顔印象判定チャート
【課題】被験者の顔形状を客観的かつ簡易に評価することを可能にする。
【解決手段】顔印象判定チャート10は、人の頭部形状に関する高次の基底ベクトルの少なくとも一つの重み係数が互いに異なる第一の頭部画像20および第二の頭部画像30が対比可能に配置されている。顔印象判定チャート10を参照して被験者の顔形状を目視観察することにより、被験者の顔に発現している基底ベクトルの次数とその発現度合いを定量的に把握することが可能である。
【解決手段】顔印象判定チャート10は、人の頭部形状に関する高次の基底ベクトルの少なくとも一つの重み係数が互いに異なる第一の頭部画像20および第二の頭部画像30が対比可能に配置されている。顔印象判定チャート10を参照して被験者の顔形状を目視観察することにより、被験者の顔に発現している基底ベクトルの次数とその発現度合いを定量的に把握することが可能である。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、被験者の顔印象を判定するための顔印象判定チャートに関する。
【背景技術】
【0002】
従来の美容カウンセリング方法の一例として、年代別の平均的な顔と顧客である被験者の顔との比較検討結果を指標として、エイジング(加齢)に伴う被験者の顔立ちの形状変化を定性的に把握することが行われている。たとえば、ほうれい線や頬の弛みなどの形状的な特徴が被験者の実年齢の割に目立って発現しているかどうか、などを指標としてエイジングの傾向を評価することが一般的である。
【0003】
しかしながら、このような評価指標は客観的なものではない。このため、特に女性の被験者にとってエイジングへの関心は一般に高いにもかかわらず、その評価結果はカウンセラーの主観に大きく委ねられていた。
【0004】
被験者の顔形状を客観的に評価する発明としては、顔を含む頭部の三次元形状情報を装置で計測し、顔の複数箇所における曲面の曲率の分布を算出することによって顔形状を評価する方法が提案されている(特許文献1を参照)。この方法では、被験者の顔の三次元形状情報に基づいて顔の凹凸部分の曲率を算出する。そして、顔の特定箇所の曲面の曲率と年齢との相関関係から、被験者の加齢の程度を推定する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2009−054060号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1の方法を実施する場合には、被験者の顔の三次元形状情報を取得したうえでその解析を行う必要がある。このため、化粧品販売店やメイクアップサロンの店頭でカウンセラーが顧客の顔形状を評価する場合など、この方法を実施することが困難な場合がある。
【0007】
本発明は上述の課題に鑑みてなされたものであり、被験者の顔形状を客観的かつ簡易に評価することを可能にするものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明をなすにあたり、本発明者は、多数の被験者の顔表面の三次元座標データを取得し、このデータに対して統計的な解析手法である多変量解析を用いて基底ベクトルを抽出した。そして本発明者は、一次の基底ベクトルが顔の物理的な大小に寄与するのに対し、幾つかの高次の基底ベクトルは顔の造作の印象傾向と高い相関があることを見出した。さらに本発明者は、かかる高次の基底ベクトルの重み係数を相違させた頭部画像同士を対照することで、その基底ベクトルが人の顔形状においてどのように発現するかという傾向を視覚的に把握することができることに想到し、もって本発明の完成に至った。
【0009】
すなわち、本発明の顔印象判定チャートは、人の頭部形状に関する高次の基底ベクトルについて、少なくとも一つの重み係数が互いに異なる第一および第二の頭部画像が対比可能に配置されていることを特徴とする。
【0010】
上記発明によれば、第一の頭部画像と第二の頭部画像との差異にあたる特徴量が被験者の顔に発現している度合いを判断指標として、被験者の顔における当該基底ベクトルの固有値を定量評価することが可能である。
【発明の効果】
【0011】
本発明の顔印象判定チャートによれば、被験者の顔形状を簡易かつ客観的に評価することができる。すなわち、本発明の顔印象判定チャートは、被験者の顔形状の特徴を目視的に定量評価するための判断指標となる。このため、カウンセラー等のユーザは、被験者の顔形状に関する客観的な評価結果に基づいて、メイクアップアドバイス等のカウンセリングを正確に行うことが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本発明の実施形態にかかる顔印象判定チャートの一例を示す図である。
【図2】印象対応チャートの一例を示す図である。
【図3】(a)は被験者の頭部全体の三次元光学データであり、同図(b)は13点の特徴点を示す図であり、同図(c)はジェネリックモデルを示す図である。
【図4】相同モデルを示す斜視図である。
【図5】(a)から(e)は、20歳代から60歳代の各年代の被験者の平均顔形状をそれぞれ示す図である。
【図6】(a)は20歳代と30歳代の被験者の平均顔形状を示し、同図(b)は20歳代から60歳代の全年代の被験者の平均顔形状を示し、同図(c)は50歳代と60歳代の被験者の平均顔形状を示す。
【図7】第一実施形態にかかる母集団解析モデルに関する主成分分析結果の例を表すテーブルである。
【図8】図7の分析結果に対応する1次から15次までの主成分が帰属する形状変化の特徴を表すテーブルである。
【図9】第1主成分を反映させた仮想形状の斜視図である。
【図10】第2主成分を反映させた仮想形状の斜視図であり、顔印象判定チャートの第1の変形例である。
【図11】第3主成分を反映させた仮想形状の斜視図であり、顔印象判定チャートの第2の変形例である。
【図12】第4主成分を反映させた仮想形状の斜視図であり、顔印象判定チャートの第3の変形例である。
【図13】第5主成分を反映させた仮想形状の斜視図であり、顔印象判定チャートの第4の変形例である。
【図14】第6主成分を反映させた仮想形状の斜視図であり、顔印象判定チャートの第5の変形例である。
【図15】第7主成分を反映させた仮想形状の斜視図であり、顔印象判定チャートの第6の変形例である。
【図16】第8主成分を反映させた仮想形状の斜視図であり、顔印象判定チャートの第7の変形例である。
【図17】第9主成分を反映させた仮想形状の斜視図であり、顔印象判定チャートの第8の変形例である。
【図18】第10主成分を反映させた仮想形状の斜視図であり、顔印象判定チャートの第9の変形例である。
【図19】第11主成分を反映させた仮想形状の斜視図であり、顔印象判定チャートの第10の変形例である。
【図20】第12主成分を反映させた仮想形状の斜視図であり、顔印象判定チャートの第11の変形例である。
【図21】第13主成分を反映させた仮想形状の斜視図であり、顔印象判定チャートの第12の変形例である。
【図22】第14主成分を反映させた仮想形状の斜視図であり、顔印象判定チャートの第13の変形例である。
【図23】第15主成分を反映させた仮想形状の斜視図であり、顔印象判定チャートの第14の変形例である。
【図24】基底次数ごとの重み係数と見掛け年齢との相関係数を示すテーブルである。
【図25】t検定結果を示す表である。
【図26】基底次数ごとの重み係数と実年齢との相関関係を示すテーブルである。
【図27】9次の基底ベクトルに関して±3σまで1σずつ基底ベクトルの重み係数を変化させた6枚の画像である。
【図28】エイジング印象因子を変化させたときの仮想形態の年齢印象の変化を表すグラフである。
【図29】(a)から(d)は、エイジング印象軸を複数組みあわせた相同モデルの斜視図である。
【図30】美容情報テーブルの一例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて説明する。図1は本発明の実施形態にかかる顔印象判定チャート10の一例を示す図である。
【0014】
この顔印象判定チャート10は、人の頭部形状に関する高次の基底ベクトルについて、少なくとも一つの重み係数が互いに異なる第一の頭部画像20および第二の頭部画像30が対比可能に配置されたものである。
【0015】
顔印象判定チャート10は、カウンセラーや美容師などの美容専門家、または個人が、被験者である他人または自分自身の顔形状の傾向を判定するための指標である。
ここで、頭部画像とは、人の顔の少なくとも一部を含むと認識されるデジタルまたはアナログの画像である。具体的には、人の顔を含む頭部を被写体とする写真、人の頭部またはその写真を写実的に模した図画、人の頭部表面の二次元または三次元座標データを含む解析モデルをプリポストプロセッサで描画したデジタル画像などが例示される。
【0016】
顔印象判定チャート10は、紙または樹脂のシートに印刷された印刷物でもよく、またはディスプレイ装置に映し出された画面でもよい。すなわち、第一の頭部画像20および第二の頭部画像30が顔印象判定チャート10に配置されているとは、これらの頭部画像がシート上に印刷されている状態、またはディスプレイ装置に表示されている状態を含む。
【0017】
第一の頭部画像20および第二の頭部画像30が対比可能であるとは、これらの頭部画像が時間的または空間的に互いに連続していることをいう。具体的には、第一の頭部画像20と第二の頭部画像30とが隣接して配置されていること、第一の頭部画像20と第二の頭部画像30とが線や符号などにより対応づけられていること、第一の頭部画像20と第二の頭部画像30とに連続的に遷移する動画像であること、第一の頭部画像20と第二の頭部画像30とが個別のシートに印刷されていて並べて配置可能であること、を含む。本実施形態の顔印象判定チャート10においては、図1に示すように、第一の頭部画像20と第二の頭部画像30とが互いに矢印で対応づけられていることにより対比可能である。
【0018】
第一の頭部画像20と第二の頭部画像30とは、形状因子に関する二次以上の基底ベクトルの一つの重み係数が互いに相違し、他の次数の基底ベクトルの重み係数が共通である。
【0019】
ここで、頭部画像における基底ベクトルとは、人の頭部形状がもつ特徴量を表現するベクトルである。一次の基底ベクトルは、主として顔全体の物理的な大小を表すベクトルであり、二次以上の高次の基底ベクトルは、主として顔の部分的な特徴形状を表すベクトルである。第一の頭部画像20および第二の頭部画像30における基底ベクトルの重み係数が互いに異なることは、多数の被験者の頭部形状を母集団とする多変量解析によって明らかとなる。まず、多数の被験者の頭部表面の二次元座標データまたは三次元座標データを取得して顔情報の母集団(以下、母集団顔情報とする)を生成し、この母集団顔情報を多変量解析して基底ベクトル(固有ベクトル)を抽出する。ここで、任意の頭部形状(被験者頭部形状)は、下記の式(1)に示すように基底ベクトルの線形和に分解することができる。b1~nは、基底ベクトルe1~nの重み係数(固有値)である。平均顔形状は、母集団顔情報の顔形状を平均化した形状である。そして、bk(kは次数を表す2以上の整数。以下同様。)の値が互いに相違する二つの被験者頭部形状を任意の表示方向からそれぞれ表した画像が示す二つの顔形状と、第一および第二の頭部画像20、30が示す顔形状と、がそれぞれ所定以上の類似度をもっていることをもって、これらの頭部画像における基底ベクトルの重み係数が互いに異なることが確認される。
【0020】
(数1)
被験者頭部形状=平均顔形状+b1*第1基底ベクトルe1+b2*第2基底ベクトルe2+b3*第3基底ベクトルe3+・・・+bk*第k基底ベクトルek+・・・+bn*第n基底ベクトルen (1)
【0021】
