説明

風力発電装置用転がり軸受

【課題】揺動の繰り返し等が加わる環境で使用されながら、優れた耐フレッチング性を有し、軸受転走面の摩耗を防止できる風力発電装置用転がり軸受を提供する。
【解決手段】風力発電装置用転がり軸受5は、内輪11および外輪12の間に形成され転動体13が配置された空間内に、基油と、増ちょう剤と、添加剤とを含むグリース組成物が封入されてなり、基油が40℃における動粘度が300〜600mm/sの合成油であり、添加剤が式(1)または(2)で表される亜リン酸エステルの少なくとも1種を含み、該亜リン酸エステルの含有量が、基油および増ちょう剤の合計量100重量部に対して0.5〜4重量部である。



【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、風力発電装置に組み込まれて使用され、グリース潤滑される風力発電装置用転がり軸受に関する。
【背景技術】
【0002】
大型の風力発電装置における主軸支持軸受には、転がり軸受、特に図2に示すような大型の複列のころ軸受が用いられることが多い。ロータシャフト(主軸)3は、ロータブレード2が取り付けられた軸であり、風力を受けることによって回転し、その回転を増速機6で増速して発電機7を回転させ、発電する。風を受けて発電している際に、ロータブレード2を支えるロータシャフト3は、ロータブレード2にかかる風力による軸方向荷重(軸受アキシアル荷重)と、軸径方向(軸受ラジアル荷重)が負荷される。また、風力発電装置では、ブレードピッチ旋回座に用いられるブレード軸受、ヨー旋回座に用いられるヨー軸受などが使用されている。ブレード軸受は、効率よく風を受けるために、風の強さによりブレードの角度を調節できるよう、ブレードの付け根に取り付けられてブレードを回転自在に支持する軸受である。また、ヨー軸受は、風向きに合わせて主軸の向きを調節するため、ナセルのヨーを旋回自在に支持する軸受である。
【0003】
上記の主軸支持軸受、ブレード軸受、ヨー軸受などは、風向および風力が常時変動する環境下で運転されるため、風の強さや向きにより揺動を繰り返し、軸受の転走面において、一般に微動摩耗と呼ばれる摩耗現象(以下、フレッチングという)が生じることがある。特に、主軸支持軸受では、荷重の変動を絶えず受けながら始動、加速、減速、停止を不規則に繰返すことに加えて、ブレード振動やギアボックス振動が加わるため、フレッチングを生じる可能性が高い。また、山上や厳寒地に設置され、極低温下に晒される風力発電装置では、グリースが硬化し、転走面への潤滑油の十分な供給が得られないために、フレッチングの被害は大きくなるおそれがある。
【0004】
従来、このようなフレッチングを防止するために種々の方法が提案されているが、その一つとして、適切な潤滑剤を選択してフレッチングを防止する方法がある。その中で、ウレア系増ちょう剤に酸化パラフィン、ジフェニルハイドロゲンホスファイトおよびヘキサメチルホスホリックトリアミドから選ばれた少なくとも一つを配合したグリースが提案されている(特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特許第2576898号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1のグリースでは、風力発電装置に組み込まれて使用され、風向および風力が常時変動し、風の強さや向きによる揺動の繰り返し等が加わる転がり軸受において、十分なフレッチング防止を図ることは困難であると考えられる。
【0007】
また、潤滑に用いるグリースによる、耐フレッチング性の向上効果については十分に解明されていないのが現状である。例えば、同一の増ちょう剤を配合したグリースであっても試験法によっては耐フレッチング性について相反する結果を与える場合がある。その他、添加剤についてもリン酸塩やリン酸エステルなどのリン化合物を含むものが好ましいとする報告が多いが、その耐フレッチング性はリン化合物の構造により大きく異なっている。
【0008】
本発明はこのような問題に対処するためになされたものであり、風力発電装置に組み込まれて使用され、風の強さや向きによる揺動の繰り返し等が加わる環境で使用されながら、優れた耐フレッチング性を有し、軸受転走面などでの摩耗を防止できる風力発電装置用転がり軸受を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の風力発電装置用転がり軸受は、風力発電装置に組み込まれる軸受であり、該軸受は、内輪と外輪との間に複数の転動体を転動自在に配置してなり、上記内輪および上記外輪の間に形成され上記転動体が配置された空間内に、基油と、増ちょう剤と、添加剤とを含むグリース組成物が封入されてなり、上記基油が合成油であり、かつ、40℃における動粘度が300〜600mm/sであり、上記添加剤が、式(1)または(2)で表される亜リン酸エステルの少なくとも1種を含み、上記亜リン酸エステルの含有量が、上記基油および上記増ちょう剤の合計量100重量部に対して0.5〜4重量部であることを特徴とする。なお、基油の動粘度は、JIS K 2283にて測定される動粘度である。
【化1】

