説明

顕微質量分析の二次元解析画像と、光学顕微鏡撮影の二次元可視画像との自動的位置重ね合わせ方法

【課題】顕微質量分析の二次元解析画像上において、位置合わせの手がかりとなる、明瞭な「対象のタンパク質の濃度分布形状の特徴」が選択困難な場合でも、顕微質量分析の二次元解析画像と、光学顕微鏡撮影の二次元可視画像と間で、画像位置の重ね合わせ操作を、高い精度で、自動的に行う手法の提供。
【解決手段】病理組織切片の測定領域に付設される、人為的な「位置合わせ用マーカー」を利用して、顕微質量分析の二次元解析画像と、光学顕微鏡撮影の二次元可視画像と間で、画像位置の重ね合わせ操作を行う。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、同一の切片試料上の対象領域について測定された、顕微質量分析の二次元解析画像と、光学顕微鏡撮影の二次元可視画像について、二次元画像の位置を自動的に重ね合わせる方法に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば、腫瘍の病理組織学的診断では、患者から切除された腫瘍の病理組織切片について、光学顕微鏡観察がなされる。病理組織学において、患者から切除された病変部位の組織薄片を観察する際、通常、観察に先立って染色を施す。例えば、組織中の一つの細胞を顕微鏡で観察する場合、そのままでも形態の相違に基づき、結合組織中の細胞や、細胞中の核を見分けることは可能である。しかしながら、例えば、ヘマトキシリン・エオシン染色(HE染色)を施し、予め、エオシンにより細胞質を赤〜ピンクに、ヘマトキシリンにより核を青紫色に、それぞれ、染色することで、光学顕微鏡観察を容易にしている。病理組織切片に染色を施し、光学顕微鏡撮影により得られる二次元可視画像では、例えば、組織中の細胞において、その細胞質と核は、異なる染色がなされており、高い解像度が得られる。
【0003】
加えて、病理組織学的診断では、病変部位の組織中に、対象の疾病に関連して、特定遺伝子の発現、ならびに、該特定遺伝子の発現による、所謂「マーカータンパク質」の存在を検出するため、免疫染色(Immunostaining)も広く利用されている。「マーカータンパク質」に特異的な抗体に対して、予め標識を付し、この標識された抗体を利用して、組織薄片中に存在する「マーカータンパク質」を検出する。各種の蛍光色素を抗体に結合させ、蛍光標識すると、光励起下、該蛍光色素が発する蛍光を観察することで、蛍光標識抗体が反応した「マーカータンパク質」の存在を検出することができる。蛍光標識抗体を利用する、免疫染色は、病変部位の組織薄片中おいて、「マーカータンパク質」の局在部位を顕微鏡下で観察する手段として、有効である。
【0004】
病理組織切片に蛍光標識抗体を利用する免疫染色を施し、蛍光顕微鏡撮影により得られる二次元蛍光画像でも、組織中の細胞の輪郭(細胞膜)や、細胞中の核は、その陰影によって十分に識別可能である。従って、病理組織切片の同じ領域について、染色を施し、光学顕微鏡撮影により得られる二次元可視画像と、免疫染色を施し、蛍光顕微鏡撮影により得られる二次元蛍光画像との間で、画像位置を、高い精度で、自動的に重ね合わせを行うことが可能である。
【0005】
免疫染色は、病理組織学的診断に有用な手段ではあるが、「マーカータンパク質」に対して、特異的な抗体が入手可能な場合にしか適用できないという本質的な制約を有している。
【0006】
特異的な抗体を利用せずに、組織薄片中に存在する、対象のタンパク質やポリペプチドを検出する手段として、顕微質量分析の利用が拡大している。測定される多種のタンパク質に由来する質量分析スペクトル中から、対象の既知タンパク質に由来する質量分析スペクトルのみを抽出する手法として、ペプチド・マス・フィンガープリント(PMF: Peptide Mass Finger-print)法の有用性が確認されている(例えば、特許文献1を参照)。従って、組織薄片中に存在する細胞のように、多種のタンパク質が共存している場合であっても、対象の既知タンパク質に由来する質量分析スペクトルのみを抽出することが可能となっている。
【0007】
タンパク質、ポリペプチドを対象とする顕微質量分析法として、マトリクス援助レーザ脱着/イオン化飛行時間型質量分析(MALDI−TOF MS: Matrix Assisted Laser Desorption Ionization Time-of-Flight Mass Spectrometry)の利用が拡大している。MALDI−TOF MS法では、検出対象のタンパク質、ポリペプチドに対して、その表面に塗布されているマトリクス剤にレーザ光を照射し、マトリクス剤に吸収された光エネルギーを利用して、脱着/イオン化がなされる。利用されるレーザ光とマトリクス剤の組み合わせによって、紫外領域のレーザ光を利用するUV−MALDI−TOF MS法と、赤外領域のレーザ光を利用するIR−MALDI−TOF MS法に大別される。
【0008】
タンパク質、ポリペプチドを対象とする顕微質量分析では、多くの場合、UV−MALDI−TOF MS法が利用される。UV−MALDI−TOF MS法を採用する顕微質量分析では、マトリクス剤を照射するレーザ光を集光し、微小な照射スポット領域に存在する、タンパク質、ポリペプチドを非選択的に脱着/イオン化する。従って、微小な照射スポット領域に存在する、多種のタンパク質、ポリペプチドに由来する質量分析スペクトルを同時に測定できる。照射するレーザ光強度、パルス照射時間を一定とし、微小な照射スポット位置を、二次元マトリクス状に移動させて、各照射スポット位置における質量分析スペクトルの測定を行う。その後、各照射スポット位置において測定された質量分析スペクトル中から、検出対象のタンパク質に由来する質量分析スペクトルを抽出する。さらに、検出対象のタンパク質に由来するイオン種に起因するピーク強度:P(M/Z)を、その照射スポット位置に対応させ、二次元的に表示することで、顕微質量分析の二次元解析画像が得られる。
【0009】
病変部位の組織の病理組織学的診断に利用する場合、病理組織切片の同じ領域に対して、例えば、「マーカータンパク質」について測定された顕微質量分析の二次元解析画像と、光学顕微鏡撮影により得られる二次元可視画像との対比がなされる。
【0010】
測定された顕微質量分析の二次元解析画像は、例えば、「マーカータンパク質」の濃度分布を定量的に示しており、病理組織切片中において、該「マーカータンパク質」が局在する領域の特定に利用可能である。実際には、光学顕微鏡撮影により得られる二次元可視画像に対して、測定された顕微質量分析の二次元解析画像の位置合わせを行い、例えば、「マーカータンパク質」の濃度分布と、病理組織切片中の細胞や、細胞中の核などのオルガネラの存在位置との対比を行う。
【特許文献1】特開2007−10509号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
上記対比を行う際、例えば、「マーカータンパク質」は核に局在する特徴を有する場合、その特徴を考慮して、「マーカータンパク質」について測定された顕微質量分析の二次元解析画像上において、「マーカータンパク質」の局在領域を核と仮定して、光学顕微鏡撮影により得られる二次元可視画像上の核の位置に対応するように、画像位置を、目視によって重ね合わせていた。
【0012】
すなわち、測定された顕微質量分析の二次元解析画像上において、対象のタンパク質の濃度分布形状の特徴に着目し、その濃度分布形状の特徴に対応すると推定される、光学顕微鏡撮影により得られる二次元可視画像上の形状を、観察者が選択して、最終的には、画像位置を、目視によって重ね合わせていた。換言すると、位置合わせの手がかりとなる、「対象のタンパク質の濃度分布形状の特徴」が明瞭でない場合、画像位置の重ね合わせは、大きな困難を伴っていた。
【0013】
また、位置合わせの手がかりとなる、「対象のタンパク質の濃度分布形状の特徴」が明瞭である場合であっても、その濃度分布形状の特徴に対応すると推定される、光学顕微鏡撮影により得られる二次元可視画像上の形状を選択して、その形状を重ね合わせる、位置合わせの操作は、相当の熟練を必要とする作業である。
【0014】
従って、顕微質量分析の二次元解析画像と、光学顕微鏡撮影の二次元可視画像と間で、画像位置の重ね合わせ操作を、高い精度で、自動的に行う方法の開発は望まれている。
【0015】
本発明は前記の課題を解決するものである。本発明の第一の目的は、顕微質量分析の二次元解析画像上において、位置合わせの手がかりとなる、明瞭な「対象のタンパク質の濃度分布形状の特徴」が選択困難な場合でも、顕微質量分析の二次元解析画像と、光学顕微鏡撮影の二次元可視画像と間で、画像位置の重ね合わせ操作を、高い精度で、自動的に行うことを可能とする手法を提供することにある。また、本発明の第二の目的は、顕微質量分析の二次元解析画像上において、位置合わせの手がかりとなる、明瞭な「対象のタンパク質の濃度分布形状の特徴」が容易に選択可能な場合、その明瞭な「対象のタンパク質の濃度分布形状の特徴」を利用して、画像位置の重ね合わせ操作を、高い精度で、自動的に行うことを可能とする手法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0016】
本発明者は、上記の課題を解決する手段を見出すため、先ず、顕微質量分析の二次元解析画像と、光学顕微鏡撮影の二次元可視画像と間で、画像位置の重ね合わせ操作を自動化する上での技術的な問題点を抽出した。
【0017】
まず、病変部位の組織の病理組織学的診断に利用する場合、病理組織切片の同じ領域に対して、顕微質量分析の二次元解析画像と、光学顕微鏡撮影により得られる二次元可視画像は、それぞれ、別の測定装置を利用して測定される。
【0018】
その際、顕微質量分析の二次元解析画像データは、二次元状に配置される各照射スポット:jの位置情報(xMj、yMj)と、測定される検出対象のタンパク質に由来するイオン種に起因するピーク強度:P(M/Z:xMj、yMj)の組み合わせで構成されている。二次元状に配置される各照射スポット:jは、その照射スポット領域が重なり合わないように配置する必要があり、各照射スポットの位置(xMj、yMj)は、所定の間隔:ΔxMとΔyMを有する離散的な二次元状マトリクスとなっている。勿論、所定の間隔:ΔxMとΔyMは、集光されたレーザ光の照射スポット径:dLよりも広く設定する。
【0019】
一方、光学顕微鏡撮影により得られる二次元可視画像は、本質的には連続する情報であるが、例えば、二次元マトリクス型光検出器により画像情報を検出することで、デジタル化処理が施されている。このデジタル化処理に伴って、二次元マトリクス型光検出器を構成する各ピクセルで検出される可視光強度は、例えば、「RBG」形式の原色光成分情報:{PR、PB、PG}として、記録されている。すなわち、光学顕微鏡撮影により得られる二次元可視画像データは、各ピクセルによって、検出される実際の位置:kの位置情報(xOk、yOk)と、検出される可視光強度:{PR(xOk、yOk)、PB(xOk、yOk)、PG(xOk、yOk)}の組み合わせで構成されている。検出される実際の位置:kは、二次元マトリクス型光検出器の各ピクセル・サイズに依存するが、その位置(xOk、yOk)は、所定の微小な間隔:ΔxOとΔyOを有する離散的ではあるが、高密度の二次元状マトリクスとなっている。
【0020】
顕微質量分析の二次元解析画像データにおける、解像度は、所定の間隔:ΔxMとΔyMに相当し、光学顕微鏡撮影により得られる二次元可視画像データの解像度は、所定の微小な間隔:ΔxOとΔyOに相当する。所定の間隔:ΔxMとΔyMは、1μm〜10μmの範囲、例えば、3μm〜5μmに設定されるが、所定の微小な間隔:ΔxOとΔyOは、0.05μm〜1.0μmの範囲、例えば、0.1μm〜0.5μmに設定されるため、通常、二つの二次元画像データの解像度に大きな隔たりが生じている。
【0021】
勿論、病理組織切片の同じ領域を測定しているが、顕微質量分析の二次元解析画像データにおける、照射スポット:jの位置情報(xMj、yMj)の起点(座標軸の原点)と、光学顕微鏡撮影により得られる二次元可視画像データにおける、実際の位置:kの位置情報(xOk、yOk)の起点(座標軸の原点)は、相対的にズレており、そのズレ(δx、δy)の程度は、個々の病理組織切片で異なっている。二つの二次元画像データの位置情報の起点(座標軸の原点)のズレを合わせる操作が、画像位置の重ね合わせ操作に相当している。
【0022】
次に、光学顕微鏡撮影により得られる二次元可視画像では、例えば、ヘマトキシリン・エオシン染色(HE染色)を施すことで、組織中の細胞において、その細胞質と核は、異なる染色がなされており、病理組織切片の測定領域全体に亘って、色調の変化に基づいて、例えば、細胞膜の輪郭、細胞中の核膜の輪郭を高い解像度で特定すること可能となっている。すなわち、病理組織切片の測定領域全体に亘って、検出される可視光強度:{PR(xOk、yOk)、PB(xOk、yOk)、PG(xOk、yOk)}の相対的変化(色調の変化)を抽出することで、細胞膜の輪郭、細胞中の核膜の輪郭を高い解像度で特定することが可能となっている。
【0023】
一方、顕微質量分析の二次元解析画像では、例えば、検出対象の「マーカータンパク質」に由来するイオン種に起因するピーク強度:P(M/Z:xMj、yMj)は、しばしば、病理組織切片の測定領域の一部でしか測定されない。従って、病理組織切片の測定領域全体に亘って、検出対象の「マーカータンパク質」に由来するイオン種に起因するピーク強度:P(M/Z:xMj、yMj)の相対的強度変化を抽出することで、細胞膜の輪郭、細胞中の核膜の輪郭を相当の解像度で特定することは、通常、不可能である。
【0024】
特に、顕微質量分析の二次元解析画像データにおける、解像度は、相対的に低いため、病理組織切片の測定領域の一部において、特定された細胞膜の輪郭、細胞中の核膜の輪郭と、光学顕微鏡撮影により得られる二次元可視画像上において、高い解像度で特定されている細胞膜の輪郭、細胞中の核膜の輪郭とを重ね合わせる際、重ね合わせの精度を低下させる要因となっている。
【0025】
すなわち、位置合わせの手がかりとなる、「対象のタンパク質の濃度分布形状の特徴」が明瞭である場合であっても、「対象のタンパク質」に由来するイオン種に起因するピーク強度:P(M/Z:xMj、yMj)の相対的強度変化に基づき、「対象のタンパク質の濃度分布形状の特徴」を抽出できる領域は、通常、病理組織切片の測定領域の一部に限定されている。その際、解像度は、相対的に低いため、「対象のタンパク質の濃度分布形状の特徴」の輪郭と、光学顕微鏡撮影により得られる二次元可視画像上において、高い解像度で特定されている細胞膜の輪郭、細胞中の核膜の輪郭とを対比させ、画像位置の重ね合わせる際、重ね合わせの精度を低下させる要因となっている。
【0026】
換言するならが、位置合わせの手がかりとなる、「対象のタンパク質の濃度分布形状の特徴」を抽出できる領域が、病理組織切片の測定領域のほぼ全体に亘っていることが、「対象のタンパク質の濃度分布形状の特徴」の輪郭を利用して、画像位置の重ね合わせる際、重ね合わせの精度を向上させる上で必要条件となることを見出した。
【0027】
一方、位置合わせの手がかりとなる、「対象のタンパク質の濃度分布形状の特徴」が明瞭でない場合には、画像位置の重ね合わせに利用する、人為的な「位置合わせ用マーカー」を、病理組織切片の測定領域に付設し、この「位置合わせ用マーカー」に基づいて、画像位置の重ね合わせ操作を行うことが好ましいことを見出した。勿論、この人為的な「位置合わせ用マーカー」は、光学顕微鏡撮影により得られる二次元可視画像、顕微質量分析の二次元解析画像のいずれにおいても、その輪郭形状の特定が可能であることが必須である。
【0028】
本発明者らは、上記の要件を満足する、人為的な「位置合わせ用マーカー」を、病理組織切片の測定領域に付設し、この「位置合わせ用マーカー」に基づいて、画像位置の重ね合わせ操作を行う形態を採用すると、下記の利点があることを確認した。
【0029】
まず、付設される人為的な「位置合わせ用マーカー」の平面形状は、所定の平面形状に選択できる。また、付設される人為的な「位置合わせ用マーカー」の平面形状ならびに、病理組織切片の測定領域に対して、その付設される位置は、予め設定されているので、光学顕微鏡撮影により得られる二次元可視画像上において、ヒトの判断を介することなく、自動的に識別できる。
【0030】
一方、前記「位置合わせ用マーカー」の付設部位を含め、目的とする病理組織切片の測定領域全体について、測定を行い、光学顕微鏡撮影により得られる二次元可視画像、顕微質量分析の二次元解析画像を取得すると、前記「位置合わせ用マーカー」の付設部位は、光学顕微鏡撮影により得られる二次元可視画像、顕微質量分析の二次元解析画像のいずれにおいても、識別が可能である。
【0031】
特に、顕微質量分析の二次元解析画像上において、少なくとも、特定のタンパク質に由来するイオン種に起因するピーク強度に着目すると、人為的な「位置合わせ用マーカー」の平面形状の内部と、その周囲の流域とを明確に区分することが可能であることを見出した。
【0032】
例えば、人為的な「位置合わせ用マーカー」の平面形状の内部に存在する照射スポットでは、特定のタンパク質に由来するイオン種に起因するピーク強度が明確に観測されるが、「位置合わせ用マーカー」の平面形状の周囲を取り巻く領域では、特定のタンパク質に由来するイオン種に起因するピーク強度が実質的に観測されない状況を作り出すことが可能であることを見出した。その場合、特定のタンパク質に由来するイオン種に起因するピーク強度が明確に観測される、照射スポットに着目すると、その内部に存在する、照射スポットでは、特定のタンパク質に由来するイオン種に起因するピーク強度が明確に観測される「閉じた領域」を選別することで、「位置合わせ用マーカー」の平面形状に相当する「閉じた領域」を特定することが可能であることを確認した。特に、光学顕微鏡撮影により得られる二次元可視画像上において、識別される該「位置合わせ用マーカー」の平面形状の輪郭を利用して、「位置合わせ用マーカー」の平面形状のサイズを求めることが可能である。その「位置合わせ用マーカー」の平面形状のサイズ、顕微質量分析の二次元解析画像上において特定される、前記「閉じた領域」のサイズを比較することで、特定された「閉じた領域」が、「位置合わせ用マーカー」の平面形状に相当することを検証できることも確認した。
【0033】
逆に、「位置合わせ用マーカー」の平面形状の周囲を取り巻く領域では、特定のタンパク質に由来するイオン種に起因するピーク強度が明確に観測されるが、人為的な「位置合わせ用マーカー」の平面形状の内部に存在する照射スポットでは、特定のタンパク質に由来するイオン種に起因するピーク強度が実質的に測定されない状況を作り出すことが可能であることを見出した。その場合、特定のタンパク質に由来するイオン種に起因するピーク強度が実質的に観測されない、照射スポットに着目すると、その内部に存在する、照射スポットでは、特定のタンパク質に由来するイオン種に起因するピーク強度が実質的に観測されない「閉じた領域」を選別することで、「位置合わせ用マーカー」の平面形状に相当する「閉じた領域」を特定することが可能であることを確認した。特に、光学顕微鏡撮影により得られる二次元可視画像上において、識別される該「位置合わせ用マーカー」の平面形状の輪郭を利用して、「位置合わせ用マーカー」の平面形状のサイズを求めることが可能である。その「位置合わせ用マーカー」の平面形状のサイズ、顕微質量分析の二次元解析画像上において特定される、前記「閉じた領域」のサイズを比較することで、特定された「閉じた領域」が、「位置合わせ用マーカー」の平面形状に相当することを検証できることも確認した。
【0034】
光学顕微鏡撮影により得られる二次元可視画像上において、識別される該「位置合わせ用マーカー」の平面形状の内部に存在する、全てのピクセルの位置の単純平均を算定すると、その単純平均は、該「位置合わせ用マーカー」の平面形状の重心位置に相当している。また、顕微質量分析の二次元解析画像上において特定される、前記「閉じた領域」の内部に存在する、全ての照射スポット中心の位置の単純平均を算定すると、その単純平均は、該「閉じた領域」の重心位置を近似的に示すものとなる。二つの二次元画像間における、位置情報の起点(座標軸の原点)間の相対的なズレ(δx、δy)は、この重心位置の近似値間のズレとして、近似的に求めることが可能であることも確認した。以下に説明するように、その近似の精度は、顕微質量分析の二次元解析画像の解像度、光学顕微鏡撮影により得られる二次元可視画像の解像度の差違に依存していることも確認された。
【0035】
加えて、光学顕微鏡撮影により得られる二次元可視画像上において、識別される該「位置合わせ用マーカー」の平面形状の輪郭と、顕微質量分析の二次元解析画像上において特定される、前記「閉じた領域」の外周の形状とを重ね合わせる際、該「位置合わせ用マーカー」の平面形状の輪郭の内部に、前記「閉じた領域」に存在する複数個の照射スポットが収まるようにすることで、ほぼ、位置合わせを行うことが可能であることも確認された。その際、光学顕微鏡撮影により得られる二次元可視画像の解像度と比較して、顕微質量分析の二次元解析画像における、解像度は、相対的に低いため、その解像度程度の「不確定性」が残ることを見出した。その「不確定性」の程度を更に低減する手法として、「位置合わせ用マーカー」の平面形状の輪郭に対して、照射スポットのスポット径以内に近接する照射スポットに着目し、この輪郭上に位置すると見做せる照射スポットで測定されるピーク強度を利用することで、輪郭に対する、該照射スポットの相対的な位置を高い精度で見積もることが可能であることも見出した。この見積もられる、輪郭に対する、該照射スポットの相対的な位置を参照することで、光学顕微鏡撮影により得られる二次元可視画像上において、識別される該「位置合わせ用マーカー」の平面形状の輪郭と、顕微質量分析の二次元解析画像上において特定される、前記「閉じた領域」の外周の形状を、さらに高い精度で重ね合わせることが可能となることを検証した。
【0036】
加えて、上記の本発明の技術的な原理は、「位置合わせ用マーカー」の平面形状の輪郭が、光学顕微鏡撮影により得られる二次元可視画像上において、極めて高い確度で特定でき、また、顕微質量分析の二次元解析画像上において、該「位置合わせ用マーカー」の平面形状に相当する「閉じた領域」が、高い確度で特定できるという要件が満たされる範囲に適用できることを見出した。
【0037】
例えば、光学顕微鏡撮影により得られる二次元可視画像上において、例えば、ヘマトキシリン・エオシン染色(HE染色)を施すことで、組織中の細胞において、その細胞質と核は、異なる染色がなされており、病理組織切片の測定領域全体に亘って、色調の変化に基づいて、例えば、細胞膜の輪郭、細胞中の核膜の輪郭を高い解像度で特定すること可能となっている。さらには、細胞内には、核以外に、その輪郭を高い解像度と確度で特定することが可能な、各種のオルガネラも存在している。これら細胞内に存在する核、各種のオルガネラのうち、その輪郭が膜組織で構成され、内部と外部とが明確に区分されているもので、顕微質量分析の二次元解析画像において、その内部に照射スポットが複数存在可能である場合、前記の要件を満足する場合があることを見出した。例えば、核やミトコンドリアなどは、細胞質と膜組織で区分される「閉じた空間」を形成しており、この「閉じた空間」内部に位置する照射スポットでは、特定のタンパク質に由来するイオン種に起因するピーク強度が実質的に観測されない、あるいは、特定のタンパク質に由来するイオン種に起因するピーク強度が明確に観測される場合があることに想到した。
