風圧式シャッターおよび冷却ファンシステム
【課題】複数個の冷却ファンを有する電子機器において任意のファンが故障した際、故障ファンを通過して装置内への流れ込む逆流風を防止する構造において、電動式シャッターを用いれば低コストでの実現が難しく、風圧式シャッターを用いると風圧損失やファンの設置方向に制限があるなどの課題があった。
【解決手段】風圧式シャッターが有している複数個のフラップを流路の方向とほぼ平行に位置させ、つまり流路を開いた状態にしておくことで、ファン通常稼働時、シャッターを通過する冷却風の風圧損失を殆ど無くすことができる。ファン故障によって排気口からの逆流風が発生すると、流路の方向から若干傾いているフラップは、逆流風の風圧を面で受け、支軸を支点に回転し流路を閉鎖する。
【解決手段】風圧式シャッターが有している複数個のフラップを流路の方向とほぼ平行に位置させ、つまり流路を開いた状態にしておくことで、ファン通常稼働時、シャッターを通過する冷却風の風圧損失を殆ど無くすことができる。ファン故障によって排気口からの逆流風が発生すると、流路の方向から若干傾いているフラップは、逆流風の風圧を面で受け、支軸を支点に回転し流路を閉鎖する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、風圧式シャッターおよび冷却ファンシステムに係り、特に複数の冷却ファンを有する電子機器用の風圧式シャッターおよび冷却ファンシステムに関する。
【背景技術】
【0002】
近年の急速な情報化に伴って、通信機器、コンピュータ、サーバー等の電子機器は、24時間連続長期運転が当たり前となっている。この結果、万一、装置が制御不能となると顧客に多大な迷惑をかけることになる。
【0003】
一方、電子機器筺体は、小型化、省スペース化の傾向にある。その結果、筺体内に発熱部品が高密度に実装されている。筺体内の温度上昇が要因の動作不良でサービスが停止しないよう、多くの電子機器は、冷却ファンを複数個搭載し、その冗長性を確保している。
【0004】
図1(a)は、電子機器において、冷却ファン1を複数個有する場合を示している。装置の設置向きは水平、垂直どちらでもかまわない。通常時、冷却風は、吸気口2から装置筺体3に入り冷却対象電子部品4を冷却し、排気口5から排気される。すなわち矢印Aに示すような冷却風が流れている。しかし、図1(b)に示すように冷却ファン1−2が故障などの要因で停止すると、冷却風は、矢印A′の他に矢印Bのような冷却対象電子部品4を通過しない流れが発生する。この結果、風量が半減したうえ、1台単独の風量としても矢印A>矢印A′となり、装置全体の冷却能力をさらに低下させてしまう。そのため、矢印Bのような排気口5からの吸い込みによる逆流風、回り込み風を防止する必要がある。
【0005】
この対策として、図2(a)のようにファンの前に逆止弁の機能をもつ逆流防止シャッター7を設置し、ファン通常稼働時の冷却風Aは通すが、図2(b)に示すように、冷却ファン1−2が故障した際には、故障ファン1−2の前に設置された逆流防止シャッター7−2が閉じた状態となり、排気口からの逆流風を通過させない技術がある。その結果、矢印A″のような冷却風が流れ、風量としては矢印Aよりは少なくなるが、矢印A′よりは多く、ファン故障時でも装置の冷却能力低下を軽減する(A>A″>A′)。なお、逆流防止シャッター7は、冷却ファン1の後ろに設けてもよい。
【0006】
具体的には、特許文献1のようにファンの故障を検知し電動式シャッターにて故障ファンの流路を塞ぐ。しかし、電動式のシャッターは低コストでの実現が難しい。
特許文献2は、風圧損失を改善するためフラップの質量を支軸の前後で等しくし、面積を支軸の前後で差を設けることでフラップを持ち上げるための風圧損失を低減させた風圧式シャッターを開示する。この風圧式シャッターは、ファン故障時は、フラップの自重で元の位置に戻り、逆流流路を閉鎖する。しかし、フラップを持ち上げたあと、フラップの形状が屈曲しているため風圧損失が生じる。またファンの設置方向も垂直方向のみと制限がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2002−364963号公報
【特許文献2】特開2003−130439号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
従来の逆流防止技術によれば、電動式シャッターは、低コストでの実現が難しかった。一方、風圧式シャッターは、風圧損失およびファンの設置方向の制限などの課題があった。本発明は、低コストで実現可能で且つ、風圧損失が殆どなくファンの設置方向も垂直方向と水平方向の両方に設置可能な風圧式シャッターおよび冷却ファンシステムを提供する。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明が提供する逆流防止機能を備えた風圧式シャッターおよび冷却ファンシステムは、装置起動前の無風状態では流路を塞がない。風圧式シャッターが有している複数個のフラップを流路の方向とほぼ平行に位置させ、流路を開いた状態にしておく。これによって、ファン通常稼働時、シャッターを通過する冷却風の風圧損失を殆ど無くすことができる。
【0010】
さらに風圧損失の軽減を考慮するとフラップの材質は樹脂や金属箔など軽いものが望ましい。同様に風圧損失軽減のため、支軸と軸受は摩擦係数の低い材料を用い、接触面は互いに対して滑らかな形状にする。また、フラップと支軸を樹脂成形や金属成形などで一体部品とすれば部品点数の低減とコストダウンを図ることができる。
【0011】
装置起動前、フラップは流路の方向とほぼ平行だが、完全に平行ではなく若干の傾きを持たせてある。ファン故障によって排気口からの逆流風が発生すると、流路の方向から若干傾いているフラップは、逆流風の風圧を面で受け、支軸を支点に回転し、流路を閉鎖する。
【発明の効果】
【0012】
