音場計測装置及び音場計測方法
【課題】 本発明は、音場計測装置及び音場計測方法に関し、例えばカーオーディオ装置に適用して、テスト信号によりスピーカを駆動してスピーカ出力の伝搬時間を計測する場合に、ノイズの多い環境下でも、簡易な構成により確実に伝搬時間を計測することができるようにする。
【解決手段】 本発明は、バースト信号によりスピーカを駆動してマイクにより収音するようにして、このマイクの出力信号を時間軸方向及び時間軸を逆上る方向にIIRフィルタによりフィルタリング処理する。
【解決手段】 本発明は、バースト信号によりスピーカを駆動してマイクにより収音するようにして、このマイクの出力信号を時間軸方向及び時間軸を逆上る方向にIIRフィルタによりフィルタリング処理する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、音場計測装置及び音場計測方法に関し、例えばカーオーディオ装置に適用することができる。本発明は、バースト信号によりスピーカを駆動してマイクにより収音するようにして、このマイクの出力信号を時間軸方向及び時間軸を逆上る方向にIIRフィルタによりフィルタリング処理することにより、テスト信号によりスピーカを駆動してスピーカ出力の伝搬時間を計測する場合に、ノイズの多い環境下でも、簡易な構成により確実に伝搬時間を計測することができるようにする。
【背景技術】
【0002】
近年、カーオーディオシステムは、サブウーハーの採用、ディジタルシグナルプロセッサによる各種特性の補正等により、一段と高音質により音楽コンテンツを提供できるように構成されている。
【0003】
このような音場の調整に関して、実開平6−13292号公報等には、スピーカをテスト信号により駆動してスピーカ出力を解析することにより、音場の各種特性を計測し、さらにはこの計測結果に基づいて音場の特性を調整する方法が提案されている。この実開平6−13292号公報では、インパルス信号をテスト信号に適用してスピーカからマイクまでの伝搬時間を計測し、この伝搬時間に基づいて各スピーカ出力に遅延時間を設定することにより、音像の定位を確実なものとする工夫が提案されている。
【0004】
ところでカーオーディオシステムでは、密閉された狭い空間で使用されることにより、搭載される車両に応じて音場の特性が大きく変化し、これにより車両に応じて音場に係る特性を種々に調整することが必要になる。このためカーオーディオシステムは、ユーザーの操作により音場を種々に調整できるように設定されている。このような音場の調整作業に実開平6−13292号公報等に開示の手法を適用すれば、ユーザーの負担を軽減して音場の特性を適切に調整することができ、ユーザーの使い勝手を一段と向上することができると考えられる。
【0005】
しかしながらカーオーディオシステムは、エアコン、エンジン音等の種々のノイズの環境下で使用される。これによりインパルス信号をテスト信号に適用してスピーカからマイクまでの伝搬時間を計測する場合にあっては、ノイズにより正しく伝搬時間を計測できない問題がある。
【0006】
この問題を解決する1つの方法としてインパルス信号に代えてバースト信号をテスト信号に適用することが考えられる。すなわちこのようなバースト信号は、単一周波数の正弦波信号であることにより、フィルタによりノイズを除去することができ、これによりノイズの影響を回避してスピーカからマイクまでの伝搬時間を正しく計測できると考えられる。またこのようなフィルタとしては、FIR(Finite Impulse Response )フィルタ、IIR(Infinite Impulse Response )フィルタを適用することが考えられる。
【0007】
しかしながらFIRフィルタは、構成が複雑な欠点がある。これに対してIIRフィルタは、位相遅れが発生し、これによりこのような伝搬時間の計測に適用した場合、測定精度が劣化する欠点がある。
【特許文献1】実開平6−13292号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は以上の点を考慮してなされたもので、テスト信号によりスピーカを駆動してスピーカ出力の伝搬時間を計測する場合に、ノイズの多い環境下でも、簡易な構成により確実に伝搬時間を計測することができる音場計測装置及び音場計測方法を提案しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
かかる課題を解決するため請求項1の発明は、音場計測装置に適用して、バースト信号を出力する信号発生部と、前記バースト信号によりスピーカを駆動する駆動部と、前記スピーカからの出力を収音するマイクと、前記マイクの出力信号をアナログディジタル変換処理して収音データを出力するアナログディジタル変換部と、前記収音データをフィルタリング処理するフィルタ回路と、前記フィルタ回路の出力データにより、前記スピーカの出力の前記マイクまでの伝搬時間を検出する解析部とを備え、前記フィルタ回路が、時間軸方向に前記収音データをフィルタリング処理した後、時間軸を逆上る方向に前記収音データをフィルタリング処理するIIRフィルタ、又は時間軸を逆上る方向に前記収音データをフィルタリング処理した後、時間軸方向に前記収音データをフィルタリング処理するIIRフィルタであるようにする。
【0010】
また請求項3の発明は、音場計測方法に適用して、バースト信号によりスピーカを駆動するスピーカ駆動のステップと、前記スピーカからの出力をマイクにより収音する収音のステップと、前記マイクの出力信号をアナログディジタル変換処理して収音データを生成するアナログディジタル変換処理のステップと、前記収音データをフィルタリング処理するフィルタリングのステップと、前記フィルタリングによる処理結果により、前記スピーカの出力の前記マイクまでの伝搬時間を検出する時間解析のステップとを有し、前記フィルタリングのステップが、時間軸方向に、又は時間軸を逆上る方向に、前記収音データをIIRフィルタによりフィルタリング処理する第1のフィルタリングのステップと、時間軸を逆上る方向に、又は時間軸方向に、前記第1のフィルタリングのステップによる処理結果をIIRフィルタによりフィルタリング処理する第2のフィルタリングのステップとを有するようにする。
【0011】
請求項1の構成により、音場計測装置に適用して、バースト信号を出力する信号発生部と、前記バースト信号によりスピーカを駆動する駆動部と、前記スピーカからの出力を収音するマイクと、前記マイクの出力信号をアナログディジタル変換処理して収音データを出力するアナログディジタル変換部と、前記収音データをフィルタリング処理するフィルタ回路と、前記フィルタ回路の出力データにより、前記スピーカの出力の前記マイクまでの伝搬時間を検出する解析部とを備え、前記フィルタ回路が、時間軸方向に前記収音データをフィルタリング処理した後、時間軸を逆上る方向に前記収音データをフィルタリング処理するIIRフィルタ、又は時間軸を逆上る方向に前記収音データをフィルタリング処理した後、時間軸方向に前記収音データをフィルタリング処理するIIRフィルタであるようにすれば、FIRフィルタによる場合に比して簡易な構成により収音データからノイズを除去することができる。また時間軸方向と、時間軸を逆上る方向との繰り返しのフィルタリング処理により、IIRフィルタによる処理に伴う位相遅れを、これら2回の処理で打ち消し合うことができる。これによりノイズの多い環境下でも、簡易な構成により確実に伝搬時間を計測することができる。
