説明

頭部保護エアバッグ装置

【課題】膨張時のエアバッグが、側突時とロールオーバ時とに的確に対応して乗員を受け止めて保護できる頭部保護エアバッグ装置を提供すること。
【解決手段】頭部保護エアバッグ装置Sのエアバッグ20は、インフレーター10からの膨張用ガスGを流入させて膨らむインナバッグ21と、インナバッグを内部に収納して、インナバッグのベントホール28,29から膨張用ガスを流入させて膨張するアウタバッグ41と、を備える。インナバッグは、側突時の乗員を保護する主膨張部26,27を備える。ベントホールは、主膨張部の膨張完了後に、アウタバッグ41の膨張を完了させるように構成される。アウタバッグは、主膨張部とずれて、かつ、主膨張部の覆う窓の残部側を覆って膨らむ副膨張部48,49、を備えて構成され、膨張完了時における副膨張部の車外側方向への移動を抑制可能に、窓の周囲の車体側部位15,16,17,18に支持される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両の窓(サイドウインド)の上縁側から、膨張用ガスを流入させて下方に展開膨張し、乗員の頭部を保護可能なエアバッグ、を備えた頭部保護エアバッグ装置に関し、特に、エアバッグが、車両の側突時のみならずロールオーバ時にも、好適に乗員を保護可能な頭部保護エアバッグ装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、ロールオーバ対応の頭部保護エアバッグ装置としては、エアバッグを、窓の上縁側から下方に展開させ、エアバッグの下縁側をベルトラインより下方に延設させて膨張させるものがあった(例えば、特許文献1参照)。このエアバッグ装置では、膨張完了時のエアバッグが、膨張完了時に窓の上縁側と下縁側との上下二点で支持されることから、車外側に移動する乗員を車内側に拘束し易い。
【0003】
また、頭部保護エアバッグ装置として、エアバッグをインナバッグとその周囲を覆うアウタバッグとの二重構造とするものがあった(例えば、特許文献2参照)。このエアバッグ装置では、エアバッグをインナバッグとアウタバッグとの二重構造として、膨張完了時に、車幅方向に複数の膨張室を配設させて、側突時の乗員の保護性能を向上させていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2001−328503号公報
【特許文献1】特開2009−196502号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
従来の特許文献1に記載の頭部保護エアバッグ装置では、エアバッグが、側突時に乗員頭部を受け止める部位と連通させて、ベルトラインの下方への延設部位を配設させていた。
【0006】
しかし、頭部保護エアバッグ装置のエアバッグは、側突時の乗員を受け止める膨張部位を、通常、作動開始から数十msで膨張を完了させ、そして、ロールオーバ対応時の延設膨張部位では、作動開始から1秒程度後には、膨張を完了させ、そして、5,6秒程度、内圧を維持する必要がある。そのため、特許文献1のエアバッグのように、側突時に乗員を受け止める部位から単に平面的に連通してベルトラインで支持される延設膨張部位が配設されている構造では、側突時に乗員を受け止める膨張部位からの膨張用ガスの漏れ対策が必要となって、膨張用ガスが側突対応部位から漏れれば、ロールオーバ対応時の延設膨張部位の内圧を維持できなくなってしまう。
【0007】
また、従来の特許文献2の頭部保護エアバッグ装置では、エアバッグがインナバッグとアウタバッグとの二重構造としているものの、膨張用ガスを供給するインフレーターがアウタバッグに連結されて、アウタバッグの上縁に膨張用ガスを流入させた後、インナバッグ内と、アウタバッグのインナバッグとの間の多数の膨張室内に、膨張用ガスを流入させるものであって、側突時に、車幅方向に複数の膨張室を重ねて、クッション性よく、乗員を受け止めることができるものの、側突後のロールオーバ時に、車外側に移動する乗員の拘束性能を向上させる点に関し、十分ではなく、課題があった。
【0008】
