説明

非水電解質電池

【課題】高出力且つ高温貯蔵による電池抵抗の上昇が抑制された非水電解質電池を提供する。
【解決手段】正極5と、フッ化リチウムを含むフッ化物層を表面に有するチタン酸リチウム粒子を含む負極3と、非水電解質とを備え、充電状態の前記負極3の半充電状態における単結晶分光Al-Kα線(1486.6 eV)を励起X線源として用いたX線光電子分光スペクトルにおいて、下記(I)式を満たすことを特徴とする非水電解質電池:
3.2≦(F1/C1)≦6 (I)
但し、F1は、680〜687 eVに現れる第1のピークの強度であり、C1は、280〜290 eVに現れる第2のピークの強度であることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、非水電解質電池に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、高エネルギー密度電池として、リチウムイオン二次電池のような非水電解質電池の研究開発が盛んに進められている。非水電解質電池は、ハイブリッド自動車や、電気自動車、携帯電話基地局の無停電電源用などの電源として期待されている。そのため、非水電解質電池は、急速充放電特性、長期信頼性のような他の特性を有することも要求されている。
【0003】
急速充放電を可能にするためには、電子及びリチウムイオンが正極と負極の間を速やかに移動できることが必要である。従来のカーボン系負極を用いた電池は、急速充放電を繰り返すと、電極上に金属リチウムのデンドライト析出が生じ、内部短絡による発熱や発火の虞があった。そこで、炭素質物の代わりに金属複合酸化物を負極に用いた電池が開発された。特に、チタン酸リチウムを負極に用いた電池は、安定的な急速充放電が可能であり、従来のカーボン系負極に比べて寿命も長いという特性を有する。
【0004】
チタン酸リチウムのリチウム吸蔵放出電位は約1.45V vs Li/Li+であり、これは炭素質物のリチウム吸蔵放出電位よりも貴な電位である。そのため、チタン酸リチウムを負極に用いた電池は、炭素質物を負極に用いた電池より、非水電解質の分解反応のような副反応に起因する電池抵抗の上昇が少ないという利点がある。しかしながら、チタン酸リチウムを負極に用いた電池であっても、高温環境下で放置されると、無視できない副反応が生じ、電池抵抗が上昇するという課題がある。
【0005】
この課題を解決するために、例えば特許文献1では、二酸化マンガン以外の酸化マンガン、リン酸マンガン、フッ化マンガン、酸化コバルト、リン酸コバルト、又はフッ化コバルトから成る保護成分をチタン酸リチウム表面に存在させる方法が開示されている。この特許文献1の方法によれば、副反応による抵抗の上昇を抑制することができる。しかしながら、特許文献1で用いられる保護成分は、それ自体の抵抗が大きいため、十分な電池の出力を得ることができないという問題がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2008−59980号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、高出力であり、且つ、高温貯蔵による電池抵抗の上昇が抑制された非水電解質電池を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の実施形態によると、正極と、フッ化リチウムを含むフッ化物層を表面に有するチタン酸リチウム粒子を含む負極と、非水電解質とを備え、半充電状態の前記負極の単結晶分光Al-Kα線(1486.6 eV)を励起X線源として用いたX線光電子分光スペクトルにおいて、下記(I)式を満たすことを特徴とする非水電解質電池が提供される。
【0009】
3.2≦(F1/C1)≦6 (I)
但し、F1は、680〜687 eVに現れる第1のピークの強度であり、C1は、280〜290 eVに現れる第2のピークの強度である。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、高出力であり、且つ、高温貯蔵による電池抵抗の上昇が抑制された非水電解質電池を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】実施形態に係る非水電解質電池の部分切欠斜視図。
【図2】図2のA部の拡大断面図。
【図3】実施例A−3及び比較例A−1の負極についてのX線光電子分光スペクトル(結合エネルギーが280〜295eV)を示す特性図。
【図4】実施例A−3及び比較例A−1の負極についてのX線光電子分光スペクトル(結合エネルギーが680〜695eV)を示す特性図。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の実施形態に係る非水電解質電池を詳細に説明する。
実施形態に係る非水電解質電池は、正極と、フッ化リチウムを含むフッ化物層を表面に有するチタン酸リチウム粒子を含む負極と、非水電解質とを備える。ここで、単結晶分光Al-Kα線(1486.6 eV)を励起X線源として用いたX線光電子分光スペクトルにおいて、半充電状態の負極は、下記(I)式を満たすことを特徴とする:
3.2≦(F1/C1)≦6 (I)
ここで、F1は、680〜687 eVに現れる第1のピークの強度であり、C1は、280〜290 eVに現れる第2のピークの強度である。
【0013】
チタン酸リチウムは、リチウムの吸蔵放出電位が約1.45 V vs Li/Li+であることから、電極上での非水電解質の分解が生じにくいという利点がある。しかしながら、例えば60℃以上の高温で貯蔵されると、非水電解質の分解が無視できなくなり、チタン酸リチウムの表面に非水電解質の分解生成物が蓄積し、電池抵抗を上昇させてしまう。炭素負極の場合、負極表面に抵抗の低い有機皮膜を形成することにより、非水電解質との反応を抑制することができる。しかし、チタン酸リチウム負極の場合は、充電時の電位が炭素負極の電位よりも高い(貴である)ために、抵抗の低い有機皮膜は不安定であり非水電解質に溶け出してしまう。
【0014】
