説明

類天疱瘡治療剤

類天疱瘡治療剤を提供する。IFN−γを類天疱瘡治療剤として用いるには、1日1回200万JRUを7日間点滴静注を行う。症状、副作用および年齢に応じて投与量の変更または数日に1回の点滴静注に変更可能である。IFN−γは類天疱瘡に対して速効性があり副作用もほとんど認められず有効であると考えられる。作用機序としては、類天疱瘡の発症に直接関与すると考えられる好酸球に対して遊走および機能を抑制するものと推測される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
本発明は、インターフェロンγ(IFN−γ)を有効成分として含有する類天疱瘡の治療剤に関する。
【背景技術】
類天疱瘡は、水疱症の中で後天性水疱症の1類型に分類される皮膚疾患であり、水疱性類天疱瘡(結節性類天疱瘡を含む)、瘢痕性類天疱瘡(良性粘膜類天疱瘡)、妊娠性疱疹、若年性類天疱瘡に分類される自己免疫疾患である。また、瘢痕性類天疱瘡(良性粘膜類天疱瘡)は、さらに抗BP180型瘢痕性類天疱瘡、抗ラミニン5型瘢痕性類天疱瘡、眼型瘢痕性類天疱瘡に細分類されている。
これらの中で水疱性類天疱瘡(BP)は、皮膚科領域における代表的な自己免疫水疱症の1つであり、その特徴的臨床症状は、まず浮腫性紅斑が出現し、その後紅斑局面に大小様々の緊満性水疱が出現し、時には水疱のみ出現してくることもある。これらの症状が主に四肢、躯幹に多発し破損してびらんを形成する。びらんが全身に生じると細菌感染の原因になったり、体内の水分や蛋白などが喪失するため全身の浮腫を呈したり、血液中の電解質異常および脱水などを引き起こすことがあり全身状態が悪化することがある。自覚症状としてはそう痒を認めることが多い。好発年齢は70歳以上の高齢者であるが、まれに小児、若年者に生じることもある。病理組織学的所見としては表皮下の水疱を認め、好酸球主体の炎症細胞浸潤を認める。蛍光抗体直接法では基底膜部領域にIgG、C3の沈着を認める。また好発年齢が高齢者ということもあるが、時に内臓悪性腫瘍の合併を伴うこともある。
BPを典型とする類天疱瘡の治療において、従来、皮膚症状の紅斑に対しては、副腎皮質ホルモン剤の外用、びらんに対してはエキザルベ(登録商標)、亜鉛華単軟膏の外用を行うが、外用のみでは効果不充分のためテトラサイクリン系の抗生物質(ミノマイシン(登録商標)、アクロマイシン(登録商標))、ニコチン酸アミド、副腎皮質ホルモン剤の内服による全身投与、さらに効果がなければ免疫抑制剤の全身投与、血漿交換療法が行われてきた。また、そう痒に対しては対症療法として抗ヒスタミン剤または抗アレルギー剤の投与が行われてきた。
一方、IFN−γは、細胞が生産するウイルス増殖抑制因子として発見されて以来、種々の生物学的作用が明らかにされてきた。そして、これらの作用に基づいて臨床応用を目指した研究が進み、皮膚疾患においてはアトピー性皮膚炎、ヘルペス感染症、皮膚T細胞リンパ腫などに対する有効性が明らかにされてきた。しかしながら、類天疱瘡に対する有効性を検討した結果は未だ報告されておらず、臨床使用例も全く報告されていない。
【発明の開示】
類天疱瘡の治療においては、本疾患が自己免疫疾患のため軽快および略治しても長期にわたり経過加療を要する。通常、全身的負担が軽度なテトラサイクリン系の抗生物質、ニコチン酸アミドの内服から開始するが、これらの内服のみでは効果不充分の症例が多く、副腎皮質ホルモン剤の全身投与を併用することが多い。この副腎皮質ホルモンの全身投与においては、開始時は大量に投与され著効する場合が多いが、外来治療可能な安全量になるまで減量していくためには約2ヶ月の入院を要する。また、副腎皮質ホルモン剤でも効果が得られない場合は、免疫抑制剤の全身投与や血漿交換を併用することもある。
しかし高齢者の場合、長期におよぶこれらの治療に伴い、高血圧、糖尿病、骨粗鬆症、間質性肺炎、細菌感染症などの合併症を併発しやすくなり、一旦発症するとそれらの症状に対する治療も必要となり、入院期間が3〜4ヶ月に及ぶこともある。さらには極端に衰弱が激しくなり、合併症により死亡したり、投与している薬剤を減量中に皮疹が増悪し再度投与量を増量することで退院が延期することがあり、治療に難渋することがある。
従って、類天疱瘡に対して再発は認めるとしても、治療において単独で有効かつ速効性で副作用も少なく、持続性も長期におよび、また副腎皮質ホルモン剤や免疫抑制剤を併用したとしてもこれらの薬剤の速やかな減量が可能となる薬剤による治療が望まれる。そうなれば、患者は早期に退院し社会復帰でき、再発したとしても再度の短期入院で加療することが可能となる。かかる事情を背景として、本発明は類天疱瘡の治療法において上記の課題を解決し得る薬剤を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
本発明者は、IFN−γが類天疱瘡に顕著な治療効果を示すことを明らかにし、本発明を完成した。即ち、本発明は、IFN−γを有効成分とする類天疱瘡治療剤を提供する。IFN−γは類天疱瘡に対して速効性があり、副作用もほとんど認められず、有効である。IFN−γの作用機序としては、類天疱瘡の発症に直接関与すると考えられる好酸球に対して、その遊走および機能を抑制するものと推測される。
