説明

非同期ネットワークのデータ伝送方法およびシステム

【課題】送信側で符号化レートが変更されても、受信側がレート変更に素早く追従できるようにした非同期ネットワークのデータ伝送システムを提供する。
【解決手段】同期化部202bのタイマ機能部にはパケット送出間隔計数値Δpnがセットされる。バッファ監視部205は、受信バッファ202aの書き込みアドレスADwと読み出しアドレスADrとの差分の変化を監視する。基準クロック調整部206は監視結果に基づいて基準クロックSref2を調整する。タイマ機能部は、基準クロックSref2’でセット値をダウンカウントし、カウント値が「0」になると受信バッファ202bへトリガ信号Tを出力して符号化データを転送させ、自身のカウント値をパケット送出間隔計数値Δpに再セットする。これ以後、調整後の基準クロックSref’がパケット送出間隔計数値Δpnだけカウントされるごとに受信バッファ202bへトリガ信号Tが出力される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、IPネットワークのような非同期ネットワークを利用して送信側から送信された符号化データを、受信側において送信側での基準クロックと同期させて復号するデータ伝送方法およびシステムに関する。
【背景技術】
【0002】
映像や音声をIPネットワーク等の非同期ネットワークで送受信する場合、送信側の符号化システムクロックと受信側の復号化システムクロックとが非同期であると、受信バッファメモリにオーバフローやアンダーフロが発生して復号の連続性が失われ、映像や音声に途切れ、揺らぎ、ノイズが発生するなどの不具合が生じる。
【0003】
このような技術課題を解決するために、特許文献1には、送信側システムクロックと受信側システムクロックとの周波数差を吸収するために受信側に配置される受信バッファのデータ占有率を常時監視し、受信バッファのデータ占有率が一定に保たれるように受信側システムクロックを調整する技術が開示されている。
【特許文献1】特開平9−252292号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
映像データや音声データを符号化圧縮して伝送する場合、送信側で符号化レートを可変制御しながら伝送する要求がある。しかしながら、上記した従来技術では受信バッファのデータ占有率に基づいて受信側のクロックが調整されるので、送信側での符号化が定ビットレートでない場合には、このレート変更にシステムクロックの調整が間に合わず、受信バッファメモリにオーバフローやアンダーフロが発生してしまうという技術課題があった。
【0005】
本発明の目的は、上記した従来技術の課題を解決し、送信側で符号化レートが変更されても、受信側がレート変更に素早く追従して同期化できるようにした非同期ネットワークのデータ伝送方法およびシステムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記した目的を達成するために、本発明は、送信端末で符号化されて非同期ネットワーク経由で送信された符号化データを受信端末で復号するデータ伝送システムにおいて、以下のような手段を講じた点に特徴がある。
【0007】
(1)前記送信端末が、送信側基準クロックを発生する手段と、送信データを符号化して符号化データを生成する手段と、符号化レートに応じたパケット送出間隔を算出する手段と、前記パケット送出間隔を前記送信側基準クロックでサンプリングしたときの計数値を算出する手段と、送信側基準クロックがパケット送出間隔計数値だけ計数されるごとに符号化データのパケットをネットワークへ送出する手段と、パケット送出間隔計数値を含む制御パケットをネットワークへ送出する手段とを含み、
【0008】
前記受信端末が、送信側基準クロックに相当する受信側基準クロックを発生する手段と、受信パケットから符号化データおよびパケット送出間隔計数値を抽出する手段と、符号化データを蓄積する受信バッファと、受信側基準クロックがパケット送出間隔計数値だけ計数されるごとに受信バッファから符号化データを読み出す手段と、読み出された符号化データを復号する手段とを含むことを特徴とする。
【0009】
(2)前記受信バッファのデータ占有量を監視する手段と、受信バッファの監視結果に基づいて、前記データ占有率が一定に保たれるように、受信側基準クロックの周波数を調整する手段とを含むことを特徴とする。
【0010】
(3)送信データが映像信号であり、前記送信側基準クロックを発生する手段が、映像信号の水平同期信号を抽出し、これを波形成形して送信側基準クロックとすることを特徴とする。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、以下のような効果が達成される。
(1)送信端末から受信端末へ、符号化データのパケット送出間隔を所定の送信側基準クロックでサンプリングした際の計数値が通知され、受信端末では、予め送信側基準クロックとほぼ同じに設定された受信側基準クロックが前記通知された計数値だけサンプリングされるごとに、受信バッファから符号化データを読み出して復号されるので、送信端末での符号化が可変ビットレートであっても、受信側では送信側での符号化レートと同期した復号が可能になる。
