説明

顕微鏡撮影装置

【課題】簡便に被観察面に対して最適な姿勢を特定できるようにする。
【解決手段】観察対象Sからの観察光を集光する対物レンズ31、対物レンズ31からの観察光を結像する結像レンズ32、及び結像された観察対象Sの像を撮像する撮像素子33を収納した本体部11と、グリップ部12を備えて構成される携帯用顕微鏡カメラ1は、その先端部分に取り付けられたカメラ先端部材13の先端面の端部を観察対象Sに突き当てる場合、水平姿勢から所定の角度まで傾けられた傾斜姿勢になると、重り42が位置P2に移動し、重心Gが本体部11の後端側に移動するので、カメラ先端部材13の先端面の端部が観察面上の支点fに押し付けられる。これにより、確実に支点fをつくって、簡便に被観察面に対して最適な姿勢を特定することができる。本発明は、例えば、携帯用顕微鏡カメラなどの携帯用の小型の顕微鏡撮影装置に適用することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、顕微鏡撮影装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、顕微鏡カメラと称される携帯用の小型の顕微鏡撮影装置が知られている。この種の顕微鏡カメラとしては、例えば、特許文献1が知られている。
【0003】
この顕微鏡カメラは、第1のレンズ系、第2のレンズ系、及びCCD(Charge Coupled Device)を収納した本体部と、観察者により把持される把持ハンドル部から構成される。本体部の先端の開口部に観察対象Sを対面させることで観察像が撮像され、観察画像が得られる。このような顕微鏡カメラでは、把持ハンドル部と本体部とが接合されている位置の近傍に重心があり、顕微鏡カメラの光軸を水平又は鉛直にしたときには、重量バランスが取れるようになっている。また、顕微鏡カメラは、被写界深度が狭く、観察対象Sの狭い範囲を拡大して観察を行うために、撮影したい面に対して第1及び第2のレンズ系の光軸を垂直な関係にして、撮影することが要求される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平7−111608号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、顕微鏡カメラの光軸が水平又は鉛直となる状態とは異なる姿勢をとったときには、把持ハンドル部を掴む位置と重心とを結ぶ線の示す方向が、重力の方向とは異なる方向を示すため、顕微鏡カメラでは、把持ハンドル部を掴んだ位置を中心に回転モーメントが発生する。このような状態で、重力の働く方向と平行又は垂直な観察面に、顕微鏡カメラを当接させると、開口部の下側あるいは上側が観察面に当接し易くなる。
【0006】
開口部の下側あるいは上側の部分が観察面に当接すると、把持ハンドル部を掴んだ観察者は、あたかも観察面に正しく開口部を当接したものと誤解し易く、そのまま撮影作業に入り、撮影領域全面のピントが合っていない状態で撮影をしてしまう恐れがある。
【0007】
そのため、観察者は、とりあえず、目視により当たりをつけた観察位置に対して、顕微鏡カメラを正対姿勢のまま、その先端面を押し当てて、その都度、観察画像を表示するモニタで所望の観察位置であったか否かを確認する作業を行う必要がある。その結果、所望の観察位置を見つけ出すまでに、何度もその確認作業を繰り返すことになり、所望の観察位置を特定するまでの作業の手間を軽減したいという要求があった。
【0008】
本発明はこのような状況に鑑みてなされたものであり、簡便に被観察面に対して最適な姿勢を特定できるようにするものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の顕微鏡撮影装置は、観察対象からの観察光を集光する対物レンズ、前記対物レンズからの観察光を結像する結像光学系、及び前記結像光学系により結像された前記観察対象の像を撮像する撮像素子を収納する本体部と、前記本体部の先端部分に配設され、前記観察対象と接触する先端面により前記観察対象と前記対物レンズとの作動距離を確保するとともに、その先端面の端部が前記観察対象上の所望の観察位置を特定するための支点となる先端部材と、前記本体部の傾斜角度に応じて、前記本体部の重心を移動させる重心移動機構とを備えることを特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、簡便に顕微鏡撮影装置の最適な姿勢を特定できる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】本発明を適用した携帯用顕微鏡カメラの一実施の形態の構成を示す図である。