【0012】
またこれにより請求項3の構成によれば、テスト信号によりスピーカを駆動してスピーカ出力の伝搬時間を計測する場合に、ノイズの多い環境下でも、簡易な構成により確実に伝搬時間を計測することができる音場計測方法を提供することができる。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、テスト信号によりスピーカを駆動してスピーカ出力の伝搬時間を計測する場合に、ノイズの多い環境下でも、簡易な構成により確実に伝搬時間を計測することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下、適宜図面を参照しながら本発明の実施例を詳述する。
【実施例1】
【0015】
(1)実施例の構成
図2は、本発明の実施例に係るカーオーディオシステムを示すブロック図である。このカーオーディオシステム1は、5.1チャンネルにより音楽コンテンツをユーザーに提供する。このためこのカーオーディオシステム1は、図3に示すように、前席の正面、中央に、前方中央チャンネルのスピーカFCが設けられ、さらに前席、左右のドアに、それぞれ前方右チャンネル及び前方左チャンネルのスピーカFR及びFLが設けられる。また後席、左右のドアに、それぞれ後方右チャンネル及び後方左チャンネルのスピーカRR及びRLが設けられ、さらに後席の後方、中央にサブウーハーRCが設けられる。またこれらスピーカFC〜RRの出力を収音するマイクMCが、運転者の座席、運転者の頭部が位置する近傍に配置される。
【0016】
これによりカーオーディオシステム1は、各スピーカFC〜RR毎に、オーディオデータをディジタルアナログ変換処理してオーディオ信号を出力するディジタルアナログ変換回路(D/A)2、このディジタルアナログ変換回路2から出力されるオーディオ信号の音量等を設定するプリアンプ3、プリアンプ3の出力信号によりスピーカを駆動するアンプ4が設けられる。また光ディスクプレイヤー等の音楽コンテンツのソース5が設けられ、このソース5から出力されるオーディオデータを処理して各スピーカの系統に出力するディジタルシグナルプロセッサ(DSP:Digital Signal Processor)6が設けられる。
【0017】
ここでディジタルシグナルプロセッサ6は、このオーディオデータの処理において、オーディオデータの周波数特性等を補正し、これによりスピーカFC〜RRにより形成される音場が最適となるように、これらスピーカFC〜RRの音場を補正する。ディジタルシグナルプロセッサ6は、ユーザーによる指示により、事前に、音場設定に係る処理プログラムを実行することにより、このオーディオデータの補正基準を、マイクMCで取得される各スピーカFC〜RRの出力に基づいて設定する。なおこれによりこの実施例において、この処理プログラムは、このカーオーディオシステム1に事前にインストールされて提供されるものの、このような事前のインストールに代えて、インターネット等のネットワークを介してダウンロードにより提供してもよく、また光ディスク、磁気ディスク、メモリカード等の各種記録媒体に記録して提供するようにしてもよい。
【0018】
これによりこのカーオーディオシステム1において、マイクアンプ7は、マイクMCの出力信号を所定利得で増幅して出力し、アナログディジタル変換回路(A/D)8は、このマイクアンプ7の出力信号をアナログディジタル変換処理して収音データD1を出力する。
【0019】
ここで図4は、この音場設定に係る処理プログラムによるディジタルシグナルプロセッサ6の処理手順を示すフローチャートである。ディジタルシグナルプロセッサ6は、この処理手順を開始すると、ステップSP1からステップSP2に移り、スピーカの存在確認処理を実行する。ここでディジタルシグナルプロセッサ6は、各系統に順次選択的にテスト信号を出力すると共に、このテスト信号の出力に対応する収音データD1の信号レベルの変化を判定することにより、マイクMCから応答が得られるか否か判定してスピーカの存在を各系統毎に確認する。
【0020】
続いてディジタルシグナルプロセッサ6は、ステップSP3に移り、各系統について、特性測定に供する音量を設定する。ここでディジタルシグナルプロセッサ6は、この場合も、各系統に順次選択的にテスト信号を出力すると共に、このテスト信号の出力に対応する収音データD1の信号レベルを判定し、この判定結果により特性測定に供する音量を各系統毎に設定する。
【0021】
続いてディジタルシグナルプロセッサ6は、ステップSP4に移り、本測定の処理を実行する。ここでディジタルシグナルプロセッサ6は、この場合も、各系統に順次選択的にテスト信号を出力すると共に、このテスト信号の出力に対応する収音データD1を取得してメモリに記録し、続くステップSP5において、このメモリに記録した収音データD1を解析する。ディジタルシグナルプロセッサ6は、このステップSP5における解析により、各スピーカ出力のマイクMCまでの伝搬時間を計測し、また各スピーカ出力の周波数特性を計測する。
【0022】
続いてディジタルシグナルプロセッサ6は、ステップSP6に移り、ステップSP5による各種計測結果により各系統に係るオーディオデータの補正量を設定する。ここでディジタルシグナルプロセッサ6は、ステップSP5による計測結果のうちの、各スピーカ出力のマイクMCまでの伝搬時間の計測結果により、スピーカ出力が運転手の耳に到達するまでの系統間の時間差を補正するように、各系統のオーディオデータに遅延時間を設定して出力し、これによりいわゆるタイムアライメントの調整処理を実行する。またステップSP5による周波数特性の計測結果により、各スピーカから出力されるオーディオ信号の周波数特性が目標の周波数特性になるように、オーディオデータの補正に係る周波数特性を設定する。なおここでこの目標の周波数特性は、例えば平坦な周波数特性である。
【0023】
このようにして各種特性を設定すると、ディジタルシグナルプロセッサ6は、ステップSP7に移ってこの処理手順を終了し、この一連の処理により設定した特性により各系統のオーディオデータを処理する。
【0024】
図1は、図4のステップSP4及びステップSP5に係る本測定処理、測定結果解析処理のうちの、伝搬時間の測定に係る処理手順を示すフローチャートである。ディジタルシグナルプロセッサ6は、この処理手順を開始すると、ステップSP11からステップSP12に移り、ここで6個のスピーカに係る系統の1つを選択して、この選択した系統にバースト信号によるテスト信号を一定時間出力する。なおここでこのバースト信号は、サブウーハーRCの系統について伝搬時間を測定する場合、例えば周波数が100〔Hz〕に設定される。
【0025】
またディジタルシグナルプロセッサ6は、続くステップSP13において、バースト信号の出力開始と同時に、マイクMCによる収音データD1の取得を開始し、この収音データD1を一定時間、取得してメモリに記録する。これによりディジタルシグナルプロセッサ6は、バースト信号により駆動されるスピーカ出力を取得して保持する。
