説明

面発光型半導体レーザ、面発光型半導体レーザ装置、光伝送装置および情報処理装置

【課題】信頼性の高い面発光型半導体レーザを提供する。
【解決手段】長共振器の面発光型半導体レーザ(VCSEL)10は、n型GaAs基板100と、n型のAlGaAsから成る下部DBR102と、活性領域104と、p型の共振器延長領域106と、p型のAlGaAsからなる上部DBR108と、p側電極112と、n側電極114と、共振器延長領域106内に形成された酸化領域110Aと酸化領域110Aによって囲まれたp型の導電領域110Bとを有する電流狭窄層110とを有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、面発光型半導体レーザ、面発光型半導体レーザ装置、光伝送装置および情報処理装置に関する。
【背景技術】
【0002】
非特許文献1や2は、長いモノリシックなキャビティを用いた選択酸化型の長共振器の面発光型半導体レーザを開示している。また、特許文献3は、ミラー間に空洞の延長領域を介在させた長共振器の面発光型半導体レーザを開示している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【非特許文献1】H. J. Unold, el al, ”Improving Single-Mode VCSEL Performance by Introducing a Long Monolithic Cavity”, IEEE, PHOTONICS TECHNOLOGY LETTERS, VOL. 12, NO. 8, AUGUST 2000
【非特許文献2】S. W. Z. Mahmoud, “Analysis of longitudinal mode wave guiding in vertical-cavity surface-emitting lasers with long monolithic cavity”, APPLIED PHYSICS LETTERS, VOL. 78, NUMBER 5
【特許文献1】特開2005−129960
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、信頼性の高い面発光型半導体レーザを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
請求項1は、基板と、前記基板上に形成され、相対的に屈折率が高い高屈折率層と屈折率が低い低屈折率層の対を積層したn型の第1の半導体多層膜反射鏡と、第1の半導体多層膜反射鏡上に形成された活性領域と、前記活性領域上に形成されたp型のAlGaAsを含む共振器延長領域と、前記共振器延長領域内に形成され、選択的に酸化された酸化領域と当該酸化領域によって囲まれたp型の非酸化領域とを含む電流狭窄層と、前記共振器延長領域上に形成され、相対的に屈折率が高い高屈折率層と屈折率が低い低屈折率層の対を積層したp型の第2の半導体多層膜反射鏡と、を有する面発光型半導体レーザ。
請求項2は、基板と、前記基板上に形成され、相対的に屈折率が高い高屈折率層と屈折率が低い低屈折率層の対を積層したp型の第1の半導体多層膜反射鏡と、第1の半導体多層膜反射鏡上に形成されたp型のAlGaAsを含む共振器延長領域と、前記共振器延長領域内に形成され、選択的に酸化された酸化領域と当該酸化領域によって囲まれたp型の非酸化領域とを含む電流狭窄層と、前記共振器延長領域上に形成された活性領域と、前記活性領域上に形成され、相対的に屈折率が高い高屈折率層と屈折率が低い低屈折率層の対を積層したn型の第2の半導体多層膜反射鏡と、を有する面発光型半導体レーザ。
請求項3は、前記第1の半導体多層膜反射鏡、前記共振器延長領域、前記活性領域および前記第2の半導体多層膜反射鏡によって規定される共振器の長さが発振波長よりも大きく、かつ前記共振器の反射帯域内に少なくとも2つの共振波長を含み、選択された共振波長が発振される、請求項1または2に記載の面発光型半導体レーザ。
請求項4は、前記基板上には、柱状構造が形成され、前記酸化領域は、前記柱状構造の側面から選択的に酸化される、請求項1ないし3いずれか1つに記載の面発光型半導体レーザ。
