説明

非水電解質二次電池

【課題】電池の異常時において、多量のガスが発生した場合、そのガスが電池ケース外部へ排出されることに伴い、電極群も封口板側へ移動し、ガス排出流路を遮断する危険性があった。
【解決手段】電極群と封口板との間に配される上部絶縁板と、電極群の中央部に配される中芯とが一体成形された構造体を用いる。したがって、異常時にガスの排出圧力が集中する上部絶縁板の中央部の強度を高くすることができ、上部絶縁板の破損による電極群の移動を抑制することが可能となる。よって、ガス排出流路の遮断を防ぎ、電池の安全性を向上することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、非水電解質二次電池に関し、特に円筒形電池における安全性を向上させるための構造に関する。
【背景技術】
【0002】
円筒形電池は、一般に、有底円筒形の金属製の電池ケースに発電要素を電解質とともに収容し、その開口部を封口板(組立封口体を含む)により封口して密閉し構成される。リチウムイオン二次電池等の非水電解質二次電池において、発電要素となる電極群は、例えば正極と負極との間にセパレータを配して渦巻き状に巻回して構成される。セパレータは、正極と負極との間を絶縁するとともに、電解質を保持する機能を有している。また、封口板と電池ケースには、それぞれ正極又は負極から導出された正極リード又は負極リードが接続され、正極又は負極の外部端子となっている。電池ケースに挿入された電極群と封口板との間には上部絶縁板が設けられ、電極群と電池ケースとの間には下部絶縁板が設けられることで、電極群は封口板や電池ケースと電気的に絶縁されている。電池ケースには、上部絶縁板の上部に、内側に突出する溝部が形成されており、この溝部によって上部絶縁板の上部方向への移動は抑制され、電極群は上部絶縁板により固定されている。
【0003】
このような非水電解質二次電池(以下、単に「電池」と称すこともある)では、落下等によって外部から強い衝撃が加えられることで、電極群が電池ケース内で移動して破損する可能性があった。
【0004】
上記問題に対して、例えば、電極群の周辺部に対応するように突起を設けた上部絶縁板を用い、電極群の移動を抑制することが提案されている(例えば、特許文献1参照)。また、弾性体形状に加工された上部絶縁板の中央に貫通孔を形成し、その貫通孔に中芯を圧入させて、上部絶縁板を電池ケースの内壁と中芯で突っ張って固定することで、電極群の移動を抑制する構造も提案されている(例えば、特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2006−351471号公報
【特許文献2】特開2003−317805号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
一般的な非水電解質二次電池は、過充電や内部短絡などの異常により、電池ケース内でガスが発生した場合に備えて、電池ケースの内部圧力が所定値に達したときに作動するガス排出機構を封口板に有している。
【0007】
しかしながら、近年、電子機器の多機能化に伴って、電池の高容量化が進んでおり、上記のような異常が発生したときのガス発生量も、ますます多くなることが想定される。
【0008】
そのような状況において、電池の異常により、上記封口板のガス排出機構が作動した場合、特許文献1のような上部絶縁板では、ガスの排出圧力が集中する中央部付近の強度が弱く、上部絶縁板が中央部で破壊される可能性があった。したがって、電極群が上部へ移動し、封口板に形成されたガス排出流路を遮断する危険性があった。
【0009】
一方、特許文献2のように、弾性体形状に加工された上部絶縁板の貫通孔に中芯を圧入
すると、電極群が上部絶縁板によって押圧され、損傷することがある。また、上部絶縁板が変形し、その高さ位置や水平度がばらついてしまうことで、電池ケースに上部絶縁板の移動を抑制する溝部を形成する工程で、上部絶縁板が噛みこまれ、破損することがある。
【0010】
