説明

音響用擬似三極管特性増幅装置および音響用擬似三極管特性プッシュプル増幅装置

【課題】半導体素子を用いた音響用増幅装置において、その特性を三極管アンプの特性に近似させると共に、負荷に供給される出力信号の歪み成分を低減することを目的とする。
【解決手段】入力端子T1は、差動増幅回路12の正相端子に接続されている。差動増幅回路12の逆相端子はトランジスタ10のエミッタ電極に接続され、出力端子はトランジスタ10のベース電極に接続されている。トランジスタ10のコレクタ電極と入力端子T1との間には、入力側抵抗器R2が接続され、入力端子T1と接地導体との間には副入力側抵抗器R3が接続されている。トランジスタ10のエミッタ電極と接地導体との間には出力側抵抗器R1が接続されている。そして、トランジスタ10のコレクタ電極には、負荷端子TLが接続されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、音響用増幅装置に関し、半導体素子を用いた音響用増幅装置の特性改善に関する。
【背景技術】
【0002】
チューナ、CDプレーヤ、携帯メディアプレーヤ等の音源機器から出力された音響信号を増幅しスピーカを駆動するオーディオアンプが広く用いられている。従来においては、自然な音を発するアンプとして三極管を用いたアンプが親しまれていた。しかし、三極管等の真空管には寿命が短いという問題があり、バイポーラトランジスタ、電界効果トランジスタ等の半導体素子を用いたオーディオアンプが真空管オーディオアンプに取って代わった。半導体素子を用いたオーディオアンプには、バイアス電圧の安定化、出力信号に含まれる歪み成分の低減等を目的として、最終段回路と初段回路との間に負帰還経路が設けられることが多い。
【0003】
なお、以下の特許文献1には、最終段回路から初段回路に負帰還経路が設けられたオーディオ用パワーアンプが記載されている。また、特許文献2には、三極管領域で動作するMOSFETを増幅装置が記載されている。ここで三極管領域とは、ドレイン電流とドレイン・ソース間電圧との関係が、三極管におけるプレート電流とプレート・カソード間電圧との関係に近似した領域をいう。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平6−276037号公報
【特許文献2】特開2000−349568号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
負帰還経路が設けられたオーディオアンプでは、負荷が線形特性を有する抵抗器であるとみなせる場合には、負帰還経路による特性改善効果がある。しかし、通常、負荷は非線形特性を有するスピーカである。このような場合、スピーカを駆動する出力信号の特性改善に負帰還経路が必ずしも寄与せず、不自然な音がスピーカから発せられることがある。
【0006】
本発明は、半導体素子を用いた音響用増幅装置において、その特性を三極管アンプの特性に近似させると共に、負荷に供給される出力信号の歪み成分を低減することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、第1電極、第2電極、および制御電極を備え、前記制御電極に与えられた信号に応じて前記第1電極と前記第2電極との間を流れる電流が変化する半導体素子と、電流駆動源から与えられた信号を前記制御電極に導くための入力端子と、前記第1電極から引き出された経路に設けられる負荷端子と、前記第2電極と電圧基準端子との間に設けられる第2電極側抵抗器と、前記第1電極と前記入力端子との間に設けられる入力側抵抗器と、を備えることを特徴とする。
【0008】
本発明においては、半導体素子として、バイポーラトランジスタ、FET(Field Effect Transistor)等を用いることができる。バイポーラトランジスタを用いた場合、第1電極、第2電極および制御電極は、それぞれ、コレクタ電極、エミッタ電極およびベース電極である。また、FETを用いた場合、第1電極、第2電極および制御電極は、それぞれ、ドレイン電極、ソース電極およびゲート電極である。また、半導体素子として、第1電極、第2電極、および制御電極を備え、前記制御電極に与えられた信号に応じて前記第1電極と前記第2電極との間を流れる電流が変化するレギュレータ素子を用いてもよい。
【0009】
本発明に係る音響用擬似三極管特性増幅装置は、望ましくは、前記入力端子の電圧と前記第2電極の電圧との関係を一定に保持すると共に、前記入力端子の電圧に応じた電圧を前記制御電極に出力する電圧保持回路を備える。
