説明

非水電解質二次電池の製造方法

【課題】 高温貯蔵時におけるガス発生が抑制され、且つ、抵抗上昇が抑制された非水電解質二次電池の製造方法を提供する。
【解決手段】 正極3と、リチウムイオン吸蔵電位が0.4V(対Li/Li+)以上のリチウムチタン酸化物を含む負極4と、非水電解質と、を含む非水電解質二次電池1の製造方法を提供する。該方法は、前記正極3、負極4、及び非水電解質を外装部材8に収容し、外装部材8の開口部9を仮封止して仮封止二次電池を得ることと、前記仮封止二次電池の充電深度(SOC)を20%未満(0%を含まず)に調整することと、前記調整された仮封止二次電池を50℃以上90℃以下の雰囲気中で保持することと、前記仮封止二次電池を開封し、内部の気体を排出することと、前記外装部材8を本封止することとを含む。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の実施形態は、非水電解質二次電池の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、Li4Ti5O12のようなリチウムチタン酸化物を負極活物質として用いた高エネルギー密度の非水電解質二次電池が開発されている。リチウムチタン酸化物は、充放電に伴う体積変化が殆ど無いため電池の厚さの変化が極めて小さい。また、リチウム吸蔵電位が0.4V(対Li/Li+)以上であるため、非水電解質の分解反応による被膜形成が生じにくい。よって、リチウムチタン酸化物を負極活物質として用いた電池は、優れた電池特性を有している。
【0003】
しかしながら、リチウムチタン酸化を負極活物質として用いた電池では、50%以下のような低いSOC状態において、高温環境下で保管したときにガスが発生しやすいという問題がある。貯蔵時に多量のガスが発生すると、電池内圧の上昇や電池の塑性変形をもたらす恐れがあり、また電池の内部抵抗が上昇して寿命性能が低下するという問題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2004−355977号公報
【特許文献2】特開2005−26145号公報
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】M.Q. Snyder et al. ,Appl. Surface Science, 253 (2007) 9336
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
高温貯蔵時におけるガス発生が抑制され、且つ、抵抗上昇が抑制された非水電解質二次電池の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
実施形態によれば、正極と、リチウムイオン吸蔵電位が0.4V(対Li/Li+)以上のリチウムチタン酸化物を含む負極と、非水電解質と、を含む非水電解質二次電池の製造方法が提供される。該方法は、前記正極、負極、及び非水電解質を外装部材に収容し、外装部材の開口部を仮封止して仮封止二次電池を得ることと、前記仮封止非水電解質二次電池の充電深度(SOC)を20%未満(0%を含まず)に調整することと、前記調整された非水電解質仮封止二次電池を50℃以上90℃以下の雰囲気中で保持することと、前記非水電解質仮封止二次電池を開封し、内部の気体を排出することと、前記外装部材を本封止することとを含む。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【図1】実施形態の非水電解質二次電池の製造工程の一例を示す模式図。
【図2】図1の電池に備えられる電極群を示す模式図。
【図3】実施形態の非水電解質二次電池の一例を示す部分切欠斜視図。
【図4】実施形態の非水電解質二次電池の製造工程の他の例を示す模式図。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本実施形態によって製造される非水電解質二次電池は、正極と、リチウムイオン吸蔵電位が0.4V(対Li/Li+)以上のリチウムチタン酸化物を含有する負極と、セパレータと、非水電解質と、外装部材とを有する。
【0010】
以下、正極、負極、セパレータ、非水電解質、及び外装部材について詳述する。
【0011】
1)正極
正極は、正極集電体と正極層を含む。正極層は、正極集電体の片面もしくは両面に形成される。正極層は、正極活物質、導電剤、及び結着剤を含む。正極集電体には、例えば、アルミニウム又はアルミニウム合金を用いることができる。
