説明

非ウィルス性上皮損傷の治療および/または予防

【課題】非ウィルス性上皮損傷およびそのような損傷により生じたまたはそのような損傷に特徴を有する症状の予防用および/または治療用に入手し得る医薬品は限られている。即ち、適切な新規医薬品開発の必要性が認識されている。
【解決手段】上皮に対する非ウィルス性損傷、あるいはそのような損傷により生じたまたはそのような症状に特性を有する症状の予防用および/または治療用医薬品の製造における、リン酸輸送体活性のインヒビターの使用を提供する。上記リン酸輸送体活性のインヒビターは、必要に応じて、ホスホノカルボン酸またはそのような酸の製薬上許容し得る誘導体であり得る。また、そのようなインヒビター、酸および誘導体を使用する治療方法も提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、非ウィルス性上皮損傷の治療および/または予防用医薬品に関する。また、本発明は、非ウィルス性上皮損傷の治療および/または予防方法も提供する。
【背景技術】
【0002】
上皮層は、身体全体に亘って見出されており、これらの上皮層は、例えば、ホメオスタシスまたは食物摂取に関連する機械的保護および活性輸送のような多くの役割を満たす。
上皮組織の例としては、皮膚表皮(頭皮のような)、および消化系、肺、血管などの管壁類がある。
上皮類は、上皮の正常機能を阻害する非ウィルス性損傷を頻繁に被る。そのような非ウィルス性損傷は、機械的損傷による、微生物および真菌のような感染性因子の作用による、細胞毒性化学剤による、あるいは放射線損傷のような他の損傷源によるような広範囲の形で生じ得る。
一般に、上皮組織は、多くの共通した特徴を有する。例えば、胃腸上皮についての研究は、他の上皮における損傷応答および再生プロセスの良好な指標であることを既に証明している(Potten, C. S. (1991), Regeneration in epithelial proliferative units as exemplified by small intestinal crypts. Ciba Found Symp 160, 54-71; discussion 71-56)。非ウィルス性損傷の作用は、損傷上皮層の性質により変化し、依存する。例えば、
消化系に対する損傷は、下痢、粘膜炎および大腸炎のような症状を引起し得、一方、頭皮上皮に対する損傷は、抜け毛(脱毛)を生じ得る。
化学療法および放射線療法のようながん療法は、上皮に対する損傷の一般的な原因を代表する。これら医原性症状は、選択的治療の結果として生じるので、(i) 上皮損傷および/または(ii) そのような損傷により生じたまたはそのような損傷に特徴を有する症状を予防しまたは治療するように設計された治療におけるとりわけ適切なターゲットを代表する。さらにまた、上皮に対する損傷を軽減し得るそのような治療は、有害刺激物に対する意に反したまたは偶発的暴露によって損傷した上皮組織の治療において適切である。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
現在のところ、非ウィルス性上皮損傷およびそのような損傷により生じたまたはそのような損傷に特徴を有する症状の予防用および/または治療用に入手し得る医薬品は限られている。即ち、適切な新規医薬品開発の必要性が認識されている。
【課題を解決するための手段】
【0004】
本発明の第1の局面によれば、上皮に対する非ウィルス性損傷およびそのような損傷により生じたまたはそのような損傷に特徴を有する症状の予防用および/または治療用医薬品の製造におけるリン酸輸送体活性のインヒビターの使用を提供する。
無機リン酸塩は、多くの細胞プロセス、即ち、細胞代謝、シグナル形質転換、脂質合成および酵素活性類の調節における重要な細胞栄養素として必要である(Kavanaugh, M. P., Miller, D. G., Zhang, W., Law, W., Kozak, S. L., Kabat, D., and Miller, A. D. (1994). Cell-surface receptors for gibbon ape leukemia virus and amphotropic murine retrovirus are inducible sodium-dependent phosphate symporters. Proc. Natl. Acad. Sci. USA 91, 7071-7075.)。無機リン酸塩は、受動プロセスさらにまた担体介在プロセスの双方により、リン酸輸送体によって細胞に入り得る。リン酸ホメオスタシスの障害は、多くの細胞プロセスの機能に作用し得、従って、リン酸輸送体の役割は、幾つかの最近の研究の主題となっている(Bottger, P., and Pedersen, L. (2002). Two highly conserved glutamate residues critical for type III sodium-dependent phosphate transport revealed by uncoupling transport function from retroviral receptor function. J Biol Chem 277, 42741-42747)。
本発明は、リン酸輸送体活性のインヒビターを含む医薬品の投与が、上皮に対する非ウィルス性損傷の予防および/または治療に、および/または非ウィルス性上皮損傷により生じたまたは該損傷に特徴を有する症状の予防および/または治療に使用し得るという知見に基づく。本発明に従う治療は、予防的に使用して上皮に対する非ウィルス性損傷またはそのような損傷により生じたもしくはそのような損傷に特徴を有する症状を予防し得、あるいは存在する非ウィルス性上皮損傷またはそのような損傷により生じたまたはそのような損傷に特徴を有する症状の治療として使用し得る。例えば、個々人を多くの化学療法剤のような上皮損傷を誘発させることが知られている薬剤に暴露させなければならないとき、本発明に従う治療は、該損傷誘発性薬剤の投与前または投与と同時に、好ましくは該損傷誘発性薬剤と併用して投与し得る。
【0005】
薬剤のリン酸輸送体活性を抑制する能力は、リン酸塩取込みアッセイ法のような確立されたアッセイ法によって評価し得る。1つのそのようなアッセイ法の例は、Kavanaughおよび共同研究者によって開示されている(Kavanaugh, M. P., Miller, D. G., Zhang, W., Law, W., Kozak, S. L., Kabat, D., and Miller, A. D. (1994). Cell-surface receptors for gibbon ape leukemia virus and amphotropic murine retrovirus are inducible sodium-dependent phosphate symporters. Proc. Natl. Acad. Sci. USA 91, 7071-7075)。要するに、適切な細胞系を、ある割合の放射性リン酸塩を含む既知のリン酸塩濃度範囲でインキュベートする。37℃で一定時間、例えば、20分間のインキュベーション後に、細胞をリン酸緩衝生理食塩水で洗浄し、放射性リン酸塩の取込み度合をシンチレーション分光法により測定する。
リン酸輸送体活性のインヒビターは、好ましくはナトリウム依存性リン酸輸送体活性のインヒビター、より好ましくはナトリウム依存性リン酸輸送体活性の特異性インヒビターである。リン酸ナトリウム共輸送体たんぱく質には、4つの既知の群、即ち、タイプI、タイプIIa、タイプIIb (ほぼ、腎臓に限られる)およびタイプIII(より遍在的な組織発現パターンを有する)の各輸送体が存在する。タイプIII輸送体は、輸送たんぱく質の孔形成性領域であると信じられている、各分子の中心近くの大親水性ドメインを含む10個の膜全長ドメインを有すると推定されている。タイプIおよびタイプII群のメンバーは、中心孔領域を有するそのような膜全長領域を6〜8個しか有していないと推定されている。タイプIII輸送体は、タイプIおよびタイプII群とのアミノ酸同一性を20%未満しか有していない(Fernandes, I., Beliveau, R., Friedlander, G., and Silve, C. (1999). NaPO(4) cotransport type III (PiT1) expression in human embryonic kidney cells and regulation by PTH. Am J Physiol 277, F543-551に説明されている)。
タイプIII群は、リン酸輸体たんぱく質Pit1 (テナガザル白血病ウィルスレセプター、即ち、Glvr1とも称される)およびPit2 (ネズミ両種性レトロウィルスレセプター、即ち、Glvr2またはRam2とも称される)を含む (Kavanaugh, M. P., Miller, D. G., Zhang, W., Law, W., Kozak, S. L., Kabat, D., and Miller, A. D. 1994). Cell-surface receptors for gibbon ape leukemia virus and amphotropic murine retrovirus are inducible sodium-dependent phosphate symporters. Proc Natl Acad Sci U S A 91, 7071-7075.;Olah, Z., Lehel, C., Anderson, W. B., Eiden, M. V., and Wilson, C. A. (1994). The cellular receptor for gibbon ape leukemia virus is a novel high affinity sodium-dependent phosphate transporter. J Biol Chem 269, 25426-25431)。Pit1およびPit2は、およそ60%のアミノ酸配列類似性を共有する。
好ましくは、上記インヒビターは、タイプIIIナトリウム依存性リン酸輸送体活性のインヒビター、より好ましくは特異性インヒビターである。最も好ましくは、上記インヒビターは、Pit1および/またはPit2の特異性インヒビターである。
【0006】
リン酸輸送体活性の多くの種々のタイプのインヒビターが知られている。例えば、本発明に従う使用に適するリン酸輸送体活性のある範囲の化学インヒビターが存在する。そのようなインヒビターの好ましい例としては、ホスホノカルボン酸類、並びにそのような酸の製薬上許容し得る塩類またはエステル類のような誘導体がある。
従って、本発明の第2の局面に従い、上皮に対する非ウィルス性損傷またはそのような損傷により生じたまたはそのような損傷に特徴を有する症状の予防用および/または治療用医薬品の製造におけるホスホノカルボン酸または製薬上許容し得るその誘導体の使用を提供するようなホスホノカルボン酸類およびその誘導体が有効である。
本発明に従う使用におけるホスホノカルボン酸は、式R1R2P(O)-Ln-CO2Hを有し得、式中、nは0または1であり;R1およびR2は、同一または異なるものであって、ヒドロキシ基またはエステル残基のいずれかであり;Lは、最大で8個の炭素原子を有する炭化水素基である。また、これらの酸の製薬上許容し得る誘導体、例えば、塩またはエステル類も、本発明に従い使用し得る。
Lは、全炭素主鎖を有する脂肪族、脂環式または芳香族基であり得る。そのような基の例としては、アルキレン、シクロアルキレン、シクロアルケニレン、フェニレン、アルケニレン、アルキニレン、シクロアルキルアルキレン、シクロアルケニルアルキレンおよびフェニルアルキレン、フェニルアルケニレン、およびフェニルアルキニレン基がある。
Lが脂環式炭化水素基である場合、Lは、環中に、好ましくは7個までの炭素原子、より好ましくは6個までの炭素原子を含むであろう。
【0007】
Lが芳香族基である場合、Lは、最も好ましくは、ベンゼン核である。
Lの例としてのアルキレン基は、直鎖または枝分れであり得、好ましくは1〜6個の炭素原子、より好ましくは1〜4個の炭素原子を有する。アルカリ(alkaline)基は、例えば、メチレン、エチリデンまたはプロピリデンであり得る。
使用することができ、いずれも3〜8個の環状炭素原子を有するシクロアルキレン基の例としては、例えば、シクロプロピリデン、シクロブチリデンまたは環中に5、6、7または8個の炭素原子を有する任意の同様な2価の基がある。
アルケニレン基の例としては、エテン、1-プロペン、2-プロペン、イソプロペン、ブテン、ブタ-1,4-ジエン、ペンテンおよびヘキセンに由来するアルケニレン基がある。
シクロアルケニレン基の例としては、限定するものではないが、シクロプロパン、シクロブタン、シクロペンテン、シクロペンタジエンおよびシクロヘキセンから誘導されたシクロアルケニレン基がある。
アルキニレン基の例は、2〜8個の炭素原子、より典型的には2〜6個の炭素原子、例えば、2〜4個の炭素原子を有するアルキニレン基がある。アルキニレン基の例としては、限定するものではないが、エチン(アセチレン)および2-プロピン基から誘導されたアルキニレン基がある。
基Lは、必要に応じて、1個以上の置換基により置換し得る。置換基の例としては、4個までの炭素原子を有する炭化水素基、例えば、メチルまたはエチルのようなアルキル基がある。置換基のさらなる例としては、ハロゲン原子、例えば、フッ素、塩素および臭素から選択された1種以上のハロゲン類がある。
【0008】
基R1およびR2は、同一または異なるものであって、各々、ヒドロキシまたはエステル残基である。エステル残基の例は、ベンジロキシおよびアルコキシ基のようなアラルキルおよびアルキルエステル基であり、特定の例はエトキシである。