【0010】
本発明に係る音響用擬似三極管特性増幅装置は、望ましくは、前記電圧保持回路は、前記入力端子に接続される第1端子、前記第2電極に接続される第2端子、および前記制御電極に接続される第3端子を備え、前記第1および第2端子を差動入力端子対として有し、前記第3端子を出力端子として有する差動増幅回路である。
【0011】
本発明に係る音響用擬似三極管特性増幅装置は、望ましくは、前記入力端子と前記電圧基準端子との間に設けられる副入力側抵抗器を備える。
【0012】
本発明に係る音響用擬似三極管特性増幅装置は、望ましくは、前記入力端子に接続され、前記第2電極と前記第2電極側抵抗器との間の経路の電圧に基づいて、前記入力側抵抗器および副入力側抵抗器に流れる各電流を調整するバイアス安定化回路を備える。
【0013】
本発明に係る音響用擬似三極管特性プッシュプル増幅装置は、前記音響用擬似三極管特性増幅装置を2つ有し、その2つの音響用擬似三極管特性増幅装置は、それぞれの負荷端子が共通に接続されたプッシュプル回路をなす。
【0014】
本発明に係る音響用擬似三極管特性プッシュプル増幅装置は、望ましくは、前記2つの音響用擬似三極管特性増幅装置のうちの一方の電圧基準端子には正の直流電圧が与えられ、他方の電圧基準端子には負の直流電圧が与えられ、前記2つの音響用擬似三極管特性増幅装置のうち一方の電圧基準端子と前記負荷端子との間に接続され、前記負荷端子の直流電位を0に近づけるドリフト安定化回路を備える。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、半導体素子を用いた音響用増幅装置において、その特性を三極管アンプの特性に近似させると共に、負荷に供給される出力信号の歪み成分を低減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】第1実施形態に係る擬似三極管特性リニアアンプの構成を示す図である。
【図2】擬似三極管回路の構成を示す図である。
【図3】負荷端子電流と負荷端子電圧との関係を示す図である。
【図4】擬似三極管特性リニアアンプの負荷特性を示す図である。
【図5】擬似三極管特性リニアアンプの具体的な構成例を示す図である。
【図6】レギュレータ素子を用いた擬似三極管特性リニアアンプの構成を示す図である。
【図7】第2実施形態に係る擬似三極管特性・OTLプッシュプルリニアアンプの構成を示す図である。
【図8】レギュレータ素子を用いた擬似三極管特性・OTLプッシュプルリニアアンプの構成を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
図1に本発明の第1実施形態に係る擬似三極管特性リニアアンプの構成を示す。擬似三極管特性リニアアンプは、半導体素子を用いつつもその特性を三極管アンプの特性に近似させると共に、出力信号の歪みを低減したものである。半導体素子としては、3つの電極、すなわち、第1電極、第2電極、および制御電極を備え、制御電極に与えられた信号に応じて第1電極と第2電極との間を流れる電流が変化するものを用いる。ここでは、半導体素子としてバイポーラトランジスタを用いる回路構成について説明する。なお、以下の説明では、バイポーラトランジスタを単にトランジスタと称する。
【0018】
擬似三極管特性リニアアンプの入力端子T1は、差動増幅回路12の正相端子に接続されている。また、差動増幅回路12の逆相端子はトランジスタ10のエミッタ電極に接続され、差動増幅回路12の出力端子はトランジスタ10のベース電極に接続されている。トランジスタ10のコレクタ電極と入力端子T1との間には、入力側抵抗器R2が接続され、入力端子T1と接地導体との間には副入力側抵抗器R3が接続されている。トランジスタ10のエミッタ電極と接地導体との間には出力側抵抗器R1が接続されている。そして、トランジスタ10のコレクタ電極には、負荷端子TLが接続されている。また、差動増幅回路12の代わりに、入力端子T1とエミッタ電極との間の電圧を一定に維持し、入力端子T1の電圧に応じた電圧をベース電極に出力する一般的な回路(電圧保持回路)を用いてもよい。
【0019】
