説明

非水電解質二次電池の製造方法およびこの方法によって作製された非水電解質二次電池

【課題】 本発明は、負極を高温で処理することなく、非水電解質二次電池を製造する方法を提供することを目的とする。
【解決手段】 正極活物質と正極集電体からなる正極、負極合金活物質と負極集電体からなる負極、前記正極と前記負極との間に配置されるセパレータ、ならびに非水電解質を具備する非水電解質二次電池の製造方法において、(A)前記負極合金活物質を、Si、Sn、In、Ga、Pb、Al、BiおよびSbからなる群aより選択される少なくとも1種の元素と遷移金属とから、作製する工程、(B)前記負極合金活物質を、前記負極集電体に衝突させて、前記負極合金活物質と前記負極集電体との間に金属結合を生成させる工程を包含する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、主に非水電解質二次電池の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
負極活物質として、高電圧で高エネルギー密度を実現可能な金属リチウムを用いる非水電解質二次電池の研究開発が多く行われている。しかし、負極活物質に金属リチウムを用いる場合、充電時に、金属リチウムの表面に、樹枝状のリチウム(デンドライト)が析出し、電池の充放電効率が低下する。さらには、このデンドライトがセパレータを突き破り、正極と接触して内部短絡を生じるなどの不具合が生じる可能性もある。このため、金属リチウムより容量は小さいが、リチウムイオンを可逆的に吸蔵・放出することができる黒鉛系の炭素材料を負極に用いたリチウムイオン電池が実用化されている。このような電池は、サイクル寿命や安全性に優れている。
【0003】
しかしながら、黒鉛材料を負極に用いた電池では、その容量が約350mAh/gと理論容量(372mAh/g)に近い状態にまで実用化されている。このため、将来の高機能携帯機器のエネルギー源として、さらなる高容量化を実現するために、黒鉛以上の容量を示す負極材料の開発が望まれている。
【0004】
現在、電池の高容量化を実現できる負極材料として、ケイ素やスズなどの元素からなる合金系負極材料が注目されている。ケイ素やスズなど、ある種の金属元素は、リチウムイオンを電気化学的に吸蔵・放出可能であり、かつこのような負極材料を用いる電池は、黒鉛材料を用いる電池に比べて、非常に大きな容量で充放電を行うことが可能である。例えば、ケイ素の場合、その理論放電容量は4199mAh/gであり、この放電容量は、黒鉛の放電容量の11倍も高いことが知られている。
【0005】
ところで、このような合金材料においては、リチウムイオンを吸蔵する際に、リチウム−ケイ素やリチウム−スズなどのような合金を形成し、その結晶構造が元々の結晶構造から変化する。このとき、非常に大きな膨張を伴う。例えば、ケイ素の場合、最大容量となるまで充電すると、その体積は、理論的に4.2倍にまで膨張する。一方、黒鉛においては、リチウムイオンが黒鉛層間に挿入されるインターカレーション反応を利用する。このため、リチウムイオンが挿入されることによる黒鉛の体積変化は、1.1倍程度である。
【0006】
さらに、上記のように合金活物質が大きく膨張すると、それに伴って大きな応力が発生する。この応力は、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)やスチレン−ブタジエン共重合ゴム(SBR)などに代表されるバインダーを通常量用いて、合金活物質を固定することのみでは、充分に抑えることができない。このため、活物質が集電体から剥がれたり、あるいは活物質同士の接触点が減少したりしやすくなる。これにより、合金活物質−集電体間あるいは活物質−活物質間の接触抵抗が増大するために、集電性が悪化し、サイクル特性が悪くなる。しかしながら、上記のような剥がれまたは接触点の減少を防ぐために、バインダー量を増量すると、充放電に関与しない材料が増加することになる。この結果、負極あたりの放電容量が減少する。さらには、負極に非伝導性材料が多く混在することになるため、抵抗が増加し、これにより、このような負極を含む電池の高率放電特性が低下したり、サイクル特性が低下したりする。
【0007】
上記のような負極における接触抵抗を低減するために、ケイ素を含む負極材料とバインダーからなる塗膜と、導電性金属の箔またはメッシュからなる基材とを焼成して、負極材料焼結体と上記基材とを一体化することが提案されている(例えば、特許文献1参照)。
【0008】
また、銅箔または銅合金箔を集電体として、少なくともケイ素とケイ素合金のいずれかを含む活物質粒子と銅または銅合金などの導電性金属粉末との混合体を、集電体の表面上で非酸化性雰囲気において焼結することが提案されている(例えば、特許文献2参照)。
【特許文献1】特許第2948205号公報
【特許文献2】特開2002−260637号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
上記特許文献1および特許文献2において、焼結という手段を用いることで、活物質−集電体間に金属結合が生成し、負極の集電性は向上する。しかし、活物質が高温にさらされるため、活物質の結晶化が進行する。結晶化が進行した活物質は、充放電を繰り返すと、微粉化する傾向にある。このため、電池特性が低下してしまう。
【0010】
また、高温下で処理することによって、集電体として用いる金属(特に、Cu)が脆くなり、さらに可撓性が低下してしまうことから、負極の取り扱いが非常に困難になる。つまり、このような焼結処理した負極は、折り曲げることだけでなく、正極とセパレータとともに巻くことも不可能となる。このため、このような負極を、例えば、円筒型の電池に用いることはできない。
【0011】
さらには、特許文献2に記載される負極の場合には、集電体上に成膜したシリコンがリチウムを吸蔵して膨張すると、その応力は全て活物質−集電体界面にかかる。そのため、集電体を厚くするか、または活物質層を薄くすることによって、その応力を逃がすかまたは減らすことが不可欠となる。この場合、従来のリチウムイオン電池に対して高容量性を発揮させるには、活物質層をできる限り厚くする必要がある。このため、活物質層の厚さの増加に伴い集電体の厚さをも増加させる必要がある。この結果、このような負極は、非常に曲げにくくなり、上述の場合と同様に、巻き取り型の電池には採用しにくい。
【0012】
そこで、本発明は、負極を高温で処理することなく、非水電解質二次電池を製造する方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明は、正極活物質と正極集電体からなる正極、負極合金活物質と負極集電体からなる負極、正極と負極との間に配置されるセパレータ、ならびに非水電解質を具備する非水電解質二次電池の製造方法に関し、
