説明

風味の改善されたビタミンB1組成物及びビタミンB1の風味抑制方法

【課題】ビタミンB1特有の不快な臭気や苦味を抑制した、摂取しやすい組成物を提供する。
【解決手段】ビタミンB1と発酵セルロースを併用する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、風味の改善されたビタミンB1を含有する組成物及びビタミンB1の風味抑制方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ビタミンB1は水溶性ビタミンであり、生体内で補酵素として作用し、糖質代謝、特にエネルギー代謝に関与するものであることが知られている。これが欠乏すると、脚気、疲労感、食欲不振、便秘、循環障害、浮腫、歩行運動失調等を引き起こすことがある。
【0003】
ビタミンB1は、米ぬかや乾燥酵母、小麦麦芽、豚肉、のり、うなぎ、胡麻等に含まれているが、飲食が困難な場合や簡便な摂取方法として医薬品やサプリメントとしての服用が増えつつある。特に、ビタミンB1は水溶性であるので、調製が容易であり摂取しやすい飲料としての形態で提供されることが多い。
【0004】
しかしながら、ビタミンB1には特有の不快な臭気や苦味(以下、まとめて「特有の風味」ともいう)があることが問題であり、従来より様々な方法でこれら特有の風味の緩和、改善が図られている。
【0005】
具体的には、ビタミンB群に属するビタミンを強化した粉末飲料の苦味を矯味するために、調整ココアパウダーを加える方法(特許文献1)、茶抽出物を含有させたビタミンB1またはその誘導体含有酸性引用組成物(特許文献2)、柑橘類、トロピカル系果実、リンゴ果汁を含むビタミン飲料の異臭抑制方法(特許文献3)、ビタミンB1類に、グルコン酸塩及び特定の酸のカルシウム塩を配合しビタミンB1類の持つ特有の苦味や臭いを防止したビタミンB1類含有内服用液剤(特許文献4)、転化型液糖を配合することによる苦味等の風味を改善した内服用液剤(特許文献5)、不快な味や臭いを有する医薬食品有効成分と、フルーツ系香料と、アセスルファムカリウムとステビア抽出物を含有する内服液組成物(特許文献6)、ビタミンB類、還元水を含有する液剤(特許文献7)、不快な風味を有する水溶性ビタミン及びアセスルファムカリウム、更にステビア抽出物を含有する高甘味度甘味料含有組成物(特許文献8)、ビタミンB1等の不快な味を有する薬物に、無水ケイ酸を配合することによる薬物の苦味の隠蔽経口剤(特許文献9)、ビタミンB1類を配合した液剤において、糖アルコールおよびスレオニンを配合した、経時的に風味が改善された液剤(特許文献10)、苦味成分とメープルフレーバー類を含有することにより、強い苦味や特異的な苦みがマスキングされ、風味が改善され苦痛を伴うことなく容易に引用できる経口液剤(特許文献11)、コーヒー抽出物及び/またはコーヒーフレーバーとビタミンB群作用物質とを含有してなる飲料(特許文献12)等が開示されている。
【0006】
一方で、従来より苦味や臭気を低減させる方法として、高分子成分によるコーティングを行うことによる被覆やマスキング層の構成が行われている。具体的には、塩酸フルスルチアミン等を含有する素錠に、ヒドロキシプロピルメチルセルロースでコーティングを施してなるビタミン製剤(特許文献13)、フルスルチアミン等の生体内で不快な臭いを生じる化合物を含有する薬剤をメタアクリル酸コポリマー等の高分子基材でコーティングさせたコーティング製剤(特許文献14)、素錠又はフィルムコーティング錠と糖衣層の間に、粉体、結合剤及び糖質を含有するコーティング層を含有する糖衣錠(特許文献15)、糖類、サイクロデキストリン類及びムコ多糖類を含むビタミンB1誘導体配合組成物(特許文献16)、イソプロピルアンチピリン及びヒドロキシプロピルメチルセルロース及びポリビニルアセタールジエチルアミノアセテートをマスキング剤として含有する、イソプロピルアンチピリンの苦味を低減した感冒固形製剤(特許文献17)、生理活性成分と水膨潤性高分子化合物(トウモロコシデンプン、結晶セルロース、部分α化デンプン、カルメロース等)を含有する集合体を、糖類を含有する溶解性集合体により包囲した崩壊性組成物(特許文献18)、不快な味を有する成分を、水難溶性高分子物質(例:エチルセルロース)の水分散液を用いて造粒した造粒物から、水分を除去して得た組成物(特許文献19)等が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2006−6112号公報
