説明

非水電解質二次電池

【課題】電極層内の電解液不足の防止、空隙発生の防止、およびセルの厚みの変化の吸収を可能とすることにより、抵抗の上昇の抑制および内部短絡の防止された、充放電サイクル特性に優れた非水電解質二次電池を提供する。
【解決手段】正極と、リチウムと合金化する元素を含む活物質を備える負極と、電解質を含むセパレータと、を備える蓄電素子を含む非水電解質二次電池であって、前記セパレータが負極側から正極側に向かって傾斜減少した空孔率を有する、非水電解質二次電池である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は非水電解質二次電池に関する。更に詳細には機能選定した多層セパレータを有する非水電解質二次電池に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、大気汚染や地球温暖化に対処するため、二酸化炭素量の低減が切に望まれている。自動車業界では、電気自動車(EV)やハイブリッド電気自動車(HEV)の導入による二酸化炭素排出量の低減に期待が集まっており、これらの実用化の鍵を握るモータ駆動用二次電池の開発が盛んに行われている。
【0003】
モータ駆動用二次電池としては、携帯電話やノートパソコン等に使用される民生用リチウムイオン二次電池と比較して極めて高い出力特性、及び高いエネルギーを有することが求められている。従って、全ての電池の中で最も高い理論エネルギーを有するリチウムイオン二次電池が注目を集めており、現在急速に開発が進められている。
【0004】
リチウムイオン二次電池は、一般に、バインダーを用いて正極活物質等を正極集電体の両面に塗布した正極と、バインダーを用いて負極活物質等を負極集電体の両面に塗布した負極とが、電解質層を介して接続され、電池ケースに収納される構成を有している。
【0005】
従来、リチウムイオン二次電池の負極には充放電サイクルの寿命やコスト面で有利な炭素・黒鉛系材料が用いられてきた。しかし、炭素・黒鉛系の負極材料ではリチウムイオンの黒鉛結晶中への吸蔵・放出により充放電がなされるため、最大リチウム導入化合物であるLiCから得られる理論容量372mAh/g以上の充放電容量が得られないという欠点がある。このため、炭素・黒鉛系負極材料で車両用途の実用化レベルを満足する容量、エネルギー密度を得るのは困難であると予想される。
【0006】
これに対し、負極にリチウムと合金化する材料を用いた電池は、従来の炭素・黒鉛系負極材料と比較しエネルギー密度が向上するため、車両用途における負極材料として期待されている。例えば、Si材料は、充放電において下記の反応式のように1molあたり4.4molのリチウムイオンを吸蔵放出し、Li22Siにおいては2000mAh/g程度もの理論容量を有する。
【0007】
【数1】

【0008】
しかし、負極にリチウムと合金化する材料を用いたリチウムイオン二次電池は、充放電時の正極および負極の膨張収縮が大きい。例えば、リチウムイオンを吸蔵した場合の体積膨張は、黒鉛では約1.2倍であるのに対し、Si材料では約4倍にも達する。従って、電極間の電解液不足が生じ、充放電の容量の低下を招きやすいといった欠点を有する。
【0009】
このような充放電時における電解液不足を補う方法として、正負極間に配設されたセパレータの基材上に電解液保持層を形成することによって、正負極の膨潤による電極間の電解液の不足を補う方法が開示されている(特許文献1を参照)。
【特許文献1】特開2002−8730号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
しかし、リチウム合金系負極材料はリチウムと合金を形成する際に炭素・黒鉛系負極材料に比べて大きな体積膨張を伴う。このため、したがって、特許文献1に開示される技術では、充放電時の膨張収縮による電極内での電解液が不足する問題を解決できないおそれがある。
【0011】
そこで本発明の目的は、充放電時の電極内における電解液不足を解決することにより、電極の内部抵抗の上昇が抑制された非水電解質二次電池を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者らは上記課題を解決すべく、鋭意研究を行った。その結果、正極と負極との間に、負極側から正極側に向かって空孔率が傾斜減少した構造を有するセパレータを備えた蓄電素子を用いることで、上記課題が解決されうることを見出し、本発明を完成させるに至った。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、負極と正極との間に位置するセパレータの空孔部分に電解液が保持されるため、セパレータから電極内への電解液の受給が可能となる。特に、セパレータが負極側から正極側に向かって空孔率が傾斜減少した構造を有するため、電極の膨張収縮が大きく、電解液不足の生じる負極側において電解液の保持量を十分に確保することができる。その結果、充放電時の膨張収縮による電解液の不足に陥ることなく、電極の抵抗の上昇を抑制でき、したがって、充放電サイクル特性に優れた非水電解液二次電池が得られる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下、添付した図面を参照して本発明を適用した好適な実施形態を説明する。なお、図面の寸法比率は、説明の都合上誇張されており、実際の比率とは異なる場合がある。
【0015】
本発明の電池の種類は、特に制限されないが、例えば、非水電解質二次電池である。本発明の非水電解質二次電池の構造および形態は、積層型(扁平型)、巻回型(円筒型)電池など特に制限されず、従来公知のいずれの構造にも適用されうる。本発明では積層型(扁平型)の電池構造にすることが好ましい。巻回型(円筒型)電池構造は、正極および負極リード端子を取り出す部分のシール性を高めることが困難な場合がある。このため、電気自動車やハイブリッド電気自動車に搭載する高エネルギー密度、高出力密度の電池では、リード端子取り出し部位のシール性の長期の信頼性を確保できないおそれがある。これに対して積層型(扁平型)の構造は、簡単な熱圧着などのシール技術により長期信頼性を確保でき、コスト面や作業性の点で有利である。
【0016】
非水電解質二次電池の電解質の形態で区別した場合にも、特に制限はない。例えば、非水電解液をセパレータに含浸させた液体電解質型電池、ポリマー電池とも称される高分子ゲル電解質型電池および固体高分子電解質(全固体電解質)型電池のいずれにも適用されうる。
【0017】
したがって、以下の説明では、代表的な実施形態として本発明の電池が積層型(扁平型)の非水電解質二次電池である場合を例に挙げて説明するが、本発明の技術的範囲は下記の形態のみに制限されない。
【0018】
本発明の代表的な一実施形態は正極と、リチウムと合金化する元素を含む活物質を備えた負極と、電解質を含むセパレータと、を備える蓄電素子を含み、前記セパレータが負極側から正極側に向かって空孔率が傾斜減少した構造を有する、非水電解質二次電池である。かような形態によれば、セパレータから電極内への電解液の受給が可能となるため、充放電サイクル特性に優れた非水電解質二次電池を得ることができる。
【0019】
上述のように、本発明の非水電解質二次電池は、正極と負極とセパレータとからなる蓄電素子によって構成される。以下、本発明の非水電解質二次電池を構成する蓄電素子について図面を参照しながら説明する。
【0020】
[蓄電素子]
図1は、本発明の非水電解質二次電池を構成する蓄電素子を表す模式断面図である。本発明の非水電解質二次電池を構成する蓄電素子10は正極13と負極19とがセパレータ16を介して積層されてなる構造を有する。ここで、正極13は、正極合剤層12と正極集電体11とにより構成され、正極集電体11の片面に正極合剤層12が設けられた構造を有する。また、負極19は負極合剤層17と負極集電体18とにより構成され、負極集電体18の片面に負極合剤層17が設けられた構造を有する。
【0021】
セパレータ16は負極合剤面に接する第1のセパレータ15と正極合剤面に接する第2のセパレータ14との2層から構成されている。なお、図1においてセパレータ16は2層で構成されているが、セパレータ16は図示した2層形態のみに限定されるわけではなく、単層のセパレータで構成されていても、多層のセパレータで構成されていてもよい。
【0022】
上記蓄電素子10を構成する各層間は接合用バインダー20により結合されていることが好ましい。かような構成とすることによって、電極を構成する各層間がバインダーにより接合されて一体化するため、耐振動性の向上した電池が得られる。
