説明

非水電解質二次電池

【課題】充放電容量が大きく、且つサイクル特性の劣化を抑制できる非水電解質二次電池を提供する。
【解決手段】電池缶1の内部に、帯状の正極2と負極3とがセパレータ4を介して巻回された巻回電極体20を有している。この非水電解質二次電池は、一対の正極および負極当たりの完全充電状態における開回路電圧が4.30V以上4.45V以下の範囲内であり、正極2および電解質のうちの少なくとも何れかに、カルシウム塩が含まれているものである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、非水電解質二次電池に関する。さらに詳しくは、正極と負極とがセパレータを介して対抗配置された電池であって、且つ一対の正極および負極当たりの完全充電状態における開回路電圧が4.30V以上である非水電解質二次電池に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、携帯電話、ビデオカメラ、ノートパーソナルコンピュータなどの携帯情報電子機器の普及に伴い、機器の高性能化、小型化、軽量化が急速に発展している。携帯情報電子機器に使用される電源には、使い捨ての一次電池や繰り返して使用出来る二次電池が用いられている。
【0003】
中でも携帯情報電子機器に使用される電源としては、経済性、高性能、小型軽量などの総合的なバランスの良さから、二次電池、特にリチウムイオン二次電池の需要が伸びている。携帯情報電子機器では、更なる高性能化および小型化が進められており、リチウムイオン二次電池に関しても高エネルギー密度化が要求されている。
【0004】
ところで、従来のリチウムイオン二次電池では、正極にコバルト酸リチウム、負極に炭素材料を用い、充電終止電圧は4.10V〜4.20Vとされている。このように充電終止電圧を設計したリチウムイオン二次電池では、正極に用いられるコバルト酸リチウムなどの正極活物質は、その理論容量に対して50%〜60%程度の容量を活用しているに過ぎない。
【0005】
したがって、さらに充電電圧を上げることにより、残存容量を活用することが原理的には可能であり、実際に、充電時の上限電圧を4.30V以上にすることにより高エネルギー密度化を図れることが知られている(例えば、特許文献1参照)。
【0006】
【特許文献1】国際公開第03/0197131号パンフレット
【0007】
また、高エネルギー密度化のために、面積密度を厚くした場合、サイクル劣化が懸念される。これは、負極でのリチウムの拡散性が悪くなるために、負極表面上で金属Liが析出してしまい、析出したLiが電解液などの分解反応を促進してしまうことが考えられる。
【0008】
そこで、電解液に種々の添加剤を添加することによりその反応を抑制することが検討されている。例えば特許文献2では、電解液として、4−フルオロエチレンカーボネート(FEC)を添加したものを用いることが提案されている。
【0009】
【特許文献2】特開2001−313075号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
しかしながら、電池の充電終止電圧を従来の4.20Vよりも高めた電池においては、充放電サイクル試験中に、特に高温サイクルや高温連続充電時に電池の内部抵抗が上昇するといった問題があった。これは、例えば、正極中に含まれるフッ素を含むバインダ、電解質塩および電解液の分解などによって放電反応に伴い生成される遊離フッ素が、高温にさらされることで電解液中に多く生成し、Liを引き抜かれ不安定になった正極活物質を分解および溶出することや、負極リチウム上でLiFなどの分解皮膜を多量に生成するためと考えられる。
【0011】
また、特に4−フルオロエチレンカーボネート(FEC)およびジフルオロエチレンカーボネートのうちの少なくとも何れかを含む電解質を用いた電池では、室温でのサイクル特性が向上する傾向を示すが、一方で、高温サイクル特性の劣化が大きい傾向にあった。
【0012】
したがって、この発明の目的は、一対の正極および負極当たりの完全充電状態における開回路電圧が4.30V以上4.45V以下の範囲内である非水電解質二次電池において、充放電容量が大きく、且つサイクル特性の劣化を抑制できる非水電解質二次電池を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上述した課題を解決するために、この発明は、
正極活物質を有する正極と、負極活物質を有する負極と、電解質と、を有し、
一対の正極および負極当たりの完全充電状態における開回路電圧が4.30V以上4.45V以下の範囲内であり、
正極および電解質のうちの少なくとも何れかに、カルシウム塩が含まれていること
を特徴とする非水電解質二次電池である。
【0014】
この発明では、正極および電解質のうちの少なくとも何れかに含まれるカルシウム塩によって、遊離フッ素を捕捉し、遊離フッ素による過剰な正極活物質の分解および溶出を低減、並びに負極リチウム上でLiFなどの分解皮膜の生成を抑制できると考えられる。
【発明の効果】
【0015】
この発明によれば、一対の正極および負極当たりの完全充電状態における開回路電圧が4.30V以上4.45V以下の範囲内である非水電解質二次電池において、充放電容量が大きく、且つサイクル特性の劣化を抑制できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
以下、この発明の実施の形態について図面を参照して説明する。
【0017】
図1は、この発明の一実施形態による非水電解質二次電池の構造を示す。この非水電解質二次電池は、例えば、電極反応物質としてリチウム(Li)を用いる、リチウムイオン二次電池である。
【0018】
図1に示すように、この非水電解質二次電池は、いわゆる円筒型といわれるものであり、ほぼ中空円柱状の電池缶1の内部に、一対の帯状の正極2と帯状の負極3とセパレータ4とが巻回された巻回電極体20を有し、正極2および負極3は、セパレータ4を介して対向配置されている。
【0019】
ここで、正極2、負極3およびセパレータ4のそれぞれの幅は、例えば、セパレータ幅>負極幅>正極幅の関係とされる。充電時に正極2中のリチウムが負極3に回りこんで負極3においてデンドライト状に結晶成長したり、また、このデンドライト状の結晶が正極2に到達して内部短絡にいたるのを効果的に防止することができるからである。
【0020】
電池缶1は、例えばニッケル(Ni)のめっきがされた鉄(Fe)により構成されており、一端部が閉鎖され他端部が開放されている。電池缶1の内部には、巻回電極体20を挟むように巻回周面に対して垂直に一対の絶縁板5および絶縁板6がそれぞれ配置されている。
【0021】
電池缶1の開放端部には、電池蓋7と、この電池蓋7の内側に設けられた安全弁機構8および熱感抵抗素子(Positive Temperature Coefficietnt;PTC素子)9とが、ガスケット10を介してかしめられることにより取り付けられており、電池缶1の内部は密閉されている。
【0022】
電池蓋7は、例えば、電池缶1と同様の材料により構成されている。安全弁機構8は、熱感抵抗素子9を介して電池蓋7と電気的に接続されており、内部短絡または外部からの加熱などにより電池の内圧が一定以上となった場合にディスク板11が反転して電池蓋7と巻回電極体20との電気的接続を切断するようになっている。
【0023】
熱感抵抗素子9は、温度が上昇すると抵抗値の増大により電流を制限し、大電流による異常な発熱を防止するものである。ガスケット10は、例えば、絶縁材料により構成されており、表面にはアスファルトが塗布されている。
【0024】
巻回電極体20の中心には、センターピン12が挿入されている。巻回電極体20の正極2には、例えばアルミニウム(Al)などからなる正極リード13が接続されており、負極3には、例えばニッケル(Ni)などからなる負極リード14が接続されている。正極リード13は、安全弁機構8に溶接されることにより電池蓋7と電気的に接続されており、負極リード14は、電池缶1に溶接され電気的に接続されている。
【0025】
図2は、図1に示した巻回電極体20の一部を拡大して表したものである。図2に示すように、正極2は、例えば、対向する一対の面を有する正極集電体2Aの両面に正極活物質層2Bが設けられた構造を有している。なお、図示はしないが、正極集電体2Aの片面のみに正極活物質層2Bが設けられた領域を備えるようにしてもよい。正極集電体2Aは、例えば、アルミニウム箔などの金属箔により構成されている。正極活物質層2Bは、例えば、正極活物質として、リチウム(Li)を吸蔵および放出することが可能な正極材料を含んでいる。
【0026】
負極3は、例えば、対向する一対の面を有する負極集電体3Aの両面に負極活物質層3Bが設けられた構造を有している。なお、図示はしないが、負極集電体3Aの片面のみに負極活物質層3Bが設けられた領域を備えるようにしてもよい。負極集電体3Aは、例えば、銅箔などの金属箔により構成されている。負極活物質層3Bは、負極活物質として、リチウム(Li)を吸蔵および放出することが可能な負極材料のいずれか1種または2種以上を含んで構成されている。
【0027】
なお、この二次電池では、リチウム(Li)を吸蔵および放出することが可能な負極材料の電気化学当量が、正極2の電気化学当量よりも大きくなっており、充電の途中において負極3にリチウム金属が析出しないようになっている。
【0028】
また、この二次電池は、完全充電時における開回路電圧(すなわち電池電圧)が4.30V以上4.45V以下の範囲内になるように設計されている。よって、完全充電時における開回路電圧が4.20Vの電池よりも、同じ正極活物質であっても、単位質量当たりのリチウムの放出量が多くなるので、それに応じて正極活物質と負極活物質との量が調整されており、これにより高いエネルギー密度が得られるようになっている。特に、完全充電時における開回路電圧が4.30V以上4.45V以下の範囲内とした場合に、実際上利用できる効果が高くなっている。
【0029】
[正極]
正極2は、正極活物質、導電剤および結着剤、さらにカルシウム塩などを含む正極合剤を、正極集電体2Aの表面に塗布して得ることができる。具体的には、正極2は、粉末状の正極活物質、導電剤、カルシウム塩、結着剤および結着剤の溶媒または分散楳からなる正極合剤スラリーを、例えばアルミニウム箔などの正極集電体2Aに塗工・乾燥およびプレス圧延せしめて、正極集電体2A上に正極活物質層2Bを形成することによって得ることができる。
【0030】