(A)負極合金活物質を、Si、Sn、In、Ga、Pb、Al、BiおよびSbからなる群aより選択される少なくとも1種の元素と遷移金属とから、作製する工程、
(B)負極合金活物質を、負極集電体に衝突させて、負極合金活物質と負極集電体との間に金属結合を生成させる工程を有する。これにより、負極を作製する場合に、高温での熱処理を行うことなく、活物質と集電体表面の金属種との間に金属結合を形成することが可能となり、集電体の脆化を防止することができる。
【0014】
上記非水電解質二次電池の製造方法の工程(A)において、負極集電体に衝突させる前に、合金活物質が、少なくとも1種の遷移金属からなる導電剤と混合されることが好ましい。これにより、作製された負極において、電子伝導性が向上し、また負極での電極反応がより均一に進行することが可能となる。
【0015】
本発明は、また、正極活物質と正極集電体からなる正極、負極合金活物質と負極集電体からなる負極、正極と負極との間に配置されるセパレータ、ならびに非水電解質を具備する非水電解質二次電池の製造方法に関し、
(A)負極合金活物質を、Si、Sn、In、Ga、Pb、Al、BiおよびSbからなる群aより選択される少なくとも1種の元素と遷移金属とから、作製する工程、
(B)負極合金活物質を用いて、負極集電体上に活物質層を形成する工程、
(C)負極集電体と、その上に担持される活物質層とを一緒に加圧する工程、ならびに
(D)加圧物に電流を印加することにより、負極合金活物質と負極集電体との間に金属結合を生じさせる工程を有する。
このような製造方法により、負極を作製する場合に、高温での熱処理を行うことなく、活物質と集電体表面の金属種との間に金属結合を形成することが可能となる。
【0016】
上記非水電解質二次電池の製造方法において、工程(D)が、非酸化性雰囲気下で行われることが好ましい。電流を印加する工程において、ジュール熱が活物質表面に集中的に発生する。そのため、酸化性雰囲気中では、この熱によって活物質が酸素と反応して酸化物を形成しやすく、その結果、電極の抵抗を増加させる要因となるからである。
【0017】
上記非水電解質二次電池の製造方法の工程(B)において、活物質層が、前記負極合金活物質とバインダーとを混練することによって得られたペーストを、負極集電体の表面に塗布し、乾燥することによって形成されることが好ましい。これにより、低コストでかつ均一な厚さおよび密度を有する活物質層を形成することが可能となる。
【0018】
上記非水電解質二次電池の製造方法の工程(B)において、負極集電体上に活物質層が形成される前に、負極合金活物質が、少なくとも1種の遷移金属からなる導電剤と混合されることが好ましい。上記と同様に、これにより、作製された負極において、電子伝導性が向上し、また負極での電極反応がより均一に進行することが可能となる。
【0019】
上記非水電解質二次電池の製造方法において、負極合金活物質が、Siと遷移金属元素からなることが好ましい。Siは毒性が低く、またSiを活物質として用いることにより、極めて高容量の電池を得ることが可能となる。
【0020】
上記非水電解質二次電池の製造方法において、負極合金活物質に含まれる遷移金属が、Cu、Ni、Co、Ti、Zr、WおよびMoよりなる群から選択される少なくとも1種であることがさらに好ましい。遷移金属として、このような元素を用いることにより、活物質の電子伝導性をさらに向上させ、電極反応により活物質が膨潤した場合にも、応力集中を防止することが可能となる。
【0021】
上記非水電解質二次電池の製造方法において、負極集電体の厚さは、3μmよりも厚いことが好ましい。これにより、電池を作製する場合に必要とされる十分な強度を得ることが可能となる。
【0022】
上記非水電解質二次電池の製造方法において、負極集電体は、群aより選択される少なくとも1種の元素とは異なる金属元素からなることが好ましい。
【0023】
上記非水電解質二次電池の製造方法において、群aより選択される少なくとも1種の元素は、低結晶性、微結晶性、または非晶質であることが好ましい。これにより、リチウムイオンの吸蔵・放出に伴う体積変化による、負極合金活物質の粒子割れや破壊を防止することが可能となる。
【0024】
負極集電体の表面が、Cu、Ti、NiおよびFeよりなる群から選択される少なくとも1種の元素によって被覆されていることが好ましい。このような元素は、リチウムイオンを電気化学的に反応しないため、負極集電体の電子伝導性をより高めることが可能になる。
【0025】
本発明は、また、
(1)リチウムイオンを吸蔵・放出が可能な正極活物質、ならびに正極活物質をその上に担持する正極集電体を備える正極、
(2)Si、Sn、In、Ga、Pb、Al、BiおよびSbよりなる群aから選択される少なくとも1種の元素と遷移金属とからなる負極合金活物質、ならびに負極合金活物質をその上に担持する集電体を備える負極、
(3)正極と負極との間に配置されたセパレータ、ならびに
(4)非水電解質
を具備する非水電解質二次電池に関する。負極は、負極合金活物質を負極集電体に衝突させて、負極合金活物質と負極集電体との間に金属結合を形成させることによって作製されている。
【0026】
本発明は、また、
(1)リチウムイオンを吸蔵・放出が可能な正極活物質、ならびに前記正極活物質をその上に担持する正極集電体を備える正極、
(2)Si、Sn、In、Ga、Pb、Al、BiおよびSbよりなる群aから選択される少なくとも1種の元素と遷移金属とからなる負極合金活物質、ならびに負極合金活物質をその上に担持する集電体を備える負極、
(3)正極と負極との間に配置されたセパレータ、ならびに
(4)非水電解質
を具備する非水電解質二次電池に関する。負極は、負極合金活物質および負極集電体を加圧した状態で、負極合金活物質と負極集電体に電流を印加することにより、負極合金活物質と負極集電体との間に金属結合を形成させることによって作製されている。
【0027】
上記非水電解質二次電池において、群aより選択される少なくとも1種の元素は、低結晶性、微結晶性、または非晶質であることが好ましい。
【発明の効果】
【0028】
本発明により、負極を高温で処理することなく、非水電解質二次電池を製造する方法を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0029】
本発明の製造方法により製造される非水電解質二次電池に含まれる負極合金活物質および負極集電体からなる負極において、焼結を行うことなく、つまり負極合金活物質および負極集電体の両方に熱を加えることなく、負極合金活物質と負極集電体との間に金属結合が形成される。本発明において、負極合金活物質と負極集電体との間の金属結合は、例えば、負極合金活物質を負極集電体に衝突させることにより、または負極合金活物質と負極集電体との間に電流を印加することにより、形成される。
