説明

飲酒検知装置

【課題】
運転者の乗車後に速やかに飲酒検査を行うことができる飲酒検知装置を提供する。
【解決手段】
飲酒検知装置1は、自動車に搭載され、アルコールセンサ11を有する飲酒検知装置である。飲酒検知装置1は、アルコールセンサ11によるヒートクリーニングを行うヒータ11aと、当該ヒートクリーニング処理を制御する脱ガス処理制御部51とを備え、車両への運転者の乗車前に、ヒートクリーニングを行うことを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両用の飲酒検知装置に関するものであり、特に、自動車の運転者の飲酒の有無を検知することに利用される飲酒検知装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来から飲酒運転が社会的に非常に問題となっており、ドライバーの飲酒の有無を判定するための装置が提案されている。このような分野の技術として、例えば、下記特許文献1に記載のアルコール検知装置が知られている。この装置は、車両の運転者が吹き込んだ呼気を導入し、アルコールセンサによって被験者の呼気のアルコール濃度を検知することで、運転者の飲酒検査を行うものである。この装置では、運転者が乗車し車両のスタートスイッチが起動されると、アルコールセンサがヒータで加熱(ヒートクリーニング)されてノイズが抑えられた適正な状態となり、アルコール濃度検知可能な状態とされる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平9−292354号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、この種のアルコール検知装置では、運転者が乗車してから飲酒検査を行うまで、ヒートクリーニングの時間分だけ運転者の待ち時間が発生する。このような待ち時間が発生すると、乗車後に直ぐに車両を発進できないので、車両の利便性を低下させてしまう。また、飲酒検査による待ち時間中はエンジンの始動ができないので、例えばエンジンに連動する空調装置も待ち時間中には起動できず、特に、夏季や冬季においては、運転者に不快感を与えることになる。このような運転者の不利益を低減すべく、アルコール検知装置においては、運転者の乗車後に速やかに飲酒検査が行われることが望まれる。
【0005】
本発明は、運転者の乗車後に速やかに飲酒検査を行うことができる飲酒検知装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の飲酒検知装置は、車両に搭載され、アルコールセンサを有する飲酒検知装置であって、車両への運転者の乗車前であると判断された時に、アルコールセンサの加熱によるヒートクリーニングを行うことを特徴とする。
【0007】
この種の飲酒検知装置では、アルコール濃度の検知を行う前にアルコールセンサを安定させるべく、アルコールセンサを加熱しヒートクリーニングすることが好ましい。ここで、車両への運転者の乗車後にこのヒートクリーニングを行うこととすれば、運転者には、ヒートクリーニング時間分の待ち時間を強いることになる。これに対し、本発明の飲酒検知装置では、運転者の乗車前であると判断された時にヒートクリーニングを行うので、運転者の乗車時には既にアルコールセンサが適正な状態であり、速やかに飲酒検査を行うことができる。
【0008】
また、本発明の飲酒検知装置は、車両がイグニッションオフの状態の場合に、車両への運転者の乗車前であると判断することとしてもよい。通常、運転者が車両を離れる場合には、車両をイグニッションオフの状態とすることが一般的である。従って、車両がイグニッションオフの状態の場合をもって、車両への運転者の乗車前であると判断することができる。
【0009】
本発明の飲酒検知装置は、車両に搭載され、アルコールセンサを有する飲酒検知装置であって、アルコールセンサの加熱によって当該アルコールセンサのヒートクリーニングを行うヒートクリーニング手段と、車両がイグニッションオフの状態の場合に、ヒートクリーニング手段にヒートクリーニングを実行させるヒートクリーニング制御手段と、を備えたことを特徴とする。