この発明の一実施形態では、カルシウム塩を正極中に含むことで、電池の充電終止電圧を4.30V以上4.45V以下に高めた電池において、充放電サイクル特性を向上させることができる。特に、高温サイクル特性や高温連続充電時のサイクル維持率を向上させることができる。
【0031】
そのメカニズムは、完全には明らかではないが以下のように考えられる。電池の充電終止電圧が4.25Vよりも高くなると、Liを引き抜かれ不安定になった正極表面上での電解質塩の分解などが促進されることによって、放電反応に伴って生成する遊離フッ素が増大する。カルシウム塩は、この遊離フッ素と反応し、フッ化カルシウムのようなカルシウムとの化合物を形成することで、遊離フッ素を捕捉する。これにより、遊離フッ素を低減できるので、遊離フッ素による過剰な正極活物質の分解および溶出、負極リチウム上でLiFなどの分解皮膜の生成を抑制できると考えられる。
【0032】
なお、正極2中のカルシウム塩は、使用後の電池から正極2を取り出し、正極2中のカルシウム塩の化合物の状態を分析することで確認することができる。分析方法としては、例えば、粉末X線回折(XRD;X-ray diffraction)、飛行時間型2次イオン質量分析法(TOF-SIMS;Time of Flight secondary Ion Mass Spectrometry)などを用いることができる。
【0033】
カルシウム塩としては、カルシウムの酸化物塩、炭酸塩、硫化物塩、リン酸塩、硝酸塩、水酸化物塩および有機物塩などを用いることができる。具体的には、酸化カルシウム(CaO)、炭酸カルシウム(CaCO3)、リン酸カルシウム(CaPO4)、硝酸カルシウム(Ca(NO32)、酢酸カルシウム(Ca(CH3COO)2)、水酸化カルシウム(Ca(OH)2)、硫酸カルシウム(CaSO4)などを用いることができる。
【0034】
カルシウム塩の添加量としては、正極活物質に対し、0.1wt%以上2.0wt%以下が好ましい。電池の放電容量に影響を与えることなく、高いサイクル特性が得られるからである。0.1wt%未満では、遊離フッ素の量に対し十分でないおそれがある。また2.0wt%より大きい場合は、放電容量が低下するおそれがある。
【0035】
正極活物質としては、リチウムを吸蔵および放出することが可能な正極材料を用いることができる。具体的に、正極材料としては、例えば、リチウム酸化物、リチウムリン酸化物、リチウム硫化物またはリチウムを含む層間化合物などのリチウム含有化合物が適当であり、これらの2種以上を混合して用いてもよい。エネルギー密度を高くするには、リチウム(Li)と遷移金属元素と酸素(O)とを含むリチウム含有化合物が好ましく、中でも、遷移金属元素として、コバルト(Co)、ニッケル(Ni)、マンガン(Mn)および鉄(Fe)からなる群のうちの少なくとも1種を含むものであればより好ましい。
【0036】
このようなリチウム含有化合物としては、例えば、化I、より具体的には化IIで表された平均組成を有するリチム複合酸化物、化IIIで表された平均組成を有するリチウム複合酸化物を挙げることができる。
【0037】
(化I)
LipNi(1-q-r)MnqM1r(2-y)z
(式中、M1は、ニッケル(Ni)、マンガン(Mn)を除く2族〜15族から選ばれる元素のうち少なくとも一種を示す。Xは、酸素(O)以外の16族元素および17族元素のうち少なくとも1種を示す。p、q、y、zは、0≦p≦1.5、0≦q≦1.0、0≦r≦1.0、−0.10≦y≦0.20、0≦z≦0.2の範囲内の値である。)
(化II)
LiaCo1-bM2b2-c
(式中、M2はバナジウム(V)、銅(Cu)、ジルコニウム(Zr)、亜鉛(Zn)、マグネシウム(Mg)、アルミニウム(Al)、ガリウム(Ga)、イットリウム(Y)および鉄(Fe)からなる群のうちの少なくとも1種を表す。a、bおよびcの値は、0.9≦a≦1.1、0≦b≦0.3、−0.1≦c≦0.1の範囲内である。なお、リチウムの組成は充放電の状態によって異なり、aの値は完全放電状態における値を表している。)
(化III)
LiwNixCoyMnzM31-x-y-z2-v
(式中、M3はバナジウム(V)、銅(Cu)、ジルコニウム(Zr)、亜鉛(Zn)、マグネシウム(Mg)、アルミニウム(Al)、ガリウム(Ga)、イットリウム(Y)および鉄(Fe)からなる群のうちの少なくとも1種を表す。v、w、x、yおよびzの値は、−0.1≦v≦0.1、0.9≦w≦1.1、0<x<1、0<y<1、0<z<0.5、0≦1−x−y−zの範囲内である。なお、リチウムの組成は充放電の状態によって異なり、wの値は完全放電状態における値を表している。)
【0038】
さらに、リチウム含有化合物としては、例えば、化IVで表されたスピネル型の構造を有するリチウム複合酸化物、より具体的には、LidMn24(d≒1)などを挙げることができる。
(化IV)
LipMn2-qM4qrs
(式中、M4は、コバルト(Co)、ニッケル(Ni)、マグネシウム(Mg)、アルミニウム(Al)、ホウ素(B)、チタン(Ti)、バナジウム(V)、クロム(Cr)、鉄(Fe)、銅(Cu)、亜鉛(Zn)、モリブデン(Mo)、スズ(Sn)、カルシウム(Ca)、ストロンチウム(Sr)およびタングステン(W)からなる群のうちの少なくとも1種を表す。p、q、rおよびsは、0.9≦p≦1.1、0≦q≦0.6、3.7≦r≦4.1、0≦s≦0.1の範囲内の値である。なお、リチウムの組成は充放電の状態によって異なり、pの値は完全放電状態における値を表している。
【0039】
さらに、リチウム含有化合物としては、例えば、化V、より具体的には、化VIで表されたオリビン型の構造を有するリチウム複合リン酸塩などを挙げることができ、さらに具体的には、LieFePO4(e≒1)などを挙げることができる。
(化V)
LiaM5bPO4
(式中、M5は、2族〜15族から選ばれる元素のうちの少なくとも一種を示す。a、bは、0≦a≦2.0、0.5≦b≦2.0の範囲内の値である。)
(化VI)
LitM6PO4
(式中、M6は、コバルト(Co)、マンガン(Mn)、鉄(Fe)、ニッケル(Ni)、マグネシウム(Mg)、アルミニウム(Al)、ホウ素(B)、チタン(Ti)、バナジウム(V)、ニオブ(Nb)、銅(Cu)、亜鉛(Zn)、モリブデン(Mo)、カルシウム(Ca)、ストロンチウム(Sr)、タングステン(W)およびジルコニウム(Zr)からなる群のうちの少なくとも1種を表す。tは、0.9≦t≦1.1の範囲内の値である。なお、リチウムの組成は充放電の状態によって異なり、tの値は完全放電状態における値を表している。)
【0040】
上述した正極材料の他にも、リチウム(Li)を吸蔵および放出することが可能な正極材料としては、MnO2、V25、V613、NiS、MoSなどのリチウムを含まない無機化合物を挙げることができる。
【0041】
正極材料としては、中でも、高い充電電圧でも安定な構造を持つ正極材料が好ましい。このような正極材料は、これを正極活物質とする正極と、例えば炭素材料などを負極活物質とする負極と、を組み合わせるようにした、充電電圧が4.30V以上4.45V以下の高電圧で充電可能な非水電解質二次電池に適している。
【0042】
このような正極材料としては、例えば、以下の(a)〜(c)で説明する高い充電圧域において構造安定性を向上させるようになされた正極材料が挙げられる。
【0043】
(a)まず、例えば、特開昭62−90863号公報や特開平4−319260号公報に記載されているように、アルミニウム(Al)、スズ(Sn)、インジウム(In)、マグネシウム(Mg)、ジルコニウム(Zr)、チタン(Ti)などの異種元素を固溶させるようにした正極材料が挙げられる。
【0044】
(b)また、例えば、特開2002−100357号公報に記載されているように、リチウムコバルト複合酸化物に、リチウムニッケルマンガン複合酸化物などを少量混合させるようにした正極材料が挙げられる。
【0045】
(c)さらに、例えば、リチウム複合酸化物粒子の少なくとも一部にリチウム(Li)と、ニッケル(Ni)と、マンガン(Mn)と、を含む酸化物よりなる被覆層が設けられたものが挙げられる。
【0046】
ここで、被覆層は、正極材料の内側と異なる組成元素または組成比を有し、当該内側の表面の少なくとも一部を被覆する層である。上述のようにリチウム(Li)と、ニッケル(Ni)と、マンガン(Mn)とを含む酸化物により被覆層が設けられている場合には、被覆層におけるニッケル(Ni)およびマンガン(Mn)の濃度は、深さ方向において変化しており、マンガン(Mn)の濃度は、複合酸化物粒子側の内層部よりも、その反対側の外層部の方が高くなっているのが好ましい。このように外層部におけるマンガンの濃度を、被覆層の平均組成よりも高くすることにより、充放電効率をより向上させることができるからである。
【0047】
なお、被覆層とは、被覆層が設けられたリチウム複合酸化物粒子の表面から内部に向かって構成元素の濃度変化を調べた場合に、その濃度変化が実質的に見られなくなるまでの領域をいう。被覆層が設けられたリチウム複合酸化物粒子におけるニッケルおよびマンガンの表面から内部に向かう濃度変化は、例えば、被覆層が設けられたリチウム複合酸化物粒子をスパッタリングなどにより削りながらその組成をオージェ電子分光分析(Auger Electron Spectroscopy ;AES)あるいはSIMS(Secondary Ion Mass Spectrometry ;二次イオン質量分析)により測定することが可能である。また、被覆層が設けられたリチウム複合酸化物粒子を酸性溶液中などでゆっくり溶解させ、その溶出分の時間変化を誘導結合高周波プラズマ(Inductively Coupled Plasma;ICP)分光分析などにより測定することも可能である。
【0048】
被覆層におけるニッケル(Ni)とマンガン(Mn)との組成比は、ニッケル(Ni):マンガン(Mn)のモル比で、95:5から20:80の範囲内であることが好ましく、90:10から30:70の範囲内であればより好ましい。マンガン(Mn)の量が多いと被覆層におけるリチウム(Li)の吸蔵量が低下し、容量が低下してしまうと共に、電気抵抗が増大してしまい、マンガン(Mn)の量が少ないと充放電効率を十分に向上させることができないからである。
【0049】
被覆層の酸化物には、さらに、マグネシウム(Mg)、アルミニウム(Al)、ホウ素(B)、チタン(Ti)、バナジウム(V)、クロム(Cr)、鉄(Fe)、コバルト(Co)、銅(Cu)、亜鉛(Zn)、モリブデン(Mo)、スズ(Sn)、タングステン(W)、ジルコニウム(Zr)、イットリウム(Y)、ニオブ(Nb)、カルシウム(Ca)およびストロンチウム(Sr)からなる群のうちの少なくとも1種が構成元素として含まれていてもよい。正極材料の安定性をより向上させることができると共に、リチウムイオンの拡散性をより向上させることができるからである。