請求項5は、n型の半導体多層膜反射鏡が、Al組成比が高い高AlGaAs層とAl組成比が低い低AlGaAs層の対を含んで構成されるとき、当該半導体多層膜反射鏡の低AlGaAs層は、Al組成が20%以上であり、不純物ドーパントがSiである、請求項1ないし4いずれか1つに記載の面発光型半導体レーザ。
請求項6は、請求項1ないし5いずれか1つに記載の面発光型半導体レーザと、前記面発光型半導体レーザからの光を入射する光学部材と、を備えた面発光型半導体レーザ装置。
請求項7は、請求項6に記載された面発光型半導体レーザ装置と、前記面発光型半導体レーザ装置から発せられたレーザ光を光媒体を介して伝送する伝送手段と、を備えた光伝送装置。
請求項8は、請求項1ないし5いずれか1つに記載の面発光型半導体レーザと、前記面発光型半導体レーザから出射されるレーザ光を記録媒体に集光する集光手段と、前記集光手段により集光されたレーザ光を前記記録媒体上で走査する機構と、を有する情報処理装置。
【発明の効果】
【0006】
請求項1、2によれば、n型の共振器延長領域をもつ面発光型半導体レーザと比べて、高い信頼性を維持することができる。
請求項3によれば、縦モードのスイッチングを抑制することができる。
請求項4によれば、共振器延長領域内に容易に電流狭窄構造を形成することができる。
請求項5によれば、AlGaAsおよびSiドーパントを用いたn型の半導体多層膜反射鏡を形成することができる。
請求項6ないし8によれば、信頼性の高い面発光型半導体レーザを利用した面発光型半導体レーザ装置、光伝送装置および情報処理装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【図1】本発明の第1の実施例に係る長共振器VCSELの概略断面図である。
【図2】図2(a)は、AlGaAsのエネルギーバンドを示す図であり、図2(b)はn型のAlGaAsのDXセンターを説明するためのエネルギーバンドを示す図である。
【図3】本発明の第2の実施例に係る長共振器VCSELの概略断面図である。
【図4】本実施例の面発光型半導体レーザに光学部材を実装した面発光型半導体レーザ装置の構成を示す概略断面図である。
【図5】本実施例の面発光型半導体レーザを使用した光源装置の構成例を示す図である。
【図6】図4Aに示す面発光型半導体レーザ装置を用いた光伝送装置の構成を示す概略断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0008】
次に、本発明の実施の形態について図面を参照して説明する。面発光型半導体レーザ(VCSEL:Vertical Cavity Surface Emitting Laser)は、通信装置や画像形成装置の光源に利用されている。このような光源に利用される面発光型半導体レーザとっては、単一横モードにおいて光出力やESD(Electro Static Discharge)耐性を向上させ、他方、抵抗値や放熱性を低減させることで、素子の寿命を延ばすことが要求されている。
【0009】
選択酸化型の面発光型半導体レーザでは、電流狭窄層の酸化アパーチャ径を約3ミクロン程度にまで小さくすることで単一横モードを得ているが、酸化アパーチャ径を小さくすれば、素子の抵抗が高くなり、発熱温度も高くなり、これが要因となって寿命が短くなる。また、酸化アパーチャ径を小さくすれば、光出力も小さくなってしまう。面発光型半導体レーザの高光出力および長寿命を実現するための1つの方法に、共振器長を長くすることが考えられている。長共振器の面発光型半導体レーザは、典型的に、共振器長を3〜4ミクロン程度(発振波長の10倍ないし20倍程度)長くしたキャビティを備えている。共振器長が長くなると、広がり角が小さい基本横モードと広がり角が大きい高次横モードとの間の光学的損失の差が大きくなり、その結果、酸化アパーチャ径を大きくしても単一横モードを得ることができる。長共振器の面発光型半導体レーザであれば、酸化アパーチャ径を8ミクロン程度まで大きくすることが可能であり、光出力も5mWぐらいまで高くすることが可能である。
