説明

頭頸部がんの処置

式(I)
【化1】


の、4−(4−メチルピペラジン−1−イルメチル)−N−[4−メチル−3−(4−ピリジン−3−イル)ピリミジン−2−イルアミノ)フェニル]−ベンズアミドまたはその薬学的に許容される塩を、頭頸部がんの処置において使用することができる。


【発明の詳細な説明】
【発明の詳細な説明】
【0001】
本発明は、4−(4−メチルピペラジン−1−イルメチル)−N−[4−メチル−3−(4−ピリジン−3−イル)ピリミジン−2−イルアミノ)フェニル]−ベンズアミド(以後「化合物I」と呼ぶ)またはその薬学的に許容される塩の、頭頸部がんの処置において使用するための医薬組成物の製造のための使用、化合物Iまたはその薬学的に許容される塩の、頭頸部がんの処置における使用、ならびに、頭頸部がんを有する温血動物(ヒトを含む)を、かかる処置を必要とする動物に有効量の化合物Iまたはその薬学的に許容される塩を投与することにより処置する方法に関する。
【0002】
米国における頭頸部がんの新症例の年間数は、およそ40000症例であり、成人悪性腫瘍の約5%にのぼる。
【0003】
頭頸部がんには3つの主要な処置の選択:手術、放射線および化学療法が存在する。これらの治療の1つまたはそれらの組合せは、がんの処置のために使用され得る。この設定において、単一薬剤活性での化学療法剤は、メトトレキサート、5−フルオロウラシル(以後5FUと略す)、シスプラチン、パクリタキセルおよびドセタキセルを含む。シスプラチンおよび5FU、カルボプラチンおよび5FUならびにシスプラチンおよびパクリタキセルの組合せも、使用される。
【0004】
頭頸部がんに対する手術、放射線および化学療法は、当業者に既知の多くの副作用を引き起こし得る。頭頸部がん治療の改善は、よりよい抗腫瘍効果、より少ない副作用、ならびにより低い費用および入院比率を含み、したがって、患者に対してより適している。
【0005】
全身性治療に対する頭頸部がんの完全応答は、しばしば落胆させられる。
【0006】
本発明は、頭頸部がんの処置における他の治療のための必要に対する応答である。
本発明は驚くべきことに、化合物Iまたはその薬学的に許容される塩で、ならびに化合物Iまたはその薬学的に許容される塩および頭頸部がんの処置に適応される化合物から選択される少なくとも1種の化合物で、成功裏に処置し得ることを示した。
【0007】
図面の簡単な説明
図1:化合物Iおよびシスプラチンの様々な組合せに対するCal27細胞の応答の、3−D相乗プロット。示された領域プロファイルは、95%の信頼区間である。
図2:化合物Iおよびゲムシタビンの様々な組合せに対するCal27細胞の応答の、3−D相乗プロット。示された領域プロファイルは、95%の信頼区間である。
【0008】
頭頸部がんの上皮性がんは、頭頸部領域の粘膜性表面から起こり、典型的には扁平上皮細胞を起源とする。この分類は、副鼻腔、口腔ならびに鼻咽頭、中咽頭、下咽頭および喉頭の腫瘍を含む。唾液腺の腫瘍は、病因学、組織病理学、臨床所見および治療法において、頭頸部がんのより一般的ながんとは異なる。
【0009】
扁平上皮細胞の頭頸部がんは、高分化、中分化および低分化の分類に分割され得る。低分化腫瘍を有する患者は、高分化腫瘍を有するものより悪い予後を有する。
【0010】
全咽頭の粘膜性表面は、アルコールおよびタバコに関係する発がん性物質に曝され、浸潤性がんへと進行し得る、前がん性またはがん性病変、たとえば紅板症または白板症(過形成、異形成)の進行の危険がある。あるいは、多発性の同期または異時がんが進行し得る。事実、初期段階の頭頸部がんを有する患者は、原発性疾患の再発によって死ぬよりも、第2の悪性腫瘍での死亡がより大きな危険である。第2の頭頸部悪性腫瘍は、治療誘導性ではないが、その代わり、第1のがんを引き起こした同じ発がん性物質への上気道消化管粘膜の暴露を反映する。これらの第2の原発物は、頭頸部領域、肺または食道において進行する。
【0011】
それらが始まった体の部位にちなんだ、6つの主な型の頭頸部がんが存在する。
1−唇のがん
唇のがんは通常初期に表れ、したがってよい予後を有する。それは赤唇縁から起こる。下唇は、最も一般的に影響される(すなわち95%)。それは、主に唇の内側表面に腺様嚢胞がんを有する扁平上皮細胞がんである。