【0050】
例えば、リチウム複合酸化物の少なくとも一部に被覆層が設けられた正極材料としては、特開2000−164214号公報、特開2000−195517号公報に記載されているように、コバルト酸リチウムなどのリチウム複合酸化物粒子よりなる芯粒子の表面に、スピネル構造有するマンガン酸リチウムあるいはニッケルコバルト複合酸化物などのリチウム複合酸化物粒子よりなる微粒子を被覆するようにした複合粒子などが挙げられる。
【0051】
具体的には、例えば、LixCoO2、LixNiO2、LixMn24、LixCo1-yy2、LixNi1-yy2、LxMn1-yy2(但し、Mは、チタン(Ti)、バナジウム(V)、クロム(Cr)、マンガン(Mn)、鉄(Fe)、アルミニウム(Al)、コバルト(Co)、ニッケル(Ni)、銅(Cu)、亜鉛(Zn)、モリブデン(Mo)、ビスマス(Bi)、ホウ素(B)から選ばれる少なくとも1種の元素を表し、xは0<x≦1.2、yは0<y<1である)で表されるリチウム含有化合物のいずれかよりなる芯粒子の表面を、これらリチウム含有化合物のいずれかよりなる微粒子で被覆した複合粒子などである。
【0052】
リチウム複合酸化物粒子よりなる芯粒子の表面に、リチウム複合酸化物の微粒子を被覆させる方法としては、例えば、高速気流中衝撃法が挙げられる。高速気流中衝撃法とは、高速気流中に、粉体と微粒子とが均一に混合されたミクスチャーを分散し、衝撃操作を繰り返し行うことで、粉体に機械的熱的エネルギーを与えるようにしたものである。この作用によって粉体表面に微粒子が均一に付着した状態となり粉体が表面改質される。
【0053】
正極活物質層2Bは、必要に応じて導電剤を含んでいてもよい。導電剤としては、例えば、アセチレンブラック、黒鉛、ケッチェンブラックなどの炭素系材料を用いることができる。
【0054】
正極活物質層2Bに含まれる結着剤としては、例えば、ポリフッ化ビニリデンまたはフッ化ビニリデンの共重合体若しくはこれらの変性物、ポリテトラフルオロエチレンまたは共重合体、ポリアクリロニトリルおよびポリアクリル酸エステルなどを主成分とするアクリル系樹脂などが用いられる。特に、ポリフッ化ビニリデンは、耐久性、特に耐膨潤性に優れているので好ましい。
【0055】
フッ化ビニリデンの共重合体としては、より具体的には、例えばフッ化ビニリデン−ヘキサフルオロプロピレン共重合体、フッ化ビニリデン−テトラフルオロエチレン共重合体、フッ化ビニリデン−クロロトリフルオロエチレン共重合体、フッ化ビニリデン−ヘキサフルオロプロピレン−テトラフルオロエチレン共重合体、または、上記例示した共重合体に、さらに、他のエチレン性不飽和モノマーを共重合したものなどを挙げることができる。なお、共重合可能なエチレン性不飽和モノマーとしては、より具体的には、例えば、アクリル酸エステル、メタクリル酸エステル、酢酸ビニル、アクリロニトリル、アクリル酸、メタクリル酸、無水マレイン、ブタジエン、スチレン、N−ビニルピロリドン、N−ビニルピリジン、グリシジルメタクリレート、ヒドロキシエチルメタクリレートまたはメチルビニルエーテルなどを挙げることができる。
【0056】
重合体は、1種を単独で用いてもよいし、複数種を混合して用いてもよく、さらに、このような固有粘度の範囲外にある重合体または他の結着剤を混合して用いてもよい。
【0057】
重合体の正極活物質層2Bにおける含有量としては、好ましくは、0.5wt%以上7.0wt%以下の範囲内であり、より好ましくは、1.2wt%以上4.0wt%以下の範囲内である。重合体の含有量が少ないと、結着性が十分ではなく、正極活物質などを正極集電体2Aに結着させるのが難しくなるからである。また、重合体の含有量が多いと、電子伝導性およびイオン伝導性の低い重合体が正極活物質を被覆してしまい、充放電効率が低下してしまうからである。
【0058】
[負極]
負極3は、負極活物質、導電剤および結着剤などを混合して得られた負極合剤を、負極集電体3Aの表面に塗布し、負極活物質層3Bを設けて得ることができる。
【0059】
[負極活物質]
負極活物質としては、リチウム(Li)を吸蔵および放出することが可能な負極材料を用いることができる。リチウム(Li)を吸蔵および放出することが可能な負極材料としては、例えば、難黒鉛化性炭素、易黒鉛化性炭素、黒鉛、熱分解炭素類、コークス類、ガラス状炭素類、有機高分子化合物焼成体、炭素繊維または活性炭などの炭素材料を挙げることができる。このうち、コークス類には、ピッチコークス、ニードルコークスまたは石油コークスなどを挙げることができる。ここで、有機高分子化合物焼成体というのは、フェノール樹脂やフラン樹脂などの高分子材料を適当な温度で焼成して炭素化したものをいい、一部には難黒鉛化性炭素または易黒鉛化性炭素に分類されるものもある。また、高分子材料としては、ポリアセチレンまたはポリピロールなどがある。これらの炭素材料は、充放電時に生じる結晶構造の変化が非常に少なく、高い充放電容量を得ることができるとともに、良好なサイクル特性を得ることができるので好ましい。特に黒鉛は、電気化学当量が大きく、高いエネルギー密度を得ることができるので好ましい。また、難黒鉛化性炭素は、優れた特性が得られるので好ましい。さらに、充放電電位が低いもの、具体的には充放電電位がリチウム金属に近いものが、電池の高エネルギー密度化を容易に実現することができるので好ましい。
【0060】
負極材料として、炭素材料を用いる場合には、負極3に対する正極2の合剤面積密度比(正極合剤面積密度/負極合剤面積密度)は、1.90以上2.15以下の範囲内が好ましい。合剤面積密度比が2.15より大きいと、負極3の表面に金属リチウムが析出してしまい、充放電効率または安全性などが低下してしまうからである。また、合剤面積密度比が1.90より小さいと、電極反応物質であるリチウム(Li)との反応に関与しない負極材料が増加してしまい、エネルギー密度が低下してしまうからである。
【0061】
さらに、リチウム(Li)を吸蔵および放出することが可能な負極材料としては、リチウム(Li)を吸蔵および放出することが可能であり、金属元素および半金属元素のうちの少なくとも1種を構成元素として含む材料を挙げることができる。このような材料を用いれば、高いエネルギー密度を得ることができるからである。特に、炭素材料とともに用いるようにすれば、高エネルギー密度を得ることができるとともに、優れたサイクル特性を得ることができるのでより好ましい。
【0062】
この負極材料は、金属元素または半金属元素の単体でも合金でも化合物でもよく、またこれらの1種または2種以上の相を少なくとも一部に有するようなものでもよい。なお、合金には、2種以上の金属元素からなるものに加えて、1種以上の金属元素と1種以上の半金属元素とを含むものも含める。また、非金属元素を含んでいてもよい。その組織には固溶体、共晶(共融混合物)、金属間化合物またはそれらのうちの2種以上が共存するものがある。
【0063】
この負極材料を構成する金属元素または半金属元素としては、例えば、マグネシウム(Mg)、ホウ素(B)、アルミニウム(Al)、ガリウム(Ga)、インジウム(In)、ケイ素(Si)、ゲルマニウム(Ge)、スズ(Sn)、鉛(Pb)、ビスマス(Bi)、カドミウム(Cd)、銀(Ag)、亜鉛(Zn)、ハフニウム(Hf)、ジルコニウム、イットリウム(Y)、パラジウム(Pd)または白金(Pt)を挙げることができる。これらは結晶質のものでもアモルファスのものでもよい。
【0064】
中でも、この負極材料としては、短周期型周期表における4B族の金属元素または半金属元素を構成元素として含むものが好ましく、特に好ましいのはケイ素(Si)およびスズ(Sn)の少なくとも一方を構成元素として含むものである。ケイ素(Si)およびスズ(Sn)は、リチウム(Li)を吸蔵および放出する能力が大きく、高いエネルギー密度を得ることができるからである。
【0065】
スズ(Sn)の合金としては、例えば、スズ(Sn)以外の第2の構成元素として、ケイ素(Si)、ニッケル(Ni)、銅(Cu)、鉄(Fe)、コバルト(Co)、マンガン(Mn)、亜鉛(Zn)、インジウム(In)、銀(Ag)、チタン(Ti)、ゲルマニウム(Ge)、ビスマス(Bi)、アンチモン(Sb)、およびクロム(Cr)からなる群のうちの少なくとも1種を含むものを挙げることができる。ケイ素(Si)の合金としては、例えば、ケイ素(Si)以外の第2の構成元素として、スズ(Sn)、ニッケル(Ni)、銅(Cu)、鉄(Fe)、コバルト(Co)、マンガン(Mn)、亜鉛(Zn)、インジウム(In)、銀(Ag)、チタン(Ti)、ゲルマニウム(Ge)、ビスマス(Bi)、アンチモン(Sb)およびクロム(Cr)からなる群のうちの少なくとも1種を含むものを挙げることができる。
【0066】
スズ(Sn)の化合物またはケイ素(Si)の化合物としては、例えば、酸素(O)または炭素(C)を含むものを挙げることができ、スズ(Sn)またはケイ素(Si)に加えて、上述した第2の構成元素を含んでいてもよい。
【0067】
さらに、リチウム(Li)を吸蔵および放出することが可能な負極材料としては、他の金属化合物または高分子材料を挙げることができる。他の金属化合物としては、MnO2、V25、V613などの酸化物、NiS、MoSなどの硫化物、またはLiN3などのリチウム窒化物を挙げることができる。他の高分子材料としては、ポリアセチレン、ポリアニリンまたはポリピロールなどを挙げることができる。
【0068】
負極活物質層3Bは、必要に応じて導電剤および結着剤を含んでいてもよい。結着剤には、熱可塑性樹脂および熱硬化性樹脂の何れを用いてもよいが、熱可塑性樹脂が好ましい。結着剤として使用可能な熱可塑性樹脂としては、例えばポリエチレン、ポリプロピレン、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、スチレンブタジエンゴム、テトラフルオロエチレン−ヘキサフルオロプロピレン共重合体(FEP)、テトラフルオロエチレン−パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体(PFA)、フッ化ビニリデン−ヘキサフルオロプロピレン共重合体、フッ化ビニリデン−クロロトリフルオロエチレン共重合体、エチレン−テトラフルオロエチレン共重合体(ETFE)、ポリクロロトリフルオロエチレン(PCTFE)、フッ化ビニリデン−ペンタフルオロプロピレン共重合体、プロピレン−テトラフルオロエチレン共重合体、エチレン−クロロトリフルオロエチレン共重合体(ECTFE)、フッ化ビニリデン−ヘキサフルオロプロピレン−テトラフルオロエチレン共重合体、フッ化ビニリデン−パーフルオロメチルビニルエーテル−テトラフルオロエチレン共重合体、エチレン−アクリル酸共重合体、エチレン−メタクリル酸共重合体、エチレン−アクリル酸メチル共重合体、エチレン−メタクリル酸メチル共重合体などが挙げられる。これらは単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。また、これらはNaイオンなどによる架橋体であってもよい。