化合物の1つの好ましい基においては、R1およびR2は、同一であり、共にヒドロキシルである。
本発明に従う使用におけるホスホノカルボン酸の好ましい例は、nが0であるかまたはnが1であるかのいずれかで且つLがC1-4アルカリ基であるホスホノカルボン酸である。nが1である場合、Lは、好ましくは、メチレンまたはエチリデン基である。
とりわけ好ましいホスホノカルボン酸は、ホスホノ蟻酸、ホスホノ酢酸およびα-クロロ-α-ブロモ-ホスホノ酢酸である。
ホスホノカルボン酸の塩またはエステル類も使用し得る。
本発明のホスホノカルボン酸リン酸輸送体インヒビター化合物は、遊離酸またはその塩またはそのエステルの形であり得る。
上記塩は、製薬上許容し得るカチオンによって形成された任意の製薬上許容し得る塩であり得る。塩類の例としては、アルカリおよびアルカリ土類金属塩、遷移金属塩、および置換されたまたは置換されていないアンモニウム塩がある。特定の金属塩としては、Li、Na、K、Ca、Mg、Zn、MnおよびBa塩のような塩類があり、ナトリウムが1つの好ましい特定の例である。上記塩(例えば、ナトリウム塩のようなアルカリ金属塩)は、例えば、ジ塩またはトリ塩(例えば、ジナトリウムまたはトリナトリウム塩)であり得、トリナトリウム塩が好ましい。アンモニウム塩の例としては、アンモニア自体により、あるいは第一級、第二級、第三級または第四級アミン類によって形成されたアンモニウム塩がある。
アンモニウム塩の特定の例としては、NH3、CH3NH2、C2H5NH2、C3H7NH2、C4H9NH2、C5H11NH2、C6H13NH2、(CH3)2NH、(C2H5)2NH、(C3H7)2NH、(C4H9)2NH、(C5H11)2NH、(C6H13)2NH、(CH3)3N、(C2H5)3N、(C3H7)3N、(C4H9)3N、(C5H11)3N、(C6H13)3N、C6H5CH2NH2、HOCH2CH2NH2、(HOCH2CH2)2NH、(HOCH2CH2)3N、C2H5NH(CH2CH2OH)、C2H5N(CH2CH2OH)2、(HOH2C)3CNH2、ピペリジン、ピロリジンおよびモルフォリンのような塩形成性成分によって形成されたアンモニウム塩がある。
第四級アンモニウム塩の例としては、(CH3)4N、(C2H5)4N、(C3H7)4N、(C4H9)4N、(C5H11)4N、(C6H13)4NおよびC2H5N(CH2CH2OH)3のような第四級アンモニウムイオンによって形成された第四級アンモニウム塩がある。
上記化合物がカルボキシレートエステルの形である場合、該エステルは、例えば、置換されたまたは置換されていないベンジルエステルのようなアラルキルエステルまたはアルキルエステル、例えば、エチルエステルのようなC1-4アルキルエステルであり得る。
【0009】
本発明に従う使用における好ましいホスホノ-カルボン酸としては、ホスホノ蟻酸およびホスホノ酢酸並びにこれら酸の製薬上許容し得る誘導体がある (Swaan, P. W., and Tukker, J. J. (1995). Carrier-mediated transport mechanism of foscarnet (trisodium phosphonoformate hexahydrate) in rat intestinal tissue. J Pharmacol Exp Ther 272, 242-247;Szczepanska-Konkel, M., Yusufi, A. N., VanScoy, M., Webster, S. K., and Dousa, T. P, (1986). Phosphonocarboxylic acids as specific inhibitors of Na+-dependent transport of phosphate across renal brush border membrane. J Biol Chem 261, 6375-6383;Tsuji, A., and Tamai, I. (1989), Na+ and pH dependent transport of foscarnet via the phosphate carrier system across intestinal brush-border membrane. Biochem Pharmacol 38, 1019-1022)。本発明に従う使用において適切なホスホノ蟻酸またはホスホノ酢酸の誘導体としては、これらの酸の製薬上許容し得る塩類がある。一般的には、ホスホノ蟻酸またはホスホノ酢酸のアルカリ金属塩、とりわけナトリウム塩を使用するのが好ましい。ナトリウム塩は、ジまたはトリナトリウム塩であり得る。とりわけ、トリナトリウム塩を使用するのが好ましい。
また、上記塩は、米国特許4,215,113号の実施例2に開示されているような、モノ、ジ、トリアンモニウム塩;第一級、第二級もしくは第三級アミン塩;または第四級アンモニウム塩であり得る。
ホスホノ-カルボン酸の好ましい誘導体は、一般名ホスカネット(foscarnet)で標示されるホスホノ蟻酸トリナトリウム塩六水化物(周知の抗ウィルス薬)であり得る。
ホスホノ-カルボン酸のとりわけ好ましい誘導体のさらなる例としては、ホスホノ蟻酸より3倍大きい抑制活性を有するα-Cl-α-Br-ホスホノアセテートである(Hoppe, A., McKenna, C. E., Harutunian, V., Levy, J. N., and Dousa, T. P. (1988). alpha-Cl-alpha-Br-phosphonoacetic acid is a potent and selective inhibitor of Na+/Pi cotransport across renal cortical brush border membrane. Biochem Biophys Res Commun 153, 1152-1158)。これらの薬剤は、全て上記ホスフェート分子と構造的に類似しており、従って、上記ナトリウム依存性リン酸共輸送体系の拮抗性インヒビターとして作用する。
【0010】
また、本発明に従う使用に適するリン酸輸送体活性のインヒビターは、血清リン酸塩レベルを直接または間接的に調節し得る物質を含み得る。血清リン酸塩の生理学的調節剤は、最近、“ホスファトニン(phosphatonin)”類と集合的に称されており、そのような調節剤は、本発明に従う使用におけるリン酸輸送体活性の好ましいインヒビターを代表する。
使用し得る適切なホスファトニン類の例としては、線維芽細胞成長因子23 (FGF23)および分泌性frizzled-関連たんぱく質4 (FPF4)があり得る(Schiavi, S. C. and R. Kumar (2004). "The phosphatonin pathway: New insights in phosphate homeostasis." Kidney Int 65(1): 1-14)。
本発明に従う使用における適切なリン酸輸送体活性インヒビターは、リン酸輸送体たんぱく質の活性を干渉し得る薬剤もまた含み得る。そのような薬剤としては、輸送体たんぱく質活性を“阻害”し得る中和性抗体のような薬剤を含むそのような輸送体の化学およびたんぱく質拮抗薬がある。
リン酸輸送体活性の抑制は、上皮細胞が発現するリン酸輸送体たんぱく質の数を低減させることによってももたらし得ることを認識されたい。適切な低減は、リン酸輸送体たんぱく質をコード化する遺伝子の転写を低減させることにより、あるいはそのような転写により産生されたmRNAの翻訳を低減させることによりもたらし得る。この方法において抑制を達成するのに適する薬剤としては、遺伝子発現の特異性インヒビター、アンチセンスオリゴヌクレオチド類、アンチセンスmRNAまたはオリゴヌクレオチド類、RNAiおよび遺伝子特異性リボザイム類がある(Wang, H., Hang, J., Shi, Z., Li, M., Yu, D., Kandimalla, E. R., Agrawal, S., and Zhang, R. (2002). Antisense oligonucleotide targeted to RIalpha subunit of cAMP-dependent protein kinase (GEM231) enhances therapeutic effectiveness of cancer chemotherapeutic agent irinotecan in nude mice bearing human cancer xenografts: in vivo synergistic activity, pharmacokinetics and host toxicity. Int J Oncol 21, 73-80;Song, E., Lee, S. K., Wang, J., Ince, N., Ouyang, N., Min, J., Chen, J., Shankar, P., and Lieberman, J. (2003). RNA interference targeting Fas protects mice from fulminant hepatitis. Nat Med 9, 347-351;Abounader, R., Lal, B., Luddy, C., Koe, G., Davidson, B., Rosen, E. M., and Laterra, J. (2002). In vivo targeting of SF/HGF and c-met expression via U1snRNA/ribozymes inhibits glioma growth and angiogenesis and promotes apoptosis. Faseb J 16, 108-110)。また、リン酸輸送体発現の制御に応答性である調節経路を遮断する方法も使用し得る。
【0011】
リン酸輸送体の活性を干渉し得るインヒビターは、本発明に従って製造した医薬品によって“直接”投与し得る(即ち、インヒビター自体の投与)。或いは、さらに、そのようなインヒビターは、例えば、適切なインヒビターをコード化するビヒクルを含むベクターの投与により“間接的”に投与し得る。そのようなビヒクルは、例えば、リン酸輸送体発現の制御に応答性の調節経路を阻害し得る産生物をコード化する核酸を含み得る。例えば、該ビヒクルは、リン酸輸送体転写のインヒビターをコード化する遺伝子を含み得る。
当業者であれば、リン酸輸送体活性のインヒビターおよび/またはホスホノカルボン酸(または製薬上許容し得るその誘導体)を、非ウィルス性上皮損傷またはそのような損傷によって生じたまたはそのような損傷に特徴を有する症状を予防および/または治療する方法においても使用し得ることは認識し得ることであろう。
即ち、本発明の第3の局面によれば、上皮に対する非ウィルス性損傷あるいはそのような損傷によって生じたまたはそのような損傷に特徴を有する症状の予防および/または治療方法を提供し、該方法は、そのような予防および/または治療を必要とする患者に、有効量のリン酸輸送体活性のインヒビターを投与することを含む。
さらに、本発明の第4の局面によれば、上皮に対する非ウィルス性損傷あるいはそのような損傷により生じたまたはそのような損傷に特徴を有する症状の予防および/または治療方法を提供し、該方法は、そのような予防および/または治療を必要とする患者に、有効量のホスホノカルボン酸またはその製薬上許容し得る誘導体を投与することを含む。
本発明に従う医薬品または治療方法の使用は、上皮のクローン形成性幹細胞に対する非ウィルス性損傷の予防および/または治療において、さらに、そのような損傷により生じたまたはそのような損傷に特徴を有する症状の予防および/または治療においてとりわけ適する。上記医薬品の作用は、クローン形成性幹細胞を損傷から保護する(即ち、損傷発生を防止する)のにまたはクローン形成性幹細胞の損傷から回復する能力を改善する(即ち、損傷後の細胞生存性を改善する)のに使用し得、あるいはこれら2つの作用形態の組合せを使用し得る。
【0012】
本発明の医薬品および治療方法は、試験した全ての上皮組織における上皮損傷あるいはそのような損傷により生じたまたはそのような損傷に特徴を有する症状の予防および/または治療において適している。本発明者等は、本発明の医薬品または治療方法を、臟噐移植および組織移植の結果として生じる上皮損傷(レシピエント上皮細胞およびドナー上皮細胞双方に対する損傷を含む)、並びに上皮組織に対する創傷、乾癬および脱毛症のような疾患に関連する上皮損傷を治療するのに有効に使用し得ると信じている。また、リン酸輸送体活性のインヒビターおよびホスホノカルボン酸(およびその誘導体)の使用は、組織および細胞培養方法においても利用性を有する。
本発明者等は、本発明に従う医薬品または治療方法の使用が、消化器上皮に対する非ウィルス性損傷により生じたまたは該損傷に特徴を有する症状の予防および/または治療における使用においてとりわけ適切であることを見出した。“消化器上皮”とは、消化に関与するあらゆる組織の上皮、とりわけ胃腸管の上皮(本明細書の目的においては、口から直腸に至る消化管として定義し、全ての口内粘膜を含む)を意味する。さらに好ましくは、消化器上皮は、腸の上皮または口内粘膜の上皮であり得る。
また、本発明の医薬品および治療方法は、毛嚢のような表皮付属器を含む上皮に対する非ウィルス性損傷(あるいはそのような損傷により生じたまたはそのような損傷に特徴を有する症状)の予防および/または治療にも適している。本発明の医薬品および治療は、太陽熱放射線により生じる日焼けおよび関連水胞形成のような上皮損傷の予防および/または治療にも使用し得る。
