説明

非水電解質電池

【課題】 非水電解質電池において、出力特性の低下を抑制しつつ、電池のエネルギ密度を向上させうる手段を提供する。
【解決手段】 非水電解質電池の電極を構成する正極活物質層または負極活物質層の少なくとも一方において、活物質層の全体積に対する固形分体積の割合を50%以下とし、さらに、下記数式1:


により定義される活物質層表面の平滑率を50%以上とする。あるいは、非水電解質電池用電極を作製する際に、活物質と、固体状フィラーと、を含む活物質スラリーを調製し、この活物質スラリーを集電体の表面に塗布することにより、塗膜を形成し、さらに、塗膜中の前記固体状フィラーを液体状または気体状とする工程を行う。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、非水電解質電池に関する。特に本発明は、非水電解質電池の出力特性を向上させるための改良に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、大気汚染や地球温暖化に対処するため、二酸化炭素量の低減が切に望まれている。自動車業界では、電気自動車(EV)やハイブリッド電気自動車(HEV)の導入による二酸化炭素排出量の低減に期待が集まっており、これらの実用化の鍵を握るモータ駆動用二次電池の開発が盛んに行われている。
【0003】
モータ駆動用二次電池としては、全ての電池の中で最も高い理論エネルギを有するリチウムイオン二次電池が注目を集めており、現在急速に開発が進められている。リチウムイオン二次電池は、一般に、バインダを用いて正極活物質等を正極集電体の両面に塗布した正極と、バインダを用いて負極活物質等を負極集電体の両面に塗布した負極とが、電解質層を介して接続され、電池ケースに収納される構成を有している。なかでも、電解質層におけるリチウムイオン伝導性に優れるものとして、電解質層に非水電解液を含む非水電解質電池が知られている(例えば、特許文献1を参照)。
【0004】
ところで、電池性能を示す指標の1つに、エネルギ密度がある。エネルギ密度は、Wh/kgやWh/dmといった単位で示される。すなわち、より大きいエネルギ密度を有する電池ほど、電池の小型化および軽量化が可能である。
【0005】
従来、非水電解質電池のエネルギ密度を向上させることを目的として、電極の活物質層の密度を高めるという手法が採られている。活物質層の密度を高めることで、電池の体積エネルギ密度の向上が図られる。活物質層の密度を高めるための技術としては、例えば、ロールプレス機を用いたプレス処理が用いられている(例えば、特許文献2を参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2003−7345号公報
【特許文献2】特開2002−324549号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上述したように、プレス処理により電極の活物質層の密度を高めると、電池のエネルギ密度は向上する。また、電極製造時にプレス処理を施すと、活物質層の表面が平坦化され、活物質等の成分の活物質層からの脱落や突出が防止されうる。その結果、電解質層に使用されるセパレータのより一層の薄膜化が可能となり、電池の出力特性の向上も図られる。
【0008】
しかしながら、本発明者らの研究によれば、プレス処理により活物質層の密度を増加させすぎると、電池の出力特性が低下することが判明した。なお、かような出力特性の低下は、より一層の高出力化を念頭に開発が進められているバイポーラ電池において、より顕著である。
【0009】
そこで本発明は、非水電解質電池において、出力特性の低下を抑制しつつ、電池のエネルギ密度を向上させうる手段を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、上記の問題を解決すべく、電極活物質層の高密度化に伴って出力特性が低下する原因を鋭意探索した。
【0011】
その結果、活物質層中の電解液におけるリチウムイオン伝導の律速が、出力特性低下の原因となっていることを見出した。すなわち、プレス処理により活物質層が高密度化された電極を備えた電池を充放電すると、それほど高くない出力条件下においては、活物質層中の電解液においてリチウムイオンが充分に伝導し、充放電反応が充分に進行しうる。これに対し、例えば車載用電池に要求されるような高出力条件下においては、充放電反応の進行に伴って活物質層中の電解液におけるリチウムイオンが枯渇してしまい、充放電反応が充分に進行できなくなってしまうのである。
【0012】
かような知見に基づき、本発明者らは、非水電解質電池用電極の活物質層において、固形分の充填状態や活物質層の表面状態を制御することを試みた。また、かような制御を可能とする電極の製造方法についても検討を行い、本発明を完成させるに至った。
【0013】
すなわち、本発明の第1は、集電体の表面に形成された、正極活物質を含む正極活物質層と、非水電解質を含む電解質層と、集電体の表面に形成された、負極活物質を含む負極活物質層と、がこの順に積層されてなる少なくとも1つの単電池層を有する非水電解質電池であって、前記正極活物質層または前記負極活物質層の少なくとも一方において、活物質層の全体積に対する固形分体積の割合が50%以下であり、かつ、下記数式1により定義される活物質層表面の平滑率:
【0014】
【数1】

【0015】
が50%以上であることを特徴とする、非水電解質電池である。
【0016】
また、本発明の第2は、活物質と、固体状フィラーと、を含む活物質スラリーを調製する工程と、前記活物質スラリーを集電体の表面に塗布することにより、塗膜を形成する工程と、前記塗膜中の前記固体状フィラーを液体状または気体状とする工程と、を有する、非水電解質電池用電極の製造方法である。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、非水電解質電池において、出力特性の低下を抑制しつつ、電池のエネルギ密度を向上させることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】バイポーラ電池である、第1実施形態の電池の概要を示す断面図である。
【図2】活物質粒子の粒径を測定する際に用いる絶対最大長を説明するための解説図である。成する様子を示す図である。