なお、本明細書において、類天疱瘡とは、水疱性類天疱瘡(BP)、結節性類天疱瘡、瘢痕性類天疱瘡、若年性類天疱瘡その他の類天疱瘡を含む自己免疫疾患をいう。特に水疱性類天疱瘡、瘢痕性類天疱瘡および結節性類天疱瘡、典型的には水疱性類天疱瘡は、本発明の治療剤による効果が期待できる。また、類天疱瘡の治療とは、IFN−γの投与により類天疱瘡の症状が軽減すること、軽減した症状が再び悪化することを防止すること、あるいは初期症状の類天疱瘡が疑われる患者の症状発症を抑制することなどを含めた意味である。
【図面の簡単な説明】
図1は、症例1の臨床経過写真(右大腿部)であり、aはIFN−γ投与前の臨床像、bは投与2日後の臨床像、およびcは7V終了時の臨床像である。
図2は、症例2の臨床経過写真であり、aはIFN−γ投与前の臨床像、およびbは7V終了時の臨床像である。
図3は、症例3の臨床経過写真(胸部)であり、aはIFN−γ投与前の臨床像、bは投与後の臨床像である。
図4は、症例6の臨床経過写真(腹部)であり、aはIFN−γ投与前の臨床像、bはIFN−γ投与3日後の臨床像、およびcは7V終了時の臨床像である。
図5は、症例6の臨床経過写真(背部)であり、aはIFN−γ投与前の臨床像、bは7V終了時の臨床像である。
[発明を実施するための形態]
本発明に使用するIFN−γとしては、IFN−γ1a(interferon gamma−1a)、IFN−γ1b(interferon gamma−1b)、IFN−γn1(interferon gamma−n1)等の天然型または遺伝子組替え型のいずれでも良いが、安定した供給源としては、遺伝子組替え型のIFN−γが好ましく、例えば菌状息肉症治療剤として第一サントリーファーマ株式会社から市販されているIFN−γ製剤である、ビオガンマ(登録商標)をそのまま使用することができる。また本発明の有効性を失わない限り、上記IFN−γに代えて、その構成アミノ酸を欠失、挿入および置換したIFN−γ変異体を、臨床使用が可能なように調整して用いることができる。このようなIFN−γ変異体の例としては、例えばN末端の4個のアミノ酸(Cys−Tyr−Cys−Gln)を欠失したもの(特公平7−45516号公報)、プロセッシングによりC末端のアミノ酸を欠失したもの(例えば特開昭60−84298号公報に記載されたC末端11アミノ酸を欠失した変異体)、或いは9番目のアミノ酸がLysからGlnに変換されたもの(例えば、特公平7−45515号公報)等が例示される。
本発明の治療剤は、類天疱瘡の治療のため、IFN−γを好ましくは点滴用の静注用製剤として含有する。本発明の類天疱瘡治療剤は、例えば1日1回〜数回、20万〜400万JRUのIFN−γを、症状に応じて連日ないし適当な日をおいて、症状を観察しながら投与することができる。投与量、投与間隔、投与回数は、症状、副作用および年齢に応じて、適宜変更可能である。
好ましい態様の一例を示すと、1日1回200万JRUを7日間連続して点滴静注を行う。症状が軽減した後は、2〜3日おき、さらには1〜2週間に1回に間隔を開けて投与することも可能である。投与による副作用が生じた場合、その症状に応じて数日に1回の点滴静注に変更することが可能である。また、副作用の1つである発熱を抑制するために解熱鎮痛剤を併用することも可能であり、さらに、従来類天疱瘡の治療に用いられてきた薬剤、例えば副腎皮質ホルモン剤の全身投与や対症療法の抗ヒスタミン剤および抗アレルギー剤などの併用も可能である。例えばステロイド薬としてはプレドニゾロン、メチルプレドニゾロン、ベタメタゾン、デキサメタゾンなどが使用可能であり、抗アレルギー薬としてはフマル酸ケトチフェン、塩酸オロパタジン、塩酸セチリジン、エバスチン、塩酸フェキソフェナジンなどが使用可能であり、抗ヒスタミン薬としては塩酸ホモクロルシクリジン、マレイン酸クロルフェニラミン、メキタジン、フマル酸クレマスチン、塩酸シプロヘプタジンなどが使用可能であるが、これらに限られるわけではなく皮膚科領域で通常使用されるステロイド薬、抗アレルギー薬、抗ヒスタミン薬であればいずれも使用可能である。それらの薬剤は、本発明の製剤中にIFN−γとともに含めてもよく、別個の薬剤として併用してもよい。
本発明の製剤は、IFN−γに加えて、薬剤の製造のために慣用されている担体、助剤、添加剤等を含んでよい。例えば、塩化ナトリウム、塩化カリウム等の等張化剤;リン酸水素ナトリウム、リン酸二水素ナトリウム等の緩衝剤;エデト酸ナトリウム等の安定化剤;エチルパラベン、ブチルパラベン、塩化ベンザルコニウム等の防腐剤;水酸化ナトリウム、希塩酸等のpH調節剤等を含めて、公知の製剤方法で、静注剤等の製剤に調製することができる。IFN−γ製剤は例えば、精製されたIFN−γ原液に適当な安定剤および緩衝剤を添加し凍結乾燥することにより製造することができる。
本発明のIFN−γを含有する治療剤による類天疱瘡の治療効果を判定するには、皮膚症状の改善など日常の診療で行っている効果判定方法による。例えば水疱性類天疱瘡の場合、患者の紅斑、水疱、びらんの三つを指標とし、これらの程度を5段階に分けて、治療剤投与の前中後における効果を評価して行うことができる。例えば、紅斑、水疱、びらんを下記の5段階で評価する。これら三つの指標の少なくとも一つに好ましい変化が生じた場合、類天疱瘡患者の症状が軽減したと判断される。
1)紅斑
0.紅斑なし、ほぼすべて色素沈着
1.紅斑が全体の1/3以下、残りは色素沈着
