説明

非水電解液二次電池及び電池モジュール

【課題】オリビン型リチウム複合化合物を用いた正極の抵抗を下げ、低電圧での充電を可能とした非水電解液二次電池を提供する。
【解決手段】カーボンコートされたオリビン型リチウム複合化合物を正極活物質として含む正極を用いた非水電解液二次電池において、正極が、正極活物質100質量部に対して4質量部以上6質量部以下の導電材と、4質量部以上8質量部以下のバインダーとを含む正極活物質層を有する、非水電解液二次電池。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、非水電解液二次電池及び電池モジュールに関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来から、高出力、高エネルギー密度の二次電池として、非水電解液を用い、リチウムイオンの移動により充放電を行う二次電池が知られている。近年では、高温での安定性を向上させるために、リン酸鉄リチウム等のオリビン型リチウム含有リン酸塩を用いることが検討されている(例えば特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2007−265923号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
従来のオリビン型リチウム複合化合物を正極活物質として用いた二次電池は、正極の抵抗が高いために、理論値である3.35V付近で充電しても100%SOCは得られなかった。そのため、4.0V以上の高い電圧を加えなければならなかった。しかし、4.0V以上で充電を行うと、電極上で電解液の分解等の電池反応には寄与しない反応が起こることとなり、電池の耐久性や安定性に影響を及ぼす可能性があった。
【0005】
本発明は、上記従来技術の問題点に鑑み成されたものであって、オリビン型リチウム複合化合物を用いた正極の抵抗を下げ、低電圧での充電を可能とした非水電解液二次電池を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、上記課題を解決するために、以下の構成を採用した。
カーボンコートされたオリビン型リチウム複合化合物を正極活物質として含む正極を用いた非水電解液二次電池において、前記正極が、前記正極活物質100質量部に対して4質量部以上6質量部以下の導電材と、4質量部以上8質量部以下のバインダーとを含む正極活物質層を有し、カーボンコートされたオリビン型リチウム複合化合物粒子のカーボン被覆面積率が95%以上である、非水電解液二次電池。
【0007】
カーボンコートされたオリビン型リチウム複合化合物を正極活物質として含む正極を用いた非水電解液二次電池において、0.5C以下、3.8Vで充電した際の正極の充電率が98%以上である、非水電解液二次電池。
【0008】
カーボンコートされたオリビン型リチウム複合化合物を正極活物質として含む正極を用いた非水電解液二次電池において、0.5C以下、3.6Vで充電した際の正極の充電率が95%以上である、非水電解液二次電池。
【0009】
カーボンコートされたオリビン型リチウム複合化合物を正極活物質として含む正極を用いた非水電解液二次電池において、0.5C以下の充電条件で3.6V充電した際の正極の充電率と0.5C以下の充電条件で3.8V充電した際の正極の充電率の差が2〜4%である、非水電解液二次電池。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、正極の抵抗が低く、低電圧の充電が可能な非水電解液二次電池を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】本発明の一実施の形態である二次電池を示す図。
【図2】実施形態の二次電池に含まれる発電要素を示す図。
【図3】実施例1と比較例1の充電曲線を示したグラフ。
【図4】各サンプルの充電時間と容量との関係を示すグラフ。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の実施の形態について図面を参照しつつ説明する。図面や以下の記述中で示す構成は例示であり、本発明の範囲は図面や以下の記述に限定されるものではない。
【0013】