【図3】第2実施形態の組電池を示す斜視図である。
【図4】第2実施形態の組電池を搭載する第3実施形態の自動車の概略図である。
【図5】バイポーラ型でないリチウムイオン二次電池の概要を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明の実施の形態を説明する。
【0020】
本発明の第1は、集電体の表面に形成された、正極活物質を含む正極活物質層と、非水電解質を含む電解質層と、集電体の表面に形成された、負極活物質を含む負極活物質層と、がこの順に積層されてなる少なくとも1つの単電池層を有する非水電解質電池であって、
前記正極活物質層または前記負極活物質層の少なくとも一方において、活物質層の全体積に対する固形分体積の割合が50%以下であり、かつ、
下記数式1により定義される活物質層表面の平滑率:
【0021】
【数2】

【0022】
が50%以上であることを特徴とする、非水電解質電池である。
【0023】
以下、図面を参照しながら、本発明の実施形態を説明するが、本発明の技術的範囲は特許請求の範囲の記載に基づいて定められるべきであり、以下の形態のみには制限されない。なお、図面の説明において同一の要素には同一の符号を付し、重複する説明を省略する。また、図面の寸法比率は、説明の都合上誇張されており、実際の比率とは異なる場合がある。
【0024】
(第1実施形態)
(構成)
図1は、バイポーラ型リチウムイオン二次電池(以下、「バイポーラ電池」とも称する)である、本実施形態の電池の概要を示す断面図である。なお、本明細書においては、バイポーラ電池を例に挙げて詳細に説明するが、本発明の技術的範囲はかような形態のみに制限されない。
【0025】
図1に示す本実施形態のバイポーラ電池10は、実際に充放電反応が進行する略矩形の電池要素21が、外装であるラミネートシート29の内部に封止された構造を有する。
【0026】
図1に示すように、本実施形態のバイポーラ電池10の電池要素21は、集電体11の一方の面に正極活物質層13が形成され他方の面に負極活物質層15が形成された複数のバイポーラ電極を有する。各バイポーラ電極は、電解質層17を介して積層されて電池要素21を形成する。この際、一のバイポーラ電極の正極活物質層13と前記一のバイポーラ電極に隣接する他のバイポーラ電極の負極活物質層15とが電解質層17を介して向き合うように、各バイポーラ電極および電解質層17が積層されている。図1に示す形態において、電解質層17は、セパレータと、前記セパレータ中に注入された電解質とから構成されている。
【0027】
隣接する正極活物質層13、電解質層17、および負極活物質層15は、一つの単電池層19を構成する。従って、バイポーラ電池10は、単電池層19が積層されてなる構成を有するともいえる。また、単電池層19の外周には、隣接する集電体11間を絶縁するための絶縁層31が設けられている。なお、電池要素21の最外層に位置する集電体(最外層集電体)(11a、11b)には、片面のみに、正極活物質層13(正極側最外層集電体11a)または負極活物質層15(負極側最外層集電体11b)のいずれか一方が形成されている。
【0028】
さらに、図1に示すバイポーラ電池10では、正極側最外層集電体11aが延長されて正極タブ25とされ、外装であるラミネートシート29から導出している。一方、負極側最外層集電体11bが延長されて負極タブ27とされ、同様にラミネートシート29から導出している。
【0029】
以下、本実施形態の特徴的な構成について、詳細に説明する。
【0030】
本実施形態のバイポーラ電池10は、電極の活物質層(13、15)における固形分体積の割合、および活物質層(13、15)表面の平滑率が所定の範囲内の値に制御されている点に特徴を有する。
【0031】
詳細には、まず、活物質層(13、15)に含まれる固形分体積の割合が、活物質層の全体積に対して50%以下である。ここで「固形分」とは、活物質層(13、15)において固体状態で存在している成分を意味し、液体成分や気体成分は含まれない。固形分の具体例としては、例えば、活物質、導電助剤、バインダ、イオン伝導性ポリマーなどが挙げられる。一方、電解液に溶解している成分は、「液体成分」に含まれる。なお、固形分体積の割合は、活物質層の全体積および全質量、並びに活物質層を構成する各成分の配合量の割合から、算出されうる。
【0032】
リチウムイオンの伝導経路を確保するという観点から、固形分体積の割合は、好ましくは45%以下であり、より好ましくは40%以下である。また、上記の割合の下限については特に制限されないが、電池容量密度を確保し、電極構造を維持させるという観点から、固形分体積の割合は、好ましくは10%以上であり、より好ましくは20%以上であり、さらに好ましくは25%以上である。
【0033】
さらに、活物質層(13、15)表面の平滑率が、50%以上である。「平滑率」は、下記数式1:
【0034】
【数3】

【0035】
により定義される。従って、より高い平滑率は、活物質層の表面がより平滑であることを意味する。なお、平滑率の測定には、例えば、電子線三次元粗さ解析装置、触針式表面粗さ測定計、レーザ顕微鏡などが用いられうる。上記の数式1で用いられる「活物質の平均粒子径」の定義については、後述の[活物質]の欄において、説明する。また、上記の数式1で用いられる「深さ」とは、電解質層側の活物質層表面からの、平面方向に垂直な方向の距離を意味する。
【0036】
活物質によるセパレータの貫通を防止するという観点から、活物質層表面の平滑率は、好ましくは55%以上であり、より好ましくは60%以上であり、さらに好ましくは65%以上である。また、平滑率の上限については特に制限されないが、固形分体積の割合から、あまりにも高い平滑率は実現するのが困難となる。よって、平滑率は、好ましくは90%以下であり、より好ましくは85%以下であり、さらに好ましくは80%以下である。
【0037】
活物質層の固形分体積の割合および活物質層表面の平滑率が上述した所定の範囲に制御されている本実施形態のバイポーラ電池10によれば、要求出力の上昇に伴う出力特性の低下が抑制されうる。すなわち、高出力条件下においても電池容量の低下が抑制されず、電池容量が高い値に維持されうる。その結果、電池のエネルギ密度の向上に有効に寄与しうる。
【0038】
