説明

風力発電用ブレードの避雷構造

【課題】風力発電用ブレードにおける避雷を効果的に行い、かつ、捕雷時のブレードの損傷を防止することを目的とする。
【解決手段】風力発電用ブレードの一部に取り付けられる導電性の受雷部1と、該受雷部1と前記ブレード5との間の少なくともそれぞれの表層部間に介在されるセラミックス部材10とを有するので、耐熱性に優れたセラミックス部材10と受雷部1との界面に電界集中が生じやすくなり、受雷部1が取り付けられたブレード5の界面に捕雷による電界集中が生じてブレード5が破損するのを効果的に防止することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、風力発電に用いられるブレードが落雷によって損傷を受けるのを防ぐ風力発電用ブレードの避雷構造に関するものである。
【背景技術】
【0002】
現在使用されている風力発電用ブレードは、GFRP(Glass Fiber Reinforced Plastics:ガラス繊維強化複合材料)製が主流であり、ブレードそれ自身は絶縁体であり導電性は有していない。したがって、小型の風力発電機の時代には雷はブレードには落ちないものと考えられていた。しかし、風力発電機の大型化にともなってブレードの落雷被害が増加したため、ブレードに金属製の部材(レセプター:受雷部)を取り付け、それに引き出し線(ダウンコンダクター)を接続し、地面へと誘導する手法が一般化されている(例えば特許文献1の背景技術参照)。
受雷部の形状や形式は多々提案、実用化されている。例えば、特許文献2では、ブレードの先端表面に避雷突針を設けた避雷構造が提案されており、特許文献3では、ブレードの先端にロッド形状の受雷部を埋め込んだ避雷構造が提案されている。
しかし、これら特許文献2、3で提案されたレセプターの形状では、捕雷効果が十分でない。このため、図6に示すように、ブレード22の先端部にアルミニウムなどの金属製の受雷部20をブレード形状に沿って設け、該受雷部20に設けたアンカー部21を前記ブレード22に固定したものが提案されている。さらに、ブレードの最大幅部付近にも銅製の受雷部を設けたものが提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2007−100658号公報
【特許文献2】特開2005−302399号公報
【特許文献3】特開2007−170268号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、上記提案構造では受雷部とブレードとの接合部は、設計上角部(縁部)を有した構造となり、電界の集中が起きやすい形状となっている。このため、ブレードと金属との界面が落雷によって破壊され、受雷部が脱落するおそれがある。また、本発明者らによる試験の結果より、側方からの雷撃では境界部に放電が集中しやすいことが確認されている。
【0005】
本発明は、上記事情を背景としてなされたものであり、受雷部を設けた際に、捕雷性能を低下させることなく、ブレードの角部(縁部)への電界集中を防止して、落雷によるブレードの損傷を防止することができる風力発電用ブレードの避雷構造を提案することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
すなわち、本発明の風力発電用ブレードの避雷構造は、風力発電用ブレードの一部に取り付けられる導電性の受雷部と、該受雷部と前記ブレードとの間の少なくともそれぞれの表層部間に介在されるセラミックス部材とからなることを特徴とする。
【0007】
本発明の避雷構造では、ブレードの一部に導電性の受雷部が設けられており、好適にはブレードの先端に該受雷部が取り付けられる。ただし、本発明としては取付位置が限定されるものではなく、複数箇所への取付も可能である。例えば、ブレードの先端とブレードの長手方向の中途に、本発明の避雷構造を設けるものであってもよい。
上記受雷部とブレードとは、少なくともそれぞれの表層部間にセラミックス部材が介在されるものであり、受雷部とブレードとの間の全周に亘ってセラミックス部材を介在させるのが望ましい。
【0008】
該セラミックス部材の介在によって、受雷部で捕雷する際に、電界の集中が受雷部の先端や受雷部とセラミックス部材との界面で優先して生じ、この結果、ブレード界面で電界の集中が生じてブレードが破損するのを防止することができる。セラミックス部材は、耐熱性に優れ、また絶縁性を有することで、上記電界集中による損傷を受けにくい。このセラミックス部材が受雷部とブレードとの間の全周に亘って位置することで、上記ブレード界面への電界集中をより確実に防止することができる。
【0009】
受雷部とブレードとの間は、上記のように少なくとも表層部間にセラミックス部材が位置していればよく、受雷部とブレードとの間でセラミックス部材を介在させる深さは適宜設定することができる。
