焦点を再設定できるようにする。
【0292】
図43は、変形例における超音波診断装置301Bの構成を示す。この超音波診断装置301Bは、静電容量型超音波プローブ302Bと、超音波観測装置306B及びモニタ307とから構成される。
【0293】
この超音波診断装置301Bは、図42の超音波診断装置301において、静電容量型超音波振動子エレメント312における同心円状の下部電極322a、322b、…が共通接続されていたものをやめ、それぞれ別々の端子とした静電容量型超音波振動子アレイ312Bの構造にしている。
【0294】
この場合には、同心円状の下部電極322a、322b、…がそれぞれ別々となっているので、図42における振動子セルは、実質的に振動子エレメント350a、350b、…に変更された構成となる。
【0295】
そして、同心円状の下部電極322a、322b、…が設けられた振動子エレメント350a、350b、…は、切替スイッチ回路351の各スイッチ素子を介してパルサ部354とレシーバ部355に接続されている。パルサ部354及びレシーバ部355は、振動子エレメント数のパルサ334及びレシーバ335から構成されている。
【0296】
また、パルサ部354及びレシーバ部355には、DCバイアス発生制御回路336、337からDCバイアス制御信号が印加される。
【0297】
また、超音波観測装置306Bは、送信回路339の送信用のRF信号を送信用遅延部357に入力し、送信用遅延部357は、制御回路338からの補正用の制御信号により複数の遅延回路で送信信号をそれぞれ遅延してパルサ334に出力する。
【0298】
つまり、同心円状の下部電極322a、322b、…が設けられて構成される振動子エレメント350a、350b、…に対して、駆動信号を異なるタイミングで印加できるようにしている。
【0299】
また、本実施形態では、振動子エレメント350a、350b、…により受信された受信信号は、それぞれレシーバ部355のレシーバ335を経てA/D変換部358の各A/D変換回路341に入力され、A/D変換される。
【0300】
A/D変換されたデジタルの受信信号は、超音波観測装置306B内の受信用遅延部359に入力され、制御回路338からの制御信号によりそれぞれ遅延量が調整される。そして、遅延された受信信号は、ビーム合成部346に入力され、ビーム合成されて1つの受信信号が生成される。
【0301】
このビーム合成された受信信号は、DSC342に入力され、映像信号に変換されてモニタ307に出力され、モニタ307の表示面には超音波断層像が表示される。
【0302】
本変形例によれば、例えば製造された静電容量型超音波振動子エレメント312におけるメンブレン321の形状に、ばらつきが存在しても、送信用遅延部357や受信用遅延部359における遅延量を調整することにより、その特性上のばらつきを吸収できる。
【0303】
このため、製造する際に許容されるばらつきを大きくでき、製造コストを低減化することができる。
【0304】
この場合、送信用遅延部357や受信用遅延部359において、必要とされる遅延量は小さくてすむため、小規模で実現できる。
【0305】
また、本変形例の構成によると、上記送信用遅延部357や受信用遅延部359における遅延量を調整することにより、超音波の集束点の位置を変更することもできる。
【0306】
<第12の実施形態>
次に本発明の第12の実施形態を図44A〜図44Cを参照して説明する。第12の実施形態の静電容量型超音波プローブは、第11の実施形態において、図39のハウジング311に取り付けられる図40に示した静電容量型超音波振動子エレメント312とは異なる構造の静電容量型超音波振動子エレメント312Cを採用している。
【0307】
本実施形態における静電容量型超音波振動子エレメント312Cの構造を図44Cに示す。この静電容量型超音波振動子エレメント312Cは、球面状の凹部が形成された硬質のベース360の上面にシリコーン樹脂等による可撓性を有する基板361が屈曲された状態で接着固定されており、この屈曲された基板361の上面には、2次元的に所定間隔等で小さな窪み或いは凹部362が形成されている。
【0308】
シリコーン樹脂としては、ポリジメチルシロキサン(PDMSと略記)や、SU−8(マイクロケミカルコーポレーションの商品名)を使用できる。なお、PDMSとしては、KE106VE(信越シリコーン)やSILPOT184(ダウコーニング)のものを採用できる。
【0309】
また、この凹部362を設けた基板361の上面には、それぞれ可撓性を有する下部電極363、高分子誘電体膜365、上部電極366が順次積層化されており、最上面の上部電極366の上面は所定の曲率半径Rとなる球面形状になっている。
【0310】
この場合、下部電極363に対向する部分により、振動子セル367が形成される。
【0311】
そして、上部電極366と下部電極363に駆動信号を印加することにより、その間に設けた可撓性の高分子誘電体膜365を振動させることにより超音波を発生させることができるようにしている。
【0312】
本実施形態においても第11の実施形態と同様に上部電極366の上面が球面状にしてあるので、各振動子セル367に同時に駆動信号を印加した場合、球面状の超音波の波面が形成され、集束点Fで超音波ビームを集束できる構造になっている。
【0313】
従って、本第11の実施形態によれば、簡単な構造で超音波を集束できると共に、S/Nの良い超音波受信信号が得られる。
【0314】
また、超音波断層像を得るための送受信回路の構成を大幅に簡略化できる。
【0315】
また、本実施形態は、超音波の送信側の面の反対側に、小さな凹部362を設けることにより、隣接する振動子セル367とのクロストークを低減して、各振動子セル367を駆動することができる。また、凹部362を設けることにより、音響インピーダンスを、より生体側の値に近くなるように設定することもできる。
【0316】
図44Cに示す静電容量型超音波振動子エレメント312Cは、図44A及び図44Bに示す製造工程の説明図に従って製造することができる。
【0317】
次に図44A及び図44Bも参照して、この静電容量型超音波振動子エレメント312Cの製造工程を説明する。図44Aに示すようにシリコーン樹脂等による可撓性を有する基板361により所定間隔で空隙部362を形成し、その上面に下部電極363を設ける。また、この下部電極363の上面に取り付けられるために、それぞれ可撓性を有する高分子誘電体膜365、上部電極366を順次接着して積層化したものを用意する。
