説明

風力水浄化装置

【課題】従来の、風車により風力を回転動力に変換する風車ユニットと、該回転動力によりスクリューを回転して水流を発生する水流発生ユニットとを備えた風力水浄化装置では、場所や時間によって大きく変動する風力エネルギを効率的に利用できない、という問題があった。
【解決手段】スクリュー9は、回転動力が伝達されるスクリュー軸8によって回転するブレード支持体40と、該ブレード支持体40の外周にブレード軸41を介して回動可能に支承されるブレード42・142とを備えると共に、該ブレード42とスクリュー9の回転面53との成す傾き角51・151を前記スクリュー9の回転速度に応じて自動的に増減させる角度制御機構38・138と、前記スクリュー9を取り囲む水路58をブレード支持体40との間に形成する筒体32とを設けた。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水域の水面上に浮かべて風車により風力を回転動力に変換する風車ユニットと、該回転動力によりスクリューを回転して水流を発生する水流発生ユニットとを備えた風力水浄化装置に関し、特に、風力の大きさに応じて安定した水流を発生可能な水流発生ユニットの構成に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、湖沼、貯水池や海湾奥等の閉鎖系水域において、水が滞留してアオコや赤潮等が発生する場合には、電動モータやエンジンで駆動される水中ポンプやスクリュー等を使って水攪拌を行うが、省エネの観点から風の運動エネルギである風力エネルギを利用し、該風力エネルギを風車で回転エネルギに変えて回転動力を発生させ、該回転動力によって水中のスクリューを直接に回転駆動し、水流を発生させて水攪拌を行う技術が公知となっている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2001−47084号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、前記技術では、場所や時間によって大きく変動する風力エネルギを効率的に利用できない、という問題があった。
例えば、風力が小さい低風力状態の場合、スクリューの回転動力が、回転時にスクリューのブレードが水から受ける抗力よりも小さくなると、スクリューが回転起動できない。逆に、風力が大きい高風力状態の場合、スクリューの回転動力が、回転時にブレードの受ける抗力に比べて過大になると、スクリューが極めて高速で回転し、発生する大量の水流から受ける反力により、下降流では、風力水浄化装置が水面近くまで持ち上げられてバランスを崩して転倒し、逆に、上昇流では、風力水浄化装置が水中深くまで引き込まれて風車や動力伝達経路が浸水して故障する。このため、装置寿命が悪化すると共に、安定した水流発生が難しい、という問題があった。
そこで、このような回転起動性・設置安定性向上の観点から、ブレードとスクリュー回転面との成す角度(以下、「傾き角」とする)を初めから小さく設定することにより、風力の大小にかかわらず、ブレードの受ける抗力とブレードの押し出す水量を減少させておく対応が考えられる。しかしながら、それでは、せっかく風力が増加しても十分な量の水流が得られず、風力エネルギが無駄になる、という問題があった。
加えて、時間変動が大きい風力エネルギを利用するため、スクリューの回転動力が時間によって大きく変動し、発生する水流も脈流となりやすく、しかも、該スクリューの周囲はフロートが配置されているだけでほとんど開放状態にある。このため、発生した水流の大半は脈流となって周囲に分散され、十分な量の安定した水流が得られない、という問題もあった。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明の解決しようとする課題は以上の如くであり、次にこの課題を解決するための手段を説明する。
すなわち、請求項1においては、水域の水面上に浮かべて風車により風力を回転動力に変換する風車ユニットと、該回転動力によりスクリューを回転して水流を発生する水流発生ユニットとを備えた風力水浄化装置において、前記スクリューは、前記回転動力が伝達されるスクリュー軸によって回転するブレード支持体と、該ブレード支持体の外周にブレード軸を介して回動可能に支承されるブレードとを備えると共に、該ブレードとスクリューの回転面との成す傾き角を前記スクリューの回転速度に応じて自動的に増減させる角度制御機構と、前記スクリューを取り囲む水路をブレード支持体との間に形成する筒体とを設けたものである。