【0010】
この飲酒検知装置では、車両のイグニッションオフの状態で運転者が車両から離れた場合、イグニッションオフの状態の間にヒートクリーニングが行われる。従って、その後運転者が乗車した時には、ヒートクリーニング済みであるので、既にアルコールセンサが適正な状態であり、速やかに飲酒検査を行うことができる。
【0011】
また、ヒートクリーニング制御手段は、上記ヒートクリーニングを、所定の実行周期で定期的に実行させることが好ましい。
【0012】
この種の飲酒検知装置では、ヒートクリーニングから時間が経つほどに、アルコールセンサのヒートクリーニングの効果が薄れて行く。これに対し、このヒートクリーニング制御手段の構成によれば、車両のイグニッションオフの状態のときに定期的にヒートクリーニングが実行されるので、その後運転者が乗車した時においては、最後のヒートクリーニングからの経過時間を比較的短くすることができる。従って、アルコールセンサがより適正な状態で速やかに飲酒検査を行うことができる。
【0013】
また、ヒートクリーニング制御手段は、上記実行周期を可変的に設定する周期設定手段を有することとしてもよい。この構成によれば、車両のイグニッションオフの状態のときに行うヒートクリーニングの頻度を、状況に応じて可変にすることができる。
【0014】
また、本発明の飲酒検知装置は、時間帯ごとの車両の使用頻度を記憶する使用頻度記憶部を更に備え、周期設定手段は、使用頻度記憶部を参照し、現在時刻に対応する使用頻度に基づいて実行周期を決定することとしてもよい。
【0015】
この構成によれば、イグニッションオフの状態の時に行うヒートクリーニングの頻度を、時間帯ごとに車両の使用頻度に応じ、運転者が車両に乗車してくる可能性に応じて変化させることができる。従って、運転者が乗車した際における最後のヒートクリーニングからの経過時間を、確率論的に平均して、短くすることができる。
【0016】
また、本発明の飲酒検知装置は、車両と車両の運転者との距離を検知する位置関係検知手段を更に備え、周期設定手段は、位置関係検知手段で得られた距離に基づいて実行周期を決定することとしてもよい。
【0017】
この構成によれば、イグニッションオフの状態の時に行うヒートクリーニングの頻度を、車両と運転者との距離に応じ、運転者が車両に乗車してくる可能性に応じて変化させることができる。従って、運転者が乗車した際における最後のヒートクリーニングからの経過時間を、確率論的に平均して、短くすることができる。
【発明の効果】
【0018】
本発明の飲酒検知装置によれば、運転者の乗車後に速やかに飲酒検査を行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】本発明の飲酒検知装置が搭載される自動車のシステム構成を示す図である。
【図2】本発明の飲酒検知装置の外観を示す斜視図である。
【図3】図2の飲酒検知装置のシステム構成を示すブロック図である。
【図4】ヒートクリーニングの実行周期を変更する処理を示すフローチャートである。
【図5】(a)は、ヒートクリーニングにおけるヒータへの脱ガス電圧印加のタイミングを示す図であり、(b)は、実行周期変更が行われた場合のヒートクリーニングにおけるヒータへの脱ガス電圧印加のタイミングを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、図面を参照しつつ本発明に係る飲酒検知装置の好適な実施形態について詳細に説明する。
【0021】
図1に示すように、飲酒検知装置1は、自動車Cの運転席に設置され、運転者の呼気を導入して当該呼気のアルコール濃度を検知し、運転者の飲酒の有無を検知するために用いられる。以下、このように運転者の飲酒の有無を検知する検査を「飲酒検査」と称する場合がある。このような飲酒検査の結果、運転者が飲酒状態でないことが示された場合にのみ、自動車Cのエンジンは始動可能となる。
【0022】
