説明

非水電解質二次電池用負極材及びその製造方法、ならびにリチウムイオン二次電池

【解決手段】珪素ナノ粒子が酸化珪素中に分散した構造を有する複合粒子であって、珪素ナノ粒子のサイズが1〜100nmであり、かつ0<酸素/珪素(モル比)<1.0である複合粒子からなる非水電解質二次電池用負極材。
【効果】本発明で得られた非水電解質二次電池用負極材をリチウムイオン二次電池負極材として用いることで、初回充放電効率が高く、高容量でかつサイクル性に優れたリチウムイオン二次電池を得ることができる。また、製造方法についても簡便であり、工業的規模の生産にも十分耐え得るものである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、リチウムイオン二次電池用負極活物質として用いた際に、高い初回充放電効率及び高容量、ならびに良好なサイクル特性を有する非水電解質二次電池用負極材及びその製造方法、ならびにリチウムイオン二次電池に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、携帯型の電子機器、通信機器等の著しい発展に伴い、経済性と機器の小型化、軽量化の観点から、高エネルギー密度の非水電解質二次電池が強く要望されている。従来、この種の非水電解質二次電池の高容量化策として、例えば、負極材料にB、Ti、V、Mn、Co、Fe、Ni、Cr、Nb、Mo等の酸化物及びそれらの複合酸化物を用いる方法(特許第3008228号公報、特許第3242751号公報:特許文献1,2参照)、熔湯急冷したM100-xSix(x≧50at%,M=Ni、Fe、Co、Mn)を負極材として適用する方法(特許第3846661号公報:特許文献3参照)、負極材料に珪素の酸化物を用いる方法(特許第2997741号公報:特許文献4参照)、負極材料にSi22O,Ge22O及びSn22Oを用いる方法(特許第3918311号公報:特許文献5参照)等が知られている。
【0003】
この中で、酸化珪素はSiOx(ただし、xは酸化被膜のため理論値の1よりわずかに大きい)と表記することができるが、X線回折による分析では数nm〜数十nm程度のナノシリコンが酸化珪素中に微分散している構造をとっている。このため、電池容量は珪素と比較して小さいものの、炭素と比較すれば質量あたりで5〜6倍と高く、さらには体積膨張も小さく、負極活物質として使用しやすいと考えられていた。しかしながら、酸化珪素は不可逆容量が大きく、初期効率が70%程度と非常に低いため実際に電池を作製した場合では正極の電池容量を過剰に必要とし、活物質あたり5〜6倍の容量増加分に見合うだけの電池容量の増加を期待することができなかった。
【0004】
このように酸化珪素の実用上の問題点は著しく初期効率が低い点にあり、これを解決する手段としては不可逆容量分を補充する方法、不可逆容量を抑制する方法が挙げられる。たとえばLi金属をあらかじめドープすることで、不可逆容量分を補う方法が有効であることが報告されている。しかしながら、Li金属をドープするためには負極活物質表面にLi箔を貼り付ける方法(特開平11−086847号公報:特許文献6参照)、及び負極活物質表面にLi蒸着する方法(特開2007−122992号公報:特許文献7参照)等が開示されているが、Li箔の貼り付けでは酸化珪素負極の初期効率に見合ったLi薄体の入手が困難、かつ高コストであり、Li蒸気による蒸着は製造工程が複雑となって実用的でない等の問題があった。
【0005】
一方、LiドープによらずにSiの質量割合を高めることで初期効率を増加させる方法が提案されている。ひとつには珪素粒子を酸化珪素粒子に添加して酸化珪素の質量割合を減少させる方法であり(特許第3982230号公報:特許文献8参照)、他方では酸化珪素の製造段階において珪素蒸気を同時に発生、析出することで珪素と酸化珪素の混合固体を得る方法である(特開2007−290919号公報:特許文献9参照)。しかしながら、珪素は酸化珪素と比較して高い初期効率と電池容量を併せ持つが、充電時に400%もの体積膨張率を示す活物質であり、酸化珪素と炭素材料の混合物に添加する場合であっても、酸化珪素の体積膨張率を維持することができないうえ、結果的に炭素材料を20質量%以上添加して電池容量が1000mAh/gに抑えることが必要であった。一方、珪素と酸化珪素の蒸気を同時に発生させて混合固体を得る方法では、珪素の蒸気圧が低いことから2000℃を超える高温での製造工程を必要とし、作業上問題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特許第3008228号公報
