説明

飲料の製造法及び装置

【課題】牛乳類、果汁などの飲料が、加熱処理前の生の風味のままのすぐれた風味を有する製造法及び装置を提供する。
【解決手段】飲料製造装置は、原飲料1を加熱殺菌して飲料20を製造する装置であって、原飲料1を減圧下、75℃〜90℃の温度で5〜7分間脱気するディアレータ4と、殺菌温度120〜130℃で1〜3秒間加熱殺菌する熱交換器の加熱装置2とを備える。減圧脱気ステップのディアレータ4の上流に、原飲料1を75℃〜90℃の温度で1〜6分間保持する保持装置3を有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、加熱殺菌処理にもかかわらず、加熱処理前の生の風味のままのすぐれた風味を有する飲料、特に牛乳、果汁の製造法及び装置に関する。
【背景技術】
【0002】
牛乳、果汁、清涼飲料等の液体食品を加熱(殺菌)処理しても、加熱処理前の生の風味のままの風味を残した飲料の製造方法及び装置に関しては、種々の従来技術がある。
【0003】
加熱処理する前に窒素ガス等の不活性ガスで置換して液中溶存酸素を5ppm以下に低下させて加熱処理する製造方法及び装置。(特許文献1、2参照)
インフュージョン方式の直接加熱殺菌法によって飲用牛乳を製造する方法及び装置。(特許文献3参照)
ディアレータータンク内の真空度を、牛乳類の処理温度が沸点温度に到達しないように制御し、牛乳類を好ましくは65℃以下の温度で減圧脱気して液中の溶存酸素濃度を3ppm以下にし、その後、加熱殺菌して容器に充填する牛乳類の製造方法。(特許文献4参照)
熱交換器で加熱する前に脱気された容器内で脱気することからなる牛乳処理システム、更に、加熱温度が120度から135度であること。(特許文献5参照)
加熱前に、脱気して溶存酸素濃度を1ppm以下に低減するステップを含む飲料を製造する方法。(特許文献6参照)
【特許文献1】特許第3083798号公報
【特許文献2】特許第3091752号公報
【特許文献3】特開2005−46140号公報
【特許文献4】特開2006−42814号公報
【特許文献5】ドイツ特許公開19955178号公報
【特許文献6】特開平06−141825号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1、2については、不活性ガスによる無菌タンクの酸素除去や酸素バリア性の容器の使用により、通常のチルド紙製容器牛乳に比べ、コストが非常に高いという問題がある。
【0005】
特許文献3については、インフュージョン方式の直接加熱殺菌法では、現在流通している130℃、2秒間相当の殺菌牛乳にくらべると、加熱臭が非常に強く、風味的に劣ってしまうという問題がある。
【0006】
特許文献4については、牛乳類を65℃以下の温度で減圧脱気しするので、風味劣化に効果があるか不明である。
【0007】
本発明の目的は、牛乳類、果汁などの飲料が、加熱処理前の生の風味のままのすぐれた風味を有する製造法及び装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
この発明の飲料の製造法は、原飲料を加熱殺菌して飲料を製造する方法であって、
原飲料を減圧下、75℃〜90℃の温度で5〜7分間脱気して溶存酸素濃度を2ppm以下に低減し、
殺菌温度120〜130℃で1〜3秒間加熱殺菌する、
ことを特徴とする。
【0009】
この発明の好ましい態様の飲料の製造法において、前記減圧脱気ステップ前に、原飲料を75℃〜90℃の温度で1〜6分間保持する。
【0010】
この発明の好ましい態様の飲料の製造法において、飲料が牛乳であり、前記減圧脱気ステップ後、前記加熱殺菌ステップ前に、該牛乳を均質化する。
【0011】
