説明

非水電解液二次電池用正極板、非水電解液二次電池および電池パック

【課題】入力特性に優れた非水電解液二次電池用正極板、そのような正極板を備えて高出入力特性に優れる非水電解液二次電池、電池パックを提供することを目的とする。
【解決手段】集電体1と、該集電体1表面の少なくとも一部に形成される電極活物質層2とを備える非水電解液二次電池用正極板10について、電極活物質層2が、第1の電極活物質と第2の電極活物質とを含有してなり、第2の電極活物質は、第1の電極活物質同士、および、第1の電極活物質と集電体1とを、固着させる。そして、第2の電極活物質は、リチウムを除く金属の群から選ばれた金属とリチウムとを金属元素として有し且つスピネル構造を有するリチウム複合酸化物を含む。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、非水電解液二次電池用正極板、非水電解液二次電池および電池パックに関する。
【背景技術】
【0002】
リチウムイオン二次電池に代表される非水電解液二次電池は、高エネルギー密度、高電圧を有し、また充放電時におけるメモリ効果(完全に放電させる前に電池の充電を行なうと次第に電池容量が減少していく現象)が無いことから、携帯機器、及び大型機器など様々な分野で用いられている。
【0003】
また、世界規模でCO排出抑制の取り組みが行われており、石油依存度を低減し、低環境負荷で走行可能とする点で、CO削減に寄与するプラグインハイブリッド自動車や電気自動車に代表される次世代クリーンエネルギー自動車の開発・普及が急務とされている。次世代クリーンエネルギー自動車の開発・普及には、ガソリンに依存しない駆動力が必須である。この駆動力としてリチウムイオン二次電池に代表される非水電解液二次電池が期待されている。
【0004】
非水電解液二次電池は、正極板、負極板、セパレータ、及び有機電解液から構成される。そして上記正極板及び負極板としては、金属箔などの集電体表面に、電極活物質層形成液を塗布して形成された電極活物質層を備えるものが一般に用いられている。
【0005】
電極活物質層形成液は、リチウムイオン挿入脱離反応を示すことにより充放電可能な活物質粒子、樹脂製結着材、及び導電材(但し活物質が導電効果も発揮する場合などには、導電材は省略される場合がある)、あるいはさらに、必要に応じてその他の材料を用い、有機溶媒中で混練及び/又は分散させて、スラリー状に調製される。そして電極活物質層形成液を集電体表面に塗布し、次いで乾燥して集電体上に塗膜を形成し、必要に応じてプレスすることにより電極活物質層を備える電極板を製造する方法が一般的である(例えば特許文献1段落[0019]乃至[0026]、特許文献2[請求項1]、段落[0051]乃至[0055])。
【0006】
このとき、電極活物質層形成液に含有される活物質粒子は、該液中に分散される粒子であって、集電体表面に塗布されただけでは集電体表面に固着され難く集電体から容易に剥離し易い材料である。そのため、従来の電極板における電極活物質層は、一般的に、樹脂製結着材を介して活物質粒子を集電体上に固着させて形成される。したがって、従来の電極活物質層は、ある程度の量の樹脂製結着材が含まれることが必須とされる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2006−310010号公報
【特許文献2】特開2006−107750号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
リチウムイオン二次電池は、さらに電気自動車、ハイブリッド自動車、そしてパワーツールなどの高出入力特性が必要とされる分野に向けての開発が進められている。また携帯電話等の比較的小型の装置に用いられる二次電池も、装置が多機能化される傾向にあるために、高出入力特性の向上が期待されている。
【0009】
二次電池において出入力特性の向上を実現するためには、電池のインピーダンスを下げる必要がある。それには、正極板、負極板といった電極板のインピーダンスを下げることが効果的である。
【0010】
上述のとおり、従来の電極活物質層においては、ある程度の量の樹脂製結着材が必須とされる。もちろん、樹脂製結着材が多く含まれると電極板と電極活物質層とが強く結着した状態が維持されやすくなる利点はある。ところが、その一方で、活物質粒子間に樹脂製結着材が存在することにより、イオン及び電子が樹脂製結着材を迂回して移動しなければならなくなってイオン及び電子の移動距離が長くなり、電極板のインピーダンスを下げるために結果的にマイナスに働き、また非水電解液二次電池の充放電に時間がかかるようになる虞もあることから、電極板の出入力特性の向上を妨げる可能性がある。
【0011】
本発明は、出入力特性に優れた非水電解液二次電池用正極板を提供すること、そのような正極板を備えて高出入力特性に優れる非水電解液二次電池、電池パックの提供を可能にすること、を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
すなわち、本発明は、
(1)集電体と、該集電体の表面の少なくとも一部に形成される電極活物質層とを備える非水電解液二次電池用正極板であって、
電極活物質層が、第1の電極活物質と第2の電極活物質とを含有してなり、
第2の電極活物質は、第1の電極活物質同士、および、第1の電極活物質と集電体とを、固着させており、
第2の電極活物質は、リチウムを除く金属の群から選ばれた金属とリチウムとを金属元素として有し且つスピネル構造を有するリチウム複合酸化物を含有してなる、ことを特徴とする非水電解液二次電池用正極板、
(2)第2の電極活物質は、マンガンとリチウムとを金属元素として含むリチウムマンガン複合酸化物を含有してなる、上記(1)に記載の非水電解液二次電池用正極板、
(3)第2の電極活物質は、LiMnを含有してなる、上記(1)に記載の非水電解液二次電池用正極板、
(4)第2の電極活物質は、LiMnを構成するマンガンの一部を、リチウムとマンガンを除く金属の群から選ばれた金属で置換したものを含有してなる、ことを特徴とする上記(1)に記載の非水電解液二次電池用正極板。
(5)第2の電極活物質は、第1の電極活物質の表面の少なくとも一部を覆っている、上記(1)から(4)のいずれかに記載の非水電解液二次電池用正極板、
(6)電極活物質層は、隣り合う第2の電極活物質同士の一部において、結晶格子が連続することにより繋がっている箇所を含む、上記(1)から(5)のいずれかに記載の非水電解液二次電池用正極板、
(7)集電体と、該集電体の表面の少なくとも一部に形成される電極活物質層とを備える非水電解液二次電池用正極板であって、
電極活物質層は、第1の電極活物質からなり該電極活物質層中に分散する複数の核体と、第2の電極活物質からなり該核体を包囲する包囲体とを有し、
前記包囲体は、核体同士、および、核体と集電体を固着させており、
前記包囲体は、複数存在し、これらの複数の包囲体のうち、隣接する包囲体同士の少なくとも一部が互いに繋がっているか、あるいは、前記包囲体は、個の区別なく連続しており、
前記包囲体のうち集電体近傍の包囲体が集電体の表面に繋がっており、
第2の電極活物質は、リチウムを除く金属の群から選ばれた金属とリチウムとを金属元素として有し且つスピネル構造を有するリチウム複合酸化物を含有してなる、ことを特徴とする非水電解液二次電池用正極板、
(8)第2の電極活物質は、マンガンとリチウムとを金属元素として含むリチウムマンガン複合酸化物を含有してなる、上記(7)に記載の非水電解液二次電池用正極板、
(9)第2の電極活物質は、LiMnを含有してなる、上記(7)に記載の非水電解液二次電池用正極板、
(10)第2の電極活物質は、LiMnを構成するマンガンの一部を、リチウムとマンガンを除く金属の群から選ばれた金属で置換したものを含有してなる、ことを特徴とする上記(7)に記載の非水電解液二次電池用正極板、
(11)前記核体と該核体を包囲する包囲体との界面において、前記核体を構成する第1の電極活物質の結晶格子と前記包囲体を構成する第2の電極活物質の結晶格子とが不連続に接合している領域が存在している、上記(7)から(10)のいずれかに記載の非水電解液二次電池用正極板、
(12)前記包囲体は、複数存在して、隣接する包囲体同士の一部が互いに繋がっており、
互いに繋がる包囲体同士のうちの一部において、一方の包囲体を構成する第2の電極活物質と他方の包囲体を構成する第2の電極活物質とが互いに結晶格子を連続させることにより繋がっている箇所を含む、上記(7)から(11)のいずれかに記載の非水電解液二次電池用正極板、
(13)正極板と、負極板と、前記正極板と前記負極板との間に設けられるセパレータと、非水溶媒を含む電解液とを少なくとも備えた非水電解液二次電池であって、
前記正極板が、上記(1)から(12)のいずれかに記載の非水電解液二次電池用正極板である、ことを特徴とする非水電解液二次電池、
(14)収納ケースと、正極端子および負極端子を備える非水電解液二次電池と、過充電および過放電保護機能を有する保護回路とを少なくとも備え、前記収納ケースに前記非水電解液二次電池および前記保護回路が収納されて構成される電池パックにおいて、
前記非水電解液二次電池が、正極板と、負極板と、前記正極板と前記負極板との間に設けられるセパレータと、非水溶媒を含む電解液とを少なくとも備えた非水電解液二次電池であり、
前記正極板が、上記(1)から(12)のいずれかに記載の非水電解液二次電池用正極板である、ことを特徴とする電池パック、を要旨とする。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、出入力特性に優れた非水電解液二次電池用正極板を得ることができ、そのような正極板を非水電解液二次電池、電池パックに備えることで高出入力特性に優れた電池、電池パックを容易に提供しうるようになる。
【0014】
また、本発明によれば、非水電解液二次電池の充放電の高速化を実現可能な電極活物質層を備えた非水電解液二次電池用正極板を得ることができ、そのような正極板を非水電解液二次電池、電池パックに備えることで高速充放電可能な電池、電池パックを容易に提供しうるようになる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】(1A)は、本発明の正極板を集電体面に略垂直に切断した際の断面を示す模式図である。(1B)は、本発明の正極板における電極活物質層の表面を示す模式図である。
【図2】(2A)から(2D)は、いずれも本発明に用いられる集電体の例を示す概略断面図である。
【図3】非水電解液二次電池の一形態における概略断面図である。
【図4】本発明の電池パックの一実施態様における概略分解図である。
【図5】実施例1におけるX線回折分析試験の結果を示す図である。
【図6】実施例8の正極板についての走査型電子顕微鏡写真である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
[非水電解液二次電池用正極板]
本発明の非水電解液二次電池用正極板10(以下、単に「正極板」という場合がある)は、集電体1と、その集電体1の表面の少なくとも一部に形成される電極活物質層2と、を備えてなる(図1A)(図1B)。
【0017】
(集電体1)
集電体1は、一般的に非水電解液二次電池用正極板10における集電体1として用いられるものであれば、特に限定されない。集電体1としては、例えば、アルミニウム箔、ニッケル箔などの単体又は合金から形成されているものが好ましく用いられるが、これに限定されない。集電体1は、必要に応じて、電極活物質層2の形成が予定される面に、表面加工処理を施されているものであってもよい。表面加工処理としては、集電体を構成する集電基材面上への導電性物質の積層加工処理、化学研磨処理、コロナ処理、酸素プラズマ処理などの表面処理がなされていてもの等が挙げられる。あるいは、上記集電体は、物理的に任意の凹凸などが表面に設けられていてもよい。
【0018】
図2Aから図2Dに示す非水電解液二次電池用正極板20,20’,20’’,20’’’の例を用いて、本発明に用いられる集電体の例をより具体的に説明する。
【0019】
集電体1としては、図2Aの非水電解液二次電池用正極板20に示されるように、それ自体が集電機能を有する金属箔などの集電基材3のみからなるものを用いることができる。集電基材3としては、上述するアルミニウム箔、ニッケル箔などが例示される。かかる場合には、集電基材3の表面101の少なくとも一部に電極活物質層2が設けられる。
【0020】
集電体1としては、図2Bに示す非水電解液二次電池用正極板20’に用いられる集電体1’のとおり、それ自体が集電機能を有する集電基材3の上面に、導電性を有する任意の導電性層4が設けられてなる集電体1’を用いることができる。導電性層4は、電極活物質層2と集電基材3と間の電子の移動を妨げない程度の導電性を示すものであればよい。例えば、導電性層4は、所定の金属または金属合金からなる積層層、あるいは任意の導電性微粒子がメッキあるいはスパッタリングなどにより堆積されてなる層、あるいは一枚以上の導電性薄膜が設けられてなる層などであってよく、またこれらの例に限定されない。集電体1’において、導電性層4の表面が、集電体1’の表面102となり、電極活物質層2は、表面102の少なくとも一部に設けられる。図2Bでは、集電体1’任意の導電性層4が1層である態様を示した。しかし、集電体1’の構成はこれに限定されず、導電性層4は、2以上の任意の導電性層が積層された積層構成であってもよい。
【0021】