【0030】
以下に、本発明の製造方法について、詳細に説明する。
【0031】
実施の形態1
本発明の非水電解質二次電池の製造方法は、
(A)前記負極合金活物質を、Si、Sn、In、Ga、Pb、Al、BiおよびSbからなる群aより選択される少なくとも1種の元素と、遷移金属とから、作製する工程、
(B)前記負極合金活物質を、前記負極集電体に衝突させて、前記負極合金活物質と前記負極集電体との間に金属結合を生成させる工程
を包含する。
【0032】
例えば、Si、Sn、In、Ga、Pb、Al、BiおよびSbからなる群aより選択される少なくとも1種の元素と、遷移金属とを、所定の比率で混合し、混合物を得る。この混合物を溶融し、この後、アトマイズ法などにより、合金材料粉末を得、これが負極合金活物質として用いられる(工程(A))。
【0033】
上記群aから選択される少なくとも1つの元素は、リチウムイオンを電気化学的に吸蔵・放出可能な元素の中でも、比較的低電位で動作し、かつ高容量である。
また、上記群aから選択される少なくとも1種の元素の中でも、Al、Sn、およびSiが好ましく、特にSiが好ましい。これは、Siは毒性が低く、かつSiを活物質として用いることにより、極めて高容量の電池を作製することができるからである。
【0034】
また、群aから選択される少なくとも1種の元素と、遷移金属との混合比は、モル比で、1:1〜95:5であることが好ましい。
【0035】
上記遷移金属としては、Cu、Ni、Co、Ti、Zr、WおよびMoから選択される少なくとも1種が好ましい。これらの元素は、負極活物質中で電子伝導パスを担うことができ、また活物質の膨張による応力を防ぐ役割を果たすことができるからである。
【0036】
また、工程(A)で得られる負極合金活物質は、低結晶性、微結晶性、または非晶質であることが好ましい。このような負極合金活物質は、例えば、上記合金材料粉末を、メカニカルミリング等に供し、その結晶子が微細化することにより得られる。
【0037】
ここで、上記低結晶性、または微結晶性とは、それぞれ、結晶子サイズが、100nm〜10nmであるもの、および10nm以下であるものをいう。
【0038】
次に、得られた負極合金活物質を、負極集電体に衝突させて、負極合金活物質と負極集電体との間に金属結合を形成させる(工程(B))。この負極集電体への負極合金活物質の衝突は、例えば、ショットピーニング、ショットブラストなどの手法を用いて行うことが好ましい。
【0039】
上記工程(B)において、0.1kgf/cm2〜30kgf/cm2の圧力で射出された負極合金活物質を、負極集電体に衝突させることが好ましい。圧力が0.1kgf/cm2より小さいと、射出した活物質が集電体に衝突しても、活物質と集電体との間に反応が起こらず、活物質が集電体から剥がれ落ちやすくなる。
一方、30kgf/cm2より大きな圧力をかけて射出した場合では、その応力によって集電体が破壊され、電極を作製することができない。
また、上記圧力は、1kgf/cm2〜20kgf/cm2であることがさらに好ましい。
【0040】
上記負極合金活物質の平均粒径は、0.1μm以上、45μm以下、好ましくは10μm以下であることが好ましい。平均粒径が0.1μmより小さいと、負極合金活物質と負極集電体との間に金属結合が形成されにくくなる。一方、平均粒径が45μmより大きくなると、負極合金活物質の充填密度が低下する傾向にある。
【0041】
上記ショットピーニング、ショットブラストなどのような手法は、冷間加工の1種である。これらの手法を用いることにより、合金活物質を集電体の金属金属表面に高速度で衝突させると、集電体表面が凹むと同時に、合金活物質が集電体表面に食い込む。このような衝突の際に、合金活物質の表面と集電体表面の金属種との界面で、超短時間での摩擦接合が発生し、数nm〜数μmの領域で金属結合が生成する。これにより、高い集電性を実現することが可能となる。
【0042】
このように、本発明では、負極合金活物質を負極集電体に衝突させることによって、合金活物質と集電体との間に金属結合を形成させるため、従来のように、焼結のような熱処理を行う必要がない。このため、集電体(特に、Cu金属からなる集電体)の脆化を防止することが可能となる。
【0043】
また、上記工程(A)で、低結晶性、微結晶性、または非晶質である負極合金活物質を用いる場合にも、上記のように、電極を作製するときに熱処理を行う必要がないため、電極に含まれる負極合金活物質を、低結晶性、微結晶性、または非晶質に維持することができる。合金活物質の結晶サイズを微細化あるいは非晶質化することによって、上記粒子割れや破壊を防ぐことが可能になる。これは、結晶子サイズが小さくなることによって、結晶子自身の表面積が飛躍的に増大し、その結果、表面張力が大きくなり、割れ耐性が向上するからである。
【0044】
また、負極合金活物質と負極集電体とが金属結合することにより形成された部分は、固溶体または金属間化合物であることが好ましい。上記部分が固溶体である場合、負極合金活物質と負極集電体との間において、各構成元素が段階的に存在することになる。例えば、活物質に近い部分では、活物質を構成する元素が多くなるが、集電体に近い部分では、活物質を構成する元素は少なくなる。このように、集電体に近づくにつれて、活物質を構成する元素が段階的に減少する。このため、活物質が膨張・収縮を繰り返したとしても、この部分により、活物質の膨張・収縮による体積変化が効果的に吸収されると予想される。
同様に、上記部分が金属間化合物である場合、この部分は、活物質を構成する元素および集電体を構成する元素の両者を含み、かつ安定な結晶構造を有することになる。このような結晶構造を有する部分は、活物質および集電体の両方と親和性が高い。このため、活物質と集電体との間に強固な結合を得ることが可能となる。
さらに、上記部分は、低結晶性、微結晶性、または非晶質であることが好ましい。これは、上記と同様な理由による。
【0045】
さらに、上記ショットピーニング等の手法は、自動車部品、航空機部品などにおける疲れ強さを向上し、繰り返し変形にともなう破壊を防ぐ効果が高くなることが知られている。このような手法を用いて作製された電極では、充放電サイクルにともなう合金活物質の膨張・収縮の繰り返しに対しても電極自体の破壊が抑制される。従って、このような電極を含む電池の寿命特性を向上させることができる。
【0046】
また、上記工程(A)において、負極集電体に衝突させる前に、負極合金活物質が、少なくとも1種の遷移金属からなる導電剤と混合されてもよい。このとき、導電剤の添加量は、活物質100重量部あたり、0.5〜30重量部であることが好ましい。このように、負極合金活物質に、導電剤を添加することにより、作製された負極において、電子伝導性が向上し、負極での電極反応がより均一に進行することが可能になる。