【0038】
従って、人為的に形成される「位置合わせ用マーカー」に代えて、細胞が本来的に有している、核や各種のオルガネラのうち、上記の要件を満足するものを、所定の選択基準に基づき選択して、人為的に設定された「位置合わせ用マーカー」として利用できることを見出した。なお、細胞が本来的に有している、核や各種のオルガネラのうち、上記の要件を満足するものは、例えば、核を選択する場合でも、目的とする病理組織切片の測定領域全体について、測定を行うと、細胞数が相当数に達するので、その全ての核を人為的に設定された「位置合わせ用マーカー」として利用するのは、非効率的である。その点を考慮して、目的とする病理組織切片の測定領域全体について、測定を行った際、識別される相当数の核のうち、一定のサイズ基準を満たす、所定個数の核を自動的に選択して、人為的に設定された「位置合わせ用マーカー」として利用する形態を採用することが望ましいと結論した。
【0039】
特に、顕微質量分析の二次元解析画像上において、該「位置合わせ用マーカー」の平面形状に相当する「閉じた領域」を選別する際、その「閉じた領域」に存在する照射スポットの個数が多い順に、所定個数の核を自動的に選択して、人為的に設定された「位置合わせ用マーカー」として利用する形態を採用することが望ましいと結論した。さらに、設定された所定個数の核の相対的な配置を参照して、光学顕微鏡撮影により得られる二次元可視画像上において、対応する相対的な配置を有する所定個数の核を特定する作業も自動化か容易であることも確認した。勿論、顕微質量分析の二次元解析画像の解像度に依存して、各種のオルガネラの内部に相当する「閉じた領域」に存在する照射スポットの個数は変動する。「閉じた領域」に存在する照射スポットの個数が一定の水準を満たす範囲において、核に代えて、その他のオルガネラのうち、上記に要件を満足するものを利用することが可能であることは勿論のことである。
【0040】
すなわち、本発明では、被験体の病理切片について測定される、顕微質量分析の二次元解析画像と、該病理切片の光学顕微鏡撮影により得られる二次元可視画像との間で、二つの二次元画像を重ね合わせて表示するための、位置合わせの操作を自動的に実施するため、人為的な「位置合わせ用マーカー」を利用する。光学顕微鏡撮影により得られる二次元可視画像上において、「色調」の差違に基づき、該「位置合わせ用マーカー」の平面形状の輪郭を特定する。一方、顕微質量分析の二次元解析画像上において、特定のタンパク質に由来するイオン種に起因するピーク強度に着目し、該イオン種に起因するピーク強度の有意な差違に基づき、該「位置合わせ用マーカー」の平面形状に対応する「閉じた領域」を特定する。光学顕微鏡撮影により得られる二次元可視画像上において、識別される該「位置合わせ用マーカー」の平面形状の輪郭と、顕微質量分析の二次元解析画像上において特定される、前記「閉じた領域」の外周の形状を、高く精度で重ね合わせることで、自動的に、二つの二次元画像相互の位置合わせを行うことが可能であることを検証した。
【0041】
その際、人為的な「位置合わせ用マーカー」として、下記の6つの形態を採用することで、自動的に実施する際、二つの二次元画像相互の位置合わせの精度を向上させることができることを確認した。
【0042】
(1)第一の形態では、組織薄片がマウンティングされているプレパラート上、目標とする測定領域内に含まれるように、光学顕微鏡撮影の二次元可視画像、顕微質量分析の二次元解析画像のいずれにおいても識別可能な「マーカー物質」からなる、所定の平面形状を有する「位置合わせマーカー」を設ける。
【0043】
(2)第二の形態では、組織薄片がマウンティングされているプレパラート上、目標とする測定領域内に含まれるように、光学顕微鏡撮影の二次元可視画像においては識別可能であり、顕微質量分析の二次元解析画像においては、識別可能な質量分析ピーク強度を示さない、所定の平面形状を有する「位置合わせ用マスク」を設ける。
【0044】
(3)第三の形態では、組織薄片がマウンティングされているプレパラート上、目標とする測定領域内に含まれるように設ける、所定の平面形状を有する「位置合わせマーカー」として、組織薄片上の所定部位に設ける、所定の平面形状を有する「マトリクス剤の塗布がなされていない領域」を利用する。
【0045】
(4)第四の形態では、組織薄片がマウンティングされているプレパラート上、目標とする測定領域内に含まれるように設ける、所定の平面形状を有する「位置合わせマーカー」として、組織薄片上の所定部位に設ける、所定の平面形状を有する「プロテアーゼ切断処理がなされていない領域」を利用する。
【0046】
(5)第五の形態では、組織薄片がマウンティングされているプレパラート上、目標とする測定領域内に含まれるように、光学顕微鏡撮影の二次元可視画像、顕微質量分析の二次元解析画像のいずれにおいても識別可能な「内因性の位置合わせマーカー」を設定する。
【0047】
(6)第六の形態では、組織薄片がマウンティングされているプレパラート上、目標とする測定領域内に含まれるように設ける、所定の平面形状を有する「位置合わせマーカー」として、組織薄片上の所定部位に設ける、所定の平面形状を有する「アミノ酸残基への化学修飾処理がなされていない領域」を利用する。
【0048】
本発明者らは、これらの知見に基づき、本発明を完成させた。
【0049】
本発明の第一の形態にかかる顕微質量分析の二次元解析画像と、光学顕微鏡撮影の二次元可視画像との自動的位置重ね合わせ方法は、
被験体の病理切片について測定される、顕微質量分析の二次元解析画像と、該病理切片の光学顕微鏡撮影により得られる二次元可視画像との間で、二つの二次元画像を重ね合わせて表示するための、位置合わせの操作を自動的に実施する方法であって、
該光学顕微鏡撮影により得られる二次元可視画像は、
前記病理切片から調製される組織薄片をプレパラート上にマウンティングし、該組織薄片に含まれる細胞、ならびに、少なくとも、前記細胞中に存在する核、細胞質を光学顕微鏡撮影することにより得られる二次元可視画像であり、
該光学顕微鏡撮影により得られる二次元可視画像を構成する画像情報は、二次元的なマトリクス配列を有する、所定のサイズのピクセルのデジタル化された色彩情報と、該ピクセルの位置情報で構成される、デジタル化された二次元可視画像データであり;
該顕微質量分析の二次元解析画像は、前記光学顕微鏡撮影により得られる二次元可視画像の測定領域について、前記組織薄片の表面を、MALDI−TOF MS法を用いて、二次元的に顕微質量分析することにより得られる、質量分析スペクトル上において特定されるイオン種のピーク強度の分布を二次元的に表示した画像であり、
該顕微質量分析の二次元解析画像を構成する画像情報は、所定の間隔で二次元的なマトリクス状に配置され、所定の照射スポット径を有する、照射スポットで測定される質量分析スペクトル上において特定される、各イオン種のピーク強度と、該照射スポットの位置情報で構成される、デジタル化された二次元解析画像データであり;
顕微質量分析の二次元解析画像と、該病理切片の光学顕微鏡撮影により得られる二次元可視画像との間で、二つの二次元画像を重ね合わせて表示するための、位置合わせの操作を自動的に実施する工程は、
前記光学顕微鏡撮影により得られる二次元可視画像の測定領域に含まれる、所定の位置に、所定の平面形状を有する位置合わせマーカーを予め設け、
下記の(i)〜(iv)に記すデジタル・データ処理により、自動的に実施される工程を具えており、
(i)前記光学顕微鏡撮影により得られる二次元可視画像上において、該位置合わせマーカーを識別し、識別された該位置合わせ用マーカーの平面形状の輪郭を特定する工程;
(ii)前記顕微質量分析の二次元解析画像上において、該位置合わせ用マーカーの平面形状に相当する閉じた領域を特定する工程;
(iii)前記二次元可視画像上において特定される、該位置合わせ用マーカーの平面形状の輪郭の位置情報と、前記顕微質量分析の二次元解析画像上において特定される、該位置合わせ用マーカーの平面形状に相当する閉じた領域の外周の形状の位置情報とを用いて、
前記位置合わせ用マーカーの平面形状の輪郭と、前記閉じた領域の外周の形状の位置を重ね合わせることで、二つの二次元画像データの位置情報間の相対的なズレを算出する工程;
(iv)二つの二次元画像データの位置情報間の相対的なズレの算出値に基づき、二つの二次元画像の相対的な位置のズレを補正して、前記顕微質量分析の二次元解析画像と、光学顕微鏡撮影により得られる二次元可視画像の二次元画像を重ね合わせて表示する工程;
前記所定の平面形状を有する位置合わせマーカーとして、
組織薄片がマウンティングされているプレパラート上、目標とする測定領域内に含まれるように、光学顕微鏡撮影の二次元可視画像、顕微質量分析の二次元解析画像のいずれにおいても識別可能なマーカー物質からなる、所定の平面形状を有する位置合わせマーカーを設ける
ことを特徴とする自動的位置重ね合わせ方法である。
【0050】
前記の本発明の第一の形態においては、
例えば、前記所定の平面形状を有する位置合わせマーカーは、
光学顕微鏡撮影の二次元可視画像上で識別可能な色彩を有する色素標識を付した、色素標識タンパク質、色素標識ポリペプチドからなる、所定の平面形状を有する位置合わせマーカーである態様を採用することができる。
【0051】
例えば、前記所定の平面形状を有する位置合わせマーカーは、
光学顕微鏡撮影の二次元可視画像上で識別可能な色彩を有する色素を、タンパク質、ポリペプチドに混合した混合物からなる、所定の平面形状を有する位置合わせマーカーである態様を採用することができる。
【0052】
例えば、前記所定の平面形状を有する位置合わせマーカーは、
光学顕微鏡撮影の二次元可視画像上で識別可能な色彩を有する色素を用いて、染色を施している、タンパク質、ポリペプチドからなる、所定の平面形状を有する位置合わせマーカーである態様を採用することができる。
【0053】
なお、前記位置合わせマーカーの作製に利用する、タンパク質、ポリペプチドとして、本質的に、組織薄片中には存在していない外因性タンパク質、ポリペプチドを採用することが好ましい。
【0054】
本発明の第二の形態にかかる顕微質量分析の二次元解析画像と、光学顕微鏡撮影の二次元可視画像との自動的位置重ね合わせ方法は、
被験体の病理切片について測定される、顕微質量分析の二次元解析画像と、該病理切片の光学顕微鏡撮影により得られる二次元可視画像との間で、二つの二次元画像を重ね合わせて表示するための、位置合わせの操作を自動的に実施する方法であって、
該光学顕微鏡撮影により得られる二次元可視画像は、
前記病理切片から調製される組織薄片をプレパラート上にマウンティングし、該組織薄片に含まれる細胞、ならびに、少なくとも、前記細胞中に存在する核、細胞質を光学顕微鏡撮影することにより得られる二次元可視画像であり、
該光学顕微鏡撮影により得られる二次元可視画像を構成する画像情報は、二次元的なマトリクス配列を有する、所定のサイズのピクセルのデジタル化された色彩情報と、該ピクセルの位置情報で構成される、デジタル化された二次元可視画像データであり;
該顕微質量分析の二次元解析画像は、前記光学顕微鏡撮影により得られる二次元可視画像の測定領域について、前記組織薄片の表面を、MALDI−TOF MS法を用いて、二次元的に顕微質量分析することにより得られる、質量分析スペクトル上において特定されるイオン種のピーク強度の分布を二次元的に表示した画像であり、
該顕微質量分析の二次元解析画像を構成する画像情報は、所定の間隔で二次元的なマトリクス状に配置され、所定の照射スポット径を有する、照射スポットで測定される質量分析スペクトル上において特定される、各イオン種のピーク強度と、該照射スポットの位置情報で構成される、デジタル化された二次元解析画像データであり;
顕微質量分析の二次元解析画像と、該病理切片の光学顕微鏡撮影により得られる二次元可視画像との間で、二つの二次元画像を重ね合わせて表示するための、位置合わせの操作を自動的に実施する工程は、
前記光学顕微鏡撮影により得られる二次元可視画像の測定領域に含まれる、所定の位置に、所定の平面形状を有する位置合わせマーカーを予め設け、
下記の(i)〜(iv)に記すデジタル・データ処理により、自動的に実施される工程を具えており、
(i)前記光学顕微鏡撮影により得られる二次元可視画像上において、該位置合わせマーカーを識別し、識別された該位置合わせ用マーカーの平面形状の輪郭を特定する工程;
(ii)前記顕微質量分析の二次元解析画像上において、該位置合わせ用マーカーの平面形状に相当する閉じた領域を特定する工程;
(iii)前記二次元可視画像上において特定される、該位置合わせ用マーカーの平面形状の輪郭の位置情報と、前記顕微質量分析の二次元解析画像上において特定される、該位置合わせ用マーカーの平面形状に相当する閉じた領域の外周の形状の位置情報とを用いて、
前記位置合わせ用マーカーの平面形状の輪郭と、前記閉じた領域の外周の形状の位置を重ね合わせることで、二つの二次元画像データの位置情報間の相対的なズレを算出する工程;
(iv)二つの二次元画像データの位置情報間の相対的なズレの算出値に基づき、二つの二次元画像の相対的な位置のズレを補正して、前記顕微質量分析の二次元解析画像と、光学顕微鏡撮影により得られる二次元可視画像の二次元画像を重ね合わせて表示する工程;
前記所定の平面形状を有する位置合わせマーカーとして、
組織薄片がマウンティングされているプレパラート上、目標とする測定領域内に含まれるように、光学顕微鏡撮影の二次元可視画像においては識別可能であり、顕微質量分析の二次元解析画像においては、識別可能な質量分析ピーク強度を示さない、所定の平面形状を有する位置合わせ用マスクを設ける
ことを特徴とする自動的位置重ね合わせ方法である。
【0055】
前記の本発明の第二の形態においては、
例えば、前記所定の平面形状を有する位置合わせマーカーは、
MALDI−TOF MS法で利用されるレーザ光に対する光透過性を示さない光マスキング物質からなる、所定の平面形状を有する被覆皮膜層である態様を採用できる。
【0056】
例えば、該レーザ光に対する光透過性を示さない光マスキング物質からなる、被覆皮膜層として、照射されるレーザ光の波長域において、高い反射率を示す金属材料からなる光反射性被覆皮膜層、あるいは、レーザ光に対する強い光吸収を示し、マトリクス剤によるレーザ光の吸収を実質的に皆無とする、高い吸光係数を有する材料からなる光吸収性被覆皮膜層を利用することが可能である。
【0057】
例えば、前記所定の平面形状を有する位置合わせ用マスクは、
MALDI−TOF MS法で利用されるレーザ光に対する光透過性を示すものの、ペプチド断片に由来するイオン種の脱着を阻止する、物理的なマスキング物質からなる、所定の平面形状を有する被覆皮膜層である態様も採用できる。
【0058】
例えば、照射されるレーザ光の波長域においては、十分に高い光透過性を示す高分子材料からなる高分子被覆皮膜層を利用することも可能である。
【0059】
本発明の第三の形態にかかる顕微質量分析の二次元解析画像と、光学顕微鏡撮影の二次元可視画像との自動的位置重ね合わせ方法は、
被験体の病理切片について測定される、顕微質量分析の二次元解析画像と、該病理切片の光学顕微鏡撮影により得られる二次元可視画像との間で、二つの二次元画像を重ね合わせて表示するための、位置合わせの操作を自動的に実施する方法であって、
該光学顕微鏡撮影により得られる二次元可視画像は、
前記病理切片から調製される組織薄片をプレパラート上にマウンティングし、該組織薄片に含まれる細胞、ならびに、少なくとも、前記細胞中に存在する核、細胞質を光学顕微鏡撮影することにより得られる二次元可視画像であり、
該光学顕微鏡撮影により得られる二次元可視画像を構成する画像情報は、二次元的なマトリクス配列を有する、所定のサイズのピクセルのデジタル化された色彩情報と、該ピクセルの位置情報で構成される、デジタル化された二次元可視画像データであり;
該顕微質量分析の二次元解析画像は、前記光学顕微鏡撮影により得られる二次元可視画像の測定領域について、前記組織薄片の表面を、MALDI−TOF MS法を用いて、二次元的に顕微質量分析することにより得られる、質量分析スペクトル上において特定されるイオン種のピーク強度の分布を二次元的に表示した画像であり、
該顕微質量分析の二次元解析画像を構成する画像情報は、所定の間隔で二次元的なマトリクス状に配置され、所定の照射スポット径を有する、照射スポットで測定される質量分析スペクトル上において特定される、各イオン種のピーク強度と、該照射スポットの位置情報で構成される、デジタル化された二次元解析画像データであり;
顕微質量分析の二次元解析画像と、該病理切片の光学顕微鏡撮影により得られる二次元可視画像との間で、二つの二次元画像を重ね合わせて表示するための、位置合わせの操作を自動的に実施する工程は、
前記光学顕微鏡撮影により得られる二次元可視画像の測定領域に含まれる、所定の位置に、所定の平面形状を有する位置合わせマーカーを予め設け、
下記の(i)〜(iv)に記すデジタル・データ処理により、自動的に実施される工程を具えており、
(i)前記光学顕微鏡撮影により得られる二次元可視画像上において、該位置合わせマーカーを識別し、識別された該位置合わせ用マーカーの平面形状の輪郭を特定する工程;
(ii)前記顕微質量分析の二次元解析画像上において、該位置合わせ用マーカーの平面形状に相当する閉じた領域を特定する工程;
(iii)前記二次元可視画像上において特定される、該位置合わせ用マーカーの平面形状の輪郭の位置情報と、前記顕微質量分析の二次元解析画像上において特定される、該位置合わせ用マーカーの平面形状に相当する閉じた領域の外周の形状の位置情報とを用いて、
前記位置合わせ用マーカーの平面形状の輪郭と、前記閉じた領域の外周の形状の位置を重ね合わせることで、二つの二次元画像データの位置情報間の相対的なズレを算出する工程;
(iv)二つの二次元画像データの位置情報間の相対的なズレの算出値に基づき、二つの二次元画像の相対的な位置のズレを補正して、前記顕微質量分析の二次元解析画像と、光学顕微鏡撮影により得られる二次元可視画像の二次元画像を重ね合わせて表示する工程;
前記所定の平面形状を有する位置合わせマーカーとして、
組織薄片上の所定部位に、所定の平面形状を有する、マトリクス剤の塗布がなされていない領域を設ける
ことを特徴とする自動的位置重ね合わせ方法である。
【0060】
本発明の第四の形態にかかる顕微質量分析の二次元解析画像と、光学顕微鏡撮影の二次元可視画像との自動的位置重ね合わせ方法は、
被験体の病理切片について測定される、顕微質量分析の二次元解析画像と、該病理切片の光学顕微鏡撮影により得られる二次元可視画像との間で、二つの二次元画像を重ね合わせて表示するための、位置合わせの操作を自動的に実施する方法であって、
該光学顕微鏡撮影により得られる二次元可視画像は、
前記病理切片から調製される組織薄片をプレパラート上にマウンティングし、該組織薄片に含まれる細胞、ならびに、少なくとも、前記細胞中に存在する核、細胞質を光学顕微鏡撮影することにより得られる二次元可視画像であり、
該光学顕微鏡撮影により得られる二次元可視画像を構成する画像情報は、二次元的なマトリクス配列を有する、所定のサイズのピクセルのデジタル化された色彩情報と、該ピクセルの位置情報で構成される、デジタル化された二次元可視画像データであり;
該顕微質量分析の二次元解析画像は、前記光学顕微鏡撮影により得られる二次元可視画像の測定領域について、前記組織薄片の表面を、MALDI−TOF MS法を用いて、二次元的に顕微質量分析することにより得られる、質量分析スペクトル上において特定されるイオン種のピーク強度の分布を二次元的に表示した画像であり、
該顕微質量分析の二次元解析画像を構成する画像情報は、所定の間隔で二次元的なマトリクス状に配置され、所定の照射スポット径を有する、照射スポットで測定される質量分析スペクトル上において特定される、各イオン種のピーク強度と、該照射スポットの位置情報で構成される、デジタル化された二次元解析画像データであり;
顕微質量分析の二次元解析画像と、該病理切片の光学顕微鏡撮影により得られる二次元可視画像との間で、二つの二次元画像を重ね合わせて表示するための、位置合わせの操作を自動的に実施する工程は、
前記光学顕微鏡撮影により得られる二次元可視画像の測定領域に含まれる、所定の位置に、所定の平面形状を有する位置合わせマーカーを予め設け、
下記の(i)〜(iv)に記すデジタル・データ処理により、自動的に実施される工程を具えており、
(i)前記光学顕微鏡撮影により得られる二次元可視画像上において、該位置合わせマーカーを識別し、識別された該位置合わせ用マーカーの平面形状の輪郭を特定する工程;
(ii)前記顕微質量分析の二次元解析画像上において、該位置合わせ用マーカーの平面形状に相当する閉じた領域を特定する工程;
(iii)前記二次元可視画像上において特定される、該位置合わせ用マーカーの平面形状の輪郭の位置情報と、前記顕微質量分析の二次元解析画像上において特定される、該位置合わせ用マーカーの平面形状に相当する閉じた領域の外周の形状の位置情報とを用いて、
前記位置合わせ用マーカーの平面形状の輪郭と、前記閉じた領域の外周の形状の位置を重ね合わせることで、二つの二次元画像データの位置情報間の相対的なズレを算出する工程;
(iv)二つの二次元画像データの位置情報間の相対的なズレの算出値に基づき、二つの二次元画像の相対的な位置のズレを補正して、前記顕微質量分析の二次元解析画像と、光学顕微鏡撮影により得られる二次元可視画像の二次元画像を重ね合わせて表示する工程;
前記所定の平面形状を有する位置合わせマーカーとして、
組織薄片上の所定部位に、所定の平面形状を有する、プロテアーゼ切断処理がなされていない領域を設ける
ことを特徴とする自動的位置重ね合わせ方法である。
【0061】
前記の本発明の第四の形態において、
前記所定の平面形状を有する、プロテアーゼ切断処理がなされていない領域は、例えば、所定の平面形状を有する「被覆保護膜」を、組織薄片上の所定部位に予め設け、その後、組織薄片の全面にプロテアーゼ切断処理を施すことによって、形成することができる。
【0062】
本発明の第五の形態にかかる顕微質量分析の二次元解析画像と、光学顕微鏡撮影の二次元可視画像との自動的位置重ね合わせ方法は、
被験体の病理切片について測定される、顕微質量分析の二次元解析画像と、該病理切片の光学顕微鏡撮影により得られる二次元可視画像との間で、二つの二次元画像を重ね合わせて表示するための、位置合わせの操作を自動的に実施する方法であって、
該光学顕微鏡撮影により得られる二次元可視画像は、
前記病理切片から調製される組織薄片をプレパラート上にマウンティングし、該組織薄片に含まれる細胞、ならびに、少なくとも、前記細胞中に存在する核、細胞質を光学顕微鏡撮影することにより得られる二次元可視画像であり、
