説明

顕微鏡観察システム

【課題】装置の大型化を抑制しつつ、標本の蛍光画像をマルチスペクトル画像として取得すること。
【解決手段】本発明のある実施の形態の顕微鏡観察システム1は、紫外域から可視域の波長範囲に亘る照明光を射出する励起用光源13と、観察光軸OA2上に択一的に配置されて対物レンズ15とともに対物光学系193を構成し、観察波長範囲を複数に分割した各波長域を個別に観察波長域として励起波長域と組み合わせた対となる励起波長域および観察波長域の光のみを透過させる複数のフィルター21を収容するフィルターユニット20と、標本の蛍光観察像を撮像する撮像部18とを備え、観察光軸OA2上に配置するフィルター21を切り換えながら観察波長域毎に蛍光観察像を撮像する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、標本に励起光を照射して標本が発する蛍光を観察する顕微鏡観察システムに関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来から、標本に励起光を照射し、標本が発する蛍光を観察する蛍光顕微鏡が知られている(例えば特許文献1を参照)。この蛍光顕微鏡では、紫外域から可視域に亘る波長範囲内の特定の波長域(励起波長域)の光を励起光として照射するために、励起波長域の光のみを透過させ、それ以外の光を遮断する励起フィルターを用いている。この励起フィルターは、一般的に、ダイクロイックミラーや標本が発した蛍光のみを透過させる吸収フィルター等とともにユニット化した蛍光キューブとして用意される。ここで、励起波長域は、励起させる対象によって異なる。また、蛍光色素を用いて標本を染色して行う蛍光観察では、使用する蛍光色素の種類によって励起波長域が異なる。このため、励起波長域毎に蛍光キューブを用意し、観察対象の標本に応じた蛍光キューブを例えばターレット方式で切り換えるといったことが行われている。
【0003】
一方で、標本の観察は、観察者による目視観察の他、標本をマルチスペクトル撮像することで分光透過率等の標本の分光スペクトルを取得し、取得した分光スペクトルをもとに合成した画像を画面表示することによっても行われている(例えば特許文献2,3を参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平10−68890号公報
【特許文献2】特開2003−65948号公報
【特許文献3】特開2008−51654号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、蛍光顕微鏡を用い、標本の蛍光画像をマルチスペクトル画像として取得する場合、バンド毎の波長域(観察波長域)でそれぞれ感度を有する複数のフィルターが必要となる。ここで、観察波長域毎のフィルターを吸収フィルターとして備えた蛍光キューブを用意することとすると、バンド数分の蛍光キューブを用意しなければならず、バンド数に比例してターレットが巨大化して装置が大型化するという問題があった。例えば、250nm〜330nmの波長範囲(観察波長範囲)を5nm毎に区切った各波長域を観察波長域として16バンドのマルチスペクトル画像を取得する場合、16個の蛍光キューブが必要となる。同様に、例えば30バンドのマルチスペクトル画像を取得する場合には、30個の蛍光キューブが必要である。
【0006】
本発明は、上記に鑑み為されたものであって、装置の大型化を抑制しつつ、標本の蛍光画像をマルチスペクトル画像として取得することができる顕微鏡観察システムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記した課題を解決し、目的を達成するための、本発明のある態様にかかる顕微鏡観察システムは、対物レンズを含む対物光学系を介して所定の励起波長域の励起光を標本に照射し、前記対物光学系を介して前記標本が発する所定の観察波長範囲の蛍光を観察する顕微鏡観察システムであって、紫外域から可視域の波長範囲に亘る照明光を射出する励起用光源と、前記対物レンズの光軸上に択一的に配置されて前記対物レンズとともに前記対物光学系を構成し、前記観察波長範囲を複数に分割した各波長域を個別に観察波長域として前記励起波長域と組み合わせた対となる前記励起波長域および前記観察波長域の光のみを透過させる複数のフィルターを収容するフィルターユニットと、前記標本の蛍光観察像を撮像する撮像部と、を備え、前記対物レンズの光軸上に配置する前記フィルターを切り換えながら前記観察波長域毎に前記蛍光観察像を撮像することを特徴とする。
【発明の効果】
【0008】
本発明の顕微鏡観察システムでは、観察波長範囲を複数に分割した各波長域を個別に観察波長域とし、励起波長域と組み合わせた対となる励起波長域および観察波長域の光のみを透過させる複数のフィルターを対物レンズの光軸上に配置して対物光学系を構成することとした。そして、この対物光学系を構成するフィルターを切り換えながら観察波長域毎に蛍光観察像を撮像することとした。これによれば、各観察波長域の光を透過させるための複数のフィルター(吸収フィルター)を励起波長域の光を透過させるためのフィルター(励起フィルター)とそれぞれ組み合わせて複数の蛍光キューブを構成し、ターレットに装着して切り換える構成が必要ない。したがって、装置の大型化を抑制しつつ、標本の蛍光画像をマルチスペクトル画像として取得することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】図1は、実施の形態1の顕微鏡観察システムの主要構成を示す模式図である。
【図2】図2は、フィルターユニットの構成を示す模式図である。
【図3】図3は、フィルターユニットの構成を示す斜視図である。
【図4】図4は、フィルターの分光特性を示す図である。
【図5】図5は、図4とは別のフィルターの分光特性を示す図である。
【図6】図6は、フィルターを作製するのに用いる複数のフィルターの分光特性を示す図である。
【図7】図7は、実施の形態1の顕微鏡観察システムの動作手順を示すフローチャートである。
【図8】図8は、フィルターの具体的な切り換え手順を説明する説明図である。
