説明

静電駆動型半導体マイクロバルブ

【課題】流体の良好な制御と低消費電力化の両立が高いレベルで達成できる静電駆動型半導体マイクロバルブを提供する。
【解決手段】バルブ構造体1は、フレーム10と、フレーム10の開口内に配置された弁体部11と、ビーム12とを有する。弁座2は、表面開口する弁孔20を有し、弁孔20に弁体部11が一致するようバルブ構造体1が搭載されている。弁体部11と弁座2の対向面には、可動電極層13と固定電極層21が形成され、可動電極層13の表面には、絶縁層3が形成されている。弁体部11は、初期状態で弁孔20をその接触圧によって塞ぐように弁孔20の開口周辺領域に接触している。弁座2の上表面には、弁孔20の開口周縁部25を囲むように、環状凹溝(環状溝部)24が形成され、また、環状凹溝24に一端が連通するとともに他端が開放した凹溝(連通溝部)24aが形成されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、半導体基板をマイクロマシンニング加工して形成したバルブ構造体を使用し、流体の流れを制御するマイクロバルブに関し、詳しくは静電気力により流体の流れる弁孔の開閉動作を行う静電駆動型半導体マイクロバルブに関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来から、マイクロエレクトロニクス分野や医療機器用途などにおける流体制御部品として、シリコン等の半導体基板をマイクロマシンニング技術により微細構造加工してバルブ部材としてのマイクロ構造体を形成し、これを用いて流体の流通制御をできるようにしたマイクロバルブが各所で研究開発されている。
【0003】
一般に、このマイクロバルブでは、バルブ部材に弁孔を開閉するための弁体が形成されており、前記弁孔を有する弁座部材と前記バルブ部材とを一体に組合せて構成し、前記バルブ部材に形成した弁体を前記弁座部材に対し変位動作させることにより前記弁孔を開閉して前記弁孔を流れる流体の流通を制御できるようになっている。このマイクロバルブの弁開閉動作の駆動方式としては、いわゆるバイメタル原理を応用した熱駆動式と対向電極間に生じる静電気力を利用した静電駆動式がある。そのうち後者方式のものの一例として、例えば特許文献1に開示されたような弁素子がある。
【0004】
この弁素子は、流体が通過するノズルが形成されたノズルプレートと、電極板と、この電極板を被覆する絶縁層と、前記ノズルを開閉するバルブが屈撓部分に一体的に形成されている可撓性で導電性のあるバルブビームから構成されている。前記電極板と前記電極板を被覆する前記絶縁層は、前記ノズルプレートに積層配置されており、前記バルブビームの屈撓部分は、前記電極板上の前記絶縁層に対して所定の間隔を保持した配置となっており、前記電極板と前記バルブビームとの間に電圧を印加したとき、前記バルブビームの屈撓により前記バルブが前記ノズルを開閉するようになっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開昭63−307959号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、対向する電極間に生ずる静電気力の大きさは、両電極の表面が平行で且つ一定電圧が印加される条件下で、エネルギー損失を考慮しないものとすると、理論上は次式の如く算出される。
【0007】
静電気力[N]=(1/2)×(印加電圧[V])2×(電極面積[m2])2×(電極間物質の誘電率[C/N・m2])/(電極間距離[m])2
上式から、電極間に生ずる静電気力は、電極間距離が大きくなるとその2乗に比例して小さくなることがわかる。この点を勘案して、従来技術として示した前記特許文献1に記載の弁素子について考察すると、この弁素子は、前記ノズルビームが導電性であり、電圧を印加しない初期状態では、前記電極板とは前記絶縁層を介して所定の間隔を保持して対向した配置となっているので、前記バルブを変位させて前記ノズルを開閉し前記ノズルを流れる流体の流通を良好に制御するためにより大きな静電気力を得るには、前記所定の間隔を小さく設計したり、印加電圧を大きくしたり、或いは電極面積を大きくすることになる。
【0008】
しかしながら、前記所定の間隔が余り小さいと前記ノズルを開放状態にしたときに良好な流体の流通を確保できなくなるため、少なくともある一定距離以上の間隔は必ず確保されなければならず、更に大きな静電気力を得るには、印加電圧や電極面積の大きさ設定に依存することとなる。
【0009】
これに加え、前記所定の間隔が開いた初期状態から電圧印加して前記バルブを前記ノズルに当接するまで変位させ前記ノズルを閉止するときには、単に前記バルブを前記ノズル側に引き寄せる力だけでなく、バルブビームが撓むときに元の状態に戻ろうとする復元弾性に抗するための力も要するため、前記弁孔を流れる流体圧に抗するよりも大きい静電気力が必要である。
【0010】
これに対し、近年ではデバイスの小型化傾向にあるため、電極面積を大きくする設計は、デバイスのサイズを大きくする要因となり望ましくない。また、近年は低消費電力化も要望されているため、印加電圧を大きくすることはこれと相反する結果となり望ましくない。従って、前記従来技術に係る弁素子の構造では、小型化を追求する上で、ノズルを流れる流体の良好な制御と低消費電力化とを高いレベルで両立するには限界があった。
【0011】
本発明は、上記事由に鑑みて為されたものであり、流体の良好な制御と低消費電力化の両立が高いレベルで達成できる静電駆動型半導体マイクロバルブを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
請求項1の発明は、半導体基板をマイクロマシンニング加工することにより形成され、開口部を有するフレームと、該フレームの開口部内に配置された弁体部と、該弁体部と前記フレームとを連結し、前記弁体部が前記フレームに対し前記半導体基板の厚み方向に変位可能となる撓み性を有する薄肉のビームと、を備えるバルブ構造体と、表面に開口する弁孔を有し、該弁孔に前記弁体部が一致するようにして前記フレームを表面に固定することによって前記バルブ構造体が搭載される弁座と、を具備し、前記バルブ構造体は、前記弁体部における前記弁座への対向面において形成された可動電極層を有し、前記弁座は、前記表面において前記可動電極層に対向するよう形成された固定電極層を有し、前記可動電極層と前記固定電極層との少なくとも一方の表面には、これら両電極層間の導通を防止するための絶縁層が形成され、前記弁体部は、前記可動電極層と前記固定電極層との間に電圧を印加しない状態では、前記弁孔をその接触圧により塞ぐようにして前記弁孔の開口周辺領域に接触しており、前記可動電極層と前記固定電極層との間に電圧を印加した状態では、これら両電極層間に前記弁孔を閉止する静電気力が発生するものであり、前記弁座における前記弁体部への対向面、又は前記弁体部における前記弁座への対向面には、前記弁孔の開口周縁部を内側に含むような環状溝部を形成するとともに、該環状溝部に少なくとも一端が連通する連通溝部を形成してなることを特徴とする。
【0013】
ここで、前述の「前記可動電極層と前記固定電極層との間に電圧を印加しない状態では、前記弁孔をその接触圧により塞ぐようにして前記弁孔の開口周辺領域に接触して」とは、電圧が印加されず且つ前記弁孔に流体圧がかかっていない状況下(以下、初期状態と称する。)にあるときには、前記弁体部が前記弁孔の開口周辺領域に接触していることを意味している。
【0014】
また、「接触圧」とは、この初期状態において前記弁体部が前記弁孔の開口周辺領域への接触する状態を保持するよう前記ビームの支持力にて前記弁体部が前記弁孔の開口周辺領域に押し付けられる比較的微小な圧力のことである。従って、電圧を印加しない状態であっても前記接触圧よりも大きな流体圧が前記弁孔に加わった場合には、前記弁体部は、押し上げられることになる。
【0015】
このような構成の静電駆動型半導体マイクロバルブでは、前述のように、電圧を印加しない状態において、前記弁体部が前記弁座における前記弁孔の開口周辺領域に接触していることから、電圧印加して前記弁孔を閉止するときには、前記弁体部を変位させるエネルギーは無用であるため、必要となる前記静電気力は前記弁孔を流れる流体の圧力に抗するのに要する力だけとなる。
【0016】
しかも、前記可動電極層と前記固定電極層との距離は、実質的に前記絶縁層の厚み分のみの最小限の大きさとなるため、電圧印加を開始した初期から最大の静電気力が効率良く得られるため、前記弁孔を閉止するのに要する消費電力が比較的小さくてすむ。
【0017】
一方、前記弁孔を開放する場合には、電圧を印加しない状態で前記弁孔に前記弁体部の接触圧よりも大きい流体圧が加わると前記弁体部が押し上げられて開放状態となる。この前記弁孔の開放しやすさは、前記弁体部の接触圧に依存しており、前記弁体部の接触圧が小さければ小さな流体圧でも前記弁孔が開放するようになる。なお、前記弁体部の接触圧は、例えば前記ビームによる前記弁体部の支持力を調整することで、所望の大きさにすることが可能である。
【0018】
以上のことから、請求項1の発明によれば、流体の良好な制御と低消費電力化の両立が高いレベルで達成できる。
【0019】
また、請求項1の発明によれば、環状溝部及び連通溝部により、弁孔から流れ出る流体がスムーズに排出される。また、環状溝部及び連通溝部により、前記弁孔を閉じる瞬間及び開放する瞬間に密閉される界面のエア逃がしを行えるので、開閉応答性は、比較的良好に確保される。