【図2】傾斜姿勢の携帯用顕微鏡カメラの構成を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、図面を参照しながら本発明の実施の形態について説明する。
【0013】
図1は、本発明を適用した携帯用顕微鏡カメラの一実施の形態の構成を示す図である。
【0014】
なお、図1では、携帯用顕微鏡カメラ1の本体部11内に収納された、観察対象Sの拡大像を取得するための光学系や撮像素子、各種の機構を図示するため、その一部を断面で示している。
【0015】
図1に示すように、携帯用顕微鏡カメラ1は、光軸Lを中心とした円筒形状の本体部11と、観察者が携帯用顕微鏡カメラ1を把持するためのグリップ部12を備えて構成される。本体部11の鏡筒内には、先端側(図1の左側)から後端側(図1の右側)に向かって、対物レンズ31、結像レンズ32、及びCCD(Charge Coupled Device)等から構成される撮像素子33が、光軸Lに沿って配置される。
【0016】
また、本体部11の先端には、観察対象Sと対物レンズ31との作動距離を確保するためのカメラ先端部材13が取り付けられており、このカメラ先端部材13の先端面が、観察対象Sに向けられて観察が行われる。なお、この先端面は、対物レンズ31の光軸Lに対して垂直な面を有し、その一部が開口部となっている。
【0017】
すなわち、カメラ先端部材13の先端面が観察対象Sと接触することにより、対物レンズ31の焦点Foに合わされ、かつ対物レンズ31の光軸Lに対して観察対象Sが垂直な関係となる。観察対象Sからの観察光は、対物レンズ31を介して、本体部11の内部に導入され、その観察対象Sの像が、結像レンズ32によって撮像素子33の撮像面33A全面にわたって合焦状態で結像される。そして、撮像素子33は、撮像面33Aに結像された観察対象Sの像を撮像し、観察画像データを得る。この観察画像データは、例えば、本体部11内に装着されたメモリカード等の記録媒体(不図示)に記録されるか、あるいは、モニタ(不図示)を接続した装置(不図示)に送信され、そのモニタ上にその観察画像が表示されることになる。
【0018】
なお、説明の簡略化のため、図示はしていないが、対物レンズ31と結像レンズ32との間の光路上には、所定の機構により光軸L方向に移動可能に構成されるズームレンズ群が配置され、対物レンズ31からの観察光を所定の倍率に拡大した後、結像レンズ32に導くことになる。また、本体部11の先端部分には、観察対象Sの照明光を、照明レンズ34を介して照射するLED(Light Emitting Diode)35が実装されており、本体部11では、例えば、対物レンズ31の円周外側に沿うように、複数のLED35が輪帯状に並んで配置される。
【0019】
ところで、図1の断面図に示すように、本体部11の内部に配置された撮像素子33の背後には、光軸方向に延びる直動軸41が、光軸Lに沿って本体部11の内壁に固定されており、この直動軸41の外周には、直動軸受43が摺接される。この直動軸受43には、携帯用顕微鏡カメラ1(本体部11)の重心Gの位置を調整するための重り42が固定される。すなわち、直動軸受43が、直動軸41上を往復直線運動することで、直動軸受43上に固定された重り42を、光軸Lに沿って移動させることが可能となる。
【0020】
また、本体部11の鏡筒内の内壁には、グリップ部12の中心軸g上の位置に、弾性部材の一例であるバネ45の一端が固定されており、そのバネ45の他端には、球体のボール部材44が取り付けられている。このボール部材44は、バネ45の伸縮により中心軸g上を移動し、所定の位置で重り42に接触することになるが、重り42の表面上には、ボール部材44の形状に対応する溝部42Aが形成されているので、中心軸g上に固定されたバネ45の弾性力によって、その先端のボール部材44が溝部42Aに嵌合され、溝部42Aの内側に押圧されることになる。すなわち、図1に示すように、携帯用顕微鏡カメラ1(本体部11)の光軸Lが、水平方向での観察姿勢である水平姿勢となる場合、中心軸g上で、重り42の溝部42Aが、ボール部材44と嵌め合い、バネ45によりボール部材44が重り42に押圧されるので、直動軸受43が直動軸41上に保持されることになる。これにより、重り42が中心軸g上に保持され、重心Gは、位置P1で固定される。
【0021】