【0010】
以下の説明では、選択酸化型の長共振器の面発光型半導体レーザを例示し、面発光型半導体レーザをVCSELと称する。なお、図面のスケールは、発明の特徴を分かり易くするために強調しており、必ずしも実際のデバイスのスケールと同一ではないことに留意すべきである。
【実施例】
【0011】
図1は、本発明の第1の実施例に係る長共振器構造のVCSELの概略断面図である。同図に示すように、本実施例のVCSEL10は、n型のGaAs基板100上に、Al組成の異なるAlGaAs層を交互に重ねたn型の下部分布ブラック型反射鏡(Distributed Bragg Reflector:以下、DBRという)102、下部DBR102上に形成された上部および下部スペーサ層に挟まれた量子井戸層を含む活性領域104、活性領域104上に形成された共振器長を延長するp型の共振器延長領域106、共振器延長領域106上に形成されたAl組成の異なるAlGaAs層を交互に重ねたp型の上部DBR108を積層している。
【0012】
上部DBR108から下部DBR102に至るまで半導体層をエッチングすることにより、基板100上に円筒状のメサ(柱状構造)Mが形成される。メサMは、少なくとも共振器延長領域106に含まれる電流狭窄層110に到達すれば良く、必ずしも下部DBR102に到達することを要しない。
【0013】
好ましい例では、n型の下部DBR102は、Al0.9Ga0.1As層とAl0.3Ga0.7As層とのペアの複数層積層体で、各層の厚さはλ/4n(但し、λは発振波長、nは媒質の屈折率)であり、これらを交互に40周期で積層してある。n型不純物であるシリコンをドーピングした後のキャリア濃度は、例えば、3×1018cm-3である。活性領域104の下部スペーサ層は、アンドープのAl0.6Ga0.4As層であり、量子井戸活性層は、アンドープAl0.11Ga0.89As量子井戸層およびアンドープのAl0.3Ga0.7As障壁層であり、上部スペーサ層は、アンドープのAl0.6Ga0.4As層である。
【0014】
共振器延長領域106は、一連のエピタキシャル成長により形成されたモノリシックな層である。従って、共振器延長領域106は、GaAs基板と格子定数が一致しまたは整合するようなAlGaAs、GaAsまたはAlAsから構成される。共振器延長領域106の膜厚は、3ないし4ミクロン程度であり、ここでは、発振波長をλとしたとき、光学的膜厚を16λにしている。通常のVCSELは、共振器延長領域106を備えておらず、下部DBR102上に活性領域106が形成される。このような共振器延長領域106は、空洞延長領域またはキャビティスペースとして参照され得る。
【0015】
好ましくは共振器延長領域106は、p型のAlGaAsから構成され、Al組成は、上部DBR108のAl組成の範囲0.4〜0.9内で選択される。言い換えれば、共振器延長領域106の屈折率は、上部DBR108のAl組成が低い高屈折率層とAl組成が高い低屈折率の間にある。
【0016】
さらに共振器延長領域106は、その最下層、あるいはその内部の活性領域104に近い位置に電流狭窄層110を含む。電流狭窄層110は、AlAsまたはAl組成が約98%以上のAlGaAsから構成される。共振器延長領域106の内部に電流狭窄層110が形成される場合には、電流狭窄層110は、比較的Al組成が低い低AlGaAs層によって挟まれる。電流狭窄層110のAl組成は、共振器延長領域106の他の部分や上部DBR108のAl組成よりも高く、その酸化速度が速くなる。このため、メサMを酸化したとき、事実上、メサM内の電流狭窄層110が酸化されることになる。その結果、電流狭窄層110には、メサMの側面から選択的に酸化された酸化領域110Aと酸化領域110Aによって囲まれた導電領域(酸化アパーチャ)110Bが形成される。導電領域110Bの平面形状は、メサMの外形を反映した円形状となり、その中心は、メサMの軸方向の光軸とほぼ一致する。長共振器のVCSEL10では、基本横モードを得るために、通常のVCSELと比べて導電領域110Bの径を大きくすることができ、例えば、導電領域110Bの径を7ないし8ミクロン程度まで大きくすることができる。
