説明

非水電解質二次電池およびその電極

【課題】活物質層と、その上に形成された電子絶縁層との間の密着性を高くすることにより、耐短絡性などの信頼性が高い非水電解質二次電池の電極を提供する。
【解決手段】本発明の非水電解質二次電池の電極は、バインダを含まない正極活物質層21と、正極活物質層21上にエアロゾルデポジッション法により形成された電子絶縁層22とを備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、非水電解質二次電池に関するものであり、特に、耐短絡性などの信頼性に優れたリチウムイオン二次電池に関する。
【背景技術】
【0002】
リチウムイオン二次電池の製造方法では、長尺状の正極および負極(電極原反)を作製する工程や所定の電極形状にするための裁断工程などを行った後、正極および負極を、セパレータと共に巻芯に巻き取る工程が行われる。通常、これら各種の工程は、電極およびセパレータを、巻き出しロール、巻き取りロールまたはガイドローラなどの走行系を用いて走行させることによって行われる。これらの工程を順次連続して行うことにより、大量生産が実現されている。
【0003】
しかしながら、電極およびセパレータを走行させる過程において、活物質層の一部が剥がれ落ちたり、異物によってセパレータが傷つけられる場合がある。そのような電極やセパレータが組み込まれた電池では、電極間の短絡が起こりやすくなる。
【0004】
リチウムイオン二次電池の電極間の短絡を防止するため、負極活物質層または正極活物質層の表面に、電子絶縁層を形成する方法が提案されている(例えば特許文献1参照)。この電子絶縁層は、アルミナなどの無機物の粉体を、樹脂製結着剤と混合し、混合物を負極活物質層または正極活物質層の表面に塗布することによって形成される。
【特許文献1】特開平7−220759号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、塗工法により形成された電子絶縁層の密着性は低く、極板を加工する工程において、電子絶縁層の一部が欠落しやすく、依然として短絡が起こりやすいといった問題があった。
【0006】
また、活物質層は、バインダ(結着剤)および有機溶剤と活物質との混合物を集電体上に塗布することによって形成される。したがって、その上に、さらにバインダおよび有機溶剤が混合された電子絶縁層を塗布すると、一方の層の有機溶剤に他方の層のバインダが溶解し、バインダが混ざり合うことになり、活物質層と電子絶縁層とが相互に溶け込んでしまう場合があった。これを防止するために、下地のバインダが混ざりにくい有機溶剤を見つけなければならず、見つけられても、乾燥時の収縮率の違いで、極板に反りが生じる場合があった。
【0007】
本発明は、上記課題を解決するためになされたものであり、その目的は、活物質層と、その上に形成された電子絶縁層との間の密着性を高くすることにより、耐短絡性などの信頼性が高い非水電解質二次電池の電極を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の非水電解質二次電池の電極は、バインダを含まない活物質層と、前記活物質層上にエアロゾルデポジッション法によって形成された電子絶縁層とを備える。
【0009】
ある実施形態において、前記活物質層は、エアロゾルデポジッション法、スパッタ法、またはプレス法によって集電体の上に形成されている。
【0010】
ある実施形態において、前記活物質層は活物質粒子から構成され、前記活物質粒子はリチウム複合酸化物である。
【0011】
ある実施形態において、前記リチウム複合酸化物がコバルト酸リチウムである。
【0012】
ある実施形態において、前記電子絶縁層は無機粒子から構成され、前記無機粒子は、無機酸化物、無機窒化物、無機フッ化物またはリチウムイオン伝導性無機固体電解質であるか、無機酸化物、無機窒化物、無機フッ化物およびリチウムイオン伝導性無機固体電解質のうちの少なくとも2つの混合物粒子または化合物粒子である。
【0013】
ある実施形態において、前記無機酸化物が、アルミナ、酸化ケイ素または酸化チタンである。
【0014】
ある実施形態において、前記電子絶縁層はバインダを含まない。
【0015】
本発明の第1の非水電解質二次電池は、本発明の電極を備える電池である。
【0016】
本発明の第2の非水電解質二次電池は、バインダを含まない正極活物質層と、バインダを含まない負極活物質層と、前記正極活物質層と前記負極活物質層との間に設けられたセパレータと、前記セパレータと前記正極活物質層および前記負極活物質層のうちの少なくともいずれか一方との間に、エアロゾルデポジッション法によって形成された電子絶縁層とを備える。
【0017】
ある実施形態において、前記電子絶縁層は、前記正極活物質層および前記負極活物質層のうちの少なくともいずれか一方の表面にエアロゾルを噴射することによって形成された層である。
【0018】
ある実施形態において、前記電子絶縁層は、前記セパレータの表面にエアロゾルを噴射することによって形成された層である。
【0019】
ある実施形態において、前記電子絶縁層はバインダを含んでいない。
【発明の効果】
【0020】
本発明によると、電子絶縁層に含まれる無機粒子が、他の無機粒子や活物質層と直接的に結合しているため、バインダにより接着された場合と比較して、電子絶縁層の密着性が高くなる。そのため、電子絶縁層の一部が欠落し、電極間の短絡が起こるといった問題を回避することができる。
【0021】
さらに、活物質層および電子絶縁層がバインダを含まないため、電子絶縁層が活物質層と混じり合うという問題が生じない。
【0022】