そこで、本発明者らは鋭意検討を行った結果、フッ化リチウムを含むフッ化物層を表面に有するチタン酸リチウム粒子を用いることによって、高温貯蔵下でも電極上での非水電解質の分解を抑制できることを見出した。フッ化リチウムは、チタン酸リチウムのリチウム吸蔵放出電位においても安定である。さらに、フッ化リチウムは、フッ化リチウム以外のフッ化物、酸化物及びリン酸化物よりも、リチウムイオン導電性が良好である。それ故、フッ化リチウムを含むフッ化物層は、電池抵抗を増加させることなく、高温貯蔵下における電池抵抗の上昇を抑制することが可能である。
【0015】
フッ化リチウムを含むフッ化物層(以降「フッ化物層」と称す)は、その量が少なすぎると非水電解質の分解を抑えることができず、反対に、その量が多すぎると電池抵抗が増加する。従って、フッ化物層の量を適切に調整することが重要である。なお、フッ化物層の量とは、該層の厚みを意味し、該層の緻密さによっても変化する。
【0016】
フッ化物層の量は、X線光電子分光法を用いて定量することができる。定量は、半充電状態の負極について行う。ここで半充電状態とは、電池の場合は、その電池の推奨充電仕様に従って満充電とした後にその電池の定格容量の半分の容量を放電したあとの状態を意味する。ただし、ここで言う半充電状態とは、電池の充電状態(SOC:state of charge)が40〜60%の範囲内である状態をも包含する。一方、負極を取り出して充電する場合は、次のように充電した後の状態を意味する。まず、電池から取り出した負極を、例えばエチルメチルカーボネートのような鎖状カーボネート溶媒で洗浄し、Li塩等を除去して乾燥する。この負極を作用極とし、リチウム金属を対極と参照極として用いた3電極式電気化学セルを作成する。ここで電解質はとくに限定されるものではないが、たとえば体積比が1:1のエチレンカーボネートとメチルエチルカーボネートの混合溶媒に1mol/Lの6フッ化リン酸リチウムを溶かした溶液を用いればよい。そして、作用極の電位が3.0V vs Li/Li+に達するまで充電する。作用極を充電状態としてから作用極の電位が1.0V vs Li/Li+に達するまで放電し、そのときの電気容量C[mAh]を測定する。ふたたび作用極の電位が3.0V vs Li/Li+に達するまで充電し、C/2[mAh]の放電を実施し半充電状態とする。なお、充電状態を調整する際に流す電流値は0.1C〜1Cの範囲内の値とする。
【0017】
X線光電子分光法による定量条件は次の通りである。X線光電子分光スペクトルの測定装置は、SCIENTA社製ESCA300を用いたが、これに限定されるものではない。励起X線源には単結晶分光Al−Kα線(1486.6 eV)を用いた。X線出力は4kW(13 kV×310 mA)とし、光電子検出角度は90°とし、分析領域は約4mm×0.2mmとした。アルゴン雰囲気中で取り出した負極をたとえばメチルエチルカーボネートで洗浄し負極表面に付着しているLi塩を取り除き乾燥の後、試料ホルダーに装着した。試料搬入は窒素雰囲気下で行った。スキャンは0.10 eV/stepで行った。
【0018】
本実施形態の負極は、上記の条件で得られたスペクトルにおいて、下記(I)式の範囲で規定される強度比を示す。
【0019】
3.2≦(F1/C1)≦6 (I)
但し、F1は、680〜687 eVに現れる第1のピークの強度であり、C1は、280〜290 eVに現れる第2のピークの強度である。第2のピークの強度には、280〜290 eVに現れるピークの強度のうち最大値が使用される。
【0020】
ここで、第2のピークは、C−O、C−C又はC−Hに起因するピークであり、負極表面上の有機物皮膜の量に対応する。一方、第1のピークはLi−Fに起因するピークであり、チタン酸リチウム表面に形成されたフッ化物層の量に対応する。
【0021】
(F1/C1)の値が3.2より小さいと、フッ化物層の量が足りずに非水電解質の分解反応を抑制することができない。一方、(F1/C1)の値が6より大きいと、過剰な量のフッ化物層が存在し、抵抗が上昇する。より好ましい範囲は3.5≦(F1/C1)≦5の範囲内である。
【0022】
また、フッ化物層の最大厚さは5nm〜1.0×10nmの範囲内であることが好ましい。フッ化物層の最大厚さが5nm以上であると、非水電解質の分解反応による抵抗の上昇を抑制する効果を高められる。フッ化物層の最大厚さが1.0×10nm以下であると、フッ化物層による抵抗の上昇をさらに抑えられる。
【0023】
フッ化物層の最大厚さは、透過型電子顕微鏡(TEM)で測定することができる。最大厚さは、より好ましくは、10nm〜50nmの範囲内である。
【0024】
また、負極に結着剤としてポリフッ化ビニリデンが含まれる場合、X線光電子分光法によるフッ化物層の定量において、ポリフッ化ビニリデンに起因するピークを利用することができる。ポリフッ化ビニリデンは非水電解質電池において広く使用されているため、フッ化物層を定量するための基準としてそのピークを都合よく用いることができる。
【0025】
この場合、上記の条件で得られた負極のスペクトルにおいて、下記(II)式を満たすことが好ましい。
【0026】
0.9≦(F1/F2)≦1.5 (II)
但し、F1は前記第1のピークの強度であり、F2は、686〜692 eVに現れる第3のピークの強度である。第3のピークはポリフッ化ビニリデン、第1のピークはフッ化リチウムを含むフッ化物層に帰属されるピークと考えられる。負極は充電することで非水電解質中のフッ化リチウム塩が分解されフッ化リチウムが蓄積するが、負極中に蓄積されたフッ化リチウムよりも、負極活物質表面に存在するフッ化リチウムの方が本発明の効果が得られやすい。ピーク強度比(F1/F2)は、負極におけるフッ化リチウムの分布状態の指標となる。
【0027】
(F1/F2)の値が0.9以上であると、負極表面に十分な量のフッ化リチウムが存在するため、非水電解質の分解反応による抵抗の上昇を抑制する効果が高められる。(F1/F2)の値が1.5以下であると、フッ化物層による抵抗の上昇を十分に抑えられる。
【0028】