消化器上皮に対する損傷の場合、本発明に従う医薬品および治療方法は、下痢、大腸炎、潰瘍性大腸炎、粘膜炎、潰瘍、手術または偶発的創傷、および炎症性腸疾患のような反応性疾患(例えば、クローン病等)のような症状を予防および/または治療するのに使用し得る。
【0013】
本発明者等は、本発明に従う医薬品および/または治療方法が、がん治療において使用した療法、とりわけ化学療法および放射線治療により生じた上皮損傷の治療および/または予防、並びにそのような上皮損傷により生じたまたはそのような損傷に特徴を有する症状の治療および/または予防においてとりわけ有効であることを見出した。
がんは、主要先進国における2番目の最も一般的な死亡原因である。現在生存している米国人の3人に1人が、最終的にがんを発症するものと推測されている。化学療法および放射線療法は、とりわけ、がんの最も一般的な治療法であるが、これらの療法は多くの有害副作用を有することが認められている。これら副作用の中には、健常上皮細胞に加えられた損傷によって生じた多くの副作用が存在する。一般な発症例としては、消化器上皮に対する損傷によって生じる下痢、および頭皮の皮膚のような皮膚内に見出される毛嚢の上皮細胞に対する損傷によって生じる脱毛症がある。本発明に従う医薬品および/または治療方法は、がん患者に対して行った放射線療法または化学療法により生じた下痢の予防および/または治療にとりわけ有用である。
従って、本発明の第5の局面によれば、放射線療法および/または化学療法により生じた粘膜炎および/または下痢の予防用および/または治療用医薬品の製造におけるリン酸輸送体活性のインヒビターの使用を提供する。
本発明の第6の局面においては、放射線療法および/または化学療法により生じた粘膜炎および/または下痢の予防用および/または治療用医薬品の製造におけるホスホノカルボン酸またはその製薬上許容し得る誘導体の使用を提供する。
本発明の第7の局面においては、放射線療法および/または化学療法により生じた粘膜炎および/または下痢の予防および/または治療方法を提供し、該方法は、そのような予防および/または治療を必要とする患者に、有効量のリン酸輸送体活性のインヒビターを投与することを含む。
本発明の第8の局面においては、放射線療法および/または化学療法により生じた粘膜炎および/または下痢の予防および/または治療方法を提供し、該方法は、そのような予防および/または治療を必要とする患者に、有効量のホスホノカルボン酸またはその製薬上許容し得る誘導体を投与することを含む。
【0014】
がん療法によって生じた消化器上皮に対する損傷およびその後の下痢に加え、胃腸損傷および/または下痢も、微生物感染によって頻繁に発生している。
従って、非ウィルス性病原菌によって生じる粘膜炎および/または下痢は、本発明に従って治療および/または予防し得る好ましい症状を構成する。
胃腸上皮に対する損傷を生じ得る非ウィルス性病原菌には、細菌および真菌がある。下痢のような症状に至る上皮損傷に寄与することが知られている病原菌の特定の例としては、セレウス菌(Bacillus cereus)、カンピロバクター菌(Campylobacter)、ボツリヌス菌(Clostridium botulinum)、ウェルシュ菌(Clostridium perfringens)、クリプトスポリジウム小型種(Cryptosporidium parvum)、大腸菌(Escherichia coli) (大腸菌O157 H7型およびSTECとして知られる志賀毒素産生性大腸菌非O157)、ランブル鞭毛虫(Giardia intestinalis)、リステリア・モノサイトゲネス(Listeria monocytogenes)、ウシ型結核菌(Mycobacterium bovis)、チフス菌(Salmonella typhi)、サルモネラ非チフス菌、赤痢菌(Shigella) (志賀赤痢菌を含む)、黄色ブドウ球菌(Staphylococcus aureus)、トキソプラズマ(Toxoplasma gondii)、コレラ菌(Vibrio cholerae)、腸炎ビブリオ(Vibrio parahaemolyticus)、ビブリオ・ブルニフィカス(Vibrio vulnificus)、およびエンテロコリチカ菌(Yersinia enterolitica)がある。
【0015】
リン酸輸送体活性のインヒビターおよびホスホノカルボン酸またはその製薬上許容し得る誘導体は、好ましくは、本発明に従う医薬品として調製する。以下のパラグラフは、そのような医薬品の調製において使用し得る適切な配合の詳細を提供する。以下のパラグラフおいて使用するときの用語“活性剤”は、リン酸輸送体活性のインヒビターおよび/またはホスホノカルボン酸(またはその製薬上許容し得る誘導体)の双方を称するものとする。
活性剤は、通常、製薬上許容し得る担体と一緒に患者に投与するが、活性剤は担体物質なしでも使用し得ることを認識されたい。適切な担体としては、固形、半固形または液体希釈剤、または摂取可能なカプセルがある。
本発明に従う医薬品は、予防および/または治療を意図する上皮損傷に関連して調製する。例えば、口の消化器上皮または頭皮の上皮のような“手の届く”上皮に対する損傷の予防および/または治療を意図する医薬品は、局所投与用に調製し得る。
対照的に、小腸または直腸の消化器上皮のような“手の届かない”上皮に対する損傷の予防および/または治療を意図する医薬品は、全身投与(例えば、経口、直腸または吸入投与による)用に調製して、医薬が血流に入りその後上皮ターゲットに伝達させるようにする。また、活性剤は服用し得、その後、活性剤は、胃腸管を通過するときに消化器上皮に直接作用するであろう。
局所投与用の適切な製剤としては、溶液、懸濁液、ゼリー、ゲル、クリーム、軟膏、スプレー剤、発泡剤、粉末、リポソーム、トローチ、チューインガム、歯磨き粉および洗口剤がある。消化器上皮に対する局所投与の場合には、経口投与用または直腸投与用(例えば、座薬として)の医薬品を調製するのがとりわけ好ましく、頭皮に対する局所投与の場合には、医薬品はシャンプーとして調製し得る。呼吸器上皮に対する非ウィルス性損傷の場合は、医薬品は、例えば、点鼻薬、鼻腔内スプレー剤または吸入用エアゾールとして調製し得る。
皮膚塗付用に適する局所組成物としては、保湿剤、日焼けローションおよびクリームがあり得る。そのような組成物は、日焼けおよび水胞のような太陽熱放射線により生じた上皮損傷の予防および/または治療における活性剤の投与においてとりわけ適している。
【0016】
皮膚に塗布すべき局所投与組成物の場合、活性剤を伝達するのに使用するビヒクルは、皮膚のケラチン層と交叉し得るビヒクルである必要があり得る。この目的における適切なビヒクルの例としては、ジメチルスルホキシドおよび酢酸がある。そのような局所組成物によって提供される活性剤の量は、変動を伴うが、典型的には0.05質量%〜20質量%の活性剤であり得る。多くの方法が、局所投与用組成物の調製において知られている。例えば、活性剤は、イソプロパノール、グリセリン、パラフィン、ステアリルアルコール、ポリエチレングリコール等のような既知の担体物質と混合し得る。
また、適切な組成物は、既知の化学吸収促進剤も含む。吸収促進剤の例は、例えば、ジメチルアセトアミド(米国特許第3,472,931号)、トリクロロエタノールまたはトリフルオロエタノール(米国特許第3,891,757号)、ある種のアルコール類およびそれらの混合物(英国特許第1,001949号)がある。また、無傷の皮膚に対する局所投与用の担体物質も、英国特許明細書第1,464,975号に記載されており、該英国特許は、40〜70%(容量/容量)のイソプロパノールと0〜60%(容量/容量)のグリセリンを含む溶媒からなり、必要に応じて、残余が溶媒の総容量の40%を超えない希釈剤不活性成分である担体物質を開示している。
また、当業者であれば、局所投与を、局所注入、例えば、皮内注射によっても達成し得ることは認識していることであろう。
【0017】
上記医薬品は、有利には、全身投与用に配合した活性剤を含み得る。例えば、上記活性剤は、錠剤、発泡粉末剤、カプセル、糖衣錠または液体製剤のような経口投与に適する剤形において配合し得る。
また、全身投与は、直腸投与(この場合、活性剤は座薬として調製し得る)および経鼻投与(例えば、吸入に適する経鼻スプレーまたはエアゾールによる)のような他の経路によっても達成し得る。また、全身投与用の適切な製剤としては、活性剤が、例えば、ホスホノカルボン酸の水溶性の製薬上許容し得る塩の水溶液を含む注射可能な製剤がある。注射可能製剤は、必要に応じて、安定化剤および/または水溶液中の緩衝物質、例えば、中性緩衝生理食塩水を含み得る。注射可能製剤は、活性剤を0.5〜10%の濃度で含有し得る。溶液の投与単位は、アンプル形で有利に提供し得る。
経口投与に適する本発明の医薬品の調製においては、活性剤を固形粉末担体と混合して、錠剤、糖衣錠等を形成させ得る。そのような担体は、圧縮して錠剤または糖衣錠のコアを形成させ得る。適切な担体の例としては、ラクトース、サッカロース、ソルビトールおよびマンニトール;ポテトスターチ、アミロペクチン、コンブ粉末または柑橘類果肉粉末のような澱粉類;セルロース誘導体またはゼラチンがあり、さらにまた、ステアリン酸マグネシウムまたはカルシウム、carbowaxRまたは他のポリエチレングリコールワックス類のような潤滑剤も含み得る。
糖衣錠が必要な場合、上記コアは、例えば、アラビアガム、タルクおよび/または二酸化チタンを含有し得る濃縮糖溶液によりあるいは稀発し易い有機溶媒または有機溶媒混合物中に溶解させたフィルム形成性剤によりコーティーングし得る。染料をこれらのコーティーングに添加して、例えば、活性剤の種々の含有量を区別させ得る。ゼラチンと、例えば、可塑剤としてのグリセリンとからなる軟質ゼラチンカプセル剤または同様な封入カプセル剤の調製においては、活性剤は、carbowaxRまたは胡麻油、オリーブ油もしくは落花生油のような適切な油類と一緒に混合し得る。硬質ゼラチンカプセル剤は、活性剤と、ラクトース、サッカロース、ソルビトール、マンニトール、澱粉類(例えば、ポテトスターチ、コーンスターチまたはアミロペクチン)、セルロース誘導体またはゼラチンのような固形粉末担体との顆粒を含有し得、さらにまた、潤滑油としてのステアリン酸マグネシウムまたはステアリン酸も含み得る。
【0018】
消化器上皮に対する非ウィルス性損傷の治療および/または予防に使用すべき本発明に従う医薬品は、経口投与用の錠剤、カプセル剤等として調製し得る。この形で投与する場合、医薬品は、胃腸管内での分解を被り、この分解は、活性剤ひいては医薬品の有効性を低下させ得ることを認識されたい。さらに、胃腸管全体の治療よりはむしろ胃腸管内の1以上の特定部位において発症する非ウィルス性損傷の治療が望まれ得ることも認識されたい。従って、消化に対する抵抗性を少なくとも部分的に付与するコーティーングを有する経口投与用医薬品を提供するのが好ましくあり得る。また、そのようなコーティーングは、活性剤の持続または遅滞放出を与える製剤を調製するのにも使用し得る。そのようなコーティーングを調製する多くの方法が知られている。
例えば、持続放出錠剤は、遅溶解性コーティーングによって分離された数層の活性剤層を使用することによって調製し得る。持続放出錠剤を調製するもう1つの方法は、活性剤の投与量を、異なる厚さのコーティーングを有するように調製した複数の顆粒中に分割することである。そのような顆粒は、カプセル剤の内容物として投与でき、あるいは、顆粒を担体物質と一緒に圧縮して錠剤を形成させてもよい。また、活性剤は、例えば生理学的に不活性な可塑性物質のような油脂およびワックス物質から製造した遅溶解性錠剤中に含ませることもできる。
同様なコーティーング剤を、特定部位で活性剤を放出させるように配合した医薬品の製造において使用し得る。例えば、“腸溶性”コーティーング有する錠剤等を調製することができる、即ち。胃内で見出される酸性pHでは溶解しないような特性を有する胃酸抵抗性腸溶性フィルムまたはコーティーング層を有するように調製し得る。そのような腸溶性コーティーング医薬品においては、活性剤は、製剤が腸に達するまで放出されない。適切な腸溶性コーティーングは、多くの例が知られており、セルロースアセテートフタレートおよびヒドロキシプロピルメチルセルロースフタレート(商品名HP55、HP50およびEudragitRL、EudragitRSとして市販されているもののような)がある。
発泡粉末剤は、本発明に従う医薬品を経口投与用に調製し得るさらに好ましい実施態様提供する。そのような粉末は、活性剤を無毒性炭酸塩または重炭酸塩類(炭酸カルシウム、炭酸カリウムおよび炭酸水素カリウムのような)および/または固形無毒性酸類(酒石酸、アスコルビン酸およびクエン酸のような)と混合することによって調製し得る。また、発泡粉末剤は、適切な香料および/または甘味料を含ませて調製して口当りを改善することもできる。
経口投与用の液体製剤は、本発明に従う医薬品を経口投与用に調製し得るさらなる剤形を提供する。液体製剤の適切な剤形としては、エリキシル剤、シロップ剤または懸濁液がある。そのような液体製剤は、約0.1質量%〜20質量%の活性剤を含み得、さらに、砂糖、エタノール、水、グリセリン、プロピレングリコール並びに香料および/または甘味料のような成分も含み得る。また、液体製剤は、カルボキシメチルセルロースのような分散剤も含み得る。
【0019】
活性剤を投与する投与量は、多くの要因に応じて変動し得る。例えば、非ウィルス性微生物感染により生じた上皮損傷の場合、投与すべき活性剤の量は、感染の重篤度に影響され得る。また、必要とする活性剤量は、治療する患者の年齢および損傷上皮領域のような要因によっても変化し得る。
活性剤を含有する製薬組成物は、単回投与量または複数回の投与量単位剤形のいずれかとして、本発明で意図する範囲内の投与量を提供するように適切に調製し得ることを認識されたい。