さらに、活物質層がバインダを含まず活物質のみからなる緻密膜であるため、塗工法によって形成された活物質層と比較して、体積あたりの容量値を大きくすることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0023】
(第1の実施形態)
まず、図1を参照しながら、本発明による非水電解質二次電池の電極の第1の実施形態を説明する。本実施形態の電極は正極である。
【0024】
図1に示すように、本実施形態の正極24は、正極集電体23と、正極集電体23の上に形成された正極活物質層21と、正極活物質層21上に形成された電子絶縁層22とを備えている。
【0025】
正極集電体23としては、例えば、市販で入手可能な概ね5〜20μmの範囲の厚さを有するアルミニウム箔が用いられる。
【0026】
正極活物質層21は、エアロゾルデポジッション法やスパッタ法といった真空プロセス法またはプレス法によって形成されている。正極活物質層21はバインダ(樹脂接着剤)を含んでおらず、正極活物質粒子から構成されている、正極活物質粒子はリチウム複合酸化物であり、例えばコバルト酸リチウムである。
【0027】
電子絶縁層22は、エアロゾルデポジッション法によって形成されており、例えばアルミナ等の複数の無機粒子から構成されている。電子絶縁層22にはバインダが含まれておらず、無機粒子が、他の無機粒子や下地の正極活物質層21と直接接合している。無機粒子は、無機酸化物、無機窒化物、無機フッ化物またはリチウムイオン伝導性無機固体電解質であるか、無機酸化物、無機窒化物、無機フッ化物およびリチウムイオン伝導性無機固体電解質のうちの少なくとも2つの混合物粒子または化合物粒子である。
【0028】
このように正極24の表面に電子絶縁層22を形成した場合には、電子絶縁層22が形成されている面をセパレータに対向させる。
【0029】
本実施形態によると、電子絶縁層22に含まれる無機粒子は、他の無機粒子や正極活物質層21と直接的に結合している。したがって、バインダにより接着された場合と比較して、電子絶縁層22の密着性は高くなる。そのため、正極24を加工する工程および正極24を電池に組み込む工程において電子絶縁層22の一部が欠落し、電極間の短絡が起こるといった問題を回避することができる。
【0030】
また、正極活物質層21および電子絶縁層22がバインダを含まないため、電子絶縁層22が正極活物質層21と混じり合うという問題が生じない。
【0031】
さらに、正極活物質層21がエアロゾルデポジッション法やスパッタ法といった真空プロセス法またはプレス法によって形成されているため、次のような効果が得られる。正極活物質層を塗工法によって形成した後に、その上にエアロゾルデポジッション法によって電子絶縁層を形成すると、衝突のエネルギーによって正極活物質層の一部が剥離するといった問題が生じる。これは、塗工法によって形成された正極活物質層では、活物質粒子が、結合力の弱いファンデルワールス力によってバインダに保持されているためと考えられる。一方、本実施形態のようにエアロゾルデポジッション法やスパッタ法といった真空プロセス法またはプレス法によって形成された正極活物質層21では、活物質粒子が直接的に結合(共有結合)することによって保持されているため、たとえエアロゾル中の粒子が衝突しても、正極活物質層21の一部の剥離は起こりにくい。これにより、本実施形態では、電子絶縁層22の形成時に正極活物質層21が薄くなるのが防止される。また、正極活物質層21と電子絶縁層22との密着性が向上する。したがって、本実施形態の正極24を用いると、耐短絡性などの信頼性に優れた非水電解質二次電池を提供することができる。
【0032】
さらに、本実施形態では、正極活物質層21がバインダを含まず活物質のみからなる緻密膜であるため、塗工法によって形成された正極活物質層21と比較して、体積あたりの容量値を大きくすることができる。
【0033】
次に、本実施形態の正極24を形成するための具体的な方法について説明する。
【0034】
まず、真空プロセス法のうちエアロゾルデポジッション法によって正極活物質層21を形成する方法について説明する。この場合には、図2に示すようなエアロゾルデポジッション装置を用いる。図2に示すガスボンベ11には、エアロゾルを発生させるための不活性な気体が貯蔵されている。ガスボンベ11は、配管12aを介してエアロゾル発生器13に連結され、配管12aは、エアロゾル発生器13の内部に引き出されている。エアロゾル発生器13の内部には、一定量のコバルト酸リチウムからなる粒子20が投入されている。エアロゾル発生器13に連結されるもう1つの配管12bは成膜チャンバ14の内部で噴射ノズル15に接続されている。
【0035】
成膜チャンバ14の内部において、基板ホルダ17には、噴射ノズル15に対向するように基板16が保持されている。ここでは、基板16としてアルミニウム箔(正極集電体)が用いられている。成膜チャンバ14には、成膜チャンバ14内の真空度を調整するための排気ポンプ18が配管12cを介して接続されている。
【0036】
図示は省略するが、本実施形態の電極を形成する成膜装置は、基板ホルダ17を横方向(基板ホルダ17において噴射ノズル15に対向する平面内の横方向)に移動させ、噴射ノズル15を縦方向(基板ホルダ17において噴射ノズル15に対向する平面内の縦方向)に一定速度で移動させる機構を備える。基板ホルダ17を横方向に、かつ噴射ノズル15を縦方向に移動させながら成膜を行うことにより、基板16の上に、所望の面積の活物質層を形成することができる。
【0037】
