説明

面状発熱体

【課題】端子5と電極3間の接合状態が不安定な場合に簡便な構成で安全に導通不能にする端子構成を持つ発熱体を提供する。
【解決手段】電極3に端子5を接着し、電気絶縁性基材2と接着される電気絶縁性被覆基材8からなる面状発熱体において、端子5と端子5の近傍を覆い、電気絶縁性基材2の熱膨張収縮抑制手段である熱膨張収縮テープ10を電気絶縁性基材2面に備えたものである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、面状発熱体の、特に端子近傍の構成に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来の面状発熱体において、電極の端子にリード線を接合する態様としては、電極、抵抗体、及びリード線接続を行う面に半田をあらかじめ形成してなる端子を含む面状発熱体全体を外装材で覆った後に外装材を熱溶融させて開口部を形成すると同時に、電極と端子とリード線とを同時に接合するものがあった(例えば特許文献1、2参照)。
【0003】
図7は前記公報に記載された従来の面状発熱体を示すものである。図7に示すように、ポリエチレンテレフタレートフィルム1上に一対の電極2を配設し、正抵抗温度特性を有する抵抗体3を電極2上に配設してある。電極2の給電部分には端子4が形成されており、これらの電極2及び抵抗体4が形成された基板1の全体は、ポリエチレンテレフタレートフィルムに熱溶融性樹脂フィルムを積層した外装材6によって被覆されている。そして、端子4には半田による熱溶融性の接合金属7が、リード線には半田による熱溶融性の結合金属8がそれぞれ形成され、外装材6を貫通する穴に接合金属7と結合金属8の溶融相とが充填され、端子4とリード線9とを電気的及び物理的に接続した構成としてある。
【0004】
さらに、一般的には外装材6を貫通する穴を覆うように電気絶縁性樹脂をモールドすることにより端子4、リード線9と外部との絶縁性を確保している。
【特許文献1】特開2005−149877号公報
【特許文献2】特開2005−302301号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら前記従来の面状発熱体では、端子を電極に完全に接着してあることが前提としてあるため高度な品質管理を要しており、さらに長期信頼性の観点では端子や電極、電気絶縁性被覆基材の材料劣化により端子と電極の間の接着が不完全となることが懸念されていた。
【0006】
端子が電極に完全に接着できていない状態を想定すると、接着部が非常に狭い範囲で微接触し、接触抵抗が非常に大きくなることがある。端子と電極間の接続部には大電流が流れているため、接触抵抗の増大により過熱されることとなる。電気絶縁性基材がPET等の樹脂材料の場合、溶融しさらには炭化することが考えられる。この時、端子の微接触部分周辺の電気絶縁性基材温度も同時に高温となるため、電気絶縁性基材は収縮し、収縮した電気絶縁性基材が炭化し新たな導通経路を形成しながら導通が続くこととなり、炭化部分が拡大していく。このような電気絶縁性基材の収縮と炭化の拡大という一連のサイクルにより、端子の微接触部分は過熱状態を持続し、周辺部材を痛める危険性があるという課題があった。
【0007】
一般に、過熱のおそれのある箇所の周りは金属やマイカ等の不燃材で囲うという構成が用いられるが、本課題の場合、炭化部分が広がっていくため全体を不燃材で囲う必要があるという課題があった。
【0008】
本発明は、前記従来の課題を解決するものであり、端子と電極の間の接触抵抗が増大した場合にも安全に導通不能状態にすることを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
前記従来の課題を解決するために本発明の面状発熱体は、電気絶縁性基材と、電源を供給するためのリード線と、電気絶縁性基材上に配設した電極と、電極とリード線の電気的接合を行うための端子と、電極により電圧を印加して発熱する抵抗体とを備え、少なくとも端子を覆い電気絶縁性基材と接着される電気絶縁性被覆基材とからなる面状発熱体において、端子と端子の近傍を覆う電気絶縁性基材の熱膨張収縮抑制手段を面状発熱体の電気絶縁性基材側に備えた構成としてある。