【0069】
導電剤は、電池内で化学的に安定な電子伝導性材料であれば何でもよい。例えば、天然黒鉛(鱗片状黒鉛など)、人造黒鉛などの黒鉛類、アセチレンブラック、ケッチェンブラック、チャンネルブラック、ファーネスブラック、ランプブラック、サーマルブラックなどのカーボンブラック類、炭素繊維、金属繊維などの導電性繊維類、銅、ニッケルなどの金属粉末類、ポリフェニレン誘導体などの有機導電性材料などを用いることができる。これらは単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。導電剤の添加量は、特に限定されないが、負極合剤に含まれる活物質粒子に対して、1wt%〜30wt%が好ましく、1wt%〜10wt%がより好ましい。
【0070】
[セパレータ]
セパレータ4は、例えば、基材層と、表面層とを有している。表面層は、正極2に対向する側の面の少なくとも一部、より好ましくは、正極2に対向する側の全面、さらに好ましくは両面に設けられている。基材層としては、例えば、ポリプロピレンまたはポリエチレンなどの合成樹脂製の多孔質膜により構成されており、これら2種以上の多孔質膜を積層した構造とされていてもよい。
【0071】
中でも、ポリオレフィン製の多孔質膜は、ショート防止効果に優れ、且つシャットダウン効果による電池の安全性向上を図ることができるので好ましい。特に、ポリエチレンは、100℃以上160℃以下の範囲内においてシャットダウン効果を得ることができ、且つ電気化学的安定性にも優れているので、基材層を構成する材料として好ましい。また、ポリプロピレンも好ましく、他にも化学的安定性を備えた樹脂であればポリエチレンまたはポリプロピレンと共重合させたり、またはブレンド化することで用いることができる。
【0072】
表面層は、ポリフッ化ビニリデン、ポリテトラフルオロエチレン、アラミドおよびポリプロピレンのうちの少なくとも1種を含んで構成されている。これにより、化学的安定性が向上し、微小ショートの発生による充放電効率の低下が抑制されるようになっている。なお、表面層をポリプロピレンにより形成する場合には、基材層をポリプロピレンにより形成し単層としてもよい。
【0073】
正極2に対向する側の表面層の厚みは、0.1μm以上10μm以下の範囲内が好ましい。厚みが薄いと微小ショートの発生を抑制する効果が低く、厚みが厚いとイオン伝導性が低下してしまうと共に体積容量が低下してしまうからである。
【0074】
セパレータ4の孔径は、正極2または負極3からの溶出物などが透過しない範囲とするのが好ましく、具体的には、0.01μm以上1μm以下の範囲内が好ましい。また、セパレータ4の厚みは、例えば、10μm以上300μm以下の範囲内が好ましく、15μm以上30μm以下の範囲内がより好ましい。セパレータ4の厚みが薄いと、ショートが発生してしまうことがあり、厚みが厚いと、正極材料の充填量が低下してしまうからである。セパレータ4の空孔率は、電子およびイオンの透過性、素材または厚みにより決定されるが、一般には、30%以上80%以下の範囲内であり、より好ましくは35%以上50%以下の範囲内である。空孔率が低いとイオン伝導性が低下してしまい、空孔率が高いとショートが発生することがあるからである。
【0075】
[電解質]
電解質は、液状の溶媒と、この溶媒に溶解された電解質塩と、を含むようにした電解液である。溶媒としては、炭酸エチレンまたは炭酸プロピレンなどの環状の炭酸エステルを用いることができ、炭酸エチレンおよび炭酸プロピレンのうちの一方、特に両方を混合して用いることが好ましい。サイクル特性を向上させることができるからである。
【0076】
また、溶媒としては、これらの環状の炭酸エステルに加えて、炭酸ジエチル、炭酸ジメチル、炭酸エチルメチルまたは炭酸メチルプロピルなどの鎖状の炭酸エステルを混合して用いることが好ましい。高いイオン伝導性を得ることができるからである。
【0077】
さらに、溶媒としては、フッ素置換された環状カーボネートが含まれていることが好ましい。負極3に薄くかつ均一な被膜を形成することができ、サイクル特性をより向上させることができるからである。なお、電解液に、フッ素置換された環状カーボネートが含まれるようにすると、充電終止電圧を4.30V以上に高めた非水電解質二次電池では、遊離フッ素の増加による高温サイクル特性の劣化が懸念されるが、一実施形態では、正極2に含ませるようにしたカルシウム塩によって、遊離フッ素を捕捉するように作用し、遊離フッ素を低減できると考えられるので、高温サイクル特性の劣化を抑制できる。すなわち、正極2中にカルシウム塩を含ませるようにし、且つ電解液中にフッ素置換された環状カーボネートを含ませるようにすると、室温および高温でのサイクル特性の向上という相乗的な効果が得られる。
【0078】
フッ素置換された環状カーボネートとしては、例えば、炭酸エチレンの水素の少なくと何れかをフッ素で置換した化合物などが挙げられ、例えば4−フルオロエチレンカーボネート(FEC)、ジフルオロエチレンカーボネート[例えば、4,5−ジフルオロエチレンカーボネート(DFEC)、4,4−ジフルオロエチレンカーボネート]が好ましい。中でも、4−フルオロエチレンカーボネート(FEC)は、負極3に薄く且つ均一な被膜を形成し、サイクル特性をより向上させることができるのでより好ましい。
【0079】
フッ素置換された環状カーボネートの含有量は、電解液において、0.5wt%以上25wt%以下であることが好ましい。0.5wt%未満であるとサイクル特性の向上効果が少なくなるおそれがあり、また25wt%を超えると、負極上で過剰に分解され充放電効率が低下してしまうおそれがあるからである。
【0080】
さらに、溶媒としては、炭酸ビニレンが含まれていることが好ましい。含有量は、電解液において0.1wt%以上10wt%以下であることが好ましい。0.1wt%未満であるとサイクル特性の向上効果が少なくなるおそれがあり、また10wt%を超えると、負極上で過剰に分解され充放電効率が低下してしまうおそれがあるからである。
【0081】
さらに、溶媒としては、炭酸ブチレン、γ−ブチロラクトン、γ−バレロラクトン、1,2−ジメトキシエタン、テトラヒドロフラン、2−メチルテトラヒドロフラン、1,3−ジオキソラン、4−メチル−1,3−ジオキソラン、酢酸メチル、プロピオン酸メチル、アセトニトリル、グルタロニトリル、アジポニトリル、メトキシアセトニトリル、3−メトキシプロピロニトリル、N,N−ジメチルフォルムアミド、N−メチルピロリジノン、N−メチルオキサゾリジノン、N,N−ジメチルイミダゾリジノン、ニトロメタン、ニトロエタン、スルホラン、ジメチルスルフォキシドまたはリン酸トリメチルなどを含むようにしてもよい。
【0082】
電解質塩は、LiPF6を含んでいる。LiPF6を用いることにより電解液のイオン伝導性を高くすることができるからである。LiPF6の濃度は、電解液において、0.1mol/kg以上2.0mol/kg以下の範囲内であることが好ましい。この範囲内でイオン伝導性をより高くすることができるからである。
【0083】
電解質塩としては、これらの電解質塩に加えて、他の電解質塩を混合して用いてもよい。他の電解質塩としては、例えば、LiAsF6、LiClO4、LiB(C654、LiCH3SO3、LiCF3SO3、LiN(SO2CF32、LiN(SO2252、LiN(SO2CF3)(SO225)、LiN(SO2CF3)(SO237)、LiN(SO2CF3)(SO249)、LiC(SO2CF33、LiAlCl4、LiSiF6、LiCl、あるいはLiBrなどが挙げられる。他の電解質塩は、1種を単独で混合して用いてもよく、複数種を混合して用いてもよい。
【0084】
また、電解質塩は、アニオン中心となるB(ホウ素)原子に対して酸素原子を介してカルボニル基またはスルホニル基である電子求引性の有機置換基が結合した有機リチウム塩を含んでいても良い。
【0085】
アニオン中心となるB(ホウ素)原子に対して酸素原子を介してカルボニル基またはスルホニル基である電子求引性の有機置換基が結合した有機リチウム塩としては具体的に以下のものである。
【0086】
アニオン中心となるIII族bからV族bの原子は、B(ホウ素)、N(窒素)、P(リン)、Ga(ガリウム)、Al(アルミニウム)、Si(ケイ素)などのいずれでも良いが、結合数を考慮するとIII族bからIV族bの原子が好ましく、特にIII族bの原子が好ましい。アニオン中心となる原子としては、B(ホウ素)が最も適している。
【0087】
すなわち、ホウ素(B)は、原子量が10.8と小さいうえに、有機物に含まれる元素としては酸素(O)やチッ素(N)よりも多い4本の結合が可能であり、酸素原子を介して多くの電子求引性を有する有機置換基と結合できる能力を持っているからである。
【0088】
アニオン中心の原子と電子求引性の有機置換基とを直接結合させずに、その間に酸素原子を介在させているのは、酸素原子の電気陰性度が高く、酸素原子がアニオン中心の原子を安定化させる上に、2本しか結合を持たないため、立体障害が少ない状態で電子求引性の有機置換基を結合させ得るからである。そして、電子求引性の有機置換基はアニオン中心の原子に対して酸素原子を介して電子を求引し、アニオン中心の原子の電子密度を低下させて、アニオン中心から電子を取り出しにくくすることによって、アニオンが酸化されるのを防止する。
【0089】
電子求引性の有機置換基としては、例えば、カルボニル基、スルホニル基、アミノ基、シアノ基、ハロゲン化アルキル基などがある。中でも、カルボニル基、スルホニル基は、容易に合成できる点から適している。
【0090】
上記のような有機リチウム塩の具体例としては、たとえば、LiBXX′やLiBF2X〔ここで、X、X′はB(ホウ素)原子に結合する酸素を有する電子求引性の有機置換基で、たとえば、X、X′=−O−C(=O)−(CRR’)n−C(=O)−O−、−O−S(=O)−O−(CRR’)n−O−S(=O)−O−であり、nは、0〜5までの整数、R、R′はアルキル基またはH(水素)原子、フッ素(F)、塩素(Cl)などのハロゲン原子である〕、が挙げられる。中でも、好ましいのは、化1で表されるリチウムビスオキサレートボレート、化2で表されるリチウムジフルオロオキサレートボレートである。