【0026】
続いてディジタルシグナルプロセッサ6は、ステップSP14において、このメモリに記録した収音データD1を時間軸の順序により順次読み出してIIRフィルタによりフィルタリング処理する。ここでサブウーハーRCの系統について伝搬時間を測定する場合、この実施例では、図5に示すように、このフィルタリング処理に、カットオフ周波数を200〔Hz〕としたローパスフィルタに係るフィルタリング処理が適用される。またサブウーハーRC以外の系統について伝搬時間を測定する場合、バースト信号の周波数を通過帯域に設定したバンドパスフィルタの処理に係るフィルタリング処理が適用される。
【0027】
これによりディジタルシグナルプロセッサ6は、時間軸方向のIIRフィルタによるフィルタリング処理により、バースト信号によるスピーカ出力の収音データD1から周波数の高いノイズ成分を除去し、このフィルタリング処理結果による収音データD1は、位相が変化することになる。
【0028】
ディジタルシグナルプロセッサ6は、この処理結果による収音データD1をメモリに記録して保持した後、続くステップSP15において、このメモリに記録したフィルタリング処理による収音データD1を時間軸を逆上る順序により順次読み出してIIRフィルタによりフィルタリング処理する。ここでこのフィルタリング処理は、図6に示すように、ステップSP14により実行したフィルタリング処理と同一の特性による処理が適用され、これによりディジタルシグナルプロセッサ6は、時間軸を逆上る方向のフィルタリング処理により、バースト信号によるスピーカ出力の収音データD1から周波数の高いノイズ成分を除去する。
【0029】
これによりこの2度目のフィルタリング処理結果による収音データD1は、位相特性が変化するものの、1回目のフィルタリング処理に係る時間軸方向とは逆に、時間軸を逆上る順序により処理していることにより、1回目のフィルタリング処理に係る位相の変化を打ち消すように位相が変化することになる。これにより1回目のフィルタリング処理と2回目のフィルタリング処理とによる総合の特性にあっては、図7に示すように、何ら位相特性に変化を与えないようにして、所望の振幅特性を確保することができる。
【0030】
なおこれによりディジタルシグナルプロセッサ6は、サブウーハーRCの処理に関して、図8に示す等化回路による2次のフィルタ回路を構成することになる。なおこの等化回路は、バッファアンプ11、加算回路12、13を介して収音データD1を出力するようにして、遅延時間が1クロック周期の期間である遅延回路(Z−1)14、15を順次介して加算回路12の出力データを遅延させる。またこの遅延回路14、15の各出力データをバッファアンプ16、17を介して、入力側の加算回路12に出力し、また遅延回路14、15の各出力データをバッファアンプ18、19を介して、出力側の加算回路13に出力する。
【0031】
図9は、周波数1〔kHz〕による具体的なテスト信号を示す信号波形図である。また図10は、このテスト信号に周波数10〔kHz〕の正弦波信号によるノイズ成分を混入した信号波形図であり、マイクMCで実際に取得される収音データD1をシュミレーションするものである。図11は、この図10に示すノイズの重畳された信号を時間軸方向にフィルタリングした信号波形図であり、図12は、さらに時間軸を逆上る方向にフィルタリングした場合の信号波形図である。図13は、元のテスト信号の信号波形図(図9)と、図11及び図12に示す信号波形図とを重ね合わせた信号波形図であり、1回目のフィルタリング処理により発生した遅延時間が、2回目のフィルタリング処理で解消されていることが判る。
【0032】
これらによりディジタルシグナルプロセッサ6は、収音データD1におけるバースト信号成分に時間変動を与えないようにしてノイズを除去し、処理結果をメモリに記録する。
【0033】
続いてディジタルシグナルプロセッサ6は、ステップSP16に移り、このノイズを除去してメモリに記録した収音データD1を時間軸方向に順次読み出し、信号レベルの立ち上がり、立ち下がりを検出し、この信号レベルの立ち上がり、立ち下がりのタイミングによりスピーカ出力の伝搬時間を検出する。
【0034】
また続くステップSP17において、全ての系統について処理を完了したか否か判断し、ここで否定結果が得られると、ステップSP17からステップSP18に移り、処理対象を続く系統に切り換えた後、ステップSP12に戻る。
【0035】
これによりディジタルシグナルプロセッサ6は、スピーカFC〜RRに係る6系統の全てについて、ステップSP12−SP13−SP14−SP15−SP16の処理手順を繰り返し、各スピーカ出力の伝搬時間を計測し、全ての系統について処理を完了すると、ステップSP17からステップSP19に移り、元の処理手順に戻る。
【0036】
(2)実施例の動作
以上の構成において、このカーオーディオシステム1では(図2)、ソース5により提供される音楽コンテンツに係るオーディオデータがディジタルシグナルプロセッサ6により処理されてスピーカFC〜RRに係る駆動系に出力される。ここで各駆動系では、ディジタルアナログ変換回路2によりディジタルシグナルプロセッサ6から出力されるオーディオデータがアナログ信号に変換された後、プリアンプ3により音量が設定され、このプリアンプ3の出力信号により対応するスピーカが駆動され、これによりこのカーオーディオシステム1では、ソース5による音楽コンテンツがユーザーに提供される。
【0037】
しかしてこのようなオーディオシステム1では、車両に搭載されて使用され、この車両の空間が密閉された狭い空間であることにより、特定周波数で共振が表れたりし、これにより屋内で視聴する場合に比して、著しく周波数特性が劣化する。またリスニングポイントも必ずしも最適ではなく、例えば運転手にあっては、右側フロントのスピーカFRに接近した位置で音楽コンテンツを視聴することになり、これにより音像の定位も不確かなものとなる(図3)。
【0038】
このためこのカーオーディオシステム1では、ユーザーによる操作により、ディジタルシグナルプロセッサ6で音場設定の処理が実行され(図4)、これにより音場の特性が計測され、この計測結果に基づいて、各スピーカの駆動に係る周波数特性、各スピーカに係るオーディオデータの遅延時間が設定され、これにより最適な音場となるように音場の特性が設定される。
【0039】
具体的に、カーオーディオシステム1では、始めにスピーカFC〜RRの駆動に係る系統毎に、順次選択的にテスト信号を出力してマイクMCより得られる応答の確認により、各系統へのスピーカの接続が確認され、このスピーカの接続が確認された系統毎に、順次選択的にテスト信号を出力してマイクMCにより得られる応答が確認されて音量が設定される。またこの音量により、特性測定用のテスト信号により順次選択的に各系統が駆動され、マイクMCにより得られる応答の解析により音場に係る特性が順次計測される。
【0040】