【特許文献2】特開2005−304323号公報
【特許文献3】特開2005−261357号公報
【特許文献4】特開2003−335679号公報
【特許文献5】特開2002−322062号公報
【特許文献6】特開2003−231647号公報
【特許文献7】特開2002−338498号公報
【特許文献8】特開2002−60339号公報
【特許文献9】特開平11−106354号公報
【特許文献10】特開平11−79997号公報
【特許文献11】特開平10−167988号公報
【特許文献12】特開平5−146253号公報
【特許文献13】特開2005−343810号公報
【特許文献14】特開2005−41818号公報
【特許文献15】特開2004−155656号公報
【特許文献16】特開2002−3379号公報
【特許文献17】特開2001−19639号公報
【特許文献18】特開2000−128777号公報
【特許文献19】特開2000−7557号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかし、上記特許文献1乃至12で開示されている技術は、味や香気を有する成分を併用することによる風味の改善方法であり、併用する成分の風味が最終的な組成物の風味に影響を与えるため、全体を考慮した製品設計が必要であった。
【0009】
また特許文献13乃至19記載の技術では、風味への影響は低下するが得られる組成物の剤形が粉体や錠剤といった固形状に限られるという問題があった。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、上記従来技術が有する問題点に着目し、組成物全体への風味に影響を与えず、ビタミンB1特有の不快な臭気や苦味を抑制した組成物を提供するものである。詳細には、ビタミンB1と発酵セルロースを併用することにより、ビタミンB1特有の風味が抑制された組成物を提供することが可能となる。
【0011】
本発明はかかる知見に基づいて完成したものであり、以下の態様を有するビタミンB1特有の風味が抑制されたビタミンB1含有組成物及び風味抑制方法に関する。
項1:
発酵セルロースを含有することを特徴とする、ビタミンB1の不快な臭気又は苦味が抑制されたビタミンB1含有組成物。
項2:
ビタミンB1がビスベンチアミンである項1記載の組成物。
項3:
ビスベンチアミンと発酵セルロースの配合割合が、1:0.6〜1:10である項2記載の組成物。
項4:
発酵セルロースを添加することを特徴とする、ビタミンB1の不快な臭気又は苦味を抑制する方法。
項5:
ビタミンB1がビスベンチアミンである項4記載の方法。
項6:
ビスベンチアミンと発酵セルロースの配合割合が、1:0.6〜1:10である項5記載のビタミンB1の不快な臭気又は苦味を抑制する方法。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、特有の不快な臭気や苦味を有するため、摂取することが困難であったビタミンB1を含有するサプリメントや健康飲料において、ビタミンB1特有の不快な臭気や苦味を抑制することが可能となる。また、ビタミンB1の風味抑制に特別に添加する成分は発酵セルロースだけであるので組成物への風味に影響を与えず、組成物をコーティング等により覆うものではないため、様々な組成物に応用することが可能となる。
【発明を実施するための形態】
【0013】
ビタミンB1特有の風味が抑制されたビタミンB1含有組成物
本発明に係る特有の不快な臭気や苦味が抑制されたビタミンB1含有組成物は、発酵セルロースをビタミンB1と併用して当該組成物に含有させることにより得ることができる。
【0014】
本発明で用いられるビタミンB1とは、チアミン及びそれらの誘導体並びにそれらの塩酸塩、硝酸塩などの塩類を含むものであり、具体的にはチアミン、ビスイブチアミン、チアミンジスルフィド、ビスベンチアミン、ジセチアミン、フルスルチアミン、オクトチアミン、シコチアミン、プロスルチアミン、ベンフォチアミン等およびこれらの塩類を挙げることができる。本発明によれば、特有の風味の強いものであっても、効果的に抑制することができるので、これらの中でも苦味の強いビスベンチアミンにも有効である。