2.紅斑が全体の1/3〜2/3、残りは色素沈着
3.変化なし
4.紅斑の拡大、新生あり
2)水疱
0.水疱なし
1.入院時の水疱の数の1/3以下
2.入院時の水疱の数の1/3〜2/3
3.水疱の数に変化なし
4.水疱の新生あり
3)びらん
0.びらんなし、ほぼすべて上皮化
1.びらんは入院時の1/3以下、残りは上皮化
2.びらんは入院時の1/3〜2/3、残りは上皮化
3.びらんの面積は変化なし
4.びらんの拡大傾向あり。
[作用]
IFN−γがどのようにして類天疱瘡の治療に有効であるかの作用機序は、類天疱瘡の発症機序が未だ不明であるのと同様に、未だ正確には明らかでない。類天疱瘡は自己免疫疾患であるが、末梢血好酸球増多や組織中に著明な好酸球浸潤を伴ってくる。これまで本発明者らは、類天疱瘡患者の組織内に浸潤してくる好酸球の免疫組織学的検討および電子顕微鏡による形態学的検討を行い、好酸球がBPの形成に関与していることを報告してきた1)2)。さらに類天疱瘡患者の末梢血好酸球には比重の不均一性が存在し、活性型の低比重好酸球が有意に増加すること3)、BP水疱液中のECP濃度が著明に高い4)ことも明らかにしてきた。BPは自己免疫疾患であるが、上記のように発症に十分に関与すると考えられる好酸球の浸潤および機能を抑制することで類天疱瘡に対する治療が可能なのであろうと推測される。
この好酸球を分化、誘導し活性化する多くの因子は存在するが、特に骨髄の造血幹細胞から末梢血にかけての因子として、主にIL−3、IL−5、GM−CSFといったサイトカインが関与していることが明らかにされている。通常、末梢血T細胞のヘルパーT細胞は産生するサイトカインの種類によりTh1細胞とTh2細胞に分類され、上記のIL−3、IL−5、GM−CSFはTh2細胞から産生される。正常状態ではこれら2種類の細胞の間には、Th1細胞から産生されるIFN−γを介してTh2細胞を抑制し、Th2細胞から産生されるIL−10によりTh1細胞を抑制するという均衡が存在している。
類天疱瘡の病態に係る好酸球の増多、浸潤にTh2細胞優位に基づくIL−3、IL−5、GM−CSF等の関与が考えられるため、IFN−γ投与によりTh2細胞の機能を抑制し、IL−3、IL−5、GM−CSFの産生を抑制し、好酸球の分化、誘導および活性化を抑制することにより類天疱瘡の症状の改善に導くものと推測される。
【実施例】
次いで実施例として、種々の治療で難治性であったBP患者に対してIFN−γが著効した症例を説明する。
[臨床例1]BP患者のIFN−γによる治療例(1)
被験者:58歳、男性
主訴:全身の浮腫性紅斑、水疱、びらん
家族歴:特記すべきことなし。
既往歴:1992年より精神分裂症、てんかん
現病歴および経過:2001年2月より上肢、背部に緊満性水疱が多発した。久留米大学病院にて精査の結果BPと診断した。アクロマイシン(登録商標)、ニコチン酸アミドの内服を開始したが、増悪してきたためプレドニゾロン30mgの内服併用を開始した。一時軽快したがプレドニゾロンを15mgに減量したところ再燃してきたため30mgに増量したが、水疱の新生を認めるため2002年1月に入院した。入院後血漿交換を合計13回施行し、ステロイド内服もベタメタゾン3mgからプレドニゾロン50mgに変更し、軽快とともに40mg、20mg、15mgと減量し同年4月に退院した。その後外来でプレドニゾロン15mg、ミノサイクリン100mg、ニコチン酸アミド900mgで経過をみていたが、退院1ヶ月後には再度全身に大小の水疱が多発してきたため2002年5月に再入院した。入院後全身に水疱、びらんを多数認めたがプレドニゾロン、ミノサイクリン、ニコチン酸アミドは増量せずIFN−γ200万JRU(1V)を点滴静注で5月24日より1日1回の連日投与を開始した。しかし5月26日にてんかん発作が出現したため一旦中止を余儀なくされたが、既往歴があったため5月29日より隔日に慎重に投与を再開し、6月4日までで7Vを終了した。著効したため、その後は3〜4日に1回の1V投与とし、8月には1週間に1回の点滴静注で再発もなく、現在外来で2週間に1回のみの点滴で経過良好である。内服についても、ミノサイクリン、ニコチン酸アミドは中止しておりプレドニゾロンも現在5mgのみ続行中であるが、いずれ中止の予定である。またてんかんも1度だけ認めたのみでその後は認めておらずIFL−γとの関連性はないものと考えられた。さらに投与後の発熱は投与4回目まで38〜39度台の発熱を認めたが、その後は37度台の微熱程度となり現在は特に解熱剤の使用は行っていない。
IFN−γ投与前(5/23)は全身に水疱、びらんが多発していた(図1a)。投与2日後(5/26)で既にかなり軽快しており(図1b)、7V終了時(6/5)では水疱の新生は全くなくさらに軽快を認めた(図1c)。現在も全て色素沈着を認めるのみで紅斑、水疱、びらんは認めていない。また評価においては、下記表1に示すとおり、紅斑は2(5/26)→1(6/5)→0(8/22)、水疱は1(5/26)→0(6/5)→0(8/22)、びらんは2(5/26)→1(6/5)→0(8/22)であった。
末梢血好酸球数は1190(5/23)→1246(5/27)→602(6/4)→356(9/4)と減少した。また血中のIL−3、IL−4、IL−5、GM−CSFについてはIFN−γ投与前後においてすべて低値であった。