【0023】
本発明の非水電解質に用いられる蓄電素子は上記形態のみに制限されるわけでなく、従来公知の他の形態も用いられうるが、作業性、コスト面から、図1のように、積層型(円筒型)の形態であることが好ましい。すなわち、本発明に用いられる蓄電素子は正極と負極とをセパレータを介して積層されてなることが好ましい。一般に用いられる巻回型(円筒型)蓄電素子はテンションをかけて各電極およびセパレータが捲かれるため、電極およびセパレータの位置ズレは生じにくい。これに対して、積層型(扁平型)の蓄電素子は、タブ部を溶接しているのみで、各層が一体的に接続されているわけではないため、電極の膨張収縮を緩和できない場合には位置ズレや空隙の発生および蓄電素子形状の変形が生じるおそれがある。本実施形態に係る蓄電素子は、後述する機能選定されたセパレータの使用およびバインダーによる接合により、膨張収縮に対する追随性および各層間の密着性を向上することができるためこれらの問題を防止することが可能である。
【0024】
また、図1に示す蓄電素子は、セパレータ16と、セパレータ16の一方の面に形成された正極合剤層12と、セパレータ16の他方の面に形成された負極合剤層15と、から構成される単電池層が一つ含まれる。さらに、正極集電体11および負極集電体18の両面に単電池層を形成させ、図2または図3に示す蓄電素子(積層型)30または蓄電素子(双極型)40のように、複数の単電池層と複数の集電体との積層構造とすることができる。ここで、図3は双極型電極を用いた蓄電素子の例である。図3に示す蓄電素子40では、双極型電極用の集電体21の一方の面に正極合剤層12が、他方の面に負極合剤層15が形成された双極型電極22が用いられている。
【0025】
以下、本発明の蓄電素子10を構成する部材について説明するが、下記の形態のみに制限されることはなく、従来公知の形態が同様に採用されうる。
【0026】
[負極合剤層]
負極合剤層は負極活物質を含み、必要に応じて電気伝導性を高めるための導電剤、合剤用バインダー、電解質(ポリマーマトリックス、イオン伝導性ポリマー、電解液など)、イオン伝導性を高めるための電解質支持塩(リチウム塩)などをさらに含んで構成される。
【0027】
負極合剤層中に含まれる成分の配合比は特に限定されず、非水電解質二次電池についての公知の知見を適宜参照することにより、調整されうる。また、合剤層の厚さについても特に制限はなく、非水電解質二次電池についての従来公知の知見が適宜参照されうる。一例を挙げると、合剤層の厚さは、2〜100μm程度である。
【0028】
(負極活物質)
本発明の非水電解質二次電池に用いられる負極活物質はリチウムを可逆的に吸蔵および放出できるものであれば特に制限されないが、リチウムと合金化する元素を含むことが好ましい。リチウムと合金化する元素を用いることにより、従来の炭素系材料に比べて高いエネルギー密度を有する高容量の電池を得ることが可能となる。
【0029】
上記のリチウムと合金化する元素としては、以下に制限されることはないが、具体的には、Si、Ge、Sn、Pb、Al、In、Zn、H、Ca、Sr、Ba、Ru、Rh、Ir、Pd、Pt、Ag、Au、Cd、Hg、Ga、Tl、C、N、Sb、Bi、O、S、Se、Te、Cl等が挙げられる。これらの中でも、容量およびエネルギー密度に優れた電池を構成できる観点から、Si、Ge、Sn、Pb、Al、In、およびZnからなる群より選択される少なくとも1種以上の元素を含むことが好ましく、SiまたはSnの元素を含むことが特に好ましい。これらは1種単独で使用しても良いし、2種以上を併用しても良い。
【0030】
この他、グラファイト、ソフトカーボン、ハードカーボン等の炭素材料、金属材料、リチウム−チタン複合酸化物(チタン酸リチウム:LiTi12)等のリチウム−移金属複合酸化物、およびその他の従来公知の負極活物質が使用可能である。場合によっては、2種以上の負極活物質が併用されてもよい。
【0031】
(導電剤)
導電剤とは、導電性を向上させるために配合される添加物をいう。本発明の非水電解質二次電池に用いられる導電剤は特に制限されず、従来公知のものを利用することができる。例えば、アセチレンブラック等のカーボンブラック、グラファイト、炭素繊維などの炭素材料が挙げられる。導電剤を含むと、合剤層の内部における電子ネットワークが効果的に形成され、電池の出力特性の向上に寄与しうる。
【0032】
(合剤用バインダー)
負極合剤層は合剤用バインダーを含んでもよい。本発明において、「合剤用バインダー」とは、活物質同士または活物質と集電体とを結着させて電極構造を維持する目的で合剤層に加えられるバインダーを意味し、後述する「接合用バインダー」と区別して使用される。
【0033】
本発明で用いることのできる合剤用バインダーとしては、以下に制限されることはないが、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、ポリ酢酸ビニル、ポリイミド、およびアクリル樹脂などの熱可塑性樹脂、エポキシ樹脂、ポリウレタン樹脂、およびユリア樹脂などの熱硬化性樹脂、ならびにスチレンブタジエンゴム(SBR)などのゴム系材料が挙げられる。
【0034】
(電解質・支持塩)
電解質としては、例えば、ポリエチレンオキシド(PEO)、ポリプロピレンオキシド(PPO)、それらの共重合体などのリチウム塩を含むイオン伝導性ポリマー(固体高分子電解質)などが挙げられるが、これらに制限されることはない。
【0035】
支持塩(リチウム塩)としては、以下に制限されないが、LiPF、LiBF、LiClO、LiAsF、LiTaF、LiAlCl、Li10l10、LiCFSO、Li(CFSON、Li(CSON、ビスペンタフルオロエチルスルホニルイミドリチウム(LiBETI)等が挙げられる。
【0036】
[正極合剤層]
正極合剤層は正極活物質を含み、必要に応じて導電剤、合剤用バインダー、電解質、電解質支持塩などをさらに含んで構成される。正極合剤層の構成要素のうち、正極活物質以外は、上記で説明した内容と同様であるので、ここでは説明を省略する。正極合剤層中に含まれる成分の配合比および正極合剤層の厚さについても特に限定されず、非水電解質二次電池についての従来公知の知見が適宜参照されうる。
【0037】
(正極活物質)
本発明の非水電解質二次電池の正極活物質は特にリチウムの吸蔵放出が可能な材料であれば限定されず、リチウムイオン二次電池に通常用いられる正極活物質を利用することができる。具体的には、リチウム−遷移金属複合酸化物が好ましく、例えば、LiMnなどのLi−Mn系複合酸化物やLiNiOなどのLi−Ni系複合酸化物が挙げられる。場合によっては、2種以上の正極活物質が併用されてもよい。
【0038】
[集電体]
本発明で用いることのできる正極集電体および負極集電体としては、特に制限されるものではなく、従来公知のものを利用することができる。具体的には、鉄、クロム、ニッケル、マンガン、チタン、モリブデン、バナジウム、ニオブ、アルミニウム、銅、銀、金、白金およびカーボンからなる群より選択されてなる少なくとも1種の集電体材料で構成された集電体を用いることができる。集電体の厚さは、特に限定されないが、通常は1〜100μm程度である。
【0039】
[セパレータ]
本発明の非水電解質二次電池においては、正極と負極との間にセパレータが設けられる。本発明の非水電解質二次電池に用いられるセパレータは負極側から正極側に向かって空孔率が傾斜減少した構造を有することを特徴とする。なお、本発明において「傾斜減少した空孔率」とは、連続的または段階的に減少する空孔率をいう。
【0040】
充放電時の体積膨張は正極に比べて負極が大きいため、電解液不足の問題は主に負極側で生じる。本発明のセパレータには電解液が含浸し、セパレータの空孔部分に電解液が保持されている。このため、セパレータは電極の膨張収縮によって不足した電解液の受給層として機能する。電解液の保持量を十分に確保できる空孔率の大きな材料を電解液不足の生じる負極側のセパレータとして配置することによって、電解液の不足に陥ることなく、電極の抵抗の上昇を抑制することが可能となる。
【0041】
また、空孔率の大きな材料はクッション性に富むため、負極側のセパレータの一部の空孔率を大きくすることによって、電極の膨張収縮に伴うセルの厚みの変化を吸収することが可能となる。すなわち、空孔率の大きなセパレータの一部がセル厚みの変化を吸収する緩衝層として機能しうる。さらに、空孔率の大きなセパレータ材料は柔軟性に富み、電極の膨張収縮に追随できるため、電極とセパレータとの間に部分的な空隙の発生をも抑制することができる。このように負極側のセパレータの空孔率を大きくすることで、負極側で生じる空隙の発生を効果的に防止することが可能となる。