この発明の好ましい態様の飲料の製造法において、前記加熱殺菌ステップにおいて、前記殺菌温度より0.1〜4℃高い温度差の熱媒体を熱交換器の入口に送液する。
【0012】
この発明の飲料の製造装置において、原飲料を加熱殺菌して飲料を製造する装置であって、
原飲料を減圧下、75℃〜90℃の温度で5〜7分間脱気して溶存酸素濃度を2ppm以下に低減するディアレータと、
殺菌温度120〜130℃で1〜3秒間加熱殺菌する熱交換器の加熱装置と、
を備えることを特徴とする。
【0013】
この発明の好ましい態様の製造装置において、前記減圧脱気ステップのディアレータ前に、原飲料を75℃〜90℃の温度で1〜6分間保持する保持装置を有する。
【0014】
この発明の好ましい態様の製造装置において、飲料が牛乳であり、前記減圧脱気ステップのディアレータ後、前記加熱殺菌ステップの加熱装置前に、該牛乳を均質化する均質装置を有する。
【0015】
この発明の好ましい態様の製造装置において、前記加熱殺菌ステップの加熱装置において、前記殺菌温度より0.1〜4℃高い温度差の熱媒体を熱交換器の入口に送液する。
【発明の効果】
【0016】
上記構成を有するこの発明は、以下の様に作用機能し、効果を奏する。
この発明の飲料の製造法は、原飲料を加熱殺菌して飲料を製造する。
この発明において、飲料とは、加熱殺菌を必要とする牛乳類、果汁などの飲料である。また、ここで、牛乳類とは、乳等省令に定めるところの牛乳、成分調整牛乳、低脂肪牛乳、無脂肪牛乳、加工乳、乳飲料、発酵乳、乳酸菌飲料、殺菌乳酸菌飲料等を指す。
原飲料は、加熱殺菌されるべき飲料をいう。
【0017】
この発明の製造工程において、ディアレータ(真空脱気装置)によって、原飲料を減圧下、75℃〜90℃の温度で5〜7分間脱気する。
減圧下で75℃〜90℃の温度に、好ましくは80℃〜87℃の温度に加熱するので、原飲料は沸騰し、効果的に迅速に液中の溶存酸素濃度が2ppm以下に低下し、風味が劣化することもない。従って、牛乳類、果汁などの飲料が、加熱処理前の生の風味のままのすぐれた風味を残すことができる。
加熱温度を65℃以下に設定すると、原飲料が沸騰することもなく、効果的に迅速に溶存酸素のレベルを低下させることもない。
【0018】
この発明の製造工程において、熱交換器の加熱装置によって、殺菌温度120〜130℃で1〜3秒間加熱殺菌する。
この殺菌条件は,飲料が牛乳類であれば、食品衛生法による牛乳類の殺菌に関する規定を満たす条件であり、超高温短時間殺菌法(UHT法)による加熱殺菌を行う。このUHT法の加熱殺菌条件の好ましい範囲は,120〜140℃で1〜4秒間、好ましくは、120〜130℃で1〜3秒間である。
加熱殺菌温度が140℃よりも高いか,加熱殺菌時間が4秒間よりも長いと,加熱臭やコゲ臭が強くなり,風味が劣ってしまう。
【0019】
この発明の好ましい態様の飲料の製造において、タンクやコイルの保持装置によって、減圧脱気ステップ前に、原飲料を75℃〜90℃の温度で1〜6分間保持する。
この態様の保持によって、減圧脱気ステップをスムーズに迅速に行うことができる。
【0020】
この発明の好ましい態様の飲料の製造において、飲料が牛乳であり、均質装置によって、減圧脱気ステップ後、加熱殺菌ステップ前に、牛乳を均質化する。
この均質装置において、乳を極小の穴に強力に通過させ、脂肪球を小さな粒子に分散させることにより脂肪が表面に上昇することなく均等に液中に撹拌する。
【0021】
この発明の好ましい態様の飲料の製造において、加熱殺菌ステップ(加熱殺菌装置)において、この加熱殺菌温度より0.1〜4℃高い温度差の熱媒体を熱交換器の入口に送液する。
この発明の加熱殺菌処理では、熱媒体と飲料との温度差が小さいので、生の風味のままのすぐれた風味を残すことができる。
【0022】