正極活物質層21を形成する工程では、まず、圧空バルブ19を閉じ、排気ポンプ18で成膜チャンバ14からエアロゾル発生器13までを真空引きする。次に、圧空バルブ19を開くことにより、配管12aを通じてガスボンベ11内の気体をエアロゾル発生器13に導入し、粒子20を容器内に撒き上げ、気体中に粒子20が分散した状態のエアロゾルを発生させる。発生したエアロゾルは、配管12bを通じてノズル15より基板16に向けて高速で噴射される。圧空バルブ19を開いた状態で0.5秒間経過すると、次の0.5秒間は圧空バルブ19を閉じる。その後、再び圧空バルブ19を開き、0.5秒間の周期で圧空バルブ19の開閉を繰り返す。ガスボンベ11からの気体の流量は2リットル/分、成膜時間は7時間とし、圧空バルブ19が閉じている時の成膜チャンバ14内の真空度を10Pa程度とし、圧空バルブ19が開いている時の成膜チャンバ14内の真空度を100Pa程度とする。
【0038】
エアロゾルの噴射速度は、ノズル15の形状、配管12bの長さや内径、ガスボンベ11のガス内圧、排気ポンプ18の排気量(成膜チャンバ14の内圧)などにより制御される。例えば、エアロゾル発生器13の内圧を数万Paとし、成膜チャンバ14の内圧を数百Paとし、ノズル15の開口部の形状を内径1mmの円形状とした場合、エアロゾル発生器13と成膜チャンバ14との内圧差により、エアロゾルの噴射速度を数百m/secとすることができる。成膜チャンバ14の内圧を5〜100Paに、エアロゾル発生器13の内圧を50000Paに保てば、空孔率5〜30%のコバルト酸リチウム層を形成することができる。この条件でエアロゾルを供給する時間を調整することにより、コバルト酸リチウム層の厚さを10〜100μm、例えば50μmに調整することが好ましい。
【0039】
加速されて運動エネルギーを得たエアロゾル中の粒子20が基板16に衝突して、衝撃エネルギーで細かく破砕される。そして、これらの破砕粒子が基板16に接合されること、および破砕粒子同士が接合されることにより、集電体23の上に正極活物質層21が順次形成される。
【0040】
成膜は、複数回のラインパターンによって形成される。基板ホルダ17や噴射ノズル15を基板16(集電体23)の表面における縦方向および横方向にスキャンさせながら、所望の面積の正極活物質層21を形成する。その方法としては、まず、縦方向を固定して、横方向に向けて基板ホルダ17を一定速度でスキャンする。一列のスキャンが終了すると、それ以前の成膜エリアとの重なりを考慮して縦方向に噴射ノズル15を移動させ、基板ホルダ17を横方向にスキャンする。このようにして所望の縦方向位置に達するまで縦方向に複数回移動し、横方向のスキャンを繰り返すことにより、所望の成膜エリアの堆積を行う。
【0041】
正極活物質層21を形成する物質としては、コバルト酸リチウムのほかに、コバルト酸リチウムの変性体、ニッケル酸リチウム、ニッケル酸リチウムの変性体、マンガン酸リチウム、マンガン酸リチウムの変性体などの複合酸化物を用いることができる。各変性体には、アルミニウム、マグネシウムなどの元素を含むものがある。また、コバルト、ニッケルおよびマンガンの少なくとも2種を含む複合酸化物を用いてもよく、2種以上の複合酸化物を合わせて用いてもよい。
【0042】
エアロゾルの発生に用いられる気体としては、例えば、アルゴンやヘリウムのような不活性ガス、酸素ガス、窒素ガス、炭酸ガス、乾燥空気、またはそれらの混合ガスが用いられる。また、材料に応じて、水素ガスのような還元性ガスを用いてもよい。
【0043】
次に、スパッタ法によって正極活物質層21を形成する方法について説明する。例えばRFマグネトロンスパッタ法を行う場合には、スパッタ装置として、島津製作所製のHSM-511を用いる。ターゲットには4インチのLiCoO2圧粉体(800℃熱処理品、ホットプレス、密度4.5g/cc:豊島製作所製(風宇(株)購入品))を、マグネトロンにはフェライト磁石を用いる。基板としては、Si基板(厚さ0.5μmのSiO2熱酸化膜が形成された全体の厚さが0.55mmのSi基板:英興(株)購入品)の上にAu(厚さ0.6μm)が集電体として成膜されているものを用いる。LiCoO2ターゲットから4cmのところに基板を設置する。
【0044】
この状態で、真空チャンバ内に、アルゴンガスを流量10sccmで導入すると、真空チャンバ内の圧力は2.7Pa(≒20mTorr)を示す。チャンバ内の温度を室温(20℃前後)に保った状態で、高周波電源の出力を200W(反射は1W程度)に設定して、8時間のスパッタリングを行う。これにより、厚さ10μmのas-deposited・LiCoO2膜が集電体の上に形成される(成膜速度200Å/分の場合)。なお、スパッタリング終了時には、チャンバ内の温度は80℃前後に上昇している。
【0045】
成膜後、as-deposited・LiCoO2層を結晶化させるため、横型炉中(FFK:深田電機製作所製)で800℃5時間の熱処理を行う。
【0046】
正極活物質層21はプレス法によって形成してもよい。例えば、ホットプレス法により、800℃の温度でLiCoO2圧粉体を焼結することにより、正極活物質層21を形成する。例えば、正極活物質層21の直径を3インチ、厚さを500μm、密度を4.5g/ccとする。このような正極活物質層21として、例えば豊島製作所製(風宇(株)購入済み品)の焼結体を用いてもよい。焼結体の正極活物質層21を用いる場合には、正極集電体23を用いる必要はなく、正極活物質層21および電子絶縁層22によって正極24を構成させてもよい。
【0047】
次に、エアロゾルデポジッション法によって電子絶縁層22を形成する方法について説明する。この工程では、正極活物質層21をエアロゾルデポジッション法によって形成する場合と同様の装置(図2)を用いる。