【図9】図9は、フィルターの具体的な切り換え手順を説明する他の説明図である。
【図10】図10は、電子染色処理を説明する図である。
【図11】図11は、実施の形態2の顕微鏡観察システムの一部の構成を示す図である。
【図12】図12は、実施の形態2の顕微鏡観察システムの動作手順を示すフローチャートである。
【図13】図13は、実施の形態3の顕微鏡観察システムの動作手順を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、図面を参照し、本発明の好適な実施の形態について説明する。なお、この実施の形態によって本発明が限定されるものではない。また、図面の記載において、同一部分には同一の符号を付して示している。
【0011】
(実施の形態1)
図1は、実施の形態1の顕微鏡観察システム1の主要構成を示す模式図である。図1に示すように、顕微鏡観察システム1は、観察対象の標本Sに励起光を照射して標本Sの蛍光観察を行う蛍光顕微鏡10を備える。
【0012】
例えば、病理診断では、臓器摘出や針生検によって得た組織検体を厚さ数ミクロン程度に薄切して標本を作成し、様々な所見を得るために顕微鏡を用いて拡大観察することが広く行われている。標本は、光をほとんど吸収および散乱せず無色透明に近いため、観察に先立って色素による染色を施すのが一般的である。染色手法としては種々のものが提案されているが、特に組織標本に関しては、標本の形態を観察するための形態観察染色として、ヘマトキシリンおよびエオジンの2つの色素を用いるヘマトキシリン・エオジン染色(以下、「HE染色」と呼ぶ。)が標準的に用いられている。また、HE染色された生体組織標本の蛍光観察は、例えば、生体組織標本内の核酸の観察を目的として行われる。ここで、核酸とは、DNAおよびRNAの他、人工核酸を含む。人工核酸とは、DNAやRNAに対して人工的に修飾を施すことで、核酸との結合力や熱耐性等を付与したものをいう。顕微鏡観察システム1が観察対象とする標本Sは特に限定されるものではないが、実施の形態1では、例えば、前述のHE染色が施された生体組織標本を観察対象とし、蛍光顕微鏡10によって標本S内の核酸を励起させて蛍光観察を行う。
【0013】
蛍光顕微鏡10は、側面視略コの字状を有する顕微鏡本体12を備える。この顕微鏡本体12は、標本Sが載置されるステージ11を支持する。ステージ11は、不図示の駆動機構によって観察光軸(対物レンズの光軸)OA2に垂直な面内(XY平面内)および観察光軸OA2の方向(Z軸方向)に移動自在に構成され、これによって観察する標本S上の領域が調整されるとともに、標本Sが観察光軸OA2に沿って焦準移動されて焦点合わせ(ピント合わせ)される。
【0014】
また、顕微鏡本体12の上部には、コレクタレンズや視野レンズ等の光学レンズ131、ハーフミラー133の他、不図示の開口絞りや視野絞り等が照明光軸OA11に沿って適所に配置されており、顕微鏡本体12の上部後方(図1の右方)に配設された励起用光源13とともに、ステージ11上の標本Sを透過照明するための落射照明光学系191を構成する。
【0015】
励起用光源13は、例えば、水銀ランプやキセノンランプ、ハロゲンランプ、タングステンランプ等で実現され、紫外域から可視域に亘る波長範囲(例えば100nm〜700nm)の光を照明光として射出する。
【0016】
また、顕微鏡本体12は、この顕微鏡本体12に対して回転自在に設けられた不図示のレボルバを介して対物レンズ15を保持する。対物レンズ15は、レボルバに倍率の異なる他の対物レンズとともに交換自在に装着されており、レボルバの回転に応じて観察光軸OA2上に配置される対物レンズ15が択一的に切り換えられるようになっている。
【0017】
ここで、この対物レンズ15とハーフミラー133との間には、観察光軸OA2上にフィルター21を挿脱自在に配置するフィルターユニット20が配置されており、励起用光源13からの照明光は、光学レンズ131等を経てハーフミラー133で反射され、フィルター21に入射する。フィルター21は、標本Sに照射する光の波長域を所定の励起波長域に制限するとともに、蛍光観察像として結像する光の波長域を所定の観察波長域に制限するためのものであり、対物レンズ15とともに対物光学系193を構成する。なお、詳細は後述するが、フィルターユニット20は、観察光軸OA2上に配置されているフィルター21の他に、透過させる励起波長域および観察波長域の組み合わせが異なる複数のフィルター21を収容している。より詳細には、フィルターユニット20は、少なくとも励起波長域が同じで観察波長域が異なる複数のフィルター21を収容し、これら複数のフィルター21のうちの何れか1つを観察光軸OA2上に択一的に配置するようになっている。
【0018】
このフィルター21を透過した励起波長域の照明光(励起光)は、対物レンズ15を経て標本Sに照射される。標本Sに励起光を照射すると、標本S内の核酸が励起されて蛍光を発し、この核酸が発した蛍光が対物レンズ15を経てフィルター21に入射する。そして、フィルター21を透過した観察波長域の観察光(蛍光)がハーフミラー133を通過し、顕微鏡本体12の上部に配置された結像レンズ16に入射する。
【0019】
また、顕微鏡本体12の底部には、コレクタレンズ141や内蔵フィルター142、視野絞り143、照明光の光路を観察光軸OA2に沿って折り曲げるミラー144、窓レンズ145、コンデンサレンズ146、開口絞り147等が照明光軸OA12および観察光軸OA2に沿って適所に配置されており、顕微鏡本体12の底部後方(図1の右方)に配設された透過照明観察用光源14とともに透過照明光学系192を構成する。透過照明観察用光源14としては、例えば、ハロゲンランプやキセノンランプ、LED等を用いる。この透過照明観察用光源14からの照明光は、透過照明光学系192によって標本Sに照射され、観察光として対物レンズ15に入射する。そして、対物レンズ15を経た観察光は、フィルター21に入射し、フィルター21を透過した観察波長域の観察光がハーフミラー133を通過して結像レンズ16に入射する。
【0020】