【0020】
請求項2の発明は、請求項1の発明において、前記弁座における前記弁体部への対向面、又は前記弁体部における前記弁座への対向面には、前記弁孔の開口部を内側に含むよう環状に突出し、その先端面が前記弁孔の閉止状態における前記弁体部と前記弁座との封止面となる環状突状部が形成されてなることを特徴とする。
【0021】
この発明によれば、環状突状部が前記対向面の他の部位より前記弁体部側に突出して前記弁体部に接触するので、確実な接触状態が得やすくなる。
【0022】
請求項3の発明は、請求項1又は請求項2の発明において、前記連通溝部は、前記一端とは反対の他端が外部に開放されてないことを特徴とする。
【0023】
この発明によれば、製造時のダイシング等において異物が混入することを防止することができる。
【0024】
請求項4の発明は、請求項1乃至請求項3の発明において、前記弁体部は、前記フレームに比べて薄肉に形成されていることを特徴とする。
【0025】
この発明によれば、前記弁体部を前記フレームに比べて薄肉に形成することで、前記弁体部の質量が小さくなるため、前記弁孔の開閉動作を行いやすくなる。
【0026】
請求項5の発明は、請求項4の発明において、前記弁体部は、前記可動電極層が形成されている面とは反対側には凹所を備えていることを特徴とする。
【0027】
この発明によれば、前記凹所を容易に形成することができるので、前記弁体部を容易に薄肉化することができる。
【0028】
請求項6の発明は、請求項4の発明において、前記弁体部は、前記可動電極層が形成されている面とは反対側の面には補強リブを備えていることを特徴とする。
【0029】
この発明によれば、前記補強リブを設けることで、前記弁体部に対する補強効果が得られる。
【発明の効果】
【0030】
本発明では、流体の良好な制御と低消費電力化の両立が高いレベルで達成できるという効果がある。また、本発明では、環状溝部及び連通溝部により、弁孔から流れ出る流体がスムーズに排出されるという効果があり、環状溝部及び連通溝部により、前記弁孔を閉じる瞬間及び開放する瞬間に密閉される界面のエア逃がしを行えるので、開閉応答性は、比較的良好に確保されるという効果もある。
【図面の簡単な説明】
【0031】
【図1】第1実施形態における静電駆動型半導体マイクロバルブを示し、(a)は概略断面図、(b)は他の概略断面図、(c)は要部概略斜視図である。
【図2】同上における静電駆動型半導体マイクロバルブを示す概略平面図である。
【図3】同上における静電駆動型半導体マイクロバルブの開放状態を示す概略断面図である。
【図4】同上における静電駆動型半導体マイクロバルブの開放状態を示す概略斜視図である。
【図5】同上におけるバルブ構造体の変形形態を示す概略断面図である。
【図6】同上における静電駆動型半導体マイクロバルブの他の変形形態を示し、(a)は概略断面図、(b)は他の概略断面図である。
【図7】第2実施形態における弁座を示す概略断面図である。
【図8】第3実施形態における弁座を示す概略断面図である。
【図9】同上における弁体部を示す概略断面図である。
【図10】同上における弁体部の変形形態を示す概略平面図である。
【図11】同上における弁体部の他の変形形態を示す概略断面図である。
【図12】実施形態1におけるバルブ構造体の上面側構造の加工プロセスを示す工程図である。
【図13】同上におけるバルブ構造体の下面側構造の加工プロセスを示す工程図である。
【図14】同上における弁座の加工プロセスを示す工程図及び概略断面図である。
【図15】第4実施形態における静電駆動型半導体マイクロバルブを示す概略平面図である。
【図16】同上におけるバルブ構造体を弁座への搭載側からみた概略平面図である。
【図17】同上におけるバルブ構造体の概略断面図である。
【図18】同上における弁座の概略斜視図である。
【図19】同上における静電駆動型半導体マイクロバルブにおける静電気力と比誘電率との関係説明図である。
【図20】同上におけるバルブ構造体の変形形態を示す概略平面図である。
【図21】同上におけるバルブ構造体の変形形態を示し、(a)は図20の要部H1の拡大平面図、(b)は図20の要部H2の拡大平面図である。
【図22】同上におけるビームの変形形態を示す概略平面図である。
【図23】同上におけるビームの他の変形形態を示す概略平面図である。
【図24】第5実施形態における静電駆動型半導体マイクロバルブを示す概略断面図である。
【図25】同上における他の静電駆動型半導体マイクロバルブを示す概略断面図である。
【図26】同上における他の静電駆動型半導体マイクロバルブを示す概略断面図である。
【図27】同上における他の静電駆動型半導体マイクロバルブを示す概略斜視図である。
【図28】同上におけるバルブ構造体にストッパ片を設けた静電駆動型半導体マイクロバルブを示し、(a)は概略平面図、(b)は概略断面図である。
【図29】第6実施形態における静電駆動型半導体マイクロバルブを示し、(a)は概略断面図、(b)は一部破断した概略斜視図である。
【図30】同上における静電駆動型半導体マイクロバルブの変形形態を示す概略断面図である。
【図31】同上における静電駆動型半導体マイクロバルブの他の変形形態を示す概略断面図である。
【図32】第7実施形態における静電駆動型半導体マイクロバルブを示す概略断面図である。
【図33】第8実施形態における静電駆動型半導体マイクロバルブを示す概略断面図である。
【図34】第9実施形態における静電駆動型半導体マイクロバルブを示す概略断面図である。
【図35】第10実施形態における静電駆動型半導体マイクロバルブを示す概略断面図である。
【図36】第11実施形態における静電駆動型半導体マイクロバルブを示す概略断面図である。
【図37】第12実施形態における弁座を示す概略平面図である。
【図38】同上における弁座の他の変形形態を示す概略平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0032】
以下、本発明に係る実施形態を図面に基づいて説明する。なお、各図において、同一の符号を付した構成は、同一の構成であることを示し、その説明を省略する。
【0033】
まず、第1実施形態を図1乃至図4に基づいて説明する。なお、図1(a)は図2のX−X断面の概略断面図であり、図1(b)は図2のY−Y断面の概略断面図である。また、図3は開放状態の概略断面図、図4は開放状態の概略斜視図である。
【0034】
図1乃至図4に示すように、静電駆動型半導体マイクロバルブは、バルブ構造体1と、このバルブ構造体1が搭載される弁座2とを一体に組合せることで構成されている。ここで、静電駆動型半導体マイクロバルブの上下方向は、実際の使用状態での方位性に依存するため一義的に規定できないが、第1実施形態の記述では説明の便宜上、図1(a),(b)に示すように、弁座2の配置側を下側、バルブ構造体1の配置側を上側というように上下方向を規定するものとする。
【0035】
バルブ構造体1は、半導体基板であるシリコン基板をマイクロマシンニング加工することにより形成された、いわゆるMEMS(micro electro mechanical systems)構造体であって、シリコン基板の主面の中央領域に略正方形に開口する開口部10aを有するとともに上下方向(シリコン基板の厚み方向)から見た外形の平面視も矩形状に形成されたフレーム10と、フレーム10の開口部10a内に配置された弁体部11と、弁体部11とフレーム10を連結し、弁体部11がフレーム10に対し上下方向に変位可能となる撓み性を有する4本の薄肉のビーム12とを有している。
【0036】
図2に示すように、バルブ構造体1において、フレーム10は、上方から見た平面視が長方形となっており、開口部10aは、この長方形の一方の短辺側に幾分偏って形成されていて、他方の短辺側におけるフレーム片の幅寸法が大きくなっている。バルブ構造体1は、この幅寸法が大きいフレーム片の位置において、外向きに開放する切欠部16を備えている。
【0037】
また、フレーム10の開口部10a内には、フレーム10と弁体部11との間にこれらを離間する分離領域が弁体部11を囲むよう形成されており、各ビーム12は、この分離領域内にてバルブ構造体1の下部側に配置されて、フレーム10の内壁下端部と弁体部11の下端部とを接続している。
【0038】
ここで、第1実施形態においては、バルブ構造体1において前述の分離領域のうちビーム12よりも上側部分は、異方性エッチングにより掘り込み形成されており、故にフレーム10の内壁及び弁体部11の外周側壁は、前述の分離領域の幅寸法が下方向に狭小するテ−パ状を成す傾斜面となっている。なお、前述の分離領域は、RIE(reactive ion etching)やICPエッチング(Inductively coupled plasma etching)等のドライエッチングにより垂直に掘り込まれたものであってもよい。
【0039】
また、弁体部11を支持している4本のビーム12は、バルブ構造体1を上方から見た平面視において、弁体部11を中心として90度回転させたときのビーム12の回転写像が隣の他のビーム12と重なるような略卍状を成すものとなっている。より詳しく述べると、4本の各ビーム12は各々、その基端がフレーム10の各内側コーナー近傍位置においてこの内側コーナーで交差するフレーム10の内側壁の2辺のうちの一辺に連結されており、且つフレーム10の前記内側コーナーで交差する他辺側の内側壁と弁体部11の側壁との間(分離領域)に沿って前記基端から先端部に向かって延設され、ビーム12の先端部は、弁体部11の方に屈曲して弁体部11のコーナー辺りに連結されている。