負極活物質として用いるチタン酸リチウム粒子は、5〜100 g/m2のBET比表面積を有することが好ましい。比表面積が5 g/m2以上であるチタン酸リチウム粒子は、非水電解質の分解反応場が多いために抵抗が上昇しやすいため、フッ化物層の形成により本発明の効果が得られる。比表面積が大きくなるほど非水電解質の分解が増大するが、比表面積が100 g/m2以下であれば、フッ化物層を形成することによって分解を抑制することができ、結果として抵抗の上昇を抑制することができる。
【0029】
次に、チタン酸リチウムの表面にフッ化物層を形成する方法、即ち、チタン酸リチウムの表面改質手法を説明する。表面改質は、物理的手法又は電気化学的手法により行うことができる。
【0030】
物理的手法としては、例えば、ボールミルによってチタン酸リチウムの表面をフッ化物でコートする方法がある。この方法では、ボールミルにチタン酸リチウムとフッ化リチウムを投入して混合する。ボールミルの運転条件は、回転数50〜2000rpm、混合時間3〜72時間の範囲内とすることが好ましいが、これに限定されない。回転数が50rpmより小さいか、又は混合時間が3時間より短いと、十分な表面改質効果が得られにくい。一方、回転数が2000pmより大きいか、又は混合時間が72時間より長いと、材料自体の結晶が破壊され、性能が低下する恐れがある。より好ましい条件は、混合時間12〜48時間、回転数200〜1000rpmである。
【0031】
なお、ボールミル処理後、混合物を再焼成してもよい。再焼成することにより、ボールミル処理によって低下した結晶性を再び上昇させることができる。再焼成の温度は、300〜1200℃の範囲であることが好ましい。焼成温度が300℃以上であると、結晶性を向上する効果が得られやすい。一方、1200℃以下であると、リチウムの蒸散が生じにくい。より好ましい再焼成温度は500〜900℃の範囲内である。
【0032】
一方、電気化学的手法としては、例えば、初充電時に、負極にフッ化リチウムを電析させる方法がある。非水電解質中にフッ化物が含まれる場合、充電によって負極に含まれるチタン酸リチウムの表面上にフッ化リチウムが析出し、これによってフッ化物層が形成される。
【0033】
非水電解質中に含まれるフッ化物としては、例えば、フッ酸、或いはLiPF6、LiBF4のようなフッ素含有リチウム塩が挙げられる。
【0034】
まず、フッ酸を用いる方法を説明する。フッ酸は、予め非水電解質に添加する。フッ酸は初充電時に負極表面で分解されてフッ化アニオンを生じる。後述するように、非水電解質にはリチウム塩が含まれているため、リチウムイオンが存在している。フッ化アニオンはこのリチウムイオンと反応してフッ化リチウムとなり、負極の表面に析出する。これによってフッ化リチウムを含むフッ化物層が形成される。
【0035】
フッ酸の添加量は、非水電解質の種類によって異なるが、10〜500 ppm(mg/L)の範囲内であることが好ましい。10 ppm以下であると、負極表面に形成されるフッ化物層が不十分であるためフッ化物による抵抗増加抑制は得られにくい。一方、500ppm以上であると、未反応のフッ酸が残留するおそれがある。非水電解質中に未反応のフッ酸が存在すると、他の部材に悪影響を及ぼす懸念がある。より好ましい添加量は、20〜300 ppmの範囲内である。
【0036】
次に、フッ素含有リチウム塩を用いる方法を説明する。フッ素含有リチウム塩は、非水電解質に添加してもよいが、非水電解質中に元々含まれている場合は特に添加する必要はない。この方法では、非水電解質に水を添加することにより、フッ素含有成分が加水分解されて、フッ酸が生成される。生成したフッ酸は、上記フッ酸を添加する方法と同様に、リチウムイオンと反応してフッ化リチウムとなり、負極の表面に析出する。これによってフッ化リチウムを含むフッ化物層が形成される。
【0037】
この方法では、加水分解を進行させるために、未充電状態の電池を加温することが好ましい。好ましくは、電池を50〜120℃の温度環境に放置して加温する。50℃以上であれば、加水分解を十分に進行させることができる。一方、120℃以下であれば、電池の他の部材に熱による悪影響をおよぼすことがない。より好ましくは、電池を60〜90℃の温度環境に放置して加温する。
【0038】
なお、フッ素含有リチウム塩がリンを含む場合、すなわち、フッ素含有リチウムリン化合物である場合(例えば、LiPF6)は、形成されたフッ化物層にリンが含まれる。この場合、負極の元素組成におけるリンの元素比率は、0.9atom%〜2atom%の範囲内であることが好ましい。リン元素比率が0.9atom%以上であると、上述のフッ素含有成分の加水分解が十分に進行したことが示唆される。そのような場合、負極表面に十分な量のフッ化物層が形成されている。その結果、非水電解質の分解反応による抵抗の上昇を抑制する効果が得られる。一方、リン元素比率が2atom%以下であると、加水分解の進みすぎによる過剰なフッ酸生成がないことが示唆される。そのような場合、残留した未反応のフッ酸が他の部材に悪影響を及ぼす恐れがない。また、過剰な量のフッ化物層が存在することによって抵抗が上昇する恐れがない。
【0039】
負極の元素組成は、単結晶分光Al-Kα線(1486.6eV)を励起X線源として用いた、半充電状態の負極のX線光電子分光スペクトルから算出することができる。これはX線光電子分光スペクトルのピーク強度(面積)は元素の数密度と感度係数の積に比例することから算出される。
【0040】
ピーク感度≒面積(光電子数)∝元素の数密度×感度係数
感度係数は装置メーカーの推奨値を使用した。検出原子数比はピーク強度(面積)と感度係数から求めたもので、元素による検出深度の違いは考慮しなかった。BとPを含む場合、B1sとP2sの検出エネルギー(ピーク位置)が重なるため、P標準試料を用いてP2p/P2s比を見積もり、B1s+P2s面積値からP2s分を差し引いて算出した。
【0041】
なお、従来の非水電解質電池においても、非水電解質に含まれるフッ素含有リチウム塩が充電によって分解され、負極にフッ化リチウムが蓄積する。しかしながら、フッ酸や水が添加されない場合、負極に析出するフッ化リチウムの量は少なく、非水電解質の分解を抑制する効果は得られない。よって、上記に詳細に述べたような手法により負極表面に積極的にフッ化リチウムを含むフッ化物層を形成し、半充電状態の負極の単結晶分光Al-Kα線(1486.6 eV)を励起X線源として用いたX線光電子分光スペクトルにおいて、下記(I)式を満たすことようにすることが重要である。