集電体1としては、図2Cに示す非水電解液二次電池用正極板20’’に用いられる集電体1’’のように、それ自体が集電機能を有する集電基材3の上面に、断続的に形成された任意の断続層5が設けられてなる集電体1’’を用いることができる。断続層5は、上述する導電性層4と同じく導電性の層であってもよいし、あるいは導電性を示さない層であってもよい。非水電解液二次電池用正極板20’’において、集電体1’’の表面は、断続層5の表面である表面103と、断続層5が設けられておらず集電基材3自体の表面である表面103’とからなる。このとき、電極活物質層2は、表面103および表面103’のいずれとも接するよう形成することができる。非水電解液二次電池用正極板20’’では、断続層5は、導電性を有していても、有していなくてもよい。断続層5が導電性を有していない層であっても、集電体1’’の表面103’において電極活物質層2と集電基材3とが直接接するため、電極活物質層2と集電体1’’との間において電子の移動が確保される。ただし、非水電解液二次電池用正極板20’’自体の電気抵抗をより小さいものにするという観点からは、断続層5も、導電性を示すことが好ましい。
【0022】
また、断続層5が導電性を示す場合、図2Dに示すように、集電体1’’の表面であって断続層5上にのみ、選択的に電極活物質層2’を設けて、非水電解液二次電池用正極板20’’’を構成してもよい。即ち、集電体1’’の表面のうち、表面103の少なくとも一部に、選択的に電極活物質層2’を設けても良い。あるいは、図示しないが、断続層5が導電性を示さない場合、集電体1’’の表面103’の少なくとも一部に選択的に電極活物質層2’を設けてもよい。
【0023】
上述する集電体1,1’,1’’の説明は、例示であって本発明に用いられる集電体を何ら限定するものではない。本発明に用いられる集電体は、以上に例示するとおり、集電機能を有する集電基材3のみであってもよく、かかる態様では、電極活物質層2が設けられる集電体1の表面とは、該集電基材3の表面を指す。あるいは、本発明において、集電体1とは、集電機能を有する集電基材3と、該集電基材3上に設けられる任意の積層層を有していてもよい。かかる態様では、電極活物質層2が設けられる集電体1の表面とは、集電基材3と電極活物質層2との間の少なくとも一領域で電子の移動が確保される範囲において、上記積層層の表面、あるいは、積層層が設けられていない集電基材3表面、あるいは、上記積層層の表面および積層層が設けられていない集電基材3表面の両方を指す。
【0024】
集電体1,1’,1’’は、耐熱温度が800℃以下、さらには600℃以下、特には400℃以下のものを選択することが可能である。かかる集電体1,1’,1’’の選択は、後述する本発明の製造方法における加熱工程の温度との関係によって決定される。本発明では、例えば400℃以下の加熱温度で集電体1上に直接に電極活物質層2を形成することが可能である。したがって、上記集電体1,1’,1’’は、耐熱温度が800℃以下、さらには600℃以下、特には400℃以下のものを選択することができ、該集電体1上に直接に電極活物質層2が形成されてなる本発明の正極板を提供することができる。
【0025】
集電体1,1’,1’’の厚みは、一般に非水電解液二次電池用正極板の集電体として使用可能な厚みであれば特に限定されないが、10μm〜200μmであることが好ましく、15μm〜50μmであることがより好ましい。
【0026】
(電極活物質層2の構成)
電極活物質層2は、第1の電極活物質と第2の電極活物質とを含有して構成される。電極活物質層2では、第2の電極活物質が第1の電極活物質同士を固着させており、且つ、第2の電極活物質が第1の電極活物質を集電体に固着させている。このとき、第2の電極活物質は、リチウムイオン挿入脱離反応を示す物質であるとともに第1の電極活物質を被着対象物に結着させる結着物質でもある。
【0027】
本発明の正極板によれば、第2の電極活物質により、第1の電極活物質を集電体に直接的に固着させた状態を形成することが可能である。このことは、電極活物質層2が、集電体1上に直接に積層可能となっていることを示す。さらに、電極活物質層2が集電体1上に直接に積層されている場合、電極活物質層2と集電体1との間における電子の移動が非常にスムーズとなる。また、第2の電極活物質は、リチウムイオン挿入脱離反応を示すものあるため、電極活物質層2に含まれる活物質は、第1の電極活物質のみならず第2の電極活物質も追加されていることになる。このため、電極活物質層2に第2の電極活物質が含まれることで、実質的に正極板10の電極容量の増大に貢献することが可能である。
【0028】
なお、本発明において、第2の電極活物質による固着には、以下の2つの態様が含まれる。1つ目には、被固着物間(例えば、第1の電極活物質間、第1の電極活物質と集電体表面との間、あるいは導電材を使用する場合には、導電材と第1の電極活物質間、導電材粒子間など)に、結着物質となる第2の電極活物質が介在して両者を固着させる場合(以下、「固着態様1」)がある。2つ目には、被固着物同士が直接接触し、接触部分を囲んで結着物質となる第2の電極活物質が存在することによって被固着物同士を固着させる場合(以下、「固着態様2」)がある。第2の電極活物質による固着には、上述する固着態様1および2のいずれの状態で特定される固着状態であってもよい。したがって、電極活物質層2中に、固着態様1,2のいずれかの状態のみが形成されていてよいし、固着態様1,2の両方の状態が共存していてもよい。特に、電極活物質層2中に含まれる第1の電極活物質の粒子径が小さくなるほど、固着態様2が増える傾向にある。また、電極活物質層2中に添加剤として添加されることのある導電材粒子の粒子径が小さくなるほど、第1の電極活物質の場合と同様に、固着態様2が増える傾向にある。
【0029】
本発明は、電極活物質層2において、上記固着態様1および2のいずれも含んで構成される場合には、導電性の向上の点で優れた効果を発揮する。上記効果を理解するために、導電材粒子を含む電極活物質層2において、特に導電材粒子間の固着に着目する。導電材粒子同士が、上記固着態様1によって固着されている場合、結着物質が第2の電極活物質であるため、従来の樹脂製結着材に比べて、導電材粒子間での電子のやりとりの障害となり難い。またさらに、導電材粒子同士が、上記固着態様2によって固着されている場合には、粒子同士は直接に接しているため、当然に電子の流れがスムーズであり、優れた導電性が確保される。上記効果は、導電材粒子と第1の電極活物質との固着に関しても、同様のことが言える。加えて、集電体1と電極活物質層2との境界においても、集電体1面と、第1の電極活物質や導電材粒子とが、結着物質となる第2の電極活物質を介して固着されるか、あるいはこれらが直接に接触して接触部分の周囲に結着物質が存在することによって固着される。そのため、上述と同様の理由で、集電体1と電極活物質層2間の電子の流れがスムーズである。即ち、本発明の正極板は、第2の電極活物質が結着物質として機能するように電極活物質層2中に存在し、且つ、固着態様1および2によって種々の構成材料を固着させていることにより電気抵抗を低く保つことが可能である。
【0030】
なお、電極活物質層2には、第1の電極活物質と第2の電極活物質のほかに、本発明の効果を発揮可能な限度で、さらに導電材、樹脂材料などの任意の物質が含まれていてもよい。
【0031】
(電極活物質層2の構造)
電極活物質層2の構造についてみるに、電極活物質層2は、図1Aに示すとおり、電極活物質層2内に分散する複数の核体6と、この複数の核体6を包囲する包囲体7とを含んで構成されている。
【0032】
電極活物質層2において、核体6は、第1の電極活物質からなり、包囲体7が、第2の電極活物質からなる。核体6は、1次粒子であってもよいし、2次粒子であってもよいし、これらが混在していてもよい。包囲体7は、第2の電極活物質のみから構成されている構造体に限定されず、第2の電極活物質が主成分となっていれば第2の電極活物質以外の成分を含む構造体も含まれる。第2の電極活物質が主成分であるとは、第2の電極活物質以外の物質が1つの包囲体7に占める割合(重量%)が、第2の電極活物質の重量%を超えないことを示すものとする。
【0033】
集電体1近傍に存在する包囲体7は、集電体1表面と繋がっており、これによって集電体1上に、直接に、電極活物質層2を備える本発明の正極板10が完成される。また、電極活物質層2には、随所に空隙8が存在しており、これによって正極板10を用いて電池を構成した際に、非水電解液が空隙8を通って電極活物質層2内部に浸透可能である。
【0034】
図1Bは、電極活物質層2の表面を示す模式図である。電極活物質層2の表面は、主として包囲体7に覆われ、またところどころに核体6が露出していてもよい。また電極活物質層3の表面には、随所に空隙8が存在する。
【0035】
上記核体6を包囲する包囲体7については、複数存在して、1つの核体6には1つまたは複数の包囲体7が包囲している。これらの複数の包囲体7のうち、隣接する包囲体7同士の一部が互いに繋がっていてよい。あるいは、上記核体6を包囲する包囲体7は、個の区別なく連続的に繋がって一体をなしていてもよい。あるいは、本発明における電極活物質層2において、上記複数の包囲体7と、上記個の区別なく連続する包囲体7とが、混在していてもよい。電極活物質層2は、核体6を包囲体7で包囲されるように構成されているので、より出入力特性に優れた正極板10を得ることが可能となる。
【0036】
ところで、包囲体7を構成する第2の電極活物質は結晶性である。隣接する包囲体7同士の一部が互いに繋がっている本発明の態様においてみるに、該隣接する包囲体7同士の繋がりが、第2の電極活物質の結晶格子が連続する箇所を含む場合には、電極活物質層2の膜密着性が向上し、これによって出入力特性の向上に寄与するため望ましい。包囲体7同士の少なくとも一部において第2の電極活物質の結晶格子が連続するか否かは、後述の第1の電極活物質の結晶格子と第2の電極活物質の結晶格子とが連続するか否かの確認方法と同様に透過型電子顕微鏡観察を用いて確認することが可能である。
【0037】
上記包囲体7は、包囲体7自体の態様、例えば大きさ、形状、分布について特に限定されない。例えば包囲体7は、微小な粒子状であってよい。そして、その場合、多数の微小な粒子状の包囲体7が、核体6の1つ、または2以上の集合体の全面または一部を取り囲むよう包囲していてよい。また、このとき、微粒子状の核体6同士の一部は、互いに固着していてもよい。
【0038】
また、包囲体7は、非粒子状であってよい。このとき、包囲体7は、核体6の間隙を、空隙を残して充填する連続体であってもよい。上記連続体は、複数の核体6を、空隙を残して包囲するものであるが、個々の核体6をみたときに、1つの核体6の表面全面が連続体である包囲体7に包囲されていてもよいし、あるいは1つの核体6の表面において、連続体である包囲体7に包囲されていない面が存在していてもよい。
【0039】
包囲体7は、核体6の2以上の集合体を包囲する膜状、ひだ状、またはこぶ状の連続的な被覆層を構成していてもよい。上記被覆層は、複数の核体6を、空隙を残して包囲するものであるが、個々の核体6をみたときに、1つの核体6の表面全面が被覆層をなす包囲体7に包囲されていてもよいし、あるいは1つの核体6の表面において、被覆層である包囲体7に包囲されていない面が存在していてもよい。
【0040】
また、包囲体7の表面は、走査型電子顕微鏡で、倍率5万倍で拡大観察した際に、例えば、滑らかな面で観察されるもの、定形・不定形問わず無数の突起が密集しているもの、あるいはこれらの組み合わせなどであってよく、その表面状態は何ら限定されない。
【0041】
包囲体7の形状、および包囲体7が核体6を包囲する態様は、本発明を何ら限定するものではない。即ち、本発明における包囲体7は、核体6の少なくとも一部を包囲し、且つ、包囲体7同士が繋がり、あるいは包囲体7が連続体であり、加えて、包囲体7のうち集電体10近傍の包囲体7が集電体1の表面に繋がることによって、核体6を集電体7上に固着させ、電極活物質層2を構成するものであればよい。本発明における包囲体7の1つの特徴は、包囲体7が粒子状であると、非粒子状であると、を問わず、包囲体7同士の少なくとも一部が結合して互いに繋がっていることにより、電極活物質層2内で電子の移動を生じる場合に電子の移動経路となりうる導電パスを良好に形成することが可能となる。この点で、単なる粒子状の集合であって、粒子同士が接触するが、実質的に互いが結合する部分を有しないような構造体とは、区別される。本発明における包囲体7と、粒子状であるが実質的に互いが結合する部分を有しない粒子集合体とは、透過型電子顕微鏡写真を観察することにより、識別することができる。なお、包囲体同士が結合して繋がっているとは、対象となる包囲体において、一方の包囲体を構成する第2の電極活物質の結晶格子と他方の包囲体を構成する第2の連続活物質の結晶格子が連続している構造が存在することを示すものとする。
【0042】
(核体6と包囲体7の二重構造)
電極活物質層2の構造は、核体6と、包囲体7とからなる、謂わば、二重構造により構成されることができる。この二重構造は、走査型電子顕微鏡写真から視覚的に理解することができる。また、その二重構造は、後述する正極板の製造方法の観点からも理解することができる。即ち、正極板の製造方法は、電極活物質層形成液を集電体1上に塗布して塗膜を形成し、その塗膜内で第2の電極活物質を析出させる。その際、塗膜を形成した集電体1上において、塗膜に含まれる既存の第1の電極活物質が核体6を構成し、これを包囲するように、核体6の周囲に第2の電極活物質が生成され包囲体7を構成する。この結果、上記二重構造が完成する。
【0043】
核体6と包囲体7とからなる上記二重構造について、特に核体6と包囲体7との界面について着眼すると、1つの特徴が存在する。核体6を構成する第1の電極活物質は、結晶性の化合物である。また、包囲体7を構成する第2の電極活物質も、リチウムイオン挿入脱離反応を示すことから、結晶性を有する。ここで、核体6を構成する結晶性の第1の電極活物質が、包囲体7を構成する結晶性の第2の電極活物質で包囲されたとき形成される両者の界面において、両者の結晶格子が連続する領域と、不連続な領域とが存在することがわかった。また特に、核体6を構成する第1の電極活物質の結晶格子と、包囲体7を構成する第2の電極活物質の結晶格子が異なる場合には、両者の界面全域において、両者の結晶格子は不連続となる。尚、上記結晶格子の連続性については、透過型電子顕微鏡により、その結晶格子を観察することにより、確認することができる。
