説明

顔料分散液、インク組成物及びインクジェット記録方法

【課題】分散性、保存安定性に優れ、且つ化学安全性の高い顔料分散液を提供する。
【解決手段】色材として、ポリアロマティックハイドロカーボンの含有量が80ppm以下であり且つ次の式で定義される含酸素官能基密集度が3μmol/m以下のカーボンブラックを含むことを特徴とする顔料分散液。
含酸素官能基密集度(μmol/m
=[(950℃×30分)CO発生量(μmol/g)+(950℃×30分)CO
発生量(μmol/g)]/窒素吸着比表面積(m/g)

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、色材として、特定のカーボンブラックを用いた顔料分散液に関する。詳しくは、インクジェットプリンター等の記録液としてのインク組成物に好適に用いることができる顔料分散液と、この顔料分散液を含むインク組成物と、このインク組成物を用いたインクジェット記録方法に関する。
【背景技術】
【0002】
インクジェットプリンターは、フルカラー化が容易であること、騒音が少ないこと、高解像度の画像が低価格で得られること、高速印字ができること、などの理由から、パーソナルユース、ビジネスユースの両面から急速に普及しつつある。現在、インクジェットプリンターに用いる記録液としては水性の記録液が主流であり、解像度の高い印刷物が得られるようになってきている。
【0003】
この水性記録液としては、従来、水溶性染料と液媒体を主成分とするものが主流であった。しかし、この水性記録液によって得られる印刷物は、水性記録液が水溶性染料を含むために、耐水性、耐光性、耐オゾン性等が不十分であった。そこで近年、このような染料に代えて、顔料を水性媒体中に分散させた顔料分散型の水性記録液(以下、単に「インク」と言うことがある。)が開発されている。
【0004】
近年では、印刷物の解像度向上に伴い、インク吐出ノズルからの1回のインク吐出量の低下が著しい。そしてインクジェットプリンターの印字速度向上に対する要求が高まっていることから、顔料分散型の水性記録液に対して、より高い顔料分散安定性、吐出安定性が求められている。更に、インクジェットプリンターの汎用性の高さから、記録液の安全性の高さも同時に求められている。
【0005】
これに対して、顔料分散型の水性記録液に、特定のカーボンブラックを色材として用いる方法が提案されている。
【0006】
特許文献1においては、記録液調製時における分散性、印字物の印字濃度を向上させるために、ポリアロマティックハイドロカーボン(以下「PAH」と記載する)の含有量が500ppm以下であるカーボンブラックを含むことを特徴とする記録液が提案されている。
【0007】
特許文献2においては、分散安定性、記録濃度、吐出安定性を向上させるために、少なくともカーボンブラックと水溶性樹脂を含有する黒色水性インクにおいて、有機溶剤可溶成分を除去したカーボンブラックを用いることを特徴とする黒色水性インク組成物が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2001−354884号公報
【特許文献2】特開2001−200184号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
近年、インクジェットプリンター用顔料分散液においては、その印刷物の堅牢性の高さから、大判フォトや高級フォト分野での需要が高まっている。一方、同時に、レーザープリンターと比較して信頼性・印刷速度が不十分であるビジネス向けインクジェットプリンターの欠点を改善するために、普通紙での高い印字濃度と高速印刷可能な顔料分散液に対する需要も高まっている。
【0010】
インクジェットプリンター用顔料分散液は用途に応じて、速乾性の有機溶剤を媒体としたソルベント系顔料分散液、記録後に紫外線(UV)光により架橋させるために、重合性のモノマーを媒体としたUV系顔料分散液、主に民生用の水を媒体とした水系顔料分散液がそれぞれ用いられる。
【0011】
いずれの系においても、近年では製品の化学安全性は強く要求されており、環境・人体への影響などが益々重要視されるようになってきていることから、高い安全性を有し、且つ必要な基本性能である高い分散性・保存安定性を達成する分散液、記録液に対する要求が強くなってきている。
【0012】
特許文献1には、記録液調製時の分散性、印字物の印字濃度の向上を目的にPAH含有量500ppm以下のカーボンブラックを用いることが記載されているが、カーボンブラック表面上にはPAHのような疎水性化合物だけでなく、カルボニル基(ケトン、キノン等)、カルボニル基およびその誘導体(エステル、ラクトン等)の酸性官能基が存在する。これらが分散性、安定性について与える影響については、特許文献1にはなんら言及されていない。また、カーボンブラック表面に存在する酸性官能基を定量的に示す含酸素官能基密集度についても特許文献1にはなんら明示されてはいない。
【0013】
また、特許文献2では、分散安定性、記録濃度、吐出安定性を向上させるために、有機溶剤と混合攪拌して有機溶剤可溶成分を抽出・除去したカーボンブラックを用いたことが記載されているが、この文献中に記載される溶媒抽出ではPAHを完全に除去することは困難であり、その結果、PAHが相当量残っていることが予想される。
さらに、特許文献2には、特許文献2で示される処理方法が、カーボンブラック表面上の含酸素官能基密集度に与える影響ついてなんら言及されておらず、カーボンブラック表面上の含酸素官能基密集度についてもなんら明示されてはいない。
【0014】
本発明は、分散性、保存安定性に優れ、且つ化学安全性の高い顔料分散液を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明者らはこのような課題を解決すべく、顔料分散液について鋭意検討を行った。その結果、色材として、PAHの含有量が80ppm以下であり、且つ次の式で定義される含酸素官能基密集度が3μmol/m以下のカーボンブラックを用いることにより、分散性、保存安定性、化学安全性に優れた顔料分散液が得られることを見出し、本発明を完成させた。
含酸素官能基密集度(μmol/m
=[(950℃×30分)CO発生量(μmol/g)+(950℃×30分)CO
発生量(μmol/g)]/窒素吸着比表面積(m/g)
【0016】
即ち、本発明の要旨は、色材として、ポリアロマティックハイドロカーボンの含有量が80ppm以下であり且つ次の式で定義される含酸素官能基密集度が3μmol/m以下のカーボンブラックを含むことを特徴とする顔料分散液、に存する。
含酸素官能基密集度(μmol/m
=[(950℃×30分)CO発生量(μmol/g)+(950℃×30分)CO
発生量(μmol/g)]/窒素吸着比表面積(m/g)
【0017】
本発明の別の要旨は、このカーボンブラック中のポリアロマティックハイドロカーボンの含有量が20ppm以下であることを特徴とする顔料分散液(請求項2)、に存する。
【0018】
本発明の別の要旨は、このカーボンブラックが、窒素雰囲気下で800〜1500℃の温度で焼成してなることを特徴とする顔料分散液(請求項3)、に存する。
【0019】
本発明の別の要旨は、この顔料分散液が水性であることを特徴とする顔料分散液(請求項4)、に存する。
【0020】
本発明の別の要旨は、この顔料分散液を含むことを特徴とするインク組成物(請求項5)、に存する。
【0021】
本発明の更に別の要旨は、このインク組成物の液滴をインクジェットヘッドから吐出させ、該液滴を記録媒体に付着させることを特徴とするインクジェット記録方法(請求項6)、に存する。
【発明の効果】
【0022】
本発明によれば、分散性、保存安定性及び化学安全性に優れた顔料分散液を提供することが出来る。特に本発明の顔料分散液は、インクジェットプリンター等の記録液としてのインク組成物に好適に用いることができ、本発明の顔料分散液を含むインク組成物を用いて、高品質かつ高耐久性のインクジェット記録物を得ることができる。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下に、本発明の実施の形態を詳細に説明するが、以下に記載する構成要件の説明は、本発明の実施形態の一例(代表例)であり、本発明はその要旨を超えない限り、これらの内容には特定されない。
【0024】
なお、以下において「(メタ)アクリレート」とは「アクリレート及び/又はメタクリレート」を意味し、「(メタ)アクリル」は「アクリル及び/又はメタクリル」を意味する。
また、「ポリマー」とは「重合体及び/又は共重合体」を意味する。
【0025】
また、「構成単位」とは、ポリマーの基本構造の構成単位であり、ポリマーの基本構造とは、合成高分子の場合には、重合又は共重合による当該ポリマーの製造に用いられたモノマー分子に由来する構造、もしくはそれらが変性などにより修飾された構造である。また、天然高分子の場合には、繰り返し構造もしくはそれが変性等により修飾された構造である。
【0026】
なお、本発明において、「モノマー構成単位」又は「モノマーを構成単位とする」とは、当該モノマー(例えば「モノマーx」)を用いてポリマーを合成することによりポリマーA中に導入された構成単位に限らず、当該モノマーxとは異なるモノマー(例えば「モノマーy」)を用いてポリマーを合成し、その後、このモノマーyにより導入された構成単位を変性ないしは修飾して、モノマーxにより導入された構成単位と同じ構成単位を形成したものであってもよく、この場合であっても、そのモノマー構成単位は、「モノマーy構成単位」又は「モノマーyを構成単位とする」とは言わず、「モノマーx構成単位」又は「モノマーxを構成単位とする」と言うものとする。
【0027】
本発明の顔料分散液には、
・ 水性顔料分散液
・ ソルベント系顔料分散液
・ UV系顔料分散液
があるが、いずれも、色材として特定のPAH量及び含酸素官能基密集度のカーボンブラックを用いる。
【0028】
[カーボンブラック]
まず、本発明の水性顔料分散液、ソルベント系顔料分散液、UV系顔料分散液において、色材として用いるカーボンブラックについて説明する。
【0029】
本発明では、色材として、ポリアロマティックハイドロカーボン(PAH)の含有量(PAH量)が80ppm以下であり、且つ次の式で定義される含酸素官能基密集度が3μmol/m以下のカーボンブラックを用いる。
【0030】
含酸素官能基密集度(μmol/m
=[(950℃×30分)CO発生量(μmol/g)+(950℃×30分)CO
発生量(μmol/g)]/窒素吸着比表面積(m/g)
【0031】
ここで、(950℃×30分)CO発生量(以下、単に「CO発生量」とする)及び(950℃×30分)CO発生量(以下、単に「CO発生量」とする)は、各々カーボンブラックを真空中で950℃で30分間加熱し、この間に発生したガス中のCO量及びCO量であり、具体的には次のようにして測定される。
【0032】
カーボンブラックを約0.5g精秤し、アルミナ管に入れ、0.01Torr(1.3Pa)まで減圧した後、減圧系を閉じ、950℃の電気炉内に30分間保持してカーボンブラックに存在する酸素化合物や水素化合物を分解・揮発させる。揮発成分は定量吸引ポンプを通じて、一定容量のガス捕集管に採取する。圧力と温度からガス量を求めると共に、ガスクロマトグラフにて組成分析し、一酸化炭素(CO)及び二酸化炭素(CO)の発生量(mg)を求め、カーボンブラック1g当たりのCO発生量及びCO発生量に換算した値を計算する(単位はmg/g)。さらに、得られた各ガスの発生量をμmol/gに換算する。
窒素吸着比表面積は、JISK6217の方法で測定した値である。
【0033】
本発明で用いるカーボンブラックに含まれるPAH量は、80ppm以下であり、20ppm以下であることが好ましく、15ppm以下であることがより好ましく、10ppm以下であることが特に好ましい。カーボンブラックのPAH量が多過ぎると、分散性、保存安定性、化学安全性に優れた顔料分散液を得ることができない。
【0034】
なお、カーボンブラック中のPAHとは、縮環した芳香環を有する化合物の総称であり、その具体例としては、ナフタレン、フルオレン、アセトナフテン、アセナフテン、フェナントレン、アントラセン、ピレン、ベンゾアントラセン、ベンゾピレン、ベンゾピペリン等の疎水性化合物が挙げられる。カーボンブラック中のPAH量は、「カーボンブラック中のPAH含有量の測定方法」(1994年7月8日、キャボット社発行)に準じて、カーボンブラックをトルエンで48時間ソックスレー抽出し、得られた抽出液を濃縮してGC−MSで定量することが出来る。
【0035】
また、本発明で用いるカーボンブラックの、前記式で定義される含酸素官能基密集度は3μmol/m以下であり、2.5μmol/m以下であることが好ましく、2μmol/m以下であることが特に好ましい。この含酸素官能基密集度が高過ぎると分散性、保存安定性、化学安全性に優れた顔料分散液を得ることができない。
【0036】
本発明で用いるカーボンブラックは、上記PAH量及び含酸素官能基密集度を満たすカーボンブラックであれば良く、使用するカーボンブラックの種類、DBP吸油量、窒素吸着比表面積、一次粒子径、揮発分、pH、カーボンブラックの具体例、形状、平均分散粒子径としては特に制限はなく、また、本発明に係るPAH量及び含酸素官能基密集度を満たすための処理としても、一般的な製造方法でカーボンブラックを製造後、PAH量を80ppm以下、含酸素官能基密集度を3μmol/m以下に低減させることができるような処理であれば、どのような処理を施したものであってよい。具体的な処理方法としては、例えば、水、温水、又は有機溶剤での洗浄、焼成処理などが挙げられ、これらの方法を組み合わせて使用しても良いが、好ましくは、窒素雰囲気下で800〜1500℃の温度での焼成処理が挙げられる。
ここで、窒素雰囲気下での焼成処理とは、一般的な製造方法を経て得られたカーボンブラックに対し、更に改質処理を施すために行う焼成操作のことである。
以下に、このような窒素雰囲気下での焼成処理を経て得られるカーボンブラックについて説明する。
【0037】
カーボンブラックの製造方法は原料によって異なり、一般的なものとしては例えば、サーマル法、アセチレン分解による方法(以上熱分解法)など、チャンネル法、ファーネス法(以上不完全燃焼法)などがある。例えばファーネス法では、油やガスの燃焼熱によって原料炭化水素を連続的に熱分解させてカーボンブラックを生成させるが、このうちオイルファーネス法では約2000℃に耐え得る煉瓦で内張りされた特殊な反応炉に燃料と空気を導入して、完全燃焼させ、1400℃以上の高温雰囲気を形成した上で液状の原料油を連続的に噴霧して熱分解させる。
【0038】
即ち、本発明において、「窒素雰囲気下で800〜1500℃の温度で焼成してなるカーボンブラック」とは上記のような一般的な製造工程により得られたカーボンブラックに対し、更に窒素雰囲気下で800〜1500℃の温度で焼成してなるカーボンブラックを意味する。
【0039】
このような焼成処理により、本発明に好適なカーボンブラックが得られる機構としては、以下のようなことが考えられる。
一般的な製造方法で得られるカーボンブラックにはPAHと呼ばれる成分が多量に含まれており、また表面に酸性基・塩基性基などの官能基が存在する。特に、PAHは発がん性が疑われていることもあり、これらを含むカーボンブラックは生体や環境への影響が危惧される。また、PAH成分や酸性基などの表面官能基などが存在すると、水性顔料分散液の顔料分散剤として使用されるポリマーの吸着を阻害し、有機溶剤、界面活性剤の存在下でポリマーが容易に脱離し、カーボンブラックを含む顔料分散液の顔料分散性、保存安定性を低下させる。そこで、窒素雰囲気下で800〜1500℃の温度で焼成処理をすることにより、PAHや表面の酸性官能基量を高度に低減させることができ、これにより、化学安全性を高め、またカーボンブラックに対するポリマー分散剤の吸着性も向上させることが可能となり、分散性・保存安定性の高い顔料分散液が得られるものと考えられる。
【0040】
また、本発明者らの検討によれば、焼成処理温度が低過ぎるとPAH、酸性官能基の除去度合いが低いために十分な効果が得られず、また、焼成処理温度が高過ぎるとカーボンブラックの結晶化(グラファイト化)が進み、最終的に粒子内部までグラファイト化してしまうと巨大な粒子を形成してしまい、インクジェット用途では使用困難となってしまうため好ましくない。
【0041】
焼成時間については特に制限はなく、焼成温度によっても異なるが、通常は1時間以上、好ましくは1日以上、より好ましくは7日以上で、上限は通常60日以下、好ましくは40日以下である。焼成時間が短すぎるとPAH量や酸性官能基の低減効果が不十分であり、また、これより焼成時間が長くても効果は変わらないため、処理時間の無駄になる。
【0042】
窒素雰囲気下における800〜1500℃での焼成処理等の本発明に係るPAH量及び含酸素官能基密集度を満たすための処理に供されるカーボンブラックとしては、上述のような一般的な製造方法で製造されるもの、例えばアセチレンブラック、チャンネルブラック、ファーネスブラック等の各種カーボンブラックが使用できる。これらの中では、チャンネルブラック又はファーネスブラックが好ましく、特にファーネスブラックが好ましい。
【0043】
また、焼成処理等の本発明に係るPAH量及び含酸素官能基密集度を満たすための処理に供されるカーボンブラックのDBP吸油量は、分散性の観点から、30〜250ml/100gの範囲が好ましい。中でも、写真専用紙での光沢性の観点からは30〜100ml/100gの範囲がより好ましく、30〜70ml/100gの範囲が特に好ましい。また、普通紙上での印字濃度の観点からは100〜250ml/100gの範囲が好ましい。
また、焼成処理等の本発明に係るPAH量及び含酸素官能基密集度を満たすための処理に供されるカーボンブラックの窒素吸着比表面積は、分散性の観点から、20〜700m/gの範囲が好ましい。中でも、写真専用紙での光沢性の観点からは、100〜600m/gの範囲が好ましく、200〜600m/gの範囲が特に好ましい。また、普通紙上での印字濃度の観点からは20〜200m/gの範囲が好ましく、20〜150m/gの範囲が特に好ましい。
焼成処理等の本発明に係るPAH量及び含酸素官能基密集度を満たすための処理に供されるカーボンブラックの一次粒子径は、通常5nm以上であり、且つ、好ましくは300nm以下、更に好ましくは200nm以下、特に好ましくは100nm以下である。中でも、写真専用紙での光沢性の観点からは5〜20nmが特に好ましく、普通紙上での印字濃度の観点からは10〜80nmが特に好ましい。
焼成処理等の本発明に係るPAH量及び含酸素官能基密集度を満たすための処理に供されるカーボンブラックの揮発分は、8重量%以下が好ましく、特に4重量%以下が好ましい。
焼成処理等の本発明に係るPAH量及び含酸素官能基密集度を満たすための処理に供されるカーボンブラックのpHは記録液の保存安定性の観点から3以上、中でも6以上であることが好ましく、その上限は11以下が好ましい。
【0044】
ここで、カーボンブラックのDBP吸油量はJISK6221A法で測定した値、窒素吸着比表面積はJISK6217の方法で測定した値、一次粒子径は電子顕微鏡による算術平均径(数平均)、揮発分はJISK6221の方法で測定した値、pHはカーボンブラックと脱イオン水の懸濁液を煮沸後に冷却した泥状物を、ガラス電極メーターで測定した値である。
【0045】
上記カーボンブラックの具体例としては、下記に限定されるわけではないが、以下の(1)〜(4)に示す商品が挙げられる。
【0046】
(1)#2700B,#2650,#2650B,#2600,#2600B,2450B,2400B,#2350,#2300,#2300B,#2200B,#1000,#1000B,#990,#990B,#980,#980B,#970,#960,#960B,#950,#950B,#900,#900B,#850,#850B,MCF88,MCF88B,MA600,MA600B,#750B,#650B,#52,#52B,#50,#47,#47B,#45,#45B,#45L,#44,#44B,#40,#40B,#33,#33B,#32,#32B,#30,#30B,#25,#25B,#20,#20B,#10,#10B,#5,#5B,CF9,CF9B,#95,#260,MA77,MA77B,MA7,MA7B,MA8,MA8B,MA11,MA11B,MA100,MA100B,MA100R,MA100RB,MA100S,MA230,MA220,MA200RB,MA14,#3030B,#3040B,#3050B,#3230B,#3350B(以上、三菱化学(株)製品)。
【0047】
(2)Monarch 1400,Black Pearls 1400,Monarch 1300,Black Pearls 1300,Monarch 1100,Black Pearls 1100,Monarch 1000,Black Pearls 1000,Monarch 900,Black Pearls 900,Monarch 880,Black Pearls 880,Monarch 800,Black Pearls 800,Monarch 700,Black Pearls 700,Black Pearls 2000,VulcanXC72R,Vulcan XC72,Vulcan PA90,Vulcan 9A32,Mogul L,Black Pearls L,Regal 660R,Regal 660,Black Pearls 570,Black Pearls 520,Regal 400R,Regal 400,Regal 330R,Regal 330,Regal 300R,Black Pearls 490,Black Pearls 480,Black Pearls 470,Black Pearls 460,Black Pearls 450,Black Pearls 430,Black Pearls 420,Black Pearls 410,Regal 350R,Regal 350,Regal250R,Regal 250,Regal 99R,Regal 99I,Elftex Pellets 115,Elftex 8,Elftex 5,Elftex 12,Monarch 280,Black Pearls 280,Black Pearls 170,Black Pearls 160,Black Pearls 130,Monarch 120,Black Pearls 120(以上、キャボット社製品)。
【0048】
(3)Color Black FW1,Color Black FW2,Color Black FW2V,Color Black FW18,Color Black FW200,Special Black 4,Special Black 4A,Special Black5,Special Black 6,Color Black S160,Color Black S170,Printex U,Printex V,Printex 150T,Printex 140U,Printex 140V,Printex 95,Printex 90,Printex 85,Printex 80,Printex 75,Printex 55,Printex 45,Printex 40,Printex P,Printex 60,Printex
XE,Printex L6,Printex L,Printex 300,Printex 30,Printex 3,Printex 35,Printex 25,Printex 200,Printex A,Printex G,Special Black 550,Special Black 350,Special Black 250,Special Black 100(以上、デグッサ社製品)。
【0049】
(4)Raven 7000,Raven 5750,Raven 5250,Raven 5000 ULTRA,Raven 3500,Raven 2000,Raven 1500,Raven 1255,Raven 1250,Raven 1200,Raven 1170,Raven 1060 ULTRA,Raven 1040,Raven 1035,Raven 1020,Raven 1000,Raven890H,Raven 890,Raven 850,Raven 790 ULTRA,Raven 760 ULTRA,Raven 520,Raven 500,Raven 450,Raven 430,Raven 420,Raven 410,CONDUCTEX 975 ULTRA,CONDUCTEX SC ULTRA,Raven H2O,Raven C ULTRA(以上、コロンビア社製品)。
【0050】
本発明では、色材として、好ましくは、上述のようなカーボンブラックに対し、窒素雰囲気下で800〜1500℃の温度で焼成処理を施したカーボンブラックを使用するが、この焼成温度は、PAHや表面の酸性官能基を効率よく除去できるという点から、1000〜1500℃の範囲がより好ましい。
【0051】
ただし、本発明で色材として用いるカーボンブラックは、前述のPAH量と含酸素官能基密集度を満たすものであれば良く、何ら、上記の窒素雰囲気下での焼成処理を経たカーボンブラックに限定されるものではない。
【0052】
本発明において、カーボンブラックとしては、このようなカーボンブラックの1種を単独で用いてもよく、様々な物性、異なる製造工程や異なる窒素雰囲気下での焼成処理等の本発明に係るPAH量及び含酸素官能基密集度を満たすための処理を経たものの2種以上を組み合わせて用いてもよい。また、他の色材と組み合わせて用いることもできる。
【0053】
また、カーボンブラックの形状は、粉状、粒状、ペースト状等のいずれの形態であっても良い。
【0054】
また、顔料分散液中のカーボンブラックの平均分散粒子径は、通常300nm以下、好ましくは200nm以下である。また下限としては、通常20nm以上である。
上記平均分散粒子径は、SEMやTEM等の電子顕微鏡を用いて測定するか、市販の動的光散乱測定装置を使用して測定することができる。
【0055】
なお、上記カーボンブラックとしては、後述のポリマーのカーボンブラックへの吸着を阻害しないようそのまま使用することが好ましいが、上記のように焼成処理等の本発明に係るPAH量及び含酸素官能基密集度を満たすための処理がなされたカーボンブラックに対して、自己分散性を持たせるために、公知の化学修飾を行った自己分散性を有するカーボンブラックとして使用することもできる。即ち、本発明の顔料分散液において用いるカーボンブラックは、そのままでも、上記特定の条件の焼成による処理等の本発明に係るPAH量及び含酸素官能基密集度を満たすための処理がなされているものでも、また表面を化学修飾したものでも、その両方の処理がなされたものでも良く、任意のカーボンブラックを使用できる。
【0056】
[水性顔料分散液及びインク組成物]
