説明

静電散逸性TPUおよびその組成物

本発明は、(a)少なくとも1種類のポリエステルポリオール中間体を(b)少なくとも1種類のジイソシアナートおよび(c)少なくとも1種類の鎖伸長剤と反応させることによって作製される、静電散逸性熱可塑性ポリウレタン組成物に関する。ポリエステルポリオール中間体は、少なくとも1種類のジアルキレングリコールと少なくとも1種類のジカルボン酸またはそのエステルまたは無水物から誘導することができる。本発明は、さらに、前記熱可塑性ポリウレタン組成物を作製する方法、前記熱可塑性組成物を含むポリマーブレンド、および前記熱可塑性組成物から作製されたポリマー物品を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、静電散逸性熱可塑性ウレタン(TPU)およびその組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
大部分のプラスチックの表面の静電気電荷の形成および保持は、よく知られている。多くのプラスチック材料は、低導電率のために、静電荷を蓄積する傾向が高い。このタイプの静電気電荷の形成および保持は問題となり得る。熱可塑性フィルムのシート上の静電荷の存在は、例えば、シートを互いに付着させ、したがって更なる加工のためにそれらを分離することがより困難になるおそれがある。さらに、静電荷が存在すると、例えば、プラスチックバッグに包装された物品にほこりが付着し、セールスアピールを損なうおそれがある。
【0003】
超小型電子装置はますます複雑で高感度になり、静電放電の制御が電子産業にとって特別な関心事になっている。低電位放電でさえも高感度の装置には深刻な損傷を与えるおそれがある。静電荷の蓄積および散逸を制御する必要性のために、これらの装置の組立て環境全体を部分的な導電性材料および/または静電放電(ESD)材料で構築する必要がしばしばある。静電保護パッケージ、輸送箱、ケーシングおよびカバーは、電気装置および設備を貯蔵、輸送、保護または支持するために導電性高分子材料でできている必要もあり得る。
【0004】
作製または使用中にプラスチック上に蓄積する静電荷の蓄積防止は、帯電防止剤、ESD成分などの種々のESD添加剤を使用して行われてきた。これらの添加剤は、作製後の物品に噴霧または浸漬被覆可能なコーティングとして塗布することができるが、この方法は、通常、一時的な解決策である。あるいは、これらの材料を、物品の作製に使用されるポリマーに加工中に混ぜ込み、それによって耐久性のより大きな対策を提供することができる。
【0005】
しかし、かかるESD材料(ESDおよび/または帯電防止剤)の混ぜ込みは、重大な問題を引き起こす。例えば、大部分のポリマーの従来の加工に必要な高温は、帯電防止剤を損ない、または破壊することが多い。さらに、多数のESD剤は、それが使用されるマトリックスまたはベースポリマーと混和性でない。これらの課題は、ポリマーまたはポリマーを含むブレンドの低成形性をもたらし得る。というのは、帯電防止剤は、加工中に表面に移動または拡散し、鋳型表面にコーティングを堆積し、成形された作製部分の表面仕上げを破壊するおそれがあるからである。深刻な場合、物品表面が油で汚れ、大理石状になる。多くの帯電防止剤は、本質的に陽イオン性または陰イオン性でもある。これらの剤は、プラスチック、特にPVCを分解させる傾向があり、変色または物性低下を招く。ESD剤の使用に伴い得る別の問題としては、蒸発、摩耗およびリンスによるESD能の低下、望ましくない匂いの発生、および製品と接触した物品表面の応力割れまたは亀裂の促進が挙げられる。ESD剤は、水分に対しても極めて感応性であり、ESD剤を水に曝露する用途では有効性が低下し得る。
【0006】
従来技術には高分子量ESD剤の幾つかの例がある。一般に、これらの添加剤は、エチレンオキシド、またはプロピレンオキシド、エピクロロヒドリン、グリシジルエーテルなどのような類似材料の高分子量ポリマーである。これらの添加剤は、ESD添加剤の移動、蒸発および/または熱安定性に関連した問題を克服する高分子量材料である必要がある。しかし、これら従来技術のESD添加剤は、導電率と許容される低レベルの引き抜き可能な陰イオン、特にクロリド、ニトレート、ホスフェートおよびスルフェートとの望ましいバランスがとれておらず、かかるESD添加剤を含む任意の製品は、最終用途によっては容認できない性質を有するおそれがある。
【0007】
さらに、当該技術分野では、帯電防止剤を使用した、または使用しない、良好なESD特性を有するある種のポリエーテル熱可塑性ウレタンの例がある。しかし、ポリエーテルTPU組成物は、一般に、不十分な相分離特性、高分子量を得ることが困難、低物性をもたらす、多数の他のタイプのホストポリマーとの不十分な相溶性、および多数の用途に不向きにする不十分な熱性能を含めて、諸性質に劣る。ポリエステルTPU組成物は、一般に、物性がより良好であるが、ESD特性に劣る。ポリエーテルTPU組成物のESD特性とポリエステルTPU組成物の物性の両方を有するTPU組成物が必要である。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、(a)少なくとも1種類のポリエステルポリオール中間体を(b)少なくとも1種類のジイソシアナートおよび(c)少なくとも1種類の鎖伸長剤と反応させることによって作製される、静電散逸性熱可塑性ポリウレタン(ESD−TPU)組成物を提供する。ポリエステルポリオール中間体は、少なくとも1種類のジアルキレングリコールと少なくとも1種類のジカルボン酸またはそのエステルまたは無水物から誘導することができる。本発明は、かかるESD−TPUポリマーおよびその組成物を作製するプロセスも提供する。
【0009】
本発明の組成物は、許容される静電散逸性のために有効量の金属含有塩を更に含むことができる。
【0010】
本発明の組成物は、少なくとも1種類のポリマーベースと混合された本明細書に記載のESD−TPU組成物を含むポリマーブレンドとすることができる。
【0011】
本発明は、本明細書に記載のESD−TPU組成物を含む、成形されたポリマー物品も提供する。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明の種々の特徴および実施形態を非限定的な例示によって以下に記述する。
【0013】
静電散逸性熱可塑性ポリウレタン