【0040】
第1実施形態では、ビーム12の配置は、フレーム10と弁体部11とを最短距離で結ぶのではなく、4本のビーム12が略卍状を成すようフレーム10と弁体部11との間の分離領域に沿わせて延設したものとしていることで、前述の分離領域の幅が狭くともビーム12の長さを大きく取れるため、バルブ構造体1のサイズの小型化設計が容易である。また、弁体部11が上方に変位するとき、シリコン基板の主面と平行な面において、回転を伴いながら高い位置までの変位ストロークが可能となる。
【0041】
また、第1実施形態においては、バルブ構造体1の下面、すなわちフレーム10と弁体部11と各ビーム12の下面には、アルミニウム等からなる金属層14が形成されており、また、バルブ構造体1の上面及び側面にもアルミニウム等からなる金属層15がフレーム10と弁体部11と各ビーム12を覆うよう形成されており、この金属層15は、金属層14とバルブ構造体1の側面下端部辺りで一体接続している。金属層14の下表面には、金属層14が弁座2側に導通するのを防止するための絶縁層3が形成されている。
【0042】
第1実施形態においては、このバルブ構造体1の下面に形成した金属層14のうち、弁体部11の下面部分が後述する弁座2の固定電極層21に対向する可動電極層13として機能するものとなっている。また、バルブ構造体1の下面における長辺側の両端部には、弁座2の上表面への接合用アルミニウム層4が帯状に設けられている。
【0043】
ここで、本発明の好ましい態様では、ビーム12は、弁体部11を弁座2における弁孔20の開口周辺領域に対し押し付ける弾性力を有していることが望まれる。つまり、この弾性力により、弁孔20に対する弁体部11の良好な接触状態を確実に得ることができるからである。例えば、静電駆動型半導体マイクロバルブがバルブ構造体1と弁座2の配置が上下反対となるような状態で使用される場合を想定すると、弁体部11の自重による重力は、弁体部11が弁孔20から離れる方向に働くこととなるが、ビーム12が前述の弾性力を有していれば重力に抗して弁孔20に対する弁体部11の接触状態を維持できる。
【0044】
前述の弾性力を得るために、第1実施形態の静電駆動型半導体マイクロバルブは、バルブ構造体1を弁座2に搭載する前の状態において、弁体部11の下面がバルブ構造体1の下面の接合部分(接合用アルミニウム層4の下面)よりも下方に位置するよう、ビーム12を無負荷状態(外力が加わらない状態)で下向きに撓ませた状態としている。
【0045】
このようにすることで、バルブ構造体1を弁座2の上表面に搭載し接合用アルミニウム層4を介して接合一体化する際に、弁体部11の下面が、接合用アルミニウム層4が弁座2の上表面に当たるよりも先行して弁座2表面(弁孔20の周り)に接触し、その結果、バルブ構造体1を弁座2に接合した状態では、弁体部11は、上方に押し上げられ、その分だけビーム12は、無負荷状態と比べて上方に撓むこととなって、元の位置への復元弾性力が弁体部11を弁座2に対し押し付ける方向に生じる。
【0046】
この状態を実現するため、第1実施形態では、絶縁層3の材料としてSiOやポリイミド等のようにビーム12の構成材料であるシリコンよりも線膨張係数が大きい材料からなる薄膜層を用いることで、ビーム12は、前述の接合一体化の前の状態において、下向きに撓むようにすることができる。つまり、絶縁層3の材料として線膨張係数がシリコンよりも大きい材料を採用した場合、例えば絶縁層3の成膜プロセスにおいては、加熱下で成膜した後、冷却されるとき、シリコン基板と絶縁層3とは両者の線膨張係数の差に起因して冷却による熱収縮率に差を生じ、熱収縮の大きい絶縁層3がシリコン基板を下向きに変形させる残存応力がこれらの界面で発生する。
【0047】
従って、薄肉に形成されたビーム12は、この残存応力により歪んで先端側が下向きに撓んだ状態となる。なお、ビーム12において、芯部分のシリコンと絶縁層3との間に金属層14が介在しているが、ビーム12の上表面側の金属層15と熱収縮率による歪み応力が相殺されるため、金属層14の存在は特に問題とならない。
【0048】
なお、図5は、第1実施形態の変形形態を示す断面図であるが、静電駆動型半導体マイクロバルブ(のバルブ構造体1)は、図5に示すように、弁体部11の部分のみ絶縁層3の厚みを大きくしたり、或いは金属層14(可動電極層13部分)の厚みを大きくして、弁体部11の下面を下方に突き出るようにすることもできる。なお、このように弁体部11の下面が弁座2との接合前において、両者の接合面よりも下方に突き出ていると、バルブ構造体1を弁座2上に搭載一体化するときに、弁体部11下面の下方への突出寸法が上下方向のマージンとなり、弁体部11下面と弁座2との確実な接触が確保できるという効果も期待できる。
【0049】
次に、弁座2について説明する。例えば図2に示すように、第1実施形態において、弁座2は、ガラス基板を加工することによりバルブ構造体1の外形サイズと略同じサイズの長方形となるよう形成されている。弁座2は、弁体部11と対応する位置において、下面から上表面に貫通する弁孔20を備えている。この弁孔20は、前述のガラス基板の下面から掘り込まれて上表面の開口に向かって狭小するテーパ状となっている。
【0050】
また、弁座2の上表面には、弁体部11の底面と対向する領域において、アルミニウム等の金属層からなる固定電極層21が形成されている。また、弁座2の上表面には、バルブ構造体1の切欠部16に対応する位置において、外部接続用の電極パッド(以降、外部接続用パッドと称する。)22が形成されており、外部接続用パッド22と固定電極層21は、配線路23により接続されていて、外部接続用パッド22を外部電源に接続することにより固定電極層21に電圧印加できるようになっている。
【0051】
さらに、弁座2の上表面には、弁孔20の開口周縁部25を囲むように、環状溝部である例えば環状凹溝24が形成され、また、この環状凹溝24に一端が連通するとともに他端(以降、環状凹溝24側ではない端を他端と称する。)が弁座2の長辺側端に延びて開放し外部に通じた連通溝部である例えば外部連絡用の凹溝(逃がし溝)24a(図1(c)参照)が形成されている。
【0052】
第1実施形態において、静電駆動型半導体マイクロバルブは、バルブ構造体1を弁座2に搭載して両者を組合せ、一体化することで構成されており、バルブ構造体1と弁座2との接続固定は、バルブ構造体1の下面に設けた接合用アルミニウム層4を介して弁座2の上表面にバルブ構造体1を陽極接合することでなされている。このとき、図1(a),(b)に示すように、絶縁層3がバルブ構造体1と弁座2との間の電気的な絶縁性を確保し、弁体部11は、可動電極層13及び固定電極層21に電圧を印加しない初期状態では、その接触圧によって弁座2の固定電極層21に接触し弁孔20を塞いでいる。また図3、図4に示すように、この初期状態から弁孔20に下方から流体の圧力が加わったとき、流体圧が前記接触圧よりも大きくなると弁体部11は、押し上げられ、弁孔20は、開放される。
【0053】
一方、可動電極層13と固定電極層21との間に電圧を印加したとき、これら可動電極層13と固定電極層21との間に絶縁層3を介して静電気力が生じて、弁孔20が強固に閉じる。なお、印加する電圧の大きさを適宜調節することにより、弁孔20の開放量が調節でき、更に、流体のリーク量の制御が可能となる。
【0054】
静電駆動型半導体マイクロバルブでは、初期状態において、弁体部11が弁孔20を閉じる位置にあることから、電圧印加して弁孔20を静電気力で強制的に閉止するときに弁体部11を変位させるエネルギーは無用であり、必要となる静電気力は、弁孔20を流れる流体の圧力に抗するのに要する力だけとなる。しかも、可動電極層13と固定電極層21との距離は、実質的に絶縁層3の厚み分のみであることから、電圧印加を開始した初期から最大の静電気力が効率良く得られる。従って、弁孔20を閉止するに要するエネルギーは、非常に効率が良く、故に消費電力が小さくてすむ。
【0055】
第1実施形態においては、図1に示すように、固定電極層21の表面高さは、環状凹溝24を挟んで、内側及び外側ともフラットであり、弁体部11の下面(絶縁層3表面)もフラット面になっている。従って、弁孔20が閉じているとき、固定電極層21の表面と弁体部11の下面は、広い面積で密着することとなるため、弁孔20を閉じる瞬間及び開放する瞬間に密閉される界面のエア抜きできないとダンパー効果により開閉応答性が悪くなる恐れがあるが、環状凹溝24及び逃がし溝24aを通じて前述の界面のエア逃がしを行えるので、弁孔20を閉じる瞬間及び開放する瞬間に密閉される界面のエア逃がしを行え、開閉応答性は、比較的良好に確保される。また、環状凹溝24及び逃がし溝24aにより、弁孔20から流れ出る流体がスムーズに排出される。
【0056】