次に、上述のようなカーボンブラックを含む本発明の顔料分散液のうち、水性顔料分散液とこれを含むインク組成物について説明する。
【0057】
{ポリマーについて}
本発明の水性顔料分散液には、必要に応じて顔料(本発明においては、上述のカーボンブラックを必須とする。)分散剤としてのポリマーが含まれる。ポリマーとしては公知のものが使用されるが、中でも分散性の観点から少なくとも1種類以上の疎水性モノマーと、1種類以上の親水性モノマーとを構成単位とするポリマー(以下「疎水性/親水性ポリマー」と称す場合がある。)であることが好ましい。
【0058】
<疎水性モノマー>
疎水性/親水性ポリマーの構成単位である疎水性モノマーとしては、特に限定されるものではなく、従来公知の疎水性モノマーが使用できるが、特に、疎水性モノマーの少なくとも1つが以下に記載するような芳香環含有モノマー及び/又は脂肪族炭化水素基を含有するモノマーであることが好ましい。
【0059】
芳香環含有モノマーとは、芳香族複素環含有モノマー又は芳香族炭化水素環含有モノマーであり、例えばベンジル(メタ)アクリレート、フェノキシエチル(メタ)アクリレート、フェノキシエチレングリコール(メタ)アクリレート、2−ナフチル(メタ)アクリレート、9−アントラセニル(メタ)アクリレート、1−ピレニルメチル(メタ)アクリレートスチレン、ビニルナフタレン、スチレン、α−メチルスチレン、t−ブチルスチレン、p−メチルスチレン、o−メトキシスチレン、m−メトキシスチレン、p−メトキシスチレン、o−t−ブトキシスチレン、m−t−ブトキシスチレン、p−t−ブトキシスチレン、o−クロロメチルスチレン、m−クロロメチルスチレン、p−クロロメチルスチレン、ビニルトルエン、エチルビニルベンゼン、4−ビニルビフェニル、1,1−ジフェニルエチレン、ビニルフェノール、安息香酸ビニル、ビニルナフタレン、ベンジルビニルエーテルなどが挙げられる。
【0060】
これらの中で、顔料との親和性の観点から、ベンジル(メタ)アクリレート、フェノキシエチル(メタ)アクリレート、スチレン、α−メチルスチレンのような無置換のフェニル基を有するモノマー構造が好ましく、中でもスチレン、ベンジルメタクリレートがより好ましい。
【0061】
脂肪族炭化水素基含有モノマーに含まれる脂肪族炭化水素基は、直鎖状、環状、分岐状のいずれであってもよい。
【0062】
直鎖状又は分岐状の脂肪族炭化水素基を有するモノマーとしては、例えば、次のようなものが挙げられる。
エチレン、プロピレン、1−ブテン、イソブテン等のオレフィン類;
メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、プロピル(メタ)アクリレート、i−プロピル(メタ)アクリレート、ブチル(メタ)アクリレート、i−ブチル(メタ)アクリレート、t−ブチル(メタ)アクリレート、アミル(メタ)アクリレート、i−アミル(メタ)アクリレート、2−エチルヘキシル(メタ)アクリレート、オクチル(メタ)アクリレート、i−オクチル(メタ)アクリレート、デシル(メタ)アクリレート、i−デシル(メタ)アクリレート、ドデシル(メタ)アクリレート、i−ドデシル(メタ)アクリレート、ステアリル(メタ)アクリレート、i−ステアリル(メタ)アクリレート、ベへニル(メタ)アクリレート等の(メタ)アクリレートエステル類;
メチルビニルエーテル、エチルビニルエーテル、n−プロピルビニルエーテル、i−プロピルビニルエーテル、i−ブチルビニルエーテル、t−ブチルビニルエーテル、ドデシルビニルエーテル、ステアリルビニルエーテル等のビニルエーテル類;
アクリロニトリル、メタクリロニトリル等のニトリル類;
塩化ビニル、塩化ビニリデン、フッ化ビニル、フッ化ビニリデン等のハロゲン化ビニル類;
酢酸アリル、塩化アリル等のアリル化合物;
マレイン酸エステル、イタコン酸エステル等のジカルボン酸エステル誘導体;
ビニルトリメトキシシラン等のビニルシリル化合物;
酢酸ビニル、酢酸イソプロペニル等のビニルエステル類:
【0063】
環状の脂肪族炭化水素基を有するモノマーとしては、例えばシクロプロピル(メタ)アクリレート、シクロブチル(メタ)アクリレート、シクロペンチル(メタ)アクリレート、シクロヘキシル(メタ)アクリレート、シクロヘプチル(メタ)アクリレート、シクロオクチル(メタ)アクリレート、シクロノニル(メタ)アクリレート、シクロデシル(メタ)アクリレート、イソボルニル(メタ)アクリレート、ノルボルニル(メタ)アクリレート、アダマンチル(メタ)アクリレート等の(メタ)アクリレートエステル類、シクロペンテン、シクロヘプテン、シクロオクテン、シクロドデセン、1,5−シクロオクタジエン、シクロペンタジエン、1,5,9−シクロドデカトリエン、1−クロロ−1,5−シクロオクタジエン、ジシクロペンタジエン、エチリデンノルボルネン、5−ノルボルネン−2−カルボン酸メチル、5−ノルボルネン2,3−ジカルボン酸ジメチル等の環状オレフィン類などが挙げられる。
【0064】
これらの中でも、顔料との親和性の観点から直鎖状の脂肪族炭化水素基を有する(メタ)アクリレートエステル類、環状の脂肪族炭化水素基を有する(メタ)アクリレートエステル類が好ましい。
【0065】
これらの疎水性モノマーは、1種を単独で用いても良く、2種以上を混合して用いても良い。
【0066】
<親水性モノマー>
疎水性/親水性ポリマーの構成単位である親水性モノマーとしては、特に限定されるものではなく、従来公知の親水性モノマーが使用できるが、中でもアニオン性モノマー、カチオン性モノマー、ノニオン性モノマーが好ましい。
【0067】
(アニオン性モノマー)
アニオン性モノマーとしては以下に例示されるものを用いることができるが、これらに限定されるものではなく、従来公知のものが使用できる。
アクリル酸、メタクリル酸、イタコン酸、マレイン酸、フマル酸、或いはこれらの塩等のカルボン酸系モノマー;
ビニルスルホン酸、アリルスルホン酸、メタクリルスルホン酸、スチレンスルホン酸、2−アクリルアミドエタンスルホン酸、2−アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸、2−メタクリルアミドエタンスルホン酸、2−メタクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸、2−アクリロイルオキシエタンスルホン酸、3−アクリロイルオキシプロパンスルホン酸、4−アクリロイルオキシブタンスルホン酸、2−メタクリロイルオキシエタンスルホン酸、3−メタクリロイルオキシプロパンスルホン酸、4−メタクリロイルオキシブタンスルホン酸、或いはこれらの塩等のスルホン酸系モノマー;
ビニルホスホン酸、メタアクリロキシエチルホスフェート、ジフェニル−2−アクリロイロキシエチルホスフェート、ジフェニル−2−メタクリロイロキシエチルホスフェート、ジブチル−2−アクリロイロキシエチルホスフェート、ジブチル−2−メタクリロイロキシエチルホスフェート、ジオクチル−2−(メタ)アクリロイロキシエチルホスフェート或いはこれらの塩等のリン酸系モノマー:
【0068】
アニオン性モノマーとしては、印字濃度やにじみが少ないといった印字品位の観点から、カルボキシル基を有するモノマー或いはその塩が好ましく、メタクリル酸、アクリル酸或いはその塩、中でもアクリル酸或いはその塩がより好ましい。
【0069】
また、アニオン性モノマーは塩であることが好ましく、中でもアルカリ金属塩、アルカリ土類金属塩であることがより好ましく、ナトリウム塩であることが特に好ましい。
【0070】
(カチオン性モノマー)
カチオン性モノマーとしては以下に例示されるものを用いることができるが、これらに限定されるものではなく、従来公知のものが使用できる。
N,N−ジメチルアミノエチル(メタ)アクリレート、N,N−ジエチルアミノエチル(メタ)アクリレート、N,N−ジメチルアミノプロピル(メタ)アクリレート、N,N−ジ−t−ブチルアミノエチル(メタ)アクリレート、N,N−ジメチルアミノブチル(メタ)アクリレートなどのN,N−ジアルキルアミノアルキル(メタ)アクレート;N,N−ジメチルアミノエチル(メタ)アクリルアミド、N,N−ジエチルアミノエチル(メタ)アクリルアミド、N,N−ジメチルアミノプロピル(メタ)アクリルアミドなどのN,N−ジアルキルアミノアルキル(メタ)アクリルアミドのような3級アミノ基含有重合性不飽和モノマー;
(メタ)アクリロイルオキシエチルジメチルオクチルアンモニウムクロライド、(メタ)アクリロイルオキシエチルジメチルオクチルアンモニウムブロマイド、(メタ)アクリロイルオキシエチルジメチルドデシルアンモニウムクロライド、(メタ)アクリロイルオキシエチルジメチルドデシルアンモニウムブロマイド、(メタ)アクリロイルオキシエチルジメチルヘキサデシルアンモニウムクロライド、(メタ)アクリロイルオキシエチルジメチルヘキサデシルアンモニウムブロマイド、(メタ)アクリロイルオキシエチルジエチルオクチルアンモニウムクロライド、(メタ)アクリロイルオキシエチルジエチルオクチルアンモニウムブロマイド、(メタ)アクリロイルオキシエチルジエチルドデシルアンモニウムクロライド、(メタ)アクリロイルオキシエチルジエチルドデシルアンモニウムブロマイド、(メタ)アクリロイルオキシエチルジエチルヘキサデシルアンモニウムクロライド、(メタ)アクリロイルオキシエチルジエチルヘキサデシルアンモニウムブロマイド、(メタ)アクリロイルアミノプロピルジメチルオクチルアンモニムクロライド、(メタ)アクリロイルアミノプロピルジメチルオクチルアンモニムブロマイド、(メタ)アクリロイルアミノプロピルジメチルドデシルアンモニムクロライド、(メタ)アクリロイルアミノプロピルジメチルドデシルアンモニムブロマイド、(メタ)アクリロイルアミノプロピルジメチルヘキサデシルアンモニムクロライド、(メタ)アクリロイルアミノプロピルジメチルヘキサデシルアンモニムブロマイド、(メタ)アクリロイルオキシエチルトリメチルアンモニウムクロライド、(メタ)アクリロイルオキシエチルジメチルベンジルアンモニウムクロライド、(メタ)アクリロイルオキシエチルトリメチルアンモニウムメチルスルフェート、(メタ)アクリロイルオキシエチルジメチルエチルアンモニウムエチルスルフェー卜、(メタ)アクリロイルオキシエチルトリメチルアンモニウムp−トルエンスルホネート、(メタ)アクリロイルアミノプロピルトリメチルアンモニウムクロライド、(メタ)アクリロイルアミノプロピルジメチルベンジルアンモニウムクロライド、(メタ)アクリロイルアミノプロピルトリメチルアンモニウムメチルスルフェート、(メタ)アクリロイルアミノプロピルジメチルエチルアンモニウムエチルスルフェー卜、(メタ)アクリロイルアミノプロピルトリメチルアンモニウムp−トルエンスルホネートのような4級アンモニウム塩基含有重合性不飽和モノマー;
その他、ジメチルアミノスチレン、ジメチルアミノメチルスチレン等のジアルキルアミノ基を有するスチレン類;4−ビニルピリジン、2−ビニルピリジン等のビニルピリジン類;又はこれらをハロゲン化アルキル、ハロゲン化ベンジル、アルキル若しくはアリールスルホン酸又は硫酸ジアルキル等の公知の四級化剤を用いて四級化したもの、重合後に加水分解することによってアミノ基を生成するN−ビニルホルムアミド及びN−ビニルアセトアミド、アリルアミン塩酸塩など:
【0071】
中でも、N,N−ジメチルアミノエチル(メタ)アクリレート、N,N−ジエチルアミノエチル(メタ)アクリレート等の3級アミノ基含有重合性不飽和モノマー、(メタ)アクリロイルオキシエチルトリメチルアンモニウムクロライド、(メタ)アクリロイルオキシエチルジメチルベンジルアンモニウムクロライド、(メタ)アクリロイルオキシエチルトリメチルアンモニウムメチルスルフェート、(メタ)アクリロイルオキシエチルジメチルエチルアンモニウムエチルスルフェー卜等の4級アンモニウム塩基含有重合性不飽和モノマーが好ましく、その中でも4級アンモニウム塩基含有重合性不飽和モノマーが更に好ましい。その中でも、(メタ)アクリロイルオキシエチルトリメチルアンモニウムクロライドが最も好ましい。
【0072】
4級アンモニウム塩基含有重合性不飽和モノマーを構成単位とするポリマーは、3級アミノ基含有重合性不飽和モノマーを重合した後、塩化メチルなどのハロゲン化アルキル、ベンジルクロライドなどのベンジルハライド、エピクロロヒドリン、ジメチル硫酸、ジエチル硫酸などのアルキル化剤を用いて4級化反応により合成してもよいし、モノマーの状態で4級化したものを重合して合成してもよい。中でも、モノマーの状態で4級化したものを重合して得られるポリマーが好ましい。
【0073】
(ノニオン性モノマー)
ノニオン性モノマーとしては、以下のものが挙げられるが、以下の例示に限定されるものではなく、従来公知のものを用いることができる。
(メタ)アクリル酸アミノエチル、(メタ)アクリル酸アミノプロピルなどの第1級アミノ基を有するモノマー;
(メタ)アクリル酸メチルアミノエチル、(メタ)アクリル酸メチルアミノプロピル、(メタ)アクリル酸エチルアミノエチル、(メタ)アクリル酸エチルアミノプロピル、2−ビニルピリジン、4−ビニルピリジンなどの第2級アミノ基を有するモノマー;
(メタ)アクリルアミド、アルキル基の炭素数が1〜6のN−アルキル(メタ)アクリルアミド、アルキル基の炭素数が1〜3のN,N−ジアルキル(メタ)アクリルアミド、ジアセトン(メタ)アクリルアミド、N−メチロール(メタ)アクリルアミド、N−2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリルアミド、N,N−ジエタノール(メタ)アクリルアミド、N−ビニルアセトアミド、N−メチル−N−ビニルアセトアミド、N−ビニルホルムアミド、N−メチル−N−ビニルホルムアミド、N−(2−(ポリエチレングリコール)エチル)(メタ)アクリルアミド、N,N−(2,2’−(ポリエチレングリコール)ジエチル)(メタ)アクリルアミドなどのアミド基含有モノマー;
2−ビニルピリジン、4−ビニルピリジン、1−ビニルイミダゾール、N−ビニルピロリドン、2−ビニルー2−オキサゾリン、5−メチル−2−ビニル−2−オキサゾリン、N−ビニルオキサゾリドン、2−N−ピロリドンエチル(メタ)アクリレート、N−ビニルカプロラクタム、9−ビニルカルバゾール、N−ビニルフタルイミド、グリシジル(メタ)アクリレート、アジリジン環含有モノマーなどのヘテロ環を有するモノマー;
2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリル酸エステル、2−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリル酸エステル、2,3−ジヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシエチルビニルエーテルなどの水酸基を含有するモノマー;
ポリエチレングリコール(メタ)アクリレート、メトキシポリエチレングリコール(メタ)アクリレート、エトキシポリエチレングリコール(メタ)アクリレート、エトキシジエチレングリコール(メタ)アクリレート、ラウロキシポリエチレングリコール(メタ)アクリレート、ステアロキシポリエチレングリコール(メタ)アクリレート、ノニルフェノキシポリエチレングリコール(メタ)アクリレート、フェノキシポリエチレングリコール(メタ)アクリレート、ポリプロピレングリコール(メタ)アクリレート、ポリ(エチレングリコール−プロピレングリコール)(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコール−ポリプロピレングリコール(メタ)アクリレート、ポリ(エチレングリコール−テトラメチレングリコール)(メタ)アクリレート、ポリ(プロピレングリコール−テトラメチレングリコール)(メタ)アクリレート、プロピレングリコールポリブチレングリコール(メタ)アクリレート、オクトキシポリエチレングリコールポリプロピレングリコール(メタ)アクリレート、ステアロキシポリエチレングリコール−ポリプロピレングリコール(メタ)アクリレート、アリロキシポリエチレングリコール−ポリプロピレングリコール(メタ)アクリレート、ノニルフェノキシポリ(エチレングリコール−プロピレングリコール)(メタ)アクリレートなどの含オキシアルキレン鎖モノマー;
グルコース、マンノース、ガラクトース、グルコサミン、マンノサミン、ガラクトサミン等の六炭糖類、アラビノース、キシロース、リボース等の五炭糖類、マルトース、ラクトース、トレハロース、セロビオース、イソマルトース、ゲンチオビオース、メリビオース、ラミナリビオース、キトビオース、キシロビオース、マンノビオース、ソホロース等の2糖類、その他、マルトトリオース、イソマルトトリオース、マルトテトラオース、マルトペンタオース、マンノトリオース、マンニノトリオース等のオリゴ糖、セルロース、変性セルロース等の多糖類に由来するような構造を持ちグリコシル基を有するモノマー、例えばグルコシルエチルメタクリレート等のようなモノマー;
ポリビニルアルコール構造を側鎖に有するマクロモノマー:
【0074】
ノニオン性モノマーとしては、これらのうち、分散性、保存安定性の観点から、アミド基含有モノマー、ヘテロ環を有するモノマー、水酸基を含有するモノマー、含オキシアルキレン鎖モノマー、ポリビニルアルコール構造を側鎖に有するマクロモノマーが好ましく、写真専用紙用の記録液として使用する場合は、印字物の光沢性の観点から、アミド基含有モノマー、水酸基を含有するモノマー、含オキシアルキレン鎖モノマーが好ましく、その中でも含オキシアルキレン鎖モノマーが特に好ましい。含オキシアルキレン鎖モノマーの中でも特に、下記一般式(5)で表されるメトキシポリエチレングリコール(メタ)アクリレートがより好ましい。
【0075】
CH=C(R)COO(CHCHO) …(5)
(式中、Rは水素原子又はメチル基を示し、Rはメチル基を示し、pは2〜30、好ましくは4〜30の整数を示す)
【0076】
これらの親水性モノマーは1種を単独で用いても良く、2種以上を混合して用いても良い。
【0077】
<モノマー組成>
疎水性/親水性ポリマーは少なくとも1種類以上の疎水性モノマーと、1種類以上の親水性モノマーを構成単位とするポリマーであるが、特にそのモノマー組成は以下の通りであることが好ましい。
【0078】
疎水性モノマー構成単位の含有量は、ポリマー全体の10モル%以上が好ましく、より好ましくは20モル%以上であり、90モル%以下が好ましく、80モル%以下がより好ましい。疎水性モノマー構成単位の含有量が、この下限より少ないとポリマーが顔料に吸着しにくくなり遊離したポリマーが増大するため分散液の粘度が高くなり、このポリマーを含む水性顔料分散液を記録液に使用したとき吐出性が低下したり、記録液の保存安定性が低下する。疎水性モノマー構成単位の含有量が、この上限より多い場合、水性顔料分散液の水分散性が極端に低下する。
【0079】
親水性モノマー構造単位の含有量は、ポリマー全体の10モル%以上が好ましく、より好ましくは20モル%以上であり、90モル%以下が好ましく、80モル%以下がより好ましい。親水性モノマー構成単位の含有量が、この下限より少ないと、このポリマーを含む水性顔料分散液の水分散性が極端に低下し、この上限より多いとポリマーが顔料に吸着しにくくなり遊離したポリマーが増大するため、水性顔料分散液の粘度が高くなり、この分散液を記録液に使用したとき吐出性が低下したり、記録液の保存安定性が低下する。
【0080】
<ポリマー構造>
疎水性/親水性ポリマーのポリマー構造は、ランダムコポリマー、ジブロックコポリマー、トリブロック以上のマルチブロックコポリマー、グラジエントコポリマー、グラフトコポリマー、スターコポリマー等いずれでもよいが、中でもランダムコポリマー、ブロックポリマーであることが好ましく、ランダムコポリマーであることが最も好ましい。
【0081】
<分子量>
疎水性/親水性ポリマーの数平均分子量(Mn)は、好ましくは15万以下、より好ましくは10万以下、特に好ましくは1000以上、5万以下である。この範囲よりも分子量が大きいと、水性顔料分散液、及びこれを用いて調製された記録液の粘度が高くなり吐出性が低下し、小さいと記録液を調製した際に顔料からポリマーがはがれて分散性が低下する場合がある。
【0082】
疎水性/親水性ポリマーの重量平均分子量(Mw)は、好ましくは30万以下、より好ましくは20万以下、特に好ましくは2000以上、10万以下である。この範囲よりも分子量が大きいと、水性顔料分散液、及びこれを用いて調製された記録液の粘度が高くなり吐出性が低下し、小さいと記録液を調製した際に顔料からポリマーがはがれて分散性が低下する場合がある。
【0083】
なお、ここでいう数平均分子量(Mn)及び重量平均分子量(Mw)の値は、GPC(ゲルパーミエーションクロマトグラフィー)によって測定される値である。
【0084】
本発明に係る疎水性/親水性ポリマーのうち、親水性モノマー構成単位の少なくとも1つにカチオン性モノマーを含むポリマーの数平均分子量(Mn)及び重量平均分子量(Mw)の測定は、具体的にはGPCを使用した下記条件で行われ、ポリエチレングリコール換算の値として求められる。
カラム充填剤: スチレン−ジビニルベンゼン共重合体
溶媒: ジメチルスルホキシド(含50mM LiBr(臭化リチウム))
流速: 0.27mL/min
温度: 50℃
【0085】
また、本発明に係る疎水性/親水性ポリマーのうち、ポリマー構造がブロックポリマーであるポリマーの数平均分子量(Mn)及び重量平均分子量(Mw)の測定は、具体的にはGPCを使用した下記条件で行われ、ポリエチレングリコール換算の値として求められる。
カラム充填剤: ポリヒドロキシメタクリレート
溶媒: 水/アセトニトリル
(70/30(v/v), 0.2Mトリス塩酸緩衝剤, 0.1M
KCl含)
流速: 0.7mL/min
温度: 40℃
【0086】
また、本発明に係る疎水性/親水性ポリマーのうち、上記以外のポリマーの数平均分子量(Mn)及び重量平均分子量(Mw)の測定は、具体的にはGPCを使用した下記条件で行われ、ポリスチレン換算の値として求められる。
カラム充填剤:スチレン−ジビニルベンゼン共重合体
溶媒 :テトラヒドロフラン
流速 :0.7ml/min
温度 :40℃
テトラヒドロフランに溶けない場合は、例えば、中和されて塩となっている部分をジアゾメタンなどのエステル化剤によりエステル化するなどして溶ける状態にしてから測定するものとする。
【0087】
<疎水性/親水性ポリマーの水溶性>
水性顔料分散液としては、上述のように少なくとも1種類以上の疎水性モノマーと、1種類以上の親水性モノマーを構成単位とするポリマーであれば、水に対する溶解性は特に問わないが、写真専用紙用の記録液の調製に使用する場合は、その水性顔料分散液に使用するポリマーとしては、ポリマー中に存在しているイオン性基の90モル%を中和した状態において、そのポリマーの2重量%の濃度の水分散液において沈殿を生じない「水分散性」のものが好ましく、中でもポリマーの25℃の水に対する溶解度が2重量%以上である「水溶性」のものが特に好ましい。通常は25℃で10重量%以下の濃度の水分散液において沈殿が生じないものが使用される。沈殿が生じるか否かは、ポリマー水分散液を調製した直後に目視で確認するものとする。
【0088】
上述の「イオン性基」とは、水中でイオンに解離し得る基をいい、例えばアミノ基、カルボキシル基、スルホン酸基、又はこれらの塩等が挙げられる。上述の「ポリマー中に存在しているイオン性基の90モル%を中和した状態において」とは、ポリマー中に含まれるイオン性基の90モル%が中和剤によって塩になっている状態を指す。上記定義範囲にポリマーが入っていることを確認する手順としては、例えば、ポリマー中のイオン性基全体のうち中和されて塩になっている割合(イオン性基の中和度)を測定し、イオン性基の中和度を90モル%に調整し、これを25℃、2重量%濃度で水に溶解又は分散させて、その外観を目視観測する。イオン性基の中和度は、例えばH−NMRでポリマー全体に対するイオン性基の組成比を測定し、また、塩を形成しているポリマーのカウンターイオン、例えばカルボキシル基がNaと塩を形成している場合はNa電荷を測定し、実際にNa塩となっている量を、組成比より計算される全部がNa塩になっていると仮定した場合の電荷量で割ることによって、求めることができる。測定の結果、中和度がイオン性基の中和度が90%に満たない場合は、アルカリを添加することで中和度を調整する。また別の方法としては、アルカリを添加することによってポリマー中のイオン性基と重合しないで残ったモノマーのイオン性基が同じ割合で中和されると仮定し、ポリマーの合成から記録液の調製までの一連の工程において添加したアルカリのモル数をポリマー合成時の仕込モノマーのイオン性基全体のモル数で割ることによって、ポリマー中のイオン性基の中和度を見積もって確認することもできる。
【0089】
<疎水性/親水性ポリマーの合成方法>
上記疎水性/親水性ポリマーの合成法は特に限定されず、例えばラジカル重合、イオン重合、重付加、重縮合などの公知の重合方法を選択でき、またポリマーは、これらの公知の方法で合成したポリマーの誘導体や変性体であってもよい。また、水や有機溶剤中に顔料とモノマー、重合開始剤、必要に応じて顔料の分散助剤として、界面活性剤、反応性界面活性剤、ポリマーを同時に混合し、重合しても良い。更に、顔料表面にモノマーを直接反応させ重合しても良い。中でも、合成手法が簡便であることから、ランダムポリマーはラジカル重合、ブロックポリマーはリビングラジカル重合法、中でも原子移動型ラジカル重合を用いて合成されるポリマーが好ましい。
【0090】
以下に顔料分散剤である疎水性/親水性ポリマーとして好適なランダムコポリマーの好ましい合成法であるラジカル重合による疎水性/親水性ポリマーの合成方法について説明する。
【0091】
(重合反応溶媒)
ラジカル重合反応は、無溶媒又は溶媒の存在下に行なうことができるが、溶媒存在下で重合反応を行うことが好ましい。
【0092】
重合反応溶媒としては、ジエチルエーテル、テトラヒドロフラン、ジフェニルエーテル、アニソール、ジメトキシベンゼン等のエーテル類;N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド等のアミド類;アセトニトリル、プロピオニトリル、ベンゾニトリル等のニトリル類;アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、酢酸エチル、酢酸ブチル、エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート等のカルボニル化合物;メタノール、エタノール、プロパノール、イソプロパノール、n−ブチルアルコール、t−ブチルアルコール、イソアミルアルコール等のアルコール類;ベンゼン、トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素類;クロロベンゼン、塩化メチレン、クロロホルム、クロロベンゼン、四塩化炭素などのハロゲン化炭化水素類が挙げられるが、中でも、重合反応溶媒としては水性溶媒が好ましい。