請求項2においては、前記角度制御機構は、前記スクリュー回転時の水の抗力中心を、ブレード軸の回転軸心から、スクリューの回転軸心方向に沿って流れる水流の上手側に偏移させるオフセット構造と、前記ブレード軸を軸周りに付勢して所定の初期位置に設定する戻しばねとを備えることにより、スクリューの回転速度の増加に応じて前記傾き角を増加させるものである。
請求項3においては、前記角度制御機構は、前記スクリュー回転時の水の抗力中心を、ブレード軸の回転軸心から、スクリューの回転軸心方向に流れる水流の下手側に偏移させるオフセット構造と、前記ブレード軸を軸周りに付勢して所定の初期位置に設定する戻しばねとを備えることにより、スクリューの回転速度の増加に応じて前記傾き角を減少させるものである。
請求項4においては、前記風車からの回転動力の不足分を補う補助動力機構を付設するものである。
【発明の効果】
【0006】
本発明は、以上のように構成したので、以下に示す効果を奏する。
すなわち、請求項1において、低風力状態にあってスクリューの回転動力が小さい場合には、最初は傾き角を小さくすることにより、水中移動中のブレードにおいて水から抵抗を受ける部分の断面積(以下、「抵抗断面積」とする)を減少させて、ブレードの受ける抗力を減らすことができ、スクリューの回転起動性を向上できる。スクリューが回転起動してから安定回転中は、傾き角を大きくすることにより、ブレードの押し出す水量を増加させて、十分な水流が確保できる。高風力状態にあってスクリューの回転動力が大きい場合には、傾き角を小さくせずとも、スクリューを容易に回転起動でき、スクリューが回転起動した後も、十分な水流を確保できる。そして、時間とともに回転動力が増加してスクリューが高速で回転すると、傾き角を小さくすることにより、ブレードの押し出す水量を減少させ、風力水浄化装置が水流の反力により転倒・浸水することを防止して風力水浄化装置の設置安定性を向上できる。更に、前記筒体により、スクリューの周囲の水路を通過する間に、その流路抵抗によって脈流が緩和され、しかも途中で開放されることがなく無駄に周囲に分散されず、均一で十分な量の一連の水流を確保できる。このようにして、前記角度制御機構と筒体とにより、回転起動性・設置安定性・水流安定性を向上させることができ、風力エネルギの効率的な利用が可能となる。
請求項2により、オフセット構造と戻しばねとから成る簡単な構成によって、低風力状態においても、スクリューの回転起動性を向上させつつ、十分な水流を確保することができ、装置コストの低減・メンテナンス性の向上を図ることができる。
請求項3により、オフセット構造と戻しばねとから成る簡単な構成によって、高風力状態においても、風力水浄化装置の設置安定性を向上させることができ、装置コストの低減・メンテナンス性の向上を図ることができる。
請求項4により、極めて低風力状態にあってスクリューを回転駆動できない場合でも、補助動力機構からの回転動力によってスクリューを回転駆動することができ、風力水浄化装置の常時安定駆動が可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【図1】本発明に係わる風力水浄化装置の全体構成を示す側面図である。
【図2】風車の外観図であって、図2(a)は風車の平面図、図2(b)は同じく側面図である。
【図3】伝動支持装置の側面一部断面図である。
【図4】スクリューの側面一部断面図である。
【図5】低風力状態に対応するスクリューの平面図である。
【図6】同じく側面図であって、図6(a)はブレード初期位置におけるスクリューの側面図、図6(b)はブレード立ち上がり位置におけるスクリューの側面図、図6(c)はブレード初期位置復帰時のスクリューの側面図である。
【図7】高風力状態に対応するスクリューの平面図である。
【図8】同じく側面図であって、図8(a)はブレード初期位置におけるスクリューの側面図、図8(b)はブレード略水平位置におけるスクリューの側面図、図8(c)はブレード初期位置復帰時のスクリューの側面図である。
【図9】フローガイドの側面図である。
【図10】同じく平面図である。
【図11】別形態の風力水浄化装置の全体構成を示す側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下、本発明の実施の形態について詳細に説明する。