入力端子T1と接地端子TGとの間には電流駆動源16が接続される。電流駆動源16は、擬似三極管特性リニアアンプの入力インピーダンスよりも十分大きい信号源インピーダンスを有し、擬似三極管特性リニアアンプに入力する信号電流の大きさがその入力インピーダンスに大きく依存しない信号電流源である。負荷端子TLと接地端子TGとの間には、直列接続された音響負荷18および直流電圧源14が接続される。直流電圧源14の正極端子は音響負荷18に接続され、負極端子は接地端子TGに接続される。音響負荷18は、スピーカ等、電気信号を音に変換する負荷である。
【0020】
擬似三極管特性リニアアンプの動作原理について説明する。ここでは、負荷端子TLにおける電圧と電流との関係について説明するため、音響負荷18を短絡した図2に示す擬似三極管回路について解析を行う。コレクタ電極に流入する電流をI1、コレクタ電極から入力端子T1へ向かう方向に入力側抵抗器R2を流れる電流をI2、入力端子T1から電流駆動源16に流れる電流をIb、直流電圧源14の正極端子から負荷端子TLに流れる電流をI、負荷端子TLの電圧をEvとすると、次の(数1)に示す回路方程式が成立する。ただし、トランジスタ10のベース電流は、コレクタ電流よりも十分小さいものとし、差動増幅回路12の正相端子と逆相端子との間の電圧は等しいものとする。
【数1】

【0021】
この回路方程式を解くことにより、直流電圧源14の正極端子から負荷端子TLに流れる負荷端子電流Iと、入力端子T1から電流駆動源16に流れる駆動源電流Ibとの関係を示す式として、次の(数2)に示す式が得られる。
【数2】

【0022】
ここで、駆動源電流Ibをパラメータとした場合における、負荷端子電流Iと負荷端子電圧Evとの関係を図3に示す。図3の横軸は負荷端子電圧Evを示し縦軸は負荷端子電流Iを示す。駆動源電流Ibが一定の場合、負荷端子電流Iは負荷端子電圧Evの変化に対して直線的に変化する。この出力特性直線は、横軸上の点(V0,0)を通り、(数2)の右辺第1項のEvに乗ぜられている係数(R1+R3)/R1/(R2+R3)を傾きとする直線である。ここで、V0=R3(R2−R1)Ib/(R1+R3)である。
【0023】
パラメータである駆動源電流Ibが変化すると、出力特性直線は横軸方向に平行移動する。この移動量は、(数2)の右辺第2項に基づいて定まる。すなわち、駆動源電流IbがΔだけ変化すると、出力特性直線の切片は、−R3(R2−R1)Δ/R1/(R2+R3)だけ変化し、出力特性直線はR3(R2−R1)Δ/(R1+R3)だけ横軸方向に平行移動する。
【0024】
このように、負荷端子電流Iが、負荷端子電圧Evの変化に対して直線的に変化し、駆動源電流Ibの変化に対し一定の割合で出力特性直線が平行移動するのは、差動増幅回路12によってトランジスタ10のベース電極とエミッタ電極との間の電圧を一定値に維持していることによるものである。
【0025】
駆動源電流Ibを三極管のグリッド電圧に対応させた場合、負荷端子電流Iと負荷端子電圧Evとの関係は、三極管におけるプレート電流とプレート電圧との関係を直線化したものに近似している。したがって、図2に示す擬似三極管回路を用いることにより、その特性を三極管アンプの特性に近似させたアンプを構成することができる。
【0026】
図1の擬似三極管特性リニアアンプの動作について説明する。図4に擬似三極管特性リニアアンプの負荷特性を示す。横軸は、負荷端子電圧Evを示し縦軸は負荷端子電流Iを示す。この特性は出力特性直線と負荷線22との交点を駆動点20とし、駆動点20によって音響負荷18の状態を表すものである。駆動点20の電圧座標値と電源電圧Eとの差は、音響負荷18に印加されている電圧値を示し、駆動点20の電圧座標値は、トランジスタ10のコレクタ電極と接地導体との間の電圧値を示す。また、駆動点20の電流座標値は音響負荷18に流れる電流を示す。仮に音響負荷18が抵抗値RLの抵抗器であるものとすると、負荷線22は、横軸上の点(E,0)を通り、傾きが−RLの直線となる。
【0027】
駆動源電流Ibが変化すると出力特性直線は横軸方向に平行移動し、駆動点20は、負荷線22上を移動する。したがって、駆動源電流Ibの変化に応じて音響負荷18に印加される電圧および音響負荷18に流れる電流が変化する。これによって、駆動源電流Ibが増幅された結果としての電圧および電流が音響負荷18に与えられる。
【0028】
例えば、駆動源電流Ibが、バイアス電流Ibxと信号電流Ibsとからなり、Ib=Ibx+Ibsと表される場合、駆動点20は、Ib=Ibxのときの出力特性直線と負荷線22との交点を中心点として、信号電流Ibsに応じて負荷線22上を移動する。図4の波形S1は、Ib=Ibxのときの出力特性直線を時間軸として信号電流Ibsの波形を示したものである。音響負荷18に流れる信号電流の時間波形は、図4の左側の波形S2に示すように、信号電流Ibsに応じて負荷線22上を移動する駆動点20の軌跡を縦軸に投影して得られる波形となる。