なお、第1実施形態では、可動電極層13と固定電極層21の対向面積は、弁体部11の下面面積と略等しくなっているが、図6(a),(b)に示す変形形態のように、固定電極層21の大きさを広げてビーム12の下面とも対向するようにしてもよい。ここで、図6は、図1において、固定電極層21を大きくした変形形態を示すものであって、図6(a)は、図2のX−X断面に相当する断面での概略断面図であり、図6(b)は、図2のY−Y断面に相当する断面での概略断面図である。この場合、ビーム12の下面の金属層14も可動電極層13の一部として機能し、対向面積が大きくなるため、より大きな静電気力が得られ、弁孔20の閉止力は大きくなり、消費電力の低減に有利となる。
【0057】
一方、静電駆動型半導体マイクロバルブにおいて、弁孔20を開放するときの開放しやすさは、弁体部11の接触圧の大きさに依存しており、この弁体部11の接触圧は、ビーム12による弁体部11の支持力に概ね依存している。第1実施形態では、ビーム12は、4本の略卍状配置となっているため、例えばダイヤフラムや十字ビーム等で弁体部11を支持する場合に比べるとテンションの逃げ場があり、またビーム長も比較的大きくでき、上方向の変位ストロークも大きいので、弁孔20の開放性は良好なものとなる。
【0058】
なお、弁座2に対する弁体部11の接触圧は、ビーム12の幅寸法や厚み寸法、長さ寸法を変更する等してビーム12が弁体部11を支持する支持剛性を調整することで適宜設計可能である。
【0059】
以上のように、かかる静電駆動型半導体マイクロバルブにおいては、流体の良好な制御と低消費電力化を高いレベルで両立できるものとなっている。さらに静電駆動型半導体マイクロバルブは、初期状態において、弁孔20が弁体部11により塞がっているので、上方から流体圧が加わったときには、逆止弁としての機能も期待できる。
【0060】
次に、他の実施形態を、第2実施形態として図7に基づいて説明する。図7は、第2実施形態における弁座2の断面図であり、第1実施形態の静電駆動型半導体マイクロバルブにおいて、弁孔20の周囲を高くした変形形態を示す断面図である。
【0061】
図7に示すように、弁座2は、例えば弁座2における弁孔20の開口周縁部25’をその周囲よりも環状突状部として一段高く環状に突出させ、その先端面が弁孔20の閉止状態における弁体部11と当接する封止面となるような構成とする。
【0062】
この場合、第1実施形態にて前述した「弁体部11の下面がバルブ構造体1の下面の接合部分(接合用アルミニウム層4の下面)よりも下方に位置するよう」にするときと同様に、ビーム12に弁体部11をこの開口周縁部25’に対し押し付ける弾性力を備えるので、良好な接触状態が得られる。すなわち、弁座2の上表面において、環状突状部である開口周縁部25’が一段高く突出することで、バルブ構造体1を弁座2に搭載するとき開口周縁部25’が弁体部11に当たりやすくなるからである。そして、バルブ構造体1を弁座2に接合固定するとき開口周縁部25’が弁体部11を上方に押し上げ、これに伴いビーム12も上向きに撓むため、下向きに復元弾性力を生ずることとなる。
【0063】
なお、第2実施形態においては、環状突状部である開口周縁部25’をその周囲よりも一段高くする形成する場合を挙げたが、同様の考え方で、弁座2と弁体部11の対向面の何れか一方に、弁孔20の開口部を内側に含むような環状の突状部(図示せず)を別途設け、この環状の突状部の先端面が弁孔20の閉止状態において、弁体部11と当接する封止面となるようにしてもよい。
【0064】
また、第2実施形態においては、環状突状部である開口周縁部25’は、弁座2における弁体部11への対向面に形成されているが、平面視において弁孔20を内側に含むように、弁体部11における弁座2への対向面に形成してもよい。
【0065】
ところで、一般的に、密接させた2つの平行な面の界面内に水分が存在すると、乾燥状態のときと比べて、密接させた2つの面が容易には解離し難くなる、いわゆる界面固着現象が発生する恐れがある。使用条件等によっては、静電駆動型半導体マイクロバルブは、弁孔20を弁体部11で閉止した状態において、弁体部11の下面(絶縁層3の表面)と弁座2の固定電極層21表面との接触界面内に水分が存在することが想定され、この場合には、界面固着現象が発生して、弁体部11が弁座2への接触状態から解離し難くなる。このような界面固着現象を解決するためには、静電駆動型半導体マイクロバルブは、弁体部11の下面(絶縁層3の表面)と弁座2側の対向面(固定電極層21の表面)における少なくとも一方の接触部位の表面に、前述の界面固着現象を防止するための固着防止手段を備えることが有効である。
【0066】
そこで、次に、静電駆動型半導体マイクロバルブに固着防止手段を設けた実施形態を、第3実施形態として図8乃至図11に基づいて説明する。図8は、第3実施形態における弁座2を示す断面図である。なお、図9乃至図11は、第3実施形態の変形形態を示す図である。
【0067】
弁座2は、固定電極層21の表面に微小突起24bを固着防止手段として備えている。微小突起24bは、界面に水分の均一な薄層が形成されるのを防止して、弁体部11と弁座2とが固着することを防止している。なお、微小突起24bは、突出高が余り大きすぎると前記接触界面から流体の好ましくないリークを生じるので、接触界面からの流体リーク量が許容範囲に納まる高さとする。
【0068】
なお、固着防止手段は、この微小突起24bの他、弁体部11の絶縁層3表面又は固定電極層21の表面に、所望の表面粗面化処理や所望の疎水化処理を施した箇所であってもよいし、所望の表面粗面化処理と所望の疎水化処理の両処理を施した箇所であってもよい。また、固着防止手段は、微小突起24bに表面粗面化処理を施したものであってもよいし、微小突起24bに疎水化処理を施したものであってもよいし、微小突起24bに表面粗面化処理、疎水化処理の両処理を施したものであってもよい。
【0069】
また、さらに第3実施形態の変形形態について述べると、例えば図9に示すように、弁体部11は、上面側を除去してフレーム10に比べて薄肉に形成されていてもよい。なお、図9は、第3実施形態における弁体部11を示す概略断面図(第1実施形態の静電駆動型半導体マイクロバルブにおいて、弁体部11の厚みを薄肉化した変形形態を示す弁体部11の概略断面図)である。この場合、弁体部11の質量が小さくなるので、当該弁体部11を変位させやすくなり、弁孔20の開閉動作が行いやすくなる。この弁体部11を薄肉化する手法は、例えば金属層15を形成する前にシリコン部分をエッチングして削っておくことでもよく、この場合は、弁体部11の全体の厚みが薄くなる。
【0070】
ここで、図10は、第3実施形態における弁体部11の変形形態を示す概略平面図であり、第1実施形態の静電駆動型半導体マイクロバルブにおいて、可動電極層13が形成されている面とは反対側の面に補強リブ11aを設けた図である。弁体部11を薄肉化した場合、図10に示すように、弁体部11の上表面は、補強リブ11aを備えて、薄くなって強度低下した分を補強させるようにするとよい。
【0071】
また、他の薄肉化手法としては、図11のように、弁体部11の上表面において、凹所11bを掘り込み形成してもよい。図11は、第3実施形態における弁体部11の変形形態を示す断面図であり、第1実施形態の静電駆動型半導体マイクロバルブにおいて、可動電極層13が形成されている面とは反対側の面に凹所11bを形成して薄肉化した図である。この凹所11bは、弁体部11のシリコン基板部分を上方から所定厚を残すようにしてエッチングで掘り込むことで形成できる。
【0072】
ここで、上述の第1実施形態の静電駆動型半導体マイクロバルブについて、バルブ構造体1及び弁座2の形成方法の一例を図12乃至図14に基づいて簡単に説明する。
【0073】
図12(a),(b)は、バルブ構造体1の上面側構造の加工プロセスを示す工程図である。なお、この図12では、チップレベルでのバルブ構造体1のプロセスについて記載しているが、実際にはシリコンウエハの状態で各セル毎に構造体を形成した後に個別のチップに切断されるものである。
【0074】
まず、図12(a)に示すように、シリコン基板100は、除去されて開口部10aとなる面103と切欠部16となる面104を除いて、弁体部11の上面部分の面102とフレーム10の上面部分の面101とにレジストやSiO膜、SiN膜等でマスクをされる。そして図12(b)に示すように、異方性エッチングにより底部に薄肉の厚み部分を残して分離領域107と切欠部相当凹部108を掘り込み、これにより残存部分であるフレーム相当部105、弁体部相当部106が形成される。
【0075】
次に、バルブ構造体1の下側構造の加工プロセスを説明する。なお、図13(a)〜(e)は、バルブ構造体1の下面側構造の加工プロセスを示す工程図である。
【0076】
まず、図13(a)に示すように、先に上面側構造を形成したシリコン基板100を裏返し、図13(b)に示すように、上に向けた下表面の全面にアルミニウムやクロム等からなる金属層14(例えば1μm程度)をスパッタリング等により形成し、さらに図13(c)に示すように、絶縁層3を金属層14の表面の全面に形成する。そして、図13(d)に示すように、絶縁層3表面に所定形状のマスクを施した後、反対面に形成した分離領域107に貫通するスリットを形成してフレーム10と弁体部11を分離すると共にこれらを連結する4本のビーム12が形成される。
【0077】
また、このとき同時に切欠部相当凹部108に貫通するよう開口を形成して切欠部16を形成する。反対面側からは金属層15をスパッタリング等により形成しておく。そして、絶縁層3の表面において、チップ長辺側の両端部に例えば厚みが1μm程度の接合用アルミニウム層4をスパッタリング等で形成すると、バルブ構造体1の構造ができあがる。
