面状振動エネルギー吸収部材
【課題】音や振動のエネルギーを吸収する効果に優れる面状振動エネルギー吸収部材を提供する。
【解決手段】面同士の剪断方向にかかる力学的エネルギーを吸収して減衰させる面状振動エネルギー吸収部材であって、多層シート1、1’、1”間に層間を繋ぐ隔壁2,3によって隔てられた多数の密閉空間が形成され、密閉空間内には粘弾性材料4が充填されており、層間の面方向の相対変形により粘弾性材料が撹拌される手段を具備し、振動エネルギーを吸収する。
【解決手段】面同士の剪断方向にかかる力学的エネルギーを吸収して減衰させる面状振動エネルギー吸収部材であって、多層シート1、1’、1”間に層間を繋ぐ隔壁2,3によって隔てられた多数の密閉空間が形成され、密閉空間内には粘弾性材料4が充填されており、層間の面方向の相対変形により粘弾性材料が撹拌される手段を具備し、振動エネルギーを吸収する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、音や振動のエネルギーを吸収する効果に優れる面状振動エネルギー吸収部材に関する。
【背景技術】
【0002】
振動や衝撃によるエネルギーを吸収する部材としては、例えば、粘弾性ダンパーが種々の分野で使用されている。粘弾性ダンパーは、建築分野において風や地震等による変位や振動を吸収することを目的として用いられ、また、自動車等の車両や機械設備等の振動を吸収することを目的として用いられている。
【0003】
特許文献1には、互いに対向するように配置された一対の取付板と、これら一対の取付板の間に介装される円柱形の粘弾性体と、この粘弾性体の外周面を被覆する円筒状のブレードとを備えている粘弾性ダンパーが開示されている。特許文献1に開示された粘弾性ダンパーでは、柱形の粘弾性体を備えるので、粘弾性体がその長手方向に対する上下・左右・斜めを含む全方向で自在に変形して、減衰対象物と被減衰対象物との間の大きな変位量を得ることができ、例えば、地震動のように振幅の大きな振動を減衰対象としても、大きな変位量に追随して流動粘性抵抗によって確実に減衰させることができるとされている。
【0004】
しかしながら、特許文献1記載の粘弾性ダンパーでは、取付板を介して剪断方向に大きな外力が加わり、粘弾性体が大きく変形した場合、粘弾性体に歪みが生じて初期形状に復元できなくなり、その結果、充分に振動や衝撃によるエネルギーを吸収することができなくなるという問題があった。
【0005】
また、流体を利用したエネルギー吸収部材としては、ショックアブソーバーや流体マウントがあるが、これらの装置は金属製シリンダーや金属製の筐体やゴムとオイルとにより構成された構造体であり、平面状ではなく、また、平面状の部材に貼り付けて使用し易い形状ではなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2002−327798号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、音や振動のエネルギーを吸収する効果に優れる面状振動エネルギー吸収部材を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、面同士の剪断方向にかかる力学的エネルギーを吸収して減衰させる面状振動エネルギー吸収部材であって、多層シート間に層間を繋ぐ隔壁によって隔てられた多数の密閉空間が形成され、密閉空間内には粘弾性材料が充填されており、層間の面方向の相対変形により粘弾性材料が撹拌される手段を具備しているエネルギー吸収部材である。
【0009】
以下に、本発明のエネルギー吸収部材の実施態様を、図面を用いて詳細に説明する。
図1は、本発明の面状振動エネルギー吸収部材の一例を模式的に示した断面図である。具体的には、隔壁により隔てられた多数の密閉空間と、該密閉空間内に充填された粘弾性材料と、該密閉空間内において、対向する層(以下、基材シートともいう)のうち一方の基材シートのみに固定された第二の隔壁とを有する面状振動エネルギー吸収部材である。図1の面状振動エネルギー吸収部材では、密閉空間内に、対向する基材シートのうち一方の基材シートに接合され、かつ、もう一方の基材シートには接合されていない第二の隔壁により狭い通路が形成されている。
【0010】
図1において、対向する基材シート1、基材シート1’、基材シート1’’は、第一の隔壁2によって繋げられており、基材シート1と基材シート1’との間及び基材シート1’と基材シート1’’との間には、第一の隔壁2によって隔てられた多数の密閉空間が形成されている。
【0011】
本発明の面状振動エネルギー吸収部材は、面同士の剪断方向にかかる力学的エネルギーを吸収して減衰させる効果に特に優れたものとなるため、3層以上の基材シートからなるものであることが好ましい。3層以上の多層構造において密閉空間を90°交差させて積層することにより、基材シートの面方向(X方向とY方向)に剪断変位を引き起こす振動のエネルギーを吸収することができる。
【0012】
本発明の面状振動エネルギー吸収部材において、多層シートを構成する基材シートは、面方向に広がりを有する面状体である。上記多層シートの各基材シートは基材シートの面方向(以下、剪断方向ともいう)に相対変形可能である。
上記基材シートを構成する材料は特に限定されず、例えば、金属材料、ガラス材料、樹脂材料等が挙げられる。
【0013】
上記第一の隔壁は、弾性材料からなることが好ましく、樹脂材料やゴム材料やバネ性のある金属等を用いることができる。
【0014】
また、本発明の面状振動エネルギー吸収部材は、多層シート間に上記粘弾性材料が充填された多数の密閉空間を有することにより、面同士の剪断方向にかかる力学的エネルギーを吸収して減衰させる効果に特に優れたものとなる。
【0015】
上記密閉空間は、基材シート及び隔壁が一体化しているものであってもよい。
上記密閉空間は、各チューブ状や丸チューブ状等の管状、又は、格子状、ハニカム状、三角状、円状等のセル状とすることができる。