【0048】
図2に示すエアロゾルデポジッション装置におけるエアロゾル発生器13の内部に一定量のアルミナを粒子20として投入し、基板16として、正極活物質層21を配置させる。この状態で、配管12aを通じてガスボンベ11内の気体をエアロゾル発生器13に導入し、粒子20を容器内に撒き上げ、気体中に粒子20が分散した状態のエアロゾルを発生させる。発生したエアロゾルは、配管12bを通じてノズル15より基板16に向けて高速で噴射される。
【0049】
加速されて運動エネルギーを得たエアロゾル中の粒子20が基板16に衝突して、衝撃エネルギーで細かく破砕される。そして、これらの破砕粒子が基板16に接合されること、および破砕粒子同士が接合されることにより、正極活物質層21の上に電子絶縁層22が順次形成される。
【0050】
エアロゾル化するアルミナ粒子(一次粒子)の平均粒径は0.05μm以上10μm以下が望ましい。アルミナ粒子の粒径が、0.05μm未満の場合には、粒子の重量不足のため、正極活物質層21の表面に付着するための運動エネルギーが不足し、アルミナ粒子の付着が困難になる。逆にアルミナ粒子の粒径が10μmを超えると、アルミナ粒子が正極活物質層21の表面を削り取る現象が生じ、電子絶縁層22が形成されにくくなる。
【0051】
特に、アルミナ粒子の平均粒径は、1.0μm以上1.5μm以下であることが望ましく、この範囲内では付着効率がさらに高くなる。また、アルミナ以外の電子絶縁性の無機粒子としては、ZrO2、TiO2、Y23、SiO2、MgO、AlN、ZrN、TiN、YN、Si34、Mg32、AlF3、CaF2、リン酸リチウム系固体電解質などを用いることができる。
【0052】
電子絶縁層22として、上述の材料のうち1種類のみを単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。電子絶縁層22がこれらのうちの1種類からなる場合には、その層を1層だけ形成してもよいし、複数積層してもよい。また、電子絶縁層22がこれらのうちの2種以上からなる場合には、それぞれの層を1層ずつ形成してもよいし、それぞれの層を複数ずつ積層してもよい。さらに、2種類以上の無機粒子を用いる場合には、それぞれの種類の無機粒子の平均粒径が異なっていてもよい。
【0053】
電子絶縁層22は、密度が低く、多孔質であることにより、電解液保持特性を良好に保つことができる。電子絶縁層22の空孔率は、例えば10%以上60%以下であることが好ましい。電子絶縁層22の密度が高すぎると電解液保持特性が悪くなり電池の諸特性に影響を与えることになる。
【0054】
電子絶縁層22の厚さは特に限定されないが、電子絶縁層22による信頼性向上の機能を充分に発揮するとともに、電池の設計容量を維持する観点からは、0.5μm以上20μm以下であることが望ましい。2層以上の電子絶縁層22を形成した場合においても、合計厚さが0.5〜20μmであることが望ましい。
【0055】
エアロゾル中のアルミナ粒子は、一次粒子でもよく、一次粒子が凝集した二次粒子でもよい。
【0056】
例えば、成膜チャンバ14の内圧を5〜100Paに、エアロゾル発生器13の内圧を50000Paに保てば、空孔率10〜60%の電子絶縁層22を形成することができる。
【0057】
この条件でエアロゾルを供給する時間を調整することにより、アルミナ層の厚さを0.1〜100μm、例えば3μmに調整することが好ましい。
【0058】
以上の工程によって本実施形態の正極24を作製することができる。
【0059】
本実施形態の製造方法において、正極活物質層21および電子絶縁層22をエアロゾルデポジッション法によって形成する場合には、これらを同一プロセスで作製できるため、装置構成の簡素化を図ることができる。
【0060】
(第2の実施形態)
図3を参照しながら、本発明による非水電解質二次電池の電極の第2の実施形態を説明する。本実施形態の電極は負極である。
【0061】
図3に示すように、本実施形態の負極34は、負極集電体33と、負極集電体33の上に形成された負極活物質層31と、負極活物質層31上に形成された電子絶縁層32とを備えている。
【0062】
負極集電体33としては、例えば、厚さが5〜50μmの銅箔やニッケル箔が用いられる。
【0063】
負極活物質層31は、エアロゾルデポジッション法やスパッタ法といった真空プロセス法、またはプレス法によって形成されている。負極活物質層31はバインダを含んでおらず、例えば黒鉛から構成されている。
【0064】
電子絶縁層32は、エアロゾルデポジッション法によって形成されており、例えばアルミナ等の複数の無機粒子から構成されている。電子絶縁層32にはバインダが含まれておらず、無機粒子が、他の無機粒子や下地の負極活物質層31と直接接合している。
【0065】
このように負極34の表面に電子絶縁層32を形成した場合には、電子絶縁層32が形成されている面をセパレータに対向させる。
【0066】
本実施形態によると、電子絶縁層32に含まれる無機粒子は、他の無機粒子や負極活物質層31と直接的に結合している。したがって、バインダにより接着された場合と比較して、電子絶縁層32の密着性は高くなる。そのため、負極34を加工する工程および負極34を電池に組み込む工程において電子絶縁層32の一部が欠落し、電極間の短絡が起こるといった問題を回避することができる。
【0067】
また、負極活物質層31および電子絶縁層32がバインダを含まないため、電子絶縁層32が、負極活物質層31と混じり合うという問題が生じない。
【0068】