本発明に使用される静電散逸性熱可塑性ポリウレタン(ESD−TPU)ポリマーは、3種類の反応物の反応によって作製される。第1の反応物はポリエステルポリオール中間体であり、第2の反応物はジイソシアナートであり、第3の反応物は鎖伸長剤である。3種類の反応物の各々を以下に考察する。
【0014】
本発明のESD−TPUポリマーおよび/またはその組成物は、従来のポリエステルポリオールから誘導されるTPUポリマーと比較してESD特性が劇的に改善されており、従来のポリエーテルポリオールから誘導されるTPUポリマーと比較して物性および/またはイオン清浄性も改善され得る。一実施形態においては、本発明のESD−TPUポリマーおよび/またはその組成物は、従来のポリエーテルポリオールから誘導されるTPUポリマーおよび/またはその組成物に少なくとも匹敵するESD特性を有し、従来のポリエステルポリオールから誘導されるTPUポリマーおよび/またはその組成物に少なくとも匹敵する物性および/またはイオン清浄性も有する。
【0015】
一部の実施形態においては、本発明のESD−TPUポリマー組成物は、ASTM D−257によって測定して、表面抵抗率が1.0×1013Ω/□以下もしくは未満、および/または体積抵抗率が1.0×1012Ω・cm以下もしくは未満である。別の実施形態においては、ESD−TPUポリマー組成物は、表面抵抗率が1.0×1011Ω/□以下もしくは未満、および/または体積抵抗率が1.0×1011Ω・cm以下もしくは未満である。
【0016】
ESD−TPUポリマー組成物は、帯電圧減衰率が、50%相対湿度で帯電プレートモニターを使用して測定して、1000Vから100Vまで約1秒もしくは約0.1秒未満とすることもでき、および/または帯電圧減衰率が、12%相対湿度でFTMS 101Cによって測定して、5000Vから50Vまでもしくは−5000Vから−50Vまで約1秒もしくは約0.1秒未満とすることもできる。
【0017】
ESD−TPUポリマー組成物は、上記ESD特性の1つ以上と組み合わせた実施形態を含めて、下記物性の1つ以上を有することもできる。該組成物は、硬度がASTM D−2240によって測定して少なくとも60または70ショアA単位とすることができる。該組成物は、ASTM D−412によって測定して、引張り強さが少なくとも10、15、17、更には17.9MPa、極限伸びが300%、500%、更には600%超とすることができる。該組成物は、グレーブス引裂き値が、ダイCを使用してASTM D−624によって測定して、少なくとも5、または5.6kg/mmとすることができる。該組成物は、テーバー減量が、ASTM D−3389またはD4060−95によって測定して、CS−17/1000回転当たり100、50、40、更には35mg以下または未満とすることができる。該組成物は、重量平均分子量が60,000から500,000または80,000から300,000とすることができる。該組成物は、メルトフローインデックスがASTM D−1238手順Aによってバレル温度190℃および3.8kgピストン荷重で測定して50、40、更には35グラム/10分未満とすることができる。
【0018】
一部の実施形態においては、本発明は、容認できないほど高いレベルの引き抜き可能な陰イオン、特にクロリド、ニトレート、ホスフェート、フルオリド、ブロミドおよびスルフェート陰イオンもアンモニウム陽イオンも含まずに、ESDポリマーを得る問題も解決する。かかる実施形態においては、ESD TPUポリマーおよび/またはその組成物は、クロリド陰イオン、ニトレート陰イオン、ホスフェート陰イオン、フルオリド陰イオン、ブロミド陰イオンおよびスルフェート陰イオンの全6種類の群から測定される合計約8,000十億分率(ppb)未満の引き抜き可能な陰イオン、ならびに約1,000ppb未満の前記クロリド陰イオン、約100ppb未満の前記ニトレート陰イオン、約6,000ppb未満の前記ホスフェート陰イオン、および約1,000ppb未満の前記スルフェート陰イオンを含む。
【0019】
ポリエステルポリオール中間体
本発明のポリエステルポリオール中間体は、少なくとも1種類のジアルキレングリコールと少なくとも1種類のジカルボン酸またはそのエステルまたは無水物から誘導される。
【0020】
本発明のポリエステルポリオール中間体は、少なくとも1個の末端ヒドロキシル基を含むことができ、一部の実施形態においては、少なくとも1個の末端ヒドロキシル基および1個以上のカルボン酸基を含むことができる。別の一実施形態においては、ポリエステルポリオール中間体は2個の末端ヒドロキシル基を含み、一部の実施形態においては、2個のヒドロキシル基および1個以上または2個のカルボン酸基を含む。ポリエステルポリオール中間体は、一般に、実質的に線状の、または線状の、数平均分子量(Mn)約500から約10,000、約500から約5000、または約1000から約3000、または約2000のポリエステルである。
【0021】
一部の実施形態においては、ポリエステルポリオール中間体は、1.5未満、1.0未満、更には0.8未満などの低い酸価を有することができる。ポリエステルポリオール中間体の低酸価は、一般に、生成するTPUポリマーの加水分解安定性を改善することができる。酸価は、ASTM D−4662によって求めることができ、試料1.0グラム中の酸性成分を滴定するのに必要な水酸化カリウムのミリグラムで表される塩基量として定義される。加水分解安定性は、TPUポリマーを処方する当業者に既知である加水分解安定剤をTPUに添加することによって改善することもできる。
【0022】
本発明のポリエステルポリオール中間体の調製における使用に適したジアルキレングリコールは、脂肪族、脂環式、芳香族またはその組合せとすることができる。適切なグリコールは、2、4または6個から20、14、8、6または4個の炭素原子を含むことができ、一部の実施形態においては、2から12個、2から8または6個、4から6個、更には4個の炭素原子を含むことができる。一部の実施形態においては、ジアルキレングリコールとしては、オキシジメタノール、ジエチレングリコール、ジプロピレングリコール、3,3−オキシジプロパン−1−オール、ジブチレングリコールまたはその組合せが挙げられる。別の実施形態においては、列挙したジアルキレングリコールの1種類以上を本発明から除外することができる。2種類以上のグリコールのブレンドを使用することができる。一部の実施形態においては、モノアルキレングリコールを上記ジアルキレングリコールと併用することができる。別の実施形態においては、ポリエステルポリオール中間体の調製に使用されるグリコールは、モノアルキレングリコールを含まない。