【0042】
一方、一般に空孔率は小さいほど強度は大きくなる。正極側のセパレータの空孔率を小さくすることにより、両極の接触時の電流の短絡を防止する機能が発揮できるのに十分な強度を付与することが可能となる。
【0043】
このように、本発明のセパレータは正極側の空孔率の小さな部分と負極側の空孔率の大きな部分とを併せ持つことによって、電解液受給層、緩衝層、空隙防止層、および短絡防止層としての機能を発揮できる。上記のように空孔率の傾斜の方向は負極側から正極側に向かって減少する方が効果的にこれらの機能を発揮できるため好ましいが、負極側から正極側に向かって増加するセパレータを用いることもできる。
【0044】
上記のセパレータは傾斜した空孔率を有するものであれば特に制限されず、単一のセパレータから構成されていても、複数のセパレータが積層された構成を有していてもよい。単一のセパレータを用いる場合には、例えば、空孔率が連続的または段階的に変化している単層の材料を用いればよい。また、空孔率の異なる複数のセパレータ材料を積層させて、段階的に空孔率を傾斜させた積層物を用いてもよい。所望の機能の付与および空孔率の調整が容易であるという観点から、好ましくは多層、より好ましくは2層で構成される。以下、セパレータが多層構造を有する場合について詳述するが、セパレータの形態はこれに限定されるわけではなく、上述した単層構造のセパレータも同様に用いられうる。
【0045】
本発明においてセパレータの空孔率とは、セパレータの体積に対する、セパレータ内部に存在する空孔(細孔)の総体積の割合を意味する。空孔率の測定方法は特に制限されないが、例えば最終製品のセパレータの嵩密度ρとセパレータを構成する原材料の真密度ρから下記式を用いて算出することができる。ここで「嵩密度」とはセパレータ内部の空孔を考慮した密度をいい、「真密度」とはセパレータを構成する原材料の空孔を考慮しない理論密度をいう。また、水銀圧入法による細孔分布測定などによりセパレータ内部に存在する空孔(微細孔)の体積を測定し、セパレータの体積に対する割合として求めることもできる。
【0046】
【数2】

【0047】
【数3】

【0048】
セパレータの空孔率の傾斜の有無については、たとえば、走査型電子顕微鏡(SEM)等を用いたセパレータ断面の観察により確認が可能である。
【0049】
本実施形態において、セパレータは負極合剤面に接合する第1のセパレータと正極合剤面に接合する第2のセパレータとを含む。また、本実施形態において、第1のセパレータの空孔率が第2のセパレータの空孔率より大きいことを特徴とする。かような形態においては、負極側の空孔率の大きな第1セパレータが電解液受給層、緩衝層、空隙防止層の役割を担い、一方正極側の空孔率の小さな第2セパレータが短絡防止層の役割を担うことが可能となる。
【0050】
(第1セパレータ)
本実施形態において、第1セパレータは負極合剤面に接合するセパレータをいい、主に電解液受給層、緩衝層、空隙防止層の役割を担う層である。
【0051】
本実施形態の第1のセパレータの空孔率は50%〜90%であることが好ましく、55%〜85%であることがより好ましく、60%〜80%であることが特に好ましい。負極側に配置されるセパレータがかかる範囲にあれば電解液不足による抵抗増加を抑制でき、電池のサイクル特性を向上させることが可能となる。さらに、上記範囲の空孔率を有するセパレータは柔軟性に富むため、電極の膨張収縮に伴うセルの厚みの変化を吸収でき、電極表面とセパレータ層との間の空隙発生を防止することが可能となる。
【0052】
上記第1のセパレータは不織布からなることが好ましい。不織布は製造方法や原料を選択することにより厚みや空隙率などの特性を容易に所望の範囲にすることができるため、負極の膨張収縮に対応した物性選択が可能である。また、不織布は電解液の保液性、含浸性、スポンジ効果に優れるため、電極の膨張収縮の際の緩衝層、電解液の受給層としての機能を発揮できる。なお、本発明において、「不織布」とは繊維を熱・機械的または化学的な作用によって接着または絡み合わせる事で布にしたものを指す。
【0053】
本発明で用いられる不織布としては、繊維がランダムに結合されたものが好ましい。当該不織布は強度や伸びなどに方向性を持たないので、当該不織布からなるセパレータは電極の膨張収縮に対して柔軟に対応できる。このため、セル抵抗増加をもたらすセパレータと電極層間の空隙の発生を抑制することができる。これに対して、従来公知のセパレータ材である多孔質フィルムは強度や伸びに対して方向性を有するため、膨張収縮に対する柔軟性が小さく、空隙が発生しやすい。また、空孔率が大きくかつ高強度である多孔質フィルムの作製は困難である。このように、不織布を採用したセパレータは、従来の多孔質フィルムなどのセパレータを用いた場合と比較して、電極の膨張収縮への追随性に加えて、コスト面にも優れるため有利である。
【0054】
上記不織布としては以下に制限されることはないが、レーヨン、ガラス不織布、ポリエステル、アラミド、ポリイミド、綿、アセテート、セラミックなどが挙げられる。これらの中でも特に、紙系のセルロースレーヨン系からなる不織布が好ましい。
【0055】
(第2セパレータ)
本実施形態において、第2セパレータは正極合剤面に接合するセパレータ層をいい、主に短絡防止機能を有する層である。
【0056】
本実施形態の第2のセパレータの空孔率は30%〜49%であることが好ましく、35%〜45%であることがより好ましい。空孔率が50%以上であるセパレータは短絡防止機能が低くなるため好ましくない。正極側に配置されるセパレータが上記範囲にあれば、短絡防止として十分な突き刺し強度を有するため、短絡防止機構として機能することが可能である。
【0057】
上記第2のセパレータは微多孔質フィルムからなることが好ましい。上記微多孔質フィルムとしては特に制限されず、一般にリチウムイオン電池に使用されるものが採用されうる。具体的には、ポリプロピレン(PP)、ポリエチレン(PE)などのポリオレフィン、PP/PE/PPの3層構造をした積層体、ポリイミド、アラミドが挙げられる。
【0058】
上記セパレータの微細孔の径は、最大で1μm以下(通常、微多孔膜では0.1μm以下の孔径である)であることが望ましい。微多孔質フィルムなどからなる第2のセパレータは、過充電時により電池内の温度が上昇した場合のシャットダウン機構として機能しうる。シャットダウン機構とは、電池が発熱した場合に、微多孔質フィルムのポリマーが溶融または軟化してセパレータ内の微細孔が閉塞し、イオン透過性をなくすことにより電池の充放電を停止させる機構である。このように、シャットダウン機能を備えた微多孔質フィルムを第2セパレータとして用いることで、電池が発熱した場合、過充電を停止できる非水電解質二次電池が提供される。
【0059】
セパレータの厚みについては、特に制限されないが、上記第1のセパレータの厚みが上記第2のセパレータの厚みより大きいことが好ましい。第1セパレータの厚みが第2セパレータの厚み以上であれば、負極の膨張収縮に対応した保液量を確保でき、各セパレータの厚みおよび空孔率を検討することにより、最適なセパレータの選択が可能となる。
【0060】
具体的には、第1セパレータの厚みは20〜50μmであることが好ましく、25〜45μmであることがより好ましい。第1セパレータの厚みが上記範囲である場合には、負極の膨張収縮時の電極厚みの変化の吸収および電解質の保液量の確保が可能となる。厚さが20μm未満では電解質の保持性が悪化し、50μmを超える場合には抵抗が増大する。
【0061】
一方、第2セパレータの厚みは5〜19μmであることが好ましく、8〜16μmであることがより好ましい。かかる範囲にあれば短絡防止に十分な強度を確保できる。また、セパレータの厚みが薄いほど活物質の充填量が増加するため、セルのエネルギー密度が大きくなる。本発明においては、第2セパレータの厚みを19μm以下に薄くすることによって、エネルギー密度の向上が図られる。
【0062】
このように、第1セパレータおよび第2セパレータの厚みを上記範囲に調整することで、負極の膨張収縮により不足した電解液の受給および短絡防止の機能を持たせつつ、セルのエネルギー密度を確保することができる。
【0063】