結像レンズ16は、観察光軸OA2上の適所に配置され、対物レンズ15と協働して標本Sの蛍光観察像(拡大蛍光観察像)あるいは標本Sの可視光観察像(拡大可視光観察像)を結像させる。これら対物レンズ15および結像レンズ16は、フィルター21やハーフミラー133とともに像形成光学系195を構成する。
【0021】
結像レンズ16を経た観察光(標本Sの蛍光観察像/標本Sの可視光観察像)は、光路を分割する不図示のプリズムを経て双眼部17に導入され、あるいは撮像部18によって撮像される。双眼部17に導入された蛍光観察像/可視光観察像は、接眼レンズ171を介して顕微鏡観察システム1の医師等のユーザに目視観察される。
【0022】
撮像部18は、例えば、CCDやCMOS等の撮像素子を備えたカメラで構成され、蛍光観察像/可視光観察像を撮像して標本Sの蛍光画像/標本Sの可視光画像を取得する。カメラは、デジタルカメラ等で広く用いられているものであり、モノクロの撮像素子上にRGBの各色のカラーフィルターをベイヤー配列した単板方式のカメラであってもよいし、3板構成のものでもよい。この撮像部18によって得られる画像データの画素値は、フィルター21の観察波長域における光の強度に相当し、標本S上の各点について観察波長域の画素値が得られる。ここで、標本S上の各点とは、投影された撮像素子の各画素位置に対応する標本S上の各位置のことである。
【0023】
以上のように構成される蛍光顕微鏡10は、フィルターユニット20に収容されているフィルター21を観察光軸OA2上に順次切り換えて配置しながら標本Sに所定の励起波長域の励起光を照射し、撮像部18によって観察波長域毎に蛍光観察像を撮像することで、標本Sの蛍光画像をマルチスペクトル画像として取得する。また、蛍光顕微鏡10は、フィルターユニット20に収容されているフィルター21を観察光軸OA2上に順次切り換えて配置しながら透過照明観察用光源14からの照明光を標本Sに照射し、撮像部18によって観察波長域毎に可視光観察像を撮像することで、標本Sの可視光画像をマルチスペクトル画像として取得する。
【0024】
また、顕微鏡観察システム1は、この顕微鏡観察システム1を構成する各部への動作タイミングの指示やデータの転送等を行って各部の制御を行い、システム全体の動作を統括的に制御する制御部30を備える。例えば、制御部30は、レボルバ(不図示)を駆動して観察光軸OA2上に配置する対物レンズ15を切り換える処理や、フィルターユニット20を駆動して観察光軸OA2上に配置するフィルター21を切り換える処理、励起用光源13の点灯/消灯制御、透過照明観察用光源14の点灯/消灯制御、ステージ11の移動指示、撮像部18による撮像動作の制御等、標本Sの観察に伴う蛍光顕微鏡10の各部の制御を行う。この制御部30には、入力部31と、表示部32と、記録部33と、電子染色処理部34とが接続されている。
【0025】
入力部31は、例えばキーボードやマウス、タッチパネル、各種スイッチ等の各種入力装置によって実現されるものであり、操作入力に応じた入力信号を制御部30に出力する。ユーザは、この入力部31によって例えば標本Sの観察に使用するフィルター21を決定するのに必要な情報等を入力する。表示部32は、LCDやELディスプレイ、CRTディスプレイ等の表示装置によって実現されるものであり、各種設定入力や各種表示出力のための画面を表示する。例えば、前述のフィルター21を決定するのに必要な情報の入力を依頼する画面や、撮像部18が取得した蛍光画像のマルチスペクトル画像あるいは可視光画像のマルチスペクトル画像を電子染色処理部34が処理することで得た標本Sの電子染色画像等が表示される。
【0026】
記録部33は、更新記憶可能なフラッシュメモリ等のROMやRAMといった各種ICメモリ、内蔵或いはデータ通信端子で接続されたハードディスク、CD−ROM等の情報記録媒体およびその読取装置等によって実現されるものである。この記録部33には、顕微鏡観察システム1を動作させ、顕微鏡観察システム1が備える種々の機能を実現するためのプログラムや、このプログラムの実行中に使用されるデータ等が予め記録され、あるいは処理の都度一時的に記録される。また、記録部33には、撮像部18が撮像した蛍光画像のマルチスペクトル画像/可視光画像のマルチスペクトル画像、すなわち、各画素位置における観察波長域毎のスペクトルデータや、このマルチスペクトル画像をもとに電子染色処理部34が生成した標本Sの電子染色画像の画像データ等が記録される。
【0027】
電子染色処理部34は、蛍光画像のマルチスペクトル画像/可視光画像のマルチスペクトル画像を処理して標本Sの電子染色画像を生成する。
【0028】
なお、制御部30、入力部31、表示部32、記録部33、電子染色処理部34の各部は、CPUや、メインメモリ等の主記憶装置、ハードディスクや各種記憶媒体等の外部記憶装置、通信装置、表示装置、入力装置、各部を接続し、あるいは外部入力を接続するインターフェース装置等を備えた公知のハードウェア構成で実現でき、例えばワークステーションやパソコン等の汎用コンピュータを利用することができる。
【0029】
次に、フィルターユニット20について詳細に説明する。図2は、フィルターユニット20の構成を示す模式図であり、フィルターユニット20の構成とともに、図1に示した蛍光顕微鏡10の一部の構成を示している。また、図3は、フィルターユニット20の構成を示す斜視図である。図2に示すように、フィルターユニット20は、観察光軸OA2上に配置されたフィルター21および観察光軸OA2の外側に収納された複数のフィルター21を収容しており、観察光軸OA2上に何れか1つのフィルター21を択一的に切り換えて配置する。
【0030】
より詳細には、図3に示すように、フィルターユニット20は、例えば孔が2つ形成された回転式のフィルター切換部22をフィルター21の収容数(n個)分有する。各フィルター切換部22は、一方の孔にそれぞれ透過させる励起波長域および観察波長域の組み合わせが異なるフィルター21(21−1,2,・・・,n)が装着され、他方の孔が空孔221として構成されている。そして、各フィルター切換部22は、制御部30の制御のもと、それぞれ中心を軸回転として個別に回転する。フィルターユニット20は、このフィルター切換部22の回転によっていずれか1つのフィルター切換部22に装着されたフィルター21を観察光軸OA2上に配置し(図3では最下段のフィルター21−n)、その他のフィルター切換部22については、空孔221を観察光軸OA2上に配置する。なお、フィルターユニット20において複数のフィルター21を観察光軸OA2上に切り換えて配置する構成は特に限定されるものではなく、公知の機構を適宜用いることとしてよい。