【0091】
【化1】

【0092】
【化2】

【0093】
この非水電解質二次電池は、例えば、以下に説明するようにして製造することができる。まず、例えば、正極活物質と、導電剤と、カルシウム塩と、フッ化ビニリデンを成分として含む重合体と、を混合して正極合剤を調製し、この正極合剤をN−メチル−2−ピロリドンなどの溶剤に分散させてペースト状の正極合剤スラリーを作製する。次に、この正極合剤スラリーを正極集電体2Aに塗布し溶剤を乾燥させ、ロールプレス機などにより圧縮成型することにより正極活物質層2Bを形成し、正極2を形成する。
【0094】
次に、例えば、負極活物質と、結着剤とを混合して負極合剤を調製し、この負極合剤をN−メチル−2−ピロリドンなどの溶剤に分散させてペースト状の負極合剤スラリーを作製する。次に、この負極合剤スラリーを負極集電体3Aに塗布し溶剤を乾燥させ、ロールプレス機などにより圧縮成型することにより負極活物質層3Bを形成し、負極3を作製する。
【0095】
次に、正極集電体2Aに正極リード13を溶接などにより取り付けると共に、負極集電体3Aに負極リード14を溶接などにより取り付ける。その後、正極2と負極3とをセパレータ4を介して巻回し、正極リード13の先端部を安全弁機構8に溶接するとともに、負極リード14の先端部を電池缶1に溶接して、巻回した正極2および負極3を一対の絶縁板5、6で挟み電池缶1の内部に収納する。
【0096】
正極2および負極3を電池缶1の内部に収納した後、電解液を電池缶1の内部に注入し、セパレータ4に含浸させる。その後、電池缶1の開口端部に電池蓋7、安全弁機構8および熱感抵抗素子9をガスケット10を介してかしめることにより固定する。以上により、図1に示すこの発明の一実施形態による非水電解質二次電池が製造される。
【0097】
この非水電解質二次電池では、例えば、充電を行うと、正極活物質層2Bからリチウムイオンが放出され、電解液を介して、負極活物質層3Bに含まれるリチウムを吸蔵および放出することが可能な負極材料に吸蔵される。次に、放電を行うと、負極活物質層3B中のリチウムを吸蔵および放出することが可能な負極材料に吸蔵されたリチウムイオンが放出され、電解液を介して正極活物質層2Bに吸蔵される。
【0098】
この発明の一実施形態による非水電解質二次電池では、完全充電時における開回路電圧を4.30V以上4.45以下の範囲内としたので、高いエネルギー密度を得る事ができる。また、正極2、負極3およびセパレータ4を備えた巻回電極体20の空間体積に対して適切に電解液量を調整し、且つ電解液中に炭酸ビニレンを含むようにするのが好ましい。これにより、充放電サイクル特性の劣化をより抑制できるからである。さらに、巻回電極体20の正極2、負極3、およびセパレータ4の幅が、セパレータ幅>負極幅>正極幅の関係にあるのが好ましく、これにより、より良好な充放電サイクル特性を得ることができる。
【0099】
上述した一実施形態では、正極2中にカルシウム塩を含有させるようにしたものについて説明したが、この発明は、これに限定されるものではない。例えば、カルシウム塩を電解質中に含有させるようにしてもよく、また、正極および電解質の両方にカルシウム塩を含有させるようにしてもよい。
【実施例】
【0100】
以下に説明するようにして、サンプル1−1〜サンプル8−4の非水電解質二次電池を作製し、その特性を評価した。非水電解質二次電池は、図1および図2に示すものを作製した。
【0101】
<サンプル1−1〜サンプル1−20>
<サンプル1−1>
(正極活物質Iの作製)
まず、サンプル1−1の非水電解質二次電池に用いた正極活物質Iの作製方法について説明する。正極活物質Iは、以下に説明するようにして、粒径の異なる2種類のリチウム−コバルト複合酸化物[LiCo0.98Al0.01Mg0.012]を混合することにより作製した。
【0102】
まず、LiOHおよびCo0.98Al0.01Mg0.01(OH)2、で表される共沈水酸化物を、Li:遷移金属合計のモル比が1:1となるように乳鉢にて混合した。この混合物を、空気雰囲気通に800℃で12時間熱処理した後に粉砕し、BET(Brunauer Emmitt Teller)法による比表面積0.44m2/g、平均粒子径6.2μmのリチウム−コバルト複合酸化物(A)[LiCo0.98Al0.01Mg0.012]、およびBET法による比表面積0.20m2/g、平均粒子径16.7μmのリチウム−コバルト複合酸化物(B)[LiCo0.98Al0.01Mg0.012]を得た。この(A)および(B)を85:15の質量比で混ぜ合わせることで、正極活物質Iを得た。正極活物質IをCuKαによるX線回折分析したところR−3菱面体層状岩塩方構造であることがわかった。
【0103】
(正極の作製)
まず、正極活物質Iと、導電剤としてケッチェンブラックと、結着剤としてポリフッ化ビニリデン、さらに、カルシウム塩として、酸化カルシウム(CaO)を混合して正極合剤を調製した。正極合剤におけるケッチェンブラックおよびポリフッ化ビニリデンの割合は同一とした。サンプル1−1では、酸化カルシウム(CaO)の添加量は1wt%である。
【0104】
次に、この正極合剤を溶剤であるN−メチル−2−ピロリドンに分散させて正極合剤スラリーとし、厚み15μmの帯状アルミニウム箔よりなる正極集電体2Aの両面に塗布して乾燥させ、ロールプレス機で圧縮成型して正極活物質層2Bを形成し正極2を作製した。次に、正極集電体21Aにニッケル製の正極リード25を取り付けた。
【0105】
(負極の作製)
負極材料として、BET法による比表面積が3.0m2/gの黒鉛粉末96wt%と、導電剤として気相成長炭素繊維2wt%と、増粘剤・結着剤としてカルボキシメチルセルロース(CMC)1wt%、スチレンブタジエンゴム(SBR)1wt%を混合して負極合剤を調製した。次に、この負極合剤を溶剤であるイオン交換水に分散させて負極合剤スラリーとし、厚み8μmの帯状銅箔よりなる負極集電体3Aの両面に塗布して乾燥させ、ロールプレス機で圧縮成型して負極活物質層3Bを形成し負極3を作製した。
【0106】
ここで、負極活物質層3Bについて体積密度を調べたところ、1.70g/cm3であった。次に、負極集電体3Aにニッケル製の負極リード14を取り付けた。その際、正極材料と負極材料の量を調節し、完全充電時における開回路電圧が4.20Vとなり、負極3の容量がリチウムの吸蔵および放出による容量成分により表されるように設計した。
【0107】
(電解液の調製)
電解液には、エチレンカーボネート(EC)と、ジメチルカーボネート(DMC)と、エチルメチルカーボネート(EMC)と、炭酸ビニレン(VC)と、電解質塩としてのLiPF6と、を18.2:56.6:5.0:1.0:19.2(EC:DMC:EMC:VC:LiPF6)の質量比で混合するようにして作製したものを用いた。
【0108】
(巻回電極体の作製)
正極2、負極3、20μmの厚みのセパレータ4を円筒状に巻くことで、巻回電極体20を作製した。具体的には、以下に説明するようにして作製した。
【0109】
正極2および負極3をそれぞれ作製した後、微多孔質膜のセパレータ4を用意し、負極3、セパレータ4、正極2、セパレータ4の順に積層してこの積層体を渦巻状に多数回巻回し、ジェリーロール型の巻回電極体20を作製した。セパレータ4には、厚みが20μmであり、ポリエチレン層の両面にポリプロピレン層を設けた3層構造のものを用いた。
【0110】
帯状のセパレータ4、負極3および正極2の幅はセパレータ幅>負極幅>正極幅の関係になるにように巻回した。なお、このように巻回したのは、充電時に正極2中のリチウムが負極3に回りこんで負極3においてデンドライト状に結晶成長したり、また、このデンドライト状の結晶が正極2に到達して内部短絡にいたるのをさらに効果的に防止できるので、さらに良好な充放電サイクル特性が得られるようになるからである。正極2および負極3の電極長は、3.5φの巻き芯を用い、素子径17.40mmになるように調整した。
【0111】
(電池の組み立て)
作製した巻回電極体20を一対の絶縁板5、6で挟み、負極リード14を電池缶11に溶接するとともに、正極リード13を安全弁機構8に溶接して、巻回電極体20を電池缶1の内部に収納した。そののち、電池缶1の内部に上記の電解液を注入し、ガスケット10を介して電池蓋7を電池缶1にかしめた。以上により、外径18mm、高さ65mmの円筒型の非水電解質二次電池を得た。
【0112】
<サンプル1−2>
完全充電時の開回路電圧が4.30Vとなるように設計した点以外は、サンプル1−1と同様にして、サンプル1−2の非水電解質二次電池を作製した。
【0113】
<サンプル1−3>
完全充電時の開回路電圧が4.35Vとなるように設計した点以外は、サンプル1−1と同様にして、サンプル1−3の非水電解質二次電池を作製した。
【0114】
<サンプル1−4>
完全充電時の開回路電圧が4.45Vとなるように設計した点以外は、サンプル1−1と同様にして、サンプル1−4の非水電解質二次電池を作製した。
【0115】
<サンプル1−5>
完全充電時の開回路電圧が4.50Vとなるように設計した点以外は、サンプル1−1と同様にして、サンプル1−5の非水電解質二次電池を作製した。
【0116】
<サンプル1−6>
正極合剤にCaOを加えなかった点以外は、サンプル1−1と同様にして、サンプル1−6の非水電解質二次電池を作製した。
【0117】
<サンプル1−7>
完全充電時の開回路電圧が4.30Vとなるように設計した点以外は、サンプル1−6と同様にして、サンプル1−7の非水電解質二次電池を作製した。
【0118】
<サンプル1−8>
完全充電時の開回路電圧が4.35Vとなるように設計した点以外は、サンプル1−6と同様にして、サンプル1−8の非水電解質二次電池を作製した。
【0119】
<サンプル1−9>
完全充電時の開回路電圧が4.45Vとなるように設計した点以外は、サンプル1−6と同様にして、サンプル1−9の非水電解質二次電池を作製した。
【0120】
<サンプル1−10>
完全充電時の開回路電圧が4.50Vとなるように設計した点以外は、サンプル1−6と同様にして、サンプル1−10の非水電解質二次電池を作製した。
【0121】
<サンプル1−11>
エチレンカーボネート(EC)と、ジメチルカーボネート(DMC)と、エチルメチルカーボネート(EMC)と、炭酸ビニレン(VC)と、4−フルオロエチレン(FEC)と、電解質塩としてのLiPF6と、を18.2:51.6:5.0:1.0:5.0:19.2(EC:DMC:EMC:VC:FEC:LiPF6)の質量比で混合するようにして作製した電解液、すなわち4−フルオロエチレン(FEC)が5wt%の電解液を用いた点以外は、サンプル1−1と同様にして、サンプル1−11の非水電解質二次電池を作製した。