一般に、本発明の医薬品を使用して、存在する上皮損傷あるいはそれにより生じたまたはそのような損傷に特徴を有する症状を治療する場合、該医薬品は、損傷が発症するかあるいはその症状が診断されると直ちに投与すべきである。しかしながら、そのような損傷または症状は、数日間または数週間にさえ亘って発症し得る。従って、治療する対象者は、本発明の医薬品を投与することによる良好な利益を、たとえ損傷が発生しあるいはその症状が発症しまたは診断された数日または数週間後に本発明の医薬品を投与した場合でさえも享受し得る。上記医薬品の治療的使用は、上記損傷または症状の消失が臨床医の満足に達するまで続行し得る。
予防として使用する場合(例えば、化学療法または放射線療法のようながん療法を開始する前に)、本発明の医薬品は、上皮損傷のリスクが認められると直ぐに投与すべきである。例えば、上記医薬品は、がん療法による治療時に、あるいは治療の数時間または数日前に投与するのが好ましい。
本発明に従って製造した医薬品は、該医薬品を受ける患者に対し、kg体重当り活性剤500mgまでの投与日量を与えるように調製し得る。好ましくは、上記医薬品は、kg体重当たり250mgまで、より好ましくはkg体重当たり120mgまで、さらに好ましくはkg体重当たり60mgまでの投与日量を与えるように調製し得る。本発明に従う医薬品は、例えば、kg体重当たり50mg、より好ましくはkg当たり30mg、15mgまたは5mg、最も好ましくはkg当たり1mgの投与日量を与え得る。
好ましい投与回数は、選定した活性剤の生物学的半減期に依存する。典型的には、本発明に従う医薬品は、ターゲット組織に、損傷したあるいは損傷リスク時の上皮中の活性剤濃度を治療効果が達成されるような適切なレベルに維持するように投与すべきである。このためには、毎日のまたは1日数回でさえの投与を必要とし得る。
【0020】
本発明者等は、本発明の好ましい実施態様においては、本発明に従う活性剤を、非ウィルス性上皮損傷を発症させる薬剤の投与前(例えば、化学療法剤の投与または放射線療法前)に投与し得ることを見出した。例えば、活性剤は、上皮損傷の発症前の24時間まで、より好ましくは損傷発症前の12時間まで、最も好ましくは損傷前の1時間までに投与し得る。
活性剤の投与は、損傷性薬剤の投与後の期間中繰返し得る。即ち、例えば、活性剤は、化学療法または放射線療法の投与後の初日と翌日、好ましくは損傷発症後の少なくとも最初の2日間、より好ましくは損傷発症後の少なくとも3日間、最も好ましくは損傷後の少なくとも7日間投与し得る。
本発明に従う活性剤は、損傷発症の前および後の双方において投与し得るのがとりわけ好ましい。例えば、本発明者等は、本発明の医薬品が、上皮損傷の前および損傷後の少なくとも3日間の双方で投与した場合に、とりわけ有効であることを見出している。
本発明者等は、驚くべきことに、化学療法剤または放射線のような上皮損傷を生じ得る薬剤の多投与量を投与すべき場合、活性剤を含む医薬品が、上記損傷性薬剤の各投与の前または後よりもむしろ損傷発症前に単回投与量で投与した場合に、とりわけ有効であり得ることを見出している。
ここまでの説明において活性剤投与における可能性があり好ましい処方の非限定的な例を提示してきたが、製薬工業において通常使用される手法のような既知の手法(例えば、生体内試験、臨床試験等)を使用して、組成物の特定の配合および正確な治療処方(活性剤の投与日量および投与回数)を確立し得ることも認識されたい。
【0021】
本発明の第9の局面によれば、リン酸輸送体活性のインヒビターと洗髪に適する少なくとも1種の界面活性剤とを含むシャンプー組成物を提供する。
本発明の第10の局面においては、ホスホノカルボン酸またはその製薬上許容し得る誘導体と洗髪に適する少なくとも1種の界面活性剤とを含むシャンプー組成物を提供する。
本発明において考慮するときの“シャンプー”とは、毛髪の洗浄、コンディショニング、スタイリングまたはメンテナンスに使用する任意の製品を包含するのに使用する。例えば、本発明に従うシャンプーは、薬用シャンプー、フケ防止特性を有するシャンプー、コンディショナー、シャワー用ジェル、ボディーソープであり得る。また、本発明に従う活性剤は、整髪用ジェル、ワックス、クリームまたは他のスタイリング製剤によっても提供し得る。
上記シャンプー組成物は、好ましくは、活性剤α-Cl-α-Br-ホスホノアセテートを含む;しかしながら、本発明に従い調製した医薬品の使用において考慮した活性剤の範囲は、本発明に従うシャンプーの使用においても適し得ることを認識されたい。
【0022】
リン酸輸送体活性のインヒビターおよび/またはホスホノカルボン酸(またはその製薬上許容し得る誘導体)の化学療法の結果として生じる上皮損傷を予防および/または治療する能力は、とりわけ注目すべき価値を有する。従って、本発明の第1または第2の局面に従って調製した医薬品は、化学療法化合物と併用して使用する医薬品を製造するように調製することが好ましい。
事実、本発明の第11の局面によれば、リン酸輸送体活性のインヒビターと化学療法化合物との併用物を提供する。さらにまた、本発明の第12の局面によれば、ホスホノカルボン酸またはその製薬上許容し得る誘導体と化学療法化合物との併用物を提供する。リン酸輸送体活性のインヒビターまたはホスホノカルボン酸(またはその製薬上許容し得る誘導体)は、本発明に従う医薬品において説明したようにして、選定し、配合し得る。
本発明の第11および第12の局面に従う併用物は、化学療法を受けている患者において発症する上皮損傷を阻止するために、或いは、上皮損傷またはそのような損傷に特徴を有する症状を既に患っている化学療法患者の場合には、さらなる損傷発症を防止しながら化学療法を続けるのを可能にするために使用し得る。そのような併用物は、化学療法剤を胃腸管のがんを治療するのに投与するような状況での使用においてとりわけ適していることを認識されたい。
本発明の第11または第12の局面の併用物において使用するのに適する好ましい活性剤は、α-Cl-α-Br-ホスホノアセテートである。化学療法化合物は、好ましくは、胃腸管のがんにおいて最も一般的に使用される化学療法薬であるフルオロウラシルであり得る。
本発明に従う併用物において有利に使用し得る他の化学療法化合物としては、ドキシルビシン(doxyrubicin) (アドリアマイシン)、ダウノルビシン、メトトレキサート、ビンクリスチン、ビンブラスチン、メルファラン、シトシン、アラビノシド、チオグアニン、ブレオマイシン、ダクチノマイシン、シスプラチン、ミトラマイシン、ヒドロキシ尿素および塩酸プロカルバジンがあり、これらは全て粘膜炎を引起すことが知られている。
本発明に従う併用物は、活性剤と化学療法化合物とが別々の投与量剤形で調製される併用物であり得る。また、併用物は、投与量剤形の活性剤と化学療法化合物の混合物を含み得る。
“投与量剤形”とは、投与に適し得且つ選定した活性剤および/または化学療法化合物の投与量を含む剤形を意味する。そのような投与量は、必要とする活性剤または化学療法化合物の量および所望する投与回数に応じて決定し得る。即ち、投与量剤形は、例えば、投与すべき活性剤と化学療法化合物の投与週量、投与日量、または投与日量の1部を含み得る。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】放射線または細胞毒性化学剤により生じた上皮損傷に応答してのリン酸輸送体の発現増大を示す。
【図2】ホスカネットまたはビヒクル対照のいずれかで治療した照射マウスにおける下痢の発生率を示す。
【図3】化学療法剤5FUを投与した対照治療またはホスカネット治療動物における経時的な舌の腹側表面を覆う上皮の全体的細胞充実度を示す。
【図4】ホスカネット治療および対照治療動物における舌の腹側表面を覆う上皮中の単位面積当りの細胞数を比較する。
【図5】ホスカネット治療または対照治療動物における腸腺窩細胞中のブロモデオキシウリジン標識化係数を示す。
【図6】ホスカネット治療およびビヒクル治療動物の舌の腹側表面上の単位面積当りの細胞数の経時的変化を比較する。
【図7】ホスカネット治療およびビヒクル治療動物の舌の腹側表面を覆う上皮中の単位面積当りで存在する過剰の細胞の平均数を比較する。
【実施例】
【0024】
以下、試験データを、添付図面を参照しながら説明する。
(試験データ)
実施例1
上皮損傷に応答するリン酸輸送体発現の調節試験
マウスを、2つの異なる上皮損傷試験モデルに供した;下記で説明するように、1つは化学損傷であり、他方は放射線損傷である:
放射線損傷モデル
第1群のマウス(n=6)は、0.7Gy/分の線量での1Gy X線全身照射によって治療し、放射線治療後3時間で死亡させ、胃腸管組織を試験のために収集した。
第2群のマウス(n=6)は、0.7Gy/分の線量速度で8Gy X線全身照射によって治療した。治療マウスは、放射線治療後24時間で死亡させ、胃腸管組織を試験のために採取した。
化学損傷モデル
第3群のマウス(n=6)は、6時間おいて、40mg/kg体重での5-フルオロウラシルの腹腔内注入を2回行った。治療マウスを、2回目の5-フルオロウラシル治療の24時間後に死亡させ、胃腸管組織を試験のために採取した。
使用した上記各治療は、がん治療を受けている患者に対して行う療法モデルをさらに提供する。放射線損傷モデルは放射線療法のモデルを提供し、化学損傷モデルは化学療法モデルを提供する。
全RNAは、RNAqueousTM 96 RNA分離キット(Ambion社)を使用して各サンプルから調製した。リン酸輸送体発現に対する上皮損傷の効果を、代表的な全cDNAの定量実時間PCR解析によって試験した(Al Taher, A., Bashein, A., Nolan, T., Hollingsworth, M., and Brady, G. (2000). Global cDNA amplification combined with real-time RT-PCR: accurate quantification of multiple human potassium channel genes at the single cell level. Comp Funct Genomics: Yeast 17, 201-210;Brady, G., Barbara, M., and Iscove, N. N. (1990). Representative in vitro cDNA amplification from individual hemopoietic cells and colonies. Meth Mol Cell Biol 2, 17-25.)。
【0025】
実時間RT-PCRデータは、製造業者の使用説明書に概略されているようなEurogentec SYBR greenTMコアキットを使用し、ABI PrismTM 7000 Sequence Detection装置で実施して取得した。Pit1の定量分析において使用したオリゴヌクレオチドは、ハツカネズミ(Mus musculus)溶質担体群20、メンバー1 (Slc20a1)としても知られており、下記のものであった:
5'-GCGGTTGTGGTTATTCTTCTGAG-3' (センス)、および
5' CCCAAAGTTCACATTCCACTTCA-3'(アンチセンス)であった。
これらのオリゴヌクレオチドは、配列受託番号NM_015747.1に基づいた。図1は、放射線治療動物、化学治療動物および対照動物から収集した結腸組織におけるPit1発現についてのデータを示す。各群において、提示したデータは、6匹の個々の動物の平均値であり、各誤差バーは標準偏差を示す。
1Gy 3時間マウスと表示した放射線治療は、第1試験群の動物(0.7Gy/分の線量速度で1Gy X線全身照射により治療し、放射線治療後3時間で死亡させた)に相応し、一方、8Gy 24時間マウスと表示した放射線治療は、第2の試験群の動物(0.7Gy/分の線量速度で8Gy X線全身照射により治療し、放射線治療後24時間で死亡した)に相応する。5FU24時間マウスと表示した治療は、第3試験群(6時間おいて40mg/kg体重の5-フルオロウラシルの腹腔内注射を2回行い、2回目の5-フルオロウラシル治療の24時間後に死亡させた)に相応する。
要するに、図1に示した結果は、Pit1におけるmRNAが、対照の未治療動物群と比較したとき、治療動物群の損傷消化器組織において有意に増大していたことを例証している。これらの結果は、Pit1リン酸輸送体mRNAの有意の増大が放射線誘発性および化学誘発性損傷の双方に応答して生じていること、さらにまた、放射線治療に対する応答は線量依存性であることを裏付ける。
【0026】
実施例2
下痢予防アッセイ
消化器上皮に対する放射線損傷後の下痢を予防するホスカネット(ホスホノ蟻酸トリナトリウム塩六水和物)の能力を試験した。
使用した放射線損傷モデルは、0.7Gy/分の線量速度で14Gy X線一部身体照射(頭部および胸部鉛遮蔽)により治療した。そのような放射線治療は、がん治療を受けている患者に行う放射線療法のモデルを提供する。
各マウス5匹の3つの試験群は、下記で説明するようにして確立した。
群1:滅菌水中に50mgホスカネット/kg体重を含有する腹腔内注射を、放射線治療の1時間前に受けた。さらに、放射線治療後の翌5日間毎日同じ注射を1回受けた。
群2:滅菌水中に100mgホスカネット/kg体重を含有する腹腔内注射を、放射線治療の1時間前に受けた。さらに、放射線治療後の翌5日間毎日同じ注射を1回受けた。
群3:ビヒクル対照群1:滅菌水の腹腔内注射を放射線治療の1時間前に受けた。さらに、放射線治療後の翌5日間毎日同じ注射を1回受けた。
試験動物における下痢(1日2回の肛門周辺の汚れ具合を評価することにより測定)および死亡双方の発生率を、放射線治療後の7日間のクールに亘って測定した。結果を下記の表1および図2に示す。

