説明

非接触ICカードの製造方法

【課題】 加熱、加圧工程による送受信用アンテナの変形を抑制し、カード表面の凹凸を軽減することが可能で、従来に比べて製造コストの増加が少ない非接触型ICカードの製造方法を提供すること。
【解決手段】 コアシート基材1の表面に熱硬化系樹脂からなる接着層パターン4を印刷または塗布により形成し、接着層パターン4を硬化させた後、非接触型通信機能を備えたICモジュール5と送受信用アンテナ6とをコアシート基材1に設置し、その後、オーバーシート2および3を重ね合わせて加熱および加圧を行う。接着層パターン4は送受信用アンテナ6の平面コイル状のパターンに沿うように配置される線状のパターンにより構成されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、非接触型通信機能を備えたICモジュールと送受信用アンテナを内蔵する非接触型ICカードの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、情報処理の効率化や個人情報などのセキュリティを重視する傾向が強まり、非接触型ICモジュールと送受信用アンテナをカード基材内部に埋設した非接触型ICカードは、通信用の接触端子がカード表面に露出している接触型ICカードに比べ、ICモジュールとの電気的接触が容易に行えないことから偽造防止等の面において優れるので、多くの分野で普及してきている。
【0003】
従来の非接触型ICカードは、一般的に、コアシート基材に平面コイル状のパターンを有する送受信用アンテナや非接触型ICモジュールを設置したコアシートの両面をオーバーシートで挟んで真空熱プレスを行うなどの加熱、加圧工程によりラミネートして作製される。この場合、通常、コアシートとオーバーシートの間の中間層として熱可塑性樹脂または熱硬化系樹脂などの接着層を全面に設けている。また、コアシート基材やオーバーシートの材料としてはPET(ポリエチレンフタレート)、ポリ塩化ビニル、エポキシ樹脂、PET−G(非結晶性ポリエチレンフタレートコポリマー)などの樹脂が用いられる。
【0004】
しかしながら、上記の非接触型ICカードの製造方法では、コアシートとオーバーシートを真空熱プレスなどによりラミネートした際、送受信用アンテナ及び非接触型ICモジュールを搭載したコアシート基材が真空熱プレスの熱や圧力により熱溶融し伸縮することでコアシート基材に搭載した送受信用アンテナの平面コイルのパターン形状の変形や平面コイルの巻線間ピッチの変化が発生する。これにより、送受信用アンテナの共振周波数のずれや通信距離の変化が生じるだけでなく、真空熱プレス後にラミネートしたシートを個別のカード形状に打ち抜いて成形する際、送受信用アンテナのパターン形状の変形によりアンテナコイルの断線などの不具合が生じるという問題があった。また、ラミネート処理によるICカード形状の変形や表面の凹凸、そりなどの発生も問題となる。
【0005】
上記の問題を回避する手段として、例えば特許文献1には送受信用アンテナ及び非接触型ICモジュールを搭載するコアシート基材に送受信用アンテナのパターンと同形状の溝を設けるか、またはコアシート上に配置する他の樹脂シートや接着剤シートにより送受信アンテナを挿入する収納部分を設け、その中に送受信用アンテナを収納する方法が示されている。また、特許文献2にはコアシート基材として熱変形温度の高い基材、すなわち高融点の基材または耐熱性の基材を用い、オーバーシートの基材として熱変形温度が低く、熱膨張係数の異なる基材を用い、上下のオーバーシートの厚さをそれぞれ異なる厚さに設定することにより変形を防ぐ製造方法が示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2002−269522号公報
【特許文献2】特開2003−67706号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかし、特許文献1に記載された方法では、コアシート基材や他のシートなどにアンテナ形状の溝や枠を形成するための成型加工などに余分な工数や費用がかかるため、製造コストの増加を招くことが問題となる。また、特許文献2のように、熱変形温度の異なるシート基材を使用する場合、真空熱プレスなどによりラミネートした際、熱変形温度の高い基材を使用したコアシートに搭載されたICモジュールや送受信アンテナの形状に起因する凹凸がカード表面に生じやすいため、カード形成後の外観を損ねることとなり、さらにはカード形成後の2次印刷または加刷によって作成する絵柄を損ねる恐れがある。
