説明

音叉振動子およびその製造方法

【課題】劣化を抑制することができる音叉振動子を提供する。
【解決手段】本発明に係る音叉振動子100は,基体1と、基体のうちの少なくとも一部からなる音叉型の振動部10と、振動部の屈曲振動を生成する駆動部20と、基体の上方に形成され、駆動部に接しない多孔質層80と、駆動部と多孔質層との間に形成された空洞部72と、多孔質層の上方に形成された封止層90と、を含み、振動部は、支持部12と、支持部を基端として片持ち梁状に形成された二本のビーム部14aと、を有し、駆動部は、各ビーム部の上方に1対ずつ形成され、各駆動部は、第1電極22と、第1電極の上方に形成された圧電体層24と、圧電体層の上方に形成された第2電極26と,を有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、音叉振動子およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、時計やマイコンなどの情報機器では、クロックモジュールの発振器部分に音叉振動子が用いられている。音叉振動子には、圧電効果で駆動する方式が広く用いられている。最近では、シリコン基板上に、圧電体薄膜を上下の電極で挟んだ駆動部を設けた音叉振動子が開発されている(例えば特許文献1参照)。この音叉振動子では、大気中の水分などが駆動部に対して悪影響を与え、音叉振動子が劣化する場合がある。
【特許文献1】特開2005−249395号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
本発明の目的は、劣化を抑制することができる音叉振動子およびその製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0004】
本発明に係る音叉振動子は、
基体と、
前記基体のうちの少なくとも一部からなる音叉型の振動部と、
前記振動部の屈曲振動を生成する駆動部と、
前記基体の上方に形成され、前記駆動部に接しない多孔質層と、
前記駆動部と前記多孔質層との間に形成された空洞部と、
前記多孔質層の上方に形成された封止層と、を含み、
前記振動部は、
支持部と、
前記支持部を基端として片持ち梁状に形成された二本のビーム部と、を有し、
前記駆動部は、各前記ビーム部の上方に1対ずつ形成され、
各前記駆動部は、
第1電極と、
前記第1電極の上方に形成された圧電体層と、
前記圧電体層の上方に形成された第2電極と、を有する。
【0005】
本発明に係る音叉振動子では、前記駆動部は、前記多孔質層および前記封止層によって密封された前記空洞部内に設けられ、外気との接触がない。このため、前記駆動部の前記圧電体層の劣化を抑制することができる。その結果、音叉振動子の劣化を抑制することができる。
【0006】
なお、本発明に係る記載では、「上方」という文言を、例えば、「特定のもの(以下「A」という)の「上方」に形成された他の特定のもの(以下「B」という)」などと用いている。本発明に係る記載では、この例のような場合に、A上に直接Bが形成されているような場合と、A上に他のものを介してBが形成されているような場合とが含まれるものとして、「上方」という文言を用いている。
【0007】
本発明に係る音叉振動子において、
前記基体は、SOI(Silicon On Insulator)基板であることができる。
【0008】
本発明に係る音叉振動子において、
前記多孔質層は、金属酸化物からなることができる。
【0009】
本発明に係る音叉振動子において、
前記多孔質層は、酸化アルミニウムからなることができる。
【0010】
本発明に係る音叉振動子において、
前記封止層は、窒化シリコンからなることができる。
【0011】
本発明に係る音叉振動子において、
前記空洞部内は、大気圧より小さい圧力であることができる。
【0012】
本発明に係る音叉振動子の製造方法は、
基板、該基板の上方に形成された絶縁層、および該絶縁層の上方に形成された半導体層を有する基体を用意する工程と、
前記基体の上方に駆動部を形成する工程と、
前記半導体層をパターニングして振動部を形成する工程と、
前記絶縁層をパターニングして前記振動部の下方に開口部を形成する工程と、
前記駆動部を被覆する犠牲層を形成する工程と、
前記犠牲層を被覆する多孔質層を形成する工程と、
前記多孔質層の孔を通じてガスを供給し、前記犠牲層と反応させて前記犠牲層をガス化して除去する工程と、
前記多孔質層を被覆する封止層を形成する工程と、を含み、
前記駆動部を形成する工程は、
前記基体の上方に第1電極を形成する工程と、
前記第1電極の上方に圧電体層を形成する工程と、