【0012】
正極活物質には、種々の酸化物及び硫化物を用いることができる。例えば、二酸化マンガン(MnO2)、酸化鉄、酸化銅、酸化ニッケル、リチウムマンガン複合酸化物(例えばLixMn2O4又はLixMnO2)、リチウムニッケル複合酸化物(例えばLixNiO2)、リチウムコバルト複合酸化物(LixCoO2)、リチウムニッケルコバルト複合酸化物(例えばLiNi1-yCoyO2)、リチウムマンガンコバルト複合酸化物(LixMnyCo1-yO2)、スピネル構造を有するリチウムマンガンニッケル複合酸化物(LixMn2-yNiyO4)、オリビン構造を有するリチウムリン酸化物(LixFePO4、LixFe1-yMnyPO4、LixCoPO4など)、硫酸鉄(Fe2(SO4)3)、バナジウム酸化物(例えばV2O5)などを用いることができる。なお、上記においてx,yは0〜1の範囲であることが好ましい。
【0013】
また、ポリアニリンやポリピロールなどの導電性ポリマー材料、ジスルフィド系ポリマー材料、イオウ(S)、フッ化カーボンなどの有機材料及び無機材料を用いることもできる。
【0014】
好ましくは、電池電圧が高い活物質が用いられる。例えば、リチウムマンガン複合酸化物(LixMn2O4)、リチウムニッケル複合酸化物(LixNiO2)、リチウムコバルト複合酸化物(LixCoO2)、リチウムニッケルコバルト複合酸化物(LiNi1-yCoyO2)、リチウムマンガンコバルト複合酸化物(LixMnyCo1-yO2)、スピネル構造を有するリチウムマンガンニッケル複合酸化物(LixMn2-yNiyO4)、リチウムリン酸鉄(LixFePO4)などが好適に用いられる。なお、上記においてx,yは0〜1の範囲であることが好ましい。
【0015】
導電剤としては、例えば、アセチレンブラック、カーボンブラック、及び黒鉛等を用いることができる。
【0016】
結着剤としては、例えば、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、ポリフッ化ビニリデン(PVdF)、フッ素系ゴム、スチレン-ブタジエンゴム(SBR)、及びカルボキシメチルセルロース(CMC)などを用いることができる。
【0017】
正極活物質、導電剤、及び結着剤の配合比は、正極活物質80〜95重量%、導電剤3〜18重量%、結着剤2〜7重量%の範囲であることが好ましい。
【0018】
正極は、正極活物質、導電剤、及び結着剤を適当な溶媒に懸濁してスラリーを調製し、このスラリーを集電体の片面もしくは両面に塗布し、乾燥することにより作製することができる。
【0019】
2)負極
負極は、負極集電体と負極層を含む。負極層は、負極集電体の片面もしくは両面に形成される。負極層は、負極活物質、導電剤、及び結着剤を含む。負極集電体には、例えば、アルミニウム又はアルミニウム合金を用いることができる。
【0020】
負極活物質には、リチウムイオン吸蔵電位が0.4V(対Li/Li+)以上であるリチウムチタン酸化物が含まれる。リチウムイオン吸蔵電位が0.4V(対Li/Li+)以上の活物質の例には、スピネル構造のチタン酸リチウム(Li4+xTi5O12)、及び、ラムスデライト構造のチタン酸リチウム(Li2+xTi3O7)が含まれる。上記のリチウムチタン酸化物は、単独で用いてもよいが、二種以上を混合して用いてもよい。また、充放電によりリチウムチタン酸化物となるチタン酸化物(例えばTiO2)を活物質として用いてもよい。なお、リチウムチタン酸化物のリチウムイオン吸蔵電位の上限は、これに限定されないが、
2Vであることが好ましい。
【0021】
リチウムチタン酸化物は、平均一次粒子径が1μm以下であることが好ましい。平均一次粒子径が1μm以下であると、電極反応に寄与する有効面積が十分であり、良好な大電流放電特性を得ることができる。
【0022】
また、リチウムチタン酸化物は、比表面積が1〜10m/gであることが好ましい。比表面積が1m/g以上であると、電極反応に寄与する有効面積が十分であり、良好な大電流放電特性を得ることができる。一方、比表面積が10m/g以下であると、非水電解質との反応が抑制され、充放電効率の低下や貯蔵時のガス発生を抑制することができる。
【0023】
導電剤としては、例えば、アセチレンブラック及びカーボンブラックのような炭素材料を用いることができる。
【0024】
結着剤としては、例えば、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、ポリフッ化ビニリデン(PVdF)、フッ素系ゴム、スチレン-ブタジエンゴム(SBR)、及びカルボキシメチルセルロース(CMC)などを用いることができる。