本発明は、上述の課題を解決するものであり、膨張時のエアバッグが、側突時とロールオーバ時とに的確に対応して乗員を受け止めて保護できる頭部保護エアバッグ装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
<請求項1の説明>
本発明に係る頭部保護エアバッグ装置は、車両の車内側の窓の上縁側に折り畳まれ収納され、インフレーターからの膨張用ガスの流入時、少なくとも着座した乗員頭部の車外側の位置で膨張して前記乗員頭部を受け止め可能な主膨張部を有して、前記窓と前記窓の周囲における車体側部位との車内側を覆い可能に展開膨張するエアバッグ、を備えて構成される頭部保護エアバッグ装置であって、
前記エアバッグが、前記インフレーターからの膨張用ガスを流入させて膨らむインナバッグと、該インナバッグを内部に収納して、前記インナバッグのベントホールから膨張用ガスを流入させて膨張するアウタバッグと、を備えて構成され、
前記インナバッグが、前記主膨張部を備えて構成されるとともに、
前記インナバッグの前記ベントホールが、前記主膨張部の膨張完了後に、前記アウタバッグの膨張を完了させるように、構成され、
前記アウタバッグが、前記主膨張部とずれて、かつ、前記主膨張部の覆う窓の残部側を覆って膨らむ副膨張部、を備えて構成されるとともに、膨張完了時における前記副膨張部の車外側方向への移動を抑制可能に、前記窓の周囲の車体側部位に支持されるように、配設されていることを特徴とする。
【0010】
本発明に係る頭部保護エアバッグ装置では、作動当初、インフレーターからの膨張用ガスが、エアバッグのインナバッグに流入することから、インナバッグが展開膨張し、インナバッグの主膨張部が迅速に膨張を完了させることとなる。そのため、エアバッグは、膨張を完了させたインナバッグの主膨張部により、側突時の乗員を的確に受け止めて保護することができる。
【0011】
また、アウタバッグでは、インナバッグのベントホールから膨張用ガスを流入させ、副膨張部が膨張を完了させて、さらに、副膨張部の車外側方向への移動を抑制可能に、アウタバッグが窓の周囲の車体側部位に支持されることとなる。そのため、ロールオーバ時、乗員が副膨張部を経て車外側に移動しようとしても、副膨張部がクッション性よく乗員を受け止めて、乗員の車外側への移動が抑制される。
【0012】
そして、作動当初に膨張を完了させたインナバッグが、膨張用ガスを漏らしても、その漏れた膨張用ガスは、アウタバッグ内に留まって、エアバッグ自体から流出するわけではない。さらに、アウタバッグの膨張完了は、側突時におけるエアバッグ装置の作動直後の数十ms以内でなく、ロールオーバ対応のエアバッグ装置の作動直後の1秒程度後に膨張を完了させ、そして、5,6秒程度、その内圧を維持すればよいことから、インナバッグを収納するだけで、インナバッグより内容積が大きく、また、インフレーターからの膨張用ガスと直接接触しない分、アウタバッグは、インナバッグに比べて、側突対応時の急激な圧力上昇のダメージを受け難く、容易に、ロールオーバ対応の内圧維持を達成できる。
【0013】
したがって、本発明に係る頭部保護エアバッグ装置では、膨張時のエアバッグが、側突時とロールオーバ時とに的確に対応して乗員を受け止めて保護することができる。
【0014】
<請求項2の説明>
本発明に係る頭部保護エアバッグ装置では、前記副膨張部は、車内側から見て、前記主膨張部と前後方向に位置をずらして、配設させることが望ましい。
【0015】
このような構成では、側突時、通常、乗員は着座した位置から車幅方向の車外側に移動するが、ロールオーバ時には、前後方向にずれつつ車外側方向に移動し易く、その方向に移動する乗員を、膨張を完了させた副膨張部が、クッション性よく受け止めることができる。
【0016】
<請求項3の説明>
本発明に係る頭部保護エアバッグ装置では、前記インナバッグのベントホールは、前記インナバッグの上部側に配設することが望ましい。
【0017】