(2)受信側では、受信バッファに蓄積されている符号化データの量を監視し、受信バッファに新たに入力される符号化データの量と受信バッファから読み出される符号化データの量とが一致して受信バッファの符号化データ量が一定に保たれるように受信側基準クロックの周波数が調整されるので、送信端末と受信端末とのさらに正確な同期化が可能になる。
(3)映像信号から水平同期信号を抽出し、これを送信側基準クロックとして利用すれば、高周波の基準クロックを安定して発生するクロック発生器が不要になる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下、図面を参照して本発明の最良の実施の形態について詳細に説明する。図1は、本発明に係る映像信号伝送システムの主要部の構成を示したブロック図であり、HDTV映像信号Vhdを符号化して送信する送信端末1と、この映像信号Vhdの符号化データを受信して復号する受信端末2と、送受信端末1,2を相互に接続するIPネットワーク等の非同期ネットワーク3とから構成されている。
【0013】
送信端末1において、PLL104は、映像信号Vhdの水平同期信号Shを波形成形し、これを送信側基準クロックSref1として出力する。ホストCPU105は、後に詳述するように、ユーザにより指定された転送ビットレートRu[bit/sec]に基づいて、ビデオエンコーダ101における符号化レートSj[bit/frame]、およびRTP(Real-time Transport Protocol)エンコーダ102からのパケット送出間隔Δp[μsec]を算出し、さらに、このパケット送出間隔Δpを前記送信側基準クロックSref1でサンプリングした際の計数値Δpn[clk]を算出する。
【0014】
ビデオエンコーダ101は、前記ホストCPU105から通知された符号化レートSjに基づいて、HDTV映像信号Vhdを所定の符号化アルゴリズムで符号化圧縮し、その符号化データをRTPエンコーダ102へ転送する。RTPエンコーダ102は、前記ビデオエンコーダ101から転送された符号化データを所定の時間単位でRTPパケット化し、このRTPパケットを、前記PLL104から出力される送信側基準クロックSref1が、前記ホストCPU105から通知されたパケット送出間隔計数値Δpnだけカウントされるごとにネットワークプロセッサ103へ転送する。前記RTPエンコーダ102はさらに、前記ホストCPU105から通知されたパケット送出間隔計数値Δpnの登録されたRTP制御(RTCP)パケットをIPネットワーク3へ送出する。
【0015】
ネットワークプロセッサ103はUDP/IPインターフェースを含み、前記RTPエンコーダ102から送出されたRTPパケットにUDPヘッダを付加してUDPパケット化し、さらにIPヘッダを付加してIPパケット化した後に、前記送信側基準クロックSref1に同期したタイミングでIPネットワーク3へ送出する。
【0016】
受信端末2において、ネットワークプロセッサ203はUDP/IPインターフェースを含み、IPネットワーク3から映像信号のIPパケットを受信してRTPパケットを抽出する。RTPデコーダ202は、ネットワークプロセッサ203で抽出されたRTPパケットから符号化データを抽出して受信バッファ202aに蓄積する。基準クロック発生部204は、HDTV映像信号の垂直同期信号Shに相当する基準クロックSref2を受信側基準クロックとして発生させる。
【0017】
同期化部202bは、前記基準クロックSref2が、前記RTP制御パケットから抽出されたパケット送出間隔係数値Δpnだけカウントされるごとに、受信バッファ202aから符号化データを読み出してビデオデコーダ201へ送出する。ビデオデコーダ201は、符号化データを復号して前記映像信号Vhdを再生する。
【0018】
次いで、前記転送ビットレートRuに基づいて前記符号化レートSjおよびパケット送出間隔Δp,Δpnを算出する手順について説明する。
【0019】
符号化レートSjの算出に際しては、始めに1フレームあたりのパケット数Spが算出される。このパケット数Spは、IPパケットサイズをLp[byte]、FECの冗長度をλf(>1.0)として、次式(1)を満足する中で最大の整数値に設定される。
【0020】
Sp×Lp×8×frame_rate×λf<Ru ・・・(1)
【0021】
また、前記符号化ビットレートSjは、RTPペイロードサイズをLrとして次式(2)で求まる。パケット送出間隔Δpは次式(3)に基づいて求められる。
【0022】
Sj=Sp×Lr×8 ・・・(2)
【0023】
Δp=1/(Sp×λf×frame_rate) ・・・(3)
【0024】