さらに、負極活物質層31がエアロゾルデポジッション法やスパッタ法といった真空プロセス法、またはプレス法によって形成されているため、次のような効果が得られる。負極活物質層を塗工法によって形成した後に、その上にエアロゾルデポジッション法によって電子絶縁層を形成すると、衝突のエネルギーによって負極活物質層の一部が剥離するといった問題が生じる。これは、塗工法によって形成された負極活物質層では、活物質粒子が、結合力の弱いファンデルワールス力によってバインダに保持されているためと考えられる。一方、本実施形態のようにエアロゾルデポジッション法やスパッタ法といった真空プロセス法またはプレス法によって形成された負極活物質層31では、活物質粒子が直接的に結合(共有結合)することによって保持されているため、たとえエアロゾル中の粒子が衝突しても、負極活物質層31の一部の剥離は起こりにくい。これにより、本実施形態では、電子絶縁層32の形成時に、負極活物質層31が薄くなるのが防止される。また、負極活物質層31と電子絶縁層32との密着性が向上する。したがって、本実施形態の負極34を用いると、耐短絡性などの信頼性に優れた非水電解質二次電池を得ることができる。
【0069】
さらに、本実施形態では、負極活物質層31がバインダを含まず活物質のみからなる緻密膜であるため、塗工法によって形成された負極活物質層31と比較して、体積あたりの容量値を大きくすることができる。
【0070】
次に、本実施形態の負極34を形成するための具体的な方法について説明する。
【0071】
まず、真空プロセス法のうちエアロゾルデポジッション法により負極活物質層31を形成する方法について説明する。この場合には、正極活物質層21を形成する場合と同様に、図2に示すようなエアロゾルデポジッション装置を用いる。負極活物質層31を形成する場合には、基板16として負極集電体33を配置し、エアロゾル発生器13の内部に、粒子20として平均粒径10μmの塊状人造黒鉛(日立化成工業(株)製)30gを投入する。
【0072】
負極活物質31を形成する物質としては、各種天然黒鉛または各種人造黒鉛を用いることが一般的であるが、シリサイドなどのシリコン含有複合材料、各種合金材料を用いてもよい。例えば、ケイ素単体、ケイ素合金、ケイ素と酸素とを含む化合物、ケイ素と窒素とを含む化合物、スズ単体、スズ合金、スズと酸素とを含む化合物、およびスズと窒素とを含む化合物よりなる群から選択される少なくとも1種を用いるのが望ましい。
【0073】
ケイ素合金としては、例えば、SiB4,SiB6,Mg2Si,Ni2Si,TiSi2,MoSi2,CoSi2,NiSi2,CaSi2,CrSi2,Cu5Si,FeSi2,MnSi2,NbSi2,TaSi2,VSi2,WSi2,ZnSi2,SiCが挙げられる。
【0074】
ケイ素と酸素とを含む化合物としては、例えば、Si22O,SiOx(0<x≦2)SnSiO3,LiSiOが挙げられる。
【0075】
ケイ素と窒素とを含む化合物としては、例えば、Si34,Si22Oが挙げられる。
【0076】
スズ合金としては、例えば、Mg2Snが挙げられる。
【0077】
スズと酸素とを含む化合物としては、例えば、SnOx(0<x≦2)、SnSiO3が挙げられる。
【0078】
スズと窒素とを含む化合物としては、例えば、Sn34,Sn22Oが挙げられる。
【0079】
負極活物質層31を形成する工程では、まず、圧空バルブ19を閉じ、排気ポンプ18で成膜チャンバ14からエアロゾル発生器13までを真空引きした。次に、圧空バルブ19を開くことにより、配管12aを通じてガスボンベ11内の気体をエアロゾル発生器13に導入し、粒子20を容器内に撒き上げ、気体中に粒子20が分散した状態のエアロゾルを発生させる。発生したエアロゾルは、配管12bを通じてノズル15より基板16に向けて高速で噴射される。圧空バルブ19を開いた状態で0.5秒間経過すると、次の0.5秒間は圧空バルブ19を閉じる。その後、再び圧空バルブ19を開き、0.5秒間の周期で圧空バルブ19の開閉を繰り返す。ガスボンベ11からの気体の流量は2リットル/分、成膜時間は7時間とし、圧空バルブ19が閉じている時の成膜チャンバ14内の真空度を10Pa程度とし、圧空バルブ19が開いている時の成膜チャンバ14内の真空度を100Pa程度とする。
【0080】
加速されて運動エネルギーを得たエアロゾル中の粒子20が基板16に衝突して、衝撃エネルギーで細かく破砕される。そして、これらの破砕粒子が基板16に接合されること、および破砕粒子同士が接合されることにより、負極集電体33の上に負極活物質層31が順次形成される。
【0081】
エアロゾルの発生に用いられる気体としては、例えば、アルゴンやヘリウムのような不活性ガス、酸素ガス、窒素ガス、炭酸ガス、乾燥空気、またはそれらの混合ガスが用いられる。また、材料に応じて、水素ガスのような還元性ガスを用いてもよい。
【0082】
次に、スパッタ法によって負極活物質層31を形成する方法について説明する。例えばRFマグネトロンスパッタ法を行う場合には、スパッタ装置として、島津製作所製のHSM-511を用いる。ターゲットには4インチのグラファイト圧粉体(ホットプレス、密度2.0g/cc:豊島製作所製(風宇(株)購入品))を、マグネトロンにはフェライト磁石を用いる。基板としては、Si基板(厚さ0.5μmのSiO2熱酸化膜が形成された全体の厚さが0.55mmのSi基板:英興(株)購入品)の上にAu(厚さ0.6μm)が集電体として成膜されているものを用いる。グラファイトターゲットから4cmのところに基板を設置する。
【0083】
