説明

養殖池水浄化と感染症を抑制するバイオフィルターを含む水産養殖システム

【課題】
エビ養殖池で発生する排泄物、残餌による池水水質汚染および病原菌・ウイルスによる感染症防御と漁民が使用する発がん性化学薬品、人間の健康にとって重大な脅威となる多量の抗生物質の使用を制限し、抗生物質耐性菌の出現を抑止する養殖方法を提供する。
【解決手段】
河川水浄化に用いられる礫間浄化法を改良し、鉄イオンを吸収させ強磁性鉄粉を坦持した粒状鉄型人工ゼオライトを充填した固定床に着床または磁気吸着して微生物叢フロック体を形成し、養殖池水を通水・接触させることによって生物環境を制御でき、かつ養殖池水中で発生する水質汚染の除去、そして固定床に着床する抗菌・抗ウイルス微生物叢により感染症細菌・ウイルスの増殖を抑制する。この抑制によって発がん性化学薬品、多量の抗生物質使用が抑制できるを特徴とする養殖方法を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はエビ類の養殖池で発生する水質汚濁物質に対し、浄化処理システムを組み込むことにより養殖池水を浄化処理し、排水による沿岸海域の汚染を防御し、また養殖産業にとり、死活的な問題となっているウイルス・細菌感染症を予防し安定した養殖環境を創出する養殖システムに関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来の魚介類の養殖において養鰻等の淡水域および海水域ではヒラメ等の養殖に無機・有機性汚濁物質を分解する微生物をプラスティックおよび不織布等の濾材に着床させ、この濾材に養殖池水を通水・接触させ有機性汚濁物質を微生物分解する方法、円筒状の管から池水を下部の受水槽に落下させ、そのとき飛び散る水塊・水滴が酸素吸収―曝気を行う微生物処理が用いられている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平10−118676号公報
【特許文献2】特開2003−235391
【特許文献3】特開平13-224363
【非特許文献1】Disease Control in Shrimp Aquaculture with Probiotic Bacter. David J.W. Moriarty Biomanagement Systems Pty., 315 Main road, Wellington Point, Queensland 4160 Australia, and Department of Chemical Engineering, The University of Queensland. Qld. 4072 Australiaプロバイオティック細菌によるエビ養殖の感染症抑制デイビット・モリアーティ 報文
【非特許文献2】第41回下水道研究発表会講演集pp.942-944 (社)日本下水道協会 2004年「ラグーンによる病原微生物の除去特性」
【非特許文献3】「生物濾過法を用いたヒラメの高密度養殖方法 1999年p87 恒生社厚生閣出版」
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
一部の国において広く行われている陸上閉鎖式エビ養殖においては、養殖に携わる漁民の水質汚濁防止の意識が薄く、養殖池水の水交換はわずか又は殆ど行われず、市場出荷への収穫時において養殖池を空にするため飼育期間中に蓄積された汚濁池水を、灌漑を通じて沿岸域に放流して、沿岸域の水質汚染問題を起こしている。
【0005】
従来の抗菌・抗ウイルス滅菌設備であるオゾン、紫外線設備等の物理的手法では、大量の養殖池水を滅菌するには大きな設備コストと電力費を必要とする。
【0006】