この一連の処理において(図1)、カーオーディオシステム1では、バースト信号によるテスト信号によりスピーカが駆動されて収音データD1が取得され、この収音データD1がIIRフィルタによりフィルタリング処理されてノイズが除去される。このフィルタリング処理において、収音データD1は、始めに、時間軸方向にフィルタリング処理された後、同一の特性により時間軸を逆上る方向にフィルタリング処理される。これにより初めのフィルタリング処理により発生した位相遅れに対して、2回目のフィルタリング処理によりこの位相遅れを打ち消すように位相遅れが発生し、結局、何ら位相遅れを生じることなくノイズを除去することができる。これによりこの実施例では、ノイズの多い環境下でも確実に伝搬時間を計測することができる。
【0041】
またこのようなフィルタリング処理がIIRフィルタにより実行されることにより、簡易な構成により確実に伝搬時間を計測することができる。すなわちFIRフィルタで直線位相性を持たせるようにすると、多段のタップ数が必要となり、その分、メモリの容量が増大し、さらには処理量が多くなる。具体的に、この実施例のように、カットオフ周波数が200〔Hz〕程度のローパスフィルタをFIRフィルタで構成する場合には、数百から千程度のタップ数が必要となる。これによりこのタップ数に対応する容量のバッファメモリと係数メモリがそれぞれ数百から千バイト程度必要となる。しかしながらこの実施例のようにIIRフィルタにより構成する場合、2バイト程度のメモリと、10ステップ程度の演算処理により構成することができる。
【0042】
(3)実施例の効果
以上の構成によれば、バースト信号によりスピーカを駆動してマイクにより収音するようにして、このマイクの出力信号を時間軸方向及び時間軸を逆上る方向にIIRフィルタによりフィルタリング処理することにより、テスト信号によりスピーカを駆動してスピーカ出力の伝搬時間を計測する場合に、ノイズの多い環境下でも、簡易な構成により確実に伝搬時間を計測することができる。
【0043】
これにより複数のスピーカによるシステムに適用して、各スピーカの伝搬時間の差分を補正するように、各スピーカの駆動に供するオーディオデータに遅延時間を設定することにより、音場の特性を向上することができる。
【実施例2】
【0044】
なお上述の実施例においては、初めに時間軸方向にフィルタリング処理した後、続いて時間軸を逆上る方向にフィルタリング処理する場合について述べたが、本発明はこれに限らず、これらの処理の順序を入れ換えるようにしてもよい。
【0045】
また上述の実施例においては、2次ローパスフィルタによりフィルタリング処理する場合について述べたが、本発明はこれに限らず、種々の特性によりフィルタリング処理する場合に広く適用することができる。
【0046】
また上述の実施例においては、5.1チャンネルによるオーディオシステムに本発明を適用する場合について述べたが、本発明はこれに限らず、種々のチャンネル数のオーディオシステムに広く適用することができる。
【0047】
また上述の実施例においては、ディジタルシグナルプロセッサにより複数のチャンネルの周波数特性、遅延時間をまとめて調整する場合について述べたが、本発明はこれに限らず、各チャンネル毎に調整する場合にも広く適用することができる。
【0048】
また上述の実施例においては、カーオーディオシステムに適用して音場を補正する場合について述べたが、本発明はこれに限らず、屋内のオーディオシステムに適用して音場を補正する場合にも広く適用することができ、さらには単にスピーカの伝搬時間を測定するだけの場合にも広く適用することができる。
【産業上の利用可能性】
【0049】
本発明は、例えばカーオーディオシステムに適用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0050】
【図1】本発明の実施例1に係るカーオーディオシステムのディジタルシグナルプロセッサの伝搬時間測定の処理に係る処理手順を示すフローチャートである。
【図2】本発明の実施例1に係るカーオーディオシステムを示すブロック図である。
【図3】図2のカーオーディオシステムにおけるスピーカシステムを示す平面図である。
【図4】図2のカーオーディオシステムのディジタルシグナルプロセッサの処理手順を示すフローチャートである。
【図5】図1の処理手順による1回目のフィルタリング処理の特性を示す特性曲線図である。
【図6】図1の処理手順による2回目のフィルタリング処理の特性を示す特性曲線図である。
【図7】図1の処理手順による総合の特性を示す特性曲線図である。
【図8】図1の処理による等化回路を示す接続図である。
【図9】バースト信号を示す信号波形図である。
【図10】ノイズが重畳された収音データの信号波形図である。
【図11】図10の収音データの1回目のフィルタリング処理結果を示す信号波形図である。
【図12】図10の収音データの2回目のフィルタリング処理結果を示す信号波形図である。
【図13】フィルタリング処理結果の比較を示す信号波形図である。
【符号の説明】
【0051】
1……カーオーディオシステム、2……ディジタルアナログ変換回路、3……プリアンプ、4……アンプ、5……ソース、6……ディジタルシグナルプロセッサ、7……マイクアンプ、8……ディジタルアナログ変換回路、FC〜RR……スピーカ、MC……マイク
【技術分野】
【0001】
本発明は、音場計測装置及び音場計測方法に関し、例えばカーオーディオ装置に適用することができる。本発明は、バースト信号によりスピーカを駆動してマイクにより収音するようにして、このマイクの出力信号を時間軸方向及び時間軸を逆上る方向にIIRフィルタによりフィルタリング処理することにより、テスト信号によりスピーカを駆動してスピーカ出力の伝搬時間を計測する場合に、ノイズの多い環境下でも、簡易な構成により確実に伝搬時間を計測することができるようにする。
【背景技術】
【0002】
近年、カーオーディオシステムは、サブウーハーの採用、ディジタルシグナルプロセッサによる各種特性の補正等により、一段と高音質により音楽コンテンツを提供できるように構成されている。
【0003】
このような音場の調整に関して、実開平6−13292号公報等には、スピーカをテスト信号により駆動してスピーカ出力を解析することにより、音場の各種特性を計測し、さらにはこの計測結果に基づいて音場の特性を調整する方法が提案されている。この実開平6−13292号公報では、インパルス信号をテスト信号に適用してスピーカからマイクまでの伝搬時間を計測し、この伝搬時間に基づいて各スピーカ出力に遅延時間を設定することにより、音像の定位を確実なものとする工夫が提案されている。
【0004】
ところでカーオーディオシステムでは、密閉された狭い空間で使用されることにより、搭載される車両に応じて音場の特性が大きく変化し、これにより車両に応じて音場に係る特性を種々に調整することが必要になる。このためカーオーディオシステムは、ユーザーの操作により音場を種々に調整できるように設定されている。このような音場の調整作業に実開平6−13292号公報等に開示の手法を適用すれば、ユーザーの負担を軽減して音場の特性を適切に調整することができ、ユーザーの使い勝手を一段と向上することができると考えられる。
【0005】
しかしながらカーオーディオシステムは、エアコン、エンジン音等の種々のノイズの環境下で使用される。これによりインパルス信号をテスト信号に適用してスピーカからマイクまでの伝搬時間を計測する場合にあっては、ノイズにより正しく伝搬時間を計測できない問題がある。