【化2】

(式(1)(2)において、R、R、R、R、Rは、それぞれメチル基またはエチル基である。また、RとRとは、RとRとRとは、同一の基であっても異なる基であってもよい。)
【0010】
上記グリース組成物が、上記式(1)または(2)で表される以外の亜リン酸エステル、および、炭素数3以上の有機基を有するリン酸エステルを含まないことを特徴とする。
【0011】
上記亜リン酸エステルが、亜リン酸ジメチル、亜リン酸ジエチル、亜リン酸トリメチル、または、亜リン酸トリエチルであることを特徴とする。
【0012】
上記増ちょう剤が、リチウム石けんおよびウレア化合物から選ばれる少なくとも1つであることを特徴とする。
【0013】
上記グリース組成物の混和ちょう度が、200〜350であることを特徴とする。
【0014】
上記風力発電装置用転がり軸受が、深溝玉軸受、ころ軸受、またはアンギュラ玉軸受であることを特徴とする。
【0015】
上記風力発電装置用転がり軸受が、風力発電装置の主軸、ブレード、またはヨーを支持する軸受であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0016】
本発明の風力発電装置用転がり軸受は、封入するグリース組成物について、40℃における動粘度が300〜600mm/sの基油(合成油)を用い、添加剤として亜リン酸エステルの中でも、特に上記式(1)または式(2)に表されるものを所定量配合した組成物を用いることで、揺動の繰り返し等が加わる環境で使用されながら、優れた耐フレッチング性を有し、広い温度領域において軸受転走面などでのフレッチングの発生を防止できる。
【0017】
このため、本発明の風力発電装置用転がり軸受は、風力発電装置の主軸、ブレード、またはヨーを支持する軸受として好適に利用できる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本発明の風力発電装置用転がり軸受を適用する風力発電装置全体の模試図である。
【図2】図1の主軸支持部分の詳細を示す図である。
【図3】本発明の風力発電装置用転がり軸受の一例である主軸支持用の複列自動調心ころ軸受を示す断面図である。
【図4】本発明の風力発電装置用転がり軸受の他の例である深溝玉軸受を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
本発明の風力発電装置用転がり軸受を適用する風力発電装置を図1および図2により説明する。図1は風力発電装置全体の模式図であり、図2は図1の主軸支持部分の詳細を示す図である。図1に示すように、風力発電装置1は、ロータブレード2と、このロータブレード2のロータシャフト(主軸)3に取り付けられた増速機6を介して駆動される発電機7と、ロータブレード2、増速機6、発電機7等を収容してなるナセル4を所定の高さに保持するタワー8とを備える。そして、ロータブレード2が風を受けて回転することで発電機7が駆動され、電気エネルギーとして取り出される。図2に示すように、ロータブレード2が取り付けられたロータシャフト3は、ナセル4内の軸受ハウジング15に設置された軸受5により回転自在に支持している。軸受5が、本発明の風力発電装置用転がり軸受である。なお、軸受5は、図2の例では2個設けているが、1個であってもよい。
【0020】
