説明

飛行時間型質量分析装置及び飛行時間型質量分析装置におけるイオン分析方法

【課題】 イオントラップToF装置の、特にMS2及びMS3分析モードにおいて、イオンスループット速度及びスペクトル取得速度を改良する。
【解決手段】 飛行時間型質量分析装置(1)が、イオン源と、該イオン源から供給される試料イオンを受容する分割線形イオンデバイス(10)と、該分割デバイスから排出されたイオンを分析する飛行時間型質量分析器を備える。最初にイオンを二以上の隣接するセグメントグループの中に捕捉し、次いでイオンをセグメントグループよりも短い分割デバイスの領域に捕捉するための捕捉電圧が分割デバイスに印加される。捕捉電圧はデバイス(10)の全長に沿って一様な捕捉場を供給するのにも有効である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、飛行時間(time-of-flight:ToF)型質量分析装置および飛行時間型質量分析装置におけるイオン分析方法に関する。とりわけ、本発明は分割線形イオン蓄積器を有する飛行時間型質量分析装置に関する。
【背景技術】
【0002】
四重極質量フィルタ飛行時間型質量分析装置や四重極イオントラップ飛行時間型を含む飛行時間型質量分析装置は、今では質量分析分野において広く採用されている。市販されている飛行時間型装置は、最高20kの分解能及び最高3〜5ppmの質量精度を有している。ちなみに、FTICR(Fourier Transform Ion Cyclotron Resonance:フーリエ変換イオンサイクロトロン共鳴)装置では、少なくとも100kという、更に高い分解能を得ることができる。このように分解能が高いことの主な利点は質量測定の精度がより高くなるという点にあるが、これは分析される化合物を確実に同定するうえで必要である。
【0003】
とはいえ、非常に高い分解能を有するにもかかわらず、FTICR装置はTOF装置と比較すると多くの不利な面がある。まず、一秒間に記録できるスペクトルの数が少ない。次いで、適度な強度のスペクトルピークを記録するためには、少なくとも100個のイオンが必要である。これら二つの欠点があることは、検出限界の妥協を意味する。FTICR装置の三番目の欠点は、超電導磁石が必要になることである。従って装置が大きくなり、これとともに高い購入コストと高いランニングコストがかかる。よって、ToF型質量分析装置がもたらす分解能を高めたいという強い動機がある。
【0004】
プリカーサイオンの分離において、高分解能であることは、同位体的に純粋なMS/MS娘イオンスペクトルの生成のため及び同重体干渉イオンを排除するために重要である。検出限界が低いことは、例えばプロテオミクスの分野において、より多くのタンパク質が存在している時に弱く発現する一又は複数のタンパク質を検知することや、多くの他の応用分野において低濃度の試料を検知することを可能にするために重要である。
【0005】
個々に分離された化合物が一気に又は数秒しか持続しない一群として質量分析装置に導入される液体クロマトグラフィ(LC)から試料が供給される際には、一秒当たりに多くのスペクトルを生成する能力が必要となる。LCカラムから溶出する各化合物について最大の情報を取得するためには、高品質のスペクトルを高速で生成しなければならない。試料がクロマトグラフによる分離無しで直接的に注入される場合に多くのスペクトルを生成する能力が備わっていることは全体の分析時間を短縮し、生産性をより高める点でも有用である。
【0006】
取得した各スペクトルにおいて高ダイナミックレンジを得ることが望ましい。それにより、スペクトルが忠実度の高いデータ(良好な統計値及び高いSN比)を示すことになり、結果として同じスペクトルを大量に蓄積する必要が無くなる。このような蓄積の必要性を無くすことは実効的な繰り返し速度を高めることに等しく、さらに、生産性を高めるものとなる。
【0007】
質量範囲(検知可能な最大質量と最小質量の比)が広いこともまた、次に挙げる理由のために有利である。
【0008】
最高の質量精度を得るためには、スペクトルに少なくとも一つの内部較正ピークが含まれている必要がある。質量範囲が広いということには、各検体に専用のキャリブラントを用意する必要なく、対応するより広い質量範囲内に未知のピークが位置することができるという利点がある。
【0009】
「単発」の広い質量範囲能力の第二の利点は、ペプチドをMS/MS分析する場合にある。ペプチドイオンは、ペプチド鎖において隣接するアミノ酸間の結合のみで切れるように開裂する。ペプチドのアミノ酸配列を同定可能にする一連のピークが生成される。これらのピークはm/z値の分布が広いことがあり、そしてタンパク質を一意に同定する確率は検出されたピークの数に依存するため、有効な質量範囲が広いことには利点がある。
【0010】
イオントラップにおけるイオンの基本的挙動はマシューパラメータa及びqによって表現できる。もしマシューパラメータqが<0.4であれば、イオン運動は、深さが捕捉波形の振幅とマシューパラメータqの積に比例する調和「擬ポテンシャル井戸」内での永年運動と見ることができる。もしイオントラップ内に緩衝ガスが存在しているならば、短時間の冷却期間後に、捕捉されたイオンは運動エネルギーを緩衝ガスによって失い、その「擬ポテンシャル井戸」の中心(ポテンシャルが最も低い領域)に存在するようになる。
【0011】
冷却によるこの局在化の結果、「速度−位置」位相空間においてイオン雲の占める範囲が縮小する。より詳細には、そのイオン雲は物理サイズが縮小し、イオントラップの長手軸に直交する方向への速度広がりが小さくなる。従って、イオン雲は、イオントラップより排出されるとエミッタンスが小さくなり、これによって付置されるToF型分析器の性能向上が可能となる。特に、質量Mのイオンから成る平衡イオン雲の二乗平均平方根速度(root mean squared velocity:RMSV)vth(M)は次式によって与えられる。
【数1】

ここに、Kbはボルツマン定数、moは単位質量であり、イオン雲の温度Tは緩衝ガスの温度によって決定される。そして、イオントラップから排出されたイオンの「転回時間」ΔTturn aroundは次式によってRMSVと関連付けられる。
【数2】

このとき、γは単位変化値に対する単位質量の比であって、9.97997x107である。
【0012】
二乗平均平方根速度が減少したイオン雲はΔTturn aroundも減少し、このことによって分解能が向上する。なぜならば、ΔTturn_aroundが大部分のToF型分析器の分解能の限界を定めるからである。
【0013】
より詳細には、ToF型分析器の分解能は次式によって与えられる。
【数3】

ここで、Tfは飛行時間であり、ΔTはToFスペクトルの単一の質量電荷比に関連したピークの半値全幅(full width at half maximum height:FWHM)である。
【0014】
次式によれば、ΔTturn_aroundは、ΔTの全体の値に寄与する。
【数4】

【0015】
一般的に、ΔTturn_aroundは、ΔTdetector、ΔTt_jitter、ΔTchro_ab、及びΔTsph_abと同様の値を有している。そのため、RMSVが減少することによるΔTturn_aroundの減少が非常に僅かであったとしても、分解能にいくらかの改善がもたらされる。
【0016】
また、イオン雲は横引出方向において物理サイズが減少しているため、引出電圧が印加されることでイオントラップから排出される際に、イオンはエネルギー広がりが(同じくΔTchro_abも)減少する。これもまた分解能の改善をもたらす。
【0017】
一般に、高いQ共鳴LC回路によって生成された場合、捕捉場を終了させるのは困難である。結果として、引き出し場が印加される迄に、イオン雲には拡大に供される時間を過度に与えられる。これらの問題を解決するある方法がWO2005/083742に記載された。これによれば、多数の高速電気スイッチを用いることにより捕捉場を提供し、従って、捕捉波形の位相に応じて高精度で捕捉場を終了させることが可能である。そして、わずかな所定の遅延の後、全てのイオンがイオントラップから飛行時間型質量分析装置の方へ移動する状態へ切り替える。
【0018】
従来の三次元イオントラップに関連した一つの問題は、電荷容量が小さいことである。これは、三次元イオントラップに関連する四重極場がイオンを空間内の一点に向けて押し込むため、イオン雲がこの点を中心とした小体積を占めるからである。電荷容量がこのように小さいことで「ダイナミックレンジ」及び装置のイオンスループットが低下する。ダイナミックレンジが低い場合、各マススペクトルのイオンの数が制限され、そのため、十分な忠実度を達成するために多くの個別のスペクトルを長時間に亘って蓄積せねばならないおそれがある。この蓄積処理によって、高速クロマトグラフィについてゆく能力が制限されるだけでなく、分析時間も長くなる。
【0019】
ダイナミックレンジが低いことの更なる不利な点は、ToF型分析器によって得られる質量精度が低下する可能性があるということである。最高の質量精度を得るために、各マススペクトルには内部較正ピークが含まれているべきである。m/z値が既知のこれらのピークは、例えば、短期ドリフトや電源の不安定さによる質量軸におけるわずかなずれを補正するのに用いることができる。この較正方法が良好な成果を生むのは、単一のスペクトル内のピークがピーク位置を正確に定めるのに十分な強度を有している場合のみである。
【0020】
特定の場の構成がもたらすイオントラップの電荷容量を考慮すると、「臨界電荷」の概念が有効である。伝統的な三次元イオントラップの臨界電荷は次のように表現できる。
【数5】

【0021】
Kはボルツマン定数、Tは温度、ε0は誘電率、qは単位電荷である。σzの項はz次元におけるイオン雲の半径の度合いを与える。これは径次元の雲の半径であるσrの半分の値である。Qcrit_3dは空間電荷効果が始まるまでにイオントラップ内に積載可能な電荷の量を表す。積載された電荷Qが臨界電荷Qcrit_3dを超えると、イオンは、印加された四重極場に加え、イオン雲に他のイオンが存在していること(空間電荷効果)により、相互作用ポテンシャルを受け始める。イオントラップが前記臨界電荷密度を上回って動作する場合、平衡イオン雲のサイズは、イオン雲の温度よりもむしろ空間電荷の影響を受ける。加えて、臨界電荷はイオン成層現象の開始を示すものとなる。
【0022】
臨界電荷は装置の最大蓄積電荷容量よりもずっと低いことに注意すべきである。伝統的な三次元イオントラップの場合、Qcrit_3dはqによって決定されるイオン雲のサイズdに依存する。IT-ToF型装置では、ToF型分析器に到達するためにイオン雲が通過しなければならない出射孔のサイズによって規定されるある限界内に、関心のある全てのm/z値が収まる必要がある。採用されねばならない捕捉条件は、質量スペクトル内で観測したい最大のm/z値によって定められる。
【0023】
二次元四重極場に対応する臨界電荷は次のように与えられる。
【数6】