本発明は、かかる課題に鑑みなされたもので、生産性が高く、異常時においても、ガス排出流路を遮断せず、電池ケース外部に速やかにガスを排出することで、安全性に優れた非水電解質二次電池を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記目的を達成するために、本発明の非水電解質二次電池は、正極と負極とをセパレータを介して巻回した電極群を、開口部を有する有底円筒形の電池ケースに収納し、前記開口部をガス排出機構を有する封口板で封口した非水電解質二次電池であって、前記電極群と前記封口板との間には上部絶縁板が配され、前記電池ケースには、前記上部絶縁板の上部において内側に突出する溝部が形成されており、前記電極群の中央部には中芯が配されており、前記上部絶縁板と前記中芯とは一体成形された構造体であることを特徴とする。
【0012】
本発明によれば、上部絶縁板と中芯とが一体成形された構造体であるため、中芯を上部絶縁板に圧入する必要がない。したがって、上部絶縁板に押圧されることでの電極群の損傷や、上部絶縁板が変形することでの組み立て工程時の破損を防ぎ、製造不良を低減することができる。
【0013】
また、本発明の上部絶縁板の中央部は、中芯と一体成形されているため強度が強い。そのため、電池の異常で多量のガスが発生し、中央部付近のガス排出圧力が増加した場合であっても、上部絶縁板の破損を防ぎ、電極群の上部への移動が抑制されることで、封口板のガス排出流路は確保される。しがって、異常時のガスを電池ケース外部に速やかに排出でき、安全性に優れた非水電解質二次電池を実現できる。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、生産性が高く、異常時においても、ガス排出流路を遮断せず、電池ケース外部に効率的にガスを排出することで、安全性に優れた非水電解質二次電池を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本発明の一実施形態に係る非水電解質二次電池の概略構成を示す断面図
【図2】本発明の一実施形態に係る上部絶縁板と中芯を一体成形した構造体の斜視図
【図3】本発明の他の実施形態に係る非水電解質二次電池の概略構成を示す断面図
【図4】(a)本発明の他の実施形態に係る上部絶縁板と中芯を一体成形した構造体の上面図、及び(b)断面図
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明の非水電解質二次電池は、正極と負極とをセパレータを介して巻回した電極群を、開口部を有する有底円筒形の電池ケースに収納し、前記開口部をガス排出機構を有する封口板で封口した非水電解質二次電池であって、前記電極群と前記封口板との間には上部絶縁板が配され、前記電池ケースには、前記上部絶縁板の上部において内側に突出する溝部が形成されており、前記電極群の中央部には中芯が配されており、前記上部絶縁板と前記中芯とは一体成形された構造体であることを特徴とする。
【0017】
上述したように、本発明では、上部絶縁板と中芯とが一体成形された構造体を用いることで、中芯を上部絶縁板の貫通孔へ圧入する必要が無く、上部絶縁板に押圧されることでの電極群の損傷や、上部絶縁板が変形することでの組み立て工程時の破損を防ぎ、製造不
良を防ぐことができる。
【0018】
また、中芯を挿入することで、上部絶縁板の設置も同時に完了するため、工数を低減でき、さらに、中芯と一体成形されているため、上部絶縁板の高さ位置、水平度を精度良く設置することができる。したがって、例えば、上部絶縁板の底面から中芯の端部までの距離を設定しておき、中芯の端部を電池ケースの底面に突き当たるまで挿入することで、上部絶縁板の高さ方向の位置合わせができ、また電極群が収容される空間(電池ケースと上部絶縁板で囲まれる空間)を容易に精度良く規定することが可能となる。
【0019】
上述したように、巻回して構成した電極群を有する電池では、中央部に空隙が存在するため、電池の異常時に急激な圧力上昇が起こった場合、電池ケース内部における圧力は均等ではなく、特に、その中央部の圧力密度が瞬時に高くなる。したがって、電極群の上部に位置する上部絶縁板においても、その中央部にかかる圧力が高くなる。