図2及び図3に示すように、飲酒検知装置1は、筐体内に画成され被験者の呼気が導入されるセンサ室3を備えている。センサ室3内には、アルコールセンサ11、酸素センサ13、妨害ガスセンサ15、及び湿度センサ17といったセンサ類が設けられている。更に飲酒検知装置1は、上記センサ類からの信号を受けて情報処理を行うECU(Electronic Control Unit)5を備えている。ECU5は、飲酒検知装置1全体の制御を行う電子制御ユニットであり、物理的には、例えばCPUを主体として構成され、ROM、RAM、入力信号回路、出力信号回路、電源回路などを備えている。
【0023】
センサ室3には、被験者側に開口された吹込口7が設けられている。被験者が、吹込口7に口を接触させずに吹込口7に向けて呼気を吹きかけることで、センサ室3内に被験者の呼気が導入される。吹込口7の奥側には、被験者からの呼気をセンサ室3側に吸引する吸引ファン9が取り付けられている。この吸引ファン9は、センサ室3外の気体を吸引し吹込口7を通じてセンサ室3内に導入させるものであり、この吸引ファン9の回転を調整することで、センサ室3に導入される呼気の導入流量を調整することができる。また、吸引ファン9の回転によって、送り込まれた呼気をセンサ室3内で攪拌することができる。
【0024】
吸引ファン9は、ファン制御回路(図示せず)を介してECU5に接続されており、ECU5はファン制御回路に制御信号を送信することによって吸引ファン9の回転数を制御する。例えば、吸引ファン9の回転数を大きくすることで、呼気の吸引力及び吸引流量を増加させ、呼気の導入流量を増加させることができ、また、吸引ファン9の回転数を小さくすることで、呼気の吸引力及び吸引流量を低下させ、呼気の導入流量を低下させることができる。なお、センサ室3において吹込口7の反対側は開放されている。
【0025】
アルコールセンサ11は、センサ室3内に導入された呼気のアルコール濃度を検知し、濃度情報を電気信号としてECU5に送出する。このようなアルコールセンサ11としては、半導体式アルコールセンサが用いられる。半導体式アルコールセンサは、半導体の中にもともと流れている電子の量が、呼気中のアルコールにより吸収され、変化する特性を利用する。この原理の半導体式アルコールセンサでは、半導体内の電子の量が変化することにより、センサ内の電気抵抗も変化するため、その電気抵抗の強さから被測定者の呼気中アルコール濃度を推定することができる。また、他のタイプのアルコールセンサ11として、燃料電池を用いたもの、赤外線を用いたものを適用することもできる。
【0026】
酸素センサ13はセンサ室3内の呼気の酸素濃度を検知し、湿度センサ17はセンサ室3内の呼気の湿度を検知する。ECU5では、呼気が導入されたときの酸素濃度の変化、及び湿度の変化から、呼気の導入流量が求められる。
【0027】
また、アルコールセンサ11は、被験者の呼気に含まれるアルコールを検出するばかりでなく、被験者の口臭に含まれる特定のガス成分(「妨害ガス」という)も合わせて検出してしまう。そこで、この飲酒検知装置1は、この妨害ガスの濃度を検知する妨害ガスセンサ15を備えている。この構成により、ECU5では、妨害ガスセンサ15からの信号を用いて、アルコールセンサ11で検出されたガス濃度から被験者の飲酒に起因しない妨害ガスの影響を事後的に除去することができる。
【0028】
また、飲酒検知装置1は、更に、吹込口7の近傍に設けられた吹き込み量センサ21を備えている。吹き込み量センサ21は、被験者が吹込口7に向けて吹きかけた呼気のうち実際に吹込口7に吹き込まれた呼気の量(以下、単に「吹き込み量」という場合がある)を検知し、電気信号としてECU5に送信する機能を有している。なお、吹き込み量センサ21は、吹込口7における呼気の吹き込み流量を検知することもできる。吹き込み量センサ21としては、例えば、呼気の吹きかけによる温度上昇によって吹き込み量を検知可能とする温度センサ、呼気の吹きかけによる圧力上昇によって吹き込み量を検知可能とする圧力センサ、又は、呼気の流量を検出して吹き込み量を検知可能とする流量センサ等を採用することができる。このような吹き込み量センサ21の存在により、呼気の吹き込み量が検知され、より正確に呼気中のアルコール濃度を得ることができる。