このような構成では、インナバッグが下縁まで展開していなくとも、ベントホールを経て、アウタバッグ側に膨張用ガスを供給することができる。そのため、展開途中のインナバッグが窓に近接している乗員と干渉し、インナバッグが下縁まで十分に展開されなくとも、エアバッグは、インナバッグのベントホールから流入する膨張する膨張用ガスによって、アウタバッグを展開させることができて、乗員と窓との間にアウタバッグを進入させ、乗員の車外放出を抑制可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本発明に係る実施形態の頭部保護エアバッグ装置の車内側から見た正面図である。
【図2】実施形態の頭部保護エアバッグ装置に使用するエアバッグを平らに展開させた状態を示す図である。
【図3】実施形態のエアバッグを膨張させた状態の断面図であり、図2のIII−III部位に対応する。
【図4】実施形態の頭部保護エアバッグ装置の作動時の状態を順に示す図であり、図1のIV−IV部位に対応する。
【図5】実施形態の頭部保護エアバッグ装置の作動時の状態を順に示す図であり、図1のV−V部位に対応する。
【図6】実施形態の頭部保護エアバッグ装置の作動完了時の車内側から見た正面図である。
【図7】実施形態の頭部保護エアバッグ装置の変形例を車内側から見た正面図である。
【図8】実施形態の頭部保護エアバッグ装置の他の変形例を車内側から見た正面図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて説明すると、図1に示すように、実施形態の頭部保護エアバッグ装置Sは、エアバッグ20と、インフレーター10と、取付ブラケット11と、エアバッグカバー8と、を備えて構成されている。エアバッグ20は、車両Vの車内側における窓W、詳しくは、前窓WFから後窓WBの上縁側において、フロントピラー部FP近傍のルーフサイドレール部RRの下縁の前端から、センターピラー部CPの上方を跨ぎ、リヤピラー部RPの上方側まで延びるエリアに、折り畳まれて収納されている。
【0020】
インフレーター10は、略円柱状のシリンダタイプとして、エアバッグ20における膨張用ガスを流入させるための接続口部22に挿入され、接続口部22の外周側から締め付けるクランプ12を利用して、エアバッグ20と連結されている。そして、インフレーター10は、取付ブラケット11を利用して、センターピラー部CPの上方付近におけるルーフサイドレール部RRのインナパネル2に、ルーフヘッドライニング5の下縁5aに覆われて、取付固定されている。なお、インナパネル2は、車両Vのボディ(車体)1側の部材である。また、取付ブラケット11は、板金製として、インフレーター10を保持し、所定の取付ボルト(図符号省略)を利用して、インナパネル2に固定されている。
【0021】
エアバッグカバー8は、フロントピラー部FPに配置されるフロントピラーガーニッシュ4とルーフサイドレール部RRに配置されるルーフヘッドライニング5とのそれぞれの下縁4a,5a側から構成されている。なお、フロントピラーガーニッシュ4とルーフヘッドライニング5とは、合成樹脂製とし、フロントピラー部FPとルーフサイドレール部RRとにおいて、それぞれ、ボディ1のインナパネル2における車内側に、取付固定されている。また、ルーフヘッドライニング5は、フロントピラー部FPの上方付近から、センターピラー部CPの上方を経て、リヤピラー部RPの上方付近まで、配設されている。
【0022】
エアバッグ20は、図1〜3に示すように、インフレーター10からの膨張用ガスGを流入させて膨らむインナバッグ21と、インナバッグ21を内部に収納して、インナバッグ21のベントホール28,29から膨張用ガスGを流入させて膨張するアウタバッグ41と、を備えて構成されている。インナバッグ21とアウタバッグ41とは、ポリアミドやポリエステル等の基布から縫製・接着等により形成したり、あるいは、ポリアミドやポリエステル等からなる糸を利用した袋織りによって形成されている。なお、インナバッグ21とアウタバッグ41とは、気密性を確保して構成され、特に、アウタバッグ41は、ロールオーバ時の内圧維持を5,6秒程度行なう関係上、高い気密性が確保されている。
【0023】
そして、インナバッグ21は、インフレーター10と接続される円筒状の接続口部22と、接続口部22を経て流入するインフレーター10からの膨張用ガスにより車幅方向に膨らむバッグ本体部23と、を備えて構成されている。バッグ本体部23は、膨張時、車内側Iに位置する車内側パネル部23aと車外側Oに位置する車外側パネル部23bとが離隔するように膨らむ膨張部位であり、実施形態の場合、供給路部24と主膨張部25とを備えて構成されている。