【0029】
本実施形態に係る擬似三極管特性リニアアンプによれば、負荷端子電流Iと負荷端子電圧Evとの関係を、三極管のプレート電流とプレート電圧との関係に近似させることができる。これによって、三極管アンプと同様の音響特性を有するアンプを半導体素子を用いて構成することができる。さらに、本実施形態に係る擬似三極管特性リニアアンプによれば、負荷端子電流Iと負荷端子電圧Evとの関係が直線化され、駆動源電流Ibの変化に対し一定の割合で出力特性直線が平行移動する。そのため、音響負荷18に供給される出力信号の歪みを低減することができる。
【0030】
図5に擬似三極管特性リニアアンプの具体的な構成例を示す。このアンプは、整合トランス24およびスピーカ26を音響負荷18としたシングルアンプである。トランジスタ10のバイアス電圧およびバイアス電流は、擬似三極管特性リニアアンプがA級で動作すするよう定められる。負荷端子TLからアンプ側を見た出力インピーダンスは、スピーカ26のインピーダンスよりも大きい。そこで、出力インピーダンスとスピーカ26のインピーダンスとを整合をさせるため、本具体例では整合トランス24が用いられている。整合トランス24の一次側巻線は、負荷端子TLと直流電圧源14の正極端子との間に接続されている。スピーカ26は整合トランス24の二次側巻線の両端に接続されている。
【0031】
なお、本実施形態に係る擬似三極管特性リニアアンプにおいては、副入力側抵抗器R3を取り外しこの部分を開放した構成としてもよい。この場合、負荷端子電流Iと駆動源電流Ibとの関係は、次の(数3)のようになる。(数3)は、(数2)においてR3を無限大にすることで得られる式である。
【数3】

【0032】
また、スピーカ26から発せられる音の質は、出力特性直線の傾き、駆動源電流Ibの変化に対する出力特性直線の平行移動量等に依存する。(数2)から明らかなようにこれらの値は、出力側抵抗器R1、入力側抵抗器R2および副入力側抵抗器R3の各抵抗値を変化させることで調整することができる。したがって、出力側抵抗器R1、入力側抵抗器R2および副入力側抵抗器R3の抵抗値は、スピーカ26から発せられる音が最適になるよう調整することが好ましい。
【0033】
半導体素子としては、トランジスタの代わりにFET(Field Effect Transistor)を用いてもよい。この場合、トランジスタのベース電極、コレクタ電極およびエミッタ電極が接続される箇所には、それぞれ、FETのゲート電極、ドレイン電極およびソース電極が接続される。
【0034】
本実施形態に係る擬似三極管特性リニアアンプにおいては、図6に示すようにレギュレータ素子IC10が用いられてもよい。レギュレータ素子IC10としては、例えば、ナショナルセミコンダクタ社によって提供されている「LM317」が用いられる。IN端子、OUT端子およびAJ端子は、それぞれ、第1電極、第2電極、および制御電極に対応する。IN端子は負荷端子TLに接続され、OUT端子は出力側抵抗器R1の一端に接続されている。また、AJ端子は、入力側抵抗器R2および副入力側抵抗器R3の接続点に接続されている。レギュレータ素子IC10のIN端子の電圧と、IN端子から流入してOUT端子から流出する電流とは線形の関係にあるため、図1に示すような差動増幅回路14を設けなくても、負荷に供給される出力信号の歪み成分を低減する効果が得られる。
【0035】
このような構成によっても、負荷端子電流Iと負荷端子電圧Evとの関係は、三極管のプレート電流とプレート電圧との関係に近似する。さらに、負荷端子電流Iと負荷端子電圧Evとの関係が直線化され、駆動源電流Ibの変化に対し一定の割合で出力特性直線が平行移動する。これによって、音響特性を三極管アンプの特性に近似させると共に、出力信号の歪みを低減させることができる。
【0036】
図7に、本発明の第2実施形態に係る擬似三極管特性・OTLプッシュプルリニアアンプの構成を示す。このアンプは、ドライブ部28および電力増幅部30のそれぞれについて、相補的な特性を有する一対の回路を用い、OTL(Output Transformer Less)プッシュプル回路を構成したものである。ドライブ部28には、電源電圧として直流正電圧+VBおよび直流負電圧−VBが印加され、電力増幅部30には、電源電圧として直流正電圧+VAおよび直流負電圧−VAが印加されている。