【0010】
端子と端子の近傍を覆い電気絶縁性基材の熱膨張収縮抑制手段を電極を配している電気絶縁性基材面に備えたことにより、端子と電極との間の接触抵抗が非常に大きくなり過熱状態になった際に、電気絶縁性基材が収縮することを抑制することとなり、電気絶縁性基材は炭化部分を広げながら新たな導通経路を形成することができなくなる。電気絶縁性基材の炭化物による新たな導通経路を形成しないため、端子と電極の間は電気絶縁性基材の溶断による絶縁状態となり、過熱状態を持続せずに安全に導通不能な状態とすることができる。
【0011】
特に、本発明では電気絶縁性基材の熱膨張収縮を抑制し、導通不能状態を実現することで、過熱状態をごく短時間で終了させることを主眼としており、従来のように不燃材料で過熱部分周辺を覆い周辺部材への影響を減らす構成とは目的とする作用が大きく異なる。
【発明の効果】
【0012】
本発明の面状発熱体によれば、端子と電極との接触抵抗が増大した際にも安全に導通不能な状態を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
第1の発明は、電気絶縁性基材と、電源を供給するためのリード線と、電気絶縁性基材上に配設した電極と、電極とリード線の電気的接合を行うための端子と、電極により電圧を印加して発熱する抵抗体とを備え、少なくとも端子を覆い電気絶縁性基材と接着される電気絶縁性被覆基材とからなる面状発熱体において、端子と端子の近傍を覆う電気絶縁性基材の熱膨張収縮抑制手段を面状発熱体の電気絶縁性基材側に備えたものである。これにより端子と電極との間の接触抵抗が非常に大きくなり、過熱状態になった際にも、電気絶縁性基材が収縮することがないため、過熱状態を持続せずに安全に導通不能な状態とすることができる。
【0014】
第2の発明は、電気絶縁性基材側の熱膨張収縮抑制手段に加え、面状発熱体の電気絶縁性被覆材側にも電気絶縁性被覆材の熱膨張収縮抑制手段を備えたものである。これにより端子と電極との間の接触抵抗が非常に大きくなり、過熱状態になった際にも、電気絶縁性被覆材は収縮することが無いため、電気絶縁性被覆材から生成された炭化物が電気絶縁性基材側に移行し、新たな導通経路を形成することがなくなるため、過熱状態を持続せずに安全に導通不能な状態とすることができる。そのため、電気絶縁性被覆材が炭化しやすい場合に特に有用である。
【0015】
第3の発明は、熱膨張収縮抑制手段に加え、前記熱膨張収縮抑制手段を覆う電気絶縁性テープを用いている。特に、熱膨張収縮抑制手段に電気絶縁性が無い場合に電気絶縁性テープにより電気絶縁性を付与することで、第2の発明の形態より絶縁性の面で安全な面状発熱体としてある。
【0016】
第4の発明は、端子と端子の近傍を覆い電気絶縁性基材の熱膨張収縮を抑制する手段に、剛性と不燃性とを備えた熱膨張収縮抑制テープを用いている。特に、テープ形状で本発明の目的を提供することができるため端子部の薄肉形状を保つことが可能となる。薄肉形
状を保つことができるため、本発明は幅広い用途に使用可能な面状発熱体を提供することができる。適切なテープ材料、面積を使用することで電気絶縁性被覆基材面にも熱膨張収縮抑制テープを貼付した場合、リード線の固定も同時に行うことが可能となる。またテープを貼付するだけで本発明の目的を提供できるため、材料費、工数の面で安価に製造可能である。
【0017】
第5の発明は、端子と端子の近傍を覆い電気絶縁性基材の熱膨張収縮を抑制する手段に、電気絶縁性樹脂を用いている。本発明の目的を達成するのと同時に電気絶縁性樹脂を用いることで電気絶縁性も同時に付与し、電気絶縁性基材面に対し2重被覆構造とすることとなり、より電気的に安全な構造となる。また、電気絶縁性樹脂を使用するため、簡単な型を用いることで比較的複雑な形状とすることが可能である。さらに、電気絶縁性被覆基材面に対しても電気絶縁性樹脂の盛り加工を行う際には、電気絶縁性樹脂は硬化するまで溶融した状態にあるので、端子とリード線及び、接合手段を容易に覆うことができ、同時に給電部近傍に電気絶縁性を合理的に付与し、さらに適切な電気絶縁性樹脂を用いることで給電部の耐候性を高め、リード線の固定も同時に行うことができ、なお良い。