また、負極合金活物質と負極集電体とは、前記導電剤を介して金属結合を形成してもよい。
【0047】
本発明の製造方法に用いられる負極集電体は、少なくともその表面に、Cu、Ti、Ni、およびFeよりなる群から選択される少なくとも1種の元素が含まれることが好ましい。このような元素は、リチウムイオンと電気化学的に反応しないことから、安定に電子伝導を行うことが可能になる。
また、集電体の内部は、集電体の表面と同じ金属であっても、異なる金属であってもよい。また、金属以外の他の物質(例えば、ポリエチレン、ポリプロピレンなどの高分子材料)であってもよい。
【0048】
上記負極集電体の厚さは、3μmより厚いことが望ましい。負極集電体の厚さが3μm以下である場合、電池を構成するために必要とされる十分な強度を得ることが難しく、製造工程で極度に歩留まりを下げる要因となる。
一方、負極集電体の厚さが厚いほど、電極の強度を十分なものとすることができるが、電極に占める集電体の体積が極端に多くなり、高容量化が困難となる。さらに、集電体が厚すぎる場合、電極のしなやかさに欠け、目的の電池を構成することが困難である。なお、本発明で用いられる負極集電体の最大厚さは、50μmである。
【0049】
また、負極集電体の厚さは、上記範囲の中でも、8μm以上40μm以下であることがさらに好ましい。集電体の厚さがこの範囲にあると、電極の強度を保ちながらも、電池の組み立てが行いやすくなる。
【0050】
負極活物質層の厚さは、0.5μm以上〜100μm以下であることが好ましい。この負極活物質層の厚さは、負極集電体の両面に負極活物質層が成膜されている場合、その片面あたりの厚さを指す。
負極活物質層の厚さが0.5μmより薄い場合、負極における活物質の割合が極めて低く、電池として低容量になる。
一方、活物質層が100μmより厚くなると、リチウムイオンが、集電体近傍の活物質まで到達し、活物質と反応することが困難となる。このため、電池反応が不均一となり、金属リチウムの析出など、不必要な反応を引き起こしやすくなる。
【0051】
前記負極の厚さは、200μmより薄いことが好ましい。200μmより厚い場合、しなやかさに欠け、目的の電池を構成するのが困難になる。
【0052】
実施の形態2
また、本発明の非水電解質二次電池の製造方法は、
(A)前記負極合金活物質を、Si、Sn、In、Ga、Pb、Al、BiおよびSbからなる群aより選択される少なくとも1種の元素と、遷移金属元素とから、作製する工程、
(B)前記負極合金活物質を用いて、前記負極集電体上に活物質層を形成する工程、
(C)前記負極集電体と、その上に担持される前記活物質層とを一緒に加圧する工程、ならびに
(D)前記加圧物に電流を印加することにより、前記負極合金活物質と前記負極集電体との間に金属結合を生じさせる工程からなってもよい。
【0053】
負極合金活物質は、上記実施の形態1と同様にして、作製することができる。
また、本実施形態においても、負極合金活物質は、低結晶性、微結晶性、または非晶質であることが好ましい。
【0054】
工程(B)において、上記負極合金活物質を用いて、負極集電体の両面または片面上に、活物質層が形成される。
【0055】
この工程(B)において、活物質層は、前記負極合金活物質を、少なくともバインダーとともに混練することによって得られたペーストを、負極集電体の表面に塗布・乾燥することによって形成されることが好ましい。このような手法を用いることにより、低コストでかつ均一な厚み・密度を有する活物質層を形成することが可能となる。
【0056】
上記バインダーとしては、低温、好ましくは500℃以下で分解するものが好ましい。例えば、このようなバインダーとして、ブチラール樹脂やアクリル酸樹脂などが挙げられる。
500℃より高い温度で分解するバインダーを用いた場合、バインダーを分解する工程で高い温度に負極をさらすことになる。この場合、活物質は、低結晶性または微結晶性または非晶質を維持できなくなり、結晶子が大きくなる。このように結晶子が大きくなった活物質は、性能が低下してしまう。
【0057】
上記負極合金活物質の平均粒径は、0.05μm以上45μm以下であることが好ましい。平均粒径がこの範囲にあることにより、負極合金活物質の取り扱いが容易になるとともに、活物質層における活物質の充填密度を向上させることができる。
【0058】
また、上記ペーストを作製する際に、上記実施の形態1と同様に、少なくとも1種の遷移金属元素からなる導電剤を添加してもよい。このときの導電剤の添加量は、上記実施の形態1と同様である。
【0059】
次いで、負極集電体と、その上に担持される活物質層とが、一緒に加圧される(工程(C))。
【0060】
また、上記加圧の圧力により、活物質層の充填密度の変化する。この場合、活物質層における活物質の相対密度は、50%以上100%以下であることが好ましく、75%以上がさらに好ましく、特に好ましくは80%以上が特に好ましい。
なお、相対密度とは、活物質の真密度に対する、活物質層中の活物質の嵩密度の割合を百分率で表したものである。
【0061】
上記相対密度が50%より小さい場合、活物質層内部に数μm程度の空間(空孔)が生じやすくなる。負極合金活物質が、リチウムイオンを吸蔵して膨張した際に、前記空間も同時に広がってしまうため、活物質層全体の膨張量は、相対密度が大きい場合に比べて飛躍的に大きくなる。
さらに、上記空間が活物質層内部に存在することにより、負極合金活物質同士の接点が減少する。このため、負極合金活物質がリチウムイオンを吸蔵して、膨張すると、その膨張により生じる応力により、負極合金活物同士が、離れやすくなる。この結果、活物質層が破損する可能性が生じる。
【0062】
上記相対密度は、加圧時の圧力によって変化するため、加圧時の圧力は、50kgf/cm2以上5000kgf/cm2以下であることが好ましい。
【0063】
次に、加圧された状態にある負極集電体とその上に担持される活物質層(以下、加圧物ともいう)とに、電流が印加されて、負極合金活物質と負極集電体との間に金属結合が形成される(工程(D))。
本実施形態において、この工程(D)は、放電焼結、放電プラズマ焼結などを用いて行うことが好ましい。このような手法を用いることにより、通常の焼結では実現できない低温で、負極活物質と負極集電体との間に金属結合を形成することが可能となる。
本実施形態においても、負極合金活物質と負極集電体とは、導電剤を介して金属結合を形成してもよい。
また、負極合金活物質同士間に、金属結合が形成されていてもよい。
【0064】