【0024】
Qcrit_3dとは異なり、Qcrit_2dは雲サイズパラメータであるσxやσyからは独立しており、従って、イオンのm/z値から独立している。
【0025】
別の相違点は、z方向のイオン雲の長さ(L)を大きくすることによってQcrit_2dを増加可能であるということである。しかしながら、実際にはLは、ToF型分析器によって受容可能なZ軸方向のエミッタンスによって制限され、この受容性は「アクセプタンス」として知られる。実用限界はL≒10mmである。この場合、臨界電荷は、上記方程式を用いると、(出射孔と捕捉条件が同様であると仮定した)二次元四重極場の場合は〜25倍となる。従って、二次元四重極場は三次元四重極場と比較して、ダイナミックレンジ及びイオンスループットが大幅に増加する可能性をもたらす。
【0026】
二次元四重極場には、三次元四重極場と比較して、ToF用のイオン源として幾つかの他の利点がある。イオンは広い質量範囲に亘って、三次元四重極場と比較すると遙かに高い効率で以て二次元四重極捕捉場に導入されることが可能である。イオンは擬ポテンシャル井戸の最小値と一致する軸に沿って効率的に導入される。しかしながら、二次元四重極場内で冷却される、軸方向に伸張するイオン雲から得られるエミッタンスは、幾つかの種類のToF型分析器によって受容されるものよりも大きい。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0027】
既知のLIT-ToF(リニアイオントラップ−飛行時間)型システムはイオン導入中のイオン損失用の機構を備える(例えばUS5763878を参照)。かなりの数のイオンが二次元四重極場と、先行する及び続くイオン光学輸送装置/要素との間の末端場域(フリンジングフィールド)で失われる可能性がある。イオンをその装置に輸送する効率は末端場の形状及び分析されるイオンの質量範囲に依存する。
【0028】
三次元イオントラップ-ToF装置は、MSモードで一秒間に〜10スペクトル、MS/MSモードで一秒間に〜5スペクトルの最大取得速度を有する。ちなみに、US5763878に開示されるLIT-ToF装置は、一秒間に10000スペクトルの取得速度が可能であることを示唆している。しかしながら、そのような速度では捕捉されたイオンに十分な冷却時間が与えられないため、線形イオントラップを用いることによって得られる利点を実現することができない。加えて、捕捉されたイオンもまた、高い割合で失われる。更に、大部分の用途においてそのような高い取得速度は不要であり、示唆されているイオンスループットは、殆どのイオン源が実際に提供可能なものよりも高い。LITにおける長さが10mmのイオン雲は〜105個のイオンをToF型分析器に供給する。104スペクトル/秒の取得速度では、総流で109個のイオン/秒がToF型分析器に輸送されるが、この大きな流れは160pAmpsの直流と等しく、エレクトロスプレイイオン源によって供給可能な飽和電流に相当する。ToF型分析器から最適な性能を得られることを確保するためにイオンを十分に冷却するためには、最大一秒あたり100スペクトルの分析速度がより適当であり、これは大部分の用途に対して十分である。
【0029】
三次元イオントラップ内でMS/MS分析を実行する場合、MS分析の各段が連続して実行される。これは「時間タンデム」分析として知られている。MS/MS分析の各段において、次のステップを実行することが必要である。冷却、分離、冷却、励起、冷却。この過程は時間がかかる。全体所用時間は分離ステップにおいて要求される分解能に依存するが、典型的には総合サイクル時間は〜200msである。このことは、一秒間に〜5MS2のスペクトル又は一秒間に2MS3のスペクトルの制限を課す。この低取得速度は、三次元イオントラップの電荷容量の制限によってさらに悪くなる。三次元イオントラップの分離限界は〜100000イオンであり、イオンがm/zにおいてどのように分布しているかに依存する。しかしながら、分離ステップの後に残留する、関心のあるイオンは通常、当初の数字の〜5%となる可能性がある。それ故、典型的なMS2実験においてイオンスループットは通常、一秒間あたり2500イオンであり、典型的なMS3実験においてイオンスループットは、一秒間あたり50イオンという低さとなる。従って、イオントラップToF装置については、改良されたイオンスループット速度及びスペクトル取得速度を、特にMS2及びMS3分析モードにおいて有したいという要求がある。
【課題を解決するための手段】
【0030】
本発明は、
試料イオンを供給するイオン源と、
前記イオン源によって供給された試料イオンを受容する、長手軸を有する分割線形イオン蓄積デバイスと、
前記デバイスに、
(i)該デバイスの二以上の互いに隣接したセグメントグループの捕捉領域から成る軸方向伸張領域において試料イオン又は該試料イオンに由来するイオンを、冷却ガスの助力を受けることで捕捉し、次いで、前記軸方向伸張領域に捕捉されたイオンを該軸方向伸張領域の該軸方向伸張領域よりも短い引出領域に捕捉させてイオン雲を形成させるのに有効な捕捉電圧と、
(ii)前記引出領域から、前記デバイスの前記長手軸に直交する引出方向に該イオン雲が排出されるようにする引出電圧と、
を供給する電圧供給手段と、
該引出領域より排出されたイオンの質量分析を行う飛行時間型質量分析器と、
を備えた飛行時間型質量分析装置を提供する。
【0031】
本発明の好ましい実施形態においては、前記引出領域は前記セグメントグループの単一セグメントの捕捉領域から成る。
【0032】
好ましくは、前記電圧供給手段は、イオンが実質的に損なわれずに隣接するセグメント間を通過できるように、前記デバイスの隣接するセグメントに沿って及び隣接するセグメント間で実質的に一様な四重極捕捉場を生成するべく前記デバイスに高周波捕捉電圧を供給するように構成される。
【0033】
さらに好ましくは、前記分割デバイスの隣接するセグメントは実質的に等しい径方向寸法を有する。
【0034】
好ましい実施形態においては、該分析装置は、前記引出電圧が印加される前に前記長手軸を横断する方向に前記イオン雲の物理サイズ及び/又はイオン雲内のイオンの速度広がりを減少させるイオン雲処理手段を有する。これは、イオン雲が引出領域から排出された時にそのイオン雲のエミッタンスを減少させる効果がある。イオン雲処理手段は、引出セグメントに印加される捕捉電圧を増加(いわゆるバースト圧縮)させ、及び/又は前記捕捉電圧の停止と前記引出電圧の印加との間に遅延を課すように構成され得る。
【0035】
好ましい実施形形態においては、前記デバイスの更なるセグメントが蓄積セグメント及び/又は断片化セグメント及び/又はフィルタリングセグメントとして機能する。
【0036】
本発明はさらに、
飛行時間型質量分析装置を用いたイオン分析方法であって、
長手軸を有する分割線形イオン蓄積デバイスに分析対象である試料イオンを受容し、
該デバイスの二以上の互いに隣接したセグメントグループの捕捉領域から成る軸方向伸張領域において試料イオン又は試料イオンに由来するイオンを、冷却ガスの助力を受けることで捕捉し、次いで、前記領域に捕捉されたイオンを該軸方向伸張領域の該軸方向伸張領域よりも短い引出領域に捕捉させてイオン雲を形成させるのに有効な捕捉電圧を前記デバイスに印加し、
前記引出領域から、前記デバイスの前記長手軸に直交する引出方向に、該イオン雲が排出されるようにするために引出電圧を該デバイスに印加し、
該排出されたイオンを飛行時間型質量分析器を用いて分析する
ステップから成るイオン分析方法を提供する。
【0037】
好ましい実施形態において、本方法は、実質的に損なわれずにイオンが隣接するセグメント間を通過できるように、前記デバイスの隣接するセグメントに沿って及び隣接するセグメント間で実質的に一様な四重極捕捉場を生成するべく前記デバイスに高周波捕捉電圧を供給するステップを含む。好ましくは、前記四重極捕捉場はデバイスの全長に亘って実質的に一様である。
【0038】
更に、本発明は、
試料イオンを供給するイオン源と、
前記イオン源によって供給された試料イオンを受容する、長手軸を有する分割線形多重極イオンデバイスと、
前記デバイスに、
(i)イオンが実質的に損なわれずに隣接するセグメント間を通過できるように、前記デバイスの隣接するセグメントに沿って及び隣接するセグメント間で実質的に一様な多重極捕捉場を生成するための高周波捕捉電圧と、
(ii)前記デバイスの引出領域において試料イオン又は試料イオンに由来するイオンを、冷却ガスの助力を受けることで捕捉し、イオン雲を形成させるのに有効な直流捕捉電圧と、
(iii)前記デバイスの前記長手軸に直交する引出方向に、前記引出領域から前記イオン雲を排出させる引出電圧と、
を供給する電圧供給手段と、
前記引出領域から排出されたイオンの質量分析を行う飛行時間型質量分析器と、
を備えた飛行時間型質量分析装置を提供する。
【0039】
本発明は、更にまた、
長手軸を有する分割線形多重極イオン蓄積デバイスに試料イオンを受容し、
イオンが実質的に損なわれずに隣接するセグメント間を通過できるように、前記デバイスの隣接するセグメントに沿って及び隣接するセグメント間で実質的に一様な多重極捕捉場を生成するために有効な高周波捕捉電圧を印加し、
前記デバイスの引出領域において試料イオン又は試料イオンに由来するイオンを、冷却ガスの助力を受けることで捕捉し、イオン雲を形成させるのに有効な直流捕捉電圧を印加し、
前記デバイスの前記長手軸に直交する引出方向に、前記引出領域から前記イオン雲を排出させる引出電圧を印加し、
飛行時間型質量分析器を用いて排出されたイオンを分析する
ステップから成る飛行時間型質量分析装置の操作方法を提供する。
【0040】
本発明は更に、
試料イオンを供給するイオン源と、
前記イオン源によって供給された試料イオンを受容する、長手軸を有する分割線形イオン蓄積デバイスと、
前記デバイスに高周波多重極捕捉電圧を供給し、
イオンが選択的にMS処理を受ける前記デバイスの異なる軸方向伸張領域の間で試料イオン又は試料イオンに由来するイオンを動かすように該デバイスのセグメントに直流電圧を選択的に供給し、
処理されたイオンが該デバイスの引出セグメントの捕捉領域内に捕捉されるようにし、
該デバイスの前記長手軸に直交する引出方向に捕捉イオンを排出させるために前記引出セグメントに引出電圧を供給する
電圧供給手段と、
前記引出セグメントから排出されたイオンの質量分析を実行する飛行時間型質量分析器と、
を備えた飛行時間型質量分析装置を提供する。
【0041】
これより、発明の実施形態を単なる実施例として説明する。説明は以下の添付図面を参照して行う。
【図面の簡単な説明】
【0042】
【図1】本発明の好適な実施形態のToF型質量分析装置の断面図。
【図2】本発明の一実施形態における分割線形イオン蓄積デバイスの断面図。
【図3】本発明のほかの実施形態における分割線形イオン蓄積デバイスの断面図。
【図4】分析装置の第一運転モードにおけるMS実験の全サイクルの各ステージ間に図2の分割デバイスの各セグメントに供給される直流バイアス電圧。
【図5】前記分割デバイスに捕捉波形を印加する二組のデジタル制御スイッチを用いた構成。
【図6】単一の組のスイッチを用いた他のスイッチング構成。
【図7】コンデンサを介して分割デバイスに接続された二組のスイッチを用いた他のスイッチング構成。
【図8】分割デバイスに印加される典型的な高周波捕捉波形。
【図9】XロッドとYロッドの間に印加される直流電圧を有する典型的な高周波捕捉波形。
【図10】引出セグメントからイオンを排出させるために、分割デバイスの引出セグメントのXロッド及びYロッドに印加される電圧。
【図11】前記分割デバイスの引出セグメントに引出電圧を印加するためのスイッチング構成。
【図12】前記分割デバイスの引出セグメントに引出電圧を印加するための別のスイッチング構成。
【図13】本装置の第二運転モードにおけるMS実験の全サイクルの各ステージ間に図2の分割デバイスの各セグメントに供給される直流バイアス電圧。
【図14】本装置の第三運転モードにおけるMS実験の全サイクルの各ステージ間に図2の分割デバイスの各セグメントに供給される直流バイアス電圧。
【図15】a-q図。境界内の非斜線領域は、分離対象となる、選択されたm/z比のイオンに対応する。
【図16】図15の非斜線領域のイオンを分離するのに必要な広帯域信号の周波数スペクトルの図。
【図17】前記セグメント内でイオンの所望のq値における共鳴励起を生じさせるための、本デバイスのセグメントに印加される関連双極子信号を伴った概略捕捉波形。
【図18】関連双極子信号を伴った捕捉波形を印加するためのスイッチング構成。
【図19】本デバイスのセグメントに印加されるような高周波捕捉波形に重畳された単一周波数双極子。
【図20】単一周波数双極子励起プロセスを説明するために用いられる更なるa-q図。
【図21】(a)バースト圧縮プロセスの間に引出セグメントに印加されるような捕捉波形、(b)、(c)バースト圧縮プロセスの間に、時間を関数とした引出セグメントのそれぞれXロッド及びYロッドに印加される電圧。
【図22】本装置の第四運転モードにおけるMS/MS実験の全サイクルの各ステージ間に図2の分割デバイスの各セグメントに供給される直流バイアス電圧。