図1は、本発明の一実施の形態である二次電池を示す図であり、図1(a)は概略断面図、図1(b)は概略上面図、図1(c)はケースを除いた構成要素の概略断面図、図1(d)はケースの断面図である。
図2は、本実施形態の二次電池に含まれる発電要素を示す図であり、図2(a)は正極シートの概略平面図、図2(b)は負極シートの概略平面図、図2(c)は発電要素の内部構造を示す概略図である。
【0014】
本実施形態の二次電池20は、開口18を有するケース3内にスタック構造の発電要素1を収容し、蓋部材4により開口18を封止した構成を備えている。ケース3内には、発電要素1とともに、正極接続端子6、負極接続端子7、正極支持部材10、負極支持部材11、及び電解液が封入されている。
【0015】
ケース3内において、発電要素1の長さ方向の一方の端部に正極接続端子6が接続され、他方の端部に負極接続端子7が接続されている。正極接続端子6と負極接続端子7はそれぞれ蓋部材4に固定されている。正極支持部材10は正極接続端子6のケース3底壁側の端部に固定され、負極支持部材11は負極接続端子7のケース3底壁側の端部に固定されている。正極支持部材10及び負極支持部材11は、ケース3底壁の内側面に直接又は他の部材を介して接触している。
【0016】
蓋部材4は、ケース3の開口18の大きさと実質的に同じ大きさを有する。本実施形態の場合、ケース3の深さDと、発電要素1を蓋部材4に取り付けたときの長さLがほぼ同一である。これにより、発電要素1等をケース3内に収容したときに正極支持部材10及び負極支持部材11がケース3の底面19に突き当てられた状態で、蓋部材4の縁と開口18の端縁とが側面視でほぼ一致するように配置される。
【0017】
蓋部材4のケース3内側には正極接続端子6と負極接続端子7とが固定されている。蓋部材4の外面側には、正極外部接続端子14と負極外部接続端子15とが固定されている。正極外部接続端子14は正極接続端子6と電気的に接続されている。負極外部接続端子15は負極接続端子7と電気的に接続されている。
【0018】
蓋部材4の縁とケース3の開口18の端縁は、気密に接合された接合部17とされている。これにより、二次電池20の電解液をケース3内に封入している。接合部17の形成方法は、特に限定されないが、例えばレーザー溶接、抵抗溶接、超音波溶接、接着剤を用いた接着などを用いることができる。
【0019】
発電要素1は、図2に示すように、セパレータ33を介して交互に積層された正極シート30及び負極シート31を有する。正極シート30は、正極接続端子6に接続される正極集電体22と、正極集電体22上に形成された正極活物質層25とを有する。負極シート31は、負極接続端子7に接続される負極集電体23と、負極集電体23上に形成された負極活物質層26とを有する。
【0020】
発電要素1を構成する正極シート30及び負極シート31はそれぞれ複数であってもよい。すなわち、複数の正極シート30と複数の負極シート31がセパレータ33を介して交互に積層されていてもよい。この場合に、複数の正極シート30は、正極集電体22の正極活物質層25が形成されていない端部において束ねられ、正極接続端子6に接続される。同様に、複数の負極シート31は、負極集電体23の負極活物質層26が形成されていない端部において束ねられ、負極接続端子7に接続される。このように集電体の端部を束ねる場合に、正極集電体22と負極集電体23との間のリーク電流を防止するために、セパレータ33を正極集電体22と負極集電体23のそれぞれを束ねる部分の近傍にまで延設してもよい。
【0021】
また、ケース3内に複数の発電要素1を配設してもよい。この場合に、1つの正極接続端子6、負極接続端子7に複数の発電要素1を接続することができる。
【0022】
正極シート30は、正極集電体22と正極活物質層25とを有する。
正極集電体22は、電気伝導性を有し、一面又は両面に正極活物質層25を保持することができれば、その材質や形状、大きさは特に限定されない。正極集電体は22は、例えば金属箔により構成することができ、好ましくはアルミニウム箔である。
【0023】
正極活物質層25は、正極活物質粒子と、導電材と、バインダーとを含む。