【0093】
水性溶媒とは、水100%もしくは水と極性有機溶媒とを任意の比率で混合した溶媒を指す。ここで用いる極性有機溶媒は、水と任意の比率で混合可能なものであれば良く、具体的にはメタノール、エタノール、イソプロパノール、アセトニトリル、アセトン、ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシド、テトラヒドロフラン等が例示される。これらの中で、特にテトラヒドロフラン、メタノール、エタノール、イソプロパノールが好ましい。
【0094】
重合反応溶媒は1種類のみからなる単一溶媒でも良いし、2種類以上からなる混合溶媒でも良い。
【0095】
(重合開始剤)
疎水性/親水性ポリマーを合成する際のラジカル重合反応には、公知のラジカル重合開始剤を用いることができる。
重合開始剤としては、水溶性の重合開始剤でも油溶性の重合開始剤でも使用できる。
【0096】
水溶性の重合開始剤としては、例えば、2,2’−アゾビス(2−アミジノプロパン)二塩酸塩、4,4’−アゾビス(4−シアノ吉草酸)、2,2’−アゾビス[2−(2−イミダゾリン−2−イル)プロパン]二塩酸塩、2,2’−アゾビス[2−(2−イミダゾリン−2−イル)プロパン]二硫酸塩二水和物、2,2’−アゾビス[N−(2−カルボキシエチル)−2−メチルプロピオンアミド]、2,2’−アゾビス{2−[1−(2−ヒドロキシエチル)−2−イミダゾリン−2−イル)プロパン}ジヒドロクロライド、2,2’−アゾビス(1−イミノ−1−ピロリジノ−2−メチルプロパン)二塩酸塩、2,2’−アゾビス{2−メチル−N−[2−(1−ヒドロキシブチル)]プロピオンアミド}、2,2’−アゾビス[2−(5−メチル−イミダゾリン−2−イル)プロパン]二塩酸塩、2,2’−アゾビス[2−(3,4,5,6,−テトラヒドロピリミジン−2−イル)プロパン]二塩酸塩等のアゾ化合物系開始剤;過硫酸カリウム、過硫酸ソーダ、過硫酸アンモニウム、過酸化水素等の酸化剤単独;或いはこれらの酸化剤と、亜硫酸ソーダ、次亜硫酸ソーダ、硫酸第1鉄、硝酸第1鉄、ナトリウムホルムアルデヒドスルホキシレート、チオ尿素等の水溶性還元剤とを組み合わせたレドックス系開始剤が挙げられる。
【0097】
これらは1種を単独で用いても良く、2種以上を混合して用いても良い。
【0098】
油溶性の重合開始剤としては、2,2’−アゾビスイソブチロニトリル、2,2’−アゾビス(2−メチルブチロニトリル)、1,1’−アゾビスシクロヘキサン1−カーボニトリル、2,2’−アゾビス−4−メトキシ−2,4−ジメチルバレロニトリル、2,2’−アゾビス−2,4−ジメチルバレロニトリル、ジメチル−2,2’−アゾビス(2−メチルプロピオネート)、1,1’−アゾビス(1−アセトキシ−1−フェニルエタン)、2,2’−アゾビス(4−メトキシ−2,4−ジメチルバレロニトリル)等のアゾ化合物系開始剤;アセチルシクロヘキシルスルホニルパーオキサイド、イソブチリルパーオキサイド、ジイソプロピルパーオキシジカーボネート、ジ−2−エチルヘキシルパーオキシジカーボネート、2,4−ジクロロベンゾイルパーオキサイド、t−ブチルパーオキシピバレート、3,5,5−トリメチルヘキサノニルパーオキサイド、オクタノイルパーオキサイド、デカノイルパーオキサイド、ラウロイルパーオキサイド、ステアロイルパーオキサイド、プロピオニトリルパーオキサイド、サクシニックアシッドパーオキサイド、アセチルパーオキサイド、t−ブチルパーオキシ−2−エチルヘキサノエート、ベンゾイルパーオキサイド、パラクロロベンゾイルパーオキサイド、t−ブチルパーオキシイソブチレート、t−ブチルパーオキシマレイックアシッド、t−ブチルパーオキシラウレート、シクロヘキサノンパーオキサイド、t−ブチルパーオキシイソプロピルカーボネート、2,5−ジメチル−2,5−ジベンゾイルパーオキシヘキサン、t−ブチルパーオキシアセテート、t−ブチルパーオキシベンゾエート、ジイソブチルジパーオキシフタレート、メチルエチルケトンパーオキサイド、ジクミルパーオキサイド、2,5−ジメチル−2,5−ジt−ブチルパーオキシヘキサン、t−ブチルクミルパーオキサイド、t−ブチルヒドロパーオキサイド、ジt−ブチルパーオキサイド、ジイソプロピルベンゼンヒドロパーオキサイド、パラメンタンヒドロパーオキサイド、ピナンヒドロパーオキサイド、2,5−ジメチルヘキサン−2,5−ジヒドロパーオキサイド及びクメンパーオキサイド等のパーオキサイド重合開始剤;さらにヒドロペルオキサイド(tret−ブチルヒドロキシペルオキサイド、クメンヒドロキシペルオキサイド等)、過酸化ジアルキル(過酸化ラウロイル等)及び過酸化ジアシル(過酸化ベンゾイル等)等の油溶性過酸化物と、第三アミン(トリエチルアミン、トリブチルアミン等)、ナフテン酸塩、メルカプタン(メルカプトエタノール、ラウリルメルカプタン等)、有機金属化合物(トリエチルアルミニウム、トリエチルホウ素、ジエチル亜鉛等)等の油溶性還元剤とを併用する油溶性レドックス重合開始剤が挙げられる。
【0099】
これらは1種を単独で用いても良く、2種以上を混合して用いても良い。
【0100】
(その他の添加剤)
ラジカル重合反応には、上記の重合開始剤に加え、得られるポリマーを好ましい分子量に調節するために、連鎖移動剤、連鎖停止剤、重合促進剤等、公知のものを添加使用することができる。
【0101】
(重合条件)
重合反応を行う際、原料モノマー、重合反応溶媒、ラジカル開始剤等の添加順序等は任意であるが、例えば、原料モノマー、重合反応溶媒、ラジカル重合開始剤を反応容器に一括で仕込んだ後に温度を上昇させて重合反応を行う方法が挙げられる。この場合、モノマーあるいはラジカル重合開始剤をそのままの状態あるいは溶液にして追加添加してもよい。また、別の方法としては、原料モノマー、重合反応溶媒を反応容器に仕込んで温度を上昇させた後に、ラジカル重合開始剤を含有するモノマー溶液、重合反応溶媒、又はこれらの混合物を、連続的に又は分割して添加し、重合反応を行う方法等が挙げられる。
中でも操作の簡便性から、原料を一括で仕込んだ後に温度を上昇させて重合反応を行う方法が好ましい。
【0102】
重合反応溶媒の使用量は特に限定されないが、モノマー100重量部に対し、通常1重量部以上、通常2000重量部以下、好ましくは1000重量部以下である。
【0103】
重合開始剤の使用量は、用いる重合開始剤の種類によっても異なり、特に限定されないが、原料モノマー100重量部に対して、通常0.5重量部以上、15重量部以下である。
【0104】
重合温度は特に限定されないが、通常0℃以上、好ましくは20℃以上であり、その上限は通常200℃以下、好ましくは150℃以下である。
【0105】
重合により得られたポリマーは未精製のまま使用しても特に問題はないが、常法に従って精製し、次の顔料分散工程へ供するのが好ましい。精製方法としては、ポリマーが不溶でモノマーと重合開始剤が可溶な溶媒へポリマー溶液を滴下し、ポリマーの沈澱、濾別を繰り返す再沈精製、ポリマー溶液にポリマーが不溶でモノマーと重合開始剤が可溶な溶媒を滴下し、ポリマーの沈澱、濾別を繰り返す分別沈澱精製、加熱蒸留や、減圧蒸留等によって未反応モノマーや反応溶媒を除去した後に、溶媒を水及び/又は水性溶媒に置換する方法、さらには限外濾過膜や透析膜などを用いて低分子不純物や低分子量オリゴマー成分を除去する方法などが挙げられる。
【0106】
本発明の水性顔料分散液中に含まれる疎水性/親水性ポリマーは、1種類であってもよいし、2種類以上であってもよい。上述の通り、疎水性/親水性ポリマーは少なくとも1種類以上の疎水性モノマーと、1種類以上の親水性モノマーとを構成単位とするポリマーであることが好ましいが、親水性モノマーとしてアニオン性モノマーを使用したアニオンポリマーや、カチオン性モノマーを使用したカチオンポリマーや、ノニオン性モノマーを使用したノニオンポリマーをそれぞれ単独で用い、顔料をポリマーで分散した水性顔料分散液を調製してもよいし、これらを併用してもよい。併用した例としては、例えば、アニオンポリマーとカチオンポリマーの静電相互作用を利用し、顔料をポリマーで被覆した複合ポリマーカプセルなどが挙げられる。
【0107】
{その他のポリマーについて}
本発明の水性顔料分散液は、上述の疎水性/親水性ポリマーと共に、次のようなポリマー(I)を含むことが好ましい。
【0108】
このポリマー(I)は、ポリマー中に下記一般式(1)で表されるビニルアルコールに由来する構成単位(以下「ビニルアルコール構成単位」と称す場合がある。)及び疎水性基を含むポリビニルアルコール系樹脂である。ポリマー(I)中には、下記一般式(1)で表されるビニルアルコール構成単位の1種のみが含まれていても良く、2種以上が含まれていても良い。また、疎水性基の1種のみが含まれていても良く、2種以上が含まれていても良い。
【0109】
【化1】

【0110】
(式(1)中、Rは水素原子又は炭素数1〜6の炭化水素基を表す)
【0111】
上記一般式(1)におけるRの具体例としては、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、イソブチル基、t−ブチル基、sec−ブチル基、ペンチル基、イソペンチル基、ネオペンチル基、t−ペンチル基、ヘキシル基などのアルキル基などが挙げられる。中でも、水素原子又は炭素数が少ないアルキル基が好ましく、具体的には炭素数1〜3のアルキル基が好ましく、特に水素原子、又はメチル基が好ましい。
【0112】
上記一般式(1)で表されるビニルアルコール構成単位としては、例えばビニルアルコール、α−メチルビニルアルコール、α−エチルビニルアルコール、α−プロピルビニルアルコール、α−ブチルビニルアルコール、α−ヘキシルビニルアルコール等に由来する構成単位が挙げられる。
【0113】
一方、疎水性基としては、例えばアルキル基、アルケニル基、アルキニル基などの脂肪族系疎水性基、シクロヘキシル基、イソボルニル基などの脂環式系疎水性基、フェニル基、ナフチル基などの芳香族系疎水性基が挙げられる。これらの基は無置換でも更に置換基を有していてもよい。
【0114】
ポリマー構造に前記一般式(1)で表されるビニルアルコール構成単位及び疎水性基を導入するには、ビニルエーテル系モノマーやビニルエステル系モノマーの様なビニルアルコール構成単位を誘導する重合性モノマーと疎水性基を有する重合性モノマーとを重合してこれらをポリマー構造中に導入した後に、ビニルエーテル系モノマーやビニルエステル系モノマーの側鎖部分を、酸又はアルカリを用いた変性反応により前記一般式(1)で表されるビニルアルコール構成単位に変換してもよい。
【0115】
前記一般式(1)で表されるビニルアルコール構成単位を誘導する、ビニルエーテル系モノマーとしては、例えばメチルビニルエーテル、エチルビニルエーテル、イソプロピルビニルエーテル、nーブチルビニルエーテル、t−ブチルビニルエーテル、イソブチルビニルエーテル、シクロヘキシルビニルエーテル、n−ヘキサデシルビニルエーテル、2−クロロエチルビニルエーテル、フェニルビニルエーテル、ベンジルビニルエーテル、トリメチルシリルビニルエーテルなどが挙げられる。
【0116】
また、ビニルアルコール構成単位を誘導する、ビニルエステル系モノマーとしては、例えば、酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル、ラウリン酸ビニル、ステアリン酸ビニル、ピバリン酸ビニル、ギ酸ビニル、カプロン酸ビニル、カプリン酸ビニル、ミリスチン酸ビニル、パルミチン酸ビニル、2−エチルヘキサン酸ビニル、シクロヘキサンカルボン酸ビニル、モノクロロ酢酸ビニル、アジピン酸ビニル、メタクリル酸ビニル、クロトン酸ビニル、ソルビン酸ビニル、安息香酸ビニル、桂皮酸ビニル、これらのα−置換体などが挙げられる。
【0117】
また、ポリマー(I)中に含有される、前記一般式(1)で表されるビニルアルコール構成単位及び疎水性基は、変性反応や修飾反応によってポリマー構造中の主鎖及び/又は側鎖部分に導入されていてもよい。
【0118】
ポリマー(I)は、一般式(1)で表されるビニルアルコール構成単位及び疎水性基を含んでいれば良く、その他、オキシアルキレン基、水酸基、アミド基、ピロリドン基、オキサゾリン基などに代表される親水性基、カルボン酸基、スルホン酸基、リン酸基に代表される酸性基、アミノ基、ピリジニウム基、イミダゾリウム基に代表される塩基性基、さらには酸性基や塩基性基及びその塩であるイオン性解離基などを含んでいても良い。中でも、ポリマー(I)は、酸性基や塩基性基及びその塩であるイオン性解離基を含んでいることが好ましい。
【0119】
また、ポリマー(I)に含まれる疎水性基及びイオン性解離基は、モノマー由来の構成単位としてポリマー構造中に含まれていることが好ましい。すなわち、ポリマー(I)は、前記一般式(1)で表されるビニルアルコール構成単位と疎水性基を有するモノマー由来の構成単位とイオン性解離基を有するモノマー由来の構成単位とを含むポリマーであることが特に好ましい。
【0120】
ポリマー(I)の構造は、ランダムコポリマー、ジブロックコポリマー、トリブロック以上のマルチブロックコポリマー、グラジエントコポリマー、グラフトコポリマー、スターコポリマー等いずれでもよいが、中でもブロックコポリマーであることが好ましい。
【0121】
ポリマー(I)の数平均分子量(Mn)は、好ましくは15万以下、より好ましくは10万以下、特に好ましくは1000以上、5万以下、最も好ましくは3000以上、3万以下である。この範囲よりも数平均分子量(Mn)が大きいと顔料インクの粘度が高く吐出性が低下し、小さいと顔料インクを調製した際に顔料からポリマー(I)がはがれて分散性が低下する場合がある。
また、均一で安定した顔料インクが得られるという観点から、ポリマー(I)の分子量分布(Mw/Mn)は4以下が好ましく、中でも2以下がより好ましい。
【0122】
このポリマー(I)の数平均分子量(Mn)及び重量平均分子量(Mw)の値は、GPC(ゲルパーミエーションクロマトグラフィー)によって測定されるポリエチレングリコール換算の値である。
【0123】
本発明に係るポリマー(I)の数平均分子量(Mn)及び重量平均分子量(Mw)の測定は、具体的にはGPCを使用した下記条件で行われる。
カラム充填剤:ポリヒドロキシメタクリレート
溶媒 :水/アセトニトリル
(70/30(v/v),0.2Mトリス塩酸緩衝剤,0.1M KCl含)
流速 :0.7mL/min
温度 :40℃
【0124】
ポリマー(I)を構成する後述のブロックA,Bの数平均分子量(Mn)についても同様である。
【0125】
ポリマー(I)は、ブロックコポリマーの中でも特に、以下の一般式(2)で表されるポリビニルアルコール系ブロックコポリマーのように、ポリビニルアルコール系ブロックAと、他のブロックBとが、特定の連結基(置換基を有していても良いアルキレン鎖)で連結されているブロックコポリマーが好ましい。
【0126】
【化2】

(式(2)中、Aは一般式(1)で表されるビニルアルコール構成単位を含むポリビニルアルコール系ブロックを示し、Bは疎水性基を有するモノマー構成単位及びイオン性解離基を有するモノマー構成単位を含むブロックであって、Bは疎水性セグメントB’と、ブロックA及びセグメントB’以外の親水性又は疎水性セグメントB”とを含むブロックを示し、X、X、X及びXは各々独立して水素原子、ハロゲン原子、アルキル基、アルケニル基、アラルキル基、又はアリール基を示し、m1は1〜5の整数であり、m2は0〜4の整数であり、m1+m2は1〜5の整数である。)
【0127】
<ポリマー(I)のブロックAについて>
一般式(2)におけるポリビニルアルコール系ブロックAは、一般式(1)で表されるビニルアルコール構成単位を有するポリビニルアルコール系ブロックである。このポリビニルアルコール系ブロックAは、一般式(1)で表されるビニルアルコール構成単位を有していればよく、例えば一般式(1)の水酸基の一部がアシル基で保護されていても良い。
【0128】
該アシル基としては、水酸基の保護基として一般的なものであれば特に限定されないが、好ましくは、アセチル基、プロピオニル基、ブチリル基、イソブチリル基、バレリル基、ピバロイル基、ペンチルカルボニル基、ネオペンチルカルボニル基、ヘキシルカルボニル基、ヘプチルカルボニル基、デシル基、ラウロリル基、ミリストリル基、パルミトイル基、ステアロイル基、クロロアセチル基、ジクロロアセチル基、トリクロロアセチル基、トリフルオロアセチル基、ベンジルカルボニル基、フェネチルカルボニル基、フェニルブチルカルボニル基、ジフエニルメチルカルボニル基、トリフエニルメチルカルボニル基、ナフチルメチルカルボニル基、ナフチルエチルカルボニル基等のハロゲン原子及びアリール基からなる群より選ばれる置換基で置換されていても良い、炭素数2〜20のアルキルカルボニル基;アクリロイル基、イソプロペニルカルボニル基、3−ブテニルカルボニル基、メタクロイル基、アリルカルボニル基、1,1−ジメチルアリルカルボニル基、クロトノイル基、3−メチルアリルカルボニル基、2,3−ジメチルアリルカルボニル基、3,3−ジメチルアリルカルボニル基、シンナモイル基、3−シクロヘキシルアリルカルボニル基等の、炭素数2〜20のアルケニルカルボニル基;炭素数1〜4のアルキル基及び炭素数1〜4のアルコキシ基からなる群より選ばれる置換基を1〜3個有していても良いベンゾイル基又はナフチルカルボニル基等のアリールカルボニル基などの1種又は2種以上が挙げられ、このうち好ましくはアセチル基、クロロアセチル基、アリルカルボニル基、ベンゾイル基又はベンジルカルボニル基である。中でも、アセチル基であることが好ましい。
【0129】
ポリビニルアルコール系ブロックAにおいて、ビニルアルコール構成単位の水酸基のアシル化率は、適宜選択し決定すればよい。アシル化によりポリマーの水溶性向上という効果が奏されるが、アシル化率が過度に高いとポリマーが非水溶性となるため、一般的には、ポリビニルアルコール系ブロックA中のトータルユニット数の20%以下、好ましくは10%以下であり、より好ましくは5%以下である。
【0130】
また、このポリビニルアルコール系ブロックAには、一般式(1)で表されるビニルアルコール構成単位以外の構成単位の1種又は2種以上を有していても良い。例えば酸性基のアルカリ金属塩を有するモノマー構成単位単位を導入することにより、顔料の分散安定性が向上するという効果が奏されるが、その導入量が過度に多いとその効果が失われてしまう場合があるため、その含有量は、通常、ポリビニルアルコール系ブロックA全体に対して15モル%以下であり、特に10モル%以下であることが好ましい。
【0131】
ビニルアルコール構成単位以外の構成単位としては例えば、エチレン、プロピレン、1−ブテン、イソブテン等のオレフィン類;アクリル酸及びその塩;アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸n−プロピル、アクリル酸i−プロピル、アクリル酸n−ブチル、アクリル酸i−ブチル、アクリル酸t−ブチル、アクリル酸2−エチルヘキシル、アクリル酸ドデシル、アクリル酸オクタデシル等のアクリル酸エステル類;メタクリル酸及びその塩;メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、メタクリル酸n−プロピル、メタクリル酸i−プロピル、メタクリル酸n−ブチル、メタクリル酸i−ブチル、メタクリル酸t−ブチル、メタクリル酸2−エチルヘキシル、メタクリル酸ドデシル、メタクリル酸オクタデシル等のメタクリル酸エステル類;アクリルアミド、N−メチルアクリルアミド、N−エチルアクリルアミド、N,N−ジメチルアクリルアミド、ジアセ卜ンアクリルアミド、アクリルアミドプロパンスルホン酸及びその塩、アクリルアミドプロピルジメチルアミン及びその塩と4級塩、N−メチロールアクリルアミド及びその誘導体等のアクリルアミド誘導体;メタクリルアミド、N−メチルメタクリルアミド、N−エチルメタクリルアミド、N,N−ジメチルメタクリルアミド、ジアセ卜ンメタクリルアミド、メタクリルアミドプロパンスルホン酸及びその塩、メタクリルアミドプロピルジメチルアミン及びその塩と4級塩、N−メチロールメタクリルアミド及びその誘導体等のメタクリルアミド誘導体;メチルビニルエーテル、エチルビニルエーテル、n−プロピルビニルエーテル、i−プロピルビニルエーテル、i−ブチルビニルエーテル、t−ブチルビニルエーテル、ベンジルビニルエーテル、ドデシルビニルエーテル、ステアリルビニルエーテル等のビニルエーテル類;アクリロニトリル、メタクリロニトリル等のニトリル類;塩化ビニル、塩化ビニリデン、フッ化ビニル、フッ化ビニリデン等のハロゲン化ビニル類;酢酸アリル、塩化アリル等のアリル化合物;マレイン酸及びその塩とエステル、イタコン酸及びその塩とエステル等のジカルボン酸類及びそのエステル誘導体;ビニルトリメトキシシラン等のビニルシリル化合物;酢酸イソプロペニル等のビニル系モノマー構成単位単位が例示されるが、これらに限定されるものではなく、その他公知のビニル系モノマー構成単位単位であってよい。
【0132】
ポリビニルアルコール系ブロックAの数平均分子量(Mn)は、一般的には500以上、中でも800以上、特に1000以上であり、且つその上限は100000以下、中でも50000以下、更には30000以下、特に10000以下であることが好ましい。この分子量が小さ過ぎると、ポリマー(I)の水溶性が低下することで顔料分散性が低下したり、印刷物の耐擦過性が低下する場合がある。逆に大きすぎても、顔料インクの粘度が高くなりすぎてしまうことにより、顔料分散性が低下し、顔料インクの吐出性が低下する場合がある。
【0133】
<ポリマー(I)のポリビニルアルコール系ブロックAと、ブロックBとの連結基について>
一般式(2)におけるポリビニルアルコール系ブロックAと他のブロックBとの連結基は、置換基を有していても良いアルキレン基である。
【0134】
一般式(2)において、X、X、X及びXは、各々独立して水素原子、ハロゲン原子、アルキル基、アルケニル基、アラルキル基、又はアリール基を示す。これらのうち、アルキル基、アルケニル基、アラルキル基、又はアリール基としては炭素数1〜20であることが好ましく、これらは直鎖、分岐又は環状の何れでもよく、炭素原子は更に置換基を有していてもよい。
【0135】
、X、X及びXとしては、具体的には、各々独立して次のようなものが挙げられる。
水素原子;
F、Cl、Br、I等のハロゲン原子;
メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、イソブチル基、t−ブチル基、sec−ブチル基、ペンチル基、イソペンチル基、ネオペンチル基、t−ペンチル基、ヘキシル基、ヘプチル基、デシル基、ドデシル基、ヘキサデシル基、オクタデシル基、クロロメチル基、ジクロロメチル基、トリクロロメチル基、トリフルオロメチル基等のアルキル基や置換アルキル基;
ビニル基、アリル基、イソプロペニル基、3−ブテニル基、1−メチルアリル基、1,1−ジメチルアリル基、2−メチルアリル基、3−メチルアリル基、2,3−ジメチルアリル基、3,3−ジメチルアリル基、シンナミル基、3−シクロヘキシルアリル基等のアルケニル基や置換アルケニル基;
フェニル基、ナフチル基等のアリール基;
フェニル基、ナフチル基等のアリ−ル基における1〜3個の水素原子をメチル基、エチル基、ブチル基、メトキシ基、エトキシ基等の官能基で置換した置換アリール基;
ベンジル基、フェネチル基、フェニルブチル基、ジフエニルメチル基、トリフエニルメチル基、ナフチルメチル基、ナフチルエチル基等のアラルキル基や置換アラルキル基:
【0136】
上記置換アリール基において導入される置換基は、ポリマー(I)の安定性を損なわない範囲で任意のものを使用でき、具体的にはメチル基、エチル基、ブチル基等の炭素数1〜4の直鎖又は分岐鎖のアルキル基;メトキシ基、エトキシ基等の直鎖若しくは分岐鎖の炭素数1〜4のアルコキシ基が好ましい。
【0137】
、X、X及びXとしては、各々独立して、水素原子、ハロゲン原子、炭素数4以下のアルキル基、アルケニル基、ベンジル基又はフェニル基が好ましく、中でも水素原子、ハロゲン原子、メチル基、アリル基、ベンジル基又はフェニル基が好ましく、特に水素原子又はハロゲン原子が好ましい。
【0138】
m1は1〜5の整数であり、m2は0〜4の整数であり、m1+m2は1〜5の整数である。中でもm1+m2が1〜3の整数であることが好ましく、特にm1+m2が1又は2であることが好ましい。
【0139】
本発明において、ポリビニルアルコール系ブロックAとブロックBとの連結基の具体例としては、炭素数が比較的少ないアルキレン基やハロアルキレン基が好ましく、特にハロアルキレン基が好ましい。具体的には例えば炭素数1〜3のアルキレン基やハロアルキレン基としてメチレン基、エチレン基、プロピレン基、クロロメチレン基、ジクロロメチレン基、ジブロモメチレン基又はテトラクロロエチレン基等が挙げられ、中でもクロロメチレン基、ジクロロメチレン基、ジブロモメチレン基又はテトラクロロエチレン基等が好ましい。
【0140】
<ポリマー(I)のブロックBについて>
一般式(2)中のブロックBは、疎水性基を有するモノマー構成単位の1種又は2種以上を有するブロックであり、中でも疎水性基を有するモノマー構成単位の1種又は2種以上及びイオン性解離基を有するモノマー構成単位の1種又は2種以上を含むブロックであることが好ましく、更にブロックBは、疎水性セグメントB’の1種又は2種以上と、先述のポリビニルアルコール系ブロックA及びセグメントB’以外の親水性又は疎水性セグメントB”の1種又は2種以上からなるブロックであることが好ましい。ここでいうセグメントとは、少なくとも2つ以上のモノマー構成単位からなる連鎖を示す。
【0141】
(ブロックBに含有されるモノマー構成単位)
ブロックB中に含まれる疎水性基を有するモノマー構成単位としては以下のモノマーに由来する構成単位が例示されるが、これらに限定されるものではなく、従来公知のものが含まれる。
【0142】
エチレン、プロピレン、1−ブテン、イソブテン等のオレフィン類;
メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、プロピル(メタ)アクリレート、i−プロピル(メタ)アクリレート、n−ブチル(メタ)アクリレート、i−ブチル(メタ)アクリレート、t−ブチル(メタ)アクリレート、アミル(メタ)アクリレート、i−アミル(メタ)アクリレート、2−エチルヘキシル(メタ)アクリレート、オクチル(メタ)アクリレート、i−オクチル(メタ)アクリレート、デシル(メタ)アクリレート、i−デシル(メタ)アクリレート、ドデシル(メタ)アクリレート、i−ドデシル(メタ)アクリレート、ステアリル(メタ)アクリレート、i−ステアリル(メタ)アクリレート、ベへニル(メタ)アクリレート、シクロプロピル(メタ)アクリレート、シクロブチル(メタ)アクリレート、シクロペンチル(メタ)アクリレート、シクロヘキシル(メタ)アクリレート、シクロヘプチル(メタ)アクリレート、シクロオクチル(メタ)アクリレート、シクロノニル(メタ)アクリレート、シクロデシル(メタ)アクリレート等、イソボルニル(メタ)アクリレート、ノルボルニル(メタ)アクリレート、アダマンチル(メタ)アクリレート等の(メタ)アクリレートエステル類;