【図23】本装置の第五運転モードにおけるMS/MS実験の全サイクルの各ステージ間に図2の分割デバイスの各セグメントに供給される直流バイアス電圧。
【図24】セグメント内でイオンの分離/フィルタリングを可能にするXロッド及びYロッドの間に印加される、直流オフセットを伴う高周波捕捉波形。
【図25】イオンの質量選択フィルタリングを説明するために用いられる更なるa-q安定線図。
【図26】Xロッド及びYロッドの間に有効な直流オフセットを導入する、修正負荷サイクルを伴う捕捉波形。
【図27】図26の直流オフセットを反映した、ずれた境界を有するa-q安定線図。
【図28】高周波波形の周波数がスキャンされる際のセグメントのXロッド及びYロッドに印加される波形。
【図29】本装置の第六運転モードにおけるMS/MS実験の全サイクルの各ステージ間に図3の分割デバイスの各セグメントに供給される直流バイアス電圧。
【図30】本装置の第七運転モードにおけるMS3実験の全サイクルの各ステージ間に図3の分割デバイスの各セグメントに供給される直流バイアス電圧。
【図31】双曲形状ロッドを有する分割デバイスのセグメントの図。
【図32】(a)、(b)平板電極を用いて形成された分割デバイスのセグメント。
【図33】引出スロットを備えた下部電極を有する円形平板電極の形状を成すイオントラップ。
【図34】直線状及び円状の形態の重なり電極と、直線運転モードにおいて電極を作動させる関連スイッチとを有するPCB(Printed Circuit board)平板電極。
【図35】直線状及び円状の形態の重なり電極と、円モードにおける作動のための関連スイッチとを有するPCB平板電極。
【発明を実施するための形態】
【0043】
以下、図面を参照しつつ説明する。図1は本発明の一実施形態に係るToF型質量分析装置の概略図である。
【0044】
本分析装置1は、イオン源2と、このイオン源2から供給されたイオンを需要するための入射端I及び出射端Oを有する分割線形イオン蓄積デバイス10と、出射端Oから出射するイオンを検出する、出射端Oに隣接して配置された検出器20と、検出器41及びイオン収束要素30を有するToF型質量分析器40と、を備える。
【0045】
この分析装置はまた、イオン蓄積デバイス10のセグメントに電圧を供給する電圧供給部50と、この電圧供給部を制御する制御部60を含む。本実施形態では、ToF型質量分析器40はリフレクトロンを有する。しかし、他のどのようなToF型分析器の形態を替わりに用いることもできる。例えば、マルチパス構成を有する分析器を用いてもよい。
【0046】
図2及び図3は分割線形イオン蓄積デバイス10の別の実施形態の長手方向断面図である。図2に示されるデバイスは九つの個別のセグメント11〜19を有しており、一方、図3に示されるデバイスは十三の個別のセグメントを有しており、セグメント12及び13の間の三つの増設されたセグメント12a、12b、12cと、セグメント18及び19の間の増設されたセグメント18aとを含んでいる。
【0047】
好適な実施形態においては、デバイス10は四重極デバイスである。または、好ましさの点では劣るが、例えば六重極デバイス又は八重極デバイスといった、異なる多重極デバイスを用いることも可能である。以下の実施形態では、デバイス10は四重極デバイスであると仮定する。四重極デバイスの場合、各セグメントは、共通の長手軸の周囲に対称に配置される四つの極(例えばロッド)から成る。ただし、一連の平板電極で形成される構成を替わりに用いることもできるが、さらなる詳細は以下に説明する。
【0048】
動作時には、電圧供給部50は、セグメントの捕捉領域内に二次元四重極捕捉場を生成するためにセグメントに高周波捕捉電圧を供給する。実際には、捕捉場は擬ポテンシャル井戸を生成し、この井戸の底が長手軸の中心に位置する。このようにして、前述のマシューパラメータa及びqによって表されるような、捕捉電圧の特性によって決定される、所定の範囲の質量電荷比を有するイオンが径方向に捕捉される。捕捉場はポテンシャル井戸の底における長手軸上又は付近にイオンが蓄積するよう強制する傾向にある。
【0049】
電圧供給部50はまた、デバイスのセグメントに直流バイアス電圧を選択的に供給するように構成される。以下において更に詳細に説明される通り、セグメントに選択的に供給される直流電圧は要求される運転モードに応じて異なる運転機能を果たす。
【0050】
例えば、セグメントに供給される直流電圧は、デバイスに沿って直流ポテンシャル勾配を生成し、イオンがそのポテンシャル勾配を移動しつつセグメント間を通過するように用いることができる。セグメントに供給される直流電圧はまた、単一セグメントの捕捉領域内で、又は二以上の互いに隣接するセグメントグループの捕捉領域内で、直流ポテンシャル井戸を生成するのに用いることができる。
【0051】
好適な実施形態においては、デバイス10のセグメントに供給される直流電圧は、二以上の互いに隣接するセグメントグループの捕捉領域内に比較的広い直流ポテンシャル井戸を生成する。この直流ポテンシャル井戸は、グループの他のセグメントの捕捉領域内よりもグループの一つの(場合によっては二以上)のセグメントの捕捉領域内において、より深いように構成される。まず、イオンはセグメントの全グループの捕捉領域によって決定されるデバイス10の比較的広い軸方向伸張領域内に捕捉される。次いで、冷却ガスとの衝突によって運動エネルギーを失うと、捕捉されたイオンは徐々にポテンシャル井戸の底に沈み、これによってデバイスの比較的狭い領域内で軸方向に閉じ込められ、そこでイオン雲を形成する。
【0052】
特に好ましい実施形態においては、イオン雲はこのようにしてデバイスの引出セグメント(図1のセグメント17)の捕捉領域内で形成され、次いでそのセグメントに引出電圧が印加されることにより、長手軸に直交する引出方向へそのセグメントから排出される。その後、排出されたイオンはToF型分析器40を用いて分析される。
【0053】
このようにして、広い(例えば、最大及び最小質量間比が約10倍程度の)質量範囲を有するイオンがデバイス10内で冷却されてイオン雲を形成する効率が向上し、イオンのスループットが向上するとともに感度とダイナミックレンジが改善される。
【0054】
広い質量範囲にあるイオンを実質的に損失なくセグメント間を通過させ、さらにダイナミックレンジを改良し、イオンスループットを高めるためには、四重極捕捉場をデバイス10の隣接するセグメントに沿って、そして隣接するセグメント間で実質的に一様に構成するのが効果的であることがわかっている。
【0055】
制御部60の制御のもとで電圧供給部50によって供給される電圧は、デバイス10のセグメント又はセグメントグループに、分析装置1の特定の運転モードによる要求に応じて、イオンの捕捉、蓄積、分離、断片化、フィルタリング、引出を含む一連の種々の運転機能の一つ又は複数を選択的に実行させてもよい。
【0056】
直流電圧を適切に選ぶことで、イオンをデバイス10の種々の運転機能が実行される異なる領域間で軸方向に動かすことができる。そして、同一セグメント又は同一セグメントグループが運転の異なるステージにおいて様々な運転機能を実行し、また、同一セグメント又は同一セグメントグループが同時に様々な運転機能を実行することが可能である。
【0057】
分割デバイス10は、異なるセグメント又は異なるセグメントグループが、異なる圧力に維持され、セグメント間の隙間内に配置される開口プレートによって分離される別の真空チャンバ内に配置されるように構成されてもよい。各セグメントと関連する開口には個別の電圧供給部が設けられる。
【0058】
分割デバイス10は、全てのセグメントが同一周波数、電圧、位相で動作するように操作されても良い。または、少なくとも一つのセグメントは異なる周波数、電圧、位相で動作するが、他のセグメントと同一の条件で動作するようにいつでも切り替えられるようにしてもよい。
【0059】
制御部60が、分析装置が単一の運転モードを有するように構成されていると好ましい。もしくは、分析装置は多数の異なる運転モードのいずれか一つで選択的に動作してもよい。
【0060】
これより、好適な運転モードの実施例を説明する。
【0061】
本装置の第一運転モードについて、これから図4を参照しつつ説明する。この運転モードでは分析装置は、可変の負荷サイクルでMSスペクトルを生成することができる。例えば、連続ビームの形態でセグメント11(入射セグメント)に供給されたイオンを用いて、単一のToFスペクトルを生成することができる。
【0062】
図4に示されているように、ステップ101において、適切な一組の直流捕捉電圧及び高周波捕捉電圧がデバイス10の全てのセグメントに印加される。正確にどのように電圧がセグメントに印加されるかについて、図5〜9を参照しつつ以下に説明する。印加される電圧は、セグメント11を通って入射するイオンを、デバイスの全長に亘って(全てのセグメント11〜19を通って)通過させ、セグメント19を出てイオン検出器20によって検出させるようなものである。これは、電圧供給部50によってセグメントに供給される直流電圧がデバイス10の軸方向長さに沿って次第に減少し、これによってイオンをこのように生成されたポテンシャル勾配を移動しながらセグメント間を通過させるからである。所定の継続時間に亘って検出器20で検出されたイオン流は制御部60に蓄積されて保存される。
【0063】
次のステップは、適切な固定継続時間の後に生じるステップ102である。このステップでは、高周波捕捉電圧はステップ101から変わらないが、イオンがデバイス10に入射してセグメント15〜18内で生成されたポテンシャル井戸内で最初に捕捉されるように直流電圧が調節される。冷却緩衝ガス(例えばヘリウムのような希ガス)がデバイス10の全てのセグメント内に供給される。セグメント15〜18に捕捉されたイオンがこの緩衝ガスと衝突すると運動エネルギーを失い、これによってこの捕捉されたイオンが最終的に軸方向直流ポテンシャルが最も低い個所、この場合は引出セグメント17に蓄積する。
【0064】
ステップ101において測定された、蓄積したイオン流に照らして決定された継続時間の後、ステップ103に示される直流電圧がデバイス10に印加される。セグメント11の電圧は他の全ての残りのセグメントの電圧よりもかなり高く、これによって、更なるイオンがセグメント11を通ってデバイス10に入るのが防止される。セグメント15〜18ですでに蓄積されたイオンには、緩衝ガスと衝突するために付加的な時間が与えられ、これによって最大数のイオンが引出セグメント17内に閉じ込められることが確保される。数ミリ秒の後、引出セグメント17内のイオンは、緩衝ガスとの熱平衡に達する。
【0065】
ステップ104では、セグメントの軸方向の中央部内で、セグメント17にイオン雲を閉じ込めるように直流電圧が調整される。これによって、引出セグメントから排出される時の、セグメント内のイオン雲のエミッタンスが減少する。
【0066】
ステップ104の後、分割デバイス10の長手軸に直交する引出方向にセグメント17からイオンを引き出し、ToF型分析器によって分析を行うために、引出電圧(図示せず)がセグメント17に印加される。さらに、この引出電圧の正確な印加について、図10〜12を参照しつつ手短に説明する。ToF型分析器による分析のためにセグメント17から更にイオンが引き出されるのを防止するため、ステップ101〜104はそれから再度繰り返すことができる。
【0067】
この特定の運転モードは、到来するイオンビーム流を検出部20で測定し、このイオン流の測定をデバイス10の負荷サイクルの調整に用いることによって分割デバイス10に電荷過負荷(charge overloading)が生じることを防止する。もしデバイス10に電荷過負荷が生じるならば、より高いm/z比のイオンは優先的に弁別され、または完全に失われる可能性さえあるため、この方法は望ましい。この方法を用いて達成可能な負荷サイクルは、全体サイクル時間と比較したステップ102の継続時間に依存する。
【0068】
この運転モードでは、イオンビーム流が大きい時、負荷サイクルはそれに対応して減少する。
【0069】
図5〜7は分割デバイスに高周波捕捉波形を印加するのに用いられる別のスイッチング構成を示している。
【0070】
図5では、捕捉波形はデバイス10の四重極セグメントのX極53及びY極54にそれぞれ接続された、二組のデジタル制御されるスイッチ51、52を用いて印加される。これによってセグメント内に高周波捕捉波形が生成される。又は、高周波捕捉波形は、Y極54に接続された単一の組のスイッチ51を有する図6の構成を用いて生成することもできる。X極は接地される。
【0071】
図5に示されるスイッチング構成によって生じる典型的な高周波波形が図8に示されている。これは50%の負荷サイクルの矩形波である。波形の振幅及び期間TRFはセグメント内で捕捉されるイオンのm/z範囲に従って選択される。図からわかるように、図8の高周波捕捉波形はグラウンド(接地)に関連した直流成分がない。
【0072】
高周波捕捉波形を生成するためのデジタル制御されたスイッチの使用についての更なる詳細はWO 01/29875 (Ding)に記載されている。
【0073】
図7はデバイス10のセグメント間に、又はデバイス10の一つのセグメント内のXロッド及びYロッド間に直流オフセットを導入するために使うことが可能なスイッチング構成を示す。