【0037】
ドライブ部28は、電力増幅部30に対する電流駆動源として機能する。ドライブ部28のうち、直流正電圧+VBによって動作する正電源ドライブ部28Pの回路構成について説明する。入力端子T2には抵抗器Raの一端が接続されている。抵抗器Raの他端は差動増幅回路34の正相端子に接続されている。正電源端子+VBと差動増幅回路34の正相端子との間には、抵抗器Rbが接続されている。差動増幅回路34の逆相端子は、NPN型トランジスタ36のエミッタ電極に接続され、差動増幅回路34の出力端子は、NPN型トランジスタ36のベース電極に接続されている。NPN型トランジスタ36のエミッタ電極と接地導体との間には抵抗器Rcが接続され、正電源端子+VBとNPN型トランジスタ36のコレクタ電極との間には直流定電流源38が接続されている。NPNトランジスタ36のコレクタ電極は、電力増幅部30の正側入力端子T3に接続されている。
【0038】
直流定電流源38は、NPNトランジスタ36および電力増幅部30にバイアス電流を供給する。直流定電流源38は、NPNトランジスタ36のコレクタ電極に流れる電流の信号成分に対しては十分大きいインピーダンスを有し、NPNトランジスタ36のコレクタ電流に含まれる信号成分は電力増幅部30の正側入力端子T3に流れる。
【0039】
ドライブ部28のうち、直流負電圧−VBによって動作する負電源ドライブ部28Nは、接地導体を正電源ドライブ部28Pと共通とし、バイアス電圧およびバイアス電流の極性を正電源ドライブ部28Pのバイアス電圧および電流の極性に対し逆にしたものである。正電源ドライブ部28PにNPN型トランジスタ36を用いるのに対し、負電源ドライブ部28NにはPNP型トランジスタ36Nを用いる。負電源ドライブ部28Nに含まれるデバイスについては、正電源ドライブ部28Pに含まれる相補的な関係にあるデバイスに付された符号の末尾に「N」を付する。
【0040】
入力端子T2には抵抗器RaNの一端が接続されている。抵抗器RaNの他端は差動増幅回路34Nの正相端子に接続されている。負電源端子−VBと差動増幅回路34Nの正相端子との間には、抵抗器RbNが接続されている。差動増幅回路34Nの逆相端子は、PNP型トランジスタ36Nのエミッタ電極に接続され、差動増幅回路34Nの出力端子は、PNP型トランジスタ36Nのベース電極に接続されている。PNP型トランジスタ36Nのエミッタ電極と接地導体との間には抵抗器RcNが接続され、負電源端子−VBとPNP型トランジスタ36Nのコレクタ電極との間には直流定電流源38Nが接続されている。PNP型トランジスタ36Nのコレクタ電極は、電力増幅部30の負側入力端子T3Nに接続されている。
【0041】
直流定電流源38Nは、PNPトランジスタ36Nおよび電力増幅部30にバイアス電流を供給する。直流定電流源38Nは、PNPトランジスタ36Nのコレクタ電極に流れる電流の信号成分に対しては十分大きいインピーダンスを有し、PNPトランジスタ36Nのコレクタ電流に含まれる信号成分は電力増幅部30の負側入力端子T3Nに流れる。
【0042】
入力端子T2と接地導体との間には信号源32が接続される。この信号源32は、チューナ、CDプレーヤ、携帯メディアプレーヤ等の音源機器に相当する。正電源ドライブ部28Pの差動増幅回路34は、抵抗器Raを介して入力された信号を増幅し、NPNトランジスタ36のベース電極に出力する。電力増幅部30の正側入力端子T3とNPNトランジスタ36のコレクタ電極とを結ぶ経路には、ベース電極に与えられた信号に応じた電流が流れる。これによって、電力増幅部30の正側入力端子T3には、信号源32から出力された信号に応じた電流が流れる。
【0043】
同様に、負電源ドライブ部28Nの差動増幅回路34Nは、抵抗器RaNを介して入力された信号を増幅し、PNPトランジスタ36Nのベース電極に出力する。電力増幅部30の負側入力端子T3NとPNPトランジスタ36Nのコレクタ電極とを結ぶ経路には、ベース電極に与えられた信号に応じた電流が流れる。これによって、電力増幅部30の負側入力端子T3Nには、信号源32から出力された信号に応じた電流が流れる。
【0044】
このように、ドライブ部28は、信号源32から出力された信号を増幅し、増幅後の信号に応じた電流を電力増幅部30の正側入力端子T3および負側入力端子T3Nに流す。これによって、ドライブ部28は、電力増幅部30に対する電流駆動源として機能する。