【0015】
本発明におけるビタミンB1の添加量は、調製する組成物の目的・用途に応じて適宜設定すればよい。一般に、塩酸チアミンの場合の1日摂取量は、摂取者の症状により異なるが5〜100mgを経口摂取すればよい事が知られており、係る摂取量の範囲を考慮しビタミンB1を含有する組成物を適宜調製することができる。
【0016】
本発明の発酵セルロース複合体に用いる発酵セルロースは、セルロース生産菌が生産するセルロースであればよく、特に限定されない。通常、発酵セルロースは、セルロース生産菌を既知の方法、例えば特開昭61−212295号公報、特開平3−157402号公報、特開平9−121787号公報に記載される方法に従って培養し、得られた培養物からセルロース生産菌を単離するか、または所望に応じて適宜精製することによって製造することができる。
【0017】
ここでセルロース生産菌としては、アセトバクター属、シュードモナス属、アグロバクテリウム属等に属する細菌が挙げられるが、好適にはアセトバクター属である。発酵セルロースを生産するアセトバクター属の細菌として、より具体的には、アセトバクター・パスツリアヌス株(例えば、ATCC10245等)、アセトバクター・エスピーDA株(例えば、FERM P−12924等)、アセトバクター・キシリナム株(例えば、ATCC23768、ATCC23769、ATCC10821、ATCC1306−21等)を挙げることができる。好ましくは、アセトバクター・キシリナム株である。
【0018】
かかるセルロース生産菌を培養する培地及び条件としては、特に限定されず、常法に従うことができる。例えば、培地は、基本的に窒素源、炭素源、水、酸素及びその他の必要な栄養素を含有しており、上記微生物が増殖して目的の発酵セルロースを産生することができるものであればよく、例えばHestrin−Schramm培地を挙げることができる。なお、セルロースの生産性を向上させるために、培地中にセルロースの部分分解物、イノシトール、フィチン酸等を添加することもできる(特開昭56−46759号公報、特開平5−1718号公報)。培養条件としては、例えばpH5〜9、培養温度20〜40℃の範囲が採用され、発酵セルロースが十分産生されるまで培養が続けられる。培養方法は、静置培養、攪拌培養、通気培養のいずれでもよいが、好適には通気攪拌培養である。
【0019】
発酵セルロースを大量生産するためには、多段階接種法が好ましい。この場合、通常、2段階の予備接種プロセス、一次接種発酵プロセス、二次接種発酵プロセス及び最終発酵プロセスからなる5段階の発酵プロセスが採用され、各プロセスで増殖された細菌について細胞の形態およびグラム陰性であることを確認しながら、次プロセスの発酵器に継代される。
【0020】
発酵後、産生された発酵セルロースは培地から分離処理され、洗浄されて、適宜精製される。精製方法は特に限定されないが、通常、培地から回収した発酵セルロースを洗浄後、脱水し、再度水でスラリー化した後に、アルカリ処理によって微生物を除去し、次いで該アルカリ処理によって生じた溶解物を除去する方法が用いられる。具体的には、次の方法が例示される。
【0021】
まず、微生物の培養によって得られる培養物を脱水し、固形分約20%のケーキとした後、このケーキを水で再スラリー化して固形分を1〜3%にする。これに水酸化ナトリウムを加えて、pH13程度にして攪拌しながら数時間、系を65℃に加熱して、微生物を溶解する。次いで、硫酸でpHを6〜8に調整し、該スラリーを脱水して再度水でスラリー化し、かかる脱水・スラリー化を数回繰り返す。精製された発酵セルロースは、必要に応じて乾燥処理を施すことができる。乾燥処理としては特に制限されることなく、自然乾燥、熱風乾燥、凍結乾燥、スプレードライ、ドラムドライ等の公知の方法を用いることができる。好ましくはスプレードライ法、ドラムドライ法である。
【0022】
かくして得られる発酵セルロースは、白色から黄褐色の物質であり、水に急速に分散できる非常に繊細な繊維性粒子からなる。なお、本発明で用いられる発酵セルロースは、上記方法で調製される発酵セルロースと同一若しくは類似の性質を有し、本発明の目的を達成しえるものであれば、その調製方法によって限定されるものではない。