上記のように、本発明に用いられるセパレータは、非水電解質二次電池において電解液受給層、セルの厚みの変化の緩衝層、空隙防止層、短絡防止層、異常時対策層としての機能を有する。なお、上記第1セパレータと第2セパレータとの間にさらにセパレータを積層させて多層としてもよいし、空孔率の傾斜した単一の材料に上記第1セパレータおよび第2セパレータの機能を付与したものを用いてもよい。
【0064】
(電解質)
電解質(具体的には、リチウム塩)は、充放電時に正負極間を移動するリチウムイオンのキャリアーとしての機能を有する。本発明の非水電解質二次電池において、上記セパレータには電解質が含浸されて保持されている。セパレータに含浸させることのできる電解質としては、充放電時に正負極間を移動するリチウムイオンのキャリアーとしての機能を有するものであれば特に制限されず、液体電解質またはポリマー電解質が用いられうる。
【0065】
液体電解質は、可塑剤である有機溶媒に支持塩であるリチウム塩が溶解した形態を有する。可塑剤として用いられうる有機溶媒としては、例えば、エチレンカーボネート(EC)、プロピレンカーボネート(PC)、ジメチルカーボネート(DMC)、ジエチルカーボネート(DEC)等のカーボネート類が例示される。また、支持塩(リチウム塩)としては、Li(CFSON、Li(CSON、LiPF、LiBF、LiAsF、LiTaF、LiClO、LiCFSO等の電極の合剤層に添加されうる化合物が同様に採用されうる。
【0066】
一方、ポリマー電解質は、電解液を含むゲルポリマー電解質(ゲル電解質)と、電解液を含まない真性ポリマー電解質に分類される。
【0067】
ゲルポリマー電解質は、イオン伝導性ポリマーからなるマトリックスポリマー(ホストポリマー)に、上記の液体電解質が注入されてなる構成を有する。電解質としてゲルポリマー電解質を用いることで電解質の流動性がなくなり、導電性高分子膜などの集電体層への電解質の流出をおさえ、各層間のイオン伝導性を遮断することが容易になる点で優れている。マトリックスポリマー(ホストポリマー)として用いられるイオン伝導性ポリマーとしては、特に限定されない。例えば、ポリエチレンオキシド(PEO)、ポリプロピレンオキシド(PPO)、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、ポリフッ化ビニリデンとヘキサフルオロプロピレンの共重合体(PVDF−HFP)、ポリエチレングリコール(PEG)、ポリアクリロニトリル(PAN)、ポリメチルメタクリレート(PMMA)およびこれらの共重合体等が挙げられる。ここで、上記のイオン伝導性ポリマーは、正極合剤層および負極合剤層において電解質として用いられるイオン伝導性ポリマーと同じであってもよく、異なっていてもよいが、同じであることが好ましい。電解液(電解質塩および可塑剤)の種類は特に制限されず、上記で例示したリチウム塩などの電解質塩およびカーボネート類などの可塑剤が用いられうる。
【0068】
真性ポリマー電解質は、上記のマトリックスポリマーに支持塩(リチウム塩)が溶解してなる構成を有し、可塑剤である有機溶媒を含まない。従って、電解質として真性ポリマー電解質を用いることで電池からの液漏れの心配がなく、電池の信頼性が向上しうる。
【0069】
ゲルポリマー電解質や真性ポリマー電解質のマトリックスポリマーは、架橋構造を形成することによって、優れた機械的強度を発現しうる。架橋構造を形成させるには、適当な重合開始剤を用いて、高分子電解質形成用の重合性ポリマー(例えば、PEOやPPO)に対して熱重合、紫外線重合、放射線重合、電子線重合等の重合処理を施せばよい。
【0070】
[接合用バインダー]
前記蓄電素子の各層間は接合用バインダーにより接合され一体化されていることが好ましい。本発明において、「接合用バインダー」とは、蓄電素子を構成する正極、負極、およびセパレータとを接合させて電極構造を維持する目的で各構成層間に加えられるバインダーを意味し、前述した「合剤用バインダー」と区別して使用される。
【0071】
蓄電素子の各層間を接合用バインダーにより一体化させることにより、電極の膨張収縮とセパレータが同期することが可能となり、空隙防止効果および電極とセパレータの結着性が向上する。また、かかる蓄電素子においては、電極の膨張収縮時とセパレータとが同期するため、電解質受給層としての機能をより効果的に発揮できる。その結果、サイクル特性および耐振動性の向上した非水電解質二次電池が得られる。
【0072】
本発明で用いることのできる接合用バインダーとしては、特に制限されず、リチウムイオン電池の電極作製用バインダーとして従来用いられる公知の材料が用いられうる。具体的には、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、ポリ酢酸ビニル、ポリイミド、およびアクリル樹脂などの熱可塑性樹脂、エポキシ樹脂、ポリウレタン樹脂、およびユリア樹脂などの熱硬化性樹脂、ならびにスチレンブタジエンゴム(SBR)などのゴム系材料などが挙げられる。中でも、PVDF、PTFE、SBR、アクリル、ポリイミドが好ましい。また、接合用バインダーは、正極および負極に使用する合剤用バインダーと同じであっても、異なってもよいが、同じである方が、接合しやすく、結着性が大きいため好ましい。
【0073】
接合用バインダーの塗布形態としては、電極面の全面に塗布するのではなく、格子状または網目状に塗布することが好ましい。接合用バインダーが緻密かつ全面に電極面に塗布されると、イオンや電子の透過が阻害され、電池の出力が低下するおそれがある。したがって、接合用バインダーを格子状または網目状に塗布することで、塗布形成される接合用バインダーの層の空孔率をセパレータ材と同程度またはより大きくすることが望ましい。電極面の全面に接合バインダーを塗布する場合には、例えば、セパレータ面に接合用バインダーを塗布することにより、塗布形成される接合用バインダー層の空孔率をセパレータ材と同程度とすることが望ましい。
【0074】
接合用バインダーの塗布量については、各層間の接着性が確保でき、電池の出力が低下しない限り特に制限されず、塗布するバインダー溶液の濃度に応じて適宜調整される。
【0075】
本発明による蓄電素子の構成は、積層型電池にも双極型電池にも適用することができる。以下に、本発明の非水電解質二次電池の構造について説明する。
【0076】
[電池の構造]
本発明の非水電解質二次電池は、上記の蓄電素子によって構成される。
【0077】
[積層型電池]
本発明の電池は、積層型の非水電解液二次電池(以下、「積層型電池」とも称する)でありうる。
【0078】
一の集電体の両面とそれぞれ電気的に結合した正極合剤層を有する正極と、他の集電体の両面とそれぞれ電気的に結合した負極合剤層を有する負極と、前記正極および前記負極の間に配置されたセパレータと、が交互に積層されてなる非水電解液二次電池である。
【0079】
図4は、本発明の積層型の非水電解液二次電池の概要を示す断面図である。以下、図4に示す積層型電池を例に挙げて詳細に説明するが、本発明の技術的範囲はかような形態のみに制限されない。
【0080】
図4に示す本実施形態の積層型電池100は、実際に充放電反応が進行する略矩形の蓄電素子170が、外装であるラミネートシート220の内部に封止された構造を有する。
【0081】
図4に示すように、本実施形態の積層型電池100の蓄電素子170は、複数の単電池層160を含む。単電池層160は、セパレータ130と、セパレータ130の一方の面に形成された正極合剤層120と、セパレータ130の他方の面に形成された負極合剤層150と、から構成される。そして、各正極合剤層120間には正極集電体110が配置され、各負極合剤層150間には負極集電体140が配置される。すなわち、蓄電素子170は、複数の単電池層160および複数の各集電体(正極集電体110および負極集電体140)から構成される。また、図4に示す形態において、セパレータ130は、電解質を保持している。
【0082】
そして、正極集電体110および負極集電体140は、それぞれ正極タブ180および負極タブ190に電気的に接続される。そして蓄電素子170は、これらの正極タブ180および負極タブ190が外部に導出するように、外装であるラミネートシート220により封止されている。
【0083】
なお、図4に示す積層型電池100においては、正極合剤層120が負極合剤層150よりも一回り大きいが、かような形態のみには制限されない。負極合剤層150と同じかまたは一回り小さい正極合剤層120もまた、用いられうる。
