説明

顕微鏡

【課題】標本の形状等に関わらず、効率的に3Dイメージングを行うことができる顕微鏡を提供する。
【解決手段】対物レンズの光軸に直交する方向における標本の観察範囲を複数の領域に分割する領域分割部31と、複数の領域について電動ステージの位置と標本の表面位置とを対応付けて記憶する表面位置記憶部32と、表面位置記憶部32に記憶された複数の領域についての電動ステージの位置および標本の表面位置から標本の表面形状を推定する表面形状推定部34と、表面形状推定部34により推定された標本の表面形状から任意の電動ステージの位置における標本の表面位置を決定するZスキャン条件決定部35と、対物レンズの光軸方向において、Zスキャン条件決定部35により決定された標本の表面位置を基準とする所定範囲にわたって標本からの光を検出する光検出部とを備えるレーザ顕微鏡を採用する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、顕微鏡に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、厚みのある標本をスライス化することなく、そのまま3Dイメージング(XYZスキャン)をすることができるレーザ顕微鏡が知られている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2005−202087号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、レーザ顕微鏡で観察できるのは、図12に示すように、表面から限られた深さまでである。したがって、Zスタック(Z方向の断層像)を取る場合、図13に示すように、理想的には表面から一定距離に対してZスタックを取ればよい。しかしながら、実際の標本は凹凸のある表面形状を有しているため、各XYエリアでZスタックの開始位置を変更する必要があり、その変更作業には多大な時間を要するという不都合があった。したがって、従来のレーザ顕微鏡では、図14に示すように、全てのXYZ範囲の画像を取得せざるを得ず、これが撮像時間の増大につながっていた。
【0005】
特許文献1に開示されているレーザ顕微鏡では、Z方向の移動距離が短くなるように各XYエリアにおけるZスキャン開始位置を決定することで、撮像時間の短縮を図っている。しかしながら、特許文献1に開示されているレーザ顕微鏡では、凹凸のある表面形状を有する標本や、傾いている標本に対しては、撮像時間の短縮には有効ではないという不都合がある。
【0006】
本発明は、上述した事情に鑑みてなされたものであって、標本の形状等に関わらず、効率的に3Dイメージングを行うことができる顕微鏡を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するために、本発明は以下の手段を採用する。
本発明は、標本を載置するステージと、前記標本に照明光を集光する一方、前記標本からの光を集める対物レンズと、前記ステージと前記対物レンズとを前記対物レンズの光軸に直交する方向に相対移動させる第1の駆動部と、前記ステージと前記対物レンズとを前記対物レンズの光軸方向に相対移動させる第2の駆動部と、前記対物レンズの光軸に直交する方向における前記標本の観察範囲を複数の領域に分割する領域分割部と、複数の前記領域について前記ステージの位置と前記標本の表面位置とを対応付けて記憶する表面位置記憶部と、該表面位置記憶部に記憶された複数の前記領域についての前記ステージの位置および前記標本の表面位置から前記標本の表面形状を推定する表面形状推定部と、前記対物レンズの光軸方向において、前記表面形状推定部により推定された前記標本の表面位置を基準とする所定範囲にわたって前記標本からの光を検出する光検出部と、各前記領域における、前記光検出部により検出された前記標本からの光および前記対物レンズの集光位置から前記標本の3次元画像を生成する画像生成部とを備える顕微鏡を採用する。
【0008】
本発明によれば、対物レンズにより、ステージ上の標本に照明光が集光されるとともに、標本からの光が集められる。この際、ステージと対物レンズとが、第1の駆動部により対物レンズの光軸に直交する方向に相対移動させられるとともに、第2の駆動部により対物レンズの光軸方向に相対移動させられる。これにより、標本における照明光の集光位置が3次元的に移動させられ、この際の標本からの光を光検出部により検出し、画像生成部により対物レンズの集光位置と対応付けることで、標本の3次元画像が生成される。