【0031】
図4は、以上のように構成されるフィルターユニット20に収容される1つのフィルター21の分光特性を示す図であり、横軸を波長とし、縦軸を吸光度Tとして各波長における吸光度Tの変化曲線を示している。また、図5は、フィルターユニット20に収容される別のフィルター21の分光特性を示す図であり、図4と同様に、横軸を波長、縦軸を吸光度Tとして各波長における吸光度Tの変化曲線を示している。ここで、図4および図5は、それぞれ励起波長域が同じで観察波長域が異なるフィルター21の分光特性を示している。具体的には、図4に示すフィルター21の分光特性は、励起波長域に対応する波長A付近および観察波長域に対応する波長B1付近でピークを有し、波長A付近の光および波長B1付近の光のみを透過させる。一方、図5に示すフィルター21の分光特性は、励起波長域に対応する波長A付近および観察波長域に対応する波長B2付近でピークを有し、波長A付近の光および波長B2付近の光のみを透過させる。
【0032】
このように、フィルターユニット20は、少なくとも励起波長域が同じで観察波長域が異なるフィルター21を複数収容しており、観察光軸OA2上に配置されたフィルター21は、その励起波長域の照明光を励起光として透過させるとともに、その観察波長域の蛍光を観察光として透過させる。
【0033】
ここで、各フィルター21は、分光特性の異なる複数のフィルターを貼り合せることで作製する。図6は、1つのフィルター21を作製するのに用いる4枚のフィルターの分光特性を示す図であり、各フィルターの各波長における吸光度Tの変化曲線を、実線、一点鎖線、二点鎖線および破線によってそれぞれ示している。例えば、図6に示す各分光特性を有する4枚のフィルターを重ねて張り合わせると、波長A付近および波長B付近の2つの波長域でピークを有し、これら2つの波長域の光のみを透過するフィルター21を作製できる。
【0034】
実際には、図4および図5と同様に波長A付近でピークを有し、図4に示す観察波長範囲R11内を所定の波長幅(観察波長幅)で区切った各波長域においてそれぞれピークを有するフィルター21を用意し、フィルターユニット20を構成する。例えば、観察波長範囲R11を16個に区切った各波長域を観察波長域とし、励起波長域と組み合わせた対となる励起波長域および観察波長域の光のみを透過させる16枚のフィルターを用意してフィルターユニット20を構成する。そして、これら16枚のフィルター21を順次観察光軸OA2上に配置しながら撮像部18によって蛍光観察像を撮像すれば、波長A付近の励起光によって励起させた標本Sの蛍光画像が、各観察波長域に対応する16バンドのマルチスペクトル画像として得られる。なお、以上説明したように、フィルター21は、励起波長域および観察波長域の2つの波長域の光を透過させるため、フィルター21を経た励起波長域の光が撮像部18に導入され得る。このため、実施の形態1では、撮像部18は、CCD等の撮像素子が励起波長域に感度を有さない状態となっている。
【0035】
実施の形態1では、標本S内の核酸を励起させて蛍光観察を行うため、核酸が吸収を示す紫外光の波長域である260nm〜280nmを励起波長域とする。また、核酸が発する蛍光波長に従って例えば250nm〜330nmを観察波長範囲とし、観察波長幅を5nmとする(後述する図8を参照)。この場合には、励起波長域が260nm〜280nmであり、250nm〜330nmを5nm毎に区切った各波長域をそれぞれ観察波長域とする16枚のフィルター21を用意してフィルターユニット20を構成する。そして、これら16枚のフィルター21を観察光軸OA2上に順次切り換えて配置しながら蛍光観察像を撮像することで16バンドのマルチスペクトル画像を得る。
【0036】
あるいは、250nm〜570nmを観察波長範囲とし、観察波長幅を20nmとする(後述する図9を参照)。この場合には、励起波長域が260nm〜280nmであり、250nm〜570nmを20nm毎に区切った各波長域をそれぞれ観察波長域とする16枚のフィルター21を用意してフィルターユニット20を構成する。そして、これら16枚のフィルター21を観察光軸OA2上に順次切り換えて配置しながら蛍光観察像を撮像することで16バンドのマルチスペクトル画像を得る。
【0037】
これによれば、核酸が発する蛍光の観察波長域毎のスペクトルデータをそれぞれ他の波長に影響されることなく特異的に抽出することができ、標本S内における核酸の状態を高精度に再現(色再現)することが可能となる。
【0038】
なお、フィルターユニット20を構成する各フィルター21の励起波長域および観察波長域の組み合わせや、フィルターユニット20に収容するフィルター21の数等は適宜設定してよい。例えば、励起波長域や上記した観察波長範囲は、励起させる対象によって異なる。このため、観察に使用する励起波長域や、観察波長範囲およびこの観察波長範囲を区切る観察波長幅(取得するマルチスペクトル画像のバンド数)に応じて必要なフィルター21を用意し、フィルターユニット20を構成してよい。
【0039】
また、異なる観察波長範囲を観察波長幅を変えて観察したい場合もある。このため、異なる観察波長範囲を異なる観察波長幅で区切った各波長域を観察波長域とするフィルター21を用意し、フィルターユニット20を構成することとしてもよい。例えば、図4に示す観察波長範囲R11を5nm毎に区切った各波長域をそれぞれ観察波長域とするフィルター21と、観察波長範囲R12を20nm毎に区切った各波長域をそれぞれ観察波長域とするフィルター21とを用意してフィルターユニット20を構成することとしてもよい。
【0040】
また、異なる励起波長域毎にそれぞれ観察波長域の異なる複数のフィルター21を用意し、フィルターユニット20を構成してもよい。また、異なる励起波長域毎に用意した観察波長域の異なるフィルター21を励起波長域毎に個別に収容してフィルターユニット20を構成し、観察に使用する励起波長域に応じてフィルターユニット20を交換する構成としても構わない。