まず、本発明に関わる風力水浄化装置1の全体構成について、図1乃至図3により説明する。
該風力水浄化装置1は、水域の水面4上に浮かべて風車5により風力を回転動力に変換する風車ユニット2と、該回転動力によりスクリュー9を回転して水流を発生する水流発生ユニット3とにより構成され、該水流発生ユニット3は前記風車ユニット2の下方に吊設されている。
【0009】
前記風車ユニット2においては、ステンレス・プラスチック等の中空材や木材・発泡スチロール等の中実材から成る複数のフロート12上に、板状の基台本体11を載置固定することにより、基台7が形成され、該基台本体11の平面視略中央部には、伝動支持装置6が立設される。
【0010】
該伝動支持装置6は、前記基台本体11の上面に複数のボルト13によってフランジ部14aが締結固定されたパイプ14と、該パイプ14内側の上下部にそれぞれ嵌装されたボス15・16と、該ボス15・16によって回動可能に支持される伝達軸20とから構成される。
【0011】
伝達軸20は、上軸部20aと下軸部20bとから構成される。そして、前記上軸部20aの下端の凹部20a1に下軸部20bの先細り部20b1を下から挿入した後、前記上軸部20aの半径方向に穿孔した螺孔に、前記パイプ14側面の開口部14bからボルト21・21を螺挿し、該ボルト21・21の先端を前記先細り部20b1の側面に押圧することにより、上軸部20aと下軸部20bとを一体的に連結するようにしている。
【0012】
前記上軸部20aの上下端部を、それぞれ、前記ボス15の軸受け17とボス16の軸受け18によって回動可能に支持した上で、シール材19を介して、上下から、それぞれ蓋体22・23を覆設し、該蓋体22・23を、それぞれ前記ボス15・16に締結固定することにより、上軸部20aがボス15・16から脱着しないようにしている。
【0013】
すなわち、伝達軸20を複数の部材である上軸部20a・下軸部20bから構成すると共に、このうちの上軸部20aのみにパイプ14との軸受け17・18を設けて抜け止めが施されているので、パイプ14への伝達軸20の組み込みが容易となり、伝動支持装置6の組立性が向上する。そして、このような伝動支持装置6の伝達軸20の上端には、前記風車5が連結されている。
【0014】
該風車5は、前記伝達軸20と同軸上で上方に延設された縦軸25と、該縦軸25に支持される一対の羽根26・26と、該羽根26・26の上下端を挟むように配置された円盤状の天板27・底板28とから構成される。
【0015】
前記縦軸25の下端には、フランジ部25bが形成され、該フランジ部25bの上面に前記底板28を載置した上で、該底板28の上方から複数のボルト24を螺挿して、底板28、フランジ部25b、及び前記上軸部20a上端のフランジ部20a2を互いに締結する。
【0016】
縦軸25の上端にも、フランジ部25aが形成され、該フランジ部25aの下面に前記天板27を下から当接した上で、前記フランジ部25aの上方から複数のボルト24を螺挿して、フランジ部25aに天板27を締結する。
【0017】
そして、前記一対の羽根26・26は、これら天板27・底板28との間に配置される。該羽根26・26は、いずれも半割状であって、その凸部側が時計方向(以下、「正転方向」とする)Fに向かうようにして、平面視で前記縦軸25を挟んだ点対称位置に配置されると共に、その内側縁26a・26aが前記縦軸25の周りに固設される。
【0018】
前記羽根26・26の上下端は、それぞれ、天板27の下面と底板28の上面に固設されており、これにより、羽根26・26の剛性を高めることができ、たとえ高風力状態で羽根26・26が高速回転しても変形しないようにして、部品寿命の向上を図っている。
【0019】
また、前記水流発生ユニット3においては、前記伝達軸20と同軸上にスクリュー軸8が延設される。該スクリュー軸8の上端には、フランジ部8aが形成され、該フランジ部8aが、前記下軸部20b下端のフランジ部20b2に、ボルト30によって締結されている。
【0020】
これにより、前記羽根26・26の凹部側が風を受けると風車5が正転方向Fに回転し、その回転動力は、回転方向を変えることなく、縦軸25が連結された伝達軸20からスクリュー軸8に伝達される。そして、このようなスクリュー軸8の下端には、後述のようにして、スクリュー9が連結されると共に、該スクリュー9と前記スクリュー軸8を取り囲むようにして、フローガイド10が配設される。