なお、本願の構成とすることにより出力特性の低下が抑制されるメカニズムは完全に明らかとはなっていないが、リチウムイオンが活物質層中を伝導するためのイオン伝導パスがある程度確保され、要求出力が上昇した場合であってもリチウムイオンの活物質層中の伝導が充分に行われることによるものと推測される。ただし、かようなメカニズムはあくまでも推測に過ぎず、本実施形態のバイポーラ電池10において、実際には上記以外のメカニズムにより出力特性の低下が抑制されていたとしても、本発明の技術的範囲は何ら影響を受けることはない。
【0039】
以下、本実施形態のバイポーラ電池10を構成する部材について簡単に説明するが、下記の形態のみに制限されることはなく、従来公知の形態が同様に採用されうる。
【0040】
[集電体(最外層集電体を含む)]
集電体11および最外層集電体(11a、11b)は、アルミニウム箔、銅箔、ステンレス(SUS)箔など、導電性の材料から構成される。集電体の一般的な厚さは、1〜30μmである。ただし、この範囲を外れる厚さの集電体を用いてもよい。
【0041】
集電体11の大きさは、バイポーラ電池10の使用用途に応じて決定される。大型の電池に用いられる大型の電極を作製するのであれば、面積の大きな集電体が用いられる。小型の電極を作製するのであれば、面積の小さな集電体が用いられる。
【0042】
[活物質層]
活物質層は活物質を含み、必要に応じてその他の添加剤をさらに含む。
【0043】
正極活物質層13は、正極活物質を含む。正極活物質としては、リチウム−遷移金属複合酸化物が好ましく、例えば、LiMnなどのLi−Mn系複合酸化物やLiNiOなどのLi−Ni系複合酸化物が挙げられる。場合によっては、2種以上の正極活物質が併用されてもよい。
【0044】
負極活物質層15は、負極活物質を含む。負極活物質としては、上記のリチウム遷移金属−複合酸化物や、カーボンが好ましい。カーボンとしては、例えば、天然黒鉛、人造黒鉛等の黒鉛系炭素材料、カーボンブラック、活性炭、カーボンファイバー、コークス、ソフトカーボン、ハードカーボン等が挙げられる。場合によっては、2種以上の負極活物質が併用されてもよい。
【0045】
各活物質層(13、15)に含まれるそれぞれの活物質の平均粒子径は、上述した本発明の構成要件である平滑率を規定するためのパラメータである。活物質の平均粒子径は、例えば、走査型電子顕微鏡(SEM)や透過型電子顕微鏡(TEM)などを用いて、一定の観察領域中に存在する粒子の粒子径を測定し、その平均値を算出することにより得られる。
【0046】
また、活物質の粒子の形状は球状のみに制限されず、その他の形状であってもよい。例えば、これらの粒子は、板状、針状、柱状、不定形状などの形状であってもよい。球状以外の形状の粒子が用いられる場合には、粒子の形状が一様ではないことから、粒子の絶対最大長を当該粒子の粒子径とする。ここで、「絶対最大長」とは、図2に示すように、粒子100の輪郭線上の任意の2点間の距離のうち、最大の距離Lをいうものとする。
【0047】
活物質の平均粒子径の具体的な値は特に制限されないが、通常は、正極活物質および負極活物質ともに、0.1〜100μm程度であり、好ましくは1〜20μmである。ただし、この範囲を外れる形態が採用されても、勿論よい。
【0048】
本発明の非水電解質電池において、活物質層(13、15)は、電解液を含む。
【0049】
電解液は、リチウムイオンの供給源となるリチウム塩と、リチウム塩を溶解させうる可塑剤(有機溶媒)とから構成される。リチウム塩(支持塩)としては、例えば、LiBF、Li(CSON)、LiPF、LiClO、LiAsF、LiCFSO等が挙げられる。また、可塑剤としては、例えば、プロピレンカーボネート、エチレンカーボネート等のカーボネート類などが挙げられる。
【0050】
活物質層(13、15)は、活物質および電解液に加えて、その他の添加剤を含んでもよい。活物質層(13、15)に含まれうる添加剤としては、例えば、バインダ、導電助剤、イオン伝導性ポリマー等が挙げられる。また、イオン伝導性ポリマーが含まれる場合には、前記ポリマーを重合させるための重合開始剤が含まれてもよい。
【0051】
バインダとしては、ポリフッ化ビニリデン(PVdF)、合成ゴム系バインダ等が挙げられる。
【0052】
導電助剤とは、正極活物質層13または負極活物質層15の導電性を向上させるために配合される添加物をいう。導電助剤としては、グラファイト、気相成長炭素繊維などが挙げられる。
【0053】
イオン伝導性ポリマーとしては、例えば、ポリエチレンオキシド(PEO)系およびポリプロピレンオキシド(PPO)系のポリマーが挙げられる。
【0054】
重合開始剤は、イオン伝導性ポリマーの架橋性基に作用して、架橋反応を進行させるために配合される。開始剤として作用させるための外的要因に応じて、光重合開始剤、熱重合開始剤などに分類される。重合開始剤としては、例えば、熱重合開始剤であるアゾビスイソブチロニトリル(AIBN)や、光重合開始剤であるベンジルジメチルケタール(BDK)等が挙げられる。
【0055】
正極活物質層13および負極活物質層15中に含まれる成分の配合比は、特に限定されない。配合比は、リチウムイオン二次電池についての公知の知見を適宜参照することにより、調整されうる。
【0056】
[電解質層]
本実施形態のバイポーラ電池10において、電解質層17は、上述したように、セパレータと、前記セパレータ中に注入された電解質とから構成されている。
【0057】
セパレータは、正負の活物質層を分離し、これらの間の短絡を防止する機能を有する。セパレータは、例えば、ポリエチレンやポリプロピレン等のポリオレフィンから構成される微多孔膜からなる。場合によっては、同様の材料から構成される不織布や粒子によって、セパレータを形成してもよい。
【0058】
セパレータの厚さについて特に制限はなく、所望の電池性能等を考慮して適宜設定されうる。ただし、本発明によれば、活物質層表面の平滑性が向上し、活物質層表面からの活物質などの脱落や突出が抑制されうる。従って、本発明の効果をより一層顕在化させるという観点からは、セパレータの厚さは薄いほど好ましい。具体的には、セパレータの厚さは、好ましくは20μm以下であり、より好ましくは10μm以下であり、さらに好ましくは5μm以下である。一方、セパレータの厚さの下限についても特に制限はないが、正負の活物質層間の短絡を有効に防止するという観点から、セパレータの厚さは、好ましくは0.1μm以上であり、より好ましくは0.5μm以上であり、さらに好ましくは1μm以上である。ただし、場合によっては、これらの範囲を外れる厚さのセパレータが用いられてもよい。
