説明

顕微鏡

【課題】複数種の蛍光を検出する場合において、検出する蛍光のスペクトル形状を維持するとともに、各チャネルの感度調整を容易に行うことができる顕微鏡を提供する。
【解決手段】標本115において発生した光を集光する対物レンズ114と、集光された光をスペクトル成分に分光するグレーティング117と、分光されたスペクトル成分をそれぞれ検出する複数のチャネルを有するPMT118と、PMT118の各チャネルの感度を調節する制御部301とを備え、制御部301が、検出する光の波長範囲に関する情報に基づいてチャネルを複数のグループに分け、グループ内の全てのチャネルが同一の感度となるように、チャネルの感度をグループ毎に一括して調節する顕微鏡1を採用する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は顕微鏡に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、試料から発せられた蛍光を分光素子によってスペクトル成分に分割し、分割したスペクトル成分を、複数のチャネルを有する多チャネル光検出器によってそれぞれ検出する顕微鏡が知られている(例えば、特許文献1および2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2006−098419号公報
【特許文献2】特開2006−138875号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、特許文献1および2に開示されている顕微鏡では、多チャネル光検出器への印加電圧を調整することで、全てのチャネルの感度が一括して調整されるようになっていた。したがって、多重染色観察のように複数種の蛍光を観測する場合には、いずれかの蛍光の強度を高くすると、他の蛍光においてスペクトル成分が飽和してしまうことがある。その結果、他の蛍光におけるスペクトル形状が変化してしまい、精度良く観察を行うことができないという不都合があった。
【0005】
一方、各蛍光におけるスペクトル形状を維持したままゲインを調整するためには、各チャネルの感度を1つずつ調整しなければならず、その作業が非常に煩雑となってしまうという不都合があった。
【0006】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたもので、複数種の蛍光を検出する場合において、検出する蛍光のスペクトル形状を維持するとともに、各チャネルの感度調整を容易に行うことができる顕微鏡を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するために、本発明は以下の手段を採用する。
本発明は、標本において発生した光を集光する対物レンズと、該対物レンズにより集光された光をスペクトル成分に分光する分光素子と、該分光素子により分光されたスペクトル成分をそれぞれ検出する複数のチャネルを有する光検出器と、該光検出器の各チャネルの感度を調節する感度調節部とを備え、該感度調節部が、検出する光の波長範囲に関する情報に基づいて前記チャネルを複数のグループに分け、グループ内の全ての前記チャネルが同一の感度となるように、前記チャネルの感度をグループ毎に一括して調節する顕微鏡を採用する。
【0008】
本発明によれば、標本において発生して対物レンズにより集光された光が、分光素子によりスペクトル成分に分光され、分光されたスペクトル成分は、複数のチャネルを有する光検出器によりそれぞれ検出される。この場合において、光検出器のチャネルは、感度調節部により、検出する光の波長範囲に関する情報に基づいて複数のグループに分けられ、グループ内の全てのチャネルが同一の感度となるように、その感度がグループ毎に一括して調節される。
【0009】
これにより、グループ化されたチャネル群毎、すなわち、検出する光の波長範囲毎に、スペクトル形状を維持しつつ、その強度を調整することができる。例えば、複数種の蛍光を同時に観察する場合においても、各蛍光のスペクトル成分を飽和させることなく、各蛍光の強度をそれぞれ別個に調整することができ、精度良く観察することができる。また、各チャネルの感度を個別に調節する必要性を排除することができ、その調節作業を容易にすることができる。
【0010】
上記発明において、前記感度調節部が、前記光検出器に印加される電圧を前記チャネルのグループ毎に調節することとしてもよい。
感度調節部によって、光検出器に印加される電圧をグループ毎に調節することで、チャネルの感度をグループ毎に調節することができ、検出する光の波長範囲毎に、スペクトル形状を維持しつつ、その強度を調整することができる。