図1で+3.0SDと表示された第二の頭部画像30は、任意の高次の基底ベクトルの重み係数bkをプラス3σ値としたものである。同図で−3.0SDと表示された第一の頭部画像20は、この重み係数bkをマイナス3σ値としたものである。ここで、プラス3σ値とは、母集団顔情報における重み係数bkのスコア分布から求まる平均値+3σ(標準偏差の3倍)の値である。同様に、マイナス3σ値とは、母集団顔情報における重み係数bkの平均値−3σの値である。
【0022】
すなわち、第一の頭部画像20と第二の頭部画像30の一方は、ある高次の基底ベクトルが強調して表示され、他方は当該基底ベクトルが抑制されて表示されている。なお、本実施形態に代えて、第一または第二の頭部画像の一方(たとえば第一の頭部画像20)を平均顔形状としてもよい。
【0023】
本実施形態の顔印象判定チャート10は、第三の頭部画像40をさらに含む。第三の頭部画像40の高次の基底ベクトルの重み係数bkは、当該次数にかかる第一の頭部画像20の重み係数bkと第二の頭部画像30の重み係数bkとの中間の大きさである。より具体的には、第三の頭部画像40は平均顔形状である。本実施形態では、第三の頭部画像40を中心として、重み係数bkをプラス方向とマイナス方向に変化させた第一の頭部画像20および第二の頭部画像30をその両側に並べて配置してある。本実施形態によれば、平均顔形状である第三の頭部画像40と、基底ベクトルを強調した場合の第二の頭部画像30と、これを抑制した場合の第一の頭部画像20と、の三者を対比することができる。これにより、当該基底ベクトルが顔形状に発現した場合の見た目の印象(顔印象)を明確に把握することができる。
【0024】
本実施形態の顔印象判定チャート10は、第一の頭部画像20および第二の頭部画像30からなる画像ペアを複数組含む。本実施形態の顔印象判定チャート10には、図1に示すように、2次基底(pca02)、7次基底(pca07)、9次基底(pca09)、11次基底(pca11)の重み係数b2, b7, b9, b11を個別に±3σに変化させた4組の画像ペアが配置されている。
一の組の画像ペア(たとえばpca02)にかかる第一の頭部画像20および第二の頭部画像30は、第1の高次(2次)の重み係数b2が互いに異なる。そして、他の組の画像ペア(たとえばpca07)にかかる第一の頭部画像20および第二の頭部画像30は、第2の高次(7次)の重み係数b7が互いに異なる。
【0025】
第三の頭部画像40は一枚であり、各組の画像ペアの中央に配置されている。本実施形態の顔印象判定チャート10は、中央の第三の頭部画像40を基準として、各次数の基底ベクトルが個別に顔形状に発現した場合の顔印象の相違を把握することができる。
【0026】
本実施形態の第一から第三の頭部画像20〜40は互いに相同な顔形状である。本実施形態に代えて、第一から第三の頭部画像20〜40のいずれかが、他の頭部画像と非相同な顔形状であってもよい。
【0027】
図2は、印象対応チャート50のテーブルの例を表している。顔印象判定チャート10は、顔印象の傾向と、重み係数の次数と、の関係を示す印象対応チャート50をセットとして含んでいる。印象対応チャート50は、一または複数の印象傾向のパターンと、その印象傾向に対する相関が高い基底次数と、を対応付けた情報である。本実施形態の印象対応チャート50はパターン1から4の少なくとも4つを含む。
【0028】
印象対応チャート50に含まれる顔印象の傾向は、被験者の見掛け年齢、実年齢、大人顔もしくは童顔の程度、または小顔印象の程度、のいずれか一以上である。図2では、これらの全部が挙げられている。
【0029】
ここで、中高年女性をはじめとする幅広い多くの被験者にとっての「見られたい印象」としては、「若く見られること」をまず挙げることができる。女性のみならず男性に関しても、特に中高年者の場合には見掛け年齢を若く維持することに一般に関心が高い。このことから、被験者の顔において加齢(エイジング)を印象づける因子を定量化することは極めて有用と考えられる。被験者の顔の造作から印象づけられる見掛け年齢が実年齢よりも若いか否かを定量化することにより、仕上がりの満足度の高いメイクアップや美容マッサージ等の美容施術を提供することができる。
【0030】
パターン1は、被験者の見掛け年齢の高低と相関の高い基底次数が2次、7次、9次および11次であることを示している。後記に詳述するように、本発明者の検討により、これらの次数の基底ベクトルの重み係数を増加または減少させることで、被験者の見掛け年齢が高くなることが明らかとなっている。
【0031】
パターン2は、被験者の実年齢の高低が、同じく2次、7次、9次および11次の基底ベクトルの重み係数と高い相関を有することを示している。すなわち、パターン1と2は、見掛け年齢の傾向と実年齢の傾向が共通する次数の基底ベクトルと相関していることを表している。
パターン3は、被験者の顔が大人びて見える(大人顔)か、または子供っぽく見える(童顔)か、という印象傾向が3次の基底ベクトルの重み係数と相関することを表している。
パターン4は、被験者の顔が小さく見える(小顔)という印象傾向が3次および12次の基底ベクトルの重み係数と相関することを表している。
【0032】
図1の顔印象判定チャート10と図2の印象対応チャート50とを併用することにより、被験者の顔印象の傾向を判定することができる。具体的には、図1の顔印象判定チャート10を参照して被験者の顔形状を目視観察することにより、2次、7次、9次または11次の基底ベクトルが被験者の顔に強く発現しているか、または逆に当該基底ベクトルの発現度合いが平均以下であるか、を把握することができる。そのうえで印象対応チャート50を参照することで、2次、7次、9次および11次の基底ベクトルのうち被験者の顔に発現していると認められる基底の数を判断基準として、被験者の顔印象がパターン1またはパターン2に属する度合いを定量化することができる。
同様に、3次や12次の基底ベクトルが発現した顔形状を対比して配置した他の顔印象判定チャート(図示せず)を参照すれば、被験者の顔印象がパターン3またはパターン4に属する度合いを定量化することができる。
【0033】
各パターンに対応づけられた基底次数には、官能評価結果に基づいて設定された重率が付与されていてもよい。後述するように、7次および9次の基底ベクトルは見掛け年齢および実年齢と特に高い相関をもつことから、これらの次数には高い重率(大きなポイント)を付与するとよい。2次および11次にはこれよりも低い重率(小さなポイント)を付与するとよい。そして、被験者の顔に発現している基底のポイントを合計することで、より詳細に被験者の顔印象を分析することができる。
【0034】
以下、顔印象判定チャート10の作成方法の一例を具体的に説明する。
【0035】
多数の被験者の頭部表面の座標データを取得して母集団顔情報を生成する。本実施形態では、20歳代から60歳代の各年代30名、合計150名の日本人女性を被験者としている。本実施形態では、接触式計測装置を用いて、被験者の顔を含む頭部の表面の三次元座標値を顔形状情報として取得する。さらに、非接触式の三次元計測装置を用いて、被験者の頭部の表面の他の点の三次元座標値を取得する。接触式計測装置としては、プローブ針を頭皮に接触させて頭皮表面の任意位置の三次元座標を取得する接触式三次元デジタイザが例示される。非接触式計測装置としては三次元レーザースキャナが例示される。その他の非接触式計測としては、レンズ焦点法やステレオ法等も用いることができる。
【0036】
頭髪の影響を受けずに頭皮表面の三次元座標を正確に計測する観点からは、頭髪が生えている前頭から後頭までの三次元座標は、接触式計測装置で計測することが好ましい。頭髪の影響のない額以下の顔表面の三次元座標は、計測時間の短さから非接触式計測装置を用いて測定するとよい。非接触式計測装置による三次元座標の計測時には、頭髪の影響を低減するため、被験者の頭髪にネットキャップ等の保護部材を被覆しておこなってもよい。この場合は、三次元レーザースキャナなどの光学式の計測装置のみで頭皮表面の三次元座標を測定することができる。非接触式計測装置を使用することで、被験者の頭部表面から、一例として十万点を超える多数点の三次元座標を計測することができる。さらに、被験者の顔表面の幾つかの特徴点に関しては接触式計測装置を用いて高精度でその三次元座標を計測するとよい。かかる特徴点としては、頭蓋骨表面の特徴点(解剖学的特徴点)および皮膚表面の特徴点を挙げることができる。解剖学的特徴点としては、眼窩下点、眼窩上縁中央、眼窩内縁点、外耳道上縁点、鼻根点または頬骨弓点を例示することができる。皮膚表面の特徴点としては、目頭点、目尻点、耳珠上縁点、上耳底点、下耳底点、鼻下点、鼻尖点、口角点、口点または顎角点を例示することができる。
【0037】
このようにして多数の被験者に対して共通の特徴点の三次元座標を計測して母集団顔情報を生成することで、互いの三次元形状モデルを規格化して相同モデル化することができる。このように、非接触式計測装置と接触式計測装置とを併用することで、頭皮表面の三次元座標を高精度で取得することができる。ただし、非接触式または接触式の計測装置のいずれか一方のみを用いて顔を含む頭部の表面の三次元座標を取得してもよい。
【0038】
図3(a)は、被験者の顔を含む頭部を非接触式の三次元レーザースキャナで計測した頭部全体の三次元光学データ(高解像度データ)である。計測点は約18万点である。この高解像度データは、被験者ごとに節点数とトポロジーが異なる。
図3(b)は、被験者の顔および頭皮部の13点の特徴点を示す図である。これらの点の三次元座標を、接触式三次元デジタイザで計測する。
図3(c)は、ジェネリックモデルを示す図である。ジェネリックモデルは、目元と口元の節点の配置密度が大きく、頭皮部の節点の配置密度が小さいモデルである。節点数は4703点である。
【0039】
図4は、被験者ごとの高解像度データの節点数とトポロジーを相同化した相同モデルを示す斜視図である。高解像度データにおける13点の特徴点の座標値と、ジェネリックモデルの特徴点の座標値とを位置合わせした状態で、高解像度データの表面にジェネリックモデルの他の座標を貼り付けることで、対象者の相同モデルは作成される。相同モデルは、節点数とトポロジーが共通化されているので、多数の被験者を集めることで多変量解析をすることができる。
【0040】
図5(a)から(e)は、20歳代から60歳代の各年代の被験者(各年代について10名)の相同モデルの平均顔形状をそれぞれ示す図である。相同モデルでは三次元座標が抽出され、テクスチャは捨象されている。そして、この相同モデルを各年代で平均することで、被験者の顔の個体差の影響が排除される。このため、各年代の平均顔形状には、年代の進行によって遷移していく顔形状の特徴が現れる。
【0041】
図6(a)は20歳代と30歳代の合計20名の若年者の被験者の相同モデルの平均顔である。同図(b)は20歳代から60歳代の合計50名の全年代の被験者の相同モデルの平均顔である。同図(c)は50歳代と60歳代の合計20名の高齢者の被験者の相同モデルの平均顔である。
図5(a)と図5(e)、および図6(a)と図6(c)をそれぞれ対比すると、年齢の進行により、ほうれい線が深くなり、また頬が緩んで膨化していることが分かる。かかる特徴は相同モデルの主成分分析により客観化および定量化される。
【0042】
母集団顔情報を構成する多数の相同モデル(母集団解析モデル)を多変量解析して複数次の基底ベクトルを抽出する。具体的な多変量解析の一例として主成分分析(PCA:principal component analysis)を挙げる。本実施形態では、母集団解析モデルの顔形状に関して主成分分析をおこない、複数次の基底ベクトルekを算出する。基底ベクトルekは、母集団解析モデルの共分散行列の固有ベクトル解析により求められる。各次の基底ベクトルは互いに直交している。基底ベクトルの最高次数nは特に限定されないが、寄与率1%以上の基底ベクトルが総て抽出されるように最高次数nを設定するとよい。