【0045】
また、正電源ドライブ部28Pおよび負電源ドライブ部28Nは、それぞれ、差動増幅回路34および34Nを備える。これによって、図1に示した差動増幅回路と同様の動作により、ドライブ部28が電力増幅部30の各入力端子に流す電流の歪みが低減される。
【0046】
次に電力増幅部30について説明する。電力増幅部30は、直流正電圧+VAによって動作する正電源・増幅部30Pと、直流負電圧−VBによって動作する負電源・増幅部30Nとを備える。
【0047】
正電源・増幅部30Pの回路構成について説明する。正側入力端子T3は差動増幅回路40の正相端子に接続されている。また、差動増幅回路40の逆相端子はPチャネルFET42のソース電極Sに接続され、差動増幅回路40の出力端子はPチャネルFET42のゲート電極に接続されている。PチャネルFET42のドレイン電極Dと正側入力端子T3との間には、入力側抵抗器Rdが接続され、正側入力端子T3と正電源端子+VAとの間には副入力側抵抗器Reが接続されている。また、PチャネルFET42のソース電極Sと正電源端子+VAとの間には、出力側抵抗器Rfが接続されている。そして、PチャネルFET42のドレイン電極Dには負荷端子TLが接続されている。なお、差動増幅回路40の代わりに、正側入力端子T3とソース電極Sとの間の電圧を一定に維持し、正側入力端子T3の電圧に基づく電圧をゲート電極に出力する一般的な回路を用いてもよい。負荷端子TLと接地導体との間には音響負荷としてスピーカ26が接続される。
【0048】
負電源・増幅部30Nは、接地導体を正電源・増幅部30Pと共通とし、バイアス電圧およびバイアス電流の極性を正電源ドライブ部28Pのバイアス電圧および電流の極性に対し逆にしたものである。正電源・増幅部30PにPチャネルFET42を用いるのに対し、負電源・増幅部30NにはNチャネルFET42Nを用いる。負電源・増幅部30Nに含まれるデバイスについては、正電源・増幅部30Pに含まれる相補的な関係にあるデバイスに付された符号の末尾に「N」を付する。
【0049】
負側入力端子T3Nは差動増幅回路40Nの正相端子に接続されている。また、差動増幅回路40Nの逆相端子はNチャネルFET42Nのソース電極Sに接続され、差動増幅回路40Nの出力端子はNチャネルFET42Nのゲート電極に接続されている。NチャネルFET42Nのドレイン電極Dと負側入力端子T3Nとの間には、入力側抵抗器RdNが接続され、負側入力端子T3Nと負電源端子−VAとの間には副入力側抵抗器ReNが接続されている。また、NチャネルFET42Nのソース電極Sと負電源端子−VAとの間には、出力側抵抗器RfNが接続されている。そして、NチャネルFET42Nのドレイン電極Dには、負荷端子TLが接続されている。
【0050】
負電源・増幅部30Nの回路構成は、図1の擬似三極管特性リニアアンプについて、トランジスタ10をFETに置き換えた回路構成と同一である。ただし、図1の回路構成における直流電圧源14の正極端子に該当する箇所は、図7の回路構成においては接地導体となる。そして、正電源・増幅部30Pは、負電源・増幅部30Nに対し相補的な構成を有する。したがって、正電源・増幅部30Pおよび負電源・増幅部30Nは、図1の擬似三極管特性リニアアンプと同様の原理に基づいて、ドライブ部28から与えられた信号を増幅し、スピーカ26を駆動する。
【0051】
正電源・増幅部30Pおよび負電源・増幅部30Nが備えるFETについては、A級、AB級またはB級で動作するようバイアス電圧およびバイアス電流が定められている。バイアス電流は、ドライブ部28が備える直流定電流源38および38Nに流れる電流を変化させることで調整される。
【0052】
正電源・増幅部30PのPチャネルFET42は、正電源端子+VAから自らのソース電極Sおよびドレイン電極Dを通ってスピーカ26に至る経路に、正電源ドライブ部28Pによって正側入力端子T3に流された電流の変化に応じた電流を流す。同様に、負電源・増幅部30NのNチャネルFET42Nは、スピーカ26から自らのドレイン電極Dおよびソース電極Sを通って負電源端子−VAに至る経路に、負電源ドライブ部28Nによって負側入力端子T3Nに流された電流の変化に応じた電流を流す。したがって、正電源・増幅部30Pによってスピーカ26に流される電流と、負電源・増幅部30Nによってスピーカ26に流される電流とがスピーカ26によって合成される。これによって、信号源32から出力され、ドライブ部28および電力増幅部30で増幅された信号によって、スピーカ26が駆動される。