【0059】
さらに、セパレータは、電解質を保持する機能も有する。本発明の非水電解質電池において、セパレータ中に保持される電解質としては、液体電解質およびゲル電解質が挙げられる。
【0060】
液体電解質は、可塑剤である非水系溶媒(有機溶媒)に支持塩であるリチウム塩が溶解した形態を有する。非水系溶媒およびリチウム塩としては、例えば、エチレンカーボネート(EC)やプロピレンカーボネート(PC)等のカーボネート類、および、LiBFなどの、電極の活物質層に添加されうる化合物が同様に用いられうる。
【0061】
ゲル電解質は、イオン伝導性ポリマーからなるマトリックスポリマーに、上記の液体電解質が注入されてなる構成を有する。マトリックスポリマーとして用いられるイオン伝導性ポリマーとしても同様に、ポリエチレンオキシド(PEO)やポリプロピレンオキシド(PPO)などの、電極の活物質層に添加されうるポリマーが用いられうる。
【0062】
なお、ゲル電解質のマトリックスポリマーは、架橋構造を形成することによって、優れた機械的強度を発現しうる。架橋構造を形成させるには、適当な重合開始剤を用い、当該重合開始剤の作用要因に応じて、マトリックスポリマー(例えば、PEOやPPO)に対して熱重合、紫外線重合、放射線重合、電子線重合等の重合処理を施せばよい。
【0063】
[絶縁層]
バイポーラ電池10においては、通常、各単電池層19の周囲に絶縁層31が設けられる。この絶縁層31は、電池内で隣り合う集電体11同士が接触したり、電池要素21における単電池層19の端部の僅かな不揃いなどに起因する短絡が起こったりするのを防止する目的で設けられる。かような絶縁層31の設置により、長期間の信頼性および安全性が確保され、高品質のバイポーラ電池10が提供されうる。
【0064】
絶縁層31を構成する材料としては、絶縁性、固体電解質の脱落に対するシール性や外部からの水分の透湿に対するシール性(密封性)、電池動作温度下での耐熱性などを有するものであればよく、例えば、ウレタン樹脂、エポキシ樹脂、ポリエチレン樹脂、ポリプロピレン樹脂、ポリイミド樹脂、ゴムなどが用いられうる。なかでも、耐蝕性、耐薬品性、作り易さ(製膜性)、経済性などの観点から、ウレタン樹脂やエポキシ樹脂が、絶縁層31の構成材料として好ましく用いられる。
【0065】
[タブ]
バイポーラ電池10においては、電池外部に電流を取り出す目的で、最外層集電体(11a、11b)に電気的に接続されたタブ(正極タブ25および負極タブ27)が外装であるラミネートシート29の外部に取り出される。具体的には、正極用最外層集電体11aに電気的に接続された正極タブ25と、負極用最外層集電体11bに電気的に接続された負極タブ27とが、外装の外部に取り出される。
【0066】
タブ(正極タブ25および負極タブ27)のを構成する材料は特に制限されず、バイポーラ電池用のタブとして従来用いられている公知の材料が用いられうる。タブの構成材料としては、例えば、アルミニウム、銅、チタン、ニッケル、ステンレス鋼(SUS)、これらの合金等が例示される。なお、正極端子25と負極端子27とでは、同一の材質が用いられてもよいし、異なる材質が用いられてもよい。また、本実施形態のように、最外層集電体(11a、11b)を延長することによりタブ(25、27)としてもよいし、別途準備したタブを最外層集電体に接続してもよい。
【0067】
[外装]
バイポーラ電池10においては、使用時の外部からの衝撃や環境劣化を防止するために、電池要素21は、ラミネートシート29などの外装内に収容されることが好ましい。外装としては特に制限されず、従来公知の外装が用いられうる。自動車の熱源から効率よく熱を伝え、電池内部を迅速に電池動作温度まで加熱しうる点で、好ましくは、熱伝導性に優れた高分子−金属複合ラミネートシート等が用いられうる。
【0068】
(製造方法)
続いて、本実施形態のバイポーラ電池10の製造方法の好ましい一形態を説明する。ただし、下記の形態以外の製造方法が用いられてもよいことは勿論である。
【0069】
本実施形態のバイポーラ電池10を製造する際には、まず、バイポーラ電極を製造する。本実施形態のバイポーラ電池10に用いられるバイポーラ電極を製造するには、例えば、活物質と、固体状フィラーと、を含む活物質スラリーを調製し(活物質スラリー調製工程)、この活物質スラリーを集電体の表面に塗布して塗膜を形成し(塗膜形成工程)、さらに、この塗膜中の固体状フィラーを液体状または気体状とする(フィラー処理工程)という手法が用いられうる。以下、かような手法によりバイポーラ電極を製造する好ましい一形態について詳細に説明する。
【0070】
[活物質スラリー調製工程]
バイポーラ電極を製造する際には、まず、活物質を含む活物質スラリーを調製する。本発明の製造方法では、前記活物質スラリーが固体状フィラーをさらに含む点に特徴を有する。
【0071】
活物質スラリーは、所望の活物質、固体状フィラー、および必要に応じて他の成分(例えば、バインダ、導電助剤、リチウム塩、イオン伝導性ポリマー、重合開始剤など)を、溶媒中で混合することにより、調製されうる。
【0072】
活物質スラリー中に配合される各成分の具体的な形態については、固体状フィラーを除いて、上記の構成の欄において説明した通りであるため、ここでは詳細な説明を省略する。ただし、活物質の平均粒子径は、上記の数式1により定義される平滑率の値に影響を及ぼす。従って、所望の平滑率が得られるように、準備する活物質の平均粒子径を調節するとよい。活物質の平均粒子径を調節するには、所望の粒子径を有する活物質の商品を購入して用いてもよいし、場合によっては、所望の活物質を自ら調製してもよい。
【0073】
固体状フィラーは、フィラー処理工程において処理され、液体状または気体状とされる。かような処理により、好ましい3次元構造を有する電極が製造されうる。フィラー処理工程の詳細については、後述する。
【0074】
固体状フィラーの具体的な形態は特に制限されず、フィラー処理工程において液体状または固体状とされうる物質が適宜用いられうる。ただし、電池性能に悪影響を及ぼさない物質が固体状フィラーとして採用されることが好ましい。