【0011】
上記発明において、前記光検出器により検出する光の輝度情報を積算する積算部を備え、前記感度調節部が、前記積算部の積算時間を前記チャネルのグループ毎に調節することとしてもよい。
感度調節部によって積算部の積算時間をグループ毎に調節することで、各チャネルにより検出した輝度情報をグループ毎に調節することができ、検出する光の波長範囲毎に、スペクトル形状を維持しつつ、その強度を調整することができる。
【0012】
上記発明において、前記光検出器により検出する光の輝度情報を増幅する増幅部を備え、前記感度調節部が、前記増幅部の増幅率を前記チャネルのグループ毎に調節することとしてもよい。
感度調節部によって増幅部の増幅率をグループ毎に調節することで、各チャネルにより検出した輝度情報をグループ毎に調節することができ、検出する光の波長範囲毎に、スペクトル形状を維持しつつ、その強度を調整することができる。
【0013】
上記発明において、複数の前記チャネルのグループに対して、グループ毎に前記感度調節部の感度調整値を設定可能な入力部を備えることとしてもよい。
このようにすることで、GUI(Graphical User Interface)等の入力部によって、複数のチャネルのグループに対して、グループ毎に感度調節部の感度調整値を設定し、各チャネルの感度をグループ毎に調節することができる。
【0014】
上記発明において、前記チャネル全体の感度を調節する全体感度調節部と、前記光検出器により検出する光の輝度情報を積算する積算部と、前記積算部により積算された輝度情報が所定値以上となる最大積算時間において、いずれかのスペクトル成分が飽和するような前記チャネル全体の最大感度を記憶する記憶部とを備え、前記感度調節部は、前記チャネル全体の感度が、前記記憶部に記憶されている最大感度よりも下がった場合には、前記チャネルのグループ毎に前記積算部の積算時間を最大化させることとしてもよい。
【0015】
感度調節部によって積算部の積算時間をグループ毎に調節することで、各チャネルにより検出した輝度情報をグループ毎に調節することができ、検出する光の波長範囲毎に、スペクトル形状を維持しつつ、その強度を調整することができる。この場合において、チャネル全体の感度が、いずれかのスペクトル成分が飽和する最大感度よりも下がった場合に、チャネルのグループ毎に積算部の積算時間を最大化させることで、積算された輝度情報のS/N比を向上させることができる。
【0016】
上記発明において、前記チャネルにより検出されたスペクトル成分のいずれかが所定の閾値を超えたときに、前記感度調節部が前記チャネルの感度をグループ毎に調節することとしてもよい。
このようにすることで、スペクトル成分のいずれかが所定の閾値を超えたとき、例えばスペクトル成分のいずれかが飽和したときに、チャネルの感度が調節されるので、いずれのスペクトル成分を飽和させることなく、検出される光の強度を調整することができる。
【0017】
上記発明において、グループ毎の前記チャネルの感度と輝度情報とを対応付けて記憶する記憶部を備えることとしてもよい。
各グループのチャネルの感度と輝度情報とを対応付けて記憶部に記憶させておくことで、検出する光の波長範囲毎にチャネルの感度を再現することができる。また、波長範囲毎の輝度情報とその感度から、全てのチャネルを同一の感度にした場合の標本の画像を生成することができる。
【0018】
上記発明において、前記光検出器により検出された光に基づいて画像を生成する画像生成部と、該画像生成部により生成された画像を表示する表示部と、該表示部に表示された画面において所定の範囲を設定する設定部とを備え、前記感度調節部が、前記設定部により設定された所定の範囲において前記チャネルの感度を調節することとしてもよい。
【0019】
このようにすることで、表示部に表示された画面において設定部により注目する領域(所定の範囲)を設定し、この注目する領域(所定の範囲)において、検出する光の波長範囲毎に、スペクトル形状を維持しつつ、その強度を調整することができる。一方、表示部に表示された画面中の非注目領域については、強度を調整する必要性を排除することができる。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、複数種の蛍光を検出する場合において、検出する蛍光のスペクトル形状を維持するとともに、各チャネルの感度調整を容易に行うことができるという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】本発明の一実施形態に係る顕微鏡の概略構成図である。