【0318】
尚、高分子誘電体膜365は、高誘電率を示すPVDF(ポリフッ化ビニリデン)等の樹脂に高誘電率無機粉末を分散させたものでも良い。また、基板361は、シリコーン樹脂等の可撓性樹脂にタングステン等の超音波ダンピング効果を増加させる混合物を含ませても良い。
【0319】
次に変形を容易にする手段或いは工程を行う。つまり、屈曲加工し易い状態或いは屈曲加工した状態で固定するために、図44Aに示すように高分子誘電体膜365と可撓性の基板361の底面側には所定間隔等で小さな切り欠き凹部364と368とをそれぞれを形成する。
【0320】
そして、図44Bに示すように高分子誘電体膜365の底面を可撓性の基板361の上面の下部電極363に接着剤等により固定した後、図44Cに示すように基板361の底面を硬質のベース360の球面状の上面に押し付けた状態で接着剤等により固定する。このようにして、図44Cに示すように球面状の静電容量型超音波振動子エレメント312Cを製造することができる。
【0321】
また、ベース360の球面形状の曲率半径が異なるものを採用すれば、集束点Fが異なるものを簡単に製造することもできる。
【0322】
なお、上述の説明では、基板361を硬質のベース360に固定することにより、静電容量型超音波振動子エレメント312Cを球面状に形成しているが、図44Cのように屈曲した状態で、凹部364,368に接着剤等の充填物369を充填して、球面状に屈曲した状態に固定するようにしても良い。また、これら両方を併用しても良い。なお、球面形状の場合の他に、非球面に変形して固定しても良い。
【0323】
次に図45A〜図45Dを参照して第1変形例の静電容量型超音波振動子エレメント12Dの製造方法を説明する。
【0324】
図45Aに示すように硬質の基板371の上面に略球面状ないしはこれに近い非球面形状の凹部372をざぐり加工等により形成し、この凹部372の表面に下部電極373及びフォトレジスト374の膜を形成する。
【0325】
次にこの図45Aに示すようにこの基板371の上面にフォトマスク375を配置した状態で、このフォトマスク375の上方から平行な光376を照射し、フォトレジスト374を露光する。
【0326】
このフォトマスク375には、2次元的に所定の間隔等で光を通すフォトマスクパターン光透過部377が設けてあり、このフォトマスクパターン光透過部377を通った光376が照射されたフォトレジスト374は、イオンエッチング(Deep RIE)に耐性を有する特性に変化する。
【0327】
次に、イオンエッチングにより図45Bに示すように露光されていないフォトレジスト374、下部電極373の他にその下側の基板371内に達するまでエッチングして、基板371部分に2次元的に所定の間隔等で小さな窪み或いは空隙部378を形成する。その後、図45Cに示すように、フォトレジスト374を除去する。
【0328】
次に図45Dに示すように、フォトレジスト374が除去された下部電極373の上面に、この上面全体を覆うようにして、その上面に上部電極379を設けた可撓性シート、具体的にはポリイミド膜等により構成されるメンブレン380を接合等により取り付けて、静電容量型超音波振動子エレメント312Dを製造する。
【0329】
この場合、メンブレン380を構成するポリイミド膜を加熱し、かつ電圧を印加することによりコンベックス状の基板371の上面の下部電極373にポリイミド膜を接合することができる。
【0330】
この静電容量型超音波振動子エレメント312Dは、下部電極373が設けられた部分で振動子セル381が形成される。
【0331】
本変形例は、図44Cの静電容量型超音波振動子エレメント312Cとほぼ同様の作用及び効果を有する。
【0332】
次に第2変形例の静電容量型超音波振動子エレメント312Eの構造及びその製造方法を図46A〜図46Dを参照して説明する。
【0333】
まず、図46Aに示すように渦巻き状の静電容量型超音波振動子本体エレメント(振動子本体エレメントと略記)391を製造する。この振動子本体エレメント391は、振動子セルを渦巻き方向に沿って細長く形成したものである。
【0334】
図46AのA−A線断面で示すと図46Bのような断面形状となる。図46Bでは内部構造を示していないが、その構造としては、例えば図44Cの振動子セル367の断面構造のもの、或いは図45Dの振動子セル381の断面構造のものでも良い。
【0335】
次にこの渦巻き状の振動子本体エレメント391を、その上面から例えば底面側が球面状の部材で上側から押し付けて図46Cに示すように変形加工する。つまり、図46Cにおいて2点鎖線で示す変形前の上面形状L1から点線で示す変形後の上面形状L2に変形させる。
【0336】
そして、例えば渦巻きの間の間隙部に接着剤398を流し込む等して、図46Dに示すように球面に沿って渦巻き状に配置された静電容量型超音波振動子エレメント312Eを製造する。
【0337】
なお、図46Dに示す静電容量型超音波振動子エレメント312Eは、底面側を接着剤398によりベース399の球面に固定しているが、接着剤398とベース399とを接着しない構造にしても良い。
【0338】
つまり、接着剤398により固定する際に接着剤398に対して剥離し易い部材で形成したベース399を用い、接着剤398が固化した後はベース399を除去しても良い。
【0339】
このようにして、製造した渦巻き状の静電容量型超音波振動子エレメント312Eも、渦巻き状の各部が球面に沿って配置された構造であるので、図46Dに示すように構造的に超音波ビームを集束点Fに集束する機能を持つ。
【0340】
従って、本変形例も、第12の実施形態とほぼ同様の作用効果を有する。
【0341】
以上述べた本発明の第11,第12の実施形態によれば、静電容量型超音波振動子自体を球面形状等にすることにより、送受信される超音波ビームを構造的に集束できる集束手段を形成し、S/Nの良い受信信号が得られる。
【産業上の利用可能性】
【0342】
本発明は、静電容量型超音波プローブ及び静電容量型超音波プローブ装置、並びにこれを用いた超音波診断装置のほか、電子内視鏡装置と超音波診断装置を組み合わせて内視鏡画像と超音波画像とを同時的に得るようにした超音波内視鏡診断装置にも応用できることは勿論である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板と、前記基板上に形成した電極と、空隙層を隔てて構成されるメンブレンと、前記メンブレンを、前記基板上に空隙層を隔てて構成するためのメンブレン支持部と、メンブレン上に形成した電極とからなる静電容量型超音波振動子セルを、前記基板の面内に沿って二次元に配列すると同時に、前記基板に対して垂直方向にも積層配置した構造を有し、