【0122】
<サンプル1−12>
完全充電時の開回路電圧が4.30Vとなるように設計した点以外は、サンプル1−11と同様にして、サンプル1−12の非水電解質二次電池を作製した。
【0123】
<サンプル1−13>
完全充電時の開回路電圧が4.35Vとなるように設計した点以外は、サンプル1−11と同様にして、サンプル1−13の非水電解質二次電池を作製した。
【0124】
<サンプル1−14>
完全充電時の開回路電圧が4.45Vとなるように設計した点以外は、サンプル1−11と同様にして、サンプル1−14の非水電解質二次電池を作製した。
【0125】
<サンプル1−15>
完全充電時の開回路電圧が4.50Vとなるように設計した点以外は、サンプル1−11と同様にして、サンプル1−15の非水電解質二次電池を作製した。
【0126】
<サンプル1−16>
エチレンカーボネート(EC)と、ジメチルカーボネート(DMC)と、エチルメチルカーボネート(EMC)と、炭酸ビニレン(VC)と、4−フルオロエチレン(FEC)と、電解質塩としてのLiPF6と、を18.2:51.6:5.0:1.0:5.0:19.2(EC:DMC:EMC:VC:FEC:LiPF6)の質量比で混合するようにして作製した電解液、すなわち4−フルオロエチレン(FEC)が5wt%の電解液を用いた点以外は、サンプル1−6と同様にして、サンプル1−16の非水電解質二次電池を作製した。
【0127】
<サンプル1−17>
完全充電時の開回路電圧が4.30Vとなるように設計した点以外は、サンプル1−16と同様にして、サンプル1−17の非水電解質二次電池を作製した。
【0128】
<サンプル1−18>
完全充電時の開回路電圧が4.35Vとなるように設計した点以外は、サンプル1−16と同様にして、サンプル1−17の非水電解質二次電池を作製した。
【0129】
<サンプル1−19>
完全充電時の開回路電圧が4.45Vとなるように設計した点以外は、サンプル1−16と同様にして、サンプル1−19の非水電解質二次電池を作製した。
【0130】
<サンプル1−20>
完全充電時の開回路電圧が4.50Vとなるように設計した点以外は、サンプル1−16と同様にして、サンプル1−20の非水電解質二次電池を作製した。
【0131】
<サンプル2−1〜サンプル2−10>
<サンプル2−1>
エチレンカーボネート(EC)と、ジメチルカーボネート(DMC)と、エチルメチルカーボネート(EMC)と、炭酸ビニレン(VC)と、電解質塩としてのLiPF6を18.2:56.6:5.0:1.0:19.2(EC:DMC:EMC:VC:LiPF6)の質量比で混合するようにして作製した電解液を用いた点以外は、サンプル1−13と同様にして、サンプル2−1の非水電解質二次電池を作製した。
【0132】
<サンプル2−2>
エチレンカーボネート(EC)と、ジメチルカーボネート(DMC)と、エチルメチルカーボネート(EMC)と、炭酸ビニレン(VC)と、4−フルオロエチレン(FEC)と、電解質塩としてのLiPF6と、を18.2:56.55:5.0:1.0:0.05:19.2(EC:DMC:EMC:VC:FEC:LiPF6)の質量比で混合するようにして作製した電解液、すなわち4−フルオロエチレン(FEC)が0.05wt%の電解液を用いた点以外は、サンプル1−13と同様にして、サンプル2−2の非水電解質二次電池を作製した。
【0133】
<サンプル2−3>
エチレンカーボネート(EC)と、ジメチルカーボネート(DMC)と、エチルメチルカーボネート(EMC)と、炭酸ビニレン(VC)と、4−フルオロエチレン(FEC)と、電解質塩としてのLiPF6と、を18.2:51.6:5.0:1.0:0.50:19.2(EC:DMC:EMC:VC:FEC:LiPF6)の質量比で混合するようにして作製した電解液、すなわち4−フルオロエチレン(FEC)が0.50wt%の電解液を用いた点以外は、サンプル1−13と同様にして、サンプル2−3の非水電解質二次電池を作製した。
【0134】
<サンプル2−4>
エチレンカーボネート(EC)と、ジメチルカーボネート(DMC)と、エチルメチルカーボネート(EMC)と、炭酸ビニレン(VC)と、4−フルオロエチレン(FEC)と、電解質塩としてのLiPF6と、を18.2:55.6:5.0:1.0:1.0:19.2(EC:DMC:EMC:VC:FEC:LiPF6)の質量比で混合するようにして作製した電解液、すなわち4−フルオロエチレン(FEC)が1wt%の電解液を用いた点以外は、サンプル1−13と同様にして、サンプル2−4の非水電解質二次電池を作製した。
【0135】
<サンプル2−5>
エチレンカーボネート(EC)と、ジメチルカーボネート(DMC)と、エチルメチルカーボネート(EMC)と、炭酸ビニレン(VC)と、4−フルオロエチレン(FEC)と、電解質塩としてのLiPF6と、を18.2:53.6:5.0:1.0:3:19.2(EC:DMC:EMC:VC:FEC:LiPF6)の質量比で混合するようにして作製した電解液、すなわち4−フルオロエチレン(FEC)が3wt%の電解液を用いた点以外は、サンプル1−13と同様にして、サンプル2−5の非水電解質二次電池を作製した。
【0136】
<サンプル2−6>
エチレンカーボネート(EC)と、ジメチルカーボネート(DMC)と、エチルメチルカーボネート(EMC)と、炭酸ビニレン(VC)と、4−フルオロエチレン(FEC)と、電解質塩としてのLiPF6と、を18.2:46.6:5.0:1.0:10:19.2(EC:DMC:EMC:VC:FEC:LiPF6)の質量比で混合するようにして作製した電解液、すなわち4−フルオロエチレン(FEC)が10wt%の電解液を用いた点以外は、サンプル1−13と同様にして、サンプル2−6の非水電解質二次電池を作製した。
【0137】
<サンプル2−7>
エチレンカーボネート(EC)と、ジメチルカーボネート(DMC)と、エチルメチルカーボネート(EMC)と、炭酸ビニレン(VC)と、4−フルオロエチレン(FEC)と、電解質塩としてのLiPF6と、を18.2:31.6:5.0:1.0:25:19.2(EC:DMC:EMC:VC:FEC:LiPF6)の質量比で混合するようにして作製した電解液、すなわち4−フルオロエチレン(FEC)が25wt%の電解液を用いた点以外は、サンプル1−13と同様にして、サンプル2−7の非水電解質二次電池を作製した。
【0138】
<サンプル2−8>
エチレンカーボネート(EC)と、ジメチルカーボネート(DMC)と、エチルメチルカーボネート(EMC)と、炭酸ビニレン(VC)と、4−フルオロエチレン(FEC)と、電解質塩としてのLiPF6と、を18.2:26.6:5.0:1.0:30:19.2(EC:DMC:EMC:VC:FEC:LiPF6)の質量比で混合するようにして作製した電解液、すなわち4−フルオロエチレン(FEC)が30wt%の電解液を用いた点以外は、サンプル1−13と同様にして、サンプル2−8の非水電解質二次電池を作製した。
【0139】
<サンプル2−9>
エチレンカーボネート(EC)と、ジメチルカーボネート(DMC)と、エチルメチルカーボネート(EMC)と、炭酸ビニレン(VC)と、4,5−ジフルオロエチレンカーボネート(DFEC)と、電解質塩としてのLiPF6と、を18.2:55.6:5.0:1.0:1.0:19.2(EC:DMC:EMC:VC:DFEC:LiPF6)の質量比で混合するようにして作製した電解液、すなわち4,5−ジフルオロエチレンカーボネート(DFEC)が1.0wt%の電解液を用いた点以外は、サンプル1−13と同様にして、サンプル2−9の非水電解質二次電池を作製した。
【0140】
<サンプル2−10>
エチレンカーボネート(EC)と、ジメチルカーボネート(DMC)と、エチルメチルカーボネート(EMC)と、炭酸ビニレン(VC)と、4,5−ジフルオロエチレンカーボネート(DFEC)と、電解質塩としてのLiPF6と、を18.2:53.6:5.0:1.0:3.0:19.2(EC:DMC:EMC:VC:DFEC:LiPF6)の質量比で混合するようにして作製した電解液、すなわち4,5−ジフルオロエチレンカーボネート(DFEC)が3wt%の電解液を用いた点以外は、サンプル1−13と同様にして、サンプル2−10の非水電解質二次電池を作製した。
【0141】
(サンプル3−1〜サンプル3−11)
<サンプル3−1>
正極合剤にCaOを0.05wt%加えた点以外は、サンプル1−8と同様にして、サンプル3−1の非水電解質二次電池を作製した。
【0142】
<サンプル3−2>
正極合剤に酸化カルシウム(CaO)を0.1wt%加えた点以外は、サンプル1−8と同様にして、サンプル3−2の非水電解質二次電池を作製した。
【0143】
<サンプル3−3>
正極合剤に酸化カルシウム(CaO)を0.5wt%加えた点以外は、サンプル1−8と同様にして、サンプル3−3の非水電解質二次電池を作製した。
【0144】
<サンプル3−4>
正極合剤に酸化カルシウム(CaO)を2wt%加えた点以外は、サンプル1−8と同様にして、サンプル3−4の非水電解質二次電池を作製した。
【0145】
<サンプル3−5>
正極合剤に酸化カルシウム(CaO)を3wt%加えた点以外は、サンプル1−8と同様にして、サンプル3−5の非水電解質二次電池を作製した。
【0146】
<サンプル3−6>
正極合剤に酸化カルシウム(CaO)を0.05wt%加えた点以外は、サンプル1−18と同様にして、サンプル3−6の非水電解質二次電池を作製した。
【0147】
<サンプル3−7>
正極合剤に酸化カルシウム(CaO)を0.1wt%加えた点以外は、サンプル1−18と同様にして、サンプル3−7の非水電解質二次電池を作製した。
【0148】
<サンプル3−8>
正極合剤に酸化カルシウム(CaO)を0.5wt%加えた点以外は、サンプル1−18と同様にして、サンプル3−8の非水電解質二次電池を作製した。
【0149】
<サンプル3−9>
正極合剤に酸化カルシウム(CaO)を2wt%加えた点以外は、サンプル1−18と同様にして、サンプル3−9の非水電解質二次電池を作製した。
【0150】
<サンプル3−10>
正極合剤に酸化カルシウム(CaO)を3wt%加えた点以外は、サンプル1−18と同様にして、サンプル3−10の非水電解質二次電池を作製した。
【0151】
<サンプル4−1〜サンプル4−5>
<サンプル4−1>
正極合剤に炭酸カルシウム(CaCO3)を1wt%加えた点以外は、サンプル1−18と同様にして、サンプル4−1の非水電解質二次電池を作製した。