【図2】図1の信号調節部の機能ブロック図である。
【図3】図1の顕微鏡により実行される処理を示すフローチャートである。
【図4】図3のステップ5の詳細な処理を示すフローチャートである。
【図5】図1のCPUに設定値未満のディジタル信号値が入力されている状態を説明する図である。
【図6】図1のCPUに設定値以上のディジタル信号値が入力されている状態を説明する図である。
【図7】第1の変形例に係る顕微鏡により実行される処理を示すフローチャートである。
【図8】第2の変形例に係る顕微鏡により実行される処理を示すフローチャートである。
【図9】第3の変形例に係る顕微鏡により実行される処理を示すフローチャートである。
【図10】第4の変形例に係る顕微鏡により実行される処理を示すフローチャートである。
【図11】図10の顕微鏡の動作を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
本発明の一実施形態に係る顕微鏡について、図面を参照して説明する。
図1は、本実施形態の顕微鏡1の概略構成図である。図1に示すように、本実施形態の顕微鏡1は、レーザ光を標本115に照射して標本115において発生した蛍光を検出する顕微鏡本体101と、顕微鏡本体101からの信号の強度等を調整する信号調整部201と、各部を制御するとともに顕微鏡本体101からの信号に基づいて画像を生成する制御部(感度調節部、画像生成部)301と、制御部301により生成された標本115の画像を表示する表示部401と、ユーザによる設定条件等が入力される入力部(入力部、設定部)501とを主な構成要素として備えている。
【0023】
顕微鏡本体101は、光源111と、ビームスプリッタ112と、走査系113と、対物レンズ114と、ステージ116と、グレーティング(分光素子)117と、PMT(光検出器)118とを備えている。
【0024】
光源111は、レーザ光を射出するようになっている。このレーザ光は、標本115内の蛍光指示薬を励起させ、蛍光を発生させるようになっている。
【0025】
ビームスプリッタ112は、光源111からのレーザ光を透過する一方、標本115において発生して対物レンズ114により集光された蛍光を反射するようになっている。このような構成を有することで、ビームスプリッタ112は、レーザ光の光路と標本115からの蛍光の光路とを分岐するようになっている。
【0026】
走査系113は、例えばアルミコートされた一対のガルバノミラー(図示略)を有しており、これら一対のガルバノミラーの角度を変化させ、ラスタスキャン方式で駆動されるようになっている。これにより、光源111からのレーザ光を標本115上において2次元的に走査させるようになっている。
【0027】
対物レンズ114は、走査系113により走査されたレーザ光を標本115上に照射する一方、標本115から発生した蛍光を集光するようになっている。
【0028】
グレーティング117は、標本115において発生し、ビームスプリッタ112により分岐された蛍光を波長毎のスペクトル成分に分光し、分光したスペクトル成分をPMT118に入射させるようになっている。
【0029】
PMT118は、例えば32チャネルの光電子増倍管(Photo Multiplier Tube)であり、スペクトル成分を検出するチャネルが、グレーティング117により分光される方向に複数配列されている。このような構成を有することで、PMT118は、各チャネルによりグレーティング117により分光されたスペクトル成分をそれぞれ検出し、検出したスペクトル成分の輝度情報を電気信号へ変換して、信号調整部201に出力するようになっている。
【0030】
信号調整部201は、PMT118により検出する蛍光の輝度情報を積算する積算器(積算部)201と、PMT118により検出する蛍光の輝度情報にオフセットを与えて増幅するオフセット増幅器(増幅部)212と、PMT118により検出する蛍光の輝度情報をディジタル信号に変換するA/D変換器213とを備えている。
【0031】
信号調整部201は、図2に示すように、PMT118のチャネル毎に、積算器211、オフセット増幅器212、およびA/D変換器213が設置されており、A/D変換器213により変換されたディジタル信号を制御部301のCPU311に出力するようになっている。
【0032】
制御部301は、各種の情報を記憶するメモリ(記憶部)312と、A/D変換器213からのディジタル信号を合算するマルチプレクサ313と、これらを制御するCPU311とを備えており、レーザ光源111、走査系113、積算器211、オフセット増幅器212、A/D変換器213のそれぞれを制御する信号を生成するようになっている。