【0041】
次に、実施の形態1の顕微鏡観察システム1の動作について説明する。図7は、実施の形態1の顕微鏡観察システム1の動作手順を示すフローチャートである。図7に示すように、制御部30は、先ず、例えばユーザ操作に従って励起波長域を選択するとともに(ステップS1)、観察波長範囲および観察波長幅を選択する(ステップS3)。例えば、制御部30は、励起波長域、観察波長範囲および観察波長幅の選択を依頼する旨のメッセージの表示とともに、励起波長域、観察波長範囲および観察波長幅の各値を個別に選択するための選択ボックス等を配置した通知画面を表示部32に表示する処理を行う。ここで選択可能な励起波長域、観察波長範囲および観察波長幅は、フィルターユニット20に収容されているフィルター21によって決まる。このため、前述の通知画面に配置する各選択ボックスでは、それぞれ選択可能な値を選択肢として提示し、ユーザの選択操作を促す。ユーザは、入力部31を介して所望の励起波長域、観察波長範囲および観察波長幅を選択する。
【0042】
励起波長域、観察波長範囲および観察波長幅を選択したならば、制御部30は、ステップS1で選択した励起波長域と、ステップS3で選択した観察波長範囲および観察波長幅とをもとに、観察に使用するフィルター21を決定する(ステップS5)。続いて、制御部30は、励起用光源13を点灯させて照明光の射出を開始する(ステップS7)。
【0043】
続いて、ステップS5で決定したフィルター21を1枚選択して観察光軸OA2上に配置する(ステップS9)。具体的には、制御部30は、フィルターユニット20を駆動し、選択したフィルター21を装着しているフィルター切換部22においてそのフィルター21が観察光軸OA2上に配置され、この選択したフィルター21以外のフィルター21を装着しているフィルター切換部22の空孔221が観察光軸OA2上に配置されるように各フィルター切換部22を回転させる。
【0044】
続くステップS91では、制御部30は、ステージ11の移動を制御し、ステージ11上の標本Sを観察光軸OA2上に配置する。その後、制御部30は、撮像部18の撮像動作を制御することで、標本Sの蛍光観察像を撮像し、得られた蛍光画像の画像データを記録部33に記録する(ステップS11)。
【0045】
撮像・記録を終えたならば、制御部30は、ステージ11の移動を制御して標本Sを観察光軸OA2上から退避させる(ステップS111)。励起用光源13から射出され、フィルター21を透過した励起光が長時間標本Sに照射されると、褪色によって観察ができなくなる。そこで、実施の形態1では、ステップS11での蛍光観察像の撮像・記録の直前に標本Sを観察光軸OA2上に配置し、ステップS11での撮像・記録の直後に標本Sを観察光軸OA2上から退避させて、標本Sの褪色を抑制する。なお、このステップS91,S111でのステージ11の移動は、制御部30の制御によって自動的に行う場合に限らず、ユーザ操作によって手動で行う構成としても構わない。
【0046】
その後、制御部30は、全ての観察波長域について蛍光観察像を撮像したか否かを判定する。ここでの判定処理は、例えば、ステップS5で決定した全てのフィルター21についてステップS9〜ステップS11の処理を行った否かによって行う。撮像していない観察波長域がある場合には(ステップS13:No)、ステップS9に戻る。そして、ステップS9において次のフィルター21を選択して観察光軸OA2上に配置し、ステップS91以降の処理を行って標本Sの蛍光観察像を撮像・記録する。
【0047】
図8および図9は、実施の形態1における励起波長域、観察波長範囲および観察波長幅の各値の具体例および各値を設定した場合のフィルター21の切り換え手順を説明する説明図である。
【0048】
例えば、図7のステップS1において、励起波長域を260nm〜280nmとして選択し、ステップS3において観察波長範囲を250nm〜330nm、観察波長幅を5nmとして選択したとする(図8のa1)。
【0049】
この場合の観察波長域は、観察波長範囲250nm〜330nmを観察波長幅5nm毎に区切った各波長域、すなわち、250nm〜255nm,255nm〜260nm,260nm〜265nm,265nm〜270nm,270nm〜275nm,275nm〜280nm,280nm〜285nm,285nm〜290nm,290nm〜295nm,295nm〜300nm,300nm〜305nm,305nm〜310nm,310nm〜315nm,315nm〜320nm,320nm〜325nm,325nm〜330nmの16個の波長域となる。
【0050】
本例では、図7のステップS5において、励起波長域が260nm〜280nmであって、観察波長域がそれぞれ前述の各波長域であるフィルター21、すなわち、励起波長域である260nm〜280nmの波長域および観察波長域である前述のいずれかの波長域の光のみを透過するフィルター21を観察に使用するフィルター21として決定する。その後、ステップS9〜ステップS11の処理を繰り返し行い、決定したフィルター21を順次観察光軸OA2上に配置して蛍光観察像を撮像する。
【0051】
具体的には、図8に示すように、先ず、励起波長域である波長域260nm〜280nmおよび観察波長域である波長域250nm〜255nmの光のみを透過するフィルター21を観察光軸OA2上に配置して蛍光観察像を撮像する(a3)。
【0052】
続いて、励起波長域である波長域260nm〜280nmおよび観察波長域である波長域255nm〜260nmの光のみを透過するフィルター21を観察光軸OA2上に配置して蛍光観察像を撮像する(a5)。
【0053】
その後、観察波長域を5nmずつずらしながら該当するフィルター21を観察光軸OA2上に配置し、同様の処理を繰り返し行う。そして、励起波長域である波長域260nm〜280nmおよび観察波長域である波長域325nm〜330nmの光のみを透過するフィルター21を観察光軸OA2上に配置して蛍光観察像を撮像し(a7)、各観察波長域についての撮像を終える。