加熱殺菌方法は、間接加熱殺菌法及び直接加熱殺菌法がある。間接加熱殺菌法としては、プレート式熱交換方式、チューブラ式熱交換方式、かきとり式熱交換方式等、直接加熱殺菌法としては、スチームインジェクション方式やスチームインフュージョン方式等がある。
この発明の好ましい態様において、間接加熱殺菌法であって、熱媒体(熱水又はスチームなど)と飲料との温度差は、熱交換器に応じて異なる。例えば、プレート式熱交換方式では、加熱殺菌温度よりも、多くとも2℃高い、好ましくは多くとも1℃高い、温度差の熱媒体を熱交換器の入口に送液する。
また、チューブラ式熱交換方式では、加熱殺菌温度よりも、多くとも4℃高い、好ましくは多くとも3℃高い、温度差の熱媒体を熱交換器の入口に送液する。
上述の熱交換器に応じた加熱殺菌処理によって、加熱臭やコゲ臭がなく、生の風味のままの、よりすぐれた風味を残すことができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0023】
以下、本発明の実施の形態について図面を参照しながら詳細に説明する。
図1は、本発明による実施例の飲料製造装置のフロー図である。
【0024】
図1に示す実施例の飲料製造装置は、原飲料1を加熱殺菌して飲料20を製造する装置であって、原飲料1を減圧下、75℃〜90℃の温度で5〜7分間脱気するディアレータ4と、殺菌温度120〜130℃で1〜3秒間加熱殺菌する熱交換器の加熱装置2とを備える。
減圧脱気ステップのディアレータ4の上流に、原飲料1を75℃〜90℃の温度で1〜6分間保持する保持装置3を有する。
飲料が牛乳であり、減圧脱気ステップのディアレータ4の下流に、加熱殺菌ステップの加熱装置の上流に、牛乳を均質化する均質装置5を有する。
加熱殺菌ステップの加熱装置2において、殺菌温度より0.1〜4℃高い温度差の熱媒体を熱交換器の入口に送液する。
【0025】
牛乳類を流路8を介して、加熱装置2に送液し、80℃まで加温処理する。加熱装置2は、プレート式熱交換器である。加温された牛乳類を流路9でチューブ又はタンクの保持装置3に送液する。保持装置3において、80℃で所定時間保持される。
【0026】
保持装置3内の牛乳類を、流路10を介してディアレータ4に供給して真空ポンプによって減圧させ、真空度を調整し、脱気処理する。脱気処理では、80℃の温度で4分間脱気する。牛乳類は真空状態で沸騰して効果的に効率的に液中から酸素が除去される。
【0027】
実施例の装置において、減圧脱気ステップのディアレータ4から飲料の牛乳類を流路11を介して均質装置5に送液する。牛乳を均質化し、乳の脂肪球を小さな粒子に分散させることにより脂肪が表面に上昇することなく均等に液中に撹拌する。
【0028】
均質化した牛乳を、流路12を介して、プレート式熱交換器の加熱装置2に送液する。プレート式熱交換器2によって、殺菌温度125℃で2秒間加熱殺菌する。加熱殺菌中に、一旦、加熱装置2から流路13を介して、チューブの保持装置6に送液し、更に流路14を介して熱交換器の加熱装置2に戻して加熱殺菌する。
【0029】
プレート式熱交換器の加熱装置2の熱媒体の熱水は、熱源のスチームから熱エネルギーを熱交換器7で得て、流路17を介して熱交換器の加熱装置2の入口に導入される。熱交換後に加熱装置2の出口から流路16を介して熱の再補給のために熱交換器7に戻る。
このプレート式熱交換方式では、加熱殺菌温度よりも、1℃高い、温度差の熱媒体を熱交換器の入口に送液する。
【0030】
殺菌処理を行った後、牛乳を5℃以下に冷却し、殺菌したタンク(バッファータンク)に貯液する。そして、タンクに貯液した牛乳を、充填装置によって容量1Lの白無地のゲーブルトップ紙製容器に充填する。紙容器にはポリエチレン−紙−ポリエチレンの3層構造の乳用のものを使用する。
【0031】
比較例1として、脱気工程を省略した以外は上記と同じ条件で殺菌処理を行った牛乳をゲーブルトップ紙製容器に充填する。