【0033】
また、制御部301は、PMT118が検出する蛍光の波長範囲に関する情報に基づいて、PMT118のチャネルを複数のグループ(チャネル群)に分け、チャネル群内の全てのチャネルが同一の感度となるように、チャネルの感度をチャネル群毎に一括して調節するようになっている。ここでは、その具体的な調節方法として、制御部301が、積算器211の積算時間をチャネル群毎に調節することとして説明する。
【0034】
また、制御部301は、A/D変換器213から出力されるディジタル信号値が、予め設定された設定値を超えたことをCPU311が認識したとき、積算器211における積算時間と、そのときのPMT118への印加電圧(以下「HV」と表記する。)をCPU311がメモリ312に記憶するようになっている。
【0035】
また、制御部301は、CPU311により算出された蛍光強度に基づいてスキャン画像を生成するようになっている。
表示部401は、例えば液晶ディプレイであり、制御部301により生成された標本115の画像を表示するようになっている。
【0036】
入力部501は、例えばキーボードやマウスからなり、ユーザが入力した値や動作を取得してCPU311に出力するようになっている。入力部501は、ユーザによって、例えば感度調整、色素選択、閾値設定についての入力が行われるようになっており、その入力情報を制御部301に出力するようになっている。
【0037】
このような構成とすることで、入力部501によりユーザがPMT118の感度調整を行うと、制御部301を介してPMT118の感度が調整されるようになっている。また、入力部501によりユーザが色素選択についての入力を行うと、その設定が制御部301内のCPU311に送られ、CPU311では選択した色素に対応する合算チャネル(チャネル群)を決定し、決定したチャネルにより検出されたスペクトル成分の合算処理が行われるようになっている。
【0038】
また、入力部501によりユーザが閾値設定についての入力を行うと、その設定が制御部301内のCPU311に送られ、CPU311では設定した閾値と、PMT118の各チャネルにより検出されたスペクトル成分の強度との比較が行われるようになっている。
【0039】
上記構成を有する顕微鏡1において、蛍光画像を取得する際の動作について以下に説明する。
顕微鏡本体101において、レーザ光源111から出射された光は、ビームスプリッタ112を通過してレーザ走査系113に入射する。レーザ走査系113は、対物レンズ114を通してレーザ光を、ステージ116上に載置された標本115の平面上においてX方向およびY方向に走査する。
【0040】
標本115の焦点面においては、レーザ光により標本115内の蛍光物質が励起されて蛍光が発生する。標本115からの蛍光は、対物レンズ114により集光され、レーザ走査系113を経て、ビームスプリッタ112によりレーザ光の光路から分岐される。
【0041】
分岐された蛍光は、グレーティング117により分光され、分光されたスペクトル成分は波長ごとにPMT118の各チャネルに入射する。このとき、PMT118には少なくとも二つの蛍光色素からの蛍光が入射する。
【0042】
PMT118の各チャネルでは、検出したスペクトル成分の強度に応じて、その輝度情報が電気信号へ変換され、信号調整部201にそれぞれ出力される。信号調整部201では、PMT118のチャネル毎に、積算器211によりスペクトル成分の輝度情報が積算されるとともに、オフセット増幅器212によりスペクトル成分の輝度情報が増幅される。そして、このような処理が行われた輝度情報は、A/D変換器213によりディジタル信号に変換され、CPU311に出力される。
【0043】
CPU311が受け取ったディジタル信号は、CPU311内部のマルチプレクサ313により、蛍光色素に対応したチャネル群分が合算される。合算された信号は、蛍光色素ごとに生じるため複数存在し、それぞれ表示部401に表示される1ピクセル分の輝度信号となる。
以上を繰返し、レーザ走査系113により走査することで、表示部401において蛍光画像が生成される。
【0044】
上記の蛍光画像の取得動作において、信号調整部201および制御部301により実行される詳細な制御について以下に説明する。