【0016】
図1において、上記密閉空間内には粘弾性材料4が充填されている。
本発明の面状振動エネルギー吸収部材において、上記粘弾性材料としては、剪断増粘弾性材料、ゲル、レオロジー付与材料からなる群のうち少なくとも1種を含有する流体であることが好ましい。このような流体を用いることにより、剪断変位に対する抵抗の速度依存性を調節することができる。
また、シリコーンゲル及び/又はシリコーンオイルを含有することが好ましい。シリコーンオイルを用いる場合には、剪断変位に対する抵抗の温度依存性を低くすることができる。
上記粘弾性材料は、スポンジ状の多孔質材料に含浸させて用いてもよい。
上記粘弾性材料は、粘性を高くすることにより後述する抵抗を大きくすることができる。
【0017】
本発明の面状振動エネルギー吸収部材は、基材シート間の面方向の相対変形(以下、剪断変位ともいう)により粘弾性材料が撹拌される手段を具備している。このような手段を具備することにより、本発明の面状振動エネルギー吸収部材は、剪断変位を粘弾性材料の撹拌に変換することにより、剪断変位を引き起こす振動のエネルギーを吸収することができる。
【0018】
基材シート間の剪断変位により粘弾性材料が撹拌される手段として、図1の面状振動エネルギー吸収部材においては、密閉空間内に、対向する基材シートのうち一方の基材シートに接合され、かつ、もう一方の基材シートには接合されていない第二の隔壁3が形成されている。図1の面状振動エネルギー吸収部材において、密閉空間内は、第二の隔壁3により左右に隔てられている。図1においては、第二の隔壁3と接合していない方の基材シートと第二の隔壁3との間に狭い通路を有する。
なお、本発明の面状振動エネルギー吸収部材においてこのように第二の隔壁を形成する場合、全ての第二の隔壁が片側のシートに接合されていてもよいし、互い違いにシートに接合されていてもよい。
【0019】
図2は、図1の面状振動エネルギー吸収部材のエネルギー減衰効果を説明する断面図である。図2に示したように、基材シート間の剪断方向に外力が加わり、基材シートを左方向に変位させた場合、第一の隔壁2の弾性変形によって、密閉空間内で第二の隔壁3により水平方向に隔てられたスペースのうち一方のスペースは小さくなり、もう一方のスペースは大きくなる。そのため、小さくなった方のスペースに充填されていた粘弾性材料4は、大きくなった方のスペースに狭い通路を通って移動する。このように、粘弾性材料4が移動する際に狭い通路を通ることにより、抵抗が発生し、剪断変位を引き起こす振動のエネルギーを吸収することができる。オリフィス効果の部分である上記狭い通路は狭いほど抵抗を大きくすることができる。
本発明の面状振動エネルギー吸収部材において、密閉空間を形成する隔壁(第一の隔壁)の剛性は、振動の減衰力を表すモデルにおける弾性バネ成分と考えることができ、粘弾性材料の抵抗はダッシュポット成分と考えることができる。
【0020】
また、第一の隔壁と第二の隔壁とは、一部の波の列が、対向する基材シートのうちどちらの基材シートとも接合しないように波状に加工した弾性材料からなる中間シートにより形成することもできる。このような本発明の面状振動エネルギー吸収部材の例を図3に示す。
図3は、本発明の面状振動エネルギー吸収部材の他の一例を模式的に示した断面図である。図3において、対向する基材シート間には、波状に加工した弾性材料からなる中間シートが形成されている。該中間シートにより、対向する基材シートの両方に接合した第一の隔壁2と、対向する基材シートのどちらの基材シートとも接合されていない第二の隔壁3とが形成されている。図3の面状振動エネルギー吸収部材においても、図2の場合と同様に、密閉空間内に充填されている粘弾性材料4は、第一の隔壁2の弾性変形によって密閉空間内を移動し、第二の隔壁3と接合していない基材シートと第二の隔壁3との間の狭い通路を通過する。粘弾性材料が狭い通路を通過することによって、第二の隔壁3と接合していない基材シート1及び第二の隔壁3と粘弾性材料4との間に抵抗が発生し、その結果、面同士の剪断方向にかかる力学的エネルギーを減衰させることができる。
【0021】
また、基材シート間に波状のシートに加工した弾性材料からなる中間シートを用いた面状振動エネルギー吸収部材の別の例を図4に示す。
図4は、本発明の面状振動エネルギー吸収部材の他の一例を模式的に示した断面図である。図4では、三枚の波状のシートを重ねて接合し、三枚の波状のシートのうち中間層の基材シートが第一の隔壁2となり、上層及び下層の基材シートが第二の隔壁3となる。上層及び下層の基材シートは、中間層の基材シートよりも剛性の高い材料を用いることができる。
上記波状のシートは、上記基材シートと同一の材料からなるものを用いてもよいし、上記基材シートとは別の材料からなるものを用いてもよい。上記波状のシートとしては、例えば、レジン処理ペーパー、樹脂、弾性に優れる金属等を使用することができる。
【0022】
第二の隔壁は、密閉空間内に、対向する櫛形状に形成されていてもよい。なお、本明細書において上記「櫛形状」とは、複数の第二の隔壁が列となって基材シート上に形成されている状態を示す。このような本発明の面状振動エネルギー吸収部材の例を図5に示す。
図5は、本発明の面状振動エネルギー吸収部材の他の一例を模式的に示した断面図である。図5において、対向する基材シートとの間には、対向する櫛形状の第二の隔壁3が形成されている。図5の面状振動エネルギー吸収部材においても、図2の場合と同様に、密閉空間内に充填されている粘弾性材料4は、第一の隔壁2の弾性変形によって密閉空間内を移動し、第二の隔壁3と接合していない基材シートと第二の隔壁3との間の狭い通路を通過する。粘弾性材料が狭い通路を通過することによって第二の隔壁3と接合していない基材シート及び第二の隔壁3と粘弾性材料4との間に抵抗が発生し、その結果、面同士の剪断方向にかかる力学的エネルギーを減衰させることができる。
【0023】