表1


理解し得るように、kg体重当り50mgでのホスカネットによる治療は、放射線治療の有害作用を完全に防御している。同様に、kg体重当り100mgでのホスカネットによる治療は、ビヒクル対照と比較して、下痢の発生率および関連する死亡率の低下に至っている。これらの結果は、消化器上皮に対する放射線損傷に由来する下痢および関連する死亡を予防する本発明の治療能力を例証している。
【0027】
実施例3
腸上皮クローン形成性幹細胞の生体内保護(放射線損傷単独試験1)
消化器上皮のクローン形成性幹細胞対する放射線損傷を予防するホスカネット(ホスホノ蟻酸トリナトリウム塩六水和物)の能力を以下の試験によって例証した。
使用した放射線損傷モデルは、0.7Gy/分の線量速度での13Gy X線全身照射により治療した。そのような放射線治療は、がん治療を受けている患者に行う放射線療法のモデルを提供する。
各マウス6匹の4つの試験群を、下記に説明するようにして確立した。
群1:滅菌水中に50mgホスカネット/kg体重を含有する腹腔内注射を、放射線治療の1時間前に受けた。さらに、放射線治療後の3日間毎日同じ注射を1回受けた。
群2:滅菌水中に100mgホスカネット/kg体重を含有する腹腔内注射を、放射線治療の1時間前に受けた。さらに、放射線治療後の3日間毎日同じ注射を1回受けた。
群3:ビヒクル対照。滅菌水の腹腔内注射を放射線治療の1時間前に受けた。さらに、放射線治療後の3日間毎日同じ注射を1回受けた。
群4:未治療対照。注射も放射線への暴露も受けなかった。
治療後4日目に、各群の動物を死亡させ、腸組織を組織学的分析のため採取した。組織切片をヘモトキシリンおよびエオシンで染色し、再生性腸腺窩の存在について分析した。
再生性腸腺窩は、1個以上の生存クローン形成性幹細胞に由来し、一方、死滅腺窩(生存幹細胞を含有しない)は、照射の2日以内で消失した。腸周辺当りの再生性腺窩の数を計数し、平均腺窩幅を計測した。その後、各動物における得点を、下記の等式に従って補正して優先的に大きめの腺窩を得点する確率を計上した:
補正数 = 未治療腺窩の平均幅/治療腺窩の平均幅×腺窩数
各治療においては、保護係数を、下記の等式を使用して算出した:
治療周辺当りの補正腺窩数/未治療(ビヒクル)周辺当りの補正腺窩数
【0028】
結果は、下記の表2および3に示しており、群1および2に対して行った治療(それぞれ、50mgホスカネットおよび100mgホスカネット)が、放射線暴露後の試験動物において腸腺窩数の増大をもたらしていたことを例証している。このことは、クローン形成性幹細胞が、定義により、そのような再生を開始し得る細胞のみであることから、上記の各治療が腸上皮クローン形成性幹細胞を保護していたことを示唆している。50mgホスカネットで治療したマウスの腸上皮は、50mg/kgホスカネット治療後に、ほぼ50%以上の腺窩を含有し(ビヒクルのみで治療したマウスの腸上皮と比較して)、少なくとも50%以上の小腸クローン形成性幹細胞が生存していたことを示唆していた。
各クローン形成性幹細胞は急上昇数の娘細胞を産生し得るので、この生存率における50%以上の増大は、細胞増殖後に、上皮細胞充実度の大きな増大をもたらすであろう。そのような細胞生存および増殖は、実施例1において例示しているような下痢、並びに潰瘍形成(粘膜炎)および他の関連症状を軽減させ得る。
【0029】
表2

表3

【0030】
実施例4
腸上皮クローン形成性幹細胞の生体内保護(化学療法薬損傷)
消化器上皮のクローン形成性幹細胞に対する細胞毒性損傷を予防するホスカネット(ホスホノ蟻酸トリナトリウム塩六水和物)の能力を下記の試験によって例証した。
使用した細胞毒性損傷モデルは、400mgまたは500mg 5-フルオロウラシル/kg体重のいずれかでの6時間をおいた5-フルオロウラシルの2回投与による治療であった。そのような細胞毒性治療は、がん治療を受けている患者に行う化学療法モデルを提供する。
各マウス5匹の5つの試験群を、下記に説明するようにして確立した:
群1:滅菌水中に50mgホスカネット/kg体重を含有する腹腔内注射を、1回目の細胞毒性治療(400mg 5-フルオロウラシル/kg体重)の1時間前に受けた。さらに、細胞毒性治療後の3日間毎日同じ注射を1回受けた。
群2:滅菌水中に50mgホスカネット/kg体重を含有する腹腔内注射を、2回の細胞毒性治療(400mg 5-フルオロウラシル/kg体重)の双方の1時間前に受けた。さらに、細胞毒性治療後の3日間毎日同じ注射を1回受けた。
群3:ビヒクル対照。滅菌水の腹腔内注射を2回の細胞毒性治療(400mg 5-フルオロウラシル/kg体重)の双方の1時間前に受けた。さらに、細胞毒性治療後の3日間毎日同じ注射を1回受けた。
群4:滅菌水中に50mgホスカネット/kg体重を含有する腹腔内注射を、2回の細胞毒性治療(500mg 5-フルオロウラシル/kg体重)の双方の1時間前に受けた。さらに、細胞毒性治療後の3日間毎日同じ注射を1回受けた。
群5:ビヒクル対照。滅菌水の腹腔内注射を2回の細胞毒性治療(500mg 5-フルオロウラシル/kg体重)の双方の1時間前に受けた。さらに、細胞毒性治療後の3日間毎日同じ注射を1回受けた。
【0031】
治療後4日目に、各群の動物を死亡させ、腸組織を組織学的分析のため採取した。組織切片をヘモトキシリンおよびエオシンで染色し、再生性腸腺窩の存在について分析した。再生性腸腺窩は、1個以上の生存クローン形成性幹細胞に由来し、一方、死滅腺窩(生存幹細胞を含有しない)は、照射の2日以内で消失した。腸周辺当りの再生性腺窩の数を計数し、平均腺窩幅を計測した。その後、各動物における得点を、下記の等式に従って補正して優先的に大きめの腺窩を得点する確率を計上した:
補正数 = 未治療腺窩の平均幅/治療腺窩の平均幅×腺窩数
各治療においては、保護係数を、下記の等式を使用して算出した:
治療周辺当りの補正腺窩数/未治療(ビヒクル)周辺当りの補正腺窩数
結果は、下記の表4および5に示しており、群1、2の双方および群4に対して行った治療が、5-フルオロウラシル暴露後の試験動物において腸腺窩数の増大をもたらしていたことを例証している。このことは、クローン形成性幹細胞が、定義により、そのような再生を開始し得る細胞のみであることから、上記の各治療が腸上皮クローン形成性幹細胞を保護していたことを示唆している。群1からのマウスの腸上皮は、50mg/kgホスカネット治療後に、ほぼ50%以上の腺窩を含有し(ビヒクルのみで治療したマウスの腸上皮と比較して)、少なくとも50%以上の小腸クローン形成性幹細胞が生存していたことを示唆していた。
各クローン形成性幹細胞は急上昇数の娘細胞を産生し得るので、この生存率における50%以上の増大は、細胞増殖後に、上皮細胞充実度の大きな増大をもたらすであろう。そのような細胞生存および増殖は、下痢並びに潰瘍形成(粘膜炎)および他の関連症状を軽減させ得る。
【0032】
表4