【0024】
主膨張部25は、着座した乗員M(MF,MB)の頭部MHを保護可能に展開膨張する部位であり、実施形態の場合、前側部26と後側部27との二つを備えて構成されている。前側部26は、膨張完了時、センターピラー部CPの前方における前窓WFの後部からセンターピラー部CPの車内側Iを覆うように、配設されて、側突時の前席乗員MFの頭部MHを受け止めるように、設定されている。後側部27は、膨張完了時、リヤピラー部RPの前方における後窓WBの後部からリヤピラー部RPの車内側Iを覆うように、配設されて、側突時の後席乗員MBの頭部MHを受け止めるように、設定されている。
【0025】
前側部26と後側部27とは、膨張用ガスGの流入時、車内側から見た状態で、略長方形板状として厚さを増すように、膨張することとなる。そして、前側部26と後側部27との上部には、アウタバッグ41を膨張させる膨張用ガスGを、アウタバッグ41側に流出させるためのベントホール28,29が開口されている。これらのベントホール28,29は、主膨張部25の膨張途中に膨張用ガスGがアウタバッグ41側に僅かに流れることは許容するものの、極力、主膨張部25が迅速に膨張を完了させるように、開口面積を絞られて、形成されている。勿論、ベントホール28,29は、主膨張部25の膨張完了後に、車両Vのロールオーバに対応できるように、素早くアウタバッグ41が膨張を完了させるように、所定以上の開口面積を設定されている。なお、ベントホール28は、供給路部24の前方側に配置され、後述する副膨張部47の前側部48の上端側に、配設されている。ベントホール29は、供給路部24の直下付近の後側部27の前縁に配置されて、後述する副膨張部47の後側部49の上端側に、配設されている。
【0026】
なお、主膨張部25の前側部26と後側部27との間には、インナバッグ21の部位は配設されておらず、アウタバッグ41の後述する副膨張部47の後側部49が配設される。
【0027】
供給路部24は、接続口部22の下端と連通されて、膨張時、前後方向に延びるようなパイプ状となり、この供給路部24は、接続口部22から流入する膨張用ガスGを、主膨張部25の前側部26と後側部27とに上端側から供給する部位となる。そのため、供給路部24は、前端24aをセンターピラー部CP近傍の前窓WFの上端付近に配置させて、主膨張部25の前側部26に接続させ、また、後端24bをセンターピラー部CPとリヤピラー部RPとの間の後窓WBの上端付近に配置させて、主膨張部25の後側部27に接続させている。
【0028】
なお、実施形態の場合、車両搭載状態で、インナバッグ21が膨張を完了させれば、接続口部22が、インフレーター10を利用してルーフサイドレール部RRとなる車体側部位14に連結支持される支持部位31となり、また、主膨張部25の前側部26の後部が、センターピラー部CPとなる車体側部位15に支持される支持部位32となり、さらに、主膨張部25の後側部27の後部が、リヤピラー部RPとなる車体側部位16に支持される支持部位33となる。
【0029】
そのため、これらの支持部位31,32,33によって、インナバッグ21の主膨張部25の前側部26や後側部27は、車外側O方向へ移動せずに、側突時の車外側Oに移動する前席乗員MFや後席乗員MBの頭部MHを、クッション性よく受け止めて保護することができる。
【0030】
アウタバッグ41は、膨張完了時、フロントピラー部FPの前部付近からリヤピラー部RPの車内側Iまでの範囲、すなわち、前窓WFの前端付近から、センターピラー部CP、後窓WBを経て、リヤピラー部RPの車内側Iを覆うように、車幅方向に膨らみつつ、インナバッグ21より前後方向に長い長方形板状に配設される。さらに、アウタバッグ41は、膨張完了時、下縁44c側の膨張部位(後述する下縁部48b,49b,下縁側膨張部51)が、前窓WFや後窓WBの下縁側のドアトリムDTからなる車体側部位18に支持可能に、ベルトラインBLより下方に配置されるように構成されている。
【0031】