【0044】
本発明者らは、上述する結晶格子が不連続な領域の存在が、サイクル特性の向上に寄与するということを推察した。非水電解液二次電池は、リチウムイオンなどのアルカリイオンが第1の電極活物質の結晶構造に繰り返し挿入脱離するうちに、該結晶構造が劣化し、あるいはさらに破壊され、サイクル特性が低下する。上述する結晶構造の劣化・破壊は、結晶構造の連続する結晶格子に沿って発生すると考えられる。この点、本発明の正極板は、上述するとおり、核体と、リチウムイオン挿入脱離反応を示す包囲体とからなる二重構造の界面において、両者の結晶格子が不連続な領域が存在する。このため、核体を構成する第1の電極活物質、包囲体を構成する第2の電極活物質それぞれで生じた結晶構造の劣化が、上記不連続な領域では互いに影響を及ぼさないと考えられた。したがって、サイクル特性が低下し難く、換言すると、上記二重構造が、良好なサイクル特性の発揮に寄与すると推察された。
【0045】
電極活物質層2の構造について、包囲体7は、核体6の表面の少なくとも一部を覆っていればよい。このことは、電極活物質層2に含まれる1つの第1の電極活物質の粒子に着目した場合に、本発明の一態様として、第2の電極活物質は、第1の電極活物質の粒子表面の少なくとも一部を覆っている状態であってもよいことを示す。このとき、第2の電極活物質は、非水電解液と接触可能な露出面を有している状態で存在してよい。これは、上記固着態様1あるいは2において、一部の表面が非水電解液に接触可能に露出している第2の電極活物質、および、他の第1の電極活物質、導電材、集電体などには接しておらず、1つの第1の電極活物質の粒子表面の一部のみを覆っている第2の電極活物質を含む。正極板10を使用する電池を動作させる場合に、第1の電極活物質の粒子表面の少なくとも一部を覆い、且つ、非水電解液と接触可能な露出面を有している第2の電極活物質は、第1の電極活物質の粒子に先んじて、あるいは第1の電極活物質の粒子にならんでリチウムの挿入脱離反応が生じ得る。
【0046】
本発明者らは、正極板10が、第1の電極活物質の粒子表面の少なくとも一部を覆い、あるいはさらに、非水電解液と接触可能な露出面を有しているように第2の電極活物質を構成している場合、第2の電極活物質が、充電時に損失したリチウムイオンを効率的に補填しうる可能性がある、と推測する。第2の電極活物質によるリチウムイオン補填効果を確認するために、以下のような試験を実施することができる。正極板10について、第1の電極活物質と第2の電極活物質をあわせた活物質量を算出し、電極活物質層における体積当たりの活物質量をXg/cmを導出する。正極板10の電極活物質層2から第2の電極活物質を含まないように電極活物質層を構成してなる従来の正極板を想定し、その従来の正極板について、電極活物質層における体積当たりの活物質量がXg/cmとなるように設計する。これを正極板Bとする。正極板10と正極板Bとを比較した場合、本発明の正極板10の方が、初期充放電効率が高いことが認められる。すなわち、第2の電極活物質の存在により、初期充放電効率の向上が認められる。正極板10が、第2の電極活物質を第1の電極活物質の表面を覆って存在するような構成を有する場合に、このような初期充放電効率の向上という効果が発揮される機構についての詳細は、明らかでない。この点、本発明者らは、第1の電極活物質の表面を覆う第2の電極活物質は、薄膜形状で第1の電極活物質を覆う部分が存在するため、非水電解液側にも、接触する第1の電極活物質側にもリチウムイオンを極めて容易に出入りさせることができ、このため、損失したリチウムイオンを容易に補填することができるのではないかと推測している。本発明の正極板は、単位面積あたり略同量の第1の電極活物質粒子を含む樹脂結着材のみを用いた従来の正極板と比較して、初期充放電効率を向上させることが可能であり、好ましくは、初期充電容量100%に対し、続く放電容量を95%以上、より好ましくは、98%以上とすることが可能である。
【0047】
電極活物質層2の厚みは、正極板10に求められる電極容量や出入力特性を勘案して、適宜設計することができる。一般的には、電極活物質層2の厚みは、200μm以下、より一般的には100μm以上かつ150μm以下の厚みで設計される。ただし、本発明においては、電極活物質層2を非常に薄く形成することが可能である。そのため、第1の電極活物質の粒子径にもよるが、電極活物質層2の厚みが300nm以上200μm以下の電極活物質層2を形成することができる。出入力特性を向上させつつも電極容量を向上させ得るという観点からは、特に電極活物質層2の膜厚を300nm以上150μm以下にすることが好ましく、500nm以上100μm以下とすることがより好ましい。即ち、電極活物質層2の厚みが、上述の範囲のように薄い場合には、第1の電極活物質は粒子径が小さいものであり、少なくとも電極活物質層2の膜厚以下の粒子径であることを意味する。また、電極活物質層2の厚みが、上述の範囲のように薄い場合には、電極活物質層2内における第1の電極活物質と集電体1との距離が、短くなるので、正極板10の抵抗を下げることができる。尚、本発明において電極活物質層2の膜厚の下限は、主として用いられる第1の電極活物質の粒子径に依存し、その粒子径の縮小化に伴い、さらに膜厚を薄くすることが可能である。
【0048】
(第1の電極活物質)
第1の電極活物質は、リチウムイオン挿入脱離反応を示す活物質であれば適宜使用することができ、正極用電極活物質を選択される。
【0049】
第1の電極活物質として使用可能な正極用電極活物質としては、一般的に非水電解液二次電池用正極板において用いられるリチウムイオン挿入脱離反応を示す活物質であれば、特に限定されない。上記正極活物質の具体的な例としては、例えば、リチウムと非リチウム金属との複合化合物たるリチウム複合化合物を挙げることができ、具体的に、LiCoO、LiMn、LiNiO、LiFeO、LiNi1/3Co1/3Mn1/3、LiNi0.80Co0.15Al0.05などのリチウム複合酸化物、LiFePOなどのリチウム複合リン酸化物などを挙げることができる。なお、非リチウム金属は、リチウムを除く金属の群から選ばれる金属を示す。
【0050】
第1の電極活物質については、通常、粒子状の活物質が選択される。
【0051】
第1の電極活物質に用いられる活物質粒子の粒子径は、特に限定されず、任意の大きさのものを適宜選択して使用することができる。特に、粒子径の小さい活物質粒子を用いる態様の本発明によれば、電極活物質層中における活物質粒子の表面面積の総量を増大させることができるとともに、1つの活物質粒子内におけるリチウムの移動距離を短縮することが可能であるため、飛躍的に出入力特性を向上させることができる。したがって、より高い出入力特性を求める場合には、粒子径の寸法の小さいものを選択することが望ましい。具体的には、用いる活物質粒子の粒子径は、好ましくは10μm未満、より好ましくは5μm以下、特に好ましくは1μm以下である。従来の、樹脂製結着材を用いたスラリー状の電極活物質層形成液では、用いる活物質粒子径が10μm未満となると塗工適性が不良になる傾向にあり、5μm以下であると該形成液の流動性が著しく悪くなり、印刷機などの量産設備に適用が困難となり、さらに1μm以下であると、活物質粒子を形成液中に分散すること自体が困難になる傾向にあった。これに対し、本発明を製造する場合には、上述のような問題点が回避されるため、任意に活物質粒子の粒子径を選択することができる。
【0052】
なお、本発明及び本明細書において、電極活物質層中に含有された第1の電極活物質の粒子径は、測定された電子顕微鏡観察結果のデータを、粒子認識ツールを用いて識別し、認識された粒子の画像から取得した形状データをもとに粒度分布のグラフを作成し、この粒度分布のグラフから算出することができる。粒度分布のグラフは、例えば、電子顕微鏡観察結果を画像解析式粒度分布測定ソフトウェア(株式会社マウンテック製、MAC VIEW)を用いて作成可能である。
【0053】
(第2の電極活物質)
第2の電極活物質は、リチウムを除く金属の群から選ばれた金属とリチウムとを金属元素として有し且つスピネル構造を有するリチウム複合酸化物を含んでなる。第2の電極活物質がこのようなリチウム複合酸化物を含むことで、非水電解液二次電池用正極板10におけるリチウムの効果的な挿入脱離が実施可能となり、電池の充放電の高速化が実現可能となる。
【0054】
第2の電極活物質を構成するリチウム複合酸化物は、マンガンとリチウムとを金属元素として含むリチウムマンガン複合酸化物であることが好ましい。リチウム複合酸化物を活物質に使用した電極のなかでも、リチウムマンガン複合酸化物を活物質に使用した電極は、その放電電位が比較的高い点、および、リチウムマンガン複合酸化物を第2の電極活物質に用いた正極板を非水電解液二次電池の正極板に使用した場合に、より大きな電圧を取り出せる電池を得ることが容易となる点で好ましい。
【0055】
リチウムマンガン複合酸化物は、LiMnのほか、LiMnx12−x1の組成式で表されるもの等が例示される。ただし、上記組成式LiMnx12−x1において、x1は、1.5≦x1<2であるものとする。x1がこの範囲にあると、スピネル構造を有する化合物がより容易に形成される。また、Mは、リチウムとマンガンを除く金属の群から選ばれた金属を示す。Mは、好ましくは、リチウム、ホウ素、リン、窒素、マグネシウム、アルミニウム、カルシウム、バナジウム、チタン、クロム、ニッケル、鉄、コバルト、銅、亜鉛、ストロンチウム、ジルコニウム、ニオブ、モリブデン、スズのいずれか、あるいはこれらの組合せである。なお、上記組成式LiMnx12−x1であらわされるリチウム金属酸化物は、LiMnのMn原子の一部を金属Mで置換して部分置換体とすることで得られる。
【0056】
電極活物質層2において第1の電極活物質が、スピネル構造を有する第2の電極活物質で、第1の電極活物質同士で固着されることになるとともに、集電体1に対して固着されることになる。このため、正極板10を組み込んだ電池の充放電の高速化を図ることが可能となる。
【0057】
電極活物質層2に含有される第2の電極活物質全てが集電体1と第1の電極活物質との固着、及び第1の電極活物質同士の固着に寄与されている必要はない。例えば、第2の電極活物質のなかに、第1の電極活物質に固着しているだけで、第1の電極活物質を集電体に固着させず、第1の電極活物質同士を固着しないものが、存在してもよい。
【0058】
第2の電極活物質が粒子状に形成される場合では、その粒子径は、特に限定されず、任意の大きさのものを適宜形成して使用することができ、第2の電極活物質の粒子径は第1の電極活物質の粒子より大きくても小さくても良い。なお、第1の電極活物質の粒子径について説明したように、粒子径を小さくすると、出入力特性を向上させることが容易となる点を考慮すると、第2の電極活物質の粒子径は、上記で説明した第1の電極活物質の粒子径の好ましい範囲内に収められることが好ましい。なお、第2の電極活物質の粒子径は、第1の電極活物質の粒子径と同様に、電子顕微鏡観察結果のデータを用いた方法で特定することができる。
【0059】
第2の電極活物質について、隣り合う第2の電極活物質同士の少なくとも一部において、結晶格子が連続することにより繋がっている箇所を含んでいてもよい。隣り合う第2の電極活物質の少なくとも一部において互いに結晶格子が連続していると、電極活物質層2の集電体1に対する密着性が向上することが推察される。この密着性の向上は、正極板10の出入力特性の向上に有効に寄与する可能性がある。電極活物質層2の密着性を向上させるという観点からは、隣り合う第2の電極活物質同士の結晶格子が連続する部分は、電極活物質層2に有意に存在することがより望ましい。本発明において隣り合う第2の電極活物質の結晶格子が連続するか否かは、透過型電子顕微鏡で電極活物質層における隣り合う結着物質の断面の結晶格子を観察することによって確認できる。
【0060】
隣り合う第2の電極活物質における結晶格子が連続する箇所を含むように電極活物質層2を構成するためには、後述する非水電解液二次電池用正極板の製造方法に従って正極板を製造することが望ましい。後述の製造方法では、電極活物質層形成液を集電体1上に塗布して塗膜を形成し、加熱などの手段を実施することによって該塗膜を電極活物質層2となす。その際、該集電体1上において、第1の電極活物質の周囲に存在する金属元素含有化合物が熱分解、酸化などの反応を起こして、第1の電極活物質の周囲に第2の電極活物質であるリチウム遷移金属複合酸化物が生成される。このとき、隣接する第2の電極活物質(あるいはその前駆体)同士の一部が互いに接合していると、該接合部分において、両者の結晶成長が同時に進行し易い。上記接合部分において結晶成長が同時に進行する結果、本発明の電極活物質層において、隣り合う第2の電極活物質同士における結晶格子が連続する箇所を含むよう構成される。
【0061】
第2の電極活物質は、リチウム複合酸化物であることから、集電体1と電極活物質層2とを移動する電子の移動距離を短くすることができる。その結果、正極板のインピーダンスを低下させることができ、結果として、出入力特性を向上させることができる。
【0062】
さらに、第2の電極活物質は、従来の樹脂製結着剤に代わってあるいはそれと併用して、第1の電極活物質同士を固着させあるいは第1の電極活物質を集電体上に固着させるように、電極活物質層2内に含有される。さらに、第2の電極活物質は、結着第1の電極活物質と同様に活物質であり、リチウムイオン挿入脱離反応可能であるから、電極活物質層2内には、樹脂製結着剤にて第1の電極活物質を集電体上等に固着させる従来の正極板に比べて、相対的に活物質の存在率が上昇している。このため、本発明においては、第2の電極活物質の存在により全体の電極容量を増大させることができる。
【0063】