【0009】
この場合において、領域分割部により標本の観察範囲が対物レンズの光軸に直交する方向に複数の領域に分割され、このうち複数の領域についてのステージの位置と標本の表面位置とが表面位置記憶部に対応付けて記憶されている。この記憶された情報から表面形状推定部により標本の表面形状が推定される。そして、光検出部により、全ての領域について、標本からの光が、対物レンズの光軸方向において、推定された標本の表面位置を基準とする所定範囲にわたって検出され、画像生成部により標本の3次元画像が生成される。
【0010】
このようにすることで、標本の全ての領域について、標本の表面近傍に照明光を集光させて、標本の対物レンズの光軸方向の断層像(Zスタック)を取得することができ、効率的に標本の3次元画像を生成することができる。
【0011】
上記発明において、複数の前記領域について前記ステージの位置と前記標本の前記対物レンズの光軸方向の撮像条件とを対応付けて記憶する撮像条件記憶部と、該撮像条件記憶部に記憶された撮像条件を用いて、前記表面形状推定部により推定された前記標本の表面位置における前記対物レンズの光軸方向の撮像条件を決定する撮像条件決定部とを備えることとしてもよい。
【0012】
このようにすることで、撮像条件記憶部に記憶された撮像条件(例えば、Zスキャンを開始するZ座標、Zスキャンを終了するZ座標、Zスキャンを行う間隔)を用いて、表面形状推定部により推定された標本の表面位置における対物レンズの光軸方向の撮像条件を決定することができる。これにより、各領域について、撮像条件を決定する必要性を省くことができ、効率的に標本の3次元画像を生成することができる。
【0013】
上記発明において、前記表面形状推定部が、3点の前記ステージの位置および前記標本の表面位置の座標から前記3点を通る平面の方程式を決定することで、前記標本の表面形状を推定することとしてもよい。
【0014】
このようにすることで、3点のステージの位置および標本の表面位置の座標を表面位置記憶部を記憶しておき、これらの座標から平面の方程式を決定することで、標本の表面形状を容易に推定することができる。これにより、標本の全ての領域について、標本の断層像(Zスタック)を取得することができ、効率的に標本の3次元画像を生成することができる。
【0015】
上記発明において、前記表面位置記憶部に記憶する前記標本の表面位置を検出する表面位置検出部を備えることとしてもよい。
このようにすることで、表面位置検出部により自動的に標本の表面位置を検出し、検出した標本の表面位置をステージの位置と対応付けて表面位置記憶部に記憶させることができる。これにより、複数の領域について手動で標本の表面位置を探す手間を省くことができ、標本の3次元画像を生成する際の効率性を向上することができる。
【0016】
上記発明において、前記表面位置検出部が、前記光検出部により検出された前記標本からの光の輝度情報に基づいて前記標本の表面位置を検出することとしてもよい。
このようにすることで、標本の表面位置を容易に且つ精度よく検出することができ、標本の3次元画像を生成する際の効率性を向上することができる。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、標本の形状等に関わらず、効率的に3Dイメージングを行うことができるという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本発明の各実施形態に係るレーザ顕微鏡の概略構成図である。
【図2】本発明の第1の実施形態に係る制御部の機能ブロック図である。
【図3】図2の制御部により各XY領域についてZスキャンが行われる状態を説明する図である。
【図4】図2の制御部により実行される処理を示すフローチャートである。
【図5】図2のステップS6の詳細な処理を示すフローチャートである。
【図6】図2のステップS7の詳細な処理を示すフローチャートである。
【図7】標本の3次元画像の一部を示すイメージ図である。
【図8】図7の撮像データのZ方向の領域を示すグラフである。