【0023】
なお、発酵セルロースを飲料に用いることはすでに公知であり、例えば、飲料やドレッシングなどの水性食品の安定剤として酢酸菌が産生するセルロース(つまり発酵セルロース)の離解物を用いたり(特開昭62−83854号公報)、乳飲料においてクリーミングや白色浮遊物、オイルオフ、沈殿の発生を抑制する安定剤として発酵セルロースを用いること(特開2007−330256号公報)が知られている。しかしながら、ビタミンB1の風味改善を目的として、発酵セルロース若しくはその複合体を用いた飲料の例は一切開示されていない。
【0024】
本発明において発酵セルロースは、高分子物質と組み合わせて用いることでその効果をより高めることができる。高分子物質と組み合わせて用いる態様としては、発酵セルロースと高分子物質とを混合状態で用いる態様、または発酵セルロースと高分子物質とを複合化状態で用いる態様を挙げることができる。
【0025】
発酵セルロースとの複合化に使用される高分子物質としては、例として、キサンタンガム、カラギーナン、ガラクトマンナン(グァーガム、ローカストビーンガム、タラガム等)、カシアガム、グルコマンナン、ネイティブ型ジェランガム、脱アシル型ジェランガム、タマリンドシードガム、ペクチン、サイリウムシードガム、ゼラチン、トラガントガム、カラヤガム、アラビアガム、ガティガム、マクロホモプシスガム、寒天、アルギン酸類(アルギン酸、アルギン酸塩)、カードラン、プルラン、メチルセルロース(MC)、ヒドロキシプロピルメチルセルロース(HPMC)、カルボキシメチルセルロース(CMC)またはその塩、ヒドロキシプロピルセルロース(HPC)、ヒドロキシエチルセルロース(HEC)等のセルロース誘導体、微結晶セルロース、水溶性ヘミセルロース、大豆多糖類、加工・化工でん粉、未加工でん粉(生でん粉)といった各種高分子物質を挙げることができる。これらは一種単独で使用してもよいし、または2種以上を任意に組み合わせて使用することもできる。
【0026】
高分子物質として、好ましくは、キサンタンガム、ガラクトマンナン、カルボキシメチルセルロース(CMC)またはその塩を挙げることができる。ここでガラクトマンナンとして好ましくはグァーガムを、CMCの塩として好ましくはCMCのナトリウム塩を挙げることができる。高分子物質として、より好ましくはキサンタンガム若しくはグァーガムと、CMCの塩を組み合わせて使用する態様である。
【0027】
発酵セルロース複合体における発酵セルロースと高分子物質の割合は、3:1〜1:2、好ましくは2:1〜1:1、最も好ましくは3:2である。具体的に、最終組成物100質量%中における高分子物質の割合としては、0.005〜0.3質量%、好ましくは0.02〜0.1質量%、最も好ましくは0.04〜0.07質量%を挙げることができる。高分子物質としてキサンタンガム、グァーガムおよびCMCのナトリウム塩のうち、少なくとも一種以上を使用する場合、最終組成物100質量%中、キサンタンガムまたはグァーガムの割合として0.0025〜0.15質量%、好ましくは0.01〜0.07質量%、最も好ましくは0.02〜0.05質量%、またCMCのナトリウム塩の割合として0.0025〜0.15質量%、好ましくは0.006〜0.05質量%、最も好ましくは0.01〜0.035質量%を挙げることができる。
【0028】
発酵セルロースを高分子物質と複合化させる方法としては、特開平9−121787号公報に記載される2種類の方法を挙げることができる。
【0029】
ここで第一の方法は、微生物を培養して発酵セルロースを産生させるにあたり、培地中に高分子物質を添加して培養を行い、発酵セルロースと高分子物質とが複合化した発酵セルロース複合化物として得る方法である。
【0030】
また第二の方法は、微生物の培養によって生産された発酵セルロースのゲルを高分子物質の溶液に浸漬して、高分子物質を発酵セルロースのゲルに含浸させて複合化する方法である。発酵セルロースのゲルは、そのままか、あるいは常法により均一化処理を行ったのちに高分子物質の溶液に浸漬する。均一化処理は、公知の方法で行えばよく、例えばブレンダー処理や500kg/cmで40回程度の高圧ホモジナイザー処理、1000kg/cmで3回程度のナノマイザー処理などを用いた機械的解離処理が有効である。浸漬時間は、制限されないが、30分以上24時間程度、好ましくは1晩を挙げることができる。また、浸漬終了後は遠心分離や濾過などの方法で浸漬液を除去することが望ましい。さらに、水洗いなどの処理を行って過剰の高分子物質を除去すると、高分子物質と複合化された状態の発酵セルロースを取得することができ、複合化に利用されないで残存する高分子物質の影響を抑えることができる。