【0021】
次に、前記スクリュー9について、図4乃至図6により説明する。
該スクリュー9において、その柱状のブレード支持体40の上面に、前記スクリュー軸8下端のフランジ部8bがボルト39によって締結されると共に、ブレード支持体40の上半部の外周側面には、複数の筒状の支持凹部40aが、ブレード支持体40の回転軸心46を中心とした放射状に、等間隔で形成される。更に、ブレード支持体40の下半部は、空洞化されてスクリュー9の軽量化が図られると共に、その下端は球面に形成されてスクリュー9の回転時の抵抗抑制が図られている。
【0022】
前記支持凹部40a内では、軸支持体43の内半部を構成するねじ部43aが、座金45を介して、前記ブレード支持体40に螺挿固定されると共に、軸支持体43の外半部を構成する軸支持筒43bには、ブレード軸41の軸本体41aが回動可能に挿入されている。
【0023】
該軸本体41aでブレード支持体40の近傍には、外径が軸本体41aよりも大きく、かつ支持凹部40aの内径と略同径であるリング状のブレード受け41bが外嵌固定される。該ブレード受け41bには、前記軸支持筒43bの周囲に巻回した捩りコイル状の戻しばね44の一端の係止部44aが係止される一方、該戻しばね44の他端は、前記軸支持筒43bに係止されている。これにより、ブレード軸41が外部からの負荷により回転軸心47を中心に回動しても、戻しばね44の弾性力により、ブレード軸41は図6(a)に示す無負荷状態の初期位置49に戻る方向に常時付勢される。
【0024】
更に、このような軸本体41aの外端には、固定ボルト41cが螺挿され、該固定ボルト41cと、前記ブレード受け41b内縁の階段状の凹部41b1との間に取付筒部42aが着脱可能に装着される。そして、該取付筒部42aを挟んで正転方向Fの前後に、扇形状の前翼42bと後翼42cを固設することにより、ブレード42が構成されている。
【0025】
以上のようにして、前記ブレード支持体40の外周には、同一水平面上で等間隔に3個の前記支持凹部40aが形成され、該支持凹部40aには、前記ブレード42を取り付けたブレード軸41が、初期位置49に戻るように常時付勢された状態で、回動可能に支承されている。
【0026】
また、このような構成からなるスクリュー9が正転方向Fに回転すると、該正転方向Fに向かって回転する3枚の前記ブレード42により水が下方に押し出され、それに伴い、スクリュー9の回転軸心46の方向に沿って、下降流34が発生する。
【0027】
ここで、前記ブレード42は、正転方向Fに向かって斜め上方に傾斜しており、初期位置49に戻るように付勢された状態で、側面視でブレード42の外周縁とスクリュー9の回転面53との成す傾き角が51に設定されている。そして、このようなブレード42が水から受ける抗力の中心(以下、「抗力中心」とする)Dは、ブレード軸41の回転軸心47から、下降流34の上手側に、長さ57だけ偏移させた位置に設定される。
【0028】
このようなオフセット構造56は、本実施例の場合、図5に示すように、前翼42bの中心角54を後翼42cの中心角55よりも大きくして、前翼42bの面積を後翼42cの面積よりも拡大することにより、前記抗力中心Dを下降流34の上手側に偏移させる構成としている。なお、前翼42bと後翼42cの形状を変えることで抗力中心Dを調整するようにしてもよく、オフセット構造56の構成は特には限定されない。
【0029】
また、このようなオフセット構造56と前記戻しばね44とを備える角度制御機構38の動作について説明する。
低風力状態にあってスクリュー9の回転動力が小さい場合には、図6(a)に示すように、初期の傾き角51を小さく設定することにより、ブレード42の抵抗断面積を減少させ、回転起動時に水から受ける抗力P0を減らすようにしている。これにより、低風力であっても、抗力P0を容易に上回り、スクリュー9を回転起動させることができる。
【0030】
該スクリュー9が回転起動してから、風車5が安定回転し始めて回転速度が増加していくと、図6(b)に示すように、前記抗力中心Dに集中する抗力もPOからP1まで増加する。そして、該抗力P1によるブレード42の傾き角増加方向へのモーメントM1が、前記戻しばね44の弾性力によるブレード42の傾き角減少方向へのモーメントM2よりも大きくなると、ブレード42の傾き角は51から増加し、両モーメントM1・M2がバランスする傾き角52で安定する。これにより、ブレード42が前記初期位置49から立ち上がり位置50まで変化して、ブレード42の押し出す水量も増加し、発生する下降流も34から34Hまで増えて十分な水量が確保できる。なお、この水量は、前記戻しばね44の弾性力を調整して傾き角52を変えることにより、自在に調整することができる。