[臨床例2]BP患者のIFN−γによる治療例(2)
被験者:74歳、男性
主訴:四肢、躯幹の浮腫性紅斑と水疱
家族歴:特記すべきことなし
既往歴:1992年脳梗塞
現病歴および経過:2002年4月に四肢にそう痒を伴う紅斑が多発してきた。近医で副腎皮質ホルモン剤の外用とセレスタミンの内服療法していたが、水疱を伴う紅斑が出現してきたため久留米大学病院を紹介受診した。精査の結果BPと診断し5月8日よりロキシスロマイシン300mg、ニコチン酸アミド1500mg、プレドニゾロン20mgの内服を開始したが、軽快しないため5月17日入院した。内服を同量で続行したが、やはり水疱の新生を認めるため6月15日よりIFN−γ200万JRU(1V)の1日1回の点滴静注を開始した。7日間の連日投与を実施したところ著効したため、その後3日に1回の点滴静注とした。プレドニゾロンも6月22日より12.5mgに減量し7月8日よりさらに10mgに減量した。その後も再発を認めないためIFN−γは週1回として8月7日に退院した。現在、プレドニゾロン5mgでIFN−γは2週に1回の点滴で再発は認めていない。
IFN−γ投与前(6/14)は全身に紅斑、水疱、びらんが多発していた(図2a)が、7V終了時(6/21)には水疱は全て消失しびらんもほぼすべて上皮化も認めた(図2b)。評価においては、下記表2に示すとおり、紅斑は1(6/17)→0(6/21)、水疱は1(6/17)→0(6/21)、びらんは1(6/17)→0(6/21)となり現在も全く皮疹の再発は認めていない。
末梢血好酸球数は、2619(6/13)→1136(6/18)→1218(6/21)→143(9/25)と減少した。また血中の投与前後においてIL−3とGM−CSFはともに低値であったがIL−5は投与前で18.5pg/mlが投与後で5.0pg/ml以下、IL−4は投与前で15.6pg/mlが投与後で4.6pg/mlと低下を認めた。