【0020】
これに対し、本発明では、上部絶縁板は中芯と一体化されているため強度が強く、その破壊を防ぐことができる。したがって、上部絶縁板が電極群の移動を抑制することで、ガス排出流路を確保し、電池ケース外部に速やかにガスを排出することができる。また、上部絶縁板の強度が強くなるため、上部絶縁板に設けるガス排出のための貫通孔を大きくすることが可能となり、それによっても、ガスをより効率よく排出することができる。なお、本発明の上部絶縁板において、中央部付近の厚みが厚くなるよう構成してもよい。これにより、上部絶縁板の強度をさらに向上することができる。
【0021】
本発明において、上部絶縁板と中芯とを一体成形した構造体は、例えば、金属製の中芯を樹脂射出成形の金型にはめ込み、当該中芯の端部に、上部絶縁板を樹脂モールド成形することによって形成することができる。この場合、中芯と上部絶縁板の接続部における強度を確保するために、できるだけ接続部の面積を広くすることが望ましい。具体的には、樹脂と接触する中芯の部位に凹凸を設けてもよく、中芯の端部を上部絶縁板の上面に沿うよう径を広げた形状としてもよい。さらに、樹脂の射出成形等により、上部絶縁板と中芯とを同一の樹脂で形成することもできる。また、金属の鋳造等によって一体成形し、上部絶縁板の少なくとも電極群と当接する面を絶縁体で被覆することで形成してもよい。このように硬度の高い金属で構造体を形成した場合は、さらに上部絶縁板の強度を向上することができ、より効果的に電極群の移動を抑制することができる。
【0022】
上記構造体に用いる樹脂としては、耐熱性の観点からポリオレフィン系樹脂及びポリイミド系樹脂から選ばれる少なくとも1種からなることが好ましい。また、耐熱性および強度の観点から、ガラスクロスを基材とし無機添加剤を含むフェノール樹脂から構成されていてもよい。上記無機添加物としては、アルミナ、シリカ、水酸化アルミニウム、水酸化カルシウム、水酸化マグネシウム、及び炭酸カルシウムからなる群より選ばれた少なくとも一種であることが好ましい。
【0023】
また、上記構造体に用いられる金属としては、鉄、アルミ、アルミ合金、銅、ステンレス鋼等を用いることが好ましい。
【0024】
また、本発明による非水電解質二次電池において、構造体を構成する上部絶縁板は、湾曲した形状であって、電極群の方向に湾曲していることが好ましい。
【0025】
このような構成によれば、上部絶縁板の中央部にかかる圧力が高くなっても、湾曲した形状により、さらに中央部の強度が強くなり、上部絶縁板の破壊を抑えることができる。その結果、電極群の移動によるガス排出流路の遮断を防止し、電池外部に効率的にガスを排出することができる。さらに、仮に上部絶縁板が封口板の方向に移動し、上部絶縁板の
外縁部が封口板と接触したとしても、電極群方向に湾曲している構造であるため、封口板と上部絶縁板との間の空間が保持され、封口板のガス排出流路を塞ぐことを防ぐことができる。また、電極群の移動を抑制するには、上部絶縁板は厚いほど強度が高く望ましいが、湾曲した形状とすることで、薄く形成しても強度が維持できるため、安価に作成することが可能となる。
【0026】
また、本発明において、湾曲した上部絶縁板は、その曲率が0.02/mm以上0.07/mm以下であることが望ましい。曲率が0.02/mmより小さい場合は、変形に対する耐圧が低く、電極群の移動を十分抑制できないため望ましくない。また、0.07/mmより大きい場合は、電池内部空間の利用効率の観点から望ましくない。
【0027】
また、本発明において、上部絶縁板は、その厚みが0.3mm以上1.0mm以下であることが望ましい。0.3mmより薄いと十分な変形に対する耐圧が得られなく、電極群の移動の抑制効果が小さくなるため望ましくない。また、1.0mmより厚くすると、電池ケース内で必要以上の体積を占め容量を損なってしまう上、コストの観点からも望ましくない。
【0028】