【0008】
そこで、本発明の課題は、加熱、加圧工程による送受信用アンテナの変形を抑制し、カード表面の凹凸を軽減することが可能で、従来に比べて製造コストの増加が少ない非接触型ICカードの製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を達成するため、本発明の非接触型ICカードの製造方法は、樹脂からなるコアシート基材にICモジュールと平面コイル状のパターンを有する送受信用アンテナとを設置して構成したコアシートに、樹脂からなるオーバーシートを重ね合わせて加熱および加圧し、前記コアシートと前記オーバーシートとを一体化させることにより作製する非接触型ICカードの製造方法において、前記コアシート基材の表面に熱硬化系樹脂からなる接着層のパターンを印刷または塗布により形成し、前記接着層パターンを硬化させた後、前記ICモジュールと前記送受信用アンテナとを前記コアシート基材に設置し、その後前記オーバーシートを重ね合わせて加熱および加圧を行う非接触型ICカードの製造方法であって、前記接着層パターンは前記平面コイル状のパターンに沿うように配置される線状または帯状のパターンにより構成されることを特徴とする。
【0010】
ここで、前記接着層パターンは、前記送受信用アンテナが前記コアシート基材に設置されたときに前記送受信アンテナの平面コイル状のパターンの巻線間の位置に前記巻線に沿うように配置される線状部分、または前記平面コイル状のパターンの最外巻線の外側に前記最外巻線に沿うように配置される線状部分、または前記平面コイル状のパターンの最内巻線の内側に前記最内巻線に沿うように配置される線状部分のうち、少なくとも一つの線状部分を有することが望ましく、さらに前記接着層の厚さが3〜50μmであることが望ましい。
【0011】
上記のように、本発明の非接触型ICカードの製造方法では、コアシート基材にICモジュール及び送受信用アンテナを設置する前に、熱硬化系樹脂からなり、送受信用アンテナのコイル状パターンと類似形状のパターンまたはそのコイル状パターンの内側、外側、または、コイルのピッチ間などに位置するような線状または帯状のパターンを有する接着層のパターンをコアシート基材の表面に、印刷・塗布により形成し、その後、その接着層を十分に硬化させた後、コアシート基材にICモジュールや送受信用アンテナを設置し、真空熱プレスなどでコアシートとオーバーシートをラミネートすることで、真空熱プレス時の熱や圧力によりコアシート基材が熱溶融により伸縮することを軽減でき、それによりコアシート基材に設置した送受信用アンテナの変形を防止することができる。
【0012】
また、熱硬化系樹脂からなる接着層パターンをオフセット印刷やシルク印刷などで印刷して形成することができるため、送受信用アンテナのコイルパターンと類似形状のパターン、またはアンテナコイルパターンの内側や外側または、そのピッチ間に配置する線状パターンなどの複雑な形状にも容易に対応でき、低コストでの作製が可能となる。また、接着層パターンの塗布膜厚を3〜50μmと薄くすることにより、カード成型後のカード表面の凹凸の発生も少なく、カード外観を損ねる恐れがなくなる。
【0013】
以上のように、本発明により、加熱、加圧工程による送受信用アンテナの変形を抑制し、カード表面の凹凸を軽減することが可能で、従来に比べて製造コストの増加が少ない非接触型ICカードの製造方法が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明の第一の実施の形態における、非接触型ICカードの製造途中における模式的な断面図。
【図2】本発明の第一の実施のにおける非接触型ICカード実施の形態に用いるコアシートの平面図。
【図3】本発明の第一の実施の形態における非接触型ICカードのコアシートとオーバーシートを重ね合わせるときの斜視図。
【図4】本発明の第二の実施の形態における非接触型ICカードに用いるコアシートの平面図。