ここで、転送ビットレートRu=50×10[bps],IPパケットサイズLp=750[byte],冗長度λf:128/124,frame_rate=29.97とすれば、上式(1)から1フレームあたりのパケット数Sp=269が求まる。そして、RTPペイロードサイズLr=738であれば、上式(2)から符号化レートSj[bit/frame]=1.588176が求まり、上式(3)からパケット送出間隔Δp=120.163[μsec]が求まる。
【0025】
水平同期信号Shの周波数が74.176MHzであり、前記パケット送出間隔Δp[μsec]を水平同期信号でカウントすれば、パケット送出間隔計数値Δpn[clk]は8913.13[clk]となる。但し、パケット送出間隔計数値Δpnは整数値しか取り得ないので、パケット送出間隔計数値Δpn[clk]は8913[clk]に丸められる。前記RTPエンコーダ102は、送信側基準クロックSref1(74.176MHz)が8913クロックだけカウントされるごとにRTPパケットをネットワーク上へ送出する。
【0026】
図2は、本実施形態における送信側および受信側基準クロックの同期化方法を模式的に表現した図であり、前記と同一の符号は同一または同等部分を表している。
【0027】
前記受信端末2の同期化部202bはタイマ機能部を含み、このタイマ機能部には前記パケット送出間隔計数値Δpn[clk]がセットされる。タイマ機能部は、このセット値Δpnを基準クロックSref2でダウンカウントし、カウント値が「0」になると受信バッファ202bへトリガ信号Tを出力して符号化データをビデオデコーダ201へ転送させ、自身に前記パケット送出間隔計数値Δp[clk]を再セットする。これ以後、基準クロックSref2が前記パケット送出間隔計数値Δpnだけカウントされるごとに前記受信バッファ202bへトリガ信号Tが出力され続ける。
【0028】
本実施形態によれば、送信側での符号化レートに対応したパケット送出間隔計数値Δpnが受信側に通知され、受信側では、このパケット送出間隔計数値Δpnに基づいて復号レートが設定されるので、可変ビットレートの符号化データが送受信される場合でも受信側での受信バッファのオーバフローやアンダーフロを防止できる。
【0029】
図3は、本発明を適用した映像信号伝送システムの第2実施形態の主要部の構成を示したブロック図であり、前記と同一の符号は同一または同等部分を表している。本実施形態では、受信端末2の基準クロックSref2が受信バッファのデータ占有率に基づいて調整されるようにした点に特徴がある。
【0030】
受信端末2において、バッファ監視部205は、前記受信バッファ202aのデータ占有率の増減を監視する。データ占有率の増減は、例えば受信バッファ202aの書き込みアドレスと読み出しアドレスとの差分の変化に基づいて判定される。基準クロック調整部206は、前記バッファ監視部205での監視結果に基づいて、前記基準クロックSrefの周波数を調整する。
【0031】
さらに具体的に説明すれば、前記基準クロック調整部206は、受信バッファ202aのデータ占有率が漸減状態にあると、受信バッファ203に新たに入力されるデータパケットの量と受信バッファ203から出力されるデータパケットの量とが一致して受信バッファ202aのデータ占有率が一定に保たれるように、基準クロックSref2の周波数を下げて符号化データの読み出し速度を遅くする。これに対して、受信バッファ202aのデータ占有率が漸増状態にあると、上記とは逆に基準クロックSref2の周波数を上げて符号化データの読み出し速度を速める。
【0032】
図4は、本実施形態における基準クロックの同期化方法を模式的に表現した図であり、前記と同一の符号は同一または同等部分を表している。
【0033】
前記同期化部202bはタイマ機能部を含み、このタイマ機能部には前記パケット送出間隔計数値Δpn[clk]がセットされる。バッファ監視部205は、受信バッファ202aの書き込みアドレスADwと読み出しアドレスADrとの差分の変化を監視する。基準クロック調整部206は、前記監視結果に基づいて基準クロックSref2の周波数を調整し、前記書き込みアドレスADwと読み出しアドレスADrとの差分を一定に保持する。
【0034】
タイマ機能部は、このセット値Δpnを調整後の基準クロックSref2'でダウンカウントし、カウント値が「0」になると受信バッファ202bへトリガ信号Tを出力して符号化データをビデオデコーダ201へ転送させ、自身に前記パケット送出間隔計数値Δp[clk]を再セットする。これ以後、調整後の基準クロックSref2'が前記パケット送出間隔計数値Δpnだけカウントされるごとに前記受信バッファ202bへトリガ信号Tが出力され続ける。
【0035】
本実施形態によれば、受信バッファ202aのデータ占有率に基づいて受信側の基準クロックSref2が自動的に調整されるので、基準クロックの更に正確な同期化が可能になる。
【0036】
なお、上記した第1および第2実施形態では、送信端末1が映像信号から抽出した水平同期信号に基づいて送信側基準クロックを生成するものとして説明したが、本発明はこれのみに限定されるものではなく、送信端末1にも受信端末2と同様の基準クロック発生部を設け、これを基準クロックとして利用するようにしても良い。このように基準クロック発生部を別途に設ければ、映像信号以外の音声信号等についても正確な同期化が可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0037】