【0042】
3.2≦(F1/C1)≦6 (I)
但し、F1は、680〜687 eVに現れる第1のピークの強度であり、C1は、280〜290 eVに現れる第2のピークの強度である。
【0043】
上記式を満たすフッ化物層が形成されることにより、高温貯蔵下でも電極上での非水電解質の分解を抑制することが可能である。
【0044】
本実施形態に係る非水電解質電池は、正極と負極の間にセパレータを配置しても良く、また、正極、負極及び非水電解質が収納される外装材を備えることができる。以下、正極、負極、非水電解質、セパレータ、外装材について詳細に説明する。
【0045】
1)正極
正極は、正極集電体と、前記集電体の片面もしくは両面に担持され、活物質、導電剤及び結着剤を含む正極活物質含有層とを有する。
【0046】
正極は、例えば、正極活物質に導電剤及び結着剤を添加し、これらを適当な溶媒に懸濁させ、この懸濁物をアルミニウム箔などの集電体に塗布、乾燥、プレスして帯状電極にすることにより作製される。
【0047】
正極活物質には、種々の酸化物及び硫化物を用いることができる。例えば、二酸化マンガン(MnO2)、酸化鉄、酸化銅、酸化ニッケル、リチウムマンガン複合酸化物(例えばLixMn2-yy4またはLixMn1-yy2)、リチウムニッケル複合酸化物(例えばLixNi1-xy2)、リチウムコバルト複合酸化物(LixCo1-yy2)、リチウムニッケルコバルト複合酸化物(例えばLixNi1-y-zCo2)、リチウムマンガンコバルト複合酸化物(例えばLixMn1-y-zCoyz2)、リチウムマンガンニッケル複合化合物(例えばLixMnaNibc2(a+b+c=1)、例えば、LixMn1/3Ni1/3Co1/32、LixMn1/2Ni1/22)、スピネル型リチウムマンガンニッケル複合酸化物(LixMn2-yNiy4)、オリビン構造を有するリチウムリン酸化物(LixFePO4、LiMnPO4、LixFe1-yMnyPO4、LixCoPO4など)、硫酸鉄(Fe2(SO43)、及びバナジウム酸化物(例えばV25)から選択される化合物を用いることができるが、これらに限定されない。
【0048】
また、正極活物質として、ポリアニリン及びポリピロールのような導電性ポリマー材料、ジスルフィド系ポリマー材料、イオウ(S)、フッ化カーボンのような有機材料及び無機材料を用いることもできる。
【0049】
なお、上記化合物について特に定義されていない場合、xは0以上1.2以下の範囲、yは0以上0.5以下の範囲、及び、zは0以上0.1以下の範囲であることが好ましい。また、MはCo、Mn、Ni、Al、Cr、Fe、Mg、Zn、Zr、Sn、Cu及びFeよりなる群から選択される少なくとも1つの元素を表す。
【0050】
より好ましい正極活物質は、リチウムマンガン複合酸化物、リチウムニッケル複合酸化物、リチウムコバルト複合酸化物、リチウムニッケルコバルト複合酸化物、リチウムマンガンニッケル複合化合物、スピネル型リチウムマンガンニッケル複合酸化物、リチウムマンガンコバルト複合酸化物、及びリチウムリン酸鉄から選択される。これらの化合物を正極活物質として用いることにより、高い電池電圧を得ることができる。
【0051】
導電剤は、例えば、アセチレンブラック、ケッチェンブラック、黒鉛、又はコークスを用いることができるが、これらに限定されない。
【0052】
結着剤は、例えば、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、ポリフッ化ビニリデン(PVdF)、又はフッ素系ゴムを用いることができるが、これらに限定されない。
【0053】
正極活物質、導電剤及び結着剤の配合比は、正極活物質が73〜95重量%、導電剤が3〜20重量%、結着剤が2〜7重量%の範囲であることが好ましい。
【0054】
正極集電体は、アルミニウム箔若しくはアルミニウム合金箔から形成されることが望ましい。アルミニウム箔及びアルミニウム合金箔の平均結晶粒径は50μm以下であることが好ましい。より好ましくは、30μm以下である。更に好ましくは5μm以下である。平均結晶粒径が50μm以下であることにより、アルミニウム箔またはアルミニウム合金箔の強度を飛躍的に増大させることができ、正極を高いプレス圧で高密度化することが可能になり、電池容量を増大させることができる。
【0055】
平均結晶粒径は次のようにして求められる。集電体表面の組織を光学顕微鏡で組織観察し、1mm×1mm内に存在する結晶粒の数nを求める。このnを用いてS=1x106/n(μm2)から平均結晶粒子面積Sを求める。得られたSの値から下記(A)式により平均結晶粒子径d(μm)を算出する。
【0056】
d=2(S/π)1/2 (A)
アルミニウム箔及びアルミニウム合金箔の平均結晶粒径は、材料組織、不純物、加工条件、熱処理履歴、ならびに焼鈍条件など複数の因子から複雑な影響を受けて変化する。結晶粒径は、集電体の製造工程の中で、前記諸因子を組合せて調整することが可能である。
【0057】
アルミニウム箔及びアルミニウム合金箔の厚さは、20μm以下、より好ましくは15μm以下である。アルミニウム箔の純度は99重量%以上が好ましい。アルミニウム合金としては、マグネシウム、亜鉛、ケイ素、などの元素を含む合金が好ましい。一方、鉄、銅、ニッケル、クロムなどの遷移金属の含有量は1%以下にすることが好ましい。
【0058】
2)負極
負極は、負極集電体と、該集電体の片面もしくは両面に担持され、前述のフッ化物層を有するチタン酸リチウム粒子を含む負極活物質、結着剤及び必要な場合に導電剤を含む負極活物質含有層とを有する。
【0059】
負極は、例えば、粉末状の負極活物質に結着剤を添加し、これらを適当な溶媒に懸濁させ、この懸濁物をアルミニウムまたはアルミニウム合金からなる金属箔の集電体に塗布、乾燥、プレスして帯状電極にすることにより作製される。
【0060】