そして、このようなクリック機構を用いることで、グリップ部12を握った観察者により、本体部11が水平姿勢から所定の角度まで傾けられた傾斜姿勢となった場合、重り42にかかる重力により、溝部42Aを押圧していたボール部材44が外れて、開放された重り42を固定した直動軸受43が直動軸41上を摺動して、本体部11の後端側あるいは撮像素子33側に移動することになる。これにより、重り42が、光軸Lに沿って、中心軸g上から本体部11内を前後(図1の右側や左側)に移動するので、その結果、重心Gは本体部11の前後方向に移動する。一方、本体部11を、傾斜姿勢から水平姿勢に戻した場合には、直動軸受43が直動軸41上を摺動して、再度、重り42が中心軸g上に到達するので、先に説明したようにボール部材44が嵌合し、重り42が中心軸g上に保持されることになる。
【0022】
このように、本体部11の内部に、重り42を光軸Lに沿って移動させるクリック機構を設けることにより、本体部11が所定の傾斜角度以上に傾いたときに、本体部11の重心Gの位置の移動を生じさせることが可能となる。
【0023】
ところで、上記の通り、携帯用顕微鏡カメラ1により観察対象Sの観察を行う場合、そのグリップ部12を把持した観察者は、観察対象Sの観察したい場所を目視で確認した後、その観察位置と思われる場所に、カメラ先端部材13の先端面の端部を突き当てる操作を行うことになる。
【0024】
図2に示すように、観察対象Sが存在する面がある角度以上に下方に向けて傾いている状態では、カメラ先端部材13の先端面の端部を観察対象Sに突き当てるに際し、携帯用顕微鏡カメラ1を水平姿勢から所定の角度だけ傾けて傾斜姿勢にすると、直動軸受43が直動軸41上の摺動を開始し、クリック機構により保持されていた重り42は、開放され、光軸Lに沿って、本体部11の後端側に移動する。これにより、図1の本体部11が水平姿勢の場合に、位置P1に固定されていた重心Gが、図2の本体部11が傾斜姿勢の場合には、位置P2に移動することになる。
【0025】
そして、重心Gが位置P2に移動した状態、すなわち、携帯用顕微鏡カメラ1を、図2に示すように、グリップ部12の中心軸g上の点hを中心に回転させて、傾斜姿勢で観察する場合、重心Gに作用する力Fまでの距離L1が十分得られるので、グリップ部12上の点hのまわりに生じるモーメントも十分大きいものとなる。その結果、カメラ先端部材13の先端面の端部と、観察対象Sの観察面上との接点である支点fに作用する力Aが大きなものとなる。
【0026】
これにより、カメラ先端部材13の先端面の端部を観察対象Sに突き当てるに際し、その端部が観察面上の支点fに押し付けられることになるので、観察者は、特別に意識することなく、確実に、観察面上に支点fをつくることができる。そして、観察者は、その観察面上の支点fに固定されたカメラ先端部材13の先端面の端部を回転軸にして、携帯用顕微鏡カメラ1を、図中の方向Tに回転させて、観察対象Sの観察面に対して正対した正対姿勢とすることができる。その結果、観察対象Sの観察面と、カメラ先端部材13の先端面とが接触して、その開口部内の視野範囲に入っている観察位置を観察することが可能となる。
【0027】
なお、仮に、その視野範囲に入った観察位置が所望の観察位置とは異なるものであったとしても、再度、カメラ先端部材13の先端面の端部を観察対象Sに突き当てる場合には、同様にして、必ず観察面上に支点fをつくることができるので、その支点fを回転軸にして、再度、携帯用顕微鏡カメラ1を回転させればよい。すなわち、観察対象Sの観察したい場所を目視により確認した後、カメラ先端部材13の先端面の端部を観察対象Sに突き当てると、最初に当てた観察面上の支点fに対して、必ず回転方向が決まるので、その支点fを中心に携帯用顕微鏡カメラ1を回転させることで、簡便に被観察面に対して最適な姿勢を特定できる。
【0028】
また、観察終了後、本体部11を、図2の傾斜姿勢から、図1の水平姿勢に戻すと、直動軸受43が直動軸41上を先端方向に摺動することにより、重り42が位置P1に移動して固定され、重心Gは、位置P2から位置P1に戻ることになる。
【0029】
以上のように、本発明によれば、携帯用顕微鏡カメラ1の観察姿勢、すなわち、本体部11の傾斜角度に応じて、その重心Gを移動させることが可能となるため、カメラ先端部材13の先端面の端部を観察対象Sに突き当てるに際し、携帯用顕微鏡カメラ1を回転させて正対姿勢にするための支点fを、観察者が意識することなく必ずつくることができる。その結果、短い作業時間で、簡便に対物レンズ31や結像レンズ32からなる光学系の光軸Lに対して観察対象Sを正対することが可能となる。また、この支点fにより、カメラ先端部材13の先端面の端部が、観察対象Sの観察面上に安定して接触するので、グリップ部12を握った観察者による手ぶれを防止することも可能となる。