【0012】
2−唾液腺がん
唾液腺のがんは、唾液腺組織の悪性腫瘍である。ほとんどのがん性腫瘍は、唾液腺のもっとも大きなもの、耳下腺(顔の両側の耳の前に見出される)および顎骨の下の顎下腺において始まる。唾液腺腫瘍は、大唾液腺、すなわち耳下腺、顎下腺、舌下腺または小唾液腺、すなわち上気道消化管の粘膜下層に位置するものから発生し得る。ほとんどの耳下腺腫瘍は良性であるが、顎下腺および舌下腺腫瘍の半分およびほとんどの小唾液腺腫瘍は悪性である。悪性腫瘍は、粘膜表皮および腺様嚢胞がんならびに腺がんを含む。
【0013】
3−口腔および口腔咽頭がん
最も一般的な型の頭頸部がんの1つが、口腔、すなわち口および舌、ならびに口腔咽頭、すなわち喉の中頃のがんである。それらは口および喉の内表面である層中の平らな、扁平上皮細胞において始まるため、90%以上の口腔および口腔咽頭がんは、扁平上皮細胞がんと呼ばれる。
【0014】
4−鼻咽頭がん
鼻咽頭がんは、鼻咽頭、喉の上部の気道、すなわち鼻の後の咽頭を攻撃する疾患である。いくつかの型の良性鼻咽頭腫瘍:血管または血液輸送系が関与する血管線維腫および血管腫;および少数の唾液腺を含む鼻咽頭の内表面である層における腫瘍が存在する。悪性鼻咽頭腫瘍は、がん性であり、そして体の他の部位の組織および臓器を浸潤し、損傷を与え得る。2つの主要な鼻咽頭がんの亜型は、角質化扁平上皮細胞がんおよび非角質化扁平上皮細胞がんである。非角質化がんは、さらに分化および非分化がんへと分割され得る。多くの場合、がん、たとえば鼻咽頭がんはまた、免疫細胞、とりわけリンパ球、たとえばリンパ上皮腫、すなわち非分化がんを含む。
【0015】
5−鼻腔および副鼻腔がん
鼻腔および副鼻腔がんは、鼻の周りの領域から始まる悪性腫瘍である。上顎洞のがんは、最も一般的な副鼻腔がんである。鼻腔および副鼻腔は、以下の細胞型:扁平上皮細胞、小唾液腺細胞、神経細胞、感染抵抗細胞および血管細胞を有する粘膜生産組織の層によって内側を覆われている。
【0016】
6−喉頭および下喉頭がん
がんは、喉頭の3つの部位のいずれか、すなわち声門、声門上または声門下において発症し得る。それらがこれらの体の部分の薄い外側層を作る平らな、扁平上皮細胞から始まるため、前喉頭および下喉頭がんの約95%が、扁平上皮細胞がんと呼ばれる。
【0017】
化合物I、すなわち4−(4−メチルピペラジン−1−イルメチル)−N−[4−メチル−3−(4−ピリジン−3−イル)ピリミジン−2−イルアミノ)フェニル]−ベンズアミドは、以下の式
【化1】

を有する。
【0018】
とりわけ抗腫瘍剤としての、化合物Iの製造およびその使用は、欧州特許出願EP−A−0 564 409(1993年10月6日公開)の実施例21、および多くの他の国における対応出願または特許、たとえば米国特許5,521,184および日本国特許2706682に記載されている。
【0019】
化合物Iの薬学的に許容される塩は、薬学的に許容される酸付加塩であり、それらはEP−A−0 564 409に記載されている。
【0020】
化合物Iのモノメタンスルホン酸付加塩または「メシル酸イマチニブ」およびその好ましい結晶形、たとえばベータ−結晶形を本明細書中で「塩I」と呼び、PCT特許出願WO99/03854(1999年1月28日公開、出典明示により本明細書の一部とする)に記載されている。有効量の化合物Iを含む可能な医薬製剤はまた、WO99/03854に記載されている。
【0021】
したがって、本発明は、4−(4−メチルピペラジン−1−イルメチル)−N−[4−メチル−3−(4−ピリジン−3−イル)ピリミジン−2−イルアミノ)フェニル]−ベンズアミドまたはその薬学的に許容される塩、たとえば塩Iの、頭頸部がん処置用医薬の製造のための使用に関する。
【0022】
本発明はとりわけ、化合物Iまたはその薬学的に許容される塩、たとえば塩Iの、頭頸部がん、とりわけ腺様嚢胞がんおよび扁平上皮細胞がん用医薬の製造のための使用に関する。
【0023】
4−(4−メチルピペラジン−1−イルメチル)−N−[4−メチル−3−(4−ピリジン−3−イル)ピリミジン−2−イルアミノ)フェニル]−ベンズアミド(化合物I)を含んでなる頭頸部がん、とりわけ腺様嚢胞がんおよび扁平上皮細胞がんの処置用医薬組成物。