【0029】
この飲酒検知装置1の半導体式のアルコールセンサ11では、呼気の吹き込み直後にはセンサ表面の不純物ガスが大量に舞い上がり、この不純物ガスによるノイズが最初に出力される。従って、呼気中のアルコールの正確な検出には、上記ノイズが消失する時間が必要であり、飲酒検査に要する時間が長くなってしまう。不純物ガスの量によっては、例えば、飲酒検査時間が数分間に及ぶ場合も考えられ、この場合、車両用飲酒検知装置としての実用性に問題がある。そこで、このようなノイズ消失時間を実用的な時間まで短くすべく、飲酒検知装置1では、呼気の吹き込みの前にアルコールセンサ11を加熱処理するヒートクリーニング(「脱ガス処理」とも言う)を行い、センサ表面の不純物ガスを除去することにしている。
【0030】
ヒートクリーニングにより加熱処理された直後のアルコールセンサ11は、不純物ガスが除去され、ノイズの消失時間も短くなり、実用的な時間での飲酒検査を可能にする。このようなヒートクリーニング直後のアルコールセンサ11の状態を、以下「適正状態」と呼ぶ場合がある。また、まったく同様の理由により、妨害ガスセンサ15にも同様のヒートクリーニングが必要である。
【0031】
そして、上記ヒートクリーニング自体にもある程度の時間がかかるので、運転者が車両Cに乗車した後に、ヒートクリーニングを行い、その後に飲酒検査を行うとすれば、乗車からエンジン始動までの運転者の待ち時間を長くしてしまう。従って、このヒートクリーニングは、運転者の乗車前に済ませておき、運転者の乗車時には、既にアルコールセンサ11及び妨害ガスセンサ15が適正状態であることが理想的である。また、アルコールセンサ11及び妨害ガスセンサ15は、ヒートクリーニングからの経過時間に伴って、ヒートクリーニングによる適正化効果が薄れていき、徐々にノイズ消失時間が長くなってしまう。従って、この飲酒検知装置1においては、ヒートクリーニングから飲酒検査までの経過時間は、できるだけ短いことが好ましい。
【0032】
そこで、この飲酒検知装置1は、以下に説明する構成に基づき、後述のヒートクリーニング処理を行うこととしている。
【0033】
上記ヒートクリーニングを実行するため、図3に示すように、アルコールセンサ11にはヒータ11aが内蔵されており、妨害ガスセンサ15にはヒータ15aが内蔵されている。ヒータ(ヒートクリーニング手段)11a,15aは、ECU5で制御される電圧印加により、それぞれアルコールセンサ11、妨害ガスセンサ15を加熱する。なお、アルコールセンサ11が加熱されているときには、妨害ガスセンサ15も同時に加熱されているものとする。
【0034】
更に、図1にも示すように、この自動車Cは、イグニッションスイッチ31と、GPS衛星からの電波を利用して自車両の現在位置を取得するGPS装置33と、運転者が保持する電子キー(「スマートキー」等とも呼ばれる)35aの電波を受信しドア解錠等の処理を行う電子キーシステム35と、を備えている。これらのイグニッションスイッチ31、GPS装置33、電子キーシステム35は、例えば、車内ネットワークとして構築されたCAN(図示せず)を通じて、ECU5との間で互いに電気信号による情報の授受が可能である。
【0035】
また、図3に示すように、ECU5は、脱ガス処理制御部(ヒートクリーニング制御手段)51と、脱ガス処理周期判定部(周期設定手段)53と、運転者距離判定部(位置関係検知手段)55と、運転行動データベース使用頻度記憶部)57と、を備えている。なお、以上のECU5の構成要素51〜57は、ECU5において、CPU、ROM、RAM、入力信号回路、出力信号回路、電源回路等の物理的な構成部分が、予め定められたプログラムに従って協働して動作することにより、ソフトウエア的に実現される構成要素である。
【0036】