【0006】
この問題を解決する1つの方法としてインパルス信号に代えてバースト信号をテスト信号に適用することが考えられる。すなわちこのようなバースト信号は、単一周波数の正弦波信号であることにより、フィルタによりノイズを除去することができ、これによりノイズの影響を回避してスピーカからマイクまでの伝搬時間を正しく計測できると考えられる。またこのようなフィルタとしては、FIR(Finite Impulse Response )フィルタ、IIR(Infinite Impulse Response )フィルタを適用することが考えられる。
【0007】
しかしながらFIRフィルタは、構成が複雑な欠点がある。これに対してIIRフィルタは、位相遅れが発生し、これによりこのような伝搬時間の計測に適用した場合、測定精度が劣化する欠点がある。
【特許文献1】実開平6−13292号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は以上の点を考慮してなされたもので、テスト信号によりスピーカを駆動してスピーカ出力の伝搬時間を計測する場合に、ノイズの多い環境下でも、簡易な構成により確実に伝搬時間を計測することができる音場計測装置及び音場計測方法を提案しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
かかる課題を解決するため請求項1の発明は、音場計測装置に適用して、バースト信号を出力する信号発生部と、前記バースト信号によりスピーカを駆動する駆動部と、前記スピーカからの出力を収音するマイクと、前記マイクの出力信号をアナログディジタル変換処理して収音データを出力するアナログディジタル変換部と、前記収音データをフィルタリング処理するフィルタ回路と、前記フィルタ回路の出力データにより、前記スピーカの出力の前記マイクまでの伝搬時間を検出する解析部とを備え、前記フィルタ回路が、時間軸方向に前記収音データをフィルタリング処理した後、時間軸を逆上る方向に前記収音データをフィルタリング処理するIIRフィルタ、又は時間軸を逆上る方向に前記収音データをフィルタリング処理した後、時間軸方向に前記収音データをフィルタリング処理するIIRフィルタであるようにする。
【0010】
また請求項3の発明は、音場計測方法に適用して、バースト信号によりスピーカを駆動するスピーカ駆動のステップと、前記スピーカからの出力をマイクにより収音する収音のステップと、前記マイクの出力信号をアナログディジタル変換処理して収音データを生成するアナログディジタル変換処理のステップと、前記収音データをフィルタリング処理するフィルタリングのステップと、前記フィルタリングによる処理結果により、前記スピーカの出力の前記マイクまでの伝搬時間を検出する時間解析のステップとを有し、前記フィルタリングのステップが、時間軸方向に、又は時間軸を逆上る方向に、前記収音データをIIRフィルタによりフィルタリング処理する第1のフィルタリングのステップと、時間軸を逆上る方向に、又は時間軸方向に、前記第1のフィルタリングのステップによる処理結果をIIRフィルタによりフィルタリング処理する第2のフィルタリングのステップとを有するようにする。
【0011】
請求項1の構成により、音場計測装置に適用して、バースト信号を出力する信号発生部と、前記バースト信号によりスピーカを駆動する駆動部と、前記スピーカからの出力を収音するマイクと、前記マイクの出力信号をアナログディジタル変換処理して収音データを出力するアナログディジタル変換部と、前記収音データをフィルタリング処理するフィルタ回路と、前記フィルタ回路の出力データにより、前記スピーカの出力の前記マイクまでの伝搬時間を検出する解析部とを備え、前記フィルタ回路が、時間軸方向に前記収音データをフィルタリング処理した後、時間軸を逆上る方向に前記収音データをフィルタリング処理するIIRフィルタ、又は時間軸を逆上る方向に前記収音データをフィルタリング処理した後、時間軸方向に前記収音データをフィルタリング処理するIIRフィルタであるようにすれば、FIRフィルタによる場合に比して簡易な構成により収音データからノイズを除去することができる。また時間軸方向と、時間軸を逆上る方向との繰り返しのフィルタリング処理により、IIRフィルタによる処理に伴う位相遅れを、これら2回の処理で打ち消し合うことができる。これによりノイズの多い環境下でも、簡易な構成により確実に伝搬時間を計測することができる。
【0012】
またこれにより請求項3の構成によれば、テスト信号によりスピーカを駆動してスピーカ出力の伝搬時間を計測する場合に、ノイズの多い環境下でも、簡易な構成により確実に伝搬時間を計測することができる音場計測方法を提供することができる。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、テスト信号によりスピーカを駆動してスピーカ出力の伝搬時間を計測する場合に、ノイズの多い環境下でも、簡易な構成により確実に伝搬時間を計測することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下、適宜図面を参照しながら本発明の実施例を詳述する。
【実施例1】
【0015】
(1)実施例の構成
図2は、本発明の実施例に係るカーオーディオシステムを示すブロック図である。このカーオーディオシステム1は、5.1チャンネルにより音楽コンテンツをユーザーに提供する。このためこのカーオーディオシステム1は、図3に示すように、前席の正面、中央に、前方中央チャンネルのスピーカFCが設けられ、さらに前席、左右のドアに、それぞれ前方右チャンネル及び前方左チャンネルのスピーカFR及びFLが設けられる。また後席、左右のドアに、それぞれ後方右チャンネル及び後方左チャンネルのスピーカRR及びRLが設けられ、さらに後席の後方、中央にサブウーハーRCが設けられる。またこれらスピーカFC〜RRの出力を収音するマイクMCが、運転者の座席、運転者の頭部が位置する近傍に配置される。
【0016】
これによりカーオーディオシステム1は、各スピーカFC〜RR毎に、オーディオデータをディジタルアナログ変換処理してオーディオ信号を出力するディジタルアナログ変換回路(D/A)2、このディジタルアナログ変換回路2から出力されるオーディオ信号の音量等を設定するプリアンプ3、プリアンプ3の出力信号によりスピーカを駆動するアンプ4が設けられる。また光ディスクプレイヤー等の音楽コンテンツのソース5が設けられ、このソース5から出力されるオーディオデータを処理して各スピーカの系統に出力するディジタルシグナルプロセッサ(DSP:Digital Signal Processor)6が設けられる。
【0017】
ここでディジタルシグナルプロセッサ6は、このオーディオデータの処理において、オーディオデータの周波数特性等を補正し、これによりスピーカFC〜RRにより形成される音場が最適となるように、これらスピーカFC〜RRの音場を補正する。ディジタルシグナルプロセッサ6は、ユーザーによる指示により、事前に、音場設定に係る処理プログラムを実行することにより、このオーディオデータの補正基準を、マイクMCで取得される各スピーカFC〜RRの出力に基づいて設定する。なおこれによりこの実施例において、この処理プログラムは、このカーオーディオシステム1に事前にインストールされて提供されるものの、このような事前のインストールに代えて、インターネット等のネットワークを介してダウンロードにより提供してもよく、また光ディスク、磁気ディスク、メモリカード等の各種記録媒体に記録して提供するようにしてもよい。