【特許文献2】特許第3242751号公報
【特許文献3】特許第3846661号公報
【特許文献4】特許第2997741号公報
【特許文献5】特許第3918311号公報
【特許文献6】特開平11−086847号公報
【特許文献7】特開2007−122992号公報
【特許文献8】特許第3982230号公報
【特許文献9】特開2007−290919号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、酸化珪素の高い電池容量と低い体積膨張率を維持しつつ、初回充放電効率が高く、サイクル特性に優れた非水電解質二次電池負極用として有効な負極材及びその製造方法、ならびに負極材を含むリチウムイオン二次電池を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは炭素材料の電池容量を上回る活物質であって、珪素系負極活物質特有の体積膨張変化を抑制し、かつ珪素酸化物の欠点であった初回充放電効率の低下を向上させることが可能な珪素系活物質について検討した。その結果、SiOxで表される珪素ナノ粒子が酸化珪素中に分散した構造の粒子を負極活物質として用いた場合、酸化珪素中の酸素とLiイオンが反応し、不可逆なLi4SiO4が生成するため、初回の充放電効率が低下することが判明した。すなわち、従来技術で説明したような酸化珪素粒子に珪素粒子を添加する方法で得られた負極材は、最終的に見掛けの酸素含有量が低下することとなり、初回充放電効率が向上する結果となる。但し、どのような物性の珪素粒子を添加しても、充電時に電極の体積膨張が大きくなり、サイクル性が著しく低下するものであった。本発明者らは、サイズ1〜100nmの珪素ナノ粒子が酸化珪素中に分散した構造を有する粒子を、酸性雰囲気下でエッチングすることにより、上記粒子中の二酸化珪素を選択的に除去することができ、粒子中の酸素と珪素との比率を、0<酸素/珪素(モル比)<1.0とすることができ、このような粒子を活物質とする非水電解質二次電池用負極材として用いることで、初回充放電効率が向上するとともに、高容量でサイクル性に優れた非水電解質二次電池を得られることを知見し、本発明をなすに至ったものである。
【0009】
従って、本発明は下記非水電解質二次電池用負極材及びその製造方法、ならびにリチウムイオン二次電池を提供する。
[1].珪素ナノ粒子が酸化珪素中に分散した構造を有する複合粒子であって、珪素ナノ粒子のサイズが1〜100nmであり、かつ0<酸素/珪素(モル比)<1.0である複合粒子からなる非水電解質二次電池用負極材。
[2].複合粒子が、珪素ナノ粒子が酸化珪素中に分散した構造を有する粒子を、酸性雰囲気下でエッチングしてなることを特徴とする[1]記載の非水電解質二次電池用負極材。
[3].複合粒子の平均粒子径が0.1〜50μm、BET比表面積が0.5〜100m2/gである[1]又は[2]記載の非水電解質二次電池用負極材。
[4].複合粒子の表面が、カーボン被膜で被覆されていることを特徴とする[1]、[2]又は[3]記載の非水電解質二次電池用負極材。
[5].[1]〜[4]のいずれかに記載の非水電解質二次電池用負極材を含むことを特徴とするリチウムイオン二次電池。
[6].珪素ナノ粒子が酸化珪素中に分散した構造を有する粒子を、酸性雰囲気下でエッチングすることを特徴とする、[1]記載の非水電解質二次電池用負極材の製造方法。
【発明の効果】
【0010】