メチルビニルエーテル、エチルビニルエーテル、n−プロピルビニルエーテル、i−プロピルビニルエーテル、i−ブチルビニルエーテル、t−ブチルビニルエーテル、ドデシルビニルエーテル、ステアリルビニルエーテル等のビニルエーテル類;
アクリロニトリル、メタクリロニトリル等のニトリル類;
塩化ビニル、塩化ビニリデン、フッ化ビニル、フッ化ビニリデン等のハロゲン化ビニル類;
酢酸アリル、塩化アリル等のアリル化合物;
マレイン酸エステル、イタコン酸エステル等のジカルボン酸エステル誘導体;
ビニルトリメトキシシラン等のビニルシリル化合物;
酢酸ビニル、酢酸イソプロペニル等のビニルエステル類;
シクロペンテン、シクロヘプテン、シクロオクテン、シクロドデセン、1,5−シクロオクタジエン、シクロペンタジエン、1,5,9−シクロドデカトリエン、1−クロロ−1,5−シクロオクタジエン、ジシクロペンタジエン、エチリデンノルボルネン、5−ノルボルネン−2−カルボン酸メチル、5−ノルボルネン2,3−ジカルボン酸ジメチル等の環状オレフィン類;
ベンジル(メタ)アクリレート、フェノキシエチル(メタ)アクリレート、フェノキシエチレングレコール(メタ)アクリレート、フェノキシジエチレングレコール(メタ)アクリレート、2−ナフチル(メタ)アクリレート、9−アントラセニル(メタ)アクリレート、1−ピレニルメチル(メタ)アクリレート、スチレン、ビニルナフタレン、α−メチルスチレン、t−ブチルスチレン、p−メチルスチレンo−メトキシスチレン、m−メトキシスチレン、p−メトキシスチレン、o−t−ブトキシスチレン、m−t−ブトキシスチレン、p−t−ブトキシスチレン、o−クロロメチルスチレン、m−クロロメチルスチレン、p−クロロメチルスチレン、ビニルトルエン、エチルビニルベンゼン、4−ビニルビフェニル、1,1−ジフェニルエチレン、ビニルフェノール、安息香酸ビニル、ビニルナフタレン、ベンジルビニルエーテル等の芳香族系化合物:
【0143】
中でも、ベンジル(メタ)アクリレートやスチレンなどの芳香族系化合物由来の構成単位が、疎水性基を有するモノマー構成単位としてブロックB中に含まれることが好ましい。
【0144】
一方、イオン性解離基を有するモノマー構成単位としては、例えば、以下に例示する酸性基をもつモノマー及びそのアルカリ金属、アルカリ土類金属等の金属塩又はアンモニウム塩等に由来するものが挙げられるが、これらに限定されるものではなく、従来公知のものが含まれる。
【0145】
<酸性基を有するモノマー>
アクリル酸、メタクリル酸、イタコン酸、マレイン酸、フマル酸等のカルボン酸系モノマー;
ビニルスルホン酸、アリルスルホン酸、メタクリルスルホン酸、スチレンスルホン酸、2−アクリルアミドエタンスルホン酸、2−アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸、2−メタクリルアミドエタンスルホン酸、2−メタクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸、2−アクリロイルオキシエタンスルホン酸、3−アクリロイルオキシプロパンスルホン酸、4−アクリロイルオキシブタンスルホン酸、2−メタクリロイルオキシエタンスルホン酸、3−メタクリロイルオキシプロパンスルホン酸、4−メタクリロイルオキシブタンスルホン酸等のスルホン酸系モノマー;
ビニルホスホン酸、メタアクリロキシエチルホスフェート、ジフェニル−2−アクリロイロキシエチルホスフェート、ジフェニル−2−メタクリロイロキシエチルホスフェート、ジブチル−2−アクリロイロキシエチルホスフェート、ジブチル−2−メタクリロイロキシエチルホスフェート、ジオクチル−2−(メタ)アクリロイロキシエチルホスフェート等のリン酸系モノマー:
【0146】
イオン性解離基を有するモノマー構成単位としては、更に、以下の塩基性基をもつモノマー、及びそのハロゲン化水素、硫酸、硝酸、有機酸等による中和塩、ハロゲン化アルキル、ベンジルハライド、ジメチル硫酸、ジエチル硫酸等による四級化物等に由来するモノマー構成単位が例示されるが、これらに限定されるものではなく、従来公知のものが含まれる。
【0147】
<塩基性基をもつモノマー>
ジメチルアミノ(メチル、エチル、プロピル又はブチル)アクリレート又はメタクリレート、ジエチルアミノ(メチル、エチル、プロピル又はブチル)アクリレート又はメタクリレート、ジ−n−プロピルアミノ(メチル、エチル、プロピル又はブチル)アクリレート又はメタクリレート、ジイソプロピルアミノ(メチル、エチル、プロピル又はブチル)アクリレート又はメタクリレート、ジ−n−ブチルアミノ(メチル、エチル、プロピル又はブチル)アクリレート又はメタクリレート、ジ−sec−ブチルアミノ(メチル、エチル、プロピル又はブチル)アクリレート又はメタクリレート、ジイソブチルアミノ(メチル、エチル、プロピル又はブチル)アクリレート又はメタクリレート、ビニルピリジン、2−メチル−5−ビニルピリジン、2−エチル−5−ビニルピリジン、N,N−ジメチルアミノスチレン、N,N−ジメチルアミノメチルスチレン
【0148】
イオン性解離基を有するモノマー構成単位としては、中でも、カルボン酸基、スルホン酸基、リン酸基等の酸性基のアルカリ金属塩(例えば、ナトリウム塩、カリウム塩)及び/又はアルカリ土類金属塩(例えば、カルシウム塩、マグネシウム塩)をイオン性解離基として有するモノマー構成単位がブロックB中に含まれることが好ましい。
【0149】
<セグメントB’、B”>
ブロックBにおける疎水性セグメントB’及び親水性セグメントB”の配置順序は任意であるが、ポリビニルアルコール系ブロックAに近い方から、B’、B”の順に配置されていることが好ましく、更にセグメントB”は親水性セグメントであることが好ましい。このような配置を採ることによって、顔料インクにおける顔料の分散安定性が極めて良好となるばかりでなく、印刷物の耐擦過性も同時に向上する。この理由は定かではないが、以下のようなことが考えられる。
【0150】
ポリビニルアルコール系ブロックAは水溶性で且つ結晶性を示すブロックである。よって連結基を介してこのブロックAと結合するブロックB中に、疎水性セグメントB’、親水性セグメントB”を、連結基からこの順に配置することで、ポリマー(I)の両末端側が親水性となる。そして、この親水性部分に挟まれた疎水性セグメントB’が、疎水性である顔料表面に吸着する。
このようにポリマー(I)が吸着した顔料同士は、疎水性セグメントB’の両側にある親水性部分によって、水性媒体中でお互いに反撥するので、顔料インク中での凝集が抑制され、分散安定性が良好となると考えられる。
ブロックB中の親水性セグメントB”として、イオン性解離基を有するモノマー構成単位からなる親水性セグメントを用いることで、ポリビニルアルコール系ブロックAによる構造的な反撥と、この親水性セグメントB”の電気的反撥の両方を利用することができるので、更に分散が安定し、好ましい。
【0151】
更に、ブロックB中のポリマー構造をグラジエントコポリマー構造とすると顔料分散安定性が向上するので好ましい。
グラジエントコポリマー構造とは、ポリマーの主鎖に沿って、含有される少なくとも2種類以上のモノマー構成単位の分布が増加するか若しくは減少する構造のことを示す。
ブロックB中のポリマー構造をグラジエントコポリマー構造とすることで、顔料分散安定性が向上する理由は定かではないが、以下のような理由が考えられる。
【0152】
ポリマー(I)の好ましい例である前述の一般式(2)で表されるポリビニルアルコール系ブロックコポリマーと顔料とを水やアルコール類等の水性媒体中で接触させ、水性顔料分散液を製造する際に、疎水性のポリマー鎖はその疎水性故に、水性媒体中においてポリマー鎖自身が凝集することが考えられる。そしてこの凝集体は、顔料分散時においても凝集が解けないくらい、堅固なものとなる場合が考えられ、このような疎水性ポリマー鎖では、疎水性である顔料表面を広く覆うことが困難であると考える。
【0153】
しかし、上述の疎水性セグメントB’において、疎水性を有するモノマー構成単位以外に親水基を有するモノマー構成単位を含んだグラジエントコポリマー構造とすることによって(例えばスチレンモノマーを主とする疎水性セグメントB’が(メタ)アクリル酸系モノマー等の親水性基を有するモノマーを含むことによって)、水性媒体中で疎水性セグメントB’の構造に柔軟性を持たせることができるので、水性媒体中での顔料分散時においても堅固な凝集体となることを抑制できると考えられる。そして、このような疎水性セグメントを有するポリビニルアルコール系ブロックコポリマーは、顔料表面をより広く覆うことができると考えられる。
このように、疎水性である顔料表面を広く覆うことで、顔料表面の疎水性を低減することが可能となり、水性媒体中における顔料の分散安定性が向上する、と考えられる。
【0154】
更に親水性セグメントB”においても親水性モノマー構成単位以外に疎水性のモノマー構成単位を含んだグラジエントコポリマー構造とすることが好ましく、更に好ましくはセグメントB’とセグメントB”が連続したグラジエントコポリマー構造であることが好ましい。
【0155】
ブロックBの数平均分子量(Mn)は、一般的には500以上であり、且つその上限は50000以下、特に20000以下であることが好ましい。この分子量が小さすぎると、ポリマー(I)の顔料への吸着力が低下するため、顔料の分散性が低下する場合がある。逆に大きすぎても水溶性が極端に低下することにより、顔料の分散が困難になったり、また、顔料インクの粘度が増大し、顔料インクの吐出性が大きく低下する場合がある。
ここで、ブロックBの数平均分子量を直接GPCで測定することは不可能であるため、ブロックBの数平均分子量はポリマー(II)の数平均分子量からブロックAの数平均分子量を引いたものとする。
【0156】
<ポリマー(I)の合成方法>
ポリマー(I)の中で好ましい態様である前記一般式(2)で表されるポリビニルアルコール系ブロックコポリマーの合成方法の一例を説明する。
【0157】
このポリビニルアルコール系ブロックコポリマーを製造するには、まず連鎖移動重合法等により、例えば以下の一般式(3)で表される、片末端にハロゲン原子Zを有するポリビニルエステル系ポリマー(以下「ポリビニルエステル系ポリマー(3)」と称す場合がある。)を得る。
【0158】
【化3】

【0159】
(式(3)中、A’は以下の一般式(4)で表されるビニルエステル構成単位を含むポリビニルエステル系ポリマーを示し(一般式(4)中の、Rは水素原子又は炭素数1〜6の炭化水素基を示し、Rは水素原子、アルキル基、アルケニル基、アリール基又はアラルキル基を示す。)、X、X、X、及びX、ならびにm1、m2は、一般式(2)におけると同義であり、ZはF、Cl、Br、I等のハロゲン原子を示す。)
【0160】
【化4】

【0161】
一般式(3)におけるZとしては、中でも塩素原子が好ましい。
【0162】
このポリビニルエステル系ポリマー(3)は、片末端にハロゲン原子が結合していることを除くと、前述のポリビニルアルコール系ブロックAに類似した構造を有する。
【0163】
次いで、このポリビニルエステル系ポリマー(3)をマクロ開始剤として用い、原子移動ラジカル重合法等によりラジカル重合性モノマーを重合してポリビニルエステル系ポリマー(3)を含むブロックコポリマーを得る。その後、このブロックコポリマー中のポリビニルエステル部分を鹸化することで、ポリビニルアルコール系ブロックコポリマーを得ることができる。但し、鹸化は重合前に行なうこともでき、この場合は、鹸化で得られたポリビニルエステルがマクロ開始剤として使用され原子移動型ラジカル重合が行なわれる。
【0164】
なお、一般式(4)におけるRの炭素数1〜6の炭化水素基の具体例としては、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、イソブチル基、t−ブチル基、sec−ブチル基、ペンチル基、イソペンチル基、ネオペンチル基、t−ペンチル基、ヘキシル基などのアルキル基などが挙げられる。Rとしては中でも、水素原子又は炭素数が少ないアルキル基が、具体的には炭素数1〜3のアルキル基が好ましく、特に水素原子、又はメチル基が好ましい。
【0165】
また、一般式(4)におけるRのアルキル基、アルケニル基、アリール基又はアラルキル基は、炭素数が1〜20であることが好ましく、直鎖、分岐又は環状の何れでもよく、炭素原子は置換基を有していてもよい。
【0166】
としては、具体的には、次のようなものが挙げられる。
【0167】
メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、イソブチル基、t−ブチル基、sec−ブチル基、ペンチル基、イソペンチル基、ネオペンチル基、t−ペンチル基、ヘキシル基、ヘプチル基、デシル基、ドデシル基、ヘキサデシル基、オクタデシル基、クロロメチル基、ジクロロメチル基、トリクロロメチル基、トリフルオロメチル基等のアルキル基や置換アルキル基;
ビニル基、アリル基、イソプロペニル基、3−ブテニル基、1−メチルアリル基、1,1−ジメチルアリル基、2−メチルアリル基、3−メチルアリル基、2,3−ジメチルアリル基、3,3−ジメチルアリル基、シンナミル基、3−シクロヘキシルアリル基等のアルケニル基や置換アルケニル基;
フェニル基、ナフチル基等のアリール基;
フェニル基、ナフチル基等のアリ−ル基における1〜3個の水素原子をメチル基、エチル基、ブチル基、メトキシ基、エトキシ基等の官能基で置換した置換アリール基;
ベンジル基、フェネチル基、フェニルブチル基、ジフエニルメチル基、トリフエニルメチル基、ナフチルメチル基、ナフチルエチル基等のアラルキル基や置換アラルキル基:
【0168】
中でもRとしてはメチル基、クロロメチル基、アリル基、フェニル基、ベンジル基が好ましく、更には炭素数の少ない、アルキル基又は置換アルキル基が好ましく、具体的には炭素数1〜3の、アルキル基又はハロゲン原子で置換された置換アルキル基が好ましく、特にメチル基又はクロロメチル基が好ましい。
【0169】
(ポリビニルエステル系ポリマー(3)の調製)
連鎖移動重合法によるポリビニルエステル系ポリマー(3)の調製は以下のようにして行うことができる。
【0170】
上記の片末端にハロゲン原子を有するポリビニルエステル系ポリマー(3)は、テロメリゼーションと呼ばれる連鎖移動重合法により合成することができる(Eur.Polym.J.,18,779 1982)。即ち、連鎖移動剤(テローゲン)と呼ばれる、ラジカル連鎖移動定数の大きいポリハロゲン化炭化水素の存在下、ビニルエステル系モノマーのラジカル重合を行なうことにより、片末端にハロゲン原子を有するポリビニルエステル系ポリマー(3)が定量的に得られる。なお、前記一般式(3)において、A’とZの間の連結基は、前記一般式(2)におけるブロックA−Bの連結基に相当し、連鎖移動剤によって誘導される。即ち、一般式(2)中のX、X、X、及びXは連鎖移動剤に由来する。
【0171】
この連鎖移動剤としては、メチレンクロライド、エチレンクロライド、ジクロロエタン、エチリデンクロライド、エチリデンブロマイド、クロロホルム、四塩化炭素、四臭化炭素、メチルクロロホルム、トリクロロエタン、テトラクロロエタン、アリルクロライド、ブチルクロライド、ブチルブロマイド、ブチルアイオダイド、クロロベンゼン、ブロモベンゼン、ジクロロベンゼン、ベンジルクロライド、メタアリルクロライド等が挙げられる。
【0172】
先述のビニルエステル系モノマーとしては、酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル、ラウリン酸ビニル、ステアリン酸ビニル、ピバリン酸ビニル、ギ酸ビニル、カプロン酸ビニル、カプリン酸ビニル、ミリスチン酸ビニル、パルミチン酸ビニル、2−エチルヘキサン酸ビニル、シクロヘキサンカルボン酸ビニル、モノクロロ酢酸ビニル、アジピン酸ビニル、メタクリル酸ビニル、クロトン酸ビニル、ソルビン酸ビニル、安息香酸ビニル、桂皮酸ビニル、これらのα置換体などが挙げられる。これらの中では、酢酸ビニル、ピバリン酸ビニル、ギ酸ビニルのような側鎖の嵩高いビニルエステル系モノマー又は極性の高いビニルエステル系モノマー類が好適である。
【0173】
連鎖移動重合法では、連鎖移動剤とビニルエステル系モノマーの比を選択することにより、また、重合溶媒を使用する場合はモノマー濃度を変化させることにより、分子量を任意に調節することができる。
【0174】
連鎖移動重合法におけるラジカル重合開始剤としては、アゾ系開始剤、レドックス系開始剤、紫外線系開始剤などの公知のものを使用することができる。また、放射線や電子線も使用することができる。これらの中では、アゾ系開始剤が取扱い易くて好ましい。
【0175】
重合反応は、無溶媒又は溶媒の存在下に行なうことができる。
溶媒を用いる場合、重合反応溶媒としては、ジエチルエーテル、テトラヒドロフラン、ジフェニルエーテル、アニソール、ジメトキシベンゼン等のエーテル類、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド等のアミド類、アセトニトリル、プロピオニトリル、ベンゾニトリル等のニトリル類、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、酢酸エチル、酢酸ブチル、エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート等のカルボニル化合物、メタノール、エタノール、プロパノール、イソプロパノール、n−ブチルアルコール、t−ブチルアルコール、イソアミルアルコール等のアルコール類、ベンゼン、トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素類、クロロベンゼン、塩化メチレン、クロロホルム、クロロベンゼン、四塩化炭素などのハロゲン化炭化水素類の1種又は2種以上が挙げられる。
【0176】
また、使用する連鎖移動剤が液体である場合には、これを重合反応溶媒として使用してもよい。溶媒として使用される連鎖移動剤としては、好ましくはハロゲン化炭化水素であり、更に好ましくはクロロホルムである。
【0177】
重合反応を行う際、ビニルエステル系モノマー、連鎖移動剤、重合溶媒、ラジカル重合開始剤等の添加順序等は任意であるが、例えば、ビニルエステル系モノマー、連鎖移動剤、重合溶媒、ラジカル重合開始剤を反応容器に一括で仕込んだ後に温度を上昇させ重合反応を行う方法が挙げられる。また、別の方法としては、ビニルエステル系モノマー、連鎖移動剤、重合溶媒を反応容器に仕込んで温度を上昇させた後に、ラジカル重合開始剤を含有するモノマー溶液や連鎖移動剤、重合溶媒、又はこれらの混合物を、連続的に又は分割して添加し、重合反応を行う方法等が挙げられる。中でも、ビニルエステル系モノマー、連鎖移動剤、重合溶媒を反応容器に仕込んで温度を上昇させた後に、ラジカル重合開始剤を含有する重合溶媒を分割して添加する方法が、重合反応時の発熱を制御できるので好ましい。
【0178】
連鎖移動剤の使用量は特に限定されないが、ビニルエステル系モノマー100重量部に対し、通常0.01重量部以上、好ましくは1重量部以上、通常2000重量部以下、好ましくは1000重量部以下である。
ラジカル重合開始剤の使用量は特に限定されないが、ビニルエステル系モノマー100重量部に対し、通常0.001重量部以上、好ましくは0.01重量部以上、通常15重量部以下、好ましくは10重量部以下である。
溶媒の使用量は特に限定されないが、ビニルエステル系モノマー100重量部に対し、通常1重量部以上、2000重量部以下、好ましくは1000重量部以下である。
重合温度は特に限定されないが、通常0℃以上、好ましくは20℃以上であり、その上限は通常200℃以下、好ましくは150℃以下である。
【0179】
このようにして得られたポリビニルエステル系ポリマー(3)は、定法に従って精製し、次の工程へ供される。この精製方法としては例えば、モノマーと重合溶媒が可溶でポリビニルエステル系ポリマー(3)が不溶な溶媒中へ重合溶液を投入し、ポリビニルエステル系ポリマー(3)を沈殿させ、濾別後、乾燥させる方法が挙げられる。また、蒸留等によって未反応モノマーを除去した後に、反応溶媒を置換する精製方法なども挙げられる。中でも、蒸留等によって未反応モノマーを除去した後、反応溶媒を置換する精製方法が好ましく、特にこの精製方法においては、未反応モノマーの除去操作時にポリビニルエステル系ポリマー(3)を含む溶液にアルカリ成分を添加することで、蒸留等によって生成する系内の酸を中和し、この酸によるポリビニルエステル系ポリマー(3)の分解が抑制できるので好ましい。
【0180】
蒸留によって未反応モノマーや反応溶媒を除去する際には、減圧下で蒸留を行うことが好ましい。減圧蒸留時は未反応モノマーの重合とポリビニルエステル系ポリマー(3)の分解を避けるために、50℃以下で行うことが好ましく、中でも40℃以下で減圧蒸留を行うことが好ましい。
【0181】
(ポリビニルエステル系ポリマー(3)を含むブロックコポリマーの合成)
上記のようにして製造されたポリビニルエステル系ポリマー(3)をマクロ開始剤として、ポリビニルエステル系ポリマー(3)を含むブロックコポリマーを合成する原子移動ラジカル重合法は、次のようにして行うことができる。
【0182】
原子移動型ラジカル重合法は、リビングラジカル重合法の1つの方法であり、次のような図式で表される。
【0183】
【化5】

【0184】
上述の図式において、Pはポリマー又は開始剤、Mは遷移金属、Q及びQはハロゲン原子、LはMに配位可能な配位子、s及びs+1は遷移金属の原子価であり、低原子価錯体[1]と高原子価錯体[2]とはレドックス共役系を構成する。
【0185】
まず、低原子価錯体[1]がハロゲンを含有する重合開始剤P−Qからハロゲン原子Qをラジカル的に引き抜いて、高原子価錯体[2]及び炭素中心ラジカルP・を形成する。尚、この反応の速度はKactで表される。このラジカルP・は、図示のようにモノマーと反応して同種の中間体ラジカル種P・を形成する。尚、この反応の速度はKpropagationで表される。
【0186】
高原子価錯体[2]とラジカルP・との間の反応は、生成物P−Qを生ずると同時に、低原子価錯体[1]を再生する。この反応の速度はKdeactで表される。そして、低原子価錯体[1]はP−Qと更に反応して新たな反応を進行させる。本反応においては、成長ラジカル種P・の濃度を低く抑制することが重合を制御することにおいて最も重要である。
【0187】
なお、上記の原子移動型ラジカル重合法の具体例としては、次のような報告(1)、(2)がある。
(1)CuCl/ビピリジル錯体の存在下、α−クロロエチルベンゼンを開始剤としたスチレンの重合(J.WangandK.Matyjaszewski,J.Am.Chem.Soc.117,5614(1995))
(2)RuCl(PPh、有機アルミ化合物の存在下でのCClを開始剤とするメタクリル酸メチルの重合(M.Kato,M.Kamigaito,M.Sawamoto,T.Higashimura,Macromolecules,28,1821(1995))
【0188】
従って、上述の原子移動型ラジカル重合法のマクロ開始剤(P−Q)として、先述の片末端にハロゲン原子を有するポリビニルエステル系ポリマー(3)を使用し、原子移動型ラジカル重合法によってラジカル重合性モノマーを重合させることにより、ポリビニルエステル系ポリマーブロックと他のブロックBを含むブロックコポリマーが得られる。
【0189】
原子移動型ラジカル重合法に使用する遷移金属Mとしては、特に制限されないが、周期表7〜11族から選ばれる少なくとも1種の遷移金属が好適である。
【0190】
レドックス触媒(レドックス共役錯体)においては、先述の図式に示すように低原子価錯体[1]と高原子価錯体[2]とが可逆的に変化する。具体的に使用される低原子価金属(M)としては、Cu、Ni、Ni、Ni2+、Pd、Pd、Pt、Pt、Pt2+、Rh、Rh2+、Rh3+、Co、Co2+、Ir、Ir、Ir2+、Ir3+、Fe2+、Ru2+、Ru3+、Ru4+、Ru5+、Os2+、Os3+、Re2+、Re3+、Re4+、Re6+、Mn2+、Mn3+の群から選ばれる金属であり、中でも、Cu、Ru2+、Fe2+、Ni2+が好ましく、特にCuが好ましい。
1価の銅化合物の具体例としては、塩化第一銅、臭化第一銅、ヨウ化第一銅、シアン化第一銅などが挙げられる。
【0191】
配位子Lとしては、一般的には有機配位子が使用される。具体的には例えば2,2’−ビピリジル及びその誘導体、1,10−フェナントロリン及びその誘導体、テトラメチルエチレンジアミン、ペンタメチルジエチレントリアミン、トリス(ジメチルアミノエチル)アミン、トリフェニルホスフィン、トリブチルホスフィン等が挙げられるが、特にトリス(ジメチルアミノエチル)アミンのような脂肪族ポリアミン類が好ましい。
【0192】
溶媒としては、連鎖移動重合に使用する重合反応溶媒として挙げた溶媒を同様に使用することができる。中でもアルコール類が好ましく、特にメタノール、イソプロピルアルコール、又はその混合溶媒が好ましい。
【0193】
ラジカル重合性モノマーとしては、アクリレート系モノマー、メタクリレート系モノマー、スチレン系モノマ−などが挙げられ。また、ビニルエーテル、アリルエーテル、アリルエステル等の単独ではラジカル重合し難いモノマーもラジカル重合性モノマーの共重合成分として使用することができる。
【0194】
上述のアクリレート系モノマーの具体例としては、メチルアクリレート、エチルアクリレート、プロピルアクリレート、n−ブチルアクリレート、t−ブチルアクリレート、ヘキシルアクリレート、2−エチルヘキシルアクリレート、ノニルアクリレート、ベンジルアクリレート、シクロヘキシルアクリレート、ラウリルアクリレート、n−オクチルアクリレート、2−メトキシエチルアクリレート、ブトキシエチルアクリレート、メトキシテトラエチレングリコールアクリレート、2−ヒドロキシエチルアクリレート、2−ヒドロキシプロピルアクリレート、3−クロロ−2−ヒドロキシプロピルアクリレート、テトラヒドロフルフリルアクリレート、2−ヒドロキシ−3−フェノキシプロピルアクリレート、ジエチレングリコールアクリレート、ポリエチレングリコールアクリレート、2−(ジメチルアミノ)エチルアクリレート、N,N−ジメチルアクリルアミド、N−メチロールアクリルアミド等が挙げられる。
【0195】
