説明

食品検査方法及び食品検査装置

【課題】 品質評価を高精度で行うことができる食品検査方法及び食品検査装置を提供する
【解決手段】 食品検査装置1の光源10から検査対象物50向けて近赤外光L1が照射される。光源10から照射された近赤外光10は、検査対象物50へ入射する。検査対象物50で拡散反射した近赤外光のうち、光路L3方向に進む光は、検出部20へ到達する。検出部20では光源10から照射される近赤外光が検査対象物50の表面で拡散反射された後に検出部20の配置される方向へ出力された光を拡散反射スペクトルとして検出する。検出した拡散反射スペクトルの情報は処理部40へ送られる。処理部40では検出部20で得られた拡散反射スペクトルを解析することにより吸収スペクトルを求める。拡散反射スペクトルと、吸収スペクトルの形状と、に基づいて前記検査対象物の品質を評価する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光を検査対象物である食品に照射して検査対象物において拡散反射された光を測定し、その結果に基づいて検査対象物の品質を評価する食品検査方法及び食品検査装置に関する。
【背景技術】
【0002】
食品の加工工程において、異物や異状を検査して品質を評価することは、食品の安全に対する消費者の関心の高まりなどに伴い、ますます重要なものとなっている。このため、異物及び異状を検出する方法は種々検討されている。
【0003】
加工食品に含まれる異物を検査する方法としては、可視光を用いた検査、金属探知機を用いた検査、磁気センサーを用いた検査やX線を用いた検査等が考えられる。しかしながら、上記の検査方法は特定の異物を対象とした検査方法であるという問題がある。例えば、金属探知機では金属の異物は検出できるものの、毛髪が異物として混入した場合には異物として検出することができない。また、X線を用いた検査方法では、包装外部からX線を照射することによる検査が可能であるものの、X線を透過する毛髪等を異物として検出することができないという問題点や、食品に放射線を照射することによる影響等が考えられる。
【0004】
また、加工食品中の成分として例えば水分や糖分の含有量を測定し、その結果から加工食品の異状を確認する方法がある。例えば加工食品中の水分を分析する方法としては、抜き取りサンプルを減圧乾燥して測定する方法がある。しかしながら、この方法は破壊検査となるため、全数検査を行うことはできない。また、これに代わる方法として、加工食品の導電率測定により加工食品中の水分を測定する方法があるが、導電率を測定するためにセンサーを加工食品に接触させる必要があるため、衛生的な面から問題があると考えられる。このように、上記の方法はいくつか問題点があり、加工食品の異状を検出する方法としては必ずしも適切であるとは言えなかった。
【0005】
そこで、全数検査が可能であり、衛生面でも問題がない食品検査方法として、近赤外光を用いた検査方法が検討されている。例えば、特許文献1のように可視光や近赤外光を加工食品に照射して、その反射光を検出することによって、異物検査を行う方法が開示されている。
【特許文献1】特開2004−301690号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、加工食品中には複数の物質が含まれると同時に、検出対象となる異物や成分分析の対象となる成分は微量であることが多い。このため、近赤外光の反射光により得られるスペクトルにおいても異物由来のピークは、食品由来のピークと比較して非常に小さい。したがって、加工食品の品質の評価として、加工食品に含まれる異物や異状をより高精度に検出することができる食品検査方法が求められる。
【0007】
本発明は、上記課題を解決するためになされたものであり、品質評価を高精度で行うことができる食品検査方法及び食品検査装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するため、本発明に係る食品検査方法は、食品からなる検査対象物に近赤外光を照射して得られる拡散反射光を測定し、その結果に基づいて検査対象物の品質を評価する食品検査方法であって、光源から出力された近赤外光のうち、検査対象物により拡散反射した光の拡散反射スペクトルを検出部において測定する測定ステップと、測定ステップにおいて測定された検査対象物の拡散反射スペクトルの形状と、当該拡散反射スペクトルを処理部において解析することにより得られる吸収スペクトルの形状と、に基づいて検査対象物の品質を評価する評価ステップと、を有することを特徴とする。