【図9】図8の撮像データに輝度値0のデータを補ったグラフである。
【図10】本発明の第2の実施形態に係る制御部の機能ブロック図である。
【図11】図10の制御部による図2のステップS6の詳細な処理を示すフローチャートである。
【図12】レーザ顕微鏡における実際に観察可能な範囲を示す図である。
【図13】レーザ顕微鏡における理想的な観察可能な範囲を示す図である。
【図14】従来のレーザ顕微鏡における観察可能な範囲を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
[第1の実施形態]
本発明の第1の実施形態に係るレーザ顕微鏡について、図面を参照して説明する。
図1は、本実施形態のレーザ顕微鏡1の概略構成図である。図1に示すように、本実施形態のレーザ顕微鏡1は、レーザ光源11と、ダイクロイックミラー12と、スキャナ13と、レボルバ14と、対物レンズ15と、電動ステージ16と、レンズ17と、ピンホール板18と、バリアフィルタ19と、光検出器20と、顕微鏡本体21と、制御部30とを備えている。
【0020】
レーザ光源11は、標本Aの表面を走査するスポット光(集束光)としてのレーザ光を射出するようになっている。このレーザ光は、標本A内の蛍光指示薬を励起させ、蛍光を発生させる。レーザ光源11は、制御部30により制御される。
【0021】
スキャナ13は、例えばアルミコートされた一対のガルバノミラー(図示略)を有しており、これら一対のガルバノミラーの揺動角度を変化させ、ラスタスキャン方式で駆動されるようになっている。このような構成を有することで、スキャナ13は、レーザ光源11からのレーザ光を、標本A上において2次元走査するようになっている。このスキャナ13は、制御部30により制御される。
【0022】
レボルバ14は、倍率の異なる対物レンズ15を複数保持しており、複数の対物レンズ15のうち、所望の倍率を有する対物レンズ15をレーザ顕微鏡1の観察光路に配置することができるようなっている。
対物レンズ15は、スキャナ13により走査されたレーザ光を電動ステージ16上に載置された標本A上に照射する一方、標本Aから発生した蛍光を集光するようになっている。
【0023】
ダイクロイックミラー12は、レーザ光源11とスキャナ13との間におけるレーザ光の光路上に設けられており、スキャナ13を介して得られる標本Aからの蛍光を選択して光検出器20に導く波長選択ミラーである。具体的には、ダイクロイックミラー12は、レーザ光源11からのレーザ光を透過させる一方、標本Aにおいて発生して対物レンズ15により集められ、スキャナ13を通過してきた蛍光を、光検出器20に向けて反射するようになっている。このような構成を有することで、ダイクロイックミラー12は、レーザ光の光路と標本Aからの蛍光の光路とを分岐するようになっている。
【0024】
電動ステージ16は、対物レンズ15に対向して配置されており、標本Aを載置するようになっている。
顕微鏡本体21には、電動ステージ16を対物レンズ15の光軸に直交する方向(XY方向)に移動させる第1の駆動部(図示略)と、電動ステージ16を対物レンズ15の光軸方向(Z方向)に移動させる第2の駆動部(図示略)とが設けられている。これら第1の駆動部および第2の駆動部を動作させることで、対物レンズ15に対して3次元方向(XYZ方向)に電動ステージ16および電動ステージ16上の標本Aを相対移動させるようになっている。これら第1の駆動部および第2の駆動部は、制御部30により制御される。
【0025】
ピンホール板18は、標本A上におけるレーザ光の焦点位置から発生した蛍光のみを通過させるピンホールを有している。すなわち、対物レンズ15により集められてダイクロイックミラー12により反射された蛍光は、ピンホール板18を通過することによりレーザ光の焦点位置から光軸方向にずれた位置からの光がカットされる。これにより、光軸方向に焦点位置と同一な面からの蛍光だけがバリアフィルタ19に入射する。また、ダイクロイックミラー12とピンホール板18との間には、標本Aからの蛍光をピンホールに集光させるレンズ17が設けられている。
【0026】
バリアフィルタ19は、標本Aからの蛍光を透過させる一方、レーザ光を遮断するフィルタ特性を有しており、ピンホール板18を通過してきた蛍光からレーザ光の成分を除去するようになっている。