【0025】
負極活物質、導電剤及び結着剤の配合比は、負極活物質70〜95重量%、導電剤0〜25重量%、結着剤2〜10重量%の範囲であることが好ましい。
【0026】
負極は、負極活物質、導電剤、及び結着剤を適当な溶媒に懸濁してスラリーを調製し、このスラリーを集電体の片面もしくは両面に塗布し、乾燥することにより作製することができる。
【0027】
3)セパレータ
セパレータは、正極と負極の間に配置され、正極と負極が接触するのを防止する。セパレータは、絶縁性材料で構成される。また、セパレータは、正極及び負極の間を電解質が移動可能な形状を有する。
【0028】
セパレータの例には、合成樹脂製不織布、ポリエチレン多孔質フィルム、ポリプロピレン多孔質フィルム、及び、セルロース系のセパレータが含まれる。
【0029】
また、上記のようなセパレータと併せて、ゲル状もしくは固体非水電解質層を用いることもできる。又或いは、上記のようなセパレータの代わりにゲル状もしくは固体非水電解質層を用いることも可能である。
【0030】
4)非水電解質
非水電解質には、非水溶媒に電解質を溶解することにより調製される液体状非水電解質(非水電解液)、高分子材料に非水溶媒と電解質を含有した高分子ゲル状電解質、高分子材料に電解質を含有した高分子固体電解質、及び/又は、リチウムイオン伝導性を有する無機固体電解質を用いることができる。
【0031】
非水溶媒としては、リチウム電池に使用可能な非水溶媒を用いることができ、例えば、エチレンカーボネート(EC)及びプロピレンカーボネート(PC)のような環状カーボネート、又は、環状カーボネートと環状カーボネートより低粘度の非水溶媒(以下第2の溶媒)との混合溶媒を主体とする非水溶媒などを用いることができる。
【0032】
第2の溶媒としては、例えば、ジメチルカーボネート、メチルエチルカーボネート、及びジエチルカーボネートのような鎖状カーボネート、γ-ブチロラクトン、アセトニトリル、プロピオン酸メチル、プロピオン酸エチル、テトラヒドロフラン及び2-メチルテトラヒドロフランのような環状エーテル、ジメトキシエタン及びジエトキシエタンのような鎖状エーテルを用いることができる。
【0033】
電解質としては、アルカリ塩が用いることができ、好ましくはリチウム塩が用いられる。リチウム塩の例には、六フッ化リン酸リチウム(LiPF6)、四フッ化硼酸リチウム(LiBF4)、六フッ化ヒ素リチウム(LiAsF6)、過塩素酸リチウム(LiClO4)、及びトリフルオロメタスルホン酸リチウム(LiCF3SO3)が含まれる。これらは、単独で用いても、2種類以上を混合して用いても良い。特に、六フッ化リン酸リチウム(LiPF6)、四フッ化硼酸リチウム(LiBF4)、又はこれらの混合物が好ましい。
【0034】
非水溶媒中の電解質の濃度は、0.5〜2.5モル/Lであることが好ましい。0.5モル/L以上であることにより、電解質の抵抗を低下させ、大電流及び低温放電特性を向上させることができる。一方、2.5モル/L以下であることにより、電解質の融点の上昇を抑制し、常温で液状とすることができる。
【0035】
高分子ゲル状電解質を構成する高分子材料には、ポリアクリロニトリル、ポリアクリレート、ポリフッ化ビニリデン(PVdF)、及びポリエチレンオキシド(PECO)のような単量体の重合体、又は、他の単量体との共重合体を用いることができる。
【0036】
電解質を高分子材料に溶解して固体化した固体電解質の高分子材料には、ポリアクリロニトリル、ポリフッ化ビニリデン(PVdF)、及びポリエチレンオキシド(PEO)のような単量体の重合体、又は、他の単量体との共重合体を用いることができる。
【0037】
無機固体電解質としては、例えば、リチウムを含有したセラミック材料を用いることができる。Li3N又はLi3PO4-Li2S-SiS2ガラスが好適に用いられる。
【0038】
5)外装部材
外装部材としてはラミネート製フィルムを用いることができる。金属製容器は、ガス発生により容器が膨らんだ際に塑性変形するが、ラミネート製フィルムは塑性変形しないため好適に用いられる。
【0039】
ラミネート製フィルムには、樹脂フィルムで被覆された金属箔からなる多層フィルムが用いられる。樹脂フィルムを形成する樹脂には、ポリプロピレン(PP)、ポリエチレン(PE)、ナイロン、及びポリエチレンテレフタレート(PET)のような高分子を用いることができる。ラミネートフィルム製外装部材の内面は、PP及びPEのような熱可塑性樹脂により形成される。