(第2の電極活物質のリチウム挿入脱離の確認)
なお、電極活物質層2において第2の電極活物質のリチウムイオン挿入脱離反応の有無については、サイクリックボルタンメトリー(CV)試験法などの電気化学的な測定法を用いて予め確認することができる。
【0064】
CV試験の1つの例について説明する。第1の電極活物質としてLiCoOを選択するとともに、第2の電極活物質をなすリチウム複合酸化物としてLiMnを選択する場合を例とする。第1の電極活物質を含ませず且つ第2の電極活物質を含んでなる塗膜を、アルミ箔上に形成してサンプル片を調製し、このサンプル片を用いてCV試験に供する。CV試験の条件については、電極電位を第1の電極活物質の適切な電圧範囲で直線的に掃引し、具体的に、第1の電極活物質としてLiCoOを想定する場合には3.0Vから4.2Vまで掃引してこの4.2Vを折り返し電圧として再び3.0Vまで戻す作業を1サイクルとし、3サイクル程度繰り返すものとする。このとき走査速度は、第2の電極活物質であるLiMnの酸化還元の反応をより確実に観察する点で、1mV/秒が好ましい。そして、各サイクルにおいて電圧に応じた電流を測定してサイクリックボルタモグラムを得る。第2の電極活物質がLiMnである場合に、サイクリックボルタモグラムをみたときに、約3.9V付近にLiMnのLi脱離反応に相当する酸化ピークが出現し、約4.1V付近にLi挿入反応に相当する還元ピークが出現する場合がある。このとき、このLiMnにリチウムイオンの挿入脱離反応があることを確認することができる。逆に、サイクリックボルタモグラムを見た場合にこうしたピークが出現しない場合には、リチウムイオンの挿入脱離反応がないと判断することができる。
【0065】
本発明において、金属酸化物が、リチウムイオン挿入脱離反応を示さないとは、金属酸化物固有の電気的性質を意味するものではなく、電極活物質層中に結着物質として含有される金属酸化物が、該電極活物質中に含有される電極活物質粒子に適した電圧範囲において、リチウムイオン挿入脱離反応を示さないことを意味する。正極板において、上記金属酸化物が、実質的にリチウムイオンを挿入脱離することが重要だからである。
【0066】
このように電極活物質層2中に含有を予定されたリチウム複合酸化物のリチウムイオン挿入脱離反応の有無は、予め確認可能である。正極板10の設計にあたっては、予めリチウムイオン挿入脱離反応を示すことを確認されたリチウム複合酸化物が、電極活物質層2中における第2の電極活物質として決定される。
【0067】
また、正極板10の電極活物質層2中に第2の電極活物質となるリチウムイオン挿入脱離反応を示すリチウム複合酸化物が含有されているか否かは、例えば、以下のとおり確認することができる。電極活物質層を削ってサンプルを作成し、該サンプルの組成分析を実施することにより、サンプル中に、いかなるリチウム複合酸化物が含有されているかを推定することができる。推定されたリチウム複合酸化物よりなる塗膜を、アルミ箔上に形成し、これをサイクリックボルタンメトリー試験に供することにより、当該リチウム複合酸化物がリチウムイオン挿入脱離反応を示すか示さないかを確認できる。また、既に完成された正極板における電極活物質層2を透過型電子顕微鏡で観察し、リチウム複合酸化物の結晶格子が、従来公知の活物質として知られる化合物の結晶格子と同様であれば、そのリチウム複合酸化物は、リチウムイオン挿入脱離反応を示す金属酸化物であり、第2の電極活物質として適切なものとなりうるとの判断が可能である。
【0068】
(第1の電極活物質と第2の電極活物質との組み合わせ)
電極活物質層2は、第1の電極活物質と、第2の電極活物質との組み合わせを限定されず、同じ化合物の組み合わせであってもよい。
【0069】
第1の電極活物質と、第2の電極活物質とが同じ化合物であるとは、両者が実質的に同じ組成を示す化合物であることを意味する。このとき、実質的に同じ組成を示す化合物には、第1の電極活物質と第2の電極活物質の化学組成に示される組成比率が完全に同じものだけでなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲において異なっているものが含まれる。また、第1の電極活物質と第2の電極活物質のいずれか一方、あるいは両方に、任意の元素が本発明の趣旨を逸脱しない程度に置換されている場合にも、両化合物は同一と理解することができる。
【0070】
また第1の電極活物質と、第2の電極活物質が同一の化合物であることを、化学組成の分析以外の別な手段で判断する方法として、化合物の結晶構造を確認してもよい。即ち、透過型電子顕微鏡で、第1の電極活物質と、第2の電極活物質とを観察し、2つの化合物の結晶構造が同じであれば、両者は同一の化合物を判断することができる。ここで結晶構造が同一とは、結晶構造が同一の結晶相に含まれる場合を意味する。換言すると、活物質粒子と金属酸化物とが同一でないという場合は、両者の結晶構造が、それぞれ異なる結晶相に位置する場合をいい、結晶格子の対照性の差異に基づく狭義の否同一性を意図しない。
【0071】
第1の電極活物質と、第2の電極活物質が同一の化合物である場合、第1の電極活物質と、第2の電極活物質の両方が充放電時においてリチウムイオンの出し入れに同じ電位レベルで関与でき、電極容量を実質的に増大させることが可能となる。
【0072】
(第1の電極活物質と第2の電極活物質との配合比率)
本発明において、電極活物質層2中に含有される第1の電極活物質粒子と第2の電極活物質との配合比率について特に限定されることはなく、使用される第1の電極活物質粒子の種類や大きさ、第2電極活物質に求められる機能などを勘案して適宜決定することができる。
【0073】
電極活物質層2において、第2の電極活物質の含有量が少なすぎる場合には、第1の電極活物質と集電体1、および第1の電極活物質同士の固着力を所望の程度まで挙げることができなくなる虞が生ずる。また、充放電の高速化に充分に寄与できなくなる虞も生じうる。したがって、この点を考慮すると、第1の電極活物質の質量比率を100質量部としたときに、第2の電極活物質の質量比率が、10質量部以上100質量部以下であることが好ましい。
【0074】
集電体と第1の電極活物質粒子、および第1の電極活物質同士を十分に固着させることができる程度に第2の電極活物質が含有されることは、電極活物質層2中における第1の電極活物質粒子の配合量の増加を必須とせずに電極活物質層2の電気容量を増大させることを、可能とする。
【0075】
(その他の材料)
電極活物質層2は、第1の電極活物質、第2の電極活物質のみから構成されているものに限定されない。電極活物質層2は、本発明の趣旨を逸脱しない範囲において、さらなる添加剤を含有させて形成してもよい。例えば、電極活物質層2には、より優れた導電性が望まれる場合などの条件に応じて、カーボンブラック等の導電性の炭素材料に例示される導電材を添加剤として加えられえてもよい。
【0076】
導電材を電極活物質層に含有させる場合には、その含有量は特に限定されないが、一般的には、第1の電極活物質および第2の電極活物質の総量100重量部に対して、導電材の割合が5重量部以上20重量部以下となるようにすることが望ましい。
【0077】
また本発明は、樹脂製結着材の使用量を極力抑えてもあるいは樹脂製結着材を使用せずとも第1の電極活物質を集電体上に十分に固着させることができるものであるが、これは電極活物質層に樹脂成分が含有されることを禁止しない。たとえば、正極板10を用いて電池を組み立てる場合に、電極の細孔内部への非水電解液の浸透性を向上させるために電極活物質層中に、樹脂成分を1%〜10%ほど含有させる場合がある。このように、必要に応じて、本発明においても電極活物質層中に樹脂材料を含有させてもよい。さらに、第1の電極活物質を固着させるため、第2の電極活物質と樹脂製結着材を併用してもよい。この場合、膜強度を向上させることが容易となる。
【0078】
[正極板10の使用]
本発明の正極板は、非水電解液二次電池の正極板として使用することができる。
【0079】
本発明の正極板は、第2の電極活物質を含ませずに樹脂製結着材を用いて電極活物質層を形成した従来の正極板と比較した場合に、出入力性能が高く、高速充放電が可能なものとなっている。これらことは、正極板を用いて電極の充放電レート特性を測定することで確認することができる。また、本発明の正極板では、第1の電極活物質を固着させる結着物質が第2の電極活物質であるので正極板中における活物質の割合を実質的に多くすることが可能となり、正極板の放電容量(尚、本明細書において正極板の放電容量を単に「電極容量」ともいう)を増大させることが可能となる点で非常に優れている。
【0080】
(電極の充放電レート特性評価方法)
本発明の正極板の出入力特性は、放電容量維持率(%)を求めることにより評価することができる。即ち、上記放電容量維持率は、放電レート特性を評価するものであり、放電レート特性が向上した正極板は、一般的に、充電レート特性も同様に向上していると理解される。したがって、望ましい放電容量維持率が示される場合には、充放電レート特性が向上したと評価するものである。より具体的には、例えば、第1の電極活物質の有する放電容量(mAh)の理論値が1時間で放電終了となるよう放電レート1Cを設定し、1Cの放電レートに対して基準となる基準放電レートを設定し、その基準放電レートにおいて実際に測定された放電容量(mAh)を放電容量維持率100%とする。そしてさらに放電レートを高くしていった場合の放電容量(mAh)を測定し、以下の数1に示す式にて放電容量維持率(%)を求めることができる。
【0081】
【数1】

【0082】
尚、上記放電容量は、三極式コインセルにより電極自体の放電容量を測定することにより求められる。
【0083】
[非水電解液二次電池用正極板の製造方法]
次に、本発明の非水電解液二次電池用正極板の製造方法(以下、単に「本発明の製造方法」という場合がある)について説明する。
【0084】
本発明の製造方法は、まず、第2の電極活物質の前駆体となる金属元素含有化合物、および第1の電極活物質となる活物質粒子、あるいはさらに任意の添加剤を溶媒に含んでなる電極活物質層形成液を、調製する。そして本発明の製造方法は、上記電極活物質層形成液を集電体表面の所望の領域に塗布して塗膜を形成する塗布工程と、上記塗膜に含まれる金属元素含有化合物から第2の電極活物質を析出させる電極活物質層形成工程と、を順に備える。尚、本発明の製造方法は、正極活物質層を集電体上に積層形成するために、上記電極活物質層形成液には、正極用の活物質粒子およびこれに適した金属元素含有化合物を添加する。
【0085】
本発明の製造方法は、金属元素含有化合物が溶解する上記電極活物質層形成液を集電体上に塗布し、上記塗膜に含まれる金属元素含有化合物から金属酸化物を生成させて集電体上に析出させるものである。このとき、集電体上に生成される金属酸化物は、第2の電極活物質をなし、電極活物質層形成液中に含まれる活物質粒子を抱き込むように集電体上で塗膜化でき、活物質粒子を集電体上に固着させることができる。上記電極活物質層形成液中に含まれる活物質粒子や導電材粒子の固着には、上記固着態様1に加え、固着態様2として示すように、粒子同士の直接の接触が良好に保たれた状態で固着される態様が含まれる。このように、固着態様1および2に示されるような固着の状態を可能とする要因は、本発明の製造方法において、金属元素含有化合物が溶媒に溶解されていること、且つ、活物質粒子等を混合した電極活物質層形成液を集電体上に塗布して電極活物質層を形成する際に、生成される金属酸化物が、活物質粒子間、あるいは活物質粒子同士が直接に接触する接触部分の周囲に生成されることにあると推察される。この結果、本発明の製造方法は、導電性が良好で電気抵抗を低く保つことが可能な正極板を製造することができる。
【0086】
活物質粒子:
上記電極活物質層形成液に含有される活物質粒子は、上述において既に説明した第1の電極活物質をなす正極活物質粒子と同様であるため、ここではその説明を割愛する。尚、本発明に用いられる電極活物質層形成液は、従来の樹脂製結着材を用いた電極活物質層形成液に比べて、平均粒径の小さい活物質粒子を用いた場合であっても粘度調整が容易である。特に、本発明の製造方法に用いられる電極活物質層形成液は、活物質粒子の粒子径が10μm以下、さらには1μm以下の小さいサイズのものを用いても、塗布性が低下するほどの粘度の上昇がみられないという望ましい特徴を有している。したがって、用いられる活物質粒子の粒子径は、所望の大きさを選択することができる。
【0087】
金属元素含有化合物:
上記電極活物質層形成液中に溶解される金属元素含有化合物は、電極活物質層中に含有され、結着物質として活物質粒子同士を固着させ、また、活物質粒子を集電体上に固着させ、且つ、リチウムイオン挿入脱離反応を示す第2の電極活物質の前駆体である。したがって、上記金属元素含有化合物は、溶液中に溶解された状態で集電体上に塗布され、電極活物質層形成工程の処理の内容に応じて、上述する第2の電極活物質をなす金属酸化物を生成することができるものであればよい。尚、使用する金属元素含有化合物から生成される金属酸化物が、リチウムイオン挿入脱離反応を示して、第2の電極活物質として適切なものであるか否かは、予備実験において、金属元素含有化合物を含有する溶液をガラスなどの基板上に塗布して、これを、加熱処理など電極活物質層形成工程の処理に相当する処理を施すことによって金属元素含有化合物から生成される金属酸化物を含む層を基板上に積層した積層体を得て、この積層体を正極板として用いて上述するサイクリックボルタンメトリー法を実施することにより確認することができる。
【0088】