負極活物質として用いられるチタン酸リチウムは、スピネル型チタン酸リチウム、ラムスデライト型チタン酸リチウム、リチウムを吸蔵可能な単斜晶系の結晶構造を有する二酸化チタン(本発明ではこの二酸化チタンをTiO(B)と称する)、及びアナターゼ型二酸化チタンなどを用いることができるが、特にLixTiy4(1≦x≦2.4、1≦y≦2)を用いることが好ましい。これは、リチウムの吸蔵放出に対し安定なスピネル構造を有するためである。
【0061】
スピネル型チタン酸リチウムとしては、Li4+xTi512(xは充放電反応により−1≦x≦3の範囲で変化する)などが挙げられる。ラムスデライト型チタン酸リチウムとしては、Li2+yTi37(yは充放電反応により−1≦y≦3の範囲で変化する)などが挙げられる。TiO(B)及びアナターゼ型二酸化チタンとしては、Li1+zTiO2(zは充放電反応により−1≦z≦0の範囲で変化する)などが挙げられる。
【0062】
負極活物質はチタン酸リチウム単独であってもよく、或いは、チタン酸リチウムと他の一以上の活物質との混合物であってもよい。
【0063】
他の活物質には、リチウムを吸蔵・放出するリチウム化合物を用いることができる。このリチウム化合物には、リチウム酸化物、リチウム硫化物、リチウム窒化物などが含まれる。これらの中には、未充電状態ではリチウムを含まないが、充電によりリチウムを含むようになる金属化合物も含まれる。
【0064】
そのようなリチウム酸化物としては、例えばチタン含有金属複合酸化物、例えばSnB0.40.63.1などのアモルファススズ酸化物、例えばSnSiO3などのスズ珪素酸化物、例えばSiOなどの酸化珪素、例えばWO3などのタングステン酸化物などが挙げられる。中でも、チタン含有金属複合酸化物が好ましい。
【0065】
チタン含有金属複合酸化物としては、TiO2、TiとP、V、Sn、Cu、Ni及びFeよりなる群から選択される少なくとも1種類の元素を含有する金属複合酸化物などが挙げられる。TiO2はアナターゼ型で300〜500℃の温度で熱処理された低結晶性のものが好ましい。TiとP、V、Sn、Cu、Ni及びFeよりなる群から選択される少なくとも1種類の元素を含有する金属複合酸化物としては、例えば、TiO2-P25、TiO2-V25、TiO2-P25-SnO2、TiO2-P25-MeO(MeはCu、Ni及びFeよりなる群から選択される少なくとも1種類の元素)などを挙げることができる。
【0066】
このような金属複合酸化物は、結晶性が低く、結晶相とアモルファス相が共存しているか、或いは、アモルファス相が単独で存在しているミクロ構造であることが好ましい。ミクロ構造であることにより、サイクル性能を大幅に向上させることができる。中でも、リチウムチタン酸化物、TiとP、V、Sn、Cu、Ni及びFeよりなる群から選択される少なくとも1種類の元素を含有する金属複合酸化物が好ましい。
【0067】
リチウム硫化物としては、例えばTiS2のような硫化チタン、例えばMoS2のような硫化モリブデン、例えば、FeS、FeS2、LixFeS2のような硫化鉄などが挙げられる。
【0068】
リチウム窒化物としては、例えば、リチウムコバルト窒化物(例えば、LixCoyN、0<x<4,0<y<0.5)などが挙げられる。
【0069】
導電剤は、例えば、アセチレンブラック、ケッチェンブラック、黒鉛等、又は金属粉末を用いることができるが、これらに限定されない。
【0070】
結着剤は、例えば、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、ポリフッ化ビニリデン(PVdF)、フッ素系ゴム、又はスチレンブタジエンゴムを用いることができるが、これらに限定されない。
【0071】
負極活物質、導電剤及び結着剤の配合比は、負極活物質80〜98重量%、導電剤0〜20重量%、結着剤2〜7重量%の範囲であることが好ましい。
【0072】
負極集電体は、アルミニウム箔またはアルミニウム合金箔から形成されることが好ましい。負極集電体は、平均結晶粒径が50μm以下であることが好ましい。これにより、集電体の強度を飛躍的に増大させることができるため、負極を高いプレス圧で高密度化することが可能となり、電池容量を増大させることができる。また、高温環境下(40℃以上)における過放電サイクルでの負極集電体の溶解・腐食劣化を防ぐことができるため、負極インピーダンスの上昇を抑制することができる。さらに、出力特性、急速充電、充放電サイクル特性も向上させることができる。平均結晶粒径のより好ましい範囲は30μm以下であり、更に好ましい範囲は5μm以下である。硬質は、H材であることが好ましい。
【0073】
アルミニウム箔及びアルミニウム合金箔の厚さは、20μm以下、より好ましくは15μm以下である。アルミニウム箔の純度は99重量%以上が好ましい。アルミニウム合金としては、マグネシウム、亜鉛、ケイ素などの元素を含む合金が好ましい。一方、鉄、銅、ニッケル、クロムなどの遷移金属の含有量は1%以下にすることが好ましい。
【0074】
3)非水電解質
非水電解質は、非水溶媒と、この非水溶媒に溶解される電解質塩を含む。また、非水溶媒中にはポリマーを含んでもよい。
【0075】
電解質塩としては、LiPF6、LiBF4、Li(CF3SO22N(ビストリフルオロメタンスルホニルアミドリチウム;通称LiTFSI)、LiCF3SO3(通称LiTFS)、Li(C25SO22N(ビスペンタフルオロエタンスルホニルアミドリチウム;通称LiBETI)、LiClO4、LiAsF6、LiSbF6、ビスオキサラトホウ酸リチウム(LiB(C242(通称LiBOB))、及び、ジフルオロ(トリフルオロ−2−オキシド−2−トリフルオロ−メチルプロピオナト(2−)−0,0)ホウ酸リチウム(LiBF2(OCOOC(CF32)(通称LiBF2(HHIB)))等のリチウム塩が挙げられる。これらの電解質塩は一種類で使用してもよいし二種類以上を混合して用いてもよい。特にLiPF6、LiBF4が好ましい。
【0076】
電解質塩の濃度は、1M以上、3M以下の範囲内であることが好ましい。これにより、非水電解質の粘度を適度なものとし、高負荷電流を流した場合にも優れた性能が得られる。