上述のメタクリレート系モノマーの具体例としては、メチルメタクリレート、エチルメタクリレート、プロピルメタクリレート、n−ブチルメタクリレート、t−ブチルメタクリレート、ヘキシルメタクリレート、2−エチルヘキシルメタクリレート、ノニルメタクリレート、ベンジルメタクリレート、シクロヘキシルメタクリレート、ラウリルメタクリレート、n−オクチルメタクリレート、2−メトキシエチルメタクリレート、ブトキシエチルメタクリレート、メトキシテトラエチレングリコールメタクリレート、2−ヒドロキシエチルメタクリレート、2−ヒドロキシプロピルメタクリレート、3−クロロ−2−ヒドロキシプロピルメタクリレート、テトラヒドロフルフリルメタクリレート、2−ヒドロキシ−3−フェノキシプロピルメタクリレート、ジエチレングリコールメタクリレート、ポリエチレングリコールメタクリレート、2−(ジメチルアミノ)エチルメタクリレート等が挙げられる。
【0196】
上述のスチレン系モノマーとしては、スチレン、o−メトキシスチレン、m−メトキシスチレン、p−メトキシスチレン、o−t−ブトキシスチレン、m−t−ブトキシスチレン、p−t−ブトキシスチレン、o−クロロメチルスチレン、m−クロロメチルスチレン、p−クロロメチルスチレン等が挙げられる。
【0197】
溶媒の使用量は、特に限定されないが、モノマー100重量部に対し、通常1重量部以上、好ましくは100重量部以上であり、その上限は通常2000重量部以下、好ましくは1000重量部以下である。
低原子価金属(M)の使用量は、特に限定されないが、重合反応系中の濃度として、通常10−6モル/リットル以上、好ましくは10−5モル/リットル以上であり、その上限は通常10−1モル/リットル以下である。そして、開始剤1モルに対し、通常0.001モル以上、好ましくは0.005モル以上であり、その上限は通常100モル以下、好ましくは50モル以下である。
【0198】
また、重合温度は、特に限定されないが、通常0℃以上、好ましくは20℃以上であり、その上限は200℃以下、好ましくは150℃である。この重合はリビング的に進行する。
【0199】
ブロックBは、先述したようなラジカル重合性モノマーを構成成分とするポリマーであることが好ましく、用途に応じ、その変性物であってもよい。
具体的には、ブロックBの主鎖にカルボン酸エステル基を側鎖として導入したり、カルボン酸エステル基を酸又はアルカリ条件下で加水分解してカルボン酸構造にしたり、更に、カルボン酸を水酸化ナトリウムなどで中和し、カルボン酸塩構造にすることができる。カルボン酸エステル基を酸又はアルカリ条件下で加水分解してカルボン酸構造にする場合には、ブロックAであるポリビニルエステル系ポリマーの鹸化反応と同工程で行ってもよく、また別工程で行ってもよい。また、ジメチルアミノエチル基のような3級アミン構造を有するポリマーブロックBの場合は、3級アミンをベンジルクロライド等と反応させて4級塩構造としてもよい。
【0200】
更に、ブロックBとしては、ラジカル重合性モノマーとして反応性の異なる複数のラジカル重合性モノマーを重合して得られる、グラジエントコポリマーであることが好ましい。グラジエントコポリマーの製造方法としては、例えば、上述の原子移動型ラジカル重合法において、マクロ開始剤(P−Q)として先述の片末端にハロゲン原子を有するポリビニルエステル系ポリマー(3)を使用し、反応性が異なる2つ又はそれ以上のモノマーを用いた共重合化により合成する方法が挙げられる。
【0201】
反応性が異なる2つ又はそれ以上のモノマーの重合反応系への導入方法は任意である。具体的な方法としては例えば、重合開始時に、反応に用いる全種類のモノマーを同時に反応器内へ導入する方法が挙げられる。別の方法として、重合開始時に、反応に用いるモノマーを単独及び/又は混合物として連続的に又は分割して反応器内へ導入する方法が挙げられる。更に、重合開始時に、反応に用いるモノマーを2つ又はそれ以上の組成比の異なる混合物として連続的に又は分割して反応器内へ導入する方法等が挙げられる。中でも、重合開始時に反応に用いる全種類のモノマーを同時に反応器内へ導入する方法が好ましい。
【0202】
この際、反応性の異なる複数種のモノマーとしては、疎水性モノマーと親水性モノマー(親水性モノマーには重合後の変性反応により親水性を示すモノマーも含む。)とを用いることが好ましい。中でも反応性の高い疎水性モノマーと、この疎水性モノマーに比べて反応性の低い親水性モノマーを用いることが好ましい。このような疎水性モノマーと親水性モノマーとを用いることで、ブロックBはその末端(連結基と反対方向の末端)に向かって、疎水性モノマー組成が一定の割合で減少し、逆に親水性モノマー組成が一定の割合で増加するグラジエントコポリマー構造となる。
【0203】
このようなグラジエント構造をポリマー鎖中に導入することにより、ポリマー(I)としてポリビニルアルコール系ブロックコポリマーを水性媒体中に存在させたとき、ブロックBにおいて、連結基に近い部分の疎水性セグメントB’はその構造中に親水性基を含有するため、水性媒体中においては水によって可塑化されるので、疎水性セグメントB’が柔軟性を持たせることが可能となる。
【0204】
従って、ブロックBにおける疎水性セグメントB’が柔軟性を有することで、好ましくはブロックBの末端に親水性セグメントB”を有することで、このブロックBを有するポリマー(I)としてポリビニルアルコール系ブロックコポリマー(高分子分散剤)と顔料とを、水やアルコール類等の水性媒体中で接触させ、分散させて水性顔料分散液を製造する際に、水性媒体中で疎水性セグメントB’のポリマー鎖自身が、分散時に解けないくらい堅固な凝集体となることを抑制でき、ポリビニルアルコール系ブロックコポリマーが顔料表面をより広く覆うこととなる。これによって、そもそも疎水性である顔料表面における疎水性を低減することが可能となり、水性媒体中における顔料の分散安定性が向上すると考えられる。
【0205】
このような疎水性セグメントB’と親水性セグメントB”の組合せは、反応性の高い任意の疎水性モノマーと、この疎水性モノマーに比べて反応性の低い任意の親水性モノマー(親水性モノマーには、重合後の変性反応により親水性を示すモノマーも含む。)を用いて製造すればよい。具体的には例えば、セグメントB’、B”における疎水性セグメントを構成するモノマー構成単位としては、電荷基を有さない疎水性基を有するモノマー構成単位が好ましく、ベンジルアクリレート、ベンジルメタクリレート等のアリール(メタ)アクリレート系モノマー、2−エチルヘキシルアクリレート、n−ブチルアクリレート、t−ブチルアクリレート、メチルアクリレート、エチルアクリレート等のアルキル(メタ)アクリレート系モノマーやスチレン系モノマー由来の構成単位が好ましい。。
【0206】
また、セグメントB”における親水性セグメントを構成するモノマー構成単位としては、イオン性解離基を有するモノマー構成単位が好ましく、例えばアクリル酸ナトリウム等のアクリル酸塩モノマー;メタクリル酸ナトリウム等のメタクリル酸塩モノマー由来の構成単位が好ましい。
【0207】
このようにして、ポリビニルエステル系ポリマーブロックとグラジエントコポリマー構造を有するブロックBを含む、ブロックコポリマーが得られる。
ブロックBをグラジエントコポリマー構造とする際には、上述したように、原子移動型ラジカル重合法のマクロ開始剤(P−Q)として先述の片末端にハロゲン原子を有するポリビニルエステル系ポリマー(3)を使用し、複数のラジカル重合性モノマーを、好ましくはこれらモノマーの混合物を原子移動型ラジカル重合法により重合すればよい。
【0208】
この重合を行う際には、マクロ開始剤、複数種のラジカル重合性モノマー、及び触媒の添加順序等は任意である。例えば、反応器内に金属触媒を投入した後に、マクロ開始剤とラジカル重合性モノマー類、重合溶媒の混合物を投入し、その後、有機配位子を混合し、昇温させて重合を行う方法、反応器にマクロ開始剤とラジカル重合性モノマー類、重合溶媒の混合物を投入した後、金属触媒と有機配位子を別々に、もしくはその混合物を含有する溶液を投入する方法等が挙げられる。
【0209】
中でもマクロ開始剤と複数種のラジカル重合性モノマーを含む混合物を、触媒の添加前に、反応開始温度を超えない範囲で、反応開始温度の近傍まで上昇させ、具体的には反応開始温度の20℃以内、中でも好ましくは15℃以内としてから触媒と混合し、次いで温度を上昇させて重合反応を開始することが好ましい。この方法によって、触媒由来の不純物が減少するので好ましい。このような重合反応方法に用いる触媒は任意だが、中でも塩化第一銅や臭化第一銅などの銅触媒を用いると効果が顕著となるので好ましく、更に好ましくは臭化第一銅を用いるのが好ましい。
【0210】
このようにして得られたブロックコポリマーは、定法に従って精製するか、又は未精製のまま次の工程へ供される。精製方法はポリマーが不溶でモノマーと触媒が可溶な溶媒へブロックコポリマーを沈殿、濾別を繰り返す方法や、蒸留等によって未反応モノマーを除去した後に反応溶媒を置換する精製方法などが挙げられる。
【0211】
<ポリビニルエステル系ポリマー(3)を含むブロックコポリマーの鹸化>
次に、ポリビニルエステル系ポリマー(3)を含むブロックコポリマーの鹸化方法について説明する。
【0212】
ポリビニルエステル系ポリマー(3)を含むブロックコポリマーの鹸化反応は、鹸化触媒の共存下に行われる。通常、鹸化に当たっては、アルコール類(メタノール、エタノール、イソプロパノール、ブタノール等)、ベンゼン、酢酸メチル等にマクロ開始剤であるポリビニルエステル系ポリマー(3)又はマクロ開始剤から原子移動ラジカル重合法により合成されたブロックコポリマーを溶解する。ブロックコポリマーにおける先述の溶媒への溶解度が低い場合には、テトラヒドロフラン、ジフェニルエーテル、アニソール、ジメトキシベンゼン等のエーテル類;N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド等のアミド類;アセトニトリル、プロピオニトリル、ベンゾニトリル等のニトリル類;アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、酢酸エチル、酢酸ブチル、エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート等のカルボニル化合物;などを混合し、鹸化反応の溶媒として使用してもよい。
【0213】
鹸化触媒としては、酸化ナトリウム、水酸化カリウム、ナトリウムメチラート、ナトリウムエチラート、カリウムメチラート等のアルカリ金属の水酸化物やアルコラート等のアルカリ触媒が使用されるが、硫酸、塩酸、p−トルエンスルホン酸などの酸触媒も使用することができる。
【0214】
アルカリ触媒の使用量は、特に限定されないが、ビニルエステル系モノマー構成単位1モルに対し、通常1ミリモル当量以上100ミリモル当量以下、好ましくは50ミリモル当量以下、更に好ましくは30ミリモル当量以下である。
酸触媒の使用量は、特に限定されないが、ビニルエステル系モノマー構成単位1モルに対し、通常1ミリモル当量以上1000ミリモル当量以下、好ましくは500ミリモル当量以下、更に好ましくは300ミリモル当量以下である。
鹸化反応の温度は、通常20℃以上、好ましくは40℃以上であり、その上限は100℃以下、好ましくは80℃以下である。
【0215】
鹸化度は、最終的に得られるポリマー(I)としてのポリビニルアルコール系ブロックコポリマーの用途によって適宜選択し決定すればよいが、通常80モル%以上、好ましくは90モル%以上である。ここで、鹸化度とは、ビニルエステル系モノマー構成単位の鹸化によってビニルアルコール構成単位に変換され得る単位に対する、鹸化後のビニルアルコール構成単位の割合を表したものであり、残基はビニルエステル構成単位である。
【0216】
更に、Bブロックにカルボン酸エステル基を有するモノマーを導入し、重合後にカルボン酸エステル基を加水分解しカルボン酸構造又はカルボン酸塩構造とする際には、ブロックAの鹸化反応と、加水分解反応を同一工程(ワンポット)で行ってもよい。ワンポットでの鹸化・加水分解反応時には溶媒として、アルコール類(メタノール、エタノール、イソプロパノール、ブタノール等)、ベンゼン、酢酸メチル等、テトラヒドロフラン、ジフェニルエーテル、アニソール、ジメトキシベンゼン等のエーテル類;N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド等のアミド類;アセトニトリル、プロピオニトリル、ベンゾニトリル等のニトリル類;アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、酢酸エチル、酢酸ブチル、エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート等のカルボニル化合物;水などを用いることができ、これらは単独また混合して使用しても良い。中でも水とメタノール、テトラヒドロフラン等の水溶性有機溶媒を混合して用いることが好ましい。
【0217】
鹸化・加水分解触媒としては、鹸化反応単独工程で行う場合と同様に、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、ナトリウムメチラート、ナトリウムエチラート、カリウムメチラート等のアルカリ金属の水酸化物やアルコラート等のアルカリ触媒が使用されるが、硫酸、塩酸、p−トルエンスルホン酸などの酸触媒も使用することができる。
【0218】
アルカリ触媒の使用量は、特に限定されないが、ポリマー中のビニルエステル系モノマー構成単位とカルボン酸エステル系モノマー構成単位の合計に対し、通常1/1000当量以上5当量以下、好ましくは2当量以下、更に好ましくは1.5当量以下である。
酸触媒の使用量は、特に限定されないが、ポリマー中のビニルエステル系モノマー構成単位とカルボン酸エステル系モノマー構成単位の合計に対し、通常1/1000当量以上5当量以下、好ましくは2当量以下、更に好ましくは1.5当量以下である。
反応の温度は、通常20℃以上、好ましくは40℃以上であり、その上限は100℃以下、好ましくは80℃以下である。
【0219】
{水性媒体}
本発明の水性顔料分散液に用いる水性媒体としては、水及び/又は水溶性の有機溶媒が挙げられる。
水溶性の有機溶媒としては、この用途に一般的に用いられるものであれば特に限定されないが、具体的には、水よりも蒸気圧の小さいものであり、次のようなものが挙げられる。
【0220】
エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、テトラエチレングリコール、ポリエチレングリコール、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、トリプロピレングリコール、1,3−プロピレングリコール、イソプロピレングリコール、ポリプロピレングリコール、ペンタメチレングリコール、トリメチレングリコール、ブチレングリコール、イソブチレングリコール、チオジグリコール、1,2−ヘキサンジオール、1,6−ヘキサンジオール、2−エチル−1,3−ヘキサンジオール、1,2−ペンタンジオール、1,5−ペンタンジオール、2−メチル−2,4−ペンタンジオール、1,3−プロパンジオール、1,4−ブタンジオール、1,7−ヘプタンジオール、1,8−オクタンジオール、2−ブテン−1,4−ジオール、グリセリン等の多価アルコール類;
エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテル、エチレングリコールモノ−t−ブチルエーテル、エチレングリコールモノプロピルエーテル、エチレングリコールモノイソプロピルエーテル、エチレングリコールモノフェニルエーテル、エチレングリコールモノメチルエーテルアセテート、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、ジエチレングリコールモノイソプロピルエーテル、ジエチレングリコールモノブチルエーテル、ジエチレングリコールモノ−t−ブチルエーテル、トリエチレングリコールモノエチルエーテル、トリエチレングリコールモノブチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノエチルエーテル、プロピレングリコールモノブチルエーテル、プロピレングリコールモノ−t−ブチルエーテル、プロピレングリコールモノプロピルエーテル、プロピレングリコールモノイソプロピレンエーテル、プロピレングリコールモノフェニルエーテル、ジプロピレングリコールモノメチルエーテル、ジプロピレングリコールモノエチルエーテル、ジプロピレングリコールモノブチルエーテル、ジプロピレングリコールモノプロピルエーテル、ジプロピレングリコールモノイソプロピルエーテル等の多価アルコールエーテル類;
アセトニルアセトン等のケトン類;
γ−ブチロラクトン、ジアセチン、リン酸トリエチル等のエステル類;
2−メトキシエタノール、2−エトキシエタノール等の低級アルコキシアルコール類;
エタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン、N−メチルジエタノールアミン、N−エチルジエタノールアミン、トリエチレンテトラミン、テトラエチレンペンタミン、ペンタメチルジエチレントリアミン等のアミン類;
ホルムアミド、N,N−ジメチルホルムアミド、N−メチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド等のアミド類;
2−ピロリドン、N−エチルピロリドン、N−メチル−2−ピロリドン、シクロヘキシルピロリドン、モルホリン、N−エチルモルホリン、2−オキサゾリドン、1,3−ジメチル−2−イミダゾリジノン、イミダゾール、メチルイミダゾール、ヒドロキシイミダゾール、ジメチルアミノピリジン、1,3−プロパンスルトン、ヒドロキシエチルピペラジン、ピペラジン等の複素環類;
ジメチルスルホキシド等のスルホキシド類;
スルホラン等のスルホン類:
【0221】
これらは1種を単独で用いても良く、2種以上を混合して用いても良い。
【0222】
本発明で用いる水性媒体としては、水又は水と上述のような水溶性有機溶媒との混合物であることが好ましい。
【0223】
{その他の色材}
本発明の水性顔料分散液は色材として、前述のカーボンブラック以外の顔料を含んでいても良い。このような顔料としては、各用途において一般的なものを適宜選択すればよく、特に限定されないが、代表的なものを例示すると、炭酸カルシウム、カオリンクレー、タルク、ベントナイト、マイカなどを代表とする体質顔料;酸化チタン、酸化亜鉛、ゲーサイト、マグネタイト、酸化クロムなどを代表とする金属酸化物系顔料;チタンイエロー、チタンバフ、アンチモンイエロー、バナジウムスズイエロー、コバルトグリーン、コバルトクロムグリーン、マンガングリーン、コバルトブルー、セルリアンブルー、マンガンブルー、タングステンブルー、エジプトブルー、コバルトブラックなどを代表とする複合酸化物系顔料;リトボン、カドミウムレッドイエロー、カドミウムレッドなどを代表とする硫化物系顔料;ミネラルバイオレット、コバルトバイオレット、リン酸コバルトリチウム、リン酸コバルトナトリウム、リン酸コバルトカリウム、リン酸コバルトアンモニウム、リン酸ニッケル、リン酸銅を代表とするリン酸塩系顔料;黄鉛、モリブデートオレンジを代表とするクロム酸塩系顔料;群青、プルシアンブルーを代表とする金属錯塩系顔料;アルミニウムペースト、ブロンズ粉、亜鉛末、ステンレスフレーク、ニッケルフレークを代表とする金属粉系顔料;オキシ塩化ビスマス、塩基性炭酸塩、二酸化チタン、被覆雲母、ITO(インジウムスズ酸化物)、ATO(アンチモンスズ酸化物)を代表とする真珠光沢顔料・真珠顔導電性顔料等の無機顔料;及びキナクリドン系顔料、キナクリドンキノン系顔料、ジオキサジン系顔料、フタロシアニン系顔料、アントラピリミジン系顔料、アンサンスロン系顔料、インダンスロン系顔料、フラバンスロン系顔料、ペリレン系顔料、ジケトピロロピロール系顔料、ペリノン系顔料、キノフタロン系顔料、アントラキノン系顔料、チオインジゴ系顔料、金属錯体系顔料、アゾメチン系顔料又はアゾ系顔料などの有機顔料が挙げられる。
【0224】
上記顔料の具体例としては下記に示すピグメントナンバーの顔料及び一般に色材分野で用いられている公知のカーボンブラックを挙げることができる。なお、以下に挙げる「C.I.ピグメントレッド2」等の用語は、カラーインデックス(C.I.)を意味する。
【0225】
赤色色剤:C.I.ピグメントレッド1、2、3、4、5、6、7、8、9、12、14、15、16、17、21、22、23、31、32、37、38、41、47、48、48:1、48:2、48:3、48:4、49、49:1、49:2、50:1、52:1、52:2、53、53:1、53:2、53:3、54、57、57:1、57:2、58、58:4、60、63、63:1、63:2、64、64:1、68、69、81、81:1、81:2、81:3、81:4、83、88、90:1、101、101:1、104、108、108:1、109、112、113、114、122、123、144、146、147、149、151、166、168、169、170、172、173、174、175、176、177、178、179、181、184、185、187、188、190、193、194、200、202、206、207、208、209、210、214、216、220、221、224、230、231、232、233、235、236、237、238、239、242、243、245、247、249、250、251、253、254、255、256、257、258、259、260、262、263、264、265、266、267、268、269、270、271、272、273、274、275、276;
【0226】
青色色剤:C.I.ピグメントブルー1、1:2、9、14、15、15:1、15:2、15:3、15:4、15:6、16、17、19、25、27、28、29、33、35、36、56、56:1、60、61、61:1、62、63、66、67、68、71、72、73、74、75、76、78、79;
【0227】
緑色色剤:C.I.ピグメントグリーン1、2、4、7、8、10、13、14、15、17、18、19、26、36、45、48、50、51、54、55;
【0228】
黄色色剤:C.I.ピグメントイエロー1、1:1、2、3、4、5、6、9、10、12、13、14、16、17、23、24、31、32、34、35、35:1、36、36:1、37、37:1、40、41、42、43、48、53、55、61、62、62:1、63、65、73、74、75,81、83、87、93、94、95、97、100、101、104、105、108、109、110、111、116、119、120、126、127、127:1、128、129、133、134、136、138、139、142、147、148、150、151、153、154、155、157、158、159、160、161、162、163、164、165、166、167、168、169、170、172、173、174、175、176、180、181、182、183、184、185、188、189、190、191、191:1、192、193、194、195、196、197、198、199、200、202、203、204、205、206、207、208、215;
【0229】
オレンジ色剤:C.I.ピグメントオレンジ1、2、5、13、16、17、19、20、21、22、23、24、34、36、38、39、43、46、48、49、61、62、64、65、67、68、69、70、71、72、73、74、75、77、78、79;
【0230】
バイオレット色剤:C.I.ピグメントバイオレット1、1:1、2、2:2、3、3:1、3:3、5、5:1、14、15、16、19、23、25、27、29、31、32、37、39、42、44、47、49、50
【0231】
ブラウン色剤:C.I.ピグメントブラウン1、6、11、22、23、24、25、27、29、30、31、33、34、35、37、39、40、41、42、43、44、45
【0232】
黒色色剤:C.I.ピグメントブラック1、31、32
【0233】
上記顔料のうち、赤色顔料として好ましくは、キナクリドン系顔料、キサンテン系顔料、ペリレン系顔料、アンタントロン系顔料及びモノアゾ系顔料が挙げられ、その具体例としては、C.I.ピグメントレッド−5、−7、−12、−112、−81、−122、−123、146、−147、−168、−173、−202、−206、−207、−209、C.I.ピグメントバイオレット−19等が挙げられる。このうち、顔料の安定性や色合いの面から、キナクリドン系顔料、及び、2種類以上のキナクリドン系顔料からなる固溶体がより好ましい。
【0234】
上記顔料のうち、黄色顔料としてモノアゾ系顔料及びジスアゾ系顔料が印刷物としての発色が他の顔料に対して良好である事から好ましい。その中でも、C.I.ピグメントイエロー−1、−3、−16,−17、−74、−95、−120、−128、−151、−155、−175、−215は、その色合いの面から特に好ましく、更にその中でもC.I.ピグメントイエロー−74、−155がノンハロゲン化合物であり環境に与える影響が小さいことや色合いの面から特に好ましい。
【0235】
上記顔料のうち、青色顔料として好ましくは、銅フタロシアニン顔料が印刷物としての発色が他の顔料に対して良好である事から好ましい。その中でも、C.I.ピグメントブルー−15:3が、安定性や色合いの面から好ましい。
【0236】
カーボンブラックと併用する顔料としては、前記の顔料の1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。また、他の色材と組み合わせて用いることもできる。
また、顔料の形状は、ペースト、パウダー、固溶体等のいずれの形態であっても良い。
【0237】
これらの顔料の一次粒子の大きさは、目的に応じて任意に設定すればよいが、顔料の一次粒子径は通常10nm以上であり、且つ、好ましくは300nm以下、更に好ましくは200nm以下、特に好ましくは100nm以下である。
ここで顔料の一次粒子径は電子顕微鏡による算術平均径(数平均)である。
【0238】
また、記録液中の顔料の平均分散粒子径は、通常300nm以下、好ましくは200nm以下である。また下限としては、通常20nm以上である。
上記平均分散粒子径は、SEMやTEM等の電子顕微鏡を用いて測定するか、市販の動的光散乱測定装置を使用して測定することができる。
【0239】
なお、カーボンブラックと同様、上記顔料としては、化学修飾がされておらず、また、顔料の小粒径化を促進するための結晶化抑止剤等の、顔料以外の不純物を含まないものが、ポリマーの顔料への吸着を阻害しないことから好ましい。ただし、顔料に自己分散性を持たせるために、予め公知の化学修飾を行った自己分散性を有する顔料も使用できる。即ち、本発明の水性顔料分散液において用いる顔料は、先述したような、未処理の顔料でも、また表面を化学修飾した顔料でも、任意の顔料を使用できる。