装置起動前の状態でフラップが流路を塞がない角度に位置しているためファン通常稼働時に、シャッターを通過する冷却風の風圧損失を殆ど無くすことが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】ファン通常稼動時とファン故障時を説明する複数個の冷却ファンを有する電子装置の平面図または正面図である。
【図2】ファン通常稼動時とファン故障時を説明する複数個の冷却ファンとシャッターを有する電子装置の平面図または正面図である。
【図3】無風状態の風圧式シャッターの斜視図である。
【図4】無風状態の風圧式シャッターの側面図である。
【図5】無風状態のフラップの側面図である。
【図6】フラップがある程度回転した状態を説明するフラップの側面図である。
【図7】ファン稼働時、冷却風を受けるときのフラップの側面図である。
【図8】ファン稼働時、冷却風を受けて回転したフラップの側面図である。
【図9】ファン故障時、逆流風を受けるときのフラップの側面図である。
【図10】ファン故障時、逆流風を受けて回転したフラップの側面図である。
【図11】ファン故障時、逆流風を受ける面と逆流風から受ける力を説明する斜視図である。
【図12】を冷却ファンの軸方向に対して垂直に設置する場合の無風状態の風圧式シャッターの側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の実施の形態について、実施例を用い図面を参照しながら詳細に説明する。なお、実質同一部位には同じ参照番号を振り、説明は繰り返さない。
【0015】
本実施例は上述の問題を解決するため低コストで実現可能で且つ、風圧損失が殆どなくファンの設置方向も垂直方向と水平方向の両方に設置可能な風圧式シャッターを提供する。
【0016】
上述した課題は、例えば、複数個の冷却ファン全てに取り付け、逆流風を遮る風圧式シャッターにおいて、冷却ファンの排気方向に対して垂直な支軸と、この支軸に対し回転可能で、排気側に長く吸気側に短いフラップとを有し、任意の冷却ファンが停止したときに発生する逆流風によってフラップを回転させ、該故障冷却ファンの流路を閉鎖する風圧式シャッターにより、解決できる。
【0017】
また、冷却ファンと該冷却ファンに取り付けた逆流風の通過を遮るシャッターからなる冷却ファンシステムにおいて、シャッターは、冷却ファンの排気方向に対して実質的に垂直な支軸と、この支軸に対し回転可能で、排気側が吸気側より長いフラップとを有してもよい。このとき、シャッターは、冷却ファンが停止したときに発生する逆流風によってフラップを回転させ、冷却ファンの流路を閉鎖する。
【0018】
まず、図3を参照して、風圧式シャッターの基本構成を説明する。図3において、風圧式シャッター10は、並列に配置された3枚のフラップ9aと外枠フレーム8aから構成されている。フラップ9aの両端には円筒状の支軸9bがついており、支軸9bは外枠フレーム8aにある凹円筒状の軸受8bに入り込むように、且つ回転自在に取り付けられている。なお、ここではフラップ9aは、3枚で構成されているが冷却ファンの大きさや風量により多数個としても良い。
【0019】
図4を参照して、装置起動前の無風状態におけるフラップ9aの状態を説明する。図4において、無風状態のフラップ9aは、流路を閉鎖しておらず流路の方向Aとほぼ平行な小角度θ0でバランスしている。以後、図4で示したフラップ9aと流路の方向Aとが成す角度をθと定義する。また図中のg方向は重力方向で、流路の方向Aは水平方向とする。後に詳しく説明するが、無風状態のフラップ9aは、どれほど回転させられても必ずθ0の位置に戻る。
【0020】
フラップ9aがθ0の位置でバランスするのは、その形状に理由がある。図5を参照して、フラップ9aの具体的な形状を説明する。図5は、装置起動前の無風状態にθ0の位置でバランスするフラップ9aの側面図である。図中の点線は、支軸9b中心を通って、且つフラップ9aの回転に関わらず常に垂直にあるものとすると、フラップ9aを点線の左側と右側に分けて考えた場合、
左側の部分と右側の部分の重心をそれぞれgウ、gエとする。
重心から支軸9b中心までの距離をそれぞれlウ、lエとする。
側部分、右側部分に働く重力のうち、モーメントとして作用する、つまりlウ、lエに対して垂直な成分をそれぞれFvウ、Fvエとする。
支軸9bを支点としてフラップ9aを回転させようとするそれぞれのモーメントが等しい状態、つまり式で表すと
【0021】
【数1】
【0022】
(式1)となる形状にしてあるのでフラップ9aは小角度θ0の位置でバランスする。
次にフラップ9aが回転したとき元の角度θ0に戻ろうとする理由を説明する。装置起動前の無風状態時に小角度θ0で釣り合っている図5のフラップ9aが図6の状態に回転すると、フラップ9aに働くそれまで釣り合っていたモーメントが変化するため不釣り合いとなる。図6の状態に回転したときにフラップ9aに働くモーメントを以下に説明する。
【0023】
点線から左側の部分と右側の部分の重心をそれぞれg’ウ、g’エとする。
重心から支軸9b中心までの距離をそれぞれl’ウ、l’エとする。
左側部分、右側部分に働く重力のうち、モーメントとして作用する、つまりl’ウ、l’エに対して垂直な成分をそれぞれfvウ、fvエとすると、
フラップ9aを回転させようとするモーメントはそれぞれfvウ・l’ウ、fvエ・l’エとなる。
【0024】
ここでモーメントfvウ・l’ウ、fvエ・l’エの大小関係を明確にするため、フラップ9aが図5から図6の状態に回転するときにモーメントの因子がどのように変化するかを考える。回転によって、左側部分は質量が減少し、右側部分は質量が増加することになる。さらに、フラップ9aが回転しl’ウ、l’エそれぞれが重力方向と平行になるにつれて、左側部分、右側部分に働く重力からl’ウ、l’エに対して垂直な成分:fvウ、fvエに分解される割合が減少するが、l’ウの方がl’エに比べ重力方向と平行になりやすいため、Fvウからfvウへの減少分はFvエからfvエへの減少分に比べて大きい。またl’ウ、l’エもフラップ9aの回転によりlウ、lエ、から増減しているが、先に述べたFvウ、Fvエからfvウ、fvエへの増減に比べてはるかに小さいためモーメントへの影響も小さい。以上のことから、