【0023】
本発明のポリエステルポリオール中間体の調製における使用に適したジカルボン酸は、脂肪族、脂環式、芳香族またはその組合せとすることができる。適切な酸は、2、4または6個から20、15、8または6個の炭素原子を含むことができ、一部の実施形態においては、2から15個、4から15個、4から8個、更には6個の炭素原子を含むことができる。一部の実施形態においては、ジカルボン酸としては、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸、ピメリン酸、スベリン酸、アゼライン酸、セバシン酸、ドデカン二酸、イソフタル酸、テレフタル酸、シクロヘキサンジカルボン酸またはその組合せが挙げられる。別の実施形態においては、列挙したジカルボン酸の1種類以上を本発明から除外することができる。
【0024】
本発明のポリエステルポリオール中間体は、上記1種類以上のジカルボン酸のエステルもしくは無水物またはかかる材料の組合せから誘導することもできる。適切な無水物としては、無水コハク酸、無水アルキルおよび/またはアルケニルコハク酸、無水フタル酸および無水テトラヒドロフタル酸が挙げられる。一部の実施形態においては、酸はアジピン酸である。2種類以上の酸のブレンドを使用することができる。
【0025】
本発明のポリエステルポリオール中間体は、1種類以上の上記ジアルキレングリコールを1種類以上の上記ジカルボン酸および/または1種類以上のそのエステルまたは無水物と反応させることによって調製される。一部の実施形態においては、1当量を超えるグリコールを各当量の酸に対して使用する。調製は、(1)1種類以上のジアルキレングリコールと1種類以上のジカルボン酸または無水物のエステル化反応、または(2)エステル交換反応、すなわち、1種類以上のジアルキレングリコールとジカルボン酸エステルの反応を含む。多数の末端ヒドロキシル基を有する直鎖を得るために、酸に対してグリコールは一般に1モルを超える過剰なモル比が好ましい。
【0026】
一部の実施形態においては、本発明のポリエステルポリオール中間体を1種類以上のポリエーテルポリオール中間体および/または(上記のもの以外のポリオールから誘導される1種類以上のポリエステルポリオール中間体である)ポリエステルポリオール中間体と併用する。本明細書では、本発明のポリエステルポリオール中間体は、ポリエステル結合とポリエーテル結合の混合物を含むことができるが、ポリエーテル結合のみを含まなくてもよく、一部の実施形態においては、70%を超えるポリエーテル結合を含まなくてもよい。別の実施形態においては、本発明の組成物は、ポリエーテルポリオール中間体を実質的に含まず、または含まず、かかる材料は調製に使用されない。本明細書ではポリエーテルポリオール中間体は、ポリエーテル結合のみを含む中間体、または50、40、20、更には15パーセント未満のポリエステル結合を含む中間体を意味することができる。
【0027】
ジイソシアナート
本発明のESD−TPUを作製するための第2の反応物は、ジイソシアナートである。適切なジイソシアナートとしては、(i)4,4’−メチレンビス−(フェニルイソシアナート)(MDI)、m−キシリレンジイソシアナート(XDI)、フェニレン−1,4−ジイソシアナート、1,5−ナフタレンジイソシアナート、ジフェニルメタン−3,3’−ジメトキシ−4,4’−ジイソシアナート(TODI)、トルエンジイソシアナート(TDI)などの芳香族ジイソシアナート、および(ii)イソホロンジイソシアナート(IPDI)、1,4−シクロヘキシルジイソシアナート(CHDI)、デカン−1,10−ジイソシアナート、ヘキサメチレンジイソシアナート(HDI)、ジシクロヘキシルメタン−4,4’−ジイソシアナートなどの脂肪族ジイソシアナートが挙げられる。一部の実施形態においては、ジイソシアナートは4,4’−メチレンビス(フェニルイソシアナート)(MDI)である。別の実施形態においては、列挙したジイソシアナートの1種類以上を本発明から除外することができる。
【0028】
2種類以上のジイソシアナートの混合物を使用することができる。さらに、トリイソシアナートなどの2個を超える官能基を有する少量のイソシアナートをジイソシアナートと併用することができる。3個以上の官能基を有する多量のイソシアナートは、TPUポリマーを架橋させるので、避けるべきである。
【0029】
鎖伸長剤
適切な鎖伸長剤としてはグリコールが挙げられ、脂肪族、芳香族またはその組合せとすることができる。一部の実施形態においては、鎖伸長剤は、2から約12個の炭素原子を有するグリコールである。
【0030】
一部の実施形態においては、グリコール鎖伸長剤は、約2から約10個の炭素原子を有する低級脂肪族または短鎖グリコールであり、例えば、エチレングリコール、ジエチレングリコール、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、1,4−ブタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、1,3−ブタンジオール、1,5−ペンタンジオール、1,4−シクロヘキサンジメタノール、ネオペンチルグリコールなどが挙げられる。一部の実施形態においては、鎖伸長剤としては1,4−ブタンジオールが挙げられる。
【0031】
ベンゼングリコールおよびキシレングリコールを含めて、芳香族グリコールを鎖伸長剤として使用してTPUを作製することもできる。キシレングリコールは1,4−ジ(ヒドロキシメチル)ベンゼンと1,2−ジ(ヒドロキシメチル)ベンゼンの混合物である。ベンゼングリコールとしては、具体的に、ヒドロキノン,1,4−ジ(2−ヒドロキシエトキシ)ベンゼンとしても知られるビス(ベータ−ヒドロキシエチル)エーテル、1,3−ジ(2−ヒドロキシエチル)ベンゼンとしても知られるレソルシノール,ビス(ベータ−ヒドロキシエチル)エーテル、1,2−ジ(2−ヒドロキシエトキシ)ベンゼンとしても知られるカテコール,ビス(ベータ−ヒドロキシエチル)エーテル、およびその組合せが挙げられる。
【0032】
2種類以上のグリコールの混合物を本発明のESD−TPUにおける鎖伸長剤として使用することができる。一部の実施形態においては、鎖伸長剤は、1,4−ブタンジオールと1,6−ヘキサンジオールの混合物である。別の実施形態においては、列挙した鎖伸長剤の1種類以上を本発明から除外することができる。