たとえば、上記金属元素含有化合物の例としては、リチウム元素含有化合物と、マンガンを金属元素として含む金属元素含有化合物の1種あるいは2種以上との組み合わせが挙げられる。このとき、選択される化合物の組み合わせ全体として、リチウム、マンガンの2種の金属元素が含まれるように金属元素含有化合物の組み合わせが選択されればよい。また本発明において用いられる金属元素含有化合物は、当該化合物内に炭素が含まれていない、無機金属元素含有化合物であってもよいし、あるいは当該化合物内に炭素が含まれて構成される有機金属元素含有化合物であってもよい。尚、本発明および本明細書において、無機金属元素含有化合物及び有機金属含有化合物は、まとめて、単に金属元素含有化合物と呼ばれる場合がある。
【0089】
金属元素含有化合物には、リチウム元素あるいは、マンガン等の金属元素の塩化物、硝酸塩、硫酸塩、過塩素酸塩、酢酸塩、リン酸塩、臭素酸塩、炭酸塩等が適宜選択されてよい。本発明においては、塩化物、硝酸塩、酢酸塩は汎用品として入手が容易なので、使用することが好ましい。とりわけ、酢酸塩は広範囲の種類の集電体に対して製膜性がよいので、好ましく使用される。
【0090】
例えば、金属酸化物である第2の電極活物質を生成するための金属元素含有化合物としては、次に示すようなLi元素含有化合物、Mn元素含有化合物を主原料として組み合わせて用いることができ、さらに、必要に応じてその他の原料を組み合わせて用いることもできる。
【0091】
Li元素含有化合物としては、例えば、クエン酸リチウム四水和物、過塩素酸リチウム三水和物、酢酸リチウム二水和物、硝酸リチウム、及びりん酸リチウム、炭酸リチウム等が挙げられる。
【0092】
Mn元素含有化合物としては、例えば、酢酸マンガン(III)二水和物、硝酸マンガン(II)六水和物、硫酸マンガン(II)五水和物、しゅう酸マンガン(II)二水和物、及びマンガン(III)アセチルアセトナート、炭酸マンガン等が挙げられる。
【0093】
主原料として用いるLi元素含有化合物、及びMn元素含有化合物の組み合わせ割合は、特に限定されないが、電極活物質層形成液に金属元素化合物として含まれる全種の化合物の範囲での元素組成比で、Li:Mn=X:1とするときに0.5≦X<1であることが好ましく、0.5≦X≦0.6であることがより好ましい。
【0094】
上述する電極活物質層形成液において、溶媒中における、添加される1種または2種以上の金属元素含有化合物の添加量の合計の比率は、0.01mol/L〜5mol/L、特に0.1mol/L〜2mol/Lが好ましい。上記濃度が0.01mol/L以上であることにより、集電体と該集電体表面で生成される電極活物質層とが良好に密着し、第1の電極活物質をなす活物質粒子の固着が図られる。また、上記濃度が、5mol/L以下であることにより、上記電極活物質層形成液は集電体表面へ良好に塗布できる程度の良好な粘度を維持することができ、均一な塗膜が形成される。
【0095】
(その他の添加剤)
また上記電極活物質層形成液には、上述する活物質粒子および金属元素含有化合物以外にも、導電材あるいは、本発明の趣旨を逸脱しない範囲において、その他の添加剤を添加してもよい。上記導電材及びその他の添加剤は、本発明の電極活物質層の説明において記載した内容と同様のものを用いることができる。
【0096】
導電材を電極活物質層形成液に添加する場合には、集電体表面上において生成される活物質粒子、あるいは活物質粒子および形成が予定される金属酸化物の総量100重量部に対して、導電材の添加量が5重量部〜20重量部であることが望ましい。尚、上述は、20重量を超えて導電材を添加することを除外する趣旨ではない。
【0097】
(溶媒)
上記電極活物質層形成液を調製するために用いられる溶媒としては、特に限定されないが、例えば、水、あるいは、メタノール、エタノール、イソプロピルアルコール、プロパノール、ブタノール等の総炭素数が5以下の低級アルコール、アセチルアセトン、ジアセチル、ベンゾイルアセトン等のジケトン類、アセト酢酸エチル、ピルビン酸エチル、ベンゾイル酢酸エチル、ベンゾイル蟻酸エチル等のケトエステル類、トルエン、およびこれらの混合溶媒等を挙げることができる。
【0098】
尚、上記電極活物質層形成液は、集電体上に形成が予定される電極活物質層における活物質粒子、金属酸化物、あるいはさらに必要に応じて導電材などのその他の添加剤が必要量含まれるように勘案して、これらの配合量が決定される。その際、溶媒に添加される溶質(即ち、活物質粒子、金属元素含有化合物および任意の添加剤)の比率は、塗布工程において集電体上への塗布性及び、加熱工程における溶媒の除去を勘案し、適宜調整する。一般的には、電極活物質層形成液を100重量%としたときに、含有される溶質の総量は、30重量%〜70重量%となるよう調整される。
【0099】
次に、以上のとおり調製された電極活物質層形成液を、集電体上に塗布して塗膜を形成する。尚、本発明の製造方法において用いられる集電体は、上記非水電解液二次電池用正極板に用いられる集電体と同様である。
【0100】
本発明の製造方法における塗布工程では、溶液の塗布方法として公知の塗布方法を、適宜選択して実施することができる。たとえば、印刷法、スピンコート、ディップコート、バーコート、スプレーコート等によって、集電体表面の任意の領域に上記電極活物質層形成液を塗布して塗膜を形成することができる。また、集電体表面が多孔質であったり、凹凸が多数設けられていたり、三次元立体構造を有したりする場合には、塗布方法は、上記方法以外であって例えば手動で塗布する方法も可能である。尚、本発明において使用する集電体は、必要に応じて、予めコロナ処理や酸素プラズマ処理等を行うことで、電極活物質層の製膜性をさらに改善することができるため好ましい。
【0101】
上記電極活物層形成液の集電体への塗布量は、製造される正極板の用途等に応じて任意に決めることができる。本発明における電極活物質層は、上述のとおり非常に薄く形成することが可能であるため、薄膜化を図りたい場合には、最終的な電極活物質層の厚みが300nm〜150μm、特には500nm〜100μm程度となるように薄く塗布してよい。以上の通り、基板に電極層形成液を塗布することにより、結着物質である金属酸化物の前駆体である金属元素含有化合物が含有される電極活物質層形成用の塗膜が形成される。
【0102】
上記塗布工程と、後述する電極活物質層形成工程との間、あるいは、後述する電極活物質層形成工程の後には、さらにプレス工程を実施してもよい。上記プレス工程は、集電体上に形成された上記電極活物質層形成用塗膜を、必要に応じて乾燥させて溶媒を除去し、その後、プレスすることによって実施することができる。プレス方法は、従来の樹脂製結着材が含まれるスラリー状の電極活物質層形成液を集電体上に塗布して乾燥させ、次いで実施されるプレスと同様の方法で実施することができる。このように本発明の製造方法は、プレス工程を実施することによって、最終的に製造される正極板における電極活物質層の空隙率を調整し、また体積エネルギー密度を増加させることができる。
【0103】
次に、上記塗布工程において形成された塗膜に含まれる金属元素含有化合物から第2の電極活物質を析出させる電極活物質層形成工程について説明する。
【0104】
電極活物質層形成工程は、金属元素含有化合物から第2の電極活物質を析出させる方法を実施する工程であれば適宜選択可能であり、例えば、加熱工程、減圧乾燥工程、減圧加熱工程、あるいはこれらの組み合わせなどが例示されるが、これらに限定されず、集電体上に塗布された電極活物質層形成液により形成された塗膜を電極活物質層として形成可能な手段を実施する工程であればよい。例えば、上記電極活物質層形成工程は、上記塗膜中に含有される溶媒を除去する手段を実施し、次いで金属元素含有化合物を反応させる手段を実施するなど、2以上の手段を含んでもよい。なお、塗膜中の溶媒は、電極活物質層形成工程における加熱等の処理により除去される場合に限られず、塗布工程と、電極活物質層形成工程の間に実施される任意の他の工程において除去されてもよい。
【0105】
電極活物質層形成工程は、塗膜を加熱する加熱工程が好ましく選ばれる。加熱工程では、金属元素含有化合物を空気存在下で加熱することで効率的に金属元素含有化合物に対して酸素の提供が可能である。このため加熱工程は、リチウム複合酸化物といった金属酸化物を得るための工程として実施容易である。
【0106】
加熱工程は、該金属元素含有化合物の熱分解開始温度以上の温度で加熱して熱分解させ、これに含まれる金属元素を酸化せしめてリチウム挿入脱離反応を示す金属酸化物を生成するものである。加熱工程では、上記塗膜中に存在する金属元素含有化合物を熱分解するとともに酸化させるとともに、該塗膜中に含まれる溶媒を除去することが行われる(ただし、加熱工程前にプレス工程を実施する場合には、溶媒は実質的にはプレス前における乾燥で除去されている)。加熱方法としては、後述する加熱温度で、塗膜を加熱することができる加熱方法あるいは加熱装置であれば、特に限定されず、適宜選択して実施することができる。具体的な例としては、ホットプレート、オーブン、加熱炉、赤外線ヒーター、ハロゲンヒーター、熱風送風機等のいずれかを使用するか、あるいは2以上を組み合わせて使用する方法を挙げることができる。用いられる集電体が平面状である場合には、加熱工程は、ホットプレート等を使用することが好ましい。尚、ホットプレートを用いて加熱する場合には、塗膜面側が、ホットプレート面と接しない向きに設置して加熱することが好ましい。上記加熱温度は用いられる金属元素含有化合物の種類によって異なるが、上記塗膜を通常150℃〜800℃の温度範囲において加熱することにより良好に金属元素含有化合物の熱分解が行われ、速やかに金属酸化物が生成される。生成された金属酸化物は、リチウムイオン挿入脱離反応を示すことから、第2の電極活物質であると理解される。本製造方法では上記結晶性の金属酸化物が形成されることが多いが、この場合の結晶性の金属酸化物には、微結晶状態のものも含まれる。このように結晶性のある金属酸化物は、放電容量も高く、したがって、放電容量の高い正極板を形成することができる。
【0107】
ここで一般的に、加熱を用いて金属酸化物を生成する場合には、少なくとも約800℃以上の温度で上記塗膜を加熱する必要がある。これに対し、本発明の製造方法において、700℃以下、さらには600℃以下、特には、400℃以下という低い加熱温度においても、第2の電極活物質が生成されるのは、本発明の製造方法の特徴的な点の1つといえる。尚、700℃以下、さらには600℃以下、特には、400℃以下という低い加熱温度においても結晶性の優れた金属酸化物を生成することができ、この点も、本発明の製造方法の特筆すべき有利な点である。上述する加熱温度と、生成される金属酸化物の結晶性の発達との関係は、以下のとおり推測される。即ち、電極活物質層形成液中には、活物質粒子が含有されているため、生成される金属酸化物は、該活物質粒子の結晶性に追従して、700℃以下、さらには600℃以下、特には、400℃以下の加熱温度であってもリチウム挿入脱離反応が可能で、結晶性の高い金属酸化物となると推測される。特に、生成される金属酸化物と混合される活物質粒子の化学組成が同じ場合には、この追従作用が顕著であると推測される。
【0108】
上記加熱工程は、加熱温度を400℃以下で実施することにより、集電体の選択範囲が広がり、種々の集電体上に電極活物質層を直接に形成することができる点、および、実施温度が低いということによりコストメリットが向上する点など種々の効果が発揮されるため、好ましい。
【0109】
尚、上記加熱温度に関しては、第2の電極活物質の形成が可能な温度である。ところで、予備的に、使用が予定される金属元素含有化合物が溶解された溶液を適当な基板上に塗布して加熱し、基板上に積層される膜を削って試料とし、組成分析を行い、金属元素と酸素の含有比率を測定することによって、第2の電極活物質が形成されているかどうかを判断することができる。そこで、加熱工程が所定の温度条件で加熱して行なわれ第2の電極活物質が生成されていた場合には、用いられた金属元素含有化合物が、基板上で熱分解開始温度以上の温度で加熱されたことが確認される。即ち、本発明において「金属元素含有化合物の熱分解開始温度」とは、加熱により金属元素含有化合物が分解され、金属酸化物の形成が開始できるようになる温度、と理解することができる。
【0110】
また、上記加熱工程において、加熱温度を決定する際には、さらに、用いられる集電体、活物質粒子、導電材などの耐熱性も勘案することが望ましい。たとえば、一般的に正極板の集電体として用いられるアルミ箔の耐熱性は、660℃前後であるため、上記加熱温度が660℃を超える場合には、集電体を損傷するおそれがある。したがって、用いられる集電体、活物質粒子などを先に決定し、これらの耐熱性を勘案して、これらの耐熱温度と熱分解開始温度とを勘案して、金属元素含有化合物を選択してもよい。尚、本発明の製造方法に関し、「加熱温度」とは、加熱工程における最高温度を意味する。また加熱工程における加温の態様は、例えば、除々に昇温し、あるいは、一定の温度で加熱し、あるいは、段階的な温度で加熱してよく、任意に決定することができる。
【0111】
本発明の正極板は、上述のとおり製造された電極活物質層に、さらに樹脂成分を含有させてもよい。電極活物質層にさらに樹脂成分を含有させる方法は、例えば、樹脂混合液を、電極活物質層の表面に塗布し、あるいは、樹脂混合液槽に正極板を浸漬させて、該樹脂混合液を電極活物質層の空隙に浸透させ、次いで、乾燥させることによって、電極活物質層に含浸する上記樹脂混合液の溶媒を除去し、樹脂成分だけを、電極活物質層の内部に残留させる方法が挙げられる。このように、電極活物質層中に樹脂成分を含有する本発明の正極板であれば、樹脂成分の存在により、正極板の曲げ耐性が向上し、加工特性を向上させることが可能である。また、特に上記樹脂成分が、従来使用されていた樹脂製結着材である場合には、集電体に対する電極活物質層の膜密着性をより向上させることができる。
【0112】