【0027】
光検出器20は、バリアフィルタ19を透過してきた蛍光を検出し、検出した蛍光をその光量に応じた電気信号に変換する光電変換素子である。
後述するように、制御部30により、光検出器20からの電気信号と、スキャナ13による標本Aの走査位置および電動ステージ16のXYZ位置とを対応付けることで、標本Aの蛍光画像が生成されるようになっている。
【0028】
以下に、制御部30により実行される処理について図2を参照して説明する。図2は、制御部30が有する機能を展開して示した機能ブロック図である。
図2に示すように、制御部30は、領域分割部31と、表面位置記憶部32と、Zスキャン条件記憶部(撮像条件記憶部)33と、表面形状推定部34と、Zスキャン条件決定部(撮像条件決定部)35と、画像生成部36とを機能として備えている。
【0029】
領域分割部31は、対物レンズ15の光軸に直交する方向(XY方向)における標本Aの観察範囲を複数の領域に分割するようになっている。具体的には、領域分割部31は、図3(a)に示すように、電動ステージ16のXY方向の可動範囲から、標本AのXY方向の観察範囲Bを設定する。そして、領域分割部31は、図3(b)に示すように、観察条件(例えば対物レンズ15の倍率やスキャナ13の走査範囲)から定まる視野(領域)の大きさを算出し、観察範囲Bを複数の領域に分割する。図3(b)に示す例では、観察範囲Bを14個の領域に分割している。
【0030】
表面位置記憶部32は、複数の領域について、対物レンズ15に対するXY方向の電動ステージ16の位置と、対物レンズ15に対するZ方向の標本Aの表面位置とを、それぞれ対応付けて記憶するようになっている。具体的には、表面位置記憶部32は、図3(c)に示すように、例えば領域bに対応する標本Aの表面部分について、その中心位置PbのXY方向の座標(Xb,Yb)と、その中心位置PbのZ方向の座標(Zb)とを対応付けて記憶するようになっている。なお、Z方向の標本Aの表面位置(Zb)の算出方法については後述する。
【0031】
Zスキャン条件記憶部33は、複数の領域について、対物レンズ15に対するXY方向の電動ステージ16の位置と、電動ステージ16の位置に対応するZスキャン条件とを、それぞれ対応付けて記憶するようになっている。具体的には、Zスキャン条件記憶部33は、図3(d)に示すように、例えば領域bに対応する電動ステージ16の位置と、この位置に対応するZスキャン条件(すなわち、Zスキャンを開始するZ座標、Zスキャンを終了するZ座標、Zスキャンを行う間隔)とを対応付けて記憶するようになっている。
【0032】
表面形状推定部34は、表面位置記憶部32に記憶された複数の領域についての、電動ステージ16の位置(XY方向)および標本Aの表面位置(Z方向)から、標本Aの表面形状を推定するようになっている。具体的には、表面形状推定部34は、図3(e)に示すように、例えば表面位置記憶部32に記憶された標本Aの表面位置P1〜P6のXYZ座標から標本Aの表面形状を推定するようになっている。
【0033】
より具体的には、表面形状推定部34は、例えば、標本Aの表面位置P1〜P6のうち、近接する3点の座標(X,Y,Z)を以下の平面の方程式に代入し、この平面の方程式における係数a,b,c,dを求める。
aX+bY+cZ+d=0
これにより、近接する3点の座標を通る平面の方程式が算出される。この平面の方程式を近接する3点全てについて算出し、算出された複数の平面を組み合わせることで、標本Aの表面形状が推定される。このようにすることで、標本Aの表面形状を容易に推定することができる。
【0034】
Zスキャン条件決定部35は、任意の電動ステージ16の位置におけるZスキャン条件を決定するようになっている。具体的には、Zスキャン条件決定部35は、図3(f)に示すように、全ての領域(XY方向)について、表面形状推定部34により推定された標本Aの表面形状およびZスキャン条件記憶部33に記憶されたZスキャン条件から、この標本Aの表面位置を基準とする所定範囲を、光検出部20により標本Aからの光を検出する範囲として決定する。
【0035】
画像生成部36は、標本Aの各領域における、光検出部20により検出された標本Aからの光と、対物レンズ15のXY方向およびZ方向の集光位置(すなわちXYZ座標)から標本Aの3次元画像を生成するようになっている。