本発明の面状振動エネルギー吸収部材における粘弾性材料が通過する狭い通路として、密閉空間内に貫通孔、スリット、多孔質部、又は、弁を形成することもできる。このような本発明の面状振動エネルギー吸収部材の例を図6に示す。
図6は、本発明の面状振動エネルギー吸収部材の他の一例を模式的に示した断面図である。図6において、対向する基材シート1と基材シート1’との間には、基材シートの基材シート間を繋ぐ第一の隔壁2によって隔てられた多数の密閉空間が形成されている。密閉空間内には、図1と同様に、粘弾性材料対向する基材シート1と基材シート1’とのうち一方の基材シートに接合され、かつ、もう一方の基材シートには接合されていない第二の隔壁3が形成されており、密閉空間内は、第二の隔壁3により水平方向(基材シートの剪断方向と同一の方向)に隔てられている。また、第二の隔壁3には、貫通孔5が形成されている。更に、密閉空間内には、粘弾性材料4が充填されている。
【0024】
図7は、図6のエネルギー吸収部材のエネルギー減衰効果を説明する断面図である。図6に示したように、基材シートの剪断方向の外力が加わった場合、第一の隔壁2の弾性変形を伴って基材シートが面方向に相対移動し、密閉空間内において第二の隔壁3により水平方向に隔てられた空間の体積は、基材シートの剪断変位により変化する。
密閉空間内に充填されている粘弾性材料4は、第一の隔壁2の弾性変形によって密閉空間内を移動し、基材シート1又は基材シート1’と第二の隔壁3との間、及び、第二の隔壁3に形成された貫通孔5を狭い通路として通過する。粘弾性材料が狭い通路を通過することによって基材シート1又は基材シート1’及び第二の隔壁3と粘弾性材料4との間だけでなく、貫通孔5における第二の隔壁3と粘弾性材料4との間にも抵抗が発生し、その結果、面同士の剪断方向にかかる力学的エネルギーを減衰させる効果を向上させることができる。
【0025】
本発明の面状振動エネルギー吸収部材は、例えば、押し出し成形等によって製造することができる。具体的には例えば、樹脂や金属の押し出し成形により基材シート及び隔壁を一度に形成し、粘弾性材料を密閉空間内に充填し、密閉空間の両端をシリコーンゴム等で封止することによって作製することができる。
【0026】
本発明の面状振動エネルギー吸収部材の厚みは特に限定されず、例えば、上記押し出し成形によって適宜設定できる。また、上記波状のシートを多層化することにより、厚さを変化させることができる。
【0027】
また、型成形により、隔壁を格子状、ハニカム状、三角状、円状等に配置した形で成形し、粘弾性材料を充填した後、基材シートを貼り合わせてもよい。
【0028】
粘弾性材料を充填する方法としては、シリンジ等を用いて挿入する方法でもよいし、粘弾性材料と硬化性の封止剤とを周期的に封入した後封止剤を硬化させてもよい。この方法を用いることにより、自由なサイズに切断することができる。また、基材シートが樹脂材料の場合は、注射針等により封止剤を注入してもよい。更に、基材シートと波状のシートを貼り合わせる場合は、接合材料と粘弾性材料とを基材シートに塗布した後に貼り合わせ接着してもよい。
【0029】
本発明の面状振動エネルギー吸収部材は、曲げ変形を引き起こす振動のエネルギーを多層間の剪断方向の相対的な剪断変位に変換し、該剪断変位を粘弾性材料の撹拌に変換することにより、曲げ変形を引き起こす振動のエネルギーを吸収することができる。即ち、本発明の面状振動エネルギー吸収部材のように多層シートからなる部材においては、曲げ変形を引き起こす振動は基材シート間の剪断変位に変換されるため、本発明の面状振動エネルギー吸収部材は、剪断方向の変形のみでなく曲げ変形を引き起こす振動に対しても有効にエネルギーを減衰させることができる。
従って、本発明の面状振動エネルギー吸収部材は、剪断変位、及び、曲げ変形を引き起こす振動のエネルギーを吸収することができる。
【0030】
本発明の面状振動エネルギー吸収部材は、鋼板、樹脂板、ガラス板、材木板、合板、壁材等に貼り合わせて使用することができる。
本発明の面状振動エネルギー吸収部材を鋼板等と貼り合わせて使用する場合、鋼板と鋼板との間に本発明の面状振動エネルギー吸収部材を挟んだ拘束型のダンピング構造をとると、振動のエネルギーをより効果的に減衰させることができる。また、1枚の鋼板のみに貼り付ける非拘束型のダンピング構造をとる場合でも、本発明の面状振動エネルギー吸収部材における鋼板から一番遠い基材シートの剛性を高くすることにより、より効果的に減衰させることができる。
【0031】
また、板バネ上に本発明の面状振動エネルギー吸収部材を形成することにより、バネ効果のみでなく、減衰力効果も有する板バネを作製することができる。
【0032】
本発明の面状振動エネルギー吸収部材は、音や振動を発生する装置の筐体、重量物を支える構造体に使用することができる。
【発明の効果】
【0033】
本発明によれば、機械や地震等による面方向の振動や衝撃を低減させる効果に優れる面状振動エネルギー吸収部材を提供することができる。
本発明の面状振動エネルギー吸収部材は、流体を利用した面状エネルギー吸収機構を有するため、新しい使用形態と効果が期待できる。即ち、床等で一部分をショックアブソーバーによって支持していた従来の制振の方式を、本発明の面状振動エネルギー吸収部材を貼り付けることに変更すれば、全体を薄くすることができる。また、大きな減衰効果のある流体を用いた本発明の面状振動エネルギー吸収部材を高い剛性を有する基材シートに貼り付けることにより、大きな振動減衰効果が期待できる。
【図面の簡単な説明】
【0034】
【図1】本発明の面状振動エネルギー吸収部材の一例を模式的に示した断面図である。
【図2】図1の面状振動エネルギー吸収部材のエネルギー減衰効果を説明する断面図である。
【図3】本発明の面状振動エネルギー吸収部材の他の一例を模式的に示した断面図である。
【図4】本発明の面状振動エネルギー吸収部材の他の一例を模式的に示した断面図である。
【図5】本発明の面状振動エネルギー吸収部材の他の一例を模式的に示した断面図である。