【0025】
【数2】
【0026】
(式2)が成り立ち、
【0027】
【数3】
【0028】
(式3)のモーメントMoで図6の状態のフラップ9aは、元の角度θ0の位置、つまり図5の状態に戻ろうとする。また図5の状態から図6の状態へ回転する向きと逆に回転したとしても同様で、図5の状態に戻ろうとする。
【0029】
次に装置を起動させ、冷却ファンによって冷却風、逆流風が発生したときのフラップ9aの動作を説明する。図7において、ファン通常稼働時、矢印Aの向きに冷却風が流れる。冷却風により、フラップ9aを押し上げるための力、つまり揚力の分だけ風圧損失が発生する。しかし、θ0は、小角度であるため風圧損失は小さい。また、ア面は、イ面より冷却風の風圧を受ける面積を広くしてあるため発生する揚力もLアの方がLイより大きい。この結果、フラップ9aは、図8の位置になるように時計回りに回転し、冷却風に対してほぼ平行に位置する。
【0030】
図9において、冷却ファン故障時または冷却ファン交換時、矢印Bの向きに逆流風が流れる。逆流風を受ける際、フラップ9aは風の流れに対して完全に平行ではないためフラップ9aのウ面、エ面で逆流風の風圧を受ける。また、逆流風の風圧を受ける面はウ面の方がエ面より面積を広くしてある。このため、フラップ9aは、図10の位置になるように回転する。フラップ9aが流路を塞いだ後でも装置内と装置外で圧力差が生じるため、フラップ9aは圧力差によって流路を塞いだ状態を維持する。また、フラップ9aは、外枠フレーム8aに設けてあるストッパー8cにより流路を閉鎖した状態(本実施例ではθ=90°)以上に回転しない。
【0031】
なお、ストッパー8cは、フラップ9aが流路を閉鎖した状態以上に回転することを防止できるのであれば外枠フレーム8aに付いていなくとも良い。ストッパーは、フラップ9aと一体化させてストッパー部分が外枠フレーム8aに当たってフラップ9aの回転が止まる構造でも良い。
【0032】
フラップの形状について、本実施例では、支軸9bの前後で肉厚が異なる、いわゆるティアドロップ型を表記した。しかし、支軸9bの前後で支軸9bを支点としたモーメントがθ0の位置で釣り合い、図7に示したア面がイ面より面積が広くなり、さらに図9に示したウ面がエ面より面積が広くなるのであれば他の形状でも問題ない。
【0033】
モーメントの釣り合いを計算する上で必要な重心位置についてだが、計算や法則を用いても算出できるが、フラップが単純な形状ではない場合は構造系CADソフトを使えば容易に求められる。
【0034】
またフラップ厚み方向に対する支軸9bの位置について、以下説明する。本実施例では支軸9bはフラップ9aの上端についている。しかし、図5に示したフラップ9aの中心9b′側に寄せても問題ない。ただ支軸9bをフラップ9aの中心9b′側に寄せると、フラップ9aを回転させたとき元の角度に戻ろうとする力が弱くなる。これは、lウとlエが同一直線上に近付くため、先述した(式2)の両辺の値が近くなるためである。
【0035】
さらに、支軸9bの位置を完全にフラップ9aの重心9b′にするとlウとlエが同一直線上に位置するため(式2)が成り立たなくなり、フラップ9aを回転させても元の角度に戻らなくなる。また、支軸9bがフラップ9aの下端側9b″にあると装置起動前の状態でフラップ9aを小角度θ0の位置でバランスさせることは出来ない。上記はフラップが余程複雑な形状でない限り成り立つ。
【0036】
上述した説明を更に簡単にする。無風状態において、支軸9bは、フラップ9aの重心9b′の鉛直線上上部に、Rだけ離れた位置とする。支軸9bは、鉛直線上下部に重心9b′がある位置で安定する。フラップ9aが支軸9bを中心に回転すれば、重心9b′が支点9bの鉛直線上下部から外れ、フラップ9aに逆向きの回転力を与える訳である。
【0037】
θ0の値は、冷却ファンの送風能力や、支軸9bと軸受8bの摩擦、風圧損失をどれくらい押さえたいかによって角度を設定すれば良い。本実施例では風圧損失が殆ど無い風圧式シャッターを実現するため、θ0を小さくするためにはどうすれば良いかを理論的に考え、以下に説明する。いずれの場合も境界条件は、「逆流風によってフラップ9aが回転し、流路を閉鎖すること」とした。
【0038】
ここで、逆流風によってフラップ9aが流路を閉鎖するために回転するとき、フラップ9aに掛かる力についてだが、大きく分けて3種類ある。厳密に言及すれば更に存在するがここでは省略する。
(1)逆流風がフラップに与える力
図9に示したように逆流風がフラップ9aに当たると力Lウ、Lエがフラップ9aに対して働く。
【0039】
【数4】
【0040】
ここで、L:力(揚力)(N)
CL:受圧体の抵抗係数
ρ:空気の密度(kg/m3)
v:風速(m/s)
S:受圧面積(m2)
逆流風を受けるウ面の面積をSウ、エ面の面積をSエ(図11参照)、
ウ面、エ面が逆流風から受ける力をLウ、Lエ(図11参照)とすると、
θ0を小さくしても境界条件「逆流風によってフラップ9aが回転し、流路を閉鎖すること」を満たすためにはLウをLエより出来るだけ大きくする必要がある。つまりウ面の面積:Sウをエ面の面積:Sエより出来るだけ広くすれば良い。
(2)フラップ9aが回転したときθ0に戻ろうとするモーメント
先述した通り、フラップ9aが回転したときには元の角度に戻ろうとするモーメント
fvエ・l’エ−fvウ・l’ウが働く。θ0を小さく設定し、且つ境界条件「逆流風によってフラップ9aが回転し、流路を閉鎖すること」も満たすためにはfvエ・l’エ−fvウ・l’ウは、極力小さい方が良い。何故ならば元の角度に戻ろうとするモーメントが大きいと逆流風の風圧でフラップ9aが流路を閉鎖する状態(本実施例ではθ=90°)まで回転しないため、θ0を大きくしなければならないからである。先述した通りモーメントfvエ・l’エ−fvウ・l’ウの大きさはフラップ厚み方向の支軸9b位置によって調整可能なので装置の流路構成やファンの送風能力によって最適値を決定することが望ましい。但しフラップ9aが元の角度θ0の位置に戻るためにはfvエ・l’エ−fvウ・l’ウ>0でなくてはならない。