比較例2として、減圧脱気ステップで脱気温度を65℃以下にし、沸騰させないこと以外は、上記と同じ条件で殺菌処理を行った牛乳をゲーブルトップ紙製容器に充填する。
【0032】
実施例1及び比較例1、2で得られた各牛乳について、官能評価を行う。官能評価は、パネラーにより、総合的な好ましさ、口当たり良し悪し、口中香良し悪し、のどごし良し悪し、甘味の強さ、フレッシュ感有無、濃厚感有無、後味良し悪しについて評価した。
評価の結果、本発明の実施例1の牛乳は、比較例1の牛乳に比べて「総合的な好ましさ」、「口当たりの良し悪し」、「口中香良し悪し」及び「後味良し悪し」について、風味が良好である。その他の点においても、本発明の実施例1の牛乳は、比較例1、2の牛乳に比べて風味が良好である。
【0033】
なお、本発明は該実施の形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨に基づいて種々変形させることが可能であり、それらを本発明の範囲から排除するものではない。
【産業上の利用可能性】
【0034】
この発明は、牛乳類、果汁などの飲料の製造に適用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0035】
【図1】本発明による実施例の飲料製造装置のフロー図である
【符号の説明】
【0036】
1 ・・・原飲料
2 ・・・加熱装置
3 ・・・保持装置
4 ・・・ディアレータ
5 ・・・均質装置
20 ・・・飲料

【特許請求の範囲】
【請求項1】
原飲料を加熱殺菌して飲料を製造する方法であって、
原飲料を減圧下、75℃〜90℃の温度で5〜7分間脱気して溶存酸素濃度を2ppm以下に低減し、
殺菌温度120〜130℃で1〜3秒間加熱殺菌する、
ことを特徴とする飲料の製造法。
【請求項2】
前記減圧脱気ステップ前に、原飲料を75℃〜90℃の温度で1〜6分間保持する、請求項1記載の飲料の製造法。
【請求項3】
飲料が牛乳であり、前記減圧脱気ステップ後、前記加熱殺菌ステップ前に、該牛乳を均質化する、請求項1記載の飲料の製造法。
【請求項4】
前記加熱殺菌ステップにおいて、前記殺菌温度より0.1〜4℃高い温度差の熱媒体を熱交換器の入口に送液する、請求項1記載の飲料の製造法。
【請求項5】
原飲料を加熱殺菌して飲料を製造する装置であって、
原飲料を減圧下、75℃〜90℃の温度で5〜7分間脱気して溶存酸素濃度を2ppm以下に低減するディアレータと、
殺菌温度120〜130℃で1〜3秒間加熱殺菌する熱交換器の加熱装置と、
を備えることを特徴とする飲料の製造装置。
【請求項6】
前記減圧脱気ステップのディアレータ前に、原飲料を75℃〜90℃の温度で1〜6分間保持する保持装置を有する、請求項5記載の飲料の製造装置。
【請求項7】
飲料が牛乳であり、前記減圧脱気ステップのディアレータ後、前記加熱殺菌ステップの加熱装置前に、該牛乳を均質化する均質装置を有する、請求項5記載の飲料の製造装置。
【請求項8】
前記加熱殺菌ステップの加熱装置において、前記殺菌温度より0.1〜4℃高い温度差の熱媒体を熱交換器の入口に送液する、請求項5記載の飲料の製造装置。

【図1】
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【公開番号】特開2009−17864(P2009−17864A)
【公開日】平成21年1月29日(2009.1.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−185121(P2007−185121)
【出願日】平成19年7月16日(2007.7.16)
【出願人】(000229232)日本テトラパック株式会社 (259)
【Fターム(参考)】