【0033】
当該技術分野でよく知られているように、ジアミンを鎖伸長剤として使用することもできる。本発明の一実施形態においては、鎖伸長剤は、上記鎖伸長剤の1種類以上と組み合わせて、ジアミンを共鎖伸長剤(co−chain extender)として含む。別の実施形態においては、本発明は、その組成物の調製にジアミンを使用しない。
【0034】
TPU作製プロセス
3種類の反応物(ポリエステルポリオール中間体、ジイソシアナートおよび鎖伸長剤)を互いに反応させて、本発明の高分子量ESD−TPUを形成する。3種類の反応物を反応させる任意の公知プロセスを使用してTPUを作製することができる。一実施形態においては、プロセスは、いわゆる「一括」プロセスであり、全3種類の反応物を押出機反応器に添加し、反応させる。ヒドロキシル含有成分、すなわち、ポリエステルポリオール中間体および鎖伸長剤グリコールの総当量に対するジイソシアナートの当量は、約0.95から約1.10、または約0.96から約1.02、更には約0.97から約1.005である。ウレタン触媒を利用する反応温度は、約175℃から約245℃とすることができ、別の実施形態においては180℃から220℃とすることができる。
【0035】
一般に、任意の従来の触媒を利用して、ジイソシアナートをポリエステルポリオール中間体または鎖伸長剤と反応させることができる。適切な触媒の例としては、ビスマスまたはスズの種々のアルキルアミン、アルキルエーテルまたはアルキルチオールエーテルが挙げられ、アルキル部分は、1から約20個の炭素原子を有する。具体例としては、オクタン酸ビスマス、ラウリン酸ビスマスなどが挙げられる。好ましい触媒としては、オクタン酸スズ(II)、ジブチルスズジオクトアート、ジブチルスズジラウラートなどの種々のスズ触媒が挙げられる。かかる触媒の量は、一般に、ポリウレタンを形成する反応物の総重量の約20から約200百万分率などの少量である。
【0036】
ESD−TPUは、プレポリマープロセスを利用して調製することもできる。プレポリマー経路では、ポリエステルポリオール中間体を一般に当量的に過剰の1種類以上のジイソシアナートと反応させて、その中に遊離または未反応ジイソシアナートを含むプレポリマー溶液を形成する。反応は、一般に、温度約80℃から約220℃または約150℃から約200℃で適切なウレタン触媒の存在下で実施される。続いて、上述した鎖伸長剤をイソシアナート末端基および任意の遊離または未反応ジイソシアナート化合物にほぼ等しい当量で添加する。したがって、ヒドロキシル末端ポリエステルおよび鎖伸長剤の総当量に対する総ジイソシアナートの総当量比は、約0.95から約1.10、または約0.96から約1.02、更には約0.97から約1.05である。鎖伸長反応温度は、一般に、約180℃から約250℃、または約200℃から約240℃である。典型的には、プレポリマー経路は、押出機を含めて、任意の従来装置で実施することができる。かかる実施形態においては、ポリエステルポリオール中間体は、当量的に過剰のジイソシアナートと押出機の第1の部分で反応して、プレポリマー溶液を形成し、続いて鎖伸長剤を下流部分に添加し、プレポリマー溶液と反応させる。長さと直径の比が少なくとも20、一部の実施形態においては少なくとも25であるバリアスクリューを備えた押出機を含めて、任意の従来の押出機を利用することができる。
【0037】
一実施形態においては、複数の加熱域および複数の供給口を有する一軸または二軸押出機においてその供給端部とそのダイ端部の間で成分を混合する。成分は、1個以上の供給口から添加することができる。押出機のダイ端部を出た生成ESD−TPU組成物はペレット化することができる。
【0038】
一部の実施形態においては、成分(a)のポリエステルポリオール中間体としてはポリ(ジエチレングリコールアジパート)が挙げられ、成分(b)のジイソシアナートとしては4,4’−メチレンビス−(フェニルイソシアナート)が挙げられ、成分(c)の鎖伸長剤としてはブタンジオール、HQEE(ヒドロキノンビス(2−ヒドロキシエチル)エーテル)またはその組合せが挙げられる。
【0039】
金属含有塩
一部の実施形態においては、本発明の組成物は、金属含有塩、塩複合体、または金属イオンと非金属イオンもしくは分子の結合によって形成される塩化合物を更に含むことができる。存在する塩の量は、ESD−TPUポリマーおよび/または組成物全体のESD特性を改善するのに有効な量とすることができる。任意に選択される塩成分を一括重合プロセス中に添加することができる。塩は、リチウム含有塩とすることができる。
【0040】
塩がESD−TPUポリマー反応生成物に付着および/または吸引される正確な機序は完全には理解されていないが、塩は、予想外に、生成ポリマーの表面および体積抵抗率を改善することができ、容認できないほど高いレベルの引き抜き可能な陰イオンの存在なしにこれを達成することができる。さらに、帯電圧減衰時間は許容範囲内のままであり、すなわち、早すぎも遅すぎもしない。
【0041】
本発明に有用である塩の例としては、LiClO、LiN(CFSO、LiPF、LiAsF、Lil、LiCl、LiBr、LiSCN、LiSOCF、LiNO、LiC(SOCF、LiSおよびLiMRが挙げられる。ここで、MはAlまたはBであり、Rはハロゲン、ヒドロカルビル、アルキルまたはアリール基である。一実施形態においては、塩は、リチウムトリフルオロメタンスルホンイミドと一般に称される(イミド構造を有するが、リチウムトリフルオロメタンスルホンアミドとも時折称される)LiN(CFSO、またはトリフルオロメタンスルホン酸のリチウム塩である。一括重合に添加される選択された塩の有効量は、ポリマー100重量部に対して少なくとも約0.10、0.25、更には0.75重量部とすることができる。
【0042】