アウタバッグ41は、上縁41a側に、インナバッグ21の接続口部22を挿通させて、インフレーター10に対して、クランプ12により、接続口部22と共締めされる接続口部42が、配設されている。なお、接続口部42は、インフレーター10を接続口部22を介在させて挿入させているものの、インフレーター10から吐出される膨張用ガスGは、接続口部22を経て、インナバッグ21内に全量流入される。そのため、アウタバッグ41へは、インナバッグ21の予期しない漏れ分を除いて、ベントホール28,29を通過する膨張用ガスGしか、流入しない。
【0032】
また、アウタバッグ41の上縁41aには、インナバッグ21を収納した状態でアウタバッグ41(エアバッグ20)を、ルーフサイドレール部RRのボディ(車体)1側のインナパネル2に対して、ボルト3(図1,4参照)止めして取り付けるための複数の取付部43が配設されている。これらの取付部43には、ボルト3を挿通させる取付孔43aが配設されている。また、これらの取付部43は、板金等の当板が配設されて、インナパネル2にボルト3止めされることとなる。
【0033】
アウタバッグ41は、膨張用ガスGを流入させて車内側パネル部44aと車外側パネル部44bとを分離させるように膨張する長方形板状のバッグ本体部44を備えている。バッグ本体部44は、接続口部42の下端と連通するように配設されて、アウタバッグ41の略全域を構成している。
【0034】
そして、バッグ本体部44は、インナバッグ21を収納して、膨張完了時に、車幅方向でインナバッグ21と重なるインナバッグ収納部45と、車幅方向でインナバッグ21と重ならずに、膨張したインナバッグ21と前後方向や上下方向でずれて膨張することとなるオフセット膨張部46と、を備えて構成されている。オフセット膨張部46は、主膨張部25と前後方向に沿ってずれて配置させることとなる副膨張部47と、主膨張部25の下方に配置される下縁側膨張部51と、を備えてなる。
【0035】
副膨張部47は、前側部48と後側部49とを備えてなる。前側部48は、主膨張部25の前側部26の前方に配置されて、前側部26の覆う前窓WFの残りの前部側を覆うように配設される。後側部49は、主膨張部25の後側部27の前方に配置されて、後側部27の覆う後窓WBの残りの前部側を覆うように配設される。
【0036】
また、前側部48は、前窓WFを覆う本体部48aと、本体部48aの下方に配置されて、ベルトラインBLの下方のドアトリムDTからなる車体側部位18に車外側Oを支持される下縁部48bと、を備えている。なお、本体部48aは、膨張完了時、前縁48cの上端付近が、フロントピラー部FPからなる車体側部位17にも車外側Oを支持されるように構成されている(図5のB参照)。
【0037】
後側部49は、後窓WBを覆う本体部49aと、本体部49aの下方に配置されて、ベルトラインBLの下方のドアトリムDTからなる車体側部位18に車外側Oを支持される下縁部49bと、を備えている。なお、本体部49aは、膨張完了時、前縁49c付近が、センターピラー部CPからなる車体側部位15にも車外側Oを支持されるように構成されている。
【0038】
下縁側膨張部51は、前下部52と後下部53とからなり、前下部52は、主膨張部25の前側部26の下方に配置され、後下部53は、主膨張部25の後側部27の下方に配置されている。これらの前下部52と後下部53とは、副膨張部47の各下縁部48b,49bとともに、バッグ本体部44の下縁44dc側で前後方向に沿って相互に連通され、車外側OをドアトリムDTからなる車体側部位18に支持されるように構成されている。
【0039】
このエアバッグ20の製造は、インナバッグ21とアウタバッグ41とを共に袋状に形成した後、接続口部42を利用して、インナバッグ21をアウタバッグ41内に収納すれば、製造することができる。
【0040】