前記圧電体層の上方に第2電極を形成する工程と、を有し、
前記振動部は、
支持部と、
前記支持部を基端として片持ち梁状に形成された二本のビーム部と、を有するように形成され、
前記駆動部は、各前記ビーム部の上方に1対ずつ形成される。
【0013】
本発明に係る音叉振動子の製造方法において、
前記犠牲層は、レジスト層であり、
前記犠牲層を除去する工程において、前記レジスト層はアッシングにより除去されることができる。
【0014】
本発明に係る音叉振動子の製造方法において、
前記封止層を形成する工程において、前記封止層は、大気圧より低い圧力下で形成されることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下、本発明に好適な実施形態について、図面を参照しながら説明する。
【0016】
1. まず、本実施形態に係る音叉振動子100について説明する。図1は、本実施形態に係る音叉振動子100を概略的に示す平面図であり、図2は、音叉振動子100を概略的に示す断面図である。なお、図2は、図1のII−II線断面図である。
【0017】
音叉振動子100は、図1、図2に示すように、基体1と、振動部10と、駆動部20(20a〜20d)と、多孔質層80と、空洞部72と、封止層90と、を含む。なお、図1の一部では、便宜上、多孔質層80と封止層90を透視して描いてある。
【0018】
基体1は、例えば図2に示すように、基板2と、基板2上に形成された絶縁層3と、絶縁層3上に形成された半導体層4と、を有することができる。基体1としては、例えばSOI基板などを用いることができる。SOI基板としては、例えばSIMOX(silicon implanted oxide)基板や貼り合わせSOI基板などが挙げられる。例えば、基板2としてシリコン基板、絶縁層3として酸化シリコン層、半導体層4としてシリコン層を用いることができる。半導体層4の厚みは、音叉振動子100の小型化のためには、20μm以下であることが望ましい。半導体層4内には各種の半導体回路を作り込むことができる。半導体層4としてシリコン層を用いることが、一般的な半導体製造技術を利用できる点で有利である。
【0019】
振動部10は、基体1のうちの少なくとも一部からなる。振動部10の平面形状は、図1に示すように音叉型である。振動部10は、図2に示すように、基体1の絶縁層3の一部を除去して形成された開口部3a上に形成されている。振動部10の周りには、振動部10の振動を許容する空隙部4aが形成されている。振動部10は、支持部12と、支持部12を基端として片持ち梁状に形成された二本のビーム部14(14a,14b)と、を有する。第1ビーム部14aおよび第2ビーム部14bは、長手方向(図1のX方向)に平行に所定間隔をおいて配置されている。
【0020】
支持部12は、半導体層4の一部からなる第1支持部12aと、第1支持部12aよりも幅の大きい第2支持部12bと、を有する。第1支持部12aは、半導体層4の一部からなる固定部4bに連続しており、固定部4bと第2支持部12bとを接続している。第2支持部12bは、第1ビーム部14aおよび第2ビーム部14bを支持する機能と、これらのビーム部14a,14bの振動を第1支持部12aに伝搬させない機能と、を有する。第2支持部12bは、例えば図1に示すように、側部に凹凸形状を有することができる。
【0021】
駆動部20(20a〜20d)は、振動部10の屈曲振動を生成する。駆動部20は、図1に示すように、第1ビーム部14aと第2ビーム部14bの上に1対ずつ形成されている。即ち、第1ビーム部14a上には、第1駆動部20aと第2駆動部20bとが、第1ビーム部14aの長手方向に沿って、互いに平行に形成されている。同様に、第2ビーム部14b上には、第3駆動部20cと第4駆動部20dとが、第2ビーム部14bの長手方向に沿って、互いに平行に形成されている。第1ビーム部14aの外側に配置された第1駆動部20aと、第2ビーム部14bの外側に配置された第3駆動部20cとは、配線(図示せず)により電気的に接続されている。第1ビーム部14aの内側に配置された第2駆動部20bと、第2ビーム部14bの内側に配置された第4駆動部20dとは、配線(図示せず)により電気的に接続されている。
【0022】
駆動部20(20a〜20d)は、図2に示すように、ビーム部14a,14bの上方に形成された第1電極22と、第1電極22上に形成された圧電体層24と、圧電体層24上に形成された第2電極26と、を有する。駆動部20は、さらに、ビーム部14a、14bと第1電極22との間に形成された下地層5を有することができる。
【0023】