【発明の実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の実施の形態を、図面を参照しながら詳細に説明する。
【0016】
図1、図2、図3は、本発明による非接触型ICカードの製造方法の第一の実施の形態を説明するために示す図であり、図1は非接触型ICカードの製造途中における模式的な断面図、図2は本実施の形態に用いるコアシートの平面図、図3はコアシートとオーバーシートを重ね合わせるときの斜視図である。図1に示すように、本実施の形態の非接触型ICカードの製造方法は、樹脂からなるコアシート基材1に非接触型通信機能を備えたICモジュール5と平面コイル状のパターンを有する送受信用アンテナ6とを設置して構成したコアシート10に、樹脂からなるオーバーシート2および3を上下から重ね合わせて加熱および加圧し、コアシート10とオーバーシート2および3とを一体化させることにより作製する非接触型ICカードの製造方法である。本実施の形態においては、コアシート基材1の表面に熱硬化系樹脂からなる接着層パターン4を印刷または塗布により形成し、接着層パターン4を硬化させた後、ICモジュール5と送受信用アンテナ6とをコアシート基材1に設置し、その後、オーバーシート2および3を重ね合わせて加熱および加圧を行う。なお、図3に示すように、バッチ処理により1枚のコアシートから多数のカードが作製できるように配置され、一体化後に個別のカード形状に打ち抜いて作製される。
【0017】
また、図2に示すように、接着層パターン4は送受信用アンテナ6の平面コイル状のパターンに沿うように配置される線状のパターンにより構成されており、具体的には、送受信アンテナ6の平面コイル状のパターンの巻線間の位置にその巻線に沿うように配置される線状部分、および平面コイル状のパターンの最外巻線の外側にその巻線に沿うように配置される線状部分、および平面コイル状のパターンの最内巻線の内側にその巻線に沿うように配置される線状部分からなっている。
【0018】
本実施の形態において、接着層パターン4は、その膜厚が約30μm程度であり、コアシート基材1の表面に熱硬化系樹脂をシルク印刷で印刷して形成することができる。
【0019】
次に、本実施の形態の非接触型ICカードの製造方法の具体例について説明する。コアシート基材1は、例えば、ポリエチレンフタレート、ポリ塩化ビニル、エポキシ樹脂、PET−Gなどから作製する。このコアシート基材にICモジュール5及び送受信用アンテナ6を設置してコアシート10を構成し、図3に示すように、そのコアシート10を、例えばポリエチレンフタレート、ポリ塩化ビニル、エポキシ樹脂、PET−Gなどからなるオーバーシート2および3で挟んで重ね、真空熱プレスなどによりラミネートする。それぞれの厚みは、コアシート基材1が300μm、ICモジュール5が400μm、送受信用アンテナ6は140μm、すなわち直径140μmφの銅線の線材からなり、オーバーシート2および3が240μmである。この3つのシートを積層してラミネートし形成したカードの総厚が780μmである。
【0020】
ここで、上述のコアシート基材1にICモジュール5及び送受信用アンテナ6を設置する前に、コアシート基材1の表面にシルク印刷で熱硬化系樹脂の接着層パターン4を印刷し、熱硬化系樹脂が十分に硬化するまで乾燥させ、硬化後その接着層パターン4の巻線間、最外巻線の外側、最内巻線の内側にそれぞれ相当する線状部分が送受信用アンテナ6のパターンに合致するように、コアシート基材1に送受信用アンテナ6およびICモジュール5を設置する。
【0021】
また、熱硬化系樹脂の膜厚を約30μm程度とすることで、カード成型後のカード表面の凹凸を低減させることができ、2次印刷や加刷印刷での絵柄への凹凸の影響を低減させることができる。
【0022】
本実施の形態においては、コアシート10とオーバーシート2および3を真空熱プレスによりラミネートしても、コアシート10の送受信用アンテナ6が設置される表面に熱硬化系樹脂からなる接着層パターン4を形成しているため、その部分では真空熱プレスの熱や圧力によるコアシート基材の熱溶融および伸縮の影響を軽減することができる。これにより、送受信用アンテナ6の形状の変形を軽減でき、それに伴うカード成型後のアンテナの共振周波数のずれや通信距離の変化、さらには真空熱プレス後のラミネートシートから個別カード形状に打ち抜く際の送受信用アンテナの断線を防止することができる。