該光学顕微鏡撮影により得られる二次元可視画像を構成する画像情報は、二次元的なマトリクス配列を有する、所定のサイズのピクセルのデジタル化された色彩情報と、該ピクセルの位置情報で構成される、デジタル化された二次元可視画像データであり;
該顕微質量分析の二次元解析画像は、前記光学顕微鏡撮影により得られる二次元可視画像の測定領域について、前記組織薄片の表面を、MALDI−TOF MS法を用いて、二次元的に顕微質量分析することにより得られる、質量分析スペクトル上において特定されるイオン種のピーク強度の分布を二次元的に表示した画像であり、
該顕微質量分析の二次元解析画像を構成する画像情報は、所定の間隔で二次元的なマトリクス状に配置され、所定の照射スポット径を有する、照射スポットで測定される質量分析スペクトル上において特定される、各イオン種のピーク強度と、該照射スポットの位置情報で構成される、デジタル化された二次元解析画像データであり;
顕微質量分析の二次元解析画像と、該病理切片の光学顕微鏡撮影により得られる二次元可視画像との間で、二つの二次元画像を重ね合わせて表示するための、位置合わせの操作を自動的に実施する工程は、
前記光学顕微鏡撮影により得られる二次元可視画像の測定領域に含まれる、所定の位置に、所定の平面形状を有する位置合わせマーカーを予め設け、
下記の(i)〜(iv)に記すデジタル・データ処理により、自動的に実施される工程を具えており、
(i)前記光学顕微鏡撮影により得られる二次元可視画像上において、該位置合わせマーカーを識別し、識別された該位置合わせ用マーカーの平面形状の輪郭を特定する工程;
(ii)前記顕微質量分析の二次元解析画像上において、該位置合わせ用マーカーの平面形状に相当する閉じた領域を特定する工程;
(iii)前記二次元可視画像上において特定される、該位置合わせ用マーカーの平面形状の輪郭の位置情報と、前記顕微質量分析の二次元解析画像上において特定される、該位置合わせ用マーカーの平面形状に相当する閉じた領域の外周の形状の位置情報とを用いて、
前記位置合わせ用マーカーの平面形状の輪郭と、前記閉じた領域の外周の形状の位置を重ね合わせることで、二つの二次元画像データの位置情報間の相対的なズレを算出する工程;
(iv)二つの二次元画像データの位置情報間の相対的なズレの算出値に基づき、二つの二次元画像の相対的な位置のズレを補正して、前記顕微質量分析の二次元解析画像と、光学顕微鏡撮影により得られる二次元可視画像の二次元画像を重ね合わせて表示する工程;
前記所定の平面形状を有する位置合わせマーカーとして、
組織薄片がマウンティングされているプレパラート上、目標とする測定領域内に含まれるように、光学顕微鏡撮影の二次元可視画像、顕微質量分析の二次元解析画像のいずれにおいても識別可能な、内因性の位置合わせマーカーを設定する
ことを特徴とする自動的位置重ね合わせ方法である。
【0063】
前記の本発明の第五の形態においては、
前記光学顕微鏡撮影の二次元可視画像、顕微質量分析の二次元解析画像のいずれにおいても識別可能な、内因性の位置合わせマーカーとして、
組織薄片の表面において、光学顕微鏡撮影の二次元可視画像、顕微質量分析の二次元解析画像のいずれにおいても、その領域の位置の特定が可能な、核複数個を採用する態様とできる。
【0064】
本発明の第六の形態にかかる顕微質量分析の二次元解析画像と、光学顕微鏡撮影の二次元可視画像との自動的位置重ね合わせ方法は、
被験体の病理切片について測定される、顕微質量分析の二次元解析画像と、該病理切片の光学顕微鏡撮影により得られる二次元可視画像との間で、二つの二次元画像を重ね合わせて表示するための、位置合わせの操作を自動的に実施する方法であって、
該光学顕微鏡撮影により得られる二次元可視画像は、
前記病理切片から調製される組織薄片をプレパラート上にマウンティングし、該組織薄片に含まれる細胞、ならびに、少なくとも、前記細胞中に存在する核、細胞質を光学顕微鏡撮影することにより得られる二次元可視画像であり、
該光学顕微鏡撮影により得られる二次元可視画像を構成する画像情報は、二次元的なマトリクス配列を有する、所定のサイズのピクセルのデジタル化された色彩情報と、該ピクセルの位置情報で構成される、デジタル化された二次元可視画像データであり;
該顕微質量分析の二次元解析画像は、前記光学顕微鏡撮影により得られる二次元可視画像の測定領域について、前記組織薄片の表面を、MALDI−TOF MS法を用いて、二次元的に顕微質量分析することにより得られる、質量分析スペクトル上において特定されるイオン種のピーク強度の分布を二次元的に表示した画像であり、
該顕微質量分析の二次元解析画像を構成する画像情報は、所定の間隔で二次元的なマトリクス状に配置され、所定の照射スポット径を有する、照射スポットで測定される質量分析スペクトル上において特定される、各イオン種のピーク強度と、該照射スポットの位置情報で構成される、デジタル化された二次元解析画像データであり;
顕微質量分析の二次元解析画像と、該病理切片の光学顕微鏡撮影により得られる二次元可視画像との間で、二つの二次元画像を重ね合わせて表示するための、位置合わせの操作を自動的に実施する工程は、
前記光学顕微鏡撮影により得られる二次元可視画像の測定領域に含まれる、所定の位置に、所定の平面形状を有する位置合わせマーカーを予め設け、
下記の(i)〜(iv)に記すデジタル・データ処理により、自動的に実施される工程を具えており、
(i)前記光学顕微鏡撮影により得られる二次元可視画像上において、該位置合わせマーカーを識別し、識別された該位置合わせ用マーカーの平面形状の輪郭を特定する工程;
(ii)前記顕微質量分析の二次元解析画像上において、該位置合わせ用マーカーの平面形状に相当する閉じた領域を特定する工程;
(iii)前記二次元可視画像上において特定される、該位置合わせ用マーカーの平面形状の輪郭の位置情報と、前記顕微質量分析の二次元解析画像上において特定される、該位置合わせ用マーカーの平面形状に相当する閉じた領域の外周の形状の位置情報とを用いて、
前記位置合わせ用マーカーの平面形状の輪郭と、前記閉じた領域の外周の形状の位置を重ね合わせることで、二つの二次元画像データの位置情報間の相対的なズレを算出する工程;
(iv)二つの二次元画像データの位置情報間の相対的なズレの算出値に基づき、二つの二次元画像の相対的な位置のズレを補正して、前記顕微質量分析の二次元解析画像と、光学顕微鏡撮影により得られる二次元可視画像の二次元画像を重ね合わせて表示する工程;
前記所定の平面形状を有する位置合わせマーカーとして、
組織薄片上の所定部位に、所定の平面形状を有する、アミノ酸残基への化学修飾処理がなされていない領域を設ける
ことを特徴とする自動的位置重ね合わせ方法である。
【0065】
例えば、前記アミノ酸残基への化学修飾処理として、Cys残基の側鎖上のスルファニル基(−SH)に対する、S−アルキル化処理を採用することができる。
【0066】
なお、本発明においては、MALDI−TOF MS法として、
UV−MALDI−TOF MS法を用いることが好ましい。
【発明の効果】
【0067】
本発明にかかる自動的位置重ね合わせ方法では、病理組織切片の測定領域に付設される、人為的な「位置合わせ用マーカー」を利用して、顕微質量分析の二次元解析画像と、光学顕微鏡撮影の二次元可視画像と間で、画像位置の重ね合わせ操作を行うので、位置合わせを高い精度で、自動的に行うことが可能となる。特に、顕微質量分析の二次元解析画像上において、位置合わせの手がかりとなる、「対象のタンパク質の濃度分布形状の特徴」が明瞭でない場合であっても、位置合わせを高い精度で、自動的に行うことが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0068】
以下に、本発明にかかる顕微質量分析の二次元解析画像と、光学顕微鏡撮影の二次元可視画像との自動的位置重ね合わせ方法をより詳しく説明する。
【0069】
本発明は、下記の着想に基づき、その技術的意義を一般化したものである。
【0070】
顕微質量分析の解析画像と被験体の病理切片画像とを重ね合わせて表示するために、顕微質量分析によって得られる病理切片画像上の位置を特定可能な情報を使用して画像の重ねあわせを行う。病理切片画像上の位置を特定可能なマーカーは、あえて顕微質量分析によって得られる画像に位置情報を表す「マーク」がつくように、
・予め、病理切片をマウントしているプレパラート上に、マーカー物質の添加を行う場合、
・ある特定部分の画像が抜け落ちるようにマスクをする場合、
・部分的にマトリクス剤の塗布を行わない、またはプロテアーゼ処理を行わない場合、
・重ね合わせを行うための内部標準として、病理切片内に通常含まれる生体物質のうち、画像上の特徴を示す位置に存在する物質、例えば、核内に局在するタンパク質、細胞膜に結合する膜タンパク質、細胞質にのみ存在するタンパク質などを利用して、重ね合わせ対象となる病理画像の特定部位を最も特徴的に表示できる画像を選択し、その画像を用いて画像との重ね合わせ位置を特定する場合である。
【0071】
従来では、顕微質量分析の解析画像と被験体の病理切片画像とを重ね合わせて表示するためには、別々に作成された画像の特徴を目視にて判定する、あるいは、予め、撮影位置を固定して、重ねあわせを行っていた。このため、正確な重ねあわせを、自動的に行うことは困難であった。
【0072】
本発明を用いれば、画像処理や顕微質量分析のスペクトル結果を用いて、自動的な重ねあわせが可能となり、同時に、重ね合わせの精度の向上も期待できる。
【0073】
まず、本発明にかかる自動的位置重ね合わせ方法が適用される、顕微質量分析の二次元解析画像と、光学顕微鏡撮影の二次元可視画像について、説明する。
【0074】
(光学顕微鏡撮影の二次元可視画像データ)
本発明は、病理組織学的診断の技術分野を対象としており、光学顕微鏡撮影の二次元可視画像は、主に、患者から切除された病理組織切片から、組織薄片を作製し、該組織薄片中に存在する、当該組織の形状、組織を構成する細胞、各細胞中に存在する核、各種のオルガネラを、光学顕微鏡観察したものに相当する。あるいは、各種の病理学的研究、薬理学的研究に利用される、組織培養物から作製される、組織薄片を光学顕微鏡観察したものも含まれる。
【0075】
例えば、病理組織切片から調製する、組織薄片をプレパラート上にマウンティングし、次いで、各種の染料を利用して、染色を施す。組織を構成する個々の細胞に対して、その細胞膜の輪郭、細胞中の核膜の輪郭を明瞭にするため、例えば、ヘマトキシリン・エオシン染色(HE染色)を施す。
【0076】
エオシン染色により、細胞質、細胞膜、一部の細胞外構造は、ピンクや赤に染色される。また、ヘマトキシリン染色により、核は、青紫または茶色に染色される。核の選択的な染色に利用される、ヘマトキシリン染色には、媒染剤(mordant)が必要である。それぞれ染色対象が相違し、また、染色後の色調も相違する、ヘマトキシリン染色とエオシン染色を組み合わせた、ヘマトキシリン・エオシン染色を施すことで、組織を構成する個々の細胞に対して、その細胞膜の輪郭、細胞中の核膜の輪郭がより明確になる。
【0077】
染色を施した、プレパラート上にマウンティングされた組織薄片を、透過顕微鏡で観察し、光学顕微鏡撮影により得られる二次元可視画像を得る。
【0078】
例えば、光学顕微鏡撮影により得られる二次元可視画像の一次情報は、光学顕微鏡を利用して撮影されるカラー顕微鏡写真とすることができる。このカラー顕微鏡写真の画像情報は、カラー・デジタル・スキャナーによって、デジタル化処理された二次元可視画像データに変換する。
【0079】
また、光学顕微鏡で観測される二次元可視画像を、例えば、二次元マトリクス型光検出器により画像情報を検出することで、直接デジタル化処理が施し、デジタル化処理された二次元可視画像データとして入手することもできる。このデジタル化処理に伴って、二次元マトリクス型光検出器を構成する各ピクセルで検出される可視光強度は、例えば、「RBG」形式の原色光成分情報:{PR、PB、PG}として、記録されている。
【0080】
すなわち、光学顕微鏡撮影により得られる二次元可視画像データは、検出される組織薄片上における実際の位置:kの位置情報(xOk、yOk)と、検出される可視光強度:{PR(xOk、yOk)、PB(xOk、yOk)、PG(xOk、yOk)}の組み合わせで構成されている。例えば、二次元マトリクス型光検出器の各ピクセル・サイズに依存する解像度、あるいは、カラー・デジタル・スキャナーの解像度に依存するが、検出される実際の位置:kは、その位置(xOk、yOk)は、所定の微小な間隔:ΔxOとΔyOを有する離散的ではあるが、高密度の二次元状マトリクスとなっている。
【0081】
光学顕微鏡撮影により得られる二次元可視画像データの解像度は、前記の所定の微小な間隔:ΔxOとΔyOに相当する。解像度に相当する、前記の所定の微小な間隔:ΔxOとΔyOは、光学顕微鏡撮影時の倍率にも依存するが、高倍率二次元可視画像データでは、0.05μm〜1.0μmの範囲、好ましくは、0.1μm〜0.5μmの範囲に選択される。
【0082】
例えば、プレパラート上にマウンティングされた組織薄片全体について、高倍率二次元可視画像データを取得する。その際、組織薄片のサイズにもよるが、光学顕微鏡で観測する際、撮影可能なフレーム・サイズ中に、目標とする測定領域が収まらない場合もある。その場合、目標とする測定領域を複数の小領域に分割し、各小領域をフレームの中央に含み、隣接する小領域との間で重なりを有する、複数の高倍率二次元可視画像を取得する。その後、各高倍率二次元可視画像から採取される二次元可視画像データを基に、複数のフレームの二次元可視画像データを連結して、目標とする測定領域全体をカバーする二次元可視画像データを構築する。
【0083】
複数のフレームの二次元可視画像データは、隣接するフレーム間で重なりあっており、また、解像度も等しいので、通常の画像位置の自動的な重ね合わせ方法を適用することで、二次元可視画像データの相互連結が容易に行える。
【0084】
構築された、目標とする測定領域全体をカバーする二次元可視画像データと、その基となった、複数のフレームの二次元可視画像データは、一括して、「病理可視画像」の二次元可視画像データとして、図1に示す、画像処理用コンピュータに付設するデータ記憶装置に収納される。
【0085】
(「病理可視画像」上に見出される特徴的構造の特定)
目標とする測定領域の「病理可視画像」上に見出される特徴的構造は、この測定領域中に存在する、各細胞の細胞膜の輪郭、細胞中の核膜の輪郭、ならびに、細胞中に存在する各種のオルガネラの輪郭、例えば、ミトコンドリアの外膜の輪郭、ゴルジ体の外膜の輪郭などである。組織薄片全体の輪郭(形状)は、該組織を構成する各細胞の細胞膜の輪郭を特定することによって、結果的に特定される。
【0086】
細胞中に存在する各種のオルガネラのサイズは、例えば、ミトコンドリアは、幅約0.5μm前後の糸状・顆粒状であり、ゴルジ体は、扁平な嚢、小球状の小胞(Golgi vesicle)、大形の液胞(Golgi vacuole)で構成される複合体であるが、その全体サイズは、細胞に依存している。従って、ミトコンドリアの外膜の輪郭、ゴルジ体の外膜の輪郭は、しばしば、光学顕微鏡撮影では判別が困難である。一方、細胞の細胞膜の輪郭、細胞中の核膜の輪郭は、容易に判別が可能である。
【0087】
まず、光学顕微鏡撮影により得られる二次元可視画像データに基づき、組織を構成する個々の細胞に対して、その細胞膜の輪郭、細胞中の核膜の輪郭を特定する。
【0088】
具体的には、高倍率二次元可視画像データに基づき、細胞質と核との間に存在する色調の変化を利用して、検出される可視光強度:{PR(xOk、yOk)、PB(xOk、yOk)、PG(xOk、yOk)}のうち、PB(xOk、yOk)に着目し、その変化率、∂PB(xOk、yOk)/∂xOk、∂PB(xOk、yOk)/∂yOkを数値微分により算出する。この変化率、∂PB(xOk、yOk)/∂xOk、∂PB(xOk、yOk)/∂yOkが顕著値を示す位置を、核膜の輪郭とすることができる。核膜の輪郭の位置情報は、閉曲線を示す位置の群:Gnuclear{(xOnuclear-k、yOnuclear-k)}を構成する。同様に、例えば、隣接する細胞間に存在する細胞膜は、細胞質との間に存在する色調の変化を利用して、細胞膜の輪郭の位置情報を取得することが可能である。細胞膜の輪郭の位置情報は、閉曲線を示す位置の群:Gcell{(xOcell-k、yOcell-k)}を構成する。
【0089】
組織薄片全体の輪郭(形状)は、該組織を構成する各細胞の細胞膜の輪郭を特定することによって、結果的にその外縁の位置情報として特定される。組織薄片全体の輪郭(形状)の位置情報は、連続した位置の群:Gtissue{(xOtissue-k、yOtissue-k)}を構成する。
【0090】
(顕微質量分析の二次元解析画像データ)
本発明は、病理組織学的診断の技術分野を対象としており、顕微質量分析の二次元可視画像は、主に、患者から切除された病理組織切片から、組織薄片を作製し、該組織薄片中に存在する、タンパク質、ポリペプチドについて、顕微質量分析において検出される、該タンパク質、ポリペプチドに由来するイオン種に起因するピーク強度:P(M/Z:xMj、yMj)を二次元的に表示したものに相当する。あるいは、各種の病理学的研究、薬理学的研究に利用される、組織培養物から作製される、組織薄片中に存在する、タンパク質、ポリペプチドについて、質量分析において検出される、該タンパク質、ポリペプチドに由来するイオン種に起因するピーク強度:P(M/Z:xMj、yMj)を二次元的に表示したものも含まれる。
【0091】
組織薄片中に存在するタンパク質、ポリペプチドを対象とする質量分析法として、MALDI−TOF MS法、特に、紫外領域のレーザ光を利用するUV−MALDI−TOF MS法を利用する。
【0092】
UV−MALDI−TOF MS法を採用する顕微質量分析では、組織薄片の上面にマトリクス剤を塗布し、マトリクス剤塗布された組織薄片の上面に照射するレーザ光を集光し、微小な照射スポット領域に存在する、タンパク質、ポリペプチドを非選択的に脱着/イオン化する。従って、微小な照射スポット領域に存在する、多種のタンパク質、ポリペプチドに由来する質量分析スペクトルを同時に測定できる。照射するレーザ光強度、パルス照射時間を一定とし、微小な照射スポット位置を、二次元マトリクス状に移動させて、各照射スポット位置における質量分析スペクトルの測定を行う。その後、各照射スポット位置において測定された質量分析スペクトル中から、検出対象のタンパク質に由来する質量分析スペクトルを抽出する。
【0093】
抽出された、検出対象のタンパク質に由来する質量分析スペクトルは、検出対象のタンパク質に由来するイオン種に起因するピーク(ピーク位置:M/Z)を複数含んでいる。各照射スポット:jの位置情報(xMj、yMj)と、該照射スポット:jにおいて測定される検出対象のタンパク質に由来するイオン種に起因するピーク強度:P(M/Z:xMj、yMj)を組み合わせて、顕微質量分析の二次元解析画像データを構成する。
【0094】
さらに、検出対象のタンパク質に由来するイオン種に起因するピーク強度:P(M/Z:xMj、yMj)を、その照射スポット位置(xMj、yMj)に対応させ、二次元的に表示することで、各イオン種(ピーク位置:M/Z)に関する顕微質量分析の二次元解析画像が得られる。
【0095】
例えば、プレパラート上にマウンティングされた組織薄片全体について、微小な照射スポット位置を、二次元マトリクス状に移動させて、各照射スポット位置における質量分析スペクトルの測定を行う。その測定結果に基づき構成される、顕微質量分析の二次元解析画像データは、目標とする測定領域全体をカバーする、顕微質量分析の二次元解析画像データとなる。
【0096】
各照射スポット位置において測定された質量分析スペクトルは、同時に測定された、該微小な照射スポット領域に存在する、多種のタンパク質、ポリペプチドに由来する質量分析スペクトルを含んでいる。
【0097】
各照射スポット位置において測定された質量分析スペクトル中から、個々のタンパク質、ポリペプチドに由来する質量分析スペクトルを抽出する手法として、本発明では、ペプチド・マス・フィンガープリント(PMF: Peptide Mass Finger-print)法を適用している。
【0098】
具体的には、検出対象のタンパク質に対して、特定の部分アミノ酸配列に特異性を有するプロテアーゼを作用させ、該タンパク質を構成するペプチド鎖(P0:分子量 M0)を切断して、複数種のペプチド断片{(Pf-i:分子量 Mf-i)}を調製する。このプロテアーゼ切断処理を施して得られる、複数種のペプチド断片{(Pf-i:分子量 Mf-i)}をUV−MALDI−TOF MS法を利用して、質量分析すると、複数種のペプチド断片に由来するイオン種に起因する、複数種のピークが測定される。
【0099】
各照射スポット位置において測定された質量分析スペクトル中から、検出対象のタンパク質から調製された、複数種のペプチド断片に由来するイオン種に起因する、複数種のピークを、該検出対象のタンパク質に由来する質量分析スペクトルとして、抽出する。
【0100】
前述のプロテアーゼ切断処理を施して得られる、複数種のペプチド断片{(Pf-i:分子量 Mf-i)}の量は、本質的には、等しい量である。UV−MALDI−TOF MS法では、各ペプチド断片に由来する主なイオン種として、プロトン(H+)が付加したカチオン種(Mf-i+H+/Z)と、プロトン(H+)が離脱したアニオン種(Mf-i-H+/Z)が生成する。このカチオン種とアニオン種の生成比率は、各ペプチド断片:(Pf-i:分子量 Mf-i)のアミノ酸配列に依存している。さらに、各ペプチド断片:(Pf-i:分子量 Mf-i)のイオン化効率は、その分子量と、該ペプチド断片のアミノ酸配列に依存している。
【0101】
MALDI−TOF MS法では、その測定原理上、カチオン種のみを検出するモード(positive mode)、アニオン種のみを検出するモード(negative mode)の二つの測定モードの質量分析スペクトルを、それぞれ、個別に測定することができる。例えば、カチオン種のみを検出するモード(positive mode)で測定された質量分析スペクトルにおいて、検出対象のタンパク質から調製された、複数種のペプチド断片に由来するカチオン種(Mf-i+H+/Z)のピーク強度:P(Mf-i+H+/Z)は、各ペプチド断片の分子量と、そのアミノ酸配列に依存している。従って、検出対象のタンパク質から調製された、複数種のペプチド断片に由来するカチオン種のピーク位置(Mf-i+H+/Z)と、そのピーク強度:P(Mf-i+H+/Z)の相対比:Prel(Mf-i+H+/Z)は、検出対象のタンパク質のアミノ酸配列に依存している。
【0102】
従って、二つのタンパク質間において、全体のアミノ酸配列に相違点があるが、プロテアーゼ切断処理を施して得られる、複数種のペプチド断片{(Pf-i:分子量 Mf-i)}が、完全に一致する可能性は、皆無とは言えないが、その可能性は極めて低い。本発明において、PMF法を適用して、検出対象のタンパク質に由来する質量分析スペクトルを抽出する工程では、前記の特徴を利用している。
【0103】