下地層5は、酸化シリコン(SiO)層、窒化シリコン(Si)層等の絶縁層である。下地層5は、例えば2層以上の複合層で構成されていても良い。
【0024】
第1電極22は、例えばPtなどの電極材料からなることができる。第1電極22の厚さは、十分に低い電気抵抗値が得られる厚さであれば良く、例えば10nm以上5μm以下とすることができる。
【0025】
圧電体層24は、例えばチタン酸ジルコン酸鉛(PZT)などの圧電材料からなることができる。圧電体層24の厚さは、半導体層4の厚みの1/10倍以上、等倍以下程度であることが望ましい。この範囲の厚さであることにより、ビーム部14a,14bを十分に振動させる駆動力が確保されることができる。例えば、半導体層4の厚みを1μm〜20μmとした場合、圧電体層24の厚さは0.1μm〜20μmとすることができる。
【0026】
第2電極26は、例えばPtなどの電極材料からなることができる。第2電極26の厚さは、十分に低い電気抵抗値が得られる厚さであれば良く、例えば10nm以上5μm以下とすることができる。
【0027】
なお、図示の例では、駆動部20において、第1電極22と第2電極26の間には圧電体層24のみが存在するが、両電極22,26間に圧電体層24以外の層を有していても良い。圧電体層24の膜厚は、共振条件に応じて適宜変更することができる。
【0028】
本実施形態に係る音叉振動子100では、第1〜第4駆動部20a〜20dに交流電界を印加することにより、第1,第2ビーム14a,14bをそれぞれ鏡映対称に屈曲振動させ、音叉振動を実現することができる。
【0029】
多孔質層80は、図2に示すように、基体1上に形成され、駆動部20に接していない。多孔質層80の形状は、後述する犠牲層70の形状を反映したものとなる。多孔質層80の内側には、空洞部72が形成されている。空洞部72の内側には、駆動部20が形成されている。即ち、空洞部72は、駆動部20と多孔質層80との間に形成されている。
【0030】
多孔質層80は、多数の微細な貫通孔を有している。この貫通孔を通じて気体が移動することができる。多孔質層80としては、高い機械的強度を有し、単独でその形状が保持されるものが望ましい。多孔質層80の厚みは、例えば0.2μm〜2μm程度である。多孔質層80としては、成膜した際に多孔質となり、かつ高い機械的強度を有する材質のものを用いることができる。多孔質層80は、酸化物、窒化物、有機物などからなることができる。多孔質層80は、好ましくは金属酸化物からなり、より好ましくは酸化アルミニウム(Al)からなる。
【0031】
封止層90は、図2に示すように、多孔質層80上に形成されている。封止層90は、多孔質層80の貫通孔を封止して空洞部72を気密に保ち、多孔質層80の機械的強度を補強することができる。後述するが、封止層90は大気圧よりも低い圧力下で成膜されるため、音叉振動子100が大気中に置かれた場合、空洞部72は負圧状態となる。本実施形態の音叉振動子100によれば、多孔質層80および封止層90が高い機械的強度を有するため、空洞部72が負圧状態でも空洞部72の形状を保持することできる。封止層90の厚みは、例えば0.1μm〜1.5μm程度である。封止層90は、空洞部72の気密性を保持できる緻密な物質からなる。封止層90は、窒化シリコン(Si)、酸化シリコン、酸化アルミニウムなどからなることができる。
【0032】
2. 次に、本実施形態に係る音叉振動子100の製造方法の一例について図面を参照しながら説明する。図3〜図8は、図1および図2に示す本実施形態の音叉振動子100の一製造工程を概略的に示す断面図であり、それぞれ図2に示す断面図に対応している。
【0033】
(1)まず、図3に示すように、基板2上に絶縁層3および半導体層4がこの順に配置された基体1を用意する。
【0034】
(2)次に、基体1上に、駆動部20を形成する。具体的には、基体1上に駆動部20を構成する下地層5、第1電極22、圧電体層24、および第2電極26を順次形成する。
【0035】
下地層5は、熱酸化法、CVD法、スパッタ法などにより形成される。下地層5は、例えば、フォトリソグラフィ技術およびエッチング技術を用いてパターニングされ、所望の形状に形成されることができる。
【0036】
第1電極22は、蒸着法、スパッタ法などにより形成される。第1電極22は、例えば、フォトリソグラフィ技術およびエッチング技術を用いてパターニングされ、所望の形状に形成されることができる。
【0037】