一部の実施形態においては、本発明の組成物は、スルホナート型陰イオン性帯電防止剤を更に含む。適切な例としては、アルキルスルホン酸金属およびアルキル芳香族スルホン酸金属が挙げられる。アルキルスルホン酸金属としては、アルキル基が1から35個または8から22個の炭素原子を有する脂肪族スルホン酸アルカリ金属またはアルカリ土類金属が挙げられる。アルカリ金属としては、ナトリウムおよびカリウムが挙げられ、アルカリ土類金属としてはカルシウム、バリウムおよびマグネシウムが挙げられる。アルキルスルホン酸金属の具体例としては、n−ヘキシルスルホン酸ナトリウム、n−ヘプチルスルホン酸ナトリウム、n−オクチルスルホン酸ナトリウム、n−ノニルスルホン酸ナトリウム、n−デシルスルホン酸ナトリウム、n−ドデシルスルホン酸ナトリウム、n−テトラデシルスルホン酸ナトリウム、n−ヘキサデシルスルホン酸ナトリウム、n−ヘプタデシルスルホン酸ナトリウムおよびn−オクタデシルスルホン酸ナトリウムが挙げられる。アルキル芳香族スルホン酸金属の具体例としては、1から35個または8から22個の炭素原子を有するアルキル基で置換された1から3個の芳香族核を含むスルホン酸のアルカリ金属またはアルカリ土類金属塩が挙げられる。芳香族スルホン酸としては、例えば、ベンゼンスルホン酸、ナフタレン−1−スルホン酸、ナフタレン−2,6−ジスルホン酸、ジフェニル−4−スルホン酸およびジフェニルエーテル4−スルホン酸が挙げられる。アルキル芳香族スルホン酸金属としては、例えば、ヘキシルベンゼンスルホン酸ナトリウム、ノニルベンゼンスルホン酸ナトリウムおよびドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウムが挙げられる。
【0043】
本発明の組成物は、イオン性液体など、非金属を含有する帯電防止添加剤を含むこともできる。適切な液体としては、(FC−4400として3M(商標)から入手可能な)トリ−n−ブチルメチルアンモニウムビス−(トリフルオロエタンスルホニル)イミドおよび類似材料が挙げられる。
【0044】
一部の実施形態においては、本発明は、金属含有塩と一緒に共溶媒を使用することができる。共溶媒を使用すると、一部の実施形態においては、ESD特性においてより低電荷の塩で同じ利点を得ることができる。適切な共溶媒としては、炭酸エチレン、炭酸プロピレン、ジメチルスルホキシド、テトラメチレンスルホン、トリおよびテトラエチレングリコールジメチルエーテル、ガンマブチロラクトンならびにN−メチル−2−ピロリドンが挙げられる。共溶媒は、存在する場合、ポリマー100重量部に対して少なくとも約0.10、0.50、更には1.0重量部使用することができる。一部の実施形態においては、本発明の組成物は、本明細書に記載の共溶媒のいずれかまたはすべてを実質的に含まない、または含まない。
【0045】
別の実施形態においては、本発明の組成物は、本明細書に記載の金属含有塩のいずれかまたはすべてを実質的に含まない、または含まない。
【0046】
追加の添加剤
本発明の組成物は、追加の有用な添加剤を更に含むことができ、かかる添加剤を適切な量で利用することができる。これらの任意に選択される追加の添加剤としては、所望のとおりに、不透明化顔料、着色剤、鉱物および/または不活性充填剤、光安定剤を含めた安定剤、潤滑剤、UV吸収剤、加工助剤、酸化防止剤、オゾン分解防止剤、ならびに他の添加剤が挙げられる。有用な不透明化顔料としては、二酸化チタン、酸化亜鉛、およびチタナートイエローが挙げられる。有用な着色顔料としては、カーボンブラック、黄色酸化物、褐色酸化物、ローおよびバーントシエナまたはアンバー、酸化クロムグリーン、カドミウム顔料、クロム顔料、ならびに他の混合金属酸化物および有機顔料が挙げられる。有用な充填剤としては、珪藻土(superfloss)クレイ、シリカ、タルク、マイカ、珪灰石(wallostonite)、硫酸バリウムおよび炭酸カルシウムが挙げられる。必要に応じて、酸化防止剤などの有用な安定剤を使用することができ、フェノール酸化防止剤が挙げられる。有用な光安定剤としては有機リン酸および有機スズチオラート(メルカプチド)が挙げられる。有用な潤滑剤としては、ステアリン酸金属、パラフィン油およびアミドワックスが挙げられる。有用なUV吸収剤としては、2−(2’−ヒドロキシフェニル)ベンゾトリアゾールおよび2−ヒドロキシベンゾフェノンが挙げられる。添加剤は、TPUポリマーの加水分解安定性を改善するのに使用することもできる。これらの任意に選択される追加の上記添加剤の各々は、本発明の組成物中に存在することができ、または本発明の組成物から除外することができる。
【0047】
これらの追加の添加剤は、存在する場合、本発明の組成物中に組成物の0または0.01から5または2重量%存在することができる。これらの範囲は、組成物中に存在する追加の各添加剤に別々に適用することができ、または存在するすべての追加の添加剤の合計に適用することができる。
【0048】
ポリマーを含むブレンド
本発明のESD−TPUポリマーは、マトリックスまたはベースポリマーとブレンドしてポリマーブレンドを形成することができる。このブレンドは、上記塩変性ESD−TPUポリマーを使用して作製することもできる。
【0049】
本明細書に定義された適切なベースポリマーは、ホモポリマーまたはコポリマーとすることができる。ベースポリマーは、複数のベースポリマーのブレンドとすることができ、ESD添加剤を含めて、上記追加の添加剤のいずれかを更に含むことができる。一部の実施形態においては、本発明のベースポリマーおよび/または組成物は、ESD添加剤を実質的に含まない、または含まない。
【0050】
ベースポリマーは、以下を含むことができる。
【0051】
(i)ポリエチレン(PE)、ポリプロピレン(PP)、ポリブテン、エチレンプロピレンゴム(EPR)、ポリオキシエチレン(POE)、環状オレフィンコポリマー(COC)、その組合せなどのポリオレフィン(PO)、
(ii)ポリスチレン(PS)、アクリロニトリルブタジエンスチレン(ABS)、スチレンアクリロニトリル(SAN)、スチレンブタジエンゴム(SBRまたはHIPS)、ポリアルファメチルスチレン、メタクリル酸メチルスチレン(MS)、スチレン無水マレイン酸(SMA)、(スチレン−ブタジエン−スチレンコポリマー(SBS)、スチレン−エチレン/ブタジエン−スチレンコポリマー(SEBS)などの)スチレン−ブタジエンコポリマー(SBC)、スチレン−エチレン/プロピレン−スチレンコポリマー(SEPS)、スチレンブタジエンラテックス(SBL)、エチレンプロピレンジエンモノマー(EPDM)および/またはアクリルエラストマーで変性されたSAN(例えば、PS−SBRコポリマー)、その組合せなどのスチレン系(styrenic)、
(iii)熱可塑性ポリウレタン(TPU)、
(iv)ポリアミド6,6(PA66)、ポリアミド1,1(PA11)、ポリアミド1,2(PA12)を含めたナイロン(商標)、コポリアミド(COPA)、その組合せなどのポリアミド、