本発明で得られた非水電解質二次電池用負極材をリチウムイオン二次電池負極材として用いることで、初回充放電効率が高く、高容量でかつサイクル性に優れたリチウムイオン二次電池を得ることができる。また、製造方法についても簡便であり、工業的規模の生産にも十分耐え得るものである。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明について詳細に説明する。
本発明の非水電解質二次電池用負極材は、珪素ナノ粒子が酸化珪素中に分散した構造を有する複合粒子であって、珪素ナノ粒子のサイズが1〜100nmであり、かつ0<酸素/珪素(モル比)<1.0である複合粒子からなるものである。本発明の複合粒子は、例えば、珪素ナノ粒子が酸化珪素中に分散した構造を有する粒子を、酸性雰囲気下でエッチングすることにより、得ることができる。
【0012】
原料となる珪素ナノ粒子が酸化珪素中に分散した構造を有する粒子は、例えば、珪素の微粒子を珪素系化合物と混合したものを焼成する方法や、一般式SiOxで表される不均化前の酸化珪素粒子を、アルゴン等不活性な非酸化性雰囲気中、400℃以上、好適には800〜1,100℃の温度で熱処理し、不均化反応を行うことで得ることができる。特に後者の方法で得た材料は、珪素の微結晶が均一に分散されるため好ましい。上記不均化反応により、珪素ナノ粒子のサイズを1〜100nmとすることができる。珪素ナノ粒子が酸化珪素中に分散した構造を有する粒子中の酸化珪素については、二酸化珪素が好ましい。なお、透過電子顕微鏡によって、シリコンのナノ粒子(結晶)が無定形の酸化珪素に分散していることが確認される。
【0013】
なお、本発明において酸化珪素とは、非晶質の珪素酸化物の総称である。不均化前の酸化珪素は、一般式SiOx(1.0≦x≦1.10)で表される。酸化珪素は、二酸化珪素と金属珪素との混合物を加熱して生成した一酸化珪素ガスを冷却・析出して得ることができる。
【0014】
不均化前の酸化珪素粒子、珪素ナノ粒子が酸化珪素中に分散した構造を有する粒子の物性は、目的とする複合粒子により適宜選定されるが、平均粒子径は0.1〜50μmが好ましく、下限は0.2μm以上がより好ましく、0.5μm以上がさらに好ましい。上限は30μm以下がより好ましく、20μm以下がさらに好ましい。なお、本発明において平均粒子径は、レーザー光回折法による粒度分布測定における重量平均粒子径で表すことができる。BET比表面積は0.5〜100m2/gが好ましく、1〜20m2/gがより好ましい。
【0015】
酸性雰囲気下とは、酸性水溶液でも酸を含有するガスであってもよく、その組成は特に制限はされない。例えば、酸としては、フッ化水素、塩酸、硝酸、過酸化水素、硫酸、酢酸、リン酸、クロム酸、ピロリン酸等が挙げられ、これらは1種単独で又は2種以上を適宜組み合わせて用いることができる。エッチングとは、上記酸を含有する酸性水溶液又は酸を含有するガスで、珪素ナノ粒子が酸化珪素中に分散した構造を有する粒子を処理することをいう。酸性水溶液で処理する方法としては、珪素ナノ粒子が酸化珪素中に分散した構造を有する粒子を、酸性水溶液中で撹拌する方法が挙げられる。酸を含有するガスで処理する方法としては、珪素ナノ粒子が酸化珪素中に分散した構造を有する粒子を反応器内に仕込み、酸を含有するガスを反応器内に供給し、該粒子を処理する方法が挙げられる。また、酸の濃度と処理時間は目標のエッチング量に対して適宜選択すればよい。また、処理温度についても特に限定されるものではないが、0〜1,200℃が好ましく、さらに好ましくは0〜1,100℃である。1,200℃を超えると珪素ナノ粒子が酸化珪素中に分散した構造中の珪素の結晶が大きくなりすぎて、容量が低下するおそれがある。
【0016】
珪素ナノ粒子が酸化珪素中に分散した構造を有する粒子を、酸性雰囲気下でエッチングすることにより、上記粒子中の二酸化珪素を選択的に除去することができ、粒子中の酸素と珪素との比率を、0<酸素/珪素(モル比)<1.0とすることができる。
【0017】
本発明における非水電解質二次電池用負極材は導電性を付与することが好ましい。導電性はカーボン等導電性のある粒子と混合したり、上記複合粒子の表面を、カーボン被膜で被覆する方法、両方を組み合わせること等で得られる。カーボン被膜で被覆する方法としては、複合粒子を有機物ガス中で化学蒸着(CVD)する方法が好適であり、熱処理時に反応器内に有機物ガスを導入することで効率よく行うことが可能である。