【0240】
{水性顔料分散液組成}
本発明の水性顔料分散液は、少なくとも前述のPAH量及び含酸素官能基密集度を満たすカーボンブラックと水性媒体を含み、必要に応じてポリマー、その他の成分を含んでもよい。中でも、顔料分散剤として用いるポリマー成分を含んでいることが好ましい。
【0241】
本発明の水性顔料分散液中のカーボンブラック濃度としては、通常30重量%以下、好ましくは20重量%以下である。ここで、カーボンブラック濃度が高過ぎるとカーボンブラックが分散不良となり、また、分散液の粘度が増大し、分散液がゲル化したり、また、分散破壊により分散液が使用できなくなる場合があるが、あまりカーボンブラック濃度が低すぎるとインク化した際に十分な印字濃度が出ないため、通常、0.1重量%以上、好ましくは0.5重量%以上、より好ましくは1重量%以上である。
【0242】
また、本発明の水性顔料分散液中におけるカーボンブラックとポリマーとの重量比は、適宜選択し決定すればよいが、一般的にはカーボンブラック1重量部に対してポリマー(2種以上のポリマーを含む場合はその合計)が0.01重量部以上、中でも0.05重量部以上、特に0.1重量部以上であることが好ましく、その上限は2重量部以下、中でも1.5重量部以下であることが好ましい。この範囲よりもポリマーが少ないと分散安定性が低下し、多いと分散液、及びこれを用いて調製された記録液の粘度が高くなって吐出性が低下してしまう。
【0243】
特に、本発明の水性顔料分散液が、前述の疎水性/親水性ポリマーとポリマー(I)とを含む場合、疎水性/親水性ポリマーの量は、カーボンブラック100重量部に対しておよそ1〜199.9重量部の範囲の量とするのが好ましく、この量はより好ましくは5〜100重量部である。疎水性/親水性ポリマー量が少なすぎると水性媒体中でカーボンブラックが分散不安定になり凝集を起こしてしまう。また、疎水性/親水性ポリマーの親−疎水バランスや、カーボンブラック粒子の総表面積、疎水性基とカーボンブラック粒子表面との親和性等により、カーボンブラックに対する疎水性/親水性ポリマーの吸着量には限界があり、疎水性/親水性ポリマー量が極端に多すぎると、分散液の増粘、分散不安定化を引き起こすため好ましくない。また、ポリマー(I)は、カーボンブラック100重量部に対して0.1〜199重量部、特に1〜100重量部で、疎水性/親水性ポリマーとポリマー(I)との合計の含有量が、カーボンブラック100重量部に対して1〜200重量部、特に5〜100重量部となるように、また、疎水性/親水性ポリマーとポリマー(I)とが、疎水性/親水性ポリマー:ポリマー(I)=99〜20:1〜80(重量比)の範囲で含まれるように用いることが好ましい。
【0244】
なお、本発明の水性顔料分散液中には、水性媒体、カーボンブラック、ポリマー以外の成分が含まれていても良く、特に、後述するような本発明のインク組成物に含有され得る他の添加剤として例示するその他の成分が含まれていても良い。
【0245】
また、本発明の水性顔料分散液がカーボンブラック以外の顔料を含む場合、そのカーボンブラックを含む全顔料の含有量が、上記カーボンブラック含有量の好適範囲となるようにすることが好ましく、また、カーボンブラックを含む全顔料に対するポリマーの含有量が上記ポリマー含有量の好適範囲となるようにすることが好ましい。また、この場合、本発明に係るカーボンブラックを用いることによる効果を十分に得る上で、全顔料中の本発明に係るカーボンブラックの割合は50重量%以上、特に70重量%以上であることが好ましい。
【0246】
{インク組成物(記録液)}
本発明の水性顔料分散液を含むインク組成物は、特に記録液、とりわけインクジェット用記録液として優れた効果を奏する。
【0247】
記録液等として用いられる本発明のインク組成物(以下「本発明の記録液」と称す)は、上述の本発明の水性顔料分散液の色材濃度を必要に応じて調整し、更には用途に応じて各種添加剤を加えて調製される。
【0248】
色材としては、上述の本発明の水性顔料分散液中のカーボンブラックやその他の顔料に加え、更に調色等の目的などで表面処理された自己分散性顔料や、染料や界面活性剤やポリマー分散剤等で分散された顔料、あるいは、染料等を追加で含んでいても良い。
【0249】
本発明の記録液における全色材の濃度は、記録液全量に対する、全色材の濃度として0.1重量%以上、中でも0.5重量%以上であることが好ましく、その上限は20重量%以下、好ましくは15重量%以下、特に10重量%以下であることが好ましい。この色材濃度が高過ぎると増粘し、かつ吐出性が悪化し、低すぎると印字濃度が低くなりすぎる。一方で、水性顔料分散液に追加する色材の量は、水性顔料分散液中のカーボンブラックを含む顔料100重量部に対して、通常100重量部以下、好ましくは75重量部以下、より好ましくは50重量部以下、特に好ましくは25重量部以下である。この色材の追加量が多過ぎると本発明の効果が低下する。
【0250】
また、本発明の記録液に用いる溶媒は、水及び水溶性有機溶媒を含むことが好ましく、更に所望により他の成分を含むことができる。
【0251】
本発明の記録液中の水溶性有機溶媒濃度は、適宜選択し決定すればよいが、通常、記録液に対して1重量%以上45重量%以下、中でも40重量%以下であることが好ましい。また、記録液における水の含有量は、上述の色材や水溶性有機溶媒、及び以下に記載される任意の添加成分の濃度を適宜設定できる量であればよい。
【0252】
水溶性の有機溶媒としては、前述の本発明の水性顔料分散液の水性媒体として例示したものを用いることができる。
【0253】
本発明の記録液は、本発明の効果を損なわない範囲で、必要に応じて各種添加剤を含んでいても良い。
【0254】
このような添加剤としては例えば、浸透促進剤、表面張力調整剤、ヒドロトロピー剤、pH調整剤、キレート剤、防腐剤、粘度調整剤、保湿剤、防黴剤、防錆剤等の記録液用添加剤として公知のものが挙げられる。
【0255】
本発明の記録液における、これら添加剤の含有量は、記録液の全量に対して、通常その合計で40重量%以下であることが好ましい。
【0256】
浸透促進剤としては、メタノール、エタノール、プロパノール、イソプロパノール、ブタノール、イソブタノール、ペンタノール等の低級アルコール、エチレングリコールモノブチルエーテル、トリエチレングリコールモノブチルエーテルグリコールエーテル等のカルビトール類、界面活性剤等の1種又は2種以上が挙げられる。
【0257】
界面活性剤としては、非イオン性界面活性剤、陰イオン性界面活性剤、陽イオン性界面活性剤、両性界面活性剤及びポリマー系の界面活性剤等、任意のものの1種又は2種以上を使用できる。中でも非イオン性界面活性剤、陰イオン性界面活性剤及びポリマー系の界面活性剤が好ましい。
【0258】
非イオン性界面活性剤としては、例えばポリオキシエチレンアルキルエーテル類、ポリオキシエチレンアルキルアリールエーテル類、ポリオキシエチレン誘導体類、オキシエチレン/オキシプロピレンブロックコポリマー類、ソルビタン脂肪酸エステル類、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル類、ポリオキシエチレンソルビトール脂肪酸エステル類、グリセリン脂肪酸エステル類、ポリオキシエチレン脂肪酸エステル類、ポリオキシエチレンアルキルアミン類、アセチレングリコール類、アセチレンアルコール類等が挙げられる。
【0259】
陰イオン性界面活性剤としては、例えば脂肪酸塩類、アルキル硫酸エステル塩類、アルキルベンゼンスルフォン酸塩類、アルキルナフタレンスルフォン酸塩類、アルキルスルホコハク酸塩類、アルキルジフェニルエーテルスルフォン酸塩類、アルキルリン酸塩類、ポリオキシエチレンアルキル硫酸エステル塩類、ポリオキシエチレンアルキルアリール硫酸エステル塩類、アルカンスルフォン酸塩類、ナフタレンスルフォン酸ホルマリン縮合物類、ポリオキシエチレンアルキルリン酸エステル類、α−オレフィンスルフォン酸塩等が挙げられる。
【0260】
また、ポリマー系界面活性剤としては、ポリアクリル酸、スチレン/アクリル酸コポリマー、スチレン/アクリル酸/アクリル酸エステルコポリマー、スチレン/マレイン酸コポリマー、スチレン/マレイン酸/アクリル酸エステルコポリマー、スチレン/メタクリル酸コポリマー、スチレン/メタクリル酸/アクリル酸エステルコポリマー、スチレン/マレイン酸ハーフエステルコポリマー、スチレン/スチレンスルフォン酸コポリマー、ビニルナフタレン/マレイン酸コポリマー、ビニルナフタレン/アクリル酸コポリマーあるいはこれらの塩等が挙げられる。
【0261】
カチオン性界面活性剤としては、特に限定されないが、テトラアルキルアンモニウム塩、アルキルアミン塩、ベンザルコニウム塩、アルキルピリジウム塩、イミダゾリウム塩等が挙げられる。
【0262】
その他、ポリシロキサンオキシエチレン付加物等のシリコーン系界面活性剤や、パーフルオロアルキルカルボン酸塩、パーフルオロアルキルスルホン酸塩、オキシエチレンパーフルオロアルキルエーテル等のフッ素系界面活性剤、ラムノリピド、リゾレシチン等のバイオサーファクタント等の界面活性剤も使用することができる。
【0263】
これらの界面活性剤の中でも、非イオン性界面活性剤が好ましく、その中でも、印字物のにじみの抑制等の印字品位の観点や、記録液の吐出安定性の向上の観点から、アセチレングリコール類、アセチレンアルコール類がより好ましく、アセチレングリコール類が特に好ましい。アセチレングリコール類としては、例えば、2,5−ジメチル−3−ヘキシン−2,5−ジオール、2,4,7,9−テトラメチル−5−デシン−4,7−ジオール、3,6−ジメチル−4−オクチン−3,6−ジオール及びそれらのエチレンオキサイド付加物等が挙げられ、具体的な製品名としては、例えば、オルフィンE1010、オルフィンSTG、オルフィンE1004、サーフィノール104、サーフィノール420、サーフィノール440、サーフィノール465、サーフィノール485(以上いずれもエアプロダクツ社製)、もしくは、アセチレノールEH、アセチレノールEL、アセチレノールEO(以上いずれも川研ファインケミカル社製)等を挙げることができる。
【0264】
これらの界面活性剤の含有量は、適宜選択し決定すればよい。通常は記録液に対して0.001重量%以上、5重量%以下の範囲で添加することによって、印刷物の速乾性及び印字品位をより一層改良できる。
【0265】
表面張力調整剤としては、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン、グリセリン、ジエチレングリコール等のアルコール類、ノニオン、カチオン、アニオン、あるいは両性界面活性剤の1種又は2種以上を挙げることができる。
【0266】
ヒドロトロピー剤としては、尿素、アルキル尿素、エチレン尿素、プロピレン尿素、チオ尿素、グアニジン酸塩、ハロゲン化テトラアルキルアンモニウム等の1種又は2種以上が好ましい。
【0267】
保湿剤としては、グリセリン、ジエチレングリコール等の1種又は2種以上を水溶性有機溶媒と兼ねるものとして添加することもできる。
【0268】
更に、固体保湿剤(保水機能を有する25℃で固体の水溶性物質)を添加することもできる。好ましい固体保湿剤としては、糖類、糖アルコール類、ヒアルロン酸塩、トリメチロールプロパン、1,2,6−トリオール等が挙げられる。糖類としては、単糖類、二糖類、オリゴ糖類(三糖類及び四糖類を含む)及び多糖類が挙げられ、具体的には、グルコース、フルクトース、リボース、キシロース、アラビノース、ガラクトース、ソルビット、マルトース、ラクトース、スクロース、トレハロース等が挙げられる。糖アルコール類としては、マルチトール、ソルビトール、キシリトール等が挙げられ、これらの固体保湿剤は1種のみを用いても良く、また、2種以上を添加することもできる。
【0269】
キレート剤としては、特に限定されるものではないが、エチレンジアミンテトラアセティックアシッドのナトリウム塩、エチレンジアミンテトラアセティックアシドのジアンモニウム塩等の1種又は2種以上が用いられる。これらは、記録液に対して0.005重量%以上、0.5重量%以下の範囲で用いることが好ましい。
【0270】
防黴剤としては、特に限定されるものではないが、デヒドロ酢酸ナトリウム、ジクロロフェン、ソルビン酸、安息香酸ナトリウム、p−ヒドロキシ安息香酸エステル、1,2−ベンズイソチアゾリン−3−オン(製品名:プロキセルGXL(アーチ・ケミカルズ社製))等が用いられる。これらは、記録液に対して0.05重量%以上、1重量%以下の範囲で含まれることが好ましい。
【0271】
また、記録液のpHを調整し、記録液の安定性を得るため、特に限定されるものではないが、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化リチウム、硝酸、アンモニア、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン等のpH調整剤、リン酸等の緩衝液を用いることができる。
なお、記録液のpHとしては、通常、中性からアルカリ性の範囲であり、中でもpH6〜11程度に調整することが好ましい。
【0272】
また、本発明の記録液においては、本発明の効果を損なわない範囲で、前述の疎水性/親水性ポリマーやポリマー(I)以外の樹脂を含有しても良い。このような樹脂の具体例としては、ビニル系樹脂、例えば、アクリル系樹脂、スチレン−アクリル系樹脂、ポリビニルアルコール系樹脂、酢酸ビニル系樹脂等、ポリエステル樹脂、ポリアミド樹脂、ポリウレタン樹脂、エポキシ樹脂、ブタジエン系樹脂、石油系樹脂、フッ素系樹脂等の公知の樹脂が挙げられる。これらの中でも水溶性もしくは水分散性樹脂が好ましい。中でもポリビニルアルコール系樹脂、アクリル系樹脂がより好ましい。
【0273】
本発明の記録液において、全てのポリマーの含有量は、通常0.05重量%以上、好ましくは0.25重量%以上、より好ましくは0.5重量%以上であり、その上限は通常20重量%以下、中でも10重量%以下であることが好ましい。
【0274】
特に、疎水性/親水性ポリマーとポリマー(I)とを併用する場合、これらは、前述の本発明の水性顔料分散液が疎水性/親水性ポリマーとポリマー(I)を含む場合と同様の比率で含まれていることが好ましい。
【0275】
また、本発明の水性顔料分散液には、記録媒体への画像の定着性や耐擦性を更に向上させるためにポリマー微粒子を添加しても良い。ポリマー微粒子としては特に限定されないが、表面にイオン性基を有し、粒子径が10〜150nmのものが好ましい。
ポリマー微粒子の使用量としては、本発明の効果を損なわない範囲で適宜選択し、決定すればよく、具体的には記録液中の顔料に対して、1〜100重量%、好ましくは10〜80重量%、より好ましくは10〜50重量%である。
【0276】
{水性顔料分散液及びインク組成物の製造方法}
本発明の水性顔料分散液の製造方法において、カーボンブラックを含む顔料、水性媒体、及び顔料分散剤としてのポリマー等の混合方法や添加順序は任意である。例えば、これらを1度に混合した混合物に一般的な分散機を用いて分散処理を施せばよい。
【0277】
この分散処理に当たり、水性媒体として水のみを用いて分散処理を施すことが、分散性、記録液の保存安定性の点で好ましい。
【0278】
分散処理に用いる分散機としては、通常、顔料分散に使用される各種分散機が使用できる。
【0279】
分散機としては、特に限定されるものではないが、ペイントシェーカー、ボールミル、サンドミル、アトライター、パールミル、コボールミル、ホモミキサー、ホモジナイザー、湿式ジェットミル、超音波ホモジナイザー等を用いることができる。分散機としてメディアを使うものには、ガラスビーズ、ジルコニアビーズ、アルミナビーズ、磁性ビーズ、スチレンビーズを用いることができる。このうち、特に好ましい分散処理方法としては、ビーズをメディアとしてミルで分散後、超音波ホモジナイザーで分散する方法である。
【0280】
好ましい粒径を有する水性顔料分散液を得る方法としては、特に限定されるものではないが、分散機の分散メディアのサイズを小さくする、粉砕メディアの充填率を大きくする、分散液中の顔料濃度を高くする、処理時間を長くする、粉砕後フィルターや遠心分離機等で分級する等の方法が用いられる。又は、それらの手法の組み合わせが挙げられる。特に規定されるものではないが、分散時における発熱により、分散液が増粘する場合は、冷却しながら分散処理をすることが望ましく、熱を加えることによる分散時の粒径の低下が著しい場合は、高温下で分散処理をすることが望ましい。
得られた分散液を、必要に応じ粗大粒子除去を目的として、フィルターを使用した加圧濾過や遠心分離をすることが望ましい。
【0281】
本発明のインク組成物は、前述の如く、このようにして製造された水性顔料分散液に、必要に応じて色材や各種添加剤を加えて同様に混合、分散処理することにより調製される。
【0282】
[ソルベント系顔料分散液及びインク組成物]
次に、前述のようなカーボンブラックを含む本発明のソルベント系顔料分散液とこれを含むインク組成物について説明する。
【0283】
{分散剤}
ソルベント系顔料分散液には必要に応じて顔料分散剤として、アニオン性、カチオン性、又はノニオン性の公知のポリマー分散剤が使用される。公知のポリマー分散剤としては、例えば、日本ルーブリゾール株式会社製「ソルスパース」シリーズ、味の素ファインテクノ株式会社製「アジスパー」シリーズ、ビッグケミー・ジャパン株式会社製「Disperbyk」シリーズ等の市販品が挙げられる。顔料分散剤は、一種類のみを用いても複数種を組み合わせて用いても良い。
【0284】
{溶媒}
ソルベント系顔料分散液の溶媒としては、インクジェットインキに一般的に使用されるアルコール類、ケトン類、エステル類、グリコールエーテル類、グリコールアセテート類、飽和炭水素類、不飽和炭化水素類、環状飽和炭化水素類、環状不飽和炭化水素類、芳香族炭化水素類等の有機溶剤が広く利用できる。
【0285】
具体的な有機溶剤の例としては、次のようなものが挙げられる。
メチルアルコール、エチルアルコール、n−プロピルアルコール、イソプロピルアルコール、n−ブチルアルコール等のアルコール類;
アセトン、メチルエチルケトン、メチル−n−プロピルケトン、メチルイソプロピルケトン、メチル−n−ブチルケトン、メチルイソブチルケトン、メチル−n−アミルケトン、メチルイソアミルケトン、ジエチルケトン、エチル−n−プロピルケトン、エチルイソプロピルケトン、エチル−n−ブチルケトン、エチルイソブチルケトン、ジ−n−プロピルケトン、ジイソブチルケトン、シクロヘキサノン、メチルシクロヘキサノン、イソホロン等のケトン類;
酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸−n−プロピル、酢酸イソプロピル、酢酸−n−ブチル、酢酸イソブチル、酢酸ヘキシル、酢酸オクチル、乳酸メチル、乳酸プロピル、乳酸ブチル等のエステル類;
エチレングリコール、エチレングリコールモノイソプロピルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテル、エチレングリコールモノヘキシルエーテル、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、ジエチレングリコールモノブチルエーテル、エチレングリコールジメチルエーテル、エチレングリコールジエチルエーテル、ジエチレングリコールジメチルエーテル、ジエチレングリコールジエチルエーテル、プロピレングリコール、プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノエチルエーテル、プロピレングリコールモノプロピルエーテル、プロピレングリコールモノブチルエーテル、ジプロピレングリコールモノメチルエーテル、ジプロピレングリコールモノエチルエーテル、ジプロピレングリコールジプロピルエーテル、トリプロピレングリコールモノメチルエーテル等のグリコールおよびグリコールエーテル類;
エチレングリコールモノメチルエーテルアセテート、エチレングリコールモノエチルエーテルアセテート、エチレングリコールモノブチルエーテルアセテート、ジエチレングリコールモノメチルエーテルアセテート、ジエチレングリコールモノエチルエーテルアセテート、ジエチレングリコールモノブチルエーテルアセテート、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート、プロピレングリコールモノエチルエーテルアセテート、プロピレングリコールモノブチルエーテルアセテート、ジプロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート等のグリコールアセテート類;
n−ヘキサン、イソヘキサン、n−ノナン、イソノナン、ドデカン、イソドデカン等の飽和炭水素類;
1−ヘキセン、1−ヘプテン、1−オクテン等の不飽和炭化水素類;
シクロヘキサン、シクロヘプタン、シクロオクタン、シクロデカン、デカリン等の環状飽和炭化水素類;
シクロヘキセン、シクロヘプテン、シクロオクテン、1,1,3,5,7−シクロオクタテトラエン、シクロドデセン等の環状不飽和炭化水素類、ベンゼン、トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素類等:
【0286】
これらの有機溶剤は単独で使用しても、2種類以上を混合して使用しても良い。
【0287】
{その他の色材}
ソルベント系顔料分散液においても、水性顔料分散液と同様、カーボンブラック以外の色材を含んでいても良く、この場合、その他の色材としては、水性顔料分散液の項で例示したものを用いることができる。
【0288】
{ソルベント系顔料分散液組成}
本発明のソルベント系顔料分散液は、少なくとも前述のPAH量及び含酸素官能基密集度を満たす特定のカーボンブラックと上述の分散剤と溶媒を含み、必要に応じてその他の成分を含んでいてもよい。
【0289】
ソルベント系顔料分散液中のカーボンブラック濃度としては、通常50重量%以下、好ましくは30重量%以下である。ここで、カーボンブラック濃度が高過ぎるとカーボンブラックが分散不良となり、また、分散液の粘度が増大し、分散液がゲル化したり、また、分散破壊により分散液が使用できなくなる場合があるが、カーボンブラック濃度が低すぎるとインク化した際に十分な印字濃度が出ないため、通常、0.1重量%以上、好ましくは0.5重量%以上、より好ましくは1重量%以上である。
【0290】
また、ソルベント系顔料分散液中の分散剤量としては、カーボンブラックに対する分散剤の含有割合として通常0.1重量%以上、好ましくは1重量%以上、通常200重量%以下、好ましくは100重量%以下である。分散剤量が少な過ぎると、十分な分散性が得られず、多すぎると分散液の粘度上昇や、分散液の安定性不良を引き起こす場合がある。
【0291】
なお、本発明のソルベント系顔料分散液中には、溶媒、カーボンブラック、分散剤以外の成分が含まれていても良く、特に、後述するようなインク組成物に含有され得る他の添加剤として例示するその他の成分が含まれていても良い。
【0292】
また、本発明のソルベント系顔料分散液がカーボンブラック以外の顔料を含む場合、そのカーボンブラックを含む全顔料の含有量が、上記カーボンブラック含有量の好適範囲となるようにすることが好ましく、また、カーボンブラックを含む全顔料に対する分散剤の含有量が上記分散剤含有量の好適範囲となるようにすることが好ましい。また、この場合、本発明に係るカーボンブラックを用いることによる効果を十分に得る上で、全顔料中の本発明に係るカーボンブラックの割合は50重量%以上、特に70重量%以上であることが好ましい。
【0293】
{インク組成物(記録液)}
本発明のソルベント系顔料分散液を含むインク組成物は、特に記録液、とりわけインクジェット用記録液として優れた効果を奏する。
【0294】
記録液等として用いられる本発明のインク組成物は、上述の本発明のソルベント系顔料分散液の色材濃度を必要に応じて調整し、更には用途に応じて各種添加剤を加えて調製される。
【0295】
色材としては、上述の本発明のソルベント系顔料分散液中のカーボンブラックやその他の顔料に加え、更に調色等の目的などで表面処理された自己分散性顔料や、染料や界面活性剤やポリマー分散剤等で分散された顔料、あるいは、染料等を追加で含んでいても良い。
【0296】
また、ソルベント系顔料分散液を含有するインク組成物には、例えば界面活性剤、結合剤、殺菌剤、防かび剤、殺藻剤、金属イオン封鎖剤、緩衝剤、腐食抑制剤、光安定剤、アンチカール剤、増粘剤、および/又は他の添加剤、などの1つ又は複数の他の材料を場合によっては含んでもよい。
【0297】
ソルベント系顔料分散液を含有するインク組成物における全色材の濃度は、インク組成物全量に対する、全色材の濃度として0.1重量%以上、中でも0.5重量%以上であることが好ましく、その上限は20重量%以下、好ましくは15重量%以下、特に10重量%以下であることが好ましい。この色材濃度が高過ぎると増粘し、かつ吐出性が悪化し、低すぎると印字濃度が低くなりすぎる。一方で、ソルベント系顔料分散液に追加する色材の量は、ソルベント系顔料分散液中のカーボンブラックを含む顔料100重量部に対して、通常100重量部以下、好ましくは75重量部以下、より好ましくは50重量部以下、特に好ましくは25重量部以下である。この色材の追加量が多過ぎると本発明の効果が低下する。
【0298】
また、ソルベント系顔料分散液を含有するインク組成物に用いる溶媒は、前述のソルベント系顔料分散液に含有される溶媒を含むことが好ましく、更に所望により他の成分を含むことができる。
【0299】
ソルベント系顔料分散液を含有するインク組成物中の溶媒濃度は、適宜選択し決定すればよいが、通常、インク組成物に対して1重量%以上45重量%以下、中でも40重量%以下であることが好ましい。
【0300】
{ソルベント系顔料分散液及びインク組成物の製造方法}
本発明のソルベント系顔料分散液の製造方法において、カーボンブラックを含む顔料、溶媒、及び顔料分散剤等の混合方法や添加順序は任意である。例えば、これらを1度に混合した混合物に一般的な分散機を用いて分散処理を施せばよく、その分散処理方法としては、本発明の水性顔料分散液におけると同様である。
【0301】
本発明のソルベント系顔料分散液を含むインク組成物は、前述の如く、このようにして製造されたソルベント系顔料分散液に、必要に応じて色材や各種添加剤を加えて同様に混合、分散処理することにより調製される。
【0302】
[UV系顔料分散液及びインク組成物]
次に、前述のようなカーボンブラックを含む本発明のUV系顔料分散液とこれを含むインク組成物について説明する。
【0303】
{分散剤}
UV系顔料分散液には必要に応じて顔料分散剤として、アニオン性、カチオン性、又はノニオン性の公知のポリマー分散剤が使用される。公知のポリマー分散剤としては、例えば、日本ルーブリゾール株式会社製「ソルスパース」シリーズ、味の素ファインテクノ株式会社製「アジスパー」シリーズ、ビッグケミー・ジャパン株式会社製「Disperbyk」シリーズ等の市販品が挙げられる。顔料分散剤は、一種類のみを用いても複数種を組み合わせて用いても良い。