(v)ポリアクリル酸メチル、ポリメタクリル酸メチル、その組合せなどのアクリルポリマー、
(vi)ポリ塩化ビニル(PVC)、塩素化ポリ塩化ビニル(CPVC)またはその組合せ、
(vii)ポリアセタールなどのポリオキシメチレン、
(viii)ポリエチレンテレフタラート(PET)、ポリブチレンテレフタラート(PBT)、グリコール変性ポリエチレンテレフタラート(PETG)などのポリエーテル−エステルブロックコポリマーを含めたコポリエステルおよび/またはポリエステルエラストマー(COPE)、ポリ乳酸(PLA)、その組合せなどのポリエステル、
(ix)ポリカルボナート(PC)、ポリフェニレンスルフィド(PPS)、ポリフェニレンオキシド(PPO)またはその組合せ、
またはその組合せ。
【0052】
ポリ塩化ビニル(PVC)、ビニルポリマーまたはビニルポリマー材料とは、本明細書では、ハロゲン化ビニルおよびハロゲン化ビニリデンのホモポリマーおよびコポリマーを指し、CPVCなどの後でハロゲン化されたハロゲン化ビニルを含む。これらハロゲン化ビニルおよびハロゲン化ビニリデンの例は、塩化ビニル、臭化ビニル、塩化ビニリデンなどである。ハロゲン化ビニルおよびハロゲン化ビニリデンは、互いに共重合することができ、または少なくとも1個の末端CH=C<基を有する1種類以上の重合可能なオレフィンモノマーと各々共重合することができる。かかるオレフィンモノマーの例としては、アクリル酸、メタクリル酸、エチルアクリル酸、アルファ−シアノアクリル酸などのアルファ,ベータ−オレフィン性不飽和カルボン酸;アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸ブチル、アクリル酸オクチル、アクリル酸シアノエチル、アクリル酸ヒドロキシエチルなどのアクリル酸エステル;メタクリル酸メチル、メタクリル酸ブチル、メタクリル酸ヒドロキシエチルなどのメタクリル酸エステル;アクリロニトリル、メタクリロニトリルなどのニトリル;メチルアクリルアミド、N−メチロールアクリルアミド、N−ブチルオキシメチルアクリルアミドなどのアクリルアミド;エチルビニルエーテル、クロロエチルビニルエーテルなどのビニルエーテル;ビニルケトン;アルファ−メチルスチレン、ビニルトルエン、クロロスチレンなどのスチレンおよびスチレン誘導体;ビニルナフタレン、アリルおよびビニルクロロアセタート、酢酸ビニル、ビニルピリジン、メチルビニルケトン;ブタジエン、イソプレン、クロロプレンなどを含めたジオレフィン;および当業者に既知のタイプの他の重合可能なオレフィンモノマーが挙げられる。一実施形態においては、ベースポリマーとしては、ポリ塩化ビニル(PVC)および/またはポリエチレンテレフタラート(PET)が挙げられる。
【0053】
工業用途
本発明の組成物は、上記ブレンドを含めて、種々の用途に有用である。幾つかの例は、チューブ、用紙トレイ、床タイル、機械ハウジング、建設および製造装置、ならびにポリマーシートおよびフィルムである。より具体的には、例としては、燃料ライン、蒸気回収装置などの燃料取扱い装置、事務機器、クリーンルーム、建設区域などの床のコーティング、用途、衣類、床材、マット、電子部品実装およびハウジングを含めたクリーンルーム装置、チップホルダー、チップレール、輸送箱および輸送箱上面、医学的用途、デバイダーおよび/またはセパレーターなどの電池部品、ならびに一般成形物品が挙げられる。
【0054】
一実施形態においては、本発明の組成物を使用して、電子部品用パッケージング材料、リチウムイオン電池の構築に使用される内部電池セパレーター、クリーンルーム用品および建設資材、帯電防止コンベヤベルト、事務機器部品、帯電防止衣類および靴、またはその組合せとして使用されるポリマー物品を作製する。
【0055】
電子部品としては、半導体を含めて、ESDに感応性の部品が挙げられる。本発明の物品は、クリーンルーム装置および用途のための耐久または消耗部品とすることもできる。クリーンルームおよびデータセンター用の建設資材および/または建材も挙げられ、軟質壁、カーテン、床材、作業台などの品目が挙げられる。本発明の物品としては、積層シート、食品、医薬品、医療機器および電子部品の製造用コンベヤベルト、またはその組合せも挙げられる。
【0056】
さらに、本発明の組成物を使用して、リチウムイオン電池、リチウムポリマー電池および燃料電池のセパレーターおよび他の部品を調製することができる。本発明の組成物および物品のかかる使用は、改善された安全性、性能、コストまたはその組合せの領域において、現行の電池および燃料電池にまさる利点をもたらす。本発明の組成物を使用して、電池のアノード間に配置されるセパレーター層、およびポリマー電解質膜を構築することができる。
【0057】
本組成物は、射出成形、圧縮成形、スラッシュ成形、押し出し、熱成形キャスト、回転成形、焼結および真空成形を含めて種々の成形技術を用いて、使用することができる。本発明の物品は、懸濁、塊状、乳濁または溶液プロセスによって作製される樹脂から作製することもできる。
【0058】
上記材料の一部は、最終処方において相互作用することがあり、最終処方の各成分は、最初に添加された成分とは異なり得ることが知られている。例えば、(例えば、洗浄剤の)金属イオンは、別の分子の別の酸性または陰イオン性部位に移動し得る。それによって形成される生成物は、本発明の組成物をその意図した用途に使用することによって形成される生成物を含めて、簡単には記述できない可能性がある。それでも、すべてのかかる改変および反応生成物は本発明の範囲内に含まれ、本発明は、上記成分を混合することによって調製される組成物を包含する。
【実施例】
【0059】
特に有利である実施形態を記述する以下の実施例によって本発明を更に説明する。実施例は、本発明を説明するものではあるが、それを限定するものではない。
【0060】
実施例1−A
上記様式で、一括プロセスを使用して、スズ触媒の存在下で、4,4’−メチレンビス−(フェニルイソシアナート)、ベンゼングリコール、およびジエチレングリコールとアジピン酸から誘導されるポリエステルポリオール中間体を反応させることによってESD TPUを調製する。
【0061】
実施例1−B
金属含有塩であるリチウムトリフルオロメタンスルホンイミド1.9百分率部(phr)を湿式吸収によってTPUにドープする以外は実施例1−Aの手順に従ってESD TPUを調製する。
【0062】
実施例1−C