(3)フラップ9aが回転するときに発生する支軸9bと軸受8bの摩擦モーメント
次にフラップ9aが回転する際に発生する動摩擦モーメントMだが、以下の様になる。
【0041】
【数5】
【0042】
ここで、M:動摩擦モーメント(mN・m)
μ:摩擦係数
W:軸受けに作用する荷重(N)
d:呼び内径(mm)
θ0を小さくしても境界条件「逆流風によってフラップ9aが回転し、流路を閉鎖すること」を満たすためには動摩擦モーメントMを小さくすれば良い。軸受8bに作用する荷重Wを小さくするためにはフラップ9aの質量を小さくすれば良く、また、支軸9bは径を小さくして、支軸9bと軸受8bは例えばポリアセタールやフッ素樹脂などの摩擦係数が小さく摺動特性の優れた材料を用いると良い。
【0043】
以上、ファンの軸方向が水平になる様に設置する実施例を説明した。次に、図12を参照して、風圧式シャッター10を冷却ファンの軸方向を垂直に設置する実施例を説明する。図12において、風圧式シャッター10Aは、並列に配置された3枚のフラップ9aと外枠フレーム8aから構成されている。フラップ9aの両端には円筒状の支軸9bがついており、支軸9bは外枠フレーム8aにある凹円筒状の軸受8bに入り込むように、且つ回転自在に取り付けられている。なお、ここではフラップ9aは、3枚で構成されているが冷却ファンの大きさや風量により多数個としても良い。また支軸9bの位置についてだが、ファン軸方向が水平設置の場合とは異なる。
【0044】
風圧式シャッター10Aは、図12に示すように垂直な冷却風の流れとほぼ平行な小角度θ0を維持するようフラップ9aの形状を支軸9bの前後で調整されている。基本的に、水平方向設置の場合と同様で、装置起動前の状態でフラップ9aは流路を閉鎖しておらず冷却風の風圧損失を小さくしている。また逆流風が発生すれば逆流風の風圧を利用して逆流流路を閉鎖する。
無風状態において、支軸9bは、フラップ9aの重心9b′の鉛直線上上部に、Rだけ離れた場所に位置する。すなわち支軸9bとフラップ9aの重心9b′との距離Rは、ファン軸方向が水平設置の場合と同一である。
【0045】
実施例いずれにおいても、風圧式シャッターの取付け位置は、冷却ファンの前後どちらにでも設置可能である。冷却ファンにシャッターを取り付けたシステムを冷却ファンシステムと呼ぶ。
【0046】
上述した実施例に拠れば、装置起動前の状態でフラップが流路を塞がない角度に位置しているためファン通常稼働時に、シャッターを通過する冷却風の風圧損失を殆ど無くすことが可能な風圧式シャッターおよび冷却ファンシステムを提供することができる。またフラップの材質は軽いものを選定し、支軸と軸受の摩擦が小さくなるような材質、形状にすることでも風圧損失を軽減できる。更にフラップと軸は樹脂成形や金属成形などで一体部品とすることにより部品点数の軽減とコストダウンを図ることができる。
【0047】
逆流流路を閉鎖する際には逆流風の風圧を利用するので、ファンの設置方向は垂直方向のみではなく水平方向にも設置可能である。
また、ファン故障時やファン交換時のみではなく、消費電力の低減を目的に故意にファンを停止させることができる点も本実施例の効果と言える。例えば使用環境によってシステムを追加増設するタイプの装置においてシステム構成が少ないときや、駆動状態によって発熱量が変化する電子機器において発熱量が小さい状態のときには、複数個のファンのうち一部のファンを制御し停止させファン駆動の電力を低減させることができる。また、温度センサーなどを用いて発熱部品の温度を検知し上限仕様温度から十分にマージンがある場合も、同様に一部のファンを停止して消費電力を低減することができる。
さらに本実施例の逆流防止シャッターは風圧式シャッターのため電動式シャッターと異なりシャッター制御に電力を使用せず省電力化を図ることができる。
【符号の説明】
【0048】
1…冷却ファン、2…吸気口、3…装置筺体、4…冷却対象電子部品、5…排気口、7…逆流防止シャッター、8a…外枠フレーム、8b…軸受、8c…ストッパー、9a…フラップ、9b…支軸、9b′…支軸の位置(フラップの重心)、9b″…支軸の位置(フラップの下端側)、10…風圧式シャッター。
【技術分野】
【0001】
本発明は、風圧式シャッターおよび冷却ファンシステムに係り、特に複数の冷却ファンを有する電子機器用の風圧式シャッターおよび冷却ファンシステムに関する。
【背景技術】
【0002】
近年の急速な情報化に伴って、通信機器、コンピュータ、サーバー等の電子機器は、24時間連続長期運転が当たり前となっている。この結果、万一、装置が制御不能となると顧客に多大な迷惑をかけることになる。
【0003】
一方、電子機器筺体は、小型化、省スペース化の傾向にある。その結果、筺体内に発熱部品が高密度に実装されている。筺体内の温度上昇が要因の動作不良でサービスが停止しないよう、多くの電子機器は、冷却ファンを複数個搭載し、その冗長性を確保している。
【0004】
図1(a)は、電子機器において、冷却ファン1を複数個有する場合を示している。装置の設置向きは水平、垂直どちらでもかまわない。通常時、冷却風は、吸気口2から装置筺体3に入り冷却対象電子部品4を冷却し、排気口5から排気される。すなわち矢印Aに示すような冷却風が流れている。しかし、図1(b)に示すように冷却ファン1−2が故障などの要因で停止すると、冷却風は、矢印A′の他に矢印Bのような冷却対象電子部品4を通過しない流れが発生する。この結果、風量が半減したうえ、1台単独の風量としても矢印A>矢印A′となり、装置全体の冷却能力をさらに低下させてしまう。そのため、矢印Bのような排気口5からの吸い込みによる逆流風、回り込み風を防止する必要がある。
【0005】
この対策として、図2(a)のようにファンの前に逆止弁の機能をもつ逆流防止シャッター7を設置し、ファン通常稼働時の冷却風Aは通すが、図2(b)に示すように、冷却ファン1−2が故障した際には、故障ファン1−2の前に設置された逆流防止シャッター7−2が閉じた状態となり、排気口からの逆流風を通過させない技術がある。その結果、矢印A″のような冷却風が流れ、風量としては矢印Aよりは少なくなるが、矢印A′よりは多く、ファン故障時でも装置の冷却能力低下を軽減する(A>A″>A′)。なお、逆流防止シャッター7は、冷却ファン1の後ろに設けてもよい。