【0018】
具体的には、上記で得られた複合粒子を、有機物ガス中、50Pa〜30,000Paの減圧下、700〜1,200℃で化学蒸着することにより得ることができる。上記圧力は、50Pa〜10,000Paが好ましく、50Pa〜2,000Paがより好ましい。減圧度が30,000Paより大きいと、グラファイト構造を有する黒鉛材の割合が大きくなり過ぎて、非水電解質二次電池用負極材として用いた場合、電池容量の低下に加えてサイクル性が低下するおそれがある。化学蒸着温度は800〜1,200℃が好ましく、900〜1,100℃がより好ましい。処理温度が800℃より低いと、長時間の処理が必要となるおそれがある。逆に1,200℃より高いと、化学蒸着処理により粒子同士が融着、凝集を起こす可能性があり、凝集面で導電性被膜が形成されず、非水電解質二次電池用負極材として用いた場合、サイクル性能が低下するおそれがある。なお、処理時間は目的とするカーボン被覆量、処理温度、有機物ガスの濃度(流速)や導入量等によって適宜選定されるが、通常、1〜10時間、特に2〜7時間程度が経済的にも効率的である。
【0019】
本発明における有機物ガスを発生する原料として用いられる有機物としては、特に非酸性雰囲気下において、上記熱処理温度で熱分解して炭素(黒鉛)を生成し得るものが選択され、例えば、メタン、エタン、エチレン、アセチレン、プロパン、ブタン、ブテン、ペンタン、イソブタン、ヘキサン等の炭化水素の単独もしくは混合物、ベンゼン、トルエン、キシレン、スチレン、エチルベンゼン、ジフェニルメタン、ナフタレン、フェノール、クレゾール、ニトロベンゼン、クロルベンゼン、インデン、クマロン、ピリジン、アントラセン、フェナントレン等の1環〜3環の芳香族炭化水素もしくはこれらの混合物が挙げられる。また、タール蒸留工程で得られるガス軽油、クレオソート油、アントラセン油、ナフサ分解タール油等も単独もしくは混合物として用いることができる。
【0020】
この場合のカーボン被覆量は特に限定されるものではないが、カーボン被覆した粒子全体に対して0.3〜40質量%が好ましく、0.5〜30質量%がより好ましい。カーボン被覆量が0.3質量%未満では、十分な導電性を維持できないおそれがあり、結果として非水電解質二次電池用負極材とした際にサイクル性が低下する場合がある。逆にカーボン被覆量が40質量%を超えても、効果の向上が見られないばかりか、負極材料に占める黒鉛の割合が多くなり、非水電解質二次電池用負極材として用いた場合、充放電容量が低下する場合がある。
【0021】
[複合粒子]
本発明の複合粒子は、珪素ナノ粒子が酸化珪素中に分散した構造を有し、0<酸素/珪素(モル比)<1.0であり、0.7<酸素/珪素(モル比)<0.9が好ましい。上記モル比が1.0以上だとエッチングの効果が十分得られない。小さすぎると充電時の膨張が大きくなるおそれがある。
【0022】
複合粒子の珪素ナノ粒子のサイズは、1〜100nmであり、3〜10nmがより好ましい。珪素ナノ粒子のサイズが小さすぎるとエッチング後の回収が難しくなり、大きすぎるとサイクル特性に悪影響を及ぼすおそれがある。なお、サイズは透過電子顕微鏡によって、測定することができる。
【0023】
また、複合粒子の物性は特に限定されないが、平均粒子径は0.1〜50μmが好ましく、下限は0.2μm以上がより好ましく、0.5μm以上がさらに好ましい。上限は30μm以下がより好ましく、20μm以下がさらに好ましい。平均粒子径が0.1μmより小さい粒子は、比表面積が大きくなり、粒子表面の二酸化珪素の割合が大きくなり、非水電解質二次電池用負極材として用いた際に電池容量が低下するおそれがあり、50μmより大きいと電極に塗布した際に異物となり、電池特性が低下するおそれがある。なお、平均粒子径は、レーザー光回折法による粒度分布測定における重量平均粒子径で表すことができる。
【0024】