【0009】
上記の食品検査方法のように、拡散反射スペクトルの形状と、当該拡散反射スペクトルから得られる吸収スペクトルの形状と、に基づいて検査対象物の品質を評価することにより、拡散反射スペクトルに含まれる微小なピークについても正確に検出することができるため、より精度の高い品質評価を行うことができる。
【0010】
また、評価ステップにおいて、拡散反射スペクトル、処理部において拡散反射スペクトルを2階微分することにより得られる拡散反射スペクトルの2階微分スペクトル、吸収スペクトル、及び吸収スペクトルを2階微分することにより得られる吸収スペクトルの2階微分スペクトルを用いて検査対象物を評価することが好ましい。
【0011】
拡散反射スペクトル、拡散反射スペクトルの2階微分スペクトル、吸収スペクトル、及び吸収スペクトルを2階微分することにより得られる吸収スペクトルの2階微分スペクトルを用いることにより、スペクトルに含まれるより小さなピークについても正確に検出して評価を行うことができるので、品質評価をより精度よく行うことができる。
【0012】
また、評価ステップにおいて、拡散反射スペクトルを2階微分するときの波長間隔及び吸収スペクトルを2階微分するときの波長間隔がそれぞれ30nm以上であることが好ましい。
【0013】
拡散反射スペクトル及び吸収スペクトルを2階微分する際の波長間隔を30nm以上とすることで、検出部で測定した拡散反射スペクトルに含まれる機器由来等のノイズ成分を除去することができるため、より高いS/N比により2階微分スペクトルを得ることができ、高精度の品質評価を行うことができる。
【0014】
本発明に係る食品検査方法は、評価ステップにおいて、あらかじめ取得された検査対象物と同じ食品の基準拡散反射スペクトルの形状と、検査対象物の拡散反射スペクトルの形状と、を比較し、検査対象物の拡散反射スペクトルにおいて基準拡散反射スペクトルとは異なるピークが検出された場合に、検査対象物に異物が含まれると判定する態様をとることができる。
【0015】
上記のように、あらかじめ取得された検査対象物と同じ食品の基準拡散反射スペクトルと検査対象物の拡散反射スペクトルとを比較することにより、拡散反射スペクトルの形状が食品によるものかどうかをより明確に判定することができる。
【0016】
また、評価ステップにおいて、あらかじめ取得された検査対象物と同じ食品の基準吸収スペクトルの形状と、検査対象物の吸収スペクトルの形状と、を比較し、検査対象物の吸収スペクトルにおいて基準吸収スペクトルとは異なるピークが検出された場合に、検査対象物に異物が含まれると判定する態様をとることもできる。
【0017】
上記のように、あらかじめ取得された検査対象物と同じ食品の基準吸収スペクトルと検査対象物の吸収スペクトルとを比較することにより、吸収スペクトルの形状が食品によるものかどうかをより明確に判定することができる。
【0018】
さらに、本発明に係る食品検査方法は、評価ステップにおいて、拡散反射スペクトルの2階微分スペクトル又は吸収スペクトルの2階微分スペクトルに含まれるピークのうち、複数のピークの高さの比を比較する態様をとることもできる。
【0019】
上記のように、拡散反射スペクトル又は吸収スペクトルの2階微分スペクトルに含まれるピークのうち、複数のピークの高さの比を比較することで、ベースラインの変動等によるピーク強度の差を除去してピーク強度の評価を行うことができるため、より正確に検査対象物の品質評価を行うことができる。
【0020】
本発明に係る食品検査方法は、評価ステップにおいて、測定ステップにおいて測定された検査対象物の拡散反射スペクトルの形状と、当該拡散反射スペクトルを処理部において解析することにより得られる吸収スペクトルの形状と、に基づいて検査対象物に含まれる水分量を評価する態様をとることができる。
【0021】