圧電体層24は、レーザーアブレーション法、蒸着法、スパッタ法、CVD(Chemical Vapor Deposition)法などにより形成される。例えば、レーザーアブレーション法を用いてチタン酸ジルコン酸鉛(PZT)からなる圧電体層24を形成する場合には、レーザー光をPZT用ターゲット、例えばPb1.05Zr0.52Ti0.48NbOのターゲットに照射する。そして、このターゲットから鉛原子、ジルコニウム原子、チタン原子、および酸素原子をアブレーションによって放出させ、レーザーエネルギーによってプルームを発生させ、このプルームを基体1に向けて照射する。これにより、第1電極22上にPZTからなる圧電体層24が成膜される。圧電体層24は、例えば、フォトリソグラフィ技術およびエッチング技術を用いてパターニングされ、所望の形状に形成されることができる。
【0038】
第2電極26は、蒸着法、スパッタ法、CVD法などにより形成される。第2電極26は、例えば、フォトリソグラフィ技術およびエッチング技術を用いてパターニングされ、所望の形状に形成されることができる。
【0039】
(3)次に、図4に示すように、基体1の半導体層4を所望の形状にパターニングして振動部10を形成する。振動部10は、半導体層4を刳り貫いて空隙部4a(図1参照)を形成することにより得られる。半導体層4は、フォトリソグラフィ技術およびエッチング技術を用いてパターニングされる。エッチング技術としては、ドライエッチング法やウェットエッチング法を用いることができる。本パターニング工程においては、基体1の絶縁層3をエッチングストッパ層として用いることができる。
【0040】
(4)次に、図5に示すように、基体1の絶縁層3をパターニングして振動部10の下に開口部3aを形成する。絶縁層3が酸化シリコンからなる場合には、例えばフッ化水素酸を用いたウェットエッチングにより絶縁層3をパターニングすることができる。本パターニング工程では、例えば、基板2および半導体層4をエッチングストッパ層として用いることにより、フォトリソグラフィ技術を用いることなく絶縁層3をパターニングすることができる。
【0041】
(5)上述した工程により、空隙部4aおよび開口部3aが設けられることで、音叉型の振動部10に対する機械的拘束力が低減され、振動部10が十分に振動できるようになる。
【0042】
(6)次に、図6に示すように、駆動部20を被覆する犠牲層70を形成する。具体的には、まず、駆動部20を覆うように、基体1の全面に犠牲層70を設ける。犠牲層70は、例えば有機系レジスト材料からなることができる。次に、フォトリソグラフィ技術を用いて、図6に示すように犠牲層70をパターニングする。パターニングされた犠牲層70の形状は、次の工程で形成される多孔質層80の形状に反映される。従って、多孔質層80が駆動部20と接触しないようにするために、犠牲層70は、駆動部20が全て埋没するように設けられる。また、犠牲層70は、図6に示すように、空隙部4aおよび開口部3a(図5参照)を埋め込むことができる。なお、犠牲層70は、空隙部4aや開口部3aを埋め込まなくても良い。
【0043】
(7)次に、図7に示すように、犠牲層70を被覆する多孔質層80を形成する。多孔質層80は、犠牲層70の表面に沿って形成される。多孔質層80は、例えばCVD法、スパッタ法などを用いて形成される。例えば、多孔質層80として酸化アルミニウム層を用いる場合には、多孔質層80の形成にはCVD法を用いることが好ましい。この場合には、トリメチルアルミニウムを原料とし、原料の噴き付けを調整し、オゾンを反応炉内に導入し、400℃以下(例えば200℃)で熱酸化を繰り返させることにより、好適な多孔質層80を形成することができる。なお、多孔質層80の形成方法や形成条件は、多孔質層80の材料などに応じて適宜変更することができる。
【0044】
(8)次に、図8に示すように、多孔質層80の孔を通じてガス(例えばプラズマ等)を供給し、犠牲層70と反応させて、犠牲層70をガス化して除去する。犠牲層70としてレジスト層を用いる場合には、犠牲層70の除去は、例えば、酸素プラズマによるアッシングにより行われる。具体的には、まず、チャンバー内に酸素ガスを導入し、酸素ガスを公知の方法によりプラズマ化する。チャンバー内の圧力は、例えば200Pa〜300Pa程度である。発生した酸素プラズマ(ガス)は、多孔質層80の貫通孔を通り抜け、多孔質層80の内側の犠牲層70と反応する。その結果生じたガスは、多孔質層80の貫通孔を通り抜け、外部に放出される。本工程における基板温度としては、例えば200℃程度、処理時間としては、例えば10分程度とすることができる。本工程において、犠牲層70と反応させるガスは、酸素プラズマに限定されず、犠牲層70を除去できるガスであれば良い。
【0045】
