説明

非常時用浄水器と浄水キット及び浄水方法

【課題】 動力源を使わず、天気によらず、容易に飲料水として利用可能な水を得ることができる浄水器と浄水キット及び浄水方法を提供する。
【解決手段】 長さ0.3m以上のチューブを付けた中空糸膜モジュールからなる浄水器としたものであり、また、該浄水器と、1回分ずつ分包した殺菌剤、又は、1回分の処理水量に相当する容量の袋又は容器と、1回分ずつ分包した殺菌剤とを組合せた浄水キットとしたものであり、これらの浄水キットには、さらに透水性の袋に充填した活性炭を加えることができ、また、長さ0.3m以上のチューブを付けた中空糸膜モジュールを水中に入れ、中空糸モジュール及びチューブ内の空気を抜いてサイフォン状態にした上で、チューブの末端を水面より下方にすることで濾渦水を得る浄水方法としたものである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、災害時等の非常時に、飲料水などの生活用水を得るため、特に個人的に浄水を得るための浄水器と浄水キット及び浄水方法に関する。災害時等で、インフラ復旧までの短期間の使用を想定している。特に、河川水、プール水、フロ水などから飲料水を得る。
【背景技術】
【0002】
現在、災害時用の浄水装置は、数多く提案されている。このような提案は、
行政や、集合住宅等のある程度大きい規模で造水するものが多い。
例えば、実公平3−51033号公報では、ポンプ、活性炭、膜の直列組合せによる浄水装置を、特開平8−290166号公報では、折り畳み可能な原水貯溜槽と浄化用薬品とポンプと0.1μm以下の濾過孔の中空糸膜モジュールからなる装置や、原水の汚濁分を沈殿させ、上澄液をろ過孔0.1μm以下の中空糸膜でろ過する方法が提案されている。特開平9−220567号公報では、手動式給水ポンプと膜を用いた濾過装置による非常用携帯型飲料水製造装置が、特開平10−314726号公報では、ポンプ、活性炭と中空糸からなる浄水器が提案されている。
【0003】
ところで、発電機やエンジンポンプなどによる動力源を用いるものについては、発電装置等を非常時に使用できるように、常時維持管理するのは大変であり、個人が容易にできることではない。また、地震時等の災害時には、発電装置又は燃料が使用できなくなっている可能性もある。
人力駆動ポンプを動力源とするものについては、発電装置等が不要であるという利点は有るが、継続的に人力で装置を動かすことは、被災者に過重な労働を強いることになる。
太陽電池を動力源とするものについては、燃料等が不要で、被災者の労働も不要である利点が有るが、晴天時でなければ使用できず、緊急に必要な被災時に用いるには信頼性が低い。
【0004】
また、従来の災害時用浄水機は、給水車もしくは集合住宅等のある程度大きな人数を対象としたものであって、孤立した家屋など、給水車がやってこられない場所で、個別に水を得ることについては考慮されていない。携帯型として提案されているものもかなり大きく、容易に持ち運べるようなものではない。
特に大規模な災害時には、復旧に長期間かかる可能性もあり、給水車の配備にも時間がかかる恐れがあるため、できる限り自力で確保できることが望ましい。
【特許文献1】実公平3−51033号公報
【特許文献2】特開平8−290166号公報
【特許文献3】特開平9−220567号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、上記従来技術に鑑み、動力源を使わず、天気によらず、容易に飲料水として利用可能な水を得ることができる浄水器と浄水キット及び浄水方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
前記課題を解決するために、本発明では、長さ0.3m以上のチューブを付けた中空糸膜モジュールからなる浄水器としたものである。
また、本発明では、前記浄水器と1回分ずつを容易に供給できるようにした殺菌剤とを組合せた浄水キット、又は、前記浄水器と、1回分の処理水量に相当する容量の袋又は容器と、1回分ずつを容易に供給できるようにした殺菌剤とを組合せた浄水キットとしたものであり、これらの浄水キットは、透水性の袋に充填した活性炭を加えた浄水キットとすることもできる。