また、評価ステップにおいて、測定ステップにおいて測定された検査対象物の拡散反射スペクトルの形状と、当該拡散反射スペクトルを処理部において解析することにより得られる吸収スペクトルの形状と、に基づいて検査対象物に含まれる糖分量を評価する態様をとってもよい。
【0022】
上記のように、拡散反射スペクトルや吸収スペクトルの形状から検査対象物に含まれる水分量や糖分量を評価することにより、検査対象物である食品の品質をより綿密に評価することができる。
【0023】
なお、本発明に係る食品検査方法は、以下に示すとおり、食品検査装置の発明としても記述することができる。これはカテゴリが異なるだけで、実質的に同一の発明であり、同様の作用及び効果を奏する。
【0024】
すなわち、本発明に係る食品検査装置は、食品からなる検査対象物に近赤外光を照射して得られる拡散反射光を測定し、その結果に基づいて検査対象物の品質を評価する食品検査装置であって、近赤外光を出力する光源と、光源から出力された近赤外光のうち、検査対象物により拡散反射した光の拡散反射スペクトルを測定する検出部と、検出部において測定された検査対象物の拡散反射スペクトルの形状と、当該拡散反射スペクトルを解析することにより得られる吸収スペクトルの形状と、に基づいて検査対象物の品質を評価する処理部と、を有することを特徴とする。
【0025】
また、処理部において、拡散反射スペクトルと、拡散反射スペクトルを2階微分することにより得られる拡散反射スペクトルの2階微分スペクトル、吸収スペクトル、及び吸収スペクトルを2階微分することにより得られる吸収スペクトルの2階微分スペクトルと、を用いて検査対象物の品質を評価する態様をとることができる。
【0026】
また、処理部において、拡散反射スペクトルを2階微分するときの波長間隔及び吸収スペクトルを2階微分するときの波長間隔がそれぞれ30nm以上であることが好ましい。
【0027】
本発明に係る食品検査装置は、処理部において、あらかじめ取得された検査対象物と同じ食品の基準拡散反射スペクトルの形状と、検査対象物の拡散反射スペクトルの形状と、を比較し、検査対象物の拡散反射スペクトルにおいて基準拡散反射スペクトルとは異なるピークが検出された場合に、検査対象物に異物が含まれると判定する態様をとることができる。
【0028】
また、処理部において、あらかじめ取得された検査対象物と同じ食品の基準吸収スペクトルの形状と、検査対象物の吸収スペクトルの形状と、を比較し、検査対象物の吸収スペクトルにおいて基準吸収スペクトルとは異なるピークが検出された場合に、検査対象物に異物が含まれると判定する態様をとってもよい。
【0029】
また、処理部において、拡散反射スペクトルの2階微分スペクトル又は吸収スペクトルの2階微分スペクトルに含まれるピークのうち、複数のピークの高さの比を比較する態様をとってもよい。
【0030】
本発明に係る食品検査装置は、処理部において、検出部において測定された検査対象物の拡散反射スペクトルの形状と、当該拡散反射スペクトルを解析することにより得られる吸収スペクトルの形状と、に基づいて検査対象物に含まれる水分量を評価する態様をとることができる。
【0031】
また、処理部において、検出部において測定された検査対象物の拡散反射スペクトルの形状と、当該拡散反射スペクトルを解析することにより得られる吸収スペクトルの形状と、に基づいて検査対象物に含まれる糖分量を評価する態様をとることができる。
【発明の効果】
【0032】
本発明によれば、食品の品質評価を高精度で行うことができる食品検査方法及び食品検査装置が提供される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0033】
以下、添付図面を参照して、本発明を実施するための最良の形態を詳細に説明する。なお、図面の説明において同一または同様の要素には同一の符号を付し、重複する説明を省略する。
【0034】
(第1実施形態)
本発明に係る食品検査装置の第1実施形態について説明する。図1は、本実施形態に係る食品検査装置1の構成を示す図である。図1に示される食品検査装置1は、検査台30上に配置された検査対象物50に近赤外光を照射し、その拡散反射光を検出部20で検出して食品の異物及び異状を検査する装置であり、光源10と、検出部20と、検査台30と、処理部40と、を備える。
【0035】