上記工程(D)において、印加される電流は、200A/cm2以上1500A/cm2以上であることが好ましい。電流値が、200A/cm2より小さいと、電極全体に充分なジュール熱が発生しにくくなる。このため、焼結が起こりにくくなる。
一方、電流値が1500A/cm2より大きくなると、瞬間的に大きなジュール熱が発生し、焼結反応が不均一に進行するおそれがある。この場合、活物質と集電体との金属結合が、極板内に不均一に存在することになり、安定した特性が得られにくくなる。
【0065】
また、上記工程(D)において、上記加圧物に電流を印加すると、加圧物の温度が上昇する。このとき、電流値が大きくなるほど、加圧物の温度も上昇する。しかしながら、本実施形態で用いられる電流値の範囲では、上記加圧物は、それに含まれる合金活物質の結晶子サイズが増大するほど、加熱されることはない。これは、以下の通りである。
加圧物中において、ジュール熱は、活物質粒子表面間、あるいは活物質粒子表面−集電体表面間の接合が不十分なことに起因する電気的な抵抗によって発生するものであり、表面のみが瞬間的に1000℃以上に加熱される。この熱により、活物質粒子同士あるいは活物質−集電体が接合した後、つまり、活物質粒子間あるいは活物質−集電体間に金属結合が形成された後は、抵抗がなくなるため、それ以上の加熱は行われない。その結果、粒子内部の温度はほとんど上昇することがないため、結晶子サイズはほとんど変化しない。
【0066】
また、上記工程(D)は、非酸化性雰囲気で行うことが好ましい。
ここで、非酸化性雰囲気とは、例えば、真空、アルゴン雰囲気、窒素雰囲気などの不活性雰囲気、水素雰囲気などの還元性雰囲気などの雰囲気をいう。
【0067】
また、本実施形態においても、用いられる集電体、集電体の厚さ、得られる負極の厚さは、上記実施の形態1と同様である。
【0068】
このように、上記実施の形態1および実施の形態2に示される製造方法により高容量でサイクル寿命が長く、また可撓性の高い負極を備える非水電解質二次電池を提供することが可能となる。
【0069】
上記実施の形態1および実施の形態2に記載される製造方法によって作製された非水電解質二次電池に含まれる負極は、可撓性が高い。本発明において、この可撓性の目安である負極の折り曲げ限界角度は、45°以上であることが好ましく、90°以上がさらに好ましい。捲回型の電池において、最も折り曲げ負荷のかかる位置は、捲回された電極群の最内周部(巻き芯に対する部分)である。その位置は、電池内においても最も捲回による圧力がかかる部分でもあり、また、正極およびセパレータに強い力で押しつけられた状態になっている。しかしながら、上述のような折り曲げ限界角度においても、電池としての性能を充分に維持することができる。従って、負極の折り曲げ限界角度が上記のような値でも、捲回型電池を作製することが充分可能である。
【0070】
ここで、折り曲げ限界角度とは、例えば、以下のようにして測定することができる。
負極を、長さ10cm×幅1cmの小片として切り出す。この小片の中央部を、小片の長手方向に平行な辺と鉄棒の長さ方向とが垂直となるように、鉄棒(5mmφ)の上に載せる。小片の一方の端部を固定し、前記鉄棒を軸として、他方の端部を、他方の端部が円弧を描きながら固定した一方の端部に近づくように、一定の速度で移動させる。このとき、他方の端部の移動速度が一定になるように、他方の端部に加えられる負荷を調節する。負荷が急激に変化したとき、または目視により負極に破壊または割れが生じたことが確認されたときの角度(つまり、上記他方の端部が移動されていないときの他方の端部と鉄棒との間の辺と、移動後の他方の端部と鉄棒との間の辺がなす角度)を、折り曲げ限界角度とする。
【0071】
以下に、本発明を実施例に基づいて具体的に説明する。
【実施例1】
【0072】
(負極合金活物質の作製)
負極合金活物質を、以下のようにして作製した。
表1に示される2種類の金属元素の単体粒子(純度:99.9%;平均粒径20〜26μm)を、表1に示される所定の比率(モル比)で混合した。得られた混合物を、高周波炉によって溶融し、次いで、アトマイズ法により、約17〜23μmの平均粒径を有する合金材料を得た。これらの合金粒子は全て結晶質な相を有した。その結晶子サイズを、X線回折法を用いる結晶構造分析により求めたところ、8〜19μmと大きかった。
また、これらの合金材料を、X線回折法により調べたところ、少なくとも2つの相を有する複数相合金であり、そのうちの一つは、上記元素群aから選択される元素単体からなる相であった。
【0073】
次に、得られた合金材料を、アトライタボールミル中で、ステンレス製ボールとともに、Ar雰囲気下で所定の時間、回転数6000rpmで3時間メカニカルミリングした。このとき、合金材料とステンレス製ボールとの重量比を、1:10とした。
【0074】
メカニカルミリング後の合金材料を、Ar雰囲気中で、ボールミルから取り出し、合金活物質粒子を得た。得られた合金活物質粒子を、それぞれ粒子1〜16とした。X線回折法による結晶構造分析より、各粒子1〜16の結晶子サイズを測定した。得られた結果を、表1に示す。測定の結果、粒子1〜16は、非晶質あるいは低結晶性であった。
また、得られた合金活物質粒子は少なくとも2つの相を有し、そのうちの一つは上記元素群aから選択される元素単体からなる相であることが、X線回折法からわかった。例えば、粒子1はNiSi2相とSi相とからなり、粒子2はTiSi2相とSi相とからなることが確認できた。
【0075】
(負極の作製)
上記のようにして得られた粒子1〜16を用いて、ショットピーニングにより負極を作製した。
粒子1〜16を、エアブラスト式ショットピーニング装置((株)不二製作所製)に投入し、銅箔(200mm×500mm)(古河サーキットフォイル(株)製の電解銅箔;厚さ:15μm)に対して、15kg/cm2の応力が印加されるように、10mmφのノズルから打ち出した。
【0076】
このノズルを、銅箔の短手方向と平行に、3cm/秒の速度で移動させながら、合金活物質粒子を打ち込んだ。次に、長手方向へ10mmノズル位置を移動させて、同様に短手方向と平行に、3cm/秒の速度で移動させながら、合金活物質粒子を打ち込んだ。このようにして、銅箔全体に、合金活物質粒子を打ち込んだ。このとき、箔上に付着した合金活物質粒子の厚さを、約10〜20μmとした。
【0077】
銅箔の一方の面に合金活物質を打ち込んだ後、他方の面においても、同様にして合金活物質粒子を打ち込んだ。このようにして得られた負極を、それぞれ負極1〜16とした。X線回折法による結晶構造分析を行い、各負極に含まれる合金活物質の平均結晶子サイズを測定した。得られた結果を表1に示す。合金活物質は、いずれの負極においても、非晶質あるいは低結晶性を維持していた。
【0078】