この状態で、真空チャンバ内に、アルゴンガスを流量10sccmで導入すると、真空チャンバ内の圧力は2.7Pa(≒20mTorr)を示す。チャンバ内の温度を室温(20℃前後)に保った状態で、高周波電源の出力を200W(反射は1W程度)に設定して、6時間のスパッタリングを行う。これにより、厚さ10μmのグラファイト膜が集電体の上に形成される(成膜速度300Å/分の場合)。なお、スパッタリング終了時には、チャンバ内の温度は80℃前後に上昇している。
【0084】
負極活物質層31はプレス法によって形成してもよい。例えば、ホットプレス法により、1200℃の温度でグラファイト圧粉体を焼結することにより、負極活物質層31を形成する。例えば、負極活物質層31の直径は3インチであり、厚さは500μmであり、密度は2.0g/ccである。このような負極活物質層31として、例えば豊島製作所製(風宇(株)購入済み品)を用いてもよい。
【0085】
上述の方法によって得られた負極集電体層31の上に、エアロゾルデポジッション法によって電子絶縁層32を形成する。この方法や条件は第1の実施形態における電子絶縁層22を形成する場合と同様であるため、その詳細な説明を省略する。
【0086】
本実施形態の製造方法において、負極活物質層31および電子絶縁層32をエアロゾルデポジッション法によって形成する場合には、これらを同一プロセスで作製できるため、装置構成の簡素化を図ることができる。
【0087】
(第3の実施形態)
次に、図4および図5(a)、(b)を参照しながら、本発明による非水電解質二次電池の第3の実施形態を説明する。本実施形態の非水電解質二次電池はリチウムイオン二次電池である。
【0088】
図4に示すように、本実施形態の円筒型電池40は、円筒型の電極群44と、これを収容する電池缶48とを有する。電極群44は、帯状の正極41および負極42が、それらの間に配置されたセパレータ43と共に捲回された構造を有する。図示は省略するが、正極41は、バインダを含まない正極活物質層を有しており、負極42は、バインダを含まない負極活物質層を有している。また、正極活物質層とセパレータ43との間、または負極活物質層とセパレータ43との間には、電子絶縁層が形成されている。電子絶縁層は、エアロゾルデポジッション法によって形成されている。なお、電子絶縁層は、正極活物質層とセパレータ43との間、および負極活物質層とセパレータ43との間の両方に形成されていてもよい。
【0089】
電極群44には、リチウムイオンを伝導する電解質(図示せず)が含浸されている。電池缶48の開口は、正極端子45を有する封口板49で塞がれている。正極41には、アルミニウム製の正極リード41aの一方の端が接続されており、他方の端は封口板49の裏面に接続されている。封口板49の周縁には、ポリプロピレン製の絶縁パッキン46が配置されている。負極42には、銅製の負極リード(図示せず)の一方の端が接続されており、他方の端は電池缶48に接続されている。電極群44の上下には、それぞれ上部絶縁リング(図示せず)および下部絶縁リング47が配置されている。
【0090】
図4に示すリチウムイオン二次電池において、電子絶縁層は、正極活物質層または負極活物質層の表面にエアロゾルを噴射することによって形成された層であってもよい。このような電子絶縁層は第1の実施形態および第2の実施形態における電子絶縁層と同様であるため、その詳細な説明を省略する。
【0091】
一方、電子絶縁層は、セパレータ43の表面にエアロゾルを噴射することによって形成された層であってもよい。図5(a)、(b)は、セパレータの表面に電子絶縁層が形成されたリチウムイオン二次電池の主要部を示す断面図である。図5(a)、(b)に示すリチウムイオン二次電池は、正極41と、負極42と、正極41と負極42との間に設けられたセパレータ43とを備え、セパレータ43の表面には電子絶縁層63が形成されている。図5(a)では、電子絶縁層63が、セパレータ43のうち正極活物質層62側の表面に設けられており、図5(b)では、電子絶縁層63が、セパレータ43のうち負極活物質層65側の表面に設けられている。なお、電子絶縁層63は、セパレータ43の両面、すなわち正極活物質層62側および負極活物質層65側の両方に設けられていてもよい。
【0092】
正極41は、正極集電体61と、正極集電体61の表面に設けられた正極活物質層62とを備えている。一方、負極42は、負極集電体66と、負極集電体66の表面に設けられた負極活物質層65とを備えている。正極活物質層62および負極活物質層65は、エアロゾルデポジッション法やスパッタ法といった真空プロセス法かプレス法によって形成されている。正極活物質層62および負極活物質層65の製造方法およびその条件は第1の実施形態および第2の実施形態と同様であるため、その詳細な説明を省略する。
【0093】
セパレータ43としては、特に限定されないが、ポリエチレン、ポリプロピレンなどのポリオレフィン系樹脂からなる微多孔フィルムを用いることが一般的である。微多孔フィルムは1種のポリオレフィン系樹脂からなる単層膜でも2種以上のポリオレフィン系樹脂からなる多層膜であってもよい。
【0094】
電解質としては、LiPF6、LiBF4などの各種リチウム塩を溶質として用いることができる。非水溶媒としては、エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート、ジメチルカーボネート、ジエチルカーボネート、メチルエチルカーボネートなどを用いることが望ましいが、これらに限定されるわけではない。非水溶媒は1種を単独で用いることもできるが、2種以上を組み合わせて用いることもできる。
【0095】