【0018】
第6の発明は、熱膨張収縮抑制テープに、熱伝導性の高いテープ基材と粘着材としている。熱伝導性の高い金属箔を用いることで過熱状態になった箇所を均熱・熱拡散させることができ、電気絶縁性基材または電気絶縁性被覆基材の溶融や炭化を抑える効果を同時に提供できる。
【0019】
第7の発明は、電気絶縁性樹脂に熱可塑性ホットメルト接着剤を用いている。熱可塑性ホットメルト接着剤を用いることで、樹脂硬化までの時間を短縮することができ、生産性に優れた面状発熱体を提供することができる。
【0020】
第8の発明は、電気絶縁性樹脂に2液硬化型樹脂を用いている。2液硬化型樹脂は熱的な安定であり、通常使用において端子近傍が比較的高温になりやすい場合においても溶融することがなく、熱膨張収縮を確実に抑制することが可能である。
【0021】
以下、本発明の実施の形態について、図面を参照しながら説明する。なお、本実施の形態によって本発明が限定されるものではない。
【0022】
(実施の形態1)
図1〜図2は、本発明の実施の形態1における面状発熱体の概略構成図を示し、図1は平面図、図2は図1における端子部近傍のX−Y断面図である。
【0023】
図1において、面状発熱体1は、ポリエチレンテレフタレート等の比較的弾力性のある電気絶縁性基材2上に銀ペーストの印刷・乾燥により形成した一対の電極3と、電極3に重なるように抵抗体インクを印刷・乾燥により形成した抵抗体4を形成している。そして、一対の電極3上に給電部として端子5を貼り合わしている。さらに、上記電極3、抵抗体4、及び電気絶縁性基材2と接着性を有する共重合ポリエステル系接着剤等の接着性樹脂層9を予め形成されたポリエチレンテレフタレート等の薄肉の電気絶縁性オーバコート材をラミネートした電気絶縁性被覆基材8を貼り合わせて形成される。
【0024】
上記電極3は、対向するように幅が広い主電極3a,3bを配設し、それぞれの主電極3a,3bから交互に櫛形形状の複数の枝電極3c、3dを設けてあり、これに重なるように配設した抵抗体4に枝電極3c、3dより給電することで、抵抗体4に電流が流れ、発熱するようになる。
【0025】
例えばこの抵抗体4にPTC特性を有する高分子抵抗体を用いると、温度が上昇すると
抵抗体4の抵抗値が上昇し、所定の温度になるように自己温度調節機能を有するようになり、温度コントロールが不要で安全性の高い面状発熱体1としての機能を有するようになる。この種のPTC特性を持つ面状発熱体1は一般に、速熱性を得るために大きな突入電流を必要とするため、給電部である端子5には大きな電流が流れることとなる。
【0026】
この端子5の電極3の給電部分に接する面には導電性樹脂材料5bを形成してあり、導電性樹脂材料5bは電極3に対して熱接着性を示すとともに熱硬化性としてあり、共重合ポリエステルに導電性付与材として銀粉末を分散し、さらに、硬化剤としてイソシアネートを適量添加して作製された導電性ペーストを使用している。この段階の導電性樹脂材料5bは、イソシアネートによる硬化反応が生じないように低温で乾燥されているために熱可塑性を保持している。イソシアネート硬化反応温度以上に加熱し、かつ加圧すれば電極3との熱融着することになり、この導電性樹脂材料5bによって電極3と端子5の間は電気的及び物理的に接合されることとなる。この場合、特に、電極3に導電性樹脂材料5bと同種の樹脂および同種の金属粉末を使用すると熱融着性は極めて良く、適切な管理の元で熱溶着を行えば、十分な熱融着強度および低接触抵抗が得られるようになる。
【0027】
さらに、端子5は電気絶縁性基材2と電極3および電気絶縁性被覆基材8に挟まれ、かつ接着性樹脂層9により一体とする構成となっているため、端子5と電極3との間に機械的な固定をする構成となっており、電気用品安全法に準拠した高安全性の構成を実現することが可能となっている。
【0028】
端子5を熱硬化反応とともに熱溶着する工法としては熱板で端子近傍全体に外部から熱を加える方法や誘導加熱や高周波溶着等で導電性の高い端子のみを加熱する方法などがある。
【0029】