【図1】本発明に係る映像信号伝送システムの第1実施形態のブロック図である。
【図2】第1実施形態におけるクロックの同期化方法を模式的に表現した図である
【図3】本発明に係る映像信号伝送システムの第2実施形態のブロック図である。
【図4】第2実施形態におけるクロックの同期化方法を模式的に表現した図である
【符号の説明】
【0038】
1…送信端末,2…受信端末,3…非同期ネットワーク,101…ビデオエンコーダ,102…RTPエンコーダ,103…ネットワークプロセッサ,104…PLL,105…ホストCPU,201…ビデオデコーダ,202…RTPデコーダ,202a…受信バッファ,202b…同期化部,203…ネットワークプロセッサ,204…基準クロック発生部,205…バッファ監視部,206…基準クロック調整部


【特許請求の範囲】
【請求項1】
送信端末で符号化されて非同期ネットワーク経由で送信された符号化データを受信端末で復号するデータ伝送システムにおいて、
前記送信端末が、
送信側基準クロックを発生する手段と、
送信データを符号化して符号化データを生成する手段と、
符号化レートに応じたパケット送出間隔を算出する手段と、
前記パケット送出間隔を前記送信側基準クロックでサンプリングしたときの計数値を算出する手段と、
前記送信側基準クロックが前記パケット送出間隔計数値だけ計数されるごとに、前記符号化データのパケットをネットワークへ送出する手段と、
前記パケット送出間隔計数値を含む制御パケットをネットワークへ送出する手段とを含み、
前記受信端末が、
前記送信側基準クロックに相当する受信側基準クロックを発生する手段と、
受信パケットから符号化データおよびパケット送出間隔計数値を抽出する手段と、
前記符号化データを蓄積する受信バッファと、
前記受信側基準クロックが前記パケット送出間隔計数値だけ計数されるごとに、前記受信バッファから符号化データを読み出す手段と、
前記読み出された符号化データを復号する手段とを含むことを特徴とする非同期ネットワークのデータ伝送システム。
【請求項2】
前記受信バッファのデータ占有量を監視する手段と、
前記受信バッファの監視結果に基づいて、前記データ占有率が一定に保たれるように、前記受信側基準クロックの周波数を調整する手段とを含むことを特徴とする請求項1に記載の非同期ネットワークのデータ伝送システム。
【請求項3】
前記送信データが映像信号であり、前記送信側基準クロックを発生する手段が、映像信号の水平同期信号を抽出し、これを波形成形して送信側基準クロックとすることを特徴とする請求項1または2に記載の非同期ネットワークのデータ伝送システム。
【請求項4】
送信端末で符号化されて非同期ネットワーク経由で送信された符号化データを受信端末で復号するデータ伝送方法において、
前記送信端末が、
送信データを符号化して符号化データを生成する手順と、
符号化レートに応じたパケット送出間隔を算出する手順と、
前記パケット送出間隔を所定の送信側基準クロックでサンプリングしたときの計数値を算出する手順と、
前記送信側基準クロックが前記パケット送出間隔計数値だけ計数されるごとに、前記符号化データのパケットをネットワークへ送出する手順と、
前記パケット送出間隔計数値を含む制御パケットをネットワークへ送出する手順とを含み、
前記受信端末が、
受信パケットから符号化データおよびパケット送出間隔計数値を抽出する手順と、
前記符号化データを受信バッファに蓄積する手順と、
前記送信側基準クロックに相当する受信側基準クロックが前記パケット送出間隔計数値だけ計数されるごとに、前記受信バッファから符号化データを読み出す手順と、
前記読み出された符号化データを復号する手順とを含むことを特徴とする非同期ネットワークのデータ伝送方法。
【請求項5】
前記受信バッファのデータ占有量を監視する手順と、
前記受信バッファの監視結果に基づいて、前記データ占有率が一定に保たれるように、前記受信側基準クロックの周波数を調整する手順とを含むことを特徴とする請求項4に記載の非同期ネットワークのデータ伝送方法。
【請求項6】
前記送信データが映像信号であり、前記送信側基準クロックが映像信号の水平同期信号であることを特徴とする請求項4または5に記載の非同期ネットワークのデータ伝送方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2008−22326(P2008−22326A)
【公開日】平成20年1月31日(2008.1.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−192772(P2006−192772)
【出願日】平成18年7月13日(2006.7.13)
【出願人】(000208891)KDDI株式会社 (2,700)
【Fターム(参考)】