光源10は、近赤外光を検査対象物50の配置される検査領域へ照射する。光源10は、ハロゲンランプ等を用いることができる。また、種光源及び非線形媒質を備え、種光源から出射される光を非線形媒質に入力し、非線形媒質中における非線形光学効果によりスペクトルを広帯域に広げてスーパーコンティニウム(SC)光として出力するSC光源を光源10として用いることもできる。SC光源を光源10として用いた場合、ハロゲンランプと比較してSC光源による加熱が低減されるため、検査対象物50として加熱厳禁な食品等を用いることができる。さらに、光源10は強度を変調する機能を有していることが好ましい。
【0036】
検出部20は、光源10から照射される近赤外光が検査対象物50の表面で拡散反射された後に検出部20の配置される方向へ出力された光を拡散反射スペクトルとして検出する。検出した拡散反射スペクトルの情報は処理部40へ送られる。検出部20としては、例えば、水銀、カドミウム及びテルルからなるMCT検出器、InGaAs検出器等を用いることができる。
【0037】
なお、本実施形態において光源10が照射する近赤外光とは、波長範囲が800nm〜2500nmの光である。本実施形態では、1000nm〜2500nmの波長範囲で測定を行うことが好ましい。
【0038】
検査台30は、検査対象物50となる食品を配置する台である。この検査台30は、光源10から照射する近赤外光を透過する材料からなることが好ましい。
【0039】
処理部40は、検出部20から送られる拡散反射スペクトルの情報を受け取り、解析を行う。処理部40により、吸収スペクトルの導出、拡散反射スペクトルの2階微分スペクトルの導出、吸収スペクトルの2階微分スペクトルの導出が行われる。さらに、品質評価のための統計処理等が処理部40において行われる。
【0040】
すなわち、本実施形態に係る食品検査装置1において、光源10から検査対象物50へ向けて近赤外光L1が照射される。光源10から照射された近赤外光10は、検査対象物50へ入射する。検査対象物50で拡散反射した近赤外光のうち、光路L3方向に進む光は、検出部20へ到達する。検出部20では拡散反射スペクトルを測定し、その結果を処理部40へ送る。
【0041】
ここで、処理部40において行われる処理について図2〜図5を用いて説明する。本実施形態に係る食品検査装置1における品質評価としては、検査対象物50に含まれる異物の検出と、検査対象物50の異状の検出とが考えられる。ここでは、検査対象物50に含まれる異物の検出を例に、処理部40において行われる処理を説明する。
【0042】
図2は、食品検査装置1の検出部20において測定される拡散反射スペクトルの一例を示す図である。図2は、食品としてレーズンを用い、この食品上に異物として小枝を載せたものを検査対象物とし、食品の表面(食品)と、食品上に載せた異物の表面(異物)と、を照射位置として、波長範囲1000nm〜2500nmの近赤外光を照射した際の拡散反射スペクトルである。図2では、食品の拡散反射スペクトルでは目立ったピークが少なく、全体的に拡散反射率が低い。一方、異物の拡散反射スペクトルにおいてはいくつかの吸収を示すピークを確認することができる。
【0043】
次に、図2の拡散反射スペクトルについて、クベルカ−ムンク変換(Kubelka-Munk:KM変換)を行った後、この結果を元にKM吸光度スペクトル(吸収スペクトル)を得る。
【0044】
上記のKM変換とは、図2の拡散反射スペクトルを測定する際に得られた各波長における拡散反射率をRとしたとき、下記(1)に示すK/Sを算出することである。なお、Kは吸収係数、Sは散乱係数である。
【0045】
K/S=(1−R)/2R …(1)
【0046】
拡散反射スペクトルを測定する際、検査対象物による吸収が強い波長域(吸収ピーク)においては、長い光路長を有する拡散反射光はほとんど吸収され、短い光路長を有する拡散反射光のみが放射される。一方、検査対象物による吸収が弱い波長域(吸収ピーク)においては、長い光路長を有する拡散反射光についても一部は吸収されず放射される。したがって、拡散反射スペクトルにおけるピーク間の相対強度は、元来検査対象物が有する吸収ピーク間の相対強度よりも小さくなっているため、検査対象物の有する吸収ピークが明確とならない場合がある。そこで、上記のKM変換を行って算出したK/Sを用いて吸収ピークの形状を明確にすることにより、より検査対象物の特徴を明確にすることができるため、より高精度の品質評価を行うことができる。