例えば、カチオン種のみを検出するモード(positive mode)で測定された質量分析スペクトル中から、検出対象のタンパク質に由来する、複数種のペプチド断片に由来するカチオン種のピーク位置(Mf-i+H+/Z)と、そのピーク強度:P(Mf-i+H+/Z)の相対比:Prel(Mf-i+H+/Z)に合致する、一群のピークを、検出対象のタンパク質に由来する質量分析スペクトルとして、抽出している。
【0104】
その際、検出対象のタンパク質に対して、プロテアーゼ切断処理を施して得られる、複数種のペプチド断片の個数が少ないと、偶々、全く同じ複数種のペプチド断片を与える別のタンパク質が存在する確率は、相対的に高くなる。従って、プロテアーゼ切断処理を施して得られる、複数種のペプチド断片の個数が、通常、4以上となるようなプロテアーゼを利用して、切断処理を施すことが好ましい。
【0105】
逆に、検出対象のタンパク質に対して、プロテアーゼ切断処理を施して得られる、複数種のペプチド断片の個数が多すぎる場合も、偶々、全く同じ複数種のペプチド断片を与える別のタンパク質が存在する確率は、相対的に高くなる。従って、プロテアーゼ切断処理を施して得られる、複数種のペプチド断片の個数が、通常、15以下、より好ましくは、10以下となるようなプロテアーゼを利用して、切断処理を施すことが好ましい。
【0106】
特定の部分アミノ酸配列に特異性を有するプロテアーゼのうち、前記の条件に適合するものは、特定のアミノ酸のN末端側のペプチド結合、あるいは、C末端側のペプチド結合を選択的に切断するプロテアーゼである。特定のアミノ酸のN末端側のペプチド結合、あるいは、C末端側のペプチド結合を選択的に切断するプロテアーゼとして、リシンやアルギニン残基のC末端側ペプチド結合を開裂するトリプシン、グルタミン酸残基のC末端側ペプチド結合を開裂するV8酵素などの、汎用されるペプチド断片化処理用のプロテアーゼを利用することが可能である。
【0107】
検出対象のタンパク質を構成するペプチド鎖中に、前記プロテアーゼによって切断可能な部位が4以上存在している場合であっても、実際のタンパク質は三次元構造を有しており、その三次元構造の表面に露出している切断可能な部位は、少なくなる可能性が高い。その点を考慮すると、リシンやアルギニン残基のC末端側ペプチド結合を開裂するトリプシンを、プロテアーゼ切断処理に利用することが好ましい。一種類のプロテアーゼを利用するプロテアーゼ切断処理によって、生成されるペプチド断片の個数が、上記の水準に達しない頻度が高い場合には、二種類のプロテアーゼを利用するプロテアーゼ切断処理を行う形態を選択することも可能である。
【0108】
本発明では、プレパラート上にマウンティングされた組織薄片に対して、前記のプロテアーゼ切断処理を施した後、利用したプロテアーゼを洗浄除去する操作を行わず、水分を蒸散する処理を行う。水分の除去を終えた後、組織薄片の上面にマトリクス剤の塗布層を形成する。UV−MALDI−TOF MS法において、照射されるレーザ光として、窒素ガスレーザを利用する際、マトリクス剤としては、例えば、3HPA(3-hydroxy-picolinic acid)、α−CHCA(α−cyano-4-hydroxycinnamic acid)などを利用することができる。
【0109】
結果的に、プレパラート上にマウンティングされた組織薄片の表面には、前記プロテアーゼ切断処理工程で調製される、多種のタンパク質に由来する、複数種のペプチド断片が、保持されている。さらに、プロテアーゼ切断処理に利用したプロテアーゼと、その自己消化断片も、組織薄片の表面にそのまま残留している。これらの組織薄片の表面に保持されている、多種のタンパク質に由来する、複数種のペプチド断片と、プロテアーゼと、その自己消化断片をマトリクス剤の塗布層が取り囲む状態となっている。勿論、組織薄片の表面全体に前記のプロテアーゼ切断処理を施した際には、組織薄片の表面全体にプロテアーゼと、その自己消化断片が残留している。
【0110】
例えば、プレパラート上にマウンティングされた組織薄片全体について、微小な照射スポット位置を、二次元マトリクス状に移動させて、各照射スポット位置に形成されているマトリクス剤の塗布層に集光したレーザ光を照射する。その際、例えば、二次元状に配置される各照射スポット:jは、その照射スポット領域が重なり合わないように配置する。その場合、各照射スポットの位置(xMj、yMj)は、所定の間隔:ΔxMとΔyMを有する離散的な二次元状マトリクスとなっている。勿論、所定の間隔:ΔxMとΔyMは、集光されたレーザ光の照射スポット径:dLよりも広く設定する。
【0111】
レーザ光を集光する際、その集光されたレーザ光の照射スポット径:dLは、一般に、集光に利用するレンズ系の球面収差に起因する拡がり以下にならない。その点を考慮して、例えば、発振波長λ=337.1nm、パルス幅Δt:数nsの窒素ガスレーザを利用する際には、通常、集光されたレーザ光の照射スポット径:dLは、1μm〜10μmの範囲、好ましくは、1μm〜5μmの範囲、望ましくは、1μm〜3μmの範囲に選択される。
【0112】
隣接する照射スポットの中心位置間に設ける、所定の間隔:ΔxMとΔyMは、集光されたレーザ光の照射スポット径:dLを基準として、少なくとも、ΔxM、ΔyM>dLの条件を満たし、通常、4/3・dL〜3・dLの範囲、好ましくは、3/2・dL〜2・dLの範囲に選択することは望ましい。従って、所定の間隔:ΔxMとΔyMは、一般に、2μm〜15μmの範囲、好ましくは、2μm〜10μmの範囲、例えば、3μm〜5μmの範囲に選択することが望ましい。顕微質量分析の二次元解析画像データにおける、解像度は、前記の所定の間隔:ΔxMとΔyMに相当している。
【0113】
場合によっては、二次元的質量分析を行う際、集光されたレーザ光の照射スポット径:dLに対して、照射スポットの移動ピッチ:ΔxMpitchとΔyMpitchを、ΔxMpitch、ΔyMpitch≒dL〜2/3dL程度に選択し、連続的な測定を行うこともある。すなわち、隣接する照射スポットのスポット径の裾部で重なりを有している状態で測定を行うこともある。その場合、照射スポットの中心位置の間隔が、2ΔxMpitchと2ΔyMpitchとなり、照射スポット径の重なりの無い、第二近接照射スポットを選択して、顕微質量分析の二次元解析画像データを構築する。なお、測定された全照射スポットの測定結果は、顕微質量分析の二次元解析画像データを構築する際、基礎とした原測定結果として、収納されている。
【0114】
各照射スポット:jにおいては、レーザ光の光強度:PExcitation(W)、パルス幅Δt:数nsの紫外レーザ光の照射によって、その照射量:Δt・PExcitation(W・s)に比例して、タンパク質分子の脱着/イオン化が起される。照射スポット径:dL内の組織薄片表面に存在する、多種のタンパク質、ポリペプチドは、競合してイオン化する。組織薄片表面に存在する、各タンパク質:Ppの面密度をC(Pp)、そのイオン化効率をfion(Pp)とすると、各タンパク質:Ppのイオン化量は、近似的に、fion(Pp)・C(Pp)/Σ{fion(Pp)・C(Pp)}に比例する。各タンパク質:Ppのイオン化量の総和:Σ{fion(Pp)・C(Pp)}は、レーザ光の照射量:Δt・PExcitation(W・s)に比例している。
【0115】
通常、照射スポット:jごとに、存在している各タンパク質:PPの面密度:C(Pp:xMj、yMj)は異なっている。従って、各タンパク質:Ppのイオン化量の総和:Σ{fion(Pp)・C(Pp:xMj、yMj)}は、照射スポット:jごとに、異なっている。仮に、検出対象のタンパク質:Piの面密度:C(Pi:xMj、yMj)は同じであっても、競合している他のタンパク質の面密度の相違に起因して、検出対象のタンパク質:Piのイオン化量は、fion(Pi)・C(Pi:xMj、yMj)/Σ{fion(Pp)・C(Pp:xMj、yMj)}に従って、相違したものとなる。
【0116】
一方、検出対象のタンパク質:Piに由来する各ペプチド断片:(Pf-i:分子量 Mf-i)のイオン化量の相対比は、その照射スポット:jでの各ペプチド断片の面密度:C(Pf-i:xMj、yMj)は、本質的に等しいので、各ペプチド断片のイオン化効率:fion(Pf-i)に依存するのみである。
【0117】
例えば、カチオン種のみを検出するモード(positive mode)で測定された質量分析スペクトル中から、検出対象のタンパク質に由来する、複数種のペプチド断片に由来するカチオン種のピーク位置(Mf-i+H+/Z)と、そのピーク強度:P(Mf-i+H+/Z)の相対比:Prel(Mf-i+H+/Z)は、何れの照射スポット:jでも、本質的にバラツキを示さない。本発明において、PMF法を適用して、各照射スポット:jごとに、検出対象のタンパク質に由来する質量分析スペクトルを抽出する工程では、前記の特徴を利用している。
【0118】
また、ある照射スポットでは、検出対象のタンパク質に由来する、複数種のペプチド断片に由来するカチオン種のピーク位置(Mf-i+H+/Z)のいずれかに、他のタンパク質に由来する、ペプチド断片に由来するカチオン種のピーク位置が偶々重なることもある。その際、他の照射スポットで測定されている、複数種のペプチド断片に由来するカチオン種のピーク強度:P(Mf-i+H+/Z)の相対比:Prel(Mf-i+H+/Z)を参照して、その照射スポットにおける、残りのペプチド断片に由来するカチオン種のピーク強度:P(Mf-i+H+/Z)から、偶々、別のペプチド断片に由来するカチオン種のピーク位置と重なった、ピーク強度を合理的に推定することも可能である。
【0119】
必要に応じて、前記の偶発的なピークの重なりが生じている照射スポットにおけるピーク強度:P(Mf-i+H+/Z)の補正を行った後、各照射スポット:jの位置情報(xMj、yMj)と、該照射スポット:jにおいて測定される、検出対象のタンパク質に由来する、複数種のペプチド断片に由来するカチオン種のピーク位置(Mf-i+H+/Z)、そのピーク強度:P(Mf-i+H+/Z:xMj、yMj)を組み合わせて、検出対象のタンパク質に由来する、複数種のペプチド断片に対する、顕微質量分析の二次元解析画像データを構築する。
【0120】
さらに、各照射スポット:jで同時に観測されている、他のタンパク質に由来する、複数種のペプチド断片に関しても、同様に、顕微質量分析の二次元解析画像データを構築する。
【0121】
上記の偶発的なピークの重なりを検出する手法は、例えば、検出対象のタンパク質に加えて、該タンパク質に修飾がなされた修飾タンパク質、あるいは、変異体タンパク質が共存していることの検出をも可能としている。修飾タンパク質、変異体タンパク質に由来する、複数種のペプチド断片は、修飾部位、変異部位を内在しているペプチド断片を除き、それ以外のペプチド断片は、検出対象のタンパク質に由来する、複数種のペプチド断片と同じものとなっている。従って、検出対象のタンパク質に由来する、複数種のペプチド断片に由来するカチオン種のピーク強度:P(Mf-i+H+/Z:xMj、yMj)の相対比:Prel(Mf-i+H+/Z)に着目すると、修飾を受ける部位を内在するペプチド断片の相対比が、一見減少しているように見える。上記の偶発的なピークの重なりを検出する手法における、判定基準を適用すると、修飾、変異を受ける部位を内在するペプチド断片以外の、残りの複数種のペプチド断片のピーク位置(Mf-i+H+/Z)が全て、偶発的なピークの重なりを生じていると判定される。すなわち、検出対象のタンパク質のアミノ酸配列と本質的に同じアミノ酸配列を有する、修飾タンパク質、あるいは、変異体タンパク質が共存していると、合理的に結論できる。
【0122】
上記の偶発的なピークの重なりが生じている照射スポットにおけるピーク強度の補正を行った上で構築された、目標とする測定領域全体をカバーする、各種のタンパク質に由来する、複数種のペプチド断片に対する、顕微質量分析の二次元解析画像データは、図1に示す、画像処理用コンピュータに付設するデータ記憶装置に収納される。なお、前記のピーク強度の補正を施していない、各種のタンパク質に由来する、複数種のペプチド断片に対する、顕微質量分析の二次元解析画像データも、未補正の顕微質量分析の二次元解析画像データとして、併せて、図1に示す、画像処理用コンピュータに付設するデータ記憶装置に収納される。
【0123】
勿論、各照射スポット:jにおいて測定される、質量分析スペクトルのデータは、各照射スポット:jの位置情報(xMj、yMj)と、組み合わせて、基礎となる「質量分析スペクトルのデータ」セットとして、図1に示す、画像処理用コンピュータに付設するデータ記憶装置に収納されている。
【0124】
(二種の二次元画像間の自動的位置重ね合わせ方法)
次に、本発明にかかる顕微質量分析の二次元解析画像と、光学顕微鏡撮影の二次元可視画像との自動的位置重ね合わせ方法に関して、各形態の構成と、その技術的な原理を、具体的な態様を参照して、さらに詳しく説明する。
【0125】
勿論、上記の方法で測定する、顕微質量分析の二次元解析画像と、光学顕微鏡撮影の二次元可視画像は、病理組織切片の同じ領域を測定することで得られる測定結果に基づいている。また、それぞれの位置情報を記載する起点(座標軸の原点)は、可能な限り、一致させる努力は払われているが、異なる測定装置を用いて測定することに伴って、両者の位置情報を記載する起点(座標軸の原点)は、若干のズレが生じている。すなわち、顕微質量分析の二次元解析画像データにおける、照射スポット:jの位置情報(xMj、yMj)の起点(座標軸の原点)と、光学顕微鏡撮影により得られる二次元可視画像データにおける、実際の位置:kの位置情報(xOk、yOk)の起点(座標軸の原点)は、相対的にズレており、(xMj、yMj)=(xOk+δx、yOk+δy)の関係となっている。また、そのズレ(δx、δy)の程度は、個々の病理組織切片で異なっている。二つの二次元画像データの位置情報の起点(座標軸の原点)のズレを合わせる操作が、画像位置の重ね合わせ操作に相当している。
【0126】
さらに、顕微質量分析の二次元解析画像の解像度と、光学顕微鏡撮影の二次元可視画像の解像度は、本質的に相違しており、高い解像度を有する光学顕微鏡撮影の二次元可視画像の位置情報(xOk、yOk)を基準して、解像度が劣っている顕微質量分析の二次元解析画像における位置情報(xMj、yMj)が示す、前記のズレ(δx、δy)を自動的に見積もる操作が、画像位置の重ね合わせ操作に相当している。
【0127】
本発明にかかる自動的位置重ね合わせ方法では、前記の位置情報の起点(座標軸の原点)間の相対的なズレ(δx、δy)を自動的に見積もるため、第一の形態〜第五の形態では、それぞれ、下記の手段を採用している
すなわち、人為的な「位置合わせ用マーカー」として、下記の5つの形態を採用することで、自動的に実施する際、二つの二次元画像相互の位置合わせの精度を向上させている。
【0128】
(1)第一の形態では、組織薄片がマウンティングされているプレパラート上、目標とする測定領域内に含まれるように、光学顕微鏡撮影の二次元可視画像、顕微質量分析の二次元解析画像のいずれにおいても識別可能な「マーカー物質」からなる、所定の平面形状を有する「位置合わせマーカー」を設ける。
【0129】
(2)第二の形態では、組織薄片がマウンティングされているプレパラート上、目標とする測定領域内に含まれるように、光学顕微鏡撮影の二次元可視画像においては識別可能であり、顕微質量分析の二次元解析画像においては、識別可能な質量分析ピーク強度を示さない、所定の平面形状を有する「位置合わせ用マスク」を設ける。
【0130】
(3)第三の形態では、組織薄片がマウンティングされているプレパラート上、目標とする測定領域内に含まれるように設ける、所定の平面形状を有する「位置合わせマーカー」として、組織薄片上の所定部位に設ける、所定の平面形状を有する「マトリクス剤の塗布がなされていない領域」を利用する。
【0131】
(4)第四の形態では、組織薄片がマウンティングされているプレパラート上、目標とする測定領域内に含まれるように設ける、所定の平面形状を有する「位置合わせマーカー」として、組織薄片上の所定部位に設ける、所定の平面形状を有する「プロテアーゼ切断処理がなされていない領域」を利用する。
【0132】
(5)第五の形態では、組織薄片がマウンティングされているプレパラート上、目標とする測定領域内に含まれるように、光学顕微鏡撮影の二次元可視画像、顕微質量分析の二次元解析画像のいずれにおいても識別可能な「内因性の位置合わせマーカー」を設定する。
【0133】
(第一の形態)
本発明にかかる自動的位置重ね合わせ方法の第一の形態では、組織薄片がマウンティングされているプレパラート上、目標とする測定領域内に含まれるように、光学顕微鏡撮影の二次元可視画像、顕微質量分析の二次元解析画像のいずれにおいても識別可能な「マーカー物質」からなる、所定の平面形状を有する「位置合わせマーカー」を設ける。その後、該「位置合わせマーカー」を含む目標とする測定領域全体について、測定を行って、光学顕微鏡撮影の二次元可視画像データと、顕微質量分析の二次元解析画像データとを取得する。
【0134】
顕微質量分析の二次元解析画像データに基づき表示される、顕微質量分析の二次元解析画像上において、該「位置合わせマーカー」の「平面形状を特徴付ける点Smarker」を選択し、顕微質量分析の二次元解析画像データに基づき、この「平面形状を特徴付ける点Smarker」に関して、顕微質量分析の二次元解析画像上における、該「平面形状を特徴付ける点Smarker」の位置情報(xMmarker、yMmarker)を特定する。次いで、光学顕微鏡撮影の二次元可視画像データに基づき表示される、光学顕微鏡撮影の二次元可視画像上における、該「平面形状を特徴付ける点Smarker」の位置情報(xOmarker、yOmarker)を、顕微質量分析の二次元解析画像上における、所定の平面形状を有する「位置合わせマーカー」の画像データと、光学顕微鏡撮影の二次元可視画像上における、所定の平面形状を有する「位置合わせマーカー」の画像データに基づき、推定する。
【0135】
顕微質量分析の二次元解析画像上における、該「平面形状を特徴付ける点Smarker」の位置情報(xMmarker、yMmarker)と、推定された光学顕微鏡撮影の二次元可視画像上における、該「平面形状を特徴付ける点Smarker」の位置情報(xOmarker、yOmarker)から、(xMmarker、yMmarker)=(xOmarker+δx、yOmarker+δy)を満足する、位置情報の起点(座標軸の原点)間の相対的なズレ(δx、δy)を算出する。
【0136】
算出された相対的なズレ(δx、δy)に基づき、顕微質量分析の二次元解析画像上における、各照射スポット:jの位置(xMj、yMj)を、光学顕微鏡撮影の二次元可視画像上における位置(xOj、yOj)≡(xMj−δx、yMj−δy)に一致させるように、自動的位置重ね合わせを行う。
【0137】
光学顕微鏡撮影の二次元可視画像、顕微質量分析の二次元解析画像のいずれにおいても識別可能な「マーカー物質」からなる、所定の平面形状を有する「位置合わせマーカー」は、例えば、下記の形態とすることができる。
【0138】
まず、顕微質量分析の二次元解析画像上における識別を可能とするためには、「マーカー物質」は、検出対象のタンパク質の質量分析を行う条件で、同時に質量分析が可能であることが必要である。従って、プロテアーゼ切断処理を施した際、検出対象のタンパク質に由来する、複数種のペプチド断片の質量分析を行う条件で、同時に質量分析した際、そのイオン種のM/Zの測定範囲内に、PMF法を適用して、該「マーカー物質」の存在を特定可能なイオン種ピークを与えることが必要である。具体的には、「マーカー物質」として、タンパク質、または、ポリペプチドを採用することが好ましい。より好ましくは、組織薄片中に存在している、組織細胞の内因性タンパク質、ポリペプチドではなく、本質的に、組織薄片中には存在していない外因性タンパク質、ポリペプチドを採用する。
【0139】
タンパク質、ポリペプチド自体は、一般に、光学顕微鏡撮影の二次元可視画像上で識別可能な色彩を有していない。従って、光学顕微鏡撮影の二次元可視画像上で識別可能な色彩を有する色素標識を付した「色素標識タンパク質、色素標識ポリペプチド」を、「マーカー物質」として利用する。あるいは、タンパク質、ポリペプチドに色素を混合した、混合物を、「マーカー物質」として利用する。この「マーカー物質」を所定の表面密度となるように、所定の平面形状で塗布することで「位置合わせマーカー」を作製する。
【0140】
あるいは、クマシーブルー(Coomassie blue、またはCoomassie brilliant blue, CBB)を利用して、「マーカー物質」として利用される、タンパク質、ポリペプチドを非特異的に染色する態様も利用できる。
【0141】
所定の平面形状を有する「位置合わせマーカー」は、上述の光学顕微鏡撮影の二次元可視画像上に見出される、「特徴的構造の特定」操作の工程においては、特定の色調を示す「閉じた領域」として識別される。この「位置合わせマーカー」に相当する、特定の色調を示す「閉じた領域」の輪郭をなす、閉曲線を示す位置の群:GOMarker-contour{(xOMarker-c-k、yOMarker-c-k)}の特定がなされる。次に、閉曲線を示す位置の群:GOMarker-contour{(xOMarker-c-k、yOMarker-c-k)}として特定された、この特定の色調を示す「閉じた領域」の輪郭の内部に存在している、ピクセルの総数:NOMatker-sizeを特定する。所定の平面形状を有する「位置合わせマーカー」のサイズ:SOMarkerは、ピクセル間の間隔:ΔxOとΔyO、ならびに、ピクセルの総数:NOMatker-sizeを用いて、SOMarker=(ΔxO×ΔyO)・(NOMatker-size+1)と見積もられる。
【0142】
その際、顕微質量分析の二次元解析画像上において、この所定の平面形状を有する「位置合わせマーカー」の内部に存在する照射スポットの総数:NMMarker-spotは、照射スポット間の間隔:ΔxMとΔyMを考慮すると、SOMarker/(ΔxM×ΔyM)前後と見積もられる。
【0143】
一方、所定の平面形状を有する「位置合わせマーカー」は、顕微質量分析の二次元解析画像上においては、「マーカー物質」として利用する、例えば、外因性タンパク質、ポリペプチドに由来する、ペプチド断片に起因するイオン種が特異的に観測される「閉じた領域」として、識別可能である。次いで、顕微質量分析の二次元解析画像上において識別された、この「閉じた領域」の内部に存在する照射スポットの総数:NMMarker-spotを特定する。特定された「閉じた領域」の内部に存在する照射スポットの総数:NMMarker-spotが、先に見積もった値:SOMarker/(ΔxM×ΔyM)前後であることを確認することで、顕微質量分析の二次元解析画像上において識別された「閉じた領域」が、実際に、所定の平面形状を有する「位置合わせマーカー」に相当することが検証される。具体的には、特定された「閉じた領域」の内部に存在する照射スポットの総数:NMMarker-spotが、例えば、3/2・SOMarker/(ΔxM×ΔyM)〜1/2・SOMarker/(ΔxM×ΔyM)の範囲であるという基準を満たす場合、識別された「閉じた領域」が、実際に、所定の平面形状を有する「位置合わせマーカー」に相当することが検証される。