BET比表面積は0.5〜100m2/gが好ましく、1〜20m2/gがより好ましい。BET比表面積が0.5m2/gより小さいと、電極に塗布した際の接着性が低下し、電池特性が低下するおそれがあり、100m2/gより大きいと、粒子表面の二酸化珪素の割合が大きくなり、リチウムイオン二次電池負極材として用いた際に電池容量が低下するおそれがある。
【0025】
[非水電解質二次電池用負極材]
本発明は、上記サイズ1〜100nmの珪素ナノ粒子が酸化珪素中に分散した構造を有し、0<酸素/珪素(モル比)<1.0である複合粒子を活物質として、非水電解質二次電池用負極材に用いるものであり、本発明で得られた非水電解質二次電池用負極材を用いて、負極を作製し、リチウムイオン二次電池を製造することができる。
【0026】
なお、上記非水電解質二次電池用負極材を用いて負極を作製する場合、カーボン、黒鉛等の導電剤を添加することができる。この場合においても導電剤の種類は特に限定されず、構成された電池において、分解や変質を起こさない電子伝導性の材料であればよく、具体的にはAl,Ti,Fe,Ni,Cu,Zn,Ag,Sn,Si等の金属粒子や金属繊維又は天然黒鉛、人造黒鉛、各種のコークス粒子、メソフェーズ炭素、気相成長炭素繊維、ピッチ系炭素繊維、PAN系炭素繊維、各種の樹脂焼成体等の黒鉛を用いることができる。
【0027】
負極(成型体)の調製方法としては下記の方法が挙げられる。上記珪素ナノ粒子が酸化珪素中に分散した構造を有し、0<酸素/珪素(モル比)<1.0である複合粒子と、必要に応じて導電剤と、結着剤等の他の添加剤とに、N−メチルピロリドン又は水等の溶剤を混練してペースト状の合剤とし、この合剤を集電体のシートに塗布する。この場合、集電体としては、銅箔、ニッケル箔等、通常、負極の集電体として使用されている材料であれば、特に厚さ、表面処理の制限なく使用することができる。なお、合剤をシート状に成形する成形方法は特に限定されず、公知の方法を用いることができる。
【0028】
[リチウムイオン二次電池]
リチウムイオン二次電池は、上記負極材を用いる点に特徴を有し、その他の正極、負極、電解質、セパレータ等の材料及び電池形状等は公知のものを使用することができ、特に限定されない。例えば、正極活物質としてはLiCoO2、LiNiO2、LiMn24、V25、MnO2、TiS2、MoS2等の遷移金属の酸化物、リチウム、及びカルコゲン化合物等が用いられる。電解質としては、例えば、六フッ化リン酸リチウム、過塩素酸リチウム等のリチウム塩を含む非水溶液が用いられ、非水溶媒としてはプロピレンカーボネート、エチレンカーボネート、ジエチルカーボネート、ジメトキシエタン、γ−ブチロラクトン、2−メチルテトラヒドロフラン等の1種又は2種以上を組み合わせて用いられる。また、それ以外の種々の非水系電解質や固体電解質も使用できる。
【0029】
[電気化学キャパシタ]
また、電気化学キャパシタを得る場合は、電気化学キャパシタは、上記負極材を用いる点に特徴を有し、その他の電解質、セパレータ等の材料及びキャパシタ形状等は限定されない。例えば、電解質として六フッ化リン酸リチウム、過塩素リチウム、ホウフッ化リチウム、六フッ化砒素酸リチウム等のリチウム塩を含む非水溶液が用いられ、非水溶媒としてはプロピレンカーボネート、エチレンカーボネート、ジメチルカーボネート、ジエチルカーボネート、ジメトキシエタン、γ−ブチロラクトン、2−メチルテトラヒドロフラン等の1種又は2種以上を組み合わせて用いられる。また、それ以外の種々の非水系電解質や固体電解質も使用できる。
【実施例】
【0030】
以下、実施例及び比較例を示し、本発明を具体的に説明するが、本発明は下記の実施例に制限されるものではない。
【0031】
[実施例1]
平均粒子径が5μm、BET比表面積が3.5m2/gのSiOx(x=1.01)100gを、アルゴン通気中1,000℃・3時間熱処理したものを用いた。この熱処理粒子は透過電子顕微鏡により、珪素ナノ粒子が酸化珪素中に分散した構造が確認された。