近年、海水域からさまざまな抗菌・抗ウイルス微生物が分離・培養され、プレバイオティック技術として脚光を浴びている。抗菌・抗ウイルス類への使用方法は餌中に混入し、飼育えびに摂取させ体内に吸収・寄生し、侵入した病原菌・ウイルスを不活化する方法と、養殖池水中に直接、生菌を植種する方法がある。抗菌バクテリアは代謝産物として溶菌酵素を分泌し、溶菌酵素は水中の感染菌の細胞壁、細胞質膜に作用して感染菌細胞を溶解する。しかし、養殖池水中に生菌を植種し効果が確認されてきたが、その効果は不安定で再現性に欠けることが報告されている。その理由として抗菌・抗ウイルス微生物は池水中で走磁性・走化性を示し、池水中を自由に遊泳することから、食物連鎖上の底辺にある細菌類の上の繊毛虫類の原生動物やワムシなどの袋形動物類に捕食され、菌体の減数によって引き起こされることが(独)水産総合研究センター養殖研究所、国立大学 生物環境科学科の追試によって判明している。
【0007】
加えて、くるまエビ、ブラックタイガー等の養殖場においてVacuro virus, Vibrio harveyi 等の感染症が発生し多大の損害をだしているが、その殺菌のため塩素剤、沃素系、マラカイドグリーン等の化学的な薬剤が使用されており、これらの殺菌剤散布後、感染菌類は死滅するが数日後にはさらに多量の感染菌類が発生するということが起きている。また、マラカイドグリーンは発ガン性物質として使用の禁止が制定されている。さらに人間の健康にとり極めて脅威となることは、一部の国において養殖池の抗菌・ウイルス防止剤として多量の抗生物質が使用されており、耐性菌の出現が現在も引続いて大きな問題となっている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記における問題点を解決するため、海外では普遍的であるが日本では用いられていない下水道処理システムの一つである安定池化法(通称ラグーン)の除去特性として、処理水水質BODが15mg/L以下になると滅菌処理なしでウイルス、ファージ、感染菌、リケッチャ、原虫類が70〜90%除去されることが報告されている。本発明はこの現象に基づいて飼育エビ類から排泄される尿・糞や残餌による溶出有機物質を海水・汽水に馴致した微生物群を固定床に着床させ、養殖池水をバイオフィルターに通水接触させることによって酸化分解し、また養殖池水中に浮遊する病原菌・ウイルスを補足・不活化する抗菌・抗ウイルス微生物群を共生・着床させ、かつ養殖池水中に浮遊する病原菌・ウイルスの増殖を阻害することによって感染症を予防し、これらの微生物群によって処理した処理水を再び養殖池に戻す閉鎖式システムとして安定した飼育環境による養殖生産量を高め、水質汚濁防止および感染症予防を特徴とする養殖システムを提供するものである。
【0009】
溶出有機物質・酸化分解微生物群および抗菌・抗ウイルス微生物群を着床させるため、表面に強磁性鉄粉をまぶした粒状鉄型人工ゼオライトに、予め鉄イオンを吸収させたこれらの微生物群を着床させ溶出有機物質・酸化分解微生物群および抗菌・抗ウイルス微生物群が共生できることを特徴とするバイオフィルター
【発明の効果】
【0010】
本発明は上記の問題解決によって池水処理が収穫時における池水未処理放流による沿岸域の水質汚濁防止に寄与でき、抗菌・ウイルス機能は抗生物質の多量使用を抑制し、かつ耐性菌の出現や発がん性殺菌剤の使用を抑制し食の安全性に寄与する。バイオフィルターの強磁性体固定床は微生物叢の強固なフロック体を形成し原生動物やワムシからの捕食を軽減し、有用微生物類の保護機能を発現できる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】本発明の養殖システム・フローシート
【図2】本発明の配置図
【図3】バイオフィルターの横断面図
【図4】バイオフィルターの平断面図および縦断面図
【図5】バイオフィルター充填材簡略図
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明を[図1]フローシートに従って説明すると、エビ養殖池の飼育エビの排泄物およ