【0043】
図7は、20歳代から60歳代の各年代で10名、合計50名の日本人女性を母集団とする母集団解析モデルに関する主成分分析結果の例を表すテーブルである。同図は、寄与率1%以上の基底ベクトルが1次(pca01)から15次(pca15)まで15個存在した場合を示している。すなわち、日本人の20歳代から60歳代の女性(以下、日本人成人女性)の頭部形態が15軸によってほぼ説明できることとなる。
【0044】
本実施形態の顔印象判定チャート10に採用されている高次の基底ベクトルの寄与率は1%以上である。そして、第一の頭部画像20および第二の頭部画像30は、かかる高次基底を除く寄与率が1%以上の他の基底ベクトルの重み係数を共通としている。
【0045】
なお、80歳代またはそれ以上の年代になると、一般に頭部の骨自体が痩せてくる傾向があるといわれており顔印象が変わりやすい。また、10歳代前半までは一般的に骨格の成長時期にあたるので、顔印象も変わりやすい。このような骨の変化による顔印象の変化は、頭部表面の三次元形状の主成分分析では現れにくいため本実施形態ではこれを排除する。よって母集団は20歳代から60歳代までとした。これにより、本実施形態で作成される顔印象判定チャート10を参照して被験者の顔印象を分析することで、筋肉や脂肪の影響によるエイジングの進行が精度よく抽出される。
【0046】
図8は、図7の分析結果に対応する1次から15次までの主成分が帰属する形状変化の特徴を表すテーブルである。
【0047】
図9から図23は、第1主成分(pca01)から第15主成分(pca15)をそれぞれ反映させた仮想形状の斜視図である。図9で0.0SDと表記された同図(b)は、全年代の平均の仮想形状を示す斜視図であり、図6(b)と同じものである。+3.0SDと表記された図9(c)は、上記の式(1)の第1基底ベクトルの重み係数(b1)を母集団の標準偏差の+3倍(+3σ)とし、他の基底ベクトルの重み係数(b2〜bn)をゼロとした場合の仮想形状の斜視図である。一方、−3.0SDと表記された図9(a)は、第1基底ベクトルの重み係数(b1)を母集団の標準偏差の−3倍(−3σ)とし、他の基底ベクトルの重み係数(b2〜bn)をゼロとした場合の仮想形状の斜視図である。
【0048】
図10から図23は、それぞれ第2基底ベクトルから第15基底ベクトルに関して、それぞれ同様に重み係数を±3σとした場合の仮想形状の斜視図を示している。各図(a)と各図(c)が、第一の頭部画像20と第二の頭部画像30の一方または他方にそれぞれ該当し、各図(b)が第三の頭部画像40に該当する。すなわち、図10から図23は、それぞれ本実施形態の顔印象判定チャート10の第1から第14の変形例である。
【0049】
以下、図9から図23および図8を用いて各主成分の特徴を説明する。
第1主成分は、顔部の全体の大きさに寄与する。図9(c)と図9(a)とを対比して分かるように、第1主成分の重み係数がプラス方向に大きくなると顔部は全体に細くかつ小さくなる。
【0050】
一方、二次以上の高次の基底は顔の局所的な部分の形状に寄与する主成分である。本実施形態の顔印象判定チャート10のような指標を用いることで、被験者の顔に発現している高次基底を定性的および定量的に評価することができる。
【0051】
第2主成分は、顔の下膨れ具合、鼻両脇の膨らみ、および鼻の下の垂れ下がりに寄与する。図10(c)と図10(a)とを対比して分かるように、第2主成分の重み係数がプラス方向に大きくなると顔は引き締まり、ほうれい線は薄くなる。後述するように、第2主成分がマイナス方向に大きくなると、見掛け年齢および実年齢が加齢方向に進行する。
【0052】
第3主成分は、オトガイ高に寄与する。図11(c)と図11(a)とを対比して分かるように、第3主成分の重み係数がプラス方向に大きくなると顎関節が発達して大人っぽい顔つきになる。すなわち大人顔の印象が進行する。逆に第3主成分の重み係数がマイナス方向に大きくなると童顔になる。そして、第3主成分がマイナス方向に進行すると、小顔印象が進行する。
【0053】
第4主成分は、後頭の伸び、および眼窩幅に寄与する。図12(c)と図12(a)とを対比して分かるように、第4主成分の重み係数がプラス方向に大きくなると後頭部は小さくなり、両眼の間隔が近づく。すなわち寄り目の傾向が進行する。
【0054】
第5主成分は、前頭部の前突、および口部の前突に寄与する。図13(c)と図13(a)とを対比して分かるように、第5主成分の重み係数がプラス方向に大きくなると前頭部および口部が前方に突き出す。
【0055】
第6主成分は、全頭の高さに寄与する。図14(c)と図14(a)とを対比して分かるように、第6主成分の重み係数がプラス方向に大きくなると目より上の長さが縮まる。逆に第6主成分の重み係数がマイナス方向に大きくなると額の長さが大きくなる。
【0056】
第7主成分は、眼窩外側の前後位置、および鼻より下の伸びに寄与する。図15(c)と図15(a)とを対比して分かるように、第7主成分の重み係数がプラス方向に大きくなると目尻が前進して目の立体感が減少し、鼻の下が伸びてほうれい線が深くなる。このため、第7主成分がプラス方向に大きくなると、顔が全体にしぼんだような印象を与えるため、見掛け年齢および実年齢が加齢方向に進行する。逆に、第7主成分がマイナス方向に進行すると、見掛け年齢および実年齢が若年齢方向に進行する。
【0057】
第8主成分は、眼窩幅に寄与する。図16(c)と図16(a)とを対比して分かるように、第8主成分の重み係数がプラス方向に大きくなると眼窩の外側同士の間隔が近づく。これにより、寄り目の傾向が進行する。
【0058】
第9主成分は、目尻上方部の内下垂、および口角の引け具合に寄与する。図17(c)と図17(a)とを対比して分かるように、第9主成分の重み係数がマイナス方向に大きくなると目尻が顔の内側下方に垂れ下がり、口角が後方に移動してほうれい線が深くなる。このため、見掛け年齢および実年齢が加齢方向に進行する。逆に、第9主成分の重み係数がプラス方向に大きくなると目尻は吊り上がり、口角は浅くなって若々しい印象となる。すなわち見掛け年齢および実年齢が若年齢方向に進行する。
【0059】
第10主成分は、顔のゆがみに寄与する。図18(c)と図18(a)とを対比して分かるように、第10主成分は顔の上部の左右方向のねじれに寄与している。
【0060】
第11主成分は、口の中央部の前突、および頬骨下部の扁平化に寄与する。図19(a)と図19(c)とを対比して分かるように、第11主成分の重み係数がマイナス方向に大きくなると頬が痩せて口の中央部が前方に突出し、口角がくぼむ。これにより、見掛け年齢および実年齢が加齢方向に進行する。また、第11主成分の重み係数がマイナス方向に大きくなると、いわゆる「アヒル口」の印象傾向が進行する。
【0061】
第12主成分は、下顎のふくれに寄与する。図20(a)と図20(c)とを対比して分かるように、第12主成分の重み係数がマイナス方向に大きくなると下顎周辺が引き締まり小顔印象が進行する。
【0062】
第13主成分は、耳下および顎下の脂肪等の膨らみに寄与する。図21(a)と図21(c)とを対比して分かるように、第13主成分の重み係数がマイナス方向に大きくなると耳下および顎下に脂肪がついたように膨らみが大きくなる。
【0063】
第14主成分は、頭のゆがみに寄与する。図22(a)と図22(c)とを対比して分かるように、第14主成分は顔の下部の左右非対称性に寄与している。
【0064】
第15主成分は、顔部のゆがみに寄与する。図23(a)と図23(c)とを対比して分かるように、第15主成分は顔の下部の左右方向のねじれによる顔部のゆがみに寄与している。
【0065】
図1に示した本実施形態の顔印象判定チャート10は、全年代の被験者の相同モデルの平均顔である図6(b)の画像を第三の頭部画像40として中央に配置している。そして2次、7次、9次、11次の基底ベクトルを加齢方向に強調した画像を第二の頭部画像30とし、その反対方向(若化方向)に強調した画像を第一の頭部画像20として、第三の頭部画像40を挟んで配置してなる。
【0066】
本実施形態の顔印象判定チャート10を用いて被験者の見掛け年齢または実年齢の判定(以下、あわせてエイジング判定という)をおこなう場合には、2次、7次、9次、11次の基底ベクトルが被験者の顔に発現しているか否か、およびその発現傾向がエイジングの進行方向であるか否か、を判定基準とするとよい。また、小学生から中高生の大人顔または童顔の度合いを判定する場合には、第3主成分の発現の有無を評価するとよい。そして、小顔印象の度合いを判定する場合には、第3および第12主成分の発現の有無を評価するとよい。
【0067】
これらの印象傾向と基底次数との関係を示すテーブルが、図2に示した印象対応チャート50である。なお、主成分分析の対象となる母集団の人数や属性を変化させた場合には、この基底次数は変化する可能性がある。
【0068】
以下、2次、7次、9次、11次の基底ベクトルと、見た目の年齢の進行(エイジング印象)とが高い相関をもっていることをより詳細に説明する。
【0069】
上述のように相同モデルが作成された20歳代から60歳代の各年代から10名(合計50名)の被験者の写真に基づいて、美容専門家5名が当該被験者の年齢を推定した。具体的には、この5名の推定年齢の平均値を「見掛け年齢」として算出した。また、各被験者の「実年齢」も調査した。
【0070】
一方、この50名の被験者全員を母集団として主成分分析を行い、寄与率1%以上の15次までの基底ベクトルを求めた(図7を参照)。
【0071】
被験者の第1から第15基底の重み係数(固有値)と見掛け年齢との関係を求めた。図24は、基底次数ごとの重み係数と見掛け年齢との相関係数を示すテーブルである。
2次、7次、9次および11次の4つの基底次数に関して、見掛け年齢と高い相関がみられた。また、2次、9次および11次は相関係数が負であり、7次は相関係数が正であった。これにより、2次、9次および11次の主成分がマイナス方向に進行し、7次の主成分がプラス方向に進行することによりエイジング印象が進行することが分かった。
【0072】
ここで、母集団の標本数(N)が50の場合の5%有意水準の限界値は0.279である。したがって、7次および9次の絶対値は、いずれも5%有意水準の限界値よりも大きい。すなわち、7次および9次の特徴量は寄与率1%以上の基底ベクトル(主成分)であり、かつ印象傾向との相関係数が母集団の標本数での5%有意水準の限界値よりも大きい。したがって、7次および9次の基底ベクトルを用いてエイジングを判定することは統計的に確からしいといえる。
【0073】
母集団を実年齢で二つの群に分け、基底次数ごとの重み係数と見掛け年齢との関係に有意差があるかどうかを検定した。具体的には、20歳から40歳の20名と、41歳から69歳の30名とに母集団を二つの群を分けてt検定をおこなった。図25は、その結果を示す表である。7次と9次はt検定値が0.05未満となり、他の基底次数のt検定結果は0.05以上となった。よって、これらの7次および9次の主成分に関しては年齢による有意差が出ることが分かった。また、2次と11次もt検定値は0.2未満であり、年齢による差異が現れていることが分かった。
【0074】
すなわち、図1に示した本実施形態の顔印象判定チャート10において、第一の頭部画像20と第二の頭部画像30とは、母集団の標本数での5%有意水準の限界値よりも大きい基底ベクトルの重み係数が互いに相違している。
【0075】