また、印刷可能な電極3の材料はほとんど半田6接続が不可能であるが、導電性樹脂材料5bを介することによって端子5と電極3を面接合することができ、この端子5に半田6接続が可能となる。そして、上述の接続方法によれば、導電性樹脂材料5bは薄肉の面状に形成することによって接合抵抗値を極めて低くすることができるため、大電流を流すことができ、また、面状に接合することによって十分な強度を確保できるようになる。
【0030】
従って、複雑な電極3パターンを描け、柔軟性にも優れる半面、半田6接続が不可能な場合が多い印刷によって形成された電極3であっても、端子5を介することにより半田6によってリード線7を形成することを可能にするものであり、生産性に極めて優れていると同時に、電気的にも物理的にも極めて強固な接合であり、高電流に耐え、高信頼性である。さらに、電源電圧が低いために多くの電流が必要とされる場合や、速熱性を得るために大きな突入電流を必要とする正抵抗温度特性を有する発熱体を形成する場合には、極めて有用である。
【0031】
電気絶縁性被覆基材8を電気絶縁性基材2に貼り合わせた後、端子5の上の電気絶縁性被覆基材8をレーザー加熱等により一部除去し、リード線7を端子5と半田等による溶着によって接続する。
【0032】
こうしてできた端子5、半田6、リード線7からなる端子部とその近傍の少なくとも電気絶縁性基材2の面に基材の熱膨張収縮抑制手段として剛性と不燃性を持つテープ10を貼り付ける。
【0033】
剛性と不燃性を持つテープの材質としては例えばアルミや銅などの金属がある。アルミ箔または銅箔等の熱伝導性の高い金属箔を用いることで過熱状態になった箇所を均熱・熱拡散させることができ、電気絶縁性基材2または電気絶縁性被覆基材9の溶融や炭化を抑
える効果を同時に提供できる。
【0034】
本発明の課題でも述べた通り、熱膨張収縮抑制手段である熱膨張収縮抑制テープ10は端子5と電極3との間の接触抵抗が非常に増大し過熱状態になった際に効果を発揮する。即ち、端子5と電極3の微接触部が過熱状態になるとポリエチレンテレフタレート等でできた電気絶縁性基材2は溶融し、炭化する可能性がある。この時、端子5の微接触部分周辺の電気絶縁性基材2温度も同時に高温となるため、電気絶縁性基材2は収縮し、収縮した電気絶縁性基材2が炭化し新たな導通経路を形成しながら炭化部分が拡大していく。この電気絶縁性基材2の収縮と炭化の拡大という一連のサイクルにより、端子5の微接触部分は過熱状態を持続し、周辺部材を痛める危険性があるという課題があった。
【0035】
我々は鋭意研究の結果、熱膨張収縮抑制手段で電気絶縁性基材2の収縮を妨げることにより新たな炭化形成材料の供給を抑え、さらに炭化した導通経路を分断できるというメカニズムに着目し、その熱膨張収縮抑制手段の実現としてアルミテープ等を用いれば可能であることを確認できた。
【0036】
実験の結果、電気絶縁性基材2と電気絶縁性被覆基材8は端子5の周辺1mm程度炭化するため、アルミテープの形状として端子5の形状プラス周辺2mm以上を覆うように貼付すれば過熱状態の持続を抑えることが可能となる。
【0037】
また、電気絶縁性基材2と電気絶縁性被覆基材8の熱収縮を抑えるための剛性として例えばアルミテープであれば30μm以上のアルミ厚みが必要であり、またその他の材質であっても剛性として同程度以上あることが必要となってくる。
【0038】
さらに、電気絶縁性被覆基材8面にも同様にアルミテープ等の熱膨張収縮抑制テープ10を貼付することで電気絶縁性被覆基材8の溶融、収縮、炭化のサイクルを抑制し、電気絶縁性基材2への炭化物の転移を抑制することができるためなお良い。
【0039】
また、アルミテープ等の薄肉材料を用いることで端子部の厚みは従来の面状発熱体構成とほぼ変わらないという特徴がある。この特徴は例えば床暖房や、車両の座席用ヒータ、電気カーペット等、厚みが限定される場所に面状発熱体を使用する際に特に効果的である。
【0040】
さらに、またテープを貼付するだけで本発明の目的を提供できるため、材料費、工数の面で安価に製造可能である。
【0041】
なお、本実施の形態1では熱膨張収縮抑制テープ10としてアルミテープを仮定したが、電気絶縁性基材2または電気絶縁性被覆基材8の熱膨張収縮を抑制でき、剛性を持ち、不燃性で、本発明の目的を達成する範囲であればどのような物質でもかまわない。以下、実施の形態3〜5の内容でも同様のことが言える。