【0024】
本明細書で使用する「処置」との用語は、治療的処置および予防的処置を意味する。
【0025】
本明細書で使用する「治療的」との用語は、頭頸部がんの進行中のエピソードの処置における効果を意味する。
【0026】
「予防的」との用語は、頭頸部がんの発生および再発の予防を意味する。
【0027】
本発明はまた、薬学的に有効量の化合物Iまたはその薬学的に許容される塩、たとえば塩Iを、頭頸部がんを有する対象に投与することを含む方法に関する。好ましくは、化合物Iまたはその薬学的に許容される塩、たとえば塩Iを1日1回で3ヶ月を越える期間、投与する。本発明は、とりわけ、日投与量100から1000mg、たとえば200から800mg、とりわけ400から600mg、好ましくは400mgの化合物Iまたはその薬学的に許容される塩、たとえば塩Iを投与する、かかる方法に関する。
【0028】
種、年齢、個体の状態、投与形態および問題の臨床画像に依存して、有効投与量、たとえば日投与量約100から1000mg、好ましくは200から600mg、とりわけ400mgの化合物Iを、体重約70kgの温血動物に投与する。切除不能の頭頸部がんを有する成体の患者に対して、1日400mgの化合物Iの出発投与量を勧めることができる。1日400mgの化合物Iでの治療の応答の評価後、不十分な応答を有する対象に対して、投与量の漸増を安全に考えることができ、そして患者を、処置から利益を得、制限する毒性がない限り、処置し得る。
【0029】
他の態様において、本発明はまた、化合物Iまたはその薬学的に許容される塩、たとえば塩Iの投与を、放射線療法、たとえば外部または内部放射線および/または化学療法の前、または同時に行う、本明細書に記載の使用または処置の方法に関する。
【0030】
本発明は、(a)N−{5−[4−(4−メチル−ピペラジノ−メチル)−ベンゾイルアミド]−2−メチルフェニル}−4−(3−ピリジル)−2−ピリミジン−アミン(以後化合物Iと表す)またはその薬学的に許容される塩および(b)化学療法剤のような頭頸部がんの処置に適応される化合物、たとえばメルファラン、ドキソルビシン、シクロホスファミド、ロイコボリン、エピクリン、ビンクリスチン、マイトマイシンC、ヒドロキシ尿素、ブレオマイシン、メトトレキセート、5FU、シスプラチン、パクリタキセル、カルボプラチンおよびドセタキセルから選択される少なくとも1種の化合物、ならびに所望により少なくとも一種の薬学的に許容される担体を含んでなる、同時的、個別的または逐次的使用のための、とりわけ頭頸部がんの処置用組合せ剤;かかる組合せを含んでなる医薬組成物;頭頸部がんの進行の遅延または処置用医薬の製造のための、かかる組合せの使用;およびかかる組合せ剤を含んでなる商品パッケージまたは製品に関する。
【0031】
本発明は、頭頸部がんを有する対象、とりわけヒトを処置する方法であって、該対象に、(a)化合物Iまたはその薬学的に許容される塩、たとえば塩Iおよび(b)シスプラチンを含んでなる組合せ剤を投与することを含んでなる方法に関する。
【0032】
本発明は、頭頸部がんを有する対象、とりわけヒトを処置する方法であって、該対象に、(a)化合物Iまたはその薬学的に許容される塩、たとえば塩Iおよび(b)シスプラチンおよび5−フルオロウラシルを含んでなる組合せ剤を投与することを含んでなる方法に関する。
【0033】
上記組合せ剤は、外科的または放射線療法、たとえば外部または内部放射線の前に使用することができ、または逐次的よりもむしろ同時的に与えられる。
【0034】
パクリタキセル(Taxol(登録商標))は、抗腫瘍活性を有する天然産物である。TAXOLは、ヨーロッパイチイ(Taxus baccata)から半合成的処理を介して得られる。パクリタキセルの化学名は、5(ベータ),20−エポキシ−1,2(アルファ),4,7(ベータ),10(ベータ),13(アルファ)−ヘキサヒドロキシタクス−11−エン−9−オン4,10−ジアセテート2−ベンゾエート13−の(2R,3S)−N−ベンゾイル−3−フェニルイソセリンとのエステルである。パクリタキセルは、ヒトに対して約50から300mg/m日の範囲の投与量で投与し得る。パクリタキセルは、ヒトに対して静脈内投与で3週間ごとに約135mg/mから約175mg/mまたは2週間ごとに100mg/mの範囲の投与量で投与し得る。