【0031】
なお、上記高分子化合物と複合化された発酵セルロースは商業的に入手可能であり、例えば三栄源エフ・エフ・アイ株式会社製のサンアーティスト[登録商標]PX(キサンタンガムおよびCMCのナトリウム塩、デキストリンと発酵セルロースとの複合体の製剤)、サンアーティスト[登録商標]PG(グァーガムおよびCMCのナトリウム塩と発酵セルロースとの複合体の製剤)などを挙げることができる。
【0032】
本発明の対象となるビタミンB1と発酵セルロースを併用した組成物の剤形は特に制限されないが、ビタミンB1を含有する製剤として調製されるものであればいずれの形態であってもよく、通常、粉末状、顆粒状、錠剤状、液状等の形態であり、好ましくは液状である。具体的には、錠剤(素錠、糖衣錠、口腔内速崩壊錠、咀嚼可能錠、発泡錠、トローチ剤、ゼリー状ドロップ剤、フィルムコーティング錠などを含む)、丸剤、顆粒剤、細粒剤、散剤、ドライシロップ剤、液剤(油性溶液剤、懸濁剤、乳剤、シロップ剤などを含む)、リポソーム剤、リモナーデ剤、エリキシル剤、ゼリー剤等の公知の形態をとることができる。
【0033】
これらの形態とするために従来使用されている成分を、本発明の効果を損なわない範囲において利用することができる。
【0034】
本発明に係る組成物として粉末状や顆粒状に調製する場合は、ビタミンB1を噴霧乾燥等公知の技術により粉末化し、これに既知の成分、例えば糖、糖アルコール、デンプン及びその誘導体、有機酸及びその塩、無機物、セルロース及びその誘導体、非セルロース多糖類、合成高分子などと混合し噴霧乾燥等の公知の技術により粉末化すればよい。その際の組成物の粒径は、特に制限なく経口摂取可能な粉末又は顆粒として利用できる範囲内において自由に調製することができる。そして、得られた粉末又は顆粒状の組成物を既知の成分と混合して打錠し、錠剤状とすることができる。
【0035】
次いで本発明に係る組成物をドリンク剤や飲料のような液状に調製する場合、ビタミンB1は水溶性であるため、特に乳化等をせずに飲料の形態とすることができる。その際に、従来飲料製造に使用されている様々な成分、例えば酸味料、香料、着色料、甘味料、乳化剤等と適宜組み合わせて調製することができる。
【0036】
ビタミンB1の風味抑制方法
次に説明する本発明のビタミンB1の風味抑制方法は、当該組成物に発酵セルロースを添加することを特徴とする。
【0037】
本発明で使用するビタミンB1、発酵セルロースは何れも既に説明したものでよく、ビタミンB1を含有する組成物を調製する際に、その組成物を構成する成分の1つに発酵セルロースを加え、公知の技術により目的とする組成物を調製すればよい。その際に特別な製造装置や条件を必要とせず、既存の製造設備を利用して本発明に係る組成物を調製することで、ビタミンB1の風味抑制方法を達成することができる。
【0038】
具体的なビタミンB1の風味を抑制するための製造方法の一例を挙げると、ビタミンB1水溶液を調製し、これに発酵セルロースを添加混合する。さらに、目的とする組成物が飲料であれば、適宜調味成分等を添加し殺菌工程を経て容器に充填することで、ビタミンB1の好ましくない風味が抑制された飲料を提供することが可能となる。
【実施例】
【0039】
以下、本発明の内容を以下の実施例、比較例等を用いて具体的に説明するが、本発明はこれらに何ら限定されるものではない。なお、処方中、特に記載がない限り単位は「質量部」であり、「*」は登録商標であることを示す。
以下の処方に基づき、ビタミンB1を含有する溶液を調製し、次の評価基準に基づき12名のパネラーが官能評価を行った。
【0040】
<評価基準>
発酵セルロース製剤(サンアーティスト*PX 三栄源エフ・エフ・アイ株式会社製:発酵セルロース20%含有製剤)0.3%添加品によるビタミンB1の風味抑制効果を「5点」、ブランクを「0点」として評価を行った。
【0041】
<試験1>