【0047】
図3は、図2の拡散反射スペクトルについて上記の解析を行うことにより得られるKM吸光度スペクトルを示す図である。図3のKM吸光度スペクトルでは、図2の拡散反射スペクトルにおいてピークがほとんど確認できなかった食品についてもスペクトル形状をより詳細に確認することができる。
【0048】
本実施形態の食品検査装置1を用いた食品検査方法では、図2の拡散反射スペクトル及び図3のKM吸光度スペクトルのスペクトル形状を用いて、検査対象物の分析を行って品質の評価を行う。具体的には、あらかじめ検査対象物となる食品の標準見本となる拡散反射スペクトル(基準拡散反射スペクトル)を取得しておき、この拡散反射スペクトルからKM吸光度スペクトル(基準吸収スペクトル)を算出しておく。その後異物が混入している可能性のある検査対象物について拡散反射スペクトルを測定し、KM吸光度スペクトルを求めた後、これらを標準見本の拡散反射スペクトル及びKM吸光度スペクトルと比較することにより、当該検査対象物に異物が混入しているかを判定することができる。
【0049】
また、異物の標準見本をあらかじめ作成しておくことにより、食品に異物が混入している場合にその異物を同定することも可能である。混入が想定される異物としては、例えば、毛髪等の生体由来物、食品の加工工程に用いられる機材等に由来する金属等、食品の夾雑物等が考えられる。したがって、これらの物質についてあらかじめ拡散反射スペクトルの測定及びKM吸光度スペクトルの算出を行って標準見本としておけば、検査対象物の測定結果とこれらの標準見本とを比較することにより、検査対象物に含まれる異物の同定についても容易に行うことができる。
【0050】
なお、拡散反射スペクトルとKM吸光度スペクトルとは、拡散反射スペクトルにおける拡散反射率(R)の大小により使い分けることができる。例えば、拡散反射率(R)が0.1以上の場合、すなわち拡散反射スペクトルにおいて下向きのピーク(吸収ピーク)の強度が0.1より大きい場合は、拡散反射スペクトルにおいても吸収ピークのピーク波長及びその形状が十分に確認できることから、拡散反射スペクトルにおける評価を用いることができる。しかし、拡散反射率(R)が0.1より小さい場合は、検査対象物の食品のピークと異物のピークとが混同される可能性もあるため、KM吸光度スペクトルを算出して各ピークをより明確に区別した後に評価することにより、より精度の高い評価を行うことができる。
【0051】
本実施形態に係る食品検査方法では、上記で得られた拡散反射スペクトル及びKM吸光度スペクトルそれぞれの2階微分スペクトルを用いることにより、さらに詳細な分析を行うことができる。
【0052】
図4は、図2の拡散反射スペクトルを2階微分して得られる拡散反射2階微分スペクトルを示す図である。また、図5は、図3のKM吸光度スペクトルを2階微分して得られるKM吸光度2階微分スペクトルを示す図である。このように、2階微分を行うことにより、元のスペクトルのピークの正負が反転するものの、元のスペクトルのピークがより顕著に示される。したがって、拡散反射2階微分スペクトル及びKM吸光度2階微分スペクトルそれぞれにおけるピークの位置(ピーク波長)及びその強度を評価することにより、検査対象物に異物が混入しているかどうかをより精度よく判定することができる。
【0053】
上記の品質評価の判定の際には、拡散反射スペクトル及びKM吸光度スペクトルによる評価の際と同様に、標準見本を用いた比較が好適である。検査対象物となる食品や混入が想定され得る異物について拡散反射スペクトルを測定した際に、この結果からあらかじめ拡散反射2階微分スペクトル及びKM吸光度2階微分スペクトルにおけるピーク波長及びピーク強度を求めて標準見本を作成しておき、検査対象物50の測定結果(算出結果)と標準見本とを比較することにより、検査対象物50への異物の混入の有無及び異物の同定が可能となる。
【0054】