【0078】
次に、弁座2の加工プロセスについて図14に基づいて説明する。図14(a)〜(c)は、ガラス基板から弁座2形成する工程を順次示す工程図であり、(d)は、(c)のX−X断面での概略断面図である。図14(a)に示すように、ガラス基板200を準備し、図14(B)に示すように、このガラス基板200の下面から上面にテーパ状に貫通する弁孔20を形成すると共に、弁孔20の上面開口を囲むように環状凹溝24と逃がし溝24aとをサンドブラスト等により形成する。
【0079】
そして、ガラス基板200の上面側の全面にスパッタリングで金属層を形成した後、固定電極層21や連絡用の配線路23や外部接続用パッド22に相当する残し部にマスクをして、残し部以外の金属層をエッチング除去し、図13(c),(d)に示すように、固定電極層21や配線路23、外部接続用パッド22を形成する。これにより弁座2が作成される。
【0080】
なお、ここで述べた加工方法のプロセスは、あくまでバルブ構造体1の形成方法の一例に過ぎず、形状や構成の変更に応じて公知の加工手法を採用し適宜組合せてプロセス設計できる。例えば、半導体基板としてSOI基板を用いてバルブ構造体1を形成すれば、バルブ構造体1の厚み設計が加工プロセス上、行いやすくなるため好ましく採用される。
【0081】
更に、他の変形形態である実施形態を、第4実施形態として図15乃至図23に基づいて説明する。図15は、第4実施形態における静電駆動型半導体マイクロバルブを示す概略平面図(第1実施形態乃至第3実施形態において、可動電極層13をシリコン基板への不純物ドープによる導電性拡散層により構成した変形形態の静電駆動型半導体マイクロバルブを示す概略平面図)である。
【0082】
また、図16は、バルブ構造体1を弁座2への搭載側からみた概略平面図であり、図17は、図16のバルブ構造体1のX−X断面での概略断面図であり、図18は、弁座2の概略斜視図である。また、図19は、絶縁層3を介して対向する電極(可動電極層13、固定電極層21)間において、この電極間の静電気力と絶縁層3の比誘電率との関係を示すグラフである。なお、後述する図20、図21は、第4実施形態の変形形態を示す概略平面図である。
【0083】
第4実施形態における静電駆動型半導体マイクロバルブでは、図16、図17に示すように、バルブ構造体1の下面において、金属層14を形成する代わりに、シリコン基板の加工工程中において、このシリコン基板の下面に不純物ドープして導電性拡散層17を形成している。この導電性拡散層17は、フレーム10、弁体部11及びビーム12の下面に形成されており、弁体部11の下面部分が可動電極層13として機能する。なおこの変形形態では、バルブ構造体1の上面側に金属層15は形成されない。その代わり、バルブ構造体1の上面側の表面には、図示しない窒化膜(SiN膜)を形成している。
【0084】
この窒化膜は、線膨張係数がシリコン基板より小さいので、ビーム12の上表面側においては、この窒化膜形成時の熱が冷めるときにこの窒化膜とシリコン基板との線膨張係数の差に起因した残存応力がこれらの界面にて生じ、ビーム12を下向きに反らせている。これにより弁体部11の下面は、弁座2への搭載前の状態において、下方に突出するようになっている。このことの意義は既に前述した通りである。
【0085】
導電性拡散層17の表面には、前述した第1実施形態乃至第3実施形態と同様に、絶縁層3が形成され、さらにバルブ構造体1の下面における長辺側の両端部に接合用アルミニウム層4が形成されている。この変形形態では、フレーム10の下面位置における絶縁層3の一部に導電性拡散層17にまで至るコンタクトホール31が形成され、このコンタクトホール31を形成した部分には、導電性拡散層17にコンタクトホール31を介して導通し、絶縁層3の表面に露出するバルブ側電極5が形成されている。このバルブ側電極5は、後述するよう、弁座2側への接続を容易にするためにバンプ電極として形成されている。
【0086】
第4実施形態において、図18に示すように、弁座2は、その上表面に2つの外部接続用パッド22,26を有している。ここで、説明の便宜上、前者を第1の外部接続用パッド22、後者を第2の外部接続用パッド26とする。第1の外部接続用パッド22と第2の外部接続用パッド26とは電気的に独立して、静電駆動型半導体マイクロバルブを上から見た平面視において、バルブ構造体1の切欠部16にて露出している。
【0087】
また、弁座2の上表面におけるバルブ側電極5と対応する位置には、バルブ通電用の受けパッド27が形成されており、この受けパッド27と第2の外部接続用パッド26とは連絡用の配線路28により接続されている。そして、バルブ構造体1を弁座2上に搭載一体化するとき、バルブ側電極5が受けパッド27と一致し接続されるようになっている。この変形形態では、第1の外部接続用パッド22と第2の外部接続用パッド26とが共に切欠部16にて露出しているので、外部電源への接続を容易に行うことができる。
【0088】
ところで、第4実施形態では、初期状態において、弁体部11下面側の可動電極層13と弁座2上の固定電極層21とは絶縁層3を介して対向していることから、この初期状態からより大きな静電気力を効率良く得るためには、絶縁層3の誘電率を大きくすることが有効である。図19のグラフは、印加電圧を一定とした条件下でのグラフであり、このグラフからわかるように、電極(可動電極層13、固定電極層21)間の絶縁層3が有する比誘電率が大きくなり始める初期範囲において、静電気力が急な勾配で大きくなり、その後、その勾配は、緩やかになる傾向である。従って、絶縁層3の材料として高誘電率の絶縁材料を選択すると好ましい。例えば、SiOは比誘電率が4、SiNは比誘電率が7であることから、これらよりも高誘電率(例えば比誘電率が30以上)の絶縁材料を使用すると良い。高誘電率材料の具体例としては、BaTiO(比誘電率が100〜300)、SrTiO(比誘電率が100〜300)、(Ba,Sr)TiO(比誘電率が300〜1000)などが例示できる。
【0089】
ここで、図20は、第4実施形態における静電駆動型半導体マイクロバルブにて、バルブ構造体1のビーム12の入隅コーナーに面取り部12aを設けた態様を示す平面図であり、図21(a)は、図20の点線H1で示す部分の拡大図であり、図21(b)は、点線H2で示す部分の拡大図である。
【0090】
第4実施形態においては、その変形形態として、図20、図21(a),(b)に示すように、ビーム12がフレーム10や弁体部11と連結される付け根部分における入隅コーナーや、ビーム12の屈曲部に形成される入隅コーナーにおいて、面取り部12aが形成されていてもよい。ビーム12は、薄肉であるため入隅コーナーに応力が一点集中すると応力集中箇所に亀裂を生じやすくなるが、ビーム12の入隅コーナに面取り部12aを形成しておくとで応力集中を防止することができ、ビーム12の破損等が防止される。この面取り部12aは、例えばC面やR面として形成することができる。
【0091】
また、第4実施形態においては、略卍状配置の4本のビーム12により弁体部11を支持する両持ちタイプの静電駆動型半導体マイクロバルブを説明してきたが、他の変形形態を例示することができる。図22は、ビーム12をいわゆる片持ち梁状にした一態様を示す概略平面図であり、ビーム12をフレーム10と弁体部11との分離領域を一周回したような形状とした変形形態であり、図23は、ビーム12を片持ち梁状にした他の態様を示す概略平面図であり、ビーム12を最も一般的な一文字状のカンチレバー形状にした変形形態である。
【0092】
次に、弁体部11の変位を規制するストッパを備えた実施形態を、第5実施形態として図24乃至図28に基づいて説明する。図24乃至図26は、第5実施形態における静電駆動型半導体マイクロバルブを示す概略断面図(第1実施形態における静電駆動型半導体マイクロバルブにおいて、ガラスストッパ6を設けた半導体マイクロバルブの一態様を示す概略断面図)である。
【0093】
図27は、第5実施形態におけるガラスストッパ6を一部に設けた静電駆動型半導体マイクロバルブを示す概略斜視図である。図28(a)は、第5実施形態におけるバルブ構造体1の構造内にストッパ片7を設けた静電駆動型半導体マイクロバルブを示す概略平面図であり、図28(b)は、(a)のX−X断面での概略断面図である。
【0094】
まず、第5実施形態においては、図24乃至図27に示すように、弁体部11の変位を規制するストッパの一例として、ガラス製のストッパであるガラスストッパ6を設ける。
【0095】
図24に示す静電駆動型半導体マイクロバルブは、第1実施形態である図1乃至図4に示した具体例において、ガラスストッパ6を備えた構成である。このものでは、ガラスストッパ6の下側面に弁体部11上面とのギャップ確保のための凹部である座ぐり部61が形成されている。この例では、フレーム10の上面も金属層15にて被覆されているので、ガラスストッパ6を陽極接合にて固定できる。ここで、フレーム10の上に金属層15を設けず、フレーム10にガラスストッパ6を直接、陽極接合するようにしても勿論よい。
【0096】