【0031】
その後、図6(c)に示すように、風力が低下して抗力がP1から元のP0まで減少し、該抗力P0によるモーメントM1が、前記戻しばね44によるモーメントM2よりも小さくなると、ブレード42の傾き角も52から元の51まで減少する。これにより、ブレード42が立ち上がり位置50から初期位置49に戻ると、ブレード42の押し出す水量も減少し、発生する下降流も34Hから34に戻る。
【0032】
次に、以上のようなスクリュー9の別形態のスクリュー9Aについて、図7、図8により説明する。
該スクリュー9Aは、前記スクリュー9のブレード42を抗力中心位置の異なるブレード142に変更することにより、風力水浄化装置1を高風力状態に対応可能としたものである。
【0033】
該スクリュー9Aにおいても、戻しばね44の弾性力により、ブレード軸41は、図8(a)に示す無負荷状態の初期位置149に戻る方向に常時付勢されている。
【0034】
更に、該ブレード軸41の軸本体41aには、ブレード142の取付筒部142aが着脱可能に装着され、該取付筒部142aを挟んで正転方向Fの前後に、扇形状の前翼142bと後翼142cを固設することにより、ブレード142が構成されている。
【0035】
これにより、前記ブレード支持体40の外周には、同一水平面上で等間隔に形成した3個の前記支持凹部40aが形成され、該支持凹部40aには、前記ブレード142を取り付けたブレード軸41が、初期位置149に戻るように常時付勢された状態で、回動可能に支承されている。
【0036】
このような構成からなるスクリュー9Aは、前記スクリュー9と同様に、前記回転軸心46を中心にして正転方向Fに回転すると、該正転方向Fに向かって回転する3枚の前記ブレード142により水が下方に押し出され、それに伴い、スクリュー9の回転軸心46の方向に沿って、下降流34Aが発生する。
【0037】
ここで、前記ブレード142は、正転方向Fに向かって斜め上方に傾斜しており、図8(a)に示す初期位置149では、初期位置149に戻るように付勢された状態で、側面視でブレード142の外周縁とスクリュー9Aの回転面53との成す傾き角が151に設定されている。そして、このブレード142の抗力中心DAは、ブレード軸41の回転軸心47から、下降流34Aの下手側に、長さ157だけ偏移させた位置に設定される。
【0038】
このようなオフセット構造156は、本実施例の場合、図7に示すように、後翼142cの中心角155を前翼142bの中心角154よりも大きくして、後翼142cの面積を前翼142bの面積よりも拡大することにより、前記抗力中心DAを下降流34Aの下手側に偏移させる構成としている。なお、前翼142bと後翼142cの形状を変えることで抗力中心DAを調整するようにしてもよく、オフセット構造156の構成は特には限定されない。
【0039】
また、このようなオフセット構造156と前記戻しばね44とを備える角度制御機構138の動作について説明する。
高風力状態にあってスクリュー9Aの回転動力が大きい場合には、図8(a)に示すように、たとえ初期の傾き角151が小さく設定されていなくても、抗力PA0を上回り、スクリュー9Aを正転方向Fに容易に回転起動させ、十分な下降流34Aを確保することができる。
【0040】
該スクリュー9Aが回転起動してから、風車5の回転速度が増加して過大になると、図8(b)に示すように、前記抗力中心DAに集中する抗力もPAOからPA1まで増加する。そして、該抗力PA1によるブレード142の傾き角減少方向へのモーメントMA1が、前記戻しばね44の弾性力によるブレード142の傾き角増加方向へのモーメントMA2よりも大きくなると、ブレード142の傾き角は151から減少し、両モーメントMA1・MA2がバランスする傾き角152で安定する。これにより、ブレード142が前記初期位置149から略水平位置150まで変化し、ブレード42の押し出す水量が減少し、発生する下降流も34Aから34ALまで減り、風力水浄化装置1が水流の反力により転倒・浸水等するのを防止できる。
【0041】