PMT118の各チャネルから出力される全ての信号は、標本115上にレーザ光を照射して1ピクセルの信号を取得する時間中、それぞれ積算器211により積算され続ける。その積算時間は、CPU311により生成されているクロック信号(以下、「PCLK信号」と表記する。)により決定する。例えば、PCLK信号がLowである間は積算され、PCLK信号がHighとなったときには積算器211の値を0とする。
【0045】
積算器211の後にはオフセット増幅器212が接続されており、積算後の信号にオフセットが与えられる。オフセットを与えられた信号は、A/D変換器213によりディジタル信号に変換される。
【0046】
また、積算されている間も、積算器211からの信号は、オフセット増幅器212およびA/D変換器213を通過して、CPU311へと出力され続ける。ここで、A/D変換器213では、CPU311にて生成されるPCLK信号よりも短い周期をもつ変換クロックで、オフセット増幅器212からのアナログ信号がディジタル信号に変換されており、変換クロックごとにCPU311へとディジタル信号を出力する。
【0047】
このときのCPU311の処理について図3に示すフローチャートを用いて説明する。
まず、ステップS1において、PCLK信号がLowであるか否かが判断される。
PCLK信号がLowであれば、ステップS2において、CPU311によりディジタル信号値が取得される。
【0048】
次に、ステップS3において、各チャネルのそれぞれについてディジタル信号値が設定値以下であるか否かが判断される。この際、図5に示すように、ディジタル信号値が設定値以下である場合には、PCLK信号がHighになったとき、つまり積算時間がtmaxになったときのディジタル信号値がCPU311へ出力される(ステップS4)。
【0049】
ここで、この設定値は、ディジタル信号がA/D変換器213の変換範囲外となっているとCPU311が判断する値であり、走査開始前にユーザが入力部501を介して、変換範囲の何%とするかを入力して設定した値である。
【0050】
このディジタル信号は、ステップS5において、CPU311内部のマルチプレクサ313により合算される。その際の詳細な手順について図4に示すフローチャートを用いて説明する。
まず、蛍光色素に対応したチャネル群が決定されるように、その対応表(以下、「LUT」と表記する。)をメモリ312に保存しておく。
【0051】
表示部401に表示されている蛍光色素をユーザが入力部501を介して選択すると、CPU311が使用する蛍光色素が認識され(ステップS5−1)、LUTを参照することで合算するチャネル群が決定される(ステップS5−2)。
【0052】
次に、ステップS5−3において、このチャネル群からの各信号が加算され、表示部401に表示される1ピクセル分の輝度信号となる。このとき、蛍光色素ごとに輝度信号が生じるため、これら輝度信号が表示部401へ同時に伝送されるが、重ねて表示しても蛍光色素ごとに分けて表示してもよい。
【0053】
また、図3のステップS3において、図6に示すように、PCLK信号がLowのうちに設定値以上のディジタル信号値がCPU311に出力されてきた場合には、A/D変換器213の変換範囲外になったとCPU311が判断し、そのときの積算時間tとHVの値がメモリ312に記憶される(ステップS6)。
【0054】
そして、設定値以上のディジタル信号値が、表示部401に表示される1ライン中、つまり標本115上を走査するY軸の値が一定の間に、3ピクセル続いた場合には(ステップS7)、CPU211により取得された3ピクセル分の積算時間の平均が算出される(ステップS8)。
【0055】
そして、次のピクセルから合算するチャネル群に対応する各積算器211に対して、PCLK信号を分周して適用することで、ステップS8において算出された平均積算時間が、次のピクセル以降の1ピクセル積算時間に設定される(ステップS9)。このとき、チャネル群からの各信号のうち、輝度信号が最大となるチャネルの積算器211に適用した積算時間を、チャネル群の各積算器211に適用する。
【0056】
ステップS10では、PCLK信号がHighになるまで待機することで、積算器211において積算されている値を0とする。
これにより、チャネル群の各チャネルからの信号強度により形成されるスペクトルの形状を保ったまま、輝度信号の強度を調整することができる。
【0057】
以上の処理を、ユーザが入力部501を介して制御条件(HV値、オフセット値、蛍光色素の選択)の入力を終了した後、少なくとも1フレーム分走査する。
なお、表示部401には、図3のステップS6からステップS10を行うための制御機能をON/OFFするボタンを表示し、入力部501を介してユーザが切り替えることができることとしてもよい。