前記セラミックス部材の配置に際し、前記ブレード表面と前記セラミックス部材表面とに亘り面一に形成されているのが望ましい。これによりブレードとセラミックス部材との界面への落雷による電界集中を回避することができ、空力的にも優れた性能が得られる。また、セラミックス部材表面と受雷部表面とを面一にすることで良好な空力性が得られ、その結果、発電能力が良好に維持される。
【0010】
上記受雷部は、導電性を有するものであればよく、材質としては通常は金属が用いられるが、金属以外の使用を否定するものではない。金属部材としてはAl、Cu、Ti、Wなどの純金属、合金、複合材料(基材に他材料を混合・分散させたものや異種材料同士を積層するなどして組み合わせたものなど)などを用いることができる。
セラミックス部材には、各種セラミックスを用いることができ、本発明としては特定の種別に限定されるものではなく、適宜選択が可能である。好適には、例えばBN(ボロンナイトライド)、アルミナなどを用いることができる。
また、受雷部およびセラミックス材が取り付けられるブレードの材質は本発明としては特に限定されるものではなく、既知のものを用いてもよい。
【0011】
上記受雷部は、好適にはブレードの先端に取り付けられる。該ブレード先端の受雷部では、ブレードの形状に連なって先端ほど細幅となるテーパ形状とすることができる。これにより捕雷作用が良好になされるとともに、空力性も良好になる。
また、受雷部では、ブレードへの取付を確実に行うため、アンカー部を設け、このアンカー部をブレードに固定するようにしてもよい。アンカー部は、セラミックス部材の空隙を越えてブレード内に位置することで、セラミックス部材の作用を損なうことなくブレードへの固定が確実になされる。特にセラミックス部材に挿通孔を設け、これにアンカー部材を挿通させることで、セラミックス部材がブレードとブレードに固定されたアンカー部とで保持される効果もある。保持効果を高めるため、セラミックス部材の挿通孔をアンカー部の形状に合わせ、挿通後に、アンカー部側壁がこの挿通孔に緊密に接触した状態になるようにしてもよい。
また、ブレードに対するアンカー部の固定は、ブレードに設けた係止構造にアンカー部を係止することによって行ってもよく、接着剤によって固定するものであってもよい。また、これらを組み合わせて固定を行うものであってもよい。
【発明の効果】
【0012】
以上説明したように、本発明の風力発電用ブレードの避雷構造によれば、風力発電用ブレードの一部に取り付けられる導電性の受雷部と、該受雷部と前記ブレードとの間の少なくともそれぞれの表層部間に介在されるセラミックス部材とからなるので、受雷部が取り付けられたブレードの界面に捕雷による電界集中が生じてブレードが破損するのを効果的に防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明の一実施形態の避雷構造を示す分解斜視図とブレードへの取付状態を示す斜視図である。
【図2】同じく、避雷構造が取り付けられたブレードを示す図である。
【図3】本発明の避雷構造の変更例を示す図である。
【図4】同じく、実施例における本発明例の電場解析結果を示すグラフである。
【図5】同じく、実施例における従来例の電場解析結果を示すグラフである。
【図6】従来の避雷構造を示す概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下に、本発明の一実施形態を添付図面に基づいて説明する。
図1は、本発明の避雷構造に用いられるアルミニウム合金製の受雷部1とセラミックス部材10とを示すものである。
受雷部1およびセラミックス部材10とは、ブレード5に連なる形状を有し、それぞれを組み付けた際には表面は面一になるように形成されている。
受雷部1は扁平な形状を有し、先端側ほど細幅で、かつ厚さが小さくなるテーパ形状を有しており、その先端は小径な湾曲形状を有している。
受雷部1の底部では、周縁部に受雷部長手方向に交差した平端面1aを有しており、該平端面1aに囲まれるように、受雷部長手方向に突設して伸長する板状のアンカー部3が設けられている。板状のアンカー部3の先端部3aは、先端に向けて幅が大きくなるテーパ形状を有し、先端は湾曲形状に形成されている。また、該先端側には、接着剤を回り込ませるための導入孔4が幅方向に長孔形状で形成されている。
【0015】
セラミックス部材10は扁平な筒形状を有しており、前記アンカー部3が挿入されるアンカー部挿通孔11が形成されている。セラミックス部材10の受雷部1側の一端側には、前記平面部1aに接面する平端面10aを有しており、他端側には、ブレード5の端面に接面する平坦面10bを有している。