【0144】
その際、顕微質量分析の二次元解析画像上においては、所定の平面形状を有する「位置合わせマーカー」のサイズ:SMMarkerは、照射スポット間の間隔:ΔxMとΔyM、ならびに、照射スポットの総数:NMMarker-spotを用いて、SMMarker=(ΔxM×ΔyM)・(NMMatker-size+1)で近似できると推断される。この推定される所定の平面形状を有する「位置合わせマーカー」のサイズ:SMMarkerは、やはり、先に見積もった値:SOMarker/(ΔxM×ΔyM)前後となっている。具体的には、推定される所定の平面形状を有する「位置合わせマーカー」のサイズ:SMMarkerが、例えば、3/2・SOMarker〜1/2・SOMarkerの範囲であるという基準を満たす場合、識別された「閉じた領域」が、実際に、所定の平面形状を有する「位置合わせマーカー」に相当することが検証される。

また、光学顕微鏡撮影により得られる二次元可視画像上において、識別される該「位置合わせ用マーカー」の平面形状の輪郭中に存在する、全てのピクセルの位置情報:(xOMarker-k、yOMarker-k)の単純平均を算定する。この単純平均:(xOmarker-k-av.、yOmarker-k-av。)は、識別される該「位置合わせ用マーカー」の平面形状の重心の位置情報と見做すことができる。顕微質量分析の二次元解析画像上において、識別される「閉じた領域」の内部に存在する、全ての照射スポットの位置情報(xMMarker-j、yMMarker-j)の単純平均を算定する。この単純平均:(xMMarker-j-av.、yMMarker-j-av.)は、識別される該「閉じた領域」の重心位置を近似的に表す。すなわち、位置情報の起点(座標軸の原点)間の相対的なズレ(δx、δy)を用いて、近似的に、(xMMarker-j-av.、yMMarker-j-av.)≒(xOMarker-k-av.+δx、yOMarker-k-av.+δy)と表記できる。
【0145】
顕微質量分析の二次元解析画像自体の解像度が十分に高く、「閉じた領域」の内部に存在する照射スポットの総数:NMMarker-spotが十分に多い場合、前記の近似の精度は高いものとなっている。その近似の程度は、顕微質量分析の二次元解析画像自体の解像度に依存しており、下記のような「不確実性」(近似誤差)を含んでいる。
【0146】
顕微質量分析の二次元解析画像自体の解像度は、照射スポット間の間隔:ΔxMとΔyMに相当しており、識別された「閉じた領域」の輪郭は、前記の解像度に起因する「不確実性」を有している。具体的には、識別された「閉じた領域」の見掛けの輪郭は、「閉じた領域」の内部に存在する照射スポットの群:GMMarker-spot{(xMMarker-j、yMMarker-j)}の外周として、表示される。しかし、所定の平面形状を有する「位置合わせマーカー」の輪郭は、「閉じた領域」の内部に存在する照射スポットの群:GMMarker-spotの「外周」を取り巻く、「マーカー物質」に由来するイオン種のピーク強度が実質的に測定されない照射スポットと、「閉じた領域」の外周に位置する照射スポットとの間に位置していると、判断される。換言すると、識別された「閉じた領域」の見掛けの輪郭に対して、所定の平面形状を有する「位置合わせマーカー」の輪郭は、解像度、すなわち、照射スポット間の間隔:ΔxMとΔyMに起因して、場合によっては、最大限(ΔxM−dL)〜(ΔxM−1/2dL)、(ΔyM−dL)〜(ΔyM−1/2dL)程度の「不確実性」を示す。
【0147】
しかしながら、例えば、「位置合わせマーカー」の平面形状を下記のように選択することで、「不確実性」を低減することが可能である。
【0148】
例えば、「位置合わせマーカー」の平面形状を矩形とする際、その形状を、(a×ΔxM)×(b×ΔyM)に選択する。一例として、(3×ΔxM)×(3×ΔyM)に選択する場合について、検討する。
【0149】
「位置合わせマーカー」の平面形状が、(3×ΔxM)×(3×ΔyM)の矩形である場合、照射スポットの中心が、「位置合わせマーカー」の平面形状の輪郭に一致していると、その照射スポットの面積:1/4(π・dL2)の1/2は、「位置合わせマーカー」の内部に存在するが、残りの1/2は外部にある。その際、この照射スポットにおいて、観測される「マーカー物質」に由来するイオン種のピーク強度は、「位置合わせマーカー」の内部に存在する面積に比例している。「位置合わせマーカー」の平面形状の輪郭(X軸方向の境界)に対して、「閉じた領域」の外周に位置する「照射スポットの中心」の相対位置:δxrelativeと、該照射スポットの面積中、「位置合わせマーカー」の内部に含まれる比率の関係は以下のように対応を示す。
【0150】
【表1−1】

【0151】
表1−1に示すように、「位置合わせマーカー」の平面形状の輪郭に対して、「閉じた領域」の外周に位置する「照射スポットの中心」の相対位置が、−1/2・dL〜1/2・dLの範囲に存在する場合、両端の照射スポット1,4におけるピーク強度の変化が観測される。換言するならば、両端の照射スポット1,4におけるピーク強度の変化に基づき、「位置合わせマーカー」の平面形状の輪郭(X軸方向の境界)に対する、「閉じた領域」の外周に位置する「照射スポットの中心」の相対位置δxrelativeを推定することが可能である。同様にして、「位置合わせマーカー」の平面形状の輪郭(Y軸方向の境界)に対する、「閉じた領域」の外周に位置する「照射スポットの中心」の相対位置δyrelativeを推定することが可能である。
【0152】
「位置合わせマーカー」の平面形状が、(3×ΔxM)×(3×ΔyM)の矩形である場合、その矩形の輪郭に対して、「閉じた領域」の外周に位置する「照射スポットの中心」の位置は、相対的に、(δxrelative、δyrelative)の偏っていると見積もられる。
【0153】
顕微質量分析の二次元解析画像上において、矩形形状を有する「位置合わせマーカー」の頂点に最近接している、照射スポット:jの位置情報(xMmarker、yMmarker)は、光学顕微鏡撮影の二次元可視画像上に見出される、対応する矩形形状を有する「位置合わせマーカー」の頂点の位置情報(xOmarker-corner、yOmarker-corner)を基準として、(xOmarker-corner+δxrelative、yOmarker-corner+δyrelative)に対応すると判断される。
【0154】
従って、顕微質量分析の二次元解析画像上における、該「平面形状を特徴付ける点Smarker」の位置情報(xMmarker、yMmarker)と、推定された光学顕微鏡撮影の二次元可視画像上における、該「平面形状を特徴付ける点Smarker」の位置情報(xOmarker、yOmarker)≡(xOmarker-corner+δxrelative、yOmarker-corner+δyrelative)から、(xMmarker、yMmarker)=(xOmarker+δx、yOmarker+δy)を満足する、位置情報の起点(座標軸の原点)間の相対的なズレ(δx、δy)を、高い精度で積もることができる。
【0155】
一般化すると、光学顕微鏡撮影の二次元可視画像上において特定される、「位置合わせマーカー」の平面形状の輪郭に基づき、顕微質量分析の二次元解析に採用する、照射スポット間の間隔:ΔxMとΔyMに基づき、「位置合わせマーカー」の平面形状の外周に位置する、照射スポットの「理想的位置」:(xOmarker-k-hyp、yOmarker-k-hyp)を仮定する。その照射スポットの「理想的位置」(xOmarker-k-hyp、yOmarker-k-hyp)を基準として、実際に、該照射スポットで測定されている、「マーカー物質」に由来するイオン種のピーク強度を高い確度で再現する、相対的な位置の変異:(δxrelative、δyrelative)の見積もりを行う。その結果、「位置合わせマーカー」の平面形状の外周に位置する、照射スポットに関して、光学顕微鏡撮影の二次元可視画像上での合理的な推定位置は、(xOmarker-k、yOmarker-k)≡(xOmarker-k-hyp+δxrelative、yOmarker-k-hyp+δyrelative)と、高い確度で推定される。
【0156】
顕微質量分析の二次元解析画像上における、「位置合わせマーカー」の平面形状の外周に位置する、照射スポットの位置情報(xMmarker-j、yMmarker-j)と、合理的に推定された光学顕微鏡撮影の二次元可視画像上における、該照射スポットの位置情報(xOmarker-k、yOmarker-k)≡(xOmarker-k-hyp+δxrelative、yOmarker-k-hyp+δyrelative)が対応付けられる。その後、(xMmarker-j、yMmarker-j)=(xOmarker-k+δx、yOmarker-k+δy)を満足する、位置情報の起点(座標軸の原点)間の相対的なズレ(δx、δy)を、高い精度で積もることができる。
【0157】
但し、相対的な位置の変異:(δxrelative、δyrelative)は、照射スポットで測定されるピーク強度の若干のバラツキに依存して、僅かに、バラツキを示す。その僅かなバラツキを排除するため、相対的な位置の変異:(δxrelative、δyrelative)の平均を算出して、相対的な位置の変異:(δxrelative、δyrelative)の代表値とすることも可能である。
【0158】
上述する説明では、「位置合わせマーカー」の平面形状を矩形とする際、その形状を、(a×ΔxM)×(b×ΔyM)に選択する事例、例えば、(3×ΔxM)×(3×ΔyM)に選択する事例を参照して、本発明の技術的原理を説明している。
【0159】
「位置合わせマーカー」の平面形状の輪郭(X軸方向の境界)に対する、「閉じた領域」の外周に位置する「照射スポットの中心」の相対位置δxrelativeを推定する際、「位置合わせマーカー」の平面形状中に、そのX軸方向の幅:(a×ΔxM)を利用している。さらに、X軸方向の幅として、複数の水準、具体的には、(a×ΔxM)、(a×ΔxM)+dLの2水準を具えたものとすることで、「バーニヤ(vernier)」機能を付加することができる。
【0160】
例えば、X軸方向の幅が、(a×ΔxM)+dLの場合、この平面形状の輪郭(X軸方向の境界)に対して、「閉じた領域」の外周に位置する「照射スポットの中心」が、1/2dLの距離となるような配置を有する際、表1−2に示す、両端の照射スポット1,4におけるピーク強度の変化が起こる。表1−1に、表1−2を組み合わせると、「位置合わせマーカー」の平面形状の輪郭(X軸方向の境界)に対する、「閉じた領域」の外周に位置する「照射スポットの中心」の相対位置δxrelativeを推定する際の精度の向上がなされる。
【0161】
【表1−2】

【0162】
特に、X軸方向の幅として、複数の水準、具体的には、(a×ΔxM)、(a×ΔxM)+dL、(a×ΔxM)+1/2の3水準を具えたものとすることで、1/2・ΔxM>δxrelative>−1/2・ΔxM全ての範囲をカバーする「バーニヤ(vernier)」機能を付加することが可能となる。
【0163】
勿論、「位置合わせマーカー」の平面形状の輪郭(Y軸方向の境界)に対する、「閉じた領域」の外周に位置する「照射スポットの中心」の相対位置δyrelativeを推定する際にも、同様に、Y軸方向の幅として、複数の水準を設けることが望ましい。
【0164】
(第二の形態)
本発明にかかる自動的位置重ね合わせ方法の第二の形態では、組織薄片がマウンティングされているプレパラート上、目標とする測定領域内に含まれるように、光学顕微鏡撮影の二次元可視画像においては識別可能であり、顕微質量分析の二次元解析画像においては、識別可能な質量分析ピーク強度を示さない、所定の平面形状を有する「位置合わせ用マスク」を設ける。その後、該「位置合わせ用マスク」を含む目標とする測定領域全体について、測定を行って、光学顕微鏡撮影の二次元可視画像データと、顕微質量分析の二次元解析画像データとを取得する。
【0165】
顕微質量分析の二次元解析画像データに基づき表示される、顕微質量分析の二次元解析画像上において、識別可能な質量分析ピーク強度を示さない領域として、該「位置合わせ用マスク」の平面形状を特定する。特定された「平面形状を特徴付ける点Smask」を選択し、顕微質量分析の二次元解析画像データに基づき、この「平面形状を特徴付ける点Smask」に関して、顕微質量分析の二次元解析画像上における、該「平面形状を特徴付ける点Smask」の位置情報(xMmask、yMmask)を特定する。次いで、光学顕微鏡撮影の二次元可視画像データに基づき表示される、光学顕微鏡撮影の二次元可視画像上における、該「平面形状を特徴付ける点Smask」の位置情報(xOmask、yOmask)を、顕微質量分析の二次元解析画像上における、所定の平面形状を有する「位置合わせ用マスク」の画像データと、光学顕微鏡撮影の二次元可視画像上における、所定の平面形状を有する「位置合わせ用マスク」の画像データに基づき、推定する。
【0166】
顕微質量分析の二次元解析画像上における、該「平面形状を特徴付ける点Smask」の位置情報(xMmask、yMmask)と、推定された光学顕微鏡撮影の二次元可視画像上における、該「平面形状を特徴付ける点Smask」の位置情報(xOmask、yOmask)から、(xMmask、yMmask)=(xOmask+δx、yOmask+δy)を満足する、位置情報の起点(座標軸の原点)間の相対的なズレ(δx、δy)を算出する。
【0167】
算出された相対的なズレ(δx、δy)に基づき、顕微質量分析の二次元解析画像上における、各照射スポット:jの位置(xMj、yMj)を、光学顕微鏡撮影の二次元可視画像上における位置(xOj、yOj)≡(xMj−δx、yMj−δy)に一致させるように、自動的位置重ね合わせを行う。
【0168】
光学顕微鏡撮影の二次元可視画像においては識別可能であり、顕微質量分析の二次元解析画像においては、識別可能な質量分析ピーク強度を示さない、所定の平面形状を有する「位置合わせ用マスク」は、例えば、下記の形態とすることができる。
【0169】
まず、顕微質量分析の二次元解析画像上においては、識別可能な質量分析ピーク強度を示さないとは、下記の二つの状況であることが好ましい。
【0170】
その一つは、質量分析を行う際、タンパク質、または、ポリペプチドに由来するペプチド断片の非選択的な脱着/イオン化を行うために照射されるレーザ光は、マトリクス剤に到達しない状態である状況である。
【0171】
例えば、所定の平面形状を有する「位置合わせ用マスク」として、レーザ光に対する光透過性を示さない「光マスキング物質」からなる「被覆皮膜層」を設ける手法が利用できる。具体的には、照射されるレーザ光の波長域において、高い反射率を示す金属材料からなる「光反射性被覆皮膜層」を、該第二の形態における、所定の平面形状を有する「位置合わせ用マスク」として、利用することができる。あるいは、レーザ光に対する強い光吸収を示し、マトリクス剤によるレーザ光の吸収を実質的に皆無とする、高い吸光係数を有する材料からなる「光吸収性被覆皮膜層」を、該第二の形態における、所定の平面形状を有する「位置合わせ用マスク」として、利用することができる。
【0172】
他の一つは、照射されるレーザ光は、マトリクス剤に到達しても、タンパク質、または、ポリペプチドに由来するペプチド断片の非選択的な脱着/イオン化が実質的に達成されない状況である。
【0173】
例えば、所定の平面形状を有する「位置合わせ用マスク」として、レーザ光に対する光透過性を示すものの、ペプチド断片に由来するイオン種の脱着を阻止する、「物理的なマスキング物質」からなる「被覆皮膜層」を設ける手法が利用できる。具体的には、照射されるレーザ光の波長域においては、十分に高い光透過性を示す高分子材料からなる「高分子被覆皮膜層」を、該第二の形態における、所定の平面形状を有する「位置合わせ用マスク」として、利用することもできる。
【0174】
レーザ光に対する光透過性を示さない「光マスキング物質」からなる「被覆皮膜層」において、「光マスキング物質」として、可視光領域においては、光透過性が低下する波長域が存在するものを利用すると、該「光マスキング物質」からなる「被覆皮膜層」は、光学顕微鏡撮影の二次元可視画像においては識別可能となる。
【0175】
また、レーザ光に対する光透過性を示す「物理的なマスキング物質」からなる「被覆皮膜層」において、「物理的なマスキング物質」として、可視光領域においては、光透過性が低下する波長域が存在するものを利用すると、該「物理的なマスキング物質」からなる「被覆皮膜層」は、光学顕微鏡撮影の二次元可視画像においては識別可能となる。
【0176】
前記の「光マスキング物質」からなる「被覆皮膜層」、あるいは「物理的なマスキング物質」からなる「被覆皮膜層」は、組織薄片がマウンティングされているプレパラート上、プロテアーゼ切断処理工程とマトリクス剤塗布工程を終えた後、所定の領域に形成される。
【0177】
プロテアーゼ切断処理工程とマトリクス剤塗布工程の実施前、ならびに、前記の「光マスキング物質」からなる「被覆皮膜層」、あるいは「物理的なマスキング物質」からなる「被覆皮膜層」の形成後、この前後二種の光学顕微鏡撮影の二次元可視画像を取得する。
【0178】
所定の平面形状を有する「位置合わせ用マスク」を設ける部位を除き、前後二種の光学顕微鏡撮影の二次元可視画像では、可視光領域においては、光透過性を示すマトリクス剤塗布膜の有無に由来する色調の若干の変化があるのみである。従って、前後二種の光学顕微鏡撮影の二次元可視画像の位置の重ね合わせは、極めて簡単に行える。
【0179】
所定の平面形状を有する「位置合わせ用マスク」の位置は、該「位置合わせ用マスク」の形成工程後に取得する光学顕微鏡撮影の二次元可視画像上において、その周囲と色調の明確な相違に基づき、特定される。
【0180】
さらに、所定の平面形状を有する「位置合わせマーカー」は、上述の光学顕微鏡撮影の二次元可視画像上に見出される、「特徴的構造の特定」操作の工程においては、特定の色調の差違を示す「閉じた領域」として識別される。この「位置合わせマーカー」に相当する、特定の色調の差違を示す「閉じた領域」の輪郭をなす、閉曲線を示す位置の群:GOMarker-contour{(xOMarker-c-k、yOMarker-c-k)}の特定がなされる。次に、閉曲線を示す位置の群:GOMarker-contour{(xOMarker-c-k、yOMarker-c-k)}として特定された、この特定の色調を示す「閉じた領域」の輪郭の内部に存在している、ピクセルの総数:NOMatker-sizeを特定する。所定の平面形状を有する「位置合わせマーカー」のサイズ:SOMarkerは、ピクセル間の間隔:ΔxOとΔyO、ならびに、ピクセルの総数:NOMatker-sizeを用いて、SOMarker=(ΔxO×ΔyO)・(NOMatker-size+1)と見積もられる。
【0181】
その際、顕微質量分析の二次元解析画像上において、この所定の平面形状を有する「位置合わせマーカー」の内部に存在する照射スポットの総数:NMMarker-spotは、照射スポット間の間隔:ΔxMとΔyMを考慮すると、SOMarker/(ΔxM×ΔyM)前後と見積もられる。
【0182】
一方、所定の平面形状を有する「位置合わせマーカー」は、顕微質量分析の二次元解析画像上においては、例えば、検出対象のタンパク質、ポリペプチドに由来する、ペプチド断片に起因するイオン種のピーク強度が実質的に観測されない「閉じた領域」として、識別可能である。次いで、顕微質量分析の二次元解析画像上において識別された、この「閉じた領域」の内部に存在する照射スポットの総数:NMMarker-spotを特定する。特定された「閉じた領域」の内部に存在する照射スポットの総数:NMMarker-spotが、先に見積もった値:SOMarker/(ΔxM×ΔyM)前後であることを確認することで、顕微質量分析の二次元解析画像上において識別された「閉じた領域」が、実際に、所定の平面形状を有する「位置合わせマーカー」に相当することが検証される。具体的には、特定された「閉じた領域」の内部に存在する照射スポットの総数:NMMarker-spotが、例えば、3/2・SOMarker/(ΔxM×ΔyM)〜1/2・SOMarker/(ΔxM×ΔyM)の範囲であるという基準を満たす場合、識別された「閉じた領域」が、実際に、所定の平面形状を有する「位置合わせマーカー」に相当することが検証される。
【0183】
顕微質量分析の二次元解析画像自体の解像度は、照射スポット間の間隔:ΔxMとΔyMに相当しており、識別された「閉じた領域」の輪郭は、前記の解像度に起因する「不確実性」を有している。具体的には、識別された「閉じた領域」の見掛けの輪郭は、「閉じた領域」の内部に存在する照射スポットの群:GMMarker-spot{(xMMarker-j、yOMarker-j)}の外周として、表示される。しかし、所定の平面形状を有する「位置合わせマーカー」の輪郭は、「閉じた領域」の内部に存在する照射スポットの群:GMMarker-spotの「外周」を取り巻く、何らかのペプチド断片に由来するイオン種のピーク強度が測定されている照射スポットと、「閉じた領域」の外周に位置する照射スポットとの間に位置していると、判断される。換言すると、識別された「閉じた領域」の見掛けの輪郭に対して、所定の平面形状を有する「位置合わせマーカー」の輪郭は、解像度、すなわち、照射スポット間の間隔:ΔxMとΔyMに起因して、場合によっては、最大限。(ΔxM−dL)〜(ΔxM−1/2dL)、(ΔyM−dL)〜(ΔyM−1/2dL)程度の「不確実性」を示す。
【0184】
しかしながら、例えば、「位置合わせマーカー」の平面形状を下記のように選択することで、「不確実性」を低減することが可能である。
【0185】
例えば、「位置合わせマーカー」の平面形状を矩形とする際、その形状を、(a×ΔxM)×(b×ΔyM)に選択する。一例として、(3×ΔxM)×(3×ΔyM)に選択する場合について、検討する。
【0186】
「位置合わせマーカー」の平面形状が、(3×ΔxM)×(3×ΔyM)の矩形である場合、照射スポットの中心が、「位置合わせマーカー」の平面形状の輪郭に一致していると、その照射スポットの面積:1/4(π・dL2)の1/2は、「位置合わせマーカー」の内部に存在するが、残りの1/2は外部にある。その際、この照射スポットにおいて、観測されるペプチド断片に由来するイオン種のピーク強度は、「位置合わせマーカー」の内部に存在する面積に比例している。「位置合わせマーカー」の平面形状の輪郭(X軸方向の境界)に対して、「閉じた領域」の外周に位置する「照射スポットの中心」の相対位置:δxrelativeと、該照射スポットの面積中、「位置合わせマーカー」の内部に含まれる比率の関係は以下のように対応を示す。
【0187】
【表2−1】

【0188】