【0017】
p型の上部DBR108は、p型のAl0.9Ga0.1As層とAl0.4Ga0.6As層との積層体で、各層の厚さはλ/4nであり、これらを交互に29周期積層してある。p型不純物であるカーボンをドーピングした後のキャリア濃度は、例えば、3×1018cm-3である。好ましくは、上部DBR108の最上層には、p型GaAsからなるコンタクト層108Aが形成される。
【0018】
メサMの最上層には、Ti/Auなどを積層した金属製の環状のp側電極112が形成され、p側電極112は、上部DBR108のコンタクト層にオーミック接続される。p側電極112には、円形状の開口すなわち光を出射する光出射口112Aが形成され、光出射口112Aの中心は、メサMの光軸に一致する。さらに基板100の裏面には、n側電極114が形成される。
【0019】
通常のVCSELは、単一横モードで動作するとき、共振器長が短いので、1つの共振波長、すなわち1つの縦モードを有する。一方、長共振器のVCSELでは、共振器長を長くするため、複数の共振波長が発生し、発生する共振波長の数は、共振器長の大きさに比例する。このため、長共振器のVCSELでは、動作電流の変動などに伴い共振波長のスイッチング(縦モードのスイッチング)が生じ易く、IL特性にキンクを発生させることがある。このような共振波長のスイッチングは、VCSELの高速変調に好ましくない。そこで、下部DBR102を構成するAlGaAsのペアの屈折率差、あるいは上部DBR108を構成するAlGaAsのペアの屈折率差を小さくすることで、レーザ発振可能な反射率(例えば99%以上)となる反射帯域を狭め、複数存在する共振波長の中から所望の共振波長を選択し、縦モードスイッチングを抑制することができる。
【0020】
また、従来の長共振器のVCSELでは、n型の共振器延長領域を形成している。例えば、n型のDBRと活性領域との間に、n型の共振器延長領域を形成している。これは、n型であれば、光の吸収が少なく、素子抵抗を小さくすることができるためである。しかし、共振器延長領域をAlGaAs(またはGaAs)から構成し、n型の不純物のドーパントにSiを用いると、いわゆるDXセンターが多数発生し、これに起因して活性層の劣化が急速に進んでしまうことが判明した。DXセンターとは、伝導体側にできる深い準位のことであり、ドナーとなる不純物をAlGaAsまたはGaAsに注入したことによって発生するAs欠陥と推測される。
【0021】
図2(a)は、AlGaAsのエネルギーバンドを示し、図2(b)は、n型AlGaAsにDXセンターが生じたときのエネルギーバンドを示している。図2(a)に示すように、伝導体の電子は、価電子帯の正孔と結合することにより光(フォトン)を発生する。一方、Al組成が20%以上のAlGaAs内では、図2(a)のときよりもDXセンタの方がエネルギーが低くなり、そのため、DXセンターに電子がトラップされる。その際、IV族ドナーは、ドナー自身が、VI族ドナーはGa(Al)が動く。また、電子は、DXセンター内に蓄積され、光を吸収することでDXセンターから解放されて伝導体に戻るが、その際、IV族ドナーはドナー自身が、VI族ドナーはGa(Al)が動く。これにより、活性層の結晶構造が破壊され、著しく特性を劣化させる。これに対し、本実施例では、共振器延長領域106をp型に形成するため、DXセンターが発生することがなく、それによる活性層の欠陥が引き起こされることがない。その結果、活性層の劣化による短寿命化を防止し、長共振器VCSELの信頼性を維持することができる。
【0022】
なお、上記実施例では、下部DBR102および上部DBR108を、Al組成比が高い高AlGaAs層とAl組成比が低い低AlGaAs層の対により構成したが、下部DBR102および上部DBR108は、AlGaAsに限定されるものではない。下部DBR102および上部DBR108は、相対的に屈折率が高い高屈折率層と屈折率が低い低屈折率層の対から構成されればよく、例えば、高屈折率層としてGaAs、低屈折率層としてAlGaAsの組合せであってもよい。発振波長が長い場合には、DBRにGaAsを用いることが可能である。