金属含有塩であるトリフルオロメタンスルホン酸のリチウム塩1.4phrを湿式吸収によってTPUにドープする以外は実施例1−Aの手順に従ってESD TPUを調製する。
【0063】
実施例1−D
金属含有塩であるトリフルオロメタンスルホン酸のリチウム塩1.3phrを湿式吸収によってTPUにドープする以外は実施例1−Aの手順に従ってESD TPUを調製する。
【0064】
実施例2−A
上記様式で、一括プロセスを使用して、スズ触媒の存在下で、4,4’−メチレンビス−(フェニルイソシアナート)、1,4−ブタンジオール、およびジエチレングリコールとアジピン酸から誘導されるポリエステルポリオール中間体を反応させることによってESD TPUを調製する。
【0065】
実施例2−B
金属含有塩であるリチウムトリフルオロメタンスルホンイミド1.9phrを湿式吸収によってTPUにドープする以外は実施例2−Aの手順に従ってESD TPUを調製する。
【0066】
実施例2−C
金属含有塩であるトリフルオロメタンスルホン酸のリチウム塩1.4phrを湿式吸収によってTPUにドープする以外は実施例2−Aの手順に従ってESD TPUを調製する。
比較例3−A
市販ESDポリエーテルTPUを本発明の組成物との比較のために使用する。この例は、Lubrizol Advanced Materials, Inc.から入手可能なESDポリエーテルTPUであるStat−Rite(商標)C−2300である。
【0067】
上記実施例を試験してESDおよび物性を評価した。この試験の結果を下表に示す。
【0068】
【表1】

【0069】
【表2】

これらの結果によれば、本発明のESD TPUポリマーは、比較ESDポリエーテルTPUよりもかなり良好な物性を有する。さらに、本発明の非ドープESD TPU組成物は、良好なESD特性を有し、比較ESDポリエーテルTPUのESD特性と同じではないにしてもそれに匹敵する。一方、本発明の金属塩ドープESD TPU組成物は、比較ESDポリエーテルTPUよりも良好なESD特性を与える。
【0070】
実施例1−Dを試験して、別のESD特性を評価した。これらの結果の概要を下表に示す。
【0071】
【表3】

追加のESD TPUの実施例も、以下に示すようにin situ重合によって調製する。
【0072】
実施例4−A
1,4−ブタンジオールとアジピン酸から調製されるポリエステルポリオール中間体92.4pbw、ジエチレングリコールとアジピン酸から調製されるポリエステルポリオール中間体92.4pbw、ベンゼングリコール14.2pbw、4,4’−メチレンビス−(フェニルイソシアナート)43.4pbw、リチウムトリフルオロメタンスルホンイミド24.3pbw、およびオクタン酸スズ1滴を化合させるin situ重合によってESD TPUを調製する。
【0073】
実施例4−B
処理中にビス(パーフルオロメタン)スルホンイミドアルキルアンモニウム塩を含むイオン性液体73.0pbwを材料に添加する以外は、実施例4−Aの手順に従ってESD TPUを調製する。
【0074】
実施例5−A
1,4−ブタンジオールとアジピン酸から調製されるポリエステルポリオール中間体92.4pbw、ジエチレングリコールとアジピン酸から調製されるポリエステルポリオール中間体92.4pbw、ベンゼングリコール14.2pbw、4,4’−メチレンビス−(フェニルイソシアナート)43.4pbw、およびジ−プロピレングリコール0.75pbwを化合させるin situ重合によってESD TPUを調製する。
【0075】
実施例5−B
処理中にリチウムトリフルオロメタンスルホンイミド2.0pbwを材料に添加する以外は、実施例5−Aの手順に従ってESD TPUを調製する。上述したように、TPUの一括重合中に塩を添加する。
【0076】
実施例5−C
処理中にリチウムトリフルオロメタンスルホンイミド3.0pbwを材料に添加する以外は、実施例5−Bの手順に従ってESD TPUを調製する。
【0077】
実施例5−D
処理中にリチウムトリフルオロメタンスルホンイミド3.5pbwを材料に添加する以外は、実施例5−Bの手順に従ってESD TPUを調製する。
【0078】
上記実施例を試験してそのESD特性を評価した。この試験の結果を下表に示す。
【0079】
【表4】

これらの結果によれば、本発明のESD TPUポリマーは、比較ESDポリエーテルTPUに匹敵するESD特性を有する。さらに、これらの結果によれば、本発明のESD TPUポリマーが更に金属含有塩を含む場合、組成物のESD特性は、比較ESDポリエーテルTPUよりも良好なポイントまで改善される。
【0080】
上で言及した文書の各々を参照により本明細書に援用する。実施例を除いて、または特に明示しない場合、この記述において材料、反応条件、分子量、炭素原子数などの量を規定するすべての数量は、「約」という語によって修飾されると理解すべきである。別段の記載がない限り、すべてのパーセント値、ppm値および部の値は重量基準である。別段の記載がない限り、本明細書で言及する各化学品または組成物は、市販グレードの材料であると解釈すべきであり、異性体、副生物、誘導体、および市販グレードに存在すると通常は理解される他の材料を含み得る。しかし、各化学成分の量は、別段の記載がない限り、市販材料中に慣習的に存在し得る任意の溶媒または希釈油を除いて示される。本明細書に記載の上限および下限量、範囲、ならびに比の限度は、独立に組み合わせることができることを理解されたい。同様に、本発明の各要素の範囲および量は、他の要素のいずれかの範囲または量と一緒に使用することができる。本明細書では「から本質的になる」という表現は、考慮する組成物の基本および新規特性に実質的に影響を及ぼさない物質の含有を許容するものである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(a)少なくとも1種類のポリエステルポリオール中間体を(b)少なくとも1種類のジイソシアナートおよび(c)少なくとも1種類の鎖伸長剤と反応させることによって作製される静電散逸性熱可塑性ポリウレタン組成物であって、
(a)前記ポリエステルポリオール中間体が、少なくとも1種類のジアルキレングリコールと少なくとも1種類のジカルボン酸またはそのエステルまたは無水物から誘導される中間体を含む、組成物。
【請求項2】
前記ジカルボン酸が4から15個の炭素原子を含み、そして前記ジアルキレングリコールが2から8個の炭素原子を含む、請求項1に記載の組成物。