そして、エアバッグ20を折り畳んで、図示しない折り崩れ防止用のラッピング材により、エアバッグ20を巻き、取付ブラケット11を取付済みのインフレーター10を、クランプ12を利用して、エアバッグ20の接続口部22,42と接続させ、また、エアバッグ20の各取付部43に所定の当板を取り付ければ、エアバッグ組付体を形成できる。その後、当板や取付ブラケット11を、ボディ1側のインナパネル2の所定位置に配置させ、各取付孔43aを挿通させる等して、ボルト3を締め付けて、各当板や取付ブラケット11をインナパネル2に固定して、エアバッグ組付体をボディ1に取り付ける。ついで、インフレーター10に、所定のインフレーター作動用の制御装置から延びる図示しないリード線を結線し、フロントピラーガーニッシュ4やルーフヘッドライニング5をボディ1に取り付け、さらに、リヤピラーガーニッシュ6,センターピラーガーニッシュ7をボディ1に取り付ければ、頭部保護エアバッグ装置Sを、車両Vに搭載することができる。
【0041】
頭部保護エアバッグ装置Sの車両Vへの搭載後、インフレーター10が作動されれば、インフレーター10からの膨張用ガスGが、図2の二点鎖線に示すように、エアバッグ20におけるインナバッグ21の接続口部22から供給路部24を経て、主膨張部25の前側部26と後側部27とに流入して、図4のA,Bに示すように、インナバッグ21が展開膨張し、そして、膨張を完了させる。
【0042】
その際、図4のA,Bや図5のAに示すように、アウタバッグ41も、インナバッグ21の展開により、下縁44cまで展開する。そして、アウタバッグ41は、インナバッグ収納部45が、インナバッグ21の膨張完了に伴って、車幅方向に膨らむ。その後、オフセット膨張部46が、ベントホール28,29から流入する膨張用ガスGにより、車幅方向に膨らむ。そして、副膨張部47の前側部48が、主膨張部25の前側部26の前方側で膨張を完了させ、副膨張部47の後側部49が、主膨張部25の後側部27の前方側で膨張を完了させるとともに、下縁側膨張部51の前下部52が、前側部26の下方で膨張を完了させ、下縁側膨張部51の後下部53が、後側部27の下方で膨張を完了させることとなる(図6参照)。
【0043】
すなわち、実施形態の頭部保護エアバッグ装置Sでは、作動当初、インフレーター10からの膨張用ガスGが、エアバッグ20のインナバッグ21に流入することから、インナバッグ21が展開膨張し、インナバッグ21の主膨張部25が迅速に膨張を完了させることとなる。そのため、エアバッグ20は、膨張を完了させたインナバッグ21の主膨張部25の前側部26と後側部27とにより、側突時の前席乗員MFと後席乗員MBを的確に受け止めて保護することができる。
【0044】
ちなみに、実施形態の場合、インナバッグ21は、既述したように、接続口部22が、インフレーター10を利用してルーフサイドレール部RRとなる車体側部位14に連結支持される支持部位31となり、また、主膨張部25の前側部26の後部が、センターピラー部CPとなる車体側部位15に支持される支持部位32となり、さらに、主膨張部25の後側部27の後部が、リヤピラー部RPとなる車体側部位16に支持される支持部位33となって、これらの支持部位31,32,33によって、インナバッグ21の主膨張部25の前側部26や後側部27は、車外側O方向へ移動せずに、側突時の車外側Oに移動する前席乗員MFや後席乗員MBの頭部MHを、クッション性よく受け止めて保護することができることとなる。
【0045】
また、アウタバッグ41では、インナバッグ21のベントホール28,29から膨張用ガスGを流入させ、副膨張部47の前側部48や後側部49の膨張を完了させて、アウタバッグ41の車外側方向への移動を抑制可能に、副膨張部47が窓Wの周囲の車体側部位15,16.17,18に支持されることとなる。そのため、ロールオーバ時、前席乗員MFや後席乗員MBが、窓W(WF,WB)の前部側を経て、車外側Oに移動しようとしても、膨張を完了させて車体側部位15,16,17,18に支持された副膨張部47の前側部48や後側部49が、クッション性よく前席乗員MFや後席乗員MBを受け止めて、前席乗員MFや後席乗員MBの車外側Oへの移動を抑制する。
【0046】
なお、既述したように、前側部48は、下縁部48bの車外側Oを車体側部位18に支持され、前縁48cの上端付近の車外側Oを車体側部位17に支持され(図5のB参照)、後側部49は、下縁部49bの車外側Oを車体側部位18に支持され、前縁49cの車外側Oを車体側部位15に支持される。さらに、前側部48と後側部49とは、車外側Oの移動規制を、車体側部位18に車外側Oを支持される下縁側膨張部51にもサポートされる(図4のC参照)。