【0084】
以下、本実施形態の積層型電池100を構成する部材について簡単に説明する。ただし、電極を構成する成分については上記で説明した通りであるため、ここでは説明を省略する。また、本発明の技術的範囲が下記の形態のみに制限されることはなく、従来公知の形態が同様に採用されうる。
【0085】
[タブ]
積層型電池100では、電池外部に電流を取り出す目的で、それぞれの正極集電体110(110aを含む)および負極集電体140に電気的に接続されたタブ(正極タブ180および負極タブ190)が外装であるラミネートシート220の外部に取り出される。具体的には、それぞれの正極集電体110、110aに電気的に接続された正極タブ180と、それぞれの負極集電体140に電気的に接続された負極タブ190とが、外装であるラミネートシート220の外部に取り出される。
【0086】
タブ(正極タブ180および負極タブ190)を構成する材料は特に制限されず、積層型電池用のタブとして従来用いられている公知の材料が用いられうる。タブの構成材料としては、例えば、アルミニウム、銅、チタン、ニッケル、ステンレス鋼(SUS)、これらの合金等が例示される。なお、正極タブ180と負極タブ190とでは、同一の材質が用いられてもよいし、異なる材質が用いられてもよい。接続方法としては、本実施形態のように、別途準備したタブ(180、190)を集電体(110、140)に接続してもよいし、集電体を延長することによりタブとしてもよい。また、集電体(110、140)とタブ(180、190)との間を正極端子リード200、負極端子リード210を介して電気的に接続してもよい。
【0087】
[外装]
非水電解質二次電池では、使用時の外部からの衝撃や環境劣化を防止するために、蓄電素子(電池要素)全体を電池外装材ないし電池ケースに収容するのが望ましい。外装材としては、従来公知の金属缶ケースを用いることができほか、アルミニウムを含むラミネートシートを用いた蓄電素子(電池要素)を覆うことができる袋状のケースを用いることができる。
【0088】
金属缶ケースタイプの外装体は強度を有するため、缶内の蓄電素子が多少膨張収縮しても吸収でき、セルの厚み変化は生じない。また、缶の材質、板厚の設計および外装缶と蓄電素子のクリアランス等を検討することにより、所望の強度および大きさを有する缶ケースを得ることが可能である。
【0089】
一方、車載用大型電池においては、自動車の熱源から効率よく熱を伝え、電池内部を迅速に電池動作温度まで加熱しうる点で、好ましくは、熱伝導性に優れた高分子−金属複合ラミネートシート等が用いられうる。
【0090】
上記高分子−金属複合ラミネートシートとしては、特に制限されず、高分子フィルム間に金属フィルムを配置し全体を積層一体化してなる従来公知のものを使用することができる。具体的には、高分子フィルムからなる外装保護層(ラミネート最外層)、金属フィルム層、高分子フィルムからなる熱融着層(ラミネート最内層)のように配置し全体を積層一体化してなるものが挙げられる。
【0091】
中でも、特に、形状の自由度の高いアルミラミネートフィルムの外装体を用いることが好ましい。本発明において、「アルミラミネート」とはアルミニウムを含む積層物をいう。ラミネートタイプの外装体を使用する場合には蓄電素子の厚み変化が直接外装体に反映され、外装体自身も膨張収縮されるため、膨張収縮時に外装体にピンホールが開いたりし、水分混入により信頼性が低下する可能性がある。したがって、形状の自由度の高いアルミラミネートフィルムを使用することで、これらの問題を解決でき、熱伝導性と信頼性に優れるため、好ましい。
【0092】
アルミラミネートフィルムの具体的な形態としては、例えば、ポリプロピレン(PP)、アルミニウム、ナイロンをこの順に積層してなる3層構造のラミネートフィルム等が挙げられるが、これらに何ら制限されるものではない。
【0093】
[双極型電池]
本発明の電池は、双極型の非水電解液二次電池(以下、「双極型電池」とも称する)でありうる。
【0094】
集電体の一方の面と電気的に結合した正極合剤層を有する正極と、前記集電体のもう一方の面と電気的に結合した負極合剤層を有する負極と、正極および負極の間に配置されたセパレータと、が交互に積層されてなる非水電解液二次電池である。
【0095】
双極型電池は、積層型電池に比して一層の高出力密度および高電圧を有しうる利点があるため好ましい。積層型電池は正極および負極のそれぞれからリード線をとり、当該リード線を介して隣の電池と接続される。このため、リード線の長さに相当して電子の伝導パスが長くなり、電池の出力が低くなる。これに対して双極型電池は、集電体を介して縦方向(電極の積層方向)に電流が流れるため、電子の伝導パスを短くでき、高出力になる。
【0096】
図5は本発明の双極型の非水電解質二次電池の概要を示す断面図である。
【0097】
図5に示す本実施形態の双極型電池300は、実際に充放電反応が進行する略矩形の蓄電素子370が、外装であるラミネートシート420の内部に封止された構造を有する。
【0098】
図5に示すように、本実施形態の双極型電池300の蓄電素子370は、複数の双極型電極340を含む。双極型電極340は、集電体310の片面に正極合剤層320を設け、他方の面に負極合剤層330を設けた構造を有している。すなわち、双極型電池300は、集電体310の一方の面上に正極合剤層320を有し、他方の面上に負極合剤層330を有する双極型電極340を、セパレータ350を介して複数枚積層した構造の蓄電素子370を具備してなるものである。また、図5に示す形態において、セパレータ350は、電解質を保持している。
【0099】
隣接する正極合剤層320、セパレータ350および負極合剤層330は、一つの単電池層(=電池単位ないし単セル)360を構成する。従って、双極型電池300は、単電池層360が積層されてなる構成を有するともいえる。また、単電池層360からの電解液の漏れによる液絡を防止するために単電池層360の周辺部には絶縁層(シール部)430が配置されている。絶縁層(シール部)430を設けることによって、隣接する集電体310間を絶縁し、隣接する電極(正極320および負極330)間の接触による短絡を防止することができる。
【0100】
さらに、正極側の最外層集電体310aは、電気的に接続された正極タブ380に、負極側の最外層集電体310bは、電気的に接続された負極タブ390に接続される。そして、これらの正極タブ380および負極タブ390が外部に導出するように、蓄電素子370が、ラミネートシート420からなる外装材内に封止されている。なお、最外層集電体(310a、310b)とタブ(380、390)との間を正極端子リード400、負極端子リード410を介して電気的に接続してもよい。
【0101】
以下、本実施形態の双極型電池300を構成する部材について簡単に説明するが、上記双極型電池の構成要素のうち、電極を構成する成分、タブおよび外装については上記に記載した内容と同様であるので、ここでは説明を省略する。
【0102】
[絶縁層]
双極型電池300においては、通常、各単電池層360の周囲に絶縁層(シール部)430が設けられる。この絶縁層(シール部)430は、電池内で隣り合う集電体310同士が接触したり、蓄電素子370における単電池層360の端部の僅かな不揃いなどによる短絡が起きたりするのを防止する目的で設けられる。かような絶縁層430の設置により、長期間の信頼性および安全性が確保され、高品質の双極型電池300が提供されうる。
【0103】
このように、双極型電池は単電池層の周囲に絶縁層(シール部)を設けた電極が積層されたセル構造を有するため、セルの厚みの変化、すなわちセル内の集電体の追動は絶縁層(シール部)の破断等をもたらし、電池の信頼性が低下するおそれがある。本発明の双極型電池においては、セパレータがセルの厚みの変化を吸収する緩衝層として機能する。このため、リチウム合金系負極材料を用いた場合にも、セルの厚みの変化がほとんど生じず、信頼性の高い双極型電池が提供されうる。さらに、セル内の各層が接合用バインダーで接合されている場合には電極の膨張収縮へセパレータが追随しやすいためセルの厚みの変化を低減でき、より一層優れた信頼性および耐振動性を有する双極型電池が得られる。
【0104】
絶縁層としては、絶縁性、固体電解質の脱落に対するシール性や外部からの水分の透湿に対するシール性(密封性)、電池動作温度下での耐熱性などを有するものであればよい。例えば、ウレタン樹脂、エポキシ樹脂、ポリエチレン樹脂、ポリプロピレン樹脂、ポリイミド樹脂、またはゴムなどが用いられうる。なかでも、耐蝕性、耐薬品性、作り易さ(製膜性)、経済性などの観点から、ウレタン樹脂またはエポキシ樹脂が好ましい。