【0077】
非水溶媒としては、特に限定されるものではないが、プロピレンカーボネート(PC)、エチレンカーボネート(EC)、1,2−ジメトキシエタン(DME)、γ−ブチロラクトン(GBL)、テトラヒドロフラン(THF)、2−メチルテトラヒドロフラン(2−MeHF)、1,3−ジオキソラン、スルホラン、アセトニトリル(AN)、ジエチルカーボネート(DEC)、ジメチルカーボネイト(DMC)、メチルエチルカーボネート(MEC)、及びジプロピルカーボネート(DPC)等が挙げられる。これらの溶媒は一種類で使用してもよいし二種類以上を混合して用いてもよい。
【0078】
この非水電解質に添加剤を添加してもよい。添加剤としては、特に限定されるものではないが、ビニレンカーボネイト(VC)、ビニレンアセテート(VA)、ビニレンブチレート、ビニレンヘキサネート、ビニレンクロトネート、及びカテコールカーボネート等が挙げられる。添加剤の濃度は、添加剤を添加する前の非水電解質の重量に対して0.1wt%以上、3wt%以下の範囲が好ましい。さらに好ましい範囲は、0.5wt%以上、1wt%以下である。
【0079】
さらに電気化学的手法で負極表面にフッ化物層を形成する場合に非水電解質中に含まれるフッ化物としては、HF,LiPF,LiBF,LiTFSI,LiTFS,LiBETI,LiBOBといったものが好ましい。
【0080】
4)セパレータ
正極と負極の間に、絶縁性のセパレータが備えられる。このセパレータには、ポリオレフィン、セルロース、ポリエチレンテレフタレート、及びビニロンのようなポリマーで作られた多孔質フィルム又は不織布を用いることができる。セパレータの材料は1種類であってもよく、或いは、2種類以上を組合せて用いてもよい。
【0081】
5)外装材
外装材は、厚さ0.5mm以下のラミネートフィルム又は厚さ1mm以下の金属製容器が用いられる。金属製容器は、厚さ0.5mm以下であることがより好ましい。
【0082】
外装材の形状は、扁平型(薄型)、角型、円筒型、コイン型、ボタン型等が挙げられる。外装材は、電池寸法に応じて、例えば携帯用電子機器等に積載される小型電池用外装材、二輪乃至四輪の自動車等に積載される大型電池用外装材が挙げられる。
【0083】
ラミネートフィルムは、樹脂層間に金属層を介在した多層フィルムが用いられる。金属層は、軽量化のためにアルミニウム箔若しくはアルミニウム合金箔が好ましい。樹脂層は、例えばポリプロピレン(PP)、ポリエチレン(PE)、ナイロン、ポリエチレンテレフタレート(PET)等の高分子材料を用いることができる。ラミネートフィルムは、熱融着によりシールを行って外装材の形状に成形することができる。
【0084】
金属製容器は、アルミニウム又はアルミニウム合金等から作られる。アルミニウム合金としては、マグネシウム、亜鉛、ケイ素等の元素を含む合金が好ましい。合金中に鉄、銅、ニッケル、クロム等の遷移金属が含む場合、その量は100wt−ppm以下にすることが好ましい。
【0085】
次に、実施形態に係る非水電解質電池(例えば外装材がラミネートフィルムからなる扁平型非水電解質電池)を、図1、図2を参照してより具体的に説明する。図1は、扁平型非水電解質電池の部分切欠斜視図を示し、図2は図1のA部の拡大断面図である。なお、各図は発明の説明とその理解を促すための模式図であり、その形状や寸法、比などは実際の装置と異なる個所があるが、これらは以下の説明と公知の技術を参酌して適宜、設計変更することができる。
【0086】
図1に示す扁平型非水電解質電池において、捲回電極群13は、金属製の有底矩形筒状外装材11内に収納されている。
【0087】
扁平状の捲回電極群13は、図2に示すように、外側から負極3、セパレータ4、正極5、セパレータ4の順で積層した積層物を渦巻状に捲回し、プレス成型することにより形成される。
【0088】
負極タブ18は、その一端が負極集電体3aに接続され、他端が矩形蓋体12に負極ガスケット21を介して固定された負極端子20に接続されている。正極タブ17は、その一端が正極集電体5aに接続され、他端が矩形蓋体12に固定された正極端子19に接続されている。
【0089】
非水電解液は、例えば矩形状外装材11の開口部から注入されて、矩形状外装材11内に収容されている。矩形状外装材11の開口部に矩形蓋体12を溶接することにより、捲回電極群13及び非水電解液が矩形状外装材11内に封止されている。
【0090】
負極タブは、例えば、アルミニウム又はMg、Ti、Zn、Mn、Fe、Cu、Si等の元素を含むアルミニウム合金などの材料で製造される。負極タブは、負極集電体との接触抵抗を低減するために、負極集電体と同様の材料であることが好ましい。
【0091】
正極タブは、例えば、アルミニウム又はMg、Ti、Zn、Mn、Fe、Cu、Si等の元素を含むアルミニウム合金などの材料で製造される。正極タブは、正極集電体との接触抵抗を低減するために、正極集電体と同様の材料であることが好ましい。
【0092】
以下、本発明の実施例を詳細に説明する。
【実施例】
【0093】
以下、本発明の実施例を詳細に説明する。
【0094】
(実施例A−1)
<正極の作製>
正極活物質としてLiCoO2を用い、導電剤として正極全体に対して3重量%の黒鉛粉末及び正極全体に対して3重量%のアセチレンブラックを用い、結着剤として正極全体に対して5重量%のPVdFを用いた。これらを全てN−メチルピロリドン(NMP)溶媒に加えて混合し、スラリーを調製した。このスラリーを、厚さ15μmのアルミニウム箔(集電体)の両面に塗布し、乾燥後、プレスすることにより成型し、電極密度が3.3 g/cm3である正極を作製した。
【0095】
<負極の作製>
比表面積が10 m2/gであるLi4Ti512粒子を負極活物質として用いた。導電剤として負極全体に対して7重量%のグラファイトを用い、結着剤として負極全体に対して2重量%のPVdFを用いた。これらを全てN−メチルピロリドン(NMP)溶媒に加えて混合し、スラリーを調製した。このスラリーを、厚さ15μmのアルミニウム箔(集電体)の両面に塗布し、乾燥後、プレスすることにより成型し、電極密度が2.1 g/cm3である負極を作製した。