表2−1に示すように、「位置合わせマーカー」の平面形状の輪郭に対して、「閉じた領域」の外周に位置する「照射スポットの中心」の相対位置が、−1/2・dL〜1/2・dLの範囲に存在する場合、両端の照射スポット1,4におけるピーク強度の変化が観測される。換言するならば、両端の照射スポット1,4におけるピーク強度の変化に基づき、「位置合わせマーカー」の平面形状の輪郭(X軸方向の境界)に対する、「閉じた領域」の外周に位置する「照射スポットの中心」の相対位置δxrelativeを推定することが可能である。同様にして、「位置合わせマーカー」の平面形状の輪郭(Y軸方向の境界)に対する、「閉じた領域」の外周に位置する「照射スポットの中心」の相対位置δyrelativeを推定することが可能である。
【0189】
「位置合わせマーカー」の平面形状が、(3×ΔxM)×(3×ΔyM)の矩形である場合、その矩形の輪郭に対して、「閉じた領域」の外周に位置する「照射スポットの中心」の位置は、相対的に、(δxrelative、δyrelative)の偏っていると見積もられる。
【0190】
顕微質量分析の二次元解析画像上において、矩形形状を有する「位置合わせマーカー」の頂点に最近接している、照射スポット:jの位置情報(xMmarker、yMmarker)は、光学顕微鏡撮影の二次元可視画像上に見出される、対応する矩形形状を有する「位置合わせマーカー」の頂点の位置情報(xOmarker-corner、yOmarker-corner)を基準として、(xOmarker-corner+δxrelative、yOmarker-corner+δyrelative)に対応すると判断される。
【0191】
従って、顕微質量分析の二次元解析画像上における、該「平面形状を特徴付ける点Smarker」の位置情報(xMmarker、yMmarker)と、推定された光学顕微鏡撮影の二次元可視画像上における、該「平面形状を特徴付ける点Smarker」の位置情報(xOmarker、yOmarker)≡(xOmarker-corner+δxrelative、yOmarker-corner+δyrelative)から、(xMmarker、yMmarker)=(xOmarker+δx、yOmarker+δy)を満足する、位置情報の起点(座標軸の原点)間の相対的なズレ(δx、δy)を、高い精度で積もることができる。
【0192】
一般化すると、光学顕微鏡撮影の二次元可視画像上において特定される、「位置合わせマーカー」の平面形状の輪郭に基づき、顕微質量分析の二次元解析に採用する、照射スポット間の間隔:ΔxMとΔyMに基づき、「位置合わせマーカー」の平面形状の外周に位置する、照射スポットの「理想的位置」:(xOmarker-k-hyp、yOmarker-k-hyp)を仮定する。その照射スポットの「理想的位置」(xOmarker-k-hyp、yOmarker-k-hyp)を基準として、実際に、該照射スポットで測定されている、「マーカー物質」に由来するイオン種のピーク強度を高い確度で再現する、相対的な位置の変異:(δxrelative、δyrelative)の見積もりを行う。その結果、「位置合わせマーカー」の平面形状の外周に位置する、照射スポットに関して、光学顕微鏡撮影の二次元可視画像上での合理的な推定位置は、(xOmarker-k、yOmarker-k)≡(xOmarker-k-hyp+δxrelative、yOmarker-k-hyp+δyrelative)と、高い確度で推定される。
【0193】
顕微質量分析の二次元解析画像上における、「位置合わせマーカー」の平面形状の外周に位置する、照射スポットの位置情報(xMmarker-j、yMmarker-j)と、合理的に推定された光学顕微鏡撮影の二次元可視画像上における、該照射スポットの位置情報(xOmarker-k、yOmarker-k)≡(xOmarker-k-hyp+δxrelative、yOmarker-k-hyp+δyrelative)が対応付けられる。その後、(xMmarker-j、yMmarker-j)=(xOmarker-k+δx、yOmarker-k+δy)を満足する、位置情報の起点(座標軸の原点)間の相対的なズレ(δx、δy)を、高い精度で積もることができる。
【0194】
但し、相対的な位置の変異:(δxrelative、δyrelative)は、照射スポットで測定されるピーク強度の若干のバラツキに依存して、僅かに、バラツキを示す。その僅かなバラツキを排除するため、相対的な位置の変異:(δxrelative、δyrelative)の平均を算出して、相対的な位置の変異:(δxrelative、δyrelative)の代表値とすることも可能である。
【0195】
(第三の形態)
本発明にかかる自動的位置重ね合わせ方法の第三の形態では、組織薄片がマウンティングされているプレパラート上、目標とする測定領域内に含まれるように設ける、所定の平面形状を有する「位置合わせマーカー」として、組織薄片上の所定部位に設ける、所定の平面形状を有する「マトリクス剤の塗布がなされていない領域」を利用する。
【0196】
この「所定の平面形状を有する、マトリクス剤非塗布領域」には、マトリクス剤の塗布がなされていないため、レーザ光照射を行っても、脱着/イオン化がなされないため、顕微質量分析の二次元解析画像上において、識別可能な質量分析ピーク強度を示さない領域として、特定される。
【0197】
また、「マトリクス剤非塗布領域」と「マトリクス剤塗布領域」との境界、すなわち、「マトリクス剤非塗布領域」の平面形状は、マトリクス剤塗布後に測定された、光学顕微鏡撮影の二次元可視画像においては、識別可能である。
【0198】
前記「マトリクス剤非塗布領域」を含む目標とする測定領域全体について、マトリクス剤塗布前と、マトリクス剤塗布後に、それぞれ、測定を行って、マトリクス剤塗布前の光学顕微鏡撮影の二次元可視画像データと、マトリクス剤塗布後の光学顕微鏡撮影の二次元可視画像データを取得する。
【0199】
「マトリクス剤塗布前の光学顕微鏡撮影の二次元可視画像」と「マトリクス剤塗布後の光学顕微鏡撮影の二次元可視画像」とは、その画像位置は、完全に一致させることが可能である。その際、「マトリクス剤塗布」に起因する「色調の変化」を抽出すると、「マトリクス剤非塗布領域」は、「色調の変化」が実質的に存在しない領域として、特定される。
【0200】
顕微質量分析の二次元解析画像データに基づき表示される、顕微質量分析の二次元解析画像上において、該「マトリクス剤非塗布領域」型の「位置合わせマーカー」の「平面形状を特徴付ける点Smarker」を選択し、顕微質量分析の二次元解析画像データに基づき、この「平面形状を特徴付ける点Smarker」に関して、顕微質量分析の二次元解析画像上における、該「平面形状を特徴付ける点Smarker」の位置情報(xMmarker、yMmarker)を特定する。次いで、光学顕微鏡撮影の二次元可視画像データに基づき表示される、光学顕微鏡撮影の二次元可視画像上における、該「平面形状を特徴付ける点Smarker」の位置情報(xOmarker、yOmarker)を、顕微質量分析の二次元解析画像上における、所定の平面形状を有する「位置合わせマーカー」の画像データと、光学顕微鏡撮影の二次元可視画像上における、所定の平面形状を有する「位置合わせマーカー」の画像データに基づき、推定する。
【0201】
顕微質量分析の二次元解析画像上における、該「平面形状を特徴付ける点Smarker」の位置情報(xMmarker、yMmarker)と、推定された光学顕微鏡撮影の二次元可視画像上における、該「平面形状を特徴付ける点Smarker」の位置情報(xOmarker、yOmarker)から、(xMmarker、yMmarker)=(xOmarker+δx、yOmarker+δy)を満足する、位置情報の起点(座標軸の原点)間の相対的なズレ(δx、δy)を算出する。
【0202】
算出された相対的なズレ(δx、δy)に基づき、顕微質量分析の二次元解析画像上における、各照射スポット:jの位置(xMj、yMj)を、光学顕微鏡撮影の二次元可視画像上における位置(xOj、yOj)≡(xMj−δx、yMj−δy)に一致させるように、自動的位置重ね合わせを行う。
【0203】
所定の平面形状を有する「位置合わせ用マスク」の位置は、「マトリクス剤塗布前の光学顕微鏡撮影の二次元可視画像」と「マトリクス剤塗布後の光学顕微鏡撮影の二次元可視画像」を比較して、「マトリクス剤塗布」に起因する「色調の変化」を抽出すると、「マトリクス剤非塗布領域」は、「色調の変化」が実質的に存在しない領域として、特定される。
【0204】
さらに、所定の平面形状を有する「位置合わせマーカー」は、上述の光学顕微鏡撮影の二次元可視画像上に見出される、「特徴的構造の特定」操作の工程においては、「マトリクス剤塗布」に起因する「色調の変化」を示さない「閉じた領域」として識別される。この「位置合わせマーカー」に相当する、「マトリクス剤塗布」に起因する「色調の変化」を示さない「閉じた領域」の輪郭をなす、閉曲線を示す位置の群:GOMarker-contour{(xOMarker-c-k、yOMarker-c-k)}の特定がなされる。次に、閉曲線を示す位置の群:GOMarker-contour{(xOMarker-c-k、yOMarker-c-k)}として特定された、この「マトリクス剤塗布」に起因する「色調の変化」を示さない「閉じた領域」の輪郭の内部に存在している、ピクセルの総数:NOMatker-sizeを特定する。所定の平面形状を有する「位置合わせマーカー」のサイズ:SOMarkerは、ピクセル間の間隔:ΔxOとΔyO、ならびに、ピクセルの総数:NOMatker-sizeを用いて、SOMarker=(ΔxO×ΔyO)・(NOMatker-size+1)と見積もられる。
【0205】
その際、顕微質量分析の二次元解析画像上において、この所定の平面形状を有する「位置合わせマーカー」の内部に存在する照射スポットの総数:NMMarker-spotは、照射スポット間の間隔:ΔxMとΔyMを考慮すると、SOMarker/(ΔxM×ΔyM)前後と見積もられる。
【0206】
一方、所定の平面形状を有する「位置合わせマーカー」は、顕微質量分析の二次元解析画像上においては、例えば、検出対象のタンパク質、ポリペプチドに由来する、ペプチド断片に起因するイオン種のピーク強度が実質的に観測されない「閉じた領域」として、識別可能である。次いで、顕微質量分析の二次元解析画像上において識別された、この「閉じた領域」の内部に存在する照射スポットの総数:NMMarker-spotを特定する。特定された「閉じた領域」の内部に存在する照射スポットの総数:NMMarker-spotが、先に見積もった値:SOMarker/(ΔxM×ΔyM)前後であることを確認することで、顕微質量分析の二次元解析画像上において識別された「閉じた領域」が、実際に、所定の平面形状を有する「位置合わせマーカー」に相当することが検証される。具体的には、特定された「閉じた領域」の内部に存在する照射スポットの総数:NMMarker-spotが、例えば、3/2・SOMarker/(ΔxM×ΔyM)〜1/2・SOMarker/(ΔxM×ΔyM)の範囲であるという基準を満たす場合、識別された「閉じた領域」が、実際に、所定の平面形状を有する「位置合わせマーカー」に相当することが検証される。
【0207】
以降の位置情報の起点(座標軸の原点)間の相対的なズレ(δx、δy)を、見積もる一連の操作は、実質的に前記の第二の形態と同じである。
【0208】
その一連の操作を適用することで、顕微質量分析の二次元解析画像上における、「位置合わせマーカー」の平面形状の外周に位置する、照射スポットの位置情報(xMmarker-j、yMmarker-j)と、合理的に推定された光学顕微鏡撮影の二次元可視画像上における、該照射スポットの位置情報(xOmarker-k、yOmarker-k)≡(xOmarker-k-hyp+δxrelative、yOmarker-k-hyp+δyrelative)が対応付けられる。その後、(xMmarker-j、yMmarker-j)=(xOmarker-k+δx、yOmarker-k+δy)を満足する、位置情報の起点(座標軸の原点)間の相対的なズレ(δx、δy)を、高い精度で積もることができる。
【0209】
(第四の形態)
本発明にかかる自動的位置重ね合わせ方法の第四の形態では、組織薄片がマウンティングされているプレパラート上、目標とする測定領域内に含まれるように設ける、所定の平面形状を有する「位置合わせマーカー」として、組織薄片上の所定部位に設ける、所定の平面形状を有する「プロテアーゼ切断処理がなされていない領域」を利用する。
【0210】
この「所定の平面形状を有する、プロテアーゼ切断処理未実施領域」では、プロテアーゼ切断処理が施されていないため、分子量の大きなタンパク質自体のイオン化効率は低く、また、質量分析されるピーク位置(M/Z)は、通常の測定対象の分子量範囲を超えており、通常、顕微質量分析の二次元解析画像上において、実質的に識別可能な質量分析ピーク強度を示さない領域として、特定される。
【0211】
例えば、「プロテアーゼ切断処理未実施領域」は、所定の平面形状を有する「被覆保護膜」を、組織薄片上の所定部位に予め設け、その後、組織薄片の全面にプロテアーゼ切断処理を施すことによって、形成する。この「被覆保護膜」による被覆がなされる領域では、組織薄片に存在しているタンパク質にプロテアーゼが作用できない結果、「プロテアーゼ切断処理がなされていない領域」となる。
【0212】
プロテアーゼ切断処理に先立ち、目標とする測定領域全体について、「被覆保護膜」の形成前と、「被覆保護膜」の形成後に、それぞれ、測定を行って、「被覆保護膜」形成前の光学顕微鏡撮影の二次元可視画像データと、「被覆保護膜」形成後の光学顕微鏡撮影の二次元可視画像データを取得する。
【0213】
また、「被覆保護膜」の形成部分:「プロテアーゼ切断処理未実施領域」と「被覆保護膜」未形成部分:「プロテアーゼ切断処理済領域」との境界、すなわち、「被覆保護膜」の平面形状は、プロテアーゼ切断処理に先立って測定された、光学顕微鏡撮影の二次元可視画像においては、識別可能である。
【0214】
「被覆保護膜形成前の光学顕微鏡撮影の二次元可視画像」と「被覆保護膜形成後の光学顕微鏡撮影の二次元可視画像」とは、その画像位置は、完全に一致させることが可能である。その際、「被覆保護膜」に起因する「色調の変化」を抽出すると、「被覆保護膜」未形成部分:「プロテアーゼ切断処理済領域」は、「色調の変化」が実質的に存在しない領域として、特定される。その結果として、「被覆保護膜」の形成部分:「プロテアーゼ切断処理未実施領域」の平面形状も、特定される。
【0215】
顕微質量分析の二次元解析画像データに基づき表示される、顕微質量分析の二次元解析画像上において、該「プロテアーゼ切断処理未実施領域」型の「位置合わせマーカー」の「平面形状を特徴付ける点Smarker」を選択し、顕微質量分析の二次元解析画像データに基づき、この「平面形状を特徴付ける点Smarker」に関して、顕微質量分析の二次元解析画像上における、該「平面形状を特徴付ける点Smarker」の位置情報(xMmarker、yMmarker)を特定する。次いで、光学顕微鏡撮影の二次元可視画像データに基づき表示される、光学顕微鏡撮影の二次元可視画像上における、該「平面形状を特徴付ける点Smarker」の位置情報(xOmarker、yOmarker)を、顕微質量分析の二次元解析画像上における、所定の平面形状を有する「位置合わせマーカー」の画像データと、光学顕微鏡撮影の二次元可視画像上における、所定の平面形状を有する「位置合わせマーカー」の画像データに基づき、推定する。
【0216】
顕微質量分析の二次元解析画像上における、該「平面形状を特徴付ける点Smarker」の位置情報(xMmarker、yMmarker)と、推定された光学顕微鏡撮影の二次元可視画像上における、該「平面形状を特徴付ける点Smarker」の位置情報(xOmarker、yOmarker)から、(xMmarker、yMmarker)=(xOmarker+δx、yOmarker+δy)を満足する、位置情報の起点(座標軸の原点)間の相対的なズレ(δx、δy)を算出する。
【0217】
算出された相対的なズレ(δx、δy)に基づき、顕微質量分析の二次元解析画像上における、各照射スポット:jの位置(xMj、yMj)を、光学顕微鏡撮影の二次元可視画像上における位置(xOj、yOj)≡(xMj−δx、yMj−δy)に一致させるように、自動的位置重ね合わせを行う。
【0218】
所定の平面形状を有する「位置合わせ用マスク」の位置は、「被覆保護膜」の形成位置に相当している。また、「被覆保護膜」の形成部分:「プロテアーゼ切断処理未実施領域」と「被覆保護膜」未形成部分:「プロテアーゼ切断処理済領域」との境界、すなわち、「被覆保護膜」の平面形状は、プロテアーゼ切断処理に先立って測定された、光学顕微鏡撮影の二次元可視画像においては、識別可能である。
【0219】
「被覆保護膜形成前の光学顕微鏡撮影の二次元可視画像」と「被覆保護膜形成後の光学顕微鏡撮影の二次元可視画像」とは、その画像位置は、完全に一致させることが可能である。その際、「被覆保護膜」に起因する「色調の変化」を抽出すると、「被覆保護膜」未形成部分:「プロテアーゼ切断処理済領域」は、「色調の変化」が実質的に存在しない領域として、特定される。その結果として、「被覆保護膜」の形成部分:「プロテアーゼ切断処理未実施領域」の平面形状も、特定される。
【0220】
さらに、所定の平面形状を有する「位置合わせマーカー」は、上述の光学顕微鏡撮影の二次元可視画像上に見出される、「特徴的構造の特定」操作の工程においては、「被覆保護膜」に起因する、なんらかの「色調の変化」を示している「閉じた領域」として識別される。この「位置合わせマーカー」に相当する、「被覆保護膜」に起因する、なんらかの「色調の変化」を示している「閉じた領域」の輪郭をなす、閉曲線を示す位置の群:GOMarker-contour{(xOMarker-c-k、yOMarker-c-k)}の特定がなされる。次に、閉曲線を示す位置の群:GOMarker-contour{(xOMarker-c-k、yOMarker-c-k)}として特定された、この「被覆保護膜」に起因する、なんらかの「色調の変化」を示している「閉じた領域」の輪郭の内部に存在している、ピクセルの総数:NOMatker-sizeを特定する。所定の平面形状を有する「位置合わせマーカー」のサイズ:SOMarkerは、ピクセル間の間隔:ΔxOとΔyO、ならびに、ピクセルの総数:NOMatker-sizeを用いて、SOMarker=(ΔxO×ΔyO)・(NOMatker-size+1)と見積もられる。
【0221】
その際、顕微質量分析の二次元解析画像上において、この所定の平面形状を有する「位置合わせマーカー」の内部に存在する照射スポットの総数:NMMarker-spotは、照射スポット間の間隔:ΔxMとΔyMを考慮すると、SOMarker/(ΔxM×ΔyM)前後と見積もられる。
【0222】
一方、所定の平面形状を有する「位置合わせマーカー」は、顕微質量分析の二次元解析画像上においては、例えば、検出対象のタンパク質、ポリペプチドに由来する、ペプチド断片に起因するイオン種のピーク強度が実質的に観測されない「閉じた領域」として、識別可能である。次いで、顕微質量分析の二次元解析画像上において識別された、この「閉じた領域」の内部に存在する照射スポットの総数:NMMarker-spotを特定する。特定された「閉じた領域」の内部に存在する照射スポットの総数:NMMarker-spotが、先に見積もった値:SOMarker/(ΔxM×ΔyM)前後であることを確認することで、顕微質量分析の二次元解析画像上において識別された「閉じた領域」が、実際に、所定の平面形状を有する「位置合わせマーカー」に相当することが検証される。具体的には、特定された「閉じた領域」の内部に存在する照射スポットの総数:NMMarker-spotが、例えば、3/2・SOMarker/(ΔxM×ΔyM)〜1/2・SOMarker/(ΔxM×ΔyM)の範囲であるという基準を満たす場合、識別された「閉じた領域」が、実際に、所定の平面形状を有する「位置合わせマーカー」に相当することが検証される。
【0223】
以降の位置情報の起点(座標軸の原点)間の相対的なズレ(δx、δy)を、見積もる一連の操作は、実質的に前記の第二の形態と同じである。
【0224】
その一連の操作を適用することで、顕微質量分析の二次元解析画像上における、「位置合わせマーカー」の平面形状の外周に位置する、照射スポットの位置情報(xMmarker-j、yMmarker-j)と、合理的に推定された光学顕微鏡撮影の二次元可視画像上における、該照射スポットの位置情報(xOmarker-k、yOmarker-k)≡(xOmarker-k-hyp+δxrelative、yOmarker-k-hyp+δyrelative)が対応付けられる。その後、(xMmarker-j、yMmarker-j)=(xOmarker-k+δx、yOmarker-k+δy)を満足する、位置情報の起点(座標軸の原点)間の相対的なズレ(δx、δy)を、高い精度で積もることができる。
【0225】
(第五の形態)
本発明にかかる自動的位置重ね合わせ方法の第五の形態では、組織薄片がマウンティングされているプレパラート上、目標とする測定領域内に含まれるように、光学顕微鏡撮影の二次元可視画像、顕微質量分析の二次元解析画像のいずれにおいても識別可能な「内因性の位置合わせマーカー」を設定する。その後、該設定された「内因性の位置合わせマーカー」を含む目標とする測定領域全体について、測定を行って、光学顕微鏡撮影の二次元可視画像データと、顕微質量分析の二次元解析画像データとを取得する。

前記設定される「内因性の位置合わせマーカー」として、組織薄片の表面において、光学顕微鏡撮影の二次元可視画像上に見出される、細胞に共通して存在し、上記の「特徴的構造の特定」操作によって、その領域の位置の特定が可能な、核を採用する。具体的には、組織薄片の表面において、光学顕微鏡撮影の二次元可視画像上に見出される、細胞群の有する核のうち、下記の選択基準を満たす、複数個の核を選択し、この複数個の核を「内因性の位置合わせマーカー」として設定する。
【0226】
一方、顕微質量分析の二次元解析画像上において、「内因性の位置合わせマーカー」として設定される複数個の核の識別手段(指標タンパク質)として、細胞に共通して存在している、多数の内因性タンパク質のうち、その存在量が多く、原則、細胞質に存在するが、核内部には存在しない、細胞質タンパク質を選択する。すなわち、「内因性の位置合わせマーカー」として設定された複数個の核は、各細胞膜で区分される細胞中において、「指標タンパク質」に由来するイオン種のピーク強度が実質的に測定されない「閉じた領域」として、識別可能である。
【0227】
まず、顕微質量分析の二次元解析画像上において、各細胞膜で区分される細胞中において、「指標タンパク質」に由来するイオン種のピーク強度が実質的に測定されない「閉じた領域」を特定する。この工程では、特定された「閉じた領域」を取り囲むように、「指標タンパク質」に由来するイオン種のピーク強度が有意に測定される領域が存在することが確認される。次に、特定された「閉じた領域」の凡そのサイズ:SMNを算定する。
【0228】