【0035】
ドセタキセルは、ヒトに対して約25から100mg/m日の範囲の投与量で投与し得る。ドセタキセルは、たとえば市販、たとえばTAXOTERE(商標)の商標名の形態で、投与し得る。
【0036】
シクロホスファミドは、ヒトに対して約50から1500mg/m日の範囲の投与量で投与し得る。
【0037】
メルファランは、ヒトに対して約0.5から10mg/m日の範囲の投与量で投与し得る。
【0038】
ドキソルビシンは、たとえば市販、たとえばADRIBLASTIN(商標)の商標名の形態で投与し得、ドキソルビシンは、ヒトに対して約10から100mg/m日の範囲、たとえば25または50mg/m日の投与量で投与し得る。
【0039】
シクロホスファミドは、ヒトに対して約50から1500mg/m日の範囲の投与量で投与し得る。
【0040】
硫酸ビンクリスチンは、非経腸的にヒトに対して約0.025から0.05mg/kg体重*週の範囲の投与量で投与し得る。硫酸ビンクリスチンをたとえば市販、たとえばFARMISTIN(商標)の商標名の形態で投与し得る。
【0041】
5−フルオロウラシルは、ヒトに対して約50から1000mg/m日の範囲、たとえば500mg/m日の投与量で投与し得る。
【0042】
メトトレキセートは、ヒトに対して約5から500mg/m日の範囲の投与量で投与し得る。
【0043】
シスプラチンは、ヒトに対して約3週間ごとに約25から75mg/mの範囲の投与量で投与し得る。
【0044】
カルボプラチンは、ヒトに対して約4週間ごとに約200から400mg/mの範囲の投与量で投与し得る。カルボプラチンは、たとえば市販、たとえばCARBOPLAT(商標)の商標名の形態で投与し得る。
【0045】
塩酸ゲムシタビン(2次腫瘍が発生し得るので、強く勧めない)は、ヒトに対して約1000mg/週の範囲の投与量で投与し得る。
【0046】
化合物Iまたはその薬学的に許容される塩、たとえば塩Iが、頭頸部がんの予防または好ましくは処置により効果的であることは、確立された試験モデルにおいて示され得る。化合物Iまたはその薬学的に許容される塩、たとえば塩Iは、現在の治療よりかなり少ない副作用を有する。さらに化合物Iまたはその薬学的に許容される塩、たとえば塩Iは、腺様嚢胞がんおよび扁平上皮細胞がんのような頭頸部がんの異なった局面において、有利な効果がある。
【0047】
化合物Iまたはその薬学的に許容される塩、たとえば塩Iは、その予期せぬ多機能活性およびその頭頸部がんの異なる局面に対する活性のため、頭頸部がんを予防または排除する予期せぬ高い能力を示す。
【0048】
当業者は、前後に示した治療的適応および有利な効果、すなわち良好な治療マージンおよび本明細書に記載の他の利点を証明するための、適切な試験モデルを選択することは、十分に可能である。該薬理学的活性は、たとえば、インビトロおよびインビボ試験方法において、または本質的に以後に記載の臨床試験において、証明される。以下の実施例は上記発明を説明するが、いかなる方法においても本発明の技術的範囲を制限することを意図しない。
【実施例】
【0049】
実施例1:
頭頸部がんにおける化合物I、たとえば塩I:
前臨床報告
細胞培養:
細胞を、10%熱不活性化胎児ウシ血清(FCS、Sigma)、グルタミンおよび抗生物質を補ったM6培地(50%RPMIおよび50%L−15、Sigma)中で維持する。細胞株を、週ごとに継代培養し、定期的にマイコプラズマ汚染についてスクリーニングする。全細胞株および初代培養をマイコプラズマについて陰性であることを見る。
【0050】
初代細胞培養:
短期培養のため腫瘍物質を、患者の手術計画の一部として定期的に得る。該組織試料を集め、M6培地中に移す。壊死物質を除去後、該腫瘍を「交差外科メス」を使用して微細なスラリーに刻む。次いで、該スラリーを径を減少させながら(100μm、40μm)フィルターに通し、そしてM6を含む組織培養フラスコへと加える。該培地を定期的に交換し、該腫瘍細胞がほぼコンフルエンスまで増殖すると、該細胞を4代まで継体培養する。含まれる3ACC初代培養は、HN1、HN3、HN5と呼ばれる。
【0051】
細胞株:
該ヒト頭頸部扁平上皮細胞がん細胞株(HNSCC)Cal27およびFaDuを、部分的に表現型Dokに形質転換した異形性頭頸部扁平上皮細胞株と共に使用する。該c−kit陽性細胞株A549を、対照として作用するようにパネルに加え、既知のc−kitに対するリガンドであるスチール・ファクターの存在下および不存在下で処置する。シスプラチン処置への応答におけるEGFRの可能性のある役割を調査するため、該EGFR過剰発現ヒト扁平上皮がん細胞株A431を、細胞パネルに加える。
【0052】
増殖阻害アッセイ:
増殖阻害を、細胞タンパク質内容物の定量のためのスルフォローダミンB(Sulforhodamine B)(SRB)アッセイの変法を用いて測定する。(Skehan et al., J. Natl. Cancer Inst. (1990), 82:1107-12)。簡潔に述べると、細胞を96ウェルプレート(Greiner, UK)へと1000細胞/ウェルで100μlの培地中に播く。次いで、該細胞を、薬剤の添加の前に、24時間接着させる。化合物I、たとえば塩Iの2倍連続希釈を3連で加え、該プレートを、各々個々の細胞の予め測定した増殖特性に基づいて、5から7日の間インキュベートする。該細胞を、培地の除去後、100μlの予め冷却された10%トリクロロ酢酸で固定する。次いで該プレートを、4℃にて1時間冷却する。続いて、該プレートを水で2度洗浄し、50μlの1%酢酸中0.4%SRBで、10分、室温にて染色する。未結合の染色剤を除去し、該プレートを1%酢酸中で洗浄してさらに未結合の染色剤を除去する。次いで該プレートを、空気乾燥し、結合染色剤を100μlの非緩衝化10mMのTris塩基(pH8.0)中で可溶化し、蛍光を、FL500蛍光スペクトロメーター(Labsystems UK)を使用し、波長設定Ex520nm、Em590nmで測定する。成長阻害曲線をプロットし、IC50値を測定する。
【0053】
相乗アッセイ:
相乗効果を、Prichard and Shipman, Antiviral Research, 1990, 14:181-206に記載のとおりに測定する。簡潔に述べると、縦列の薬剤(vertical drug)を、8連続2倍希釈でプレート全体に加え、横列の薬剤(horizontal drug)を5連続希釈で第一薬剤に対して90°で播く。これは、2連の40投与量のマトリックス組合せという結果になる。この研究において、該縦列薬剤は常に化合物I、たとえば塩Iである。各薬剤について個々に測定した各細胞培養についての該IC50値を、各薬剤組合せの初期濃度の選択についてのガイドとして使用する。インキュベーション後、前記のとおり該プレートを固定し、染色し、蛍光を読む。3−D表計算モデルを使用して2つの96ウェルプレートから得られたデータを処理する。次いで、薬剤組合せアッセイ実験からのデータを、予測される相加作用と比較する。相乗効果または拮抗作用を、相加の場合の上(正の大きさ)または下(負の大きさ)の該領域の大きさによって定量する。正の大きさは相乗効果を示すが、負の大きさは拮抗作用を示す。95%の信頼水準値で、25までを相加的と考え、25から50の値は小さい、しかし有意な相乗効果または拮抗作用を示すが、50から100の値は、適度に相乗的または拮抗的であると考える。
【0054】
デオキシシチジンキナーゼアッセイ:
化合物I、たとえば塩Iのデオキシシチジンキナーゼ(dCK)活性における効果を、Singhal et al, Oncol. Res. 1992, 4(11-12):517-22の変法を使用して測定する。簡潔に述べると、細胞を遠心分離によりペレットにし、バグバスター(bugbuster)(Novagen)中に溶解する。該細胞分画を除去する。500μlの細胞溶解液に、75μlのATP、8.6μlのトリチウムシチジン([H]CTP)および378μlの保存バッファー(25μlの3.5M MgCl、50μlの0.1M DTT、2500μlの10mM KClおよび6825μlの2回蒸留水)を加える。該反応混合物を、30分、37度にて、増加濃度の化合物I、たとえば塩Iと共にインキュベートする。該反応を、3分の沸騰により停止させ、該沈殿タンパク質を60秒のマイクロ遠心分離によって沈降させる。その後、50μlのアリコート上清を、DEA81セルロース紙のディスクにアプライする。非リン酸化デオキシシチジンを、1mMギ酸アンモニウムでの3連続5分洗浄により除去する。最後に、該ディスクを、5分水中で洗浄し、続いてさらに5分エタノール中で脱水する。次いで該ディスクを、空気乾燥し、シンチレーションバイアル中に入れ、5mlのキシレンベースのシンチラント中で数える。