なお、図26は、母集団全体に関する基底次数ごとの重み係数と実年齢との相関関係を示すテーブルである。図24と図26とを比較すると、実年齢に関しても2次、7次、9次および11次の4つの基底次数と高い相関があることが分かった。また、見掛け年齢と同様に、実年齢が進行すると、2次、9次および11次は主成分がマイナス方向に進行し、7次は主成分がプラス方向に進行することが分かった。母集団を実年齢で二つの群に分け、基底次数ごとの重み係数と実年齢との関係に有意差があるかどうかをt検定したところ、図25に示した結果とほぼ同様の傾向がみられた(図示省略)。
【0076】
以上より、エイジング判定に関しては、被験者の見掛け年齢と実年齢を同様に扱うことができることが分かった。すなわち、本発明を用いて被験者の見掛け年齢を判定することができるとともに、年齢不明の被験者の実年齢の推定をすることもできることがわかった。
【0077】
つぎに、2次、7次、9次および11次の主成分に関して、母集団全体の平均顔形状から、主成分ごとに個別に±3σまで基底ベクトルの重み係数を段階的に変化させた場合の相同モデルに対する見掛け年齢の官能値を求めた。見掛け年齢の推定は、美容専門家4名による年齢推定結果の平均値を採用した。例として、9次の基底ベクトルに関して±3σまで1σずつ基底ベクトルの重み係数を変化させた6枚の画像を図27に示す。上述のように9次の主成分はマイナス方向に進行するほどエイジングの傾向が進行する。図27では、エイジングが進行する方向(エイジング傾向)を正として、±1.0σから±3.0σと表示している。以下も同様である。
【0078】
図28は、エイジング印象因子(基底ベクトル)を変化させたときの仮想形態の年齢印象の変化を表すグラフである。2次、7次、9次、11次とも、エイジング傾向に+1σ〜+3σまで変化させた場合には、いずれも見掛け年齢の官能値が直線的に増大した。逆に、−1σから−3σまで変化させた場合には、7次と9次はほぼ直線的に若化した。しかし、2次と11次は若化の傾向は見られなかった。以上より、エイジングの進行方向に関しては、2次、7次、9次、11次の主成分(エイジング印象軸)とも、基底ベクトルの重み係数と見掛け年齢の進行とが正の相関をもって直線的に変化することがわかった。また、7次と9次に関しては、基底ベクトルの重み係数をエイジング傾向と反対符号とすることで見掛け年齢を若化させることもできることがわかった。
【0079】
また、エイジング印象軸を複数組みあわせた場合にエイジング傾向が更に顕著に進行することがわかった。図29(a)から(d)は、エイジング印象軸を複数組みあわせた相同モデルの斜視図である。これらの図より、同図(a)は、2次と9次の重み係数を、ともにエイジング傾向に+3σとしたものである。同図(b)は、7次と9次の重み係数を、ともにエイジング傾向に+3σとしたものである。同図(c)は、2次と11次の重み係数を、ともにエイジング傾向に+3σとしたものである。そして、同図(d)は、2次、7次、9次および11次の重み係数を、いずれもエイジング傾向に+3σとしたものである。これにより、顔印象判定チャート10を参照して分析した被験者の顔形状がエイジング印象軸を複数有している場合には、エイジング傾向が特に高いと判定することが適当である。
【0080】
カウンセラー等のユーザは、本実施形態の顔印象判定チャート10を参照して被験者の顔印象を分析することに加えて、被験者に対して美容情報を提供してもよい。このため、本実施形態の顔印象判定チャート10は美容情報テーブル60を更にセットとして含んでいてもよい。
【0081】
図30は、美容情報テーブル60の一例を示す図である。本実施形態で例示する美容情報は、美容成形方法、美容マッサージ方法、ヘアメイク方法、化粧メイク方法のいずれかを含む美容施術方法、毛髪化粧料またはメイク化粧料を表す情報である。具体的には、この美容情報は、被験者の顔形状が属する印象傾向を緩和または促進するための美容施術方法や化粧料(あわせて、美容手段という)を示す情報である。このほか、被験者が保有するエイジング印象軸ごとに適切な毛髪化粧料やメイク化粧料の種類や製品名、またはこれらの使用方法や使用量などを美容情報として出力してもよい。
【0082】
なお、本発明は上述の実施形態に限定されるものではなく、本発明の目的が達成される限りにおける種々の変形、改良等の態様も含む。
【0083】
上記実施形態では、全年代の被験者を母集団として主成分分析を行って基底ベクトルおよび重み係数を算出して顔印象判定チャート10を作成したが、本発明はこれに限られない。各年代で十分な人数の被験者を用意してそれぞれ異なる母集団を生成し、個別に主成分分析を行ってもよい。若年層(たとえば30歳代)の被験者のみを主成分分析して抽出された基底ベクトルとエイジング印象との相関関係を官能評価することにより、実年齢の進行に伴うエイジング印象の度合いではなく、実年齢以上に加齢して見える、いわゆる"老け顔"の度合いを示す基底ベクトルを抽出することができる。このようにして抽出された基底ベクトルの重み係数を加齢方向または若化方向に強調した画像を第二の頭部画像30および第一の頭部画像20とすることにより、年代ごとの被験者のエイジング印象をそれぞれ評価するための顔印象判定チャート10を作成することができる。
【0084】
また、上記実施形態では女性のみを被験者としたが、性別により基底ベクトルは異なることから、男性と女性とで母集団を分けて主成分分析をおこなうとよい。そして、かかる年代別や性別の平均顔形状を第三の頭部画像40として、抽出された基底ベクトルを強調表示することで第一の頭部画像20または第二の頭部画像30を生成するとよい。
【0085】
すなわち、顔印象判定チャート10においては、第三の頭部画像40は、年代別または性別の複数の平均頭部画像であってもよい。そして、顔印象判定チャート10は、これらの複数の第三の頭部画像40に対応する第一の頭部画像20および第二の頭部画像30を含んでもよい。
【0086】
また、上記実施形態の顔印象判定チャート10では人の顔のテクスチャを捨象した形状因子のみを表しているが、本発明はこれに限られない。第一の頭部画像20および第二の頭部画像30が共通のテクスチャを備えていてもよい。テクスチャには、被験者の肌を模した色彩および模様のパターンを用いるとよい。これにより、被験者の頭部の自然な見た目を模した第一の頭部画像20および第二の頭部画像30とすることができる。
【0087】
また、上記実施形態の顔印象判定チャート10における第一の頭部画像20および第二の頭部画像30は静止画像であるが、本発明はこれに限られない。顔印象判定チャート10は、第一の頭部画像20と第二の頭部画像30とに連続的に遷移する動画像であってもよい。かかる動画像は、第一の頭部画像20と第二の頭部画像30との一方から他方に一方的に遷移するものでもよく、または第一の頭部画像20と第二の頭部画像30とに交互に繰り返して遷移するものでもよい。
【0088】
上記実施形態およびその変形例は、以下の技術思想を包含するものである。
(1)人の頭部形状に関する高次の基底ベクトルの少なくとも一つの重み係数が互いに異なる第一および第二の頭部画像が対比可能に配置されていることを特徴とする顔印象判定チャート;
(2)前記高次の基底ベクトルの寄与率が1%以上であり、前記第一および第二の頭部画像は、前記高次を除く寄与率が1%以上の他の基底ベクトルの重み係数が共通である上記(1)に記載の顔印象判定チャート;
(3)前記第一および第二の頭部画像からなる画像ペアを複数組含み、一の組の前記画像ペアにかかる前記第一および第二の頭部画像は、第1の高次の重み係数が互いに異なり、他の組の前記画像ペアにかかる前記第一および第二の頭部画像は、第2の高次の重み係数が互いに異なることを特徴とする上記(1)または(2)に記載の顔印象判定チャート;
(4)顔印象の傾向と、前記重み係数の次数と、の関係を示す印象対応チャートをさらに含む上記(1)から(3)のいずれかに記載の顔印象判定チャート;
(5)前記顔印象の傾向が、被験者の見掛け年齢、実年齢、大人顔もしくは童顔の程度、または小顔印象の程度、のいずれか一以上を含む上記(4)に記載の顔印象判定チャート;
(6)第三の頭部画像をさらに含み、前記第三の頭部画像の前記高次の基底ベクトルの前記重み係数が、前記第一の頭部画像の前記重み係数と前記第二の頭部画像の前記重み係数との中間の大きさである上記(1)から(5)のいずれかに記載の顔印象判定チャート;
(7)前記第三の頭部画像が年代別または性別の複数の平均頭部画像であり、複数の前記第三の頭部画像に対応する前記第一および第二の頭部画像を含む上記(6)に記載の顔印象判定チャート;
(8)前記第一の頭部画像と前記第二の頭部画像とに連続的に遷移する動画像である上記(1)から(7)のいずれかに記載の顔印象判定チャート;
(9)前記第一および第二の頭部画像が、共通のテクスチャを備えている上記(1)から(8)のいずれかに記載の顔印象判定チャート;
(10)前記第一および第二の頭部画像がシート上に印刷されている上記(1)から(9)のいずれかに記載の顔印象判定チャート;
(11)前記第一および第二の頭部画像がディスプレイ装置に表示されている上記(1)から(9)のいずれかに記載の顔印象判定チャート。
【符号の説明】
【0089】
10:顔印象判定チャート、20:第一の頭部画像、30:第二の頭部画像、40:第三の頭部画像、50:印象対応チャート、60:美容情報テーブル
【技術分野】
【0001】
本発明は、被験者の顔印象を判定するための顔印象判定チャートに関する。
【背景技術】
【0002】
従来の美容カウンセリング方法の一例として、年代別の平均的な顔と顧客である被験者の顔との比較検討結果を指標として、エイジング(加齢)に伴う被験者の顔立ちの形状変化を定性的に把握することが行われている。たとえば、ほうれい線や頬の弛みなどの形状的な特徴が被験者の実年齢の割に目立って発現しているかどうか、などを指標としてエイジングの傾向を評価することが一般的である。
【0003】
しかしながら、このような評価指標は客観的なものではない。このため、特に女性の被験者にとってエイジングへの関心は一般に高いにもかかわらず、その評価結果はカウンセラーの主観に大きく委ねられていた。
【0004】
被験者の顔形状を客観的に評価する発明としては、顔を含む頭部の三次元形状情報を装置で計測し、顔の複数箇所における曲面の曲率の分布を算出することによって顔形状を評価する方法が提案されている(特許文献1を参照)。この方法では、被験者の顔の三次元形状情報に基づいて顔の凹凸部分の曲率を算出する。そして、顔の特定箇所の曲面の曲率と年齢との相関関係から、被験者の加齢の程度を推定する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2009−054060号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1の方法を実施する場合には、被験者の顔の三次元形状情報を取得したうえでその解析を行う必要がある。このため、化粧品販売店やメイクアップサロンの店頭でカウンセラーが顧客の顔形状を評価する場合など、この方法を実施することが困難な場合がある。
【0007】
本発明は上述の課題に鑑みてなされたものであり、被験者の顔形状を客観的かつ簡易に評価することを可能にするものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明をなすにあたり、本発明者は、多数の被験者の顔表面の三次元座標データを取得し、このデータに対して統計的な解析手法である多変量解析を用いて基底ベクトルを抽出した。そして本発明者は、一次の基底ベクトルが顔の物理的な大小に寄与するのに対し、幾つかの高次の基底ベクトルは顔の造作の印象傾向と高い相関があることを見出した。さらに本発明者は、かかる高次の基底ベクトルの重み係数を相違させた頭部画像同士を対照することで、その基底ベクトルが人の顔形状においてどのように発現するかという傾向を視覚的に把握することができることに想到し、もって本発明の完成に至った。
【0009】