【図6】本発明の面状振動エネルギー吸収部材の他の一例を模式的に示した断面図である。
【図7】図6のエネルギー吸収部材のエネルギー減衰効果を説明する断面図である。
【図8】(a)実施例1の面状振動エネルギー吸収部材を模式的に示した図及び(b)拡大図である。
【図9】実施例1の面状振動エネルギー吸収部材を封止する前の外観を示す図である。
【図10】実施例1の面状振動エネルギー吸収部材を封止する前の外観を示す図である。
【図11】実施例1の面状振動エネルギー吸収部材を封止する前の外観を示す図である。
【図12】実施例1の面状振動エネルギー吸収部材の評価方法を示す図である。
【図13】実施例1の面状振動エネルギー吸収部材の評価において、振動の振幅の経時変化の測定結果を示す図である。
【図14】比較例1の面状振動エネルギー吸収部材の評価において、振動の振幅の経時変化の測定結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0035】
以下に実施例を掲げて本発明を更に詳しく説明するが、本発明はこれら実施例のみに限定されない。
【0036】
(実施例1)
図8に示したように、フェノール樹脂からなる2層の基材シート(150mm×110mm)とポリカーボネートからなる第一の隔壁(厚さ0.5mm)及びフェノール樹脂からなる第二の隔壁(厚さ5.0mm)とで構成される密閉空間を形成し、密閉空間内に粘弾性材料としてシリコーンオイルを充填して柔軟なシリコーンゴムで封止し、面状振動エネルギー吸収部材を作製した。実施例1において、各第一の隔壁間の距離は10mmとし、第二の隔壁と接合していない方の基材シートと第二の隔壁との距離を1.0mmとした。
実施例1の面状振動エネルギー吸収部材を封止する前の外観を図9〜11に示した。実施例1の面状振動エネルギー吸収部材は、図10、11に示したように、基材シート間の剪断方向に外力が加わり、基材シートを剪断変位させた場合、第一の隔壁の弾性変形によって、密閉空間内で第二の隔壁により水平方向に隔てられたスペースのうち一方のスペースは小さくなり、もう一方のスペースは大きくなることが分かる。
【0037】
(比較例1)
第二の隔壁を形成しなかったこと以外は、実施例1と同様にして面状振動エネルギー吸収部材を作製した。
【0038】
<評価>
実施例及び比較例で得られた面状振動エネルギー吸収部材について以下の評価を行った。
【0039】
図12に示したように、実施例1で得られた面状振動エネルギー吸収部材の上下に金属板を固定した。次いで、金属板に対して、面状振動エネルギー吸収部材における基材シートの剪断方向に衝撃を与え、衝撃によって引き起こされた振動の振幅の経時変化を測定した。比較例1で得られた面状振動エネルギー吸収部材についても、同様にして衝撃によって引き起こされた振動の振幅の経時変化を測定した。結果を図13、14に示した。
【0040】
図13、14より、実施例で得られた面状振動エネルギー吸収部材を用いた場合、比較例で得られた面状振動エネルギー吸収部材に比べて、振幅の減衰が早まっており、本発明の面状振動エネルギー吸収部材が振動のエネルギーを吸収する効果に優れるものであることが分かる。
【産業上の利用可能性】
【0041】
本発明によれば、音や振動のエネルギーを吸収する効果に優れる面状振動エネルギー吸収部材を提供することができる。
【符号の説明】
【0042】
1、1’、1’’基材シート
2 第一の隔壁
3 第二の隔壁
4 粘弾性材料
5 貫通孔
【技術分野】
【0001】
本発明は、音や振動のエネルギーを吸収する効果に優れる面状振動エネルギー吸収部材に関する。
【背景技術】
【0002】
振動や衝撃によるエネルギーを吸収する部材としては、例えば、粘弾性ダンパーが種々の分野で使用されている。粘弾性ダンパーは、建築分野において風や地震等による変位や振動を吸収することを目的として用いられ、また、自動車等の車両や機械設備等の振動を吸収することを目的として用いられている。
【0003】
特許文献1には、互いに対向するように配置された一対の取付板と、これら一対の取付板の間に介装される円柱形の粘弾性体と、この粘弾性体の外周面を被覆する円筒状のブレードとを備えている粘弾性ダンパーが開示されている。特許文献1に開示された粘弾性ダンパーでは、柱形の粘弾性体を備えるので、粘弾性体がその長手方向に対する上下・左右・斜めを含む全方向で自在に変形して、減衰対象物と被減衰対象物との間の大きな変位量を得ることができ、例えば、地震動のように振幅の大きな振動を減衰対象としても、大きな変位量に追随して流動粘性抵抗によって確実に減衰させることができるとされている。
【0004】
しかしながら、特許文献1記載の粘弾性ダンパーでは、取付板を介して剪断方向に大きな外力が加わり、粘弾性体が大きく変形した場合、粘弾性体に歪みが生じて初期形状に復元できなくなり、その結果、充分に振動や衝撃によるエネルギーを吸収することができなくなるという問題があった。
【0005】
また、流体を利用したエネルギー吸収部材としては、ショックアブソーバーや流体マウントがあるが、これらの装置は金属製シリンダーや金属製の筐体やゴムとオイルとにより構成された構造体であり、平面状ではなく、また、平面状の部材に貼り付けて使用し易い形状ではなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2002−327798号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、音や振動のエネルギーを吸収する効果に優れる面状振動エネルギー吸収部材を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、面同士の剪断方向にかかる力学的エネルギーを吸収して減衰させる面状振動エネルギー吸収部材であって、多層シート間に層間を繋ぐ隔壁によって隔てられた多数の密閉空間が形成され、密閉空間内には粘弾性材料が充填されており、層間の面方向の相対変形により粘弾性材料が撹拌される手段を具備しているエネルギー吸収部材である。