【0040】
ラミネートフィルムの厚さは0.2mm以下であることが好ましい。
【0041】
次に、本実施形態に係る非水電解質二次電池の製造方法を説明する。該方法は、前記正極、負極、及び非水電解質を外装部材に収容し、外装部材の開口部を仮封止して仮封止二次電池を得ることと、前記仮封止二次電池の充電深度(state of charge:SOC)を20%未満(0%を含まず)に調整することと、前記調整された仮封止二次電池を50℃以上90℃以下の雰囲気中で保持することと、前記仮封止二次電池を開封し、内部の気体を排出することと、前記外装部材を本封止することとを含む。
【0042】
電池の製造時に予め負極からガスを放出させ、これを排出することにより、高温貯蔵時におけるガス発生が抑制された非水電解質二次電池を製造することが可能である。
【0043】
(第1の工程)
第1の工程において、図1に示すような仮封止二次電池を作製する。まず、ラミネートフィルムからなる外装部材8内に電極群を収容する。
【0044】
電極群は正極、負極、及びセパレータから構成される。図2に示すように、正極3、セパレータ5、負極4、及びセパレータ5積層し、この積層体を扁平形状に捲回することにより扁平型の電極群2が形成される。
【0045】
正極3には帯状の正極端子6が電気的に接続されている。負極4には帯状の負極端子7が電気的に接続されている。正負極端子は、それぞれ、正負極集電体と一体に形成されていてもよい。或いは、集電体とは別個に形成された端子を集電体と接続してもよい。正負極端子は、積層体を捲回する前に正負極のそれぞれと接続してもよい。或いは、積層体を捲回した後に接続してもよい。
【0046】
外装部材8は、ラミネートフィルムを、熱可塑性樹脂フィルム側から張り出し加工または深絞り加工をしてカップ状の電極群収容部を形成した後、熱可塑性樹脂フィルム側を内側にして180°折り曲げて蓋体とすることにより形成される。
【0047】
電極群2を外装部材8の電極群収容部に配置し、正負極端子を容器外部に延出させる。次いで、外装部材8の正負極端子が延出している上端部と、該上端部と直交する端部の一つをヒートシールし、封止部10b、10cを形成する。これにより、一辺が開口部9として開口した状態の外装部材8が形成される。
【0048】
次いで、開口部9から非水電解質を注入し、電極群に非水電解質を含浸させる。ここで、電解液の含浸を促進させるため、電池を厚さ方向に加圧して貯蔵してもよい。
【0049】
その後、開口部9をヒートシールして仮封止部10aを形成することにより、電極群及び電極群に含浸された非水電解質が密封された仮封止二次電池を得る。
【0050】
(第2の工程)
次いで、第2の工程を行う。仮封止二次電池の正極端子6と負極端子7の間に電流を流し、SOCが20%未満(0%を含まず)の範囲になるように初充電する。なお、一時的にSOCが20%を超える値になっても、その後に放電してSOCが20%未満の範囲になっていれば良い。充放電は、常温で行ってよい。
【0051】
負極活物質であるリチウムチタン酸化物の表面には、水や二酸化炭素などが吸着されている。これらの不純物は、負極電位が低いときにガスとして放出されやすい。よって、電池をSOC20%未満の状態にすることにより、ガス発生反応を促進することができる。また、SOCが高く、正極電位が高い場合、負極から放出されたガスは正極で酸化され再度吸収されやすいが、SOC20%未満とすることにより、正極における酸化反応を抑制し、ガスの放出を促進することができる。なお、負極のSOCが0%の状態では、高温で貯蔵しても負極からガスは放出されない。
【0052】
なお、本実施形態において充電深度(SOC)とは、満充電容量に対する単電池の充電容量の比である。満充電容量には、単電池の公称容量が使用される。
【0053】
(第3の工程)
次に、第2の工程においてSOC20%未満に調整された仮封止二次電池を、温度50℃以上90℃以下の雰囲気中において保持する。このとき、主に負極層に吸着していた水や二酸化炭素などが気体として電極群から放出され、外装部材8の中に滞留する。
【0054】
雰囲気温度が50℃未満である場合、電極群からの気体の放出が充分に行われない。また、雰囲気温度が90℃を超える場合、正極や負極の表面における非水電解質の反応が生じやすくなり、被膜が形成されてインピーダンスが上昇し、二次電池の放電容量が低下する。雰囲気温度のより好ましい範囲は60〜80℃である。
【0055】