【0055】
チミジンキナーゼ(TK)はまた、デオキシシチジンをリン酸化し、したがって冷チミジンを各反応混合物に加えてTK活性を飽和させるために50mMの最終濃度にする。
【0056】
レセプターの状態:
原発性腫瘍のC−Kitレセプター状態は、診断で陽性であると確定される。さらに、移植された原発性腫瘍および確立された細胞株におけるIHC調査を、Christie hospitalの組織学部門により行う。
【0057】
結果
増殖阻害:
試験薬剤パネルについてのIC50値を表1に示す。細胞株およびACC初期培養の化合物I、たとえば塩Iに対する応答は、比較的高いIC50(17から33μM)であって比較的同一である。このマイクロモル濃度応答はまた、2つの架橋剤、シスプラチンおよびメルファランで見られる(表1)。細胞株Cal27において、この薬剤に最も感受性を示した。チューブリン結合剤への応答は同じである。該ACC初代培養(HN1、HN3、HN5)は、確立された細胞株に比べて薬剤パネルにわずかにより耐性である。この細胞グループにおいて、化合物Iへの応答は、確立された細胞株のそれと酷似する。c−kit過剰発現細胞株A549における化合物Iに対するIC50は15μMであって、確立された細胞株および初代培養のそれと同じであることが判明する。この値は、これらの細胞がスチール・ファクターの存在下において処置するとき、不変である。
【0058】
相乗効果:
3次元相乗効果分析の結果は、DOKおよびCal27の両細胞株においてシスプラチンで緩やかな、しかし有意な程度の相乗効果を示す。(表2)。該Cal27細胞株は、最も大きな程度の相乗効果を示す(図1)が、興味深いことに、FaDu細胞株は、DOK細胞株のそれと同様に両薬剤に対して応答を有するにもかかわらず、シスプラチンでの有意な相乗効果を示さない(表1)。有意な相乗的応答は、初代ACC培養においては、観察されない。同様に、相乗的効果は、パネル中の化合物Iおよび他の薬剤の他の組合せで観察されない。上皮性腫瘍に対するシスプラチンへの応答は、EGFR状態と関係がある。化合物IがEGFRチロシンキナーゼに作用する証拠がないとはいえ、かかる相互作用を、EGFR過剰発現細胞株A431を使用して探索することにより、観察された相乗効果の可能性が存在し得る。緩やかな、しかし有意な相乗効果が他の確立された細胞株のそれと同じレベルで観察される(相乗効果=27.6、95%信頼区間)。
【0059】
拮抗作用:
有意な拮抗作用が、試験した全ての細胞株においてゲムシタビンおよび化合物Iの間に観察される(表3、図2)。ゲムシタビンがデオキシシチジンキナーゼ(dCK)によって活性化されるので、この酵素に対する化合物Iの効果を、Cal27細胞からの細胞質抽出物を使用して調査する。dCK活性の投与量依存阻害を観察し、60μMのIC50である(表4)。
【0060】
レセプター状態:
移植腫瘍細胞の組織学は上皮性として観察されるが、該c−kitレセプター状態は、陰性であると発見される。元の腫瘍のc−kitレセプター状態が診断で陽性と確認されるので、レセプターの下方制御が培養状態の応答として起こっているはずである。確立されたHSCC細胞株はまた、c−kitレセプター陰性である。
【0061】
細胞毒性化学療法の初期の経験は、何人かの臨床医がACCに対する化学療法に役割がないと主張させる原因となった。現在、症候性再発および転移疾患に対して化学療法を使用することが、より一般的になってきている。単剤の応答比率は、最も活性の薬剤であると思われた、シスプラチン、5−フルオロウラシルおよびアントラサイクリンで低い。単独の化合物Iは、これらの細胞で発現されるレセプターキナーゼ標的の欠如にもかかわらず、HNSCC細胞株パネルにおいて、増殖阻害効果を有する。元のACC腫瘍生検は、C−kit受容体発現について陽性であると確定しているが;明らかに、この発現は、短期培養への適応における下方制御であると考えられる。