【0006】
具体的には、特許文献1のようにファンの故障を検知し電動式シャッターにて故障ファンの流路を塞ぐ。しかし、電動式のシャッターは低コストでの実現が難しい。
特許文献2は、風圧損失を改善するためフラップの質量を支軸の前後で等しくし、面積を支軸の前後で差を設けることでフラップを持ち上げるための風圧損失を低減させた風圧式シャッターを開示する。この風圧式シャッターは、ファン故障時は、フラップの自重で元の位置に戻り、逆流流路を閉鎖する。しかし、フラップを持ち上げたあと、フラップの形状が屈曲しているため風圧損失が生じる。またファンの設置方向も垂直方向のみと制限がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2002−364963号公報
【特許文献2】特開2003−130439号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
従来の逆流防止技術によれば、電動式シャッターは、低コストでの実現が難しかった。一方、風圧式シャッターは、風圧損失およびファンの設置方向の制限などの課題があった。本発明は、低コストで実現可能で且つ、風圧損失が殆どなくファンの設置方向も垂直方向と水平方向の両方に設置可能な風圧式シャッターおよび冷却ファンシステムを提供する。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明が提供する逆流防止機能を備えた風圧式シャッターおよび冷却ファンシステムは、装置起動前の無風状態では流路を塞がない。風圧式シャッターが有している複数個のフラップを流路の方向とほぼ平行に位置させ、流路を開いた状態にしておく。これによって、ファン通常稼働時、シャッターを通過する冷却風の風圧損失を殆ど無くすことができる。
【0010】
さらに風圧損失の軽減を考慮するとフラップの材質は樹脂や金属箔など軽いものが望ましい。同様に風圧損失軽減のため、支軸と軸受は摩擦係数の低い材料を用い、接触面は互いに対して滑らかな形状にする。また、フラップと支軸を樹脂成形や金属成形などで一体部品とすれば部品点数の低減とコストダウンを図ることができる。
【0011】
装置起動前、フラップは流路の方向とほぼ平行だが、完全に平行ではなく若干の傾きを持たせてある。ファン故障によって排気口からの逆流風が発生すると、流路の方向から若干傾いているフラップは、逆流風の風圧を面で受け、支軸を支点に回転し、流路を閉鎖する。
【発明の効果】
【0012】
装置起動前の状態でフラップが流路を塞がない角度に位置しているためファン通常稼働時に、シャッターを通過する冷却風の風圧損失を殆ど無くすことが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】ファン通常稼動時とファン故障時を説明する複数個の冷却ファンを有する電子装置の平面図または正面図である。
【図2】ファン通常稼動時とファン故障時を説明する複数個の冷却ファンとシャッターを有する電子装置の平面図または正面図である。
【図3】無風状態の風圧式シャッターの斜視図である。
【図4】無風状態の風圧式シャッターの側面図である。
【図5】無風状態のフラップの側面図である。
【図6】フラップがある程度回転した状態を説明するフラップの側面図である。
【図7】ファン稼働時、冷却風を受けるときのフラップの側面図である。
【図8】ファン稼働時、冷却風を受けて回転したフラップの側面図である。
【図9】ファン故障時、逆流風を受けるときのフラップの側面図である。
【図10】ファン故障時、逆流風を受けて回転したフラップの側面図である。
【図11】ファン故障時、逆流風を受ける面と逆流風から受ける力を説明する斜視図である。
【図12】を冷却ファンの軸方向に対して垂直に設置する場合の無風状態の風圧式シャッターの側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の実施の形態について、実施例を用い図面を参照しながら詳細に説明する。なお、実質同一部位には同じ参照番号を振り、説明は繰り返さない。
【0015】
本実施例は上述の問題を解決するため低コストで実現可能で且つ、風圧損失が殆どなくファンの設置方向も垂直方向と水平方向の両方に設置可能な風圧式シャッターを提供する。
【0016】
上述した課題は、例えば、複数個の冷却ファン全てに取り付け、逆流風を遮る風圧式シャッターにおいて、冷却ファンの排気方向に対して垂直な支軸と、この支軸に対し回転可能で、排気側に長く吸気側に短いフラップとを有し、任意の冷却ファンが停止したときに発生する逆流風によってフラップを回転させ、該故障冷却ファンの流路を閉鎖する風圧式シャッターにより、解決できる。
【0017】
また、冷却ファンと該冷却ファンに取り付けた逆流風の通過を遮るシャッターからなる冷却ファンシステムにおいて、シャッターは、冷却ファンの排気方向に対して実質的に垂直な支軸と、この支軸に対し回転可能で、排気側が吸気側より長いフラップとを有してもよい。このとき、シャッターは、冷却ファンが停止したときに発生する逆流風によってフラップを回転させ、冷却ファンの流路を閉鎖する。
【0018】
まず、図3を参照して、風圧式シャッターの基本構成を説明する。図3において、風圧式シャッター10は、並列に配置された3枚のフラップ9aと外枠フレーム8aから構成されている。フラップ9aの両端には円筒状の支軸9bがついており、支軸9bは外枠フレーム8aにある凹円筒状の軸受8bに入り込むように、且つ回転自在に取り付けられている。なお、ここではフラップ9aは、3枚で構成されているが冷却ファンの大きさや風量により多数個としても良い。
【0019】