【0018】
これによりこのカーオーディオシステム1において、マイクアンプ7は、マイクMCの出力信号を所定利得で増幅して出力し、アナログディジタル変換回路(A/D)8は、このマイクアンプ7の出力信号をアナログディジタル変換処理して収音データD1を出力する。
【0019】
ここで図4は、この音場設定に係る処理プログラムによるディジタルシグナルプロセッサ6の処理手順を示すフローチャートである。ディジタルシグナルプロセッサ6は、この処理手順を開始すると、ステップSP1からステップSP2に移り、スピーカの存在確認処理を実行する。ここでディジタルシグナルプロセッサ6は、各系統に順次選択的にテスト信号を出力すると共に、このテスト信号の出力に対応する収音データD1の信号レベルの変化を判定することにより、マイクMCから応答が得られるか否か判定してスピーカの存在を各系統毎に確認する。
【0020】
続いてディジタルシグナルプロセッサ6は、ステップSP3に移り、各系統について、特性測定に供する音量を設定する。ここでディジタルシグナルプロセッサ6は、この場合も、各系統に順次選択的にテスト信号を出力すると共に、このテスト信号の出力に対応する収音データD1の信号レベルを判定し、この判定結果により特性測定に供する音量を各系統毎に設定する。
【0021】
続いてディジタルシグナルプロセッサ6は、ステップSP4に移り、本測定の処理を実行する。ここでディジタルシグナルプロセッサ6は、この場合も、各系統に順次選択的にテスト信号を出力すると共に、このテスト信号の出力に対応する収音データD1を取得してメモリに記録し、続くステップSP5において、このメモリに記録した収音データD1を解析する。ディジタルシグナルプロセッサ6は、このステップSP5における解析により、各スピーカ出力のマイクMCまでの伝搬時間を計測し、また各スピーカ出力の周波数特性を計測する。
【0022】
続いてディジタルシグナルプロセッサ6は、ステップSP6に移り、ステップSP5による各種計測結果により各系統に係るオーディオデータの補正量を設定する。ここでディジタルシグナルプロセッサ6は、ステップSP5による計測結果のうちの、各スピーカ出力のマイクMCまでの伝搬時間の計測結果により、スピーカ出力が運転手の耳に到達するまでの系統間の時間差を補正するように、各系統のオーディオデータに遅延時間を設定して出力し、これによりいわゆるタイムアライメントの調整処理を実行する。またステップSP5による周波数特性の計測結果により、各スピーカから出力されるオーディオ信号の周波数特性が目標の周波数特性になるように、オーディオデータの補正に係る周波数特性を設定する。なおここでこの目標の周波数特性は、例えば平坦な周波数特性である。
【0023】
このようにして各種特性を設定すると、ディジタルシグナルプロセッサ6は、ステップSP7に移ってこの処理手順を終了し、この一連の処理により設定した特性により各系統のオーディオデータを処理する。
【0024】
図1は、図4のステップSP4及びステップSP5に係る本測定処理、測定結果解析処理のうちの、伝搬時間の測定に係る処理手順を示すフローチャートである。ディジタルシグナルプロセッサ6は、この処理手順を開始すると、ステップSP11からステップSP12に移り、ここで6個のスピーカに係る系統の1つを選択して、この選択した系統にバースト信号によるテスト信号を一定時間出力する。なおここでこのバースト信号は、サブウーハーRCの系統について伝搬時間を測定する場合、例えば周波数が100〔Hz〕に設定される。
【0025】
またディジタルシグナルプロセッサ6は、続くステップSP13において、バースト信号の出力開始と同時に、マイクMCによる収音データD1の取得を開始し、この収音データD1を一定時間、取得してメモリに記録する。これによりディジタルシグナルプロセッサ6は、バースト信号により駆動されるスピーカ出力を取得して保持する。
【0026】
続いてディジタルシグナルプロセッサ6は、ステップSP14において、このメモリに記録した収音データD1を時間軸の順序により順次読み出してIIRフィルタによりフィルタリング処理する。ここでサブウーハーRCの系統について伝搬時間を測定する場合、この実施例では、図5に示すように、このフィルタリング処理に、カットオフ周波数を200〔Hz〕としたローパスフィルタに係るフィルタリング処理が適用される。またサブウーハーRC以外の系統について伝搬時間を測定する場合、バースト信号の周波数を通過帯域に設定したバンドパスフィルタの処理に係るフィルタリング処理が適用される。
【0027】
これによりディジタルシグナルプロセッサ6は、時間軸方向のIIRフィルタによるフィルタリング処理により、バースト信号によるスピーカ出力の収音データD1から周波数の高いノイズ成分を除去し、このフィルタリング処理結果による収音データD1は、位相が変化することになる。
【0028】
ディジタルシグナルプロセッサ6は、この処理結果による収音データD1をメモリに記録して保持した後、続くステップSP15において、このメモリに記録したフィルタリング処理による収音データD1を時間軸を逆上る順序により順次読み出してIIRフィルタによりフィルタリング処理する。ここでこのフィルタリング処理は、図6に示すように、ステップSP14により実行したフィルタリング処理と同一の特性による処理が適用され、これによりディジタルシグナルプロセッサ6は、時間軸を逆上る方向のフィルタリング処理により、バースト信号によるスピーカ出力の収音データD1から周波数の高いノイズ成分を除去する。
【0029】
これによりこの2度目のフィルタリング処理結果による収音データD1は、位相特性が変化するものの、1回目のフィルタリング処理に係る時間軸方向とは逆に、時間軸を逆上る順序により処理していることにより、1回目のフィルタリング処理に係る位相の変化を打ち消すように位相が変化することになる。これにより1回目のフィルタリング処理と2回目のフィルタリング処理とによる総合の特性にあっては、図7に示すように、何ら位相特性に変化を与えないようにして、所望の振幅特性を確保することができる。
【0030】
なおこれによりディジタルシグナルプロセッサ6は、サブウーハーRCの処理に関して、図8に示す等化回路による2次のフィルタ回路を構成することになる。なおこの等化回路は、バッファアンプ11、加算回路12、13を介して収音データD1を出力するようにして、遅延時間が1クロック周期の期間である遅延回路(Z−1)14、15を順次介して加算回路12の出力データを遅延させる。またこの遅延回路14、15の各出力データをバッファアンプ16、17を介して、入力側の加算回路12に出力し、また遅延回路14、15の各出力データをバッファアンプ18、19を介して、出力側の加算回路13に出力する。
【0031】