ベース処方として、クエン酸0.01質量%、ビタミンB1としてビスベンチアミン0.01質量%を解かした水溶液を調製した。
このベース溶液に表1記載の素材を添加し、それぞれのビタミンB1の風味抑制効果をパネラー12名の平均点で評価した。その結果も併せて表1に示す。
【0042】
【表1】

※微結晶セルロース製剤 ;微結晶セルロース 85%
カルボキシメチルセルロースナトリウム 15%

【0043】
<試験2>
試験1で調製したベース処方に対し、発酵セルロース製剤(サンアーティスト*PX)の添加量を表2の通り変化させて、ビタミンB1(ビスベンチアミン)の風味の抑制効果を発揮する添加量の範囲を検証した。6名のパネラーが評価を行い、パネラーが効果を有していたと感じた添加量の範囲、及び最も効果が高いと感じた添加量を表3に示す。
【0044】
【表2】

【0045】
【表3】

【0046】
<結果>
試験1の結果より、発酵セルロース製剤を使用した実施例1を上回る評価を得たものはなかった。この結果より、同じセルロース系化合物であっても、発酵セルロース製剤の効果は顕著であり、他の多糖類と比較しても有意な効果を示すことが明らかとなった。また、実施例1で用いた発酵セルロース製剤は発酵セルロースとCMC,キサンタンガム、デキストリンからなるが、発酵セルロースを除くほかの成分を併用(比較例6)しても顕著なマスキング効果は見られなかったことから、マスキングには発酵セルロース製剤中の発酵セルロースが有効であることが示唆された。
【0047】
試験2では、発酵セルロースの効果が発揮された製剤の添加量が0.05質量%以上であると評価したパネラーが3名、0.03質量%と評価したパネラーが2名であった。また、最も効果が高いと判断された発酵セルロース製剤の添加量は、0.5質量%が1名、0.3質量%が2名という結果であった。この結果から、発酵セルロースによるビタミンB1の風味抑制効果を得るための発酵セルロース製剤の添加量は0.03〜0.5質量%、好ましくは0.05〜0.3質量%であった。即ち、ビタミンB1に対する発酵セルロースの配合割合は1:0.6〜1:10、好ましくは1:1〜1:6であった。
【0048】
尚、発酵セルロース製剤の添加量が0.2質量%になると、発酵セルロース製剤自体の風味が感じられるようになり、また調製した飲料にも粘度が現れていた。
【0049】
<試験3>
試験1で調製したベース処方のビスベンチアミンを塩酸チアミンに置き換え、該塩酸チアミンの配合量を0.1質量%として、実験例1と同様の手法にて本発明に係る飲料を調製した。
【0050】
該飲料には、ビスベンチアミンに比べその特有の風味が弱いものの、10倍量の塩酸チアミンが多く含まれているにも拘わらず、実験例1と同じ発酵セルロース製剤の添加量においても、その特有の臭いや苦味は抑えられていた。
【0051】
試験3より、ビタミンB1に属する成分によってその風味の強弱が異なる場合、適宜発酵セルロースの添加量を調節することによって、ビタミンB1の特有の風味を抑制することが可能であることが示唆された。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
発酵セルロースを含有することを特徴とする、ビタミンB1の不快な臭気又は苦味が抑制されたビタミンB1含有組成物。
【請求項2】
ビタミンB1がビスベンチアミンである請求項1記載の組成物。
【請求項3】
ビスベンチアミンと発酵セルロースの配合割合が、1:0.6〜1:10である請求項2記載の組成物。
【請求項4】
発酵セルロースを添加することを特徴とする、ビタミンB1の不快な臭気又は苦味を抑制する方法。
【請求項5】
ビタミンB1がビスベンチアミンである請求項4記載の方法。
【請求項6】
ビスベンチアミンと発酵セルロースの配合割合が、1:0.6〜1:10である請求項5記載のビタミンB1の不快な臭気又は苦味を抑制する方法。

【公開番号】特開2011−250716(P2011−250716A)
【公開日】平成23年12月15日(2011.12.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−125322(P2010−125322)
【出願日】平成22年5月31日(2010.5.31)
【出願人】(000175283)三栄源エフ・エフ・アイ株式会社 (429)
【Fターム(参考)】