【0058】
以上のように、本実施形態に係る顕微鏡1によれば、標本115において発生して対物レンズ114により集光された蛍光が、グレーティング117によりスペクトル成分に分光され、分光されたスペクトル成分は、複数のチャネルを有するPMT118によりそれぞれ検出される。この場合において、PMT118のチャネルは、制御部301により、検出する光の波長範囲に関する情報に基づいて複数のグループ(チャネル群)に分けられ、チャネル群内の全てのチャネルが同一の感度となるように、その感度がチャネル群毎に一括して調節される。
【0059】
これにより、グループ化されたチャネル群毎、すなわち、検出する光の波長範囲毎に、スペクトル形状を維持しつつ、その強度を調整することができる。例えば、複数種の蛍光を同時に観察する場合においても、各蛍光のスペクトル成分を飽和させることなく、各蛍光の強度をそれぞれ別個に調整することができ、精度良く観察することができる。また、各チャネルの感度を個別に調節する必要性を排除することができ、その調節作業を容易にすることができる。
【0060】
また、制御部301によって積算器211の積算時間をグループ毎に調節することで、PMT118の各チャネルにより検出した輝度情報をグループ毎に調節することができ、検出する光の波長範囲毎に、スペクトル形状を維持しつつ、その強度を調整することができる。
【0061】
また、スペクトル成分のいずれかが設定値を超えたとき、例えばスペクトル成分のいずれかが飽和したときに、PMT118のチャネルの感度を調節することで、いずれのスペクトル成分を飽和させることなく、検出される蛍光の強度を調整することができる。
【0062】
なお、制御部301によって、PMT118に印加される電圧をチャネル群毎に調節することとしてもよい。このようにすることで、PMT118のチャネルの感度をチャネル群毎に調節することができ、検出する光の波長範囲毎に、スペクトル形状を維持しつつ、その強度を調整することができる。
【0063】
また、制御部301によって、オフセット増幅器212の増幅率をチャネル群毎に調節することとしてもよい。このようにすることで、PMT118の各チャネルにより検出した輝度情報をチャネル群毎に調節することができ、検出する光の波長範囲毎に、スペクトル形状を維持しつつ、その強度を調整することができる。
【0064】
また、各グループのチャネルの感度と輝度情報とを対応付けてメモリ312に記憶させておくこととしてもよい。このようにすることで、検出する光の波長範囲毎にチャネルの感度を再現することができる。また、波長範囲毎の輝度情報とその感度から、全てのチャネルを同一の感度にした場合の標本115の画像を生成することができる。
【0065】
[第1の変形例]
以下に、本実施形態の第1の変形例について図7を用いて説明する。
本変形例の顕微鏡1は、積算器211の積算時間が変更されている場合には、そのことをユーザに認識させる手段を有している。
本変形例におけるCPU311の処理手順について、図7に示すフローチャートを用いて以下に説明する。
【0066】
まず、ステップS8において、CPU311により3ピクセル分の積算時間の平均を算出する。
そして、その平均積算時間が次のピクセルに適用されると同時に(ステップS9)、表示部401に表示される積算時間を適応して得られた輝度情報に基づいて生成された1フレーム分の画像の周辺部について色を変えて表示する(ステップS11)。
このようにすることで、積算時間が調整されている輝度信号によって画像を生成していることを、ユーザが認識することができる。
【0067】
[第2の変形例]
以下に、本実施形態の第2の変形例について図8を用いて説明する。
本変形例の顕微鏡1は、積算器211の積算時間をユーザが任意に変更することを可能とし、入力した積算時間を、蛍光色素に対応した範囲のチャネルに接続される各積算器に適用するように制御している。
【0068】
具体的には、例えば、積算時間に対応したスライドを蛍光色素ごとに表示部401に表示し、そのスライドを入力部501を介してユーザが変更することで、スライドの位置に対応して積算時間が決定されることとする。
【0069】
本変形例におけるCPU311の処理について図8に示すフローチャートを用いて説明する。
表示部401に表示されている蛍光色素をユーザが入力部501を介して選択すると、CPU311が使用する蛍光色素を認識し(ステップS5−1)、LUTを参照することで合算するチャネル群が決定される(ステップS5−2)。