【0009】
以下に、本発明のエネルギー吸収部材の実施態様を、図面を用いて詳細に説明する。
図1は、本発明の面状振動エネルギー吸収部材の一例を模式的に示した断面図である。具体的には、隔壁により隔てられた多数の密閉空間と、該密閉空間内に充填された粘弾性材料と、該密閉空間内において、対向する層(以下、基材シートともいう)のうち一方の基材シートのみに固定された第二の隔壁とを有する面状振動エネルギー吸収部材である。図1の面状振動エネルギー吸収部材では、密閉空間内に、対向する基材シートのうち一方の基材シートに接合され、かつ、もう一方の基材シートには接合されていない第二の隔壁により狭い通路が形成されている。
【0010】
図1において、対向する基材シート1、基材シート1’、基材シート1’’は、第一の隔壁2によって繋げられており、基材シート1と基材シート1’との間及び基材シート1’と基材シート1’’との間には、第一の隔壁2によって隔てられた多数の密閉空間が形成されている。
【0011】
本発明の面状振動エネルギー吸収部材は、面同士の剪断方向にかかる力学的エネルギーを吸収して減衰させる効果に特に優れたものとなるため、3層以上の基材シートからなるものであることが好ましい。3層以上の多層構造において密閉空間を90°交差させて積層することにより、基材シートの面方向(X方向とY方向)に剪断変位を引き起こす振動のエネルギーを吸収することができる。
【0012】
本発明の面状振動エネルギー吸収部材において、多層シートを構成する基材シートは、面方向に広がりを有する面状体である。上記多層シートの各基材シートは基材シートの面方向(以下、剪断方向ともいう)に相対変形可能である。
上記基材シートを構成する材料は特に限定されず、例えば、金属材料、ガラス材料、樹脂材料等が挙げられる。
【0013】
上記第一の隔壁は、弾性材料からなることが好ましく、樹脂材料やゴム材料やバネ性のある金属等を用いることができる。
【0014】
また、本発明の面状振動エネルギー吸収部材は、多層シート間に上記粘弾性材料が充填された多数の密閉空間を有することにより、面同士の剪断方向にかかる力学的エネルギーを吸収して減衰させる効果に特に優れたものとなる。
【0015】
上記密閉空間は、基材シート及び隔壁が一体化しているものであってもよい。
上記密閉空間は、各チューブ状や丸チューブ状等の管状、又は、格子状、ハニカム状、三角状、円状等のセル状とすることができる。
【0016】
図1において、上記密閉空間内には粘弾性材料4が充填されている。
本発明の面状振動エネルギー吸収部材において、上記粘弾性材料としては、剪断増粘弾性材料、ゲル、レオロジー付与材料からなる群のうち少なくとも1種を含有する流体であることが好ましい。このような流体を用いることにより、剪断変位に対する抵抗の速度依存性を調節することができる。
また、シリコーンゲル及び/又はシリコーンオイルを含有することが好ましい。シリコーンオイルを用いる場合には、剪断変位に対する抵抗の温度依存性を低くすることができる。
上記粘弾性材料は、スポンジ状の多孔質材料に含浸させて用いてもよい。
上記粘弾性材料は、粘性を高くすることにより後述する抵抗を大きくすることができる。
【0017】
本発明の面状振動エネルギー吸収部材は、基材シート間の面方向の相対変形(以下、剪断変位ともいう)により粘弾性材料が撹拌される手段を具備している。このような手段を具備することにより、本発明の面状振動エネルギー吸収部材は、剪断変位を粘弾性材料の撹拌に変換することにより、剪断変位を引き起こす振動のエネルギーを吸収することができる。
【0018】
基材シート間の剪断変位により粘弾性材料が撹拌される手段として、図1の面状振動エネルギー吸収部材においては、密閉空間内に、対向する基材シートのうち一方の基材シートに接合され、かつ、もう一方の基材シートには接合されていない第二の隔壁3が形成されている。図1の面状振動エネルギー吸収部材において、密閉空間内は、第二の隔壁3により左右に隔てられている。図1においては、第二の隔壁3と接合していない方の基材シートと第二の隔壁3との間に狭い通路を有する。
なお、本発明の面状振動エネルギー吸収部材においてこのように第二の隔壁を形成する場合、全ての第二の隔壁が片側のシートに接合されていてもよいし、互い違いにシートに接合されていてもよい。
【0019】
図2は、図1の面状振動エネルギー吸収部材のエネルギー減衰効果を説明する断面図である。図2に示したように、基材シート間の剪断方向に外力が加わり、基材シートを左方向に変位させた場合、第一の隔壁2の弾性変形によって、密閉空間内で第二の隔壁3により水平方向に隔てられたスペースのうち一方のスペースは小さくなり、もう一方のスペースは大きくなる。そのため、小さくなった方のスペースに充填されていた粘弾性材料4は、大きくなった方のスペースに狭い通路を通って移動する。このように、粘弾性材料4が移動する際に狭い通路を通ることにより、抵抗が発生し、剪断変位を引き起こす振動のエネルギーを吸収することができる。オリフィス効果の部分である上記狭い通路は狭いほど抵抗を大きくすることができる。
本発明の面状振動エネルギー吸収部材において、密閉空間を形成する隔壁(第一の隔壁)の剛性は、振動の減衰力を表すモデルにおける弾性バネ成分と考えることができ、粘弾性材料の抵抗はダッシュポット成分と考えることができる。
【0020】
また、第一の隔壁と第二の隔壁とは、一部の波の列が、対向する基材シートのうちどちらの基材シートとも接合しないように波状に加工した弾性材料からなる中間シートにより形成することもできる。このような本発明の面状振動エネルギー吸収部材の例を図3に示す。