【0030】
一方、従来の方法であると、顕微鏡カメラを傾斜姿勢にしても重心Gの位置が固定されているため、カメラ先端部材の先端面を観察対象Sに押し当てるに際して、カメラ先端部材の先端面の端部が観察面に軽く当たっている状態となり、観察面上に支点fを確実につくることができず、観察者は、カメラ先端部材の先端面の端部が正対して観察面に当たっているかが分からないため、結果として、顕微鏡カメラを正対姿勢をしているかどうかをはっきり知覚することなく、試し撮影をしながら観察対象Sと正対させる作業を行うことになる。
【0031】
なお、本実施の形態では、本体部11にグリップ部12を設けた構成を例示したが、本発明は、例えば、グリップ部12を設けずに、円筒形状の本体部11のみからなる構成にも適用することが可能であり、その場合の水平姿勢の重心Gは、例えば、本体部11内の光軸Lの中点にして、水平姿勢から傾斜姿勢となった場合には、その本体部11の後端側に重心Gが移動するようにすればよい。
【0032】
また、本実施の形態において、クリック機構では、本体部11の傾斜角度に応じて、携帯用顕微鏡カメラ1が水平姿勢から傾斜姿勢となったときに、溝部42Aを押圧していたボール部材44が外れて、直動軸受43が直動軸41上を摺動することになるが、この直動軸受43が摺動可能になる傾斜角度は、設計により任意の角度に決定することができる。また、このクリック機構は、携帯用顕微鏡カメラ1(本体部11)の重心Gの位置を移動させる重心移動機構の例示であって、携帯用顕微鏡カメラ1を、水平姿勢から傾斜姿勢にしたときに、その重心Gの位置を移動させることが可能な機構であれば、他の重心移動機構を用いてもよい。
【0033】
さらに、本発明の実施の形態は、上述した実施の形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲において種々の変更が可能である。
【符号の説明】
【0034】
1 携帯用顕微鏡カメラ, 11 本体部, 12 グリップ部, 13 カメラ先端部材, 31 対物レンズ, 32 結像レンズ, 33 撮像素子, 33A 撮像面, 41 直動軸, 42 重り, 42A 溝部, 43 直動軸受, 44 ボール部材, 45 バネ, Fo 焦点, f 支点, g 中心軸, G 重心, L 光軸, L1 距離, P1,P2 位置, S 観察対象, T 回転方向

【特許請求の範囲】
【請求項1】
観察対象からの観察光を集光する対物レンズ、前記対物レンズからの観察光を結像する結像光学系、及び前記結像光学系により結像された前記観察対象の像を撮像する撮像素子を収納する本体部と、
前記本体部の先端部分に配設され、前記観察対象と接触する先端面により前記観察対象と前記対物レンズとの作動距離を確保するとともに、その先端面の端部が前記観察対象上の所望の観察位置を特定するための支点となる先端部材と、
前記本体部の傾斜角度に応じて、前記本体部の重心を移動させる重心移動機構と
を備えることを特徴とする顕微鏡撮影装置。
【請求項2】
前記重心移動機構は、前記対物レンズの光軸方向に移動自在となる重りを、前記本体部が水平方向での観察姿勢である水平姿勢となるときの前記重心の位置に保持するクリック機構からなり、
前記クリック機構は、前記本体部が前記水平姿勢から所定の角度まで傾けられた傾斜姿勢となった場合、前記重りを開放して前記本体部の後端側に移動させて、前記重心を前記本体部の後端側に移動させる
ことを特徴とする請求項1に記載の顕微鏡撮影装置。
【請求項3】
前記クリック機構は、前記本体部が前記傾斜姿勢から前記水平姿勢に戻った場合、前記重りを移動前の元の位置に保持して、前記重心を前記水平姿勢の位置に移動させる
ことを特徴とする請求項2に記載の顕微鏡撮影装置。
【請求項4】
観察者により把持されるグリップ部をさらに備え、
前記重心は、前記本体部が水平姿勢となる場合において、前記対物レンズの光軸と前記グリップ部の中心軸とを結んだ交点の位置である
ことを特徴とする請求項1から3のいずれか一項に記載の顕微鏡撮影装置。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2011−39329(P2011−39329A)
【公開日】平成23年2月24日(2011.2.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−187373(P2009−187373)
【出願日】平成21年8月12日(2009.8.12)
【出願人】(000004112)株式会社ニコン (12,601)
【Fターム(参考)】