にもかかわらず、これらの初代培養を化合物Iに曝したとき、それらはHNSCC細胞株のそれと類似の応答を示す。化合物Iが細胞増殖を阻害する範囲は高いが、c−kit陽性細胞株A549はc−kitリガンドのスチール・ファクターの存在下および不存在下の両方で、類似の応答を示す。これは、培養細胞においてレセプターが介在する増殖での小さな変化がインビトロでこれらのレセプターに標的化された薬剤による増殖阻害に有意な効果を生み出すのに十分ではないためであろう。化合物Iが明らかに培養において細胞の抗増殖効果を有するので;既存の臨床薬剤および化合物Iの組合せ剤を探索する。試験した薬剤パネルにおいて、シスプラチンで緩やかな、しかし有意な相乗効果が観察された3つのHNSCC株のうちの2つを除き、ほとんどは有意な相互作用を示さない。この研究において使用されたものを含む、多くの頭頸部細胞株のEGFR状態は、しばしば陽性である。EGFR過剰発現細胞株のA431を陽性対照として使用する。再び、穏やかな、しかし有意な相乗効果が観察される。化合物Iによるゲムシタビンへの観察された拮抗作用はまた、デオキシシチジンキナーゼ活性の阻害のためであると考えられるであろう。dCKの直接的阻害剤は、ゲムシタビンの活性化を阻害するであろうし、したがって、その有効性を減ずるであろう。dCK活性を阻害するのに必要である化合物Iの投与量は高い(120μM)が、それはこれらの細胞株において観察されるこの薬剤のIC50の5倍未満である。化合物Iがablタンパク質キナーゼのATP結合部位と結合するので、ヌクレオチドトランスポーターのような他のATP依存タンパク質が影響され得る可能性がある。ゲムシタビンは、ヌクレオチドトランスポーターの基質であることが知られているが、ゲムシタビン耐性は、この薬剤の細胞膜を通る輸送における変化に関連しない。結果、化合物Iによるゲムシタビンの拮抗作用は、これらのトランスポータータンパク質に対する効果のためではなさそうである。ここで示されたデータは、拮抗作用が化合物IによるdCK阻害の結果であるとの提言と一致する。
【0062】
【表1】

(NTは結果がないことを示す。Cpd I=化合物I、Cisp=シスプラチン、Mel=メルファラン、5FU=5フルオロウラシル、VBL=ビンブラスチン、Gem=ゲムシタビン、RH1=MMC=マイトマイシンC、Ca4=コンブレスタチン)
【0063】
【表2】

【0064】
【表3】

【0065】
【表4】

【0066】
この研究において観察されたシスプラチンとの相互作用は、ACCの転移および再発の管理において、化合物Iについて可能性のある役割を提言する。加えて、化合物Iおよびゲムシタビンの潜在的な悪影響のある組合せを報告する。さらに、dCKが化合物Iについて現在まで報告されていない潜在的な標的であることは、明らかであろう。
【0067】
実施例2
4−[(4−メチル−1−ピペラジン−1−イルメチル)−N−[4−メチル−3−[[4−(3−ピリジニル)−2−ピリミジニル]アミノ]フェニル]ベンズアミドメタンスルホン酸のベータ結晶形を含むカプセル剤
100mgの化合物I(遊離塩基)に対応する119.5mgの塩Iを含むカプセル剤を活性物質として、以下の組成で製造する:
【表5】

【0068】
該カプセル剤を、内容物を混合すること、およびサイズ1の硬ゼラチンカプセルに該混合物を充填することにより、製造する。
【0069】
実施例3
頭頸部がんを有する45人の患者を、オープンラベル非無作為2段階フェーズ2試験に登録する。化合物I、たとえば塩Iおよびシスプラチンを投与する。化合物Iを、日投与量800mg/日(400mg、1日2回)、最大12ヶ月投与する。シスプラチンを、80mg/mの投与量で、水分補給前および後に注入、3週間の間隔、最大6サイクルで、投与する。
【0070】
実施例4
頭頸部がんを有する患者を、オープンラベル非無作為2段階フェーズ2試験に登録する。化合物I、たとえば塩Iおよびシスプラチンを投与する。化合物Iを、日投与量800mg/日(400mg、1日2回)、最大12ヶ月投与する。シスプラチンを、80mg/mの投与量で、水分補給前および後に注入、3週間の間隔、最大6サイクルで、投与する。5−フルオロウラシルを、500mg/m日の投与量で投与する。