【0053】
なお、正および負の直流電源を用いるOTLプッシュプル回路では、半導体素子の温度変化により負荷端子TLの直流電位が0とならず、ゆらぐことがある。このような現象は一般にドリフトと呼ばれる。そこで、本実施形態に係る擬似三極管特性・OTLプッシュプルリニアアンプはドリフト安定化回路44を備える。
【0054】
ドリフト安定化回路44は、正電源端子+VB、負電源端子−VB、接地導体、負荷端子TLおよび正側入力端子T3に接続されている。ドリフト安定化回路44は、負荷端子TLの電位が接地導体の電位よりも高いときは、正側入力端子T3からドリフト安定化回路44に流入する電流Iαを減少させ、負荷端子TLの電位が接地導体の電位よりも低いときは、正側入力端子T3からドリフト安定化回路44に流入する電流Iαを増加させる。これによって、入力側抵抗器Rdおよび副入力側抵抗器Reに流れる電流、および、これらの抵抗器に生じる電圧降下が調整され、負荷端子TLの直流電位が0に維持される。ドリフト安定化回路44は、トランジスタ、FET等を用いたアナログ回路によって構成することができる。
【0055】
また、一般にオーディオアンプの最終段に用いられる半導体素子は、温度変化によってバイアス状態が変化することがある。そこで、本実施形態に係る擬似三極管特性・OTLプッシュプルリニアアンプは、バイアス安定化回路46およびカレントミラー回路50を備える。
【0056】
バイアス安定化回路46は、負電源・増幅部30NのPチャネルFET42のソース電極S、負電源端子−VB、カレントミラー回路50、および接地導体に接続されている。バイアス安定化回路46には、負極端子が負電源端子−VAに接続された定電圧源48の正極端子が接続されている。この定電圧源48には、ツェナーダイオードを用いることができる。バイアス安定化回路46は、PチャネルFET42のソース電極Sの電位が定電圧源48の電位よりも高いときは、カレントミラー回路50に流す電流Iβを増加させ、ソース電極Sの電位が定電圧源48の電位よりも低いときは、カレントミラー回路50に流す電流Iβを減少させる。バイアス安定化回路46は、トランジスタ、FET等を用いたアナログ回路によって構成することができる。
【0057】
カレントミラー回路50は、バイアス安定化回路46、負電源端子−VB、および負側入力端子T3Nに接続される。カレントミラー回路50は、バイアス安定化回路46から流入し負電源端子−VBに流出する電流Iβと同一値の電流Iγを、負側入力端子T3Nから取り込み負電源端子−VBに流す。
【0058】
このような構成によれば、負電源・増幅部30NのPチャネルFET42のソース電極Sの電圧に応じて入力側抵抗器RdNおよび副入力側抵抗器ReNに流れる電流、およびこれらの抵抗器に生じる電圧降下が調整され、負側入力端子T3Nの電圧が一定に維持される。また、負電源・増幅部30NのPチャネルFET42のソース電極Sのバイアス電圧は、負側入力端子T3Nのバイアス電圧と同一であるため、ソース電極Sのバイアスも同様に一定に維持される。
【0059】
本実施形態に係る擬似三極管特性・OTLプッシュプルリニアアンプにおける正電源・増幅部30Pおよび負電源・増幅部30Nは、第1実施形態に係る擬似三極管特性リニアアンプと同様の構成を有する。したがって、三極管アンプと同様の音響特性を有するアンプを半導体素子を用いて構成することができと共に、音響負荷に供給される出力信号の歪みを低減することができる。また、ドリフト安定化回路44およびバイアス安定化回路46を用いることで、動作を安定化させることができる。
【0060】
なお、本実施形態に係る擬似三極管特性・OTLプッシュプルリニアアンプにおいては、図8に示すようにレギュレータ素子IC42およびIC42Nが用いられてもよい。レギュレータ素子IC42Nはレギュレータ素子IC42に対し相補的な特性を有する。例えば、レギュレータ素子IC42および42Nとしては、それぞれ、ナショナルセミコンダクタ社から提供されている「LM337」および「LM317」が用いられる。レギュレータ素子IC42のIN端子は負荷端子TLに接続され、OUT端子は出力側抵抗器Rfの一端に接続されている。また、AJ端子は、入力側抵抗器Rdおよび副入力側抵抗器Reの接続点に接続されている。同様に、レギュレータ素子IC42NのIN端子は負荷端子TLに接続され、OUT端子は出力側抵抗器RfNの一端に接続されている。また、AJ端子は、入力側抵抗器RdNおよび副入力側抵抗器ReNの接続点に接続されている。このような構成によれば、図6に示す回路と同様の原理により、音響特性を三極管アンプの特性に近似させると共に、出力信号の歪みを低減させることができる。