【0096】
<非水電解質の調製>
プロピレンカーボネート(PC)とメチルエチルカーボネイト(MEC)を体積比でPC:MEC=1:2の割合で混合して混合溶媒を調製した。この混合溶媒に1.5MのLiPF6を加え、さらに、電解液(体積)に対して50ppmのHFを添加して、非水電解質を調製した。
【0097】
<電池の組み立て>
ポリプロピレンからなるセパレータで正極の両面を覆い、セパレータを介して正極と対向するように負極を重ねて渦巻状に捲回し、電極群を作製した。この電極群をアルミニウム製金属缶に挿入し、金属缶の開口部分を、注液孔が開けられたキャップで封止した。これを乾燥した後、注液孔から金属管内に非水電解質を注入した。最後に、注液孔を封止し、容量1Ahの非水電解質二次電池を製造した。
【0098】
(実施例A−2)
非水電解質にPC:MEC=1:2(体積比)の混合溶媒に1.5MのLiPF6を加え、さらに電解液(体積)に対して100ppmの水を添加したものを用いた以外は、実施例A−1と同様な方法により電池を作製した。
【0099】
(実施例A−3)
未充電状態の電池を80℃の環境に24時間放置した以外は、実施例A−2と同様な方法により電池を作製した。
【0100】
(実施例B)
負極活物質にアナターゼ型TiO2を用いた以外は、実施例A−1と同様な方法により電池を作製した。
【0101】
(実施例C)
負極活物質にTiO(B)を用いた以外は、実施例A−1と同様な方法により電池を作製した。
【0102】
(比較例A−1)
PC:MEC=1:2(体積比)の混合溶媒に1.5MのLiPF6を加えた非水電解質を用いた以外は、実施例A−1と同様な方法により電池を作製した。
【0103】
(比較例A−2)
PC:MEC=1:2(体積比)の混合溶媒に1.5MのLiBF4を加えた非水電解質を用いた以外は、実施例A−1と同様な方法により電池を作製した。
【0104】
(比較例B)
負極活物質としてアナターゼ型TiO2を用いた以外は、比較例A−1と同様な方法により電池を作製した。
【0105】
(比較例C)
負極活物質にTiO(B)を用いた以外は、比較例A−1と同様な方法により電池を作製した。
【0106】
(実施例D)
負極活物質に比表面積が4 m2/gのLi4Ti512を用いた以外は実施例A−1と同様な方法により電池を作製した。
【0107】
(比較例D)
負極活物質に比表面積が4 m2/gのLi4Ti512を用いた以外は比較例A−1と同様な方法により電池を作製した。
【0108】
(実施例E)
負極活物質に比表面積が120 m2/gのLi4Ti512を用いた以外は実施例A−1と同様な方法により電池を作製した。
【0109】
(比較例E)
負極活物質に比表面積が120 m2/gのLi4Ti512を用いた以外は比較例A−1と同様な方法により電池を作製した。
【0110】
<電池充放電処置>
実施例及び比較例の各電池を、25℃の環境下において、200mA/2.8Vの定電流定電圧条件で充電し、満充電状態とした。その後、200mAで電池電圧1.5Vまで放電した。所定の放電容量が得られるかを確認した後、500mAhの充電を行い、半充電状態にした。
【0111】
<電池評価>
半充電状態にある実施例及び比較例の各電池を、充電状態60%まで充電し、その状態で55℃の環境に放置した。放置前に充電状態60%のときの初期抵抗値を測定した。放置中は、電池抵抗の測定と充電状態の調整(補償充電)を1週間毎に行った。放置後1ヶ月において室温にて電池を充電状態60%に調整しての抵抗値を測定した。
【0112】
実施例及び比較例のそれぞれの電池について、初期抵抗値と1ヶ月放置後の抵抗値から、電池抵抗の増加率を算出した。また、各電池の抵抗値を、実施例A−1、B又はCの抵抗値を100とした相対値として算出した。結果を表2〜6に示す。
【0113】
<X線光電子分光スペクトル>
上記電池評価用の電池とは別に、上記実施例及び比較例のそれぞれについて電池を作製した。各電池を、25℃の環境下において、前記と同様の手法で半充電状態とした。半充電状態の各電池から負極を取り出した。
【0114】
各負極について、単結晶分光Al-Kα線(1486.6 eV)を励起X線源として用いてX線光電子分光スペクトルを得た。各スペクトルにおいて、280〜290 eVに現れる第2のピーク(C1)、680〜687 eVに現れる第1のピーク(F1)、及び、686〜692 eVに現れる第3のピーク(F2)の強度を測定した。また、測定値から強度比F1/C1及びF1/F2を算出した。結果を表1に示す。また、実施例A−3及び比較例A−1の負極についてのX線光電子分光スペクトルを、それぞれ図3及び4に示す。
【0115】
また、各負極において、チタン酸リチウムの表面に形成されたフッ化物層の厚さを、透過型電子顕微鏡(TEM)で測定した。その結果を表1に示す。
【0116】
さらに、各負極に含まれるリンの含有比率を、単結晶分光Al-Kα線(1486.6 eV)を励起X線源として用いたX線光電子分光スペクトルから算出した。結果を表1に示す。
【表1】

【0117】
<測定結果>
上記電池評価の結果を表2〜4に示す。
【表2】

【0118】
【表3】

【0119】
【表4】

【0120】
【表5】

【0121】
【表6】

【0122】
表1から、実施例A−1〜A−3は、ピーク強度比(F1/C1)が本発明により規定された範囲内であることが分かる。これら実施例A−1〜A−3は、表2に示されたように、抵抗の増加率が135〜140%であった。実施例A−1と実施例A−2の増加率が同じであったことから、非水電解質にフッ酸を添加する場合と、水を添加して加水分解を生じさせる場合とで、フッ化物層の形成に大きな相違がないことが示された。また、実施例A−2の増加率が140%であったのに対し、実施例A−3の増加率が135%であったことから、充電前に加温することにより、非水電解質中の水の加水分解が促進され、フッ化物層がより多く形成されることが示された。このことは、表1において、実施例A−3のフッ化物層の厚さが25 nmであるのに対し、実施例A−2では18 nmであることによっても示される。
【0123】