増速機6は、ロータシャフト3の回転を増速して発電機7の入力軸に伝達するものである。ナセル4は、タワー8上にヨー旋回座軸受17を介して旋回自在に設置され、図2の旋回用のモータ9の駆動により、減速機10を介して旋回させられる。ナセル4の旋回は、ロータブレード2の方向を調整するために行なわれる。また、ロータブレード2の付け根のブレードピッチ旋回座に、転がり軸受(図示省略)が設けられている。
【0021】
主軸支持用の軸受5を図3により説明する。図3は、本発明の風力発電装置用転がり軸受の一例である主軸支持用の軸受を示す断面図である。軸受5は、複列の自動調心ころ軸受である。軸受5は、一対の軌道輪となる内輪11および外輪12と、これら内外輪11、12間に介在した複数の転動体13とを有する。軸受5の外輪12は軌道面12aが球面状とされ、各転動体13は外周面が外輪軌道面12aに沿う球面状のころとされている。内輪11は各列の軌道面11a、11aを個別に有するつば付きの構造とされている。転動体13は、列毎に保持器14で保持されている。外輪12は軸受ハウジング15の内径面に嵌合して設置され、内輪11はロータシャフト3の外周に嵌合してロータシャフト3を支持している。軸受ハウジング15は、軸受5の両端を覆う側壁部15aと主軸3との間にラビリンスシールなどのシール16が構成されている。軸受ハウジング15で密封性が得られるため、軸受5にはシールなしの構造が用いられている。内輪11および外輪12の間に形成され転動体13が配置された空間内に、後述する添加剤として所定の亜リン酸エステルを配合したグリース組成物が封入される。
【0022】
本発明の風力発電装置用転がり軸受の他の例を図4に示す。図4は深溝玉軸受の断面図である。深溝玉軸受21は、外周面に内輪転走面22aを有する内輪22と内周面に外輪転走面23aを有する外輪23とが同心に配置され、内輪転走面22aと外輪転走面23aとの間に複数個の転動体24が配置される。この複数個の転動体24を保持する保持器が設けられている。また、外輪23等に固定されるシール部材26が、内輪22および外輪23の軸方向両端開口部28a、28bにそれぞれ設けられている。内輪22および外輪23の間に形成され転動体24が配置された空間内に、後述する添加剤として所定の亜リン酸エステルを配合したグリース組成物27が封入される。
【0023】
本発明の風力発電装置用転がり軸受として、上記各図に示したものの他、アンギュラ玉軸受、円筒ころ軸受、円すいころ軸受、針状ころ軸受、スラスト円筒ころ軸受、スラスト円すいころ軸受、スラスト針状ころ軸受、スラスト自動調心ころ軸受等も使用できる。
【0024】
主軸支持用の軸受5としては、スラスト負荷が可能なラジアル軸受であればよく、図示した自動調心ころ軸受の他に、上記の中で、アンギュラ玉軸受や、円すいころ軸受、深溝玉軸受などであってもよい。これらの中で、軽荷重から突風時の重荷重まで幅広い荷重域で、かつ風向の変化が絶えず生じる状態で運転される風力発電装置の主軸支持用の軸受としては、運転に伴なう主軸の撓みを吸収できる自動調心ころ軸受が特に好ましい。また、ブレード軸受やヨー軸受としては、深溝玉軸受やアンギュラ玉軸受が好ましい。
【0025】
本発明の風力発電装置用転がり軸受に封入するグリース組成物は、基油と、増ちょう剤と、添加剤とを含み、上記添加剤が、所定の亜リン酸エステルを含むものである。
【0026】
上記グリース組成物に使用する所定の亜リン酸エステルは、下記式(1)または(2)で表される亜リン酸エステルの少なくとも1種である。これらの式で表される亜リン酸エステルは、1種を単独で用いても、2種以上を混合してもよい。
【化3】