仮封止二次電池を温度50℃以上90℃以下の雰囲気中において保持する時間は、負極からガスが十分に放出される時間であればよい。これに限定されないが、例えば、5〜50時間とすることができ、好ましくは10〜40時間とすることができる。
【0056】
(第4の工程)
次に、外装部材8の一部を切断するか、又は穴を開け、第3の工程において外装部材8の中に滞留した気体を外部に排出する。例えば、仮封止部10aの内側であってヒートシールされていない部分である開封部11の何れかの位置においてラミネートフィルムを切断することにより、外装部材8を開封することができる。開封は減圧下で、不活性雰囲気下又は乾燥空気中で行うことが好ましい。
【0057】
外装部材8を開封した後、減圧チャンバーなどを用いて非水電解質二次電池を減圧雰囲気下においてもよく、或いは、吸引ノズルを用いて外装部材8の開封口又は穴から気体を吸引してもよい。これらの方法によれば、外装部材8内部の気体をより確実に排出することができる。
【0058】
気体を排出した後、開封部11の切断部より内側で外装部材8をヒートシールすることにより本封止部12を形成して、電極群及び非水電解質を再び密封する。さらに、本封止部12の外側で開封部11を切断する。これにより非水電解質二次電池が得られる。このとき、減圧下で密封することが好ましい。或いは、外装部材8の穴をあけた箇所に粘着テープなどを貼り付けて密封してもよい。得られた非水電解質二次電池は、任意に、充放電を1回以上行ってもよい。
【0059】
以上の工程により、図3に示すような非水電解質二次電池が製造される。図3は、薄型非水電解質二次電池1の部分切欠斜視図である。
【0060】
なお、上記の説明では図3に示す非水電解質二次電池を製造するための仮封止二次電池を例に用いたが、正極端子と負極端子がそれぞれ別々の端部から延出した形態の電池であっても、例えば図4に示すような仮封止二次電池を用いることにより、本実施形態に係る方法により製造することができる。
【0061】
例えば、第1の工程において、外装部材15の相対する端部から正極端子13と負極端子14を延出させた状態で電極群を収容する。正負極端子13,14が延出しているそれぞれの端部をヒートシールして、封止部17c、17bを形成する。次いで、非水電解質を注入し、電極群に含浸させた後、仮封止部17aにおいてヒートシールすることにより、電極群及び電極群に含浸された非水電解質が密封された仮封止二次電池を得る。
【0062】
また、第4の工程においては、仮封止部17aの内側であってヒートシールされていない部分である開封部18の何れかの位置においてラミネートフィルムを切断することにより、外装部材15を開封する。
【0063】
内部のガスを排出した後、開封部18の切断部より内側で外装部材15をヒートシールすることにより本封止部19を形成して、電極群及び非水電解質を再び密封する。その後、本封止部19の外側で開封部18を切断する。これにより非水電解質二次電池が得られる。
【0064】
電池の貯蔵時におけるガス発生の一つの原因として、負極活物質に不純物が含まれていることが考えられる。特に、リチウムイオン吸蔵電位が0.4V(対Li/Li+)以上のリチウムチタン酸化物は微量の水分を吸着しており、その水分が分解してガスを発生することが考えられる。しかしながら、本実施形態における工程を行うことによって、負極から放出されるガスが予め排出することができ、製造後の非水電解質電池におけるガスの発生を抑制することが可能である。これにより、電池の膨れを抑制することが可能である。またさらに、本実施形態の方法によれば、電極やセパレータの劣化が少なく、インピーダンスの上昇を抑制することが可能である。
【0065】
また、リチウムチタン酸化物は、一次粒子の平均粒径が1μm以下であり、比表面積が1m/g以上10m/g以下である場合、表面積が大きく、吸着した水が多くなるため、本実施形態による方法がより有効に作用する。
【0066】
本実施形態によって製造された非水電解質二次電池は、SOCを100%に充電したときの正極の電位が4.5V(対Li/Li+)以下であることが好ましい。
【0067】
負極からガスが放出される際には負極が自己放電しているため、正極との間で電位差(SOCの差)が生じる。このSOCの差は、完成後の電池を充電したときにも維持される。そのため、第2の工程のときの正極電位が4.5V以下であっても、第3の工程においてガスが発生することにより正負極間で電位差が生じ、その後に充電した際に、電池の正極電位が4.5Vを越える場合がある。正極の電位が高すぎると、正極が劣化しやすいため、非水電解質二次電池は、SOCを100%に充電したときの正極の電位が4.5V(対Li/Li+)以下であることが好ましい。