さらに、本発明では、長さ0.3m以上のチューブを付けた中空糸膜モジュールを水中に入れ、中空糸モジュール及びチューブ内の空気を抜いてサイフォン状態にした上でチューブの末端を水面より下方にすることで濾過水を得る浄水方法としたものであり、該浄水方法において、1回分の処理水量に対応する容量の水を入れた容器を原水貯槽として用い、原水貯槽には殺菌剤を入れ、濾過水を得た後の原水貯槽の残留水は、1回もしくは数回ごとに捨てるのがよく、また、前記原水貯槽に入れる水は、その前に活性炭吸着処理を行うのがよい。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、災害時において、インフラ又は給水車等による給水サービスが得られない場合にあっても、動力源を使わず、天気によらず、容易に飲料水として利用可能な水を得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
ここで、使用する中空糸膜モジュールは、外圧浸漬式であれば良く、MF、UF、NF膜等が好適に使用できる。膜の孔径は、細菌類が除去可能な1μm以下のものを用いるが、濁質の除去及び孔径の分布等を考慮すると0.1μm以下であることがより望ましい。孔径が小さい程より良質な処理水質が期待できるが、処理水量が減少するため、0.01μm以上程度が実用上使用可能な孔径である。
膜の材質としては、特に限定されず、ポリエチレン、塩化ビニール、PVDF、セラミック、PFS(ポリエーテルスルホン)、CA(酢酸セルロース)等を用いることができる。特に、外圧浸漬式中空糸への成形のしやすさ、容易に洗えること、及び塩素殺菌に強いことなどから、ポリエチレン膜が好適に使用できる。また、CA膜も残留塩素に弱いという問題はあるが、安価に製造できる点が好適である。
【0009】
中空糸膜モジュールにつけるチューブは、モジュールと一体型でも良いし、着脱型でも良い。チューブの材質は、特に限定されないが、水に有害物質が溶出されず、取り扱いが容易なように、ある程度の柔軟性があるのが望ましい。例えば、PE、塩化ビニル、シリコンなどを用いることができる。チューブの太さは、特に限定されないが、あまり細いとチューブとの圧力損失があり、太いとサイフォン形成等の取り扱いがしにくく、コンパクト性に欠けることから、例えば、内径2〜10mm、より好ましくは3〜6mmのチューブを好適に用いることができる。チューブの長さは、原水貯槽の上端を通って、チューブ先端が原水貯槽の少なくとも水面レベルより下になる長さがあれば良いが、原水貯槽の底面レベルより下、さらに望ましくは底面レベルより1m以上、下になるような長さがあれば、より好適である。チューブ先端が水面より下にあれば透過水が得られるが、水面とチューブ先端との水位差が大きい方が処理水量が大きくなる。しかし、無駄にチューブを長くすることは、チューブ内の水量が大きくなることや、圧力損失が大きくなることから望ましくない。
チューブ内の空気を抜いてサイフォン状態にする方法としては、特に限定しないが、チューブ先端に注射筒を取付けて引いてもよく、人が吸っても良い。また、チューブの途中に三方弁を取付けておけば、チューブ先端に触ることなくサイフォン状態にすることができる利点がある。
チューブの末端を水面より下にする方法としては、水を入れた原水貯槽を台/机などの上においても良いし、段差の上部に既存の貯水槽があれば、中空糸膜モジュールを直接入れてもよい。
【0010】
原水貯槽として用いるものは特に限定されないが、水に溶解される有害物質や油などが付着していないものであることが望ましい。家庭に通常ある鍋やバケツ等を利用することができる。漏れが無く、固定できれば、ポリエチレン袋などでも使用可能である。平常時(不使用時)に、場所を取らずに保管しておくためには、折りたたみの容器も好適に使用できる。例えば、組立て式の枠とプラスチック袋の組合せなども利用できる。
水を入れた原水貯槽を上に持上げても良いし、上方に固定した原水貯槽に水を汲み上げても良い。