【0023】
次に、本発明の第2の実施例に係る長共振器VCSELを図3に示す。第2の実施例に係る長共振器VCSEL10Aは、p型のGaAs基板100を用いて構成される。p型のGaAs基板上にp型の下部DBR102が形成され、下部DBR102上にp型のAlGaAsまたはGaAsを含む共振器延長領域106が形成され、共振器延長領域106上に活性領域104が形成され、活性領域104上にn型の上部DBR108が形成され、上部DBR108上にn側電極112が形成される。p型の共振器延長領域106は、その一部にp型のAlAsまたはAl0.98Ga0.02Asから構成される電流狭窄層110を含む。このように、第2の実施例のVCSEL10Aは、第1の実施例のVCSEL10のときと導電型を反転させた以外は、実質的に同様の構成である。第2の実施例においても、共振器延長領域106はp型に形成されるため、DXセンターによる結晶欠陥の発生を防止することができる。
【0024】
次に、第1の実施例で説明した長共振器のVCSELの製造工程について説明する。VCSELの製造は、有機金属気相成長(MOCVD)法を用いて行われ、n型のGaAs基板100上に、n型の下部DBR102、活性領域104、p型の共振器延長領域106、p型の上部DBR108が順次積層される。下部DBR102の各層の膜厚は、媒質内波長の1/4となるように形成され、共振器延長領域106の膜厚は、媒質内波長の16λとなるように形成される。なお、共振器延長慮域106には、一定の膜厚のp型のAlAsまたはAl0.98Ga0.02Asからなる電流狭窄層110が活性領域104の近傍に挿入される。また、上部DBR108の最上層に不純物濃度が高いp型のGaAsコンタクト層が形成される。
【0025】
次に、基板上の半導体層は、公知のフォトリソ工程を用いてエッチングされ、基板上に円柱状のメサMが形成される。メサMは、少なくとも電流狭窄層110を露出させる深さを有する。次に、酸化処理を行い、電流狭窄層110内に酸化領域110Aとこれによって囲まれた導電領域110Bが形成される。導電領域110Bの径は、通常のVCSELのものよりも大きく、例えば8ミクロンもしくはそれ以上にすることができる。
【0026】
次に、リフトオフ工程により、上部DBR108上に環状のp側電極112が形成される。但し、p側電極112は、メサMを形成する前に上部DBR108のコンタクト層上に形成しておいてもよい。次に、メサを含む基板全面にSiON膜がCVDによって形成され、SiON膜をエッチングして光出射口上に保護膜が形成される。そして、基板の裏面にn側電極114が形成される。
【0027】
上記実施例では、共振器延長領域106の光学的膜厚を16λとしたが、これは一例であって、好ましくは、10λないし20λの範囲内から選択される。但し、共振器長が大きくなれば、それに比例して共振波長の数が増加することに留意すべきである。また、下部DBRや上部DBRを構成する高屈折率層と低屈折率層の屈折率差(本例では、Al組成の差)は、存在し得る共振波長との関係から適宜選択される。つまり、所望でない共振波長の反射率が低下するような反射帯域を得ることができるように屈折率差が選択される。本実施例では、共振器延長領域がp型に形成されるため、DXセンターを考慮することなく、Al組成を選択することができる。
【0028】
また、電流狭窄層110の導電領域(酸化アパーチャ)110Bの径は、要求される光出力などに応じて適宜変更することができる。さらに、GaAs基板100と下部DBR102との間に必要に応じてバッファ層を形成するようにしてもよい。さらに上記実施例では、GaAs系のVCSELを例示したが、本発明は、他のIII−V族の化合物半導体を用いた長共振器のVCSELにも適用することができる。さらに、上記実施例では、シングルスポットのVCSELを例示したが、基板上に多数のメサ(発光部)が形成されたマルチスポットのVCSELあるいはVCSELアレイであってもよい。