【0075】
固体状フィラーは、その物理的または化学的性質により、溶解性フィラー、融解性フィラー、昇華性フィラーなどに分類されうる。ただし、これらのみには制限されない。
【0076】
溶解性フィラーは、フィラー処理工程において、電解液に溶解しうる。溶解性フィラーとしては、例えば、溶媒として用いられるエチレンカーボネート、添加剤として用いられるビフェニル、ターフェニル等のほか、種々のリチウム塩が挙げられる。リチウム塩の具体例としては、上記の構成の欄において例示した化合物が挙げられる。ここで、リチウム塩は本来、電極の活物質層への添加成分である。従って、リチウム塩を固体状フィラーとして用いると、フィラー処理工程においてリチウム塩が電解液に溶解しても、電極や電池の性能に悪影響を及ぼすことがない。かような観点から、固体状フィラーとしては、溶解性フィラーであるリチウム塩が好ましく用いられうる。
【0077】
融解性フィラーは、フィラー処理工程において、融解しうる。融解性フィラーとしては、重量平均分子量1000〜100000程度のポリオレフィンやポリエーテル、ポリエステル、ポリフッ化ビニリデンなどの低分子量ポリマーのほか、チオ硫酸ナトリウムなどが挙げられる。
【0078】
昇華性フィラーは、フィラー処理工程において、昇華しうる。昇華性フィラーとしては、パラジクロロベンゼン、ナフタレン、ヨウ素などが挙げられる。
【0079】
活物質スラリーに含まれる各成分の配合量については特に制限されず、上記の構成の欄の説明および電池の活物質層についての従来公知の知見を参照しつつ、適宜調節されうる。ただし、固体状フィラーとしてリチウム塩を用いる場合には、注入される電解液中のリチウム塩濃度などを考慮して、フィラーであるリチウム塩の配合量を決定することが好ましい。
【0080】
活物質スラリーの溶媒の種類や混合手段は特に制限されず、電極製造について従来公知の知見が適宜参照されうる。溶媒の一例を挙げると、N−メチル−2−ピロリドン(NMP)、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド、メチルホルムアミドなどが用いられうる。バインダとしてポリフッ化ビニリデン(PVdF)を採用する場合には、NMPを溶媒として用いるとよい。
【0081】
[塗膜形成工程]
続いて、集電体の一方の面に正極活物質スラリーを塗布し、正極活物質を含む塗膜を形成する。一方、集電体の他方の面に負極活物質スラリーを塗布して、負極活物質を含む塗膜を形成する。最外層集電体については、正極側最外層集電体の一方の面に正極活物質スラリーのみを塗布し、負極側最外層集電体の一方の面に負極活物質スラリーのみを塗布する。その後、必要に応じて乾燥処理を施すことによって、塗膜を乾燥させる。スラリーの塗布および塗膜の乾燥のための具体的な手段は特に制限されず、電池の製造分野において従来公知の知見が適宜参照されうる。
【0082】
本工程においては、集電体および活物質スラリーを準備する。準備される集電体の具体的な形態については、上記の本発明の電極の構成の欄において説明した通りであり、準備される活物質スラリーの具体的な形態については、上記の活物質スラリー調製工程において説明した通りであるため、ここでは詳細な説明を省略する。
【0083】
活物質スラリーは、製造される電極における集電体と活物質層との所望の配置形態に応じて、塗布される。例えば、製造される電極がバイポーラ電極の場合には、上述したように、集電体の一方の面に正極活物質を含む塗膜を形成し、他方の面に負極活物質を含む塗膜を形成すればよい。これに対し、バイポーラ型でない電極を製造する場合には、正極活物質または負極活物質のいずれか一方を含む塗膜が一の集電体の両面に形成される。
【0084】
塗膜がイオン伝導性ポリマーおよび重合開始剤を含む場合には、さらに重合工程を行うことで、塗膜中のイオン伝導性ポリマーが架橋性基によって架橋される。重合工程における重合処理も特に制限されることはなく、従来公知の知見を適宜参照すればよい。例えば、塗膜が熱重合開始剤(AIBNなど)を含む場合には、塗膜に熱処理を施す。また、塗膜が光重合開始剤(BDKなど)を含む場合には、紫外光などの光を照射する。なお、熱重合のための熱処理は、上記の乾燥工程と同時に行われてもよいし、当該乾燥工程の前または後に行われてもよい。さらには、活物質層の塗膜の重合処理を、後述する電解質層を重合させるための重合処理と兼ねて行ってもよい。
【0085】
上述したような活物質スラリーの塗布および乾燥により形成される塗膜の表面は、通常、凹凸を有するのが一般的である。かような凹凸は、正負の活物質間の短絡発生の原因となりうる。従って、上述の操作に続き、塗膜と集電体とからなる積層体をプレス処理するとよい。これにより、得られるバイポーラ電極の活物質層の表面が平坦化されうる。なお、プレス手段は特に制限されず、例えば、ホットプレス機やカレンダーロールプレス機などが挙げられる。また、プレス条件についても特に制限はなく、所望する活物質層の表面状態を考慮して、適宜設定されうる。一例を挙げると、プレス温度は、通常は20〜150℃程度であり、プレス圧力は、通常は10〜5000kgf/cm程度である。ロールプレス機の場合であれば線圧10〜5000kgf/cmとなる。ただし、場合によっては、これらの範囲を外れるプレス条件が採用されてもよい。
【0086】
[フィラー処理工程]
続いて、塗膜中の固体状フィラーを処理して、液体状または気体状とする。これにより、活物質層における固形分体積が減少しうる。
【0087】
例えば、上記の活物質スラリーに添加される固形分(溶媒以外の成分)の全体積のうち、固体状フィラーの体積が40%を占めている場合を考えてみる。かような活物質スラリーを上記の塗膜形成工程において集電体に塗布し、乾燥させて得られる塗膜の固形分体積が、塗膜の全体積に対して50%であるとすると、塗膜の全体積に対する固体状フィラーの体積は、50%×40%=20%となる。本工程(フィラー処理工程)においては、この20%相当の固体状フィラーが液体状または気体状となり、固形分体積からは除外されることとなる。従って、本工程により、塗膜の固形分体積は、50%−20%=30%となる。
【0088】