【0011】
原水貯槽の容量は特に限定されないが、原水補給及び残留水排出の手間から、1時間から2日分程度、好ましくは、4時間から1日分程度の処理水量が得られる容量が望ましい。特に、原水貯槽として使用可能な袋又は容器を組合せたキットにおいては、日中又は夜間に放置している間に水が得られるように、4時間から半日程度の処理水量に相当する容量を持つことが望ましい。
中空糸膜モジュールの膜面積は、処理水量10L/日に対して0.01m以上を用いることが望ましく、膜面積が大きいほど短時間で多量の処理水が得られる。しかし、膜を大きくすると浄水キットのコンパクト性が低下することから、10L/日の1キットあたり0.01〜0.2m、より好ましくは0.03〜0.1mが望ましい。
処理水量10L/日は、飲用水の必要量を2L/日として、4人家族の最低1日所要量と、人が無理なく運べる水の重量、及び非常用持ち出し袋に入れられる程度に小さいキットとしての例として示している。より大きいものにすることができるのはもちろんであり、この量に限られるものではない。
【0012】
原水貯槽に入れる殺菌剤としては、残留効果を有るものであれば特に限定されることはなく、塩素系、臭素系又はヨウ素系の殺菌剤を使用することができる。原水槽への殺菌剤添加によって、処理水にも殺菌剤が移行するため、膜によって細菌類を排除していることもあって、安全な処理水が得られる。
原水貯槽の大きさにあわせて、1回分ずつ分包されているか、はかりやすくなっていることが望ましい。例えば、取扱の容易さと溶けやすさから、粉末の塩素系殺菌剤を1回分ずつパッケージにしたもの、キャップ又は本体に目盛のついた液体ボトルなどを好適に使用できる。
【0013】
水中の殺菌剤濃度は、残留塩素として処理水で0.1〜1ppm、より好ましくは0.1〜0.5ppmが望ましい。原水として使用する水の状態によって、所要添加量は異なるため、殺菌剤の過不足は、殺菌剤の量を余裕をみて1回分を設定するか、添加混合後の臭いで判断するか、又は残塩検出キットを用いて判断しても良い。
また、膜の汚染で処理水量が減った場合には、残留塩素濃度を上げて浸漬することで洗浄することも出来る。
処理水を得た後に原水貯槽に残った水は、懸濁物質濃度が高くなっているため、毎回排出して交換することが望ましいが、数回の処理で、一定処理水量を得るための時間が、当初(1日目)より長くなった場合、(例えば、1.5〜2.0倍)に排出・交換してもよい。また、この際に水中で膜モジュールを振り洗いし、付着・堆積している物質をできる限り落とすことが望ましい。ただし、殺菌剤以外の洗浄剤は、次回の処理水に洗浄剤が混入して水質を悪化させるので使用しないことが望ましい。
【0014】
事前の吸着処理に使用する活性炭としては、粒状活性炭を透水性の袋に充填したものが望ましい。粒径は、小さい方が処理効率が高いが、袋から流出する可能性があるため、0.1〜5mm、より好ましくは0.2〜2.5mm程度が望ましい。材質は特に限定されず、ヤシガラ炭、石炭系などを用いることができるが、臭気物質や界面活性剤等の吸着能力が優れているものがより望ましい。酸洗・中和して処理水のアルカリ性が高くならないように処理したものが望ましい。
活性炭の容量としては、多い方がより良好な処理水質が期待できる。しかしコンパクト性の問題もあるので、例えば10L/日のキットで、1回あたり10gの活性炭パックを使用する。活性炭パックを1回ごとに交換しても良いし、数回分を一度に入れて交換せずに使うこともできる。
【0015】
本発明の浄水器は、中空糸膜によって、微細な汚濁物質や大腸菌等の細菌類を除去することができる。
また、本発明の浄水キットにおいて、原水貯槽に殺菌剤を入れることで、貯槽内の菌の増殖を防ぎ、かつ処理水側の細菌学的安全を保つことができ、さらに、活性炭を用いることで、溶解性物質も除去できる。
本発明の浄水方法は、水を汲み上げる作業は人力で行う必要があるが、短時間で実施可能であり、高齢者家庭等であっても、汲み上げ作業だけを巡回時等に実施してもらえば、容易に水を得ることができる。
このように、簡単な方法で容易に処理することができ、インフラ復旧までの間、孤立状態であっても対処することができる。