【0042】
なお、本実施の形態1では熱膨張収縮抑制テープ10の形状として、端子の周辺2mm程度を覆うとしたが、電流量が少ない場合や低電圧の場合など過熱する可能性が低い場合、または電気絶縁性基材2または電気絶縁性被覆基材8が非常に薄肉で熱膨張収縮力が小さい場合には、本発明の目的を達成する範囲で形状を小さくしてもかまわない。以下、実施の形態3〜5の内容でも同様のことが言える。
【0043】
(実施の形態2)
図3は、本発明の実施の形態2における図1の端子部近傍のX−Y断面図である。
【0044】
図3において、本実施の形態2は、端子5と端子5の近傍を覆う電気絶縁性基材2と電気絶縁性被覆基材8の熱膨張収縮抑制手段が実施の形態1と異なるもので、同一部分は同一番号を付して異なる部分のみを説明する。
【0045】
すなわち、熱膨張収縮抑制手段に、電気絶縁性樹脂11を用いている。
【0046】
電気絶縁性樹脂11の材質としては例えば熱可塑性のホットメルト剤や2液硬化型のウレタンやシリコーン、エポキシを用いるとよい。
【0047】
特に熱可塑性ホットメルト剤は塗布後の形状安定化がウレタンやシリコーン、エポキシに比べ一般に早く、生産効率が高い。
【0048】
また、当然、熱可塑性ホットメルト剤は高温下で溶融するが、その熱容量と融解熱は大きく、さらに過熱状態は短時間で終了するため、熱可塑性ホットメルト剤は軟化・溶融せず、電気絶縁性基材2の熱膨張収縮を抑制できなくなるという心配は無い。
【0049】
一方、2液硬化型のウレタンやシリコーン、エポキシは熱可塑性ホットメルト剤に比べ耐熱性にすぐれているため、ホットメルト剤が軟化しはじめる程度の温度に端子近傍がなりやすいような使用状態においても固化状態を保つため非常に有用である。
【0050】
また、例えば絶縁性基材2や絶縁性被覆材8にポリエチレンテレフタレートを用いた場合には電気絶縁性樹脂11の材質としては共重合性ポリエステル系の材料を含む樹脂材料を用いれば電気絶縁性樹脂11と絶縁性基材2との間は良好な接着状態となり、電気絶縁性基材2の熱膨張収縮を強固に抑制することとなる。
【0051】
形状としては、端子5の形状プラス周辺2mm以上を覆い、かつ厚み方向は電気絶縁性基材2の熱膨張収縮を抑制するための剛性を保つため、材質にもよるが0.3mm以上は必要である。
【0052】
電気絶縁性樹脂11の厚みを保つためには、あらかじめ必要な形状をくりぬいた型を用い、樹脂が硬化するまで型押しをすることが有効である。製造上の注意として、型押しの冶具は電気絶縁性樹脂11が接着しないように、離型処理を行う必要がある。使用する電気絶縁性樹脂11の材料により最適な方法は異なるが例えば熱可塑性ホットメルト接着剤の場合、アルミ等の金属を用いるか、またはシリコーンやフッ素系の離型剤を予め型押し面に塗布しておくことで電気絶縁性樹脂11が型押し冶具と接着することを避けることができ、電気絶縁性樹脂11と電気絶縁性基材2との良好な接着状態を実現することが出来る。
【0053】
なお、本実施の形態では電気絶縁性樹脂11加工形状として、端子5の周辺2mm程度を覆うとしたが、電流量が少ない場合や低電圧の場合など過熱する可能性が低い場合、または電気絶縁性基材2または電気絶縁性被覆基材8が非常に薄肉なため熱膨張収縮力が小さい場合には、本発明の目的を達成する範囲で形状を小さく、薄くしてもかまわない。以下、実施の形態3〜5の内容でも同様のことが言える。
【0054】
(実施の形態3)
図4は、本発明の実施の形態3における図1の端子部近傍のX−Y断面図である。
【0055】
図4において、本実施の形態3は、電気絶縁性基材2面だけでなく、加えて電気絶縁性被覆基材8にも熱膨張収縮抑制テープ10を配設したところが実施の形態1,2と異なるもので、同一部分は同一番号を付して異なる部分のみを説明する。図4(a)では実施の
形態1と同様、電気絶縁性基材2には熱膨張収縮抑制手段として熱膨張収縮テープ10を用いており、図4(b)では実施の形態2と同様、電気絶縁性基材2に熱膨張収縮抑制手段として電気絶縁性樹脂11を用いた図としている。
【0056】