図4を参照して、装置起動前の無風状態におけるフラップ9aの状態を説明する。図4において、無風状態のフラップ9aは、流路を閉鎖しておらず流路の方向Aとほぼ平行な小角度θ0でバランスしている。以後、図4で示したフラップ9aと流路の方向Aとが成す角度をθと定義する。また図中のg方向は重力方向で、流路の方向Aは水平方向とする。後に詳しく説明するが、無風状態のフラップ9aは、どれほど回転させられても必ずθ0の位置に戻る。
【0020】
フラップ9aがθ0の位置でバランスするのは、その形状に理由がある。図5を参照して、フラップ9aの具体的な形状を説明する。図5は、装置起動前の無風状態にθ0の位置でバランスするフラップ9aの側面図である。図中の点線は、支軸9b中心を通って、且つフラップ9aの回転に関わらず常に垂直にあるものとすると、フラップ9aを点線の左側と右側に分けて考えた場合、
左側の部分と右側の部分の重心をそれぞれgウ、gエとする。
重心から支軸9b中心までの距離をそれぞれlウ、lエとする。
側部分、右側部分に働く重力のうち、モーメントとして作用する、つまりlウ、lエに対して垂直な成分をそれぞれFvウ、Fvエとする。
支軸9bを支点としてフラップ9aを回転させようとするそれぞれのモーメントが等しい状態、つまり式で表すと
【0021】
【数1】
【0022】
(式1)となる形状にしてあるのでフラップ9aは小角度θ0の位置でバランスする。
次にフラップ9aが回転したとき元の角度θ0に戻ろうとする理由を説明する。装置起動前の無風状態時に小角度θ0で釣り合っている図5のフラップ9aが図6の状態に回転すると、フラップ9aに働くそれまで釣り合っていたモーメントが変化するため不釣り合いとなる。図6の状態に回転したときにフラップ9aに働くモーメントを以下に説明する。
【0023】
点線から左側の部分と右側の部分の重心をそれぞれg’ウ、g’エとする。
重心から支軸9b中心までの距離をそれぞれl’ウ、l’エとする。
左側部分、右側部分に働く重力のうち、モーメントとして作用する、つまりl’ウ、l’エに対して垂直な成分をそれぞれfvウ、fvエとすると、
フラップ9aを回転させようとするモーメントはそれぞれfvウ・l’ウ、fvエ・l’エとなる。
【0024】
ここでモーメントfvウ・l’ウ、fvエ・l’エの大小関係を明確にするため、フラップ9aが図5から図6の状態に回転するときにモーメントの因子がどのように変化するかを考える。回転によって、左側部分は質量が減少し、右側部分は質量が増加することになる。さらに、フラップ9aが回転しl’ウ、l’エそれぞれが重力方向と平行になるにつれて、左側部分、右側部分に働く重力からl’ウ、l’エに対して垂直な成分:fvウ、fvエに分解される割合が減少するが、l’ウの方がl’エに比べ重力方向と平行になりやすいため、Fvウからfvウへの減少分はFvエからfvエへの減少分に比べて大きい。またl’ウ、l’エもフラップ9aの回転によりlウ、lエ、から増減しているが、先に述べたFvウ、Fvエからfvウ、fvエへの増減に比べてはるかに小さいためモーメントへの影響も小さい。以上のことから、
【0025】
【数2】
【0026】
(式2)が成り立ち、
【0027】
【数3】
【0028】
(式3)のモーメントMoで図6の状態のフラップ9aは、元の角度θ0の位置、つまり図5の状態に戻ろうとする。また図5の状態から図6の状態へ回転する向きと逆に回転したとしても同様で、図5の状態に戻ろうとする。
【0029】
次に装置を起動させ、冷却ファンによって冷却風、逆流風が発生したときのフラップ9aの動作を説明する。図7において、ファン通常稼働時、矢印Aの向きに冷却風が流れる。冷却風により、フラップ9aを押し上げるための力、つまり揚力の分だけ風圧損失が発生する。しかし、θ0は、小角度であるため風圧損失は小さい。また、ア面は、イ面より冷却風の風圧を受ける面積を広くしてあるため発生する揚力もLアの方がLイより大きい。この結果、フラップ9aは、図8の位置になるように時計回りに回転し、冷却風に対してほぼ平行に位置する。
【0030】
図9において、冷却ファン故障時または冷却ファン交換時、矢印Bの向きに逆流風が流れる。逆流風を受ける際、フラップ9aは風の流れに対して完全に平行ではないためフラップ9aのウ面、エ面で逆流風の風圧を受ける。また、逆流風の風圧を受ける面はウ面の方がエ面より面積を広くしてある。このため、フラップ9aは、図10の位置になるように回転する。フラップ9aが流路を塞いだ後でも装置内と装置外で圧力差が生じるため、フラップ9aは圧力差によって流路を塞いだ状態を維持する。また、フラップ9aは、外枠フレーム8aに設けてあるストッパー8cにより流路を閉鎖した状態(本実施例ではθ=90°)以上に回転しない。
【0031】
なお、ストッパー8cは、フラップ9aが流路を閉鎖した状態以上に回転することを防止できるのであれば外枠フレーム8aに付いていなくとも良い。ストッパーは、フラップ9aと一体化させてストッパー部分が外枠フレーム8aに当たってフラップ9aの回転が止まる構造でも良い。
【0032】
フラップの形状について、本実施例では、支軸9bの前後で肉厚が異なる、いわゆるティアドロップ型を表記した。しかし、支軸9bの前後で支軸9bを支点としたモーメントがθ0の位置で釣り合い、図7に示したア面がイ面より面積が広くなり、さらに図9に示したウ面がエ面より面積が広くなるのであれば他の形状でも問題ない。
【0033】
モーメントの釣り合いを計算する上で必要な重心位置についてだが、計算や法則を用いても算出できるが、フラップが単純な形状ではない場合は構造系CADソフトを使えば容易に求められる。
【0034】
またフラップ厚み方向に対する支軸9bの位置について、以下説明する。本実施例では支軸9bはフラップ9aの上端についている。しかし、図5に示したフラップ9aの中心9b′側に寄せても問題ない。ただ支軸9bをフラップ9aの中心9b′側に寄せると、フラップ9aを回転させたとき元の角度に戻ろうとする力が弱くなる。これは、lウとlエが同一直線上に近付くため、先述した(式2)の両辺の値が近くなるためである。
【0035】