その手法の一つは、下記のような操作である。先ず、各特定された「閉じた領域」中に存在し、「指標タンパク質」に由来するイオン種のピーク強度が実質的に測定されていない、照射スポットの総数:NMN-spotを特定する。特定された「閉じた領域」の凡そのサイズ:SMNを、照射スポット間の間隔:ΔxMとΔyM、ならびに、特定された照射スポットの総数:NMN-spotを用いて、SMN=(ΔxM×ΔyM)・(NMN-spot+1)とする。
【0229】
一方、上述の光学顕微鏡撮影の二次元可視画像上に見出される、「特徴的構造の特定」操作によって、特定される「核膜の輪郭の位置情報」、すなわち、閉曲線を示す位置の群:Gnuclear{(xOnuclear-k、yOnuclear-k)}で囲まれる「閉じた領域」、すなわち、核の平均的なサイズ:SONを算定する。
【0230】
その手法の一つは、下記のような操作である。先ず、「核膜の輪郭」として特定された「閉じた領域」中に存在している、ピクセルの平均的な総数:NON-sizeを特定する。核の平均的なサイズ:SONを、ピクセル間の間隔:ΔxOとΔyO、ならびに、ピクセルの平均的な総数:NON-sizeを用いて、SON=(ΔxO×ΔyO)・(NON-size+1)とする。
【0231】
顕微質量分析の二次元解析画像上において、「核」である蓋然性が高いとして、特定された「閉じた領域」の群から、次の基準を満足するものを選別する。算定された、特定された「閉じた領域」の凡そのサイズ:SMNが、SON>SMN>1/2・SONの範囲にあるものを選別する。この二次基準で選別される、特定された「閉じた領域」は、そのサイズも、平均的な核のサイズに相当していると判断される。
【0232】
算定された核の平均的なサイズ:SONを考慮すると、顕微質量分析の二次元解析画像上、核の内部に存在する照射スポットの総数の最大値:NMN-spot-MAXは、NMN-spot-MAX=MOD(SON/(ΔxM×ΔyM))と見積もられる。従って、核の内部に存在する照射スポットのうち、「指標タンパク質」に由来するイオン種のピーク強度が実質的に測定されない照射スポットの総数:NMN-spotは、NMN-spot-MAX以下、1/2・NMN-spot-MAX以上の範囲である蓋然性は極めて高い。
【0233】
上記の二次基準で選別される、特定された「閉じた領域」の群のうち、照射スポットの総数:NMN-spotの大きい順に上位の4〜8程度を、「内因性の位置合わせマーカー」として設定される複数個の「核」として、選択する。
【0234】
顕微質量分析の二次元解析画像上において、「内因性の位置合わせマーカー」として選択される複数個の「核」に対して、光学顕微鏡撮影の二次元可視画像上で、対応する複数個の「核」を特定する。
【0235】
「核」の平面形状は、概ね、「円形」と見做すことが可能である。従って、「核」の平面形状は、概ね、「円形」と近似した場合、核の「中心」は、その「円形」の中心の位置と見做せる。
【0236】
光学顕微鏡撮影の二次元可視画像上、特定される「核膜の輪郭の位置情報」、すなわち、閉曲線を示す位置の群:Gnuclear-contour{(xOnuclear-c-k、yOnuclear-c-k)}で囲まれる「閉じた領域」に関しては、その形状を「円形」と近似した場合の、その中心を、その「核」の「中心」とする。あるいは、「核膜の輪郭の位置情報」、すなわち、閉曲線を示す位置の群:Gnuclear-contour{(xOnuclear-c-k、yOnuclear-c-k)}は、「円周」の位置を記載すると仮定すると、この群:Gnuclear-contour{(xOnuclear-c-k、yOnuclear-c-k)}の単純平均(xOnuclear-c-k-av、yOnuclear-c-k-av)を、推定される中心の位置とすることも可能である。
【0237】
光学顕微鏡撮影の二次元可視画像上、前記「核膜の輪郭」の内部に存在する、全てのピクセルの位置情報(xOnuclear-k、yOnuclear-k)の単純平均(xOnuclear-k-av、yOnuclear-k-av)は、該「核膜の輪郭」で囲まれる「閉じた領域」の重心位置に相当する。その形状を「円形」と近似した場合、その重心は、円の中心と一致する。従って、前記単純平均(xOnuclear-k-av、yOnuclear-k-av)を、推定される中心の位置とすることも可能である。
【0238】
顕微質量分析の二次元解析画像上において、「核」と推断された「閉じた領域」の外周形状に基づき、その外周形状を「円形」と近似した場合の、その中心を、その「核」の「中心」とことも可能である。しかし、照射スポット間の間隔:ΔxMとΔyMにより決まる解像度が高くない場合、照射スポットの総数:NMN-spotの「閉じた領域」の外周形状を相当の確度で特定することは容易でない。照射スポットの総数:NMN-spotの「閉じた領域」の中心として、この総数:NMN-spotの照射スポットの位置(xMnuclear-j、yMnuclear-j)の単純平均(xMnuclear-j-av、yMnuclear-j-av)を、推定される中心の位置とすることも可能である。
【0239】
顕微質量分析の二次元解析画像上において、「内因性の位置合わせマーカー」として選択される複数個の「核」の「中心」の位置、例えば、(xMnuclear-j-av、yMnuclear-j-av)を利用して、複数個の「核」の「中心」位置間の相対関係を特定する。例えば、「位置合わせマーカー」として選択される複数個の「核」の「中心」の位置、例えば、(xMnuclear-j-av、yMnuclear-j-av)を頂点とする多角形として、該相対関係は表記できる。
【0240】
光学顕微鏡撮影の二次元可視画像上で、対応する複数個の「核」についても、「核」の「中心」の位置、例えば、(xOnuclear-k-av、yOnuclear-k-av)を利用して、複数個の「核」の「中心」位置間の相対関係を特定する。例えば、「内因性の位置合わせマーカー」として選択される複数個の「核」の「中心」の位置、例えば、(xOnuclear-k-av、yOnuclear-k-av)を頂点とする多角形として、該相対関係は表記できる。
【0241】
光学顕微鏡撮影の二次元可視画像上で特定されている「核」について、その「核」の中心に、前記(xMnuclear-j-av、yMnuclear-j-av)を頂点とする多角形の一つの頂点を配置し、その他の頂点の位置にそれぞれ「核」が存在しているか、否かの判定を行う。この判定基準を満たす、複数個の「核」を、光学顕微鏡撮影の二次元可視画像上で、対応する複数個の「核」と特定する。
【0242】
前記の手法で特定された、光学顕微鏡撮影の二次元可視画像上で、対応する複数個の「核」の「中心」の位置、例えば、(xOnuclear-k-av、yOnuclear-k-av)を頂点とする多角形の形状と、判定基準の前記(xMnuclear-j-av、yMnuclear-j-av)を頂点とする多角形の形状が実質的に等しいことを検証する。
【0243】
顕微質量分析の二次元解析画像上において、「内因性の位置合わせマーカー」として選択される複数個の「核」の「中心」の実際の位置:(xMnuclear-j-center、yMnuclear-j-center)に対する、近似的な位置(xMnuclear-j-av、yMnuclear-j-av)の近似誤差は、通常、照射スポット間の間隔:ΔxMとΔyM程度を超えない。この近似誤差を考慮して、例えば、(xOnuclear-k-av、yOnuclear-k-av)を頂点とする多角形の形状と、判定基準の前記(xMnuclear-j-av、yMnuclear-j-av)を頂点とする多角形の形状が実質的に等しいことを検証する。
【0244】
顕微質量分析の二次元解析画像データに基づき表示される、顕微質量分析の二次元解析画像上において、該「内因性の位置合わせマーカー」の「平面形状を特徴付ける点Smarker」を選択し、顕微質量分析の二次元解析画像データに基づき、この「平面形状を特徴付ける点Smarker」に関して、顕微質量分析の二次元解析画像上における、該「平面形状を特徴付ける点Smarker」の位置情報(xMmarker、yMmarker)を特定する。次いで、光学顕微鏡撮影の二次元可視画像データに基づき表示される、光学顕微鏡撮影の二次元可視画像上における、該「平面形状を特徴付ける点Smarker」の位置情報(xOmarker、yOmarker)を、顕微質量分析の二次元解析画像上における、既知の平面形状を有する「内因性の位置合わせマーカー」の画像データと、光学顕微鏡撮影の二次元可視画像上における、所定の平面形状を有する「位置合わせマーカー」の画像データに基づき、推定する。
【0245】
顕微質量分析の二次元解析画像上における、該「平面形状を特徴付ける点Smarker」の位置情報(xMmarker、yMmarker)と、推定された光学顕微鏡撮影の二次元可視画像上における、該「平面形状を特徴付ける点Smarker」の位置情報(xOmarker、yOmarker)から、(xMmarker、yMmarker)=(xOmarker+δx、yOmarker+δy)を満足する、位置情報の起点(座標軸の原点)間の相対的なズレ(δx、δy)を算出する。
【0246】
算出された相対的なズレ(δx、δy)に基づき、顕微質量分析の二次元解析画像上における、各照射スポット:jの位置(xMj、yMj)を、光学顕微鏡撮影の二次元可視画像上における位置(xOj、yOj)≡(xMj−δx、yMj−δy)に一致させるように、自動的位置重ね合わせを行う。
【0247】
上述する選択手順によって、顕微質量分析の二次元解析画像上において、「内因性の位置合わせマーカー」として選択される複数個の「核」は、実質的に、光学顕微鏡撮影の二次元可視画像においては識別可能であり、顕微質量分析の二次元解析画像においては、識別可能な質量分析ピーク強度を示さない、既知の平面形状を有する「位置合わせ用マーカー」に相当するものである。
【0248】
従って、先に第二の形態において説明した技術的な原理を応用することで、「位置合わせマーカー」の平面形状の輪郭(X軸方向の境界)に対する、「閉じた領域」の外周に位置する「照射スポットの中心」の相対位置δxrelativeを推定することが可能である。同様にして、「位置合わせマーカー」の平面形状の輪郭(Y軸方向の境界)に対する、「閉じた領域」の外周に位置する「照射スポットの中心」の相対位置δyrelativeを推定することが可能である。
【0249】
「内因性の位置合わせマーカー」の平面形状が、光学顕微鏡撮影の二次元可視画像において特定されているので、その既知の輪郭に対して、「閉じた領域」の外周に位置する「照射スポットの中心」の位置は、相対的に、(δxrelative、δyrelative)の偏っていると見積もられる。
【0250】
顕微質量分析の二次元解析画像上において、既知の形状を有する「内因性の位置合わせマーカー」の輪郭に最近接している、照射スポット:jの位置情報(xMmarker、yMmarker)は、光学顕微鏡撮影の二次元可視画像上に見出される、対応する輪郭形状を有する「位置合わせマーカー」の輪郭上の位置情報(xOmarker-corner、yOmarker-corner)を基準として、(xOmarker-corner+δxrelative、yOmarker-corner+δyrelative)に対応すると判断される。
【0251】
従って、顕微質量分析の二次元解析画像上における、該「平面形状を特徴付ける点Smarker」の位置情報(xMmarker、yMmarker)と、推定された光学顕微鏡撮影の二次元可視画像上における、該「平面形状を特徴付ける点Smarker」の位置情報(xOmarker、yOmarker)≡(xOmarker-corner+δxrelative、yOmarker-corner+δyrelative)から、(xMmarker、yMmarker)=(xOmarker+δx、yOmarker+δy)を満足する、位置情報の起点(座標軸の原点)間の相対的なズレ(δx、δy)を、高い精度で積もることができる。
【0252】
一般化すると、光学顕微鏡撮影の二次元可視画像上において特定される、「位置合わせマーカー」の平面形状の輪郭に基づき、顕微質量分析の二次元解析に採用する、照射スポット間の間隔:ΔxMとΔyMに基づき、「内因性の位置合わせマーカー」の平面形状の外周に位置する、照射スポットの「理想的位置」:(xOmarker-k-hyp、yOmarker-k-hyp)を仮定する。その照射スポットの「理想的位置」(xOmarker-k-hyp、yOmarker-k-hyp)を基準として、実際に、該照射スポットで測定されている、「標識タンパク質」に由来するイオン種のピーク強度を高い確度で再現する、相対的な位置の変異:(δxrelative、δyrelative)の見積もりを行う。その結果、「内因性の位置合わせマーカー」の平面形状の外周に位置する、照射スポットに関して、光学顕微鏡撮影の二次元可視画像上での合理的な推定位置は、(xOmarker-k、yOmarker-k)≡(xOmarker-k-hyp+δxrelative、yOmarker-k-hyp+δyrelative)と、高い確度で推定される。
【0253】
顕微質量分析の二次元解析画像上における、「内因性の位置合わせマーカー」の平面形状の外周に位置する、照射スポットの位置情報(xMmarker-j、yMmarker-j)と、合理的に推定された光学顕微鏡撮影の二次元可視画像上における、該照射スポットの位置情報(xOmarker-k、yOmarker-k)≡(xOmarker-k-hyp+δxrelative、yOmarker-k-hyp+δyrelative)が対応付けられる。その後、(xMmarker-j、yMmarker-j)=(xOmarker-k+δx、yOmarker-k+δy)を満足する、位置情報の起点(座標軸の原点)間の相対的なズレ(δx、δy)を、高い精度で積もることができる。
【0254】
但し、相対的な位置の変異:(δxrelative、δyrelative)は、照射スポットで測定されるピーク強度の若干のバラツキに依存して、僅かに、バラツキを示す。その僅かなバラツキを排除するため、相対的な位置の変異:(δxrelative、δyrelative)の平均を算出して、相対的な位置の変異:(δxrelative、δyrelative)の代表値とすることも可能である。
【0255】
上記の説明では、「内因性の位置合わせマーカー」の特定の際に、識別手段として、細胞に共通して存在している、内因性タンパク質から選択される「標識タンパク質」を利用する態様を例にとっている。
【0256】
MALDI−TOF−MS法により測定される質量分析スペクトル上において、特定のM/Z位置にピークを示す、内因性の生体物質であれば、内因性タンパク質から選択される「標識タンパク質」に代えて、「内因性の位置合わせマーカー」の識別手段として、利用することも可能である。
【0257】
なお、MALDI−TOF−MS法を適用する際、例えば、細胞膜に強固に固定化されている内因性の生体物質は、その固定を解消して、脱着/イオン化を起す必要があり、一般に、イオン化効率は相当に低い。その点を考慮すると、細胞膜に強固に固定化されている内因性の生体物質を利用する際には、予め、その固定を解消して、脱着/イオン化の障害を排除することが好ましい。
【0258】
膜結合型の内因性タンパク質、例えば、膜貫通型の内因性タンパク質に対しては、プロテアーゼ切断処理を施すことで、生成する複数のペプチド断片中には、通常、膜結合性を示さない断片がいくつか含まれている。従って、膜結合型の内因性タンパク質、例えば、膜貫通型の内因性タンパク質は、プロテアーゼ切断処理を利用することで、生成するペプチド断片自体は、MALDI−TOF−MS法を適用する際、脱着/イオン化の点では、なんらの障害が無い状態となる。
【0259】
一方、細胞膜自体の構成要素に含まれる、リン脂質などは、細胞膜組織から予め離脱させる処理を施さない場合、そのイオン化効率が低い状態となっている。なお、細胞膜組織全体の可溶化処理を施すと、細胞の形状を特定することが困難となるので、細胞膜組織全体の可溶化を起さず、細胞膜自体の構成要素に含まれる、リン脂質を可溶化する処理を採用することが望ましい。勿論、細胞膜などの膜組織に取り込まれていない、リン脂質は、MALDI−TOF−MS法を適用する際、脱着/イオン化の点では、なんらの障害が無い状態となっている。
【0260】
以上に説明した、第一の形態〜第五の形態の他、下記の形態を採用することでも、同等の効果が達成できる。
【0261】
(第六の形態)
本発明にかかる自動的位置重ね合わせ方法の第六の形態では、組織薄片がマウンティングされているプレパラート上、目標とする測定領域内に含まれるように設ける、所定の平面形状を有する「位置合わせマーカー」として、組織薄片上の所定部位に設ける、所定の平面形状を有する「アミノ残基への化学修飾処理がなされていない領域」を利用する。
【0262】
上述の本発明にかかる自動的位置重ね合わせ方法の第四の形態では、所定の平面形状を有する「位置合わせマーカー」として、組織薄片上の所定部位に設ける、所定の平面形状を有する「プロテアーゼ切断処理がなされていない領域」を利用している。
【0263】
プロテアーゼ切断処理によって生成するペプチド断片中に、システイン残基(Cys)が含まれる場合、二つのペプチド断片間で、鎖間のCys−Cys結合(S−S結合)
の形成が起きる可能性がある。
【0264】
この鎖間のCys−Cys結合(S−S結合)を介する二つペプチド断片の連結を防止するため、予め、Cys残基の側鎖上のスルファニル基(−SH)に、カルボキシメチル化やピリジルエチル化などを施し、予めその保護を行う。該Cys残基の側鎖上のスルファニル基(−SH)に対する、S−アルキル化処理に相当する化学修飾によって、Cys−Cys結合(S−S結合)の形成は阻害される。一方、S−アルキル化処理に相当する化学修飾は、MALDI−TOF−MS法における脱着/イオン化過程において、通常、解離を受けないので、該S−アルキル化処理に相当する化学修飾を保持するイオン種が測定される。
【0265】
例えば、このCys残基の側鎖上のスルファニル基(−SH)に対する化学修飾処理を、所定の領域のみ実施しないと、該領域では、本来のCys残基への化学修飾がなさえたペプチド断片の生成がなされない。結果的に、該領域は、顕微質量分析の二次元解析画像上においては、本来のCys残基への化学修飾がなさえたペプチド断片に由来するイオン種のピーク強度が実質的に測定されない領域として、識別される。
【0266】
すなわち、上記の本発明にかかる自動的位置重ね合わせ方法の第四の形態で利用する、組織薄片上の所定部位に設ける、所定の平面形状を有する「プロテアーゼ切断処理がなされていない領域」に代えて、組織薄片上の所定部位に設ける、所定の平面形状を有する「Cys残基への化学修飾処理がなされていない領域」を、所定の平面形状を有する「位置合わせマーカー」として、利用することも可能である。
【0267】
「Cys残基への化学修飾処理」の他に、アミノ酸残基に特異的な化学修飾処理、例えば、チロシン残基の側鎖上のフェノール型のヒドロキシル基(−OH)を硫酸エステル化(−O−SO3H)する化学修飾処理を利用することも可能である。
【0268】
すなわち、「プロテアーゼ切断処理」ならびに「MALDI−TOF−MS法における脱着/イオン化過程」において、解離を受けない「アミノ酸残基への化学修飾」を採用して、組織薄片上の所定部位に設ける、所定の平面形状を有する「アミノ残基への化学修飾処理がなされていない領域」を設け、所定の平面形状を有する「位置合わせマーカー」として、利用することも可能である。
【0269】
なお、組織薄片上の所定部位に、所定の平面形状を有する「アミノ残基への化学修飾処理がなされていない領域」を設ける方法は、上述する本発明にかかる自動的位置重ね合わせ方法の第四の形態で説明した、組織薄片上の所定部位に、所定の平面形状を有する「プロテアーゼ切断処理がなされていない領域」を設ける方法に準じたものである。
【0270】
その他の工程に関しても、上述する本発明にかかる自動的位置重ね合わせ方法の第四の形態で説明した手法を応用することができる。
【産業上の利用可能性】
【0271】
本発明にかかる顕微質量分析の二次元解析画像と、光学顕微鏡撮影の二次元可視画像との自動的位置重ね合わせ方法は、病理組織切片の同じ領域に対して、例えば、「マーカータンパク質」について測定された顕微質量分析の二次元解析画像と、光学顕微鏡撮影により得られる二次元可視画像との対比に基づき、病変部位の組織の病理組織学的診断を行う際、顕微質量分析の二次元解析画像と、光学顕微鏡撮影により得られる二次元可視画像とを対比する二次元画像解析における、画像位置合わせの効率化に利用可能である。
【図面の簡単な説明】
【0272】
【図1】図1は、本発明にかかる自動的位置重ね合わせ方法を実施する際、利用可能な装置構成を模式的に示す図である。
【図2】図2は、本発明にかかる自動的位置重ね合わせ方法の第一の形態における、一連の工程の実施順序と、各工程における操作の概要を示す、工程フローを模式的に示す図である。
【図3】図3は、本発明にかかる自動的位置重ね合わせ方法の第二の形態における、一連の工程の実施順序と、各工程における操作の概要を示す、工程フローを模式的に示す図である。
【図4】図4は、本発明にかかる自動的位置重ね合わせ方法の第三の形態における、一連の工程の実施順序と、各工程における操作の概要を示す、工程フローを模式的に示す図である。
【図5】図5は、本発明にかかる自動的位置重ね合わせ方法の第三の形態における、一連の工程の実施順序と、各工程における操作の概要を示す、工程フローを模式的に示す図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
被験体の病理切片について測定される、顕微質量分析の二次元解析画像と、該病理切片の光学顕微鏡撮影により得られる二次元可視画像との間で、二つの二次元画像を重ね合わせて表示するための、位置合わせの操作を自動的に実施する方法であって、
該光学顕微鏡撮影により得られる二次元可視画像は、
前記病理切片から調製される組織薄片をプレパラート上にマウンティングし、該組織薄片に含まれる細胞、ならびに、少なくとも、前記細胞中に存在する核、細胞質を光学顕微鏡撮影することにより得られる二次元可視画像であり、
該光学顕微鏡撮影により得られる二次元可視画像を構成する画像情報は、二次元的なマトリクス配列を有する、所定のサイズのピクセルのデジタル化された色彩情報と、該ピクセルの位置情報で構成される、デジタル化された二次元可視画像データであり;
該顕微質量分析の二次元解析画像は、前記光学顕微鏡撮影により得られる二次元可視画像の測定領域について、前記組織薄片の表面を、MALDI−TOF MS法を用いて、二次元的に顕微質量分析することにより得られる、質量分析スペクトル上において特定されるイオン種のピーク強度の分布を二次元的に表示した画像であり、
該顕微質量分析の二次元解析画像を構成する画像情報は、所定の間隔で二次元的なマトリクス状に配置され、所定の照射スポット径を有する、照射スポットで測定される質量分析スペクトル上において特定される、各イオン種のピーク強度と、該照射スポットの位置情報で構成される、デジタル化された二次元解析画像データであり;