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて詳細に説明する。なお、本発明は、以下の実施形態に限定されるものではない。また、本発明の効果を奏する範囲を逸脱しない範囲で、適宜変更は可能である。
【0029】
(実施の形態1)
図1は、本発明の一実施の形態に係る円筒形のリチウムイオン二次電池の概略断面図であり、図2は、図1の電池に用いられる上部絶縁板と中芯を一体成形した構造体を示す斜視図である。図1の電池100は、円筒形のリチウムイオン二次電池であり、正極1と、負極2と、それらの間に介在するセパレータ3とを渦巻き状に巻回して構成された電極群4を備えている。電極群4は、非水電解質(不図示)とともに有底円筒形の金属製の電池ケース5に収納される。電池ケース5の開口部は、アウターガスケット7を介して封口板19により封口され、これにより電極群4および非水電解質は電池ケース5の内部に密閉される。
【0030】
ここで、電池ケース5の内部には、上部絶縁板10と中芯18とが一体成形された構造体20が設置され、この構造体20の中芯18部分を電極群4の中央空隙部に挿入することで、電極群4の上側に、構造体20の上部絶縁板10部分が配置される。上部絶縁板10の外縁部は、電池ケースに形成された溝部17で支持され、電極群は上部絶縁板10により固定される。また、電極群4の下側には下部絶縁板16が、配設される。
【0031】
封口板19は、導体からなる、ハット状の端子板11、環状のPTC(positive temperature coefficient: 正温度係数)サーミスタ板12、円形の上側弁体13および下側弁体14、フィルター6、及び絶縁体からなる環状のインナーガスケット15から構成される。インナーガスケット15は上側弁体13の周縁部と下側弁体14の周縁部との間に配設されて、上側弁体13の周縁部と下側弁体14の周縁部とが接触するのを防いでいる。また、インナーガスケット15は、フィルター6と端子板11の周縁部とが接触しないように、両者の間に介在される。
【0032】
端子板11、PTCサーミスタ板12、及び上側弁体13は、それらの周縁部で接続している。また、上側弁体13と下側弁体14とはそれらの中央部で接続している。さらに、下側弁体14とフィルター6とはそれらの周縁部で接続している。以上の結果、端子板11とフィルター6とは互いに導通している。
【0033】
正極1は、正極リード8を介してフィルター6と接続され、端子板11が正極の外部端子となっている。一方、負極2は、負極リード9を介して電池ケース5の底面に接合され、電池ケース5が負極の外部端子となっている。
【0034】
封口板19の端子板11は、複数の外部排気孔11aを有し、フィルター6も複数の内部排気孔6aを有している。上側弁体13及び下側弁体14には、環状の溝が中央部に形成されおり、その溝が破断すると、そこに弁孔が形成される。例えば、電池100において、内部短絡や過充電等の異常によるガスが発生して、電池100内部の圧力が上昇すると、下側弁体14の溝が押し破られ弁孔が形成され、電流経路が遮断される。さらに電池100内の圧力が上昇すると、上側弁体13の溝が破断することで弁孔が形成される。これによって、電池100内に発生したガスは、フィルター6の内部排気孔6a、下側弁体14及び上側弁体13の弁孔、端子板11の外部排気孔11aを通って、電池外部へ排出される。このように、電池ケース5の内部圧力が所定値に達した時に作動するガス排出機構が封口板19に備えられる。
【0035】