すなわち、本発明の顔印象判定チャートは、人の頭部形状に関する高次の基底ベクトルについて、少なくとも一つの重み係数が互いに異なる第一および第二の頭部画像が対比可能に配置されていることを特徴とする。
【0010】
上記発明によれば、第一の頭部画像と第二の頭部画像との差異にあたる特徴量が被験者の顔に発現している度合いを判断指標として、被験者の顔における当該基底ベクトルの固有値を定量評価することが可能である。
【発明の効果】
【0011】
本発明の顔印象判定チャートによれば、被験者の顔形状を簡易かつ客観的に評価することができる。すなわち、本発明の顔印象判定チャートは、被験者の顔形状の特徴を目視的に定量評価するための判断指標となる。このため、カウンセラー等のユーザは、被験者の顔形状に関する客観的な評価結果に基づいて、メイクアップアドバイス等のカウンセリングを正確に行うことが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本発明の実施形態にかかる顔印象判定チャートの一例を示す図である。
【図2】印象対応チャートの一例を示す図である。
【図3】(a)は被験者の頭部全体の三次元光学データであり、同図(b)は13点の特徴点を示す図であり、同図(c)はジェネリックモデルを示す図である。
【図4】相同モデルを示す斜視図である。
【図5】(a)から(e)は、20歳代から60歳代の各年代の被験者の平均顔形状をそれぞれ示す図である。
【図6】(a)は20歳代と30歳代の被験者の平均顔形状を示し、同図(b)は20歳代から60歳代の全年代の被験者の平均顔形状を示し、同図(c)は50歳代と60歳代の被験者の平均顔形状を示す。
【図7】第一実施形態にかかる母集団解析モデルに関する主成分分析結果の例を表すテーブルである。
【図8】図7の分析結果に対応する1次から15次までの主成分が帰属する形状変化の特徴を表すテーブルである。
【図9】第1主成分を反映させた仮想形状の斜視図である。
【図10】第2主成分を反映させた仮想形状の斜視図であり、顔印象判定チャートの第1の変形例である。
【図11】第3主成分を反映させた仮想形状の斜視図であり、顔印象判定チャートの第2の変形例である。
【図12】第4主成分を反映させた仮想形状の斜視図であり、顔印象判定チャートの第3の変形例である。
【図13】第5主成分を反映させた仮想形状の斜視図であり、顔印象判定チャートの第4の変形例である。
【図14】第6主成分を反映させた仮想形状の斜視図であり、顔印象判定チャートの第5の変形例である。
【図15】第7主成分を反映させた仮想形状の斜視図であり、顔印象判定チャートの第6の変形例である。
【図16】第8主成分を反映させた仮想形状の斜視図であり、顔印象判定チャートの第7の変形例である。
【図17】第9主成分を反映させた仮想形状の斜視図であり、顔印象判定チャートの第8の変形例である。
【図18】第10主成分を反映させた仮想形状の斜視図であり、顔印象判定チャートの第9の変形例である。
【図19】第11主成分を反映させた仮想形状の斜視図であり、顔印象判定チャートの第10の変形例である。
【図20】第12主成分を反映させた仮想形状の斜視図であり、顔印象判定チャートの第11の変形例である。
【図21】第13主成分を反映させた仮想形状の斜視図であり、顔印象判定チャートの第12の変形例である。
【図22】第14主成分を反映させた仮想形状の斜視図であり、顔印象判定チャートの第13の変形例である。
【図23】第15主成分を反映させた仮想形状の斜視図であり、顔印象判定チャートの第14の変形例である。
【図24】基底次数ごとの重み係数と見掛け年齢との相関係数を示すテーブルである。
【図25】t検定結果を示す表である。
【図26】基底次数ごとの重み係数と実年齢との相関関係を示すテーブルである。
【図27】9次の基底ベクトルに関して±3σまで1σずつ基底ベクトルの重み係数を変化させた6枚の画像である。
【図28】エイジング印象因子を変化させたときの仮想形態の年齢印象の変化を表すグラフである。
【図29】(a)から(d)は、エイジング印象軸を複数組みあわせた相同モデルの斜視図である。
【図30】美容情報テーブルの一例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて説明する。図1は本発明の実施形態にかかる顔印象判定チャート10の一例を示す図である。
【0014】
この顔印象判定チャート10は、人の頭部形状に関する高次の基底ベクトルについて、少なくとも一つの重み係数が互いに異なる第一の頭部画像20および第二の頭部画像30が対比可能に配置されたものである。
【0015】
顔印象判定チャート10は、カウンセラーや美容師などの美容専門家、または個人が、被験者である他人または自分自身の顔形状の傾向を判定するための指標である。
ここで、頭部画像とは、人の顔の少なくとも一部を含むと認識されるデジタルまたはアナログの画像である。具体的には、人の顔を含む頭部を被写体とする写真、人の頭部またはその写真を写実的に模した図画、人の頭部表面の二次元または三次元座標データを含む解析モデルをプリポストプロセッサで描画したデジタル画像などが例示される。
【0016】
顔印象判定チャート10は、紙または樹脂のシートに印刷された印刷物でもよく、またはディスプレイ装置に映し出された画面でもよい。すなわち、第一の頭部画像20および第二の頭部画像30が顔印象判定チャート10に配置されているとは、これらの頭部画像がシート上に印刷されている状態、またはディスプレイ装置に表示されている状態を含む。
【0017】
第一の頭部画像20および第二の頭部画像30が対比可能であるとは、これらの頭部画像が時間的または空間的に互いに連続していることをいう。具体的には、第一の頭部画像20と第二の頭部画像30とが隣接して配置されていること、第一の頭部画像20と第二の頭部画像30とが線や符号などにより対応づけられていること、第一の頭部画像20と第二の頭部画像30とに連続的に遷移する動画像であること、第一の頭部画像20と第二の頭部画像30とが個別のシートに印刷されていて並べて配置可能であること、を含む。本実施形態の顔印象判定チャート10においては、図1に示すように、第一の頭部画像20と第二の頭部画像30とが互いに矢印で対応づけられていることにより対比可能である。
【0018】
第一の頭部画像20と第二の頭部画像30とは、形状因子に関する二次以上の基底ベクトルの一つの重み係数が互いに相違し、他の次数の基底ベクトルの重み係数が共通である。
【0019】
ここで、頭部画像における基底ベクトルとは、人の頭部形状がもつ特徴量を表現するベクトルである。一次の基底ベクトルは、主として顔全体の物理的な大小を表すベクトルであり、二次以上の高次の基底ベクトルは、主として顔の部分的な特徴形状を表すベクトルである。第一の頭部画像20および第二の頭部画像30における基底ベクトルの重み係数が互いに異なることは、多数の被験者の頭部形状を母集団とする多変量解析によって明らかとなる。まず、多数の被験者の頭部表面の二次元座標データまたは三次元座標データを取得して顔情報の母集団(以下、母集団顔情報とする)を生成し、この母集団顔情報を多変量解析して基底ベクトル(固有ベクトル)を抽出する。ここで、任意の頭部形状(被験者頭部形状)は、下記の式(1)に示すように基底ベクトルの線形和に分解することができる。b1~nは、基底ベクトルe1~nの重み係数(固有値)である。平均顔形状は、母集団顔情報の顔形状を平均化した形状である。そして、bk(kは次数を表す2以上の整数。以下同様。)の値が互いに相違する二つの被験者頭部形状を任意の表示方向からそれぞれ表した画像が示す二つの顔形状と、第一および第二の頭部画像20、30が示す顔形状と、がそれぞれ所定以上の類似度をもっていることをもって、これらの頭部画像における基底ベクトルの重み係数が互いに異なることが確認される。
【0020】
(数1)
被験者頭部形状=平均顔形状+b1*第1基底ベクトルe1+b2*第2基底ベクトルe2+b3*第3基底ベクトルe3+・・・+bk*第k基底ベクトルek+・・・+bn*第n基底ベクトルen (1)
【0021】
図1で+3.0SDと表示された第二の頭部画像30は、任意の高次の基底ベクトルの重み係数bkをプラス3σ値としたものである。同図で−3.0SDと表示された第一の頭部画像20は、この重み係数bkをマイナス3σ値としたものである。ここで、プラス3σ値とは、母集団顔情報における重み係数bkのスコア分布から求まる平均値+3σ(標準偏差の3倍)の値である。同様に、マイナス3σ値とは、母集団顔情報における重み係数bkの平均値−3σの値である。
【0022】
すなわち、第一の頭部画像20と第二の頭部画像30の一方は、ある高次の基底ベクトルが強調して表示され、他方は当該基底ベクトルが抑制されて表示されている。なお、本実施形態に代えて、第一または第二の頭部画像の一方(たとえば第一の頭部画像20)を平均顔形状としてもよい。
【0023】
本実施形態の顔印象判定チャート10は、第三の頭部画像40をさらに含む。第三の頭部画像40の高次の基底ベクトルの重み係数bkは、当該次数にかかる第一の頭部画像20の重み係数bkと第二の頭部画像30の重み係数bkとの中間の大きさである。より具体的には、第三の頭部画像40は平均顔形状である。本実施形態では、第三の頭部画像40を中心として、重み係数bkをプラス方向とマイナス方向に変化させた第一の頭部画像20および第二の頭部画像30をその両側に並べて配置してある。本実施形態によれば、平均顔形状である第三の頭部画像40と、基底ベクトルを強調した場合の第二の頭部画像30と、これを抑制した場合の第一の頭部画像20と、の三者を対比することができる。これにより、当該基底ベクトルが顔形状に発現した場合の見た目の印象(顔印象)を明確に把握することができる。
【0024】
本実施形態の顔印象判定チャート10は、第一の頭部画像20および第二の頭部画像30からなる画像ペアを複数組含む。本実施形態の顔印象判定チャート10には、図1に示すように、2次基底(pca02)、7次基底(pca07)、9次基底(pca09)、11次基底(pca11)の重み係数b2, b7, b9, b11を個別に±3σに変化させた4組の画像ペアが配置されている。
一の組の画像ペア(たとえばpca02)にかかる第一の頭部画像20および第二の頭部画像30は、第1の高次(2次)の重み係数b2が互いに異なる。そして、他の組の画像ペア(たとえばpca07)にかかる第一の頭部画像20および第二の頭部画像30は、第2の高次(7次)の重み係数b7が互いに異なる。
【0025】
第三の頭部画像40は一枚であり、各組の画像ペアの中央に配置されている。本実施形態の顔印象判定チャート10は、中央の第三の頭部画像40を基準として、各次数の基底ベクトルが個別に顔形状に発現した場合の顔印象の相違を把握することができる。
【0026】
本実施形態の第一から第三の頭部画像20〜40は互いに相同な顔形状である。本実施形態に代えて、第一から第三の頭部画像20〜40のいずれかが、他の頭部画像と非相同な顔形状であってもよい。
【0027】
図2は、印象対応チャート50のテーブルの例を表している。顔印象判定チャート10は、顔印象の傾向と、重み係数の次数と、の関係を示す印象対応チャート50をセットとして含んでいる。印象対応チャート50は、一または複数の印象傾向のパターンと、その印象傾向に対する相関が高い基底次数と、を対応付けた情報である。本実施形態の印象対応チャート50はパターン1から4の少なくとも4つを含む。
【0028】
印象対応チャート50に含まれる顔印象の傾向は、被験者の見掛け年齢、実年齢、大人顔もしくは童顔の程度、または小顔印象の程度、のいずれか一以上である。図2では、これらの全部が挙げられている。
【0029】