さらに、支軸9bの位置を完全にフラップ9aの重心9b′にするとlウとlエが同一直線上に位置するため(式2)が成り立たなくなり、フラップ9aを回転させても元の角度に戻らなくなる。また、支軸9bがフラップ9aの下端側9b″にあると装置起動前の状態でフラップ9aを小角度θ0の位置でバランスさせることは出来ない。上記はフラップが余程複雑な形状でない限り成り立つ。
【0036】
上述した説明を更に簡単にする。無風状態において、支軸9bは、フラップ9aの重心9b′の鉛直線上上部に、Rだけ離れた位置とする。支軸9bは、鉛直線上下部に重心9b′がある位置で安定する。フラップ9aが支軸9bを中心に回転すれば、重心9b′が支点9bの鉛直線上下部から外れ、フラップ9aに逆向きの回転力を与える訳である。
【0037】
θ0の値は、冷却ファンの送風能力や、支軸9bと軸受8bの摩擦、風圧損失をどれくらい押さえたいかによって角度を設定すれば良い。本実施例では風圧損失が殆ど無い風圧式シャッターを実現するため、θ0を小さくするためにはどうすれば良いかを理論的に考え、以下に説明する。いずれの場合も境界条件は、「逆流風によってフラップ9aが回転し、流路を閉鎖すること」とした。
【0038】
ここで、逆流風によってフラップ9aが流路を閉鎖するために回転するとき、フラップ9aに掛かる力についてだが、大きく分けて3種類ある。厳密に言及すれば更に存在するがここでは省略する。
(1)逆流風がフラップに与える力
図9に示したように逆流風がフラップ9aに当たると力Lウ、Lエがフラップ9aに対して働く。
【0039】
【数4】
【0040】
ここで、L:力(揚力)(N)
CL:受圧体の抵抗係数
ρ:空気の密度(kg/m3)
v:風速(m/s)
S:受圧面積(m2)
逆流風を受けるウ面の面積をSウ、エ面の面積をSエ(図11参照)、
ウ面、エ面が逆流風から受ける力をLウ、Lエ(図11参照)とすると、
θ0を小さくしても境界条件「逆流風によってフラップ9aが回転し、流路を閉鎖すること」を満たすためにはLウをLエより出来るだけ大きくする必要がある。つまりウ面の面積:Sウをエ面の面積:Sエより出来るだけ広くすれば良い。
(2)フラップ9aが回転したときθ0に戻ろうとするモーメント
先述した通り、フラップ9aが回転したときには元の角度に戻ろうとするモーメント
fvエ・l’エ−fvウ・l’ウが働く。θ0を小さく設定し、且つ境界条件「逆流風によってフラップ9aが回転し、流路を閉鎖すること」も満たすためにはfvエ・l’エ−fvウ・l’ウは、極力小さい方が良い。何故ならば元の角度に戻ろうとするモーメントが大きいと逆流風の風圧でフラップ9aが流路を閉鎖する状態(本実施例ではθ=90°)まで回転しないため、θ0を大きくしなければならないからである。先述した通りモーメントfvエ・l’エ−fvウ・l’ウの大きさはフラップ厚み方向の支軸9b位置によって調整可能なので装置の流路構成やファンの送風能力によって最適値を決定することが望ましい。但しフラップ9aが元の角度θ0の位置に戻るためにはfvエ・l’エ−fvウ・l’ウ>0でなくてはならない。
(3)フラップ9aが回転するときに発生する支軸9bと軸受8bの摩擦モーメント
次にフラップ9aが回転する際に発生する動摩擦モーメントMだが、以下の様になる。
【0041】
【数5】
【0042】
ここで、M:動摩擦モーメント(mN・m)
μ:摩擦係数
W:軸受けに作用する荷重(N)
d:呼び内径(mm)
θ0を小さくしても境界条件「逆流風によってフラップ9aが回転し、流路を閉鎖すること」を満たすためには動摩擦モーメントMを小さくすれば良い。軸受8bに作用する荷重Wを小さくするためにはフラップ9aの質量を小さくすれば良く、また、支軸9bは径を小さくして、支軸9bと軸受8bは例えばポリアセタールやフッ素樹脂などの摩擦係数が小さく摺動特性の優れた材料を用いると良い。
【0043】
以上、ファンの軸方向が水平になる様に設置する実施例を説明した。次に、図12を参照して、風圧式シャッター10を冷却ファンの軸方向を垂直に設置する実施例を説明する。図12において、風圧式シャッター10Aは、並列に配置された3枚のフラップ9aと外枠フレーム8aから構成されている。フラップ9aの両端には円筒状の支軸9bがついており、支軸9bは外枠フレーム8aにある凹円筒状の軸受8bに入り込むように、且つ回転自在に取り付けられている。なお、ここではフラップ9aは、3枚で構成されているが冷却ファンの大きさや風量により多数個としても良い。また支軸9bの位置についてだが、ファン軸方向が水平設置の場合とは異なる。
【0044】
風圧式シャッター10Aは、図12に示すように垂直な冷却風の流れとほぼ平行な小角度θ0を維持するようフラップ9aの形状を支軸9bの前後で調整されている。基本的に、水平方向設置の場合と同様で、装置起動前の状態でフラップ9aは流路を閉鎖しておらず冷却風の風圧損失を小さくしている。また逆流風が発生すれば逆流風の風圧を利用して逆流流路を閉鎖する。
無風状態において、支軸9bは、フラップ9aの重心9b′の鉛直線上上部に、Rだけ離れた場所に位置する。すなわち支軸9bとフラップ9aの重心9b′との距離Rは、ファン軸方向が水平設置の場合と同一である。
【0045】
実施例いずれにおいても、風圧式シャッターの取付け位置は、冷却ファンの前後どちらにでも設置可能である。冷却ファンにシャッターを取り付けたシステムを冷却ファンシステムと呼ぶ。
【0046】
上述した実施例に拠れば、装置起動前の状態でフラップが流路を塞がない角度に位置しているためファン通常稼働時に、シャッターを通過する冷却風の風圧損失を殆ど無くすことが可能な風圧式シャッターおよび冷却ファンシステムを提供することができる。またフラップの材質は軽いものを選定し、支軸と軸受の摩擦が小さくなるような材質、形状にすることでも風圧損失を軽減できる。更にフラップと軸は樹脂成形や金属成形などで一体部品とすることにより部品点数の軽減とコストダウンを図ることができる。
【0047】
逆流流路を閉鎖する際には逆流風の風圧を利用するので、ファンの設置方向は垂直方向のみではなく水平方向にも設置可能である。