室温にて、上記処理したものを2Lポリ瓶に投入し、メタノール30mLをなじませてから純水200mLを加えた。浸透させて粉体全体を純水と接触させてから、50質量%フッ化水素水溶液(フッ酸)5mLを静かに加え、攪拌した(フッ化水素濃度1.1質量%、熱処理粒子100gに対してフッ化水素2.5g)。
室温にて1時間静置後、純水で洗浄・濾過したものを120℃・5時間減圧乾燥し、粒子92.5gを得た。この粒子の酸素濃度を堀場製作所EMGA−920で測定したところ、32.3質量%であり、酸素/珪素のモル比は0.84であることが確認された。
この粒子をバッチ式加熱炉内に仕込んだ。油回転式真空ポンプで炉内を減圧しつつ炉内を1,100℃に昇温し、1,100℃に達した後にCH4ガスを0.3NL/min流入し、5時間のカーボン被覆処理を行った。なお、この時の減圧度は800Paであった。処理後は降温し、97.5gの黒色粒子を得た。得られた黒色粒子は、平均粒子径5.2μm、BET比表面積が6.5m2/gで、黒色粒子に対するカーボン被覆量5.1質量%の導電性粒子であった。なお、得られた粒子は、透過電子顕微鏡により、珪素ナノ粒子が酸化珪素中に分散した構造が確認され、珪素ナノ粒子のサイズは5nmであった。
【0032】
<電池評価>
次に、以下の方法で、得られた粒子を負極活物質として用いた電池評価を行った。
得られた粒子45質量%と人造黒鉛(平均粒子径10μm)45質量%、ポリイミド10質量%を混合し、さらにN−メチルピロリドンを加えてスラリーとし、このスラリーを厚さ12μmの銅箔に塗布し、80℃で1時間乾燥後、ローラープレスにより電極を加圧成形し、この電極を350℃で1時間真空乾燥した後、2cm2に打ち抜き、負極とした。ここで、得られた負極の充放電特性を評価するために、対極にリチウム箔を使用し、非水電解質として六フッ化リン酸リチウムをエチレンカーボネートとジエチルカーボネートの1/1(体積比)混合液に1モル/Lの濃度で溶解した非水電解質溶液を用い、セパレータに厚さ30μmのポリエチレン製微多孔質フィルムを用いた評価用リチウムイオン二次電池を作製した。
【0033】
作製したリチウムイオン二次電池は、一晩室温で放置した後、二次電池充放電試験装置((株)ナガノ製)を用い、テストセルの電圧が0Vに達するまで0.5mA/cm2の定電流で充電を行い、0Vに達した後は、セル電圧を0Vに保つように電流を減少させて充電を行った。そして、電流値が40μA/cm2を下回った時点で充電を終了した。放電は0.5mA/cm2の定電流で行い、セル電圧が1.4Vに達した時点で放電を終了し、放電容量を求めた。
以上の充放電試験を繰り返し、評価用リチウムイオン二次電池の50サイクル後の充放電試験を行った。その結果、初回充電容量2150mAh/g、初回放電容量1720mAh/g、初回充放電効率80%、50サイクル目の放電容量1496mAh/g、50サイクル後のサイクル保持率87%の高容量であり、かつ初回充放電効率及びサイクル性に優れたリチウムイオン二次電池であることが確認された。
【0034】
[実施例2]
実施例1と同じ熱処理粒子を使用し、50質量%フッ化水素水溶液(フッ酸)5mLを57.5mL(フッ化水素濃度10質量%、熱処理粒子100gに対してフッ化水素28.75g)とした他は実施例1と同様な処理を行って黒色粒子90.6gを得た。得られた黒色粒子は、カーボン被覆前の酸素濃度29.4質量%(酸素/珪素モル比0.73)で、被覆後の平均粒径5.1μm、BET比表面積が18.8m2/g、黒色粒子に対するカーボン被覆量4.9質量%の導電性粒子であった。なお、得られた粒子は、透過電子顕微鏡により、珪素ナノ粒子が酸化珪素中に分散した構造が確認され、珪素ナノ粒子のサイズは5nmであった。
【0035】
次に、実施例1と同様な方法で負極を作製し、電池評価を行った。その結果、初回充電容量2240mAh/g、初回放電容量1814mAh/g、初回充放電効率81%、50サイクル目の放電容量1469mAh/g、50サイクル後のサイクル保持率82%の高容量であり、かつ初回充放電効率及びサイクル性に優れたリチウムイオン二次電池であることが確認された。
【0036】
[実施例3]