運転者距離判定部55は、電子キーシステム35における電子キー35aの電波の受信状態に基づいて、運転者と自動車Cとの距離を判定する。具体的には、電子キーシステム35が電子キー35aからの電波を受信している場合には、電子キー35aを保持する運転者が電子キー35aの電波の受信範囲内にいると考えられるので、この場合、運転者距離判定部55は、運転者と自動車Cとの距離が所定値(電波の受信可能距離)以下であると判定する。一方、電子キーシステム35が電子キー35aからの電波を受信していない場合には、運転者距離判定部55は、運転者と自動車Cとの距離が所定値よりも大きいと判定する。
【0037】
なお、運転者距離判定部55は、盗難警報機のリモコンの電波の受信状態に基づいて、運転者と自動車Cとの距離を判定してもよい。この場合、自動車Cに搭載された盗難警報機(図示せず)が、リモコン装置の電波を受信している場合には、当該リモコン装置を保持する運転者がリモコン装置の電波の受信範囲内にいると考えられるので、この場合、運転者距離判定部55は、運転者と自動車Cとの距離が所定値以下であると判定する。一方、盗難警報機がリモコン装置からの電波を受信していない場合には、運転者距離判定部55は、運転者と自動車Cとの距離が所定値よりも大きいと判定する。また、運転者距離判定部55は、運転者が保持するGPSセンサと通信を行って運転者の現在地を特定し、GPS装置33で得られる自車の現在地と比較することで、運転者と自動車Cとの距離を判定してもよい。運転者が保持するGPSセンサとしては、例えば、携帯電話を利用することもできる。
【0038】
運転行動データベース57には、自動車Cの時間帯ごとの使用頻度を示す使用頻度情報が保存されている。例えば、「自動車Cの使用頻度が高い時間帯は、通勤時間帯である午前7〜8時、帰宅時間帯である午後18〜19時であり、それ以外の時間帯は自動車Cの使用頻度が低い」といった情報が保存される。また、運転行動データベース57には、自動車Cの運転者における通常の帰宅の際の帰宅ルートの情報が記憶されている。このような使用頻度情報、及び帰宅ルートの情報は、運転者が予め運転行動データベース57に入力してもよく、自動車Cの使用時に自動的に蓄積されるようにしてもよい。
【0039】
続いて、脱ガス処理制御部51によるヒートクリーニングの制御について説明する。
【0040】
通常、運転者が自動車Cを離れる場合には、イグニッションスイッチ31の操作により、自動車Cを「イグニッションオフ」の状態とすることが一般的である。そこで、この飲酒検知装置1では、車両がイグニッションオフの状態の場合をもって、運転者は未だ乗車しておらず車両への運転者の乗車前であると判断し、予めヒートクリーニングを実行するものとする。なお、自動車Cの「イグニッションオフ」の状態では、イグニッションスイッチ31がOFFのポジションにあり、アルコールセンサ11の電源は投入されていない状態であり、エンジンは停止している。
【0041】
すなわち、脱ガス処理制御部51は、イグニッションスイッチ31からの電気信号が「イグニッションオフ」を示す場合、図5(a)に示すように、所定の実行周期で定期的にヒータ11a,15aに電圧印加することで、アルコールセンサ11と妨害ガスセンサ15との定期的なヒートクリーニングを実行する。ここでは、上記の実行周期は、10分に設定される。なお、アルコールセンサ11として採用された半導体式センサにおいては、頻繁にヒートクリーニングを行うことは暗電流低減の観点から好ましくなく、通常、上記実行周期は10分程度が適切である。
【0042】
このような脱ガス処理制御部51の処理によれば、運転者が自動車Cを離れている間に、ヒートクリーニングが定期的に繰り返されることになる。従って、再び運転者が自動車Cに乗車した時には、既にヒートクリーニングの実行後であり、アルコールセンサ11及び妨害ガスセンサ15は適正状態に比較的近い。従って、運転者の乗車後に改めてヒートクリーニングを行う必要がなく、乗車後に速やかに飲酒検査を行うことができる。また、ヒートクリーニングを定期的に行うので、乗車時において最後のヒートクリーニングからの経過時間を比較的短くすることができる。従って、乗車時におけるアルコールセンサ11及び妨害ガスセンサ15は比較的適正な状態であり、乗車後に速やかに飲酒検査を行うことができる。