その後、図8(c)に示すように、風力が低下して抗力がPA1から元のPA0まで減少し、該抗力PA0によるモーメントMA1が、前記戻しばね44によるモーメントMA2よりも小さくなると、ブレード142の傾き角は152から元の151まで増加する。これにより、ブレード142が略水平位置150から初期位置149に戻ると、ブレード42の押し出す水量も増加し、発生する下降流も34ALから34Aに戻り、十分な下降流34Aを確保できる。
【0042】
次に、前記フローガイド10について、図1、図9、図10により説明する。
該フローガイド10は、前記基台本体11の下面より垂設されると共に円周上に互いに等間隔で離間して配置される複数のステー31と、該ステー31の下部を外周側面に固設した筒体32とから構成される。
【0043】
該筒体32の平面視略中央に前記スクリュー軸8が配置され、該スクリュー軸8に前記ブレード支持体40、ブレード軸41、及びブレード42が設けられており、前記ブレード支持体40の外周面と筒体32の内周面との間に、平面視リング状で十分な長さの水路58が設けられている。
【0044】
これにより、最初、筒体32上方で隣り合うステー31間の隙間から筒体32の上部開口に向かって断続的に吸い込まれた吸引流33は、前記水路58を下降流34となって通過する間に、その脈流が緩和され、筒体32の下端開口からは均一な吐出流35となって流出する。この一連の水流33・34・35は、時間が経過するに従い、全体が均一で十分な量の水流へと変化していく。なお、前記筒体32の長さ36は、前記スクリュー9の最大径である直径の長さ37以上に設定するのが好ましい。該長さ37よりも短いと、流路抵抗による脈流の緩和効果が小さくなり、均一で十分な量の水流33・34・35を確保できないからである。
【0045】
すなわち、以上の図1乃至図10に示すような構成により、水域の水面4上に浮かべて風車5により風力を回転動力に変換する風車ユニット2と、該回転動力によりスクリュー9を回転して水流33・34・35を発生する水流発生ユニット3とを備えた風力水浄化装置1において、前記スクリュー9・9Aは、前記回転動力が伝達されるスクリュー軸8によって回転するブレード支持体40と、該ブレード支持体40の外周にブレード軸41を介して回動可能に支承されるブレード42・142とを備えると共に、該ブレード42・142とスクリュー9の回転面53との成す傾き角51・151を前記スクリュー9・9Aの回転速度に応じて自動的に増減させる角度制御機構38・138と、前記スクリュー9・9Aを取り囲む水路58をブレード支持体40との間に形成する筒体32とを設けたので、低風力状態にあってスクリュー9の回転動力が小さい場合には、最初は傾き角を小さくして51とすることにより、抵抗断面積を減少させてブレード42の受ける抗力P0を減らすことができ、スクリュー9の回転起動性を向上できる。スクリュー9が回転起動してから安定回転中は、傾き角を51から大きくして52とすることにより、ブレード42の押し出す水量を増加させて、十分な水流が確保できる。高風力状態にあってスクリュー9Aの回転動力が大きい場合には、傾き角を小さくせずとも、スクリュー9Aを容易に回転起動でき、スクリュー9Aが回転起動した後も、十分な水流を確保できる。そして、時間とともに回転動力が増加してスクリュー9Aが高速で回転すると、傾き角を151から小さくして152とすることにより、ブレード142の押し出す水量を減少させ、風力水浄化装置1が水流の反力により転倒・浸水することを防止して風力水浄化装置1の設置安定性を向上できる。更に、前記筒体32により、スクリュー9の周囲の水路58を通過する間に、その流路抵抗によって脈流が緩和され、しかも途中で開放されることがなく無駄に周囲に分散されず、均一で十分な量の一連の水流33・34・35を確保できる。このようにして、前記角度制御機構38・138と筒体32とにより、回転起動性・設置安定性・水流安定性を向上させることができ、風力エネルギの効率的な利用が可能となる。
【0046】
更に、前記角度制御機構38は、前記スクリュー9回転時の水の抗力中心Dを、ブレード軸41の回転軸心47から、スクリュー9の回転軸心46方向に沿って流れる水流である下降流34の上手側に長さ57だけ偏移させるオフセット構造56と、前記ブレード軸41を軸周りに付勢して所定の初期位置49に設定する戻しばね44とを備えることにより、スクリュー9の回転速度の増加に応じて前記傾き角を51から52に増加させるので、オフセット構造56と戻しばね44とから成る簡単な構成によって、低風力状態においても、スクリュー9の回転起動性を向上させつつ、十分な水流34を確保することができ、装置コストの低減・メンテナンス性の向上を図ることができる。