前記静電容量型超音波振動子セルの前記メンブレン支持部が、1層下のメンブレンの略中心部に位置する積層構造を有することを特徴とする静電容量型超音波振動子。
【請求項2】
前記メンブレン支持部の脚底部が、下層メンブレンの中心部近傍でのみ接合された構造を有することを特徴とする請求項1に記載の静電容量型超音波振動子。
【請求項3】
前記メンブレンの厚さが、下層になるにつれてその厚さが厚くなることを特徴とした請求項1または2に記載の静電容量型超音波振動子。
【請求項4】
前記基板の面内に沿って二次元に配列された静電容量型超音波振動子セル群を一つの駆動エレメントとし、前記駆動エレメントの周縁部に配置される静電容量型超音波振動子セルの脚底部が下層と線状に接合された構造を有することを特徴とする請求項1−3のいずれか一項に記載の静電容量型超音波振動子。
【請求項5】
各層のメンブレン上に形成した電極が一層おきに同電位になるように接続され、これによって形成された一対の端子間に駆動用RF信号とDCバイアス信号を重畳した駆動電圧が印加される端子を形成したことを特徴とする請求項1−4のいずれか一項に記載の静電容量型超音波振動子。
【請求項6】
各層のメンブレン上に形成した下部電極が下層の静電容量型超音波振動子セルの上部電極又は、メンブレン上に形成した上部電極が上層の静電容量型超音波振動子セルの下部電極を兼ねていることを特徴とする請求項1−5のいずれか一項に記載の静電容量型超音波振動子。
【請求項7】
前記積層型静電容量型超音波振動子セルを前記基板の面内に沿って二次元に配列すると共に、前記基板に対して垂直方向にも積層配置した電極が共通化される駆動単位のものを前記基板に2次元的に配列したことを特徴とする請求項1−6のいずれか一項に記載の静電容量型超音波振動子。
【請求項8】
前記メンブレン支持部の厚さが、下層になるにつれてその厚さが厚くなることを特徴とした請求項1−6のいずれか一項に記載の静電容量型超音波振動子。
【請求項9】
半導体基板の上面に絶縁層を形成し、その上面に第1の電極層を形成する第1のステップと、
この第1の電極層の上面に、空洞部形成用の一時的な層を形成する第2のステップと、
前記一時的な層の上に、空洞部の形成する部分に対応したマスクを2次元的に配列させるように形成する第3のステップと、
前記マスクを施されていない部分をエッチング処理等で除去して前記第1の電極層に届く凹部を形成する第4のステップと、
前記マスクを除去して一時的な層を露出させる第4のステップと、
前記凹部に充填すると共に前記一時的な層を覆う膜を形成する第5のステップと、
前記膜を貫通し、前記一時的な層に届く孔を形成する第6のステップと、
前記孔を用いてエッチング等により前記一時的な層を除去する第7のステップと、
前記膜の上面にメンブレン層を形成する第8のステップと、
前記メンブレン層の上面に第2の電極層を形成する第9のステップと、
前記第2の電極層の上に前記第2のステップから第9のステップを1回以上繰り返す第10のステップと、
を有し、
上部側のマスクを形成する場合、その中央位置を直下層の2つのマスクの間の位置となるようにずらして形成する
ことを特徴とする積層型静電容量型超音波振動子の製造方法。

【図1A】
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【図1B】
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【図2A】
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【図2B】
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【図2C】
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【図3】
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【図4A】
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【図4B】
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【図4C】
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【図4D】
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【図4E】
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【図5A】
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【図5B】
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【図6】
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【図7A】
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【図7B】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15A】
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【図15B】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【図22A】
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【図22B】
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【図22C】
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【図22D】
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【図22E】
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【図22F】
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【図22G】
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【図22H】
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【図22I】
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【図23A】
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【図23B】
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【図23C】
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【図23D】
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【図23E】
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【図23F】
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【図23G】
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【図23H】
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【図24】
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【図25】
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【図26】
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【図27】
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【図28】
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【図29】
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【図30】
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【図31】
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【図32】
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【図33】
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【図34】
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【図35】
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【図36】
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【図37】
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【図38】
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【図39】
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【図40】
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【図41】
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【図42】
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【図43】
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【図44A】
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【図44B】
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【図44C】
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【図45A】
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【図45B】
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【図45C】
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【図45D】
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【図46A】
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【図46B】
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【図46C】
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【図46D】
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【公開番号】特開2009−194934(P2009−194934A)
【公開日】平成21年8月27日(2009.8.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−125886(P2009−125886)
【出願日】平成21年5月25日(2009.5.25)
【分割の表示】特願2006−514130(P2006−514130)の分割
【原出願日】平成17年6月2日(2005.6.2)
【出願人】(000000376)オリンパス株式会社 (11,466)
【Fターム(参考)】