【化4】

(式(1)(2)において、R、R、R、R、Rは、それぞれメチル基またはエチル基である。また、RとRとは、RとRとRとは、同一の基であっても異なる基であってもよい。)
【0027】
式(1)または式(2)で表される亜リン酸エステルは、例えば、亜リン酸ジメチル、亜リン酸ジエチル、亜リン酸メチルエチルなどの亜リン酸ジエステル、亜リン酸トリメチル、亜リン酸トリエチル、亜リン酸ジメチルエチル、亜リン酸メチルジエチルなどの亜リン酸トリエステルである。これらの中でも、亜リン酸ジメチル、亜リン酸ジエチル、亜リン酸トリメチル、または、亜リン酸トリエチルが好ましい。
【0028】
上記グリース組成物において、上記亜リン酸エステルの含有量は、基油および増ちょう剤の合計量100重量部に対して0.5〜4重量部である。亜リン酸エステルの含有量が0.5重量部未満であると、耐フレッチング性の向上が図れない可能性がある。また、亜リン酸エステルの含有量が4重量部をこえても、耐フレッチング性がそれ以上に向上しにくい。なお、2種以上の亜リン酸エステルを用いる場合は、その合計量を上記範囲内とする。
【0029】
また、上記グリース組成物は、上記式(1)または(2)で表される亜リン酸エステル以外の亜リン酸エステルを含まないことが好ましい。また、炭素数3以上の有機基を有するリン酸エステルも含まないことが好ましい。すなわち、上記式(1)または式(2)で表される亜リン酸エステルが酸化されたものなど以外は含まないことが好ましい。これらの亜リン酸エステルやリン酸エステルが含まれる場合、耐フレッチング性に劣るおそれがある。
【0030】
上記グリース組成物は、添加剤に上記所定の低分子量の亜リン酸エステルを用いることで、従来、フレッチングや表面起点剥離を防止するために配合していた、ジチオリン酸亜鉛、リン酸トリクレシルなどの他のリン化合物や、他の極圧剤などを配合しない場合でも、フレッチングの発生を防止できる。
【0031】
また、上記グリース組成物には必要に応じて、上記亜リン酸エステル以外の公知の添加剤を含有させてもよい。このような添加剤として、フェノール系、アミン系などの酸化防止剤、カルボン酸塩、スルホン酸塩などの防錆剤、ポリアルキレングリコール、グリセリンなどの耐摩耗剤、塩素化パラフィン、硫化油、有機モリブデン化合物などの極圧剤、高級脂肪酸、合成エステルなどの油性向上剤、グラファイト、二硫化モリブデンなどの固体潤滑剤などが挙げられる。なお、これらは、単独または2種類以上組合せて添加できる。
【0032】
上記グリース組成物の基油は、40℃における動粘度が300〜600mm/sであり、より好ましくは350〜550mm/sであり、最も好ましくは400〜500mm/sである。風力発電装置はブレードが取り付けられた主軸を風力により回転させるものであり、風力が弱い時には、主軸は極めて低い回転数で回転するため、この主軸を支える軸受の油膜は比較的薄く不安定となる。このため、40℃における動粘度が300mm/s 未満の場合は、油膜切れを起こしやすくなるおそれがある。一方、40℃における動粘度が600mm/sより高いと、転走面への潤滑油の供給性に劣り、フレッチングが起こりやすくなる。また、軸受のトルクが上昇するため、発電効率の低下のおそれがある。なお、基油として混合油を用いる場合は、該混合油の動粘度が上記範囲内であることが好ましい。
【0033】
上記グリース組成物の基油の種類としては、上記動粘度範囲を満たすものであれば、特に限定されず、通常グリースの分野で使用される一般的なものを使用できる。例えば、合成油、鉱油、またはこれらの混合油が挙げられる。本発明では主に合成油が使用される。
【0034】
上記鉱油としては、例えば、石油精製業の潤滑油製造プロセスで通常行われている方法により得られるもの、より具体的には、原油を常圧蒸留及び減圧蒸留して得られた潤滑油留分を溶剤脱れき、溶剤抽出、水素化分解、溶剤脱ろう、接触脱ろう、水素化精製、硫酸洗浄、白土処理などの処理を1つ以上行って精製したものが挙げられる。
【0035】
上記合成油としては、ポリブテン、1−オクテンオリゴマー、1−デセンオリゴマーなどのポリα−オレフィンまたはこれらの水素化物;ジトリデシルグルタレート、ジ2−エチルヘキシルアジペート、ジイソデシルアジペート、ジトリデシルアジペート、ジ3−エチルヘキシルセバケートなどのジエステル;トリメチロールプロパンカプリレート、トリメチロールプロパンペラルゴネート、ペンタエリスリトール2−エチルヘキサノエート、ペンタエリスリトールペラルゴネートなどのポリオールエステル;アルキルナフタレン;アルキルベンゼン、ポリオキシアルキレングリコール;ポリフェニルエーテル;ジアルキルジフェニルエーテル;シリコーン油;フッ素油;などが挙げられる。その他、フィッシャー・トロプシュ法により合成されるGTL油なども挙げられる。これらの中でも、酸化安定性や低温性(高地など寒冷な場所で使用されることが多いため)に優れることから、合成油であるポリα−オレフィンを用いることが好ましい。
【0036】