上記のようなガス排出機構が作動する場合において、巻回された電極群では、中央部に空間ができるためガスの排出が集中する。さらに、電池ケース5内部の圧力が異常に上昇すると、上部絶縁板10の貫通孔10aを通り、フィルター6の内部排気孔6aに向かってガスが排出される。したがって、従来の非水電解質二次電池によれば、上記のような異常時において排出されるガスの圧力により、上部絶縁板10は変形又は破壊され、電極群4が上部絶縁板10とフィルター6との間にある空間へ変形しながら移動するため、上部絶縁板10の貫通孔10aやフィルター6の内部排気孔6aを塞いでしまうことがある。本発明によれば、図2に示すような上部絶縁板10と中芯18とを一体成形した構造体20を電池に設置する。したがって、上部絶縁板10の中央部は、中芯18と一体成形され、強固に固定されているため、上部絶縁板10の変形や破壊を防ぎ、電極群4の移動を抑制することができる。さらに、このような構造体20を用いることで、中芯挿入と上部絶縁板設置の2工程を1工程に減らすことができるため、生産性を向上することができる。
【0036】
(実施の形態2)
図3は、本発明の他の実施形態に係る非水電解質二次電池の概略構成を示す断面図、図4は、その電池に用いられる上部絶縁板と中芯を一体成形した構造体の(a)上面図、及び(b)断面図である。
【0037】
図3に示した実施形態の電池200においても、図1と同様のガス排出機構を有している。また、上部絶縁板21及び中芯22は一体成形された構造体23である。ここで本実施形態では、上部絶縁板21は、電極群4の方向へ湾曲した構造を有している。このように上部絶縁板21を電極群の方向へ湾曲した構造とすることで、中央部のガス排出圧力に対する強度を、さらに高くすることでき、構造体23の上部絶縁板21において、特にその中央部の破損を防ぎ、電極群4の移動によるガス排出経路の遮断を防ぐことができる。
【0038】
この上部絶縁板21の曲率は、曲率を大きくすることで上部絶縁板21の強度を強くすることができるが、電極群4の収容可能容積が低下し、電池容量が低くなるため、0.02/mm以上0.07/mm以下とすることが望ましい。同様に、上部絶縁板21の厚みは、厚みを大きくすることで上部絶縁板21の強度を強くすることができるが、電極群4の収容可能容積が低下し、電池容量が低くなるため、0.3mm以上1.0mm以下とすることが望ましい。
【0039】
以上、本発明の実施形態について説明したが、上部絶縁板10、21の貫通孔10a、21aの形状、位置、及び個数は、図2及び図4に図示した形態に限定されない。また、本発明において、電池100内に発生したガスを排出する機構は、図1および図3に示し
た構造に限定されず、他の構造であってもよい。
【0040】
また、本発明の非水電解質二次電池が、リチウムイオン二次電池の場合は、構成材料として以下のものを用いることができる。
【0041】
正極1は、正極集電体上に正極活物質層を形成することで構成することができる。正極集電体は、アルミニウム、アルミニウム合金、ステンレス鋼、チタン、チタン合金等を用いることができるが、中でもアルミニウムまたはアルミニウム合金とすることが電気化学的な溶出等が起こりにくいことから好ましい。
【0042】
正極活物質としては、リチウム含有遷移金属化合物、例えばコバルト、マンガン、ニッケル、クロム、鉄およびバナジウムから選ばれる少なくとも一種の金属とリチウムとの複合金属酸化物が使用できる。その中でも、特に、リチウムニッケル系複合酸化物を用いた場合には、本発明の効果がより発揮される。正極活物質としてリチウムニッケル系複合酸化物を用いた場合、異常時のガス発生量は、リチウムコバルト系複合酸化物に比べて、3倍程度大きくなるため、上記課題は顕在化する畏れがあるが、この場合でも、本発明により効果を得ることができる。
【0043】
また、正極活物質層は、正極活物質、結着剤、および導電剤を、分散媒とともに混練して分散させたスラリー状の合剤を調製し、この合剤を正極集電体に付着させることにより形成できる。
【0044】
負極2は、負極集電体上に負極活物質層を形成することで構成することができる。負極集電体は、銅、銅合金、ニッケル、ニッケル合金、ステンレス鋼、アルミニウム、アルミニウム合金等を用いることができるが、中でも銅、銅合金、ニッケルまたはニッケル合金とすることが電気化学的な溶出等が起こりにくいことから好ましい。負極活物質としては、リチウムイオンを可逆的に吸蔵及び放出し得る黒鉛型結晶構造を有する材料、例えば、天然黒鉛や球状又は繊維状の人造黒鉛、難黒鉛化性炭素(ハードカーボン)、易黒鉛化性炭素(ソフトカーボン)などの炭素材料や、酸化錫、酸化珪素等の金属酸化物材料、ケイ素、シリサイドなどのケイ素含有化合物などを用いることができる。負極活物質層は、負極活物質、結着剤、および分散媒、必要により導電材を含んだスラリー状の合剤を負極集電体に付着させることにより形成できる。