【0029】
次に、本実施例のVCSELを利用した面発光型半導体レーザ装置、光情報処理装置および光伝送装置について図面を参照して説明する。図4(a)は、VCSELと光学部材を実装(パッケージ)した面発光型半導体レーザ装置の構成を示す断面図である。面発光型半導体レーザ装置300は、長共振器VCSELが形成されたチップ310を、導電性接着剤320を介して円盤状の金属ステム330上に固定する。導電性のリード340、342は、ステム330に形成された貫通孔(図示省略)内に挿入され、一方のリード340は、VCSELのn側電極に電気的に接続され、他方のリード342は、p側電極に電気的に接続される。
【0030】
チップ310を含むステム330上に矩形状の中空のキャップ350が固定され、キャップ350の中央の開口352内に光学部材のボールレンズ360が固定されている。ボールレンズ360の光軸は、チップ310のほぼ中心と一致するように位置決めされる。リード340、342間に順方向の電圧が印加されると、チップ310から垂直方向にレーザ光が出射される。チップ310とボールレンズ360との距離は、チップ310からのレーザ光の広がり角θ内にボールレンズ360が含まれるように調整される。また、キャップ内に、VCSELの発光状態をモニターするための受光素子や温度センサを含ませるようにしてもよい。
【0031】
図4(b)は、他の面発光型半導体レーザ装置の構成を示す図であり、同図に示す面発光型半導体レーザ装置302は、ボールレンズ360を用いる代わりに、キャップ350の中央の開口352内に平板ガラス362を固定している。平板ガラス362の中心は、チップ310のほぼ中心と一致するように位置決めされる。チップ310と平板ガラス362との距離は、平板ガラス362の開口径がチップ310からのレーザ光の広がり角度θ以上になるように調整される。
【0032】
図5は、VCSELを光情報処理装置の光源に適用した例を示す図である。光情報処理装置370は、図4(a)または図4(b)のように長共振器VCSELを実装した面発光型半導体レーザ装置300または302からのレーザ光を入射するコリメータレンズ372、一定の速度で回転し、コリメータレンズ372からの光線束を一定の広がり角で反射するポリゴンミラー374、ポリゴンミラー374からのレーザ光を入射し反射ミラー378を照射するfθレンズ376、ライン状の反射ミラー378、反射ミラー378からの反射光に基づき潜像を形成する感光体ドラム(記録媒体)380を備えている。このように、VCSELからのレーザ光を感光体ドラム上に集光する光学系と、集光されたレーザ光を光体ドラム上で走査する機構とを備えた複写機やプリンタなど、光情報処理装置の光源として利用することができる。
【0033】
図6は、図4(a)に示す面発光型半導体レーザ装置を光伝送装置に適用したときの構成を示す断面図である。光伝送装置400は、ステム330に固定された円筒状の筐体410、筐体410の端面に一体に形成されたスリーブ420、スリーブ420の開口422内に保持されるフェルール430、およびフェルール430によって保持される光ファイバ440を含んで構成される。ステム330の円周方向に形成されたフランジ332には、筐体410の端部が固定される。フェルール430は、スリーブ420の開口422に正確に位置決めされ、光ファイバ440の光軸がボールレンズ360の光軸に整合される。フェルール430の貫通孔432内に光ファイバ440の芯線が保持されている。
【0034】
チップ310の表面から出射されたレーザ光は、ボールレンズ360によって集光され、集光された光は、光ファイバ440の芯線に入射され、送信される。上記例ではボールレンズ360を用いているが、これ以外にも両凸レンズや平凸レンズ等の他のレンズを用いることができる。さらに、光伝送装置400は、リード340、342に電気信号を印加するための駆動回路を含むものであってもよい。さらに、光伝送装置400は、光ファイバ440を介して光信号を受信するための受信機能を含むものであってもよい。
【0035】