図3は、本発明の面状振動エネルギー吸収部材の他の一例を模式的に示した断面図である。図3において、対向する基材シート間には、波状に加工した弾性材料からなる中間シートが形成されている。該中間シートにより、対向する基材シートの両方に接合した第一の隔壁2と、対向する基材シートのどちらの基材シートとも接合されていない第二の隔壁3とが形成されている。図3の面状振動エネルギー吸収部材においても、図2の場合と同様に、密閉空間内に充填されている粘弾性材料4は、第一の隔壁2の弾性変形によって密閉空間内を移動し、第二の隔壁3と接合していない基材シートと第二の隔壁3との間の狭い通路を通過する。粘弾性材料が狭い通路を通過することによって、第二の隔壁3と接合していない基材シート1及び第二の隔壁3と粘弾性材料4との間に抵抗が発生し、その結果、面同士の剪断方向にかかる力学的エネルギーを減衰させることができる。
【0021】
また、基材シート間に波状のシートに加工した弾性材料からなる中間シートを用いた面状振動エネルギー吸収部材の別の例を図4に示す。
図4は、本発明の面状振動エネルギー吸収部材の他の一例を模式的に示した断面図である。図4では、三枚の波状のシートを重ねて接合し、三枚の波状のシートのうち中間層の基材シートが第一の隔壁2となり、上層及び下層の基材シートが第二の隔壁3となる。上層及び下層の基材シートは、中間層の基材シートよりも剛性の高い材料を用いることができる。
上記波状のシートは、上記基材シートと同一の材料からなるものを用いてもよいし、上記基材シートとは別の材料からなるものを用いてもよい。上記波状のシートとしては、例えば、レジン処理ペーパー、樹脂、弾性に優れる金属等を使用することができる。
【0022】
第二の隔壁は、密閉空間内に、対向する櫛形状に形成されていてもよい。なお、本明細書において上記「櫛形状」とは、複数の第二の隔壁が列となって基材シート上に形成されている状態を示す。このような本発明の面状振動エネルギー吸収部材の例を図5に示す。
図5は、本発明の面状振動エネルギー吸収部材の他の一例を模式的に示した断面図である。図5において、対向する基材シートとの間には、対向する櫛形状の第二の隔壁3が形成されている。図5の面状振動エネルギー吸収部材においても、図2の場合と同様に、密閉空間内に充填されている粘弾性材料4は、第一の隔壁2の弾性変形によって密閉空間内を移動し、第二の隔壁3と接合していない基材シートと第二の隔壁3との間の狭い通路を通過する。粘弾性材料が狭い通路を通過することによって第二の隔壁3と接合していない基材シート及び第二の隔壁3と粘弾性材料4との間に抵抗が発生し、その結果、面同士の剪断方向にかかる力学的エネルギーを減衰させることができる。
【0023】
本発明の面状振動エネルギー吸収部材における粘弾性材料が通過する狭い通路として、密閉空間内に貫通孔、スリット、多孔質部、又は、弁を形成することもできる。このような本発明の面状振動エネルギー吸収部材の例を図6に示す。
図6は、本発明の面状振動エネルギー吸収部材の他の一例を模式的に示した断面図である。図6において、対向する基材シート1と基材シート1’との間には、基材シートの基材シート間を繋ぐ第一の隔壁2によって隔てられた多数の密閉空間が形成されている。密閉空間内には、図1と同様に、粘弾性材料対向する基材シート1と基材シート1’とのうち一方の基材シートに接合され、かつ、もう一方の基材シートには接合されていない第二の隔壁3が形成されており、密閉空間内は、第二の隔壁3により水平方向(基材シートの剪断方向と同一の方向)に隔てられている。また、第二の隔壁3には、貫通孔5が形成されている。更に、密閉空間内には、粘弾性材料4が充填されている。
【0024】
図7は、図6のエネルギー吸収部材のエネルギー減衰効果を説明する断面図である。図6に示したように、基材シートの剪断方向の外力が加わった場合、第一の隔壁2の弾性変形を伴って基材シートが面方向に相対移動し、密閉空間内において第二の隔壁3により水平方向に隔てられた空間の体積は、基材シートの剪断変位により変化する。
密閉空間内に充填されている粘弾性材料4は、第一の隔壁2の弾性変形によって密閉空間内を移動し、基材シート1又は基材シート1’と第二の隔壁3との間、及び、第二の隔壁3に形成された貫通孔5を狭い通路として通過する。粘弾性材料が狭い通路を通過することによって基材シート1又は基材シート1’及び第二の隔壁3と粘弾性材料4との間だけでなく、貫通孔5における第二の隔壁3と粘弾性材料4との間にも抵抗が発生し、その結果、面同士の剪断方向にかかる力学的エネルギーを減衰させる効果を向上させることができる。
【0025】
本発明の面状振動エネルギー吸収部材は、例えば、押し出し成形等によって製造することができる。具体的には例えば、樹脂や金属の押し出し成形により基材シート及び隔壁を一度に形成し、粘弾性材料を密閉空間内に充填し、密閉空間の両端をシリコーンゴム等で封止することによって作製することができる。
【0026】
本発明の面状振動エネルギー吸収部材の厚みは特に限定されず、例えば、上記押し出し成形によって適宜設定できる。また、上記波状のシートを多層化することにより、厚さを変化させることができる。
【0027】
また、型成形により、隔壁を格子状、ハニカム状、三角状、円状等に配置した形で成形し、粘弾性材料を充填した後、基材シートを貼り合わせてもよい。
【0028】
粘弾性材料を充填する方法としては、シリンジ等を用いて挿入する方法でもよいし、粘弾性材料と硬化性の封止剤とを周期的に封入した後封止剤を硬化させてもよい。この方法を用いることにより、自由なサイズに切断することができる。また、基材シートが樹脂材料の場合は、注射針等により封止剤を注入してもよい。更に、基材シートと波状のシートを貼り合わせる場合は、接合材料と粘弾性材料とを基材シートに塗布した後に貼り合わせ接着してもよい。
【0029】
本発明の面状振動エネルギー吸収部材は、曲げ変形を引き起こす振動のエネルギーを多層間の剪断方向の相対的な剪断変位に変換し、該剪断変位を粘弾性材料の撹拌に変換することにより、曲げ変形を引き起こす振動のエネルギーを吸収することができる。即ち、本発明の面状振動エネルギー吸収部材のように多層シートからなる部材においては、曲げ変形を引き起こす振動は基材シート間の剪断変位に変換されるため、本発明の面状振動エネルギー吸収部材は、剪断方向の変形のみでなく曲げ変形を引き起こす振動に対しても有効にエネルギーを減衰させることができる。