【0054】
また、図7のステップS1において、励起波長域を260nm〜280nmとして選択し、ステップS3において観察波長範囲を250nm〜570nm、観察波長幅を20nmとして選択したとする(図9のb1)。
【0055】
この場合、観察波長域は、観察波長範囲250nm〜570nmを観察波長幅20nm毎に区切った各波長域、すなわち、250nm〜270nm,270nm〜290nm,290nm〜310nm,310nm〜330nm,330nm〜350nm,350nm〜370nm,370nm〜390nm,390nm〜410nm,410nm〜430nm,430nm〜450nm,450nm〜470nm,470nm〜490nm,490nm〜510nm,510nm〜530nm,530nm〜550nm,550nm〜570nmの16個の波長域となる。
【0056】
本例では、図7のステップS5において、励起波長域が260nm〜280nmであって、観察波長域がそれぞれ前述の各波長域であるフィルター21、すなわち、励起波長域である260nm〜280nmの波長域および観察波長域である前述のいずれかの波長域の光のみを透過するフィルター21を観察に使用するフィルター21として決定する。その後、ステップS9〜ステップS11の処理を繰り返し行い、決定したフィルター21を順次観察光軸OA2上に配置して蛍光観察像を撮像する。
【0057】
具体的には、図9に示すように、先ず、励起波長域である波長域260nm〜280nmおよび観察波長域である波長域250nm〜270nmの光のみを透過するフィルター21を観察光軸OA2上に配置して蛍光観察像を撮像する(b3)。
【0058】
続いて、励起波長域である波長域260nm〜280nmおよび観察波長域である波長域270nm〜290nmの光のみを透過するフィルター21を観察光軸OA2上に配置して蛍光観察像を撮像する(b5)。
【0059】
その後、観察波長域を20nmずつずらしながら該当するフィルター21を観察光軸OA2上に配置し、同様の処理を繰り返し行う。そして、励起波長域である波長域260nm〜280nmおよび観察波長域である波長域550nm〜570nmの光のみを透過するフィルター21を観察光軸OA2上に配置して蛍光観察像を撮像し(b7)、各観察波長域についての撮像を終える。
【0060】
図7に戻り、以上のように全ての観察波長域について蛍光観察像を撮像した場合には(ステップS13:Yes)、ステップS15に移行し、電子染色処理部34が電子染色処理を行う。この電子染色処理では、電子染色処理部34は、例えば、撮像部18が撮像した標本Sの蛍光画像のマルチスペクトル画像をもとに標本S上の各点の分光スペクトル(分光透過率)を推定する処理や、推定した分光スペクトルをもとに標本Sを染色している色素の色素量を推定する処理、推定した色素量をもとに標本Sの染色状態や組織の構造を解析する処理、推定した色素量を補正する処理、推定した色素量あるいは補正後の色素量をもとにカメラ(撮像部18)の特性や染色状態のばらつき等を補正した表示用の画像(RGB画像)を合成する処理等を行って電子染色画像を生成する。この電子染色処理は、例えば特許文献2や特許文献3に開示されている公知技術を適用することで実現できる。
【0061】
なお、実施の形態1の顕微鏡観察システム1が備える蛍光顕微鏡10は、上記したように、透過照明光学系192によって標本Sの可視光観察を行い、標本Sの可視光画像をマルチスペクトル画像として取得することが可能である。このため、電子染色処理部34が行う電子染色処理は、蛍光画像のマルチスペクトル画像に対して行う電子染色処理だけでなく、可視光画像のマルチスペクトル画像に対して行う電子染色処理を含む。具体的には、実施の形態1では、上記したようにHE染色された生体組織標本を観察対象の標本Sとしており、電子染色処理部34が行う電子染色処理は、マルチスペクトル画像の各画素位置に対応する標本Sの各点に固定されているヘマトキシリンおよびエオジンの色素量を推定し、電子染色画像を合成する処理を含み、この処理は、ステップS15と同様に、例えば特許文献2や特許文献3に開示されている公知技術を適用することで実現できる。
【0062】
また、上記したステップS1〜ステップS13の処理の後、あるいはステップS1〜ステップS13の処理の前に、透過照明観察用光源14を点灯させ、フィルターユニット20に収容されているフィルター21を観察光軸OA2上に順次切り換えて配置しながら観察波長域毎に可視光観察像を撮像することで、標本Sの可視光画像のマルチスペクトル画像を取得するようにしてもよい。そして、ステップS15において、取得した可視光画像のマルチスペクトル画像に対する電子染色処理と、ステップS1〜ステップS13の処理で得た蛍光画像のマルチスペクトル画像に対する電子染色処理との両方を行うこととしてもよい。
【0063】
また、生体組織標本等の標本に施す染色手法は、例示したHE染色以外にも様々なものが知られている。これらの染色手法は、形態観察染色等の一般染色、特殊染色および免疫染色に大別される。例えば、特殊染色は、HE染色に代表される形態観察染色等の一般染色と併用して用いられる。この特殊染色は、標本内に存在する弾性繊維や膠原繊維、平滑筋といった特定の構造物を染め分けるものであり、一般染色が施された標本の診断を補完し、異常所見の見落としを防止する等の目的で活用されている。例えば、膠原繊維を選択的に染め分けるマッソントリクローム染色は、肝臓の繊維化の程度を判別する等のために実施される。本発明は、いずれの染色手法で染色された標本を観察対象としてもよい。また、核酸の他、所望の組織や抗原等の標的分子に作用させる蛍光色素を用いて蛍光標識した標本を観察対象としてもよい。
【0064】
ここで、前述の染色手法は、使用する色素が染色する対象(例えば組織や抗原等の標的分子)が異なるものであり、ステップS15の電子染色処理は、いずれの染色手法で染色された標本を観察対象とする場合(いずれの染色手法で染色された標本を撮像した蛍光画像のマルチスペクトル画像あるいは可視光画像のマルチスペクトル画像を処理する場合)であっても、特許文献2や特許文献3の技術を適用して同様に行うことができる。