【0036】
上記構成を有するレーザ顕微鏡1の作用について以下に説明する。
本実施形態に係るレーザ顕微鏡1を用いて標本Aの観察を行う場合、レーザ光源11から射出されたレーザ光は、ダイクロイックフィルタ12を透過してスキャナ13に入射する。スキャナ13ではレーザ光が標本A上で2次元走査され、対物レンズ15により標本A上に集光される。
【0037】
標本Aのレーザ光の焦点位置では、標本A内の蛍光物質が励起されて蛍光が発生する。発生した蛍光は、対物レンズ15により集められ、スキャナ13を通過して、ダイクロイックフィルタ12により反射される。反射された蛍光は、レンズ17によりピンホール板18のピンホールに集光され、ピンホール板18を通過することによりレーザ光の焦点位置から光軸方向にずれた位置からの蛍光がカットされる。これにより、光軸方向に焦点位置と同一な面からの蛍光だけがバリアフィルタ19に入射し、バリアフィルタ19では、ピンホール板18を通過してきた蛍光からレーザ光の成分を除去される。
【0038】
バリアフィルタ19を透過してきた蛍光は、光検出器20により検出され、その光量に応じた電気信号に変換される。この電気信号は、制御部30の画像生成部36に出力され、スキャナ13による標本Aの走査位置と対応付けることで、標本Aの蛍光画像が生成される。上記の処理を、電動ステージ16を動作させて、各視野(領域)に対して行うことで、標本Aの観察範囲における蛍光画像が生成される。
【0039】
この場合において、標本Aの3Dイメージングを行う場合の処理について、図4に示すフローチャートを用いて以下に説明する。
まず、対物レンズ15の光軸に直交する方向(XY方向)における標本Aの観察範囲を設定する(ステップS1)。具体的には、図3(a)に示すように、電動ステージ16のXY方向の可動範囲から、標本AのXY方向の観察範囲Bが設定される。
【0040】
次に、領域分割部31により、観察条件から求まる視野数で、ステップS1において設定した観察範囲Bを分割する(ステップS2)。具体的には、図3(b)に示すように、例えば対物レンズ15の倍率やスキャナ13の走査範囲等の観察条件から定まる視野(領域)を算出し、観察範囲Bを複数の領域に分割する。ここでは、分割した視野(領域)の数をMとする。
【0041】
次に、対物レンズ15の視野をステップS2における任意のXY位置に移動する(ステップS3)。具体的には、電動ステージ16を動作させて、標本Aを対物レンズ15に対してXY方向に移動させ、図3(c)に示すように、対物レンズ15の視野をステップS2において分割した領域のうち、任意の領域(図3(c)に示す例では領域b)に移動する。この際の領域のXY方向の座標をXb,Ybとする。
【0042】
次に、ステップS3において移動した位置で、Zスキャン条件を設定する(ステップS4)。具体的には、図3(d)に示すように、電動ステージ16を動作させて、標本Aを対物レンズ15に対してZ方向に移動させ、その際に取得される標本Aの3次元画像を観察する。そして、標本Aの表面付近の所定範囲を、Zスキャンを行う範囲として設定する。ここでは、領域bに対応する標本Aの表面部分について、Zスキャンを開始するZ座標をZstart_b,Zスキャンを終了するZ座標をZend_b,Zスキャンを行う間隔をZstep_bとする。
【0043】
次に、ステップS3,S4の設定条件を記憶する(ステップS5)。具体的には、表面位置記憶部32に、複数の領域について、対物レンズ15に対するXY方向の電動ステージ16の位置と、対物レンズ15に対するZ方向の標本Aの表面位置とを対応付けて記憶する。また、Zスキャン条件記憶部33に、複数の領域について、対物レンズ15に対するXY方向の電動ステージ16の位置と、前述のZスキャン条件とを対応付けて記憶する。
【0044】
より具体的には、図3(d)に示すように、例えば領域bに対応する標本Aの表面部分について、その中心位置PbのXY方向の座標(Xb,Yb)と、その中心位置PbのZ方向の座標(Zb)およびZスキャン条件(Zスキャンを開始するZ座標、Zスキャンを終了するZ座標、Zスキャンを行う間隔)とを対応付けて記憶する。
【0045】