得られた負極1〜16について、上記のようにして、折り曲げ限界角度を測定した。得られた結果を。表1に示す。
【0079】
(正極の作製)
まず、コバルト酸リチウム(LiCoO2)を、炭酸リチウム(Li2CO3)と炭酸コバルト(CoCO3)とを所定のモル比で混合し、950℃で加熱することによって合成した。得られたLiCoO2を分級し、平均粒径が45μm以下のものを正極活物質として用いた。
【0080】
次に、正極活物質100重量部あたり、導電剤としてアセチレンブラックを5重量部、結着剤としてポリフッ化ビニリデンのN−メチル−2−ピロリドン(NMP)溶液を樹脂成分で4重量部を充分に混合し、正極合剤ペーストを得た。このペーストを、アルミニウム芯材(厚さ:15μm)上に任意の量で塗布し、乾燥し、圧延して正極を得た。
【0081】
(円筒型電池の組み立て)
図1に示されるような円筒型電池を作製した。
上記のようにして作製した正極11と負極12とを、セパレータ13を介して渦巻状に捲回して、極板群を作製した。極板群は、ニッケルメッキした鉄製電池ケース18内に収納した。正極11からはアルミニウム製正極リード14を引き出して、正極端子20に導通した封口板19の裏面に接続した。また、負極12からはニッケル製負極リード15を引き出して、電池ケース18の底部に接続した。極板群の上部および下部に、それぞれポリプロピレン製の絶縁板16および17を設けた。非水電解液として、1モル/Lの濃度で六フッ化リン酸リチウムを溶解したエチレンカーボネートとジエチルカーボネートの等比体積混合溶液を、電池ケース18内に注液し、封口板19を用いて電池ケース18の開口部を密封した。このようにして得られた電池を、それぞれ電池1〜16とした。
なお、上記電池の作製の前に、負極を110℃で真空乾燥することにより、脱水処理を行った。
【0082】
(放電容量およびサイクル寿命の測定)
得られた電池1〜16に対して、円筒型電池の放電容量・充放電サイクル試験を、以下のようにして行った。
20℃に設定した恒温槽の中で、電池を、充電電流0.2C(1Cは1時間率電流)で電池電圧が4.05Vになるまで、充電した。次いで、4.05Vの電圧で、電流値が0.01Cになるまで充電した。その後、充電後の電池を、0.2Cの電流で電池電圧が2.5Vになるまで放電した。このときの放電容量を、表1に示す。
【0083】
次の回から、充電電流を1Cとし、電池電圧が4.05Vになるまで充電し、次いで、充電電圧を4.05Vとし、電流値が0.05Cになるまで充電した。その後、1Cの電流で、電池電圧が2.5Vになるまで放電した。このような充放電サイクルを繰り返し、2サイクル目の放電容量に対する200サイクル目の放電容量の比を求め、その値に100をかけたものを容量維持率(%)とした。得られた容量維持率(%)を、表1に示す。容量維持率(%)が100に近いほどサイクル寿命が良好であることを示す。
【0084】
【表1】

【実施例2】
【0085】
(負極合金活物質の作製)
表2に示される2種の金属元素を用い、これらの2種の金属を表2に示される混合比で混合したこと以外、実施例1と同様にして、負極合金活物質粒子17〜32を作製した。実施例1と同様に、合金活物質粒子の結晶子サイズを、X線回折法による結晶構造分析より測定した。得られた結果を、表2に示す。その結果、合金活物質は、非晶質または低結晶性を維持していた。
【0086】
(負極の作製)
上記のようにして得られた合金活物質粒子10重量部と、ブチラール樹脂(積水化学工業(株)製;商品名:エスレックB)1重量部とを、酢酸エチル中に添加し、これらを混合して、負極合剤ペーストを得た。
【0087】
銅箔(古河サーキットフォイル(株)製の電解銅箔;厚さ:15μm)に、片面あたりの乾燥後合剤厚さが40μm、空孔率が70%になるように、得られたペーストを銅箔の両面に塗布した。塗布後、60℃、Ar気流下で乾燥した。
【0088】
乾燥させた成形体を、以下のようにして放電プラズマ焼結した。
放電プラズマ焼結装置(住友石炭鉱業(株)製)内において、前記成形体を60mm×60mm×30mm(厚さ)の超硬金型(WC製)((株)アライドマテリアル製)で挟み込んだ。次に、前記放電プラズマ焼結装置によって、超硬金型を、0.8t/cm2のプレス圧でプレスした。また、このときの相対密度は、90〜95%であった。
【0089】
成形体を加圧した状態で、前記金型に真空下でパルス電流を印加することによって、放電プラズマ焼結を行った。この放電プラズマ焼結において、パルス電流周波数を60Hzとし、印加電流値を1200Aとし、印加電圧を1.5Vとした。また、この放電プラズマ焼結は、3分間行った。放電プラズマ焼結時の成形体の最高到達温度は、380℃であった。
【0090】
その後、その成形体を、6cmづつずらしながら、上記操作を繰り返すことにより、負極を作製した。得られた負極を、それぞれ負極17〜32とした。
【0091】
各負極17〜32について、X線回折法による結晶構造分析を行った。得られた合金活物質の平均結晶子サイズを表2に示す。その結果、合金活物質は、非晶質あるいは低結晶性を維持していた。
【0092】
また、負極17〜32について、実施例と同様にして、折り曲げ限界角度を測定した。得られた結果を、表2に示す。
【0093】
上記のようにして得られた負極を用いて、実施例1と同様にして、電池を作製した。得られた電池を、それぞれ電池17〜32とした。
【0094】
上記電池17〜32について、実施例1と同様にして、電池容量および容量維持率を測定した。得られた結果を表2に示す。
【0095】
【表2】

【比較例1】
【0096】
(負極合金活物質の作製)
表3に示される2種の金属元素を用い、これらの2種の金属を表2に示される混合比で混合したこと以外、実施例1と同様にして、負極合金活物質粒子33〜48を作製した。実施例1と同様に、合金活物質粒子の結晶子サイズを、X線回折法による結晶構造分析より測定した。得られた結果を、表3に示す。その結果、合金活物質は、非晶質または低結晶性を維持していた。
【0097】
(負極の作製)
上記のようにして得られた合金活物質粒子10重量部と、ブチラール樹脂(積水化学工業(株)製;商品名:エスレックB)1重量部とを、酢酸エチルに添加し、これらを混合して、負極合剤ペーストを得た。
【0098】
銅箔(古河サーキットフォイル(株)製の電解銅箔;厚さ:15μm)に、片面あたりの乾燥後合剤厚さが40μm、空孔率が70%になるように、得られたペーストを銅箔の両面に塗布した。塗布後、60℃、Ar気流下で乾燥した。次に、乾燥させた成形体を、片面あたりの合剤厚さが約20μmになるように、ローラーで圧延した。
【0099】
圧延後の成形体を、窒素気流雰囲気(流量;5L/分)の雰囲気炉中で、400℃に加熱して、脱バインダー処理を行った。この後、窒素雰囲気下、750℃で5時間焼結を行い、負極を得た。得られた負極を、それぞれ比較負極33〜48とした。