そして、スライドの位置から積算時間を取得し(ステップS12)、この積算時間を決定されたチャネル群に対応する各積算器211に対して適用する(ステップS13)。
このようにすることで、ユーザが任意に調整した信号強度から画像を生成することが可能となる。
【0070】
[第3の変形例]
以下に、本実施形態の第3の変形例について図9を用いて説明する。
本変形例の顕微鏡1は、PCLK信号に基づいた最大の積算時間、つまり積算時間がtmaxとなっているときにCPU311が受け取るディジタル信号が、初めて設定値以上となったときのHVを保存し、レーザ走査途中でHVを変更した場合には、記憶したHVよりも下げられたときに積算時間をtmaxに戻すようになっている。
【0071】
本変形例の顕微鏡1は、制御部301により、チャネル全体の感度を調節することができるようになっている(全体感度調節部)。
メモリ312には、積算器211により積算された輝度情報が所定値以上となる最大積算時間において、いずれかのスペクトル成分が飽和するようなチャネル全体の最大感度が記憶されるようになっている。
【0072】
制御部301は、チャネル全体の感度が、メモリ312に記憶されている最大感度よりも下がった場合には、チャネルのグループ毎に積算器211の積算時間を最大化させるようになっている。
【0073】
HVの値は、表示部401に表示されているHVの値をユーザが入力部501を介して変更することで調整することができる。
PCLK信号に基づいた最大の積算時間、つまり積算時間がtmaxとなっているときに、CPU311が受け取るディジタル信号が、初めて設定値以上となったときのHVをメモリ312に記憶しておく。
【0074】
その後のCPU311による処理手順について、図9に示すフローチャートに従って説明する。
HVが変化したときにはその値を取得し(ステップS14)、記憶したHVの値と比較する(ステップS15)。記憶したHVの値よりも大きくなる場合には、図3のステップS6からステップS10により積算時間の調整が行われる。記憶したHVの値よりも小さい場合には、積算時間をtmaxにすることで元の積算時間に戻される(ステップS16)。
【0075】
このようにすることで、HVを微動させたときには積算時間の変動が無いため、微小量の感度調整の場合に有効となる。
また、制御部301によって積算器211の積算時間をグループ毎に調節することで、各チャネルにより検出した輝度情報をグループ毎に調節することができ、検出する光の波長範囲毎に、スペクトル形状を維持しつつ、その強度を調整することができる。この場合において、チャネル全体の感度が、いずれかのスペクトル成分が飽和する最大感度よりも下がった場合に、チャネルのグループ毎に積算器211の積算時間を最大化させることで、積算された輝度情報のS/N比を向上させることができる。
【0076】
[第4の変形例]
以下に、本実施形態の第4変形例について図10および図11を用いて説明する。
本変形例の顕微鏡1は、ユーザが選択した範囲においてのみ、図3のステップS6からステップS10の処理により、積算時間の調整を行うようになっている。
本変形例におけるCPU311による処理手順について、図10のフローチャートを用いて説明する。
【0077】
図11に示すように、表示部401に表示された標本画像においてユーザが任意に選択した選択範囲をCPU311が認識し(ステップS17)、選択範囲内のピクセルに相当するスキャンポイントであるかを判別する(ステップS18)。
【0078】
選択範囲内である場合には、図3のステップS6からステップS10と同様の処理によって積算時間が決定されるように、イネーブル信号をCPU311に対して出力する(ステップS19)。一方、選択範囲外である場合は、イネーブル信号は出力されず、前ピクセルと同じ積算時間が適用され、CPU311によりディジタル信号値が取得される(ステップS2)。これにより積算時間の決定は選択範囲内でのみ行われるが、決定された積算時間はレーザ走査範囲全体に適用されることとなる。
【0079】
このようにすることで、ユーザが着目したい範囲だけ信号調整手段のダイナミックレンジ内で輝度信号を取得することができる。
また、表示部401に表示された画面において入力部501により注目する領域(選択範囲)を設定し、この選択範囲において、検出する光の波長範囲毎に、スペクトル形状を維持しつつ、その強度を調整することができる。一方、表示部401に表示された画面中の非注目領域については、強度を調整する必要性を排除することができる。
【0080】