【0074】
この場合、スイッチ51、52はコンデンサ56を介してXロッド53及びYロッド54に接続される。この回路はまたセグメント間に直流オフセットを導入する、又はデバイス10の一つのセグメント内のXロッド53及びYロッド54間に直流オフセットを導入するための要素55を含んでいる。
【0075】
図9は直流オフセット電圧を印加した結果としての高周波捕捉波形を示す。この例では、XロッドとYロッドには同一の電圧が印加される。直流オフセットはデバイス10の各セグメントに関して同一であっても異なっていてもよい。そして、例えば軸方向にセグメントグループ内でイオン雲を捕捉するように、又は、グループの一つのセグメント内でイオン雲を捕捉するように、又は、イオンがデバイス10の入射セグメント11から出射セグメント19へ進むように軸方向場を導入するように設定される。
【0076】
分割デバイス10への引出電圧の印加について、図10〜12を参照しつつ、これより説明する。
【0077】
図10は引出ステップの間に引出セグメント17のXロッド及びYロッドに印加される電圧を示す。
【0078】
t=0とt=Tdelay-1の間で、イオンは引出セグメント17のXロッド及びYロッドに印加される捕捉波形によってセグメント17に閉じ込められる。(高周波サイクルの特に好適な位相に対応する)時間t=Tdelay-1において捕捉電圧は終了する。Xロッドの電圧はゼロに設定され、Yロッドの電圧はV=Vy-delayに設定される。時間t=Tdelay-1及びt=Tdelay-2の間、ロッドはこれらの電圧に維持される。
【0079】
t=Tdelay-2において、Yロッドの電圧は、別の直流電圧であるV=Vy-extractに設定される。同時に、引出電圧+Vx-extract及び-Vx-extractがそれぞれX1ロッド及びX2ロッドに印加される。これによって、全てのイオンがX2ロッドを通って引出セグメント17から排出される。t=Toffにおいて、全てのロッドの電圧がゼロに設定され、引出が停止する。
【0080】
t=Tdelay-1及びt=Tdelay-2の間に導入される遅延により、引出電圧が印加される前に、長手軸を横断する方向への速度広がりが減少する。この場合、「速度−位置」位相空間におけるイオン雲によって占められる面積は実質的に変化しない。すなわち、イオン雲はもはや高周波場によって拘束されないためにイオン雲の物理サイズは引出方向で増加し、相対的により弱い定常四重極場の中で膨張する。これに対応して、イオン雲の初期の位相空間楕円は、最初に直立した楕円から延びて傾斜した楕円へと変形し、イオンの位置及び速度は相互に関連する。位相空間楕円の面積がイオン雲が膨張するあいだ一定であるために、X方向の速度広がりはそれに対応して減少しなければならない。
【0081】
遅延期間の間にXロッド及びYロッドに中間電圧を印加することで、イオン雲を引出セグメント17内で操作し、更にX方向の速度広がりを減少させることもできる。速度広がりをこのようにして減少させることで、分析装置の総合の分解能が改善可能である。または、遅延期間の間に別の電圧を印加し、ToF型分析器に送られるために引き出されたイオンビームを空間的に収束させることもできる。
【0082】
典型的には、約50nsの立ち上がり時間を有する引出電圧は、少なくとも5kVである。
【0083】
図11は、図10に関連して説明された引出電圧を印加することができる回路を示す。図5〜7に関連して説明されたように、スイッチ51及び52はそれぞれXロッド53及びYロッド54に高周波捕捉波形を印加する。スイッチ61及び62は遅延及び引出電圧を印加し、スイッチ63及び64はロッドX2及びX1にそれぞれ引出電圧を印加する。
【0084】
図12は引出セグメント17へ引出電圧を印加する別の回路を示す。この回路では、引出電圧を供給するために、広帯域昇圧器66へ接続された低圧スイッチ65を用いる。昇圧器66の二次巻線は、二本巻きされるのが好ましい。
【0085】
上述した第一の方法に適用するのと同様に、捕捉/直流電圧、及び引出電圧を印加するこれらの方法は、以下に説明する更なる運転モードにも適用することができる。
【0086】
図13はデバイス10の第二運転モードを示している。この方法は100%の負荷サイクルを達成し得る。
【0087】
ステップ201において、適切な一組の直流捕捉電圧及び高周波捕捉電圧がデバイス10の全てのセグメントに印加される。これらの電圧によって、イオンは入射セグメント11を通ってデバイス10に入射し、最初はセグメント12〜18内で生成される広い直流ポテンシャル井戸内に閉じ込められる。セグメント12〜18内で捕捉されたイオンは緩衝ガスと衝突すると運動エネルギーを失い、これによって直流ポテンシャル井戸の底、この場合はセグメント12に蓄積する。
【0088】
ステップ202では、印加される直流電圧及び高周波電圧が調整される。電圧の調整は、ステップ201でセグメント12に捕捉されたイオンがセグメント15〜18に移動するように行われる。即ち、試料イオンが入射セグメント11を通ってデバイス10に入射することがまだ可能な間に、イオンは調整された電圧によって生成されるポテンシャル勾配を移動する。
【0089】
ステップ203で、調整された電圧は再度調整される。印加される電圧によって、ステップ202でセグメント15〜18に移動したイオンは、これらのセグメント内で最初に捕捉される。ステップ201と同様に、捕捉されたイオンは緩衝ガスと衝突して運動エネルギーを失い、結果として直流ポテンシャルが最も低いセグメント、この場合は引出セグメント17に行き着き、そこで最終的に緩衝ガスとの熱平衡に達する。これらのイオンがセグメント15〜18及び最終的にはセグメント17に捕捉されている間、さらなる試料イオンが入射セグメント11を通ってデバイス10に入射し、セグメント12で捕捉される。
【0090】
ステップ204は図4のステップ104と類似している。このステップでは、電圧は引出セグメント17内で、セグメント17の中央部内の軸方向にイオン雲を閉じ込めるように調整される。このステップによって、引出セグメントから排出される際、セグメント17内のイオン雲のエミッタンスが減少する。
【0091】
ステップ204の後、(上述したような)引出電圧が引出セグメント17に印加される。ステップ201〜204及び引出ステップが連続的に繰り返される。
【0092】
この運転方法は特に、入射イオンビーム流が大きい時に好都合である。なぜならば、この場合、サイクルを完了してマススペクトルを得るための総合時間と比較して、デバイス10を満たすのに必要な時間は短い可能性があるからである。
【0093】
しかしながら、もし入来するイオンビーム流がデバイス10の最大電荷スループット能力を超えていたならば、デバイス10の電荷容量を超え、電荷過負荷による悪い影響が生じる。
【0094】
図14はデバイス10の第三運転モードを示す。この運転方法では、高効率とともに高分解能を提供するために、プリカーサイオン分離ステップを用いる。
【0095】
ステップ301では、デバイス10の全てのセグメントに適切な組の直流捕捉電圧及び高周波捕捉電圧が印加される。これらの電圧により、イオンは入射セグメントを介して入射し、セグメント12〜18において最初に捕捉されることが可能となる。
【0096】
ステップ302において、セグメント12〜18に最初に捕捉されたイオンが緩衝ガスと衝突して緩衝ガスに対して運動エネルギーを失わせつつ、これ以上イオンがデバイス10に入射することを防止するような電圧が印加される。上述した方法のように、この運動エネルギーの損失によって捕捉されたイオンが直流ポテンシャルが最も低い個所、この場合はセグメント15に蓄積する。最終的に、セグメント15に捕捉されたイオンは同セグメント内で緩衝ガスとの熱平衡に達する。
【0097】
ステップ303において印加される電圧は、不所望のイオンを排出することによりセグメント15において所望のm/z範囲のプリカーサイオンを分離するのに有効である。この分離は広帯域双極子励起を用いて行っても良い。これについては以下、図15及び16を参照しつつさらに詳細に説明する。
【0098】
ステップ304において印加される電圧は、セグメント15でステップ303において選択された(又は分離された)プリカーサイオンを捕捉するのに有効である。さらに、プリカーサイオンは緩衝ガスと衝突して運動エネルギーを失い、セグメント15内の直流ポテンシャルが最も低い個所に蓄積する。ステップ302と同様に、緩衝ガスとプリカーサイオンは最終的に熱平衡に達する。
【0099】
ステップ305において印加される電圧は、セグメント15において冷却されたプリカーサイオンを、同セグメントに単一周波数双極子励起を印加することによって断片化させるのに有効であり、共鳴衝突誘起解離(CID=Collision Induced Dissociation)を生じさせるのに有効である。以下、このような断片化を生じさせるのに必要な電圧について図17〜20を参照しつつ詳細に説明する。
【0100】
ステップ306において印加される電圧は、セグメント15に捕捉された断片化したイオンにセグメント15〜17の間を移動させ、これらのセグメント内で捕捉されるようにするのに有効である。他のステップに関して説明したように、捕捉されたイオンは緩衝ガスと衝突する。これらのイオンは運動エネルギーを失い、最終的に軸方向直流ポテンシャルが最も低い個所に蓄積する。この場合には、引出セグメントであるセグメント17に蓄積する。
【0101】
ステップ307は図13のステップ204及び図1のステップ104に類似しており、印加される電圧は引出セグメント17においてイオンを軸方向に閉じ込める。これによって、セグメント17におけるイオン雲のエミッタンスが減少する。
【0102】
ステップ308において印加される電圧は、イオントラップの長手軸の横断方向の「速度−位置」位相空間においてイオン雲がより小さな領域を占めるように、引出セグメント17においてイオン雲を圧縮するのに有効である。この「バースト圧縮」と呼ばれるプロセスについて、図21(a)〜21(c)を参照しつつ更に詳細を以下に説明する。
【0103】
ステップ309では引出電圧が引出セグメント17に印加される。
【0104】
ステップ302〜309の全てのステップで入射セグメント11に印加される電圧は、これらのステップが実行されている間にデバイス10へ更なる試料イオンが入射することを阻むようなものである。ステップ301〜309は連続的に繰り返すことができる。
【0105】
この「時間タンデム」分析方法は高効率で高い分解能を提供する。しかし、これは比較的遅い方法であり、一秒あたり約5-10のMS2スペクトルに限られる。
【0106】
先に述べたように、広帯域双極子励起について以下に簡単に説明する。
【0107】
図15はa-q安定線図である。本技術分野においてよく知られたものである。広帯域励起を用いることで、図中の斜線領域内の全てのイオンを排出し、非斜線領域内の特定のm/z非のイオンを分離することができる。この非斜線領域は安定バンドであって、所望のプリカーサイオンを含んでいる。
【0108】
図16は所望のプリカーサイオンを分離するためにデバイス10のセグメント15に印加される広帯域信号の周波数スペクトルである。セグメント15に印加される実際の信号は周波数スペクトルの逆フーリエ変換によって得ることができる。典型的にはこの広帯域信号は数ミリ秒の間印加され、セグメントから不所望のイオンを排出し、セグメント内で所望のプリカーサイオンを分離するのに有効である。
【0109】
図17〜20は共鳴衝突誘起解離(CID=Collision Induced Dissociation)を生じさせるために使われる単一周波数双極子励起を説明するために用いられる。単一周波数双極子励起は特定のm/z範囲のイオンを励起する(又は排出する)ためにデバイス10の一又は複数のセグメントに印加される。
【0110】
図17はデバイス10の一又は複数のセグメントに印加されるような、高周波捕捉波形(TRF)及び双極子波形を別々に示している。双極子波形の効果は、その波形が印加されるセグメント内で特定のm/z比のイオンを励起及び/又は排出することである。好ましくは、双極子波形の周期は高周波捕捉波形の四分の一周期の整数倍となるように選択される。このことは図17に示されており、ここでは二つの波形が2.75の周波数比を有しており、高周波捕捉波形は丁度11サイクルした後、双極子波形は4サイクルした後で、波形が同位相に戻る。
【0111】
図18はどのように高周波波形及び双極子波形がデバイス10の一又は複数のセグメントに供給されるかを説明するための好ましいデジタルスイッチング構成を示す。この例では、(正弦波生成部70によって生成される)双極子波形と捕捉波形とが重畳されてセグメントのXロッド53に印加される。典型的には、これは二本巻構成の二次巻線を有する絶縁変圧器を用いて実行される。
【0112】
図19は重畳される電圧(捕捉波形及び双極子波形)が図18のスイッチング構成を用いてセグメントのXロッド53に印加される際の実際の形状を示す。
【0113】
高周波波形の周波数と双極子波形の周波数との比によって次式によるβ値が決定される。β値ではイオンが印加される電圧に応じて共振する。
【数7】