【0071】
総合すると、これらの結果は、たとえば頭頸部がんの処置について示された化合物から選択される少なくとも1種の化合物との組合せにおいて、化合物Iまたはその薬学的に許容される塩、たとえば塩Iは、頭頸部がんの処置について予期せぬ能力を有することを示唆する。
【0072】
これらの例は、本発明を説明するものであり、その技術的範囲をいかなる方法においても制限するものではない。
【図面の簡単な説明】
【0073】
【図1】化合物Iおよびシスプラチンの様々な組合せに対するCal27細胞の応答の、3−D相乗プロット。示された領域プロファイルは、95%の信頼区間である。
【図2】化合物Iおよびゲムシタビンの様々な組合せに対するCal27細胞の応答の、3−D相乗プロット。示された領域プロファイルは、95%の信頼区間である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(a)式
【化1】

の、N−{5−[4−(4−メチル−ピペラジノ−メチル)−ベンゾイルアミド]−2−メチルフェニル}−4−(3−ピリジル)−2−ピリミジン−アミン
またはその薬学的に許容される塩、および
(b)メルファラン、ドキソルビシン、シクロホスファミド、ロイコボリン、エピクリン、ビンクリスチン、マイトマイシンC、ヒドロキシル尿素、ブレオマイシン、メトトレキセート、5FU、シスプラチン、パクリタキセル、ドセタキセルおよびカルボプラチンから選択される少なくとも1つの化合物
を含んでなる、頭頸部がんの処置において同時的、個別的または逐次的使用のための組合せ剤。
【請求項2】
N−{5−[4−(4−メチル−ピペラジノ−メチル)−ベンゾイルアミド]−2−メチルフェニル}−4−(3−ピリジル)−2−ピリミジン−アミンがモノメタンスルホン酸塩の形態である、請求項1に記載の組合せ剤。
【請求項3】
(b)がシスプラチンである、請求項1または2に記載の組合せ剤。
【請求項4】
(b)がシスプラチンおよび5FUである、請求項1または2に記載の組合せ剤。
【請求項5】
頭頸部がんの処置用医薬の製造のための、請求項1から4のいずれかに記載の組合せ剤の使用。
【請求項6】
該頭頸部がんが、腺様嚢胞がんおよび扁平上皮細胞がんから選択される、請求項5に記載の使用。
【請求項7】
200から800mgの4−(4−メチルピペラジン−1−イルメチル)−N−[4−メチル−3−(4−ピリジン−3−イル)ピリミジン−2−イルアミノ)フェニル]−ベンズアミド遊離塩基に対応する日投与量が投与される、請求項6に記載の使用。
【請求項8】
請求項1から4のいずれかに記載の組合せ剤を含んでなる、医薬組成物。
【請求項9】
請求項1から4のいずれかに記載の組合せ剤を、同時的、個別的または逐次的使用のための指示書と共に含んでなる、商品パッケージ。
【請求項10】
頭頸部がんを有する対象の処置方法であって、かかる処置を必要とする対象に、頭頸部がんに対して有効量の請求項1から4のいずれかに記載の組合せ剤を投与することを含んでなる方法。

【図1】
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【図2】
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【公表番号】特表2007−501259(P2007−501259A)
【公表日】平成19年1月25日(2007.1.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−529665(P2006−529665)
【出願日】平成16年3月17日(2004.3.17)
【国際出願番号】PCT/EP2004/002769
【国際公開番号】WO2004/103374
【国際公開日】平成16年12月2日(2004.12.2)
【出願人】(505434021)パターソン・インスティテュート・フォー・キャンサー・リサーチ (1)
【氏名又は名称原語表記】PATERSON INSTITUTE FOR CANCER RESEARCH
【出願人】(505434032)クリスティ・ホスピタル・エヌエイチエス・トラスト (1)
【氏名又は名称原語表記】CHRISTIE HOSPITAL NHS TRUST
【Fターム(参考)】