【0105】
[電池の製造方法]
本実施形態の積層型電池および双極型電池の製造方法としては、特に制限されるものではなく、従来公知の方法を適用して作製することができる。
【0106】
例えば、積層型電池の場合には、まず、活物質、導電剤およびバインダーなどの電極材料を含む電極スラリーの混合物をスラリー粘度調製溶媒に分散して正極活物質スラリーおよび負極活物質スラリーを調製し、集電体の両面に上記スラリーを塗布する。
【0107】
スラリー粘度調製溶媒としては、特に制限されることはないが、例えば、N−メチル−2−ピロリドン(NMP)などが挙げられる。スラリーはホモジナイザーまたは混練装置などを用いて溶媒および固形分よりインク化される。スラリーを集電体に塗布するための塗布手段も特に限定されないが、例えば、自走型コータ、ドクターブレード法、スプレー法などの一般に用いられる手段が採用されうる。
【0108】
続いて、集電体の表面に形成された塗膜を乾燥させる。これにより、塗膜中の溶媒が除去される。塗膜を乾燥させるための乾燥手段も特に制限されず、電極製造について従来公知の知見が適宜参照されうる。例えば、加熱処理が例示される。乾燥条件(乾燥時間、乾燥温度など)は、スラリーの塗布量やスラリー粘度調製溶媒の揮発速度に応じて適宜設定されうる。得られた乾燥物はプレスすることによって電極の密度や厚みが調整され、正極および負極が得られる。
【0109】
その後、正極と負極がセパレータを介して対向するように積層させることにより、単電池を作製するとよい。そして、単電池の数が所望の数となるまでセパレータおよび電極の積層を繰り返す。かような製造方法によれば、より簡便な手法によってセパレータの形成が可能であり、かつ、セパレータと合剤層との密着性が高い蓄電素子が作製されうる。
【0110】
なお、蓄電素子の各層間をバインダーにより接合して一体化させる場合には、バインダーをNMPなどの溶媒に分散させて調整した接合用バインダー溶液を、セパレータまたは接合層の表面にバーコーター、ディスペンサ等を用いて塗布し、乾燥させればよい。
【0111】
そして、各正極と負極を束ねてリードを溶接して、この積層体を正負極のリードを取り出した構造にて、アルミニウムのラミネートフィルムバッグに収めて、注液機により電解液を注液して、減圧下で端部をシールして電池とする。
【0112】
上記では電解質が液体電解質である場合の積層型電池を例に挙げて説明したが、ゲル電解質や真性ポリマー電解質を用いた場合の積層型電池およびここで挙げた電解質を用いた双極電池の作製についても、公知の技術を参照して実施可能であり、ここでは省略する。
【0113】
[組電池]
本発明の電池の複数個を、並列および/または直列に接続して、組電池としてもよい。本発明の電池は負極電極の膨張収縮が生じた場合においても、機能選定されたセパレータが緩衝層としての役割を行うため、セルとしての厚み増減がほとんどない。このため、リチウム合金系負極材料を用いた場合においても、従来電池と同様に組電池化が可能である。
【0114】
図6は、本実施形態の組電池を示す斜視図である。
【0115】
図6に示すように、組電池500は、上記の実施形態に記載の積層型電池100が複数個接続されることにより構成される。各積層型電池100の正極タブ180および負極タブ190がバスバーを用いて接続されることにより、各積層型電池100が接続されている。組電池500の一の側面には、組電池500全体の電極として、電極ターミナル(520、530)が設けられている。
【0116】
組電池500を構成する複数個の積層型電池100を接続する際の接続方法は特に制限されず、従来公知の手法が適宜採用されうる。例えば、超音波溶接、スポット溶接などの溶接を用いる手法や、リベット、カシメなどを用いて固定する手法が採用されうる。かような接続方法によれば、組電池500の長期信頼性が向上しうる。
【0117】
本発明の組電池500によれば、組電池500を構成する個々の積層型電池100が充放電サイクル特性に優れることから、充放電サイクル特性に優れる組電池が提供されうる。
【0118】
なお、組電池500を構成する積層型電池100の接続は、複数個全て並列に接続してもよく、また、複数個全て直列に接続してもよく、さらに、直列接続と並列接続とを組み合わせてもよい。これにより、容量および電圧を自由に調節することが可能となる。
【0119】
[車両]
本発明の電池は、上述した積層型電池100、双極型電池300、または組電池500をモータ駆動用電源として車両に搭載されうる。積層型電池100、双極型電池300、または組電池500をモータ用電源として用いる車両としては車輪をモータによって駆動する自動車、および他の車両(例えば電車)が挙げられる。上記の自動車としては、例えば、ガソリンを用いない完全電気自動車、シリーズハイブリッド自動車やパラレルハイブリッド自動車などのハイブリッド自動車、および燃料電池自動車などがある。これにより、従来に比して高寿命で信頼性の高い車両を製造することが可能となる。
【0120】
参考までに、図7に、組電池を搭載する自動車の概略図を示す。自動車600に搭載される組電池500は、上記で説明したような特性を有する。このため、組電池500を搭載する自動車600は充放電サイクル特性に優れた車両となる。
【0121】
以上、本発明の好適な実施形態について示したが、本発明は、以上の実施形態に限られるものではなく、当業者によって種々の変更、省略、および追加が可能である。
【実施例】
【0122】
以下、本発明による二次電池の効果を、以下の実施例および比較例を用いて説明するが、本発明の技術的範囲はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0123】
(積層型電池)
[実施例1]
(正極の作製)
正極活物質としてLiNiO(86質量%)、導電剤としてアセチレンブラック(6質量%)、およびバインダーとしてPVDF(8質量%)を、スラリー粘度調整溶媒であるNMPの適量に分散させ、正極活物質スラリーを調製した。
【0124】
集電体として、厚さ20μmのアルミニウム箔を準備し、集電体の両面に上記で作製したスラリーを塗布した。次いで、60℃雰囲気下で乾燥後プレスすることで片面の合剤層厚みが130μmの正極を作製した。
【0125】
得られた正極を、電極部サイズが34mm×24mmとなるように、アルミニウム端子と溶接するタブ部を残して打ち抜き、積層用の正極を作製した。
【0126】
(負極の作製)
負極活物質としてSiO(87質量%)、導電剤としてアセチレンブラック(3質量%)、およびバインダーとしてPVDF(10質量%)を、スラリー粘度調整溶媒であるNMPの適量に分散させ、負極活物質スラリーを調製した。
【0127】
集電体として、厚さ10μmの銅箔を準備し、集電体の両面に上記で作製したスラリーを塗布した。次いで、60℃雰囲気下で乾燥後プレスすることで片面の合剤層厚みが30μmの負極を作製した。
【0128】
得られた負極を、電極部サイズが36mm×26mmとなるように、溶接するタブ部を残して打ち抜き、積層用の負極を作製した。
【0129】
(セパレータの準備)
負極合剤層に対向するセパレータ(第1セパレータ)として、微多孔質膜(厚さ:25μm、空孔率:41%)を準備した。また、正極合剤層に対向するセパレータ(第2セパレータ)として、微多孔質膜(厚さ:12μm、空孔率:40%)を準備した。
【0130】
(蓄電素子の作製)
上記で調整した正極9枚、負極10枚、第1セパレータ20枚、および第2セパレータ20枚を位置ズレが生じないように治具を用いて、下記のように正極と負極がセパレータを介して対向するように積層させることにより、蓄電素子を完成させた。なお、両端は第1セパレータ、第2セパレータを積層させた。
【0131】
【表1】

【0132】
(評価用セルの作製)
上記で作製した蓄電素子の正極にアルミニウム製タブリードを、負極にニッケル製タブリードを、超音波溶接にて接続させた。次いで、当該蓄電素子を、蓄電素子のサイズに成形されたアルミラミネートフィルムの外装の内部に入れ、電解液を注液する1辺を残し、残り3辺を熱融着して袋状にした。その内部に、所定量の電解液を注入して含浸させた後、残りの1辺を真空封止して評価用セルを作製した。
【0133】