【0065】
また、ステップS15の電子染色処理は、所定の染色手法で染色された標本のマルチスペクトル画像をもとに、別の染色手法による染色状態を表した画像を合成する処理を含む。図10は、電子染色処理を説明する図である。ステップS15の電子染色処理は、例えば、HE染色された標本のマルチスペクトル画像をもとに合成した画像(図10(a))を電子染色画像として生成する処理の他、HE染色された標本のマルチスペクトル画像をもとに、マッソントリクローム染色された標本の染色状態を表した画像(図10(b))を電子染色画像として生成する処理を含む。
【0066】
また、ステップS15の電子染色処理は、観察対象とする標本内の組織等の領域を特定し、特定した領域を他の領域と識別可能に強調表示する処理を含む。また、観察対象とする標本は、染色が施されたものに限定されるものではなく、無染色の標本を観察対象としてもよい。このため、ステップS15の電子染色処理は、無染色の標本のマルチスペクトル画像から標本内の組織等の領域を特定し、適当な表示色を用いて特定した領域を組織毎に染め分けて仮想的に染色する処理、あるいは特定の組織の領域のみを所定の表示色で表して仮想的に染色する処理を含む。
【0067】
ここで、特許文献3には、HE染色された標本のマルチスペクトル画像をもとに、標本の染色に用いた色素(ヘマトキシリンやエオジン)の色素量を推定する手法が開示されているが、推定する各色素の色素量は、標本上の各点における分光スペクトルの所定の分光スペクトル成分毎の成分量に相当する。すなわち、特許文献3の手法は、観察対象の標本上の各点における分光スペクトルが例えばヘマトキシリンおよびエオジンの2つの分光スペクトル成分で構成されていることとし、これらスペクトル成分の成分量を求めることでヘマトキシリンおよびエオジンの色素量を推定するものである。したがって、無染色の標本であっても、仮想的に染色したい組織等の分光スペクトル成分を事前に求めておけば、そのマルチスペクトル画像から標本内の該当する組織の領域を特定することができる。
【0068】
以上のような電子染色処理を行って得た電子染色画像は、例えばユーザが指示したタイミング等の任意のタイミングで表示部32に表示処理し、ユーザに提示する。ユーザは、この表示画像を観察し、病理診断等に利用する。
【0069】
以上のようにして電子染色処理を行った後、図7に示すように、制御部30は、励起用光源13を消灯して(ステップS17)、処理を終える。
【0070】
以上説明したように、実施の形態1では、少なくとも励起波長域が同じで観察波長域が異なる複数のフィルター21を収容してフィルターユニット20を構成することとした。そして、フィルターユニット20に収容されているフィルター21のうちのいずれか1つをハーフミラー133と対物レンズ15との間で観察光軸OA2上に配置し、対物レンズ15とフィルター21とで対物光学系193を構成することとした。これによれば、観察に使用する観察波長範囲を観察波長幅毎に区切った各観察波長域の光を透過させるための複数のフィルター(吸収フィルター)を、観察に使用する励起波長域の光を透過させるためのフィルター(励起フィルター)とそれぞれ組み合わせて複数の蛍光キューブを構成し、ターレットに装着して切り換える構成が必要ない。したがって、装置の大型化を抑制しつつ、標本の蛍光画像をマルチスペクトル画像として取得することができる。また、コストも低減できる。
【0071】
また、実施の形態1では、観察波長域を変えながら標本Sを繰り返し撮像することで標本Sの蛍光画像のマルチスペクトル画像を取得するため、バンド数が増えれば撮像回数も増加し、標本Sに励起光を照射する時間が長くなる。ここで、標本Sに過度に励起光を照射し続けると褪色によって観察ができなくなる。実施の形態1では、撮像時以外は標本Sを観察光軸OA2上から退避させるようにし、且つ、ハーフミラー133と対物レンズ15との間に必ずフィルター21を配置しておくこととしたので、標本Sに照射される励起光を必要最低限に抑えることができる。
【0072】
(実施の形態2)
図11は、実施の形態2の顕微鏡観察システムの一部の構成を示す図である。なお、図11において、実施の形態1と同様の構成には同一の符号を付している。また、以下の説明において、実施の形態1と同様の構成には同一の符号を付する。実施の形態2の顕微鏡観察システムにおいて、蛍光顕微鏡は、対物レンズ15と観察光軸OA2上に配置されたフィルター21との間(観察光軸OA2上に配置されたフィルター21と標本Sとの間)に、観察光軸OA2上に挿脱自在なシャッターとしての標本保護シャッター25を備える。
【0073】
標本保護シャッター25は、制御部30の制御のもと駆動され、観察時(撮像時)には観察光軸OA2上から退避して開状態となる。一方、撮像時以外は、観察光軸OA2上に挿入されて閉状態となる。実施の形態2では、この標本保護シャッター25の開閉によって、標本Sに対する励起光の照射/非照射を切り換える。
【0074】
図12は、実施の形態2の顕微鏡観察システムの動作手順を示すフローチャートである。なお、図12において、実施の形態1と同様の処理工程には同一の符号を付している。図12に示すように、実施の形態2では、ステップS5で決定したフィルター21を1枚選択して観察光軸OA2上に配置した後(ステップS9)、標本保護シャッター25を開く(ステップS10)。具体的には、制御部30が標本保護シャッター25を駆動し、観察光軸OA2上から退避させて標本保護シャッター25を開状態とする。
【0075】
続くステップS11では、実施の形態1と同様に、標本Sの蛍光観察像を撮像し、得られた蛍光画像の画像データを記録部33に記録する。そして、ステップS11の後、標本保護シャッター25を閉じる(ステップS12)。具体的には、制御部30が標本保護シャッター25を駆動し、観察光軸OA2上に挿入して標本保護シャッター25を閉状態とする。その後、ステップS13に移行する。
【0076】