なお、図24における座ぐり部61は、例えば、サンドブラストを用いて、ガラスストッパ6の弁体部11に相対する部分を所定の厚み分だけ除去することで形成することができる。なお、この場合、サンドブラスト加工は、シリコン基板等をエッチング加工することに比べ、高速で形成することができるため、大流量を得るバルブ用途に適している。
【0097】
一方、図25に示す静電駆動型半導体マイクロバルブは、第4実施形態である図15乃至図18に示した具体例において、平板状のガラスストッパ6を備えた構成である。この例では、フレーム10の上面に、ストッパ接合層であるストッパ接合用アルミニウム層8がギャップを確保するに十分な厚みで形成されており、このストッパ接合用アルミニウム層8を介してガラスストッパ6がフレーム10上に陽極接合されている。なお、ストッパ接合用アルミニウム層8は、スパッタリング等の半導体プロセスを用いることで、0.1μm程度の精度で厚み設定が可能であるので、弁体部11とガラスストッパ6とのギャップが精度良く確保できる。
【0098】
このように、静電駆動型半導体マイクロバルブは、ガラスストッパ6を設けておくことで、例えば弁孔20に大きな流体圧が加わった場合等において、弁体部11がビーム12の撓みの許容以上に変位してビーム12を破損するのを防止することができる。
【0099】
また、図26に示す静電駆動型半導体マイクロバルブは、弁体部11の厚みがフレーム10の厚みより薄い構成である。弁体部11の厚み加工は、例えば、弁体部11のガラスストッパ6に対する面を、KOH溶液等により異方性エッチングすることで所定厚みだけ除去して行い、弁体部11の厚みがフレーム10の厚みより薄くなるように予め加工してもよい。この場合、異方性エッチングで取り除く所定の厚みとは、弁体部11が変位する際に、弁体部11の上側面とガラスストッパ6の下側面とのギャップが十分確保されるような厚みであり、異方性エッチングにては、1μm以下の精度で設定可能である。なお、図26のものでは、例えば、フレーム10にガラスストッパ6を直接、陽極接合する。
【0100】
ここで、図24、図26に示す静電駆動型半導体マイクロバルブは、ガラスストッパ6がフレーム10の全面を覆うサイズであるが、ガラスストッパ6が少なくとも弁体部11と所定の間隔、つまり、弁体部11が変位する際に、弁体部11の上側面とガラスストッパ6の下側面とのギャップが十分確保されるような間隔が確保されていれば、例えば、図27に示すように、フレーム10の一部を覆うようなサイズであってもよい。
【0101】
なお、第5実施形態においては、ストッパはガラスを用いているが、例えば、樹脂系の材料のものも用いることもできる。この場合、プレス成形等の加工が容易であるので、低コストでストッパが形成される。
【0102】
かかる静電駆動型半導体マイクロバルブにおいては、ガラスストッパ6は、弁体部11の変位を規制することで、弁体部11の変位が過大になることを防止するとともに、弁体部11の破壊を防止する。また、弁体部11とガラスストッパ6とのギャップを精度良く形成することで、流体の流量範囲の制御の精度が良くなる。また、前述のギャップにより可動電極層13と固定電極層21との間に作用させる静電気力の最大値を決定できるので、駆動電圧を低く抑える設計が可能になる。
【0103】
ここで、第5実施形態における静電駆動型半導体マイクロバルブにて、ガラスストッパ6を設ける代わりに、図28(a),(b)に示すように、バルブ構造体1の構造中に突出片であるストッパ片7を有するようにしたものであってもよい。図28では、フレーム10の内壁部の一部に下側及び内側に開放する座ぐり部9が形成されており、ストッパ片7は、弁体部11の側辺部の一部からフレーム10に向かって延び、座ぐり部9内に導入されていて、座ぐり部9内壁に対してストッパ片7は、間隔を有して遊挿状態となっている。そして弁体部11が上方に変位したとき、座ぐり部9の天面にストッパ片7が当って、弁体部11の上方への変位が規制されるようになっている。
【0104】
このストッパ片7及び座ぐり部9を形成するにあたっては、例えば座ぐり部9とストッパ片7との離間領域のうち、半導体基板の厚み方向については、下面からのエッチングで掘り込み形成し、また、半導体基板の主面と平行な方向については、犠牲層エッチングで掘り込むといった手法が挙げられる。この際、半導体基板として、犠牲層で除去する位置に埋め込み酸化膜を有するSOI基板を用いると便利である。なお、図28のものは、ストッパ片7を弁体部11の一箇所に設けた例となっているが、弁体部11の4つの各側面に形成しても良く、また、弁体部11からではなく、ビーム12の先端側において側方に突設しても構わない。ストッパ片7は、バルブ構造体1の構造中に形成されたものであってもよい。
【0105】
次に、フレーム10や、ストッパや、ストッパ接合層に開口部を備えた実施形態を、第6実施形態として図29乃至図31に基づいて説明する。図29は、第6実施形態における静電駆動型半導体マイクロバルブを示す概略断面図及び概略斜視図((a)は、概略断面図であり、(b)は、概略斜視図)である。図30、図31は、第6実施形態における静電駆動型半導体マイクロバルブの変形形態を示す概略断面図である。
【0106】
図29に示す静電駆動型半導体マイクロバルブは、第5実施形態である図25に示した具体例において、排出口の機能を果たす微細な開口部である孔部6aを備えた構成である。図25において、ストッパ接合用アルミニウム層8の一部が除去された構成となっており、ストッパ接合用アルミニウム層8の除去は、通常の半導体プロセスにて行い、孔部6aが形成される。この場合、バルブ構造体1とガラスストッパ6の間で形成される空間Sは、孔部6aの存在のために、完全な閉空間とはならないが、ほとんど閉空間に近い状態になる。なお、ガラスストッパ6は、フレーム10の全面を覆っているが、図29(b)にては、便宜上、孔部6aの上側部を除去した形で図示している。
【0107】
ここで、孔部6aは、半導体プロセスにて形成されるので、加工が高精度になされるため、空間S内の圧力調整が行いやすい。また、バルブ構造体1とガラスストッパ6の間で、孔部6aを介して静電駆動型半導体マイクロバルブ外部と空間Sとが連通することで、弁体部11が駆動する際に、空気ダンパーの効果が得られ、更に弁体部11の破壊を防止することができる。孔部6aの上下方向の開口長さhは、微細であるが、その微細の程度は、弁孔20の開口径(直径)と同オーダー程度である。例えば、弁孔20の開口径(直径)が0.3mmである場合、孔部6aの上下方向の開口長さが0.1mm〜0.3mm程度である。なお、孔部6aの上下方向の開口長さhは、弁孔20の開口径以下であることが好ましい。
【0108】
また、その他の変形形態を図30、図31に示す。図30に示す静電駆動型半導体マイクロバルブは、第5実施形態である図26に示した具体例において、フレーム10の一部をエッチング等の加工技術により一部除去して開口部である孔部6aを形成した一例である。また、図31に示す静電駆動型半導体マイクロバルブは、図25においてストッパ接合用アルミニウム層8を設けず、かつ、図24に示す座ぐり部61と同様に形成可能な、一端が静電駆動型半導体マイクロバルブ外縁まで伸びた段部61aを備えるとともに、この段部61aの外縁側であるフレーム10の一部が除去され孔部6aを備えた構成である。
【0109】
なお、段部61aは、例えば数十μm程度の深さをサンドブラスト加工等により形成する場合には、段部61aの形成と同時に、孔部6aの形成も可能である。この場合、孔部6aの上下方向の高さは、段部61aの高さに等しくなるが、幅方向のサイズは、加工時のマスク形状により自由に制御可能であるので、空間Sの圧力調整が効率的に行える。
【0110】
かかる静電駆動型半導体マイクロバルブにおいては、孔部6aにより、前述の空間S内の流体の圧力が孔部6aの外部、つまり静電駆動型半導体マイクロバルブ外部の圧力よりも高くなるので、静電駆動型半導体マイクロバルブに流入してくる側の流体圧力と空間S内の圧力との圧力差が縮小され、弁体部11を駆動する静電力が小さくても弁体部11が駆動可能であり、微小流量を高精度に制御することができる静電駆動型半導体マイクロバルブを提供することができる。
【0111】
なお、第6実施形態においては、開口部である微細な孔部6aは、フレーム10や、ガラスストッパ6や、ストッパ接合用アルミニウム層8に形成したものを例示しているが、少なくとも、フレーム10、ガラスストッパ6、ストッパ接合用アルミニウム層8のいずれかに形成されていれば、フレーム10や、ガラスストッパ6や、ストッパ接合用アルミニウム層8の各部にまたがる形で孔部6aが形成されていても勿論よい。
【0112】
次に、第1実施形態における異なる電極の取り出し構造を示した実施形態を、第7実施形態として図32に基づいて説明する。図32は、第7実施形態における静電駆動型半導体マイクロバルブを示す概略断面図(図2におけるY−Y断面での概略断面図)である。
【0113】
図32に示すように、図1(b)に示したY−Y断面において、静電駆動型半導体マイクロバルブは、フレーム10における弁座2に対しての非対向面(図32ではバルブ構造体1の上面)には、フレーム10内を通じて可動電極層13と電気的に接続される可動電極層側電極パッド30を備えている。
【0114】