ここにおいて、fは高周波波形の周波数であり、wsは双極子波形の周波数である。これら二つの波形の周波数は、イオンが励起されるm/z値をスキャンするために、β値が一定値に保持されるようにスキャンされ得る。これによって特定のm/z範囲にあるイオンが励起される。第三運転モードでは、これはデバイス10のセグメント15に既に含まれているプリカーサイオンのm/z範囲になる。
【0114】
図20は(点線の中に含まれる)安定領域がβ=0.25、0.5、0.75という三つの異なるβの線によって交差される第二のa-q図である。これらの線がq軸と交わるのは、それぞれ0.2692、0.5、0.65677の値においてである。βが(上述したように)一定値に維持されるとき、所望のm/z範囲の全てのイオンは同一のqの値において排出される。
【0115】
例えば、図17に示されるような波形を用いると周波数比は2.75であり、周波数がスキャンされると、増加するm/z値のイオンは0.64639のq値で排出/励起される。
【0116】
印加される双極子励起によって、信号が印加されるセグメント内のプリカーサイオンが振動する。印加される双極子の振幅、圧力、継続時間を制御することで、イオンをそのセグメントから排出せずに衝突誘起解離させることができる。
【0117】
「バースト」圧縮を生じさせるためのセグメント17に印加される電圧について、図21(a)〜21(c)を参照しつつ以下に説明する。
【0118】
これらの図に示されているように、デジタル捕捉波形電圧の振幅Vは時々刻々と増加し、これにより捕捉波形によって生成された擬ポテンシャル井戸が深くなる。これには、引出方向を含む、長手軸を横断する方向におけるイオン雲の物理サイズを減少する効果がある。より具体的には、イオン雲の物理サイズは次式によって与えられる標準偏差として表現できる。
【数8】