本実施形態では、正極活物質として、表面にカーボンが被覆されたオリビン型リン酸鉄リチウムの粒子、又はその凝集体が用いられている。オリビン型リン酸鉄リチウムは、一般式LiFePO(ただし、0<x≦2)で表される。オリビン型リン酸鉄リチウム粒子を被覆するカーボンコートとしては、ピッチ等のカーボン前駆体を、1000℃以下、不活性雰囲気下の条件で焼成した非晶質カーボンを使用することができる。本実施形態において、正極活物質層25を構成するオリビン型リン酸鉄リチウム粒子は、その表面のカーボンコートの被覆面積率が95%以上であることが好ましく、100%に近いほど望ましい。
【0024】
なお、正極活物質としては、オリビン型リン酸鉄リチウムに限られず、一般式LiMPO(MはCo、Ni、Mn、Feから選択される少なくとも1種以上の元素、0<x≦2)で表されるオリビン型リチウム複合化合物を用いることができる。すなわち、表面にカーボンが被覆されたオリビン型リチウム複合化合物の粒子又はその凝集体を用いることができる。
【0025】
バインダーは、正極集電体22と正極活物質粒子と導電材とを結着させるために用いられる。バインダーとしては、有機溶剤に溶かして用いるポリフッ化ビニリデン(PVdF)、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)等の有機溶剤系バインダーのほか、水に分散可能であるスチレン・ブタジェンゴム(SBR)や、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、ブチル(メタ)アクリレート、(メタ)アクリロニトリル、ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート等のエチレン性不飽和カルボン酸エステルや、アクリル酸、メタクリル酸、イタコン酸、フマル酸、マレイン酸等のエチレン性不飽和カルボン酸や、カルボキシメチルセルロース(CMC)等の水系ポリマーを例示することができ、これらを二種以上混合して用いることもできる。バインダーを溶かす溶剤はバインダーの種類に応じて適宜選択すればよい。例えば、ジメチルホルムアミド、N−メチルピロリドン、イソプロパノール、トルエン、水などから選ばれる1種又は2種以上を用いればよい。
【0026】
正極活物質層25に用いる導電材としては、アセチレンブラック、ファーネスブラック、カーボンブラックから選ばれる1種又は2種以上のカーボンを用いることができる。
【0027】
本実施形態の正極活物質層25における正極活物質、導電材、バインダーの材料比は、正極活物質100質量部に対して、導電材は4〜6質量部、バインダーは4〜8質量部の範囲とされる。
導電材の量が4質量部未満であると、正極内のカーボンによる導電ネットワークがきれいに形成されなくなって抵抗が上昇する。一方、導電材の量が6質量部を超えると、それ以上添加量を増やしても導電率が変わらなくなる。導電材は電池反応には寄与しないので、多すぎる導電材は、正極の重量当たりの容量を低下させる原因となる。
また、バインダーの量が8質量部を超えると、正極活物質層25の結着性が上がる一方で、導電性が下がってしまう。また、バインダーの量が4質量部未満である場合には、正極活物質層25の結着力が弱すぎるために、正極集電体22上に正極活物質層25を形成することが困難になる。
【0028】
また本実施形態において、正極活物質層25は、充填密度が0.90g/cm以上であることが好ましい。下記表1の充填密度と電極抵抗の関係に示すように、充填密度が0.90g/cm以上の場合には、正極シート30の抵抗は十分に小さい値になるが、充填密度が0.90g/cm未満になると正極シート30の抵抗が急激に上昇する。なお、「電極抵抗」はAC抵抗値である。
【0029】
【表1】

【0030】
負極シート31は、負極集電体23と負極活物質層26とを有する。
負極集電体23は、電気伝導性を有し、一面又は両面に負極活物質層26を保持することができれば、その材質や形状、大きさは特に限定されない。負極集電体23は、例えば金属箔により構成することができ、好ましくは銅箔である。
【0031】
負極活物質層26は、少なくとも負極活物質を含む。負極活物質としては、例えば、黒鉛、リチウム金属、錫、チタン酸リチウムなどを用いることができる。これらのうちでも黒鉛を用いることが好ましく、ニードルコークスを粉砕し2200℃〜2800℃(好ましくは2300℃〜2600℃)で黒鉛化を行った鱗片状のコークス系黒鉛がより好適である。黒鉛中の鱗片状コークス系黒鉛の割合は30質量%以上であることが好ましい。