電気絶縁性被覆基材8にも熱膨張収縮抑制手段を配設したため、端子と電極との間の接触抵抗が非常に大きくなり、過熱状態になった際にも、電気絶縁性被覆材8も収縮することが無い。電気絶縁性被覆材8から生成された炭化物が電気絶縁性基材側に移行し、新たな導通経路を形成することがなくなるため、過熱状態を持続せずに安全に導通不能な状態とすることができる。そのため、電気絶縁性被覆材8が薄肉であったり、炭化しやすい樹脂を用いたことにより、炭化しやすい場合に特に有用である。
【0057】
電気絶縁性被覆基材8面に熱膨張収縮テープ10を用いた場合、形状としては電気絶縁性基材2の面と同様に、端子5の形状プラス周辺2mm以上を覆うように貼付すれば過熱状態の持続を抑えることが可能となる。
【0058】
過熱状態は端子5と電極3の間の接触抵抗増大によって起こっているが、端子5は金属不燃材であるため、端子5の略上の電気絶縁性被覆基材8には熱膨張収縮テープ10が貼付してなくてもよい。つまり、リード線7等による凹凸に熱膨張収縮テープ10を完全に追従させる必要は無い。端子5のきわにある電気絶縁性被覆基材8が重要であり、端子5のきわの近傍には熱膨張収縮テープ10を貼付してある必要がある。
【0059】
熱膨張収縮テープ10という薄肉材料を用いるため端子部の厚みは従来の面状発熱体構成とほぼ変わらないという特徴がある。この特徴は例えば床暖房や、車両の座席用ヒータ、電気カーペット等、厚みが限定される場所に面状発熱体を使用する際に特に効果的である。
【0060】
また、熱膨張収縮テープ10をリード線7と半田6を覆うように十分大きくした場合、接合部分の機械的な固定を熱膨張収縮テープ10で同時に行うことが可能である。
【0061】
さらに、またテープを貼付するだけで本発明の目的を提供できるため、材料費、工数の面で安価に製造可能である。
【0062】
(実施の形態4)
図5は、本発明の実施の形態4における図1の端子部近傍のX−Y断面図である。図5において、本実施の形態4は、電気絶縁性基材2面だけでなく、加えて電気絶縁性被覆基材8にも電気絶縁性樹脂11を配設したところが実施の形態1,2と異なるもので、同一部分は同一番号を付して異なる部分のみを説明する。図5(a)では実施の形態1と同様、電気絶縁性基材2には熱膨張収縮抑制手段として熱膨張収縮テープ10を用いており、図5(b)では実施の形態2と同様、電気絶縁性基材2に熱膨張収縮抑制手段として電気絶縁性樹脂11を用いた図としている。
【0063】
電気絶縁性樹脂11はリード線7接合部の電気絶縁性を保つ機能と、リード線7を固定するという機能性も同時に持つため材質にもよるが0.5mm以上の厚みが必要である。
【0064】
電気絶縁性被覆基材8面に電気絶縁性樹脂11を用いた場合、リード線7の取り付け部から電極3及び電極3により給電される抵抗体4が電気絶縁性樹脂11に保護され、外気と遮断されて構成されるようになり、湿気や異物による汚染劣化や、電極3のマイグレーションによるショートなどの不具合を防止でき、より性能の安定性や耐久性を向上させることができる。
【0065】
電気絶縁性樹脂11は製造時の軟化した状態ではリード線7取り付け部等の比較的複雑な凹凸にも追従でき、さらに簡単な型押し冶具により所定の厚み・形状にすることが可能であるため、簡便な製造管理とすることが可能である。
【0066】
電気絶縁性樹脂11を塗布する際に、リード線7の引き出し方向を、製品において力が加わる可能性がある方向と別の方向とすることで、製品に力が加わった場合においても端子5に直接力が加わることが無くなり、端子5と電極3との間の剥離を抑制することもできる。
【0067】
特に、図5(a)の様に電気絶縁性基材2の面に熱膨張収縮抑制テープ10を用いることで、電気絶縁性基材2の面は平滑をほぼ保つ事ができるため、例えば、車両の座席用ヒータ、電気カーペット等に面状発熱体を設置する場合に使用者が触れる面に平滑面(電気絶縁性基材2の面)を配置することで使い勝手のよい、凹凸のないヒータを提供することができる。また、例えば床暖房に面状発熱体を設置する場合には、床材の片面のごく一部に切削加工を施すだけで床材間に収まりのよい面状発熱体とすることができる。以上のように片面のみでも平滑であれば使用用途を広げることが可能である。
【0068】