上記セラミックス部材10のアンカー部挿通孔11は、アンカー部3が挿入された状態で、アンカー部3の外面がほぼ隙間なく接する形状を有しており、これにより、セラミックス部材10がアンカー部3によって保持される作用が得られる。
【0016】
上記セラミックス部材10を受雷部1に組み付ける際には、受雷部1のアンカー部3を前記アンカー部挿通孔11に挿入させて受雷部1の平端面1aにセラミックス部材10の平坦面10aを接面させる。この際に接着剤によって面同士を接合するようにしてもよい。
セラミックス部材10の平坦面10bには、ブレード5の端面を接面する。また、アンカー部3の先端側は、アンカー部挿通孔11を越えてブレード5側に位置しており、これを接着剤によってブレード5の内側に接合する。この際に接着剤が導入孔4に回り込むことで接着強度を高める。
【0017】
また、ブレード5に、前記先端部3aが係止する係止用空隙(図示していない)を設けておき、前記先端部3aをこの係止用空隙に係止するとともに接着剤による接合を行うようにしてもよい。なお、係止用空隙を、先端側に向けて幅が徐々に狭くなるテーパー形状にしておけば、前記先端部3aの逆テーパー形状と協働してアンカー部3をブレードに確実に固定することができる。
【0018】
上記接合によって、ブレード5の外表面からセラミックス部材10の外表面、受雷部1の外表面にかけて連なり、それぞれの接合部分が面一となる外表面が得られる。したがって、該外表面が得られるように、セラミックス部材10、受雷部1の外形形状を定める。
なお、ブレード5は、厚さ方向に分割した分割ブレードを接合して構成したものであってもよく、この接合の際に、上記受雷部1およびセラミックス部材10を固定することができる。厚さ方向に分割した分割ブレードを用いることで、アンカー部3の固定などを容易に行うことができる。特に、分割ブレードを用いることで、アンカー部3の先端部3aの逆テーパー形状と、ブレード5のテーパー形状とを係止する際に、固定作業を容易に行うことができる。なお、アンカー部3には、図2に示すように接地線6を電気的に接続し、該接地線の端部側を接地する。
上記受雷部1およびセラミックス部材は、風力発電機の各ブレードに取り付けることができる。
【0019】
上記避雷構造によれば、受雷部によって捕雷が効果的になされ、ブレードへの落雷を回避できるとともに、避雷構造を設けたブレード側の界面に電界が集中することがなく、受雷部とセラミックス部材との界面などに電界集中を生じさせることができる。セラミックス部材は、耐熱性等を有しており、電界集中によっても損傷が生じにくい。この結果、高耐雷性を有する風力発電用ブレードを提供することができる。
【0020】
次に、避雷構造の他の実施形態を図3に基づいて説明する。
図3(a)は、受雷部100に設けたアンカー部103を細幅に形成し、セラミックス部材110の厚さを越えない長さにした例を示すものである。アンカー部103は、セラミックス部材110に形成したアンカー部挿入穴111に挿入され、接着剤などにより固定されるものである。
セラミックス部材110は、アンカー部挿入穴111を除いて中実に形成され、そのブレード接合側はブレード105よりも細幅にして、ブレード105の基端側に向けて徐々に幅広となるテーパー部112で形成されている。一方、ブレード105には、該テーパー部112が係止するように、先端側に向けて徐々に幅が狭くなる逆テーパー形状のテーパー溝部106が形成されている。上記テーパー部112とテーパー溝部106とを係止して接着剤などにより固定することで、セラミックス部材110をブレード105に強固に接合することができる。また、絶縁性を有するテーパー部112の角部に電界が集中することもない。
【0021】
図3(b)は、セラミックス部材210の厚さを大きくし、それに合わせて受雷部200のアンカー部203の長さを大きくした例を示すものである。これによって、セラミックス部材210が厚くなってもアンカー部203先端側をブレード205内に位置させることができる。
また、セラミックス部材210の厚さを大きくすることで、受雷部材200とブレード205の端面との距離が大きくなり、受雷部材200で捕雷した際に、ブレード205の端面に影響が生じるのを防ぐことができる。なお、この例では、アンカー部203先端を直線状に形成している。
【0022】
図3(c)図は、(b)図のものに比べてセラミックス部材310の厚さを小さくし、それに合わせて受雷部300のアンカー部303の長さを小さくした例を示すものであり、アンカー部303の先端側はブレード305内に位置している。
図3(d)は、(b)図のセラミックス部材とほぼ同じ厚さのセラミックス部材410を有しており、受雷部400に設けられているアンカー部403の長さもこれに合わせて大きくなっている。この例では、ブレード405内に位置するアンカー部403の先端は、湾曲形状に形成されている。
【0023】