上記樹脂混合液に含まれる樹脂材料として、例えば、PVDFなどの従来の樹脂製結着材、スチレンブタジエンゴム(SBR)、カルボキシメトキシセルロース(CMC)や、上記粘度調整剤に挙げるものなどを選択することができるが、これに限定されない。また上記樹脂材料は、電極活物質層における空隙内に浸透可能なサイズを適宜選択する。また、樹脂混合液の溶媒としては、例えば、メタノール、エタノール、イソプロピルアルコール、プロパノール、ブタノール等の総炭素数が5以下の低級アルコール、アセチルアセトン、ジアセチル、ベンゾイルアセトン等のジケトン類、アセト酢酸エチル、ピルビン酸エチル、ベンゾイル酢酸エチル、ベンゾイル蟻酸エチル等のケトエステル類、Nーメチルピロリドン(NMP)などのピロリドン類、トルエン、およびこれらの混合溶媒、水等などを用いることができ、該溶媒に、樹脂材料を混合させて、樹脂混合液を調製することができる。
【0113】
電極活物質層中に含有される樹脂成分の量は、正極板の出入力性能を低下させない程度に調整することが望ましい。即ち、本発明の趣旨を逸脱しない範囲において、樹脂成分を電極活物質層中に含ませてよい。
【0114】
[非水電解液二次電池]
非水電解液二次電池は、一般的には、正極板及び負極板と、これらの間にポリエチレンなどのポリオレフィン製多孔質フィルムのようなセパレータが設けられて構成されており、これらが容器内に収納され、且つ容器内に非水電解液が充填された状態で密封されて製造される。
【0115】
(正極板)
本発明の非水電解液二次電池は、特に、対をなす電極板の正極板として、上述する本発明の非水電解液二次電池用正極板10が用いられることを特徴とする。他方の電極板である負極板は、非水電解液二次電池において使用される従来公知の負極板を適宜使用することができる。
【0116】
本発明の非水電解液二次電池としては、図3に示すように構成されたものを例示できる。
【0117】
図3の非水電解液二次電池は、集電体55の一方面側に電極活物質層54が設けられてなる負極板50及びこれに組み合わされる集電体1の一方面側に電極活物質層2が設けられてなる正極板10と、これらの間にポリエチレン製多孔質フィルムのようなセパレータ70とが設けられる。そして、これらが外装81、82内に収納され、且つ、外装81、82内に非水電解液90が充填された状態で密封されて製造されて、非水電解液二次電池100が構成される。
【0118】
従来公知の負極板としては、集電体として厚み5μm〜50μm程度の電解銅箔や圧延銅箔等の銅箔を用い、上記集電体表面の少なくとも一部に、負極板を構成する電極活物質層形成組成物を塗布して塗布膜を得るとともに、塗布膜を乾燥し、必要に応じてプレスすることにより形成されたものが使用される。上記負極板における電極活物質層形成液には、一般的に、天然グラファイト、人造グラファイト、アモルファス炭素、カーボンブラック、またはこれらの成分に異種元素を添加したもののような炭素質材料からなる活物質、あるいは、金属リチウム及びその合金、スズ、ケイ素、及びそれらの合金等、リチウムイオンを吸蔵放出可能な材料などの活物質、およびバインダー、必要に応じて導電材などの他の添加剤が分散混合されることが一般的である。
【0119】
(非水電解液)
本発明に用いられる非水電解液は、一般的に、非水電解液二次電池用の非水電解液として用いられるものであれば、特に限定されないが、リチウム塩を有機溶媒に溶解させた非水電解液が好ましく用いられる。
【0120】
上記リチウム塩の例としては、LiClO、LiBF、LiPF、LiAsF、LiCl、及びLiBr等の無機リチウム塩;LiB(C、LiN(SOCF、LiC(SOCF、LiOSOCF、LiOSO、LiOSO、LiOSO11、LiOSO13、及びLiOSO15等の有機リチウム塩;等が代表的に挙げられる。
【0121】
リチウム塩の溶解に用いられる有機溶媒としては、プロピレンカーボネート、ブチレンカーボネートなどの環状エステル類、ジメチルカーボネート、ジエチルカーボネートなどの鎖状エステル類、テトラヒドロフラン、アルキルテトラヒドロフランなどの環状エーテル類、及び1,2−ジメトキシエタン、1,2−ジエトキシエタンなどの鎖状エーテル類等が挙げられるが、これに限定されない。
【0122】
上記正極板、負極板、セパレータ、非水電解液を用いて製造される電池の構造は、従来公知の構造を適宜選択して採用することができる。例えば、正極板及び負極板を、ポリエチレン製多孔質フィルムのようなセパレータを介して渦巻状に巻き回して、電池容器内に収納する構造が挙げられる。また別の態様としては、所定の形状に切り出した正極板及び負極板がセパレータを介して積層されて固定され、これを電池容器内に収納する構造を採用してもよい。いずれの構造においても、正極板及び負極板を電池容器内に収納後、正極板に取り付けられたリード線を外装容器に設けられた正極端子に接続し、一方、負極板に取り付けられたリード線を外装容器内に設けられた負極端子に接続し、さらに電池容器内に非水電化液を充填した後、密閉することによって非水電解液二次電池が製造される。
【0123】
本発明の正極板を用いる非水電解液二次電池は、所謂、電池パックに用いられる非水電解液二次電池として使用することができる。即ち、本発明の電池パックは、本発明の正極板を用い、且つ、正極端子および負極端子を備える非水電解液二次電池と過放電保護機能を有する保護回路とが収納ケースに収納されて構成される。本発明の電池パックは、例えば、過充電、過放電、過電流、電池周辺回路の短絡、正負電極間の短絡などから電池を保護するための保護機能を非水電解液二次電池自体に装備するとともに、過充電や過放電を防止するための保護回路を該非水電解液二次電池と共に収納ケースに収容して一体化されてなる電池パックであってよい。本発明の電池パックは、ノートパソコン、カメラ、携帯電話等の携帯機器など、装置の規模に対して消費電力が大きい装置の電池電源装置として好適に使用することができる。
【0124】
[電池パック]
図4に、本発明の正極板が用いられて構成される非水電解液二次電池であるリチウムイオン二次電池31を用いた本発明の電池パック30の概略分解図を示す。電池パック30は、リチウムイオン二次電池31が樹脂容器36a、樹脂容器36b、および端部ケース37に収納されて構成される。このとき、リチウムイオン二次電池31の一端面であって、正極端子32および負極端子33を備える面と、端部ケース37との間には、過充電や過放電を防止するための保護回路基板34が、設けられる。保護回路基板34は、外部接続コネクタ35を備えており、外部接続コネクタ35は、樹脂容器36aに設けられた外部接続用窓38aおよび、端部ケース37に設けられた外部接続用窓38bに挿入され、外部端子と接続される。また、保護回路基板に34には、図示しない、充放電を制御するための充放電安全回路、外部接続端子とリチウムイオン二次電池31とを導通させるための配線回路などが搭載されている。尚、電池パック30は、本発明の正極板が用いられたリチウムイオン二次電池31を用いること以外は、従来公知の電池パックの構成を適宜採用することができる。図示省略するが、電池パック30は、リチウムイオン二次電池31と端部ケース37との間に、正極端子32と接続する正極リード板、負極端子33と接続する負極リード板、絶縁体などを、適宜備えてよい。
【0125】
尚、本発明の正極板を用いた本発明の非水電解液二次電池は、電池パックへの使用態様以外に、上記保護回路に、さらに、過大電流の遮断、電池温度モニター等の機能を備え、且つ、該保護回路を二次電池自体に一体化させて取り付けられる態様に用いられてもよい。かかる態様では、電池パックを構成することなく、保護機能および保護回路を備える二次電池として使用することができ、汎用性が高い。尚、上述するいくつかの態様は、例示に過ぎず、本発明の正極板、あるいは本発明の非水電解液二次電池の使用を何ら限定するものではない。
【実施例】
【0126】
(実施例1)
<非水電解液二次電池用正極板の作製>
第2の電極活物質をなすリチウム複合酸化物の前駆体となる化合物としてLi(CHCOO)・2HO[分子量:102.02]:2gとMn(CHCOO)・4HO[分子量:245.09]:4.9gとを準備し、これを溶媒としてのメタノール:7gに加えて混合し、第2の電極活物質前駆体化合物含有液を調製した。第2の電極活物質前駆体化合物含有液:10gに、第1の電極活物質となる平均粒径5μmの正極活物質粒子としてのLiNi1/3Co1/3Mn1/3:10gと、導電材としてのアセチレンブラック(電気化学工業株式会社製、デンカブラック)(平均粒径50nm):1.2gおよび気相成長炭素繊維(Vapor Grown Carbon Fiber:VGCF(昭和電工株式会社製))(長さ10μm〜20μm)0.25gと、粘度調整剤としての樹脂材料(ヒドロキシエチルセルロース)0.2gを純水9.8gに溶解してなる粘度調整液10gと、溶媒としてのメタノール2gを混合させ、エクセルオートホモジナイザー(株式会社日本精機製作所製)で7000rpmの回転数で15分間混練することで、電極活物質層形成液を調製した。
【0127】
集電体として厚さ15μmのアルミ板を準備し、上記で調整した電極活物質層形成液を、乾燥後の塗工量が30g/mとなる量で、当該集電体の一面側に上記にて調製した電極活物質層形成液をアプリケーターで塗布し、電極活物質層形成用塗膜を形成し、電極活物質層形成工程として加熱工程を行なった。
【0128】
加熱工程では、電極活物質層形成用塗膜を形成した集電体を、大気雰囲気の電気炉(高温雰囲気ボックス炉、光洋サーモシステム株式会社製、KB8610N−VP)内に設置し、1時間かけて室温(25℃)から450℃まで加熱しつつ昇温し、その後、450℃に温度を維持したまま10分間加熱を続け、その後、室温になるまで放置した(加熱工程)。これにより、集電体上の電極活物質層形成用塗膜が電極活物質層をなし、正極板が形成された。さらに、この正極板を所定の大きさ(直径15mmの円板)に裁断し、これを実施例1の正極板とした。この正極板は、リチウムイオン二次電池用正極板として使用可能なものである。
【0129】
加熱工程の際、第2の電極活物質の前駆体の化合物より金属酸化物が析出する。また、この金属酸化物は、第1の電極活物質をなす活物質粒子同士の固着、および、第1の電極活物質と集電体との固着を実現する。この様子は、実施例1の正極板を走査型電子顕微鏡で観察(倍率3万倍)することで確認される。また、この金属酸化物は、リチウム複合酸化物であってスピネル構造を有するものであり、これが第2の電極活物質をなす。
【0130】
第2の電極活物質の前駆体の化合物より析出した金属酸化物が、リチウム複合酸化物であってスピネル構造を有するものであることについては、下記のようなX線回折分析試験に基づき確認された。
【0131】
X線回折分析試験:
第1の電極活物質であるLiNi1/3Co1/3Mn1/3の粒子を用いない以外は、実施例1に用いた上記電極活物質層形成液と同様にして参照用層形成液を調整し、参照用層形成液を用いて、実施例1と同様にガラス基板上に参照用層形成液を塗布して塗膜を形成するとともに、塗膜を形成したガラス基板に対して電極活物質層形成工程と同じ工程を施して、参照用層形成液から形成される参照用層を集電体上に積層した積層体を調製し、これを参照用試験体1とした。そして、参照用試験体1をX線回折装置にセットし、参照用試験体1に積層された参照用層についてのX線回折のスペクトルを確認したところ、スペクトルのピークが、スピネル構造を有するLiMnの回折ピークに一致しており、参照用層におけるスピネル構造を有する結晶の存在が確認された(図5)。以上の結果、電極活物質層形成工程により、電極活物質層形成液中に含有される前駆体化合物からスピネル構造を有する化合物が生成されることが確認された。X線回折装置としては、リガク社製、Smart Labを用いた。さらに、統合粉末X線解析ソフトウェア PDXL(リガク社製)により、参照用層についてのX線回折のスペクトルが組成式LiMnに帰属された。電極活物質層形成工程により、電極活物質層形成液中に含有される前駆体化合物からLiMnが生成することが確認された。
【0132】
膜形成性評価:
実施例1を作成するにあたり、上述で得られた正極板を所望のサイズの円板形状に繰り抜く加工を行ったが、当該加工作業において、電極活物質層が集電体から剥離するなどの不具合なく、加工することができた。このことから、電極活物質層の膜形成性が良好であることが確認された。
【0133】
以下に示す実施例および比較例においても、上述するように、不具合なく正極板を円板状に繰り抜く加工ができた場合には、電極活物質層の膜形成性が良好であると評価する。一方、上記繰り抜き加工において電極活物質層の一部が剥がれ、あるいは活物質粒子が集電体上から落下するなどして、加工が不良であり、後述する三極式コインセルの作用極として使用に耐える円板が形成されなかった場合には、電極活物質層の膜形成性が不良であると評価する。
【0134】
膜密着性試験:
実施例1の正極板を用いて、膜密着性試験を行なった。密着性試験は、引張試験機(テンシロン)を用い、JIS K6854−1に準拠して引張強度を測定することによって、実施された。すなわち、実施例1を作成するにあたって上述で得られた正極板から、密着性測定用正極板(巾15mm、長さ200mm)を作成し、粘着テープ(ニチバン社製、ナイスタック、NW−25、幅25mm)に密着性測定用正極板を、電極活物質層側を粘着テープの粘着面に向けつつ貼りつけ、これを密着性測定用試験片とした。引張試験機(テンシロン)に密着性測定用試験片をセットし、チャック間距離150mm、テストスピード100mm/minの条件で90度剥離試験を行い、引張強度(N/m)を測定した。結果を表2に示す。
【0135】
前駆体の化合物より析出した金属酸化物が第2の電極活物質として適切なものであることについては、この金属酸化物がリチウムイオン挿入脱離反応を示すか否かを調べることで確認される。リチウムイオン挿入脱離反応の有無は、次のようなサイクリックボルタンメトリー試験にて確認された。
【0136】
サイクリックボルタンメトリー試験(CV試験):