【0045】
セパレータ3としては、ポリオレフィン系材料を用いることができ、ポリオレフィン系材料と耐熱性材料を組み合わせたものを用いることが好ましい。ポリオレフィン多孔膜としては、ポリエチレン、ポリプロピレン、エチレン−プロピレン共重合体の多孔膜などが例示できる。これらの樹脂は、単独で又は二種以上組み合わせて使用できる。耐熱性材料としては、アラミド、ポリイミド、ポリアミドイミド等の耐熱性樹脂からなる膜、または、耐熱性樹脂と無機フィラーの混合体を用いることができる。
【0046】
また電解質は、非水溶媒にリチウム塩を溶解することにより調製される。非水溶媒は、例えば、環状カーボネートとして、エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート、ブチレンカーボネートなど、また鎖状カーボネートとして、ジメチルカーボネート、ジエチルカーボネート、エチルメチルカーボネートなど、が用いられる。また、リチウム塩としては、電子吸引性の強いリチウム塩、例えば、LiPF、LiBF、LiClOなどが使用される。
【実施例】
【0047】
本発明の実施例を説明する。なお、本発明は、以下の実施例に限定されるものではない。以下のようにして、リチウムイオン二次電池からなる試験体を作製した。
【0048】
(実施例1)
(1)正極の作製
正極活物質として、平均粒径が12μmであるLiNi0.8Co0.15Al0.05を使用した。正極活物質100重量部、結着剤としてポリフッ化ビニリデンフルオライド1.7重量部、及び導電剤としてアセチレンブラック2.5重量部を、液状成分に混合させて正極合剤ペーストを調製した。
【0049】
その正極合剤ペーストを、アルミニウム箔からなる正極集電体の両面に、正極リード8の接続部分を除いて塗布、乾燥して、正極の前駆体を作製し、その後、それを圧延して、正極1を得た。このとき、厚みが128μmとなるように正極の前駆体を圧延した。また、正極集電体として使用したアルミニウム箔の長さは667mm、幅は57mm、厚さは15μmであった。
【0050】
(2)負極の作製
負極活物質として平均粒径が20μmのグラファイトを使用した。負極活物質100重量部と、結着剤としてポリフッ化ビニリデンフルオライド0.6重量部と、増粘剤としてカルボキシメチルセルロース1重量部と、適量の水とを、双腕式練合機にて攪拌し、負極合剤ペーストを得た。
【0051】
その負極合剤ペーストを、銅箔からなる負極集電体の両面に、負極リード9の接続部分を除いて塗布、乾燥して、負極の前駆体を作製し、その後、それを圧延して、負極2を得た。このとき、厚みが155μmとなるように負極の前駆体を圧延した。また、負極集電体として使用した銅箔の長さは745mm、幅は58.5mm、厚さは8μmであった。
【0052】
(3)非水電解質の調整
非水電解質は、エチレンカーボネートとエチルメチルカーボネートとを1対1の体積比で混合した混合溶媒に、六フッ化リン酸リチウム(LiPF)を1.0mol/Lの濃度で溶解することにより調製した。
【0053】
(4)封口板の作製
図1に示した封口板を作製した。上側弁体13および下側弁体14はアルミニウム製とした。端子板11は鉄製とした。フィルター6はアルミニウム製とした。インナーガスケット15はポリプロピレン製とした。
【0054】
(5)電池の組立
上述のようにして作製した正極および負極を、その間にセパレータ3を介在させて積層し、積層体を得た。セパレータ3には、厚さが20μmであるポリエチレン製の多孔膜を使用した。得られた積層体の正極の巻き始めの部分に正極リード8を接続し、負極の巻き終わりの部分に負極リード9を接続した。その状態で、上記積層体を渦巻き状に巻回して電極群4を得た。
【0055】