負極活物質層26に、必要に応じてバインダーを添加してもよい。バインダーとしてはPVdF、SBR、アクリル系ポリマー等を用いることができる。
【0032】
セパレータ33は、正極シート30と負極シート31との間に配置され、正極シート30と負極シート31との間にリーク電流が流れるのを防止する。セパレータ33は電解液を保持可能に構成してもよい。セパレータ33は、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリテトラフルオロエチレン等のポリオレフィン製の微多孔性フィルムにより構成することができる。
【0033】
電解液としては、特に限定されず、通常使用されるものを用いることができる。例えば、非水系溶媒に電解質を溶解させた非水電解液や、この非水電解液をポリエチレンオキシド、ポリアクリロニトリル等のポリマーに含浸させたゲル状ポリマー電解質を用いることができる。
【0034】
非水電解液の非水系溶媒としては、例えば、エーテル類、ケトン類、ラクトン類、スルホラン系化合物、エステル類、カーボネート類などが挙げられる。これらの代表例としては、テトラヒドロフラン、2−メチル−テトラヒドロフラン、γ−ブチルラクトン、アセトニトリル、ジメトキシエタン、ジエチルカーボネイト、プロピレンカーボネイト、エチレンカーボネイト、ジメチルスルホキシド、スルホラン、3−メチル−スルホラン、酢酸エチル、プロピオン酸メチルなど、あるいはこれらの混合溶媒を挙げることができる。
【0035】
非水電解液を構成する電解質は特に限定されるものではないが、LiBF、LiAsF、LiPF、LiClO、CFSOLi、LiBOB(リチウム−ビス(オキサラト)ボレート)等を用いることができ、これらの中でも電池特性、取り扱い上の安全性などの観点からLiBF、LiClO、LiPF、LiBOB等が好ましい。
【0036】
また、非水電解液には必要に応じて添加剤も加えることができる。添加剤は充放電特性向上の観点から、不飽和結合またはハロゲン原子を有する環状カーボネート及びS=O結合含有化合物から選ばれる一種以上を併用することが好ましい。
【0037】
不飽和結合またはハロゲン原子を有する環状カーボネートとしては、ビニレンカーボネート、フルオロエチレンカーボネート、及びビニルエチレンカ−ボネートが挙げられる。
また、前記S=O結合化合物としては、1,3−プロパンスルトン(PS)、1,3−プロペンスルトン(PRS)、1,4−ブタンジオールジメタンスルホネート、ジビニルスルホン、2−プロピニルメタンスルホネート、ペンタフルオロメタンスルホネート、エチレンサルファイト、ビニルエチレンサルファイト、ビニレンサルファイト、メチル2−プロピニルサルファイト、エチル2−プロピニルサルファイト、ジプロピニルサルファイト、シクロヘキシルサルファイト、エチレンサルフェート等が挙げられ、特に、1,3−プロパンスルトン、ジビニルスルホン、1,4−ブタンジオールメタンスルホネート、およびエチレンサルファイトが好ましい。
これらの化合物は、1種類で使用してもよく、また2種類以上を組み合わせて使用してもよい。
【0038】
以上の構成を備えた本実施形態の二次電池20では、正極シート30を構成する正極活物質層25が、正極活物質100質量部に対して4質量部以上6質量部以下の導電材と、4質量部以上8質量部以下のバインダーとを含むものとされている。これにより、正極活物質層25における正極活物質、導電材、及びバインダーの状態が最適化され、導電材料のネットワークが良好に形成された低抵抗の正極活物質層25を得ることができる。また、このような低抵抗の正極シート30を備えた非水電解液二次電池では、低電圧で高い充電率を得ることができる。
【0039】
なお、本実施形態の二次電池20は、連結端子等を用いて複数個を直列又は並列に接続することで電池モジュールを構成することもできる。これにより、電力貯蔵、ハイブリッド電気自動車、電車等、比較的大型大出力が要求される産業分野で好適に使用できる形態とすることができる。
【0040】
(正極シートの製造方法)