ここで、中高年女性をはじめとする幅広い多くの被験者にとっての「見られたい印象」としては、「若く見られること」をまず挙げることができる。女性のみならず男性に関しても、特に中高年者の場合には見掛け年齢を若く維持することに一般に関心が高い。このことから、被験者の顔において加齢(エイジング)を印象づける因子を定量化することは極めて有用と考えられる。被験者の顔の造作から印象づけられる見掛け年齢が実年齢よりも若いか否かを定量化することにより、仕上がりの満足度の高いメイクアップや美容マッサージ等の美容施術を提供することができる。
【0030】
パターン1は、被験者の見掛け年齢の高低と相関の高い基底次数が2次、7次、9次および11次であることを示している。後記に詳述するように、本発明者の検討により、これらの次数の基底ベクトルの重み係数を増加または減少させることで、被験者の見掛け年齢が高くなることが明らかとなっている。
【0031】
パターン2は、被験者の実年齢の高低が、同じく2次、7次、9次および11次の基底ベクトルの重み係数と高い相関を有することを示している。すなわち、パターン1と2は、見掛け年齢の傾向と実年齢の傾向が共通する次数の基底ベクトルと相関していることを表している。
パターン3は、被験者の顔が大人びて見える(大人顔)か、または子供っぽく見える(童顔)か、という印象傾向が3次の基底ベクトルの重み係数と相関することを表している。
パターン4は、被験者の顔が小さく見える(小顔)という印象傾向が3次および12次の基底ベクトルの重み係数と相関することを表している。
【0032】
図1の顔印象判定チャート10と図2の印象対応チャート50とを併用することにより、被験者の顔印象の傾向を判定することができる。具体的には、図1の顔印象判定チャート10を参照して被験者の顔形状を目視観察することにより、2次、7次、9次または11次の基底ベクトルが被験者の顔に強く発現しているか、または逆に当該基底ベクトルの発現度合いが平均以下であるか、を把握することができる。そのうえで印象対応チャート50を参照することで、2次、7次、9次および11次の基底ベクトルのうち被験者の顔に発現していると認められる基底の数を判断基準として、被験者の顔印象がパターン1またはパターン2に属する度合いを定量化することができる。
同様に、3次や12次の基底ベクトルが発現した顔形状を対比して配置した他の顔印象判定チャート(図示せず)を参照すれば、被験者の顔印象がパターン3またはパターン4に属する度合いを定量化することができる。
【0033】
各パターンに対応づけられた基底次数には、官能評価結果に基づいて設定された重率が付与されていてもよい。後述するように、7次および9次の基底ベクトルは見掛け年齢および実年齢と特に高い相関をもつことから、これらの次数には高い重率(大きなポイント)を付与するとよい。2次および11次にはこれよりも低い重率(小さなポイント)を付与するとよい。そして、被験者の顔に発現している基底のポイントを合計することで、より詳細に被験者の顔印象を分析することができる。
【0034】
以下、顔印象判定チャート10の作成方法の一例を具体的に説明する。
【0035】
多数の被験者の頭部表面の座標データを取得して母集団顔情報を生成する。本実施形態では、20歳代から60歳代の各年代30名、合計150名の日本人女性を被験者としている。本実施形態では、接触式計測装置を用いて、被験者の顔を含む頭部の表面の三次元座標値を顔形状情報として取得する。さらに、非接触式の三次元計測装置を用いて、被験者の頭部の表面の他の点の三次元座標値を取得する。接触式計測装置としては、プローブ針を頭皮に接触させて頭皮表面の任意位置の三次元座標を取得する接触式三次元デジタイザが例示される。非接触式計測装置としては三次元レーザースキャナが例示される。その他の非接触式計測としては、レンズ焦点法やステレオ法等も用いることができる。
【0036】
頭髪の影響を受けずに頭皮表面の三次元座標を正確に計測する観点からは、頭髪が生えている前頭から後頭までの三次元座標は、接触式計測装置で計測することが好ましい。頭髪の影響のない額以下の顔表面の三次元座標は、計測時間の短さから非接触式計測装置を用いて測定するとよい。非接触式計測装置による三次元座標の計測時には、頭髪の影響を低減するため、被験者の頭髪にネットキャップ等の保護部材を被覆しておこなってもよい。この場合は、三次元レーザースキャナなどの光学式の計測装置のみで頭皮表面の三次元座標を測定することができる。非接触式計測装置を使用することで、被験者の頭部表面から、一例として十万点を超える多数点の三次元座標を計測することができる。さらに、被験者の顔表面の幾つかの特徴点に関しては接触式計測装置を用いて高精度でその三次元座標を計測するとよい。かかる特徴点としては、頭蓋骨表面の特徴点(解剖学的特徴点)および皮膚表面の特徴点を挙げることができる。解剖学的特徴点としては、眼窩下点、眼窩上縁中央、眼窩内縁点、外耳道上縁点、鼻根点または頬骨弓点を例示することができる。皮膚表面の特徴点としては、目頭点、目尻点、耳珠上縁点、上耳底点、下耳底点、鼻下点、鼻尖点、口角点、口点または顎角点を例示することができる。
【0037】
このようにして多数の被験者に対して共通の特徴点の三次元座標を計測して母集団顔情報を生成することで、互いの三次元形状モデルを規格化して相同モデル化することができる。このように、非接触式計測装置と接触式計測装置とを併用することで、頭皮表面の三次元座標を高精度で取得することができる。ただし、非接触式または接触式の計測装置のいずれか一方のみを用いて顔を含む頭部の表面の三次元座標を取得してもよい。
【0038】
図3(a)は、被験者の顔を含む頭部を非接触式の三次元レーザースキャナで計測した頭部全体の三次元光学データ(高解像度データ)である。計測点は約18万点である。この高解像度データは、被験者ごとに節点数とトポロジーが異なる。
図3(b)は、被験者の顔および頭皮部の13点の特徴点を示す図である。これらの点の三次元座標を、接触式三次元デジタイザで計測する。
図3(c)は、ジェネリックモデルを示す図である。ジェネリックモデルは、目元と口元の節点の配置密度が大きく、頭皮部の節点の配置密度が小さいモデルである。節点数は4703点である。
【0039】
図4は、被験者ごとの高解像度データの節点数とトポロジーを相同化した相同モデルを示す斜視図である。高解像度データにおける13点の特徴点の座標値と、ジェネリックモデルの特徴点の座標値とを位置合わせした状態で、高解像度データの表面にジェネリックモデルの他の座標を貼り付けることで、対象者の相同モデルは作成される。相同モデルは、節点数とトポロジーが共通化されているので、多数の被験者を集めることで多変量解析をすることができる。
【0040】
図5(a)から(e)は、20歳代から60歳代の各年代の被験者(各年代について10名)の相同モデルの平均顔形状をそれぞれ示す図である。相同モデルでは三次元座標が抽出され、テクスチャは捨象されている。そして、この相同モデルを各年代で平均することで、被験者の顔の個体差の影響が排除される。このため、各年代の平均顔形状には、年代の進行によって遷移していく顔形状の特徴が現れる。
【0041】
図6(a)は20歳代と30歳代の合計20名の若年者の被験者の相同モデルの平均顔である。同図(b)は20歳代から60歳代の合計50名の全年代の被験者の相同モデルの平均顔である。同図(c)は50歳代と60歳代の合計20名の高齢者の被験者の相同モデルの平均顔である。
図5(a)と図5(e)、および図6(a)と図6(c)をそれぞれ対比すると、年齢の進行により、ほうれい線が深くなり、また頬が緩んで膨化していることが分かる。かかる特徴は相同モデルの主成分分析により客観化および定量化される。
【0042】
母集団顔情報を構成する多数の相同モデル(母集団解析モデル)を多変量解析して複数次の基底ベクトルを抽出する。具体的な多変量解析の一例として主成分分析(PCA:principal component analysis)を挙げる。本実施形態では、母集団解析モデルの顔形状に関して主成分分析をおこない、複数次の基底ベクトルekを算出する。基底ベクトルekは、母集団解析モデルの共分散行列の固有ベクトル解析により求められる。各次の基底ベクトルは互いに直交している。基底ベクトルの最高次数nは特に限定されないが、寄与率1%以上の基底ベクトルが総て抽出されるように最高次数nを設定するとよい。
【0043】
図7は、20歳代から60歳代の各年代で10名、合計50名の日本人女性を母集団とする母集団解析モデルに関する主成分分析結果の例を表すテーブルである。同図は、寄与率1%以上の基底ベクトルが1次(pca01)から15次(pca15)まで15個存在した場合を示している。すなわち、日本人の20歳代から60歳代の女性(以下、日本人成人女性)の頭部形態が15軸によってほぼ説明できることとなる。
【0044】
本実施形態の顔印象判定チャート10に採用されている高次の基底ベクトルの寄与率は1%以上である。そして、第一の頭部画像20および第二の頭部画像30は、かかる高次基底を除く寄与率が1%以上の他の基底ベクトルの重み係数を共通としている。
【0045】
なお、80歳代またはそれ以上の年代になると、一般に頭部の骨自体が痩せてくる傾向があるといわれており顔印象が変わりやすい。また、10歳代前半までは一般的に骨格の成長時期にあたるので、顔印象も変わりやすい。このような骨の変化による顔印象の変化は、頭部表面の三次元形状の主成分分析では現れにくいため本実施形態ではこれを排除する。よって母集団は20歳代から60歳代までとした。これにより、本実施形態で作成される顔印象判定チャート10を参照して被験者の顔印象を分析することで、筋肉や脂肪の影響によるエイジングの進行が精度よく抽出される。
【0046】
図8は、図7の分析結果に対応する1次から15次までの主成分が帰属する形状変化の特徴を表すテーブルである。
【0047】
図9から図23は、第1主成分(pca01)から第15主成分(pca15)をそれぞれ反映させた仮想形状の斜視図である。図9で0.0SDと表記された同図(b)は、全年代の平均の仮想形状を示す斜視図であり、図6(b)と同じものである。+3.0SDと表記された図9(c)は、上記の式(1)の第1基底ベクトルの重み係数(b1)を母集団の標準偏差の+3倍(+3σ)とし、他の基底ベクトルの重み係数(b2〜bn)をゼロとした場合の仮想形状の斜視図である。一方、−3.0SDと表記された図9(a)は、第1基底ベクトルの重み係数(b1)を母集団の標準偏差の−3倍(−3σ)とし、他の基底ベクトルの重み係数(b2〜bn)をゼロとした場合の仮想形状の斜視図である。
【0048】
図10から図23は、それぞれ第2基底ベクトルから第15基底ベクトルに関して、それぞれ同様に重み係数を±3σとした場合の仮想形状の斜視図を示している。各図(a)と各図(c)が、第一の頭部画像20と第二の頭部画像30の一方または他方にそれぞれ該当し、各図(b)が第三の頭部画像40に該当する。すなわち、図10から図23は、それぞれ本実施形態の顔印象判定チャート10の第1から第14の変形例である。
【0049】
以下、図9から図23および図8を用いて各主成分の特徴を説明する。
第1主成分は、顔部の全体の大きさに寄与する。図9(c)と図9(a)とを対比して分かるように、第1主成分の重み係数がプラス方向に大きくなると顔部は全体に細くかつ小さくなる。
【0050】
一方、二次以上の高次の基底は顔の局所的な部分の形状に寄与する主成分である。本実施形態の顔印象判定チャート10のような指標を用いることで、被験者の顔に発現している高次基底を定性的および定量的に評価することができる。
【0051】
第2主成分は、顔の下膨れ具合、鼻両脇の膨らみ、および鼻の下の垂れ下がりに寄与する。図10(c)と図10(a)とを対比して分かるように、第2主成分の重み係数がプラス方向に大きくなると顔は引き締まり、ほうれい線は薄くなる。後述するように、第2主成分がマイナス方向に大きくなると、見掛け年齢および実年齢が加齢方向に進行する。