【0023】
なお、接着層パターン4の厚さとしては、厚すぎるとカード表面の凹凸を低減させる目的が達成されず、薄すぎるとコアシート基材の熱溶融および伸縮の影響を軽減する目的が達成されないため、3〜50μm程度が最適である。
【0024】
図4は本発明による非接触型ICカードの製造方法の第二の実施の形態を説明するために示す図であり、本実施の形態に用いるコアシートの平面図である。本実施の形態の製造方法は、接着層パターン7が送受信アンテナ6の平面コイル状のパターンの最外巻線の外側にその巻線に沿うように配置される帯状部分、および平面コイル状のパターンの最内巻線の内側にその巻線に沿うように配置される帯状部分からなっていること以外は第一の実施の形態と同様である。本実施の形態においても、コアシート基材の熱溶融および伸縮の影響を軽減することができ、送受信用アンテナ6の形状の変形を軽減できる。
【0025】
以上のように、本発明により、カード成型後のカードの表面状態や模様,絵柄を損ねることなく、かつ送受信用アンテナの形状の変形を防止でき、送受信アンテナの電気的特性のばらつきの低減、及びカード形状加工の際の断線防止による歩留りと品質の向上が可能な非接触型ICカードの製造方法が得られる。
【0026】
なお、本発明は上記の実施の形態に限定されるものではないことはいうまでもなく、製造するICカードの構造や形状に合わせて設計変更可能である。例えば、接着層パターンは、アンテナコイルの巻線間の位置にその巻線に沿うように配置される線状部分、または最外巻線の外側にその巻線に沿うように配置される線状部分、または最内巻線の内側にその巻線に沿うように配置される線状部分のいずれか1つまたは2つから構成されていても良く、接着層パターンの線幅や帯幅はアンテナ形状やシートの厚さなどの構造に応じて本発明の効果が得られるような値に設計することができる。
【符号の説明】
【0027】
1 コアシート基材
2、3 オーバーシート
4、7 接着層パターン
5 ICモジュール
6 送受信用アンテナ
10 コアシート

【特許請求の範囲】
【請求項1】
樹脂からなるコアシート基材にICモジュールと平面コイル状のパターンを有する送受信用アンテナとを設置して構成したコアシートに、樹脂からなるオーバーシートを重ね合わせて加熱および加圧し、前記コアシートと前記オーバーシートとを一体化させることにより作製する非接触型ICカードの製造方法において、前記コアシート基材の表面に熱硬化系樹脂からなる接着層パターンを印刷または塗布により形成し、前記接着層パターンを硬化させた後、前記ICモジュールと前記送受信用アンテナとを前記コアシート基材に設置し、その後前記オーバーシートを重ね合わせて加熱および加圧を行う非接触型ICカードの製造方法であって、前記接着層パターンは前記平面コイル状のパターンに沿うように配置される線状または帯状のパターンにより構成されることを特徴とする非接触型ICカードの製造方法。
【請求項2】
前記接着層パターンは、前記送受信用アンテナが前記コアシート基材に設置されたときに前記送受信アンテナの平面コイル状のパターンの巻線間の位置に前記巻線に沿うように配置される線状部分、または前記平面コイル状のパターンの最外巻線の外側に前記最外巻線に沿うように配置される線状部分、または前記平面コイル状のパターンの最内巻線の内側に前記最内巻線に沿うように配置される線状部分のうち、少なくとも一つの線状部分を有することを特徴とする請求項1に記載の非接触型ICカードの製造方法。
【請求項3】
前記接着層パターンの厚さが3〜50μmであることを特徴とする請求項1または2に記載の非接触型ICカードの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2011−181020(P2011−181020A)
【公開日】平成23年9月15日(2011.9.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−47277(P2010−47277)
【出願日】平成22年3月4日(2010.3.4)
【出願人】(000134257)NECトーキン株式会社 (1,832)
【Fターム(参考)】