正極シートは、正極活物質(カーボンコートされたオリビン型リン酸鉄リチウムの粒子又はその凝集体)と、導電材(例えばアセチレンブラック)と、バインダー(例えばPVdF)と、溶媒(例えばN−メチルピロリドン)とを攪拌、混練し、正極活物質層形成用スラリーを調製する工程と、正極活物質層形成用スラリーを正極集電体22(例えばアルミニウム箔)上に塗布した後、乾燥固化させることにより正極集電体22の一面又は両面に正極活物質層25を形成する工程と、正極活物質層25が形成された正極集電体22をロールプレス機等によりプレス加工することで正極活物質層25の厚さを調整する工程と、を有する製造方法により製造することができる。
【0041】
本実施形態の製造方法では、正極活物質層形成用スラリーを調製する工程において、正極活物質投入後の混練期間に、正極活物質に対して過度な機械衝撃などのエネルギーが作用しないようにすることが好ましい。具体的には、均一な混練物が得られる範囲で、混練時間の長さを短くすることが好ましい。これにより、正極活物質への負荷を低減し、リン酸鉄リチウム粒子表面のカーボンコートが部分的に脱落してしまうのを防止することができる。その結果、高い被覆面積率でカーボンコートが形成されたオリビン型リン酸鉄リチウム粒子からなる正極活物質を含む正極活物質層を形成することができる。
【0042】
上記製造方法により得られる正極シートでは、正極活物質のカーボンコートの負荷を低減することができるため、オリビン型リン酸鉄リチウム粒子表面のカーボンコートの被覆面積率を高く保持しつつ正極活物質層25を形成することができ、低抵抗の正極シート30を製造することができる。
オリビン型リン酸鉄リチウムはそれ自体は導電性を有していないため、導電性を付与するために粒子の表面にカーボンコートを形成している。このような正極活物質において、粒子表面のカーボンコートに多くの脱落部分(オリビン型リン酸鉄リチウムが露出した部分)が多く存在すると、オリビン型リン酸鉄リチウムのLiイオンの反応サイトに隣接するオリビン骨格における電子授受サイトがカーボンで被覆されていない部分ができてしまい、その部分におけるLiイオンの取り入れ・放出が起こりにくくなると考えられる。したがって、オリビン型リン酸鉄リチウム粒子のカーボン被覆面積率が低くなると、Liイオンの取り入れ・放出速度が低下し、正極での過電圧が上昇してしまうと考えられる。
【0043】
これに対して、本実施形態の製造方法によれば、オリビン型リン酸鉄リチウム粒子のカーボンコートの負荷を低減することができ、正極活物質層25中の正極活物質におけるカーボンコートの被覆面積率を95%以上とすることができる。そうすると、上記したようなLiイオンの取り入れ・放出が阻害される部分が減り、取り入れ・放出速度が向上することから、正極での過電圧を低く抑えることができる。
【0044】
さらに本実施形態の製造方法において、正極活物質層形成用スラリーの調製に用いる正極活物質(原料)として、カーボンコートの被覆面積率がほぼ100%である正極活物質を用いると、正極活物質層25を形成した状態におけるオリビン型リン酸鉄リチウム粒子のカーボン被覆面積率をほぼ100%にまで高めることができ、特に良好な結果が得られた。これは、オリビン型リン酸鉄リチウムのLiイオンの反応サイトに隣接するオリビン骨格における電子の授受サイトのほとんどがカーボンでコーティングされていることから、Liイオンの反応サイトにおけるLiイオンの取り入れ・放出が阻害されることがなくなるためであると考えられる。
【0045】
なお、正極活物質のカーボンコートの被覆面積率は、SEM(走査型電子顕微鏡)とEDX(エネルギー分散型X線分光法)を用いて正極活物質の粒子を観察することで測定することができる。正極シート30からの観察試料の作製は、正極活物質層25の一部を溶剤に浸漬してバインダーを溶かすことにより正極活物質の粒子を脱離させる方法、あるいは正極活物質層25の一部を崩落させて正極活物質の粒子を取り出す方法により実施することができる。
【0046】
SEMにより正極活物質粒子の断面を観察することで、カーボンの被覆状態(カーボン膜厚及び膜厚分布)を確認することができる。また、EDXにより正極活物質粒子の表面をマッピングすることで、オリビン型リン酸鉄リチウム粒子の表面におけるカーボンの分布状態を得ることができ、被覆面積率を算出することができる。