次に、標本の表面形状の推定処理を行う(ステップS6)。具体的には、表面形状推定部34により、図3(e)に示すように、例えば予め表面位置記憶部32に記憶された標本Aの表面位置P1〜P6の座標から標本Aの表面形状を推定する。この際の詳細な処理については後述する。
【0046】
次に、ステップS6における推定結果およびステップS5において記憶された設定条件を用いて、ステップS2の各XY位置におけるZスキャン条件を生成する(ステップS7)。具体的には、Zスキャン条件決定部35により、図3(f)に示すように、全ての領域について、表面形状推定部34により推定された標本Aの表面位置を基準とする所定範囲を、光検出部20により標本Aからの光を検出する範囲として決定する。この際の詳細な処理については後述する。
上記の処理を、電動ステージ16を動作させて、各視野(領域)に対して行うことで、標本Aの3次元画像が生成される。
【0047】
以下に、上述したステップS6の詳細な処理について図5を用いて説明する。
まず、i=1として(ステップS11)、標本Aの表面形状の推定に使用する測定点の個数を決定する(ステップS12)。ここでは、この個数をNとする。なお、この測定点の個数が多いほど、標本Aの表面形状の推定精度を向上することができる。
【0048】
次に、i=Nであるか否かを判断し(ステップS13)、i=Nでない場合には電動ステージ16を動作させ、測定対象の座標(Xi,Yi)に移動する(ステップS14)。
この状態においてユーザが観察を開始し(ステップS15)、座標(Xi,Yi)における標本Aの表面を、対物レンズ15の焦点位置をZ方向に動かしながら見つける(ステップS16)。このようにして見つかったZ座標をZiとする(ステップS17)。
【0049】
次に、i=1+1として(ステップS18)、ステップS13に戻り、i=Nでない場合にはステップS14からステップS18までの処理を繰り返す。
ステップS13においてi=Nとなった場合には、(Xi,Yi,Zi)i∈{1,...,N}から(Xi,Yi,Zi)を通る曲面または平面を算出する(ステップS19)。具体的には、前述のように、近接する3点の座標を通る平面の方程式を算出する。
【0050】
なお、これらの点を通る平面を算出する場合には、表面形状推定部34は、例えば、標本A上の複数の測定点のうち、近接する3点の座標(X,Y,Z)を以下の平面の方程式に代入し、以下の平面の方程式における係数a,b,c,dを求める。
aX+bY+cZ+d=0
これにより、近接する3点の座標を通る平面の方程式が求められる。この平面の方程式を近接する3点全てについて求め、求められた複数の平面を組み合わせることで、標本Aの表面形状が推定される。このようにすることで、標本Aの表面形状を容易に推定することができる。
【0051】
以下に、上述したステップS7の詳細な処理について図6を用いて説明する。
まず、座標(Xi,Yi)におけるZスキャン条件を以下のように設定する(ステップS21)。
Zstart_i
Zend_i
Zstep_i
【0052】
次に、i=1として(ステップS22)、i=Mであるか否かを判断する(ステップS23)。ここで、Mは前述のように、観察範囲Bを分割した視野(領域)の数である。
ステップS23において、i=Mでない場合にはZスキャン条件を以下のように設定する(ステップS24)。
Zstart_i=Zstart_b−(f(Xb,Yb)_i−f(Xi,Yi))
Zend_i=Zend_b−(f(Xb,Yb)_i−f(Xi,Yi))
Zstep_i=Zstep_b
【0053】
次に、i=1+1として(ステップS25)、ステップS23に戻り、i=Mでない場合にはステップS24からステップS25までの処理を繰り返す。
そして、ステップS23においてi=Mとなった場合には処理を終了する。
上記の処理を行うことで、表面に曲率のある標本Aや、傾いた標本Aに対しても、全ての観察範囲でZスキャン条件を設定することなく、必要な範囲のみを観察することができる。
【0054】