【0043】
また、この場合のヒートクリーニングの実行周期は、脱ガス処理周期判定部53により決定され、また適宜変更も行われる。前述のように、通常時には、実行周期は10分とされる。ところが、自動車Cに運転者が乗車してくる可能性が高い場合には、乗車時において最後のヒートクリーニングからの経過時間をできるだけ短くすべく、上記実行周期を更に短くすることが好ましい。以下、運転者が乗車してくる可能性に応じて実行周期を変更するために、ECU5が行う処理について説明する。
【0044】
図4に示すように、脱ガス処理周期判定部53は、イグニッションスイッチ31からの信号に基づいて、自動車Cがイグニッションオフの状態であるか否かを判定する(S101)。ここで、イグニッションオフの状態でないと判定された場合には、処理を行わず終了する。一方、イグニッションオフの状態であると判定された場合には、脱ガス処理周期判定部53は、運転者距離判定部55による判定を参照し、運転者と自動車Cとの距離が所定値以下であるか否かを認識する(S103)。続いて、脱ガス処理周期判定部53は、運転行動データベース57を参照し、現在時刻における自動車Cの使用頻度を認識する(S105)。この現在時刻を知るために、EUC5は、例えば時計機能を備えてもよい。更に、脱ガス処理周期判定部53は、運転行動データベース57に保存された帰宅ルートと、GPS装置33から得られる自動車Cの現在位置とを比較し、現在、自動車Cが帰宅ルート上にあるか帰宅ルート上以外の場所にあるかを判定する(S107)。
【0045】
続いて、脱ガス処理周期判定部53は、「条件1:運転者と自動車Cとの距離が所定値以下である」か(S109)、「条件2:現在時刻における自動車Cの使用頻度が所定値以上である」か(S111)、「条件3:自動車Cが帰宅ルート上以外の場所にある」か(S113)、のうち何れかの条件が満足される場合には、ヒートクリーニングの実行周期を「10分」から「2分」に変更する(S119)。この変更以降は、図5(b)に示すように、脱ガス処理制御部51によるヒートクリーニングが2分間隔で行われることになる。一方、上記条件が何れも満足されない場合には、処理を行わず終了する。
【0046】
上記の条件1が満足される場合とは、運転者は自動車Cに比較的近い位置にいるので、その場合、運転者が自動車Cに乗車してくる可能性が高いと考えることができる。また条件2が満足される場合とは、現在時刻が、例えば通勤時間帯又は帰宅時間帯であり、自動車Cの使用頻度が高い時間帯である。従って、この場合も、運転者が自動車Cに乗車してくる可能性が高いと考えることができる。上記の脱ガス処理周期判定部53の処理によれば、運転者が自動車Cに乗車してくる可能性が高い場合に対応して、ヒートクリーニングの実行周期を2分と短く変更することとしているので、確率論的に平均すれば、乗車時における最後のヒートクリーニングからの経過時間を短くすることができる。従って、適正状態に近い状態のアルコールセンサ11及び妨害ガスセンサ15により、素早い飲酒検査が可能になる。
【0047】
その一方、運転者が自動車Cに乗車してくる可能性が高くない場合には、ヒートクリーニングの実行周期を10分のままとし、不必要に頻繁なヒートクリーニングを避けることで、アルコールセンサ11における暗電流の不要な増加を避けることができる。以上のように、この飲酒検知装置1によれば、運転者が自動車Cに乗車してくる可能性に応じて、アルコールセンサ11のヒートクリーニングの間隔を最適化することができる。
【0048】
また、上記の条件3が満足される場合とは、運転者が帰宅途中に自動車Cで他の場所に立ち寄りし、飲酒している可能性が高いと考えられる。この場合、運転者が飲酒状態で乗車してくる可能性が高く、飲酒検査の必要性が特に高いと考えることができる。上記の脱ガス処理周期判定部53の処理によれば、運転者の乗車後における飲酒検査の必要性が高い場合に対応して、ヒートクリーニングの実行周期を短く変更することとしているので、飲酒検査が必要になる場合における最後のヒートクリーニングからの経過時間を、確率論的に平均して、短くすることができる。