円筒型電池40の製造方法では、長尺状の正極41および負極42(電極原反)を作製する工程や所定の電極形状にするための裁断工程などを行った後、正極41および負極42を、セパレータ43と共に巻芯に巻き取る。通常、これらの各種工程は、正極41および負極42を、巻き出しロール、巻き取りロールまたはガイドローラなどの走行系を用いて走行させることにより行われる。従来では、走行工程中に、活物質層の表面に塗布形成した電子絶縁層の一部が脱落する場合があった。しかしながら、本実施形態のように、電子絶縁層の粒子同士を直接結合させる方法では、電子絶縁層の一部が脱落するといった不具合が生じにくく、耐短絡性などの信頼性を向上させることができる。
【0096】
さらに、正極活物質層62および負極活物質層65がバインダを含まず活物質のみからなる緻密膜であるため、塗工法によって形成された活物質層と比較して、体積あたりの容量値を大きくすることができる。
【0097】
(実験例および特性評価)
以下、実施例1および比較例1の電極を形成して特性評価(剥離具合)を行なった結果を説明する。実施例1としては、エアロゾルデポジッション法によって形成された正極活物質層および電子絶縁層を有する電極を準備し、比較例1としては、結着剤を用いて塗工法によって形成された活物質層と、エアロゾルデポジッション法によって形成された電子絶縁層とを有する電極を準備した。
【0098】
(実施例1)
図2に示す装置を用いて、以下の方法によって正極活物質層および電子絶縁層を作製した。
【0099】
成膜チャンバ14としては市販の蒸着装置(ULVAC社製、VPC−400)を改造したものを用いた。エアロゾル発生器13には、市販の攪拌機(特殊機化工業社製、T.K.アヂホモミクサー2M−03型)を用いた。なお、エアロゾル発生器13として、市販の容積1リットル圧送ボトル(KSK社製、RBN−S)を超音波洗浄器((株)島津製作所製、SUS−103)中に設置したものを用いてもよい。
【0100】
エアロゾル発生器13から内径4mmの配管12bを成膜チャンバ14内に引き込み、その先端に噴射ノズル15(スプレーイングシステムジャパン製 YB1/8MSSP37)を装着した。噴射ノズル15から2mm離れた位置に、基板16として市販のアルミニウム箔を設置した。基板ホルダ17として、横方向に移動可能な可動式のものを、噴射ノズル15として、縦方向に移動可能な可動式のものを用いた。このような基板ホルダ17および噴射ノズル15を動かすことにより、成膜する面積を決めることができる。一方、エアロゾル発生器13とヘリウムが充填されたガスボンベ11とを内径4mmの配管12aでつないだ。
【0101】
上記装置を用いて、まず厚さ40μmの正極活物質層を以下のように作製した。まず、平均粒径10μmのコバルト酸リチウム(日本化学工業(株)製)20gをエアロゾル発生器13内に仕込んだ。次に、圧空バルブ19を閉じ、排気ポンプ18によって成膜チャンバ14からエアロゾル発生器13までを真空引きした。そして、ガスボンベ11からエアロゾル発生器13内にヘリウムガスを送り込んで、ヘリウムガス中に活物質粒子が分散したエアロゾルを発生させた。発生したエアロゾルは、配管12bを介して噴射ノズル15より基板16(厚さ15μmのアルミニウム箔)に向けて噴射された。このとき、ヘリウムガスの流量は2リットル/分とし、圧空バルブ19が、1秒間のうち0.5秒間は開いた状態となり、残りの0.5秒間は閉じた状態となるように、コンピュータで圧空バルブ19の開閉状態を制御して、エアロゾルを間欠噴射させた。また、成膜時間は10時間とし、圧空バルブ19が閉じている時の成膜チャンバ14内の真空度を10Pa程度とし、圧空バルブ19が開いている時の成膜チャンバ14内の真空度を100Pa程度とした。まず、噴射ノズル15の位置を固定した状態で基板ホルダ17を速度30mm/分で横方向へ30mm移動させた。一列の移動が終了すると、それ以前の成膜エリアとの重なりを考慮して噴射ノズル15を縦方向に移動させ、同様に横方向に30mm移動させる。このような動作を、成膜エリアの縦方向の長さが30mmになるまで繰り返した。
【0102】
次に、厚さ3μmの電子絶縁層を以下のように作製した。平均粒径1μmのアルミナ粉(和光純薬工業株式会社製)40gをエアロゾル発生器13内に仕込んだ。次に、排気ポンプ18によって成膜チャンバ14からエアロゾル発生器13までを真空引きした。そして、ガスボンベ11からエアロゾル発生器13内にヘリウムガスを送り込んで、攪拌を開始し、ヘリウムガス中に粒子が分散したエアロゾルを発生させた。発生したエアロゾルは、配管12bを介して噴射ノズル15より基板16に向けて噴射された。このとき、ヘリウムガスの流量は13〜20リットル/分とした。また、成膜時間は3時間とし、電子絶縁層形成時の成膜チャンバ14内の真空度を50Pa〜150Pa程度とした。基板ホルダ17および噴射ノズル15を動かすことにより、所定の成膜エリアの成膜を行なった。
【0103】
平均粒径は島津製作所製のセディグラフ5000−01装置で測定した。
【0104】
(比較例1)
正極活物質層としてコバルト酸リチウムが塗布された正極板(松下電池工業(株)製)を用いて、その正極板上に前述の実施例1と同じ3μmの厚さの電子絶縁層を形成した。正極板の活物質層の厚さは50μmであった。
【0105】
(評価)
実施例1および比較例1の合計厚さ(基板(集電体)、活物質層および電子絶縁層の合計厚さ)をPEACOCK社製の厚さ計で測定した。
【0106】