以上のように、本実施形態に係るレーザ顕微鏡1によれば、領域分割部31により標本Aの観察範囲が対物レンズ15の光軸に直交する方向(XY方向)に複数の領域に分割される。また、分割された領域のうち、複数の領域についての電動ステージ16の位置と標本Aの表面位置およびZスキャン条件とが、表面位置記憶部32およびZスキャン条件記憶部33に対応付けて記憶されている。この記憶された情報から、表面形状推定部34により標本Aの表面形状が推定され、Zスキャン条件決定部35により任意の電動ステージ16の位置におけるZスキャン条件が決定される。これにより、標本Aの表面位置を基準とする所定範囲にわたって標本Aからの光が光検出部20により検出され、画像生成部36により標本Aの3次元画像が生成される。
【0055】
このようにすることで、標本Aの全ての領域について、標本Aの表面近傍に照明光を集光させて、標本Aの対物レンズ15の光軸方向の断層像(Zスタック)を取得することができ、効率的に標本Aの3次元画像を生成することができる。
【0056】
また、Zスキャン条件記憶部33に記憶されたZスキャン条件(Zスキャンを開始するZ座標、Zスキャンを終了するZ座標、Zスキャンを行う間隔)を用いて、表面形状推定部34により推定された標本Aの表面位置における対物レンズ15の光軸方向のZスキャン条件を決定することができる。これにより、各領域について、Zスキャン条件を決定する必要性を省くことができ、効率的に標本Aの3次元画像を生成することができる。
【0057】
なお、本実施形態に係るレーザ顕微鏡1において、標本Aの各領域における3次元画像は、図7に示すように、Zスキャンの開始位置および終了位置が、各領域(エリア)によって異なる。したがって、図8に示すように、これらの3次元画像を並べた場合に、撮像データの存在する領域がエリアによって異なるため、そのままでは標本Aの3次元画像が不連続な画像となってしまう。
【0058】
そこで、本実施形態に係るレーザ顕微鏡1では、図9に示すように、各エリアにおいてデータのない領域については輝度値0の画像を補う。これにより、各エリアのZ方向の画像領域を揃えることができ、連続的な標本Aの3次元画像を生成することができる。
【0059】
[第2の実施形態]
次に、本発明の第2の実施形態に係るレーザ顕微鏡について説明する。
本実施形態に係るレーザ顕微鏡2が、前述の実施形態に係るレーザ顕微鏡1と異なる点は、標本Aの表面位置を自動的に検出する点である。以降では、本実施形態に係るレーザ顕微鏡2について、第1の実施形態に係るレーザ顕微鏡1と共通する点については説明を省略し、異なる点について主に説明する。
【0060】
本実施形態に係るレーザ顕微鏡2において、制御部30は、図10に示すように、前述の実施形態(図2参照)に示す機能に加えて、標本Aの表面位置を検出する表面位置検出部37を機能として有している。
【0061】
上記構成を有する本実施形態に係るレーザ顕微鏡2の作用について、図11を用いて説明する。図11は、本実施形態に係るレーザ顕微鏡2において実行される、前述したステップS6(図4参照)の詳細な処理を示すフローチャートである。
【0062】
まず、i=1として(ステップS31)、標本Aの表面形状の推定に使用する測定点の位置、個数を決定する(ステップS32)。
次に、i=Nであるか否かを判断し(ステップS33)、i=Nでない場合には電動ステージ16を動作させ、測定対象の座標(Xi,Yi)に移動する(ステップS34)。
【0063】
この状態において制御部30により観察が開始され(ステップS35)、表面位置検出部37が、座標(Xi,Yi)における標本Aの表面を検出する(ステップS36)。この際、表面位置検出部37は、光検出部20により検出された標本Aからの蛍光の輝度情報に基づいて標本Aの表面位置を検出する。具体的には、制御部30は、光検出部20により検出された標本Aからの蛍光強度が高いZ位置を、標本Aの表面付近として検出する。そして、このようにして見つかったZ座標をZiとする(ステップS37)。
【0064】
次に、i=1+1として(ステップS38)、ステップS33に戻り、i=Nでない場合にはステップS34からステップS38までの処理を繰り返す。
ステップS33においてi=Nとなった場合には、(Xi,Yi,Zi)i∈{1,...,N}から(Xi,Yi,Zi)を通る曲面または平面を算出する(ステップS39)。具体的には、前述のように、近接する3点の座標を通る平面の方程式を算出する。
【0065】