表5

【0033】
実施例5
腸上皮クローン形成性幹細胞の生体内保護(放射線損傷単独試験2)
消化器上皮のクローン形成性幹細胞に対する放射線損傷を予防するホスカネット(ホスホノ蟻酸トリナトリウム塩六水和物)の能力を下記の試験により例証した。
使用した放射線損傷モデルは、0.7Gy/分の線量速度での13Gy X線全身照射による治療であった。そのような放射線治療は、がん治療を受けている患者に対して行う放射線療法のモデルを提供する。
各マウス6匹の3つの試験群を、下記に説明するようにして確立した:
群1:滅菌水中に50mgホスカネット/kg体重を含有する腹腔内注射を、放射線治療の1時間前に受けた。さらに、放射線治療後の3日間毎日同じ注射を1回受けた。
群2:滅菌水中に25mgホスカネット/kg体重を含有する腹腔内注射を、放射線治療の1時間前に受けた。さらに、放射線治療後の3日間毎日同じ注射を1回受けた。
群3:ビヒクル対照。滅菌水の腹腔内注射を放射線治療の1時間前に受けた。さらに、放射線治療後の3日間毎日同じ注射を1回受けた。
治療後4日目に、各群の動物を死亡させ、腸組織を組織学的分析のため採取した。組織切片をヘモトキシリンおよびエオシンで染色し、再生性腸腺窩の存在について分析した。
再生性腸腺窩は、1個以上の生存クローン形成性幹細胞に由来し、一方、死滅腺窩(生存幹細胞を含有しない)は、照射の2日以内で消失した。腸周辺当りの再生性腺窩の数を計数し、平均腺窩幅を計測した。その後、各動物における得点を、下記の等式に従って補正して優先的に大きめの腺窩を得点する確率を計上した:
補正数 = 未治療腺窩の平均幅/治療腺窩の平均幅×腺窩数
各治療においては、保護係数を、下記の等式を使用して算出した:
治療周辺当りの補正腺窩数/未治療(ビヒクル)周辺当りの補正腺窩数
結果は、下記の表6および7に示しており、群1および2に対して行った治療(それぞれ、50mgホスカネットおよび25mgホスカネット)が、放射線暴露後の試験動物において腸腺窩数の増大をもたらしていたことを例証している。このことは、クローン形成性幹細胞が、定義により、そのような再生を開始し得る細胞のみであることから、上記の各治療が腸上皮クローン形成性幹細胞を保護していたことを示唆している。50mgホスカネットで治療したマウスの腸上皮は、50mg/kgホスカネット治療後に、ほぼ50%以上の腺窩を含有し(ビヒクルのみで治療したマウスの腸上皮と比較して)、少なくとも50%以上の小腸クローン形成性幹細胞が生存していたことを示唆していた。
各クローン形成性幹細胞は急上昇数の娘細胞を産生し得るので、この生存率における50%以上の増大は、細胞増殖後に、上皮細胞充実度の大きな増大をもたらすであろう。そのような細胞生存および増殖は、下痢並びに潰瘍形成(粘膜炎)および他の関連症状を軽減させ得る。
【0034】
表6

表7

【0035】
実施例6
化学療法損傷後の口内粘膜の生体内保護
口内粘膜に対する細胞毒性損傷を予防するホスカネット(ホスホノ蟻酸トリナトリウム塩六水和物)の能力を下記の試験により例証した。
使用した細胞毒性損傷モデルは、6時間をおいた400mg/kg体重 5-フルオロウラシルの2回投与による治療であった。そのような細胞毒性治療は、がん治療を受けている患者に対して行う化学療法モデルを提供する。
各マウス5匹の試験群は、下記に説明するようにして確立した:
群1:未治療対照
群2:滅菌水中に50mgホスカネット/kg体重を含有する腹腔内注射を、1回目の細胞毒性治療(400mg 5-フルオロウラシル/kg体重)の1時間前に受けた。さらに、細胞毒性治療後3日間毎日同じホスカネット注射(50mg/kg体重)を1回受けた。治療後4日目に、各動物を死亡させ、口内組織を分析のため採取した。
群3:滅菌水中に50mgホスカネット/kg体重を含有する腹腔内注射を、1回目の細胞毒性治療(400mg 5-フルオロウラシル/kg体重)の1時間前に受けた。さらに、細胞毒性治療後3日間毎日同じホスカネット注射(50mg/kg体重)を1回受けた。治療後6日目に、各動物を死亡させ、口内組織を分析のため採取した。
群4:滅菌水中に50mgホスカネット/kg体重を含有する腹腔内注射を、1回目の細胞毒性治療(400mg 5-フルオロウラシル/kg体重)の1時間前に受けた。さらに、細胞毒性治療後3日間毎日同じホスカネット注射(50mg/kg体重)を1回受けた。治療後8日目に、各動物を死亡させ、口内組織を分析のため採取した。
群5:ビヒクル対照。滅菌水の腹腔内注射を、2回の細胞毒性治療(400mg 5-フルオロウラシル/kg体重)双方の1時間前に受けた。さらに、細胞毒性治療後3日間の毎日同じ水の注射を1回受けた。治療後4日目に、各動物を死亡させ、口内組織を分析のため採取した。
群6:ビヒクル対照。滅菌水の腹腔内注射を、2回の細胞毒性治療(400mg 5-フルオロウラシル/kg体重)双方の1時間前に受けた。さらに、細胞毒性治療後3日間毎日同じ水の注射を1回受けた。治療後6日目に、各動物を死亡させ、口内組織を分析のため採取した。
群7:ビヒクル対照。滅菌水の腹腔内注射を、2回の細胞毒性治療(400mg 5-フルオロウラシル/kg体重)双方の1時間前に受けた。さらに、細胞毒性治療後3日間毎日同じ水の注射を1回受けた。治療後4日目に、各動物を死亡させ、口内組織を分析のため採取した。
【0036】
組織切片をチオニンで染色し、Zeiss AxioHOMEを使用して、細胞数を、舌の腹側表面の基底層および基底層直上層の双方において評価した。基底層から角質層顆粒層界面までの領域を、基底層の長さに沿って測定した。この測定は、舌の先端から2mm後方の5つの連続領域で実施した。これらの測定により、5FUが舌に対して引起していた損傷を、舌の全体的細胞充実度または総細胞数/単位面積(mm2)として評価できた。
実施例6の結果は、図3および4に示している。
ホスカネット(50mg/kg体重)またはビヒクルのみは、5FUの互いに6時間を空けて行った2回注射の1時間前に投与した。その後、ホスカネットまたはビヒクルは、さらに3日間毎日に投与した。
図3および4に示す時間は、5FU治療後の日数である。
図3は、化学療法剤5FU投与後の経時的な舌の腹側表面を覆う上皮の全体的細胞充実度を示す。各線は、ホスカネット治療およびビヒクルのみ双方における値を示す。
図4は、ホスカネット治療および対照治療動物における舌の腹側表面を覆う上皮中の単位面積当りの細胞数の比較である。結果は、ホスカネット治療により獲得した単位面積当りの過剰の細胞数を示している。
【0037】
実施例7
腸上皮クローン形成性幹細胞の生体内保護(化学療法薬損傷、単独試験2)
実施例4において提示したデータを、以下の試験において拡張し、消化器上皮のクローン形成性幹細胞に対する細胞毒性損傷を予防するホスカネット(ホスホノ蟻酸トリナトリウム塩六水和物)の能力を、下記の試験を使用して検証した。
使用した細胞毒性損傷モデルは、400mg 5-フルオロウラシル/kg体重での6時間をおいた5-フルオロウラシル2回投与量による治療であった。そのような細胞毒性治療は、がん治療を受けている患者に対して行う化学療法モデルを提供する。
各マウス6匹の8つの試験群を、下記に説明するようにして確立した:
群1:滅菌水中に50mgホスカネット/kg体重を含有する腹腔内注射を1回目の細胞毒性治療の1時間前に受けた。さらに、細胞毒性治療後3日間毎日同じ注射を1回受けた。
群2:滅菌水中に50mgホスカネット/kg体重を含有する腹腔内注射を1回目の細胞毒性治療の1時間前に受けた。
群3:滅菌水中に50mgホスカネット/kg体重を含有する腹腔内注射を細胞毒性治療後3日間毎日受けた。
群4:滅菌水中に50mgホスカネット/kg体重を含有する腹腔内注射を1回目の細胞毒性治療の5分前に受けた。さらに、細胞毒性治療後3日間毎日同じ注射を1回受けた。
群5:ビヒクル対照。滅菌水の腹腔内注射を1回目の細胞毒性治療の1時間前に受けた。さらに、細胞毒性治療後3日間毎日同じ注射を1回受けた。
群6:ビヒクル対照。滅菌水の腹腔内注射を1回目の細胞毒性治療の1時間前に受けた。
群7:ビヒクル対照。滅菌水の腹腔内注射を細胞毒性治療後3日間毎日受けた。
群8:ビヒクル対照。滅菌水の腹腔内注射を1回目の細胞毒性治療の5分前に受けた。
さらに、細胞毒性治療後3日間毎日同じ注射を1回受けた。
【0038】
治療後4日目に、各群の動物を死亡させ、腸組織を組織学的分析のため採取した。組織切片をヘモトキシリンおよびエオシンで染色し、再生性腸腺窩の存在について分析した。
再生性腸腺窩は、1個以上の生存クローン形成性幹細胞に由来し、一方、死滅腺窩(生存幹細胞を含有しない)は、照射の2日以内で消失した。腸周辺当りの再生性腺窩の数を計数し、平均腺窩幅を計測した。その後、各動物における得点を、下記の等式に従って補正して優先的に大きめの腺窩を得点する確率を計上した:
補正数 = 未治療腺窩の平均幅/治療腺窩の平均幅×腺窩数
各治療においては、保護係数を、下記の等式を使用して算出した:
治療周辺当りの補正腺窩数/未治療(ビヒクル)周辺当りの補正腺窩数
結果は、下記の表8および9に示しており、群1、2、3および4に対して行った治療が、5-フルオロウラシル暴露後の試験動物において腸腺窩数の増大をもたらしていたことを例証している。このことは、クローン形成性幹細胞が、定義により、そのような再生を開始し得る細胞のみであることから、上記の各治療が腸上皮クローン形成性幹細胞を保護していたことを示唆している。群1からのマウスの腸上皮は、50mg/kgホスカネット治療後に、ほぼ50%以上の腺窩を含有し(ビヒクルのみで治療したマウスの腸上皮と比較して)、少なくとも50%以上の小腸クローン形成性幹細胞が生存していたことを示唆していた。
各クローン形成性幹細胞は急上昇数の娘細胞を産生し得るので、この生存率における50%の増大は、細胞増殖後に、上皮細胞充実度の大きな増大をもたらすであろう。そのような細胞生存および増殖は、下痢並びに潰瘍形成(粘膜炎)および他の関連症状を軽減させ得る。
【0039】
表8