さらに、片面のみ熱膨張収縮抑制手段を電気絶縁性樹脂11とすることで、裏面が平滑なため電気絶縁性樹脂11加工後に行う型押しがしやすく、生産性向上に寄与することができる。
【0069】
最後に、(表1)にこれまで実施の形態1〜4で示した熱膨張収縮抑制手段を一覧にして示す。
【0070】
【表1】

【0071】
(表1)に含まれるどの組み合わせにおいても本発明の目的である端子と電極との間の接触抵抗が非常に大きくなり、過熱状態になった際に電気絶縁性基材が収縮することを抑制し、過熱状態を持続せずに安全に導通不能な状態とすることが出来る。
【0072】
(実施の形態5)
図6は、本発明の実施の形態5における図1の端子部近傍のX−Y断面図である。
図6において、本実施の形態5は、熱膨張収縮手段に加え、熱膨張収縮抑制手段を覆う電気絶縁性テープを備えた点が実施の形態1〜4と異なるもので、同一部分は同一番号を付して異なる部分のみを説明する。
【0073】
表1に示すどの組み合わせにおいても効果が有り、適用可能であるが、図6では特に効果の高い、電気絶縁性基材2面に熱膨張収縮テープ10とそれを覆うように電気絶縁性テープ12を配設し、電気絶縁性被覆材8面に電気絶縁性樹脂11とそれを覆うように電気
絶縁性テープ12を配設した図としてある。
【0074】
まず、電気絶縁性基材2面の熱膨張収縮テープ10と電気絶縁性テープ12の構成について説明する。
【0075】
一般に、剛性と不燃性とを備えた熱膨張収縮抑制テープ10として考えられる単体の材質としては金属材料が多く、そのため絶縁性がない。元々、電気絶縁性基材2面は絶縁性があるが、電気絶縁性基材2にピンホール等の空隙があった場合や外部からの傷ができた場合や、本発明の目的としている端子5近傍での過熱状態があり端子部近傍の電気絶縁性基材2が溶融・炭化した場合、絶縁性はなくなる。本実施の形態では別途電気絶縁性テープ12は、上述のような場合においても電気絶縁性を保つ機能を担っている。
【0076】
また、熱膨張収縮テープ10と電気絶縁性テープ12の組み合わせを電気絶縁性被覆材8面に用いる場合には、単純に電気絶縁性テープ12によって絶縁性が付与される。
【0077】
次に電気絶縁性被覆基材8面の電気絶縁性樹脂11と電気絶縁性テープ12の構成について述べる。
【0078】
電気絶縁性樹脂11の盛り加工を行う際、その厚み、及び形状を保つためには離型処理を行った型押し冶具にて電気絶縁性樹脂11が硬化するまで型押しをすることが有効であることを実施の形態3で述べた。
【0079】
本実施の形態を用いれば型押しの冶具と電気絶縁性樹脂11の間に電気絶縁性テープ12を介することで、ある程度形状が安定したところで型押しを終わることが可能となり、極めて生産効率が良くなる。また、型押し冶具の離型性を確保する必要がなくなり製造工程・製造管理が簡便となる。
【0080】
また、面状発熱体1は薄肉形状をとっており、そのため製造過程においては重ね置きすることが常であるが、電気絶縁性樹脂11は硬化するまで一般に粘着性を有しているため他の面状発熱体等と接着してしまう懸念がある。本実施の態様であれば電気絶縁性テープ12で電気絶縁性樹脂11を覆うことでその懸念はなくなり、極めて生産効率が良くなる。
【0081】
これら電気絶縁性テープ12で電気絶縁性樹脂11を覆うことによる効果は、電気絶縁性基材2面に用いた場合でも同等である。
【0082】
なお、本実施の形態では電気絶縁性基材2、電気絶縁性被覆材8の両面の熱膨張収縮手段に電気絶縁性テープ12を貼付したが、使用環境やコストにより片面にだけ電気絶縁性テープ12を使用することも可能である。
【0083】
なお、図6では電気絶縁性テープ12を電気絶縁性基材2、電気絶縁性被覆材8で別々の部材として標記したが、1枚の部材で電気絶縁性基材2、電気絶縁性被覆材8の両面の熱膨張収縮手段を覆うことで生産性向上に寄与することができる。
【0084】
なお、本実施の形態1〜5では端子5と電極との接合を熱硬化性樹脂の導電性樹脂材料と仮定したが、端子5を用い、本発明の目的を達成する範囲であればその構成や材質はどのような方法であっても良い。例えば、端子5と電極3との接合にかしめやスポット溶接などの方法を用いても良いし、導電性樹脂材料に紫外線効果型樹脂や2液効果型樹脂や湿気硬化型樹脂などを用いても良い。