【0047】
そして、作動当初に膨張を完了させたインナバッグ21が、膨張用ガスGを漏らしても、その漏れた膨張用ガスGは、アウタバッグ41内に留まって、エアバッグ20自体から流出するわけではない。さらに、アウタバッグ41の膨張完了は、側突時における頭部保護エアバッグ装置Sの作動直後の数十ms以内でなく、ロールオーバ対応の頭部保護エアバッグ装置Sの作動直後の1秒程度後に膨張を完了させ、そして、5,6秒程度、その内圧を維持すればよいことから、インナバッグ21を収納するだけで、インナバッグ21より内容積が大きく、また、インフレーター10からの膨張用ガスGと直接接触しない分、アウタバッグ41は、インナバッグ21に比べて、側突対応時の急激な圧力上昇のダメージを受け難く、容易に、ロールオーバ対応の内圧維持を達成できる。
【0048】
したがって、実施形態の頭部保護エアバッグ装置Sでは、膨張時のエアバッグ20が、側突時とロールオーバ時とに的確に対応して乗員M(MF,MB)を受け止めて保護することができる。
【0049】
また、実施形態の頭部保護エアバッグ装置Sでは、副膨張部47の前側部48と後側部49とが、車内側から見て、主膨張部25の前側部26や後側部27と、前後方向に位置をずらして、配設されている。
【0050】
このような構成では、側突時、通常、乗員Mは着座した位置から車幅方向の車外側に移動するが、ロールオーバ時には、前後方向にずれつつ車外側方向に移動し易い。その際、例えば、前席乗員MFが車外側方向で前方側に移動しても、膨張を完了させた副膨張部47の前側部48の本体部48aが、その前席乗員MFをクッション性よく受け止めることができる。また、後席乗員MBが車外側方向で前方側に移動しても、膨張を完了させた副膨張部47の後側部49の本体部49aが、その後席乗員MBをクッション性よく受け止めることができる。
【0051】
なお、クッション性よく乗員を受け止める副膨張部は、ロールオーバ時の車両の減速を考慮すれば、実施形態のように、乗員を受け止める主膨張部の前方側にずらして、副膨張部を配設することが望ましい。
【0052】
また、実施形態の頭部保護エアバッグ装置Sでは、インナバッグ21のベントホール28,29が、インナバッグ21の上部側に配設されている。
【0053】
このような構成では、インナバッグ21が下縁21aまで完全に展開していなくとも、ベントホール28,29を経て、アウタバッグ41側に膨張用ガスGを供給することができる。そのため、前席乗員MFや後席乗員MBが前窓WFや後窓WBに近接し、インナバッグ21がそれらの前席乗員MFや後席乗員MBと干渉して下縁21aまで十分に展開されなくとも、エアバッグ20は、インナバッグ21のベントホール28,29から流入する膨張用ガスGによって、アウタバッグ41を展開膨張させることができて、前席乗員MFや後席乗員MBと前窓WFや後窓WBとの間にアウタバッグ41を進入させ、前席乗員MFや後席乗員MBの車外放出を抑制可能となる。
【0054】
なお、実施形態のエアバッグ20では、アウタバッグ41の副膨張部47の前側部48や後側部49が、ドアトリムDTからなる車体側部位18に支持される構成とした。しかし、フロントピラー部FPやセンターピラー部CP、あるいは、リヤピラー部RPからなる車体側部位15,16,17の支持により、副膨張部47の前側部48や後側部49が車外側方向への移動を十分規制できる場合には、副膨張部47の前側部48や後側部49は、ドアトリムDTからなる車体側部位18に支持させなくとも、下縁側を窓Wの領域内に配置されるように、短くしてもよい。逆に、副膨張部47の前側部48や後側部49が車外側方向への移動を十分規制できる場合には、副膨張部47の前側部48や後側部49は、ドアトリムDTからなる車体側部位18にだけ支持されるように構成してもよい。
【0055】
また、下縁側膨張部51の補助により、副膨張部47の前側部48や後側部49が、車外側方向への移動を十分規制される場合には、副膨張部47自体は、車体側部位15,16,17,18から直接支持されないように構成してもよい。