本実施形態に係るレーザ顕微鏡2によれば、表面位置検出部37により自動的に標本Aの表面位置を検出し、検出した標本Aの表面位置を電動ステージ16の位置と対応付けて表面位置記憶部32に記憶させることができる。これにより、複数の領域について手動で標本Aの表面位置を探す手間を省くことができ、標本Aの3次元画像を生成する際の効率性を向上することができる。
【0066】
また、表面位置検出部37が、光検出部20により検出された標本Aからの光の輝度情報に基づいて標本Aの表面位置を検出することで、標本Aの表面位置を容易に且つ精度よく検出することができ、標本Aの3次元画像を生成する際の効率性を向上することができる。
【0067】
以上、本発明の各実施形態について図面を参照して詳述してきたが、具体的な構成はこの実施形態に限られるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲の設計変更等も含まれる。
例えば、各実施形態において、本発明を1光子励起顕微鏡に適用した例を説明したが、本発明を多光子励起顕微鏡に適用してもよい。
【符号の説明】
【0068】
A 標本
1,2 レーザ顕微鏡
11 レーザ光源
12 ダイクロイックミラー
13 スキャナ
14 レボルバ
15 対物レンズ
16 電動ステージ
17 レンズ
18 ピンホール板
19 バリアフィルタ
20 光検出器
21 顕微鏡本体
30 制御部
31 領域分割部
32 表面位置記憶部
33 Zスキャン条件記憶部(撮像条件記憶部)
34 表面形状推定部
35 Zスキャン条件決定部(撮像条件決定部)
36 画像生成部
37 表面位置検出部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
標本を載置するステージと、
前記標本に照明光を集光する一方、前記標本からの光を集める対物レンズと、
前記ステージと前記対物レンズとを前記対物レンズの光軸に直交する方向に相対移動させる第1の駆動部と、
前記ステージと前記対物レンズとを前記対物レンズの光軸方向に相対移動させる第2の駆動部と、
前記対物レンズの光軸に直交する方向における前記標本の観察範囲を複数の領域に分割する領域分割部と、
複数の前記領域について前記ステージの位置と前記標本の表面位置とを対応付けて記憶する表面位置記憶部と、
該表面位置記憶部に記憶された複数の前記領域についての前記ステージの位置および前記標本の表面位置から前記標本の表面形状を推定する表面形状推定部と、
前記対物レンズの光軸方向において、前記表面形状推定部により推定された前記標本の表面位置を基準とする所定範囲にわたって前記標本からの光を検出する光検出部と、
各前記領域における、前記光検出部により検出された前記標本からの光および前記対物レンズの集光位置から前記標本の3次元画像を生成する画像生成部とを備える顕微鏡。
【請求項2】
複数の前記領域について前記ステージの位置と前記標本の前記対物レンズの光軸方向の撮像条件とを対応付けて記憶する撮像条件記憶部と、
該撮像条件記憶部に記憶された撮像条件を用いて、前記表面形状推定部により推定された前記標本の表面位置における前記対物レンズの光軸方向の撮像条件を決定する撮像条件決定部とを備える請求項1に記載の顕微鏡。
【請求項3】
前記表面形状推定部が、3点の前記ステージの位置および前記標本の表面位置の座標から前記3点を通る平面の方程式を決定することで、前記標本の表面形状を推定する請求項1に記載の顕微鏡。
【請求項4】
前記表面位置記憶部に記憶する前記標本の表面位置を検出する表面位置検出部を備える請求項1に記載の顕微鏡。
【請求項5】
前記表面位置検出部が、前記光検出部により検出された前記標本からの光の輝度情報に基づいて前記標本の表面位置を検出する請求項4に記載の顕微鏡。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【公開番号】特開2012−203048(P2012−203048A)
【公開日】平成24年10月22日(2012.10.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−64993(P2011−64993)
【出願日】平成23年3月23日(2011.3.23)
【出願人】(000000376)オリンパス株式会社 (11,466)
【Fターム(参考)】