以上、本発明の実施形態について図面を参照して詳述してきたが、具体的な構成はこの実施形態に限られるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲の設計変更等も含まれる。
例えば、本実施形態において、積算器211の積算時間、あるいはオフセット増幅器212の増幅率、あるいはHVをチャネル群毎に調節することとして説明したが、これらを任意に組み合わせてPMT118のチャネルの感度を調節することとしてもよい。
【0081】
また、図3に示すフローチャートのステップS7において、積算器211の積算時間を、設定値以上のディジタル信号値が3ピクセル続いた場合に変更することとして説明したが、1〜2ピクセルまたは4ピクセル以上続いた場合に変更することとしてもよい。
【符号の説明】
【0082】
1 顕微鏡
101 顕微鏡本体
111 光源
112 ビームスプリッタ
113 走査系
114 対物レンズ
115 標本
116 ステージ
117 グレーティング(分光素子)
118 PMT(光検出器)
201 信号調整部
211 積算器(積算部)
212 オフセット増幅器(増幅部)
213 A/D変換器
301 制御部(感度調節部、画像生成部)
311 CPU
312 メモリ(記憶部)
313 マルチプレクサ
401 表示部
501 入力部(入力部、設定部)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
標本において発生した光を集光する対物レンズと、
該対物レンズにより集光された光をスペクトル成分に分光する分光素子と、
該分光素子により分光されたスペクトル成分をそれぞれ検出する複数のチャネルを有する光検出器と、
該光検出器の各チャネルの感度を調節する感度調節部とを備え、
該感度調節部が、検出する光の波長範囲に関する情報に基づいて前記チャネルを複数のグループに分け、グループ内の全ての前記チャネルが同一の感度となるように、前記チャネルの感度をグループ毎に一括して調節する顕微鏡。
【請求項2】
前記感度調節部が、前記光検出器に印加される電圧を前記チャネルのグループ毎に調節する請求項1に記載の顕微鏡。
【請求項3】
前記光検出器により検出する光の輝度情報を積算する積算部を備え、
前記感度調節部が、前記積算部の積算時間を前記チャネルのグループ毎に調節する請求項1に記載の顕微鏡。
【請求項4】
前記光検出器により検出する光の輝度情報を増幅する増幅部を備え、
前記感度調節部が、前記増幅部の増幅率を前記チャネルのグループ毎に調節する請求項1に記載の顕微鏡。
【請求項5】
複数の前記チャネルのグループに対して、グループ毎に前記感度調節部の感度調整値を設定可能な入力部を備える請求項1から請求項4のいずれかに記載の顕微鏡。
【請求項6】
前記チャネル全体の感度を調節する全体感度調節部と、
前記光検出器により検出する光の輝度情報を積算する積算部と、
前記積算部により積算された輝度情報が所定値以上となる最大積算時間において、いずれかのスペクトル成分が飽和するような前記チャネル全体の最大感度を記憶する記憶部とを備え、
前記感度調節部は、前記チャネル全体の感度が、前記記憶部に記憶されている最大感度よりも下がった場合には、前記チャネルのグループ毎に前記積算部の積算時間を最大化させる請求項1に記載の顕微鏡。
【請求項7】
前記チャネルにより検出されたスペクトル成分のいずれかが所定の閾値を超えたときに、前記感度調節部が前記チャネルの感度をグループ毎に調節する請求項1から請求項6のいずれかに記載の顕微鏡。
【請求項8】
グループ毎の前記チャネルの感度と輝度情報とを対応付けて記憶する記憶部を備える請求項1から請求項7のいずれかに記載の顕微鏡。
【請求項9】
前記光検出器により検出された光に基づいて画像を生成する画像生成部と、
該画像生成部により生成された画像を表示する表示部と、
該表示部に表示された画面において所定の範囲を設定する設定部とを備え、
前記感度調節部が、前記設定部により設定された所定の範囲において前記チャネルの感度を調節する請求項1から請求項8のいずれかに記載の顕微鏡。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2010−266278(P2010−266278A)
【公開日】平成22年11月25日(2010.11.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−116598(P2009−116598)
【出願日】平成21年5月13日(2009.5.13)
【出願人】(000000376)オリンパス株式会社 (11,466)
【Fターム(参考)】