上記のようにして得られた電極群4を鉄製の電池ケース5に収納した。このとき、正極リード8を周縁部にポリプロピレン製のアウターガスケット7を取り付けた封口板19のフィルター6にレーザー溶接法により溶接し、負極リード9を電池ケース5の底面に抵抗溶接法により溶接した。電池ケース5は、直径(外径)が18mm、高さが65mm、缶壁の厚みが0.15mmであるものを使用した。この電池ケース5の厚みは、通常市販されている円筒形のリチウムイオン二次電池の電池ケースの厚みに近いものである。また、電極群4の下側には下部絶縁板16を配設し、電極群4の中央空隙部および上側に、上部絶縁板10と中芯18とが一体成形されたポリプロピレン製の構造体20(a=18mm
、b=0mm、曲率0/mm、厚み1.5mm、c=59mm、d=2.5mm)を配置した。ここで、曲率は、図4に示す寸法a、bを測定し、2b/{(a/2)+b}の値を計算することで求めた。
【0056】
電池ケース5内に非水電解質を注入した後、電池ケース5の開口端部から5mmの位置で上部絶縁板10の上部において、電池ケース5を周方向に一周するように、内側に突出する溝部17を形成し、この溝部17により電極群4を上部絶縁板10を介して固定した。
【0057】
次に、電池ケースの溝部17の上に載せるようにして、アウターガスケット7を取付けた封口板19を電池ケース5の開口部に配置した後、電池ケース5の開口部を内側に曲げるようにかしめて、電池ケース5を封口した。以上のようにして、直径が18mm、高さが65mmである試験体を作製した。このリチウムイオン二次電池の設計容量は2600mAhであった。
【0058】
(実施例2)
湾曲した上部絶縁板と中芯とが一体成形されたポリプロピレン製の構造体20(a=18mm、b=0.5mm、曲率0.01/mm、厚み1.5mm、c=58.5mm、d=2.5mm)を使用したこと以外は、実施例1と同様にして試験体を作製した。
【0059】
(実施例3)
湾曲した上部絶縁板と中芯とが一体成形されたポリプロピレン製の構造体20(a=18mm、b=1.0mm、曲率0.02/mm、厚み0.3mm、c=58mm、d=2.5mm)を使用したこと以外は、実施例1と同様にして試験体を作製した。
【0060】
(実施例4)
湾曲した上部絶縁板と中芯とが一体成形されたポリプロピレン製の構造体20(a=18mm、b=1.0mm、曲率0.02/mm、厚み1.0mm、c=58mm、d=2.5mm)を使用したこと以外は、実施例1と同様にして試験体を作製した。
【0061】
(実施例5)
湾曲した上部絶縁板と中芯とが一体成形されたポリプロピレン製の構造体20(a=18mm、b=1.0mm、曲率0.02/mm、厚み1.5mm、c=58mm、d=2.5mm)を使用したこと以外は、実施例1と同様にして試験体を作製した。
【0062】
(比較例1)
中央部に貫通孔を有するポリプロピレン製の上部絶縁板(a=18mm、b=0mm、曲率0/mm、厚み1.5mm)、及び鉄製の中芯(c=59mm、d=2.5mm)を使用し、電極群の中央空隙部に中芯を挿入し、その後に電極群の上側に上部絶縁板を配置し、上部絶縁板の貫通孔に中芯を圧入することで試験体を作製した。それ以外は、実施例1と同様にして試験体を作製した。
【0063】
(比較例2)
中央部に貫通孔を有するポリプロピレン製の上部絶縁板(a=18mm、b=0mm、曲率0/mm、厚み1.5mm)、及び鉄製の中芯(c=59mm、d=2.5mm)を使用し、電極群の上側に上部絶縁板を配置し、その後に上部絶縁板の貫通孔から中芯を電極群の中央空隙部に挿入することで試験体を作製した。それ以外は、実施例1と同様にして試験体を作製した。
【0064】
(製造不良率)
電池ケースにおいて、上部絶縁板の上側に、電池ケースを周方向に一周するよう内側に突出する溝部を形成した後、作製した電池を抜き取り、組立工程における不良の発生率を調べた。具体的には、実施例及び比較例の電池各500個について、電極群の上部の圧迫痕の有無、及び溝部形成時の上部絶縁板の噛みこみの有無を目視により観測し、いずれかが発生した個数を不良個数とし、不良率を算出した。