測定の結果、実施例1の合計厚さは57〜60μmであった。厚さ15μmのアルミニウム箔を基板として用い、活物質層(コバルト酸リチウム層)の厚さが40μmに、電子絶縁層(アルミナ層)の厚さが3μmになるように設定して成膜を行なったため、測定結果は、概ね狙い通りの厚さを示していた。一方、比較例1の合計厚さは95〜110μmであった。基板として厚さ15μmのアルミニウム箔を用い、基板の表裏両面に形成されるコバルト酸リチウム層の厚さがそれぞれ50μm(合計100μm)に、片面のみに形成されるアルミナ層の厚さが3μmになるように設定して成膜が行なわれたため、設定通りであれば、合計厚さは118μm程度になる。しかしながら、測定結果の合計厚さは、設定上の厚さよりも10〜20μm程度小さい値であった。比較例1の断面をSEMにて観察した結果を図6に示す。図6では、集電体53の上に、正極活物質層51および電子絶縁層52が順次形成されている。集電体53のうち正極活物質層51が形成されている面とは反対側の面には、負極活物質層55が形成されている。図6に示すように、設定厚さが50μmの正極活物質層51の実際の厚さは30〜40μmであった。一方、表面に電子絶縁層の形成されていない負極活物質層55の実際の厚さは、設定通りの50μmであった。この結果から、電子絶縁層52を形成することにより、正極活物質層51が研削されていることがわかった。
【0107】
以上のように、実施例1のように活物質層および電子絶縁層をエアロゾルデポジッション法によって形成する場合には、比較例1のように電子絶縁層のみをエアロゾルデポジッション法で形成する場合と比較して、活物質層の剥離が防止される。これにより、実施例1では活物質層と電子絶縁層との密着性が向上するため、実施例1の正極を用いると、耐短絡性などの信頼性に優れた非水電解質二次電池を得ることができる。
【産業上の利用可能性】
【0108】
本発明の非水電解質二次電池は、携帯機器、情報機器、通信機器およびAV機器のような電子機器の電源に好適に用いられる。
【図面の簡単な説明】
【0109】
【図1】本発明による非水電解質二次電池の電極の第1の実施形態を示す図である。
【図2】第1の実施形態の電極を作製するためのエアロゾルデポジッション装置を示す図である。
【図3】本発明による非水電解質二次電池の電極の第2の実施形態を示す図である。
【図4】本発明による非水電解質二次電池の第3の実施形態を示す図である。
【図5】(a)、(b)は、セパレータの表面に電子絶縁層が形成されたリチウムイオン二次電池の主要部を示す断面図である。
【図6】比較例1の断面をSEMにて観察した結果を示す写真である。
【符号の説明】
【0110】
11 ガスボンベ
12a、12b 配管
13 エアロゾル発生器
14 成膜チャンバ
15 ノズル
16 基板
17 基板ホルダ
18 排気ポンプ
19 圧空バルブ
20 アルミナ粒子
21 正極活物質層
22 電子絶縁層
23 正極集電体
24 正極
31 負極活物質層
32 電子絶縁層
33 負極集電体
34 負極
41 正極
42 負極
43 セパレータ
44 電極群
45 正極端子
46 絶縁パッキン
47 下部絶縁リング
48 電池缶
49 封口板
61 正極集電体
62 正極活物質層
63 電子絶縁層
65 負極活物質層
66 負極集電体

【特許請求の範囲】
【請求項1】
バインダを含まない活物質層と、
前記活物質層上にエアロゾルデポジッション法によって形成された電子絶縁層と
を備える、非水電解質二次電池の電極。
【請求項2】
前記活物質層は、エアロゾルデポジッション法、スパッタ法、またはプレス法によって集電体の上に形成された、請求項1に記載の電極。
【請求項3】
前記活物質層は活物質粒子から構成され、
前記活物質粒子はリチウム複合酸化物である、請求項1または2に記載の電極。
【請求項4】
前記リチウム複合酸化物がコバルト酸リチウムである、請求項3に記載の電極。
【請求項5】
前記電子絶縁層は無機粒子から構成され、
前記無機粒子は、無機酸化物、無機窒化物、無機フッ化物またはリチウムイオン伝導性無機固体電解質であるか、無機酸化物、無機窒化物、無機フッ化物およびリチウムイオン伝導性無機固体電解質のうちの少なくとも2つの混合物粒子または化合物粒子である、請求項1から4のいずれかに記載の電極。
【請求項6】
前記無機酸化物が、アルミナ、酸化ケイ素または酸化チタンである、請求項5に記載の電極。
【請求項7】
前記電子絶縁層はバインダを含まない、請求項1から6のいずれかに記載の電極。
【請求項8】
請求項1から7のいずれかに記載の電極を備える非水電解質二次電池。
【請求項9】
バインダを含まない正極活物質層と、
バインダを含まない負極活物質層と、
前記正極活物質層と前記負極活物質層との間に設けられたセパレータと、
前記セパレータと前記正極活物質層および前記負極活物質層のうちの少なくともいずれか一方との間に、エアロゾルデポジッション法によって形成された電子絶縁層と
を備える、非水電解質二次電池。
【請求項10】
前記電子絶縁層は、前記正極活物質層および前記負極活物質層のうちの少なくともいずれか一方の表面にエアロゾルを噴射することによって形成された層である、請求項9に記載の非水電解質二次電池。
【請求項11】
前記電子絶縁層は、前記セパレータの表面にエアロゾルを噴射することによって形成された層である、請求項9に記載の非水電解質二次電池。
【請求項12】
前記電子絶縁層はバインダを含んでいない、請求項9から11のうちのいずれかに記載の非水電解質二次電池。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2010−73339(P2010−73339A)
【公開日】平成22年4月2日(2010.4.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−236570(P2008−236570)
【出願日】平成20年9月16日(2008.9.16)
【出願人】(000005821)パナソニック株式会社 (73,050)
【Fターム(参考)】