また、弁座2におけるバルブ構造体1に対しての非対向面(図32では弁座2の下面)には、固定電極層側電極パッド300が形成され、弁孔20に沿った箇所には、固定電極層側電極パッド300と電気的に接続されている第4導電部32である配線路等が形成され、第4導電部32と固定電極層21とは、電気的に接続されている。なお、可動電極層側電極パッド30と固定電極層側電極パッド300との間に外部電源に接続することにより、可動電極層13と固定電極層21との間に電圧印加することができる。
【0115】
静電駆動型半導体マイクロバルブは、可動電極層13を半導体基板であるフレーム10内を通じて、可動電極層側電極パッド30と導通させることで、可動電極層13が可動電極層側電極パッド30のところまで引き出された構成になる。また、静電駆動型半導体マイクロバルブは、弁孔20を経由して設けた第4導電部32を介して固定電極層側電極パッド300と導通させることで、固定電極層21が固定電極層側電極パッド300のところまで引き出された構成となる。
【0116】
ここで、可動電極層13、固定電極層21、可動電極層側電極パッド30、固定電極層側電極パッド300、第4導電部32といった配線の材料は、例えばアルミニウム、クロム等の金属を例示することができるが、これらの金属の薄膜は、真空蒸着、スパッタリング、イオンプレーティング等の方法により形成することができる。なお、固定電極層側電極パッド300、第4導電部32、固定電極層21は、各々が電気的に接続されていれば、一体形成したものであってもよし、勿論、各々を別途に形成してもよい。
【0117】
なお、弁体部11、フレーム10、各ビーム12の下表面に設けた可動電極層13又は金属層14の表面には、弁座2側との導通を防止するために絶縁層3が形成されている。
【0118】
かかる静電駆動型半導体マイクロバルブにおいては、可動電極層側電極パッド30、固定電極層側電極パッド300といった外部電源に接続する電極をバルブ外部に取り出すことにより、チップサイズの増大がないため、より小型な静電駆動型半導体マイクロバルブを提供することができる。また、小型化によりチップの取れ数が増大するため、製造コストを低減させることができる。
【0119】
次に、第7実施形態における変形形態を示した実施形態を、第8実施形態として図33に基づいて説明する。図33は、第8実施形態における静電駆動型半導体マイクロバルブを示す概略断面図(図2におけるY−Y断面での概略断面図)である。
【0120】
図32においてバルブ構造体1を構成する半導体基板はシリコン基板であるが、図33では、バルブ構造体1を構成する半導体基板がSOI基板である。つまり、バルブ構造体1が、活性層40、絶縁性である埋め込み中間酸化膜41、支持層42からなるSOI基板で構成されている。なお、第8実施形態においては、活性層40は、弁座2との対向面側に配置された構成である。
【0121】
フレーム10は、活性層40から支持層42まで貫通する凹部43を備え、この凹部43の内面には、アルミニウム、クロム等の導電性を有する材料からなる第1導電部44である導電性の膜を形成して、活性層40と支持層42と可動電極層側電極パッド30とを電気的に接続させ、活性層40と支持層42とを導通させ、半導体基板であるフレーム10内を通じて、可動電極層13が可動電極層側電極パッド30まで引き出された構成である。
【0122】
かかる静電駆動型半導体マイクロバルブにおいては、バルブ構造体1の半導体基板にSOI基板を使用し、活性層40の薄いものを用いることで、薄肉のビーム12を精度よく形成することができる。それにより、ビーム12の剛性を低減させることができるため、バルブの排気性能を向上させるとともに駆動電圧の低減が可能となる。ここで、駆動電圧を低減させる代わりに電極面積を縮小すれば、チップサイズの小型化が実現でき、更なる製造コストの低減が図れる。
【0123】
次に、第8実施形態における変形形態を示した実施形態を、第9実施形態として図34に基づいて説明する。図34は、第9実施形態における静電駆動型半導体マイクロバルブを示す概略断面図(図2におけるY−Y断面での概略断面図)である。
【0124】
図34に示すように、第2導電部45である導電性の膜は、例えば、フレーム10における弁体部11への対向面から、弁体部11に対向する側のフレーム10壁面側を経由して、バルブ構造体1の上面まで形成されており、可動電極層側電極パッドの機能を兼ねており、活性層40と支持層42とが電気的に接続される。なお、第2導電部45に関して、可動電極層側電極パッドとして機能する領域と、フレーム10における弁体部11への対向する領域と、弁体部11に対向する側のフレーム10壁面側の領域とは、一体形成して電気的に接続するようにしても、各々別々に形成し、電気的に接続するようにしてもよい。なお、第2導電部45の材料は、一例としてアルミニウム、クロム等である。また、第8実施形態においては、SOI基板で構成された弁体部11、ビーム12の周辺にも、図34に示すように、第2導電部45と同材料の導電性膜45aを覆うように形成している。
【0125】
かかる静電駆動型半導体マイクロバルブにおいては、バルブ構造体1にSOI基板を使用し、活性層40の薄いものを用いることで、薄肉のビーム12を精度よく形成することができる。それにより、ビーム12の剛性を低減させることができるため、バルブの排気性能を向上させるとともに駆動電圧の低減が可能となる。ここで、駆動電圧を低減させる代わりに電極面積を縮小すれば、チップサイズの小型化が実現でき、更なる製造コストの低減が図れる。
【0126】
次に、第7実施形態における変形形態を示した実施形態を、第10実施形態として図35に基づいて説明する。図35は、第10実施形態における静電駆動型半導体マイクロバルブを示す概略断面図(図2におけるY−Y断面での概略断面図)である。
【0127】
図35に示すように、静電駆動型半導体マイクロバルブは、静電駆動型半導体マイクロバルブの外部と貫通する開口部である微細な孔部6aを備え、弁体部11の変位を規制する例えばガラスストッパ6をバルブ構造体1の上に備えており、ガラスストッパ6と、バルブ構造体1と、弁座2からなる3層構造である。第10実施形態においては、フレーム10の上面に、第7実施形態では可動電極層側電極パッド30として機能していた金属膜30aがギャップを確保するに十分な厚みで形成されており、金属膜30aを介してガラスストッパ6がフレーム10上に陽極接合されている。
【0128】
なお、ガラスストッパ6は、例えばフレーム10と弁体部11との間の上部に位置する箇所に孔部6aを設けており、この孔部6aは、例えば弁孔20に大きな流体圧が加わった場合等において、第6実施形態の図29乃至図31に示した孔部6aと同様の機能を果たすので、ここでは詳細な説明は省略する。ここで、開口部である孔部6aは、ガラスストッパ6に対して厚み方向に貫通しているので、孔部6aの周部に例えば管状の部材(図示せず)を取り付けることで、孔部6aから流体媒体の取り出しが容易に行える。
【0129】
ここで、第10実施形態においては、孔部6aには、金属膜30aと電気的に接続して、ガラスストッパ6の上面まで形成された第3導電部46である配線路を備えており、第3導電部46は、ガラスストッパ6の上面で、外部電源に接続する可動電極層側電極パッド30bと電気的に接続されている。なお、第3導電部46の材料は、一例としてアルミニウム、クロム等であり、第10実施形態では、ガラスストッパ6の孔部6a及び上面部にわたり第3導電部46が形成されている構成を一例として示している。
【0130】
かかる静電駆動型半導体マイクロバルブにおいては、金属膜30aと第3導電部46と、可動電極層側電極パッド30bを電気的に接続することで、可動電極層13がガラスストッパ6の上面まで引き出された構成となり、より小型な静電駆動型半導体マイクロバルブを提供することができる。
【0131】
次に、他の実施形態を、第11実施形態として図36に基づいて説明する。図36は、第11実施形態における静電駆動型半導体マイクロバルブを示す概略断面図(図2におけるY−Y断面での概略断面図)である。
【0132】
静電駆動型半導体マイクロバルブは、バルブ構造体1のフレーム10と弁座2との間に設けられる金属薄膜等の接合用電極50を備えており、接合用電極50を介してバルブ構造体1と弁座2とが陽極接合により接合されている。弁座2におけるフレーム10との接合面側には、図36に示すように、接合用電極50と電気的に接続される配線路51と、可動電極層側電極パッド52と、固定電極層側電極パッド53とが形成されている。
【0133】
ここで、可動電極層13は、接合用電極50と配線路51と可動電極層側電極パッド52とを導通させることにより、可動電極層側電極パッド52まで引き出された状態になる。
【0134】
また、固定電極層側電極パッド53は、図36に示すように、例えば固定電極層21を弁座2の端部まで例えば連絡配線を利用して延設して、固定電極層21と固定電極層側電極パッド53とを導通させることにより、固定電極層21を固定電極層側電極パッド53まで引き出している。なお、接合用電極50、配線路51、可動電極層側電極パッド52、固定電極層側電極パッド53の材料は、一例としてアルミニウム、クロム等である。
【0135】
かかる静電駆動型半導体マイクロバルブにおいては、可動電極層側電極パッド52と固定電極層側電極パッド53とを同一平面上に形成すことができるため、プローブ検査や実装が容易となる。また、可動電極層側電極パッド52の位置を図32に示すような構造の場合に比べて低くすることができるため、薄型のパッケージに収めることができ、例えば、薄型化ニーズの高い携帯型商品への搭載で優位性を持たせることができる。