【実施例】
【0047】
以下、実施例により本発明をさらに詳細に説明するが、本発明の技術範囲を限定するものではない。
【0048】
<第1実施例>
第1実施例では、複数の正極シートのサンプルを作製し、それぞれを用いた電池の充電試験を行うことで、電池特性を検証した。
【0049】
(実施例1)
以下の原料を用いて正極シートを作製した。
正極活物質:LCP420 TU−4(商品名:住友大阪セメント社製)
正極活物質層の材料比(質量部)
正極活物質:アセチレンブラック:PVdF=100:5:7
【0050】
上記の正極活物質は、オリビン型リン酸鉄リチウムの一次粒子の表面がほぼ100%の被覆面積率でカーボンコートされ、このカーボンコートを介して一次粒子同士が結合して二次粒子を形成しているオリビン型リン酸鉄リチウム粒子の凝集体である。スラリーを塗布乾燥してできた正極活物質層をプレスして厚さを調節する際に、プレスにより二次粒子が潰れてバラバラになり、正極活物質層内においてほぼ一次粒子状のオリビン型リン酸鉄リチウムとなるものである。
【0051】
アセチレンブラックとPVdFをN−メチルピロリドン中に入れ、撹拌・混練を行った後で、正極活物質を該混合物中に投入し、混練機の回転速度100rpmで90分間混練を行いスラリーを調製した。正極集電体としてのアルミニウム箔上にコーターを用いて上記スラリーを塗布乾燥し、できた正極活物質層をプレスして、片面の厚み100μm、充填密度0.95g/cmの正極活物質層が形成された正極シートを作製した。
【0052】
(実施例2)
実施例1に対して、スラリーを調製する際の混練の時間のみを変更し、その他は同一条件として正極シートを作製した。
アセチレンブラックとPVdFをN−メチルピロリドン中に入れ、撹拌・混練を行った後で、正極活物質を該混合物中に投入し、混練機の回転速度100rpmで150分間混練を行いスラリーを調製した。アルミニウム箔上にコーターを用いて上記スラリーを塗布乾燥し、できた正極活物質層をプレスして、片面の厚み100μm、充填密度0.95g/cmの正極活物質層が形成された正極シートを作製した。
【0053】
(実施例3)
実施例1に対して、スラリーを調製する際のバインダーの種類のみを変更し、その他は同一条件として正極シートを作製した。正極活物質層の材料比(質量部)は、正極活物質:アセチレンブラック:変性ポリメチル(メタ)アクリレート(変性PMMA):カルボキシメチルセルロース(CMC)=100:5:4:2である。
アセチレンブラックと、変性PMMAと、CMCをN−メチルピロリドン中に入れ、撹拌・混練を行った後で、正極活物質を該混合物中に投入し、混練機の回転速度100rpmで90分間混練を行いスラリーを調製した。アルミニウム箔上にコーターを用いて上記スラリーを塗布乾燥し、できた正極活物質層をプレスして、片面の厚み100μm、充填密度0.95g/cmの正極活物質層が形成された正極シートを作製した。
【0054】
(比較例1)
実施例1に対して、スラリーを調製する際の混練の時間のみを変更し、その他は同一条件として正極シートを作製した。
アセチレンブラックとPVdFをN−メチルピロリドン中に入れ、撹拌・混練を行った後で、正極活物質を該混合物中に投入し、混練機の回転速度100rpmで200分間混練を行いスラリーを調製した。アルミニウム箔上にコーターを用いて上記スラリーを塗布乾燥し、できた正極活物質層をプレスして、片面の厚み100μm、充填密度0.95g/cmの正極活物質層が形成された正極シートを作製した。
【0055】
(比較例2)
実施例1に対して、スラリーを調製する際の導電材の含有量のみを変更し、その他は同一条件として正極シートを作製した。正極活物質層の材料比(質量部)は、正極活物質:アセチレンブラック:PVdF=100:3:7である。
アセチレンブラックとPVdFをN−メチルピロリドン中に入れ、撹拌・混練を行った後で、正極活物質を該混合物中に投入し、混練機の回転速度100rpmで90分間混練を行いスラリーを調製した。アルミニウム箔上にコーターを用いて上記スラリーを塗布乾燥し、できた正極活物質層をプレスして、片面の厚み100μm、充填密度0.95g/cmの正極活物質層が形成された正極シートを作製した。
【0056】
(比較例3)