上述したように犠牲層70を除去することにより、図8に示すように、多孔質層80の形状を保持したまま、多孔質層80の内側に空洞部72を形成することができる。
【0046】
(9)次に、図1および図2に示すように、多孔質層80を被覆する封止層90を形成する。封止層90は、多孔質層80の表面に沿って形成される。封止層90は、例えばスパッタ法、CVD法などを用いて形成される。封止層90は、大気圧よりも低い圧力下で成膜される。このため、空洞部72内は大気圧よりも低い圧力(真空状態)のまま封止される。封止層90の成膜条件は、封止層90が空洞部72の気密性を保持できる緻密性を有するように適宜設定される。なお、本実施形態の製造方法では、例えば、上述した多孔質層80の形成工程から、この封止層90の形成工程までを真空装置内で一貫して行うことができる。
【0047】
(10)以上の工程により、図1および図2に示すように、本実施形態の音叉振動子100が形成される。
【0048】
3. 本実施形態の音叉振動子100では、駆動部20は、多孔質層80および封止層90によって密封された空洞部72内に設けられ、外気との接触がない。このため、駆動部20の圧電体層24の劣化を抑制することができる。その結果、音叉振動子100の劣化を抑制することができる。
【0049】
また、本実施形態の音叉振動子100では、空洞部72が減圧状態であり、空洞部72内には、圧電体層24に対して悪影響を与える物質(例えば水分など)が少ない。このため、音叉振動子100の劣化をより一層抑制することができる。
【0050】
また、本実施形態の音叉振動子100の製造方法では、駆動部20を密封するための構造を真空装置内で一貫して形成することができる。このため、その構造の形成工程において、駆動部20を大気と接触しないようにすることができる。従って、本実施形態の製造方法によれば、駆動部20の圧電体層24に対して悪影響を与える物質(例えば水分など)が少ない状況下で音叉振動子100を製造することができる。
【0051】
また、本実施形態の音叉振動子100の製造方法によれば、真空装置内で空洞部72を得ることができるため、他の特別な工程を経なくても空洞部72を減圧状態にすることができる。
【0052】
また、本実施形態の音叉振動子100では、振動部10は、基体1(例えばSOI基板)の半導体層4によって構成されるため、振動部10の厚さを薄くすることができる。これにより、クロックモジュールに用いられる発振器の共振周波数を生成する音叉振動子100において、振動部10(より具体的にはビーム部14a,14b)の長さを短くすることができる。即ち、例えば水晶を用いた音叉振動子などに比べて、本実施形態に係る音叉振動子100を小型化することができる。例えば、32kHz帯の共振周波数を用いる場合には、振動部10の厚みを20μm以下、振動部10の長さを2mm以下、音叉振動子100のパッケージ長さを3mm以下とすることができる。なお、32kHz帯の共振周波数とは、例えば16kHz〜66kHzの範囲のものである。これは、15段のフリップフロップ回路で分周して1Hzの信号を発生させるためには、215=32.768kHzが必要であるが、14段、16段も消費電力の観点から可能であるため、214=16.384kHzから216=65.536kHzまでを範囲とすることができるためである。
【0053】
本実施形態に係る音叉振動子100の具体例としては以下の通りである。例えば、第1電極22の厚みは0.1μm、圧電体層24の厚みは1μm、第2電極26の厚みは0.1μm、駆動部20の厚みは1.2μm、半導体層4の厚みは2μm、ビーム部14a、14bのビーム長さは410μm、ビーム幅は4μmである。振動部10は、長辺1mm、短辺10μmの空隙部4a内に収まっている。この構成の音叉振動子100について、有限要素法によって運動方程式を解いてシミュレーションすると、屈曲振動の共振周波数は32kHzとなった。
【0054】
なお、本実施形態の音叉振動子100は、非同期回路のような本来タイミングデバイスを必要としない回路においても、トリガ発生器として用いられることができる。
【0055】
また、本実施形態の音叉振動子100では、基体1としてSOI基板を用いて、絶縁層3上に半導体集積回路と音叉振動子100を混載して音叉振動子モジュールを形成することができる。これにより、モジュールパッケージを小型化することができる。
【0056】
また、本実施形態の音叉振動子100では、基体1としてSOI基板を用いて、絶縁層3上に発振回路と音叉振動子100を混載することができる。SOI基板を用いたデバイスでは、動作電圧を低くすることができるため、本実施形態の音叉振動子100によれば、低消費電力のワンチップクロックモジュールを提供することができる。