【0152】
<サンプル4−2>
正極合剤にリン酸カルシウム(CaPO4)を1wt%加えた点以外は、サンプル1−18と同様にして、サンプル4−2の非水電解質二次電池を作製した。
【0153】
<サンプル4−3>
正極合剤に硝酸カルシウム〔Ca(NO32〕を1wt%加えた点以外は、サンプル1−18と同様にして、サンプル4−3の非水電解質二次電池を作製した。
【0154】
<サンプル4−4>
正極合剤に酢酸カルシウム〔Ca(CH3COO)2〕を1wt%加えた点以外は、サンプル1−18と同様にして、サンプル4−4の非水電解質二次電池を作製した。
【0155】
<サンプル4−5>
正極合剤に水酸化カルシウム〔Ca(OH)2〕を1wt%加えた点以外は、サンプル1−18と同様にして、サンプル4−5の非水電解質二次電池を作製した。
【0156】
<サンプル5−1〜サンプル5−3>
<サンプル5−1>
セパレータとしてポリエチレン(PE)を用いた点以外は、サンプル1−13と同様にして、サンプル5−1の非水電解質二次電池を作製した。
【0157】
<サンプル5−2>
セパレータとして、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)と、ポリエチレン(PE)と、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)とを順次積層した3層積層セパレータ(PVDF/PE/PVDF)を用いた点以外は、サンプル1−13と同様にして、サンプル5−2の非水電解質二次電池を作製した。
【0158】
<サンプル5−3>
セパレータとして、アラミドと、ポリエチレン(PE)と、アラミドとを順次積層した3層積層セパレータ(アラミド/PE/アラミド)を用いた点以外は、サンプル1−13と同様にして、サンプル5−3の非水電解質二次電池を作製した。
【0159】
<サンプル6−1〜サンプル6−2>
<サンプル6−1>
完全充電時の開回路電圧が4.45Vとなるように設計した点以外は、サンプル1−13と同様にして、サンプル6−1の非水電解質二次電池を作製した。
【0160】
<サンプル6−2>
正極活物質として、以下に説明するようにして作製した正極活物質IIを用いた点以外は、サンプル1−13と同様にして、サンプル6−2の非水電解質二次電池を作製した。
【0161】
(正極活物質IIの作製)
正極活物質と、平均粒子径が1μmの粒子径を有する酸化ニッケルおよび酸化マンガンと、を96:2:2の質量比で混合し、ホソカワミクロン社製メカノフュージョンシステムを利用して、乾式混合を行い、ニッケル酸化物およびマンガン酸化物を正極活物質Iに被覆した。次に、これを950℃、10時間、空気中で焼成した。以上によりニッケル酸化物およびマンガン酸化物で正極活物質の表面を覆った構造を持つ正極活物質IIを得た。なお、作製した正極活物質IIの平均粒子径を測定したところ、正極活物質Iの平均粒子径と大きな違いが見られなかった。
【0162】
<サンプル6−3>
完全充電時の開回路電圧が4.45Vとなるように設計した点以外は、サンプル6−2と同様にして、サンプル6−3の非水電解質二次電池を作製した。
【0163】
<サンプル7−1>
酸化カルシウム(CaO)を正極合剤に添加せず、電解液中に添加するようにした点、完全充電時の開回路電圧が4.45Vとなるように設計した点以外は、サンプル1−13と同様にして、サンプル7−1の非水電解質二次電池を作製した。なお、酸化カルシウムの添加量は、電池内部に添加する酸化カルシウム量として、正極2中に0.5wt%と同様になるように加えた。
【0164】
<サンプル8−1〜サンプル8−4>
<サンプル8−1>
面積密度比が1.90となるように調整した点以外は、サンプル1−13と同様にして、サンプル8−1の非水電解質二次電池を作製した。
【0165】
<サンプル8−2>
面積密度比が2.06となるように調整した点以外は、サンプル1−13と同様にして、サンプル8−2の非水電解質二次電池を作製した。
【0166】
<サンプル8−3>
面積密度比が2.15となるように調整した点以外は、サンプル1−13と同様にして、サンプル8−3の非水電解質二次電池を作製した。
【0167】
<サンプル8−4>
面積密度比が2.20となるように調整した点以外は、サンプル1−13と同様にして、サンプル8−4の非水電解質二次電池を作製した。
【0168】
作製したサンプル1−1〜サンプル8−4の非水電解質二次電池について以下に説明するようにして、初期充放電試験およびサイクル評価試験を行った。
【0169】
(初期充放電)
サンプル1−1〜サンプル8−4の非水電解質二次電池について、25℃で、0.1Cに相当する電流で、それぞれ表1〜表8に示す充電上限電圧で定電流−定電圧充電(CCCV充電)を行った後、45℃で2日間充電保管を行い、その後、0.2Cに相当する電流で、3.0Vになるまで放電を行った。
【0170】
次に、表1〜表8に示す充電上限電圧と3.0Vの範囲で充放電を5回繰り返した。充電条件は、CCCV充電で0.5C相当の電流を用いた。放電は0.2Cに相当する一定電流(CC放電)で、3.0Vになるまで行った。そしてこの5サイクルの平均放電容量を、定格放電容量とした。
【0171】
(サイクル評価試験)
サンプル1−1〜サンプル8−4の非水電解質二次電池について、充放電を行い、5サイクル目の放電容量および300サイクル目の放電容量維持率を測定した。その際、充電は0.7Cで表1〜表8に示す上限電圧まで定電圧定電流充電をしたのち、表1〜表8に示す上限電圧で充電電流が50mAに減衰するまで行い、放電は0.5Cの一定電流で端子電圧が3.0Vに達するまで行った。
【0172】
300サイクル目の容量維持率は、3サイクル目の放電容量に対する300サイクル目の放電容量の比率(300サイクル目の放電容量/3サイクル目の放電容量)×100(%)として求めた。室温サイクル試験は、25℃の恒温槽内において行った。高温サイクルは、45℃の恒温槽内で行った。
【0173】
サンプル1−1〜サンプル1−20の試験結果を表1に示す。なお、表1中に示す面積密度比は、以下に説明するようにして求めたものである。
【0174】
まず、電極(正極または負極)を15φの円状で合剤と集電体を一体としたまま打ち抜き、その質量Aを測定した。次に、別途、集電体のみを15φの円状で打ち抜き、その質量Bを測定した。以上により、測定した質量Aおよび質量Bについて、下記式(1)、(式2)を用いて面積密度比を求めた。
式(1)
電極の合剤面積密度=(質量A−質量B)/(7.5×7.5×3.14)
式(2)
面積密度比=(正極の合剤面積密度)/(負極の合剤面積密度)
(サンプル2−1〜サンプル8−4についても同様)
【0175】
【表1】

【0176】
表1に示すように、完全充電時の開回路電圧を4.20Vに設計したサンプル1−1と、サンプル1−6との比較によると、酸化カルシウム(CaO)の有無に関係なく、室温サイクル、高温サイクルで大きな容量維持率の変化は見られなかった。
【0177】
しかしながら、完全充電時の開回路電圧を、4.30V以上4.45V以下に設計したサンプル1−2〜サンプル1−4と、サンプル1−7〜サンプル1−9との比較によると、室温サイクル容量維持率および高温サイクル容量維持率は、酸化カルシウム(CaO)が添加された正極を用いたサンプル1―2〜サンプル1−4のほうが、サンプル1−7〜サンプル1−9より大きかった。すなわち、酸化カルシウム(CaO)を正極に添加することで、より高いサイクル特性が得られることがわかった。
【0178】
また、サンプル1−5と、サンプル1−10との比較によると、室温サイクル容量維持率および高温サイクル容量維持率に明瞭な差が現れず、ともに低い容量維持率を示した。この結果は、充電上限電圧を4.50V以上にした場合には、正極活物質の劣化が大きいため、正極に酸化カルシウム(CaO)を含むことによる効果を、得ることができなかったからであると推察する。
【0179】
さらに、サンプル1−1〜サンプル1−10と、サンプル1−11〜サンプル1−20との比較によると、4−フルオロエチレンカーボネート(FEC)を電解液中に含ませることで、室温サイクル特性は、向上する傾向にあることがわかった。
【0180】
さらに、サンプル1−12〜サンプル1−14では、酸化カルシウム(CaO)を正極中に含ませることによって、高い室温サイクル特性を維持しながら、高温サイクル特性も向上した。すなわち、完全充電時の開回路電圧が4.30V〜4.45Vの範囲で、正極中に酸化カルシウム(CaO)含ませるようにし、且つ電解液に4−フルオロエチレンカーボネート(FEC)を含むようにすることで、最も優れた室温サイクル特性および高温サイクル特性を得られることがわかった。
【0181】
サンプル2−1〜サンプル2−10、サンプル1−13の試験結果を表2に示す。
【0182】
【表2】

【0183】
表2に示すように、サンプル2−1〜サンプル2−8、サンプル1−13によると、4−フルオロエチレンカーボネート(FEC)の添加量が0.50wt%以上のサンプル2−3〜サンプル2−7、サンプル1−13で、高い室温サイクル容量維持率が得られた。また、4−フルオロエチレンカーボネート(FEC)の添加量が3wt%以上のサンプル2−1〜サンプル2−7、サンプル1−13で、十分に高い室温サイクル容量維持率が得られた。
【0184】
また、サンプル2−1〜サンプル2−8、サンプル1−13によると、サンプル2―2〜サンプル2−7、サンプル1−13では、添加量が増加するにしたがって、高温サイクル容量維持率が高くなるが、4−フルオロエチレンカーボネート(FEC)の添加量が25wt%を超えるようにしたサンプル2−8では、高温サイクル容量維持率が低下した。以上より、電解液中の4−フルオロエチレンカーボネート(FEC)の量は、室温サイクル容量維持率および高温サイクル容量維持率を考慮すると、0.5wt%以上25wt%以下が好ましいことがわかった。
【0185】
さらに、サンプル2−9〜サンプル2−10によると、4,5−ジフルオロエチレンカーボネート(DFEC)を添加するようにしても、同様に、高い室温サイクル容量維持率および高温サイクル容量維持率を得られることがわかった。また、表2には示していないが、4,5−ジフルオロエチレンカーボネート(DFEC)についても、4−フルオロエチレンカーボネート(FEC)と同様に、0.5wt%〜25wt%が好ましい傾向にある。
【0186】
サンプル3−1〜サンプル3−10、サンプル1−8、サンプル1−3、サンプル1−18、サンプル1−13の試験結果を表3に示す。
【0187】
【表3】

【0188】