また、拡散反射2階微分スペクトル及びKM吸光度2階微分スペクトルを用いて品質を評価する際には、これらのスペクトルに含まれる複数のピークの強度の比率により、スペクトル中のピークの形状を評価することも有用である。例えば、検査対象物50から得られる拡散反射2階微分スペクトルまたはKM吸光度2階微分スペクトルにおいて波長1930nmのピーク強度に対する波長1421nmにおけるピーク強度の比率を算出し、この結果を標準見本と比較することによって、検査対象物50への異物の混入の有無を評価することもできる。
【0055】
なお、拡散反射スペクトル及びKM吸光度スペクトルから拡散反射2階微分スペクトル及びKM吸光度2階微分スペクトルを算出するとき、波長間隔を30nm以上とすることが好ましい。波長間隔を30nmより小さくすると、食品及び混入され得る異物によるピークではく、機器由来等の小さなピーク等が誤認識される可能性がある。波長間隔を30nm以上とすることで、これらのノイズを減らすことができ、より正確に検査対象物50由来のピークを認識することができる。
【0056】
このように、食品検査装置1の検出部20において測定される拡散反射スペクトルのほか、処理部40で算出されるKM吸光度スペクトルを用いることにより、検査対象物50への異物の混入の有無について精度よく評価することができる。
【0057】
次に、検査対象物50の異状の評価を本実施形態に係る食品検査装置1を用いて行った場合について説明する。食品からなる検査対象物50の異状を検出する方法として、食品中に含まれる水分や糖分を測定する方法がある。本実施形態に係る食品検査装置1によれば、検査対象物50に含まれる水分や糖分等の評価を行うこともできる。例えば、拡散反射スペクトルにおいて、食品中の水分は、波長1400nm付近及び波長1900nm付近に吸収ピークを有することが知られている。したがって、波長1400nm付近及び波長1900nm付近の吸収ピークのピーク強度から、検査対象物50の食品中の水分量を算出することができる。同様に、糖分は波長1500nm付近と波長2100nm付近に吸収ピークを有することが知られているので、これらの吸収ピークのピーク波長やピーク強度から、検査対象物50の食品中の糖分の種類や糖分量を求めることができる。上記の異状の評価方法を用いて、例えば、検査対象物となる食品の水分量や糖分量についてあらかじめ閾値を設けておき、検査対象物50の水分量や糖分量が閾値を外れた場合には不良(異状あり)として取り除く等の処置を行うことにより、より高い精度で品質の高い製品を生産することが可能となる。
【0058】
以上のように、本実施形態の食品検査装置1によれば、検査対象物50に近赤外光を照射することによって得られる拡散反射スペクトルと、拡散反射スペクトルを解析することより得られる吸収スペクトルと、を用いて検査対象物の品質を評価することにより、より高精度で品質評価を行うことができる。
【0059】
(第2実施形態)
本発明に係る食品検査装置の第2実施形態について説明する。図6は、本実施形態に係る食品検査装置2の構成を示す図である。食品検査装置2では、光源10が検査台30の下方から検査対象物50を照射している点が、第1実施形態に係る食品検査装置1と異なる点である。
【0060】
本実施形態に係る食品検査装置2において、光源10から検査対象物50向けて近赤外光L1が照射される。近赤外光L1は、検査台30を経て検査対象物50へ入射する。検査対象物50へ入射し、検査対象物50で拡散反射した近赤外光のうち、光路L5方向に進む光は、検出部20へ到達する。
【0061】
本実施形態に係る食品検査装置2においても、検出部20において光路L5を進み検出部20に到達した拡散反射光の拡散反射スペクトルを測定する。また、処理部40において拡散反射スペクトルから、KM吸光度スペクトル、拡散反射2階微分スペクトル及びKM吸光度2階微分スペクトルを算出し、この算出結果から検査対象物50の品質評価を行う。したがって、第1実施形態と同様に、拡散反射光の測定による食品の品質評価を精度よく行うことができる。
【0062】
以上、本発明における好適な実施形態を具体的に示したが、本発明はこれに限定されるものではなく、種々の変更が可能である。
【0063】