【0057】
4. 上記のように、本発明の実施形態について詳細に説明したが、本発明の新規事項および効果から実体的に逸脱しない多くの変形が可能であることは当業者には容易に理解できよう。従って、このような変形例はすべて本発明の範囲に含まれるものとする。
【図面の簡単な説明】
【0058】
【図1】本実施形態に係る音叉振動子を概略的に示す平面図。
【図2】本実施形態に係る音叉振動子を概略的に示す断面図。
【図3】本実施形態の音叉振動子の一製造工程を概略的に示す断面図。
【図4】本実施形態の音叉振動子の一製造工程を概略的に示す断面図。
【図5】本実施形態の音叉振動子の一製造工程を概略的に示す断面図。
【図6】本実施形態の音叉振動子の一製造工程を概略的に示す断面図。
【図7】本実施形態の音叉振動子の一製造工程を概略的に示す断面図。
【図8】本実施形態の音叉振動子の一製造工程を概略的に示す断面図。
【符号の説明】
【0059】
1 基体、2 基板、3 絶縁層、4 半導体層、5 下地層、10 振動部、12 支持部、14 ビーム部、20 駆動部、22 第1電極、24 圧電体層、26 第2電極、70 犠牲層、72 空洞部、80 多孔質層、90 封止層,100 音叉振動子

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基体と、
前記基体のうちの少なくとも一部からなる音叉型の振動部と、
前記振動部の屈曲振動を生成する駆動部と、
前記基体の上方に形成され、前記駆動部に接しない多孔質層と、
前記駆動部と前記多孔質層との間に形成された空洞部と、
前記多孔質層の上方に形成された封止層と、を含み、
前記振動部は、
支持部と、
前記支持部を基端として片持ち梁状に形成された二本のビーム部と、を有し、
前記駆動部は、各前記ビーム部の上方に1対ずつ形成され、
各前記駆動部は、
第1電極と、
前記第1電極の上方に形成された圧電体層と、
前記圧電体層の上方に形成された第2電極と、を有する、音叉振動子。
【請求項2】
請求項1において、
前記基体は、SOI(Silicon On Insulator)基板である、音叉振動子。
【請求項3】
請求項1または2において、
前記多孔質層は、金属酸化物からなる、音叉振動子。
【請求項4】
請求項1乃至3のいずれかにおいて、
前記多孔質層は、酸化アルミニウムからなる、音叉振動子。
【請求項5】
請求項1乃至4のいずれかにおいて、
前記封止層は、窒化シリコンからなる、音叉振動子。
【請求項6】
請求項1乃至5のいずれかにおいて、
前記空洞部内は、大気圧より小さい圧力である、音叉振動子。
【請求項7】
基板、該基板の上方に形成された絶縁層、および該絶縁層の上方に形成された半導体層を有する基体を用意する工程と、
前記基体の上方に駆動部を形成する工程と、
前記半導体層をパターニングして振動部を形成する工程と、
前記絶縁層をパターニングして前記振動部の下方に開口部を形成する工程と、
前記駆動部を被覆する犠牲層を形成する工程と、
前記犠牲層を被覆する多孔質層を形成する工程と、
前記多孔質層の孔を通じてガスを供給し、前記犠牲層と反応させて前記犠牲層をガス化して除去する工程と、
前記多孔質層を被覆する封止層を形成する工程と、を含み、
前記駆動部を形成する工程は、
前記基体の上方に第1電極を形成する工程と、
前記第1電極の上方に圧電体層を形成する工程と、
前記圧電体層の上方に第2電極を形成する工程と、を有し、
前記振動部は、
支持部と、
前記支持部を基端として片持ち梁状に形成された二本のビーム部と、を有するように形成され、
前記駆動部は、各前記ビーム部の上方に1対ずつ形成される、音叉振動子の製造方法。
【請求項8】
請求項7において、
前記犠牲層は、レジスト層であり、
前記犠牲層を除去する工程において、前記レジスト層はアッシングにより除去される、音叉振動子の製造方法。
【請求項9】
請求項7または8において、
前記封止層を形成する工程において、前記封止層は、大気圧より低い圧力下で形成される、音叉振動子の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2008−118264(P2008−118264A)
【公開日】平成20年5月22日(2008.5.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−297665(P2006−297665)
【出願日】平成18年11月1日(2006.11.1)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【Fターム(参考)】