なお、電解液は、エチレンカーボネート(EC)とジメチルカーボネート(DMC)との等体積混合液(EC:DMC=1:1(体積比))にリチウム塩であるLiPFが1Mの濃度に溶解した溶液を用いた。
【0134】
[実施例2]
蓄電素子の作製時に負極合剤層に対向するセパレータ(第1セパレータ)として、微多孔質膜(厚さ:25μm、空孔率:51%)を使用したこと以外は、実施例1と同様にして評価用セルを作製した。
【0135】
[実施例3]
蓄電素子の作製時に負極合剤層に対向するセパレータ(第1セパレータ)として、微多孔質膜(厚さ:25μm、空孔率:58%)を使用したこと以外は、実施例1と同様にして評価用セルを作製した。
【0136】
[実施例4]
蓄電素子の作製時に負極合剤層に対向するセパレータ(第1セパレータ)として、微多孔質膜(厚さ:31μm、空孔率:70%)を使用したこと以外は、実施例1と同様にして評価用セルを作製した。
【0137】
[実施例5]
蓄電素子の作製時に負極合剤層に対向するセパレータ(第1セパレータ)として、微多孔質膜(厚さ:34μm、空孔率:80%)を使用したこと以外は、実施例1と同様にして評価用セルを作製した。
【0138】
[実施例6]
蓄電素子の作製時に負極合剤層に対向するセパレータ(第1セパレータ)として、セルロースレーヨン系不織布(厚さ:30μm、空孔率:66%)を使用したこと以外は、実施例1と同様にして評価用セルを作製した。
【0139】
[実施例7]
(正極および負極の作製とセパレータの準備)
実施例1と同様にして正極および負極を作製した。負極合剤層に対向するセパレータ(第1セパレータ)としてセルロースレーヨン系不織布(厚さ:30μm、空孔率:66%)を、正極合剤層に対向するセパレータ(第2セパレータ)として微多孔質膜(厚さ:12μm、空孔率:40%)を準備した。
【0140】
(正極単体素子の作製)
バーコーターを用い、第2セパレータ2枚の片面に接合用バインダー溶液を塗布し、当該塗布面を正極の両面に密着させた。得られた積層体を、加圧下60℃雰囲気下で乾燥させることにより、正極単体素子を作製した。なお、接合用バインダー溶液は、PVDF(5質量%)をNMP(95質量%)に溶解させたものを使用した。
【0141】
(負極単体素子の作製)
バーコーターを用い、第1セパレータ2枚の片面に接合用バインダー溶液を塗布し、当該塗布面を負極の両面に密着させた。得られた積層体を、加圧下60℃雰囲気下で乾燥させることにより、負極単体素子を作製した。なお、接合用バインダー溶液は、PVDF(5質量%)をNMP(95質量%)に溶解させたものを使用した。
【0142】
(蓄電素子の作成)
上記で作製した正極単体素子上に上記で用いた接合用バインダー溶液を、スプレー法により塗布し、その表面に負極単体素子を密着させ、加圧下60℃雰囲気下で乾燥させることにより、正極/負極素子を作製した。
【0143】
上記の工程を繰り返し、正極単体素子9枚および負極単体素子10枚を、部材の位置ズレが生じないように治具を用いて、下記のように積層し、各層間がバインダーで接合された蓄電素子を完成させた。なお、両端は第2セパレータを積層させ、接合させた。
【0144】
【表2】

【0145】
(評価用セルの作製)
上記で作製した蓄電素子を用いて、実施例1と同様の手順で評価用セルを作製した。
【0146】
[比較例1]
(正極および負極の作製とセパレータの準備)
実施例1と同様にして正極および負極を作成した。セパレータとして、微多孔質膜(厚さ:25μm、空孔率:40%)を準備した。
【0147】
(蓄電素子の作製)
上記で調整した正極9枚、負極10枚、およびセパレータ20枚を位置ズレが生じないように治具を用いて、下記のように正極と負極がセパレータを介して対向するように積層させることにより、蓄電素子を完成させた。
【0148】
【表3】

【0149】
(評価用セルの作製)
上記で作製した蓄電素子を用いて、実施例1と同様の手順で評価用セルを作製した。
【0150】
[比較例2]
蓄電素子の作製時にセパレータとしてセルロースレーヨン系不織布(厚さ:40μm、空孔率:66%)を使用したこと以外は、比較例1と同様にして評価用セルを作製した。
【0151】
[比較例3]
蓄電素子の作製時に負極合剤層に対向するセパレータ(第1セパレータ)として、微多孔質膜(厚さ:12μm、空孔率:40%)を使用した。また、正極合剤層に対向するセパレータ(第2セパレータ)として、セルロースレーヨン系不織布(厚さ:30μm、空孔率:66%)を使用した。上記以外は実施例1と同様にして評価用セルを作製した。
【0152】
(評価)
(充放電サイクル試験)
上記の方法で作製した各評価用セルについて、25℃の雰囲気下、定電流定電圧方式(CCCV、電流:0.5C、電圧:4.2V)で3時間充電した後、定電流(CC、電流:0.5C)で2.5Vまで放電し、放電後30分間休止させた。この充放電過程を1サイクルとし、50サイクルの充放電試験をおこない、容量保持率を調べた。結果を下記の表4に示す。なお、表4において容量保持率は、1サイクル目の放電容量に対する50サイクル目の放電容量の割合を表す(百分率表示)。なお、Cは時間率を示す。
【0153】
【表4】

【0154】
表4より、セパレータが負極側から正極側に向かって傾斜減少した空孔率を有する実施例1〜7のセルは、比較例1および2の空孔率の傾斜のない単層のセパレータを用いた場合に比べて、50サイクル後の容量保持率が高いことが確認された。比較例1では、電解液の保液量が乏しく、電極の膨張収縮に対してセパレータが追随できないため、容量保持率が低いと考えられる。また、比較例2では、電解液は十分に確保されるが、セパレータ1層では電極の膨張収縮に対して追従しにくいと考えられる。これに対し、実施例1〜7のセルは、電解液の保液性および電極の膨張収縮への追随性に優れるため、電解液不足や空隙発生を抑制でき、優れた充放電サイクル特性を有することが示される。
【0155】
また、実施例6と比較例3との比較から、第1のセパレータの空孔率が前記第2のセパレータの空孔率より大きく、第1のセパレータの厚みを第2のセパレータの厚みより大きくすることで、セルの容量保持率を一層向上させることができることがわかった。
【0156】
これに加えて、表4の実施例2〜4と実施例1との比較から、第1セパレータの空孔率が50%から90%であるという条件を満たすセパレータを用いると、容量保持率がより向上することがわかった。
【0157】
さらに、実施例6と7との比較から、蓄電素子の各層間が接合バインダーで接合されたセルは容量保持率が高いことが確認された。各層間をバインダーにより接合させることで、電極の膨張収縮とセパレータとが同期するため、電解質受給層としての機能をより効果的に発揮できると考えられる。
【0158】
以上から、非水電解質二次電池において、負極側から正極側に向かって傾斜減少した空孔率を有するセパレータを用いると、従来のセパレータと比較して、エネルギー密度を低下させることなく、放電効率を高い値に維持することが可能であることが示される。さらに、接合バインダーの使用やセパレータの空孔率および厚みの調節により、容量保持率をより一層向上させることができることがわかった。
【0159】
<双極型電池>
[実施例8]
(双極型電極の作製)
実施例1と同様にして、正極活物質スラリーおよび負極活物質スラリーを調製した。集電体として、厚さ20μmのSUS箔を用意し、集電体の一方の面に上記正極スラリーを塗布した後に乾燥させて、厚さ30μmの正極合剤層の正極を形成させた。次いで、集電体の他方の面に、上記負極スラリーを塗布した後に乾燥させて、厚さ20μmの負極合剤層の負極を形成させた。上記の手順により、集電体であるSUS箔の両面に正極と負極とが形成された双極型電極を得た。
【0160】
次いで、得られた双極型電極を160mm×130mmのサイズに切断し、切断された電極(正極および負極)の外周部(10mm)を剥がしとることにより、集電体であるSUS表面を露出させた。すなわち、電極面が140mm×110mmであり、電極の外周部10mmに集電体であるSUS箔が露出した双極型電極を得た。
【0161】
(電解質層の形成)
電解液として、プロピレンカーボネート(PC)とエチレンカーボネート(EC)との等体積混合液(PC:EC=1:1(体積比))にリチウム塩であるLiPFが1Mの濃度に溶解した溶液を用いた。また、ホストポリマーとして、HFPコポリマーを10質量%含有するPVDF−HFPを用いた。上記の電解液とホストポリマーとの混合液(90質量%:10質量%)に、粘度調製溶媒としてジメチルカーボネート(DMC)を塗布工程に最適な粘度になるまで添加することで、プレゲル電解質を作製した。