例えば、上記実施形態において、光源10が照射する近赤外光の波長範囲は適宜変更することができる。例えば、特定の異物の検出や、食品中の特定の成分の成分量の測定を目的として、光源10から照射する近赤外光の波長範囲を短くすることのほか、複数の波長範囲を選択して測定することもできる。なお、波長範囲を短くする場合は、吸収ピークを有すると考えられる波長の前後少なくとも100nmの範囲の近赤外光を照射することによって、より正確な測定を行うことができる。
【0064】
また、上記実施形態において得られる拡散反射スペクトルや吸収スペクトル(KM吸光度スペクトル)、拡散反射2階微分スペクトル及びKM吸光度2階微分スペクトルに、更に補正を行う処理を施してもよい。スペクトルの補正としては、例えばベースラインの補正手法としてMSC(Multiplicative Scatter Correction:乗法的散乱修正)を用いて、スペクトル中の加法的あるは乗法的な効果を補正することで、スペクトルに現れる検査対象物の表面状態の影響を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0065】
【図1】第1実施形態に係る食品検査装置1の構成を示す図である。
【図2】食品検査装置1の検出部20において測定される拡散反射スペクトルの一例を示す図である。
【図3】図2の拡散反射スペクトルを解析することにより得られるKM吸光度スペクトルを示す図である。
【図4】図2の拡散反射スペクトルを2階微分して得られる拡散反射2階微分スペクトルを示す図である。
【図5】図3のKM吸光度スペクトルを2階微分して得られるKM吸光度2階微分スペクトルを示す図である。
【図6】第2実施形態に係る食品検査装置2の構成を示す図である。
【符号の説明】
【0066】
1、2、3…食品検査装置、10…光源、20…検出部、30…検査台、40…処理部、50…検査対象物。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
食品からなる検査対象物に近赤外光を照射して得られる拡散反射光を測定し、その結果に基づいて検査対象物の品質を評価する食品検査方法であって、
光源から出力された近赤外光のうち、検査対象物により拡散反射した光の拡散反射スペクトルを検出部において測定する測定ステップと、
前記測定ステップにおいて測定された前記検査対象物の拡散反射スペクトルの形状と、当該拡散反射スペクトルを処理部において解析することにより得られる吸収スペクトルの形状と、に基づいて前記検査対象物の品質を評価する評価ステップと、
を有することを特徴とする食品検査方法。
【請求項2】
前記評価ステップにおいて、
前記拡散反射スペクトル、前記処理部において前記拡散反射スペクトルを2階微分することにより得られる前記拡散反射スペクトルの2階微分スペクトル、前記吸収スペクトル、及び前記吸収スペクトルを2階微分することにより得られる前記吸収スペクトルの2階微分スペクトルを用いて前記検査対象物を評価する
ことを特徴とする請求項1記載の食品検査方法。
【請求項3】
前記評価ステップにおいて、
前記拡散反射スペクトルを2階微分するときの波長間隔及び前記吸収スペクトルを2階微分するときの波長間隔がそれぞれ30nm以上であることを特徴とする請求項2記載の食品検査方法。
【請求項4】
前記評価ステップにおいて、
あらかじめ取得された前記検査対象物と同じ食品の基準拡散反射スペクトルの形状と、前記検査対象物の前記拡散反射スペクトルの形状と、を比較し、
前記検査対象物の前記拡散反射スペクトルにおいて前記基準拡散反射スペクトルとは異なるピークが検出された場合に、前記検査対象物に異物が含まれると判定することを特徴とする請求項1記載の食品検査方法。
【請求項5】
前記評価ステップにおいて、
あらかじめ取得された前記検査対象物と同じ食品の基準吸収スペクトルの形状と、前記検査対象物の前記吸収スペクトルの形状と、を比較し、
前記検査対象物の前記吸収スペクトルにおいて前記基準吸収スペクトルとは異なるピークが検出された場合に、前記検査対象物に異物が含まれると判定することを特徴とする請求項1記載の食品検査方法。
【請求項6】
前記評価ステップにおいて、
前記拡散反射スペクトルの2階微分スペクトル又は前記吸収スペクトルの2階微分スペクトルに含まれるピークのうち、複数のピークの高さの比を比較することを特徴とする請求項2記載の食品検査方法。