図9は、周波数1〔kHz〕による具体的なテスト信号を示す信号波形図である。また図10は、このテスト信号に周波数10〔kHz〕の正弦波信号によるノイズ成分を混入した信号波形図であり、マイクMCで実際に取得される収音データD1をシュミレーションするものである。図11は、この図10に示すノイズの重畳された信号を時間軸方向にフィルタリングした信号波形図であり、図12は、さらに時間軸を逆上る方向にフィルタリングした場合の信号波形図である。図13は、元のテスト信号の信号波形図(図9)と、図11及び図12に示す信号波形図とを重ね合わせた信号波形図であり、1回目のフィルタリング処理により発生した遅延時間が、2回目のフィルタリング処理で解消されていることが判る。
【0032】
これらによりディジタルシグナルプロセッサ6は、収音データD1におけるバースト信号成分に時間変動を与えないようにしてノイズを除去し、処理結果をメモリに記録する。
【0033】
続いてディジタルシグナルプロセッサ6は、ステップSP16に移り、このノイズを除去してメモリに記録した収音データD1を時間軸方向に順次読み出し、信号レベルの立ち上がり、立ち下がりを検出し、この信号レベルの立ち上がり、立ち下がりのタイミングによりスピーカ出力の伝搬時間を検出する。
【0034】
また続くステップSP17において、全ての系統について処理を完了したか否か判断し、ここで否定結果が得られると、ステップSP17からステップSP18に移り、処理対象を続く系統に切り換えた後、ステップSP12に戻る。
【0035】
これによりディジタルシグナルプロセッサ6は、スピーカFC〜RRに係る6系統の全てについて、ステップSP12−SP13−SP14−SP15−SP16の処理手順を繰り返し、各スピーカ出力の伝搬時間を計測し、全ての系統について処理を完了すると、ステップSP17からステップSP19に移り、元の処理手順に戻る。
【0036】
(2)実施例の動作
以上の構成において、このカーオーディオシステム1では(図2)、ソース5により提供される音楽コンテンツに係るオーディオデータがディジタルシグナルプロセッサ6により処理されてスピーカFC〜RRに係る駆動系に出力される。ここで各駆動系では、ディジタルアナログ変換回路2によりディジタルシグナルプロセッサ6から出力されるオーディオデータがアナログ信号に変換された後、プリアンプ3により音量が設定され、このプリアンプ3の出力信号により対応するスピーカが駆動され、これによりこのカーオーディオシステム1では、ソース5による音楽コンテンツがユーザーに提供される。
【0037】
しかしてこのようなオーディオシステム1では、車両に搭載されて使用され、この車両の空間が密閉された狭い空間であることにより、特定周波数で共振が表れたりし、これにより屋内で視聴する場合に比して、著しく周波数特性が劣化する。またリスニングポイントも必ずしも最適ではなく、例えば運転手にあっては、右側フロントのスピーカFRに接近した位置で音楽コンテンツを視聴することになり、これにより音像の定位も不確かなものとなる(図3)。
【0038】
このためこのカーオーディオシステム1では、ユーザーによる操作により、ディジタルシグナルプロセッサ6で音場設定の処理が実行され(図4)、これにより音場の特性が計測され、この計測結果に基づいて、各スピーカの駆動に係る周波数特性、各スピーカに係るオーディオデータの遅延時間が設定され、これにより最適な音場となるように音場の特性が設定される。
【0039】
具体的に、カーオーディオシステム1では、始めにスピーカFC〜RRの駆動に係る系統毎に、順次選択的にテスト信号を出力してマイクMCより得られる応答の確認により、各系統へのスピーカの接続が確認され、このスピーカの接続が確認された系統毎に、順次選択的にテスト信号を出力してマイクMCにより得られる応答が確認されて音量が設定される。またこの音量により、特性測定用のテスト信号により順次選択的に各系統が駆動され、マイクMCにより得られる応答の解析により音場に係る特性が順次計測される。
【0040】
この一連の処理において(図1)、カーオーディオシステム1では、バースト信号によるテスト信号によりスピーカが駆動されて収音データD1が取得され、この収音データD1がIIRフィルタによりフィルタリング処理されてノイズが除去される。このフィルタリング処理において、収音データD1は、始めに、時間軸方向にフィルタリング処理された後、同一の特性により時間軸を逆上る方向にフィルタリング処理される。これにより初めのフィルタリング処理により発生した位相遅れに対して、2回目のフィルタリング処理によりこの位相遅れを打ち消すように位相遅れが発生し、結局、何ら位相遅れを生じることなくノイズを除去することができる。これによりこの実施例では、ノイズの多い環境下でも確実に伝搬時間を計測することができる。
【0041】
またこのようなフィルタリング処理がIIRフィルタにより実行されることにより、簡易な構成により確実に伝搬時間を計測することができる。すなわちFIRフィルタで直線位相性を持たせるようにすると、多段のタップ数が必要となり、その分、メモリの容量が増大し、さらには処理量が多くなる。具体的に、この実施例のように、カットオフ周波数が200〔Hz〕程度のローパスフィルタをFIRフィルタで構成する場合には、数百から千程度のタップ数が必要となる。これによりこのタップ数に対応する容量のバッファメモリと係数メモリがそれぞれ数百から千バイト程度必要となる。しかしながらこの実施例のようにIIRフィルタにより構成する場合、2バイト程度のメモリと、10ステップ程度の演算処理により構成することができる。
【0042】
(3)実施例の効果
以上の構成によれば、バースト信号によりスピーカを駆動してマイクにより収音するようにして、このマイクの出力信号を時間軸方向及び時間軸を逆上る方向にIIRフィルタによりフィルタリング処理することにより、テスト信号によりスピーカを駆動してスピーカ出力の伝搬時間を計測する場合に、ノイズの多い環境下でも、簡易な構成により確実に伝搬時間を計測することができる。
【0043】
これにより複数のスピーカによるシステムに適用して、各スピーカの伝搬時間の差分を補正するように、各スピーカの駆動に供するオーディオデータに遅延時間を設定することにより、音場の特性を向上することができる。
【実施例2】
【0044】
なお上述の実施例においては、初めに時間軸方向にフィルタリング処理した後、続いて時間軸を逆上る方向にフィルタリング処理する場合について述べたが、本発明はこれに限らず、これらの処理の順序を入れ換えるようにしてもよい。
【0045】
また上述の実施例においては、2次ローパスフィルタによりフィルタリング処理する場合について述べたが、本発明はこれに限らず、種々の特性によりフィルタリング処理する場合に広く適用することができる。
【0046】
また上述の実施例においては、5.1チャンネルによるオーディオシステムに本発明を適用する場合について述べたが、本発明はこれに限らず、種々のチャンネル数のオーディオシステムに広く適用することができる。
【0047】
また上述の実施例においては、ディジタルシグナルプロセッサにより複数のチャンネルの周波数特性、遅延時間をまとめて調整する場合について述べたが、本発明はこれに限らず、各チャンネル毎に調整する場合にも広く適用することができる。
【0048】