室温にて、実施例1で用いた熱処理粒子100gをステンレス製チャンバーに仕込み、窒素で30体積%に希釈したフッ酸ガスを導入した。1時間通気後フッ化水素ガスを停止し、排ガスのFT−IRモニターにてHF濃度が5ppm以下になるまで窒素でパージした後粒子を取り出した。この粒子の重量は94.5gで、酸素濃度は33.4質量%であった。酸素/珪素のモル比=0.88と計算される。この粒子を実施例1と同様にカーボン被覆し、黒色粒子を得た。得られた黒色粒子は、回収量が105.5gで、黒色粒子に対するカーボン被覆量5.2質量%であり、平均粒子径5.3μm、BET比表面積6.3m2/gの粒子であった。なお、得られた粒子は、透過電子顕微鏡により、珪素ナノ粒子が酸化珪素中に分散した構造が確認され、珪素ナノ粒子のサイズは5nmであった。
【0037】
次に、実施例1と同様な方法で負極を作製し、電池評価を行った。その結果、初回充電容量2130mAh/g、初回放電容量1682mAh/g、初回充放電効率79%、50サイクル目の放電容量1478mAh/g、50サイクル後のサイクル保持率88%の高容量であり、かつ初回充放電効率及びサイクル性に優れたリチウムイオン二次電池であることが確認された。
【0038】
[比較例1]
実施例1で使用した熱処理粒子をエッチングせずにそのまま実施例1と同様のカーボン被覆処理した黒色粒子を得た。得られた黒色粒子は、黒色粒子に対するカーボン被覆量5.0質量%、平均粒子径5.1μm、BET比表面積5.1m2/gの粒子であった。
【0039】
次に、実施例1と同様な方法で負極を作製し、電池評価を行った。その結果、初回充電容量2030mAh/g、初回放電容量1482mAh/g、初回充放電効率73%、50サイクル目の放電容量1275mAh/g、50サイクル後のサイクル保持率86%であった。実施例1に比べ、明らかに、放電容量、初回充放電効率に劣るリチウムイオン二次電池であることが確認された。表1に結果をまとめたものを示す。
【0040】
[比較例2]
実施例1で使用したSiOx(x=1.01)、珪素ナノ粒子のサイズが0.8nmの粒子を、熱処理せずに実施例1と同様にフッ化水素濃度1.1質量%のフッ化水素水溶液(フッ酸)でエッチングを行った。静置後同様に洗浄・濾過を行ったが、回収率が約30%と非常に低く、実用性があるとは言い難い結果であった。
【0041】
【表1】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
珪素ナノ粒子が酸化珪素中に分散した構造を有する複合粒子であって、珪素ナノ粒子のサイズが1〜100nmであり、かつ0<酸素/珪素(モル比)<1.0である複合粒子からなる非水電解質二次電池用負極材。
【請求項2】
複合粒子が、珪素ナノ粒子が酸化珪素中に分散した構造を有する粒子を、酸性雰囲気下でエッチングしてなることを特徴とする請求項1記載の非水電解質二次電池用負極材。
【請求項3】
複合粒子の平均粒子径が0.1〜50μm、BET比表面積が0.5〜100m2/gである請求項1又は2記載の非水電解質二次電池用負極材。
【請求項4】
複合粒子の表面が、カーボン被膜で被覆されていることを特徴とする請求項1、2又は3項記載の非水電解質二次電池用負極材。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか1項記載の非水電解質二次電池用負極材を含むことを特徴とするリチウムイオン二次電池。
【請求項6】
珪素ナノ粒子が酸化珪素中に分散した構造を有する粒子を、酸性雰囲気下でエッチングすることを特徴とする、請求項1記載の非水電解質二次電池用負極材の製造方法。

【公開番号】特開2010−225494(P2010−225494A)
【公開日】平成22年10月7日(2010.10.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−73234(P2009−73234)
【出願日】平成21年3月25日(2009.3.25)
【出願人】(000002060)信越化学工業株式会社 (3,361)
【Fターム(参考)】