【符号の説明】
【0061】
10 トランジスタ、12,34,34N,40,40N 差動増幅回路、14 直流電圧源、16 電流駆動源、18 音響負荷、20 駆動点、22 負荷線、24 整合トランス、26 スピーカ、28 ドライブ部、28P 正電源ドライブ部、28N 負電源ドライブ部、30 電力増幅部、30P 正電源・増幅部、30N 負電源・増幅部、32 信号源、36 NPN型トランジスタ、36N PNP型トランジスタ、38,38N 直流定電流源、42 PチャネルFET、42N NチャネルFET、44 ドリフト安定化回路、46 バイアス安定化回路、48 定電圧源、50 カレントミラー回路、IC10,IC42,IC42N レギュレータ素子、T1,T2 入力端子、T3 正側入力端子、T3N 負側入力端子、TL 負荷端子、TG 接地端子、+VA,+VB 正電源端子、−VA,−VB 負電源端子。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1電極、第2電極、および制御電極を備え、前記制御電極に与えられた信号に応じて前記第1電極と前記第2電極との間を流れる電流が変化する半導体素子と、
電流駆動源から与えられた信号を前記制御電極に導くための入力端子と、
前記第1電極から引き出された経路に設けられる負荷端子と、
前記第2電極と電圧基準端子との間に設けられる第2電極側抵抗器と、
前記第1電極と前記入力端子との間に設けられる入力側抵抗器と、
を備えることを特徴とする音響用擬似三極管特性増幅装置。
【請求項2】
請求項1に記載の音響用擬似三極管特性増幅装置において、
前記入力端子の電圧と前記第2電極の電圧との関係を一定に保持すると共に、前記入力端子の電圧に応じた電圧を前記制御電極に出力する電圧保持回路、
を備えることを特徴とする音響用擬似三極管特性増幅装置。
【請求項3】
請求項2に記載の音響用擬似三極管特性増幅装置において、
前記電圧保持回路は、
前記入力端子に接続される第1端子、前記第2電極に接続される第2端子、および前記制御電極に接続される第3端子を備え、前記第1および第2端子を差動入力端子対として有し、前記第3端子を出力端子として有する差動増幅回路であることを特徴とする音響用擬似三極管特性増幅装置。
【請求項4】
請求項1から請求項3のいずれか1項に記載の音響用擬似三極管特性増幅装置において、
前記入力端子と前記電圧基準端子との間に設けられる副入力側抵抗器を備えることを特徴とする音響用擬似三極管特性増幅装置。
【請求項5】
請求項4に記載の音響用擬似三極管特性増幅装置において、
前記入力端子に接続され、前記第2電極と前記第2電極側抵抗器との間の経路の電圧に基づいて、前記入力側抵抗器および副入力側抵抗器に流れる各電流を調整するバイアス安定化回路を備えることを特徴とする音響用擬似三極管特性増幅装置。
【請求項6】
請求項1から請求項5のいずれか1項に記載の音響用擬似三極管特性増幅装置を2つ有し、その2つの音響用擬似三極管特性増幅装置は、それぞれの負荷端子が共通に接続されたプッシュプル回路をなす、音響用擬似三極管特性プッシュプル増幅装置。
【請求項7】
請求項6に記載の音響用擬似三極管特性プッシュプル増幅装置において、
前記2つの音響用擬似三極管特性増幅装置のうちの一方の電圧基準端子には正の直流電圧が与えられ、他方の電圧基準端子には負の直流電圧が与えられ、前記2つの音響用擬似三極管特性増幅装置のうち一方の電圧基準端子と前記負荷端子との間に接続され、前記負荷端子の直流電位を0に近づけるドリフト安定化回路、を備えることを特徴とする音響用擬似三極管特性プッシュプル増幅装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2012−85209(P2012−85209A)
【公開日】平成24年4月26日(2012.4.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−231517(P2010−231517)
【出願日】平成22年10月14日(2010.10.14)
【特許番号】特許第4714299号(P4714299)
【特許公報発行日】平成23年6月29日(2011.6.29)
【出願人】(510273536)
【Fターム(参考)】