【0052】
第3主成分は、オトガイ高に寄与する。図11(c)と図11(a)とを対比して分かるように、第3主成分の重み係数がプラス方向に大きくなると顎関節が発達して大人っぽい顔つきになる。すなわち大人顔の印象が進行する。逆に第3主成分の重み係数がマイナス方向に大きくなると童顔になる。そして、第3主成分がマイナス方向に進行すると、小顔印象が進行する。
【0053】
第4主成分は、後頭の伸び、および眼窩幅に寄与する。図12(c)と図12(a)とを対比して分かるように、第4主成分の重み係数がプラス方向に大きくなると後頭部は小さくなり、両眼の間隔が近づく。すなわち寄り目の傾向が進行する。
【0054】
第5主成分は、前頭部の前突、および口部の前突に寄与する。図13(c)と図13(a)とを対比して分かるように、第5主成分の重み係数がプラス方向に大きくなると前頭部および口部が前方に突き出す。
【0055】
第6主成分は、全頭の高さに寄与する。図14(c)と図14(a)とを対比して分かるように、第6主成分の重み係数がプラス方向に大きくなると目より上の長さが縮まる。逆に第6主成分の重み係数がマイナス方向に大きくなると額の長さが大きくなる。
【0056】
第7主成分は、眼窩外側の前後位置、および鼻より下の伸びに寄与する。図15(c)と図15(a)とを対比して分かるように、第7主成分の重み係数がプラス方向に大きくなると目尻が前進して目の立体感が減少し、鼻の下が伸びてほうれい線が深くなる。このため、第7主成分がプラス方向に大きくなると、顔が全体にしぼんだような印象を与えるため、見掛け年齢および実年齢が加齢方向に進行する。逆に、第7主成分がマイナス方向に進行すると、見掛け年齢および実年齢が若年齢方向に進行する。
【0057】
第8主成分は、眼窩幅に寄与する。図16(c)と図16(a)とを対比して分かるように、第8主成分の重み係数がプラス方向に大きくなると眼窩の外側同士の間隔が近づく。これにより、寄り目の傾向が進行する。
【0058】
第9主成分は、目尻上方部の内下垂、および口角の引け具合に寄与する。図17(c)と図17(a)とを対比して分かるように、第9主成分の重み係数がマイナス方向に大きくなると目尻が顔の内側下方に垂れ下がり、口角が後方に移動してほうれい線が深くなる。このため、見掛け年齢および実年齢が加齢方向に進行する。逆に、第9主成分の重み係数がプラス方向に大きくなると目尻は吊り上がり、口角は浅くなって若々しい印象となる。すなわち見掛け年齢および実年齢が若年齢方向に進行する。
【0059】
第10主成分は、顔のゆがみに寄与する。図18(c)と図18(a)とを対比して分かるように、第10主成分は顔の上部の左右方向のねじれに寄与している。
【0060】
第11主成分は、口の中央部の前突、および頬骨下部の扁平化に寄与する。図19(a)と図19(c)とを対比して分かるように、第11主成分の重み係数がマイナス方向に大きくなると頬が痩せて口の中央部が前方に突出し、口角がくぼむ。これにより、見掛け年齢および実年齢が加齢方向に進行する。また、第11主成分の重み係数がマイナス方向に大きくなると、いわゆる「アヒル口」の印象傾向が進行する。
【0061】
第12主成分は、下顎のふくれに寄与する。図20(a)と図20(c)とを対比して分かるように、第12主成分の重み係数がマイナス方向に大きくなると下顎周辺が引き締まり小顔印象が進行する。
【0062】
第13主成分は、耳下および顎下の脂肪等の膨らみに寄与する。図21(a)と図21(c)とを対比して分かるように、第13主成分の重み係数がマイナス方向に大きくなると耳下および顎下に脂肪がついたように膨らみが大きくなる。
【0063】
第14主成分は、頭のゆがみに寄与する。図22(a)と図22(c)とを対比して分かるように、第14主成分は顔の下部の左右非対称性に寄与している。
【0064】
第15主成分は、顔部のゆがみに寄与する。図23(a)と図23(c)とを対比して分かるように、第15主成分は顔の下部の左右方向のねじれによる顔部のゆがみに寄与している。
【0065】
図1に示した本実施形態の顔印象判定チャート10は、全年代の被験者の相同モデルの平均顔である図6(b)の画像を第三の頭部画像40として中央に配置している。そして2次、7次、9次、11次の基底ベクトルを加齢方向に強調した画像を第二の頭部画像30とし、その反対方向(若化方向)に強調した画像を第一の頭部画像20として、第三の頭部画像40を挟んで配置してなる。
【0066】
本実施形態の顔印象判定チャート10を用いて被験者の見掛け年齢または実年齢の判定(以下、あわせてエイジング判定という)をおこなう場合には、2次、7次、9次、11次の基底ベクトルが被験者の顔に発現しているか否か、およびその発現傾向がエイジングの進行方向であるか否か、を判定基準とするとよい。また、小学生から中高生の大人顔または童顔の度合いを判定する場合には、第3主成分の発現の有無を評価するとよい。そして、小顔印象の度合いを判定する場合には、第3および第12主成分の発現の有無を評価するとよい。
【0067】
これらの印象傾向と基底次数との関係を示すテーブルが、図2に示した印象対応チャート50である。なお、主成分分析の対象となる母集団の人数や属性を変化させた場合には、この基底次数は変化する可能性がある。
【0068】
以下、2次、7次、9次、11次の基底ベクトルと、見た目の年齢の進行(エイジング印象)とが高い相関をもっていることをより詳細に説明する。
【0069】
上述のように相同モデルが作成された20歳代から60歳代の各年代から10名(合計50名)の被験者の写真に基づいて、美容専門家5名が当該被験者の年齢を推定した。具体的には、この5名の推定年齢の平均値を「見掛け年齢」として算出した。また、各被験者の「実年齢」も調査した。
【0070】
一方、この50名の被験者全員を母集団として主成分分析を行い、寄与率1%以上の15次までの基底ベクトルを求めた(図7を参照)。
【0071】
被験者の第1から第15基底の重み係数(固有値)と見掛け年齢との関係を求めた。図24は、基底次数ごとの重み係数と見掛け年齢との相関係数を示すテーブルである。
2次、7次、9次および11次の4つの基底次数に関して、見掛け年齢と高い相関がみられた。また、2次、9次および11次は相関係数が負であり、7次は相関係数が正であった。これにより、2次、9次および11次の主成分がマイナス方向に進行し、7次の主成分がプラス方向に進行することによりエイジング印象が進行することが分かった。
【0072】
ここで、母集団の標本数(N)が50の場合の5%有意水準の限界値は0.279である。したがって、7次および9次の絶対値は、いずれも5%有意水準の限界値よりも大きい。すなわち、7次および9次の特徴量は寄与率1%以上の基底ベクトル(主成分)であり、かつ印象傾向との相関係数が母集団の標本数での5%有意水準の限界値よりも大きい。したがって、7次および9次の基底ベクトルを用いてエイジングを判定することは統計的に確からしいといえる。
【0073】
母集団を実年齢で二つの群に分け、基底次数ごとの重み係数と見掛け年齢との関係に有意差があるかどうかを検定した。具体的には、20歳から40歳の20名と、41歳から69歳の30名とに母集団を二つの群を分けてt検定をおこなった。図25は、その結果を示す表である。7次と9次はt検定値が0.05未満となり、他の基底次数のt検定結果は0.05以上となった。よって、これらの7次および9次の主成分に関しては年齢による有意差が出ることが分かった。また、2次と11次もt検定値は0.2未満であり、年齢による差異が現れていることが分かった。
【0074】
すなわち、図1に示した本実施形態の顔印象判定チャート10において、第一の頭部画像20と第二の頭部画像30とは、母集団の標本数での5%有意水準の限界値よりも大きい基底ベクトルの重み係数が互いに相違している。
【0075】
なお、図26は、母集団全体に関する基底次数ごとの重み係数と実年齢との相関関係を示すテーブルである。図24と図26とを比較すると、実年齢に関しても2次、7次、9次および11次の4つの基底次数と高い相関があることが分かった。また、見掛け年齢と同様に、実年齢が進行すると、2次、9次および11次は主成分がマイナス方向に進行し、7次は主成分がプラス方向に進行することが分かった。母集団を実年齢で二つの群に分け、基底次数ごとの重み係数と実年齢との関係に有意差があるかどうかをt検定したところ、図25に示した結果とほぼ同様の傾向がみられた(図示省略)。
【0076】
以上より、エイジング判定に関しては、被験者の見掛け年齢と実年齢を同様に扱うことができることが分かった。すなわち、本発明を用いて被験者の見掛け年齢を判定することができるとともに、年齢不明の被験者の実年齢の推定をすることもできることがわかった。
【0077】
つぎに、2次、7次、9次および11次の主成分に関して、母集団全体の平均顔形状から、主成分ごとに個別に±3σまで基底ベクトルの重み係数を段階的に変化させた場合の相同モデルに対する見掛け年齢の官能値を求めた。見掛け年齢の推定は、美容専門家4名による年齢推定結果の平均値を採用した。例として、9次の基底ベクトルに関して±3σまで1σずつ基底ベクトルの重み係数を変化させた6枚の画像を図27に示す。上述のように9次の主成分はマイナス方向に進行するほどエイジングの傾向が進行する。図27では、エイジングが進行する方向(エイジング傾向)を正として、±1.0σから±3.0σと表示している。以下も同様である。
【0078】
図28は、エイジング印象因子(基底ベクトル)を変化させたときの仮想形態の年齢印象の変化を表すグラフである。2次、7次、9次、11次とも、エイジング傾向に+1σ〜+3σまで変化させた場合には、いずれも見掛け年齢の官能値が直線的に増大した。逆に、−1σから−3σまで変化させた場合には、7次と9次はほぼ直線的に若化した。しかし、2次と11次は若化の傾向は見られなかった。以上より、エイジングの進行方向に関しては、2次、7次、9次、11次の主成分(エイジング印象軸)とも、基底ベクトルの重み係数と見掛け年齢の進行とが正の相関をもって直線的に変化することがわかった。また、7次と9次に関しては、基底ベクトルの重み係数をエイジング傾向と反対符号とすることで見掛け年齢を若化させることもできることがわかった。
【0079】
また、エイジング印象軸を複数組みあわせた場合にエイジング傾向が更に顕著に進行することがわかった。図29(a)から(d)は、エイジング印象軸を複数組みあわせた相同モデルの斜視図である。これらの図より、同図(a)は、2次と9次の重み係数を、ともにエイジング傾向に+3σとしたものである。同図(b)は、7次と9次の重み係数を、ともにエイジング傾向に+3σとしたものである。同図(c)は、2次と11次の重み係数を、ともにエイジング傾向に+3σとしたものである。そして、同図(d)は、2次、7次、9次および11次の重み係数を、いずれもエイジング傾向に+3σとしたものである。これにより、顔印象判定チャート10を参照して分析した被験者の顔形状がエイジング印象軸を複数有している場合には、エイジング傾向が特に高いと判定することが適当である。
【0080】
カウンセラー等のユーザは、本実施形態の顔印象判定チャート10を参照して被験者の顔印象を分析することに加えて、被験者に対して美容情報を提供してもよい。このため、本実施形態の顔印象判定チャート10は美容情報テーブル60を更にセットとして含んでいてもよい。
【0081】
図30は、美容情報テーブル60の一例を示す図である。本実施形態で例示する美容情報は、美容成形方法、美容マッサージ方法、ヘアメイク方法、化粧メイク方法のいずれかを含む美容施術方法、毛髪化粧料またはメイク化粧料を表す情報である。具体的には、この美容情報は、被験者の顔形状が属する印象傾向を緩和または促進するための美容施術方法や化粧料(あわせて、美容手段という)を示す情報である。このほか、被験者が保有するエイジング印象軸ごとに適切な毛髪化粧料やメイク化粧料の種類や製品名、またはこれらの使用方法や使用量などを美容情報として出力してもよい。