【0040】
表9

【0041】
実施例8
ホスカネット(ホスホノ蟻酸トリナトリウム塩六水和物)経口投与後の上皮細胞動態評価 ホスカネット(ホスホノ蟻酸トリナトリウム塩六水和物)の経口投与後の腸上皮細胞刺激を下記の試験により例証した。
各マウス3匹の2つの試験群は、下記に説明するようにして確立した:
群1:滅菌水中に500mgホスカネット/kg体重を含有する経口強制投与物を、4日間1日1回受けた。5日目に、各動物は、10mgブロモデオキシウリジン(BrdUrd)のパルスを受け、40分経過後に死亡させ、小腸および腎臓を分析のために採取した。
群2:滅菌水の経口強制投与物を、4日間1日1回受けた。5日目に、各動物は、10mgブロモデオキシウリジン(BrdUrd)のパルスを受け、40分経過後に死亡させ、小腸および腎臓を分析のために採取した。
実施例9で使用したホスカネットの経口投与量は、前記の各実施例において使用した腹腔内注入投与投量よりも多かったことに留意されたい。このことは、経口投与がホスカネットを上皮細胞活性に影響を及ぼすように投与し得る適切な経路を示していること、さらにまた、比較的高投与量のホスカネットが、注目すべき毒性なしで許容され得ることの双方を実証していた。
試験途中において、死亡または病気の徴候はいずれの群においても存在せず、また治療期間終了時においても、いずれの群も組織学的区分化法により判定しての腎臓損傷の明白な徴候を示していなかった。
スライドを、BrdUrdに対して免疫組織化学的に標識化し、チオニンで対向染色して、ホスカネットの経口投与による腸上皮細胞動態変化を評価した。上皮細胞動態変化を評価するために、動物当り50個の小腸腺窩を、腺窩中の各細胞位置で陽性標識化S期細胞数について、細胞位置基準で定量した。定量は、腺窩の底部(細胞位置1)で開始し、腺窩の1面まで続け、各細胞を腺窩絨毛接合部まで順次評価する。
実施例8の結果は、表5に示しており、ホスカネット治療および対照治療動物の腸腺窩細胞中のBrdUrd標識化指数(細胞総数のパーセントとして算出した)を示す。図5は、ホスカネットが、ビヒクル対照と比較したとき、腸腺窩細胞に対し刺激作用を有することを示している。
【0042】
実施例9
放射線損傷後の口内粘膜の生体内保護
口腔粘膜に対する放射線損傷を予防するホスカネット(ホスホノ蟻酸トリナトリウム塩六水和物)の能力を以下の試験により例証した。
使用した細胞毒性損傷モデルは、0.7Gy/分の投与量速度での20Gy X線照射(頭部のみ)による治療であった。そのような放射線治療は、がん治療を受けている患者に対して行う放射線療法モデルを提供する。
各マウス4匹の試験群を、下記に説明するようにして確立した:
群1:滅菌水中に50mgホスカネット/kg体重を含有する腹腔内注射を、放射線療法の1時間前に受けた。さらに、放射線療法後2日間の毎日同じ注射を1回受けた。放射線療法後3日目に、各動物を死亡させ、口内組織を分析のために採取した。
群2:滅菌水中に50mgホスカネット/kg体重を含有する腹腔内注射を、放射線療法の1時間前に受けた。さらに、放射線療法後4日間の毎日同じ注射を1回受けた。放射線療法後5日目に、各動物を死亡させ、口内組織を分析のために採取した。
群3:滅菌水の腹腔内注射を放射線療法の1時間前に受けた。さらに、放射線療法後2日間の毎日同じ注射を1回受けた。放射線療法後3日目に、各動物を死亡させ、口内組織を分析のために採取した。
群4:滅菌水の腹腔内注射を放射線療法の1時間前に受けた。さらに、放射線療法後4日間の毎日同じ注射を1回受けた。放射線療法後5日目に、各動物を死亡させ、口内組織を分析のために採取した。
【0043】
組織切片を、ブロモデオキシウリジンに対して免疫組織化学的に標識化し、チオニンで対向染色した。Zeiss AxioHOMEを使用して、ブロモデオキシウリジン標識化および未標識化細胞の数を、舌の腹側表面の基底層および基底層直上層の双方において評価した。基底層から角質層顆粒層界面までの領域を、基底層の長さに沿って測定した。この測定は、舌の先端から2mm後方の5つの連続領域で実施した。これらの測定により、照射が舌に対して引起していた損傷を、舌の全体的細胞充実度または総細胞数/単位面積(mm2)として評価できた。
実施例9の結果は、図6および7に示している。
図6は、ホスカネット治療およびビヒクル治療動物の舌の腹側表面上の単位面積当りの細胞数の経時的変化を比較している。図6において示した結果は、経時的な腹側舌の全体的細胞充実度が、ビヒクル対照(滅菌水)と対比したとき、ホスカネットによる放射線前および後の治療によって増大されていることを例証している。
図7は、ホスカネット治療およびビヒクル治療した動物の舌の腹側表面を覆う上皮の単位面積当りで存在する過剰の細胞の平均数を比較している。結果は、単位面積当りの平均細胞数が、ビヒクル(滅菌水)対照と比較したとき、ホスカネットによる治療において増大することを示している。
図6および7において、治療は、20Gy(頭部のみ)照射1時間前でのホスカネット(50mg/kg体重)または滅菌水の注射、およびその後のサンプル採取までの1日1回の注射である(最後の注射は処分前の24時間である)。図6および7双方のX軸上に示す時間は、放射線療法後の日数である。
【0044】
考察
実施例1〜9で提示した累積試験データは、リン酸輸送体活性のインヒビターであるホスカネットが上皮損傷を有効に軽減することを明白に示している。
ホスカネットは、腸上皮に対する損傷(ひいては下痢事象)、さらにまた口内粘膜に対する損傷の双方を軽減し得る。さらにまた、ケラチノサイト成長因子(KGF)のような上皮保護剤による以前の研究において、腸上皮保護が、口内粘膜の保護および脱毛症の軽減における有効性の強力な指標であることは明らかにされているので(Booth, C., and Potten, C. S. (2000). Keratinocyte growth factor increases hair follicle survival following cytotoxic insult. J Invest Dermatol 114, 667-673;Farrell, C. L., Bready, J. V., Rex, K. L., Chen, J. N., DiPalma, C. R., Whitcomb, K. L., Yin, S., Hill, D. C., Wiemann, B., Starnes, C. O., et al. (1998). Keratinocyte growth factor protects mice from chemotherapy and radiation-induced gastrointestinal injury and mortality. Cancer Res 58, 933-939;Farrell, C. L., Rex, K. L., Chen, J. N., Bready, J. V., DiPalma, C. R., Kaufman, S. A., Rattan, A., Scully, S., and Lacey, D. L. (2002). The effects of keratinocyte growth factor in preclinical models of mucositis. Cell Prolif 35 Suppl 1, 78-85)、実施例1〜9において提示したデータも、ホスカネットおよび関連化合物のようなリン酸輸送体活性のインヒビターが、広範囲の上皮を非ウィルス性損傷から保護することを示唆している。
【0045】
実施例10
製剤
本発明に従って使用し得る種々の製剤を下記のようにして製造した。
各製剤は、好ましくはトリナトリウム塩の形で使用されるホスホノ蟻酸を参照して例示するが、そのような製剤は、リン酸輸送体活性の他のインヒビターおいても適切であることを認識されたい。
10.1 シャンプー組成物

【0046】
方法
ラウリル硫酸アンモニウムの1/3乃至全量(25質量%溶液として添加)を、ジャケット付混合タンクに加え、約60℃〜約80℃にゆっくり攪拌しながら加熱し、界面活性溶液を調製する。コカミドMEAと脂肪アルコール類を上記タンクに添加し、分散させる。塩類(例えば塩化ナトリウム)およびpH改変剤(例えば、クエン酸、クエン酸ナトリウム)を上記タンクに添加して、分散させる。エチレングリコールジステアレート("EGDS")を上記混合容器に添加して、溶融させる。EDGSを溶解させ、分散させた後、防腐剤(メチルパラベン)を上記界面活性溶液に添加する。得られた混合物を、約25℃〜約40℃に冷却し、仕上げタンク内に集める。この冷却工程の結果として、EGDSは結晶化して生成物中に結晶ネットワークを形成する。残りのラウリル硫酸アンモニウムと、シリコーンおよびホスホノ蟻酸を含む他の成分とを仕上げタンクに攪拌しながら添加して、均質混合物を確保する。カチオン性ポリマーを約0.1%〜約10%水溶液として水中に分散させ、その後、最終混合物に添加する。
全ての成分を添加した時点で、必要に応じて、さらなる粘度およびpH改変剤を混合物に添加して、生成物粘度およびpHを所望度合に調整し得る。
【0047】
10.2 頭皮塗布用発泡剤

方法
正確な割合のセチルアルコール(HYFATOL 1698;Efkay Chemicals Limited社、ロンドン)、オクタデカン-1-オール(HYFATOL 1898;Efkay Chemicals Limited社、ロンドン)、ポリソルベート(CRILLET 3;Croda Chemicals社、ノースハンバーサイド)およびエタノールを混合し、約45℃に、混合物が透明になるまで連続攪拌しながら加熱する。ホスホノ蟻酸を混合物中にゆっくり移し、再度、混合物が透明になるまて連続撹拌する(アルコール相)。
精製水を別個に45℃に加熱し、無水クエン酸BPおよびクエン酸カリウムBPを、溶解するまで連続撹拌しながら水に移す(水性相)。
アルコール相と水性相を、各々、75ミクロンスクリーンで濾過し、必要量を室温で缶(エポキシライニングしたアルミニウム)中に充填する。バルブを装着させた後、ブタン/プロパン推進剤(Propellant P70)を缶内の混合物に必要量添加し、作動装置をバルブに装着する。
上記組成物は、缶から皮膚にスプレーしたときに、嫌熱性の発泡物を生成し、この発泡物が皮膚からの加熱により分解して活性化合物を上皮に放出する。
【0048】
10.3 吸入エアゾール

10.4 錠剤

10.5 座薬

【0049】
10.6 シロップ(I)

10.7 注射液

10.8 吸入溶液

【0050】
10.9 舌下錠

10.10ドロップ(I)

10.11 シロップ(II)

【0051】
10.12 注射用溶液


10.13 吸入用溶液

10.14 ドロップ(II)