[臨床例3]BP患者のIFN−γによる治療例(3)
被験者:67歳、女性
主訴:全身の浮腫性紅斑、水疱、びらん
家族歴:特記すべきことなし。
既往歴:特記すべきことなし。
現病歴および経過:8月26日にIFN−γ200万JRU(1V)を点滴静注したが、尿路感染症が判明しためため、一旦中止した。その後、IFN−γ200万JRU(1V)を点滴静注により9月10日から9月16日まで1日1回連日投与した。
IFN−γ投与前(8/26)は全身に紅斑、水疱、びらんが多発していた(図3a)。投与後(9/17)はかなり軽快し、水疱の新生は全く認められなかった(図3b)。現在も全て色素沈着を認めるのみで紅斑、水疱、びらんは認めていない。また評価においては、下記表3に示すとおり、紅斑は2(9/13)→1(9/17)、水疱は2(9/13)→0(9/17)、びらんは2(9/13)→1(9/17)であった。
末梢血好酸球数は288(8/26)→310(9/2)→39(9/13)→0(9/17)と減少した。また血中のIL−3、IL−5、GM−CSFは、IFN−γ投与前後(8/26、9/17)においてすべて低値であった。血中のIL−4は、投与前(8/26)で16.8pg/mlが投与後(9/17)で12.7pg/mlと若干の低下を認めた。