以上説明したように、実施の形態2では、対物レンズ15と観察光軸OA2上に配置されたフィルター21との間、すなわち標本Sとフィルター21との間を遮断する標本保護シャッター25を配置し、撮像時にのみこの標本保護シャッター25を観察光軸OA2上から退避させることとした。これによれば、実施の形態1と同様の効果を奏することができるとともに、撮像時以外は励起光を確実に遮断し、標本Sに照射しないようにすることができる。したがって、実施の形態1のように、撮像の直前に標本Sを観察光軸OA2上に配置し、撮像の直後に観察光軸OA2上から退避させることなく励起光の照射による標本Sの褪色を効果的に軽減し、標本Sを保護しながら標本Sの蛍光画像をマルチバンド画像として確実に取得することができる。
【0077】
(実施の形態3)
実施の形態3では、撮像間隔を所定時間以上あけて観察波長範囲毎の蛍光観察像を撮像する。この撮像間隔は適宜設定してよいが、1秒以上が望ましい。実施の形態3では、撮像間隔を2秒とする。なお、以下の説明において、実施の形態1と同様の構成には同一の符号を付する。
【0078】
図13は、実施の形態3の顕微鏡観察システムの動作手順を示すフローチャートである。なお、図13において、実施の形態2と同様の処理工程には同一の符号を付している。図13に示すように、実施の形態3では、制御部30は、観察に使用するフィルター21を決定し(ステップS5)、励起用光源13を点灯させて照明光の射出を開始した後(ステップS7)、タイマーを起動して所定時間(例えば2秒)の計時を開始する(ステップS8)。その後、ステップS5で決定したフィルター21を1枚選択して観察光軸OA2上に配置する(ステップS9)。
【0079】
そして、制御部30は、タイマーの計時を監視し、タイマーの計時が所定時間となるまでの間は(ステップS91:No)、待機状態となる。タイマーの計時が所定時間となった場合には(ステップS91:Yes)、ステップS10に移行して標本保護シャッター25を開く。
【0080】
続くステップS11では、標本Sの蛍光観察像を撮像し、得られた蛍光画像の画像データを記録部33に記録する。そして、ステップS11の後、標本保護シャッター25を閉じる(ステップS12)。その後、制御部30は、全ての観察波長域について蛍光観察像を撮像したか否かを判定し、撮像していない観察波長域がある場合には(ステップS13:No)、タイマーをリセットする(ステップS14)。その後、ステップS8に戻って再度所定時間の計時を開始し、ステップS5で決定した別のフィルター21(撮像していない観察波長域のフィルター21)を対象としてステップS9以降の処理を行う。
【0081】
以上説明したように、実施の形態3によれば、実施の形態2と同様の効果を奏することができるとともに、所定時間(実施の形態3では2秒)の撮像間隔をあけて観察波長域毎の蛍光観察像を撮像することができる。したがって、励起光の照射による標本Sの熱損傷を防止し、標本Sを保護しながら標本Sの蛍光画像をマルチバンド画像として確実に取得することができる。
【0082】
なお、本発明は、上記した各実施の形態やその変形例そのままに限定されるものではなく、各実施の形態や各変形例に開示されている複数の構成要素を適宜組み合わせることによって、種々の発明を形成できる。例えば、各実施の形態や各変形例に示される全構成要素からいくつかの構成要素を除外して形成してもよい。あるいは、異なる実施の形態や変形例に示した構成要素を適宜組み合わせて形成してもよい。例えば、実施の形態1と実施の形態3とを組み合わせ、撮像間隔を所定時間以上あけて観察波長範囲毎の蛍光観察像を撮像するようにしてもよい。
【産業上の利用可能性】
【0083】
以上のように、本発明の顕微鏡観察システムは、装置の大型化を抑制しつつ、標本の蛍光画像をマルチスペクトル画像として取得するのに適している。
【符号の説明】
【0084】
1 顕微鏡観察システム
10 蛍光顕微鏡
11 ステージ
12 顕微鏡本体
13 励起用光源
133 ハーフミラー
14 透過照明観察用光源
15 対物レンズ
16 結像レンズ
17 双眼部
18 撮像部
191 落射照明光学系
192 透過照明光学系
193 対物光学系
195 像形成光学系
20 フィルターユニット
21 フィルター
25 標本保護シャッター
OA11,OA12 照明光軸
OA2 観察光軸
30 制御部
31 入力部
32 表示部
33 記録部
34 電子染色処理部
S 標本

【特許請求の範囲】
【請求項1】
対物レンズを含む対物光学系を介して所定の励起波長域の励起光を標本に照射し、前記対物光学系を介して前記標本が発する所定の観察波長範囲の蛍光を観察する顕微鏡観察システムであって、
紫外域から可視域の波長範囲に亘る照明光を射出する励起用光源と、
前記対物レンズの光軸上に択一的に配置されて前記対物レンズとともに前記対物光学系を構成し、前記観察波長範囲を複数に分割した各波長域を個別に観察波長域として前記励起波長域と組み合わせた対となる前記励起波長域および前記観察波長域の光のみを透過させる複数のフィルターを収容するフィルターユニットと、
前記標本の蛍光観察像を撮像する撮像部と、
を備え、
前記対物レンズの光軸上に配置する前記フィルターを切り換えながら前記観察波長域毎に前記蛍光観察像を撮像することを特徴とする顕微鏡観察システム。
【請求項2】
前記対物レンズの光軸上に配置された前記フィルターと前記標本との間に配置され、前記蛍光観察像の撮像時に前記対物レンズの光軸上から退避するシャッターを備えることを特徴とする請求項1に記載の顕微鏡観察システム。
【請求項3】
所定の撮像間隔で前記観察波長域毎の前記蛍光観察像を撮像することを特徴とする請求項1に記載の顕微鏡観察システム。
【請求項4】
前記励起波長域は、紫外光の波長域であることを特徴とする請求項1に記載の顕微鏡観察システム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【公開番号】特開2012−22206(P2012−22206A)
【公開日】平成24年2月2日(2012.2.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−161020(P2010−161020)
【出願日】平成22年7月15日(2010.7.15)
【出願人】(000000376)オリンパス株式会社 (11,466)
【Fターム(参考)】