【0100】
得られた比較負極について、X線回折法による結晶構造分析を行った。得られた合金活物質の平均結晶子サイズを表3に示す。その結果、合金活物質の平均結晶子サイズは、肥大化しており、その大きさは、0.8μm〜5.9μmであった。
【0101】
また、実施例1と同様に、負極の折り曲げ限界角度について測定した。得られた結果を、表3に示す。
【0102】
【表3】

【0103】
測定により得られた折り曲げ角度は、10〜20°と小さい値であった。負極の折り曲げ角度が、このような小さな値であったため、負極、正極およびセパレータを用い、これらを巻回して極板群を作製するときに、負極が割れたり、破損したりして、電池を作製することができなかった。
【比較例2】
【0104】
(負極合金活物質の作製)
表4に示される2種の金属元素を用い、これらの2種の金属を表2に示される混合比で混合したこと以外、実施例1と同様にして、負極合金活物質粒子49〜64を作製した。実施例1と同様に、合金活物質粒子の結晶子サイズを、X線回折法による結晶構造分析より測定した。得られた結果を、表4に示す。その結果、合金活物質は、非晶質または低結晶性を維持していた。
【0105】
(負極の作製)
上記のようにして得られた合金活物質粒子10重量部と、導電剤である天然黒鉛(日本黒鉛工業(株)製)2重量部と、結着剤としてポリフッ化ビニリデン(12重量%N−メチル−2−ピロリドン溶液)1重量部とを混合して、負極合剤ペーストを得た。
【0106】
銅箔(古河サーキットフォイル(株)製の電解銅箔;厚さ:15μm)に、片面あたりの乾燥後合剤厚さが40μm、空孔率が70%になるように、得られたペーストを銅箔の両面に塗布した。塗布後、80℃、Ar気流下で乾燥した。次に、乾燥させた成形体を、片面あたりの合剤厚さが約25μmになるように、ローラーで圧延した。このようにして得られた比較負極を、それそれ比較負極49〜64とした。
【0107】
また、負極活物質として黒鉛を用いる負極を、以下のように作製した。
天然黒鉛(日本黒鉛工業(株)製)を分級して、その粒径が32μm以下のものを、負極活物質として用いた。
得られた負極活物質10重量部と、結着剤としてポリフッ化ビニリデン(12重量%N−メチル−2−ピロリドン溶液)1重量部とを混合して、負極合剤ペーストを得た。
【0108】
銅箔(古河サーキットフォイル(株)製の電解銅箔;厚さ:15μm)に、片面あたりの乾燥後合剤厚さが40μm、空孔率が70%になるように、得られたペーストを銅箔の両面に塗布した。塗布後、80℃、Ar気流下で乾燥した。次に、乾燥させた成形体を、片面あたりの合剤厚さが約25μmになるように、ローラーで圧延した。このようにして得られた比較負極を、それそれ比較負極65とした。
【0109】
上記のようにして得られた比較負極49〜64について、実施例1と同様にして、X線回折法による結晶構造分析を行った。得られた合金活物質の平均結晶子サイズを表4に示す。本比較例において、焼結等の熱処理を行っていないため、負極作製後の合金活物質の平均結晶子サイズは、負極作製前の平均結晶子サイズと同じであった。
【0110】
さらに、比較負極49〜65について、実施例1と同様にして、負極の折り曲げ限界角度を測定した。得られた結果を、表4に示す。
【0111】
上記比較負極49〜65を用いて、実施例1と同様にして、比較電池49〜65を作製した。これらの比較電池について、放電容量と容量維持率を実施例1と同様にして測定した。得られた結果を表4に示す。
【0112】
【表4】

【0113】
上記実施例1〜2では、負極作製の前後で、負極合金活物質は、非晶質、低結晶性または微結晶性を維持していた。
また、負極の作製時に、熱を加えなくても、負極合金活物質と負極集電体との間に金属結合を形成することができるため、集電体が硬化することがない。これにより、作製された負極板をは、100°を超える折り曲げ限界角度を有する。
【0114】
しかしながら、負極の作製時に焼結を行う比較例1では、焼結後の負極合金活物質の結晶子サイズは、かなり大きくなっていた。さらに、得られた負極に折り曲げ限界角度は、焼結時に加えられる熱により、集電体が硬化したために、最大でも20°とかなり小さい値であった。
【0115】
一方、負極合剤を塗布し、これを乾燥させたのみである比較例2の比較電池19〜64では、負極合金活物質と負極集電体との間に金属結合が形成されていないため、折り曲げ限界角度および容量維持率の両方が、実施例の電池を比較して低下していた。
【0116】
また、天然黒鉛を負極活物質とする比較電池65と実施例1〜2の電池とを比較すると、合金活物質を用いることにより、電池容量を向上することができることがわかる。
【0117】
このように、本発明により、加熱することなく、高容量であり、折り曲げられた場合にも、高い容量維持率を維持することができる負極を作製することができることが理解される。従って、本発明の方法を用いることにより、高容量であり、高い容量維持率を維持することができる円筒型の非水電解質二次電池を提供することができる。
【実施例3】
【0118】
負極合金活物質として、Ti−Si合金を用い、負極集電体の種類および厚さを、表5に示されるように変化させたこと以外、実施例1の電池2と同様にして、電池66〜80を作製した。これらの電池について、実施例1と同様にして、放電容量および容量維持率を測定した。得られた結果を、表5に示す。
【0119】
また、実施例1と同様に、各電池の負極の折り曲げ限界角度を測定した。この結果も、表5に示す。なお、厚さ75μmの集電体を用いた電池72と76の場合には、折り曲げ角度が16°または8°となり、電池を組み立てることができなかった。
【0120】
【表5】

【0121】
表4の結果より、負極集電体の厚さは、3μmより厚いことが好ましく、8μm以上40μm以下であることがさらに好ましい。
【実施例4】
【0122】
表6に示される2種の金属元素を用い、これらの2種の金属を表6に示される混合比で混合して、負極合金活物質を作製し、また負極を作製するときのプレス圧力を変化させて、相対密度を、表6に示されるように、変化させたこと以外、実施例2と同様にして、電池82〜90を作製した。これらの電池について、実施例1と同様にして、放電容量および容量維持率を測定した。得られた結果を、表6に示す。
【0123】
また、実施例1と同様に、各電池の負極の折り曲げ限界角度を測定した。この結果も、表6に示す。
【0124】
【表6】

【0125】
表6に示されるように、相対密度が大きくなるとともに、放電容量および容量維持率が向上する。さらに、比較例2の比較電池より高い容量維持率を示すため、相対密度は、50%以上であることが好ましい。