【0082】
なお、本発明は上述の実施形態に限定されるものではなく、本発明の目的が達成される限りにおける種々の変形、改良等の態様も含む。
【0083】
上記実施形態では、全年代の被験者を母集団として主成分分析を行って基底ベクトルおよび重み係数を算出して顔印象判定チャート10を作成したが、本発明はこれに限られない。各年代で十分な人数の被験者を用意してそれぞれ異なる母集団を生成し、個別に主成分分析を行ってもよい。若年層(たとえば30歳代)の被験者のみを主成分分析して抽出された基底ベクトルとエイジング印象との相関関係を官能評価することにより、実年齢の進行に伴うエイジング印象の度合いではなく、実年齢以上に加齢して見える、いわゆる"老け顔"の度合いを示す基底ベクトルを抽出することができる。このようにして抽出された基底ベクトルの重み係数を加齢方向または若化方向に強調した画像を第二の頭部画像30および第一の頭部画像20とすることにより、年代ごとの被験者のエイジング印象をそれぞれ評価するための顔印象判定チャート10を作成することができる。
【0084】
また、上記実施形態では女性のみを被験者としたが、性別により基底ベクトルは異なることから、男性と女性とで母集団を分けて主成分分析をおこなうとよい。そして、かかる年代別や性別の平均顔形状を第三の頭部画像40として、抽出された基底ベクトルを強調表示することで第一の頭部画像20または第二の頭部画像30を生成するとよい。
【0085】
すなわち、顔印象判定チャート10においては、第三の頭部画像40は、年代別または性別の複数の平均頭部画像であってもよい。そして、顔印象判定チャート10は、これらの複数の第三の頭部画像40に対応する第一の頭部画像20および第二の頭部画像30を含んでもよい。
【0086】
また、上記実施形態の顔印象判定チャート10では人の顔のテクスチャを捨象した形状因子のみを表しているが、本発明はこれに限られない。第一の頭部画像20および第二の頭部画像30が共通のテクスチャを備えていてもよい。テクスチャには、被験者の肌を模した色彩および模様のパターンを用いるとよい。これにより、被験者の頭部の自然な見た目を模した第一の頭部画像20および第二の頭部画像30とすることができる。
【0087】
また、上記実施形態の顔印象判定チャート10における第一の頭部画像20および第二の頭部画像30は静止画像であるが、本発明はこれに限られない。顔印象判定チャート10は、第一の頭部画像20と第二の頭部画像30とに連続的に遷移する動画像であってもよい。かかる動画像は、第一の頭部画像20と第二の頭部画像30との一方から他方に一方的に遷移するものでもよく、または第一の頭部画像20と第二の頭部画像30とに交互に繰り返して遷移するものでもよい。
【0088】
上記実施形態およびその変形例は、以下の技術思想を包含するものである。
(1)人の頭部形状に関する高次の基底ベクトルの少なくとも一つの重み係数が互いに異なる第一および第二の頭部画像が対比可能に配置されていることを特徴とする顔印象判定チャート;
(2)前記高次の基底ベクトルの寄与率が1%以上であり、前記第一および第二の頭部画像は、前記高次を除く寄与率が1%以上の他の基底ベクトルの重み係数が共通である上記(1)に記載の顔印象判定チャート;
(3)前記第一および第二の頭部画像からなる画像ペアを複数組含み、一の組の前記画像ペアにかかる前記第一および第二の頭部画像は、第1の高次の重み係数が互いに異なり、他の組の前記画像ペアにかかる前記第一および第二の頭部画像は、第2の高次の重み係数が互いに異なることを特徴とする上記(1)または(2)に記載の顔印象判定チャート;
(4)顔印象の傾向と、前記重み係数の次数と、の関係を示す印象対応チャートをさらに含む上記(1)から(3)のいずれかに記載の顔印象判定チャート;
(5)前記顔印象の傾向が、被験者の見掛け年齢、実年齢、大人顔もしくは童顔の程度、または小顔印象の程度、のいずれか一以上を含む上記(4)に記載の顔印象判定チャート;
(6)第三の頭部画像をさらに含み、前記第三の頭部画像の前記高次の基底ベクトルの前記重み係数が、前記第一の頭部画像の前記重み係数と前記第二の頭部画像の前記重み係数との中間の大きさである上記(1)から(5)のいずれかに記載の顔印象判定チャート;
(7)前記第三の頭部画像が年代別または性別の複数の平均頭部画像であり、複数の前記第三の頭部画像に対応する前記第一および第二の頭部画像を含む上記(6)に記載の顔印象判定チャート;
(8)前記第一の頭部画像と前記第二の頭部画像とに連続的に遷移する動画像である上記(1)から(7)のいずれかに記載の顔印象判定チャート;
(9)前記第一および第二の頭部画像が、共通のテクスチャを備えている上記(1)から(8)のいずれかに記載の顔印象判定チャート;
(10)前記第一および第二の頭部画像がシート上に印刷されている上記(1)から(9)のいずれかに記載の顔印象判定チャート;
(11)前記第一および第二の頭部画像がディスプレイ装置に表示されている上記(1)から(9)のいずれかに記載の顔印象判定チャート。
【符号の説明】
【0089】
10:顔印象判定チャート、20:第一の頭部画像、30:第二の頭部画像、40:第三の頭部画像、50:印象対応チャート、60:美容情報テーブル
【特許請求の範囲】
【請求項1】
人の頭部形状に関する高次の基底ベクトルについて、少なくとも一つの重み係数が互いに異なる第一および第二の頭部画像が対比可能に配置されていることを特徴とする顔印象判定チャート。
【請求項2】
前記高次の基底ベクトルの寄与率が1%以上であり、
前記第一および第二の頭部画像は、前記高次を除く寄与率が1%以上の他の基底ベクトルの重み係数が共通である請求項1に記載の顔印象判定チャート。
【請求項3】
前記第一および第二の頭部画像からなる画像ペアを複数組含み、
一の組の前記画像ペアにかかる前記第一および第二の頭部画像は、第1の高次の重み係数が互いに異なり、
他の組の前記画像ペアにかかる前記第一および第二の頭部画像は、第2の高次の重み係数が互いに異なることを特徴とする請求項1または2に記載の顔印象判定チャート。
【請求項4】
顔印象の傾向と、前記重み係数の次数と、の関係を示す印象対応チャートをさらに含む請求項1から3のいずれか一項に記載の顔印象判定チャート。
【請求項5】
前記顔印象の傾向が、被験者の見掛け年齢、実年齢、大人顔もしくは童顔の程度、または小顔印象の程度、のいずれか一以上を含む請求項4に記載の顔印象判定チャート。
【請求項6】
第三の頭部画像をさらに含み、前記第三の頭部画像の前記高次の基底ベクトルの前記重み係数が、前記第一の頭部画像の前記重み係数と前記第二の頭部画像の前記重み係数との中間の大きさである請求項1から5のいずれか一項に記載の顔印象判定チャート。
【請求項7】
前記第三の頭部画像が年代別または性別の複数の平均頭部画像であり、
複数の前記第三の頭部画像に対応する前記第一および第二の頭部画像を含む請求項6に記載の顔印象判定チャート。
【請求項8】
前記第一の頭部画像と前記第二の頭部画像とに連続的に遷移する動画像である請求項1から7のいずれか一項に記載の顔印象判定チャート。
【請求項9】
前記第一および第二の頭部画像が、共通のテクスチャを備えている請求項1から8のいずれか一項に記載の顔印象判定チャート。
【請求項10】
前記第一および第二の頭部画像がシート上に印刷されている請求項1から9のいずれか一項に記載の顔印象判定チャート。
【請求項11】
前記第一および第二の頭部画像がディスプレイ装置に表示されている請求項1から9のいずれか一項に記載の顔印象判定チャート。
【請求項1】
人の頭部形状に関する高次の基底ベクトルについて、少なくとも一つの重み係数が互いに異なる第一および第二の頭部画像が対比可能に配置されていることを特徴とする顔印象判定チャート。
【請求項2】
前記高次の基底ベクトルの寄与率が1%以上であり、
前記第一および第二の頭部画像は、前記高次を除く寄与率が1%以上の他の基底ベクトルの重み係数が共通である請求項1に記載の顔印象判定チャート。
【請求項3】
前記第一および第二の頭部画像からなる画像ペアを複数組含み、
一の組の前記画像ペアにかかる前記第一および第二の頭部画像は、第1の高次の重み係数が互いに異なり、
他の組の前記画像ペアにかかる前記第一および第二の頭部画像は、第2の高次の重み係数が互いに異なることを特徴とする請求項1または2に記載の顔印象判定チャート。
【請求項4】
顔印象の傾向と、前記重み係数の次数と、の関係を示す印象対応チャートをさらに含む請求項1から3のいずれか一項に記載の顔印象判定チャート。
【請求項5】
前記顔印象の傾向が、被験者の見掛け年齢、実年齢、大人顔もしくは童顔の程度、または小顔印象の程度、のいずれか一以上を含む請求項4に記載の顔印象判定チャート。
【請求項6】
第三の頭部画像をさらに含み、前記第三の頭部画像の前記高次の基底ベクトルの前記重み係数が、前記第一の頭部画像の前記重み係数と前記第二の頭部画像の前記重み係数との中間の大きさである請求項1から5のいずれか一項に記載の顔印象判定チャート。
【請求項7】
前記第三の頭部画像が年代別または性別の複数の平均頭部画像であり、
複数の前記第三の頭部画像に対応する前記第一および第二の頭部画像を含む請求項6に記載の顔印象判定チャート。
【請求項8】
前記第一の頭部画像と前記第二の頭部画像とに連続的に遷移する動画像である請求項1から7のいずれか一項に記載の顔印象判定チャート。
【請求項9】
前記第一および第二の頭部画像が、共通のテクスチャを備えている請求項1から8のいずれか一項に記載の顔印象判定チャート。
【請求項10】
前記第一および第二の頭部画像がシート上に印刷されている請求項1から9のいずれか一項に記載の顔印象判定チャート。
【請求項11】
前記第一および第二の頭部画像がディスプレイ装置に表示されている請求項1から9のいずれか一項に記載の顔印象判定チャート。
【図2】
【図7】
【図8】
【図30】
【図1】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【図21】
【図22】
【図23】
【図24】
【図25】
【図26】
【図27】
【図28】
【図29】
【図7】
【図8】
【図30】
【図1】
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【図11】
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【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【図21】
【図22】
【図23】
【図24】
【図25】
【図26】
【図27】
【図28】
【図29】
【公開番号】特開2013−89032(P2013−89032A)
【公開日】平成25年5月13日(2013.5.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−229020(P2011−229020)
【出願日】平成23年10月18日(2011.10.18)
【出願人】(000000918)花王株式会社 (8,290)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成25年5月13日(2013.5.13)
【国際特許分類】
【出願日】平成23年10月18日(2011.10.18)
【出願人】(000000918)花王株式会社 (8,290)
【Fターム(参考)】
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