び残餌に起因する溶解性有機物質の浄化処理について、汚濁指標であるBODは平均すると80mg/L位であることから接触酸化処理方式が適切である。さらに接触酸化処理方式の中で河川の浄化処理に実施されている大処理容量である河川礫間酸化方法が最も適切であり、建設コストも他の方式と比較して低コストである。加えて河川礫間酸化方式を基本としたバイオフィルター8に通水ポンプ3a、3bにより泡沫分離槽4を経て通水し、[図2]のとおり循環処理することによりエビ養殖池1の処理終了後、送水ポンプ5によって次のエビ養殖池2へとバルブ切り替えにより循環処理し、エビ養殖池3、4へと切り替えられ、バイオフィルター1ユニットで4池を処理できる。
【0013】
バイオフィルター8の構成は[図3]に示すとおり好気生濾材部8aと通性嫌気性濾材部
8bとで構成され、好気性濾材部8aは鉄型人工ゼオライトが充填されている。その表面に強磁性鉄粉をまぶしBacillis subtilis、Pseudomonas aeruginosaなどを代表とする好気性菌が着床固定し易い好気性包括固定床を形成している。さらに好気性条件を保持するため槽底部にはエアレーション用の配管8dを設置し、空気はブロワー7により供給される。通性嫌気性濾材部8bは礫を充填し、通性嫌気性菌によってアンモニア態窒素分解後の窒素化合物およびリン化合物の脱窒素・脱リンが可能となる。
【0014】
バイオフィルター8の前処理として、養殖池水中に過剰発生する光合成プランクトンがバイオフィルター8に流入すると濾材閉塞を引き起こすことが容易に想定される。そのためマイクロバブル発生器によって気泡を生じさせ、光合成プランクトンを泡に吸着させ浮上分離させる泡沫分離槽4を組み込む。しかし、マイクロバブルは負電荷を帯び、かつプランクトン類も負電荷を帯びるため何らかの電荷的な中和が必要とされる。そのため、鉄イオン吸収槽2から流入する池水中に残留する鉄イオンが中和しフロック形成と気泡との吸着が可能となり泡沫分離できる。
【0015】
有用微生物群が容易に磁性濾過材に着床・固定するため、塩化第二鉄溶液を鉄イオン吸収槽2に定量ポンプ13により注入し池水中の有用微生物群に吸収させ、微生物の走磁性を利用し着床・固定させる事ができる。当然のことながら塩化第二鉄溶液タンク12からの注入は水酸化第二鉄が生じないpH域7.2以下を保持する。
【符号の説明】
【0016】
1 エビ養殖池
1a〜1d エビ養殖池の配水配管図
1e〜1h 養殖池から鉄イオン吸収槽への送水管
2 鉄イオン吸収槽
3a 通水ポンプ
3b 送水ポンプ
4 泡沫分離槽
5 送水ポンプ
6a 鉄型人工ゼオライト充填槽状態図
6b 通性嫌気性礫充填槽状態図
7 ブロワー
8 バイオフィルター
8a 鉄型人工ゼオライト充填槽
8b 通性嫌気性礫充填槽
8d エアレーション配管
9 一時貯留槽
10 送水ポンプ
11 コンポスト床
12 塩化第二鉄貯留槽
13 塩化第二鉄定量注入ポンプ
14a 〜 14d 返送管
15 越流板

【特許請求の範囲】
【請求項1】
強磁性鉄粉を坦持した粒状鉄型人工ゼオライトの菌株に鉄イオンを吸収した微生物群を着床または磁気吸着し、溶出有機物質・酸化分解微生物群および抗菌・抗ウイルス微生物群が共生できることを特徴とするバイオフィルター。
【請求項2】
養殖池水中に生息する細菌群を、鉄イオンを吸収させ強磁性鉄粉を坦持した粒状鉄型人工ゼオライトを充填した固定床に養殖池水を通水・接触させ、着床または磁気吸着して微生物叢フロック体を形成し、生物環境を制御できることを特徴とする請求項1に記載のバイオフィルター。
【請求項3】
請求項1または請求項2に記載のバイオフィルターと、鉄イオン吸収槽と、泡沫分離槽と、鉄イオン供給装置と、養殖池と、それらの間に設けた循環ポンプとからなる養殖水浄化処理機能を持つ閉鎖式循環環境を構成する水産養殖システム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2012−183051(P2012−183051A)
【公開日】平成24年9月27日(2012.9.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−50346(P2011−50346)
【出願日】平成23年3月8日(2011.3.8)
【出願人】(711002661)
【Fターム(参考)】