上記グリース組成物の増ちょう剤は、特に限定されず、通常グリースの分野で使用される一般的なものを使用できる。例えば、金属石けん、複合金属石けんなどの石けん系増ちょう剤、ベントン、シリカゲル、ウレア化合物、ウレア・ウレタン化合物、フッ素樹脂などの非石けん系増ちょう剤を使用できる。金属石けんとしては、ナトリウム石けん、カルシウム石けん、アルミニウム石けん、リチウム石けんなどが挙げられる。ウレア化合物、ウレア・ウレタン化合物としては、ジウレア化合物、トリウレア化合物、テトラウレア化合物、他のポリウレア化合物、ジウレタン化合物などが挙げられる。これらの中でも、これらの中でも、耐熱耐久性、転走面などへの介入性と付着性に優れ、フレッチングを防止しやすくなることから、リチウム石けん(複合リチウム石けんを含む)、ウレア化合物の使用が好ましい。
【0037】
ウレア化合物は、イソシアネート化合物とアミン化合物とを反応させることにより得られる。反応性のある遊離基を残さないため、イソシアネート化合物のイソシアネート基とアミン化合物のアミノ基とは略当量となるように配合することが好ましい。
【0038】
ジウレア化合物は、例えば、ジイソシアネートとモノアミンとの反応で得られる。ジイソシアネートとしては、フェニレンジイソシアネート、トリレンジイソシアネート、ジフェニルジイソシアネート、ジフェニルメタンジイシアネート、オクタデカンジイソシアネート、デカンジイソシアネート、ヘキサンジイソシアネー卜などが挙げられる。モノアミンとしては、オクチルアミン、ドデシルアミン、ヘキサデシルアミン、ステアリルアミン、オレイルアミン、アニリン、p−トルイジン、シクロヘキシルアミンなどが挙げられる。ポリウレア化合物は、例えば、ジイソシアネートとモノアミン、ジアミンとの反応で得られる。ジイソシアネート、モノアミンとしては、ジウレア化合物の生成に用いられるものと同様のものが挙げられる。ジアミンとしては、エチレンジアミン、プロパンジアミン、ブタンジアミン、ヘキサンジアミン、オクタンジアミン、フェニレンジアミン、トリレンジアミン、キシレンジアミン、ジアミノジフェニルメタンなどが挙げられる。
【0039】
基油に、複合リチウム石けんやウレア化合物などの増ちょう剤を配合して、上記の各添加剤を配合するためのベースグリースが得られる。なお、ウレア化合物を増ちょう剤とするベースグリースは、基油中で上記ジイソシアネートとモノアミンとを反応させる等して作製する。
【0040】
ベースグリース100重量部中に占める増ちょう剤の含有量は、3〜40重量部が好ましく、5〜30重量部がより好ましい。この範囲内であることが、グリース組成物本来の潤滑性を得るために適する。増ちょう剤の含有量が3重量部未満では、増ちょう効果が少なくなり、グリース化が困難となる。増ちょう剤の含有量が40重量部をこえると得られたベースグリースが硬くなりすぎ、所期の効果が得られ難くなる。
【0041】
上記グリース組成物の混和ちょう度(JIS K 2220)は、200〜350の範囲にあることが好ましい。ちょう度が200未満である場合は、低温での油分離が小さく潤滑不良となり、フレッチングが起こりやすくなる。一方、ちょう度が350をこえる場合は、グリースが軟質で軸受外に流出しやすくなり好ましくない。
【実施例】
【0042】
本発明を実施例および比較例により具体的に説明するが、これらの例によって何ら限定されるものではない。
【0043】
実施例1〜実施例12および比較例1〜比較例4
表1〜3に示すごとく、増ちょう剤、基油を選択してベースグリースを調整した。ベースグリースの組成は、増ちょう剤、基油を合計して100重量部としてある。ここで、各表中の基油である「合成油」は、エクソンモービル社製:商品名モービルギアSHC XMP460である。
【0044】
また、増ちょう剤である「リチウムコンプレックス」(複合リチウム石けん)は、基油中にヒドロキシステアリン酸リチウムを加え、ヒドロキシステアリン酸1モルに対して水酸化リチウム1水塩1モルの比率で所定量をけん化し、次にアゼライン酸を加え、アゼライン酸1モルに対して水酸化リチウム1水塩1モルの比率でけん化し、その後、200℃まで加熱し、冷却した後、3本ロールミルで混合して得た。
【0045】
また、増ちょう剤である「ウレア」は、基油の半量に、MDI(日本ポリウレタン工業社製:商品名MILLIONATE MT(主成分:ジフェニルメタンジイソシアネート))を溶解し、残りの半量の基油にMDIの2倍当量となるp−トルイジンを溶解し、これらを撹拌しながら混合して得た。
【0046】
上記で作製したベースグリース100重量部に対して、各表に示す割合で添加剤を添加して攪拌脱泡機にて十分攪拌して供試グリースを得た。なお、表2および表3における1)2)は、表1下部に示した1)2)と同様である。得られた供試グリースについて、以下に示すフレッチング試験に供し、摩耗量を測定した。その結果を各表に併記した。
【0047】
<フレッチング試験>
ASTM D4170に準拠し、ファフナー微動摩耗試験機を用いて性能評価試験を行なった。軸受として51204Jを用い、最大接触面圧が1.7GPa、揺動サイクル30Hz、揺動角12°、雰囲気室温(25℃)の条件下で、試験時間は2時間とした。軸受1個あたりの摩耗量(mg)で評価した。
【0048】
【表1】