また上述の実施例においては、カーオーディオシステムに適用して音場を補正する場合について述べたが、本発明はこれに限らず、屋内のオーディオシステムに適用して音場を補正する場合にも広く適用することができ、さらには単にスピーカの伝搬時間を測定するだけの場合にも広く適用することができる。
【産業上の利用可能性】
【0049】
本発明は、例えばカーオーディオシステムに適用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0050】
【図1】本発明の実施例1に係るカーオーディオシステムのディジタルシグナルプロセッサの伝搬時間測定の処理に係る処理手順を示すフローチャートである。
【図2】本発明の実施例1に係るカーオーディオシステムを示すブロック図である。
【図3】図2のカーオーディオシステムにおけるスピーカシステムを示す平面図である。
【図4】図2のカーオーディオシステムのディジタルシグナルプロセッサの処理手順を示すフローチャートである。
【図5】図1の処理手順による1回目のフィルタリング処理の特性を示す特性曲線図である。
【図6】図1の処理手順による2回目のフィルタリング処理の特性を示す特性曲線図である。
【図7】図1の処理手順による総合の特性を示す特性曲線図である。
【図8】図1の処理による等化回路を示す接続図である。
【図9】バースト信号を示す信号波形図である。
【図10】ノイズが重畳された収音データの信号波形図である。
【図11】図10の収音データの1回目のフィルタリング処理結果を示す信号波形図である。
【図12】図10の収音データの2回目のフィルタリング処理結果を示す信号波形図である。
【図13】フィルタリング処理結果の比較を示す信号波形図である。
【符号の説明】
【0051】
1……カーオーディオシステム、2……ディジタルアナログ変換回路、3……プリアンプ、4……アンプ、5……ソース、6……ディジタルシグナルプロセッサ、7……マイクアンプ、8……ディジタルアナログ変換回路、FC〜RR……スピーカ、MC……マイク
【特許請求の範囲】
【請求項1】
バースト信号を出力する信号発生部と、
前記バースト信号によりスピーカを駆動する駆動部と、
前記スピーカからの出力を収音するマイクと、
前記マイクの出力信号をアナログディジタル変換処理して収音データを出力するアナログディジタル変換部と、
前記収音データをフィルタリング処理するフィルタ回路と、
前記フィルタ回路の出力データにより、前記スピーカの出力の前記マイクまでの伝搬時間を検出する解析部とを備え、
前記フィルタ回路が、
時間軸方向に前記収音データをフィルタリング処理した後、時間軸を逆上る方向に前記収音データをフィルタリング処理するIIRフィルタ、又は時間軸を逆上る方向に前記収音データをフィルタリング処理した後、時間軸方向に前記収音データをフィルタリング処理するIIRフィルタである
ことを特徴とする音場計測装置。
【請求項2】
前記スピーカが複数個設けられ、
前記駆動部は、
前記各スピーカをそれぞれ駆動する駆動系が設けられ、
前記各スピーカ毎に、前記伝搬時間を計測し、該伝搬時間の差分を補正するように、各スピーカの駆動に供するオーディオデータに遅延時間を設定する
ことを特徴とする請求項1に記載の音場計測装置。
【請求項3】
バースト信号によりスピーカを駆動するスピーカ駆動のステップと、
前記スピーカからの出力をマイクにより収音する収音のステップと、
前記マイクの出力信号をアナログディジタル変換処理して収音データを生成するアナログディジタル変換処理のステップと、
前記収音データをフィルタリング処理するフィルタリングのステップと、
前記フィルタリングによる処理結果により、前記スピーカの出力の前記マイクまでの伝搬時間を検出する時間解析のステップとを有し、
前記フィルタリングのステップが、
時間軸方向に、又は時間軸を逆上る方向に、前記収音データをIIRフィルタによりフィルタリング処理する第1のフィルタリングのステップと、
時間軸を逆上る方向に、又は時間軸方向に、前記第1のフィルタリングのステップによる処理結果をIIRフィルタによりフィルタリング処理する第2のフィルタリングのステップとを有する
ことを特徴とする音場計測方法。
【請求項1】
バースト信号を出力する信号発生部と、
前記バースト信号によりスピーカを駆動する駆動部と、
前記スピーカからの出力を収音するマイクと、
前記マイクの出力信号をアナログディジタル変換処理して収音データを出力するアナログディジタル変換部と、
前記収音データをフィルタリング処理するフィルタ回路と、
前記フィルタ回路の出力データにより、前記スピーカの出力の前記マイクまでの伝搬時間を検出する解析部とを備え、
前記フィルタ回路が、
時間軸方向に前記収音データをフィルタリング処理した後、時間軸を逆上る方向に前記収音データをフィルタリング処理するIIRフィルタ、又は時間軸を逆上る方向に前記収音データをフィルタリング処理した後、時間軸方向に前記収音データをフィルタリング処理するIIRフィルタである
ことを特徴とする音場計測装置。
【請求項2】
前記スピーカが複数個設けられ、
前記駆動部は、
前記各スピーカをそれぞれ駆動する駆動系が設けられ、
前記各スピーカ毎に、前記伝搬時間を計測し、該伝搬時間の差分を補正するように、各スピーカの駆動に供するオーディオデータに遅延時間を設定する
ことを特徴とする請求項1に記載の音場計測装置。
【請求項3】
バースト信号によりスピーカを駆動するスピーカ駆動のステップと、
前記スピーカからの出力をマイクにより収音する収音のステップと、
前記マイクの出力信号をアナログディジタル変換処理して収音データを生成するアナログディジタル変換処理のステップと、
前記収音データをフィルタリング処理するフィルタリングのステップと、
前記フィルタリングによる処理結果により、前記スピーカの出力の前記マイクまでの伝搬時間を検出する時間解析のステップとを有し、
前記フィルタリングのステップが、
時間軸方向に、又は時間軸を逆上る方向に、前記収音データをIIRフィルタによりフィルタリング処理する第1のフィルタリングのステップと、
時間軸を逆上る方向に、又は時間軸方向に、前記第1のフィルタリングのステップによる処理結果をIIRフィルタによりフィルタリング処理する第2のフィルタリングのステップとを有する
ことを特徴とする音場計測方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【公開番号】特開2007−43442(P2007−43442A)
【公開日】平成19年2月15日(2007.2.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−224854(P2005−224854)
【出願日】平成17年8月3日(2005.8.3)
【出願人】(000002185)ソニー株式会社 (34,172)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成19年2月15日(2007.2.15)
【国際特許分類】
【出願日】平成17年8月3日(2005.8.3)
【出願人】(000002185)ソニー株式会社 (34,172)
【Fターム(参考)】
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