【0047】
加えて、前記角度制御機構138は、前記スクリュー9A回転時の水の抗力中心DAを、ブレード軸41の回転軸心47から、スクリュー9Aの回転軸心46方向に流れる水流である下降流34Aの下手側に長さ157だけ偏移させるオフセット構造156と、前記ブレード軸41を軸周りに付勢して所定の初期位置149に設定する戻しばね44とを備えることにより、スクリュー9Aの回転速度の増加に応じて前記傾き角を151から152に減少させるので、オフセット構造156と戻しばね44とから成る簡単な構成によって、高風力状態においても、風力水浄化装置1の設置安定性を向上させることができ、装置コストの低減・メンテナンス性の向上を図ることができる。
【0048】
なお、以上述べたスクリュー9・9Aでは、下降流34・34Aが発生するが、各ブレード42・142を、ブレード軸41の回転軸心47を中心にして上下反転させ、前記正転方向Fに向かって斜め下方に傾斜させることにより、上昇流を発生させることができる。そして、この場合も、前述した角度制御機構38・138と同様の構成と作用により、低風力状態におけるスクリューの回転起動性、高風力状態における風力水浄化装置1の設置安定性を向上させることができるのである。
【0049】
次に、以上のような風力水浄化装置1の別形態の風力水浄化装置1Aについて、図11により説明する。なお、図11の矢印Lで示す方向を風力水浄化装置1Aの左方向とし、以下で述べる各部材の位置や方向等はこの左方向を基準とするものである。
【0050】
該風力水浄化装置1Aは、前記風力水浄化装置1の風車ユニット2からの回転動力の不足分を、新たに設けた補助動力ユニット59からの回転動力により補ったものであり、水域の水面4上に浮かべて風車5によって風力を回転動力に変換する風車ユニット2Aと、スクリュー9を回転して水流を発生する前記水流発生ユニット3と、該水流発生ユニット3に対して補助の回転動力を供給する前記補助動力ユニット59とにより構成される。
【0051】
そして、前記風力水浄化装置1の複数のフロート12を右方に増設して連結し、その上に、拡張した基台本体11Aを載置固定することにより、基台7Aが形成され、該基台7A上の左右に、前記風車ユニット2Aと補助動力ユニット59とが並設されている。
【0052】
該補助動力ユニット59は、風車ユニット2Aの伝動支持装置6Aに補助の回転動力を出力する電動モータ62、該電動モータ62に電力を供給するバッテリ63、該バッテリ63に充電する電力を供給する発電機60・太陽光パネル61、及び前記電動モータ62・発電機60の駆動を制御するコントローラ64を備える。
【0053】
このうちの電動モータ62において、クラッチ66を介して左方に延設された出力軸67の先部にはベベルギア68が固設され、該ベベルギア68は前記伝達軸20に外嵌固定されたベベルギア65に噛合されており、電動モータ62から出力された回転動力が、出力軸67からベベルギア対65・68を介して、断接可能に伝達軸20に入力され、電動モータ62からの回転動力によっても、スクリュー軸8を介してスクリュー9を回転駆動できるようにしている。
【0054】
前記伝達軸20には、風車ユニット2Aによる回転動力の発生状況を検知するための回転数センサ70が設けられ、該回転数センサ70は前記コントローラ64に接続されており、該回転数センサ70からの回転数信号に基づいて、コントローラ64から電動モータ62に対して駆動・停止信号が送信されるようにしている。
【0055】
更に、前記バッテリ63には、該バッテリ63の残存電力量を検知するための電力計71が設けられ、該電力計71も前記コントローラ64に接続されており、該電力計71からの残存電力信号に基づいて、コントローラ64から発電機60に対して発電・停止信号が送信されるようにしている。
【0056】
このような構成において、回転数センサ70により高風力状態にあることが判明し、水流発生ユニット3に対して補助の回転動力を供給する必要がない場合は、コントローラ64からクラッチ66に対してクラッチ「切」信号を送信し、補助動力ユニット59と伝達軸20との接続を遮断して、風車ユニット2Aからの回転動力のみでスクリュー9を回転駆動させる。