[臨床例4]BP患者のIFN−γによる治療例(4)
被験者:68歳、女性
主訴:全身の浮腫性紅斑、水疱、びらん
家族歴:特記すべきことなし。
既往歴:特記すべきことなし。
現病歴および経過:IFN−γ200万JRU(1V)を点滴静注により1月21日から1月27日まで1日1回連日投与した。
IFN−γ投与前(1/21)は全身に、紅斑、水疱、びらんが多発していた。投与後(1/28)はかなり軽快し、水疱の新生は全く認められなかった。投与後一週間を経過(2/5)しても、色素沈着を認めるのみで紅斑、水疱、びらんは認めていない。また評価においては、下記表4に示すとおり、紅斑は2(1/24)→1(1/28)→0(2/5)、水疱は2(1/24)→0(1/28)→0(2/5)、びらんは2(1/24)→1(1/28)→0(2/5)であった。
末梢血好酸球数は5334(1/21)→5202(1/24)→5251(1/28)→2736(1/31)→0(2/5)と減少した。また血中のIL−3、IL−4、GM−CSFは、IFN−γ投与前後(1/21、1/28)においてすべて低値であった。血中のIL−5は、投与前(1/21)で76.1pg/mlが投与後(1/28)で28.3pg/mlと低下を認めた。

[臨床例5]BP患者のIFN−γによる治療例(5)
被験者:93歳、男性
主訴:全身の浮腫性紅斑、水疱、びらん
家族歴:特記すべきことなし。
既往歴:糖尿病、高血圧。
現病歴および経過:IFN−γ200万JRU(1V)を点滴静注で6月6日から6月12日まで1日1回連日投与した。
IFN−γ投与前(6/6)は全身に、紅斑、水疱、びらんが多発していた。投与後(6/12)はかなり軽快し、水疱の新生は全く認められなかった。投与後一週間を経過(6/19)しても、色素沈着を認めるのみで紅斑、水疱、びらんは認めていない。また評価においては、下記表5に示すとおり、紅斑は3(6/9)→2(6/12)→1(6/19)、水疱は2(6/9)→0(6/12)→0(6/19)、びらんは2(6/9)→1(6/12)→0(6/19)であった。
末梢血好酸球数は1080(5/29)→190(6/6)→71(6/9)→54(6/12)→0(6/19)と減少した。また血中のIL−3、GM−CSFは、IFN−γ投与前後(6/6、6/12)においてすべて低値であった。血中のIL−4は、投与前(6/6)で7.5pg/mlが投与後(6/12)で4.0pg/ml、IL−5は、投与前(6/6)で7.5pg/mlが投与後(6/12)で5.0pg/ml以下と低下を認めた。

[臨床例6]BP患者のIFN−γによる治療例(6)
被験者:55歳、男性
主訴:全身の浮腫性紅斑、水疱、びらん
家族歴:特記すべきことなし。
既往歴:特記すべきことなし。
現病歴および経過:IFN−γ200万JRU(1V)を点滴静注で8月26日から9月1日まで1日1回連日投与した。
IFN−γ投与前(8/26)は全身に、紅斑、水疱、びらんが多発していた(図4a、図5a)。投与後(9/1)はかなり軽快し、水疱の新生は全く認められなかった(図4b、図4c、図5c)。投与後10日を経過(9/11)しても、色素沈着を認めるのみで紅斑、水疱、びらんは認めていない。また評価においては、下記表6に示すとおり、紅斑は3(8/28)→1(9/1)→0(9/11)、水疱は2(8/28)→0(9/1)→0(9/11)、びらんは2(8/28)→1(9/1)→0(9/11)であった。
末梢血好酸球数は481(8/26)→148(8/28)→192(9/1)→86(9/5)→0(9/11)と減少した。また血中のIL−3、IL−5、GM−CSFは、IFN−γ投与前後(8/26、9/1)においてすべて低値であった。血中のIL−4は、投与前(8/26)で24.8pg/mlが投与後(9/1)で17.2pg/mlと低下を認めた。