本工程におけるフィラー処理の手法は特に制限されず、活物質スラリー中に添加された固体状フィラーの性質に応じて、適宜選択されうる。
【0089】
例えば、固体状フィラーとして溶解性フィラーを用いた場合には、塗膜中に適当な溶媒を注入して、固体状フィラーを溶媒に溶解させる。これにより、固体状フィラーが液体状となり、塗膜中の固形分体積が減少しうる。固体状フィラーを溶解させるための溶媒は特に制限されず、用いたフィラーが溶解しうる溶媒が適宜採用されうる。溶媒の一例としては、アセトン、2−ブタノン、アセトニトリル、エタノールなどの有機溶媒が挙げられる。溶媒に溶解したフィラーは除去されてもよいし、除去されなくてもよいが、フィラーが活物質層中に残留しない方が好ましい場合には、フィラーが溶媒に溶解した溶液を除去することが好ましい。なお、リチウム塩を溶解性フィラーとして用いる場合には、後述する電解液注入工程をフィラー処理工程とすればよい。すなわち、電池要素を作製した後、電解質層に含まれる電解液を注入し、当該電解液の可塑剤である有機溶媒に、フィラーであるリチウム塩を溶解させる。かような形態によれば、リチウム塩が可塑剤した電解液を除去しなくてもよいことは勿論であり、簡便な手法によりフィラー処理工程が行われうる。
【0090】
固体状フィラーとして融解性フィラーを用いた場合には、塗膜を加熱処理することにより、固体状フィラーを融解させる。その後、融解したフィラーを除去する。これにより、活物質層における固形分体積が減少しうる。加熱処理の具体的な形態は特に制限されないが、一例を挙げると、オーブンやホットプレートなどの加熱手段により、50〜150℃にて10分〜24時間程度、塗膜を加熱すればよい。フィラーを除去する手法についても特に制限はないが、一例を挙げると、加熱によりフィラーが融解した状態の塗膜を、濾紙や不織布などの吸着性材料と接触させればよい。これにより、融解したフィラーが吸着性材料に吸着され、フィラーが塗膜から除去されうる。
【0091】
固体状フィラーとして昇華性フィラーを用いた場合には、塗膜を加熱処理することにより、固体状フィラーを昇華させる。これにより、固体状フィラーが気体状となり、塗膜中の固形分体積が減少しうる。加熱処理の具体的な形態は特に制限されず、上記の融解性フィラーの加熱処理と同様の手法により、加熱処理が行われうる。
【0092】
[電池要素作製工程]
その後、各バイポーラ電極の正極活物質層と、隣接するバイポーラ電極の負極活物質層とが、電解質層(セパレータ)を介して向かい合うように、各バイポーラ電極およびセパレータを積層する。これにより、電池要素が作製される。
【0093】
積層に用いられるセパレータの具体的な形態については、上記の構成の欄において説明した通りであるため、ここでは説明を省略する。
【0094】
バイポーラ電極およびセパレータを積層する際、積層体の最上面および最下面には、活物質が形成されていない面が露出するように、正極または負極の一方のみの活物質層が形成された最外層集電体を積層する。
【0095】
また、バイポーラ電極の積層中には、正極活物質層、電解質層(セパレータ)および負極活物質層からなる単電池層を包囲するように、隣接する集電体の間に絶縁層を挟み込む。積層後、積層体の縁部をホットプレスして絶縁層を集電体と熱融着させることにより、積層された状態のバイポーラ電池の電池要素が完成する。
【0096】
[電解液注入工程]
次に、上記で作製した電池要素のセパレータに電解液を注入して、電解質層とする。
【0097】
まず、電解液を調製する。電解液は、可塑剤にリチウム塩を添加し、溶解させることにより、調製されうる。必要に応じて、この電解液に、イオン伝導性ポリマー、および当該ポリマーを架橋させるための重合開始剤(熱重合開始剤や光重合開始剤)をさらに添加してもよい。電解液中に含まれうる各成分の具体的な形態については、上記の構成の欄において説明した通りであるため、ここでは詳細な説明を省略する。また、電解液中の各成分の含有量は特に制限されず、上記の構成の欄の説明および電池の電解質層についての従来公知の知見を参照しつつ、適宜調節されうる。ただし、溶解性フィラーであるリチウム塩を固体状フィラーとして採用する場合には、ここで調製される電解液の注入によりフィラーが当該電解液に溶解して、フィラーが液体状とされる。従って、かような形態を採用する場合には、電解液注入によるフィラー処理により電解液に溶解するリチウム塩の量を考慮して、調製する電解液に含まれるリチウム塩の濃度をある程度低めに設定すべきである。
【0098】
電解液の注入量は、電解質層に含まれる電解質の量などの所望の形態を考慮して、適宜調節されうる。なお、絶縁層を形成するためのホットプレス後に電解液の注入を行う場合には、シール部を拡張して袋状に電極から伸ばし、その袋内に電解液を注入して、真空シールすればよい。
【0099】
セパレータに注入された電解液は、通常、セパレータに隣接する活物質層にまで浸透しうる。従って、溶解性フィラーであるリチウム塩が固体状フィラーとして用いられている場合には、上述したように、本工程において注入された電解液にフィラーが溶解する。これにより、活物質層における固形分体積が減少しうる。
【0100】
電解液中に重合開始剤が含まれる場合には、当該電解液注入後の任意のタイミングにおいて、開始剤の種類に応じた重合処理を施し、当該電解液に含まれるイオン伝導性ポリマーを重合させる。重合処理を施すタイミングは特に制限されず、電解液の注入直後であってもよいし、後述するラミネートシートによる封止後であってもよい。重合処理が熱処理である場合には、ラミネートシートによる封止後に電解液の注入および熱処理を行うと、処理が簡便である。
【0101】
[封止工程]
上記の工程の後、正極タブおよび負極タブを最外層集電体に接合し、正極タブおよび負極タブが導出するように電池要素をラミネートシートにより封止する。最外層集電体とタブとを接合する手法は特に制限されず従来公知の溶接方法などが用いられうる。溶接方法としては、例えば、超音波溶接、スポット溶接などが例示される。なかでも、低温での接合が可能であることから、超音波溶接が好ましく用いられる。場合によっては、上述したように、最外層集電体を延長してタブとしてもよい。ラミネートシート29は、例えば、ヒートシール、インパルスシール、超音波融着、高周波融着などによって、封止されうる。
【0102】
以上の工程により、複数の単電池層を有する本実施形態のバイポーラ電池10が完成する。