【実施例】
【0016】
実施例1 (基本キット)
膜面積0.03mのPE製中空糸膜モジュールと、内径4mmのタイゴン(登録商標)チューブ3mと、高度サラシ粉を0.1〜0.15mgずつに分包した殺菌剤20包とからなる浄水キットとした。
この浄水キットの使用方法を図1に示す。
【0017】
実施例2
膜面積0.03mのPE製中空糸膜モジュールと、内径4mmのタイゴン(登録商標)チューブ3mと、高度サラシ粉を0.1〜0.15mgずつに分包した殺菌剤を20包と、原水貯槽等として使用可能な折畳式の容器とからなる浄水キットとした。
この浄水キットの使用方法を図2に示す。
【0018】
実施例3
膜面積0.03mのPE製中空糸膜モジュールと、内径4mmのタイゴン(登録商標)チューブ3mと、高度サラシ粉を0.1〜0.15mgずつに分包した殺菌剤を20包と、原水貯槽等として使用可能な折畳式の容器と、10gずつ透水性の袋に入れた活性炭を気密包装したもの20個とからなる浄水キットとした。
この浄水キットの使用方法を図3に示す。
【0019】
実施例4
膜面積0.03mのPE製中空糸膜モジュールと、内径4mmのタイゴン(登録商標)チューブ3mと、高度サラシ粉を0.1〜0.15mgずつに分包した殺菌剤を20包と、10gずつ透水性の袋に入れた活性炭を気密包装したもの20個と、10〜15Lの大きさの2段以上の入れ子式の容器とからなる浄水キットとした。
この浄水キットの使用方法を図4に示す。
【0020】
実施例5
10〜15Lの大きさの2段以上の入れ子式の容器に、膜面積0.03mのPE製中空糸膜モジュールと、内径4mmのタイゴン(登録商標)チューブ3mと、高度サラシ粉を0.1〜0.15mgずつに分包した殺菌剤を20包、10gずつ透水性の袋に入れた活性炭を気密包装したもの20個、及び非常食、マッチ、懐中電灯、救急用薬品類等の非常用用品一式を入れた災害時の応急キットとした。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】実施例1の浄水キットの使用方法を示す説明図。
【図2】実施例2の浄水キットの使用方法を示す説明図。
【図3】実施例3の浄水キットの使用方法を示す説明図。
【図4】実施例4の浄水キットの使用方法を示す説明図。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
長さ0.3m以上のチューブを付けた中空糸膜モジュールからなる浄水器。
【請求項2】
請求項1記載の浄水器と、1回ずつを容易に供給できるようにした殺菌剤とを組合せた浄水キット。
【請求項3】
請求項1記載の浄水器と、1回分の処理水量に相当する容量の袋又は容器と、1回分ずつを容易に供給できるようにした殺菌剤とを組合せた浄水キット。
【請求項4】
請求項2又は3に記載の浄水キットに、透水性の袋に充填した活性炭を加えた浄水キット。
【請求項5】
長さ0.3m以上のチューブを付けた中空糸膜モジュールを水中に入れ、中空糸モジュール及びチューブ内の空気を抜いてサイフォン状態にした上で、チューブの末端を水面より下方にすることで濾過水を得ることを特徴とする浄水方法。
【請求項6】
請求項5に記載の浄水方法において、1回分の処理水量に対応する容量の水を入れた容器を原水貯槽として用い、原水貯槽には殺菌剤を入れ、濾過水を得た後の原水貯槽の残留水は1回もしくは数回ごとに捨てることを特徴とする浄水方法。
【請求項7】
前記原水貯槽に入れる水は、その前に活性炭吸着処理を行うことを特徴とする請求項6記載の浄水方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2006−239493(P2006−239493A)
【公開日】平成18年9月14日(2006.9.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−55393(P2005−55393)
【出願日】平成17年3月1日(2005.3.1)
【出願人】(000000239)株式会社荏原製作所 (1,477)
【Fターム(参考)】