【0136】
最後に、第1実施形態における環状凹溝(環状溝部)24、逃がし溝(連通溝部)24aに関する(2つの)変形形態である実施形態を、第12実施形態として図37、図38に基づいて説明する。図37、図38は、第12実施形態における弁座2を示す概略平面図である。
【0137】
ここで、第1実施形態においては、図4、図14に示すように、逃がし溝24aは、一端が環状凹溝24に連通し、他端が静電駆動型半導体マイクロバルブの外部に開放されているが、第12実施形態においては、静電駆動型半導体マイクロバルブは、図37に示すように、例えば、他端が固定電極層21の範囲内に収まるような終点である構成の連通溝部24cを備えている点が異なっている。なお、連通溝部24cにおける前述の他端は、弁座2から外部に開放されず、つまり静電駆動型半導体マイクロバルブから外部に開放されず、弁座2内に収まるような構成であればよい。
【0138】
なお、更に第1実施形態における変形形態としての静電駆動型半導体マイクロバルブは、図38に示すように、弁孔20から所定の距離をとり、弁座2の各辺に対して放射状に配置された溝部24dを備えた構成である。なお、この放射状に配置された溝部24dは、例えば本数が8本で弁孔20を取り囲む溝であるが、その本数は所望の数であってよく、弁座2から外部に開放されず、弁座2内に収まるような構成であればよい。
【0139】
また、各放射状に配置された溝部24dの配置は、対称対となるように配置されることが好ましく、この場合、放射状に配置された溝部24dにより、弁孔20から流れ出る流体がスムーズに排出される。なお、上述の連通溝部24c、放射状に配置された溝部24dは、サンドブラスト等により形成することができる。
【0140】
なお、第12実施形態においては、上述の放射状に配置された溝部24dは、弁座2における弁体部11への対向面に形成されているが、平面視において弁孔20から所定の距離をとるように、弁体部11における弁座2への対向面に形成してもよい。
【0141】
かかる静電駆動型半導体マイクロバルブにおいては、連通溝部24cや放射状に配置された溝部24dが弁座2から外部に開放されず、弁座2内に収まるような構成であるので、製造時のダイシング等において異物が混入することを防止することができる。
【0142】
ここで、第7実施形態乃至第9実施形態及び第11実施形態において、第1実施形態乃至第6実施形態及び第12実施形態に示したような変形箇所を組み合わせた構成で静電駆動型半導体マイクロバルブを形成しても勿論よく、また、第10実施形態において、第1実施形態乃至第4実施形態及び第12実施形態に示した変形形態を組み合わせた構成で静電駆動型半導体マイクロバルブを形成しても勿論よい。
【0143】
また、第1実施形態乃至第12実施形態においては、環状溝部24及び連通溝部24a(又は連通溝部24c)は、弁座2における弁体部11への対向面に形成されているが、平面視において弁孔20を内側に含むように、弁体部11における弁座2への対向面に形成してもよい。
【0144】
なお、本発明は、前述の実施形態及びその説明に何ら限定されるものではなく、特許請求の範囲を逸脱せず、当業者が容易に想到できる範囲で種々の変形形態もこの発明に含まれる。
【符号の説明】
【0145】
1 バルブ構造体
2 弁座
3 絶縁層
10 フレーム
10a 開口部
11 弁体部
11a 補強リブ
11b 凹所
12 ビーム
13 可動電極層
20 弁孔
21 固定電極層
24 環状凹溝(環状溝部)
24a 凹溝(連通溝部)
24c 連通溝部
25 開口周縁部
25’ 開口周縁部(環状突状部)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
半導体基板をマイクロマシンニング加工することにより形成され、開口部を有するフレームと、
該フレームの開口部内に配置された弁体部と、
該弁体部と前記フレームとを連結し、前記弁体部が前記フレームに対し前記半導体基板の厚み方向に変位可能となる撓み性を有する薄肉のビームと、を備えるバルブ構造体と、
表面に開口する弁孔を有し、該弁孔に前記弁体部が一致するようにして前記フレームを表面に固定することによって前記バルブ構造体が搭載される弁座と、
を具備し、
前記バルブ構造体は、前記弁体部における前記弁座への対向面において形成された可動電極層を有し、
前記弁座は、前記表面において前記可動電極層に対向するよう形成された固定電極層を有し、
前記可動電極層と前記固定電極層との少なくとも一方の表面には、これら両電極層間の導通を防止するための絶縁層が形成され、
前記弁体部は、
前記可動電極層と前記固定電極層との間に電圧を印加しない状態では、前記弁孔をその接触圧により塞ぐようにして前記弁孔の開口周辺領域に接触しており、
前記可動電極層と前記固定電極層との間に電圧を印加した状態では、これら両電極層間に前記弁孔を閉止する静電気力が発生するものであり、
前記弁座における前記弁体部への対向面、又は前記弁体部における前記弁座への対向面には、前記弁孔の開口周縁部を内側に含むような環状溝部を形成するとともに、該環状溝部に少なくとも一端が連通する連通溝部を形成してなることを特徴とする静電駆動型半導体マイクロバルブ。
【請求項2】
前記弁座における前記弁体部への対向面、又は前記弁体部における前記弁座への対向面には、前記弁孔の開口部を内側に含むよう環状に突出し、その先端面が前記弁孔の閉止状態における前記弁体部と前記弁座との封止面となる環状突状部が形成されてなることを特徴とする請求項1記載の静電駆動型半導体マイクロバルブ。
【請求項3】
前記連通溝部は、前記一端とは反対の他端が外部に開放されてないことを特徴とする請求項1又は請求項2記載の静電駆動型半導体マイクロバルブ。
【請求項4】
前記弁体部は、前記フレームに比べて薄肉に形成されていることを特徴とする請求項1乃至請求項3のいずれか1項に記載の静電駆動型半導体マイクロバルブ。
【請求項5】
前記弁体部は、前記可動電極層が形成されている面とは反対側には凹所を備えていることを特徴とする請求項4記載の静電駆動型半導体マイクロバルブ。
【請求項6】
前記弁体部は、前記可動電極層が形成されている面とは反対側の面には補強リブを備えていることを特徴とする請求項4記載の静電駆動型半導体マイクロバルブ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【図22】
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【図23】
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【図24】
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【図25】
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【図26】
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【図27】
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【図28】
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【図29】
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【図30】
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【図31】
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【図32】
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【図33】
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【図34】
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【図35】
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【図36】
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【図37】
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【図38】
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【公開番号】特開2009−198011(P2009−198011A)
【公開日】平成21年9月3日(2009.9.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−137543(P2009−137543)
【出願日】平成21年6月8日(2009.6.8)
【分割の表示】特願2003−142457(P2003−142457)の分割
【原出願日】平成15年5月20日(2003.5.20)
【出願人】(000005832)パナソニック電工株式会社 (17,916)
【Fターム(参考)】