実施例1に対して、スラリーを調製する際のバインダーの含有量のみを変更し、その他は同一条件として正極シートを作製した。正極活物質層の材料比(質量部)は、正極活物質:アセチレンブラック:PVdF=100:5:9である。
アセチレンブラックとPVdFをN−メチルピロリドン中に入れ、撹拌・混練を行った後で、正極活物質を該混合物中に投入し、混練機の回転速度100rpmで90分間混練を行いスラリーを調製した。アルミニウム箔上にコーターを用いて上記スラリーを塗布乾燥し、できた正極活物質層をプレスして、片面の厚み100μm、充填密度0.95g/cmの正極活物質層が形成された正極シートを作製した。
【0057】
(比較例4)
実施例1に対して、スラリーを調製する際のバインダーの含有量のみを変更し、その他は同一条件として正極シートを作製した。正極活物質層の材料比(質量部)は、正極活物質:アセチレンブラック:PVdF=100:5:3である。
アセチレンブラックとPVdFをN−メチルピロリドン中に入れ、撹拌・混練を行った後で、正極活物質を該混合物中に投入し、混練機の回転速度100rpmで90分間混練を行いスラリーを調製した。アルミニウム箔上にコーターを用いて上記スラリーを塗布乾燥し、できた正極活物質層をプレスして、片面の厚み100μm、充填密度0.95g/cmの正極活物質層が形成された正極シートを作製した。
【0058】
以上の実施例1〜3及び比較例1〜4の材料比率と混練時間とを下記表2に示す。
【0059】
【表2】

【0060】
(充電試験)
充電の挙動は単板試験で確認した。正極活物質層を正極集電体の片面に設けて、負極にLi金属を用いて電流値0.5Cで充電を行った。
各サンプルについて、充電時の電圧(3.6V及び3.8V)とSOC(State of Charge;充電率)との関係を下記表3に示す。
【0061】
【表3】

【0062】
図3は、実施例1と比較例1の充電曲線を示したグラフであり、実線で示した曲線が実施例1、破線で示した曲線が比較例1に対応する。
図3に示すように、実施例1の正極シートを備えた電池では、比較例1の正極シートを備えた電池と比べて充電量が大きくなっても、電圧が低くても充電が進むことがわかる。また、グラフは示していないが、実施例2,3についても、実施例1と同様の結果が得られた。したがって実施例1〜3の正極シートを用いて作製した電池では、低い充電電圧で充電してもSOCが十分に上昇することが分かる。
なお、比較例4の正極シートでは充電可能な電池を作製することができなかった。
【0063】
また、実施例1、2及び比較例1の正極シートから正極活物質粒子を取り出して断面SEM測定及びEDX測定を行い、正極活物質粒子表面のカーボンコートの被覆面積率を算出した。各サンプルのカーボンコート被覆面積率は以下の通りである。
【0064】
実施例1(混練時間90分) :98〜100%
実施例2(混練時間150分):95〜98%
比較例1(混練時間200分):80〜90%
【0065】
スラリー調製工程における混練時間を短くした方が正極シート中の正極活物質粒子におけるカーボンコート被覆面積率が高くなることが分かる。
この結果から、オリビン型リン酸鉄リチウム粒子の表面積に対するカーボンの被覆面積率が高いほうがよく、そして、正極シート中のカーボンの被覆面積率の高いオリビン粒子を使用している正極を用いたほうが容量が大きくなるという結果となることが分かる。
【0066】
正極の容量が大きくなった理由は、カーボンコートの被覆率が高い、すなわち、正極におけるLiの取り入れ・放出速度が速くなったことにより、正極の充放電反応時の過電圧が下がり、電極抵抗が低くなったことによるものと考えられる。
また、隣接する正極活物質粒子間のカーボンによるネットワークが切れることなく繋がるため、正極内の導電パスがしっかりと形成され正極活物質粒子間の接続に伴う抵抗がより低下することによるものも考えられる。
【0067】
次に、図4は、実施例1,2及び比較例2の正極シートを用いて作製した電池の充電時間と容量との関係を示すグラフである。
図4に結果を示す測定で用いた電池は、黒鉛を負極活物質として負極シートを別途作製し、複数枚の正極シートと負極シートをセパレータを介して積層することで、50Ahの非水電解液二次電池を作製したものである。
【0068】