【0068】
また、SOC100%の状態の電池では、正極電位が高いほどガス発生量が増大する。よって、このような理由からも、SOCを100%に充電したときの正極の電位が4.5V(対Li/Li+)以下であることが好ましい。
【0069】
以上の実施形態によれば、高温で貯蔵した際の膨れを防止でき、かつインピーダンスの上昇を抑制できる非水電解質二次電池を提供することができる。
【実施例】
【0070】
(実施例1)
<正極の作製>
正極活物質としてリチウムコバルト酸化物(LiCoO2)粉末90重量%、アセチレンブラック3重量%、グラファイト3重量%、及びポリフッ化ビニリデン(PVdF)4重量%を、N−メチルピロリドン(NMP)に加えて混合し、スラリーを調製した。このスラリーを厚さ15μmのアルミニウム箔からなる集電体の両面に塗布し、乾燥後、プレスすることにより、密度3.0g/cm、面積1mあたりの正極層の質量が100gの正極を作製した。
【0071】
<負極の作製>
負極活物質としてスピネル構造を有するリチウムチタン酸化物(Li4Ti5O12)の粉末95重量%と、導電剤としてのアセチレンブラック2.5重量%と、ポリフッ化ビニリデン(PVdF)2.5重量%とを、N−メチルピロリドン(NMP)溶液に加えて混合し、スラリーを調製した。このスラリーを厚さが15μmのアルミ箔からなる集電体の両面に塗布し、乾燥し、プレスすることにより、密度2.2g/cm、面積1mあたりの負極層の重量が100gの負極を作製した。Li4Ti5O12のリチウムイオン吸蔵電位は1.55V(対Li/Li+)である。
【0072】
<電極群の作製>
上記で作製した正極と、厚さ20μmのポリエチレン製多孔質フィルムからなるセパレータと、上記で作製した負極と、セパレータとを、この順序で積層した後、負極が最外周に位置するように渦巻き状に捲回して電極群を作製した。これを90℃で加熱プレスすることにより、幅が58mmで、厚さが3.0mmの偏平状電極群を作製した。得られた電極群を、厚さが40μmのアルミニウム箔とそのアルミニウム箔の両面に形成されたポリプロピレン層とで構成された、厚さが0.1mmのラミネートフィルムからなる外装部材に収容し、80℃で24時間真空乾燥した。
【0073】
<非水電解質の調製>
エチレンカーボネート(EC)とメチルエチルカーボネート(MEC)の混合溶媒(混合体積比率1:2)、に六フッ化リン酸リチウム(LiPF6)を1.0モル/Lの濃度で溶解して非水電解質を調製した。
【0074】
<第1の工程〜第4の工程>
第1の工程として、ラミネートフィルムからなる外装部材に一辺から正負極端子が延出した状態で電極群を収容した。該外装部材中に非水電解質を注入し、電極群に非水電解質を含浸させた。次いで、ラミネートフィルムを密封し、仮封止二次電池を得た。
【0075】
第2の工程として、仮封止二次電池の負極端子と正極端子の間に電流を流し、SOCが6%になるまで電極群を充電した。
【0076】
第3の工程として、仮封止二次電池を温度70℃の雰囲気中で24時間保持した。
【0077】
第4の工程として、保持後の仮封止二次電池のラミネートフィルムの一部を切り取って減圧チャンバーに入れ、気体を排出した。次いで、ラミネートフィルムの一部をヒートシールにより再度密封した。
【0078】
このようにして、図1に示すような構造を有し、幅が62mmで、厚さが3.2mm、かつ高さが95mm、放電容量1.5Ahの非水電解質二次電池を作製した。
【0079】
なお、この非水電解質二次電池におけるSOCは、放電容量の1.5Ahに対する充電電気量の比として求められる。即ち、前記第2の工程において流した電流の電気量(電流値(単位A)と時間(単位h)の積)が0.09Ahであるとすれば、その電流を流した後のSOCは、0.09/1.5×100=6%である。電流を流している間の電流値が時間によって変動する場合は、その電流を流した間の電流値を時間に対して積分して電気量を求め、上記のようにしてSOCを算出する。
【0080】
(実施例2)
第2の工程におけるSOCを1%とした以外、実施例1と同様な非水電解質二次電池を作製した。
【0081】
(実施例3)
第2の工程におけるSOCを18%とした以外、実施例1と同様な非水電解質二次電池を作製した。
【0082】
(実施例4)
第3の工程における雰囲気の温度を50℃とした以外、実施例1と同様な非水電解質二次電池を作製した。
【0083】
(実施例5)