【0056】
さらに、実施形態では、インナバッグ21自体が、ドアトリムDTからなる車体側部位18に支持されないように構成したが、図7に示すように、主膨張部25の前側部26や後側部27は、ドアトリムDTからなる車体側部位18に支持されるように、下縁21a側を下方へ長く延ばすように構成してもよい。
【0057】
さらに、実施形態のエアバッグ20に関し、図8に示すエアバッグ20Aのように、アウタバッグ41Aの前縁41b側にフロントピラー部FPに連結させるテンションベルト60を設けてもよい。
【0058】
また、実施形態のエアバッグ20では、副膨張部47の前側部48や後側部49が、主膨張部25の前側部26や後側部27の前方に配置させた場合を例示したが、副膨張部は、主膨張部の前後方向にずれて配置されていなくともよい。例えば、図8のエアバッグ20Aのように、インナバッグ21Aの主膨張部25における前側部26Aが、前上側に延びて構成されるような場合、副膨張部47の前側部48Aは、前窓WFの前側部26Aが覆っている領域の残部を覆うように、前側部26Aの下方に配置させてもよい。勿論、副膨張部は、主膨張部の配置状態に応じて、主膨張部の上方に配置させてもよい。
【符号の説明】
【0059】
1…(車体)ボディ、
10…インフレーター、
14…(ルーフサイドレール部)車体側部位、
15…(センターピラー部)車体側部位、
16…(リヤピラー部)車体側部位、
17…(フロントピラー部)車体側部位、
18…(ドアトリム)車体側部位、
20,20A…エアバッグ、
21…インナバッグ、
25…主膨張部、
26…前側部、
27…後側部、
28,28A,29…ベントホール、
41,41A…アウタバッグ、
47…副膨張部、
48,48A…前側部、
49…後側部、
I…車内側、
O…車外側、
G…膨張用ガス、
V…車両、
WF…前窓、
WB…後窓、
MF…前席乗員、
MB…後席乗員、
MH…頭部、
S…頭部保護エアバッグ装置。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両の車内側の窓の上縁側に折り畳まれ収納され、インフレーターからの膨張用ガスの流入時、少なくとも着座した乗員頭部の車外側の位置で膨張して前記乗員頭部を受け止め可能な主膨張部を有して、前記窓と前記窓の周囲における車体側部位との車内側を覆い可能に展開膨張するエアバッグ、を備えて構成される頭部保護エアバッグ装置であって、
前記エアバッグが、前記インフレーターからの膨張用ガスを流入させて膨らむインナバッグと、該インナバッグを内部に収納して、前記インナバッグのベントホールから膨張用ガスを流入させて膨張するアウタバッグと、を備えて構成され、
前記インナバッグが、前記主膨張部を備えて構成されるとともに、
前記インナバッグの前記ベントホールが、前記主膨張部の膨張完了後に、前記アウタバッグの膨張を完了させるように、構成され、
前記アウタバッグが、前記主膨張部とずれて、かつ、前記主膨張部の覆う前記窓の残部側を覆って膨らむ副膨張部、を備えて構成されるとともに、膨張完了時における前記副膨張部の車外側方向への移動を抑制可能に、前記窓の周囲の車体側部位に支持されるように、配設されていることを特徴とする頭部保護エアバッグ装置。
【請求項2】
前記副膨張部が、車内側から見て、前記主膨張部と前後方向に位置をずらして、配設されていることを特徴とする請求項1に記載の頭部保護エアバッグ装置。
【請求項3】
前記インナバッグのベントホールが、前記インナバッグの上部側に配設されていることを特徴とする請求項1若しくは請求項2に記載の頭部保護エアバッグ装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2013−71568(P2013−71568A)
【公開日】平成25年4月22日(2013.4.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−211415(P2011−211415)
【出願日】平成23年9月27日(2011.9.27)
【出願人】(000241463)豊田合成株式会社 (3,467)
【Fターム(参考)】