図4に示すように、実施例1、2の正極シートを使用した電池では、満充電(50Ah)になるのが比較例2の正極シートを使用した電池に比べて速かった。これは、先に示した実施例1、2の優れた電極特性が電池にも反映されている結果であると考えられる。
【0069】
<第2実施例>
第2実施例では、正極活物質層の材料比率と正極シートの抵抗値との関係について検証した。
【0070】
(導電材の割合)
正極活物質100質量部に対して導電材を3質量部〜7質量部の範囲で変えて複数の正極シートのサンプルを作製し、それぞれのAC抵抗を測定した。導電材の割合以外の条件は、第1実施例の実施例1のサンプルと同様にして5種類のサンプルを作製した。それぞれのサンプルについてAC抵抗を測定した結果を表4に示す。表4に示すように、導電材の割合が4質量部未満になると正極シートのAC抵抗が急激に上昇する。その一方で、導電材の割合が6質量部以上のサンプルではAC抵抗は一定であり、導電材の割合を6質量部を超える割合とする必要はないことがわかる。
【0071】
【表4】

【0072】
(バインダーの割合)
正極活物質100質量部に対してバインダーを3質量部〜9質量部の範囲で変えて複数の正極シートのサンプルを作製し、それぞれのAC抵抗を測定した。バインダーの割合以外の条件は、第1実施例の実施例1のサンプルと同様にして7種類のサンプルを作製した。それぞれのサンプルについてAC抵抗を測定した結果を表5に示す。表5に示すように、バインダーの割合が3質量部未満になると正極活物質層において十分な結着力が得られず、正極集電体上に正極活物質層を保持することができなかった。その一方で、バインダーの割合が8質量部を超えると、正極シートのAC抵抗が急激に上昇することがわかる。
【0073】
【表5】

【符号の説明】
【0074】
20…二次電池、25…正極活物質層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
カーボンコートされたオリビン型リチウム複合化合物を正極活物質として含む正極を用いた非水電解液二次電池において、前記正極が、前記正極活物質100質量部に対して4質量部以上6質量部以下の導電材と、4質量部以上8質量部以下のバインダーとを含む正極活物質層を有し、カーボンコートされたオリビン型リチウム複合化合物粒子のカーボン被覆面積率が95%以上である非水電解液二次電池。
【請求項2】
前記正極活物質層の充填密度が、0.90g/cm以上1.09g/cm以下である、請求項1に記載の非水電解液二次電池。
【請求項3】
カーボンコートされたオリビン型リチウム複合化合物を正極活物質として含む正極を用いた非水電解液二次電池において、0.5C以下、3.8Vで充電した際の正極の充電率が98%以上である、非水電解液二次電池。
【請求項4】
カーボンコートされたオリビン型リチウム複合化合物を正極活物質として含む正極を用いた非水電解液二次電池において、0.5C以下、3.6Vで充電した際の正極の充電率が95%以上である、非水電解液二次電池。
【請求項5】
カーボンコートされたオリビン型リチウム複合化合物を正極活物質として含む正極を用いた非水電解液二次電池において、0.5C以下の充電条件で3.6V充電した際の正極の充電率と0.5C以下の充電条件で3.8V充電した際の正極の充電率の差が2〜4%である、非水電解液二次電池。
【請求項6】
請求項1から5のいずれか1項に記載の非水電解液二次電池を複数個接続してなる、電池モジュール。

【図3】
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【図4】
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【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2012−133895(P2012−133895A)
【公開日】平成24年7月12日(2012.7.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−282434(P2010−282434)
【出願日】平成22年12月17日(2010.12.17)
【出願人】(507317502)エリーパワー株式会社 (34)
【Fターム(参考)】