表3に示すように、サンプル1−8、サンプル3−1〜サンプル3−5、サンプル1−3によると、酸化カルシウム(CaO)を添加することにより、室温サイクル容量維持率および高温サイクル容量維持率を向上できることがわかった。また、酸化カルシウム塩の添加量が0.1wt%以上になると、より高い高温サイクル容量維持率を得られることがわかった。
【0189】
また、酸化カルシウムの添加量が3.0wt%以上になると、定格容量が著しく低下してしまうことがわかった。高い定格容量を保持するためには、カルシウム塩の添加量は少なければ少ないほど良いと考えられる。以上より、カルシウム塩の添加量は、定格容量、室温サイクル容量維持率および高温サイクル容量維持率を考慮すると、0.1wt%以上2.0wt%以下が好ましいことがわかった。
【0190】
さらに、サンプル1−18、サンプル4−1〜サンプル4−5、サンプル1−13によると、4−フルオロエチレンカーボネート(FEC)含む電解液を用いた場合において、カルシウム塩の添加量は、定格容量、室温サイクル容量維持率および高温サイクル容量維持率を考慮すると、0.1wt%以上2.0wt%以下が好ましいことがわかった。
【0191】
サンプル4−1〜サンプル4−5、サンプル1−18、サンプル1−13の試験結果を表4に示す。
【0192】
【表4】

【0193】
表4に示すように、サンプル1−18と、サンプル1−13、サンプル4−1〜サンプル4−5との比較によると、サンプル1−13、サンプル4−1〜サンプル4−5では、カルシウム塩を添加していないサンプル1−18と比べて、室温サイクルの維持率を維持したまま、高い高温サイクルの維持率を示した。すなわち、室温サイクル容量維持率および高温サイクル容量維持率を向上させる効果は、カルシウム塩の種類によらず得られることがわかった。
【0194】
サンプル5−1〜サンプル5−3、サンプル1−13の試験結果を表5に示す。
【0195】
【表5】

【0196】
表5に示すように、サンプル5−1〜サンプル5−3、サンプル1−13によると、(ポリプロピレン/ポリエチレン/ポリプロピレン)を用いたサンプル1−13、(ポリフッ化ビニリデン(PVDF)/ポリエチレン(PE)/PVDF)を用いたサンプル5−2、(アラミド/ポリエチレン(PE)/アラミド)を用いたサンプル5−3では、ポリエチレンセパレータを用いた5−1と比べて、室温サイクル容量維持率および高温サイクル容量維持率が増大した。なお、表には示さないが、ポリエチレン(PE)セパレータを用いたサンプル5−1では、280サイクルを超えたあたりから、サイクル劣化が見られ、特に高温サイクル特性の劣化が大きい傾向が見られた。
【0197】
サンプル6−1〜サンプル6−3、サンプル1−13の試験結果を表6に示す。
【0198】
【表6】

【0199】
表6に示すように、サンプル6−1〜サンプル6−3、サンプル1−13によると、完全充電時の開回路電池を4.35Vに設計した電池において、PP/PE/PPセパレータを用い、電解液に4−フルオロエチレンカーボネート(FEC)5wt%添加した電池において、正極活物質IIを用いた場合には、室温サイクル容量維持率および高温サイクル容量維持率が正極活物質Iに比べて、高い傾向にあった。
【0200】
また、4.45Vに設計した電池において、正極活物質IIを用いた場合でも、カルシウム塩と4−フルオロエチレンカーボネート(FEC)があることで、高い室温サイクル容量維持率および高温サイクル容量維持率を得られることがわかった。
【0201】
サンプル7−1、サンプル1−13の試験結果を表7に示す。
【0202】
【表7】

【0203】
表7に示すように、サンプル1−13、サンプル7−1によると、電解液中にカルシウム塩を添加するようにしても、同様に高いサイクル特性が得られ、正極中に混ぜ合わせたときと類似の効果が得られることが確認できた。
【0204】
サンプル8−1〜サンプル8−4、サンプル1−13の試験結果を表8に示す。
【0205】
【表8】

【0206】
表8に示すように、サンプル8−1〜サンプル8−4、サンプル1−13によると、完全充電時の開回路電圧を4.35Vと固定した場合、面積密度比(正極合剤の面積密度比/負極合剤の面積密度比)が低くなると、定格容量が低くなる傾向にある。これは、未利用の負極活物質が増えるためである。また、面精密度比が、2.20以上になると、サイクル特性が著しく低下する傾向が見られた。すなわち、好ましい面碩密度比は、1.90以上2.15以下であることがわかった。
【0207】
以上、実施形態および実施例を挙げてこの発明を説明したが、この発明は上述した実施形態および実施例に限定されるものではなく、この発明の要旨を逸脱しない範囲内で様々な変形や応用が可能である。例えば、上述した実施形態および実施例においては、巻回構造を有する非水電解質二次電池について説明したが、この発明は、正極および負極を折り畳んだりあるいは積み重ねた構造を有する非水電解質二次電池についても同様に適用することができる。加えて、いわゆるコイン型、ボタン型、角型あるいはラミネートフィルム型などの非水電解質二次電池についても適用することができる。
【0208】
また、上述した実施形態および実施例においては、液状の溶媒に電解質塩を溶解させるようにした電解液を用いる場合について説明したが、この発明は、他の電解質を用いる場合についても適用することができる。他の電解質としては、例えば、電解液を高分子化合物に保持させたいわゆるゲル状の電解質などが挙げられる。
【0209】
さらに、上述した実施形態および実施例では、負極の容量が、リチウムの吸蔵および放出による容量成分により表されるいわゆるリチウムイオン二次電池について説明したが、この発明は、負極活物質にリチウム金属を用い、負極の容量が、リチウムの析出および溶解による容量成分により表されるいわゆるリチウム金属二次電池、または、リチウムを吸蔵および放出することが可能な負極材料の充電容量を正極の充電容量よりも小さくすることにより、負極の容量がリチウムの吸蔵および放出による容量成分と、リチウムの析出および溶解による容量成分とを含み、かつその和により表されるようにした二次電池についても同様に適用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0210】
【図1】この発明の一実施形態による非水電解質二次電池の概略断面図である。
【図2】図1に示した巻回電極体の一部の拡大断面図である。
【符号の説明】
【0211】
1・・・電池缶
2・・・正極
2A・・・正極集電体
2B・・・正極活物質層
3A・・・負極集電体
3B・・・負極活物質層
3・・・負極
4・・・セパレータ
5、6・・・絶縁板
7・・・電池蓋
8・・・安全弁機構
9・・・熱感抵抗素子
10・・・ガスケット
11・・・ディスク板
12・・・センターピン
13・・・正極リード
14・・・負極リード
20・・・巻回電極体

【特許請求の範囲】
【請求項1】
正極活物質を有する正極と、負極活物質を有する負極と、電解質と、を有し、
一対の上記正極および上記負極当たりの完全充電状態における開回路電圧が4.30V以上4.45V以下の範囲内であり、
上記正極および上記電解質のうちの少なくとも何れかに、カルシウム塩が含まれていること
を特徴とする非水電解質二次電池。
【請求項2】
上記電解質は、炭酸エチレンの水素の少なくとも何れかをフッ素で置換した化合物を、含むものであること
を特徴とする請求項1記載の非水電解質二次電池。
【請求項3】
上記電解質は、4−フルオロエチレンカーボネートおよびジフルオロエチレンカーボネートのうちの少なくとも1種が含まれたものであること
を特徴とする請求項1記載の非水電解質二次電池。
【請求項4】
上記正極の合剤面積密度と、上記負極の合剤面積密度との面積密度比(正極の合剤面積密度/負極の合剤面積密度)が、1.90以上2.15以下であること
を特徴とする請求項1記載の非水電解質二次電池。
【請求項5】
上記電解質は、上記4−フルオロエチレンカーボネートおよびジフルオロエチレンカーボネートのうちの少なくとも1種が、0.5wt%以上25wt%以下含まれたものであること
を特徴とする請求項1記載の非水電解質二次電池。
【請求項6】
上記カルシウム塩が、上記正極活物質に対して、0.1wt%以上2.0wt%以下含まれたこと
を特徴とする請求項1記載の非水電解質二次電池。
【請求項7】
上記カルシウム塩は、酸化カルシウム(CaO)、炭酸カルシウム(CaCO3)、硫酸カルシウム(CaSO4)、硝酸カルシウム(Ca(NO32)、リン酸カルシウム(CaPO4)、酢酸カルシウム(Ca(CH3COO)2)および水酸化カルシウム(Ca(OH)2)よりなる群から選ばれた少なくとも1種であること
を特徴とする請求項1記載の非水電解質二次電池。
【請求項8】
上記電解質は、炭酸ビニレンが0.1wt%以上10wt%以下含まれたものであること
を特徴とする請求項1記載の非水電解質二次電池。
【請求項9】
上記セパレータの正極側の少なくとも一部は、ポリフッ化ビニリデン、ポリプロピレンおよびアラミドのうちの少なくとも一種を含むこと
を特徴とする請求項1記載の非水電解質二次電池。
【請求項10】
上記正極活物質は、第1のリチウム含有化合物の芯粒子の表面を、第2のリチウム含有化合物の微粒子で被覆した複合粒子であり、
上記第1のリチウム含有化合物および第2のリチウム含有化合物のそれぞれは、LixCoO2、LixNiO2、LixMn24、LixCo1-yy2、LixNi1-yy2、LxMn1-yy2で表されるリチウム含有化合物のうちのいずれかであること
を特徴とする請求項1記載の非水電解質二次電池。
〔式中、Mは、チタン(Ti)、バナジウム(V)、クロム(Cr)、マンガン(Mn)、鉄(Fe)、アルミニウム(Al)、コバルト(Co)、ニッケル(Ni)、銅(Cu)、亜鉛(Zn)、モリブデン(Mo)、ビスマス(Bi)、ホウ素(B)から選ばれる少なくとも1種の元素を表し、xは0<x≦1.2、yは0<y<1である〕
【請求項11】
上記電解質は、LiPF6を含むものであること
を特徴とする請求項1記載の非水電解質二次電池。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2008−288112(P2008−288112A)
【公開日】平成20年11月27日(2008.11.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−133551(P2007−133551)
【出願日】平成19年5月18日(2007.5.18)
【出願人】(000002185)ソニー株式会社 (34,172)
【Fターム(参考)】