従って、本発明の面状振動エネルギー吸収部材は、剪断変位、及び、曲げ変形を引き起こす振動のエネルギーを吸収することができる。
【0030】
本発明の面状振動エネルギー吸収部材は、鋼板、樹脂板、ガラス板、材木板、合板、壁材等に貼り合わせて使用することができる。
本発明の面状振動エネルギー吸収部材を鋼板等と貼り合わせて使用する場合、鋼板と鋼板との間に本発明の面状振動エネルギー吸収部材を挟んだ拘束型のダンピング構造をとると、振動のエネルギーをより効果的に減衰させることができる。また、1枚の鋼板のみに貼り付ける非拘束型のダンピング構造をとる場合でも、本発明の面状振動エネルギー吸収部材における鋼板から一番遠い基材シートの剛性を高くすることにより、より効果的に減衰させることができる。
【0031】
また、板バネ上に本発明の面状振動エネルギー吸収部材を形成することにより、バネ効果のみでなく、減衰力効果も有する板バネを作製することができる。
【0032】
本発明の面状振動エネルギー吸収部材は、音や振動を発生する装置の筐体、重量物を支える構造体に使用することができる。
【発明の効果】
【0033】
本発明によれば、機械や地震等による面方向の振動や衝撃を低減させる効果に優れる面状振動エネルギー吸収部材を提供することができる。
本発明の面状振動エネルギー吸収部材は、流体を利用した面状エネルギー吸収機構を有するため、新しい使用形態と効果が期待できる。即ち、床等で一部分をショックアブソーバーによって支持していた従来の制振の方式を、本発明の面状振動エネルギー吸収部材を貼り付けることに変更すれば、全体を薄くすることができる。また、大きな減衰効果のある流体を用いた本発明の面状振動エネルギー吸収部材を高い剛性を有する基材シートに貼り付けることにより、大きな振動減衰効果が期待できる。
【図面の簡単な説明】
【0034】
【図1】本発明の面状振動エネルギー吸収部材の一例を模式的に示した断面図である。
【図2】図1の面状振動エネルギー吸収部材のエネルギー減衰効果を説明する断面図である。
【図3】本発明の面状振動エネルギー吸収部材の他の一例を模式的に示した断面図である。
【図4】本発明の面状振動エネルギー吸収部材の他の一例を模式的に示した断面図である。
【図5】本発明の面状振動エネルギー吸収部材の他の一例を模式的に示した断面図である。
【図6】本発明の面状振動エネルギー吸収部材の他の一例を模式的に示した断面図である。
【図7】図6のエネルギー吸収部材のエネルギー減衰効果を説明する断面図である。
【図8】(a)実施例1の面状振動エネルギー吸収部材を模式的に示した図及び(b)拡大図である。
【図9】実施例1の面状振動エネルギー吸収部材を封止する前の外観を示す図である。
【図10】実施例1の面状振動エネルギー吸収部材を封止する前の外観を示す図である。
【図11】実施例1の面状振動エネルギー吸収部材を封止する前の外観を示す図である。
【図12】実施例1の面状振動エネルギー吸収部材の評価方法を示す図である。
【図13】実施例1の面状振動エネルギー吸収部材の評価において、振動の振幅の経時変化の測定結果を示す図である。
【図14】比較例1の面状振動エネルギー吸収部材の評価において、振動の振幅の経時変化の測定結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0035】
以下に実施例を掲げて本発明を更に詳しく説明するが、本発明はこれら実施例のみに限定されない。
【0036】
(実施例1)
図8に示したように、フェノール樹脂からなる2層の基材シート(150mm×110mm)とポリカーボネートからなる第一の隔壁(厚さ0.5mm)及びフェノール樹脂からなる第二の隔壁(厚さ5.0mm)とで構成される密閉空間を形成し、密閉空間内に粘弾性材料としてシリコーンオイルを充填して柔軟なシリコーンゴムで封止し、面状振動エネルギー吸収部材を作製した。実施例1において、各第一の隔壁間の距離は10mmとし、第二の隔壁と接合していない方の基材シートと第二の隔壁との距離を1.0mmとした。
実施例1の面状振動エネルギー吸収部材を封止する前の外観を図9〜11に示した。実施例1の面状振動エネルギー吸収部材は、図10、11に示したように、基材シート間の剪断方向に外力が加わり、基材シートを剪断変位させた場合、第一の隔壁の弾性変形によって、密閉空間内で第二の隔壁により水平方向に隔てられたスペースのうち一方のスペースは小さくなり、もう一方のスペースは大きくなることが分かる。
【0037】
(比較例1)
第二の隔壁を形成しなかったこと以外は、実施例1と同様にして面状振動エネルギー吸収部材を作製した。
【0038】
<評価>
実施例及び比較例で得られた面状振動エネルギー吸収部材について以下の評価を行った。
【0039】
図12に示したように、実施例1で得られた面状振動エネルギー吸収部材の上下に金属板を固定した。次いで、金属板に対して、面状振動エネルギー吸収部材における基材シートの剪断方向に衝撃を与え、衝撃によって引き起こされた振動の振幅の経時変化を測定した。比較例1で得られた面状振動エネルギー吸収部材についても、同様にして衝撃によって引き起こされた振動の振幅の経時変化を測定した。結果を図13、14に示した。
【0040】
図13、14より、実施例で得られた面状振動エネルギー吸収部材を用いた場合、比較例で得られた面状振動エネルギー吸収部材に比べて、振幅の減衰が早まっており、本発明の面状振動エネルギー吸収部材が振動のエネルギーを吸収する効果に優れるものであることが分かる。
【産業上の利用可能性】
【0041】
本発明によれば、音や振動のエネルギーを吸収する効果に優れる面状振動エネルギー吸収部材を提供することができる。
【符号の説明】
【0042】
1、1’、1’’基材シート