【0057】
回転数センサ70により低風力状態にあることが判明し、水流発生ユニット3に対して補助の回転動力を供給する必要がある場合は、コントローラ64から前記クラッチ66にクラッチ「入」信号を送信すると共に、電動モータ62に対して駆動信号を送信し、補助動力ユニット59から伝達軸20に回転動力を伝達して、風車ユニット2A・補助動力ユニット59の両ユニットからの回転動力でスクリュー9を回転駆動させる。
【0058】
前記電動モータ62の電源については、通常の場合は、太陽光パネル61からの電力だけでバッテリ63に十分な電力が充電されるようにしておく。そして、曇天・雨天時等のせいで必要な太陽光が得られず、しかも、バッテリ63の残存電力量が制限電力量を下回ったことが電力計71により判明した場合は、コントローラ64から発電機60に対して発電信号が送信されて発電機60が駆動され、バッテリ63に十分な電力が供給される。
【0059】
なお、本実施例では、発電機60を設けているが、風力水浄化装置1Aを配置する水域の日照時間が十分に長い等のため、太陽光パネル61だけでバッテリ63に十分な電力を常時充電できる場合には、この発電機60を省略することができる。
【0060】
すなわち、前記風車5からの回転動力を補う補助動力機構である補助動力ユニット59を付設するので、極めて低風力状態にあってスクリュー9を回転駆動できない場合でも、補助動力ユニット59からの回転動力によってスクリュー9を回転駆動することができ、風力水浄化装置1Aの常時安定駆動が可能となる。
【産業上の利用可能性】
【0061】
本発明は、水域の水面上に浮かべて風車によって風力を回転動力に変換する風車ユニットと、該回転動力によりスクリューを回転して水流を発生する水流発生ユニットとを備えた、全ての風力水浄化装置に適用することができる。
【符号の説明】
【0062】
1・1A 風力水浄化装置
2 風車ユニット
3 水流発生ユニット
4 水面
5 風車
9・9A スクリュー
8 スクリュー軸
32 筒体
33・34・35 水流
34・34A 下降流(水流)
38・138 角度制御機構
40 ブレード支持体
41 ブレード軸
42・142 ブレード
44 戻しばね
46 スクリューの回転軸心
47 ブレード軸の回転軸心
51・52・151・152 傾き角
53 回転面
56・156 オフセット構造
58 水路
59 補助動力ユニット(補助動力機構)
D・DA 抗力中心

【特許請求の範囲】
【請求項1】
水域の水面上に浮かべて風車により風力を回転動力に変換する風車ユニットと、該回転動力によりスクリューを回転して水流を発生する水流発生ユニットとを備えた風力水浄化装置において、前記スクリューは、前記回転動力が伝達されるスクリュー軸によって回転するブレード支持体と、該ブレード支持体の外周にブレード軸を介して回動可能に支承されるブレードとを備えると共に、該ブレードとスクリューの回転面との成す傾き角を前記スクリューの回転速度に応じて自動的に増減させる角度制御機構と、前記スクリューを取り囲む水路をブレード支持体との間に形成する筒体とを設けたことを特徴とする風力水浄化装置。
【請求項2】
前記角度制御機構は、前記スクリュー回転時の水の抗力中心を、ブレード軸の回転軸心から、スクリューの回転軸心方向に沿って流れる水流の上手側に偏移させるオフセット構造と、前記ブレード軸を軸周りに付勢して所定の初期位置に設定する戻しばねとを備えることにより、スクリューの回転速度の増加に応じて前記傾き角を増加させることを特徴とする請求項1に記載の風力水浄化装置。
【請求項3】
前記角度制御機構は、前記スクリュー回転時の水の抗力中心を、ブレード軸の回転軸心から、スクリューの回転軸心方向に流れる水流の下手側に偏移させるオフセット構造と、前記ブレード軸を軸周りに付勢して所定の初期位置に設定する戻しばねとを備えることにより、スクリューの回転速度の増加に応じて前記傾き角を減少させることを特徴とする請求項1に記載の風力水浄化装置。
【請求項4】
前記風車からの回転動力の不足分を補う補助動力機構を付設することを特徴とする請求項1から請求項3のうちのいずれか一項に記載の風力水浄化装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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