ここで、Tはイオン雲の温度、roはセグメントの放射方向寸法、Dは次式で与えられる有効捕捉ポテンシャルの振幅である。
【数9】

ここにおいて、qoは単位電荷、qはマシューパラメータ、Vは50%の負荷サイクルの矩形波形を有すると仮定される捕捉電圧の振幅である。従って、振幅Vを増加させることでσmは減少することが理解出来る。このσmの減少によって引出セグメントに引出電圧が印加された際にイオン雲内のイオンのエネルギーの広がりが減少し、そしてΔTが減少し、従って分解能が改善される。
【0119】
次式が成り立つため、
【数10】

捕捉周波数Ωはイオン引出セグメント17のイオンの質量電荷比の所定の範囲を維持するためにV1/2に比例して増加しなければならない。
【0120】
図に示されているように、捕捉電圧の大きさは一連のステップにおいて徐々に増加する。これによって、すでに冷却されたイオン雲にエネルギーが再導入されることが防止される。既に説明したように、qが変化しないことを確実にするために、周波数と電圧は共に増加すべきである(図21(a)におけるΔV及び対応するT1〜T4を参照)。例えば、もし電圧が同じ大きさの一連のステップで増加したとすると、周波数は電圧の増加の平方根に従って増加するべきである。デジタル波形を用いることにより、中間のステップがない、一つの急激なステップにおいて捕捉波形の大きさを増加させることができる。しかしながら、この方法は、特にm/z範囲内の最高/最小値におけるイオンロスを招きかねない。従って、上述した段階的方法が好ましい。既に述べたように、バースト圧縮技術には、デバイス10の引出セグメントから排出される際にイオン雲のエミッタンスを減少させ、ToF型分析装置の全体的性能を高めるという有益な効果がある。
【0121】
図22は本装置の第四運転モードを示している。この運転モードは図14について説明した第三運転モードに似たMS/MSモードであるが、このモードではイオンがセグメント15〜18において蓄積及び/又は処理されている間にセグメント12及び13においてイオンが蓄積されることが可能である。
【0122】
ステップ401において印加される直流電圧は、図13のステップ201において印加される電圧に類似しており、イオンを最初はセグメント12〜16に閉じ込め、次いで、緩衝ガスとの衝突による運動エネルギーの損失によって、イオンを直流ポテンシャルが最も低いセグメント内に蓄積させる。このステップでは軸方向ポテンシャルが最も低いセグメントはセグメント12である。
【0123】
ステップ402で印加される直流電圧は図13のステップ202で印加される電圧に類似している。印加される電圧は、ステップ401の間にセグメント12に蓄積されたイオンをセグメント13〜18に移動することを可能にするが、その間、新しい試料イオンがデバイス10に入射してセグメント12に捕捉され続けることを許可する。セグメント13〜18においてイオンは緩衝ガスと衝突することで運動エネルギーを失い、最終的に軸方向ポテンシャルが最も低いセグメントであるセグメント15に捕捉される。
【0124】
ステップ403では、印加される電圧はセグメント12及び13(これらのセグメントは軸方向ポテンシャルが同一のため)でデバイス10に入射してくるイオンを捕捉し続けるが、一方でセグメント15のイオンを同セグメントの中央部において軸方向に閉じ込める。最終的に、セグメント15において軸方向に閉じ込められたイオンは緩衝ガスとの熱平衡に到達する。
【0125】
ステップ404では、印加される電圧はイオンをデバイス10に入射させ続け、セグメント12及び13に蓄積させ続けるのに有効である。一方で、所望のm/z範囲のプリカーサイオンを分離するために、セグメント15のイオンを広帯域分離させる。このプリカーサ分離プロセスは図15及び図16を参照して上述した。
【0126】
ステップ405において印加される電圧は、セグメント15で分離されたプリカーサイオンを冷却しつつ、試料イオンをデバイス10に入射させ続け、セグメント12及び13に蓄積され続けるようにするのに有効である。最終的にプリカーサイオンは(衝突によって)十分に冷却され、衝突ガスと熱平衡状態になる。
【0127】
ステップ406で電圧は、イオンをデバイス10に入射させ続け、セグメント12及び13に捕捉され続けるようにする。セグメント15に印加される電圧は(上記のように)単一周波数双極子励起を含んでいる。これによってプリカーサイオンは衝突誘起解離を起こす振幅で、また衝突誘起解離を起こす継続時間の間、振動する。この解離によって断片化されたイオンはその後、セグメント15に捕捉される。
【0128】
このステージでは、MSn機能を提供するためにステップ403〜406を(一回以上)繰り返してもよい。
【0129】
ステップ407において、セグメント11、12、13の電圧はイオンをデバイスに入射させ続け、セグメント12及び13に捕捉され続けるようにする。残りのセグメントの電圧はイオンをセグメント15からセグメント15〜17に移動させる。セグメント15〜17のイオンは緩衝ガスとの衝突によって運動エネルギーを失い、最終的に直流ポテンシャルが最も低い領域、ここではセグメント17に蓄積する。
【0130】
ステップ408では、印加された電圧はイオンをデバイス10に入射させ続け、セグメント12及び13に捕捉され続けるようにするが、その間、セグメント17のイオンがセグメント17の中央部に軸方向に閉じ込められるようにする。最終的に軸方向に閉じ込められたイオンは緩衝ガスとの熱平衡に達する。このステップはステップ403と非常に類似しており、唯一の相違点は分析対象となるイオンが蓄積されるセグメントにある。
【0131】
ステップ409で印加される電圧は、イオンをデバイス10に入射させ続け、セグメント12及び13に捕捉され続けるようにする。印加される電圧はまた、上述したようにバースト圧縮を利用して引出方向にセグメント17の断片化したイオンを圧縮するのに有効である。
【0132】
ステップ410において印加される電圧は、イオンをデバイス10に入射させ続け、セグメント12及び13に捕捉され続けるようにする。また、セグメント17における冷却されたイオンが飛行時間型分析器において分析されるように引き出されるようにする。
【0133】
図23は本装置の第五運転モードを示す。
【0134】
この運転モードでは、100%の負荷サイクルでプリカーサイオンが分離するようにし、高効率とともに高い分解能を提供する。しかしながら、これは比較的低速で、一秒間あたり5〜10MSに限定される。
【0135】
ステップ501、502、503では、印加される電圧は上述した図22のステップ401、402、403で印加される電圧にそれぞれ対応する。
【0136】
ステップ504で印加される電圧は、試料イオンをデバイス10に入射させ続け、セグメント12及び13に蓄積させ続けるのに有効である。一方、セグメント15において特定のm/z範囲のイオンを分離するのに有効な電圧をセグメント15に供給する。この分離電圧については図24〜26を参照しつつ更なる詳細を以下に説明する。この分離電圧は、セグメント15において所望のm/z比のプリカーサイオンを分離し、同時に他の全てのイオンをセグメント15から排出させるのに有効である。
【0137】
ステップ505で印加される電圧は上述した図22のステップ405で印加される電圧に対応する。
【0138】
ステップ506で印加される電圧は試料イオンをデバイス10に入射させ続け、セグメント12及び13に蓄積され続けるようにするのに有効である。同時に、単一周波数双極子励起の周波数スキャンを行い、選択された領域の下限値で所望のm/z値までスキャンする(この値を下回るイオンを排出する)ためにセグメント15に捕捉電圧を印加する。次いで、所望のm/z範囲を上回るイオンを排出するために逆方向にスキャンを行い、こうして所望のm/z範囲においてプリカーサ分離を行う。この周波数スキャンの手順について、以下、図23を参照しつつさらに詳細に説明する。
【0139】
ステップ507〜512で印加される電圧はそれぞれ、上述した図22のステップ405〜410において印加される電圧に対応しており、また同一の効果をもたらす。
【0140】
図24は上述した第五運転モードのステップ504において、特定のm/z比内の試料イオンを分離するため、デバイス10のセグメント15のXロッド及びYロッドに印加される可能性のある典型的な波形を示す。図9に示される波形のように、直流オフセット電圧が高周波捕捉波形とともに印加される。しかしながら、この場合は、印加される直流オフセットはXロッドにおいてプラスであり、Yロッドにおいてマイナスである。一方、図9ではプラスの直流オフセットがXロッド及びYロッドに印加されていた。典型的には、図24の直流オフセット波形が図7に示されるようなスイッチング回路を利用して印加される。ただし、波形を供給するために他の種類のスイッチング構成を使用しても勿論構わない。
【0141】
図24の波形を用いて、特定のm/z範囲のイオンがセグメント15内に分離される。これがどのように達成されるかが図25を参照して説明される。印加される直流オフセット電圧の大きさが走査線の傾斜を決定し、従ってa-q図の境界線の交点が決定される。a/q=0.41及びa/q=0.28の走査線が図25の例に示されている。印加される直流電圧(従ってa/qの値)の大きさを選択することでセグメントの分解能の決定が可能になる。
【0142】
所望のm/z範囲内のセグメント15のイオンは次の二つの方法で直流オフセット電圧を用いて分離することができる。第一に、印加される直流電圧が、所望のm/z範囲のイオンをa-q安定線図の先端(すなわち、安定境界によって境界され、かつa/q=0.41の線より上の範囲)へ移動させるようなものである。全ての他の不所望のイオンは安定領域の外にあり、例えば排出又はロッドとの衝突によってセグメント15から失われる。
【0143】
もう一つの方法としては、印加される直流電圧が、安定境界によって境界され且つa/q=0.28の線より上のa-q図の範囲へイオンを移動させる。その結果、高周波捕捉波形は所望のm/z範囲のイオンを分離するために低周波数から高周波数へとスキャン可能である。
【0144】
図24の波形は、イオンがデバイス10のセグメントに未だ捕捉されていないがデバイスの特定のセグメント中を移動している場合、イオンの質量フィルタリングにも使用することができる。この波形がフィルタリングを実現するために印加されると、a-q安定線図の先端にあるイオンのみが当該セグメントを通過する。残りのイオンは不安定で、隣接するセグメントに入らない。フィルタリングセグメントから排出可能なイオンのm/z範囲はa-q図の走査線の傾斜によって決定される。従来の四重極質量フィルタとは異なり、印加される直流電圧の値は所望のm/z範囲から独立している。所望のm/z範囲は所定の高周波の振幅の周波数に従って選択される。
【0145】
図23のステップ504では、直流オフセット波形を用いてセグメント15で分離されるイオンはセグメント15内に保持される。これは、セグメント15の両端にあるセグメント14及び16に印加される電圧がより高く(図23参照)、従って分離されたイオンが、隣接するセグメントよりも軸方向ポテンシャルが低いセグメント15に留まるためである。当然ながら、もし隣接するセグメントに印加される直流電圧が分離/フィルタリングが生じたセグメントの電圧よりも低いならば、分離されたイオンはその分離が行われたセグメントから隣接するセグメントへと移動することができる。さらに、印加される電圧がイオンが軸方向ポテンシャルが最も低いセグメントへ移動しやすくするようなものであれば、イオンはより遠くの隣接するセグメントにも入射することができる。
【0146】
直流オフセットを導入するために、先に検討したような別個の直流電源を用いるのではない、別の方法もある。この代わりの方法では、Xロッド及びYロッドの間に有効直流オフセットを導入するために、負荷サイクルを改良する。このような改良された負荷サイクルによる波形が図26に示される。高周波成分Veff及び直流成分Ueffの実効値はそれぞれ次の式で与えられる。
【数11】