2 第一の隔壁
3 第二の隔壁
4 粘弾性材料
5 貫通孔
【特許請求の範囲】
【請求項1】
面同士の剪断方向にかかる力学的エネルギーを吸収して減衰させる面状振動エネルギー吸収部材であって、
多層シート間に層間を繋ぐ隔壁によって隔てられた多数の密閉空間が形成され、
密閉空間内には粘弾性材料が充填されており、
層間の面方向の相対変形により粘弾性材料が撹拌される手段を具備している
ことを特徴とする面状振動エネルギー吸収部材。
【請求項2】
密閉空間内に、対向する層のうち一方の層に接合され、かつ、もう一方の層には接合されていない第二の隔壁により狭い通路を形成していることを特徴とする請求項1記載の面状振動エネルギー吸収部材。
【請求項3】
波状に加工した弾性材料からなる中間シートにより、第一の隔壁と第二の隔壁とが形成され、中間シートにおける一部の波の列が、対向する層のうちどちらの層とも接合されていないことを特徴とする請求項2記載の面状振動エネルギー吸収部材。
【請求項4】
中間シートは、三枚の波状のシートを重ねて接合したものであり、三枚の波状のシートのうち中間層の基材シートが第一の隔壁となり、上層及び下層の基材シートが第二の隔壁となることを特徴とする請求項3記載の面状振動エネルギー吸収部材。
【請求項5】
粘弾性材料が通過する狭い通路として、貫通孔、スリット、多孔質部、又は、弁を有することを特徴とする請求項2、3又は4記載の面状振動エネルギー吸収部材。
【請求項6】
密閉空間は、管状又はセル状であることを特徴とする請求項1、2、3、4又は5記載の面状振動エネルギー吸収部材。
【請求項7】
密閉空間が、管状であり、押し出し成形によって製造されたものであることを特徴とする請求項6記載の面状振動エネルギー吸収部材。
【請求項8】
粘弾性材料は、剪断増粘弾性材料、ゲル、レオロジー付与材料からなる群のうち少なくとも1種を含有する流体であることを特徴とする請求項1、2、3、4、5、6又は7記載の面状振動エネルギー吸収部材。
【請求項9】
粘弾性材料は、シリコーンゲル及び/又はシリコーンオイルを含有することを特徴とする請求項1、2、3、4、5、6、7又は8記載の面状振動エネルギー吸収部材。
【請求項10】
曲げ変形を受ける際にも力学的エネルギーを吸収して減衰させることを特徴とする請求項1、2、3、4、5、6、7、8又は9記載面状振動エネルギー吸収部材。
【請求項1】
面同士の剪断方向にかかる力学的エネルギーを吸収して減衰させる面状振動エネルギー吸収部材であって、
多層シート間に層間を繋ぐ隔壁によって隔てられた多数の密閉空間が形成され、
密閉空間内には粘弾性材料が充填されており、
層間の面方向の相対変形により粘弾性材料が撹拌される手段を具備している
ことを特徴とする面状振動エネルギー吸収部材。
【請求項2】
密閉空間内に、対向する層のうち一方の層に接合され、かつ、もう一方の層には接合されていない第二の隔壁により狭い通路を形成していることを特徴とする請求項1記載の面状振動エネルギー吸収部材。
【請求項3】
波状に加工した弾性材料からなる中間シートにより、第一の隔壁と第二の隔壁とが形成され、中間シートにおける一部の波の列が、対向する層のうちどちらの層とも接合されていないことを特徴とする請求項2記載の面状振動エネルギー吸収部材。
【請求項4】
中間シートは、三枚の波状のシートを重ねて接合したものであり、三枚の波状のシートのうち中間層の基材シートが第一の隔壁となり、上層及び下層の基材シートが第二の隔壁となることを特徴とする請求項3記載の面状振動エネルギー吸収部材。
【請求項5】
粘弾性材料が通過する狭い通路として、貫通孔、スリット、多孔質部、又は、弁を有することを特徴とする請求項2、3又は4記載の面状振動エネルギー吸収部材。
【請求項6】
密閉空間は、管状又はセル状であることを特徴とする請求項1、2、3、4又は5記載の面状振動エネルギー吸収部材。
【請求項7】
密閉空間が、管状であり、押し出し成形によって製造されたものであることを特徴とする請求項6記載の面状振動エネルギー吸収部材。
【請求項8】
粘弾性材料は、剪断増粘弾性材料、ゲル、レオロジー付与材料からなる群のうち少なくとも1種を含有する流体であることを特徴とする請求項1、2、3、4、5、6又は7記載の面状振動エネルギー吸収部材。
【請求項9】
粘弾性材料は、シリコーンゲル及び/又はシリコーンオイルを含有することを特徴とする請求項1、2、3、4、5、6、7又は8記載の面状振動エネルギー吸収部材。
【請求項10】
曲げ変形を受ける際にも力学的エネルギーを吸収して減衰させることを特徴とする請求項1、2、3、4、5、6、7、8又は9記載面状振動エネルギー吸収部材。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図12】
【図9】
【図10】
【図11】
【図13】
【図14】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図12】
【図9】
【図10】
【図11】
【図13】
【図14】
【公開番号】特開2012−246990(P2012−246990A)
【公開日】平成24年12月13日(2012.12.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−118533(P2011−118533)
【出願日】平成23年5月26日(2011.5.26)
【出願人】(000002174)積水化学工業株式会社 (5,781)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成24年12月13日(2012.12.13)
【国際特許分類】
【出願日】平成23年5月26日(2011.5.26)
【出願人】(000002174)積水化学工業株式会社 (5,781)
【Fターム(参考)】
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