【0304】
{溶媒:重合性モノマー}
UV系顔料分散液は、重合性のモノマーが分散媒体すなわち溶媒となる。
【0305】
重合性のモノマーとしてはその印字後の硬化方法に応じてラジカル重合性のモノマー又はカチオン重合性モノマーが用いられる。
【0306】
ラジカル重合性のモノマーとしては公知のものが用いられ、具体的には次のようなものが挙げられる。
【0307】
ブタンジオールモノアクリレート、N,N−ジメチルアミノエチルアクリレート、2−ヒドロキシエチルアクリレート、2−ヒドロキシエチルメタクリレート、ヒドロキシプロピルアクリレート、2−メトキシエチルアクリレート、N−ビニルカプロラクタム、N−ビニルピロリドン、アクリロイルモルフォリン、N−ビニルホルムアミド、シクロヘキシルアクリレート、シクロヘキシルメタクリレート、ジシクロペンタニルメタクリレート、グリシジルアクリレート、イソボニルアクリレート、イソデシルアクリレート、フェノキシメタクリレート、ステアリルアクリレート、テトラヒドロフルフリルアクリレート、2−フェノキシエチルアクリレート、2−ヒドロキシプロピルアクリレート、4−ヒドロキシブチルアクリレート、イソブチルアクリレート、t−ブチルアクリレート、イソオクチルアクリレート、イソボルニルアクリレート、メトキシトリエチレングリコールアクリレート、2−エトキシエチルアクリレート、テトラヒドロフルフリルアクリレート、3−メトキシブチルアクリレート、ベンジルアクリレート、エトキシエトキシエチルアクリレート、ブトキシエチルアクリレート、エトキシジエチレングリコールアクリレート、メトキシジプロピレングリコールアクリレート、メチルフェノキシエチルアクリレート、ジプロピレングリコールアクリレート等の1官能性のモノマー;
【0308】
エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ジエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、1,6−ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、エトキシ化1,6−ヘキサンジオールジアクリレート、プロポキシ化1,6−ヘキサンジオールジアクリレート、ネオペンチルグリコールジ(メタ)アクリレート、エトキシ化ネオペンチルグリコールジ(メタ)アクリレート、プロポキシ化ネオペンチルグリコールジ(メタ)アクリレート、トリプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、ポリプロピレングリコールジアクリレート、1,4−ブタンジオールジ(メタ)アクリレート、1,9−ノナンジオールジアクリレート、テトラエチレングリコールジアクリレート、2−n−ブチルー2−エチルー1,3−プロパンジオールジアクリレート、ジメチロールートリシクロデカンジアクリレート、ヒドロキシピバリン酸ネオペンチルグリコールジアクリレート、1,3−ブチレングリコールジ(メタ)アクリレート、エトキシ化ビスフェノールAジ(メタ)アクリレート、プロポキシ化ビスフェノールAジ(メタ)アクリレート、シクロヘキサンジメタノールジ(メタ)アクリレート、ジメチロールジシクロペンタンジアクリレート等の2官能性のモノマー;
【0309】
トリメチロールプロパントリアクリレート、エトキシ化トリメチロールプロパントリアクリレート、プロポキシ化トリメチロールプロパントリアクリレート、ペンタエリスリトールトリアクリレート、テトラメチロールプロパントリアクリレート、テトラメチロールメタントリアクリレート、カプロラクトン変性トリメチロールプロパントリアクリレート、エトキシ化イソシアヌール酸トリアクリレート、トリ(2−ヒドロキシエチルイソシアヌレート)トリアクリレート、プロポキシレートグリセリルトリアクリレート等の3官能性のモノマー:
【0310】
これらのラジカル重合性のモノマーは、1種を単独で用いてもよく、必要に応じて2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0311】
カチオン重合性モノマーとしては、公知のものが用いられ、具体的には次のようなものが挙げられる。
【0312】
エチレングリコールモノビニルエーテル、トリエチレングリコールモノビニルエーテル、ヒドロキシエチルモノビニルエーテル、ヒドロキシノニルモノビニルエーテル、エチルビニルエーテル、n−ブチルビニルエーテル、イソブチルビニルエーテル、オクタデシルビニルエーテル、シクロヘキシルビニルエーテル、ヒドロキシブチルビニルエーテル、2−エチルヘキシルビニルエーテル、シクロヘキサンジメタノールモノビニルエーテル、n−プロピルビニルエーテル、イソプロピルビニルエーテル、イソプロペニルエーテル−O−プロピレンカーボネート、ドデシルビニルエーテル、ジエチレングリコールモノビニルエーテル、オクタデシルビニルエーテル等のモノビニルエーテル化合物、1官能性脂環式エポキシ、1官能性オキセタン等の1官能性のモノマー;
【0313】
エチレングリコールジビニルエーテル、ジエチレングリコールジビニルエーテル、トリエチレングリコールジビニルエーテル、ブタンジオールジビニルエーテル、プロピレングリコールジビニルエーテル、ジプロピレングリコールジビニルエーテル、ヘキサンジオールジビニルエーテル、シクロヘキサンジメタノールジビニルエーテル等、2官能性脂環式エポキシ等、2官能性オキセタン等の2官能性のモノマー;
【0314】
トリメチロールプロパントリビニルエーテル、3官能性脂環式エポキシ、3官能性オキセタン等の3官能性のモノマー:
【0315】
これらのカチオン重合性のモノマーは、1種を単独で用いてもよく、必要に応じて2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0316】
{その他の色材}
UV系顔料分散液においても、水性顔料分散液と同様、カーボンブラック以外の色材を含んでいても良く、この場合、その他の色材としては、水性顔料分散液の項で例示したものを用いることができる。
【0317】
{UV系顔料分散液組成}
本発明のUV系顔料分散液は、少なくとも前述のPAH量及び含酸素官能基密集度を満たす特定のカーボンブラックと上述の分散剤と溶媒(重合性モノマー)を含み、必要に応じてその他の成分を含んでいてもよい。
【0318】
UV系顔料分散液のカーボンブラック濃度としては、通常50重量%以下、好ましくは30重量%以下である。ここで、カーボンブラック濃度が高過ぎるとカーボンブラックが分散不良となり、また、分散液の粘度が増大し、分散液がゲル化したり、また、分散破壊により分散液が使用できなくなる場合があるが、あまりカーボンブラック濃度が低すぎるとインク化した際に十分な印字濃度が出ないため、通常0.1重量%以上、好ましくは0.5重量%以上、より好ましくは1重量%以上である。
【0319】
また、UV系顔料分散液中の分散剤量としては、カーボンブラックに対する分散剤の含有割合として通常0.1重量%以上、好ましくは1重量%以上、通常200重量%以下、好ましくは100重量%以下である。分散剤量が少な過ぎると十分な分散性が得られず、多すぎると分散液の粘度上昇や、分散液の安定性不良を引き起こす場合がある。
【0320】
なお、本発明のUV系顔料分散液中には、溶媒(重合性モノマー)、カーボンブラック、分散剤以外の成分が含まれていても良く、特に、後述するようなインク組成物に含有され得る他の添加剤として例示するその他の成分が含まれていても良い。
【0321】
また、本発明のUV系顔料分散液液がカーボンブラック以外の顔料を含む場合、そのカーボンブラックを含む全顔料の含有量が、上記カーボンブラック含有量の好適範囲となるようにすることが好ましく、また、カーボンブラックを含む全顔料に対する分散剤の含有量が上記分散剤含有量の好適範囲となるようにすることが好ましい。また、この場合、本発明に係るカーボンブラックを用いることによる効果を十分に得る上で、全顔料中の本発明に係るカーボンブラックの割合は50重量%以上、特に70重量%以上であることが好ましい。
【0322】
{インク組成物(記録液)}
本発明のUV系顔料分散液を含むインク組成物は、特に記録液、とりわけインクジェット用記録液として優れた効果を奏する。
【0323】
記録液等として用いられる本発明のインク組成物は、上述の本発明のUV系顔料分散液の色材濃度を必要に応じて調整し、更には用途に応じて各種添加剤を加えて調製される。
【0324】
色材としては、上述の本発明のUV系顔料分散液中のカーボンブラックやその他の顔料に加え、更に調色等の目的などで表面処理された自己分散性顔料や、染料や界面活性剤やポリマー分散剤等で分散された顔料、あるいは、染料等を追加で含んでいても良い。
【0325】
また、UV系顔料分散液を含有するインク組成物には、その印字後の硬化方法に応じて光ラジカル重合開始剤、又は光カチオン重合開始剤等の重合開始剤が含有される。
さらには例えば界面活性剤、結合剤、殺菌剤、防かび剤、殺藻剤、金属イオン封鎖剤、緩衝剤、腐食抑制剤、光安定剤、アンチカール剤、増粘剤、および/又は他の添加剤、などの1つ又は複数の他の材料を場合によっては含んでもよい。
【0326】
UV系顔料分散液を含有するインク組成物における全色材の濃度は、インク組成物全量に対する、全色材の濃度として0.1重量%以上、中でも0.5重量%以上であることが好ましく、その上限は20重量%以下、好ましくは15重量%以下、特に10重量%以下であることが好ましい。この色材濃度が高過ぎると増粘し、かつ吐出性が悪化し、低すぎると印字濃度が低くなりすぎる。一方で、UV系顔料分散液に追加する色材の量は、UV系顔料分散液中のカーボンブラックを含む顔料100重量部に対して、通常100重量部以下、好ましくは75重量部以下、より好ましくは50重量部以下、特に好ましくは25重量部以下である。この色材の追加量が多過ぎると本発明の効果が低下する。
【0327】
また、UV系顔料分散液を含有するインク組成物に用いる溶媒は、前述のUV系顔料分散液に含有される溶媒を含むことが好ましく、更に所望により他の成分を含むことができる。
【0328】
UV系顔料分散液を含有するインク組成物中の溶媒濃度は、適宜選択し決定すればよいが、通常、インク組成物に対して1重量%以上45重量%以下、中でも40重量%以下であることが好ましい。
【0329】
{UV系顔料分散液及びインク組成物の製造方法}
本発明のUV系顔料分散液の製造方法において、カーボンブラックを含む顔料、溶媒(重合性モノマー)、及び顔料分散剤等の混合方法や添加順序は任意である。例えば、これらを1度に混合した混合物に一般的な分散機を用いて分散処理を施せばよく、その分散処理方法としては、本発明の水性顔料分散液におけると同様である。
【0330】
本発明のUV系顔料分散液を含むインク組成物は、前述の如く、このようにして製造されたUV系顔料分散液に、重合開始剤及び必要に応じて色材や各種添加剤を加えて同様に混合、分散処理することにより調製される。
【実施例】
【0331】
以下に合成例、実施例及び比較例を挙げて本発明をより具体的に説明するが、本発明はその要旨を超えない限り、以下の実施例に限定されるものではない。
【0332】
なお、以下の諸例においては、アニオンランダムコポリマーA〜Eの数平均分子量(Mn)及び重量平均分子量(Mw)の測定は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)を使用した下記条件で行った。
カラム充填剤: スチレン−ジビニルベンゼン共重合体
溶媒: テトラヒドロフラン
流速: 0.7mL/min
温度: 40℃
また、キャリブレーションはポリスチレンを用いて行った。
尚、今回は、以下の装置、検出器及びカラムを使って測定した。
装置: 日本ウォーターズ(株)製 Waters 2690
検出器: 日本ウォーターズ(株)製 Waters 2410
カラム: 昭和電工株式会社製 Shodex GPC KF−604・
KF−603・KF−602.5
【0333】
また、カチオンランダムコポリマーa,bの数平均分子量(Mn)及び重量平均分子量(Mw)の測定は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)を使用した下記条件で行った。
カラム充填剤: スチレン−ジビニルベンゼン共重合体
溶媒: ジメチルスルホキシド(含50mM LiBr(臭化リチウム))
流速: 0.27mL/min
温度: 50℃
また、キャリブレーションはポリエチレングリコールを用いて行った。
尚、今回は、以下の装置、検出器及びカラムを使って測定し、キャリブレーションはPolymer Laboratories社製のものを用いて行った。
装置: 日本ウォーターズ(株)製 Waters 2695
検出器: 日本ウォーターズ(株)製 Waters 2414
カラム: 昭和電工株式会社製 Shodex GPC KF−G・KF−604・
KF−603
【0334】
また、アニオンランダムコポリマーF、ブロックコポリマーXの数平均分子量(Mn)及び重量平均分子量(Mw)の測定は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)を使用した下記条件で行った。
カラム充填剤: ポリヒドロキシメタクリレート
溶媒: 水/アセトニトリル
(70/30(v/v), 0.2Mトリス塩酸緩衝剤, 0.1M
KCl含)
流速: 0.7mL/min
温度: 40℃
また、キャリブレーションはポリエチレングリコールを用いて行った。
尚、今回は、以下の装置、検出器及びカラムを使って測定した。
装置: 日本ウォーターズ(株)製 Waters 2695
検出器: 日本ウォーターズ(株)製 Waters 2410
カラム: 昭和電工株式会社製 Shodex OHpak
SB−G・SB−804HQ・SB−803HQ・SB−802.5HQ
【0335】
また、得られたランダムポリマーの構造は、H−NMRによって確認し、モノマー構成単位の組成比はNMRデータにより算出した。
以下の表記において、「co」はcopolymerの「co」を意味し、「b」はblockcopolymerの「block」を意味する。
【0336】
[ポリマーの合成]
以下に実施例及び比較例で顔料分散剤として用いたポリマーの合成例を示す。
【0337】
<合成例1>
ポリ(スチレン−co−n−ブチルアクリレート−co−アクリル酸ナトリウム)(アニオンランダムコポリマーA)の合成
内部を窒素置換したコンデンサー、窒素導入管、撹拌機及び温度計付きのフラスコに、重合開始剤として2,2’−アゾビス(2,4−ジメチルバレロニトリル)30gを仕込み、溶媒としてテトラヒドロフラン3500.0g、モノマーとしてアクリル酸600.0g、n−ブチルアクリレート600.0g、及びスチレン400.0gを仕込んだ。バス温度を室温から70℃まで1時間かけて上昇させ、70℃で8時間、重合反応を行った。
【0338】
反応終了後、反応液を室温まで冷却し、水酸化ナトリウム/メタノール溶液で中和後、イソプロピルアルコール中に沈殿させた。沈殿を濾過し、真空乾燥することで、ポリ(スチレン−co−n−ブチルアクリレート−co−アクリル酸ナトリウム):アニオンランダムコポリマーAとアクリル酸ナトリウムの混合物を得た。このアニオンランダムコポリマーAの数平均分子量(Mn)は11000、重量平均分子量(Mw)は18000、分子量分布(Mw/Mn)は1.6であった。
【0339】
上記アニオンランダムコポリマーAとアクリル酸ナトリウムの混合物30.0gを水970.0gに溶解した後、限外濾過膜処理により、アクリル酸ナトリウムを除去した。アクリル酸ナトリウム除去後、ポリマー水溶液を濃縮・乾固することにより、上記アニオンランダムコポリマーAを得た。
【0340】
このアニオンランダムコポリマーAの構造を、重水を溶媒としたH−NMRにより確認したところ、ランダムコポリマーA中のスチレン構成単位、n−ブチルアクリレート構成単位、アクリル酸ナトリウム構成単位の組成比は、32/21/47(モル比)=32/26/42(重量比)であった。
【0341】
アニオンランダムコポリマーAは、上述の工程によってイオン性基であるカルボキシル基のほぼ全部が中和された状態であり、濃度13.14重量%の水溶液を調製したところ25℃で無色透明であった。
【0342】
<合成例2>
ポリビニルアルコール−b−ポリ(アクリル酸ナトリウム−co−アクリル酸メチル−co−メタクリル酸ナトリウム−co−メタクリル酸ベンジル−co−スチレン)(ブロックコポリマーX)の合成
【0343】
内部を窒素置換したコンデンサー、窒素導入管、撹拌機及び温度計付きのフラスコに、酢酸ビニル3587g、連鎖移動剤及び溶媒としてクロロホルム1907gを仕込み、1時間掛けて70℃に昇温した。次いで、クロロホルム534gに重合開始剤としてアゾビス(2−メチルブチロニトリル)0.3gを溶解した重合開始剤溶液を、6時間かけて滴下した。その後、クロロホルム444.5gに、重合開始剤としてアゾビス(2−メチルブチロニトリル)0.5gを溶解した重合開始剤溶液を、5時間かけて滴下した。重合開始剤溶液の滴下後、加熱し、還流条件下、10時間重合反応を行った。反応終了後反応溶液中に0.01N水酸化ナトリウム/メタノール溶液を連続的に滴下しながら、内温40℃で未反応の酢酸ビニルとクロロホルムを減圧留去し、ポリ酢酸ビニルメタノール溶液(ポリマー濃度74重量%)を得た。このポリ酢酸ビニルは数平均分子量(Mn)3500、重量平均分子量(Mw)8400、分子量分布(Mw/Mn)2.4であった。
【0344】
上記のポリ酢酸ビニルの末端構造は、−CClであった。これは、H−NMR(溶媒CDCl)において、このポリ酢酸ビニルの末端に隣接してメチレン基のピーク(化学シフトδ=2.8〜3.2のピーク)が認められたことと、末端構造を−CClとして計算される数平均分子量(Mn)(3500)とGPCから求めた数平均分子量(Mn)が一致することに基き、これにより、片末端が定量的にハロゲン置換した基(−CCl)を有するポリ酢酸ビニルが合成できたことを確認した。
【0345】
次いで、内部を窒素置換したコンデンサー、窒素導入管、撹拌機及び温度計付きのフラスコに、溶媒としてメタノール17g、及びイソプロピルアルコール1048.5g、モノマーとしてアクリル酸メチル2623g、メタクリル酸ベンジル2142g、及びスチレン63.5g、マクロ開始剤として前記のポリ酢酸ビニルメタノール溶液1353gを仕込み、室温から60℃まで1時間で昇温した。内温が60℃に達した時点で、メタノール30gに触媒として臭化第一銅0.6g、配位子としてトリス(2−ジメチルアミノ)エチルアミン12.0gを溶解した触媒溶液を添加した。触媒溶液添加後、加熱し、還流条件下、30時間重合反応を行った。
【0346】
得られるポリマーの数平均分子量(Mn)は重合反応時間の経過とともに増大した。
ガスクロマトグラフィーより求めた、重合溶液中のモノマー消費量から計算されるポリマー中のアクリル酸メチル(MA)、メタクリル酸ベンジル(BzMA)、スチレン(St)の各モノマー構成単位のモル比率を表1に示す。
【0347】
【表1】

【0348】
表1から明らかな通り、ポリ酢酸ビニルと連結したブロックコポリマーは、その数平均分子量(Mn)の増加とともに組成が変化し、このブロックコポリマー中のモノマー組成が、末端に向かって変化している(グラジエントである)ポリ酢酸ビニル−b−ポリ(アクリル酸メチル−co−メタクリル酸ベンジル−co−スチレン)であることを確認した。またそのポリマーの数平均分子量(Mn)は16300、重量平均分子量(Mw)26600、分子量分布(Mw/Mn)は1.63であった。このポリ酢酸ビニル系ブロックコポリマーにおいて、ポリ酢酸ビニルブロックと他方のブロックとを連結する連結基は、ジクロロメチレン基である。
【0349】
次いで、コンデンサー、撹拌機及び温度計付きの反応釜中でメタノール276gとテトラヒドロフラン552g、水138gの混合溶媒に上記の重合溶液502gを溶解した後、60℃まで昇温し、5N水酸化ナトリウム728g加え、65℃で7時間反応を行った。反応終了後、上澄み液を除去して得られたポリマー塊にテトラヒドロフラン(THF)550g、水140gを加え、懸濁させた後に、メタノール280gを加えてポリマーを沈殿させた。再度上澄み液を除去し、水300gを加えた後、酢酸で中和し、溶液を90℃まで加熱し、残THFとメタノールを留去し、ポリマー水溶液を得た。その後、限外濾過膜(ACP−1050旭化成株式会社製)を用いてポリマー水溶液から不純物を除去した。限外濾過後のポリマー水溶液を濃縮、乾固することにより、ポリビニルアルコール系ブロックと連結したコポリマーがグラジエントコポリマーであるポリビニルアルコール−b−ポリ(アクリル酸ナトリウム−co−アクリル酸メチル−co−メタクリル酸ナトリウム−co−メタクリル酸ベンジル−co−スチレン)(ブロックコポリマーX)を得た。
このブロックコポリマーXにおいて、ポリビニルアルコール系ブロックと他方のブロックとを連結する連結基は、上述した連結基(ジクロロメチレン基)における塩素原子の一部又は全部が水素原子に置換されたものである。
【0350】
上記のブロックコポリマーXの構造は、重水を溶媒としたH−NMRにより確認した。H−NMRにより求められたブロックコポリマーX中のビニルアルコール構成単位、アクリル酸ナトリウム構成単位、アクリル酸メチル構成単位、メタクリル酸ナトリウム構成単位、メタクリル酸ベンジル構成単位、スチレン構成単位の組成比は、25:26:21:2:21:5(モル比)であった。またブロックコポリマーXの数平均分子量(Mn)は14000、重量平均分子量(Mw)は22300、分子量分布(Mw/Mn)は1.59であった。
【0351】
ブロックコポリマーXに蒸留水を加え、ポリマー濃度10.0重量%の水溶液を得た。25℃において、この水溶液の外観は黄褐色透明であった。
【0352】
<合成例3>
ポリ(スチレン−co−メトキシポリエチレングリコールアクリレート−co−アクリル酸ナトリウム)(アニオンランダムコポリマーB)の合成
内部を窒素置換したコンデンサー、窒素導入管、撹拌機及び温度計付きのフラスコに、重合開始剤として2,2’−アゾビス(2,4−ジメチルバレロニトリル)16.8gを仕込み、溶媒としてメタノール1817.3g、モノマーとしてスチレン455.2g、メトキシポリエチレングリコールアクリレート(ライトアクリレート130A・共栄社化学(株)製、前記一般式(5)において、p=9)805.2g、及びアクリル酸49.0gを仕込んだ。バス温度を室温から70℃まで30分かけて上昇させ、70℃で4時間重合反応を行った。その後、重合開始剤である2,2’−アゾビス(2,4−ジメチルバレロニトリル)7.0gをメタノール70gに溶かした溶液を反応系中に添加し、更に6時間重合反応を行った。
【0353】
反応終了後、反応液を室温まで冷却し、攪拌しながら5Nの水酸化ナトリウム水溶液95.2gを加えた後、エバポレーターでメタノールを除去しながら脱イオン水を加水することにより、粗ポリマー水溶液を得た。粗ポリマー水溶液より限外濾過膜処理にて不純物を除去後、ポリマー水溶液を濃縮・乾固し、水溶性のポリ(スチレン−co−メトキシポリエチレングリコールアクリレート−co−アクリル酸ナトリウム):アニオンランダムコポリマーBを得た。このアニオンランダムコポリマーBの数平均分子量(Mn)は10000、重量平均分子量(Mw)は19000、分子量分布(Mw/Mn)は1.9であった。
【0354】
このアニオンランダムコポリマーBの構造を、d−DMSO(ジメチルスルホキシド)を溶媒としたH−NMRにより確認したところ、ランダムコポリマーB中のスチレン構成単位、メトキシポリエチレングリコールアクリレート構成単位、アクリル酸ナトリウム構成単位の組成比は、61/20/19(モル比)=36/54/10(重量比)であった。
【0355】
アニオンランダムコポリマーBは、上述の工程によってイオン性基であるカルボキシル基の70モル%が中和された状態であり、濃度10.5重量%の水溶液を調製したところ25℃で無色透明であった。
【0356】
<合成例4>
ポリ(スチレン−co−メトキシポリエチレングリコールアクリレート−co−アクリル酸ナトリウム)(アニオンランダムコポリマーC)の合成
内部を窒素置換したコンデンサー、窒素導入管、撹拌機及び温度計付きのフラスコに、重合開始剤として2,2’−アゾビス(2,4−ジメチルバレロニトリル)16.9gを仕込み、溶媒としてメタノール1834.8g、モノマーとしてスチレン272.4g、メトキシポリエチレングリコールアクリレート(ライトアクリレート130A・共栄社化学(株)製)1009.9g、及びアクリル酸37.7gを仕込んだ。バス温度を室温から70℃まで30分かけて上昇させ、70℃で4時間重合反応を行った。その後、重合開始剤である2,2’−アゾビス(2,4−ジメチルバレロニトリル)7.0gをメタノール70.0gに溶かした溶液を反応系中に添加し、更に6時間重合反応を行った。
【0357】
反応終了後、反応液を室温まで冷却し、攪拌しながら5Nの水酸化ナトリウム水溶液86.8gを加えた後、エバポレーターでメタノールを除去しながら脱イオン水を加水することにより、粗ポリマー水溶液を得た。粗ポリマー水溶液より限外濾過膜処理にて不純物を除去後、ポリマー水溶液を濃縮・乾固し、水溶性のポリ(スチレン−co−メトキシポリエチレングリコールアクリレート−co−アクリル酸ナトリウム):アニオンランダムコポリマーCを得た。このアニオンランダムポリマーCの数平均分子量(Mn)は11000、重量平均分子量(Mw)は20700、分子量分布は(Mw/Mn)は1.9であった。
【0358】
このアニオンランダムコポリマーCの構造を、d−DMSO(ジメチルスルホキシド)を溶媒としたH−NMRにより確認したところ、ランダムコポリマーC中のスチレン構成単位、メトキシポリエチレングリコールアクリレート構成単位、アクリル酸ナトリウム構成単位の組成比は、57/33/10(モル比)=26/70/4(重量比)であった。
【0359】
アニオンランダムコポリマーCは、上述の工程によってイオン性基であるカルボキシル基の83モル%が中和された状態であり、濃度13.1重量%の水溶液を調製したところ25℃で無色透明であった。
【0360】
<合成例5>
ポリ(スチレン−co−メトキシポリエチレングリコールアクリレート−co−アクリル酸ナトリウム)(アニオンランダムコポリマーD)の合成