X線回折分析試験と同様にして、参照用層形成液を調整し、参照用層形成液を用いて、実施例1と同様に塗膜を形成するとともに、集電体上に参照用層形成液を塗布して塗膜を形成し、その塗膜を形成した集電体に対して電極活物質層形成工程と同じ工程を施して、参照用層形成液から形成される参照用層を集電体上に積層した積層体を調製し、これを参照用試験体1とした。これを用いて実施例1と同様に直径15mmの円板状に裁断して、試験片1を調製した。試験片1をなす積層体の参照用層には、実施例1の正極板の電極活物質層におけるリチウム遷移金属複合酸化物と同様の金属酸化物が存在する。そして、この試験片1を用いてCV試験を行った。CV試験では、電極電位を3.0Vから4.3Vまで掃引したのち、再び3.0Vまで戻す作業を1サイクルとして、3サイクル繰り返した。このとき、走査速度は1mV/秒とした。2回目のサイクル結果を示すサイクリックボルタモグラムにおいて、3.9V付近にLiMnのLi脱離反応に相当する酸化ピークが、4.1V付近にLi挿入反応に相当する還元ピークが確認された。これによって、試験片1の積層体の参照用層に含有される金属酸化物がリチウムイオン挿入脱離反応を示すことが確認された。ところで、試験片1の参照用層に含有される金属酸化物は、実施例1の電極活物質層に含有される金属酸化物に対応するものである。したがって、実施例1の電極活物質層中に含有される金属酸化物も、リチウムイオン挿入脱離反応を有するものであり、金属酸化物が第2の電極活物質として適切であることが確認された。なお、CV試験は、Bio Logic社製のVMP3を用いて実施した。
【0137】
電極活物質層の結晶性の確認は、透過型電子顕微鏡観察(倍率200万倍)により行なわれた。第1の電極活物質の結晶性と、第2の電極活物質の結晶性に相違が存在することが確認された。第1の電極活物質と、第2の電極活物質の界面において、両者の結晶格子が連続する領域と、不連続な領域とが存在することが認められる。
【0138】
<三極式コインセルの作製>
非水電解液は次のように調製された。エチレンカーボネート(EC)/ジメチルカーボネート(DMC)混合溶媒(体積比=1:1)に、溶質として六フッ化リン酸リチウム(LiPF)を加えて、当該溶質であるLiPFの濃度が、1mol/Lとなるように濃度調整して、非水電解液を得た。
【0139】
実施例1の正極板を作用極として用い、対極板として金属リチウム板(直径15mmの円板)、参照極として金属リチウム板(3mm角)、電解液として上記にて作製した非水電解液を用い、セパレータとして多孔質性ポリエチレンシートを用いて三極式コインセルを組み立て、これを実施例試験セル1とした。そして実施例試験セル1を下記充放電試験に供した。
【0140】
(充放電試験)
実施例試験セル1において、作用極の放電試験を実施するために、まず実施例試験セル1を下記充電試験(充電試験および放電試験)のとおり満充電させた。
【0141】
(充電試験)
実施例試験セル1を、25℃の環境下で、電圧が4.2Vに達するまで定電流(66μA)(放電レート:0.1C)で定電流充電し、当該電圧が4.2Vに達した後は、電圧が4.2Vを上回らないように、当該電流が5%以下となるまで減らしていき、定電圧で充電を行ない、満充電させた後、10分間休止させた。なお、上記定電流の値に対応する上記「0.1C」とは、上記三極式コインセルを用いて定電流放電して、10時間で放電終了となる電流値(放電終止電圧に達する電流値)のことを意味する。
【0142】
(放電試験)
その後、満充電された実施例試験セル1を、25℃の環境下で、電圧が4.2V(満充電電圧)から3.0V(放電終止電圧)になるまで、定電流(66μA)(放電レート:0.1C)で定電流放電し、縦軸にセル電圧(V)、横軸に放電時間(h)をとり、放電曲線を作成し、作用極の0.1Cでの放電容量(mAh)を求めた。この値は、第1回目の充電試験および放電試験の組み合わせを実施した結果に基づく1サイクル後の放電容量であり、初期放電容量(mAh)となる。結果を表2に示す。
【0143】
(レート特性試験)
作用極の放電レート特性は、0.1Cを基準放電レートとし、0.1Cでの放電容量を基準とした放電容量維持率(%)に基づき評価した。具体的には、0.1Cのほかに、40Cの放電レートについて、充放電試験を実施して40Cでの放電容量(mAh)を求めた。
【0144】
(0.1Cでの放電容量を基準とした放電容量維持率(%)の算出)
下記数2に示す式により、0.1C放電時の放電容量を基準とした40C放電時の放電容量の比率としての0.1C基準放電容量維持率(%)を、算出した。結果を表2に示す。
【0145】
【数2】

【0146】
実施例試験セル1を用いて、初期充放電効率およびサイクル特性試験を実施した。
【0147】
初期充放電効率:
実施例1の初期充放電効率を下記のとおり求めた。即ち、実施例試験セル1を用いた上記充電試験において、縦軸に印加電流(mA)、横軸に充電時間(h)をとり、充電曲線を作成し、その面積(電流×時間の計算により求めた面積)から正極板の充電容量(μAh)を求め、また上記放電試験において同様に正極板の放電容量(μAh)の実測値を求め、(正極板の実測放電容量(μAh))/(正極板の実測充電容量(μAh))×100なる式から、初期充放電効率(%)を算出した。結果を表2に示す。
【0148】
サイクル特性試験:
サイクル特性試験は、放電レートが3Cである場合についての充放電試験によって実施された。充放電試験は、1回の充電試験および放電試験の組み合わせを1サイクルとして、これを500サイクル繰り返して実施した。そして、サイクル特性評価は、500サイクル容量維持率(%)の値に基づき次のような評価基準で評価された。結果を表に示す。なお、500サイクル放電容量維持率(%)は、500サイクル目の充放電試験に基づく放電容量(mAh)を、1サイクル目の充放電試験に基づく放電容量(mAh)で除して、その値に100を掛けることで算出される値である。
【0149】
(サイクル特性の評価基準)
500サイクル容量維持率が80%以上100%以下・・・・◎(極めて良好)
500サイクル容量維持率が50%以上80%未満・・・・○(良好)
500サイクル容量維持率が50%未満・・・・・・・・・×(不良)
【0150】
(実施例2)
活物質粒子を平均粒径8μmの正極活物質LiNi0.80Co0.15Al0.05 :10gを用いた(表1)こと以外は、実施例1と同様にして、電極活物質層形成液を調製した。さらに、乾燥後の塗工量が27g/mとなる量で電極活物質層形成液を集電体に塗布したこと以外は実施例1と同様にして正極板を作成し、これを実施例2の正極板とした。このとき、電極活物質層の膜形成性が良好であった。また実施例2の正極板を用いて、実施例1と同様にして膜密着性試験を実施した、結果を表2に示す。さらに、実施例2の正極板を用いて三極式コインセルを組み立て、これを実施例試験セル2とした。実施例試験セル2を用いて作用極の初期放電容量(mAh)の測定、レート特性試験を行ない0.1C基準放電容量維持率(%)を算出し、また、初期充放電効率(%)を測定した。結果を表2に示す。
【0151】
(実施例3)
第2の電極活物質の前駆体となる化合物としてLiNO[分子量:68.95]:1.4gとMn(NO・6HO[分子量:287.04]:11.5gの組み合わせを用いたこと(表1)、および、これらをメタノール:10gに加えて混合して第2の電極活物質前駆体化合物含有液を調製したこと、のほかは実施例1と同様にして、電極活物質層形成液を調製した。さらに、この電極活物質層形成液を用いて実施例1と同様にして正極板を作成し、これを実施例3の正極板とした。このとき、電極活物質層の膜形成性が良好であった。また実施例3の正極板を用いて、実施例1と同様にして膜密着性試験を実施した、結果を表2に示す。さらに実施例1と同様にして、実施例3の正極板を用いて三極式コインセルを組み立て、これを実施例試験セル3とし、さらに実施例試験セル3を用いて作用極の初期放電容量(mAh)の測定、レート特性試験を行ない0.1C基準放電容量維持率(%)を算出し、また、初期充放電効率(%)を測定した。結果を表2に示す。
【0152】
(実施例4)
実施例1と同様にして非水電解液二次電池用正極板を調製し、所定の大きさ(直径15mmの円板)に裁断し、円板状の正極板を得、これを実施例4の正極板とした。
【0153】
次に、以下のとおり調製した樹脂混合液の満たされた浸漬槽に実施例4の正極板を浸漬させ、実施例4の正極板の電極活物質層の空隙に上記樹脂混合液を充分に浸透させた。すなわち、浸漬槽に実施例4の正極板を浸漬させた状態で、25℃の条件で、10分間放置した後、実施例4の正極板を上記浸漬層から取りだし、150℃に加温したオーブン内に設置して15分間乾燥させて、樹脂混合液の溶媒を除去した。これによって、電極活物質層中に、樹脂製結着材が残留する正極板を作成し、これを実施例4の樹脂含浸正極板とした。尚、上記樹脂混合液は、樹脂材料として、樹脂製結着材をなすPVDF樹脂(クレハ社製、KF#1100)を用い、PVDFの濃度が0.1%となるように溶媒としてのNMP(三菱化学社製)に混合させることで調製された。
【0154】
なお、正極板の電極活物質層内の空隙に上記樹脂材料が存在する様子は、走査型電子顕微鏡による電極活物質層の断面観察により確認される。この正極板は、正極板の電極活物質層内の空隙の少なくとも一部に樹脂混在液が充分に含浸されて空隙に上記樹脂材料が存在するようになるので、電極活物質層の膜強度が補強されている。
【0155】
樹脂混合液を電極活物質層内の空隙に充分に含浸した正極板(樹脂含浸正極板)について、その電極活物質層の膜強度試験を実施し、次に示す膜強度試験の評価に基づき評価された。評価結果は、極めて良好であると認められた。
【0156】
膜強度試験:
膜強度試験は、曲げ試験機(有限会社SEPRO製)の軸(径20mm)を用いて、その軸まわりに上記樹脂含浸正極板を180度曲げて、電極活物質層にクラックが認められるか否かを目視にて観察することで、実施された。測定結果に基づく膜強度試験の評価方法ついては、樹脂含浸正極板を曲げた時に電極活物質層にクラックが認められない場合は、電極活物質層の強度は極めて良好であると評価し、クラックが1本〜2本入ったと認められた場合は、電極活物質層の強度は良好であると評価し、クラックが3本以上入ったと認められた場合は、電極活物質層の強度は不良であると評価した。
【0157】
樹脂含浸正極板を用いて、実施例1と同様にして膜密着性試験を実施した、結果を表2に示す。さらに実施例1と同様にして、樹脂含浸正極板を用いて三極式コインセルを組み立て、これを実施例試験セル4とし、さらに実施例試験セル4を用いて作用極の初期放電容量(mAh)の測定、レート特性試験を行ない0.1C基準放電容量維持率(%)を算出し、また、初期充放電効率(%)を測定した。結果を表2に示す。
【0158】
(実施例5,6)
実施例5,6では、第1の電極活物質をなす活物質粒子として、それぞれ平均粒径1μmの正極活物質LiCoO :10g、平均粒径4μmの正極活物質LiNiO:10gを用いた(表1)こと以外は、実施例1と同様にして、電極活物質層形成液を調製した。さらに、乾燥後の塗工量が25g/mとなる量で電極活物質層形成液を集電体に塗布したこと以外は実施例1と同様にして、電極活物質層形成液を用いて実施例5,6の正極板を作成した。このとき、電極活物質層の膜形成性が良好であった。また実施例5,6の正極板を用いて、それぞれ実施例1と同様にして膜密着性試験を実施した、結果を表2に示す。さらに、実施例5,6の正極板を用いて三極式コインセルを組み立て、これを実施例試験セル5,6とした。実施例試験セル5,6を用いて作用極の初期放電容量(mAh)の測定、レート特性試験を行ない0.1C基準放電容量維持率(%)を算出し、また、初期充放電効率(%)を測定した。結果を表2に示す。
【0159】
(実施例7)
実施例7では、第2の電極活物質をなすリチウム複合酸化物を生成する前駆体の化合物として、Li(CHCOO)・2HO[分子量:102.02]:2gと、Mn(CHCOO)・4HO[分子量:245.1]:8.8gと、Co(CHCOO)・4HO[分子量:249.1]:1gとを準備し(表1)、これを溶媒としてのメタノール:10gに加えて混合し、第2の電極活物質前駆体化合物含有液を調製したほかは、実施例1と同様にして、実施例7の正極板を作成した。このとき、電極活物質層の膜形成性が良好であった。また実施例7の正極板を用いて、実施例1と同様にして膜密着性試験を実施した、結果を表2に示す。さらに、実施例7の正極板を用いて三極式コインセルを組み立て、これを実施例試験セル7とした。実施例試験セル7を用いて作用極の初期放電容量(mAh)の測定、レート特性試験を行ない0.1C基準放電容量維持率(%)を算出し、また、初期充放電効率(%)を測定した。結果を表2に示す。
【0160】
なお、第2の電極活物質の前駆体の化合物より集電体上には金属酸化物が形成され析出するが、この金属酸化物が、リチウム複合酸化物であり、スピネル構造に対応する結晶構造を有することは、実施例1と同様に、X線回折分析試験を用いて得られたスペクトルに基づき確認された。さらに、金属酸化物についてのスペクトルは、統合粉末X線解析ソフトウェア PDXL(リガク社製)により、組成式LiCo0.2Mn1.8に帰属された。さらに金属酸化物が第2の電極活物質として適切であることは、実施例1と同様にCV試験を行なって、サイクリックボルタモグラムに酸化ピーク、還元ピークを認められたことにより、確認された。また、第2の電極活物質の前駆体の化合物より形成された金属は、第1の電極活物質をなす活物質粒子同士の固着、および、第1の電極活物質と集電体との固着を実現する。この様子は、実施例7の正極板を、実施例1と同様に、走査型電子顕微鏡で観察(倍率3万倍)することで確認される。
【0161】
(実施例8)