表1から、非水電解質にフッ酸を含まない比較例A−1と比較例A−2は、F1/C1の値が3.2未満であり、F1/F2の値が0.9未満であることが示された。このことから、非水電解質にフッ酸も水も含まない場合、非水電解質に用いるリチウム塩としてLiPF6またはLiBF4を用いても、フッ化物層が十分に形成されないことが示された。
【0124】
表2から、比較例A−1及びA−2は、抵抗の増加率がそれぞれ170%及び165%であり、実施例A−1〜A〜3と比較して高かった。また1ヶ月後の抵抗値の相対値も、それぞれ120及び130と高かった。このことから、フッ化物層の形成が不十分であると、抵抗の増加が大きいことが示されている。反対に、ピーク強度比(F1/C1)が本発明により規定された範囲内である実施例A−1〜A−3は、抵抗の増加率が低く、高温貯蔵後であっても高い出力が得られることが示された。
【0125】
表3から、負極活物質にアナターゼ型TiO2を用いた実施例B及び比較例Bは、非水電解質にフッ酸を含む実施例Bが、比較例Bと比較して抵抗の増加率が低く、また1ヶ月後の抵抗値の相対値も低かった。このことから、アナターゼ型TiO2においても、ピーク強度比(F1/C1)が本発明により規定された範囲内であることによって、抵抗の増加が抑制され、高出力が得られることが示された。
【0126】
表4から、負極活物質にTiO(B)を用いた実施例C及び比較例Cは、非水電解質にフッ酸を含む実施例Cが、比較例Cと比較して抵抗の増加率が低く、また1ヶ月後の抵抗値の相対値も低かった。このことから、TiO(B)においても、ピーク強度比(F1/C1)が本発明により規定された範囲内であることによって、抵抗の増加が抑制され、高出力が得られることが示された。
【0127】
表5から、負極活物質に比表面積が4 m2/gのLi4Ti512を用いた実施例Dは、比較例Dと比較して、抵抗の増加率が低く、1ヶ月後の抵抗値の相対値も低かった。このことから、ピーク強度比(F1/C1)が本発明により規定された範囲内であることによって、抵抗の増加が抑制され、高出力が得られることが示された。
【0128】
表6から、負極活物質に比表面積が120 m2/gのLi4Ti512を用いた実施例Eも、比較例Eと比較して、抵抗の増加率が低く、1ヶ月後の抵抗値の相対値も低かった。このことから、ピーク強度比(F1/C1)が本発明により規定された範囲内であることによって、抵抗の増加が抑制され、高出力が得られることが示された。
【0129】
<XPSスペクトル>
図3は、280〜295 eVの範囲のスペクトルであり、第2のピーク(C1)が認められる。図4は、680〜695 eVの範囲のスペクトルであり、680〜687 eVに現れる第1のピーク(F1)及び686〜692 eVに現れる第3のピーク(F2)が認められる。
【0130】
負極表面上の有機物皮膜の量を表すC−OないしC−C、C−Hに起因する第2のピーク(C1)と、ポリフッ化ビニリデンに起因する第3のピーク(F2)は、実施例A−3と比較例A−1とで大きく相違しない。一方、フッ化物層に起因する第1のピーク(F1)は、実施例A−3と比較例A−1とで大きく相違している。このことから、非水電解質にフッ酸を添加することによって、フッ化物層が形成されることが明らかに示された。
【符号の説明】
【0131】
3…負極、4…セパレータ、5…正極、11…矩形状外装材、12…矩形蓋体、13…捲回電極群、17…正極タブ、18・・・負極タブ、19・・・正極端子、20…負極端子、21…負極ガスケット。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
正極と、
フッ化リチウムを含むフッ化物層を表面に有するチタン酸リチウム粒子を含む負極と、
非水電解質とを備え、
半充電状態の前記負極の単結晶分光Al-Kα線(1486.6 eV)を励起X線源として用いたX線光電子分光スペクトルにおいて、下記(I)式を満たすことを特徴とする非水電解質電池:
3.2≦(F1/C1)≦6 (I)
但し、F1は、680〜687 eVに現れる第1のピークの強度であり、C1は、280〜290 eVに現れる第2のピークの強度である。
【請求項2】
前記フッ化物層の最大厚さが5nm以上1.0×10nm以下の範囲内であることを特徴とする請求項1記載の非水電解質電池。
【請求項3】
前記負極は、結着剤としてポリフッ化ビニリデンを含み、
前記負極の半充電状態におけるX線光電子分光スペクトルにおいて、下記(II)式を満たすことを特徴とする請求項1又は2記載の非水電解質電池:
0.9≦(F1/F2)≦1.5 (II)
但し、F1は前記第1のピークの強度であり、F2は、686〜692 eVに現れる第3のピークの強度である。
【請求項4】
前記チタン酸リチウム粒子はLixTiy4(1≦x≦2.4、1≦y≦2)で表されることを特徴とする請求項1〜3の何れか1項記載の非水電解質電池。
【請求項5】
前記チタン酸リチウム粒子は、BET法での比表面積が5〜100 m2/gの範囲内であることを特徴とする請求項1〜4の何れか1項記載の非水電解質電池。
【請求項6】
前記非水電解質はフッ化物を含み、前記フッ化物層が電気化学的手法により形成されることを特徴とする請求項1〜5の何れか1項記載の非水電解質電池。
【請求項7】
前記非水電解質はフッ素含有リチウムリン化合物を含み、
前記負極の半充電状態におけるX線光電子分光スペクトルから算出される前記負極の元素組成において、リンの元素比率が0.9〜2atom%の範囲内であることを特徴とする請求項1〜6の何れか1項記載の非水電解質電池。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2010−231960(P2010−231960A)
【公開日】平成22年10月14日(2010.10.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−76702(P2009−76702)
【出願日】平成21年3月26日(2009.3.26)
【出願人】(000003078)株式会社東芝 (54,554)
【Fターム(参考)】