また、ファン故障時やファン交換時のみではなく、消費電力の低減を目的に故意にファンを停止させることができる点も本実施例の効果と言える。例えば使用環境によってシステムを追加増設するタイプの装置においてシステム構成が少ないときや、駆動状態によって発熱量が変化する電子機器において発熱量が小さい状態のときには、複数個のファンのうち一部のファンを制御し停止させファン駆動の電力を低減させることができる。また、温度センサーなどを用いて発熱部品の温度を検知し上限仕様温度から十分にマージンがある場合も、同様に一部のファンを停止して消費電力を低減することができる。
さらに本実施例の逆流防止シャッターは風圧式シャッターのため電動式シャッターと異なりシャッター制御に電力を使用せず省電力化を図ることができる。
【符号の説明】
【0048】
1…冷却ファン、2…吸気口、3…装置筺体、4…冷却対象電子部品、5…排気口、7…逆流防止シャッター、8a…外枠フレーム、8b…軸受、8c…ストッパー、9a…フラップ、9b…支軸、9b′…支軸の位置(フラップの重心)、9b″…支軸の位置(フラップの下端側)、10…風圧式シャッター。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
逆流風を遮る風圧式シャッターにおいて、
冷却ファンの排気方向に対して垂直な支軸と、この支軸に対し回転可能で、排気側に長く吸気側に短いフラップとを有し、
任意の冷却ファンが停止したときに発生する逆流風によって前記フラップを回転させ、前記の停止した冷却ファンの流路を閉鎖することを特徴とする風圧式シャッター。
【請求項2】
請求項1に記載の風圧式シャッターであって、
無風状態において、前記フラップは、前記排気側に対して、前記の停止した冷却ファンの流路を閉鎖する方向に傾いていることを特徴とする風圧式シャッター。
【請求項3】
請求項1に記載の風圧式シャッターであって、
無風状態において、前記フラップの重心は、前記支軸の鉛直下にあることを特徴とする風圧式シャッター。
【請求項4】
請求項1に記載の風圧式シャッターであって、
無風状態において、前記フラップの重心は、前記支軸の鉛直下面内にあることを特徴とする風圧式シャッター。
【請求項5】
請求項3に記載の風圧式シャッターであって、
無風状態において、前記フラップの重心は、前記支軸の支軸円の中心から予め定めた値だけ離れていることを特徴とする風圧式シャッター。
【請求項6】
冷却ファンとこの冷却ファンを通過する逆流風を遮るシャッターとからなる冷却ファンシステムであって、
前記シャッターは、前記冷却ファンの排気方向に対してほぼ垂直な支軸と、この支軸に対し回転可能で、排気側に長く吸気側に短いフラップとを有し、
前記シャッターは、前記冷却ファンが停止したときに発生する逆流風によって前記フラップを回転させ、前記冷却ファンの流路を閉鎖することを特徴とする冷却ファンシステム。
【請求項7】
前記シャッターは、前記冷却ファンが停止したとき、他の冷却ファンによる逆流風によって前記フラップを回転させ、停止した前記冷却ファンの流路を閉鎖することを特徴とする請求項6に記載の冷却ファンシステム。
【請求項1】
逆流風を遮る風圧式シャッターにおいて、
冷却ファンの排気方向に対して垂直な支軸と、この支軸に対し回転可能で、排気側に長く吸気側に短いフラップとを有し、
任意の冷却ファンが停止したときに発生する逆流風によって前記フラップを回転させ、前記の停止した冷却ファンの流路を閉鎖することを特徴とする風圧式シャッター。
【請求項2】
請求項1に記載の風圧式シャッターであって、
無風状態において、前記フラップは、前記排気側に対して、前記の停止した冷却ファンの流路を閉鎖する方向に傾いていることを特徴とする風圧式シャッター。
【請求項3】
請求項1に記載の風圧式シャッターであって、
無風状態において、前記フラップの重心は、前記支軸の鉛直下にあることを特徴とする風圧式シャッター。
【請求項4】
請求項1に記載の風圧式シャッターであって、
無風状態において、前記フラップの重心は、前記支軸の鉛直下面内にあることを特徴とする風圧式シャッター。
【請求項5】
請求項3に記載の風圧式シャッターであって、
無風状態において、前記フラップの重心は、前記支軸の支軸円の中心から予め定めた値だけ離れていることを特徴とする風圧式シャッター。
【請求項6】
冷却ファンとこの冷却ファンを通過する逆流風を遮るシャッターとからなる冷却ファンシステムであって、
前記シャッターは、前記冷却ファンの排気方向に対してほぼ垂直な支軸と、この支軸に対し回転可能で、排気側に長く吸気側に短いフラップとを有し、
前記シャッターは、前記冷却ファンが停止したときに発生する逆流風によって前記フラップを回転させ、前記冷却ファンの流路を閉鎖することを特徴とする冷却ファンシステム。
【請求項7】
前記シャッターは、前記冷却ファンが停止したとき、他の冷却ファンによる逆流風によって前記フラップを回転させ、停止した前記冷却ファンの流路を閉鎖することを特徴とする請求項6に記載の冷却ファンシステム。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【公開番号】特開2011−231954(P2011−231954A)
【公開日】平成23年11月17日(2011.11.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−100871(P2010−100871)
【出願日】平成22年4月26日(2010.4.26)
【出願人】(000005108)株式会社日立製作所 (27,607)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成23年11月17日(2011.11.17)
【国際特許分類】
【出願日】平成22年4月26日(2010.4.26)
【出願人】(000005108)株式会社日立製作所 (27,607)
【Fターム(参考)】
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