顕微質量分析の二次元解析画像と、該病理切片の光学顕微鏡撮影により得られる二次元可視画像との間で、二つの二次元画像を重ね合わせて表示するための、位置合わせの操作を自動的に実施する工程は、
前記光学顕微鏡撮影により得られる二次元可視画像の測定領域に含まれる、所定の位置に、所定の平面形状を有する位置合わせマーカーを予め設け、
下記の(i)〜(iv)に記すデジタル・データ処理により、自動的に実施される工程を具えており、
(i)前記光学顕微鏡撮影により得られる二次元可視画像上において、該位置合わせマーカーを識別し、識別された該位置合わせ用マーカーの平面形状の輪郭を特定する工程;
(ii)前記顕微質量分析の二次元解析画像上において、該位置合わせ用マーカーの平面形状に相当する閉じた領域を特定する工程;
(iii)前記二次元可視画像上において特定される、該位置合わせ用マーカーの平面形状の輪郭の位置情報と、前記顕微質量分析の二次元解析画像上において特定される、該位置合わせ用マーカーの平面形状に相当する閉じた領域の外周の形状の位置情報とを用いて、
前記位置合わせ用マーカーの平面形状の輪郭と、前記閉じた領域の外周の形状の位置を重ね合わせることで、二つの二次元画像データの位置情報間の相対的なズレを算出する工程;
(iv)二つの二次元画像データの位置情報間の相対的なズレの算出値に基づき、二つの二次元画像の相対的な位置のズレを補正して、前記顕微質量分析の二次元解析画像と、光学顕微鏡撮影により得られる二次元可視画像の二次元画像を重ね合わせて表示する工程;
前記所定の平面形状を有する位置合わせマーカーとして、
組織薄片がマウンティングされているプレパラート上、目標とする測定領域内に含まれるように、光学顕微鏡撮影の二次元可視画像、顕微質量分析の二次元解析画像のいずれにおいても識別可能なマーカー物質からなる、所定の平面形状を有する位置合わせマーカーを設ける
ことを特徴とする自動的位置重ね合わせ方法。
【請求項2】
前記所定の平面形状を有する位置合わせマーカーは、
光学顕微鏡撮影の二次元可視画像上で識別可能な色彩を有する色素標識を付した、色素標識タンパク質、色素標識ポリペプチドからなる、所定の平面形状を有する位置合わせマーカーである
ことを特徴とする請求項1に記載の自動的位置重ね合わせ方法。
【請求項3】
前記所定の平面形状を有する位置合わせマーカーは、
光学顕微鏡撮影の二次元可視画像上で識別可能な色彩を有する色素を、タンパク質、ポリペプチドに混合した混合物からなる、所定の平面形状を有する位置合わせマーカーである
ことを特徴とする請求項1に記載の自動的位置重ね合わせ方法。
【請求項4】
前記所定の平面形状を有する位置合わせマーカーは、
光学顕微鏡撮影の二次元可視画像上で識別可能な色彩を有する色素を用いて、染色を施している、タンパク質、ポリペプチドからなる、所定の平面形状を有する位置合わせマーカーである
ことを特徴とする請求項1に記載の自動的位置重ね合わせ方法。
【請求項5】
前記位置合わせマーカーの作製に利用する、タンパク質、ポリペプチドとして、本質的に、組織薄片中には存在していない外因性タンパク質、ポリペプチドを採用する
ことを特徴とする請求項2〜4のいずれか一項に記載の自動的位置重ね合わせ方法。
【請求項6】
被験体の病理切片について測定される、顕微質量分析の二次元解析画像と、該病理切片の光学顕微鏡撮影により得られる二次元可視画像との間で、二つの二次元画像を重ね合わせて表示するための、位置合わせの操作を自動的に実施する方法であって、
該光学顕微鏡撮影により得られる二次元可視画像は、
前記病理切片から調製される組織薄片をプレパラート上にマウンティングし、該組織薄片に含まれる細胞、ならびに、少なくとも、前記細胞中に存在する核、細胞質を光学顕微鏡撮影することにより得られる二次元可視画像であり、
該光学顕微鏡撮影により得られる二次元可視画像を構成する画像情報は、二次元的なマトリクス配列を有する、所定のサイズのピクセルのデジタル化された色彩情報と、該ピクセルの位置情報で構成される、デジタル化された二次元可視画像データであり;
該顕微質量分析の二次元解析画像は、前記光学顕微鏡撮影により得られる二次元可視画像の測定領域について、前記組織薄片の表面を、MALDI−TOF MS法を用いて、二次元的に顕微質量分析することにより得られる、質量分析スペクトル上において特定されるイオン種のピーク強度の分布を二次元的に表示した画像であり、
該顕微質量分析の二次元解析画像を構成する画像情報は、所定の間隔で二次元的なマトリクス状に配置され、所定の照射スポット径を有する、照射スポットで測定される質量分析スペクトル上において特定される、各イオン種のピーク強度と、該照射スポットの位置情報で構成される、デジタル化された二次元解析画像データであり;
顕微質量分析の二次元解析画像と、該病理切片の光学顕微鏡撮影により得られる二次元可視画像との間で、二つの二次元画像を重ね合わせて表示するための、位置合わせの操作を自動的に実施する工程は、
前記光学顕微鏡撮影により得られる二次元可視画像の測定領域に含まれる、所定の位置に、所定の平面形状を有する位置合わせマーカーを予め設け、
下記の(i)〜(iv)に記すデジタル・データ処理により、自動的に実施される工程を具えており、
(i)前記光学顕微鏡撮影により得られる二次元可視画像上において、該位置合わせマーカーを識別し、識別された該位置合わせ用マーカーの平面形状の輪郭を特定する工程;
(ii)前記顕微質量分析の二次元解析画像上において、該位置合わせ用マーカーの平面形状に相当する閉じた領域を特定する工程;
(iii)前記二次元可視画像上において特定される、該位置合わせ用マーカーの平面形状の輪郭の位置情報と、前記顕微質量分析の二次元解析画像上において特定される、該位置合わせ用マーカーの平面形状に相当する閉じた領域の外周の形状の位置情報とを用いて、
前記位置合わせ用マーカーの平面形状の輪郭と、前記閉じた領域の外周の形状の位置を重ね合わせることで、二つの二次元画像データの位置情報間の相対的なズレを算出する工程;
(iv)二つの二次元画像データの位置情報間の相対的なズレの算出値に基づき、二つの二次元画像の相対的な位置のズレを補正して、前記顕微質量分析の二次元解析画像と、光学顕微鏡撮影により得られる二次元可視画像の二次元画像を重ね合わせて表示する工程;
前記所定の平面形状を有する位置合わせマーカーとして、
組織薄片がマウンティングされているプレパラート上、目標とする測定領域内に含まれるように、光学顕微鏡撮影の二次元可視画像においては識別可能であり、顕微質量分析の二次元解析画像においては、識別可能な質量分析ピーク強度を示さない、所定の平面形状を有する位置合わせ用マスクを設ける
ことを特徴とする自動的位置重ね合わせ方法。
【請求項7】
前記所定の平面形状を有する位置合わせマーカーは、
MALDI−TOF MS法で利用されるレーザ光に対する光透過性を示さない光マスキング物質からなる、所定の平面形状を有する被覆皮膜層である
ことを特徴とする請求項6に記載の自動的位置重ね合わせ方法。
【請求項8】
前記レーザ光に対する光透過性を示さない光マスキング物質からなる、被覆皮膜層として、
照射されるレーザ光の波長域において、高い反射率を示す金属材料からなる光反射性被覆皮膜層を用いる
ことを特徴とする請求項7に記載の自動的位置重ね合わせ方法。
【請求項9】
前記レーザ光に対する光透過性を示さない光マスキング物質からなる、被覆皮膜層として、
レーザ光に対する強い光吸収を示し、マトリクス剤によるレーザ光の吸収を実質的に皆無とする、高い吸光係数を有する材料からなる光吸収性被覆皮膜層を用いる
ことを特徴とする請求項7に記載の自動的位置重ね合わせ方法。
【請求項10】
前記所定の平面形状を有する位置合わせ用マスクは、
MALDI−TOF MS法で利用されるレーザ光に対する光透過性を示すものの、ペプチド断片に由来するイオン種の脱着を阻止する、物理的なマスキング物質からなる、所定の平面形状を有する被覆皮膜層である
ことを特徴とする請求項6に記載の自動的位置重ね合わせ方法。
【請求項11】
前記MALDI−TOF MS法で利用されるレーザ光に対する光透過性を示すものの、ペプチド断片に由来するイオン種の脱着を阻止する、物理的なマスキング物質からなる、被覆皮膜層として、
照射されるレーザ光の波長域においては、十分に高い光透過性を示す高分子材料からなる高分子被覆皮膜層を用いる
ことを特徴とする請求項10に記載の自動的位置重ね合わせ方法。
【請求項12】
被験体の病理切片について測定される、顕微質量分析の二次元解析画像と、該病理切片の光学顕微鏡撮影により得られる二次元可視画像との間で、二つの二次元画像を重ね合わせて表示するための、位置合わせの操作を自動的に実施する方法であって、
該光学顕微鏡撮影により得られる二次元可視画像は、
前記病理切片から調製される組織薄片をプレパラート上にマウンティングし、該組織薄片に含まれる細胞、ならびに、少なくとも、前記細胞中に存在する核、細胞質を光学顕微鏡撮影することにより得られる二次元可視画像であり、
該光学顕微鏡撮影により得られる二次元可視画像を構成する画像情報は、二次元的なマトリクス配列を有する、所定のサイズのピクセルのデジタル化された色彩情報と、該ピクセルの位置情報で構成される、デジタル化された二次元可視画像データであり;
該顕微質量分析の二次元解析画像は、前記光学顕微鏡撮影により得られる二次元可視画像の測定領域について、前記組織薄片の表面を、MALDI−TOF MS法を用いて、二次元的に顕微質量分析することにより得られる、質量分析スペクトル上において特定されるイオン種のピーク強度の分布を二次元的に表示した画像であり、
該顕微質量分析の二次元解析画像を構成する画像情報は、所定の間隔で二次元的なマトリクス状に配置され、所定の照射スポット径を有する、照射スポットで測定される質量分析スペクトル上において特定される、各イオン種のピーク強度と、該照射スポットの位置情報で構成される、デジタル化された二次元解析画像データであり;
顕微質量分析の二次元解析画像と、該病理切片の光学顕微鏡撮影により得られる二次元可視画像との間で、二つの二次元画像を重ね合わせて表示するための、位置合わせの操作を自動的に実施する工程は、
前記光学顕微鏡撮影により得られる二次元可視画像の測定領域に含まれる、所定の位置に、所定の平面形状を有する位置合わせマーカーを予め設け、
下記の(i)〜(iv)に記すデジタル・データ処理により、自動的に実施される工程を具えており、
(i)前記光学顕微鏡撮影により得られる二次元可視画像上において、該位置合わせマーカーを識別し、識別された該位置合わせ用マーカーの平面形状の輪郭を特定する工程;
(ii)前記顕微質量分析の二次元解析画像上において、該位置合わせ用マーカーの平面形状に相当する閉じた領域を特定する工程;
(iii)前記二次元可視画像上において特定される、該位置合わせ用マーカーの平面形状の輪郭の位置情報と、前記顕微質量分析の二次元解析画像上において特定される、該位置合わせ用マーカーの平面形状に相当する閉じた領域の外周の形状の位置情報とを用いて、
前記位置合わせ用マーカーの平面形状の輪郭と、前記閉じた領域の外周の形状の位置を重ね合わせることで、二つの二次元画像データの位置情報間の相対的なズレを算出する工程;
(iv)二つの二次元画像データの位置情報間の相対的なズレの算出値に基づき、二つの二次元画像の相対的な位置のズレを補正して、前記顕微質量分析の二次元解析画像と、光学顕微鏡撮影により得られる二次元可視画像の二次元画像を重ね合わせて表示する工程;
前記所定の平面形状を有する位置合わせマーカーとして、
組織薄片上の所定部位に、所定の平面形状を有する、マトリクス剤の塗布がなされていない領域を設ける
ことを特徴とする自動的位置重ね合わせ方法。
【請求項13】
被験体の病理切片について測定される、顕微質量分析の二次元解析画像と、該病理切片の光学顕微鏡撮影により得られる二次元可視画像との間で、二つの二次元画像を重ね合わせて表示するための、位置合わせの操作を自動的に実施する方法であって、
該光学顕微鏡撮影により得られる二次元可視画像は、
前記病理切片から調製される組織薄片をプレパラート上にマウンティングし、該組織薄片に含まれる細胞、ならびに、少なくとも、前記細胞中に存在する核、細胞質を光学顕微鏡撮影することにより得られる二次元可視画像であり、
該光学顕微鏡撮影により得られる二次元可視画像を構成する画像情報は、二次元的なマトリクス配列を有する、所定のサイズのピクセルのデジタル化された色彩情報と、該ピクセルの位置情報で構成される、デジタル化された二次元可視画像データであり;
該顕微質量分析の二次元解析画像は、前記光学顕微鏡撮影により得られる二次元可視画像の測定領域について、前記組織薄片の表面を、MALDI−TOF MS法を用いて、二次元的に顕微質量分析することにより得られる、質量分析スペクトル上において特定されるイオン種のピーク強度の分布を二次元的に表示した画像であり、
該顕微質量分析の二次元解析画像を構成する画像情報は、所定の間隔で二次元的なマトリクス状に配置され、所定の照射スポット径を有する、照射スポットで測定される質量分析スペクトル上において特定される、各イオン種のピーク強度と、該照射スポットの位置情報で構成される、デジタル化された二次元解析画像データであり;
顕微質量分析の二次元解析画像と、該病理切片の光学顕微鏡撮影により得られる二次元可視画像との間で、二つの二次元画像を重ね合わせて表示するための、位置合わせの操作を自動的に実施する工程は、
前記光学顕微鏡撮影により得られる二次元可視画像の測定領域に含まれる、所定の位置に、所定の平面形状を有する位置合わせマーカーを予め設け、
下記の(i)〜(iv)に記すデジタル・データ処理により、自動的に実施される工程を具えており、
(i)前記光学顕微鏡撮影により得られる二次元可視画像上において、該位置合わせマーカーを識別し、識別された該位置合わせ用マーカーの平面形状の輪郭を特定する工程;
(ii)前記顕微質量分析の二次元解析画像上において、該位置合わせ用マーカーの平面形状に相当する閉じた領域を特定する工程;
(iii)前記二次元可視画像上において特定される、該位置合わせ用マーカーの平面形状の輪郭の位置情報と、前記顕微質量分析の二次元解析画像上において特定される、該位置合わせ用マーカーの平面形状に相当する閉じた領域の外周の形状の位置情報とを用いて、
前記位置合わせ用マーカーの平面形状の輪郭と、前記閉じた領域の外周の形状の位置を重ね合わせることで、二つの二次元画像データの位置情報間の相対的なズレを算出する工程;
(iv)二つの二次元画像データの位置情報間の相対的なズレの算出値に基づき、二つの二次元画像の相対的な位置のズレを補正して、前記顕微質量分析の二次元解析画像と、光学顕微鏡撮影により得られる二次元可視画像の二次元画像を重ね合わせて表示する工程;
前記所定の平面形状を有する位置合わせマーカーとして、
組織薄片上の所定部位に、所定の平面形状を有する、プロテアーゼ切断処理がなされていない領域を設ける
ことを特徴とする自動的位置重ね合わせ方法。
【請求項14】
前記所定の平面形状を有する、プロテアーゼ切断処理がなされていない領域は、
所定の平面形状を有する被覆保護膜を、組織薄片上の所定部位に予め設け、その後、組織薄片の全面にプロテアーゼ切断処理を施すことによって、形成する
ことを特徴とする請求項13に記載の自動的位置重ね合わせ方法。
【請求項15】
被験体の病理切片について測定される、顕微質量分析の二次元解析画像と、該病理切片の光学顕微鏡撮影により得られる二次元可視画像との間で、二つの二次元画像を重ね合わせて表示するための、位置合わせの操作を自動的に実施する方法であって、
該光学顕微鏡撮影により得られる二次元可視画像は、
前記病理切片から調製される組織薄片をプレパラート上にマウンティングし、該組織薄片に含まれる細胞、ならびに、少なくとも、前記細胞中に存在する核、細胞質を光学顕微鏡撮影することにより得られる二次元可視画像であり、
該光学顕微鏡撮影により得られる二次元可視画像を構成する画像情報は、二次元的なマトリクス配列を有する、所定のサイズのピクセルのデジタル化された色彩情報と、該ピクセルの位置情報で構成される、デジタル化された二次元可視画像データであり;
該顕微質量分析の二次元解析画像は、前記光学顕微鏡撮影により得られる二次元可視画像の測定領域について、前記組織薄片の表面を、MALDI−TOF MS法を用いて、二次元的に顕微質量分析することにより得られる、質量分析スペクトル上において特定されるイオン種のピーク強度の分布を二次元的に表示した画像であり、
該顕微質量分析の二次元解析画像を構成する画像情報は、所定の間隔で二次元的なマトリクス状に配置され、所定の照射スポット径を有する、照射スポットで測定される質量分析スペクトル上において特定される、各イオン種のピーク強度と、該照射スポットの位置情報で構成される、デジタル化された二次元解析画像データであり;
顕微質量分析の二次元解析画像と、該病理切片の光学顕微鏡撮影により得られる二次元可視画像との間で、二つの二次元画像を重ね合わせて表示するための、位置合わせの操作を自動的に実施する工程は、
前記光学顕微鏡撮影により得られる二次元可視画像の測定領域に含まれる、所定の位置に、所定の平面形状を有する位置合わせマーカーを予め設け、
下記の(i)〜(iv)に記すデジタル・データ処理により、自動的に実施される工程を具えており、
(i)前記光学顕微鏡撮影により得られる二次元可視画像上において、該位置合わせマーカーを識別し、識別された該位置合わせ用マーカーの平面形状の輪郭を特定する工程;
(ii)前記顕微質量分析の二次元解析画像上において、該位置合わせ用マーカーの平面形状に相当する閉じた領域を特定する工程;
(iii)前記二次元可視画像上において特定される、該位置合わせ用マーカーの平面形状の輪郭の位置情報と、前記顕微質量分析の二次元解析画像上において特定される、該位置合わせ用マーカーの平面形状に相当する閉じた領域の外周の形状の位置情報とを用いて、
前記位置合わせ用マーカーの平面形状の輪郭と、前記閉じた領域の外周の形状の位置を重ね合わせることで、二つの二次元画像データの位置情報間の相対的なズレを算出する工程;
(iv)二つの二次元画像データの位置情報間の相対的なズレの算出値に基づき、二つの二次元画像の相対的な位置のズレを補正して、前記顕微質量分析の二次元解析画像と、光学顕微鏡撮影により得られる二次元可視画像の二次元画像を重ね合わせて表示する工程;
前記所定の平面形状を有する位置合わせマーカーとして、
組織薄片がマウンティングされているプレパラート上、目標とする測定領域内に含まれるように、光学顕微鏡撮影の二次元可視画像、顕微質量分析の二次元解析画像のいずれにおいても識別可能な、内因性の位置合わせマーカーを設定する
ことを特徴とする自動的位置重ね合わせ方法。
【請求項16】
前記光学顕微鏡撮影の二次元可視画像、顕微質量分析の二次元解析画像のいずれにおいても識別可能な、内因性の位置合わせマーカーとして、
組織薄片の表面において、光学顕微鏡撮影の二次元可視画像、顕微質量分析の二次元解析画像のいずれにおいても、その領域の位置の特定が可能な、核複数個を採用する
ことを特徴とする請求項15に記載の自動的位置重ね合わせ方法。
【請求項17】
被験体の病理切片について測定される、顕微質量分析の二次元解析画像と、該病理切片の光学顕微鏡撮影により得られる二次元可視画像との間で、二つの二次元画像を重ね合わせて表示するための、位置合わせの操作を自動的に実施する方法であって、
該光学顕微鏡撮影により得られる二次元可視画像は、
前記病理切片から調製される組織薄片をプレパラート上にマウンティングし、該組織薄片に含まれる細胞、ならびに、少なくとも、前記細胞中に存在する核、細胞質を光学顕微鏡撮影することにより得られる二次元可視画像であり、
該光学顕微鏡撮影により得られる二次元可視画像を構成する画像情報は、二次元的なマトリクス配列を有する、所定のサイズのピクセルのデジタル化された色彩情報と、該ピクセルの位置情報で構成される、デジタル化された二次元可視画像データであり;
該顕微質量分析の二次元解析画像は、前記光学顕微鏡撮影により得られる二次元可視画像の測定領域について、前記組織薄片の表面を、MALDI−TOF MS法を用いて、二次元的に顕微質量分析することにより得られる、質量分析スペクトル上において特定されるイオン種のピーク強度の分布を二次元的に表示した画像であり、
該顕微質量分析の二次元解析画像を構成する画像情報は、所定の間隔で二次元的なマトリクス状に配置され、所定の照射スポット径を有する、照射スポットで測定される質量分析スペクトル上において特定される、各イオン種のピーク強度と、該照射スポットの位置情報で構成される、デジタル化された二次元解析画像データであり;
顕微質量分析の二次元解析画像と、該病理切片の光学顕微鏡撮影により得られる二次元可視画像との間で、二つの二次元画像を重ね合わせて表示するための、位置合わせの操作を自動的に実施する工程は、
前記光学顕微鏡撮影により得られる二次元可視画像の測定領域に含まれる、所定の位置に、所定の平面形状を有する位置合わせマーカーを予め設け、
下記の(i)〜(iv)に記すデジタル・データ処理により、自動的に実施される工程を具えており、
(i)前記光学顕微鏡撮影により得られる二次元可視画像上において、該位置合わせマーカーを識別し、識別された該位置合わせ用マーカーの平面形状の輪郭を特定する工程;
(ii)前記顕微質量分析の二次元解析画像上において、該位置合わせ用マーカーの平面形状に相当する閉じた領域を特定する工程;
(iii)前記二次元可視画像上において特定される、該位置合わせ用マーカーの平面形状の輪郭の位置情報と、前記顕微質量分析の二次元解析画像上において特定される、該位置合わせ用マーカーの平面形状に相当する閉じた領域の外周の形状の位置情報とを用いて、
前記位置合わせ用マーカーの平面形状の輪郭と、前記閉じた領域の外周の形状の位置を重ね合わせることで、二つの二次元画像データの位置情報間の相対的なズレを算出する工程;
(iv)二つの二次元画像データの位置情報間の相対的なズレの算出値に基づき、二つの二次元画像の相対的な位置のズレを補正して、前記顕微質量分析の二次元解析画像と、光学顕微鏡撮影により得られる二次元可視画像の二次元画像を重ね合わせて表示する工程;
前記所定の平面形状を有する位置合わせマーカーとして、
組織薄片上の所定部位に、所定の平面形状を有する、アミノ酸残基への化学修飾処理がなされていない領域を設ける
ことを特徴とする自動的位置重ね合わせ方法。
【請求項18】
前記アミノ酸残基への化学修飾処理として、
Cys残基の側鎖上のスルファニル基(−SH)に対する、S−アルキル化処理を採用する
ことを特徴とする請求項17に記載の自動的位置重ね合わせ方法。
【請求項19】
MALDI−TOF MS法として、
UV−MALDI−TOF MS法を用いる
ことを特徴とする請求項1〜18のいずれか一項に記載の自動的位置重ね合わせ方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2010−85219(P2010−85219A)
【公開日】平成22年4月15日(2010.4.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−253895(P2008−253895)
【出願日】平成20年9月30日(2008.9.30)
【出願人】(000232092)NECソフト株式会社 (173)
【Fターム(参考)】