第3の工程における雰囲気の温度を80℃とした以外、実施例1と同様な非水電解質二次電池を作製した。
【0084】
(実施例6)
第3の工程における雰囲気に保つ時間を12時間とした以外、実施例1と同様な非水電解質二次電池を作製した。
【0085】
(実施例7)
第3の工程における雰囲気に保つ時間を48時間とした以外、実施例1と同様な非水電解質二次電池を作製した。
【0086】
(実施例8)
正極スラリーの塗布量を調整し、面積1mあたりの正極層の重量が95gとした以外、実施例1と同様な非水電解質二次電池を作製した。
【0087】
(実施例9)
正極スラリーの塗布量を調整し、面積1mあたりの正極層の重量が90gとした以外、実施例1と同様な非水電解質二次電池を作製した。
【0088】
(比較例1)
第4の工程における気体の排出を行わない以外、実施例1と同様な非水電解質二次電池を作製した。
【0089】
(比較例2)
第2の工程におけるSOCを22%とした以外、実施例1と同様な非水電解質二次電池を作製した。
【0090】
(比較例3)
第3の工程における雰囲気の温度を40℃とした以外、実施例1と同様な非水電解質二次電池を作製した。
【0091】
(比較例4)
第3の工程における雰囲気の温度を95℃とした以外、実施例1と同様な非水電解質二次電池を作製した。
【0092】
(比較例5)
第3の工程を行わない以外、実施例1と同様な非水電解質二次電池を作製した。
【0093】
(比較例6)
第2の工程を行わない以外、実施例1と同様な非水電解質二次電池を作製した。
【0094】
(比較例7)
負極活物質として黒鉛化カーボンファイバー95重量%と、ポリフッ化ビニリデン(PVdF)5重量%とを、N−メチルピロリドン(NMP)溶液に加えて混合し、スラリーを調製した。このスラリーを厚さが15μmの銅箔からなる集電体の両面に塗布し、乾燥し、プレスすることにより、面積1mあたりの負極層の重量が100gの負極を作製した。黒鉛化カーボンファイバーのリチウムイオン吸蔵電位は0.03V(対Li/Li+)である。
【0095】
<測定>
上記のようにして作製した実施例1〜9、比較例1〜7の非水電解質二次電池について、以下の測定を行った。
【0096】
(正極電位の測定)
非水電解質二次電池のSOCを100%に調整し、温度25℃、露点−70℃以下のアルゴングローブボックス中でラミネートフィルムの一部を切り取り、金属リチウム片にリード線としてのステンレス線材を取り付けセパレータと同じ材質のポリエチレン製多孔質フィルムで包んだものを差し込み、リチウム参照極とした。この状態での正極端子とリチウム参照極との間の電圧が正極電位である。各電池について正極電位を測定した。その結果を表1に示す。
【0097】
(インピーダンスの測定)
非水電解質二次電池のSOCを50%に調整し、温度25℃の大気中で、交流インピーダンス計を用いて、負極端子と正極端子との間の、周波数1kHzにおける交流インピーダンスを測定し、非水電解質二次電池のインピーダンスとした。その結果を表1に示す。
【0098】
(SOC25%、温度65℃で貯蔵したときの厚さ増加)
非水電解質二次電池のSOCを50%に調整し、セル温度25℃で平行平板に挟んだ状態での非水電解質二次電池の厚さを測定した。その後、SOCを25%に調整し、温度65℃の恒温槽中で100時間貯蔵した。その後、再びSOCを50%に調整し、セル温度25℃で平行平板に挟んだ状態での非水電解質二次電池の厚さを測定した。このときの貯蔵前後での厚さの増加を求めた。その結果を表1に示す。
【0099】
(SOC100%、温度65℃で貯蔵したときの厚さ増加)
非水電解質二次電池のSOCを50%に調整し、セル温度25℃で平行平板に挟んだ状態での非水電解質二次電池の厚さを測定した。その後、SOCを100%に調整し、温度65℃の恒温槽中で100時間貯蔵した。その後、再びSOCを50%に調整し、セル温度25℃で平行平板に挟んだ状態での非水電解質二次電池の厚さを測定した。このときの貯蔵前後での厚さの増加を求めた。その結果を表1に示す。
【表1】

【0100】
実施例1〜9は何れも、SOC25%の状態で高温貯蔵した際のガス発生による厚さの増加が小さく、且つ、インピーダンスも上昇しなかった。実施例9は、SOC100%に充電した時の正極電位が4.5Vを越えるため、SOC100%の状態での厚さの増加が実施例1〜8と比較して大きかったものの、インピーダンスは上昇せず、また、SOC25%の状態での厚さの増加も小さかった。
【0101】
第4の工程を行わなかった比較例1は、SOC25%及び100%の状態での厚さの増加が大きかった。