図3(e)は、(d)図のものに比べてセラミックス部材510の厚さが小さく、それに合わせて受雷部500のアンカー部503の長さを小さくした例を示すものである。アンカー部503の先端側はブレード505内に位置している。
【0024】
図3(f)は、受雷部600に設けられたアンカー部603の基部側を、先端ほど幅が広くなるようにテーパー形状としたものであり、テーパー形状部分の側縁は湾曲形状となっている。一方、セラミックス部材610に設けられたアンカー部挿通孔611は、ブレード側ほど徐々に幅が小さくなっている。これによりアンカー部603の基部側とセラミックス部材610のアンカー部挿通孔611との接面面積が増え、さらに、ブレード605に固定するアンカー部603によってセラミックス部材610をブレード605側に押し付けることが可能になり、セラミックス部材610の保持がより強固になされる。
【0025】
なお、上記実施形態では、受雷部およびセラミックス部材を有する避雷構造をブレードの先端部に設けるものについて説明をおこなったが、本発明では、避雷構造を設ける位置は、ブレードの一部であればよく、特に限定をされるものではない。
以上、本発明について上記実施形態に基づいて説明を行ったが、本発明は上記実施形態の内容に限定されるものではなく、本発明の範囲内で適宜の変更が可能である。
【実施例1】
【0026】
次に、図1に示すアルミニウム製の受雷部1およびセラミックス部材10からなる本発明例の避雷構造と、図6に示すセラミックス部材の介在がない受雷部20からなる従来例の避雷構造をブレードを模したFRP材に取付け、着雷位置を予測するシミュレーションによって2次元電場解析を行った。
なお、解析には,解析ソフトMARC2007R1(MSC Software社製)を使用し、ブレード先端部より1mの距離に点電荷を配した。ブレード先端部真上を0°とし、±30°、±60°、±90°の位置、及び±90°の位置からさらに真下に200mm、500mm下げた位置に点電荷を配して解析を実施した。その際、ダウンコンダクタ端部を固定電位とした。
【0027】
本発明例の解析結果を図4に示し、従来例の解析結果を図5に示した。図から明らかなように、本発明例では、電界の集中は、受雷部の先端部に加えて、受雷部とセラミックスとの界面で生じているものの、ブレード相当材とセラミックスとの界面には電界の集中は殆どなかった。一方、従来例では、先端部に加えて、受雷部とブレード相当材の境界部で電界の集中が生じており、さらには、ブレード内の受雷部の角部でも同様に電界の集中が生じている。このため、風車用としては受雷部を設けても落雷によってブレードの損傷が生ずる可能性があることが分かった。
【符号の説明】
【0028】
1 受雷部
3 アンカー部
5 ブレード
6 接地線
10 セラミックス部材
11 アンカー挿通孔

【特許請求の範囲】
【請求項1】
風力発電用ブレードの一部に取り付けられる導電性の受雷部と、該受雷部と前記ブレードとの間の少なくともそれぞれの表層部間に介在されるセラミックス部材とを有することを特徴とする風力発電用ブレードの避雷構造。
【請求項2】
前記ブレード表面と前記セラミックス部材表面とに亘り面一に形成されていることを特徴とする請求項1記載の風力発電用ブレードの避雷構造。
【請求項3】
前記受雷部が前記ブレードの先端に設けられていることを特徴とする請求項1または2に記載の風力発電用ブレードの避雷構造。
【請求項4】
前記セラミックス部材は、前記受雷部表層部と前記ブレード表層部との間で全周に亘って介在されていることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の風力発電用ブレードの避雷構造。
【請求項5】
前記受雷部が前記ブレードの形状に連なり、先端ほど細幅となるテーパ形状を有することを特徴とする請求項4記載の風力発電用ブレードの避雷構造。
【請求項6】
前記受雷部は、前記セラミックス部材に形成された挿通孔を越えて前記ブレード内部に位置して前記ブレードに固定されるアンカー部を有することを特徴とする請求項1〜5のいずれかに記載の風力発電用ブレードの避雷構造。
【請求項7】
前記アンカー部は前記ブレードの係止構造に係止されるものであることを特徴とする請求項6記載の風力発電用ブレードの避雷構造。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2011−163132(P2011−163132A)
【公開日】平成23年8月25日(2011.8.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−23504(P2010−23504)
【出願日】平成22年2月4日(2010.2.4)
【出願人】(000004215)株式会社日本製鋼所 (840)
【Fターム(参考)】