【0052】
10.15 局所使用溶液

10. 16 ゼリー

10.17 軟膏 (I)

0.2、0.5、1.0および2.0gのホスホノ蟻酸トリナトリウム塩を含有する製剤も製造している。
【0053】
10.18 軟膏 (II)

10. 19 軟膏 (III)

10.20 胃液抵抗性錠剤
上述したような錠剤を、下記の組成を有する腸溶性コーティーング溶液でコーティーングする。


コーティーングは、通常のコーティーングパンへの注入手法によりまたはパンスプレー錠剤コーター内でのスプレーにより実施する。
【0054】
本発明の態様として、以下のものがある。
1.上皮に対する非ウィルス性損傷、あるいはそのような損傷により生じたまたはそのような損傷に特性を有する症状の予防用および/または治療用医薬品の製造における、リン酸輸送体活性のインヒビターの使用。
2.前記リン酸輸送体活性のインヒビターが、ホスホノカルボン酸またはその製薬上許容し得る誘導体である、上記1記載の使用。
3.前記ホスホノ-カルボン酸が、式R1R2P(O)-Ln-CO2Hまたその塩もしくはエステルであり、式中、nが0または1であり、R1およびR2が、同一または異なるものであって、各々がヒドロキシまたはエステル残基であり;Lが1〜8個の炭素原子を有する炭化水素基である、上記2記載の使用。
4.前記ホスホノ-カルボン酸が、ホスホノ蟻酸またはホスホノ酢酸である、上記3記載の使用。
5.前記製薬上許容し得る誘導体が、前記酸の塩またはエステルである、上記2〜4のいずれか1項記載の使用。
【0055】
6.前記製薬上許容し得る誘導体が、ホスホノ酢酸またはホスホノ蟻酸のアルカリ金属塩である、上記4記載の使用。
7.前記アルカリ金属塩が、ナトリウム塩である、上記6記載の使用。
8.前記ナトリウム塩が、トリナトリウム塩である、上記7記載の使用。
9.前記トリナトリウム塩が、ホスホノ蟻酸トリナトリウム塩である、上記8記載の使用。
10.前記誘導体が、アミンまたは第4級アンモニウム塩である、上記2〜4のいずれか1項記載の使用。
【0056】
11.前記リン酸輸送体活性のインヒビターが、ホスファトニンである、上記1記載の使用。
12.前記ホスファトニンが、線維芽細胞成長因子(FGF23)である、上記11記載の使用。
13.前記ホスファトニンが、frizzled関連たんぱく質4(FPF4)である、上記11記載の使用。
14.前記リン酸輸送体活性のインヒビターが、ナトリウム依存性リン酸輸送体活性のインヒビターである、上記1〜13のいずれか1項記載の使用。
15.前記リン酸輸送体活性のインヒビターが、タイプIIIナトリウム依存性リン酸輸送体活性のインヒビターである、上記14記載の使用。
【0057】
16.前記損傷が、前記上皮のクローン形成性幹細胞に対するものである、上記1〜15のいずれか1項記載の使用。
17.前記上皮が、消化器上皮である、上記1〜16のいずれか1項記載の使用。
18.前記損傷が、粘膜炎、下痢、大腸炎、潰瘍、手術または偶発的創傷、および炎症性腸疾患のような反応性疾患を含む群から選択された症状において発症する、上記17記載の使用。
19.前記上皮が、頭皮上皮である、上記1〜16のいずれか1項記載の使用。
20.前記非ウィルス性損傷が、がん治療によって生ずる、上記1〜19いずれか1項記載の使用。
【0058】
21.前記非ウィルス性損傷が、化学療法によって生ずる、上記20記載の使用。
22.前記非ウィルス性損傷が、放射線治療によって生ずる、上記20記載の使用。
23.前記非ウィルス性損傷が、微生物感染によって生ずる、上記1〜19のいずれか1項記載の使用。
24.前記非ウィルス性損傷が、炎症性腸疾患のような反応性疾患によって生ずる、上記1〜19のいずれか1項記載の使用。
25.前記医薬品を、注射用に調製する、上記1〜24のいずれか1項記載の使用。
【0059】
26.前記医薬品を、経口投与用に調製する、上記1〜24のいずれか1項記載の使用。
27.前記医薬品を、直腸投与用に調製する、上記1〜24のいずれか1項記載の使用。
28.前記医薬品を、全身投与用に調製する、上記1〜27のいずれか1項記載の使用。
29.前記医薬品を、局所投与用に調製する、上記1〜27のいずれか1項記載の使用。
30.前記医薬品を、シャンプーとして調製する、上記29記載の使用。
【0060】
31.前記医薬品を、化学療法化合物との併用使用のために調製する、上記1〜30いずれか1項記載の使用。
32.前記医薬品が、前記リン酸輸送体活性のインヒビターと前記化学療法化合物との混合物を含む、上記31記載の使用。
33.前記リン酸輸送体活性のインヒビターと前記化学療法化合物を、別々の投与剤形で提供する、上記31項記載の使用。
34.前記化学療法化合物が、フルオロウラシルである、上記31〜33いずれか1項記載の使用。
35.放射線療法および/または化学療法により生じた下痢および/または粘膜炎の予防用および/または治療用医薬品の製造における、ホスホノ酢酸およびホスホノ蟻酸並びにこれらの製薬上許容し得る誘導体を含む群から選択された化合物の使用。
【0061】
36.非ウィルス性微生物感染により生じた下痢の予防用および/または治療用医薬品の製造における、ホスホノ酢酸およびホスホノ蟻酸並びにこれらの製薬上許容し得る誘導体を含む群から選択された化合物の使用。
37.リン酸輸送体活性のインヒビターと洗髪するのに適する少なくとも1種の界面活性剤とを含む、シャンプー組成物。
38.前記リン酸輸送体活性のインヒビターが、ホスホノカルボン酸またはその製薬上許容し得る誘導体である、上記37記載のシャンプー組成物。
39.前記ホスホノカルボン酸化合物が、酢酸または蟻酸形である、上記38記載のシャンプー。
40.上皮に対する非ウィルス性損傷、あるいはそのような損傷により生じたまたはそのような損傷に特性を有する症状の予防用および/または治療用医薬品の製造における、ホスホノカルボン酸またはその製薬上許容し得る誘導体の使用。
41.前記ホスホノカルボン酸または誘導体が、上記3〜10のいずれか1項に記載された酸または誘導体である、上記40記載の使用。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
がん治療により生じる上皮損傷の予防用および/または治療用医薬品の製造における、リン酸輸送体活性のインヒビターの使用。
【請求項2】
前記リン酸輸送体活性のインヒビターが、ホスホノカルボン酸またはその製薬上許容し得る誘導体である、請求項1記載の使用。
【請求項3】
前記ホスホノ-カルボン酸が、式R1R2P(O)-Ln-CO2Hまたその塩もしくはエステルであり、式中、nが0または1であり、R1およびR2が、同一または異なるものであって、各々がヒドロキシまたはエステル残基であり;Lが1〜8個の炭素原子を有する炭化水素基である、請求項2記載の使用。
【請求項4】
前記ホスホノ-カルボン酸が、ホスホノ蟻酸またはホスホノ酢酸である、請求項3記載の使用。
【請求項5】
前記製薬上許容し得る誘導体が、前記酸の塩またはエステルである、請求項2〜4のいずれか1項記載の使用。
【請求項6】
前記製薬上許容し得る誘導体が、ホスホノ酢酸またはホスホノ蟻酸のアルカリ金属塩である、請求項4記載の使用。
【請求項7】
前記アルカリ金属塩が、ナトリウム塩である、請求項6記載の使用。
【請求項8】
前記ナトリウム塩が、トリナトリウム塩である、請求項7記載の使用。
【請求項9】
前記トリナトリウム塩が、ホスホノ蟻酸トリナトリウム塩である、請求項8記載の使用。
【請求項10】
前記誘導体が、アミンまたは第4級アンモニウム塩である、請求項2〜4のいずれか1項記載の使用。
【請求項11】
前記リン酸輸送体活性のインヒビターが、ホスファトニンである、請求項1記載の使用。
【請求項12】
前記ホスファトニンが、線維芽細胞成長因子(FGF23)又はfrizzled関連たんぱく質4(FPF4)である、請求項11記載の使用。
【請求項13】
前記リン酸輸送体活性のインヒビターが、ナトリウム依存性リン酸輸送体活性のインヒビターである、請求項1〜12のいずれか1項記載の使用。
【請求項14】
前記リン酸輸送体活性のインヒビターが、タイプIIIナトリウム依存性リン酸輸送体活性のインヒビターである、請求項13記載の使用。
【請求項15】
前記損傷が、前記上皮のクローン形成性幹細胞に対するものである、請求項1〜14のいずれか1項記載の使用。
【請求項16】
前記上皮が、消化器上皮である、請求項1〜15のいずれか1項記載の使用。
【請求項17】
前記消化器上皮が、口の上皮である、請求項16記載の使用。
【請求項18】
前記損傷が、粘膜炎、下痢、大腸炎、潰瘍、反応性疾患およびこれらの組み合わせからなる群から選択された症状において発症する、請求項16記載の使用。
【請求項19】
前記上皮が、頭皮上皮である、請求項1〜15のいずれか1項記載の使用。
【請求項20】
前記上皮損傷が、化学療法、放射線療法及びそれらの組み合わせによって生ずる、請求項1〜19のいずれか1項記載の使用。
【請求項21】
前記医薬品を、注射用、経口投与用、直腸投与用、全身投与用、局所投与用及びこれらの組み合わせ用に調製する、請求項1〜20のいずれか1項記載の使用。
【請求項22】
前記医薬品を、局所投与用に調製する、請求項21記載の使用。
【請求項23】
局所投与用の前記医薬品が、クリーム、洗口剤、トローチ、チューインガム、歯磨き粉、座薬およびシャンプーからなる群より選択される、請求項22記載の使用。
【請求項24】
前記医薬品を、化学療法化合物との併用使用のために調製する、請求項1〜23いずれか1項記載の使用。
【請求項25】
前記医薬品が、前記リン酸輸送体活性のインヒビターと前記化学療法化合物との混合物を含む、請求項24記載の使用。
【請求項26】
前記リン酸輸送体活性のインヒビターと前記化学療法化合物を、別々の投与剤形で提供する、請求項24項記載の使用。
【請求項27】
前記化学療法化合物が、5−フルオロウラシルである、請求項24〜26いずれか1項記載の使用。
【請求項28】
放射線療法および/または化学療法により生じる下痢および/または粘膜炎の予防用および/または治療用医薬品の製造における、ホスホノ酢酸およびホスホノ蟻酸並びにこれらの製薬上許容し得る誘導体からなる群から選択された化合物の使用。
【請求項29】
上皮に対する非ウィルス性損傷、あるいはそのような損傷により生じたまたはそのような損傷に特性を有する症状の予防用および/または治療用医薬品の製造における、ホスホノカルボン酸またはその製薬上許容し得る誘導体の使用。
【請求項30】
前記ホスホノカルボン酸または誘導体が、請求項3〜10のいずれか1項に記載された酸または誘導体である、請求項29記載の使用。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2011−148828(P2011−148828A)
【公開日】平成23年8月4日(2011.8.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−99899(P2011−99899)
【出願日】平成23年4月27日(2011.4.27)
【分割の表示】特願2006−505953(P2006−505953)の分割
【原出願日】平成16年3月11日(2004.3.11)
【出願人】(505347466)エピスタム リミテッド (2)
【Fターム(参考)】