【0065】
(加熱試験)
作製された試験体に対して、以下のような条件で加熱試験を実施した。まず、25℃の環境の下で1500mAの電流により電池電圧が4.25Vとなるまで充電した。充電後の試験体をホットプレートの上に置き、25℃から200℃まで毎秒1℃ずつ温度が上昇するように加熱した。そして、試験後の電池を分解し、電極群の上部方向への移動量を測定した。これらの結果を(表1)に示す。
【0066】
【表1】

【0067】
表1に示すように、実施例1〜5においては、絶縁板と中芯を一体化する工程での製造不良は発生しなかった。それに対し、比較例では、電池ケースの溝部を形成する工程で、上部絶縁板の噛みこみや、中芯と上部絶縁板の貫通孔の位置がずれることで、上部絶縁板が中芯によって押されて移動し、電極群を損傷する製造不良が発生した。
【0068】
また、加熱試験においては、上部絶縁板と中芯とが一体成形された構造体を用いた実施例1では、比較例と比べて電極群の移動が抑制されていた。これは、一体構造とすることで上部絶縁板の中央部の強度が増したことによるものと考えられる。さらに上部絶縁板を湾曲させた実施例2〜5では、電極群の移動は確認されなかった。
【0069】
以上のように、実施例の電池では、電極群の移動によって封口板のガス排出流路が遮断されることを防ぎ、電池の安全性を向上することができる。
【産業上の利用可能性】
【0070】
本発明によれば、安全性を向上した非水電解質二次電池を提供することができる。このような本発明の電池は、特にパーソナルコンピュータ、携帯電話、モバイル機器、携帯情報端末(PDA)、携帯用ゲーム機器並びにビデオカメラ等の携帯用電子機器の電源として利用できる。また、ハイブリッドカー、電気自動車、燃料電池自動車等の交通用機器に
おいて、その電動機の駆動を補助する電源としても有用である。また、電動工具、掃除機、およびロボット等の駆動用電源としても有用であり、プラグインHEVの動力源としても有用である。
【符号の説明】
【0071】
1 正極
2 負極
3 セパレータ
4 電極群
5 電池ケース
6 フィルター
6a 内部排気孔
7 アウターガスケット
8 正極リード
9 負極リード
10、21 上部絶縁板
10a、21a 貫通孔
11 端子板
11a 外部排気孔
12 PTCサーミスタ板
13 上側弁体
14 下側弁体
15 インナーガスケット
16 下部絶縁板
17 溝部
18、22 中芯
19 封口板
20、23 構造体
100、200 電池

【特許請求の範囲】
【請求項1】
正極と負極とをセパレータを介して巻回した電極群を、開口部を有する有底円筒形の電池ケースに収納し、前記開口部をガス排出機構を有する封口板で封口した非水電解質二次電池であって、
前記電極群と前記封口板との間には上部絶縁板が配され、前記電池ケースには、前記上部絶縁板の上部において内側に突出する溝部が形成されており、
前記電極群の中央部には中芯が配されており、前記上部絶縁板と前記中芯とは一体成形された構造体であることを特徴とする非水電解質二次電池。
【請求項2】
前記上部絶縁板は、湾曲した形状であって、前記電極群の方向に湾曲している請求項1に記載の非水電解質二次電池。
【請求項3】
前記上部絶縁板の曲率は、0.02/mm以上0.07/mm以下である請求項2に記載の非水電解質二次電池。
【請求項4】
前記上部絶縁板の厚みは、0.3mm以上1.0mm以下である請求項2または3に記載の非水電解質二次電池。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2013−73873(P2013−73873A)
【公開日】平成25年4月22日(2013.4.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−213959(P2011−213959)
【出願日】平成23年9月29日(2011.9.29)
【出願人】(000005821)パナソニック株式会社 (73,050)
【Fターム(参考)】