【実施例5】
【0126】
表7に示される2種の金属元素を用い、これらの2種の金属を表6に示される混合比で混合して、実施例1と同様にして、負極合金活物質91〜99を作製した。
負極を作製するとき、得られた負極合金活物質に、表7に示される元素を含む金属粉末からなる導電剤を、表7に示される添加量で添加したこと以外、実施例1と同様にして、電池91〜99を作製した。これらの電池について、実施例1と同様にして、放電容量および容量維持率を測定した。得られた結果を、表7に示す。
【0127】
また、実施例1と同様に、各電池の負極の折り曲げ限界角度を測定した。この結果も、表7に示す。
【0128】
【表7】

【0129】
表7により、負極合金活物質に導電剤を混合した場合にも、得られる負極は、優れた可撓性を有することが理解される。また、このような負極を用いて作製された円筒型電池は、高い放電容量および高い容量維持維持率を示した。
【産業上の利用可能性】
【0130】
本発明により、高容量かつ長寿命を両立した、円筒型電池、巻き取り型の扁平型電池等を作製することができる。
【図面の簡単な説明】
【0131】
【図1】実施例および比較例において作製した円筒型電池の縦断面図である。
【符号の説明】
【0132】
11 正極
12 負極
13 セパレータ
14 正極リード
15 負極リード
16、17 絶縁板
18 電池ケース
19 封口板
20 正極端子

【特許請求の範囲】
【請求項1】
正極活物質と正極集電体からなる正極、負極合金活物質と負極集電体からなる負極、前記正極と前記負極との間に配置されるセパレータ、ならびに非水電解質を具備する非水電解質二次電池の製造方法であって、
(A)前記負極合金活物質を、Si、Sn、In、Ga、Pb、Al、BiおよびSbからなる群aより選択される少なくとも1種の元素と、遷移金属とから、作製する工程、
(B)前記負極合金活物質を、前記負極集電体に衝突させて、前記負極合金活物質と前記負極集電体との間に金属結合を生成させる工程
を有する非水電解質二次電池の製造方法。
【請求項2】
前記工程(A)において、前記負極集電体に衝突させる前に、前記負極合金活物質が、少なくとも1種の遷移金属からなる導電剤と混合される請求項1記載の製造方法。
【請求項3】
正極活物質と正極集電体からなる正極、負極合金活物質と負極集電体からなる負極、前記正極と前記負極との間に配置されるセパレータ、ならびに非水電解質を具備する非水電解質二次電池の製造方法であって、
(A)前記負極合金活物質を、Si、Sn、In、Ga、Pb、Al、BiおよびSbからなる群aより選択される少なくとも1種の元素と、遷移金属とから、作製する工程、
(B)前記負極合金活物質を用いて、前記負極集電体上に活物質層を形成する工程、
(C)前記負極集電体と、その上に担持される前記活物質層とを一緒に加圧する工程、ならびに
(D)前記加圧物に電流を印加することにより、前記負極合金活物質と前記負極集電体との間に金属結合を生じさせる工程
を有する製造方法。
【請求項4】
前記工程(D)が、非酸化性雰囲気下で行われる請求項3記載の製造方法。
【請求項5】
前記工程(B)において、前記活物質層が、前記負極合金活物質とバインダーとを混練することによって得られたペーストを、前記負極集電体の表面に塗布し、乾燥することによって形成される請求項3記載の製造方法。
【請求項6】
前記工程(B)において、前記負極集電体上に前記活物質層が形成される前に、前記負極合金活物質が、少なくとも1種の遷移金属からなる導電剤と混合される請求項3に記載の製造方法。
【請求項7】
前記群aより選択される少なくとも1種の元素は、低結晶性、微結晶性、または非晶質である請求項1または3記載の製造方法。
【請求項8】
前記負極集電体は、前記群aより選択される少なくとも1種の元素とは異なる金属元素からなる請求項1または3記載の製造方法。
【請求項9】
前記負極合金活物質が、Siと遷移金属元素からなる請求項1または3に記載の製造方法。
【請求項10】
前記負極合金活物質に含まれる遷移金属が、Cu、Ni、Co、Ti、Zr、WおよびMoよりなる群から選択される少なくとも1種である請求項9に記載の製造方法。
【請求項11】
前記負極集電体の厚さが、3μmよりも厚い請求項1または3に記載の製造方法。
【請求項12】
前記負極集電体の表面が、Cu、Ti、NiおよびFeよりなる群から選択される少なくとも1種の元素によって被覆されている請求項1または3に記載の製造方法。
【請求項13】
(1)リチウムイオンを吸蔵・放出が可能な正極活物質、ならびに前記正極活物質をその上に担持する正極集電体を備える正極、
(2)Si、Sn、In、Ga、Pb、Al、BiおよびSbよりなる群aから選択される少なくとも1種の元素と遷移金属とからなる負極合金活物質、ならびに前記負極合金活物質をその上に担持する集電体を備える負極、
(3)前記正極と前記負極との間に配置されたセパレータ、ならびに
(4)非水電解質
を具備する非水電解質二次電池であって、
前記負極が、前記負極合金活物質を前記負極集電体に衝突させて、前記負極合金活物質と前記負極集電体との間に金属結合を形成させることによって作製されている非水電解質二次電池。
【請求項14】
(1)リチウムイオンを吸蔵・放出が可能な正極活物質、ならびに前記正極活物質をその上に担持する正極集電体を備える正極、
(2)Si、Sn、In、Ga、Pb、Al、BiおよびSbよりなる群aから選択される少なくとも1種の元素と遷移金属とからなる負極活物質、ならびに前記負極活物質をその上に担持する集電体を備える負極、
(3)前記正極と前記負極との間に配置されたセパレータ、ならびに
(4)非水電解質
を具備する非水電解質二次電池であって、
前記負極が、前記負極活物質および前記負極集電体を加圧した状態で、前記負極活物質と前記負極集電体に電流を印加することにより、前記負極活物質と前記負極集電体との間に金属結合を形成させることによって作製されている非水電解質二次電池。
【請求項15】
前記群aより選択される少なくとも1種の元素は、低結晶性、微結晶性、または非晶質である請求項13または14に記載の非水電解質二次電池。

【図1】
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【公開番号】特開2006−4634(P2006−4634A)
【公開日】平成18年1月5日(2006.1.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−176380(P2004−176380)
【出願日】平成16年6月15日(2004.6.15)
【出願人】(000005821)松下電器産業株式会社 (73,050)
【Fターム(参考)】