【0103】
(第2実施形態)
第2実施形態では、上記の第1実施形態のバイポーラ電池を複数個、並列および/または直列に接続して、組電池を構成する。
【0104】
図3は、本実施形態の組電池を示す斜視図である。
【0105】
図3に示すように、組電池40は、上記の第1実施形態に記載のバイポーラ電池が複数個接続されることにより構成される。各バイポーラ電池10の正極タブ25および負極タブ27がバスバーを用いて接続されることにより、各バイポーラ電池10が接続されている。組電池40の一の側面には、組電池40全体の電極として、電極ターミナル(42、43)が設けられている。
【0106】
組電池40を構成する複数個のバイポーラ電池10を接続する際の接続方法は特に制限されず、従来公知の手法が適宜採用されうる。例えば、超音波溶接、スポット溶接などの溶接を用いる手法や、リベット、カシメなどを用いて固定する手法が採用されうる。かような接続方法によれば、組電池40の長期信頼性が向上しうる。
【0107】
本実施形態の組電池40によれば、上記の第1実施形態のバイポーラ電池10を用いて組電池化することで、出力特性がそれほど低下せずに、エネルギ密度の高い組電池が提供されうる。
【0108】
なお、組電池40を構成するバイポーラ電池10の接続は、複数個全て並列に接続してもよく、また、複数個全て直列に接続してもよく、さらに、直列接続と並列接続とを組み合わせてもよい。
【0109】
(第3実施形態)
第3実施形態では、上記の第1実施形態のバイポーラ電池10、または第2実施形態の組電池40をモータ駆動用電源として搭載して、車両を構成する。バイポーラ電池10または組電池40をモータ用電源として用いる車両としては、例えば、ガソリンを用いない完全電気自動車、シリーズハイブリッド自動車やパラレルハイブリッド自動車などのハイブリッド自動車、および燃料電池自動車などの、車輪をモータによって駆動する自動車が挙げられる。
【0110】
参考までに、図4に、組電池40を搭載する自動車50の概略図を示す。自動車50に搭載される組電池40は、上記で説明したような特性を有する。このため、自動車50に組電池40を搭載することで、自動車50の出力特性が向上し、さらには、自動車50のより一層の軽量化および小型化が可能となる。
【0111】
以上のように、本発明の幾つかの好適な実施形態について示したが、本発明は、以上の実施形態に限られるものではなく、当業者によって種々の変更、省略、および追加が可能である。例えば、以上の説明ではバイポーラ型のリチウムイオン二次電池(バイポーラ電池)を例に挙げて説明したが、本発明の電池の技術的範囲がバイポーラ電池のみに制限されることはなく、例えば、バイポーラ型でないリチウムイオン二次電池であってもよい。参考までに、図5に、バイポーラ型でないリチウムイオン二次電池60の概要を示す断面図を示す。なお、図5に示すリチウムイオン二次電池60においては、負極活物質層15が正極活物質層13よりも一回り小さいが、かような形態のみには制限されない。正極活物質層13と同じかまたは一回り大きい負極活物質層15もまた、用いられうる。
【実施例】
【0112】
本発明の効果を、以下の実施例および比較例を用いて説明する。ただし、本発明の技術的範囲が以下の実施例のみに制限されるわけではない。
【0113】
実施例1
<負極の作製>
負極活物質であるグラファイト(平均粒子径:5μm)(90質量部)、バインダであるポリフッ化ビニリデン(PVdF)(10質量部)、およびフィラーであるLiBF(100質量部)を混合し、次いでスラリー粘度調整溶媒であるN−メチル−2−ピロリドン(NMP)を適量添加して、負極活物質スラリーを調製した。
【0114】
一方、負極用の集電体として、銅箔(厚さ:20μm)を準備した。上記で調製した負極活物質スラリーを、活物質塗布量が1.5mg/cmとなるように、準備した集電体の一方の表面にドクターブレード法により塗布し、塗膜を形成させた。次いでこの塗膜を130℃にて10分間乾燥させた。その後、得られた積層体を25℃にてロールプレス機を用いて200kgf/cmの線圧でプレスすることにより、集電体の表面に負極活物質層(厚さ:15μm)を形成させて、負極を得た。
【0115】
次いで、得られた負極をポンチを用いて約70mm角に打ち抜き、電流取り出し端子(ニッケルリード)が接続された集電タブを接続して、試験用負極とした。
【0116】
<正極の作製>
正極活物質であるマンガン酸リチウム(LiMn)(平均粒子径:5μm)(85質量部)、導電助剤であるアセチレンブラック(10質量部)、バインダであるポリフッ化ビニリデン(PVdF)(5質量部)、およびフィラーであるLiBF(100質量部)を混合し、次いでスラリー粘度調整溶媒であるN−メチル−2−ピロリドン(NMP)を適量添加して、正極活物質スラリーを調製した。
【0117】
一方、正極用の集電体として、アルミニウム箔(厚さ:20μm)を準備した。上記で調製した正極活物質スラリーを、活物質塗布量が4.5mg/cmとなるように、準備した集電体の一方の表面に、ドクターブレード法により塗布し、塗膜を形成させた。次いでこの塗膜を130℃にて10分間乾燥させた。その後、得られた積層体を25℃にてロールプレス機を用いて200kgf/cmの圧力でプレスすることにより集電体の表面に正極活物質層(厚さ:20μm)を形成させて、正極を完成させた。
【0118】
次いで、得られた正極をポンチを用いて約68mm角に打ち抜き、電流取り出し端子(アルミニウムリード)が接続された集電タブを接続して、試験用正極とした。
【0119】
<試験用セルの作製>
電解液として、エチレンカーボネート(EC)とプロピレンカーボネート(PC)との等体積混合液にリチウム塩であるLiBFを1Mの濃度に溶解させたものを準備した。
【0120】
また、セパレータとして、約75mm角のポリプロピレン製微多孔膜(厚さ:10μm)を準備した。
【0121】
上記で準備した正極、セパレータ、および負極を、各電極の活物質層どうしが向き合うようにこの順に積層して、電池要素とした。その後、正極および負極にそれぞれ接続された電流取り出し用端子が外部に露出するように前記電池要素をラミネートフィルム中に入れ、次いで上記で準備した電解液を注液し、さらに真空に封止して、試験用セルを完成させた。なお、電極の活物質層に含まれるフィラー(LiBF4)は、電解液の注液により電解液に溶解する。このため、電解液の注液により、電極の活物質層の空隙率は増加する。