【0102】
第2の工程におけるSOCが20%以上であった比較例2は、SOC25%で貯蔵した際の厚さ増加が小さかったものの、インピーダンスが上昇した。これは、第2の工程におけるSOCが高く、正極表面で副反応がおきたためと考えられる。
【0103】
第3の工程における温度が50℃未満であった比較例3は、インピーダンスは上昇しなかったものの、SOC25%で貯蔵した際の厚さ増加が大きかった。これは、貯蔵する際の温度が低く、電極群からのガスの放出が充分に行われなかったためと考えられる。
【0104】
第3の工程における温度が90℃を超えた比較例4は、SOC25%で貯蔵した際の厚さ増加が小さかったものの、インピーダンスが上昇した。これは、貯蔵する際の温度が高く、電極表面に被膜が形成されたためと考えられる。
【0105】
第3の工程を行わなかった比較例5、及び、第2の工程を行わなかった比較例6は、SOC25%で貯蔵した際の厚さ増加が著しく大きかった。
【0106】
負極活物質のリチウムイオン吸蔵電位が0.4V(対Li/Li+)未満である比較例7は、SOC25%で貯蔵したときの厚さ増加は大きくないものの、SOC100%で貯蔵したときの厚さ増加が著しく大きかった。
【0107】
以上のことから、本実施形態の方法によれば、非水電解質二次電池をSOC25%の状態で高温貯蔵した際のガス発生による厚さの増加を防止でき、かつインピーダンスの上昇を抑制できることが確認された。
【0108】
一方、第2、第3及び第4の工程の何れかを行わず、或いは、第2の工程におけるSOCの範囲、第3の工程における温度の範囲のいずれかが本実施形態の範囲外である場合、SOC25%で貯蔵した際に厚さが増加し、あるいは、インピーダンスが上昇することが示された。
【0109】
本発明のいくつかの実施形態を説明したが、これらの実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら新規な実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれるとともに、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれる。
【符号の説明】
【0110】
1…非水電解質二次電池、2…電極群、3…正極、4…負極、5…セパレータ、6…正極端子、7…負極端子、8…外装袋、9…開口部、10a…仮封止部、10b、10c…封止部、11…開封部、12…本封止部。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
正極と、
リチウムイオン吸蔵電位が0.4V(対Li/Li+)以上のリチウムチタン酸化物を含む負極と、
非水電解質と、を含む非水電解質二次電池の製造方法において、
前記正極、負極、及び非水電解質を外装部材に収容し、外装部材の開口部を仮封止して仮封止二次電池を得ることと、
前記仮封止二次電池の充電深度(SOC)を20%未満(0%を含まず)に調整することと、
前記調整された仮封止二次電池を50℃以上90℃以下の雰囲気中で保持することと、
前記仮封止二次電池を開封し、内部の気体を排出することと、
前記外装部材を本封止することと、
を含むことを特徴とする、非水電解質二次電池の製造方法。
【請求項2】
SOCを100%に充電したときの前記正極の電位が4.5V(対Li/Li+)以下であることを特徴とする、請求項1に記載の非水電解質二次電池。
【請求項3】
前記リチウムチタン酸化物は、スピネル構造のチタン酸リチウム、ラムスデライト構造のチタン酸リチウムから選択されることを特徴とする、請求項1又は2に記載の非水電解質二次電池。
【請求項4】
前記リチウムチタン酸化物の一次粒子の平均粒径が1μm以下であることを特徴とする、請求項1〜3の何れか一項に記載の非水電解質二次電池。
【請求項5】
前記リチウムチタン酸化物の比表面積が1m/g以上10m/g以下であることを特徴とする、請求項1〜4の何れか一項に記載の非水電解質二次電池。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2012−79561(P2012−79561A)
【公開日】平成24年4月19日(2012.4.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−224246(P2010−224246)
【出願日】平成22年10月1日(2010.10.1)
【出願人】(000003078)株式会社東芝 (54,554)
【Fターム(参考)】