内部を窒素置換したコンデンサー、窒素導入管、撹拌機及び温度計付きのフラスコに、重合開始剤として2,2’−アゾビス(2,4−ジメチルバレロニトリル)3.7gを仕込み、溶媒としてメタノール422.4g、モノマーとしてスチレン101.5g、メトキシポリエチレングリコールアクリレート(ライトアクリレート130A・共栄社化学(株)製)378.7g、及びアクリル酸14.2gを仕込んだ。バス温度を室温から70℃まで50分かけて上昇させ、70℃で4時間重合反応を行った。その後、重合開始剤である2,2’−アゾビス(2,4−ジメチルバレロニトリル)1.7gをメタノール16.5gに溶かした溶液を反応系中に添加し、更に6時間重合反応を行った。
【0361】
反応終了後、反応液を室温まで冷却し、攪拌しながら5Nの水酸化ナトリウム水溶液32.7gを加えた後、エバポレーターでメタノールを除去しながら脱イオン水を加水することにより、粗ポリマー水溶液を得た。粗ポリマー水溶液より限外濾過膜処理にて不純物を除去後、ポリマー水溶液を濃縮・乾固し、水溶性のポリ(スチレン−co−メトキシポリエチレングリコールアクリレート−co−アクリル酸ナトリウム):アニオンランダムコポリマーDを得た。このアニオンランダムコポリマーDの数平均分子量(Mn)は18600、重量平均分子量(Mw)は33000、分子量分布は(Mw/Mn)は1.8であった。
【0362】
このアニオンランダムコポリマーDの構造を、d−DMSO(ジメチルスルホキシド)を溶媒としたH−NMRにより確認したところ、ランダムコポリマーD中のスチレン構成単位、メトキシポリエチレングリコールアクリレート構成単位、アクリル酸ナトリウム構成単位の組成比は、60/35/5(モル比)=26/72/2(重量比)であった。
【0363】
アニオンランダムコポリマーDは、上述の工程によってイオン性基であるカルボキシル基の83モル%が中和された状態であり、濃度18.3重量%の水溶液を調製したところ25℃で無色透明であった。
【0364】
<合成例6>
ポリ(スチレン−co−2−ヒドロキシエチルアクリルアミド−co−メトキシポリエチレングリコールアクリレート−co−アクリル酸ナトリウム)(アニオンランダムコポリマーE)の合成
内部を窒素置換したコンデンサー、窒素導入管、撹拌機及び温度計付きのフラスコに、重合開始剤として2,2’−アゾビス(2,4−ジメチルバレロニトリル)3.85gを仕込み、溶媒としてメタノール416g、モノマーとしてスチレン63.04g、2−ヒドロキシエチルアクリルアミド43.50g、メトキシポリエチレングリコールアクリレート(ライトアクリレート130A・共栄社化学(株)製)182.55g、及びアクリル酸10.90gを上記のフラスコ内に仕込んだ。バス温度を室温から70℃まで30分かけて上昇させ、70℃で5時間重合反応を行った後、重合開始剤である2,2’−アゾビス(2,4−ジメチルバレロニトリル)1.60gをメタノール14gに溶かした溶液を反応系中に添加し、更に3時間重合反応を行った。
【0365】
反応終了後、反応液を室温まで冷却し、攪拌しながら5Nの水酸化ナトリウム水溶液28.70gを加えた後、エバポレーターでメタノールを除去しながら脱イオン水を加水することにより、粗ポリマー水溶液を得た。粗ポリマー水溶液より限外濾過膜処理にて不純物を除去後、ポリマー水溶液を濃縮・乾固し、ポリ(スチレン−co−2−ヒドロキシエチルアクリルアミド−co−メトキシポリエチレングリコールアクリレート−co−アクリル酸ナトリウム):アニオンランダムコポリマーEを得た。このアニオンランダムポリマーEの数平均分子量(Mn)は10300、重量平均分子量(Mw)は19500、分子量分布は1.9であった。
【0366】
このアニオンランダムコポリマーEの構造を、重水を溶媒としたH−NMRにより確認したところ、ランダムコポリマーE中のスチレン構成単位、2−ヒドロキシエチルアクリルアミド構成単位、メトキシポリエチレングリコールアクリレート構成単位、アクリル酸ナトリウム構成単位の組成比は、50/13/24/13(モル比)=27/8/59/6(重量比)であった。
【0367】
アニオンランダムコポリマーEは、上述の工程によってイオン性基であるカルボキシル基の95モル%が中和された状態であり、濃度26.4重量%の水溶液を調製したところ25℃で無色透明であった。
【0368】
<合成例7>
ポリ(スチレン−co−2−メタクリロイルオキシエチルトリメチルアンモニウムクロライド)(カチオンランダムコポリマーa)の合成
内部を窒素置換したコンデンサー、窒素導入管、撹拌機及び温度計付きのセパラブルフラスコに、重合開始剤として2,2’−アゾビスイゾブチロニトリル4.76gを仕込み、次に、溶媒としてソルミックスA−11(エタノール85.5重量%メタノール13.4重量% IPA(イソプロピルアルコール)1.1重量%の混合溶媒、日本アルコール販売(株)製)623.6g、及び脱イオン水97.0g、モノマーとしてスチレン97.0g、アクリエステルDMC(2−メタクリロイルオキシエチルトリメチルアンモニウムクロライドの80重量%水溶液 三菱レイヨン(株)製)103.7g、連鎖移動剤として2−メルカプトエタノール4.76gを、上記のフラスコ内に仕込んだ。
【0369】
セパラブルフラスコをオイルバスに浸し、バス温度を室温から78℃まで45分間かけて上昇させ、78℃で10時間重合を行った。重合終了後、エバポレーターで重合液を減圧濃縮した後、アセトン中に2.5倍に濃縮した重合液を滴下して生成したポリマーを沈殿させた。上澄み液をデカンテーションにより除去し、脱イオン水1500gを加えて混合した後、常圧蒸留により残存有機溶媒を除去しポリマー水溶液を得た。得られたポリマー水溶液を乾燥し、ポリ(スチレン−co−2−メタクリロイルオキシエチルトリメチルアンモニウムクロライド):カチオンランダムコポリマーaを得た。
【0370】
上記カチオンランダムコポリマーaの構造は、DMSO(ジメチルスルホキシド)を溶媒としたH−NMRによって確認したところ、ランダムコポリマーa中のスチレン構成単位、2−メタクリロイルオキシエチルトリメチルアンモニウムクロライド構成単位の組成比は、70:30(モル比)=54:46(重量比)であった。
【0371】
また、このカチオンランダムコポリマーaの数平均分子量(Mn)は7000、重量平均分子量(Mw)は9100、分子量分布(Mw/Mn)は1.3であった。
【0372】
カチオンランダムコポリマーaは、濃度17.1重量%の水溶液を調製したところ25℃で無色透明であった。
【0373】
<合成例8>
ポリ(メタクリル酸イソボルニル−co−メトキシポリエチレングリコールアクリレート−co−アクリル酸ナトリウム)(アニオンランダムコポリマーF)の合成
内部を窒素置換したコンデンサー、窒素導入管、撹拌機及び温度計付きのフラスコに、溶媒としてテトラヒドロフラン1875g、モノマーとして、メタクリル酸イソボルニル301.72g、メトキシポリエチレングリコールアクリレート(ライトアクリレート130A・共栄社化学(株)製)654.90g、及びアクリル酸293.38gを仕込んだ。バス温度を60℃まで上昇させた後、重合開始剤として2,2’−アゾビス(イソブチロニトリル)5.57gを加え、5時間重合反応を行った。その後、バス温度を70℃まで上昇させ、更に2時間重合反応を行った。
【0374】
反応終了後、室温まで冷却し、5N水酸化ナトリウム水溶液652gで中和した後、脱イオン水を加え、テトラヒドロフランを加熱留去し、粗ポリマー水溶液を得た。粗ポリマー水溶液より限外濾過膜処理にて不純物を除去後、ポリマー水溶液を濃縮・乾固し、ポリ(メタクリル酸イソボルニル−co−メトキシポリエチレングリコールアクリレート−co−アクリル酸ナトリウム):アニオンランダムコポリマーFを得た。このアニオンランダムコポリマーFの数平均分子量(Mn)は12000、重量平均分子量(Mw)は22800、分子量分布(Mw/Mn)は1.9であった。
【0375】
得られたアニオンランダムコポリマーFの構造を、d−DMSOを溶媒としたH−NMRにより確認したところ、ランダムコポリマーF中のメタクリル酸イソボルニル構成単位、メトキシポリエチレングリコールアクリレート構成単位、アクリル酸ナトリウム構成単位の組成比は、26/20/54(モル比)=28/47/25(重量比)であった。
【0376】
アニオンランダムコポリマーFは、上述の工程によってイオン性基であるカルボキシル基の80モル%が中和された状態であり、濃度12.99重量%の水溶液を調製したところ25℃で無色透明であった。
【0377】
<合成例9>
ポリ(スチレン−co−2−メタクリロイルオキシエチルトリメチルアンモニウムクロライド)(カチオンランダムコポリマーb)の合成
内部を窒素置換したコンデンサー、窒素導入管、撹拌機及び温度計付きのセパラブルフラスコに、重合開始剤として2,2’−アゾビスイゾブチロニトリル24.3gを仕込み、次に、溶媒としてソルミックスA−11(日本アルコール販売(株)製)3885g、及び脱イオン水578g、モノマーとしてスチレン727g、アクリエステルDMC(三菱レイヨン(株)製)775gを、更にチオール化合物としてラウリルメルカプタン61.5gを、上記のフラスコ内に仕込んだ。
【0378】
セパラブルフラスコをオイルバスに浸し、バス温度を室温から78℃まで1時間かけて上昇させ、78℃で10時間重合を行った。重合終了後、エバポレーターで重合液を減圧濃縮した後、イソプロパノール/テトラヒドロフラン(1/2=v/v)混合溶媒中に2倍に濃縮した重合液を滴下して生成したポリマーを沈殿させた。上澄み液をデカンテーションにより除去し、脱イオン水7000gを加えて混合した後、常圧蒸留により残存有機溶媒を除去しポリマー水溶液を得た。得られたポリマー水溶液を乾燥し、ポリ(スチレン−co−2−メタクリロイルオキシエチルトリメチルアンモニウムクロライド):カチオンランダムコポリマーbを得た。
【0379】
このカチオンランダムコポリマーbの構造を、DMSO(ジメチルスルホキシド)を溶媒としたH−NMRよって確認したところ、ランダムコポリマーb中のスチレン構成単位、2−メタクリロイルオキシエチルトリメチルアンモニウムクロライド構成単位の組成比は、70:30(モル比)=54:46(重量比)であった。
【0380】
また、このカチオンランダムコポリマーbの数平均分子量(Mn)は7500、重量平均分子量(Mw)は11000、分子量分布(Mw/Mn)は1.5であった。
【0381】
カチオンランダムコポリマーbは、濃度14.9重量%の水溶液を調製したところ25℃で無色透明であった。
【0382】
[実施例及び比較例]
以下に、合成例1〜9で得られたアニオンランダムコポリマーA〜Fと、カチオンランダムコポリマーa,bと、ブロックコポリマーXを用いた水性顔料分散液及び記録液の製造例及び評価結果を示す。
【0383】
なお、以下において、水性顔料分散液の調製に用いたカーボンブラックのPAH量は、「カーボンブラック中のPAH含有量の測定方法」(1994年7月8日、キャボット社発行)に準じて、カーボンブラックをトルエンで48時間ソックスレー抽出し、得られた抽出液を濃縮してGC−MSで定量することにより求めた。また、カーボンブラックの含酸素官能基密集度は前述の方法で測定した。
また、以下のカーボンブラックサンプルα及びカーボンブラックサンプルβにおいて、一次粒子径は電子顕微鏡による算術平均径(数平均)であり、窒素吸着比表面積はJISK6217の方法で測定した値、揮発分はJISK6221の方法で測定された値(カーボンブラックを950℃で7分間加熱した際の揮発(減量)分)である。
【0384】
<実施例1>
表2に示すPAH量及び含酸素官能基密集度の焼成品カーボンブラック(カーボンブラックサンプルα(ファーネスブラック;一次粒子径15nm、窒素吸着比表面積320m/g、揮発分2%)を窒素雰囲気下、1200℃で30日間焼成したもの;パウダー;固形分量100重量%)28.0g、アニオンランダムコポリマーA水溶液(アニオンランダムコポリマーA濃度13.14重量%)85.2g、及び脱イオン水152.8gを混合し、ホモミキサーで10分間予備分散後、0.5mmφのジルコニアビーズをメディアとした自作のビーズミルを用いて60℃で4時間分散し、次いで、ブロックコポリマーX水溶液(ブロックコポリマーX濃度10.0重量%)14.0gを添加した後、更にビーズミルを用いて60℃で3時間分散後、40℃で1時間分散してビーズを除いた後、顔料濃度8重量%になるよう脱イオン水で希釈して分散液aを得た。
【0385】
分散液aを500mlトールビーカーに入れ、ビーカーを氷水中に漬け、超音波ホモジナイザー(日本精機製作所(株);US−600T;使用チップ36mmφ)で60分間分散し、顔料分散液Aを得た。
【0386】
上記顔料分散液Aを用い、以下の処方により、インク化した。
顔料分散液A 3.75g
脱イオン水 4.00g
2−ピロリドン 0.22g
グリセリン 0.57g
トリエチレングリコール 0.48g
エチレン尿素 0.88g
2,4,7,9−テトラメチル−5−デシン−4,7−ジオール−ジ(ポリオキシエチレン)エーテル(エアプロダクツ社製アセチレングリコール系界面活性剤、商品名オルフィンE1010) 0.1g
上記成分を混合し、15分撹拌、30分間超音波処理後、記録液Aを得た。
【0387】
得られた顔料分散液A及び記録液Aについて、下記(a)〜(c)の特性を以下の試験方法で評価し、結果を表2に示した。
なお、プリンターとしては、インクジェット記録方式プリンター(キヤノン(株)PIXUS BJ−S700)を用い、印字用紙としては、市販の光沢紙(キヤノン(株)製SP−101)を用いた。
【0388】
(a)記録液の安定性
記録液について、調製直後の顔料(カーボンブラック)の分散粒径及び粘度と、70℃で15時間保持した後の顔料(カーボンブラック)の分散粒径及び粘度を測定した。保持後の粒径及び粘度の増大が小さいほど安定である。
顔料の分散粒径は、記録液を脱イオン水で10000倍に希釈し、大塚電子(株)FPAR−1000で希釈用プローブを使用して測定し、平均粒径の値はCumulant法により算出した。また、粘度はレオメーター(REOLOGICA AB Insturuments;VAR−100;コーン1°/55φ)を使用して測定し、剪断速度100/秒の時の値を読み取った。
【0389】
(b)記録画像のグロス測定
記録液で印字した光沢紙(キヤノン(株)社製SP−101)を、1日間室温で乾燥させたもののグロス及びヘーズを測定した。グロス測定及びヘーズ測定は、Haze−Glossメーター(BYK Gardner社製 Cat.No.4601)を用いて行い、グロス値は20°の測定値を採用した。なお、測定Haze値と線形Haze値とは、以下の関係にある。
測定Haze = 1285.1 X log(線形Haze/20 + 1)
一般にグロスが高くなると、ヘーズも高くなる傾向があるため、それぞれの値の比較だけでは、光沢性の優劣がつけにくいため、ヘーズ/グロスの値の比較を行った。この数値が小さいほど光沢性が高いことを示す。
【0390】
(c)油状不純物観察
調製後の顔料分散液を目視で観察し、油状物の有無を確認した。
【0391】
<実施例2>
焼成品カーボンブラック(カーボンブラックサンプルαを窒素雰囲気下、1200℃で30日間焼成したもの;パウダー;固形分量100重量%)28.0g、アニオンランダムコポリマーB水溶液(アニオンランダムコポリマー濃度10.5重量%)120.1g、及び脱イオン水117.9gを混合し、回転型分散機であるクレアミックス(MTECHNIQUE社製;CLM−0.8S)で1時間予備分散後、0.3mmφのジルコニアビーズをメディアとした自作のビーズミルを用いて60℃で4時間分散し、次いで、ブロックコポリマーX水溶液(ブロックコポリマーX濃度10.0重量%)14.0gを添加した後、更にビーズミルを用いて60℃で3時間分散し、40℃で1時間分散してビーズを除いた後、顔料濃度8重量%になるよう脱イオン水で希釈して分散液bを得た。
【0392】
上記分散液bを500mlトールビーカーに入れ、ビーカーを氷水中に漬け、超音波ホモジナイザー(日本精機製作所(株);US−600T;使用チップ36mmφ)で90分間分散し顔料分散液Bを得た。
顔料分散液Aの代りにこの顔料分散液Bを用いて、実施例1と同様に記録液Bを調製し、同様に評価した。
結果を表2に示す。
【0393】
<実施例3>
アニオンランダムコポリマーB水溶液をアニオンランダムコポリマーC水溶液(アニオンランダムコポリマーC濃度13.1重量%)85.5gに変え、水の量を152.5gに変更した以外は実施例2と同様な処方で分散処理し、顔料分散液Eを得た。
顔料分散液Aの代りにこの顔料分散液Cを用いて、実施例1と同様に記録液Cを調製し、同様に評価した。
結果を表2に示す。
【0394】
<実施例4>
アニオンランダムコポリマーB水溶液をアニオンランダムコポリマーD水溶液(アニオンランダムコポリマーD濃度18.3重量%)61.2gに変え、水の量を176.8gに変更した以外は実施例2と同様な処方で分散し、顔料分散液Dを得た。
顔料分散液Aの代りにこの顔料分散液Dを用いて、実施例1と同様に記録液Dを調製し、同様に評価した。
結果を表2に示す。
【0395】
<実施例5>
アニオンランダムコポリマーB水溶液をアニオンランダムコポリマーE水溶液(アニオンランダムコポリマーE濃度26.4重量%)42.4gに変え、水の量を195.6gに変更した以外は実施例2と同様な処方で分散し、顔料分散液Eを得た。
顔料分散液Aの代りにこの顔料分散液Eを用いて、実施例1と同様に記録液Eを調製し、同様に評価した。
結果を表2に示す。
【0396】
<実施例6>
焼成品カーボンブラック(カーボンブラックサンプルαを窒素雰囲気下、1200℃で30日間焼成したもの;パウダー;固形分量100重量%)28.0g、カチオンランダムコポリマーa水溶液(カチオンランダムコポリマーa濃度17.1重量%)98.5g、及び脱イオン水153.5gを混合し、ホモミキサーで60分間予備分散後、0.5mmφのジルコニアビーズをメディアとした自作のビーズミルを用いて60℃で7時間、更に40℃で1時間分散し、ビーズを除いた後、顔料濃度8重量%に調整して分散液(1)を得た。
【0397】
分散液(1)を500mlトールビーカーに入れ、ビーカーを氷水中に漬け、超音波ホモジナイザー(日本精機製作所(株);US−600T;使用チップ36mmφ)で60分間分散し、顔料分散液(2)を得た。
【0398】
分散液(2)に対して脱イオン水を加え2倍に希釈した後に、精密濾過膜(Spectrum Laboratories Inc:材質ポリスルホン、細孔孔径0.05μm)により遊離ポリマーを除去した後、濃縮して顔料濃度が8重量%の分散液fを得た。
【0399】
分散液f65gに、アニオンランダムコポリマーF水溶液(アニオンランダムコポリマーF濃度12.99重量%)31.47gを、スターラー撹拌しながら滴下し、10分間スターラー撹拌を行った後、超音波分散機(SMT社製「ULTRASONIC HOMOGENIZER UH−600S」)にて、氷冷下、40分間超音波照射した。次に、精密濾過膜(旭化成ケミカルズ(株):マイクローザ:材質ポリスルホン、細孔孔径0.1μm)により水相中の遊離のランダムコポリマーや余分なイオン等を除去し、次いで濃縮した後、NaOH水溶液でpHを8に調整し、顔料濃度が8重量%の顔料分散液Fを得た。
顔料分散液Aの代りにこの顔料分散液Fを用いて、実施例1と同様に記録液Fを調製し、同様に評価した。
結果を表2に示す。
【0400】
<実施例7>
カーボンブラックを、表2に示すPAH量及び含酸素官能基密集度の焼成品カーボンブラック(カーボンブラックサンプルβ(ファーネスブラック;一次粒子径16nm、窒素吸着比表面積260m/g、揮発分1.5%)を窒素雰囲気下、1200℃で30日間焼成したもの;パウダー;固形分量100重量%)に変更した以外は、実施例1と同様な処方で分散し、顔料分散液Gを得た。
顔料分散液Aの代りにこの顔料分散液Gを用いて、実施例1と同様に記録液Gを調製し、同様に評価した。
結果を表2に示す。
【0401】
<実施例8>
焼成品カーボンブラック(カーボンブラックサンプルβを窒素雰囲気下、1200℃で30日間焼成したもの;パウダー;固形分量100重量%)28.0g、カチオンランダムコポリマーb水溶液(カチオンランダムコポリマーb濃度14.9重量%)112.8g、及び脱イオン水139.2gを混合し、ホモミキサーで60分間予備分散後、0.5mmφのジルコニアビーズをメディアとした自作のビーズミルを用いて60℃で7時間、更に40℃で1時間分散し、ビーズを除いた後、顔料濃度8重量%に調整して分散液(3)を得た。
【0402】
分散液(3)を500mlトールビーカーに入れ、ビーカーを氷水中に漬け、超音波ホモジナイザー(日本精機製作所(株);US−600T;使用チップ36mmφ)で60分間分散し、顔料分散液(4)を得た。
【0403】
分散液(4)に対して脱イオン水を加え2倍に希釈した後に、精密濾過膜(Spectrum Laboratories Inc:材質ポリスルホン、細孔孔径0.05μm)により遊離ポリマーを除去した後、濃縮して顔料濃度が8重量%の分散液hを得た。
【0404】
分散液h160gに、アニオンランダムコポリマーF水溶液(アニオンランダムコポリマーF濃度12.99重量%)79.5gを、スターラー撹拌しながら滴下し、10分間スターラー撹拌を行った後、超音波分散機(SMT社製「ULTRASONIC HOMOGENIZER UH−600S」)にて、氷冷下、50分間超音波照射した。次に、精密濾過膜(旭化成ケミカルズ(株):マイクローザ:材質ポリスルホン、細孔孔径0.1μm)により水相中の遊離のランダムコポリマーや余分なイオン等を除去し、次いで濃縮した後、NaOH水溶液でpHを8に調整し、顔料濃度が8重量%の顔料分散液Hを得た。
顔料分散液Aの代りにこの顔料分散液Hを用いて、実施例1と同様に記録液Hを調製し、同様に評価した。
結果を表2に示す。
【0405】
<実施例9>
表2に示すPAH量及び含酸素官能基密集度の未焼成のカーボンブラック(カーボンブラックサンプルβ;パウダー;固形分量100重量%)28.0g、アニオンランダムコポリマーA水溶液(アニオンランダムコポリマーA濃度13.14重量%)127.9g、及び脱イオン水124.1gを混合し、ホモミキサーで10分間予備分散後、0.5mmφのジルコニアビーズをメディアとした自作のビーズミルを用いて60℃で7時間分散し、40℃で1時間分散してビーズを除いた後、顔料濃度8重量%になるよう希釈して分散液iを得た。
【0406】
分散液iを500mlトールビーカーに入れ、ビーカーを氷水中に漬け、超音波ホモジナイザー(日本精機製作所(株);US−600T;使用チップ36mmφ)で60分間分散し、顔料分散液Iを得た。
顔料分散液Aの代りにこの顔料分散液Iを用いて、実施例1と同様に記録液Iを調製し、同様に評価した。
結果を表2に示す。
【0407】
<比較例1>
カーボンブラックを、表2に示すPAH量及び含酸素官能基密集度の未焼成のカーボンブラック(カーボンブラックサンプルα;パウダー;固形分量100重量%)に変更した以外は、実施例1と同様な処方で分散処理し、顔料分散液Jを得た。
顔料分散液Aの代りにこの顔料分散液Jを用いて、実施例1と同様に記録液Jを調製し、同様に評価した。
結果を表2に示す。
【0408】
【表2】

【0409】
表2より次のことが明らかである。
比較例1は焼成処理をしていないカーボンブラックを用いたものであるが、同カーボンブラックを焼成処理したものを用いた実施例1と比較すると、分散粒径が非常に大きく、更に比較例1で調製した記録液Jは、高温下で保存後に分散粒径が増大している。これに対して、同カーボンブラックを焼成処理したものを用いたものでは、記録液の保存安定性は良好なままである。また、比較例1では、分散終了後の分散液の表面に油膜が見られ、PAH成分のような不純物が多く含まれていることが示唆されるのに対して、焼成処理したカーボンブラックを使用した実施例1等では、分散液に油膜のようなものは全く観察されない。
【0410】
実施例9で用いたカーボンブラックは、焼成処理をしていないが、PAH量と含酸素官能基密集度が本発明の範囲を満たすため、分散粒径は十分小さくなっている。ただし、焼成処理を施した実施例8では、焼成処理をしていないカーボンブラックを用いた実施例9に比べて良好な結果が得られており、焼成処理したカーボンブラックを使用している実施例1〜8は、いずれも良好な保存安定性を示している。
【0411】
PAHの測定結果から、焼成処理したカーボンブラックはいずれもPAHが0.0ppmと極端に低い値を示しており、化学安全性が通常のカーボンブラックに対して高くなっていることが明らかである。
【0412】
また、実施例1〜6で使用している焼成品カーボンブラックと比較例1で使用している未焼成のカーボンブラックの含酸素官能基密集度を比較すると、焼成品では明らかに含酸素官能基密集度が低下しており、これにより、分散剤として使用したポリマーの吸着性が向上していることが示唆される。
【0413】
以上の結果から、PAH量が80ppm以下で含酸素官能基密集度が3μmol/m以下のカーボンブラック、好ましくは窒素雰囲気下で800〜1500℃の温度での焼成処理を施したカーボンブラックを用いた本発明の水性顔料分散液を使用した記録液は、PAH量や含酸素官能基密集度が多いカーボンブラックを使用した分散液で調製した記録液と比較して、分散液中の油状不純物も少なく、それゆえ化学安全性も高く、分散性・保存安定性に一層優れた性能を示すことが明らかである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
色材として、ポリアロマティックハイドロカーボンの含有量が80ppm以下であり且つ次の式で定義される含酸素官能基密集度が3μmol/m以下のカーボンブラックを含むことを特徴とする顔料分散液。
含酸素官能基密集度(μmol/m
=[(950℃×30分)CO発生量(μmol/g)+(950℃×30分)CO
発生量(μmol/g)]/窒素吸着比表面積(m/g)
【請求項2】
前記カーボンブラック中のポリアロマティックハイドロカーボンの含有量が20ppm以下であることを特徴とする請求項1に記載の顔料分散液。
【請求項3】
前記カーボンブラックが、窒素雰囲気下で800〜1500℃の温度で焼成してなるこ
とを特徴とする請求項1又は2に記載の顔料分散液。
【請求項4】
水性であることを特徴とする請求項1乃至3のいずれかに記載の顔料分散液。
【請求項5】
請求項1ないし4のいずれかに記載の顔料分散液を含むことを特徴とするインク組成物。
【請求項6】
請求項5に記載のインク組成物の液滴をインクジェットヘッドから吐出させ、該液滴を記録媒体に付着させることを特徴とするインクジェット記録方法。

【公開番号】特開2010−70749(P2010−70749A)
【公開日】平成22年4月2日(2010.4.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−185734(P2009−185734)
【出願日】平成21年8月10日(2009.8.10)
【出願人】(000005968)三菱化学株式会社 (4,356)
【Fターム(参考)】