【発明の効果】
以上の結果より、いずれの症例においても、IFN−γは難治性であった類天疱瘡に対して極めて優れた有効性を示した。また臨床症状の軽快と同時に好酸球数も明らかに減少しており、IFN−γがTh2細胞を抑制することで好酸球の遊走と機能を抑制し症状の改善を認めたものと考えられる。これまで同様の考えでIFN−γを投与した皮膚疾患の報告としては、好酸球性膿疱性毛包炎(EPF)5)とアトピー性皮膚炎(AD)6)があるが、EPFでは臨床症状において全身に影響をおよぼす程の症状は示さず他に著効を示す薬剤があり、ADでは急性期にはやや有効であるが、慢性期になると効果を示さないことが多いようである。類天疱瘡の場合、好発年齢が高齢者であり症状が進行してくると全身状態に影響をおよぼすことがあり、治療も長期におよぶため副作用も出現することが多く、本発明は今まで速効性で安全性のある治療法が存在しなかった類天疱瘡に対する治療法を提供することが可能となった。
[参考文献]
1)名嘉眞武国、津田眞五ほか:マウス抗ヒトECPモノクローナル抗体(EG2)を用いた好酸球の免疫組織化学的検討.医学の歩み150:231−232、1989;
2)Takekuni NAKAMA,Shingo TSUDA:Ultrastructural and immunocyte−chemical aspects of infiltrated eosinophils in bullous pemphigoid.Electlon Microscopy in Dermatology:181−185、1994;
3)Shingo TSUDA,Minoru MIYASATO,et al:Eosinophil phenotypes in bullous pemphigoid.Journal of Dermatology 19:270−279、1992;
4)津田眞五、宮里 稔、名嘉眞武国、他:皮膚疾患と好酸球II.水疱症.皮膚における好酸球浸潤とその周辺:151−176、臨床医薬研究協会、1990;
5)M Fushimi,Y Tokura,et al:Eosinophilic pustular folliculitis effectively treated with recombinant interferon−γ:suppression of mRNA expression of interleukin 5 in peripheral blood mononuclear cells.Br J Dermatology 134:766−772、1996;
6)Seth R.Stevens,MD;Jon M.Hanifin,et al:Long−term Effectiveness and Safety of Recombinant Human Interferon Gamma Therapy for Atopic Dermatitis Despite Unchanged Serum IgE Levels.Arch Dermatol 134:799−804、1998。
【図1】

【図2】

【図3】

【図4】

【図5】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
インターフェロンγを有効成分とする類天疱瘡治療剤。
【請求項2】
1日当たりの投与量が20万〜400万JRU、好ましくは200万JRUである請求項1の治療剤。
【請求項3】
静脈注射用の製剤である、請求項1または2の治療剤。
【請求項4】
抗ヒスタミン剤、抗アレルギー剤および/または副腎皮質ホルモン剤と併用するための請求項1〜3のいずれか1項の治療剤。
【請求項5】
類天疱瘡が水疱性類天疱瘡、瘢痕性類天疱瘡、および結節性類天疱瘡である、請求項1〜4のいずれか1項に記載の治療剤。
【請求項6】
類天疱瘡が水疱性類天疱瘡である、請求項1〜4のいずれか1項に記載の治療剤。

【国際公開番号】WO2004/058295
【国際公開日】平成16年7月15日(2004.7.15)
【発行日】平成18年4月27日(2006.4.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−562961(P2004−562961)
【国際出願番号】PCT/JP2003/017031
【国際出願日】平成15年12月26日(2003.12.26)
【出願人】(503062312)第一アスビオファーマ株式会社 (25)
【出願人】(000113908)マルホ株式会社 (12)
【Fターム(参考)】