実施例8では、第2の電極活物質をなすリチウム複合酸化物を生成する前駆体の化合物として、Li(CHCOO)・2HO[分子量:102.02]:2gと、Mn(CHCOO)・4HO[分子量:245.1]:9.3gと、Al(NO・9HO[分子量:375.13]:0.8gを準備し(表1)、これを溶媒としてのメタノール:10gに加えて混合し、第2の電極活物質前駆体化合物含有液を調製したほかは、実施例1と同様にして、実施例8の正極板を作成した。このとき、電極活物質層の膜形成性が良好であった。また実施例8の正極板を用いて、実施例1と同様にして膜密着性試験を実施した。結果を表2に示す。さらに、実施例8の正極板を用いて三極式コインセルを組み立て、これを実施例試験セル8とした。実施例試験セル8を用いて作用極の放電容量(mAh)の測定、レート特性試験を行ない0.1C基準放電容量維持率(%)を算出し、また、初期充放電効率(%)を測定した。結果を表2に示す。
【0162】
なお、第2の電極活物質の前駆体の化合物より集電体上には金属酸化物が形成され析出するが、この金属酸化物が、リチウム遷移金属複合酸化物であり、スピネル構造に対応する結晶構造を有することは、実施例1と同様に、X線回折分析試験を用いて得られたスペクトルに基づき確認された。さらに、金属酸化物についてのスペクトルは、統合粉末X線解析ソフトウェア PDXL(リガク社製)により、組成式LiAl0.1Mn1.9に帰属された。さらに金属酸化物が第2の電極活物質として適切であることは、実施例1と同様にCV試験を行なって、サイクリックボルタモグラムに酸化ピーク、還元ピークを認められたことにより、確認された。また、第2の電極活物質の前駆体の化合物より形成された金属は、第1の電極活物質をなす活物質粒子同士の固着、および、第1の電極活物質と集電体との固着を実現する。この様子は、実施例8の正極板を、実施例1と同様に、走査型電子顕微鏡で観察(倍率3万倍)することで確認される(図6)。
【0163】
(比較例1)
電極活物質層を形成するための電極活物質層形成液を以下のとおり調製した。まず、活物質粒子として平均粒径5μmのLiNi1/3Co1/3Mn1/3粉末:10g、導電材としてアセチレンブラック(電気化学工業社製、デンカブラック):1.2g、及び樹脂製結着材としてポリフッ化ビニリデン(PVDF)(クレハ社製、KF#1100)1.0gを用い、有機溶媒であるN−メチルピロリドン(NMP)(三菱化学社製)10gを加えて、エクセルオートホモジナイザー(株式会社日本精機製作所)で7000rpmの回転数で15分間攪拌して、スラリー状の電極活物質層形成液を調製した。
【0164】
調製した電極活物質層形成液を、集電体としての厚さ15μmのアルミ板上に、乾燥後の電極活物質層形成液の塗工量が32g/mとなるように塗布し、オーブンを用いて、120℃、空気雰囲気下で20分、乾燥を行ない、電極活物質層を形成した。
【0165】
電極活物質層を形成した集電体に対して、ロールプレス機を用いて、加圧力:0.1ton/cm、速度10mm/秒の条件でプレスして所定の大きさ(直径15mmの円板)に裁断し、140℃で12時間、真空乾燥させて、これを比較例1の正極板とした。この正極板は、リチウムイオン二次電池用正極板として使用可能なものである。また、このとき、電極活物質層の膜形成性が良好であった。さらに、比較例1の正極板を用いて、実施例1と同様にして膜密着性試験を実施した。結果を表2に示す。
【0166】
比較例1の正極板を用いて実施例1と同様にして三極式コインセルを組み立て、これを比較例試験セル1とした。実施例試験セル1のかわりに比較例試験セル1を用いたほかは実施例1と同様にして作用極の初期放電容量(mAh)の測定、レート特性試験を行ない0.1C基準放電容量維持率(%)を算出し、また、500サイクル特性試験を実施し、初期充放電効率(%)を測定した。結果を表2に示す。
【0167】
(比較例2,3)
比較例2,3では、活物質粒子として、それぞれ平均粒径1μmの正極活物質LiNi0.80Co0.15Al0.05 :10g、平均粒径1μmの正極活物質LiCoO :10gを用いた(表1)こと以外は、比較例1と同様にして、電極活物質層形成液を調製した。さらに、乾燥後の塗工量が27g/mとなる量で電極活物質層形成液を集電体に塗布したこと以外は、比較例1と同様にして比較例2,3の正極板を調製した。また、このとき、電極活物質層の膜形成性が良好であった。さらに、比較例2,3の正極板を用いて、それぞれ実施例1と同様にして膜密着性試験を実施した。結果を表2に示す。
【0168】
さらに、比較例1と同様にして、比較例2,3の正極板を用いて三極式コインセルを組み立て、これを比較例試験セル2,3とした。比較例試験セル2,3を用いたほかは比較例1と同様にして作用極の初期放電容量(mAh)の測定、レート特性試験を行ない0.1C基準放電容量維持率(%)を算出し、また、初期充放電効率(%)を測定した。結果を表2に示す。
【0169】
(比較例4)
加熱工程を、不活性ガス雰囲気としての窒素ガス雰囲気にて実施したほかは、実施例1と同様にして正極板を調製した。これを比較例4の正極板とした。また、このとき、電極活物質層の膜形成性が良好であった。さらに、比較例4の正極板を用いて、実施例1と同様にして膜密着性試験を実施した。結果を表2に示す。さらに、比較例4の正極板を用いて三極式コインセルを組み立て、これを比較例試験セル4とした。比較例試験セル4を用いたほかは実施例1と同様にして作用極の放電容量(mAh)の測定、レート特性試験を行ない0.1C基準放電容量維持率(%)を算出し、また、初期充放電効率(%)を測定した。結果を表2に示す。
【0170】
なお、第2の電極活物質の前駆体の化合物より集電体上には金属酸化物が生成し析出する。この金属酸化物は、リチウム遷移金属複合酸化物であるが、スピネル構造に対応する結晶構造を有するものではない。このことは、実施例1と同様に、X線回折分析試験を用いてのスペクトルを得て確認される。さらに、この金属酸化物についてのスペクトルは、統合粉末X線解析ソフトウェア PDXL(リガク社製)により、組成式LiMnOに帰属された。
【0171】
【表1】

【0172】
【表2】

【0173】
表2のレート特性の結果に示すように、実施例のほうが、比較例よりも放電レートが高くても放電容量維持率が高い値を維持しておりレート特性に優れることが確認され、本発明の正極板によれば、高速充放電が可能な電池を提供できることが確認された。
【0174】
上記実施例1から8について、いずれも、第1の電極活物質が第2の電極活物質によって包囲されて、二重構造を構成している状態が形成されている。このことは、第1の電極活物質が核体なし、第2の電極活物質が属酸化物で構成され且つ個の区別なく連続する包囲体を形成しており、核体が包囲体によって包囲されて二重構造を構成されている状態が形成されていることをも示す。また、核体である第1の電極活物質が複数の包囲体によって包囲されており、且つ、隣接する包囲体同士が接合して繋がっており、これによって二重構造が構成されている。具体的に、このような二重構造の様子は、実施例8についての電極活物質層の走査型電子顕微鏡写真(図6)からも明らかである。
【0175】
正極板の活物質からのリチウムの挿入脱離が繰り返し行なわれると、活物質の劣化が進行する。この劣化の進行しやすさはサイクル特性に現れる。すなわち、リチウムの挿入脱離が繰り返されると、活物質の結晶の崩壊が進行する。結晶の崩壊は、結晶構造に沿って活物質に亀裂が入ることにより進行し、結晶格子が連続しない部分では亀裂の進行が抑制され活物質の崩壊が食い止められると推察される。これに対して、結晶格子が連続していると、活物質の崩壊は食い止めることができず、活物質の崩壊が進むと推察される。そのため、結晶構造が連続しない部分が存在すると、活物質の劣化が遅らされ、サイクル特性が向上すると推察される。ここで、実施例1および比較例1についてのサイクル特性試験の結果をみるに、実施例1は、比較例1よりサイクル特性が向上していることが確認された。すなわち、実施例1では、比較例1に比べて、活物質の劣化の進行を遅らせることができていることが確認された。これは、実施例1では、比較例1と異なり、第1の電極活物質と、第2の電極活物質の存在が認められ、さらに第1の電極活物質の結晶と、第2の電極活物質の結晶界面において、両者の結晶格子が連続する領域と、不連続な領域とが存在することが認められることによるものと推察される。
【符号の説明】
【0176】
1、1’、1’’、55 集電体
2、54 電極活物質層
3 集電基材
4 導電性層
5 断続層
6 核体
7 包囲体
8 空隙
10 非水電解液二次電池用正極板
20、20’、20’’ 非水電解液二次電池用正極板
30 電池パック
31 リチウムイオン二次電池
32 正極端子
33 負極端子
34 保護回路基板
35 外部接続コネクタ
36a、36b 樹脂容器
37 端部ケース
38a、38b 外部接続用窓
50 非水電解液二次電池用負極板
70 セパレータ
81、82 外装
90 非水電解液
100 非水電解液二次電池

【特許請求の範囲】
【請求項1】
集電体と、該集電体の表面の少なくとも一部に形成される電極活物質層とを備える非水電解液二次電池用正極板であって、
電極活物質層が、第1の電極活物質と第2の電極活物質とを含有してなり、
第2の電極活物質は、第1の電極活物質同士、および、第1の電極活物質と集電体とを、固着させており、
第2の電極活物質は、リチウムを除く金属の群から選ばれた金属とリチウムとを金属元素として有し且つスピネル構造を有するリチウム複合酸化物を含有してなる、ことを特徴とする非水電解液二次電池用正極板。
【請求項2】
第2の電極活物質は、マンガンとリチウムとを金属元素として含むリチウムマンガン複合酸化物を含有してなる、請求項1に記載の非水電解液二次電池用正極板。
【請求項3】
第2の電極活物質は、LiMnを含有してなる、請求項1に記載の非水電解液二次電池用正極板。
【請求項4】
第2の電極活物質は、LiMnを構成するマンガンの一部を、リチウムとマンガンを除く金属の群から選ばれた金属で置換したものを含有してなる、ことを特徴とする請求項1に記載の非水電解液二次電池用正極板。
【請求項5】
第2の電極活物質は、第1の電極活物質の表面の少なくとも一部を覆っている、請求項1から4のいずれかに記載の非水電解液二次電池用正極板。
【請求項6】
電極活物質層は、隣り合う第2の電極活物質同士の一部において、結晶格子が連続することにより繋がっている箇所を含む、請求項1から5のいずれかに記載の非水電解液二次電池用正極板。
【請求項7】
集電体と、該集電体の表面の少なくとも一部に形成される電極活物質層とを備える非水電解液二次電池用正極板であって、
電極活物質層は、第1の電極活物質からなり該電極活物質層中に分散する複数の核体と、第2の電極活物質からなり該核体を包囲する包囲体とを有し、
前記包囲体は、核体同士、および、核体と集電体を固着させており、
前記包囲体は、複数存在し、これらの複数の包囲体のうち、隣接する包囲体同士の少なくとも一部が互いに繋がっているか、あるいは、前記包囲体は、個の区別なく連続しており、
前記包囲体のうち集電体近傍の包囲体が集電体の表面に繋がっており、
第2の電極活物質は、リチウムを除く金属の群から選ばれた金属とリチウムとを金属元素として有し且つスピネル構造を有するリチウム複合酸化物を含有してなる、ことを特徴とする非水電解液二次電池用正極板。
【請求項8】
第2の電極活物質は、マンガンとリチウムとを金属元素として含むリチウムマンガン複合酸化物を含有してなる、請求項7に記載の非水電解液二次電池用正極板。
【請求項9】
第2の電極活物質は、LiMnを含有してなる、請求項7に記載の非水電解液二次電池用正極板。
【請求項10】
第2の電極活物質は、LiMnを構成するマンガンの一部を、リチウムとマンガンを除く金属の群から選ばれた金属で置換したものを含有してなる、ことを特徴とする請求項7に記載の非水電解液二次電池用正極板。
【請求項11】
前記核体と該核体を包囲する包囲体との界面において、前記核体を構成する第1の電極活物質の結晶格子と前記包囲体を構成する第2の電極活物質の結晶格子とが不連続に接合している領域が存在している、請求項7から10のいずれかに記載の非水電解液二次電池用正極板。
【請求項12】
前記包囲体は、複数存在して、隣接する包囲体同士の一部が互いに繋がっており、
互いに繋がる包囲体同士のうちの一部において、一方の包囲体を構成する第2の電極活物質と他方の包囲体を構成する第2の電極活物質とが互いに結晶格子を連続させることにより繋がっている箇所を含む、請求項7から11のいずれかに記載の非水電解液二次電池用正極板。
【請求項13】
正極板と、負極板と、前記正極板と前記負極板との間に設けられるセパレータと、非水溶媒を含む電解液とを少なくとも備えた非水電解液二次電池であって、
前記正極板が、請求項1から12のいずれかに記載の非水電解液二次電池用正極板である、ことを特徴とする非水電解液二次電池。
【請求項14】
収納ケースと、正極端子および負極端子を備える非水電解液二次電池と、過充電および過放電保護機能を有する保護回路とを少なくとも備え、前記収納ケースに前記非水電解液二次電池および前記保護回路が収納されて構成される電池パックにおいて、
前記非水電解液二次電池が、正極板と、負極板と、前記正極板と前記負極板との間に設けられるセパレータと、非水溶媒を含む電解液とを少なくとも備えた非水電解液二次電池であり、
前記正極板が、請求項1から12のいずれかに記載の非水電解液二次電池用正極板であることを特徴とする電池パック。

【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図1】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2012−89246(P2012−89246A)
【公開日】平成24年5月10日(2012.5.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−232374(P2010−232374)
【出願日】平成22年10月15日(2010.10.15)
【出願人】(000002897)大日本印刷株式会社 (14,506)
【Fターム(参考)】