【数12】

【数13】

【0147】
もしこの負荷サイクル方法がイオンの分離/フィルタリングのために用いられるならば、これはa-q安定線図に付加的作用を及ぼす。このことが図27に示される。この図が示すように、周期的な捕捉波形の負荷サイクルが変更されると、安定領域の境界がずれる。この負荷サイクル改良方法は実行が比較的簡単であるが、安定境界のずれによって生じる付加的な作用を考慮しなければならない。
【0148】
図28は上述したステップ506(前後への周波数スキャンによる分離)の間にセグメント15のXロッド及びYロッドへ印加される波形を示している。図に示されているように、高周波捕捉波形の周波数が、初期の期間Tstart-RFから、一定の回数のRFサイクルNwaveの後、一定量ΔTRFずつ増加し、最終期間Tend-RFに到達するまでスキャンされる。図28において、Tstart-RFは1.29μ秒であり、Tend-RFは1.82μ秒である。この場合、波形はNwave=23を用いて5ステップに関して計算された。もし波形の振幅が500Vであれば、500トンプソン(Th)から1000トンプソンのm/z範囲がスキャンされる。
【0149】
前後m/zスキャンは例えば0.1トンプソンのような狭いm/z範囲においてイオンを分離するために、この種類の波形を用いて実行することができる。
【0150】
図29は、デバイス10の第六運転モードを示す。この運転モードでは13個のセグメントを有する、図3に示されるデバイス10の実施形態を用いる。このモードは、イオンがデバイス10に入射しつつイオンの質量選択フィルタリングを行い、次いでデバイスの更なるセグメントにおいてフィルタ処理されたイオンの(CIDによる)断片化を行うのに有効である。この方法は空間タンデム分析を提供し、一秒間に多数のMS/MSスペクトルを得ることを可能にする。典型的には一秒当たりに50〜100のスペクトルが可能である。この方法はまた、自動電荷制御を可能にする。(これは図4に示されたような第一モードに関連した説明と類似している。)
【0151】
ステップ601では、印加された電圧はイオンをデバイス10に入射させる。イオンはセグメント12でフィルタ処理(上述したようなフィルタリング)され、事前に選択されたm/z範囲内のプリカーサイオンのみがセグメント12から排出され、軸方向ポテンシャルがより低いセグメント12bへと加速される。セグメント12bの電圧はプリカーサイオンが緩衝ガスと衝突し、上述したCID処理を受けるようにするのに有効である。断片イオンが、そのCID処理の結果として生成される。セグメント12c〜19に印加される電圧は、セグメント12c〜19の全てにわたって軸方向ポテンシャルを逓減させる。これによって、セグメント12bに存在している断片イオンがセグメント12c〜19を通過して、セグメント19を出射した後にデバイス20によって検出されることが可能となる。
【0152】
ステップ602でセグメント11及び12に印加される電圧は、イオンのデバイス10への入射を許容し、セグメント12のイオンをフィルタリングするのに有効である。予め選択されたm/z範囲内のイオンのみがセグメント12から、軸方向ポテンシャルがより低いセグメント12内に進む。また、セグメント12bの電圧はセグメント12bにおける予め選択されてフィルタ処理されたイオンにCIDを生じさせるのに有効である。セグメント13〜18の電圧は、イオンにセグメント12bを離れさせ、セグメント13〜19に捕捉させるようなものである。ステップ602の正確な継続時間はステップ601において検出器20によって検出されたイオン流に従って決定される。(これは第一運転モードの、ステップ102〜103を参照して説明したプロセスと類似している。)
【0153】
ステップ603で印加される電圧は、これ以上試料イオンがデバイス10に入射することを防止し、セグメント13〜18aの断片イオンにこれらのセグメントにおいて緩衝ガスと衝突させて運動エネルギーを失わせ、最終的に軸方向直流ポテンシャルが最も低いセグメント、この場合はセグメント17内に蓄積させるのに有効である。最終的に、セグメント17に捕捉されたイオンは緩衝ガスとの熱平衡に到達する。
【0154】
ステップ604において印加される電圧は、セグメント17における断片イオンをセグメント17の中央部内に軸方向に閉じ込めつつ、更なる試料イオンがデバイス10に入射することを防止するのに有効である。
【0155】
ステップ605において印加される電圧は、セグメント17の断片イオンを上述したバースト圧縮を利用して引出方向に圧縮させつつ、更なる試料イオンがデバイス10に入射することを防止するのに有効である。
【0156】
ステップ606において印加される電圧は、更なる試料イオンがデバイス10に入射することを防止し、セグメント17における冷却されたイオンがセグメント17から飛行時間型質量分析器における分析のために引き出されるようにする。
【0157】
図30はデバイス10の第七動作モードを示す。先に述べた第六モードと同様に、このモードも図3に示されるような13個のセグメントデバイスを使用する。このモードは、各フィルタリングステップの後のCID断片化と同様に二つのプリカーサイオン選択ステップを有することでMS3分析を提供する。これもまた「空間タンデム」分析方法であり、一秒あたり50〜100スペクトルのMS3分析を可能にする。これは走査速度の減少を何ら必要としない。第六のモードと同様に、本モードは自動電荷制御を可能にする。
【0158】
ステップ701で印加される電圧は、イオンをデバイス10に入射させ、セグメント11からセグメント19へ移動させる(それぞれのセグメントは前のセグメントよりも軸方向ポテンシャルが低いため)のに有効である。セグメント19に存在するイオンはデバイス10の端部の検出器20によって検出される。
【0159】
ステップ702でセグメント11及び12に印加される電圧は、イオンをデバイス10に入射させ、セグメント12に入ることが許可されたイオンをフィルタリングするのに有効である。予め選択されたm/z範囲内のイオンのみがセグメント12を出て、軸方向ポテンシャルがより低いセグメント12bに入る。セグメント12bの電圧はセグメント12bのイオンのCIDを生じさせ、MS2イオンを生成させるのに有効である。印加される電圧は断片(MS2)イオンをセグメント12bから出しセグメント13に入らせる。セグメント13の電圧はこのセグメントに入射するイオンをフィルタリングするのに有効である。予め選択されたm/z範囲のイオンのみがセグメント13から出る。フィルタ処理されたイオンはセグメント13を出て、軸方向ポテンシャルがより低いセグメント15に入る。セグメント15の電圧はこのセグメントに入射するイオンのCIDを生じさせ、結果としてMS3イオンを形成するのに有効である。このようにして形成されたMS3イオンは次いでセグメント15〜18aにおいて捕捉される。
【0160】
ステップ703では、印加される電荷は更なるイオンがデバイス10に入射することを防止し、セグメント13〜18aのMS3イオンをこれらのセグメント内において緩衝ガスと衝突させ、運動エネルギーを失わせ、最終的に軸方向直流ポテンシャルが最も低いセグメント内に蓄積させる。この場合はセグメント17内である。最終的に、セグメント17に捕捉されるMS3イオンは緩衝ガスとの熱平衡に達する。
【0161】
ステップ704〜706において印加される電圧はそれぞれ、図28に示されており上述した第六のモードのステップ604〜606において印加される電圧に対応しており、また同一の効果をもたらす。
【0162】
上述した七つの運転モード全てにおいて、分割デバイス10は好適には四重極デバイスである。このような、双曲形状ロッドを持つセグメントが図31に示される。このセグメントは双曲形状Xロッド53及びYロッド54を有する。このXロッド及びYロッドは電極であって、典型的には例えば精密研削による導電体によって成る。又は、この電極はセラミックやガラス、好適には表面に導電性コーティングを有する膨張しないガラスのような電気的に絶縁された材料で形成することも可能である。セグメントに要求される精密な配置を達成するためには、セグメントの製作が比較的高価になる。
【0163】
双曲形状電極は次の方程式の正負の根によって記載される表面を有する。
【数14】