【請求項3】
前記ジカルボン酸が、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸、ピメリン酸、スベリン酸、アゼライン酸、セバシン酸、ドデカン二酸、イソフタル酸、テレフタル酸、シクロヘキサンジカルボン酸またはその組合せを含み、そして、
前記ジアルキレングリコールが、オキシジメタノール、ジエチレングリコール、ジプロピレングリコール、3,3−オキシジプロパン−1−オール、ジブチレングリコールまたはその組合せを含む、請求項1から2のいずれかに記載の組成物。
【請求項4】
(b)前記ジイソシアナートが、4,4’−メチレンビス−(フェニルイソシアナート)、ヘキサメチレンジイソシアナート、3,3’−ジメチルビフェニル−4,4’−ジイソシアナート、m−キシリレンジイソシアナート、フェニレン−1,4−ジイソシアナート、ナフタレン−1,5−ジイソシアナート、ジフェニルメタン−3,3’−ジメトキシ−4,4’−ジイソシアナート、トルエンジイソシアナート、イソホロンジイソシアナート、1,4−シクロヘキシルジイソシアナート、デカン−1,10−ジイソシアナート、ジシクロヘキシルメタン−4,4’−ジイソシアナートまたはその組合せを含み、そして、
(c)前記鎖伸長剤が、エチレングリコール、ジエチレングリコール、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、1,4−ブタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、1,3−ブタンジオール、1,5−ペンタンジオール、1,4−シクロヘキサン−ジメタノール、ヒドロキノンジ(ヒドロキシエチル)エーテル、ネオペンチルグリコール、1,4−ビス(2−ヒドロキシエトキシ)ベンゼンまたはその組合せを含む、請求項1から3のいずれかに記載の組成物。
【請求項5】
(a)前記ポリエステルポリオール中間体がポリ(ジエチレングリコールアジパート)を含み、(b)前記ジイソシアナートが4,4’−メチレンビス−(フェニルイソシアナート)を含み、そして、(c)前記鎖伸長剤がブタンジオール、ヒドロキノンジ(ヒドロキシエチル)エーテルまたはその組合せを含む、請求項1から4のいずれかに記載の組成物。
【請求項6】
静電散逸のための有効量の金属含有塩を更に含む、請求項1から5のいずれかに記載の組成物。
【請求項7】
前記金属含有塩がリチウム含有塩を含む、請求項6に記載の組成物。
【請求項8】
前記組成物が以下の特性の少なくとも1つを有する、請求項1から7のいずれかに記載の組成物:
(i)前記組成物が、ASTM D−257によって測定して、1.0×1013Ω/□未満の表面抵抗率、および1.0×1012Ω・cm未満の体積抵抗率を有する、
(ii)前記組成物が、50%相対湿度で帯電プレートモニターを使用して測定して、1000Vから100Vまで約0.1秒未満の帯電圧減衰率を有し、そして前記組成物が、12%相対湿度でFTMS 101Cによって測定して、5000Vから50Vまでもしくは−5000Vから−50Vまで約0.1秒未満の帯電圧減衰率を有する。
【請求項9】
前記組成物が以下の特性の少なくとも1つを有する、請求項1から8のいずれかに記載の組成物:
(i)前記組成物が、ASTM D−2240によって測定して少なくとも60ショアA単位の硬度を有する、
(ii)前記組成物が、ASTM D−412によって測定して、少なくとも10MPaの引張り強さ、および300%を超える極限伸びを有する、
(iii)前記組成物が、ダイCを使用してASTM D−624によって測定して、少なくとも5kg/mmのグレーブス引裂き値を有する、
(iv)前記組成物が、ASTM D−3389によって測定して1000回転当たり100mg未満のテーバー減量を有する、
(v)前記組成物が、少なくとも60,000の重量平均分子量を有する、
(vi)前記組成物が、ASTM D−1238手順Aによってバレル温度190℃および3.8kgピストン荷重で測定して50未満のメルトフローインデックスを有する。
【請求項10】
(a)前記ポリエステルポリオール成分がポリエーテルポリオールを実質的に含まない、請求項1から9のいずれかに記載の組成物。
【請求項11】
少なくとも1種類のベースポリマーを更に含む、請求項1から10のいずれかに記載の組成物。
【請求項12】
前記ベースポリマーが、ポリオレフィン;スチレン系;熱可塑性ポリウレタン、ポリアミド;アクリルポリマー;ポリ塩化ビニル、塩素化ポリ塩化ビニル;ポリオキシメチレン;ポリエステル;ポリカルボナート;ポリフェニレンオキシド;ポリフェニレンスルフィド;またはその組合せを含む、請求項11に記載の組成物。
【請求項13】
静電散逸性熱可塑性ポリウレタン組成物を作製するプロセスであって、(a)少なくとも1種類のポリエステル中間体を(b)少なくとも1種類のジイソシアナートおよび(c)少なくとも1種類の鎖伸長剤と反応させるステップを含み、(a)前記ポリエステル中間体が少なくとも1種類のジアルキレングリコールと少なくとも1種類のジカルボン酸またはそのエステルまたは無水物から誘導される、プロセス。
【請求項14】
請求項1から12のいずれかに記載の静電散逸性熱可塑性ポリウレタン組成物を含む、成形されたポリマー物品。
【請求項15】
前記物品が、ESDに感応性の半導体および電子部品のパッケージング材料;クリーンルーム装置および用途のための耐久または消耗部品;クリーンルームおよびデータセンター用の建設資材;繊維;積層シート;コンベヤベルト;医薬品;医療機器;電子部品;リチウムイオン電池の構築に使用されるセパレーター;リチウムポリマー電池および燃料電池の構築に使用されるポリマー電解質膜;またはその組合せを含む、請求項14に記載のポリマー物品。

【公表番号】特表2013−508474(P2013−508474A)
【公表日】平成25年3月7日(2013.3.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−534217(P2012−534217)
【出願日】平成22年10月1日(2010.10.1)
【国際出願番号】PCT/US2010/051030
【国際公開番号】WO2011/046756
【国際公開日】平成23年4月21日(2011.4.21)
【出願人】(506347528)ルブリゾル アドバンスド マテリアルズ, インコーポレイテッド (74)
【Fターム(参考)】