【請求項7】
前記評価ステップにおいて、
前記測定ステップにおいて測定された前記検査対象物の拡散反射スペクトルの形状と、当該拡散反射スペクトルを処理部において解析することにより得られる吸収スペクトルの形状と、に基づいて前記検査対象物に含まれる水分量を評価することを特徴とする請求項1記載の食品検査方法。
【請求項8】
前記評価ステップにおいて、
前記測定ステップにおいて測定された前記検査対象物の拡散反射スペクトルの形状と、当該拡散反射スペクトルを処理部において解析することにより得られる吸収スペクトルの形状と、に基づいて前記検査対象物に含まれる糖分量を評価することを特徴とする請求項1記載の食品検査方法。
【請求項9】
食品からなる検査対象物に近赤外光を照射して得られる拡散反射光を測定し、その結果に基づいて検査対象物の品質を評価する食品検査装置であって、
近赤外光を出力する光源と、
前記光源から出力された近赤外光のうち、検査対象物により拡散反射した光の拡散反射スペクトルを測定する検出部と、
前記検出部において測定された前記検査対象物の拡散反射スペクトルの形状と、当該拡散反射スペクトルを解析することにより得られる吸収スペクトルの形状と、に基づいて前記検査対象物の品質を評価する処理部と、
を有することを特徴とする食品検査装置。
【請求項10】
前記処理部において、
前記拡散反射スペクトルと、前記拡散反射スペクトルを2階微分することにより得られる前記拡散反射スペクトルの2階微分スペクトル、前記吸収スペクトル、及び前記吸収スペクトルを2階微分することにより得られる前記吸収スペクトルの2階微分スペクトルと、を用いて前記検査対象物の品質を評価する
ことを特徴とする請求項9記載の食品検査装置。
【請求項11】
前記処理部において、
前記拡散反射スペクトルを2階微分するときの波長間隔及び前記吸収スペクトルを2階微分するときの波長間隔がそれぞれ30nm以上であることを特徴とする請求項10記載の食品検査装置。
【請求項12】
前記処理部において、
あらかじめ取得された前記検査対象物と同じ食品の基準拡散反射スペクトルの形状と、前記検査対象物の前記拡散反射スペクトルの形状と、を比較し、
前記検査対象物の前記拡散反射スペクトルにおいて前記基準拡散反射スペクトルとは異なるピークが検出された場合に、前記検査対象物に異物が含まれると判定することを特徴とする請求項9記載の食品検査装置。
【請求項13】
前記処理部において、
あらかじめ取得された前記検査対象物と同じ食品の基準吸収スペクトルの形状と、前記検査対象物の前記吸収スペクトルの形状と、を比較し、
前記検査対象物の前記吸収スペクトルにおいて前記基準吸収スペクトルとは異なるピークが検出された場合に、前記検査対象物に異物が含まれると判定することを特徴とする請求項9記載の食品検査装置。
【請求項14】
前記処理部において、
前記拡散反射スペクトルの2階微分スペクトル又は前記吸収スペクトルの2階微分スペクトルに含まれるピークのうち、複数のピークの高さの比を比較することを特徴とする請求項10記載の食品検査装置。
【請求項15】
前記処理部において、
前記検出部において測定された前記検査対象物の拡散反射スペクトルの形状と、当該拡散反射スペクトルを解析することにより得られる吸収スペクトルの形状と、に基づいて前記検査対象物に含まれる水分量を評価することを特徴とする請求項9記載の食品検査装置。
【請求項16】
前記処理部において、
前記検出部において測定された前記検査対象物の拡散反射スペクトルの形状と、当該拡散反射スペクトルを解析することにより得られる吸収スペクトルの形状と、に基づいて前記検査対象物に含まれる糖分量を評価することを特徴とする請求項9記載の食品検査装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2009−168747(P2009−168747A)
【公開日】平成21年7月30日(2009.7.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−9554(P2008−9554)
【出願日】平成20年1月18日(2008.1.18)
【出願人】(000002130)住友電気工業株式会社 (12,747)
【Fターム(参考)】