【数15】

ここにおいて、roはセグメントの放射方向寸法である。
よって、このセグメント内の四重極ポテンシャルは次の式で与えられる。
【数16】

【0164】
上述したモードの処理の通常の過程では、イオンは何度も隣接するセグメント間を通過することがあるが、イオンがセグメント間を通過する際に生じるいかなるイオンのポテンシャル損失も最小化することが望ましい。隣接するセグメント間及び隣接するセグメントに亘って場が一様でないならば、イオンはセグメント間を通過する際に末端の場(隣接するセグメント間の隙間の場)の付近で恐らく失われる。これは、もし末端場がセグメント内の四重極場と異なっているならば、イオンにセグメント間を移動させるために供給される軸方向運動エネルギーはイオンの放射方向運動エネルギーに変えられ、イオンの損失をもたらすからである。イオンの損失を防止するためには、ある方法でデバイス10を構成することが好ましい。デバイス10の全てが図31に示されるようなセグメントで構成されている場合、各セグメントのroが実質的に同一であるならば、全体のデバイスに沿った四重極場は実質的に一様となる(及び末端場が最小化される)。また、もしroが同一でないならば、各セグメントの電圧は隣接するセグメント間及び隣接するセグメントにわたる場が実質的に均一であるように調節することができる。また、これによってイオンがセグメント間を移動する際のイオン損失が最小化される。
【0165】
当然ながら、正確な構成が要求されるため、この種類のデバイスを製造することには比較的費用がかかる。代わりに、平板電極を用いてデバイス10の一以上のセグメントを構築することが可能である。
【0166】
このようなセグメントは、隣接するセグメントの一つ又は両方が平板電極によって構成される場合に、セグメント内の場が実質的に四重極場であって、隣接するセグメント間で場が実質的に一様であるように設計され、操作されることができる。
【0167】
Ding et al(WO 2005/119737)は、正方形として配置される四つの導電面の構成について開示している。これは、その正方形内で実質的に四重極場を提供するように操作可能である。
【0168】
双曲形状電極を製造することと比較して精密な平坦基板を製造することはより容易で安価であるため、平板電極を用いることが好ましい。絶縁基板は精密セラミック又はガラス上に形成された、好ましくは熱膨張率が低く、その表面の下に電気的接続が配線されることで各電極がこのように「印刷」された金属コーティングを行うことが可能なプリント回路基板でよい。
【0169】
例として、図32(a)及び(b)は平板71及び72を用いて形成されたそのようなセグメントを示す。各平板は幅が5つの10mmの電極73〜77を有する。典型的には、ro=5mmによって図31のように構成されたセグメントによって生成される四重極場を実質的に再生するためには、平板間の距離は10mmでなければならない。図31のセグメント内と同一の場の強度を達成するためには、最大印加電圧は図31のセグメントに印加される電圧よりも5.6倍大きい。平板71及び72内の実際のポテンシャルは、四重極成分と同様に、他の(より高次の及び/又はより低次の)成分を含む。しかしながら、平板電極73〜77に印加される電圧は四重極ではない成分を最小化させるために制御することが可能であり、このようにして平板内の場は実質的に四重極であって隣接するセグメントの場に十分に一致し、イオンが隣接するセグメント間を通過する際のイオン損失が最小化される。
【0170】
図32(b)では、平板71の最も上の電極75にスリット80がある。これは、電極71及び72がデバイス10の引出セグメント15として用いられる場合のための引出スリットである。
【0171】
直流波形及び高周波捕捉波形を供給するための平板電極73〜77の制御回路は電極73〜77と同一の基板に位置してもよい。基板のこの部分は伝統的なプリント回路基板の方法によって形成することができる。また、電極が配置される真空領域の外に、例えば真空に適合するエポキシ樹脂を用いて基板の周囲に形成された真空包装とともに配置しても良い。または、制御回路は別途設けられ、周囲に真空包装が形成された弾力性のあるPCBを用いた平板電極に接続されてもよい。
【0172】
デバイス10のセグメントに平板を用いることには、複雑な電極パターンを平板上で容易に形成できるという更なる利点がある。例えば、図33は電極が平板上で一連の同心円として形成されている一組の円の平板71及び72を示している。下方平板72には引出スロット80があり、これを通ってイオンが質量分析のためにセグメントから引出可能である。
【0173】
この電極の構成は、トロイド形状のセグメント内でイオン雲を形成するために用いることができる。イオン雲をトロイドに形成することで、イオン雲のエミッタンスは一般的に減少する。従って、この種の電極構成はToF型分析器にイオンを供給するイオントラップのようなセグメントの作用において役に立つ。しかしながら、この種の電極構成を利用することには欠点がある。その欠点とは、イオンを、この電極構成を有するセグメントに外部のイオン源から効率的に導入できないことである。この欠点は、図34に示されるような電極構成を持つ平板を用いることで克服できる。
【0174】
本実施形態では、PCB平板は、トロイダル捕捉を可能にする電極だけでなく、線形捕捉を可能にする電極も有する。電極73〜79は線形電極であり、電極81〜83は円形電極である。この図には、線形モードで動作させるためのスイッチ91及び92の電極への種々の接続も描かれている。図35に示されているように、トロイダルモードにおける操作用スイッチはスイッチ93及び94である。図34及び35のトロイダル/線形モード間の高速切替はDing et al(WO 01/29875)に記載されている方法を用いることで達成できる。
【0175】
イオンは平板71及び72から形成されるセグメントに入ることが許可され、そして、線形電極の電圧を制御することで、イオン雲が(実質的に一次元イオン雲として)セグメントの長手軸に沿って集められる。上述したように、イオンはこの電極構成によって外部のイオン源からセグメントへ能率的に導入され得る。次いで線形電極73〜79はスイッチが切られ、円形電極81〜83はスイッチが入れられる。これによって、イオン雲は実質的に一次元軸方向伸張雲から実質的に二次元イオン雲へと変形させられる。この特定の場合において、円形電極81〜83はトロイダル形状の二次元イオン雲を形成する。当然ながら、電極81〜83は別の二次元形状のイオン雲を生成するための別の二次元構成で形成できる。
【0176】
トロイダル形状のイオン雲は長手方向イオン雲と同一の電荷容量を有しているが、長手方向イオン雲の約1/π倍の領域を占める。これによって、イオン雲のエミッタンスが減少する。
【0177】
円形電極81〜83の直径により、生成されるトロイダルイオン雲の直径が決定される。例えば、直径が5mmのトロイダル形状のイオン雲を生成するためには、円形電極の幅は約2.5mm、平板71及び72間の距離は約2.5mmでなければならない。トロイダル形状の雲が形成された後に、引出電圧を、分析のために出口スロット80を介してイオンを引き出す用に印加することができる。上述した「遅延」及び/又は「バースト圧縮」技術は、引出電圧が印加される前に、そして二次元イオン雲が形成される前に及び/又は後で用いることができる。
【0178】
この特定の平板/電極構成を有するセグメントに印加される引出電圧は双曲電極で形成されるセグメントに印加されねばならない引出電圧よりも4倍小さく、ro=5mmである。これは明らかに望ましい減少であり、従って、引出セグメント15として平板71及び72から形成されるセグメントを使用することが望ましい。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
試料イオンを供給するイオン源と、
前記イオン源によって供給された試料イオンを受容する、長手軸を有する分割線形多重極イオン蓄積デバイスと、
前記デバイスに、
(i)イオンが実質的に損なわれずに隣接するセグメント間を通過できるように、前記デバイスの隣接するセグメントに沿って及び隣接するセグメント間で実質的に一様な多重極捕捉場を生成するための高周波捕捉電圧と、
(ii)前記デバイスの引出領域において試料イオン又は試料イオンに由来するイオンを、冷却ガスの助力を受けることで捕捉し、イオン雲を形成させるのに有効な直流捕捉電圧と、
(iii)前記デバイスの前記長手軸に直交する引出方向に、前記引出領域から前記イオン雲を排出させる引出電圧と、
を供給する電圧供給手段と、
前記引出領域から排出されたイオンの質量分析を行う飛行時間型質量分析器と、
を備えた飛行時間型質量分析装置。
【請求項2】
前記引出領域は前記デバイスの単一セグメントの捕捉領域から成る請求項1に記載の分析装置。
【請求項3】
前記分割デバイスの各セグメントの径方向寸法は実質的に等しい請求項1又は2に記載の分析装置。
【請求項4】
前記引出電圧が印加される前に、前記長手軸を横断する方向に前記イオン雲の物理サイズ及び/又はイオン雲内のイオンの速度広がりを減少させるイオン雲処理手段を更に備える請求項1〜2のいずれかに記載の分析装置。
【請求項5】
前記イオン雲処理手段は、前記引出電圧が印加される前に、前記長手軸上に前記イオン雲を形成するのを促進するのに有効である請求項4に記載の分析装置。
【請求項6】
前記引出領域は前記デバイスの一以上の引出セグメントの捕捉領域から成り、
前記イオン雲処理手段は、前記電圧供給手段に、前記引出領域に印加される捕捉電圧を増加させるように構成されている
請求項4又は5に記載の分析装置。
【請求項7】
前記増加は、一連の段階状急激増加から成る請求項6に記載の分析装置。
【請求項8】
前記引出領域は前記デバイスの一以上の引出セグメントの捕捉領域から成り、
前記イオン雲処理手段は、前記電圧供給手段に、前記一又は複数の引出セグメントに印加される捕捉電圧を停止させ、前記捕捉電圧の停止と前記引出電圧の印加との間に遅延を課すように構成されている
請求項4〜7のいずれかに記載の分析装置。
【請求項9】
前記電圧供給手段は、前記遅延の間に前記一又は複数の引出セグメントに中間電圧を印加する請求項8に記載の分析装置。
【請求項10】
前記捕捉電圧はまた、前記引出領域内において前記イオン雲を軸方向に圧縮するのに有効である請求項4〜9のいずれかに記載の分析装置。
【請求項11】
前記引出領域は前記デバイスの引出セグメントの捕捉領域から成り、
該引出セグメントは、
第一前記捕捉電圧と共に供給される際に、イオンが前記引出領域内で実質的に一次元の軸方向に伸張するイオン雲を形成することを可能にする第一電極手段と、
第二前記捕捉電圧と共に供給される際に、前記実質的に一次元の軸方向に伸張する雲を、前記引出方向と直交する実質的に中心の平面内に二次元のイオン雲に変形させるのに有効な第二電極手段と、
を備える請求項2〜10のいずれかに記載の分析装置。
【請求項12】
前記実質的に二次元のイオン雲はトロイダル形状イオン雲である請求項11に記載の分析装置。
【請求項13】
前記第二捕捉電圧が印加される前及び/又は後に、前記長手軸を横断する方向において前記イオン雲の物理サイズ及び/又はイオン雲内のイオンの速度広がりを減少させるイオン雲処理手段を備える請求項11又は12に記載の分析装置。
【請求項14】
前記デバイスは入射端と、出射端と、該出射端に配置されたイオン検知手段とを有し、
前記電圧供給手段は、
試料イオンを、前記デバイスを前記入射端から前記出射端へと通過させて前記イオン検知手段によって検知させ、
次いで、前記イオン源からの、該デバイス内で受容されたイオンを捕捉し、前記イオン検知手段によって検知されたイオン流によって決定される時間間隔の後に更にイオンが該デバイスに入射することを防止するように構成されている
請求項1〜13のいずれかに記載の分析装置。
【請求項15】
前記捕捉電圧は、前記デバイスの入射端と該デバイスの軸方向伸張領域との間に配置される該デバイスのイオン蓄積領域に試料イオンを捕捉し、次いで、該イオン蓄積領域に更に試料イオンを捕捉すると同時に、イオンを該イオン蓄積領域から該デバイスの別の領域へ移動させるのに有効である請求項1〜13のいずれかに記載の分析装置。
【請求項16】
前記イオン蓄積領域は前記デバイスの単一セグメントの捕捉領域から成る請求項15に記載の分析装置。
【請求項17】
前記別の領域は前記軸方向伸張領域である請求項15又は16に記載の分析装置。
【請求項18】
前記電圧供給手段によって前記デバイスに供給される電圧によって、前記イオン蓄積領域に更に試料イオンを捕捉すると同時に、前記イオン蓄積領域の外部の一又は複数の領域において、イオンを断片化及び/又は分離する請求項15〜17のいずれかに記載の分析装置。
【請求項19】
前記捕捉電圧は、前記デバイスの断片化領域においてイオンを捕捉するのに有効であり、
前記電圧供給手段は、該断片化領域に捕捉されたイオンを断片化させるために、該デバイスに断片化電圧を供給するように構成されている
請求項1〜16のいずれかに記載の分析装置。
【請求項20】
前記断片化電圧は、選択された範囲の質量電荷比においてイオンを断片化させるのに有効な双極子励起電圧から成る請求項18又は19に記載の分析装置。
【請求項21】
前記双極子励起電圧は、衝突誘起解離(CID=Collision Induced Dissociation)によってイオンを断片化させるのに有効である請求項20に記載の分析装置。
【請求項22】
前記電圧供給手段は、選択された範囲の質量電荷比において、断片化プリカーサイオンを分離するために分離電圧を供給するように構成されている請求項19〜21のいずれかに記載の分析装置。
【請求項23】
前記分離電圧は、前記選択された範囲の質量電荷比においてプリカーサイオンを分離するのに有効な広帯域分離電圧である請求項22に記載の分析装置。
【請求項24】
前記分離電圧は、前記選択された範囲の質量電荷比のどちらかの側へイオンを排出するために前後へ周波数スキャンを行うのに有効である請求項22に記載の分析装置。
【請求項25】
前記電圧供給手段は、断片化に先立って前記デバイスの第一フィルタリング領域においてイオンのフィルタリングを生じさせ、
断片化の後に前記デバイスの第二フィルタリング領域において更なるイオンのフィルタリングを生じさせる
ように構成されている請求項17〜24のいずれかに記載の分析装置。
【請求項26】
前記第一フィルタリング領域及び第二フィルタリング領域のそれぞれは前記デバイスの単一のセグメントによって定められる請求項24に記載の分析装置。
【請求項27】
前記断片化電圧は、MSn機能を提供するために、イオンの繰り返し断片化を生じさせるのに有効である請求項18〜26のいずれかに記載の分析装置。
【請求項28】
前記分割デバイスは、分割線形四重極イオン蓄積デバイスから成る請求項1〜27のいずれかに記載の分析装置。
【請求項29】
長手軸を有する分割線形多重極イオン蓄積デバイスに試料イオンを受容し、
イオンが実質的に損なわれずに隣接するセグメント間を通過できるように、前記デバイスの隣接するセグメントに沿って及び隣接するセグメント間で実質的に一様な多重極捕捉場を生成するための高周波捕捉電圧を印加し、
前記デバイスの引出領域において試料イオン又は試料イオンに由来するイオンを、冷却ガスの助力を受けることで捕捉し、イオン雲を形成させるのに有効な直流捕捉電圧を印加し、
前記デバイスの前記長手軸に直交する引出方向に、前記引出領域から前記イオン雲を排出させる引出電圧を印加し、
飛行時間型質量分析器を用いて排出されたイオンを分析する
ステップから成る飛行時間型質量分析装置の操作方法。
【請求項30】
試料イオンを供給するイオン源と、
前記イオン源によって供給された試料イオンを受容する、長手軸を有する分割線形イオン蓄積デバイスと、
前記デバイスに高周波多重極捕捉電圧を供給し、
イオンが選択的にMS処理を受ける前記デバイスの異なる軸方向伸張領域の間で試料イオン又は試料イオンに由来するイオンを動かすように該デバイスのセグメントに直流電圧を選択的に供給し、
処理されたイオンが該デバイスの引出セグメントの捕捉領域内に捕捉されるようにし、
該デバイスの前記長手軸に直交する引出方向に捕捉イオンを排出させるために前記引出セグメントに引出電圧を供給する
電圧供給手段と、
前記引出セグメントから排出されたイオンの質量分析を実行する飛行時間型分析器と、
を備えた飛行時間型質量分析装置。
【請求項31】
前記高周波多重極捕捉電圧は、イオンが実質的に損なわれずに隣接するセグメント間を移動できるように、前記デバイスの隣接するセグメントに沿って及び隣接するセグメント間で実質的に一様である請求項30に記載の分析装置。
【請求項32】
前記MS処理は、断片化、分離、フィルタリング、蓄積から選択される請求項31に記載の分析装置。
【請求項33】
前記デバイスの異なる軸方向伸張領域において異なるMS処理が同時に実行される請求項32に記載の飛行時間型質量分析装置。
【請求項34】
軸方向伸張領域のそれぞれは、単一のセグメント又は二以上の互いに隣接したセグメントグループから成る請求項33に記載の飛行時間型質量分析装置。
【請求項35】
請求項1〜28、30〜34のいずれかに記載の飛行時間型質量分析装置に用いられる分割線形イオン蓄積デバイス。
【請求項36】
添付の図面に関連して本書類中に実質的に記載された質量分析装置。
【請求項37】
添付の図面に関連して本書類中に実質的に記載された質量分析装置の操作方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【図22】
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【図23】
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【図24】
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【図25】
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【図26】
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【図27】
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【図28】
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【図29】
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【図30】
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【図31】
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【図32】
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【図33】
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【図34】
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【図35】
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【公開番号】特開2013−101952(P2013−101952A)
【公開日】平成25年5月23日(2013.5.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2013−524(P2013−524)
【出願日】平成25年1月7日(2013.1.7)
【分割の表示】特願2009−540841(P2009−540841)の分割
【原出願日】平成19年12月7日(2007.12.7)
【出願人】(000001993)株式会社島津製作所 (3,708)
【Fターム(参考)】