【0162】
得られたプレゲル電解質を双極型電極の両面(正極および負極電極部)に塗布した後に、DMCを乾燥させることで、双極型電極にゲル電解質を含浸させた。
【0163】
(セパレータの調製)
負極合剤層に対向するセパレータ(第1セパレータ)として、微多孔質膜(厚さ:30μm、空孔率:66%)を、正極合剤層に対向するセパレータ(第2セパレータ)として、微多孔質膜(厚さ:12μm、空孔率:40%)を準備した。
【0164】
バーコーターを用い、第2セパレータの片面に接合用バインダー溶液を塗布した。この塗布面に第1セパレータを密着させ、加圧下60℃雰囲気下で乾燥させることにより、第1セパレータおよび第2セパレータの接合化セパレータを作製した。なお、接合用バインダー溶液は、実施例7と同様に、PVDF(5質量%)をNMP(95質量%)に分散させたものを使用した。
【0165】
その後、第1セパレータのもう一方の面に上記で調製したプレゲル電解質を塗布し、DMCを乾燥させることでセパレータにゲル電解質を含浸させた。
【0166】
(シール部前駆体の形成)
ディスペンサを用い、双極型電極の正極側外周部のSUS箔露出部分(電極未塗布部分)にシール前駆体を塗布した。次いで、上記シール前駆体が塗布されたSUS箔が全て覆われるように、170mm×140mmサイズに切断したセパレータを、第2セパレータと対向するように正極側に配置した。その後、セパレータの上から、上記シール前駆体の塗布部(電極未塗布部分)に対応する部分にディスペンサを用いて、シール前駆体を塗布した。なお、シール前駆体としては、一液性未硬化エポキシ樹脂を用いた。
【0167】
(積層工程)
以上で作製した双極型電極を13枚重ねることで単電池が12積層された双極型電池構造体を作製した。
【0168】
【表5】

【0169】
(双極型電池のプレス)
作製した双極型電池構造体を熱プレス機を用いて、面圧1kg/cm、80℃の条件下で1時間熱プレスすることにより、未硬化のシール部(一液性エポキシ樹脂)を硬化させた。その結果、12層積層された双極型電池要素(蓄電素子)を得た。この工程によりシール部を所定の厚みまでプレスするとともに硬化することが可能となる。
【0170】
(双極型電池の作製)
作製した双極型電池要素4つを直列に積層し、電流取り出し用のアルミニウムタブをはさみ、外装材としてアルミラミネートフィルムを用いて真空密封することで、48直列の双極型電池を作製した。
【0171】
[比較例4]
セパレータとして微多孔質フィルム(厚さ:12μm、空孔率:40%)を使用し、また、各層をバインダーにより接合しないこと以外は、実施例8と同様にして双極型電池を作製した。
【0172】
(評価)
(充放電サイクル)
上記の方法で作製した各電池について、25℃の雰囲気下、定電流方式(CC、電流:5C)で200Vまで充電し、10分間休止させた後、定電流(CC、電流:5C)で120Vまで放電し、放電後10分間休止させた。この充放電過程を1サイクルとし、50サイクルの充放電試験をおこない、容量保持率を調べた。結果を下記の表6に示す。なお、表6においても「容量保持率」は、1サイクル目の放電容量に対する50サイクル目の放電容量の割合を表す(百分率表示)。
【0173】
【表6】

【0174】
表6より、空孔率が大きくかつ厚い第1セパレータと空孔率の小さくかつより薄い第2セパレータとからなるセパレータを有する双極型電池(実施例8)は単層の微多孔質フィルムのからなる双極型電池(比較例4)に比べ、容量保持率が高いことが確認された。
【0175】
このように、双極型の非水電解質二次電池においても、負極側から正極側に向かって傾斜減少した空孔率を有するセパレータを用いると充放電サイクルを向上させうることがわかった。
【図面の簡単な説明】
【0176】
【図1】本発明の非水電解質二次電池を構成する蓄電素子を示す模式断面図である。
【図2】本発明の非水電解質二次電池を構成する蓄電素子(積層型)を示す模式図である。
【図3】本発明の非水電解質二次電池を構成する蓄電素子(双極型)を示す模式図である。
【図4】本発明の一実施形態による積層型電池を示す断面図である。
【図5】本発明の一実施形態による双極型電池を示す断面図である。
【図6】本発明の一実施形態による積層型電池を複数個接続して得られる組電池を示す斜視図である。
【図7】本発明の一実施形態による組電池を搭載する自動車の概略図である。
【符号の説明】
【0177】
10、30、40、170、370 蓄電素子、
11、110 正極集電体、
12、120、320 正極合剤層、
13 正極、
14 第2セパレータ、
15 第1セパレータ、
16、130、350 セパレータ、
17、150、330 負極合剤層、
18、140 負極集電体、
19 負極、
20 接合用バインダー、
21、310 集電体、
22、340 双極型電極、
100 積層型電池、
110a 最外層正極集電体、
160、360 単電池層、
180、380 正極タブ(端子)、
190、390 負極タブ(端子)、
200、400 正極端子リード、
210、410 負極端子リード、
220、420 ラミネートシート、
300 双極型電池、
310a 正極側の最外層集電体、
310b 負極側の最外層集電体、
340a、340b 最外層に位置する電極、
430 絶縁層、
500 組電池、
520、530 電極ターミナル、
600 自動車。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
正極と、リチウムと合金化する元素を含む活物質を備える負極と、電解質を含むセパレータと、を備える蓄電素子を含む非水電解質二次電池であって、前記セパレータは負極側から正極側に向かって空孔率が傾斜減少した構造を有する、非水電解質二次電池。
【請求項2】
前記セパレータが多層で構成される、請求項1に記載の非水電解質二次電池。
【請求項3】
前記セパレータが負極面に接する第1のセパレータと正極面に接する第2のセパレータとの2層で構成される請求項1または2に記載の非水電解質二次電池。
【請求項4】
前記第1のセパレータの空孔率が50%から90%である、請求項1〜3のいずれか一項に記載の非水電解質二次電池。
【請求項5】
前記第2のセパレータの空孔率が30%から49%である、請求項1〜4のいずれか一項に記載の非水電解質二次電池。
【請求項6】
前記第1のセパレータの厚みが前記第2のセパレータの厚みより大きい、請求項1〜5のいずれか一項に記載の非水電解質二次電池。
【請求項7】
前記蓄電素子の各層間がバインダーにより接合され一体化されている、請求項1〜6のいずれか一項に記載の非水電解質二次電池。
【請求項8】
前記第1のセパレータが不織布からなる、請求項1〜7のいずれか一項に記載の非水電解質二次電池。
【請求項9】
前記第2のセパレータが微多孔質フィルムからなる、請求項1〜8のいずれか一項に記載の非水電解質二次電池。
【請求項10】
負極板が活物質として、Si、Ge、Sn、Pb、Al、In、およびZnからなる群より選択される少なくとも1種の元素を含む、請求項1〜9のいずれか一項に記載の非水電解質二次電池。
【請求項11】
前記蓄電素子が、正極と負極とをセパレータを介して積層されてなる、請求項1〜10のいずれか一項に記載の非水電解質二次電池。
【請求項12】
双極型二次電池である、請求項1〜11のいずれか一項に記載の非水電解質二次電池。
【請求項13】
請求項1〜12のいずれか一項に記載の非水電解質二次電池を複数個接続して構成した組電池。
【請求項14】
請求項1〜12のいずれか一項に記載の非水電解質二次電池または請求項13に記載の組電池を駆動用電源として搭載した電気自動車、ハイブリッド電気自動車、または燃料電池車。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2013−16523(P2013−16523A)
【公開日】平成25年1月24日(2013.1.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−235732(P2012−235732)
【出願日】平成24年10月25日(2012.10.25)
【分割の表示】特願2008−54042(P2008−54042)の分割
【原出願日】平成20年3月4日(2008.3.4)
【出願人】(000003997)日産自動車株式会社 (16,386)
【Fターム(参考)】