【0049】
【表2】

【0050】
【表3】

【0051】
比較例1、3に示すように、添加剤を添加しない場合では、耐フレッチング性能に劣った。また、比較例2、4に示すように、本発明で用いる亜リン酸エステル以外の添加剤(TCP)を添加した場合では、これを添加しない場合と同様の結果であり、フレッチング性能の改善が図れなかった。一方、これらの比較例に対して、各実施例では、優れた耐フレッチング性を得ることができた。
【産業上の利用可能性】
【0052】
本発明の風力発電装置用転がり軸受は、風の強さや向きによる揺動の繰り返し等が加わる環境で使用されながら、優れた耐フレッチング性を有し、軸受転走面などでの摩耗を防止できるので、風力発電装置の主軸、ブレード、またはヨーを支持する軸受として好適に利用できる。
【符号の説明】
【0053】
1 風力発電装置
2 ロータブレード
3 ロータシャフト
4 ナセル
5 軸受(転がり軸受)
6 増速機
7 発電機
8 タワー
9 モータ
10 減速機
11 内輪
12 外輪
13 転動体
14 保持器
15 軸受ハウジング
16 シール
17 ヨー旋回座軸受
21 深溝玉軸受
22 内輪
23 外輪
24 転動体
25 保持器
26 シール部材
27 グリース組成物
28a、28b 開口部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
風力発電装置に組み込まれる風力発電装置用転がり軸受であって、該軸受は、内輪と外輪との間に複数の転動体を転動自在に配置してなり、前記内輪および前記外輪の間に形成され前記転動体が配置された空間内に、基油と、増ちょう剤と、添加剤とを含むグリース組成物が封入されてなり、
前記基油が合成油であり、かつ、40℃における動粘度が300〜600mm/sであり、
前記添加剤が、式(1)または(2)で表される亜リン酸エステルの少なくとも1種を含み、前記亜リン酸エステルの含有量が、前記基油および前記増ちょう剤の合計量100重量部に対して0.5〜4重量部であることを特徴とする風力発電装置用転がり軸受。
【化1】

【化2】

(式(1)(2)において、R、R、R、R、Rは、それぞれメチル基またはエチル基である。また、RとRとは、RとRとRとは、同一の基であっても異なる基であってもよい。)
【請求項2】
前記グリース組成物が、前記式(1)または(2)で表される以外の亜リン酸エステル、および、炭素数3以上の有機基を有するリン酸エステルを含まないことを特徴とする請求項1記載の風力発電装置用転がり軸受。
【請求項3】
前記亜リン酸エステルが、亜リン酸ジメチル、亜リン酸ジエチル、亜リン酸トリメチル、または、亜リン酸トリエチルであることを特徴とする請求項1または請求項2記載の風力発電装置用転がり軸受。
【請求項4】
前記増ちょう剤が、リチウム石けんおよびウレア化合物から選ばれる少なくとも1つであることを特徴とする請求項1、請求項2または請求項3記載の風力発電装置用転がり軸受。
【請求項5】
前記グリース組成物の混和ちょう度が、200〜350であることを特徴とする請求項1ないし請求項4のいずれか1項記載の風力発電装置用転がり軸受。
【請求項6】
前記風力発電装置用転がり軸受が、深溝玉軸受、ころ軸受、またはアンギュラ玉軸受であることを特徴とする請求項1ないし請求項5のいずれか1項記載の風力発電装置用転がり軸受。
【請求項7】
前記風力発電装置用転がり軸受が、風力発電装置の主軸、ブレード、またはヨーを支持する軸受であることを特徴とする請求項1ないし請求項6のいずれか1項記載の風力発電装置用転がり軸受。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2013−24269(P2013−24269A)
【公開日】平成25年2月4日(2013.2.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−157327(P2011−157327)
【出願日】平成23年7月18日(2011.7.18)
【出願人】(000102692)NTN株式会社 (9,006)
【Fターム(参考)】