【0085】
なお、本実施の形態1〜5では絶縁性基材2と絶縁性被覆材8にポリエチレンテレフタレートを仮定したが、過熱により収縮、溶融し、炭化するような物質で本発明の目的を達成する範囲であればその他どのような材質であってもよい。
【産業上の利用可能性】
【0086】
以上のように本発明にかかる面状発熱体は、電極と端子との接着状態が長期使用により確保できなくなり、接触抵抗が増大した場合にも安全に導通不能状態にすることが簡便で低コストな方法で可能となるため、例えば床暖房や壁暖房等の家屋内に設置され、長時間使用される設備暖房商品に内蔵される発熱体として有用である。
【図面の簡単な説明】
【0087】
【図1】実施の形態1〜5における面状発熱体の模式図
【図2】実施の形態1における図1の端子部近傍のX−Y断面模式図
【図3】実施の形態2における図1の端子部近傍のX−Y断面模式図
【図4】(a)実施の形態3において電気絶縁性基材面に熱膨張収縮テープを用いた時の図1の端子部近傍のX−Y断面模式図(b)実施の形態3において電気絶縁性基材面に電気絶縁性樹脂を用いた時の図1の端子部近傍のX−Y断面模式図
【図5】(a)実施の形態4において電気絶縁性基材面に熱膨張収縮テープを用いた時の図1の端子部近傍のX−Y断面模式図(b)実施の形態4において電気絶縁性基材面に電気絶縁性樹脂を用いた時の図1の端子部近傍のX−Y断面模式図
【図6】実施の形態5における図1の端子部近傍のX−Y断面模式図
【図7】(a)従来の発熱体の構成を示す平面図(b)同発熱体端子部の断面図
【符号の説明】
【0088】
1 面状発熱体
2 絶縁性基材
3 電極
4 抵抗体
5 端子
6 半田
7 リード線
8 電気絶縁性被覆基材
9 接着性樹脂層
10 熱膨張収縮抑制テープ
11 電気絶縁性樹脂
12 電気絶縁性テープ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
電気絶縁性基材と、電源を供給するためのリード線と、前記電気絶縁性基材上に配設した一対以上の電極と、前記電極と前記リード線の電気的接合を行うための端子と、前記電極により電圧を印加して発熱する抵抗体とを備え、少なくとも前記端子を覆い前記電気絶縁性基材と接着される電気絶縁性被覆基材とからなる面状発熱体において、前記端子と前記端子の近傍を覆う前記電気絶縁性基材の熱膨張収縮抑制手段を前記面状発熱体の前記電気絶縁性基材側に備えた面状発熱体。
【請求項2】
電気絶縁性基材側の熱膨張収縮抑制手段に加え、面状発熱体の電気絶縁性被覆材側にも前記電気絶縁性被覆材の熱膨張収縮抑制手段を備えた請求項1に記載の面状発熱体。
【請求項3】
少なくとも1箇所以上の熱膨張収縮抑制手段に、熱膨張収縮抑制手段を覆う電気絶縁性テープを備えた請求項1または2に記載の面状発熱体。
【請求項4】
熱膨張収縮抑制手段は、剛性と不燃性とを備えた熱膨張収縮抑制テープである請求項1〜3のいずれか1項に記載の面状発熱体。
【請求項5】
熱膨張収縮抑制手段は、電気絶縁性樹脂で形成された請求項1〜3のいずれか1項に記載の面状発熱体。
【請求項6】
熱膨張収縮抑制テープは、熱伝導性の高いテープ基材と粘着材からなる請求項4に記載の面状発熱体。
【請求項7】
電気絶縁性樹脂は、熱可塑性ホットメルト接着剤である請求項5に記載の面状発熱体。
【請求項8】
電気絶縁性樹脂は、2液硬化型樹脂である請求項5に記載の面状発熱体。

【図7】
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【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2009−26723(P2009−26723A)
【公開日】平成21年2月5日(2009.2.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−191727(P2007−191727)
【出願日】平成19年7月24日(2007.7.24)
【出願人】(000005821)パナソニック株式会社 (73,050)
【Fターム(参考)】