【0049】
本発明は、前述した実施形態に限定されるものではない。例えば、飲酒検知装置1においては、妨害ガスセンサ15は省略してもよく、当該妨害ガスセンサ15のヒートクリーニングも必須ではない。また、上記処理S109における条件1〜3については、3条件のうちの1つのみを実行周期変更の判断基準として採用してもよく、3条件のうちの2つを組み合わせて採用してもよい。また、実施形態では、ヒートクリーニングの実行周期を「10分」と「2分」との2段階に可変としているが、実行周期は3段階以上に可変としてもよい。また、運転者と自動車Cとの接近速度に基づいて実行周期を変化させてもよい。この場合の接近速度は、運転者が保持するGPSセンサと連続的に通信を行って、運転者の移動速度を検知することにより取得することができる。また、運転行動データベース57の使用頻度情報を参照し、現在時刻から自動車Cの使用頻度が高い時間帯までの時間の長さに基づいて、実行周期を変化させてもよい。
【産業上の利用可能性】
【0050】
本発明は、車両用の飲酒検知装置に関するものであり、運転者の乗車後の速やかな飲酒検査を可能とするものである。
【符号の説明】
【0051】
1…飲酒検知装置、5…ECU、11…アルコールセンサ、11a…ヒータ(ヒートクリーニング手段)、51…脱ガス処理制御部(ヒートクリーニング制御手段)、53…脱ガス処理周期判定部(周期設定手段)、55…運転者距離判定部(位置関係検知手段)、57…運転行動データベース(使用頻度記憶部)、C…自動車(車両)。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両に搭載され、アルコールセンサを有する飲酒検知装置であって、
前記車両への運転者の乗車前であると判断された時に、前記アルコールセンサの加熱によるヒートクリーニングを行うことを特徴とする飲酒検知装置。
【請求項2】
前記車両がイグニッションオフの状態の場合に、前記車両への運転者の乗車前であると判断することを特徴とする請求項1に記載の飲酒検知装置。
【請求項3】
車両に搭載され、アルコールセンサを有する飲酒検知装置であって、
前記アルコールセンサの加熱によって当該アルコールセンサのヒートクリーニングを行うヒートクリーニング手段と、
前記車両がイグニッションオフの状態の場合に、前記ヒートクリーニング手段に前記ヒートクリーニングを実行させるヒートクリーニング制御手段と、を備えたことを特徴とする飲酒検知装置。
【請求項4】
前記ヒートクリーニング制御手段は、
前記ヒートクリーニングを、所定の実行周期で定期的に実行させることを特徴とする請求項3に記載の飲酒検知装置。
【請求項5】
前記ヒートクリーニング制御手段は、
前記実行周期を可変的に設定する周期設定手段を有することを特徴とする請求項4に記載の飲酒検知装置。
【請求項6】
時間帯ごとの前記車両の使用頻度を記憶する使用頻度記憶部を更に備え、
前記周期設定手段は、
前記使用頻度記憶部を参照し、現在時刻に対応する前記使用頻度に基づいて前記実行周期を決定することを特徴とする請求項5に記載の飲酒検知装置。
【請求項7】
前記車両と前記車両の運転者との距離を検知する位置関係検知手段を更に備え、
前記周期設定手段は、
前記位置関係検知手段で得られた距離に基づいて前記実行周期を決定することを特徴とする請求項5に記載の飲酒検知装置。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2010−195085(P2010−195085A)
【公開日】平成22年9月9日(2010.9.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−39567(P2009−39567)
【出願日】平成21年2月23日(2009.2.23)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】