【0122】
<実施例2>
セパレータの厚さを15μmとしたこと以外は、上記の実施例1と同様の手法により、試験用セルを作製した。
【0123】
<実施例3>
セパレータの厚さを20μmとしたこと以外は、上記の実施例1と同様の手法により、試験用セルを作製した。
【0124】
<実施例4>
セパレータの厚さを30μmとしたこと以外は、上記の実施例1と同様の手法により、試験用セルを作製した。
【0125】
<比較例1>
正極および負極の作製時にプレス操作を施さなかったこと以外は、上記の実施例1と同様の手法により、試験用セルを作製した。
【0126】
<比較例2>
正極および負極の作製時にプレス操作を施さなかったこと以外は、上記の実施例2と同様の手法により、試験用セルを作製した。
【0127】
<比較例3>
正極および負極の作製時にプレス操作を施さなかったこと以外は、上記の実施例3と同様の手法により、試験用セルを作製した。
【0128】
<比較例4>
正極および負極の作製時にプレス操作を施さなかったこと以外は、上記の実施例4と同様の手法により、試験用セルを作製した。
【0129】
<比較例5>
正極および負極の作製時に、活物質スラリー中にフィラーを添加しなかったこと以外は、上記の実施例1と同様の手法により、試験用セルを作製した。
【0130】
<比較例6>
正極および負極の作製時にプレス操作を施さなかったこと以外は、上記の比較例5と同様の手法により、試験用セルを作製した。
【0131】
<活物質層における固形分体積の割合および活物質層表面の平滑率の測定>
上記の各実施例および各比較例について、正極および負極を10枚ずつ作製後、電池の組み立て前に、電極の活物質層の全体積に対する固形分(負極活物質層:活物質+バインダ、正極活物質層:活物質+導電助剤+バインダ)体積の割合を算出した。そして、正負各10枚の電極について得られた値から平均値を算出した。なお、固形分体積の割合は、作製した電極の体積および質量、並びに活物質スラリー中への各成分の配合量から算出した。算出された固形分体積の割合の平均値を下記の表1に示す。
【0132】
さらに、得られた負極について、下記数式1:
【0133】
【数4】

【0134】
により定義される活物質層表面の平滑率を測定した。そして、正負各10枚の電極についての測定値から平均値を算出した。なお、平滑率の測定には、電子線三次元粗さ解析装置を用いた。算出された平滑率の平均値を下記の表1に示す。
【0135】
上記の各実施例および各比較例について、それぞれ10個ずつ同一の試験用コインセルを作製した。次いで、それぞれの試験用セルに対し、20mAの定電流および2.5〜4.2Vの電圧で3回の充放電サイクルを行った。その後、1000mAの定電流で充放電を行った。20mAおよび1000mAのそれぞれの充放電時における電池容量を測定した。なお、充放電試験中に短絡を生じなかったセルを選別した。選別したセルについて測定した電池容量の値を下記の表1に示す。なお、表1には、短絡を生じなかったセルを選別した際の歩留まりもともに示す。
【0136】
【表1】

【0137】
各実施例と各比較例との比較から、電極の活物質層における固形分体積の割合が50%以下であり、かつ、活物質層表面の平滑率が50%以上であると、低出力条件下(20mA)での充放電時における電池容量が、高出力条件下(1000mA)においてもそれほど低下せず、比較的高い値に維持されうることがわかる。
【0138】
また、本発明の製造方法によれば、電極作製時にプレス処理を施したとしても、活物質層がそれほど高密度化されることはないため、プレス処理が好ましく用いられうる。プレス処理を施すことで、活物質層からの活物質の脱落や突出が抑制されうる。よって本発明によれば、より薄いセパレータを用いた場合であっても、正負活物質層間の短絡が防止され、電池作製時の歩留まりを向上させうる。さらに、使用可能なセパレータのより一層の薄膜化が図られることで、電池の出力特性の向上にも有効に寄与しうる。
【符号の説明】
【0139】
10 バイポーラ電池、
11 集電体、
13 正極活物質層、
15 負極活物質層、
17 電解質層、
19 単電池層、
21 電池要素、
25 正極タブ、
27 負極タブ、
29 ラミネートシート、
31 絶縁層、
33 正極集電体、
35 負極集電体、
40 組電池、
50 自動車、
60 バイポーラ型でないリチウムイオン二次電池、
100 粒子、
L 最大の距離。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
集電体の表面に形成された、正極活物質を含む正極活物質層と、非水電解質を含む電解質層と、集電体の表面に形成された、負極活物質を含む負極活物質層と、がこの順に積層されてなる少なくとも1つの単電池層を有する非水電解質電池であって、
前記正極活物質層または前記負極活物質層の少なくとも一方において、活物質層の全体積に対する固形分体積の割合が50%以下であり、かつ、
下記数式1により定義される活物質層表面の平滑率:
【数1】

が50%以上であることを特徴とする、非水電解質電池。
【請求項2】
前記平滑率が65%以上である、請求項1に記載の非水電解質電池。
【請求項3】
前記電解質層に、20μm以下の厚さを有するセパレータが配置される、請求項1または2に記載の非水電解質電池。
【請求項4】
バイポーラ型リチウムイオン二次電池である、請求項1〜3のいずれか1項に記載の非水電解質電池。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2012−238606(P2012−238606A)
【公開日】平成24年12月6日(2012.12.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−172296(P2012−172296)
【出願日】平成24年8月2日(2012.8.2)
【分割の表示】特願2005−79799(P2005−79799)の分割
【原出願日】平成17年3月18日(2005.3.18)
【出願人】(000003997)日産自動車株式会社 (16,386)
【Fターム(参考)】