以上、本発明の好ましい実施の形態について詳述したが、本発明は、特定の実施形態に限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載された本発明の要旨の範囲内において、種々の変形・変更が可能である。
【符号の説明】
【0036】
10、10A:長共振器VCSEL
100:基板
102:下部DBR
104:活性領域
106:共振器延長領域
108:上部DBR
110:電流狭窄層
110A:酸化領域
110B:導電領域
112:p側電極
112A:光出射口
114:n側電極

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板と、
前記基板上に形成され、相対的に屈折率が高い高屈折率層と屈折率が低い低屈折率層の対を積層したn型の第1の半導体多層膜反射鏡と、
第1の半導体多層膜反射鏡上に形成された活性領域と、
前記活性領域上に形成されたp型のAlGaAsを含む共振器延長領域と、
前記共振器延長領域内に形成され、選択的に酸化された酸化領域と当該酸化領域によって囲まれたp型の非酸化領域とを含む電流狭窄層と、
前記共振器延長領域上に形成され、相対的に屈折率が高い高屈折率層と屈折率が低い低屈折率層の対を積層したp型の第2の半導体多層膜反射鏡と、
を有する面発光型半導体レーザ。
【請求項2】
基板と、
前記基板上に形成され、相対的に屈折率が高い高屈折率層と屈折率が低い低屈折率層の対を積層したp型の第1の半導体多層膜反射鏡と、
第1の半導体多層膜反射鏡上に形成されたp型のAlGaAsを含む共振器延長領域と、
前記共振器延長領域内に形成され、選択的に酸化された酸化領域と当該酸化領域によって囲まれたp型の非酸化領域とを含む電流狭窄層と、
前記共振器延長領域上に形成された活性領域と、
前記活性領域上に形成され、相対的に屈折率が高い高屈折率層と屈折率が低い低屈折率層の対を積層したn型の第2の半導体多層膜反射鏡と、
を有する面発光型半導体レーザ。
【請求項3】
前記第1の半導体多層膜反射鏡、前記共振器延長領域、前記活性領域および前記第2の半導体多層膜反射鏡によって規定される共振器の長さが発振波長よりも大きく、かつ前記共振器の反射帯域内に少なくとも2つの共振波長を含み、選択された共振波長が発振される、請求項1または2に記載の面発光型半導体レーザ。
【請求項4】
前記基板上には、柱状構造が形成され、前記酸化領域は、前記柱状構造の側面から選択的に酸化される、請求項1ないし3いずれか1つに記載の面発光型半導体レーザ。
【請求項5】
n型の半導体多層膜反射鏡が、Al組成比が高い高AlGaAs層とAl組成比が低い低AlGaAs層の対を含んで構成されるとき、当該半導体多層膜反射鏡の低AlGaAs層は、Al組成が20%以上であり、不純物ドーパントがSiである、請求項1ないし4いずれか1つに記載の面発光型半導体レーザ。
【請求項6】
請求項1ないし5いずれか1つに記載の面発光型半導体レーザと、
前記面発光型半導体レーザからの光を入射する光学部材と、
を備えた面発光型半導体レーザ装置。
【請求項7】
請求項6に記載された面発光型半導体レーザ装置と、
前記面発光型半導体レーザ装置から発せられたレーザ光を光媒体を介して伝送する伝送手段と、
を備えた光伝送装置。
【請求項8】
請求項1ないし5いずれか1つに記載の面発光型半導体レーザと、
前記面発光型半導体レーザから出射されるレーザ光を記録媒体に集光する集光手段と、
前記集光手段により集光されたレーザ光を前記記録媒体上で走査する機構と、
を有する情報処理装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2013−45845(P2013−45845A)
【公開日】平成25年3月4日(2013.3.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−181762(P2011−181762)
【出願日】平成23年8月23日(2011.8.23)
【出願人】(000005496)富士ゼロックス株式会社 (21,908)
【Fターム(参考)】